※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。
「パチュリー様、これを見てください」
「むきゅっ?」
それはなんでもない日、毎日来る昼のこと、
今日もパチュリーは大好きな本を読んでいると、
その本がいつの間にか数字だらけの書類に変わっていた謎。
「何、この数列は」
「最近、フランドールお嬢様が部屋の外に出るようになってから色々と大変でして」
謎の原因はすぐ横に立っているメイド長だと分かりきってはいるのだが、
その彼女はほほに手を当ててため息を付くばかり。
「えーと、修繕費……?」
「はい、あたり構わず暴れますので、その修繕費がどんどん増えていくんです」
「で、これがどうしたの? 私よりレミィに言うべきでしょ?」
「お伝えしたことはしたのですが……」
紅魔館の主はパチュリーではなくレミリア、
当然、こういったことも処理すべきはレミリアの仕事である。
「別にいいじゃない、元気なのはいいことよ……と仰っておりました」
「ならそれでいいじゃない」
渡された書類で顔を隠しながら返答するパチュリー、
決して咲夜の物真似で笑いそうになった顔を必死に隠してるとかそういうことではない。
「本当に、よろしいのですか?」
「……いいんじゃないの?」
「書類の裏面をご覧ください」
「裏?」
書類をひっくり返すと、そこには紅魔館の見取り図に楕円が折り重なるように書かれたものが。
「何よこれは」
「フランドールお嬢様破壊活動地域予想図です」
「ふ~ん」
よく見れば、フランドールの部屋とかかれた地域から、
大廊下、そして中庭へと、段々活動範囲が広がっていくのがわかる。
「あの子、規則性があったのね」
「はい、そしてこのまま楕円の拡張部分を延ばしていくと、どこに付くか分かりますか?」
「むきゅ?」
フランドールの部屋から中庭へとなぞり、その先へさらに指をなぞらせていく、
そしてそれがある所に近づいた途端、パチュリーの顔が青ざめた。
「私の……書斎……」
「予想ではあと二週間程で到達するものと思われます」
「まずい、まずいわね、本当にまずい」
「だから申し上げましたでしょう、本当によろしいのですか? と」
「よろしくない、凄くよろしくないわ」
「ご理解いただき、ありがとうございます」
フランドール対策本部設立の瞬間であった。
―――――
「で、レミィ、あなたから何とか言ってくれない?」
「えー、いいじゃないの、折角元気に暴れまわってるんだし」
「姉馬鹿もいい加減にしなさいよ」
「それこそパチェはこの館とフランドールとどっちが大事なのよ?」
「私の書斎に決まってるじゃない」
「……ま、それもそうね」
フランドールの件についてレミリアに直談判するパチュリー、
対するレミリアはそれがどうしたといわんばかりに聞く気なしである。
「逆に聞くけど、レミィは私の書斎とフランドール、どっちが大事なの?」
「フランドールに決まってるじゃない」
「そう、わかったわ」
返答を聞くと同時にパチュリーは席を立ち上がり、
レミリアに目をくれることなく外へと向かう。
「少しぐらいは言っておいてあげるわ」
「少しぐらいは期待してあげるわ」
そして二人を分かつ扉が閉められた、ため息を付きながら
ややきつめの足取りで書斎へと戻るパチュリー、だがややきつめといえども、
彼女の心身からすれば、それは一般の人間の激怒にも値するかもしれない。
「パチュリー様、交渉のほうはどうでしたか?」
「決裂、私よりフランドールを取るみたい」
「やはりそうなりましたか……」
書斎の扉の前では咲夜が一礼して出迎えていた、
そのまま咲夜が扉を開け、パチュリーと共に書斎に入る。
「まあ、ここまでは想定の範囲内ね、そっちの方は?」
「色々と取り揃えておきました」
咲夜が指を一度鳴らすと、パチュリーの机の上に現れる数冊の本、
日本妖怪辞典、子供をしつけるにはコレだ、などと統一性がなさそうな本の束ではある。
