Coolier - 新生・東方創想話

はんみょう! 其のご

2008/02/27 08:47:56
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※この作品には、作者のある程度の主観が入っております。
過去話につきましては、
http://www.geocities.jp/ocean_sakaki/library/index2.htm#hanmyon ←こちらのACT1~ACT7と、
先程に投稿しました其のよんをご参照ください。

ではでは、お楽しみを。




 一方、その頃。
 冥界と幻想郷とを隔てる境界まで、あともう少しかという冥界の空にて。
 妖夢は、わりと困った問題に直面していた。 
「これまた、大層なお出迎えで……」
 周囲には、空を埋め尽くさんばかりの数に溢れた、色取り取りの幽霊の数々。
 数にすると、ざっと三百はくだらないだろうか。
 最初はポツポツと、ただ単に空に漂っている感じで、冥界には珍しくもなんともない光景だったのだが。
 どうも、この幽霊達は妖夢を何らかの対象と認識したのか……時を重ねるというより秒を重ねるうちににつれて数がどんどん増えていき、三十秒もしないうちに、気が付けばこんな大所帯になっていた。全員が全員で、異様なテンションに包まれており、いつこちらに襲い掛かってきてもおかしくない塩梅だ。遠回りすら許してくれないほどに。
 ――その実、冥界から幻想郷へと向かう道中、もしくは幻想郷から冥界への帰り道なんかで、妖夢は妖怪や幽霊などの襲撃を受けることがある。
 冥界は基本的に静かな場所であるのだが、一年前の春、冥界から溢れた幽霊が幻想郷に次々と花を咲かせた事件があって以来、冥界の幽霊達の活性化は未だに収まる様子がない。
「閻魔様にはあんまり斬っちゃ駄目って言われてるけど……」
 さすがにこれだけの数に囲まれて、斬らずに進めというのは無理な話だ。
 妖夢は油断なく周囲を見回しながら、腰から愛刀である楼観剣をすらりと引き抜く。
 いちいち全部を相手にしていたらキリがないので、どこから突破しようかと思ったのだが。
 やはり、正面か。
 どうせ斬り潰していくならば、それが一番近道だった。
「……参る!」
 のんびりとした飛翔から、一気に滑空を開始。初速からマックススピード。
「はあああっ!」
 目の前に塞がる幽霊の壁を、最初の斬撃で切り開く。幽霊八、九匹ほどが瞬時に浄化した先に出来た隙間に飛び込んで、一気に突っ切っていく。
 ワンテンポ遅れて、幽霊達が弾を撃ってくるが、既にドコからやってくるかは把握済みだ。
 四方八方からやってくる弾幕をくるくる旋回して回避し、立ち塞がってくる幽霊はさらなる斬撃で斬り潰し、遠くから打つ準備をしている幽霊に付いては自分の射撃で撃ち抜く。
 津波のように襲い掛かってくる敵意……というにも違う、妙なテンションが篭もった攻撃の数々にも、妖夢は持ち前のスピードを全く落とさない。
 むしろ加速することで、一刻も早くこの波から脱出できるように、防ぎ、避け、撃ち、斬って、進むべき道を自分で作っていく。
 そんな怒涛の時間に一分耐え切ることで、妖夢は幽霊の包囲網を抜け切った。
「くっ……」
 ただ、抜け切ったとて、安易に逃がしてくれるほどあちらは甘くはない。すぐさま、一丸となって飛翔する妖夢へと追いすがってくる。
 それを、妖夢は待っていた。
「天上剣・天神の五衰!」
 楼観剣を振り上げて発動させるスペルは、広範囲に撃ち出される物量弾幕。
