Coolier - 新生・東方創想話

レティチル座幻視オークション

2004/06/24 10:01:44
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 妖怪の類にとって使い魔とは、つまり道具である。
 によって、時と次第によっては手放さねばならぬし、また新たに調達せねばならぬということにもなる。
 といって、そこらにほいほいと転がっているほどには、使い魔も供給過多ではない。
 それゆえ、ここにオークションが開かれる。
 ……すなわちあるいはおのれの使い魔を譲りわたし、あるいはまた誰かの使い魔を譲りうけ、あるいははたまた主人をもたぬ『はぐれ使い魔』を得ようがため、妖怪あるいはその類がぞろぞろと集まる祭典なのだ。
 この話を聞きつけ、チルノは胸を騒がせた。
 ――いやさ、なぜここでチルノなんぞが出てくるのか? という疑問はもっともである。
 なんせチルノといえば、妖怪としては下っ端だが、といっても使い魔というほどに下っ端ではない。いうなら下の中っ端、よくいって中の下っ端というあんばい。
 となれば使い魔オークションとはなんの縁もゆかりもありはすまい――なるほどそうだ。だが、他者にとって自明な事実も、当の本人にとってはそうでない、というのは多々あることである。
 ここのところ、チルノはひどく自尊心を傷つけられていた。なんとなれば、
『チルノは、レティ・ホワイトロックの使い魔である』
 という話が、あたかも既成事実のごとく世間に広まっていたのだ。
 なるほどレティとは浅からぬ縁ある間柄、さればとてその関係は対等のはずであり、主従、まして使役者と使い魔などというものではとうていない。
 それをさて明らかにしようにも、かんじんのレティは冬にしか姿を見せぬ風物妖怪ゆえ、どうにもならぬ。
 ゆえに、人間連中には『ご主人がいなきゃ半人前ね。「チル」よね』『いやむしろ「ノ」だぜ』などと小馬鹿にされ、妖怪狐には『おたがい主が寝てばかりで苦労が多いな』などと妙なシンパシーを感じられ……などといった屈辱にも、耐えるほかはなかったのだが、そこでくだんのオークションだ。
『ここで』
 と、チルノは冷え切った脳みそ(あるいはそれに類する器官)で考える。
『あたしが使い魔をゲットして使役者になれば! 使い魔呼ばわりからも脱却できようってものよ』
 それはチルノなりの論理の帰結であり、ある意味では正しかったが、彼女は『使い魔もまた、使い魔をもつことがある』という使い魔業界の常識を知らなかった。
 それはそれで、やむをえないことだったが、そうとは知らずオークション会場へ意気揚々と向かう彼女は、いささか道化の態をさらしていたのもまた、事実ではあった。
 オークション会場では、早くも多くの使い魔が売りに出されており、たいそうな賑わいだった。
 ここでチルノは『はた』と気づいた。使い魔の取引は、金銀や宝物などで行われるのだが、彼女はまったくの手ぶらであったのだ。これでは、たとえ望みの使い魔を見つけたとて、指をくわえて誰かが競り落とすのを眺めているほかない。
 どうしたものか、と難渋していると、ふと声をかけられた。
 声の主はこのオークションの元締めである魔法使、アリスであった。
「暇そうね!」とアリス。「そんなに暇なら、バイトをしてみない?」
「バイトというと?」
 そこでアリスは指を曲げながら説いた。
「使い魔を入手するにも、どんな力を持っているのかわからなくては詮方ない。そこで、使い魔を戦わせることによって、その性能をアピールできるコーナーが設けてあるの」
 アリスはなおいう。「これまでは、私の人形が使い魔どもの相手をしてきたのだけど、連中もちょっと疲れ気味でね。誰か、代わりになってくれないかと探していたというわけ」
「つまりは使い魔と戦えばいいのね」
