Coolier - 新生・東方創想話

東方神魔譚(06)

2004/06/29 19:39:54
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 東方シリーズ二次創作
『東方神魔譚』
 シナリオ6  『巫女と、神子と、決戦と・・・』

注)後半ちょっち痛いかも



「さて、そろそろ行こうかな・・・」

 昨日の夜とは比べ物にならない程の星空。
 この日、霊夢は誰とも会わずに過ごした。一人で今夜の為の準備を整え、決意を固めていた。一日だけとはいえ、座禅めいた事もしてみた。足が痺れただけだったが。

「慣れない事はするもんじゃないわね・・・・・・・・・紅魔館の北か」

 昨日、羅刹は助けを求めに来たのだろう。本人にその自覚は無いだろうが・・・。
 おそらく自分のしている事が、間違っていると気付いている。でも、自分の意思で止められなかった。だから誰かに止めて欲しかったのだろう。

「・・・・・」

 羅刹は気付いているのだろうか。最大の間違いに・・・。
 いや、気付いているだろう。
 アレは頭は悪くない。自分で気付いていながら認められないのだろう。

「羅刹・・・あんたは・・・」

 この事実を突きつけられたら、どうなるのだろうか。
 たぶん、絶望に押し潰される。ああ見えて精神的に弱い気がする。記憶を失ったのがいつかは知らないが、ごく最近の筈。つまり精神的には子供とそう変わらない。

「止めなくちゃ・・・」

 絶対に勝たなくちゃいけない。
 これ以上、友達を苦しませるわけには行かない。

「今行くわよ。羅刹・・・」




 宵闇に包まれた渓谷。
 夜色の衣に包まれた羅刹が、一人で崖に腰掛けている。

「・・・・・」

 思い出すのは、昨日の会話。
 自分が間違った事をしているのは分かっている。自分は止めて欲しいと思っている。でも自分で止める事が出来ない。
 それは今までの自分を否定する様なものだ。否定してしまったら本当に何も残らない。それがどうしようもなく怖かった。

「来てくれますかね・・・」

 幻想郷に来てほんの数日。
 あんなに長い間誰かと一緒にいたのは初めてだった。あんなに笑ったのは初めてだった。あんなに楽しいと感じたのは初めてだった。
 研究所にいた頃は、上辺だけを取り繕って付き合っていた。面倒な事を避ける為に従順な振りをしていた。
 でも、ここに来てからはそんな事を考えもしなかった。
 全てはあの瞬間に変わってしまったのかもしれない。
 初めてお茶を飲んだあの瞬間。初めて人から温かい物を貰った瞬間。

「とても温かかった。熱いくらいに・・・・・」

 本当はどうしたいんだろう?あの人を殺してまで続けたいのか、あの人に止めて欲しいのか。
 ここに来るまでは悩むことなんて無かった。誰かを殺すことに対する躊躇いも、自分がしている事の正否も、自分の思考の矛盾さえも気にした事は無かった。
 初めての事だから考えても答えは出ない。だったら考えるのは止めよう。
 全てを今日の勝敗に委ねる。

「霊夢さん・・・・あなたは、僕を・・・」

 近づいてくる気配。
 どうやら来てくれたようだ。

「殺してくれますか?」

 空を見上げる。なによりも最初に目に入った紅白。

「さあ?そんなの分からないわ」

 丸々一日会っていなかっただけで、随分時間が経った気がする。

「それでは困ります。死ぬまで止まるつもりはありませんよ?」
「それでも止める。・・・それよりその格好は何?巫女?」
「ええ、巫女は神子。男でも女でもいいんですよ。神と屍神の血が流れている僕に相応しいの服装じゃないですか。」

 羅刹の装束は、紺を基調とした紫袴の神子服だ。
 そしてその背中には、神の槍が羽の様に付き従っている。

「1人で来てくれたんですね」
「そっちの方がいいでしょ?これでも気を使ったのよ」
「ありがとうございます」

 羅刹は空を舞い、霊夢と同じ高さまで上る。

「一つ、約束しなさい。私が勝ったら二度とこんな事はしないって」
「いいですよ。その代わり、僕が勝ったら邪魔だけはしないでください。もっとも、生きて返すつもりはありませんけど」