「昔から言われているわ、子供を躾けるには妖怪の力を借りるのが一番だと」
「その子供も妖怪ですが」
「妖怪だけど子供よ」
昔から子を持つ親は、子が悪いことをすると妖怪が来て連れ去ってしまうなどと
脅かして子供を躾けていた、世界中どこにでもある伝統的な手法である。
「というわけで、あのフランドールでも怯えるような妖怪を探すのよ」
「えーと、日本の妖怪ですとなまはげが代表的ですね」
「なまはげは駄目ね、あれでは表面的な恐怖しか生まれない、フランドールには通じないわ」
「表面的ですか?」
「そうよ、考えてもみなさい、単純に怖がらせるのは驚かせるのと同義、
そうなればフランドールは身の保身よりも敵の破壊に行動を移すわ」
「成る程……」
「だから、怖がらせるのではなく怯えさせるのよ、まず何よりも身の保身を考えさせ、
逃走行動を取らせるように、そして恐怖が頂点に達した時にとどめを刺すの!」
パチュリーが珍しく力説するシーンである。
「他には鬼婆とかもいますね」
「全然駄目ね、幻想郷にはもっと強い鬼婆もいるのよ?」
今頃、幻想郷で数人の年増が額に青筋を浮かべたことだろう。
「海外ですと、ククリとかバグベアなどが……」
「うーん、どれもいまいちね……」
それから二人で色々な妖怪を吟味すること数時間、
どの妖怪も外見は怖いのだが、何かが足りずに候補に留まる。
「何が駄目なんでしょうか?」
「原因としては、どれもが怖がらせるためだけに想像された妖怪という所ね」
「成る程、確かに人間の子供でしたらそれで十分」
「……少し休憩にしましょう、こぁー」
「はーい」
パチュリーが本を閉じながら名を呼ぶと、魔方陣と共に一瞬で現れる小悪魔、
しかし、現れた瞬間になぜか小悪魔の体が凍りついた。
「あ、あの……咲夜さんが凄く睨んでくるんですが……」
「お馬鹿、いきなり現れるのは咲夜の専売特許よ?」
「そうなんですか!? すみませんすみませんすみません!」
最近は山の上の神様などに特許を荒らされてご立腹とかなんとか。
「まあいいからあれ持ってきて頂戴、それと咲夜は機嫌を直しなさい」
「は、はいー」
「もう直っていますわ」
「ナイフをしまいなさい」
「もうしまっていますわ」
咲夜をなだめながら待つこと数分、小悪魔が持ってきたのは、
なにやら袋に包まれた美味しそうな香りのするものだった。
「これは何でしょう?」
「ハンバーグァーよ、外の世界の物ね」
「ハンバーグァー?」
「ハンバーグをパンと野菜で挟んだ食べ物、結構いけるわ」
「そうですか…………ひょっ」
咲夜の目の前に置かれたハンバーグァー、
その円形状の物体を恐る恐る手に取った時、咲夜の口から少しの悲鳴が漏れた。
「咲夜?」
「な、何でもございませんわ、ちょっとこれに驚いただけですから」
そういって咲夜が視線で知らせたのは、
ハンバーグァーの敷き紙に描かれた一人の人物。
「ああ、これはマスコットキャラクターの…………これよ!」
「コレヨ? 変な名前ですね」
「違うわ、私たちが捜し求めていたのはこれだったのよ!」
―――――
「Dナルドォ?」
「変な名前ー」
ベッドの上で寝転がりながら顔を捻るレミリアとフランドール、
普通の人間なら一緒にベッドに飛び込んで転げ回りたくなる可愛さである。
「人里の伝言板の情報によりますと、つい最近現れた妖怪だとか」
しかしそこは十六夜咲夜、一切動じる事なく淡々と述べ続ける。
「で、それがどうしたの?」
「この妖怪の特性に問題がありまして……」
「特性?」
「はい、どうも悪い子を襲うようなのです、しかも夜に」
レミリアの目が一瞬点になった、咲夜が大事な報告があるからと聞いてみれば
これである、一瞬何を言われてるのかすら理解できなかった。
「えーと、それは私が襲われるって事? この夜の王たる私が?」
「いえ、万が一のことを考えまして……」
「そんな馬鹿らしいことをわざわざ報告に来るな!」
