Coolier - 新生・東方創想話

幻想郷と小さな魔女 後編

2008/02/26 01:58:10
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注:本作は、幻想郷と小さな魔女 前編の続きになります。
ひぐらしのなく頃にとのクロスオーバー作品です。
未読の方は、先にそちらに目を通していただけるとより楽しめるかと思われます。
なお前編よりグロ描写が多く、少々ダークです。
苦手な方はご注意くださいませ。





※※※※※※※※※※※※※※※※

【幻想郷と小さな魔女 後編】

魔法の森でキノコ採集してる時に、妖怪に襲われている女の子がいたので助けてやった。
名前は古手梨花というらしい。
どうやら外の世界から迷い込んだ人間のようで、服装や話し方・香霖の所にある機械達が何なのか知らないという事を見る限り、
数十年前の人間みたいだが…どうせまた紫が外の世界との結界と、時空の境界か何かをまとめて弄りでもしたんだろう。
梨花は霊夢と同じく神社の巫女さんをやってるらしく、なんというか…猫みたいで気まぐれだけどとても可愛らしい子だ。
…素のあいつは、猫というか狸っぽいけど。
一緒にくっついてきた羽入というやつも含めてだが、めちゃくちゃ変わってて面白い。
最近ずっと忙しくてまともに人間と話してなかったせいかな、こんなに楽しいのは。
ちなみに霊夢は人間であって人間じゃないようなヤツだからここでは除外する。
なんていったって妖怪より強いしな、怖がる事もないし。
まぁとにかく。久しぶりに面白い人間に出会えて嬉しいんだ、私は。




-ここは紅魔館の中にある図書館。
魔理沙が今夜の宴会までの時間潰しにと、私と羽入を連れて遊びに来ていた。

「よっ、パチュリー!遊びにきてやったぜー」

そのパチュリーと呼ばれた女の人は、分厚い本を読みながら、目線だけをこちらに向ける。

「あぁ魔理沙、久しぶりね……って、その子達は?」

「え…えっと…はじめまして。ボクは古手梨花と申しますです。
今朝、外の世界からやってきました。よろしくお願いしますですよ。にぱー☆」

私はありったけの笑顔とともにパチュリーに挨拶をする。

「…あぁそう。まぁ本は好きなだけ読んでくれてかまわないから。きちんと返してくれるならね…?」

そう言ってパチュリーはギロリと魔理沙を睨んだ。

「あ、はははは!私だって借りてるだけだぜ!そのうち返すよ、そのうち。」

「その、“そのうち”がいつになる事やら…
ところで、梨花って言ったわよね?そこの小さい子。」

あぁ、この人は本物の魔女なのかしら…
私の攻撃が全く効かなかったわ…ちょっと凹む。
まぁ気を取り直して…

「みぃ…なんですか?」

「貴女、可愛いわね…私の妹にならない?」

無表情な割にとんでもない事を口走るパチュリーに、魔理沙が慌てて止めに入る。

「ちょっ…ちょっと!ダメだぜパチュリー!
梨花は私が責任を持って元の世界まで返してやるんだからなー!」

「ふふ、魔理沙もその子の事を気に入っているのね。だけど、梨花は渡さないわよ…
それに、貴女がどうやって元の世界に返してあげるというわけ?」

「そ、それは紫に頼んでだな…えぇい!もう良い!
口で言ってわからないなら体でわからせてやる!
とにかく梨花は私の大事な友達なんだよ!
お前の側に置いてたら、魔法の実験台にでもされかねないぜ!」

「くす…言ってくれるわね?
良いわ、今日は喘息の調子も悪くないし。久しぶりに弾幕ごっこといきましょうか…?」

とか言いながらなんか戦い始めたわよ、あの2人…

「梨花ぁ…なんか光の弾がたくさん出てるのです!怖いのです怖いのです…」

隣の羽入もあぅあぅ言ってるし、さすがにこれはヤバいかも…?
と、思って逃げようとしたら扉先で何かとぶつかった。

「いたぁっ…!」

「あらあら、ごめんなさい…って貴女、見掛けない顔ね?」

「外の世界の人間かしらね…
こんなの、いつの間に紛れ込んだのよ…ねぇ咲夜?」

私が見上げると、長身でメイド服を着た銀髪の女の人と、小柄だけど大きな翼の生えた
薄い青髪の女の子…らしきモノ。

前者はまぁ良いとして、後者は明らかに人間じゃあないわよね…?
見た目だけなら私とそんなに歳が変わらなさそうなんだけど…
瞳の色…真っ赤だし。っていうか、牙生えてるし。
血でも吸われたりしてね…って、そんなの洒落にもならないけど。

「はじめまして、ボクは魔理沙のおトモダチで、古手梨花と申しますです…」

「そう、魔理沙の友達ねぇ……ようこそ、紅魔館へ。
私はこの館の主、レミリア・スカーレットよ。ところで貴女の血は…美味しいのかしらねぇ?」

そう言ってレミリアは不敵な笑顔で、ニヤリと…
あああ…さすがにこれは恐ろしい。
思わず背筋がゾクリとする程だ。
うぅ、なんかトイレいきたくなってきた…こんな事でビビるなんて情けないわね、私。

「ぼ、ボクの血はドロドロのベトベトでそんなに美味しくないのです…!!
むしろこっちの神様のほうが絶品だと思いますですよ~☆えへへ…」

そう言って私はレミリアの前に羽入を差し出した。自分の代わりに。

「ふぅん…そう。
あんたはその角が美味しいのかしらねぇ…?ふふふ」

「ひぇぇ、梨花ぁ!お助けぇぇぇ―」

―ごめん、羽入。
雛見沢に帰ったらあんたの大好きなシュークリームたくさん買ってあげるから、
今は黙って身代わりになって。
というか、角に血液は溜まってないと思うし大丈夫よね…多分。