 睨み合いを続ける巫女と神子。
 限界まで張り詰めた空気は、ほんの一押しで荒れ狂うだろう。

「その寝ぼけた目を覚まさせてあげる!!」
「出来るものなら!!」




 羅刹は両手を大きく左右に広げる。
 それと同時に、目の前の光景が冗談の様に感じる程のガラスと鏡が創られる。
 振り下ろされる腕に従って、無数の輝きは下方から弧を描く様にして霊夢を襲う。
 しかしそれで終わりではない。空間移動を行って背後から、そして真上から同じ様に攻撃する。これで逃げ場はほとんど無い。

「パスウェイジョンニードル!」

 霊夢は、光り輝く欠片を丁寧に避けながら反撃をしてくる。狙いも恐ろしいほど正確だ。
 だが、初めからこの程度の弾幕で何とかなるとは思っていない。

「暗符『黒塗りの刃』!!」

 赤い印を切り、即座にスペルを発動。
 拡散する黒刃をレンズで屈折させて、霊夢に集結させる。

「霊符『夢想封印 散』!!」

 霊夢を中心に放たれる七色の霊撃。共に広範囲攻撃を目的とした物だが、収束された黒塗りの刃が数発貫通する。だが、それも難なく回避された。

「これでもくらいなさい!!」

 その視界に入るのは無数の札。
 羅刹はすぐさま両手に二振りの鎌を持ち、札の群れに突っ込んでゆく。

「はああああぁぁぁぁ!!!」

 札の雨を鎌で弾きながら、霊夢の方へと進んでいく。直撃コースの札だけを捌き、体を掠める程度ならば無視をする。

「飛べ!」

 傷だらけで札の群れを超えると、手に持った鎌を投擲する。
 鎌は跳びながら数を増やし、不規則な動きで霊夢に迫る。

「そして・・・・・・駆けろ!!」

 その声に答える様に猛スピードで突進する2本の神の槍。既にその先端は赤熱して、オレンジ色に染まっている。

「遅いわ!!」

 錐を避けた霊夢は、すぐさまそれを破壊する。更に反転してもう1本を破壊。
 砕けたガラスが大気に溶ける。
 これで、霊夢の目がそれた。

「霊夢さん、宿題の答えを貰いますよ!天符『鏡面世界』!!」

 青い光が霊夢を囲む様に飛び出す。
 配置に付くなり、発光して霊夢を閉じ込める。
 その時、霊夢が笑っていたのが気になる。

「今のうちに術を2、3編んで置きますか」

 イメージを練り上げる。回避に使う分は多めに、攻撃に使う分は作らない。
 鏡面世界の方に目を移すと、既に無数の罅が入っている。
 もう壊れる。

ピシッ!
ガシャーン!!

 砕け散る鏡面世界。中から出てくる無数の札。

「ちっ!」

 足場をすぐに創り、跳躍して回避する。
 そして間髪入れずに印を切る。

「煉符『咎人の断罪』!!」

 羅刹を中心に広がる氷の黒霧。
 それは、砕かれた破片を包むように広がって行く。
 これでダメージを与えるつもりは無い。居場所が分かれば十分だ。

「夢符『二重けっか・・・」
「させません!」

 霧の中から打ち出された一筋の光が、霊夢の手に握られた札を打ち落とす。
 打ち抜かれた札は、その場で燃え上がる。
 そして黒霧が一瞬だけ光り輝く。

「後ろですよ、霊夢さん」

 羅刹は大きく振りかぶる。その手に握られたのは透明なままの神の槍。

「ホーミングアミュレット!」

 羅刹を狙って飛来する弾。
 普通に動いても避ける事は無理だろう。こちらの僅かな動きにさえ反応している。
 だが、こちらが創った行路は2つ。最後の1つはまだ残っている。