怒声が響き渡る、隣で転がっていたフランドールも目を見開いて姉を見つめていた。
「それに実は続きがございまして」
「続き!? さっさと言え!!」
「あの霧雨魔理沙がDナルドに襲われて重症を負ったとか」
もう一度レミリアの目が点になった。
「あの魔理沙がか?」
「はい」
もちろん魔理沙が襲われたというのは嘘である。
「それは驚きだが、そもそもなぜ魔理沙が?」
「幻想郷に現れてから凶暴化した模様です、もはや悪人であれば無差別かもしれません」
「……わかった、下がれ」
「もしかしたら今日にでも襲われるかも」
「わかった、わかったから下がりなさい」
「もう後ろに立ってるかもしれません」
「わかったから!」
「あ、お姉様、今横目で後ろ確認したでしょ?」
「してないわよ!」
「(これだけ念を押せば大丈夫ね……)」
うまくいったことを確かめると、咲夜は一目散にパチュリーの元へと向かう。
「パチュリー様、仕込みは完了しました」
「さすがは咲夜ね、あとは実行するだけよ!」
「はい、お任せください」
「フランドール補完計画……開始!」
ミッションスタートである。
―――――
「んー……」
夜も夜の丑三つ時に、ベッドの上でフランドールはうなっていた。
「なんか……暑い……」
寝苦しいのか、ぐるりとベッドの上を転がる、
地下室から出て新しい部屋を与えられたのはいいが、
あの石造りの部屋と比べると暑い、とまた転がる。
「あ……あふぅ」
そんな時、ひやりと風が身を包む、窓の無い部屋にどうして風がと思えば、
ぼやけた視線の先に見える開いた扉。
「すずしぃー……」
閉め忘れたのかなと思いつつも、その風の心地よさにまた瞼を閉じる。
キィ……キィ……
「んー……」
扉が風で動き、蝶番が金擦り音を立てる、
閉めると五月蝿くないが、閉めると暑い。
キィ……キィ……
「別にいい……」
起きるぐらいなら音を我慢することを選択するフランドール。
キィ……キィ……ルー……キィ……
「…………?」
何か頭に違和感がよぎる、それに伴って瞼を少しだけ開けるが、
特に何も見当たらず、また瞼を落とす。
「(眠い……)」
キィ……キィ……
キィ……ラン……キィ……ルー……
「…………みゅ?」
今確かに何かが聞こえた、そう思い目を完全に見開くフラン、
ゆっくり体を起こして周りを見渡す。
「……誰も居ないよね?」
二度、そして三度周りを見渡し、声をかけて待つこと一分、
不安そうにするフランドールの耳には、ただ蝶番の金擦り音だけが響く。
「気のせいね」
安心して瞼を閉じながらベッドに倒れこむ、
だがほんの一瞬彼女は見てしまった、扉と壁の間、
蝶番によってわずかに作られる隙間からこちらを見る目を、
吸血鬼の驚異的な視力でしか捕らえられないわずかな光を。
「誰っ!?」
起き上がり目を見開いて隙間を見つめる、
しかしすでにそこには何も無く、ただ廊下の明かりが漏れてくるばかり。
「……誰か居るの? 咲夜ー? お姉様ー?」
恐る恐る扉へと近づき、廊下をそっと見渡す、
居ない、誰も居ない、何も無い。
「うー……」
少し涙目になりながらも扉をゆっくりと閉める、
閉め終えると部屋の中をもう一度見渡して、一息。
「気のせいね……うん」
そう自分に言い聞かせるように呟きながら、ベッドへと戻る。
「あーもう眠いのに……っ!?」
布団に入ろうと体の向きを変えた瞬間、フランドールの体が強張った。
「誰っ!?」
それはほんの一瞬、視界の隅の隅に映った白い顔、
気づき顔をそちらに向けたときにはもうそこには誰も居ない。
「誰か居るの……まさか、Dナルド?」
咲夜の言葉が頭をよぎる、悪い子を狙う妖怪Dナルド、
凶暴化して魔理沙を襲った、もう後ろに立っているかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
段々とフランドールの呼吸が荒くなる、
体を震わせながら、恐る恐る顔を横に向け、後ろを見る。