そう心の中で詫びを入れてから、私は書斎の方へと逃げた。
そこでさっきのメイドさんが優雅な振舞いで紅茶を淹れていた。
名前は確か…咲夜、と言ったかしら。
魔理沙とパチュリーも先程の戦いを終えたのか、本を片手に紅茶を飲んでいる。

「あら、貴女はさっきの…」

「みぃ、挨拶もナシに勝手に館の中に入ってしまって、ごめんなさいなのです…」

ここは正直に謝っておいた方が良さそうだ。そうじゃないと…
朝、目が覚めたら吸血鬼になってました…なんて事になりかねない。
死ぬ事に対しては慣れてるけど、さすがに血を吸われるのは御免だ。結構痛そうだし。

「あら、わざわざご丁寧に。大丈夫、あれは冗談よ。
お嬢様は自分から進んで人間の血を吸う事は滅多にないから…安心してね?」

そう言って微笑みながら頭を撫でられた。
私がからかい目的で誰かの頭を撫でる事はたまにあったけど、撫でられるのはかなり久しぶりだ。
咲夜のその姿がなんとなく母に似ていて、温かいようなくすぐったいような気持ちになった。
ああ、懐かしいな―

そう思った瞬間、ポロリと頬に冷たい物が…
あれ?もしかして私、泣いてる…?

「ありゃ…?梨花、どうしたんだ?どっか痛いのか?」

魔理沙が心配そうに私の顔を覗き込みながら、そう話しかけてきた。

「レミィが冗談とはいえあんな事言うからよ…そりゃ普通の人間だったら、
お前の血が美味しいかと聞かれたら怖くなるに決まってるじゃない。ねぇ…梨花?」

「あぁ、梨花ちゃん…で良いのかしら。
なんかごめんなさいね、お嬢様が恐がらせてしまって―」


そう言って皆が私を気にかけてくれる事が、嬉しくて嬉しくて。
余計に涙が溢れて止まらなかった。
ここにいる人達…妖怪もいるけど、皆本当に優しい。
その優しさが、今の私には胸に染みる程嬉しかった。



しばらくして私が泣きやんだ頃に、レミリアが羽入を抱えて戻ってきた。
「ねぇ咲夜、この角の生えたヤツね、すっごく面白いの!気に入ったわ。
この際メイドでも召使いでも何でも良いから、うちの館に置いてくれないかしら?」

「申し訳ございません、お嬢様…
さすがにそれはどうかと…(っていうかこの子全然役に立たなさそうだし…)」

そんなやり取りをしている2人の間で必死に助けを求める羽入。
ちょっと気分が良かった。

「羽入…あんた、もういっその事ここに幻想入りしちゃいなさいよ?
ああ、なんなら私も幻想入りしちゃおうかしら。雛見沢よりこっちにいる方がまだ安全そうだしね。」

いやらしい笑みを見せつけながら羽入の耳元にそう囁いて、からかってみる。
もちろん幻想入りするなんていうのは冗談だけど。
すると羽入は泣きっ面の上に哀しそうな笑顔を浮かべた。
口元が少し引きつっている。

「…梨花、あなたは雛見沢に戻るよりここでひっそりと暮らす事の方が幸せなのかもしれません。
僕は、梨花がそう望むなら―」

その言葉に、無償に腹が立った。
だって、もし私がこちらの世界を選んだとしたら……

気がついたら、羽入に掴みかかっていた。

「あんたっ!それ本気で言ってんの!?
じゃあ、私に雛見沢を…仲間を見捨てろって言うの!?
私がこうしてる間にも、仲間達が疑心暗鬼に取り付かれたり辛い目にあったり…
皆、殺されてるかもしれないっていうのに!?
黙ってないで何とか言いなさいよ、ねぇ!?聞いてんの!?
…そりゃ、私だって、私だってねぇ…し…しに…えっぐ、ぐすん…わぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

もう目茶苦茶だった。皆がいる前だと言う事も忘れて羽入に怒鳴り散らし、声が枯れるまで泣き叫んだ。
自分でも、理不尽でわけのわからない事を言ってるのは理解してる。
こんな事を言った所で、問題が解決するわけでもない。
私の仲間達が救われるわけでもないし、雛見沢を取り巻く惨劇の運命を変わられるわけでもない。

それでも、叫ばずにはいられなかった。
だって私は…幻想郷に来て魔理沙達と知り合って、改めて願ってしまったんだもの。

死にたくない。
幸せになりたい。

って―





私が一通り喋り終わった頃、細々と羽入が呟いた。
「梨花、僕のせいで…そこまで辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい…本当に、ごめんなさい…」
気が付けば、羽入も泣いていた。きっと彼女も辛かったのだろう。
自分が無力な事に。
私達の、避けられぬ運命に―


私達がやり取りしてる間、他の皆は俯き黙っていた。

そりゃそうだ。
外の世界からやってきた私達のせいで、本当に嫌な気分にさせてしまっただろう。
もうここには居られない。
これ以上私達の事情に巻き込むのも悪いし…
早く神社に戻って霊夢に頼んで、私達をさっさと雛見沢に帰してもらう事にしよう。
少し名残惜しいけど、もう幻想郷とはお別れだ。

「皆さん、お騒がせしてしまって申し訳なかったのです。
ボク達はそろそろ、退散させてもらうとしますです…
こんな、ボク達のような外の世界の人間に親切にしていただいて嬉しかったです。
本当に、本当に…ありがとうございました…」

そう言って羽入と一緒に頭を下げ、背を向ける。
ぼんやりと視界が、滲んでいく。ダメよ、私。
泣いちゃダメだって…ここで泣いたりしたら…戻れなくなる。
耐えろ、耐えるんだ。
ギシッ…と赤い絨毯が敷かれた床が軋む音を合図に、私は走り出す。


