Coolier - 新生・東方創想話

東方妖々夢if:Ⅰ-Lost blossom(2)-

2004/06/24 16:30:14
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<2 侵食、開花への>

第一陣を突破した3人。
「サンキュー、咲夜」
「いや、それほどでもないわ」
「しかし、初めて逢ったときとは大違いだな。
まさか私を中心に密室を作るとは…」
「まあね」
「でも、何であのナイフ、刺さらなかったの?」
「そりゃあ、当たり前。
あれ、ステンレスよ」
魔術は、言わば魔法を技術化したもので、
普通に可能な事を不可思議で実現しているだけだ。
時間を止める、なんて言うのは魔術ではなく魔法のなせる業だ。
魔理沙はそこら辺の魔法は習得していないので、不可能である。
「さて、今度は私が行きましょうか?」
「え?なんでさ」
「……さっきから、なんだか血が騒いで仕方ないの」
微笑む咲夜。
霊夢は平然と受け流したが、
魔理沙は僅かに反応。
咲夜の目に、正気が無い。
そして、一瞬だが、
目の光が、

―藍ではなく、紅だった。

(まあ、そんな筈無いよな…)
……死神。
そんな単語が、冗談抜きで魔理沙の頭の中に浮かび、
必死の思いで否定。
「そうか。じゃあ、行って来い」
動揺を隠すために言葉をかける。


―咲夜の唇が、明らかに吊り上った。


「さて…」
装備を確認。
銀のナイフの回収漏れもない。
殺る気も十分。
計らずも、さっきの庭師との戦いでテンションは最高潮だ。
「さあ、好きなだけ暴れなさい……」
自分に呟く。
枷を解き放つ。
後は、あのいけ好かない亡霊の姫を。
「フフフフフ…」
「何が可笑しいの?」
「教えて欲しい?」
「ええ……」
幽々子は、無表情のまま頷く。
「殺し合いって、気持ちいいわね」
「?」
「つまりは、そう言う事よ」


第2ラウンドは、何の前触れも無く。


―ガガガガガガガガッ!

辺り構わず放たれた弾幕が、地面に着弾し、煙を上げる。
無差別の攻撃を、咲夜は華麗なステップでよけた。
「少しは本腰を入れる気になったのかしら?」
「ええ。貴女達を、死に誘う気にはなったわ」
「そう……」
答えつつ、
ナイフを投げた。
その軌道は、正確に弾幕の隙間を抜け、幽々子に迫る。
「!!」
手にした扇で弾き落とす。
跳ね返されたナイフが、今度は咲夜を襲う。
「……」
ナイフを睨む。
力を行使。
時が


……止まらなかった。


「何!?」

―ドスッ!

軌道が僅かにずれていたのが幸いし、
咲夜の頬をかすめるだけで済んだ。
「……っは―」
息を大きく吐く。
一体、何が起きたのだ?
頬を伝う血の流れを気にも留めず、
幽々子を見る。
「ここの時は、既に止まっているの。
貴女の力は時空干渉のようだけど、
既に止まっているものは止められないでしょう?」
「……ちっ」
もっと早く気付くべきだった。
目の前の風景から、それは容易に推測できた。

一面の、桜。

それが5月に満開を保っている時点で、
既に時がかしいでいる事は明白だ。

(落ち着け、落ち着け)
とりあえず、体勢を立て直す。
プライベートスクエアは通用したから、
きっと何かで境界線が引ければ時を止めることは出来る。
しかし、この分だと止める事そのものに時間が掛かってしまう。

―だったら。

「―……」
目を閉じる。
ナイフを逆手に持つ。
時を止められないのだから、ナイフを大量にばら撒く符術は意味を成さない。
だから、ナイフは一本でいい。

外部との感覚接続、遮断。
感情、排除。
思考、停止。

「……殺ス」

本能のままに。
“Killing doll”
殺人ドールになれば良いだけの話。


―開いた眼は、澄んだ闇紅色。
それは、まさに死の色だった。


幽々子は、奇妙な感覚にとらわれていた。

―何かが、自分を浸食していく。

自分の体なのに、制御がきかなくなっていくような。
「……誰?」
呟きに、答えは無い。
意識が混濁してゆく。
意志と、焦りが幽々子の心を満たしてゆく。

―ああ、これはきっと、彼女たちのせいだ。

何かに操られるように、舞の形をとる。
次の舞は…
「―“道なき道”」


咲夜は、弾けた。
神速とも思えるほどの素早さで幽々子に迫る。
波のような弾幕が、横槍を入れてきた。
咲夜は、その体勢のままナイフを横一文字に払う。
閃光が、走る。