「…………」
誰も居ない。
「はぁ……私、疲れてるのかな……」
「ルー」
「うきゃぁ!?」
突如耳元で聞こえた恐ろしい声、飛びのいて床に倒れこんで振り向いて、
声のした方向を見るが誰も居ない。
「い、今確かに……」
ラン……ラン……ルー……
「ひっ?!」
もう幻聴ではない、明確に聞こえてくるその声が部屋中に響き渡る、
天井から、床下から、壁の向こうから、自分の後ろからも。
「い……嫌っ! お姉様! お姉様っ!!」
フランドールは扉に向かって走り出した、
ドアノブを握り、捻ろうとする、しかし……。
「あ、あれ? 開かない!?」
ガチャガチャと何度も上下にゆすっても、
鍵をどれだけ左右に回しても開かない扉、
吸血鬼の腕力でも、握力でも壊せない扉。
「Dナルドはね」
「ひっ!?」
背後からの声に振り向く、だがやはり誰も居ない。
「お、お姉様? パチュリー? 咲夜? 美鈴? わ、私をからかってるんでしょ? ねえ!?」
フランドールは涙目になりながら誰も居ない空間に向かって語りかける、
返ってくる言葉は無く、何一つ音がなることは無い。
「ねぇったら! ……そうなんでしょ? そうだといってよ……誰かぁ……」
腰の力が抜け、へなへなと座り込むフランドール、
流れ出る涙を裾で拭おうとしたとき、両肩に誰かの手が添えられる。
「え……?」
扉は閉まっていたはずなのに、その手は自分の後ろから出てきている、
黄色い手袋をはめたその手、一度も見たことの無いその手。
「や……嫌……」
「子供がとぉっても、大好きなんだ」
「嫌、嫌、嫌、嫌」
次の瞬間、フランドールの体がぐんと引っ張られる、
自分の部屋から、安全な空間から引きずり出される恐怖に、
ついにフランドールは悲鳴を上げた。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
―――――
「あぁぁぁぁぁ!!」
必死に手を伸ばす、連れて行かれないように、何かをつかむために、
そしてその手がつかんだのは、ふかふかな布団だった。
「ぁぁ……あ…………あ……れ?」
その手が握ってるのは布団、視線の先に見えるのは天井、
自分の背中にあるのは枕とベッド。
「ゆ、夢?」
身を起こして見渡せば、見えるのは金擦れ音を奏でている扉と、
誰もいない自分の部屋、少し蒸し暑かった新しい部屋。
「……はぁー……」
フランドールは安堵の息を吐き出して、ベッドに倒れこむ、
そのまま見えるのはゆらゆらと動く扉だけ。
「ん~……」
しかしさっき見た夢からしても、その扉のある方を見ているのは寝心地が悪い、
ぐるりと転がって寝る向きを変えれば。
「…………」
「…………」
ほらそこにDナルドが。
「ルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」
「もきゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
吸血鬼としての超人的な身体能力を総動員した悲鳴が館中に響き渡る、
数少ない窓はすべて割れ、館中のメイドが飛び起き、門番は気づかない。
「悲鳴!? フラン!?」
その悲鳴に真っ先に反応したのは姉であるレミリアだった、
自らの部屋の扉を壊し、フランドールの部屋まで目にも留まらぬ速度で飛んでいく。
「フラン!! 無事なの!?」
部屋に飛び込むと、そこにはベッドの上で倒れているフランドールの姿が、
急いで駆け寄り、抱き上げて体を揺さぶる。
「フラン! 返事をしなさいフラン!!」
「あ……」
「フラン!」
「いやぁぁぁぁ! 嫌! 離してぇぇ!!」
「落ち着きなさい、私よ! わからないの!?」
目を覚ますと同時に叫び、暴れるフランドール、
それを何とか抱き抱え続け、落ち着かせようとするレミリア。
「ひくっ……お姉様……?」
「ほら、もう大丈夫よ、私が来たんだから安心しなさい」