―同時に、後ろから誰かに抱き締められた。

「待てよ梨花、お前…元の世界で何があったんだ?」

「ま、魔理沙…」

何があったも何も…言えるわけがない。
私が昭和58年の6月に殺されて、その度に羽入に時間をループさせ、
何度も生と死を繰り返しているだなんて…
昔に一度、赤坂という東京の公安部から来た警察官にこの話をして助けを求めた
事があったけど…
結局そのSOSは気にも留められなかったんだろう。
私の必死の訴えは、無駄に終わってしまった。
雛見沢以外に住む人なら、助けてくれるんじゃないかと思った私が甘かった。
それ以来、私は仲間にも相談せずにたった一人でこの繰り返される惨劇に耐えてきたのだ。
これからもそう。
どうせ私はもう、どう足掻いても殺される運命なのだ。
昭和58年6月のその先を…生きる事なんて出来るわけがない。
ここで魔理沙達に相談した所で何も変わるわけが―…

「そうよ、梨花。
貴女さっき…仲間が殺されるとか言ってたけど、どういう事なの?」

「そうそう、私も気になるわ。お前の運命が、どうなるっていうのかしら?」

ああもう、パチュリー達までこんな事を言ってきた。
なんかもう誤魔化すのが辛くなってきたわ…どうせここは違う世界なんだ。
信じて貰えなくても良いから、ここは正直に話してみるべきだろうか…?


それから私は、必ず決まった期間の間に自分が何者かによって殺される事、今まで
自分が何度も生と死を繰り返している事。
…私達を取り巻く惨劇の原因となる物、関わる物。全ての事を話した。

「…というわけで僕達の住む雛見沢という村では雛見沢症候群という一種の風土
病のような病気があって、村人はこれに全員かかっている…というわけです。」

「へぇ…外の世界は色々と大変なのねぇ。ねぇ、咲夜?」

「はい…幻想郷はなんだかんだで平和ですからね、お嬢様」

そう言ってレミリアと咲夜が苦笑する横で、魔理沙が何やら難しそうな顔をして言った。

「なるほど…その病気のせいで、さっきお前が言ってたように仲間が疑心暗鬼に
取り付かれて、時に殺人を犯したりするわけなんだな?
しかし物騒な村だぜ…お前の住んでる雛見沢ってのは。」

本当はもっとややこしい村の事情や問題が色々と絡んで、奇行に発展したりするのだ
が…まぁここでは割愛しておきましょうか。話すともっと長くなりそうだし。
しかし一言で病気と言っても、村の診療所で働く入江という優秀な医者の研究のおか
げで、治療薬が数年内までに完成する予定ではあるし、そもそも普通に生活してい
れば発症する心配もないのだが…

魔理沙が怖ぇ怖ぇと呟いている横で、パチュリーがたくさんある書物の中から何かを取り出した。

「そしてその女王感染者と呼ばれるのが、梨花…貴女なのね?
ほら…あったわ、これ…外の世界の新聞」


その新聞を見たパチュリーの眉が一瞬吊り上がった。

「梨花、これを見たら貴女はとても辛くなると思うけど…どうする?」

え…?

私は恐る恐る、その新聞に目をやった。

“6月21日深夜から22日にかけて鹿骨市雛見沢村で発生した火山性ガスにより、村人数千人が死亡。
現在、この事故による住人の生存は確認されておらず、早くも絶望視されている。”

「なによ…これ…?」

私が死んだ後に、こんな事が起こっていただなんて…知らなかった。
頭の中が真っ白になり、上手く立っている事が出来なくなる。


「落ち着いて聞いて頂戴、梨花。
この事件から数年後の新聞にね、こんな興味深い記事が載っているの。
“事件の数時間前、神社の境内前にて腹部を切開され臓器を四方に引き摺り出し
惨殺されたと思われる少女の死体が発見されていた事が、災害後の調査によりわかった―”
この少女というのは、貴女の事なんじゃないかしら?
そしてこの事件をきっかけとして日本中が“オヤシロ様の祟り”というものを恐れ大混乱を
巻き起こし、雛見沢村は長きに渡って封鎖されるみたいなんだけど…
その間もこの村を研究し続けていた学者達の報告によると、災害があった当日に
雛見沢村から火山性ガスが湧き出したという痕跡が、何処を探しても見つからなかったらしいの。
これがどういう事か、わかるかしら…?」

そこで魔理沙が恐る恐る口を開いた。

「もしかして…誰かが仕組んでやった事、っていうのか…?」

「その通りよ魔理沙。例えばまず雛見沢症候群の女王感染者である古手梨花を惨殺し、
彼女が死亡したその後48時間以内に村人が急性発症して村中がパニックになる…という情報を流すの。
そしてそれを防ぐ為、ガス災害に見せかけ村人を皆殺しにする…だいたいこんな感じかしらね。
つまりこの事件は雛見沢症候群の恐ろしさを日本中に知らしめる為に何者かが企てた大量殺人計画
…という事が考えられるわ。そして“女王感染者が死亡後、48時間以内に村人が急性発症する”
という情報もおそらく嘘だと思うわ…
だってもしそれが真実だとすれば、その付近に住んでいる生存者も揃って全員発症している筈だもの…」

魔理沙の横で目をつぶり黙り込んでいたレミリアが、突然歓喜の声を上げた。

「す…スゴいわパチェ!貴女まるで名探偵みたいよ!!」

「ふふ…伊達に百年以上も魔女やってないわよ?」

「さすがだぜパチュリー…そんな事が現実に起こっていただなんて信じたくないけど、
確かにそう考えると辻褄が合うな…
でもさ、誰が一体何の目的でそんな事したんだろうな?」

ここで咲夜が初めて口を開いた。

「えー…こほん。
失礼ですがわたくしからも一つよろしいですか?
これはあくまで仮説なのですけれど…―」

私は驚きのあまり、言葉も出なかった。
たったこれだけの人妖が集まっただけで、これほど確信に迫った意見が次々と
飛び出してくるなんて…
これなら近いうちに犯人の目星はつくだろう。なんだか私までワクワクしてきた。
さっきまでマイナスな事ばかり考えていた自分さえ、ばかばかしく感じる。
というか、少なくとも魔理沙あたりは絶対「それ、なんてSF小説だ?」とか言い
ながら笑い飛ばして相手にしてくれないと思っていたのに…
他の人に相談するだけでここまで心強くなれるなんて思いもしなかった。