「そういうこと! ただし、勝ってはダメよ。相手の力量を最大限に引き出したうえで、なおかつ、星をゆずってあげないといけない。どうしてどうして、なかなか大変なんだから」
「へえ! でも、バイト代をはずむならやるわ」
 そこでさっそくチルノはくだんのコーナーへおもむき、使い魔を相手にしようというしだい。
 最初の相手は、何やら虫のごときもの――いや、虫だった。それも一匹や二匹でなく、ワンワンと羽音を立てながら群がってくるのだ。
 冷気を用いれば容易い相手だが、それでは商売にならぬ。
 それゆえチルノは必死で逃げ回り、最後にはみずから氷の柱と化すことで命からがら難を逃れた、というてんまつでおさめた。
「なかなかの役者じゃない」と肩を叩くアリス。「次も頑張ってよ」
 その次の相手とは鳥の群れであった。チルノはペンギンに偽装して仲間のふりをしてのけ、助かった。
「どうしてどうして」と、麦茶を出してねぎらうアリス。「機転が利くじゃあないの。さて、次で今日のぶんはおしまいだから、気合を入れて頂戴」
 そこでチルノが『ヒョーッ』と気合を入れて臨むと、相手が現れた。
 最後の相手は、もののふ(武士)であった。一撃必殺の剛剣をふりかざし、チルノを裂けチルノにせんと斬りつけてくる。
 あやうくかわしたチルノだが、こいつはまずい、やらなきゃやられる、と、いざ全力で冷気を放とうとした――が、これいかに、出てくるのはせいぜい涼気にすぎぬ。
 あっ! と思って客席を見れば、アリスがヒラヒラとハンカチを振っている。口が動く。サ・ヨ・ナ・ラ。
 畜生! あの麦茶に細工したな! と今更気づいても後の祭り、今はこれまで、もはや「チル」と「ノ」に両断されるは必定か――と覚悟した。その刹那。
 チルノの身体が、我知らず勝手に動いていた。
 太刀をかわし、足払いをくわせる。
 仰向けにひっくり返った侍にまたがり、その腰から脇差をひっこぬき、一息に首を掻き落とした。
「ギャーーー!!」
 とは武者の断末魔にあらず、使役者らしき少女の声。
 彼女の怒声と、謝り倒しながらもこちらを睨みつけるアリスの視線にも気づかず、チルノは呆然としていた。
 チルノは悟ったのだ――あのとき、自分を動かしたのは『彼女』だと。
、冬訪れるまで続く深き眠りのうちにありながら、自分を『使役』して、難を逃れさせてくれたのだと。
(なんてこった)
 チルノは自嘲した。
(あたしは、とっくにあんたの使い魔になってたってわけ?)
 会場を去ったチルノは、中空へ舞った。
(いいわ――認めるわよ。今はね)
(でも、次の冬が、来たら――)
 そのときこそは、どちらがどちらか。どっちがどっちか。
「白黒つけてやるんだから!」
 チルノは渦巻く冷気を夜空へ放った。
 その余波が、季節のはざまで眠る『彼女』に届いたか、どうか?
 もとより、確かめるすべもないことである。
このへんでレティチル分を補充。私的に。
STR
http://f27.aaacafe.ne.jp/~letcir/
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コメント



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5.50いち読者削除
チルノよ、強く生きるんだぞ。……使い魔としt(パーフェクトフリーズ
12.無評価MDFC削除
相も変わらず何処から出るやらとんと見当も付かぬステキワーズの乱舞、楽しませていただきました。
相変わらず楽しいセンスしてらっしゃる。毎回楽しみにしてますよ。
13.80名前が無い程度の能力削除
チルノらしい気合いの入れ方や、センスの良い言い回しに痺れました。
後、妖怪狐に萌え。
18.90名前が無い程度の能力削除
オチがうめえ
21.80名前が無い程度の能力削除
チルノが半分になったらチノとレノになるんじゃないかと思いました(どうでもいい)