「これで終わりです」

 再び霊夢の背後に回り込む。
 背に振り下ろす一閃。
 手に伝わる肉を裂く感覚。

「・・・!!」

 声を上げる事も出来ない激痛に襲われた霊夢は、飛び続ける事が出来ずに落下する。
 それを見送った羅刹は、息を荒くして崖に寄りかかる。
 受けたダメージ+無茶な攻撃。心身ともにかなり追い詰められた。
 何よりも魔力の消費が激しい。
 スペル3回、空間移動4回、大量創造3回、さらには神の槍を2本使用した。
 傷は向こうの方が酷くても、状況は圧倒的に不利だ。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」

 想像以上の疲労だ。実力差はほとんど無いに等しい。いや、むしろ単純に見れば向こうの方が上だ。戦闘を有利に進める為には、多少の無理や無茶には目を瞑るしかない。

「霊夢さん、そろそろ起きたらどうです?」

 動けなくなるほどの傷は与えていない。
 最後の一撃もぎりぎりで致命傷を避けられた。

「それとも、このまま死にますか?」
「うるさいわね、血が流れすぎたのよ。すぐに起きるから待ってなさい」

 痛みに顔を顰めながら立ち上がる霊夢。背中からは冗談の様に血が流れている。
 あの様子なら長時間戦うことは不可能な筈だ。

「それにしても、本当に『鏡面世界』を攻略したんですね。冗談で言ったつもりだったんですけど」
「一晩中鏡と睨めっこして何とかね・・・。アレは光を媒介にした空間移動でしょ?向かい合わせになった2つの鏡の鏡面を無理矢理リンクさせて、互いに行き来できる様にした。だから弾が反射されないで、向かいの鏡から出てきたのよ。中で色々調べて分かったけど、あの鏡はある一定以上のスピードで衝突しないと吸収はされない。違う?」
「ええ。その通りです」

 意外と言えば意外だった。
 本当に見抜かれるとは思っていなかったのだ。

「からくりが分かれば攻略法はすぐに見つかったわ。要は鏡面同士の繋がりを断ち切ればいい。もしくは媒介その物を無力化する。そうすれば攻撃を吸収、放出は出来ない。今回は前者を利用したわ。鏡面世界は合わせ鏡であり、尚且つ互いを映し合っている事が重要。もし片方が曇りでもしたら、それだけでただの壁になる。だから・・・・」

 霊夢は懐から巾着袋を取り出す。

「鏡の表面に炭でも掛けられたら堪らないでしょうね」
「正解です。花丸でもあげましょうか?」
「いらないわよ、そんなもの」

 本当に凄い、期待以上だ。

「ところで、十分休めましたか?そろそろ続きを始めましょう」
「望むところよ。この程度なら問題ないわ」
「ふふっ、そうでなくては意味がありません。では・・・・」

 大きく腕を上げる。
 準備は終わった。後は、どこまで制御できるか。

「第2ラウンド開始です!!」




 羅刹の声と共に何かが落ちてくる様な音がした。
 しかもかなりの大質量。
 思わず上空を見上げる

「うそ!?」

 大きさは3メートル位だろうか?ものすごい勢いで降って来る物体が複数確認できる。
 近づくにつれて低下する気温。
 1つ目の塊が付近の崖に直撃した。吹き飛ばされそうな程の衝撃波と共に放出される冷気。まさか・・・・

「氷?」
「そうです。上空でずっと成長させてたんですよ、武器になるまでね。ほら、よそ見してると押し潰されますよ」

 先程よりも精度が上がっているのだろうか、寸分違わずこちらに向かってきている。
 落下速度が速すぎる為に破壊しきれない。
 つまり、避けるしかない。

「僕と戦って負けた人には、共通点が一つあるんです」

 羅刹が手を突き出すのが見えた。
 それに伴い、6本の神の槍が標準を合わせ、急激に赤く染まる。

「僕の会話に付き合って、術を編む時間を沢山くれるんですよ」

 錐が軌跡を残しながら向かってくる。
 気の所為だろうか。神の槍を使った瞬間、羅刹の疲労の色が濃くなった気がする。
 そう言えば、なぜこちらばかりが一方的にダメージを受けているんだろう?私達の実力差はほとんどない筈。なのに自分がダメージを多く負っている。