皆……本当にありがとう。

私は心の中でこっそりお礼を言って、にぱー☆と笑ってみせた。







陽が沈み、辺りが段々暗くなってきた頃、私達は博麗神社へと向かっていた。
神社の境内の前には既にたくさんの人間や妖怪達が集まっていて、
皆それぞれお酒を飲みながら会話を楽しんでいた。
魔理沙は地上に降り立つと同時に
「さぁ!今日は倒れるまで呑むぜ~!」
などと叫びながらその集まりの中へ突進していき、
「うっさいのよあんたは!」
と霊夢に思いっきり殴られたりしていた。

しかし此処の住人は年齢関係なくお酒を飲むのねぇ。
まぁ私も寝る前にワインとか飲んでるし、人の事は言えないんだけれど。
あー…
『未成年の飲酒は法律で禁止されているのですよ、あぅあぅ!』
ってうるさい声が何処からか聞こえる気がするけど、私には関係ないわ。
だって、見た目は子供だけど精神的には軽く100年くらい生きてるつもりだしね。
異論は認めないわ。

…そんな事を考えているうちに、ふいに霊夢が私と羽入を両腕に抱きかかえながら立ち上がった。
うぅ、少しだけ顔が赤いような気が…もう酔っちゃってるのかしら。

「はいは~~い!注目!!
今日は久しぶりに外界からとっても可愛らしいお客様たちが来てるわよ~!?
皆、仲良くしてあげてね~!!!」

その声に、皆が一斉にこちらを振り返った。うぅ…恥ずかしいったらないわよ…

「なっ!?ちょっと霊夢…
そんな事言って、もし妖怪に狙われたりしたら…」

そう言って顔を上げ霊夢に抗議しようとした瞬間、下半身に違和感を感じた。
赤い髪に大鎌みたいな武器を持った女の人が、私の腰まわりに抱き付き頬を擦り寄せていた。
ああ…完全に酔っ払ってるわね、こいつ。


「あ、あの…」

てゆーかその無駄に大きな胸が当たってんのよ、胸が。
私はその2つの大きな膨らみと、歳の割に貧相な自分の胸とを見比べて…
あぁ、なんか腹が立ってきた。
私だってもう少しすればあれくらいに……なれるはずだもん。きっと。

「あははははぁ~。本当だぁ。あんた達可愛いねぇ!
どうだい、今夜はあたい達と一緒に飲み明かさないかい?」

そう言いつつ私の腕はグイグイと彼女に引っ張られていく。

「えーっと…私はお酒好きだし全然良いんだけど、この子が…」

…後ろを振り返ってみたら、既に羽入はいなかった。

あいつ、お酒苦手なくせに…もう。何処に行ったのかしら?
辺りを見回してみると、今朝神社で絡まれていた飲んべえの妖怪に、またお酒の
相手をさせられていた。



……羽入、せいぜい頑張りなさい。
貴女の事は決して忘れないわ―





宴会が始まってから数時間後。
夜も更けていき時計の短針がそろそろ真上を指そうかという頃になったが、辺り
一面はまだワイワイガヤガヤと騒々しかった。
萃香にずっと酒の相手をさせられていた羽入は、30分もしないうちにすっかり寝込んでしまった。
全く……何処が神様なのか疑わしくなるわね。
本当、情けないったらありゃしないわ。

神社の境内前では、もうすっかり酔っ払ってしまったであろう魔理沙が
「幻想郷で一番はこの私!そうだよなぁぁアリスぅ~!?」
と他の人妖に喧嘩を売る物だから、弾幕勝負に発展。
もちろん対戦相手も負けてはいない。
人形を周囲にたくさんはべらせて魔理沙が放つ星型の弾幕を避けながら、
「あんたにだけは負けるもんかぁぁ!!!」
などとすごい形相で魔理沙に光の弾を飛ばしている。
私はその様子を霊夢の家の柱にもたれかかりつつ眺め、
(あぁ、やっぱり魔理沙が放つあの星達は綺麗だなぁ。)
なんて思いながらワインを嗜んでいた。

しばらくして、私の隣りに霊夢がドカッと勢いよく座った。
表情を見る限りかなり疲れている様子だった。おそらく他の妖怪に振り回されていたんだろう…
ちょっぴり同情してしまう。

「全く…あいつらは本当どうしようもないわね…」

「みぃ、喧嘩するのはとっても仲が良い証拠なのですよ?」

そう言ってにぱー☆と笑ってみせる。
いつもの私ならこういう時は主にからかい目的で発言したりするのだが、
今日はとても気分が良い為か自然と笑顔になる事が出来た。
私は大きく深呼吸して、胸一杯に澄んだ空気を吸い込む。
うん、やはりとても気持ちが良い。

「霊夢…」

「ん、どうしたの?」
「幻想郷は本当に、良い所ですね。人と妖怪とが共存しあって。
それでいて皆すごく優しくて、温かくて…」

私のその言葉に霊夢は少し驚いたのか、目を丸くさせていた。

「あんた、本当変わってるわよね。
私よりずっと小さいのに、既になんか色々と悟ってるみたいだし。
普通の人間ならもっと妖怪とか怖がるはずなんだけどなぁ~。」

霊夢は頭をポリポリと掻きながらそう呟いた。
…あ。
そういえばまだ霊夢には何も話してなかったわね…雛見沢の事。
彼女も私と同じく神社の巫女だし、話せば色々と相談に乗ってくれるだろうか。

「あ、あのですね。れい…」
「…あんたさ。そろそろ、元の世界に帰らなくちゃいけないんじゃないの?」

話しかけようとした途中で、霊夢に遮られた。
彼女はそのまま話を続ける。


「さっき……魔理沙やパチュリー達と飲んでる時に聞いちゃったの。
梨花が、元の世界で色々と大変だったんだって。
私は生まれた時から此処に住んでるし、外の事はよくわからないから力になって
あげる事も出来ないんだけど……
ただ、あんたの気が紛れるなら好きなだけ此処にいても良いと思うわ。
だけどね、梨花?
それは単に甘えてるだけなのよ。
あんたは雛見沢に大切な仲間達を置いてきているんでしょ?
こうしてる間にも、危険に晒されているのかもしれないんでしょ?
なら、あんたはこんな所で油を売っていてはいけない。
在るべき場所で、成すべき事をきちんと成さねばいけないと思うわ。」