 敵の数三百以上となると全てを倒し切るのにはまず不可能だが、少なくとも数十匹は持っていけるはずだし、足止めにも最適。
 そういう思いで、妖夢はこのスペルを撃ったのだが、
「……あれ?」
 弾幕が、撃ち出されなかった。
 周囲はシンと静まったままであり、妖夢一人だけが楼観剣を振り上げたポーズで固まっている。
 何故、と思っている間にも、こちらに追いすがる幽霊達は猛スピードで迫ってきており、
「わあああああっ!?」
 一気に、波に呑み込まれた。
 弾幕ではなく、このときに限っては全員正面から体当たりである。
 激しくもなんだか妙にナマ温かい攻撃の数を、妖夢は楼観剣を掲げて堪えるのだが、やはり防ぎきれない。その体当たりを受ける度に――自分の中に流れこんでくる思念みたいなものを、妖夢は半強制的に感じ取る。
 その内容はというと。
『をををを、妖夢たんじゃ、妖夢たんじゃっ』
『相変わらずめんこいのうめんこいのう』
『皆の衆、これはまたとないチャンスじゃぞ』
『応。わしらの思いを、妖夢たんにぶつけるんじゃっ』
『ふはははは、覚悟せい』
『受け取れ、わしらのバーニングラブ!』
『わしらの一致団結で、妖夢たんを虜にしてくれる!」
「…………」
 なんだこいつら……!
 何だか変に情熱的で、なおかつ邪悪な意思がぷんぷん伝わってくる思念だった。
 やばい。寒気が治まらない。鳥肌が立ちまくる。めちゃくちゃ不愉快だ。いや、もーくちゃくちゃだ。
 これは、なんというか、いろんな意味で怖い。
「この……!」
 全身に襲い掛かってくる冷え冷えとした感覚を、妖夢は気迫で自身に活を入れることでなんとか振り払い、それから、楼観剣を横薙ぎ一回転。周囲にいるある意味邪悪な幽霊達が浄化され、限定的ながらもスペースが生み出される。
 この瞬間を見逃さない。次なるスペルを発動。
 時空を駆けるは我が一念。全ては無量と永劫の流れのままに。
「六道剣・一念無量劫!」
 叫んだ瞬間。
 妖夢を中心として鋭い切れ目のような純白の八芒星が描かれ、その八芒からは無数の弾幕が撃ちだされ、周囲の敵をズタズタにしていく……はずなのだが。
「……!?」
 またも、不発に終わっていた。弾幕はおろか、八芒星すら生み出されない。
 先程の天神の五衰と言い、明らかに変だ。
 スペルが、撃てなくなっている。
 通常の弾は撃てたというのに……?
「って、また来たーーーッ!?」
 思っている間にも、敵が群がってきた。これまた陰気臭い思念と共に。
 考えるのは後回しにして、妖夢は楼観剣を縦横に振り回しつつ、なるべく幽霊達の体当たりに当たらないようにしながらこの不快な波を突っ切っていく。こんなにも密度の濃い物量となると安全地帯までは限りなく遠いが、このまま動かないよりはマシだった。
『それにしても今日は、いつも妖夢たんの傍に居る半霊たんを見かけんのう』
 と、避け切れない体当たりの中から、妖夢はそんな思念を感じ取った。
 半霊こと妙夢は現在白玉楼にてお留守番中だ。こんな時、半霊がいたら援護射撃の弾幕で少しは楽になろうモノなのだが……と考えるのは、自分が未熟な証拠なのだろうか。
『最近、半霊たんは妖夢たんの格好をしてるらしいのう』
『なんじゃ、二人になってアイドルユニットでも目指しとるんか?』
 目指してません。
『違うわい。あるじゃろ、妖夢たんには一時的に二人になれるような能力が』
『おお、そうじゃったそうじゃった』
『その能力の維持の練習とか、ファンの間では噂されとるぞい』
 ファンって何なんだ……。
 妖夢は思い切りげんなりとなりかけたのだが。
 ――先程、スペルを撃てなかった理由に付いては、おぼろげながら察することが出来た。