「まさか・・・」

 それなら納得はいく。
 この推測が正しいのなら、このままでは負ける。

「なんて無茶をするのかしら・・・」

 おそらく羅刹は、魔力を通常以上に消費しながら戦っている。
 身体能力、スペルカード、通常弾幕の創造。これらに魔力を上乗せする事によって、通常時以上の能力を発揮させているのだ。

「だったら・・・」

 一瞬、勝負をわざと長引かせて、羅刹の魔力切れを待とうかと思った。
 だがその考えを直に捨てた。そして新たに考えた対策。
 こんな事を考えるなんて、自分も結構ムキになっているらしい。

「行くわよ、羅刹!」

 霊力を利用して羅刹と同じ事をする。格段に上がったスピード。目の前の光景が僅かに霞む。だが、止まらない。
 誰しも予想外の事が起これば、一瞬だけでも思考が止まる。
 つまり、攻撃する最大のチャンス。

「パスウェイジョンニードル!!」

 降り注ぐ氷の塊と神の槍を回避し、最短距離で羅刹に近づく。

「くっ!!」

 案の定、羅刹の反応は遅れた。
 体を捻って直撃だけは免れるが、針が腹部を掠めた。

「帰ってこい!!」

 方向転換して戻ってくる神の槍。
 これ以上の攻撃は不可能だ。直に離れなければならない。
 だが、その前に・・・

「霊符『夢想封印 散』!!」

 至近距離でのスペル発動。ダメージを与える為ではない、反撃を防ぐ為の攻撃。
 このスペルを相殺する為に神の槍が霊撃にぶつかって行く。
 だが霊撃その物は消せても、衝撃までは消せない。
 羅刹は衝撃で吹き飛ばされる。

「意外とうまく行ったわね。これで5分5分かしら?」
「そうですね。まったく、本当に面白い人ですよ、あなたは」

 羅刹は体制を立て直して、空中に立っている。
 見たところ、息も荒くなっている。神の槍の数も3本に減った。

「でも、この程度では止まりませんよ!」

 高速で飛来する神の槍。直線的な動きは相変わらずだが、十分脅威となるものだ。一本でも多く破壊しておきたい。

「6本目!!」

 真正面から向かってくる錐を1本破壊。
 後の2本は避けるだけにして、相手にはしない。

「このまま一気に詰めよ!!」

 同じ手は2度と通用しない。
 でも、攻撃を当てる手段はある。かなり無茶だが、これ位しか方法はない。
 幸い氷の塊は落ちて来なくなった。今なら攻撃に集中できる。

「そうはさせませんよ!神符『無限反射結界』!!!」

 スペル宣言を聞いた時には既に遅かった。全方位を鏡の破片に囲まれていたのだ。しかも白色鏡の様な物が外側に控えている。数は、6枚。

「回り、廻り、紡ぎ、」

 羅刹の声に呼応して硝子の破片が動き始める。それぞれが霊夢を中心に円運動をしながら、自由に動き回る。

「弾け、背き、集い、」

 外側に配置された鏡が急速に発光し始める。周囲を回る鏡は、目で追いきれない速さになってきた。

「・・・放ち、」

 鏡から光が放たれる。それは霊夢の周囲で回転している鏡に当たり、前後左右上下構わず移動する。しかも早すぎて光の球に閉じ込められた様に感じる。
 どんなスペルかは簡単に理解できたが、問題は避けきれるか。そして、どの様に突破するか。

「貫け!!」

 6本のレーザーが霊夢に向かって照射された。ぎりぎりの回避。避けたレーザーは再び鏡に反射され、全方位を移動する。そして、再びレーザーを内側に発射する。その繰り返し。まさに無限反射結界だ。
 普通に突破は出来そうに無い。だったら無理矢理にでも超えるしかない。