…厳しいようだけど、それは正論だった。 踏み出さない内から自分の殻に
こもっているのは臆病になって、ただ甘えているだけ…
そうだ。私はまだ運命と戦おうとすらしていないのだ。
そう思うと、急に自分が情けなくなってきて…涙が溢れてくる。
今まで人前でほとんど涙を流さなかった私が、初めて人前で自然に涙を流した瞬間だった。
繰り返す輪廻の間に、私は何度も何度も…
飽きるほどたくさんの人の死を見てきた。
それは時に自分であったり仲間であったり、または自分の両親だったり―
独りぼっちになるのは悲しくて辛かったけど、私はそれでも泣かなかった。
泣いたら余計に辛くなるし、未練が残ってしまうから。
だけどそんな風に過ごしていくうちに感覚が麻痺してきたのか、私は泣けなくなってしまったのだ。
胸の奥がズキズキと痛む。
涙がぶわっと今よりもっと溢れ出しそうになるのを、歯を食いしばって必死に堪えようとする。
霊夢は、そんな私をそっと抱き締めてこう言った。

「馬鹿…チビッ子のくせに、我慢なんてするもんじゃないわよ?」

そして私の表情を伺うように優しく微笑む。
…その瞬間、私の中で張り詰めていた何かがプツンと途切れた。

「うっ…!もう……私は、誰が死んでいくのも…見たくないし……本当は…死ぬのも…
すごく、こわい………怖くてたまらないの…うぅっ、うわああぁぁぁぁああぁぁぁああん……!!!!」

後はもう壊れたビデオテープのように、ただただ弱音を吐きながら涙を流す。

「よしよし、良く言えたわね…偉いわよ。大丈夫、大丈夫だから…」

そして私が落ち着くまで、霊夢は一晩中側にいてくれた。
まるで赤子をあやすかのように。
もしかしたら、彼女は幻想郷のお母さんのような存在なのかもしれない。
ひとしきり泣いた後、私はその優しさに包まれながら…ゆっくりと眠りに落ちていった―













夜が明け、昨夜の宴会ですっかり散らかってしまった神社の前で、私達は幻想郷に別れを告げる。
魔理沙達はお酒を飲み過ぎたのか仰向けに倒れて苦しそうに唸っている。
ちゃんとお別れ出来ないのは少し残念だけど…まぁ仕方がないか。

「じゃあね、梨花。頑張って生きるのよ?」

「はい……本当にお世話になりましたです、霊夢。」


しばらくして、隙間から現れた八雲紫という妖怪が私達を雛見沢へ帰してくれる事になった。
霊夢が少し不安げな表情で、紫に事情を説明する。

「じゃあ、梨花達を頼んだわよ…紫。」

「はいは~い。それでは人間一名に神様一名、幻想郷から外の世界へご案内ね~」

私達の体が少しずつ、隙間の中へと包まれていく。

「梨花ぁ!!!」

そして今まさに足を踏み入れようとしたところで、背後から声がした。
私は咄嗟にその声に反応して、振り返る。


そこには、空を覆いつくさんとばかりの…花火…いや弾幕が。

「全く。なんであんな小娘の為に私達がこんな事を…」

「まぁまぁ、いいじゃないか妹紅。たまにはこういうのも―」



その目一杯に広がる光を見ていると、不思議と安らかで穏やかな気分になった。
そうだ、私だって…この光のように。いつかはきっと……

「大丈夫なのですか、梨花…?」

羽入が心配そうな表情でこちらを伺っている。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を見られるのが恥ずかしかったけど、もう我慢出来なかった。


「これから先…何千回何百回輪廻を繰り返し、どれだけ深い絶望の淵に落とされても…
もう決して、私は生きる事を諦めないわ!
そして必ず昭和58年の6月を越えてみせる!!……絶対に!!!!
だから皆…本当に、本ッッ当にありがとう!」

そして手がはち切れるかといわんばかりに、精一杯手を振り続ける。

…皆の姿が段々と遠くなっていく。
幻想郷が、見えなくなっていく。

しばらくして、私の意識はそこで途切れた―











※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


あれからもう1週間程経つ。
後から紫に聞いた話なのだが、あの別れの後梨花達は無事元の世界に帰る事が出来たそうだ。
あいつ達…本当に面白いヤツらだったよな。普段はニコニコしてて妹みたいに
愛くるしいけど本当はすごく悲惨な運命を辿ってる。
そして私なんかよりずっと大人びててしっかりとした考えを持っている梨花。
雛見沢村を守る神様のくせに弱々しい事しか言うことが出来ない、羽入。

少しの間しか一緒に居る事が出来なかったけど、あいつ達が幻想郷に来てから私は本当に楽しかった。
私だけじゃない、霊夢も萃香も紅魔館の皆もその他の妖怪達だって、久しぶりに
来た外の世界の人間に少なからず興味を示していただろうし、見ていて本当に楽しそうだった。
故に幻想郷はあいつ達を何の隔たりもなく受け入れたんだと思う。
けど…私はあの日宴会で思いっきり酔っ払ってしまったせいで、あいつ達とちゃんとお別れする事が出来なかったんだ。
まだ、伝えたい事だってたくさんあったのに…
それだけが今も心残りで、新しい魔法の研究に精を出そうとしても梨花達の事が心配で心配で…
私がこうしている間にも、梨花が危険に晒されているのかもしれないと思うと気が気じゃなかった。