 魂符・幽明の苦輪。
 そのスペルが未だに『発動中』であり、妙夢――半霊に送っている霊力が自分にまだ戻ってきていないから、他のスペルを重ねて撃つことができない。
 つまるところ、半霊が妙夢として存在し続ける限り、自分はスペルを使えない。
 この事実を理解して、妖夢は少し自分が情けない気分になった。確かに大きな事件も何もなかったし、剣の稽古も妙夢との近接対戦形式にしていたとはいえ、四日間もこれに気付くことができなかったとは。
 何より。
 一瞬でも、妙夢の所為だと思ってしまった自分に腹が立つ。
 自分さえ未熟者でなければ、もっと強くありさえすれば、こんな危機なんてすんなり乗り越えられるはずなのだ。その気になれば、幽明の苦輪の状態のまま他のスペルだって撃てる。
 お師匠様が、そうだったのだから。
「…………」
 ……それを思うと、お師匠様は何と言う遠い目標だろう。
 その大きい背中に追いつけるのは、いつの日なのだろうか。
 何年、何十年かかるのだろうか。
 そして、その壁を、自分に越えることが出来るのだろうか。
『――味わうと良い、妖夢たん』
「……!?」
 底冷えのするような、しかも折り重なったような思念を感じ取り、妖夢はハッと現実に回帰する。
 上空。
 大まかに数えて五十を超えるであろう幽霊が一同に集まって、大きな掌の形を成している。
 その圧力たるや、寒気とかそういうのを抜きにして、妖夢が慄然となるほどに絶大。
『これがわしらの、情熱的ラブアタックぢゃ!』
 急降下してくる。避け切れない。
 タダでは済まされなさそうな強力な掌撃を、妖夢は咄嗟に、左手に抜いた白楼剣と右の楼観剣と併せて防御するも、捌ききれない。
 いくら一つ一つが弱くても、五十の力を重ねて用いられると、さすがの妖夢でも手に余る。
 このままでは、押し切られる。
 ついつい遠くの目標を思うあまり、近くの敵勢に足元を掬われしまうとは。
 これもまた、己の未熟である所以なのか。
「くぅ……!」
『さあさあさあ、妖夢たんをわしらの色に染めてしんぜようぞ!』
 そんな限りなくドス黒い灰色に染まるのなんて嫌だ……!
 心で強くそう願うも、あちらの勢いは止まらない。ギリギリギリと、こちらの防御の力へと侵食してくる。どうにかせねば。
 次なる一手を、妖夢は急いで模索しようとするが、そこで、
「――――」
 力を感じた。
 自分と似た雰囲気の力。
 成熟しておらず、だが、何事にも真っ直ぐな、力。
『ふははは……ぬぅおっ!?』
 それは彼方から疾風の如くやってきて――妖夢を圧迫しようとしている大きな手の塊に向かって、横合いから、存分にスピードの乗った蹴りをお見舞いした。
 完璧な不意打ちによる蹴りをまともに食らい、圧迫の掌は数十メートルを吹っ飛んで、バラバラとした幽霊の姿に戻る。距離が離れたから先程のような思念は聴こえなかったが、かなり効いたのはわかる。
 これほどの蹴り、一体誰が……と、妖夢は思ったのだが。
 やろうと思えば自分も出来る上に、感じたこの力の性質なんかを思い直してみると、直ぐに結論に思い至る。
「妙夢」
 そう、妖夢の半霊こと妙夢だ。
 自分と同じ容姿をしている半霊の少女は、敵が襲い掛かって来る気配がないことを確認してから、ゆっくりとこちらへと振り返り、
「……!」
「わっ」
 居ても立ってもいられなくなったかのように、思いっきり妖夢の首っ玉に抱きついてきた。
 行動だけ見ると何事かと思われそうなのだが。
 妖夢は今、無表情かつ無言のこの子が何を言わんとしているのかに付いては、はっきりと感じ取れていた。