「夢符『二重結界』!!」

 展開されるスペル。その結界の外側にレーザーが当たり、結界が揺らぐ。
 霊力をスペルに上乗せして二重結界の効果範囲を広げ、無限反射結界を内側から圧迫する。

「壊れろ!!」

 ガラスの破砕音と共に砕ける2つの結界。
 体にダルさが残っているが、今が反撃のチャンス。

「行けええぇぇぇ!!」

 高速で打ち出される針。
 おそらくここで一度消える筈。

「単純ですよ!後ろは貰いました!!」

 これは予想通り。
 振り向き、直に札を放つ。
 これもきっと防がれる。

「無駄です!」

 羅刹は手を前方に突き出し、ガラスの盾を創る。その盾に突き刺さる無数の札。
 そして前方に集中しすぎた為、後ろががら空きだ。

「まだまだ!!」

 投げた札を後ろから回り込むように操作する。
 この追跡弾をどう避ける?いや、どう避けても結果は変わらない。
 当たるまでこれを繰り返すだけなのだから。

「ちっ!」

 羅刹は舌打ちと共に消える。
 場所は・・・・・・上空だ!!

「光符『白・・・」
「逃がさない!!」

 追いついた。
 スペルを唱えたと言うことは、回避の手段は無い。たとえ有ったとしても、スペルの展開動作中では発動できないだろう。

「霊符『夢想封印 集』!!」
「くっ!!・・・・・光符『白色鏡』!!」




 やばいと思ったときは遅かった。すぐに光符を使ったが、中途半端なスペルでは相殺しきれる筈がない。
 貫通してきた霊撃。空間移動を編むには時間が掛かりすぎる。
 避けきれない。

ドクン

・・・なぜ避ける?

ドクン

・・・これ以上傷を負うと負けてしまうから

ドクン

・・・避ける必要なんか無いだろ?

ドクン

・・・でもそれじゃ、負ける

ドクン!

・・・避けれないのなら

ドクン!!

 その時、スイッチが切り替わった。

・・・・・・・・・・致命傷だけ負わなければいい

 思考回路が単純かつ冷酷に機械的に組み替えられていく。

ドクン!!!

・・・やるべきことは一つ。邪魔する者を排除するだけ。

 視界を埋める七色の光と、響き渡る爆音。
 全身に襲い掛かる桁外れの激痛。

「酷いじゃないですか。下手をすれば両手が吹き飛んでいましたよ」

 どうやら死ぬ事は無かったようだ。
 だが両腕の感覚が薄れている。致命傷を避ける為とはいえ、払った代償は大きかった。
 早急に決着をつける必要がある。

「なかなかいい攻撃でしたよ。次の術を編む暇を与えず、連続攻撃でダメージを与える。戦闘の基本ですね」

 体中から力と狂気が湧いて来る。

「それにしても・・・無限反射結界を無理矢理抜けましたね。その代償、安くは無いですよ」
「うるさいわね。あの程度問題ないわ」
「そんな筈無いでしょう?アレを内側から壊したんですから。かなり力を消耗したでしょうね」
「・・・・・」

 黙りこんで表情を歪めている。図星だったようだ。
 そもそも無限反射結界は、言葉どおり結界なのだ。たしかに内側から出るのは簡単だが、内側で能力を使用すると魔力、霊力を奪われる。それが強力なスペルであればあるほど大量に。

「さて、始めましょうか。楽しい楽しい殺し合いを・・・」
「羅刹・・・・飲まれたのね」
「それは違いますよ、霊夢さん。飲まれたんじゃありません。これも僕なんですよ」

 おかしな事を言う。たとえ機械的な思考になっても、狂気に囚われても僕である事に変わりはないというのに。

「絶対に止めるわ」
「まだそんな事言ってるんですか?そうだ、やる気の出る話をしてあげましょう」
「やる気の出る話?」
「はい。僕がココに来てから一体何人の妖怪を殺したと思います?」

 霊夢の顔が少し緊張したものになった。

「襲われたのが1回、襲撃したのが1回だけなんですけど・・・・・・だいたい30近くですかね?僕を食べようとする者、抵抗する者、無抵抗に助けを求める者。その全てを殺し尽くしました。ちなみに人間界にいた頃は、100人以上殺してますね。どれもゴミみたいに弱くてつまらなかったんですけど」
「羅刹・・・自分が何したか分かってるの・・・・・・」
「ゴミ掃除と、弱肉強食のルールに従った。それだけですよ」