「あ……お姉様……お姉様ぁ……!」
フランドールは自分の知る相手が来たことで安心したのか、ぼろぼろと涙を流す、
そんなフランドールをレミリアはやさしく自分の胸で抱きしめた。
「ふぇぇぇぇん……」
「よしよし」
フランドールの頭を撫で、無事な事を確認して一息。
「ん……ぐすっ……」
「あら、もういいの?」
「うん、もう大丈夫……」
ぐしぐしと目を擦り、姉の顔を見上げるフランドール。
「…………」
「……フラン?」
するとそこにはDナルドの顔をした姉の姿が。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「もぺらっ!?」
吸血鬼の腕力を限界まで高めた一撃で殴り飛ばされるレミリア、
一方殴り飛ばしたフランドールはまた気を失い倒れた。
「……ごふっ」
レミリアの体勢は凄まじい、首から上は完全に壁に突き刺さり、
そのまま地面と水平に体が浮いている、吸血鬼の力のなせる技だ。
「……痛い」
とにかく刺さっているわけにも行かないので壁から頭を引き抜く、
フランドールに殴られた頬をさすりながら涙が流れそうな目を拭う。
「まったく、何なのよ……」
呆れながら振り返り、フランドールがいたところを見る。
「……え?」
しかしそこにあったのは、ジューシーに焼けた大きなミンチ、
楕円形に丸められたそれは、自分の半分程度の大きさはあるだろうか。
「何でこんなものが……ひっ!」
それに近寄って目を凝らすと、レミリアは途端に飛びのいた。
「嘘、嘘よ、そんな事が……」
焼けた肉の合間合間に見える金色の糸状の物体、
下部から少しはみ出ている赤い布は一体何なのか、
そして肉の上からはフランドールがいつもかぶっていた帽……。
「……さ、咲夜ぁぁぁ!!」
レミリアは逃げ出した、薄暗い廊下を駆け、
向かった先は自らが最も信頼する従者の元。
「咲夜!」
扉に鍵がかかっていようが今のレミリアには関係ない、
力ずくでドアノブをねじとり、扉を強引に開ける。
「咲夜! 起きなさい咲夜!!」
室内に入るとすぐさまに咲夜が眠っているベッドに向かい、その布団を剥ぎ取る。
「さ…………咲……夜?」
そこにあったのは、フランドールの部屋にあった物よりも
さらに一回り大きな肉塊だった。
「…………嘘だと、言ってよ」
その肉塊の中に手を差し込み、こじ開けていく、
出てくるのはいつも咲夜が持っていたナイフと、トレードマークのメイド服の切れ端。
「……パチェ……パチェェェ!!」
言い知れぬ不安がレミリアを襲い、咲夜の部屋を飛び出して書斎へと向かう、
頭に浮かぶのは友の姿と肉の塊、浮かび上がる恐怖を抑えながら飛ぶ速度を速める。
「パチェッ!!」
書斎の扉を突き飛ばし、中へと飛び込む、
パチュリーがいつもいる所に向かうと、視界の奥に人影が映る。
「小悪魔!?」
「……パチュ……リー様……パチュリー様……」
「そこで何をし……て……」
小悪魔はただ呆然と座っていた、目の前にある肉塊を見つめながら、
そしてただぶつぶつとパチュリーの名前を呼び続けていた。
「小悪魔……嘘よね……嘘といって!」
「レミリアお嬢様……パチュリー様が、パチュリー様が……」
レミリアに気づくとその両腕をつかんで力なくしな垂れかかる小悪魔、
その小悪魔の肩越しにレミリアが見るのは、パチュリーのリボンが所々から
はみ出ている肉の塊と、皮肉のようにその周りを囲むほんの山。
「パチェ……どうして、どうしてこんな事になってるのよ……」
「どうして……? お嬢様じゃないですか、原因を作ったのは!!」
「っ?!」
小悪魔が突如怒り、レミリアの胸倉を両手で掴む。
「ど、どういうことよ!?」
「お嬢様がフランドールお嬢様を止めようとしなかったからですよ!!」
「私が……フランドールを?」
小悪魔はあふれ出る涙を拭おうともせず、レミリアに顔を近づけ怒鳴りたてる。
「だからパチュリー様は! フランドール様を諌めるために!