 ――ごめんね。
 困らせてしまって、ごめんね。
 出来るならば、このまま一緒に居たかった。
 手放したくなかった。
 だから、さっきのは私のワガママだったんだ。
 本当にごめんね。

 謝っていた。何度も、謝っていた。
 心を開いて、そのように伝えてきた。
「妙夢……」
 確かにあの時はちょっと怒ってしまったかも知れない。
 でも、妙夢は悪くない。そう思える。
 それにあの時、妙夢が何を思っていたのかについて、妖夢はきちんと察することが出来なかった。
 一緒に居たかった。手放したくなかった。
 それは自分とて思ったことだ。
 ただ、昨夜にも思ったように、前には進めないと言う不安があるし、成長できるかも知れないという期待もある。否定も肯定も出来ない日常。どちらかに、答えを出せないでいる自分。
 そんな迷いを出してしまっていたのが、妙夢の純粋な願いを理解できないという結果に繋がった。あの時、この子が心を開いてなかったとしても、わかることはできたはずだ。
「私の方こそ、ごめんね」
 さっき、スペルを使えなかったことを妙夢のせいにしてしまったことも含めて。
 妖夢は謝罪の言葉を口にした。
 両手に刃を持っているので抱き返すことは出来ない代わりに、抱きつく妙夢の耳元に優しく囁く。
 一瞬、妙夢は驚いた顔をしてこちらを見て、首を振ろうとしたのだが。
 ……こくり
 何かを感じたのだろう。
 ややあって、ゆっくりと一つ頷くその顔は――
 もしかして、笑っている?
 一見、いつもの無表情だったが、妖夢にはそのように感じ取れた。
 ただ、そうできただけで。
 これからも、そのように感じることが出来そうだと思ったし。
 妙夢がこれからどうありたいのか、そして、今までの自分達がどうあってきたのかに付いても、おぼろげながらわかってきたような気がした。

  ☆  ★  ☆  ★  ☆  ★

 何故、妖夢が謝ったのかを、私がわかることができたのと同じように。
 妖夢は、私の笑う瞬間をきちんと感じてくれた。
 幽々子さまには『あの子に教えてきてほしい』と頼まれたけど、充分であるかのように私は思えた。
 これからも大丈夫だ。きっと、大丈夫だ。
『おおぅ、なんか妖夢たんが二人で揃ってイチャついとるぞ!』
『ええのう、めんこいのう』
『眼福じゃ眼福じゃ』
 さて。
 私と妖夢のちょっとした諍いは解決できたけども、今あるわりと困った問題については継続中だ。
 さっきから私達を取り囲んで邪な熱のこもった思念を飛ばしてくるこいつらを、どうにかせねばならない。
 思念と言っても、妖夢にはその内容が聴こえてないようだけど、どうやら、幽霊に近い体質を持つ半霊の私にはわかることができるみたい。幸というべきか不幸というべきか。
 ともあれ。
 数はざっと見積もって二百五十以上。私か妖夢、一人一人ではさすがに手が余るだろうが、
「じゃあ、一緒に行こうか、妙夢」
 こくこく
 二人揃えば、怖くない。
 妖夢が双刀を手に目の前の大勢へと突撃していくのに、私も自身の刀を抜いてピッタリと追従する。
『皆の衆、今度は妖夢たんが二人突撃してくるぞーっ! 全力で迎え撃つんじゃー!』
 おおおおっ!
 応えるかのように、幽霊達が異様な熱狂を更に増幅させて向かってきた。
 交差する。
 正面からやってくる敵を、私は横薙ぎで易々と片付け後ろへ抜ける。次いで上空から二匹が接近してくるのは射撃で黙らせ、其の向こうから撃たれる弾幕は身を捻って回避。視界が上下逆転したままだが構わず飛翔して、弾幕の源である幽霊を蹴り潰す。
 そこから更に――背後から襲ってくる敵を察知。
「――――」
 しかし、私は慌てず、横にひょいっとだけ移動する。
 すると、どこからかやってきた射撃が、その後ろに居た敵を正確無比に打ち抜いた。
 誰が、ドコから射ってきたかに付いては簡単。わずかに私と離れた位置に居る妖夢による援護射撃だ。
 同じような状況ならば、私でもそうする。
「…………」
 感謝の意味で妖夢と一つだけ視線を合わせてから、私は飛翔を続行。左右の敵を斬撃で蹴散らし、弾幕を潜り抜けながら正面の壁を刺突で浄化させて道を切り開く。
 そこから更に、振り向き様に剣風の射撃。
 上、右、下方向の順番。
 上から突撃してくる者、右で弾を撃とうとしている者、そして――下で妖夢の真横で突撃しようとしていた者を、各個撃破。
 今度は、妖夢がわずかばかりこちらに視線を向けて片目を瞑り、自分の戦いに戻っていく。
 大丈夫、というのが伝わってきたし。
 わかってたけど、信じていた、と言う思いも伝わってきた。
 そう。
 私達は、基は同じ生命。
 前々までは要領を得ることが出来なかったけど、今、このようにお互いがわかり合えるまでに心を開けば。
 私がどのように動くかを妖夢は感じ取ってくれるし、妖夢がどのように動くかを私は理解できる。
 私がやろうとしたことを妖夢が実現でき、妖夢のしようとしたことを私が実現できる。
 重なり共有する知覚は求聞時聡明の法の如く、私達二人に限定的な頭の冴えと技のキレを与えてくれた。
『うぬぅ! さすがは妖夢たん。鬼神のごとき強さじゃ!』
『そこに痺れるのう。でも可愛いのう』
『じゃが、わしらとてこのまま終わるわけには行かん!』
 いや、終わってください。
『皆の衆、今度は全員で集まるんじゃ!』
 私にだけ聞こえる号令が放たれた瞬間、一点……否、両端の二点に分かれて高速で集まっていく幽霊の数々。
 敵の数、残り二百。
 なれば、それぞれ百体ずつが二点に集結し、先程と同じく掌の形を取った霊気の塊が二つ完成。
 そして、二つの掌がガッチリと互いを握り締めたとき、
『行符・進軍の翁達!』
 二百位一体となって初めてのスペルが発動し、強大な力の塊が蒼白の閃光となって、私達二人に迫る。
 やってくる力の塊は、ざっと見積もって、さっき妖夢が抑えていた圧力の四倍――否、それ以上か。正面からぶつかってしまえば、ひとたまりもないかも知れない。
 しかし。
「行くよ、妙夢!」
 こくこく!
 妖夢が呼びかけてくるのに、私も強く頷き返し――敢えて、私達は正面からその脅威に受けて立つ。
 白楼剣を持つものとして、迷いはない。あったとしても、お互いの迷いを斬れば済むことだ。
 だからできる。きっと、できる。
 半分が一つに成り立った私達に――
「斬れないものなど――」