「えぇい!ウジウジするなんて私らしくねぇぜ!
紫に頼んで、こっちから梨花達に会いに行けば良いんだ!」

私は箒を引っ掴むとそのまま玄関へと急ぐ。
すると目の前の空間が歪んで、そこから手が伸びてきて―

「あらあら…呼んだかしら、魔理沙?」

「ちょ…!頼むから玄関から入ってきてくれよ紫!!
まぁ私は今からお前を探しにいこうとしていた所なんだが…」

という事で、私は紫に説得を開始した。

「紫…あいつは、私の大事な友達なんだ。
外の世界の人間に会わせてもらおうだなんて自分勝手だし、ルール違反だと思うけど…
私は梨花にもう一度会って、ちゃんと話しがしたい。
もしまたあいつが殺されるとしても、私はその最期の瞬間まで側にいてあげたいんだ。
なぁ、お願いだよ紫…この通りだ!」

そう言って紫の前で土下座する。
勢い余って頭を床に思いっきりぶつけたけど、その痛みも気にならないほど今の私は必死だった。

「貴女が他人の為にそこまでするなんて珍しいわね。
まぁ……どうしてもって言うなら会わせてあげない事もないけど。ただ一つ、
約束してくれるかしら?」

「あ…あぁ、勿論だ。」

「…こんな事は当たり前かもしれないけど。
幻想入りしている私達が外の世界の事に干渉するのは、いけない事よ?
最悪、魔法で人を殺してしまったりすれば貴女にとって後々面倒な事になりかねないわ。
まぁ、あまりに無礼で命知らずな人間がいたら私が思わず隙間に放り込んじゃうかもしれないけど~」

「はは、そりゃ笑えない冗談だぜ…」

こうして私達は、梨花達の住む雛見沢村へと飛んだ。




次に目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。
目の前には大きな鳥居らしき物があり、その先には神社があった。
「へぇ…パッと見は博麗神社と大して変わらないんだなぁ。」

「けど、こちらの神社の方がマメに掃除してあるみたいだわ。
…霊夢にも見習わせてあげなくちゃね。」

紫はくすくすと笑う。

鳥居をくぐり境内から神社の方へと歩いていくと、奥の方から何やら人の話し声がする。
私は近くにあった木の影に身を潜めつつ、その様子を伺う。

「……そんなに私を殺したいなら、眠らさずに殺しなさい。
あんたのその醜悪な顔を、この目に焼き付けてあげるわ。」
賽銭箱の後ろに仰向けになった梨花がいる。その上に女が馬乗りになり、今にも
ナイフを振りかざそうとしていた。

「ちッ…少しばかり来るのが遅かったか…!」
思わず女に弾幕を放とうとして、先程の紫の言葉が頭をよぎる。
くそ…助けるべきか…どうする!?

「すまん…紫。」

「ちょっと魔理沙!待ちなさい…!?」

…答えを出すまでもなく私は箒に乗り、思いっきり加速をつけてそのまま女に体当たりした。
そして女が壁にぶつかった隙に梨花を抱きかかえ、神社の裏にある雑木林へと飛び込んだ。

「ま、魔理沙!?なんでこんな所に……」

「いや~…あっはっは。
友達を助けるのも、魔法使いの仕事だぜ?」

そう言って帽子を被り直しつつ、軽くウインクをしてみせる。
…我ながらキザな仕草だ。

「全く…貴女もなかなかの大馬鹿者ね?
まぁ麻酔ナシで死のうとした私だって、人の事言えないけれど。」

顔を見合わせて2人同時に吹き出した。

「とにかく、此処から早く逃げて―」


パァン。
その時、背後で何かが弾けるような音がした。
私は反射的に後ろを振り返ろうとして…

「魔理沙ッッ……危ない!!!!!」

梨花が、私の視界を隠すように背中に覆いかぶさってくる。

「え………?」




一瞬、時の流れが止まったように感じた。


気がついたら、私に覆いかぶさっていた梨花がばたりと崩れ落ちて………


「あら、どっかの邪魔者に当たったと思ったら、梨花ちゃんに当たっちゃったの?
本当に残念だわぁ…せっかく綿流しの儀式と同じように、オヤシロ様の巫女の
“ワタ流し”が見れると思ったのに、傷が付いちゃったじゃない…くすくすくす!
なんならそっちのお嬢ちゃんも一緒に、どうかしら?
お腹を切開してその奥から臓器を少しずつ引き摺り出していくの。
今までに体験した事のない不思議な感覚が味わえるわよぉ?
もっとも、普通の人間ならお腹を引き裂かれる痛みでショック死しちゃうんでしょうけどね。
そういえば梨花ちゃんは麻酔ナシを希望してたから、試したら一瞬であの世逝きだったかしら。
貴女も見たいと思わない?彼女が喘ぎ苦しむ所。くすくすくす…あーっはっはっは!!」


「狂ってるぜ、お前…」

「うるさいのよこの愚図が。
私はこれからこいつを殺し、雛見沢を自分の手で潰すのよ。
そして私が、この地の神様となり…全てを手に入れるの。わかる?
だから邪魔者は…
さ っ さ と 消 え な さ い !!!」

そう喚きながら、再び銃を構える。

私の頭に血が登って、沸騰しそうになる。
体の奥底から怒りが湧いてくるのがわかる。同じ人間だとは思いたくないくらい、気分が悪い…
吐き気がする程だ。

「ごめん、紫。
やっぱり私こいつの事…許せそうにないぜ。」

そして八卦炉を構えた時…

「魔理沙、こんな人間は殺す価値もないわ。私に任せておきなさい。」

「紫…」

殺す価値もない、という言葉にその女は大きく顔を歪めた。

「くっ…貴女も死にたいの!?
良いわ、先にあの世に送ってあげる!!!」

「貴女…何のつもりでこんな事をやっているのか知らないけれど、少々オイタが過ぎるわ。
死にたくないのなら今すぐ此処から失せなさい。」

「な…バカにするんじゃないわよ!?」

パァン!
女は引き金をひいた。が、紫は弾丸を手で受け止め…そのままぐしゃっと握り潰した。

「だいたい貴女、神になるですって?貴女なんかせいぜい頑張っても、そうね…
妖怪以下よ妖怪以下。
貴女ごときの人間が神になんて、千回生まれ変わってもなれやしないわ。」