 そういい捨て、いつもの様に微笑む。
 人の命がどうしたと言うのだ。
 自分は死神だ。死を運び、伝える者だ。そんな事をいちいち気にしていられない。

「そう言えば、最近夜になると急に静かになったりしませんでしたか?霊夢さんならお気付きかもしれませんけど、あれは僕の所為です」

 右手で印を切る。
 今までのスペル以上に魔力を食われる。 
 現在使用可能な最強スペル。これで、全てを終わらせる。

「閻符『刹那の罰則』」

 吸収された魔力が掲げた右手の中で形になる。何よりも自分に相応しい、自分の為だけの武器になる。そして、それは幻想郷中に自らの存在を主張する。
 それは、ただ一振りの漆黒の大鎌。
 逃れられない運命の象徴。

「第3ラウンドです。つまらない死に方はしないでくださいよ」

 終結の為の一振りが、大気を振るわせる。




 羅刹が2メートルにも及ぶ大鎌を軽々と振り回す。
 その一振り一振りが強力な魔刀を生み、周囲の岩盤を抉り取っていく。

「ほらほら、避けてばかりでは何も変わらないですよ!反撃をしてください、先程の様に知恵を絞ってください、僕を殺しに来てください!!!」

 薬に飲まれた羅刹は、狂ったように暴れまわる。瞳は縦に裂け、大声で笑いながら破壊の限りを尽くしている。周囲は舞い上がった砂埃に包まれて、視界は最悪。
 唯一の救いは、攻撃が大振りなので避けやすいことだ。

「そっちこそ。こんな攻撃じゃ一生当たらないわよ!」
「それじゃあテンポを上げましょう、集え!」

 羅刹が自分を中心に鎌を振り回す。大鎌によって作り出された魔刀は、飛び出さずに羅刹の周囲に留まる。その数は計5本。

「楽しくなりますよ。せいぜい気をつけて踊ってください!彼らは暴れん坊で、手が付けられない程ですから!!」

 羅刹が両手を指揮者の様に構える。
 その手の動きに従い、魔刀は揺れ動く。

「弾けろ!!そして、食らい尽くせ!!!」

 魔刀の1本1本が数十に分かれる。
 数が増えただけで無く、格段にスピードが上がっている。
 だが、避け切れないわけではない。

「ふぅ・・・」

 余計な考えを捨て、回避に集中する。
 耳に届く風きり音。肌から伝わる小さな痛み。出血の所為で冷え続ける自分の体。その全てを頭の中から排除する。
 だがそれにも限界がある。

「つぅっ!!」

 一発だけ足を大きく切り裂いた。
 でも、大体の弾は避けた。次が飛んでくる気配は無い。
 だったら・・・

「次は、こっちの番!」

 残り僅かとなった弾幕を無理矢理超えて、一直線に羅刹へと向かう。あれほどのスペルを展開しているんだ。回避までは魔力を回せないはず。

「これでもくらいなさい!!」

 陰陽玉を前方に向け、針を撃ち出す。
 視界の隅で、羅刹が右に動くのが見えた。
 鎌で作った魔刀も無い。

「もらった!!」

 さらに勢いをつけ、相手に体ごとぶつかる。
 これが本命の一撃だ。

「博麗アミュレット!!」
「がはっ!!」

 地面に落下する羅刹。
 零距離からの発射、しかも直撃した。
 相手の防御は間に合っていない。
 これで終わりだ。立てる筈が無い。

「ふふっ、くっくっくっ、あはははははっ!やってくれますね、霊夢さん!!これでいいんですよ。これを待ってたんですよ!!」

 認識が甘すぎたようだ。確かに大きなダメージは与えたかもしれないが、あの程度では止まらないらしい。
 しかも、羅刹の様子がどこかおかしい。

「さあ、殺し合いましょう。霊夢さんを殺して綺麗な花を咲かせて上げます。綺麗な綺麗な血の花を。だから死んでください、殺されてください、自殺してください!僕も手伝ってあげますよ!その腕を引き千切って上げます、その足を焼いてあげます、首を切り落としてあげます、腸を引きずり出してあげます、その身を犯しつくしてあげます、頬を食い破って口付けをして上げます、血を飲み死肉を貪って上げます!!だから今すぐ死んでください、僕に殺されてください!!!!」