妖怪を作り出してその妖怪に……うわぁぁぁぁぁぁん!!」
「妖怪を……作った……? パチェが?」
信じられないことばかりがレミリアの耳に飛び込んでくる、
小悪魔は手を離すとそのまま床に手を付き、ただ泣き続けるばかり。
「……美鈴、美鈴は……?」
レミリアはおぼつかない足取りで書斎から出ていく、
フランドールが、咲夜が、パチュリーが居なくなり、最後の従者の元へと向かう。
「美鈴……」
紅魔館の正面玄関を開け、庭に出る、
その庭の隅に美鈴がいつも寝床にしている詰め所がある。
「無事よね……美鈴……」
すがるような気持ちで詰め所の戸を開ける。
「美…………」
そこには肉の塊があった。
「あ、あはははは、あはははははは、あはははははははははは!!」
レミリアの笑いは止まらなかった、ただひたすらに笑い続けた、
涙を流しながら笑って泣いて、やがてその意識も闇に消えた。
―――――
「…………んにゅ?」
まどろんだ意識が徐々に鮮明になる、
瞼を開くと見えるのは見慣れた天井。
「……?」
視線を右に動かす、見慣れた自分の部屋だ、
視線を左に動かす、やはり見慣れた自分の部屋だ。
「あ、あはは、あはははは」
なぜか笑いがこみ上げてくる、夢、全部夢だったのかと思うと止まらない。
「あはは……あは?」
ふと違和感が体をめぐる、体を動かそうとすると、同時に鳴る妙な音。
「…………ひっ」
気づいた、布団が布団ではなくミンチだということに、
枕も、ベッドも、全部がミンチだということに。
「な、何よこれ!!」
ミンチ肉を掻き分けて飛び出すと、壁に書かれた文字が目に入る、
壁だけではない、床にも家具にも、あらゆるところに書かれたその文字。
『Dナルドはね、頭の悪い子を見ると、ついやっちゃうんだ』
―――――
「おはよう」
『おはようございまーす』
人里にある寺小屋では、今日も慧音が子供たちに勉強を教えていた。
「先生ー」
「ん、どうした?」
しかしどうも今日は生徒達の様子がおかしい、
生徒の一人が手を上げたのでそれに慧音が答えると、
そのまま生徒は部屋の隅のほうに座っている少女を指差した。
「新しい生徒ですか?」
「……そこで何をやっている、レミリア・スカーレット」
そこには少年少女たちに紛れ、筆記用具を手に持ちながら
机の前で正座し続けるレミリアがいた。
「……のよ」
「何だ?」
「勉強しないと……Dナルドが来るのよ」
「……Dナルド?」
「勉強しないとDナルドが来るのよぉぉぉ!!!」
「わけがわからんっ!!」
とりあえず泣きながら懇願されると断るわけにもいかず、
仕方なく慧音は新しい生徒とともに授業を開始した。
―――――
「成る程、そういう事だったのか」
話を聞いて慧音はくすくすと笑う、
彼女の前には共に机を囲み、紅茶とお菓子を楽しむ咲夜とパチュリー。
「うまいこと躾がいったわね」
「大成功ですわ」
「上手にやったものだな」
フランドール補完計画、&レミリア補完計画、
その全てはパチュリーによる完璧な計算と、
咲夜の時を止める能力によって完全成功を迎えた。
「これで書斎が壊されなくてすむわ」
「修繕費も馬鹿になりませんでしたし」
計画の成功の影には、小悪魔の女優並の演技や
美鈴の牛豚解体技術などがあったが、それが語られることはないだろう。
「それで最近子供たちが素直になってたのか」
『……え?』
しかしここで慧音が何やらおかしなことを言い始めた。
「素直って、何が?」
「ん? 人里の子供たちも脅かしてくれてるんだろう?