「くっ…この化け物めぇぇぇ!!!」


その言葉に紫は少しだけ顔を歪め、

「だから…今すぐ失せろと言わなかったかしら?身の程を知りなさい。

この…人 間 風 情 が!!!」

そう紫が言い放ち辺り一面が光に包まれたかと思うと、女が数100m先の壁まで
吹き飛ばされて気を失っていた。


「紫があんなにキレた所、初めて見たぜ…」

「まぁ手加減はしたけど。少々やり過ぎたかしらね…」










女を追い払ってから梨花の元へすぐに駆け付けたが、既にもう手遅れだった―

「げふっ…ごほっ…!ごめんなさいね魔理沙、紫。
最後まで手をかけさせて…」

お腹に受けた弾丸が思ったより深かったせいか出血が酷く、目の焦点も上手く
定まらないようで、呼吸も弱々しいかった。
その様子を見るだけで、梨花がもう永くない事は明白だった。
思わず涙が溢れてくる…
梨花の隣では、羽入が正座したまま静かに涙を流している。

「そんな……私達は、友達だろう?
そんな水くさい事…言わなくて良いぜ?それより、紫。早くこいつを永遠亭に…
永琳なら、この傷も治せるかもしれ―」

言いかけた所で、梨花に止められた。

「良いの、私はこのままで…
どうせ殺される運命だったんだし…また、次の世界で頑張れば良いわ…」

梨花は苦痛に歪むその顔を必死で隠して、無理矢理にでも笑ってみせる。いつものように。

なんでこの子はこんなに…
自分が一番辛いはずなのにそれを隠して笑う事が出来るんだ?
私がもし梨花のように、何度も輪廻を繰り返す運命を辿っていたとしたら…
いつまでもこんな風に笑っていられるだろうか?
…いや、多分無理だ。
普通の人間ならば、これだけ繰り返す前に精神が崩壊してると思う。
ましてや他人の事なんて気遣ってやれる余裕なんて、無い―

「う…梨花ぁ、お前はなんでそんなに…う、うわぁぁぁ…」

私より一回り以上も小さいこんな体で、数々の苦痛を耐え抜いてきたんだと思うとやるせなくて…
何より、魔法使いである自分が友達の一人も救ってやれない事が情けなくて…
悔しくて、胸が痛くて涙が止まらない。

「ま…りさ、も…ねぇ笑って…?
ほら、私がいつもやってるように…にぱー☆って…ね…?」

そう言って梨花がやっていたように、私もにぱー☆と笑ってみせた。
涙で既にぐしゃぐしゃの顔を、もっとぐしゃぐしゃにして。

「ふふ…やっぱり貴女は、笑ってる方が良いわね…
そのほうが、可愛いし…似合ってるわよ……」




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


もう撃たれてから数分経っただろうか。
そろそろ体中の感覚が麻痺してきた。
血液が足りなくなってきたのか、視界もぼやけてきたようだ。

寒い。
痛い。

けど、羽入に魔理沙や紫が側にいてくれるから…ううん。
幻想郷で出会った皆との思い出が、私の心の中にある。
だから全然寂しくなかったし、死ぬのも怖くなかった。

「ありがとね…みんな。私…こんなに穏やかで幸福な気分のまま死ねるのって…
本当に、初めてかもしれない…雛見沢にいるだけじゃきっと……こうはいかなかったわ…」

あぁ、もうそろそろ目が見えなくなってきた。それなら、最期にせめて……

「ねぇ、まり…さ…一つだけ…お願いしても良いかしら?」

「ん、なんだ?」

そう言って二カッと笑ってみせる―

ああ、初めて会った時に見せてくれた笑顔と同じだわ…

「もし…私がいつか……昭和58年の6月を生き延びる事が出来たら……また、
幻想郷に遊びに行っても良いかしら…
夏休みに、わたしの…仲間も連れて…一緒に…」

「あぁ…良いぜ……。大丈夫だよな、紫…?」
紫は、ゆっくりと。
でも確実に―頷いてくれた。

「そうねぇ…今度会った時はたっぷりの弾幕でお迎えしてあげようかしら?」

「ありがとうございますです、紫―――」

あぁ、これでもう、私は…






「梨花…」


その声に、私はもうほとんどぼやけて見えなくなってしまった目を、一瞬だけ開ける。

「これが私から…お前に送る、プレゼントだッッ!!!!」

魔理沙はそう叫ぶと、空高くまで急上昇して…
私が大好きな、あの星の弾幕をたくさん降らせてくれた。

彼女が作るそれは、眩しくて純粋でとても綺麗で…
いつか仲間達にも、見せてあげたいなぁと思った。





「ふふ…なんでかしら…ね…今更だけどやっぱり私―

死にたくない…かも……」


そうぼやきながら一筋だけ涙を零すと、
そのまま私の意識は遠くなっていった。





































魔理沙…今度会った時は今よりもっとたくさんの、綺麗な星を見せて。
そしたらお礼に、私の誇るべき最強の仲間達を紹介してあげる。
そして…幻想郷の皆に、部活勝負でもフッかけようかしら。
きっと楽しいに違いないわ。
そうそう、言い忘れたんだけど。
私の神社の裏にね…この村が一望できる秘密の場所があるの。
貴女は雛見沢の事、物騒な村だって言ってたけれど、
あの景色は……一度見たらきっと忘れないと思うわ。
本当に美しいんだから。


いつか絶対、魔理沙にも…幻想郷のみんなにも見せてあげたい。
その日が来るまで、私は絶対に諦めないから。
だから、待っててね…?