 壊れてる。
 そう思った。
 アリスが怯えていたのはコレだったんだ。この羅刹を・・・・・いや、狂気に囚われたバケモノを目の当たりにしたからだ。

「・・・・・・羅刹・・・」

 こんな戦い、辛すぎる。
 殺意、狂気、敵意、恨み。そんな負の感情ばかりが伝わってくる。
 そしてその中に、悲しみや後悔の念も感じる。
 自分ではどうする事も出来ない苦しさも・・・・・。

「早く終わらせなくちゃ・・・」

 この戦いを有利に進める手段の1つ。
 成功するか分からない上に、大きなリスクを背負い込む。
 でも、早く終わらせる手はコレしかない。

「・・・・・・・封魔陣・・・」

 封魔陣を使えば、屍神の力だけは封じる事が出来るかもしれない。でも、羅刹自体は人間。血の力を封じるなら直接体内に放たないといけない。つまり羅刹に直接触れる必要がある。問題は、そこまで近づけるか・・・

「でも、やるしかない・・・」

 一枚の札を取り出し、いつでも放てるように霊力を込める。

「どうしました、霊夢さん?そろそろ幕引きですか!?死ぬ覚悟が出来たんですか!?殺される覚悟が出来たんですか!?それとも、もっと抵抗してくれるんですか!?どれでもいいから始めましょう。生への執着なんか捨てて二人で踊りましょう、命を削るほどの激しい踊りを」

 羅刹の左腕が動いた。
 指先には青い光。急激に膨れ上がる魔力。
 ひとりでに血を噴出し始める左腕。
 まさか!!

「止めなさい、羅刹!それはダメ!!」
「何言ってるんですか!?そんなの関係ないですよ!今は気分がいいんです、何でも出来そうなんです、何でも殺せそうなんですよ!!たとえそれが神でも!!!行け、神符『無限反射結界』!!!!!」

 一瞬で周囲を囲まれた。
 可能性として考えてはいたが、本当にやるとは思わなかった。
 このレベルのスペルを2個同時展開。

「貫け、無限反射結界!!食い尽くせ、刹那の罰則!!!」

 迫り来る無数の魔刀と6本の光線。
 こうなったらスペルの効果が切れるまで待つしかない。
 たとえ何をしても・・・

「夢符『二重結界』!!」

 これなら、少しの間は持たせることが出来る。
 あとは自力で何とかするしかない。

ピシッ!!

 罅が入るような音。
 目を向けると二重結界が崩壊寸前になっていた。やはり2つのスペルを押さえ込むには力が足りない。しかも封魔陣が待機状態なので、こちらも2個同時展開しているようなものだ。スペルに十分な霊力が行き渡ってない。
 だが、そのおかげで見つけた1つの勝機。

「もう壊れる・・・避けるのも骨が折れるわね」

 その言葉を言い終わると同時に、二重結界が破られる。
 自分目掛けて襲い掛かる弾幕。
 見つけた勝機さえも虚ろにしていく様だ。
 でも、超えてみせる。

「・・・・・・・」

 ただ無言で避け続ける。
 避ける隙間なんて殆ど無いに等しい。一瞬の判断ミスが命取りになる。
 放たれる光線。体を捻り、ギリギリで避ける。

「いつっ!!」

 左腕に襲い掛かる激痛。
 腕を切りつけたのは、結界を構成するガラスの破片。
 いつの間にか結界の端まで追い詰められていたようだ。慌てて中央に戻る。
 もうすぐ魔刀の第一波が終わる。第二波を打つ為に腕を振り上げた瞬間が勝負。

「いい格好ですよ、霊夢さん!そのまま、血塗れになって死んでください!!」

 羅刹が腕を大きく振り上げた。 
 第一波の魔刀も止んだ。

「当たれえええぇぇぇ!!」

 振り上げた鎌に向かって一直線に向かっていく針。そして、狙い通り刃の部分に直撃する。

バキン!!!