おかげで子供達の親からはDナルド様々ですと感謝されてるぞ?」
「え……そんな事してないけど……」
パチュリーと咲夜の顔が凍りつく、頭の上に?のマークを浮かべていた慧音も
気づいたのか、段々とその顔が豹変しはじめた。
「……もしかして、違う……のか?」
「だってそんな暇ないもの、お嬢様には一緒に寝るようにせがまれてるし……」
「じゃあ今人里で子供達を脅かしているのは……」
咲夜と慧音の視線がパチュリーの方を向く、
コホン、とパチュリーは咳をすると、ポツリと呟いた。
「……ごめんなさい」
『何をしたぁぁぁぁぁぁ!!』
「ルゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
「ぎゃあああああああああ!!」
「こっちのほうがいいかな?」
「びぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」
「フッ! フゥッ! フッ!」
「おがぁちゃぁぁぁぁぁぁん!!」
「Dナルドはね、幼女がとっても大好きなんだ!」
「あきゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
今日も夜の人里には子供達の悲鳴が響く、
躾妖怪Dナルドは本当は子供が大好きなのかもしれない、
そして子供達が成長し、大人になって子供を持った時、
親に言われたように、自らの子供にもこう教えてゆくのだろう。
『悪いことをすると、Dナルドが来るわよ?』
ランランルー
(まったく伏せられてn(ry)
こうやって恐怖は感染していくのですね
だが私はそんなことにはなランランルー
なんてホラー!!!
落ちる、落ちるー!!
スカーレット姉妹はやっぱりかわいいですなw
しかしDナルドよ。
「Dナルドはね、幼女がとっても大好きなんだ!」
このぺドめwwww
実際小さい時に本人に会った事がありますがあれは恐ろしい者です。。
そんな恐怖を思い出させてくれた貴方にこの得点。
軽妙なノリと上手い構成とDナルド
面白かったw
「あきゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
に吹いたw
個人的には、Dナルドってペニーワイズより怖いと思うんだ。
にクソワロタwwwwwwwwwwwwwww
あの容姿と面でマスコットキャラとか絶対におかしいと思うんだ
センスと言いオチと言い、もう絶品でございましたww
ここはあれだ、おばsいやすいませんかれいsyマジごめんなさいゆかりんにカー○ルを呼んで来てもらうしかないw
最後のDナルドの台詞がもう変質者にしかみえねぇw
寝返ってDがいたら俺でも叫ぶわ!!あと美鈴解体乙
パチェさん!あんたって人はぁぁーーーー!!
Dナルドこえええええぇぇえぇぇぇえぇ!!!!!
これは確かに怖いですよwwwww
・・・・・・・・なんかマックに行きたくなってきた・・・。
しかしDナルドめ、幻想郷にまで支店を設けるつもりか……!
Dナルド怖すぎ震えた。
そしてDナルドから脱兎
やっぱりDナルドは最強だぜ!
リアルに背筋が凍ったwwwwww
とても楽しめました。
Dナルド恐るべし・・・。
次回作もどうなるのやらw
これを見た諸君は一週間以内に犯バーガーを4個分食べなければDナルドに殺やれちゃうな!
ぶっちゃけDナルドもはや都市伝説レベルの怪物だと思うんだ
しかしポテトが食べたくなってきたな。
それといつのまにあのイニシャルDは幻想入りしてたんだ…
怯えるお嬢様達もカワエエ(*´д`*)ハァハァ
Dナルドはとてもいい仕事をしてくれました。
らんらんるー!