貴女のおかげで私は、仲間の大切さを知った。
幾多の困難にも負けない、勇気をもらった。
そして…生きる事の素晴らしさを知ることが出来た。


ありがとう…本当に、ありがとう。





皆………大好き。















手を伸ばしたまま息絶えてしまった少女の顔を見下ろして、
魔理沙は静かに涙を流す。

「紫…なんで人は、死ぬんだろうな。」

魔理沙はそのあまりにも儚い少女の一生を
自らの手で引き延ばせてやれなかった事に、ひどく絶望していた。

「さぁね。死ぬのは妖怪も同じだけどね。
けどこの子は…他のどの人間よりも、精一杯生きていたと思うわ。
これからは今まで以上、さらにしぶとく生き続けるんでしょうね…私たちに会う為に。」


その言葉を聞いた魔理沙は、溢れる涙を拭いつつニヤリと笑う。

「梨花…もしかしたらお前も私や霊夢と同じように、
普通の人間とは言い難い存在……なのかもしれないぜ?」


そう、何度も何度も。
輝ける日々を手にいれるまで、彼女は飽きるほどに生と死を繰り返す。
それは時に数百年の年月を要するのだろう。

故に彼女は魔女なのかもしれない。

















・Another day・


どんがらがっしゃーん!
人里で買い物をした帰りに飛んでいると、霊夢の神社の方から何やらものすごい音がした…
と同時に悲鳴が聞こえてきた。

「きゃぁぁぁ~!
な、なな何なのよこいつらは~~~!
腋をくすぐるのはやめっ!…誰か…助け……(コテン)」

「へっへっへ!
幻想郷だかなんだか知らないけど、俺達からすればただの公園みたいなもんだな。」

「はぅ!紅白の巫女さん可愛いよう!おっ持ち帰りぃ~!!」


はぁ…また、厄介なヤツらが幻想郷に来やがったぜ。
まぁ、ここはとりあえず…
挨拶がてらに一発、かましておくか。


「お前達!幻想郷を制覇出来ると思ったら、大間違いだぜ!!
マスタースパァァーック!!!!」


「「「「ぎゃあああああああ~!!!」」」」


そして私は神社の境内に降り立つと、こう言った。


「雛見沢の皆さん、ようこそ幻想郷へ!

そんでもって梨花…おかえり!!」

※※※※※※※※※※※※※※※※※※

まず始めに。
ここまでダラダラと長い物を読んでくださって、本当にありがとうございます。
正直やり過ぎました…orz
気分を害された方、本当に申し訳ありません。
精進します。

それでは感想お待ちしております。

茶祖
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コメント



0.130簡易評価
1.60名前が無い程度の能力削除
純粋にとても、楽しませていただきました。

ひぐらしは内容まではよく知りませんが、かなり猟奇的な部分が強いらしいですね。

途中までのほのぼのとした部分は、東方プロジェクトっぽくってよかったと思います。

これからもがんばってください。
2.-10名前が無い程度の能力削除
なんというか・・・ここにアップするほどのものではないような・・・

ここ最近、質の低い作品が多く上げられているためかもしれませんが、この作品を「良い」と評価することはできません。
ごめんなさい。
4.無評価名前が無い程度の能力削除
本来は東方にも殺伐分がけっこうあるので、ジャンルとしてはまぜることも可能な作品ではあると思うのですが・・・
5.-10名前が無い程度の能力削除
ひぐらしはまったく知らないのですが、東方側のキャラの振る舞いがとても不自然に思えました。
この違和感はひぐらしを知っていれば納得いくものなのでしょうか?
6.無評価名前が無い程度の能力削除
うーん、読んでて疲れました……。
とにかくまず長すぎるというか冗長の一言に尽きると思います(汗
一通り書き終わってから、改めて読み直して
要らないと思う文章を省いていけばこんな事にはならないと思います。
頑張ってください。
10.70名前が無い程度の能力削除
私はひぐらしも東方も良く知っているので結構楽しめました。
ただやはり、ひぐらしを知らない人やクロスオーバーが好きではない人にとっては評価しづらいお話なんでしょうねぇ……。
とりあえず、面白かったです。
新しいお話を書いたらまた読ませてくださいね。
12.80名前が無い程度の能力削除
正直面白かったです。
東方のキャラがちょっと微妙な感じはしますが、
作者さんによってある程度性格は変わるので、これはこれで有りかなと思いました。
今後も期待させて頂きます。
15.50幽霊が見える程度の能力削除
良かったけど、ここにうpするもんじゃないね。
文章自体はよかったから、またつぎかんばって!!
18.-10名前が無い程度の能力削除
やりすぎたっていうかやりすぎて無いんでは無いでしょうか?…っていうか何もやってないかと。
これは東方の世界にひぐらしが紛れ込んだらのifの話を書いているのだと思いますが、ひぐらし関連のSS置き場に投稿されるべき作品だと思います。
正直、ひぐらしは皆知ってるだろうとか思って書いてるんじゃないかと疑りたくなりました。だって、このお話ひぐらしを知らなかったらぜんぜん楽しめないでしょうに。
皆が楽しめるように工夫してこそ、物書きだと思います。物書きになれますように頑張ってください。

クロスオーバーも好きだしひぐらしも好きですが、両方の世界観を活かした上でどちらの世界観も利用しなくてはクロスオーバーである必要はなくなると私は思います。
そう考えると、この作品はクロスオーバーである必要が無い小説だといえると思います。個人的に。好きだから混ぜたい、ではなく好きだからどっちの世界も大切にして欲しいと思います。
19.80K-999削除
前編の点数がえらい少ないと思って見てみれば、おおっと不意打ち。面白いではありませんか。

でもま、クロスに厳しい土地柄ですし、元ネタをラストあたりまで知らないと厳しいのも減点材料?



私は好きです。
22.70名前が無い程度の能力削除
今コメントしても、もう作者様は見てないのかも知れませんが。

点数は低いのですが、私は面白いと思えました。確かに冗長な部分はありましたが。それでも楽しめました。

ただ、ひぐらしが完全に主なんですよね。東方要素は完全におまけに見えます。
私はひぐらしもプレイ済みですので楽しく読めましたが、東方創想話となると辛い評価になるのはやむをえないのでしょう。