 砕ける大鎌。
 2つのスペルを同時展開した時に、鎌の強度が下がったのだろう。放出する魔力に耐え切れず、刃の部分に罅が入っていたのだ。もちろんそれだけでは砕けない。だから第二波を打つ為の魔力が、刃に集まった時を狙った。

「なにっ!!」

 羅刹の動揺が結界を構成している鏡の動きを止める。
 そのチャンスを見逃さず、全速で羅刹へと接近する。反撃も回避も、動揺と無限反射結界の所為で出来ない。
 簡単に距離を詰められた。

「これでもくらいなさい・・・・・」

 傷ついた羅刹の左腕を力一杯掴む。
 最初で最後のチャンス。無駄には出来ない。

「夢符『封魔陣』!!!」

 ラストバトルですね。可能な限り、迫力つけて書いたつもりですが・・・どうなんだろう実際のところは。
 とにかく一騎打ちです。タイマン勝負です。パソを荒らせば3対1も見つかるかもしれないけど、それじゃパワーバランスとか滅茶苦茶になりますからね。キャラまわすのも大変だし。
 しかし、羅刹君の狂いっぷりがやってしまったかも。セリフの一部にとあるゲームに近いものが使われていますね『頬を食い破って・・・』の所です。
 正直言うとダークが結構好きなんですよね。狂い気味のセリフとか行動とか。だからあんなになってしまいました。もっときつくても良かったかな?
 さて次回がエピローグ一個前くらいになると思われる様な気がしないでもありませんが、とにかく後ちょっと。頑張らんとな。
 察しのいい人なら・・・・・・普通分かるか、この後何が起こるか。
 そんなこんなで、閉めましょう。だらだら書くと長くなる~♪
 てなわけで、また来週~♪(本当に来週に上がるのだろうか?)

追記 切られた時の悲鳴が大変だった(微妙に不満が残る)。


 少し直しました。読みやすくなったかも・・・?
 自分で読んで気付いたけど、迫力よりスピード感があるかも。
 ちなみに問題点からはうまく逃げた。

 更に直しました。
 誤字指摘ありがとうございました。
黒魔法音楽堂
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コメント



0.210簡易評価
2.80裏鍵削除
うん、微妙に不満。あと技名叫び過ぎw>切られた時の悲鳴
でも、いい戦闘シーンです。思わず脳内でイメージしました。BGMもオリジナルのを付きました(ぉ
隣にスパロボやってるひといるから上手く行きませんでしたけどね orz
4.70名前が無い程度の能力削除
迫力満点の戦闘シーンでした。スピード感にあふれてますね。ナイスバトルです。

一点ちょっと分からないところが・・・。
文中の「羅刹は空を舞い、霊夢たちと同じ高さまで上る。」というところで、霊夢『たち』と表現しているところから、霊夢の他にも誰かいたのでしょうか?羅刹が「1人で来てくれたんですね」と言っていることから、霊夢の他には誰もいないような気がするのですが・・・。
5.無評価いち読者削除
なんだよ最後まで読めると思ったら続きじゃないかよぅ。
……ごめんなさいラストバトルとはありましたが次で終わるなんて書かれてませんでしたね自分が悪いです。

で、感想を。バトルのスピード感が爽快ですね。テンポもいいし。
個人的に『無限反射結界』がお気に入りです。全方位からの攻撃を想像してたら、思わず某STGの、囲まれる系の弾幕を思い出してしまいましたよ(何のSTGかは秘密で)。

それにしても毎度毎度、続き書くのが早いですね。ホント凄いです。
……などと優しいこと言っておいて、誤字指摘(←やなやつ)。
『目で負いきれない』→『目で追いきれない』
『大降りなので』→『大振り~』
『さらい勢いをつけ』→『さらに~』の3点。
6.70斑鳩削除
俺もこう言う戦闘書けるようになりたい……
羨ましいです、ほんとに。
凄いです。
で、ちょっと思ったのが、
「~符」って、言うものなんでしょうか?
あってもいいとは思うけれど。
7.無評価斑鳩削除
書き忘れた……
脳内BGM“Midnight carnival”で。