※この話は『よなかのさんじに』でのクイズ(?)のアンサー&後日談になります。ちょっとだけ甘めです。
風が吹いている。
ひどく冷たい。
私は虫だから特に寒さには弱いんだ。
「あら、そこの虫の子さん」
声に気づいて振り向くとそこには、傘を差した緑の髪の人が立っていた。
風見 幽香、この人と私は割と仲のいいはずなんだけど……。
「どうしたの。そんな浮かない顔して」
そう言いながら幽香さんは、ふわりと跳んで私の所にやってくる。
「いや、なんでもないですよ……」
「嘘仰い。そんな表情で言われても説得力が無いわよ」
この人には本当に隠し事が出来ない。何でもお見通しのようだ。
「あの幽香さん……ちょっとたずねてもいいですか?」
「何かしら?」
「この間の事覚えてないんですか?」
この間の事とは居酒屋泥酔事件の事だ。
ぐでんぐでんに酔っ払った幽香さんがミスティアに襲い掛かろうとした事。
そして、それを止めに入った私は……。
『虫の分際で私の邪魔するって言うわけ?』
……と、罵声を浴びせられただけでなく一撃で倒されてしまった。
いくら酔っていたとは言え、あんな言葉浴びせられたうえに、一蹴されてしまったら流石にへこむ。
しかも、起きたら誰もいないし……。そりゃ確かに私はしがない虫の子だけど、1ボスの中でも、地味で目立たない方だけどさ……。
「……いや、覚えてなければ別にいいんですけど……」
「涙」
「へ……?」
「涙でてるわよ」
指摘されて初めて気づいた。
いつのまに私は泣いてたんだろう。
「ほら、これで拭きなさい」
そう言って幽香さんは私にハンカチを差し出してくれた。
「あ、すいません」
私はそのハンカチで涙をぬぐう。
ハンカチからは、ほわんとすごくいい香りがした。
「これ、いい匂いしますね」
「少しは落ち着いたかしら?」
「へ?」
「ラベンダーの香りよ。心を落ち着かせる効果があるの」
「……そうなんですか」
「……ねえ、あなたが言いたいのは屋台での件の事じゃない……?」
「あ、覚えていたんですか……」
「うん、断片的にだけど、少なくとも、あなたが私を止めに入ったのは、きちんと覚えているわ」
「……そうですか……」
「……本当、ごめんなさいね。酔っていたとはいえ、あなたにあんな酷いことしちゃって……」
「いや、いいんですよ……もう、済んだ事ですし」
正直、ラベンダーの香りよりも、幽香さんのその言葉の方が、私の心を落ち着かせてくれたような気がする。
私はかねてから疑問に思っていたことを尋ねてみる事にした。どうしてあの時、居酒屋にいたのかという事。そんな私の問いに対し、幽香さんは少しはにかみながら答えてくれた。
「……私だって、少しくらいは酔いたい時があるわよ」
更に続ける。
「……でもね、いつもはもっと穏やかに酔えるはずなのよ。あの時は何故か、酔いが回るのが異様に早かったのよね……」
そこまで言うと幽香さんは黙ってしまった。
あの時の事を思い出してへこんでしまったのだろうか。表情が少し曇っているようにも見えた。
だめだ。このままじゃ場の空気が重くなってしまう。
ええと、こういう時はどう言葉かけてあげればいいんだろう……。
「あの~……幽香さん」
「……ん?」
「その、大丈夫ですよ! みんな気にしてませんよ。誰だってハメを外したい時だってありますし、妖怪たちが暴れるなんていつもの事ですし、それに何て言うか……普段の物静かな幽香さんもいいけど、酔った時の幽香さんもそれはそれで魅力的……って何言ってんだ私は……!? いや、ええとその、あのー……つまりこれは……」
「ふふっ……ありがとう」
うろたえる私に、幽香さんは、くすりと笑顔を浮かべてそう言ってくれた。
うーん、ここはもっと気の利いた台詞で決めるはずだったけど、ま、これはこれでいいか。
ともかく、こうして幽香さんと仲直り(?)出来たわけだ。
ふと、ふわりと暖かい風が身を包みこんだ。
どうやら春はもう、すぐそこまで来ているみたいだ。
今年の春はいつもと少し違う、そんな春になりそうな気がする。
温かくて良かったです♪ ニヤニヤが止まりませんw
答えが分かって納得しました。
「よなかのさんじに」を読んですぐ来ました。
うん、やっぱり読みは合ってた。それにしても、ゆうかりんが酔いたい時ってどんなときだろ?
紫様、人間と妖怪の境界をいじってください!そうすれば幽香にあれやこれや(スキマ送り