 あんまりないっ!

 思考が重なる。気迫が重なる。
 妖夢は袈裟懸け。
 私は逆袈裟。
 二つの斬撃が同時に放たれ、それもまた重なり、眼の前の巨大な閃光と交差して―― 
『ぬ……ぐはああぁぁっ!?』
 後ろへと抜けた。
 妖夢と一緒に振り返ると、×字に斬られた霊の塊が四つに分断、後に一つ一つへとバラバラになる。
 先程まで塊となっていた霊の大半が浄化されていく中、かろうじて残った者がいるが……その数では、もはや私達の敵ではない。
 撤退するならそれでよし、まだ向かってくるならばまとめて斬ってそれで終わりだ。
「ん……?」
「――――」
 ……と思ったのだが。
 別の方角――しかも多方向から。
 こいつらと同じような熱気がこもった霊力が、高速でこちらへと集まってくるのを感じた。
「まさか……」
 数えるのがめんどくさくなりそうな、圧倒的な物量。
 少なく見積もっても五百以上はくだらないだろうか。
 皆が一様に、こいつらと同じ異様なテンションに包まれており、こちらに熱い思念を送ってくる。
「?」
「…………」
 妖夢は直接こいつらに触れないと思念の内容を聞き取れないようだが、寒気はするのかわずかばかり身震いをしていた。
 思念を聞き取れる私には、その身震いしたい気持ちは痛いほどわかる。むしろ、こればっかりは聞き取れない方が幸いと言える。
 だって、数が多すぎるのだ。しかも全員が全員でテンションが高く、いちいち五月蝿い。それが何重も折り重なっていることから、もはや意志と言うより騒音に近かった。しかも、頭に直接響いてくるから始末に置けない。
『ふぉっふぉっふぉ、わしら斥候が時間を稼いだ甲斐があったわい』
『本隊の到着じゃ』
『我ら「(Y)妖夢たんを(O)男らしく(U)恭しく(M)愛でてゆく(U)美しき老人の会」、略して「YOUMU老人会」総勢八百二十四名、皆で妖夢たんを心行くまで愛でられるこの日をどれだけ待ち侘びたことか……』
 何だか妙な老人会が結成されていた。
 げっそりと頭を抱えている私に、妖夢は『どうしたの?』と問うて来るが、これは絶対に教えない方が良いと思う。
 いくら心を開いて知覚を共有したとはいえ、こればっかりはなんとも……。
「……まあ、そんなことよりも」
「…………」
 嗚呼、閑話休題がありがたい。
「結局、こいつらをどうにかしないと先には進めそうにないってことか。……妙夢、まだ行けそう?」
 妖夢が楼観剣を握りなおして尋ねてくる。
 まだ、行けるか?
 それに付いての答えは簡単。
 こくこく
 ――妖夢と一緒なら、私はどこまでもいける。
 だから今この場に於いても、いつものように軽く二度頷く。すると、妖夢も安堵したかのように息をつき、強気な笑みを見せてくれた。
「ちょっと時間かかりそうだけど、頑張ってみようか」
 目の前には総勢五百を超す幽霊群。
 確かに、これだけの相手をするには時間がかかりそうだ。
 でも、きっと大丈夫。
 こういうことに巻き込まれてしまっただけに、幽々子さまから頼まれたおつかいから帰還するのに、かなりの時間を要してしまうというのが心残りだけど。
 今は、目の前のことに集中しよう。
『目標、前方の妖夢たん二人。総員、各々の持てるだけの愛情を持ち……突撃を開始せぃっ!』
 集団の一つが、そのような開戦の合図を飛ばすと同時に、五百超の軍勢は一気に迫ってくる。
 本当は応えたくはないけど、それに応えるべく、妖夢と私もそれに正面から立ち向かおうとした、瞬間、