それにしてもみんなDナルドが大好きなんだな。
それじゃ、みんなでやってみよう!!
パチュリーはとんでもないものを作ってしまいましたw
「あきゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
でおもいっきり吹きましたw
楽しかったです!!
でもDナルド、あっきゅんは良い子だぞw
>ミンチ
最初は純粋に怖かったですが、読み直してようやく気づきましたww
道頓堀に住むK-ネル・Sンダースも幻想入りしたら大変な事になるな。
パチュリー様ちょびっとやりすぎなんだぜ?
「あきゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」とか「むきゅ?」とか良すぎですw
皆も一緒にやってみよう!ラン☆ラン☆ルー♪
ありがとうございました
しかし、オチもしっかりしてて良いホラー?ものだと思います
…なにゆえドナルド?
洗脳されたわけじゃ(ry
「あきゅうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
だけどあっきゅん可愛いよあっきゅん
マックに恨みでもあるのですか?
次回も楽しみにしてます!
そう言やハンバーグラーとかあの辺はそろそろ幻想入りしていいと思う。
とりあえず、こええ!それと、素直になったおぜうさまかわええ!
え、ちょ、シャレになんないくらい怖いんですけど!
いやでも、確かにあのルックスは、冷静に鑑みると普通にホラーですよね。
なまはげとか鬼婆なんかは、包丁磨いて出直して来いってなもんですよ、
と民間伝承を蒐集してる一学生が言ってみる。
そして、なにはなくとも、怯える妹様と添い寝する権利は俺がもらった!
点数としてはハンバーガー4個分くらいかな!
流行で跳ね上がるのかな?
じゃないとDナルドが貴方のところにも・・・www
Mックは豚の餌より酷い、半分毒物みたいな化学物質の塊を食わせてくるような企業だから、マスコットキャラクターにもその性根が出たんだろうなw
ちくしょう最高すぎる!
さすがに色々やり過ぎな気もしました。
それはともかくこのイニシャルD、
相手がゆゆ様だったら返り討ちだっただろうなぁw
ここまでカオスになのに高得点な作品は久しぶりwww
寝返りうって目の前に奴がいたら,大人でも間違いなく泣くぞ…。
美鈴と小悪魔が地味に凄い
いや、本当は地味じゃないけど、他のがインパクト強すぎw
「Dナルドはね、幼女がとっても大好きなんだ!」
このロリコ(AA略
最近はギャグ漫画でもなかなかこういうシーンはないですね。
つーか、Dナルドこぇぇっ!w
つーか、Dナルドこぇぇっ!w
つい殺っちゃうんだ☆
お見事の一言に尽きます。
つーか奴が本気で怖くなってしまった
ただ、私はニコニコネタは嫌い。反吐が出る。
マック党なのでドナルドネタも好きじゃない。
それでもこの点数なのは、あくまで作者氏の文章に点を入れたのだと理解して欲しい。
そしてこのサイトにもニコ厨が多いことが分かった。
でもこの展開は好きです。今後も頑張って下さい。
Dナルドこええええええええw
おっかねえにもほどがあるだろwwwwww
悪魔に悪魔と呼ばれる男
後書きで泣いた
ミンチの下りが素で怖かったです・・・
寝返って直ぐ近くにDの顔があったら私は間違いなく昇天・・・
Good Job!!
にしても、こぇwww
と言ってたらDナルドが俺の後ろに・・・(^-^;
寝返ったりした瞬間Dがいたら?殺りますよええ。w
パチュリー何してるwww
ピエロ怖い
らんらんるー☆
でも・・・もっとやって・・・!
Dナルド!てめぇは…怖えぇぇ!www
俺達に出来ないことを平然とやってのける!
ニヤニヤすればいいのか怖がればいいのか大笑いすればいいのか迷う内容だったぜ……
流行って恐ろしい…
阿求かわいそう。
しかも吹いたwwww
ランランルー