―斬音。

弾幕は、それであっさり霧散した。
幽々子は、何らかの形で弾幕を攻撃しうる手段はあるだろうと予想してはいたし、
覚悟もしていた。
しかし、ここまで鋭いものだとは思っていなかった。
「空間ごと、か……」
さっきの一撃で、咲夜は弾幕を空間ごと切り裂いたのだ。
そしてもう一歩踏み込む。
流れる体。
その手に握られたナイフが、もう一度振るわれる。

―斬音。

今度は、右手に持っていた扇が真っ二つになった。

―斬音。

背の扇に、傷が付く。

―斬音。

左足をかする。

―斬音。

右肩を僅かに外す。

―斬音。

「……っ!」

幽々子は、残った左の扇を振るう。
その途端。
背の扇から、巨大な光の柱が伸びた。
5本の柱は、円軌道を描いて咲夜を襲う。
咲夜は、眼を一度閉じ、そして開いた。

―その眼は、勝利を確信した眼。

眼の意味が理解できず、口を開く幽々子。
「無駄だと分かって……」

そこで、幽々子の言葉は途切れた。
何かに驚いたのではない。


―全てが、止まった。


「……ふうっ……」
感覚、回復。
思考、再開。
「貴女、自分で言ってた事を最後まで理解していなかったようね」
幽々子の体は止まったままだが、
咲夜の言葉は聞こえていた。
「私は『停止』に相克し、
時間に干渉する。
時間と空間は不即不離だから、
それに伴って空間にも干渉できる。
見たでしょう、さっきの空間切断」
そう言いつつ、ナイフを空間に浮かべる。
浮かんだナイフは、その全てが幽々子に切っ先を向けた。
「あまり時間が無いけど、少し説明するわね。
さっき時間が止まったのは、魔理沙を中心にして『動』の隔離空間を作ったから。
それによって、空間の外は『動』が全て排除され、時が止まる。
今やったのも、それと同じ。
さっきと逆で、空間切断を使って『停止』の隔離空間を作ったの。
時がかしいでいたから、そっちよりかなり簡単だった」
手でナイフを弄びつつ、話を続ける。
その姿は、妖しい微笑と相まって、
快楽殺人者を思わせた。
「ここまで来れば、後はもう私の独擅場。
『停止』が排除された白玉楼は、即ち普通の空間。
その時間は―」
眼を幽々子に向ける。
手にしたナイフを振り上げる。
「私の、物よ」


止まったままの幽々子に向けて、ナイフが放たれる。
「―そして時は、動き出す」
そして、
死刑宣告にも似た、
力の行使の宣言。


幽々子の驚愕は、
ナイフ同士のぶつかり合う音で奏でられる狂想曲でかき消された。



時の止まった、白玉楼。
……今、
停止が排除され



痛い。
痛い。
痛い。
霊体だから、
痛みなど無いはずなのに。
幽々子は感じる。
死の痛みを。
体に刺さった無数のナイフから
流れ込んでくる、
―快感を。

「ふふふ、アハハハハハ」

笑い声。
まるで他人の声を聞いているような。

「アははははははは、『ハはハははははハハハは』

快感とともに、
何かが介入する感触。
思考が狂う。
意識が逆流。

感覚がだんだん無くなって来た。
力の制御も、効かなくなる。
ああ、でも、


「…春を、渡すわけにはいかない」


幽々子は、それを振り切る。
どこまで自分を保っていられるか、それは分からないけれど。
ここまで来たら、もう後には引けない。

―それは、幽々子が初めて
「殺意」を持った
瞬間だった。







―はらり。

一片、桜の花びら。

その儚い音は、
決壊の音。


……瞋恚の笑いが、響いた。





どうも、斑鳩です。
だんだん雲行きが怪しくなって来ました。

感想待ってます。
斑鳩
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