「――そこの二人! 少しの間だけジッとしてなさい!」

 私達が対峙する空の、更に上空から、聞き憶えのある声が降ってくる。
 一同、その方角を見ると――無数のナイフを周囲に従えたメイド服姿の長身の少女が、瀟洒な笑みを浮かべ、
「幻葬・夜霧の幻影殺人鬼」
 周囲のナイフを展開発射。
 展開された刃の群は、私達の寸前の空間へと集束飛翔し――幽霊集団へと次々と襲い掛かっていく。
『のおおおぉぉぉぉ!?』
 瞬く間に、五十を超える幽霊が飛翔する刃の餌食となり、冥界の空へと浄化し霧散した。
「咲夜さんっ!」
 妖夢が驚いた様子でその名を呼ぶと、ナイフを発射したメイドの少女――十六夜咲夜は、こちらに向かってウインクを返し、更に幾多のナイフを周囲に展開させた。
「何だか大変なことになってるわね。とりあえず、あなた達二人には大事な用があることだし、早々に片付けるわよ」
 元々妖夢と私の二人だけでも充実していた戦力に、十六夜咲夜の投入。
 もはや勝負ありだ。
『うぬぅ、めげるな、突撃突撃ぃ!』
 と言っても、未だに邪な意志を持ってこちらへ向かってくるのであれば、容赦をする必要がこちらにはない。
「行こう、妙夢!」
 こくこく
 怯まず向かってくる幽霊達を無情に切り裂いていくナイフの群に続き、私達も進撃を開始する。

 
 事態が終息するには、やはり時間はかからない。
 そして、おそらくは。
 これから私が元に戻るまでも、あまり時間はかからない。


 -続く-
はい、阪木です。
積もる話は完結でさせていただくとしまして、こちらの小話。

ほのぼのしてばっかりも緩々ですので、唯一の戦闘パートとして書かせてもらってます。
でも、やっぱりどこか莫迦っぽく、緊張感もヘッタクレもないんですけどね。
この話の中に於いては、それなりに書きたかったシーンでもあります。
んー、やはり弾幕は文章では難しい。
どうにもベースが萃夢想になってしまうなーと思いつつ、何事にもチャレンジですね。

そんな調子で、次で完結であります。
阪木洋一
[email protected]
http://www.geocities.jp/ocean_sakaki/index.htm
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