Coolier - 新生・東方創想話

嫉妬が嫉妬を呼ぶバレンタインチョコレート

2008/02/24 21:57:30
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 塵も積もれば山となる。雪もそれと同じ原理になって空を白く
染めるのだろう。
 雪山も同じような原理だ。
 それはともかくとして、今日の紅魔館は珍しく冬景色に包まれ
ていた。

「ヘクチッ」

 その館の外で彼女――紅美鈴も冬景色の一つになっていたのは、
門番という大事な役目を負っているからである。
 雪が降り始めたからといってサボっていいわけではない。

「うー、寒いよー……!」

 ガチガチと歯を鳴らしながらも、門の前で佇む彼女。一見不憫
に見えなくもないが、可哀想な目に遭うのがとことん似合う彼女
だ。絵的には全く問題なかった。
 時折、館の中へと視線を覗き込ませているが、恐らく今の彼女
の瞼には暖炉を囲う当主やそのメイド達が浮かんでいるのだろう。
 となると、美鈴が今思うことといえば一つくらいなものか。そ
れを加味すると、美鈴はさながら助けを請う犬といったところ
だった。

「あっ……!」

 しょぼくれていた美鈴が急に声を張る。
 その先には上着を重ねに重ねたメイドがいた。

「咲夜さんっ」
「ご苦労様。どう? 上着の方は」

 口をあんぐりと開けている美鈴に対し、咲夜は眉一つ動かさない。
 正に対照的な二人だった。

「暖かいですよ。これがなかったと思うと……」
「その割には寒いとか聞こえたけど?」
「うぐっ」

 聞こえていなかったと思っていたのだろう。美鈴は気まずそう
に首を引っ込めた。
 その様子を見て、咲夜はため息をつきながらも口元を綻ばせる。

「まあ、寒さを和らげるくらいにはなってるみたいだから、良し
とするわ」
「……あ、ありがとうございます」

 上着の襟にほんのり紅潮した頬を埋めて、美鈴が頭を下げる。
珍しい飴に少し戸惑いながらも、美鈴はありがたく受け取ってお
くことにした。

「それにしても、それだけのために……?」

 ただそれだけの用で咲夜は来たのだろうか?
 などと失礼極まりないことを思ったわけではないが、咲夜にそ
う思わせてしまった美鈴は、やはりどこまでいっても美鈴だった。

「違うわよ、全く……」
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」

 眉を八の字にし、咲夜が大きく息を放つ。それに対しての美鈴
の怖がりようが異様な理由は、言うまでもない。
 だが、咲夜の視線の先を辿ると、その怖がりも驚きへと変わった。

「へ? いつぞやの魔法使いさん?」
「ぐ……。人の名前くらい覚えてやがれ、中国」

 人のことなど言えないというのに堂々と言ってのけるのは、
黒白の魔法使い――霧雨魔理沙だった。
 しかし、この雪の中をいつもの服装で来たらしい。気怠げな顔
で歯を鳴らしていた。
 魔理沙が大きな帽子を深く被り直し、咲夜を覗き込む。

「よぉ、どうした? いつもは見ない顔じゃねぇか」
「えぇ、いつもはね」

 ひくついた笑顔。その子供が泣き出しそうなスマイルのまま、
咲夜は愚痴を吐き始める。

「あなたが来る度に妹様が外に出せって暴れるから、館が揺れる
わ、軋むわ、この前は宥めるために何時間と時を浪費したわ……」
「ん? 別にいいじゃねぇか。自由にさせてやれば」

 咲夜の苦言がつらつらと続くところに、魔理沙の無神経極まり
ない言葉が挟まる。

 ――その瞬間、時が止まった。


「……おっ?」

 気が付けば、咲夜は少し小さく見えるまで移動していた。

「行くわよ。一応は客人だから通すわ」

 肩を怒らせて、メイド長は紅魔館へと戻って行く。
 それに付いて行く客人である魔法使い。

 そして取り残されたのは――。


「……さ、咲夜ひゃん?」

 血の花を百花繚乱させた、到底門番として働けない状態になった
中国娘だった。





 自身が小さく思えてくるほどに伸びた廊下。そして同様に敷か
れた絨毯。たかだか通路というのに、それだけでここが吸血鬼の
住まう館――紅魔館だと思わせられる。
 その造りも飽きるほど見てきたであろうに、魔理沙は黒い帽子
を忙しなくあっちやこっちやと向けていた。

「そういえば、客人として来たのは初めてだったなぁ。何か新鮮
な気分だぜ」
「そりゃいつも忍び足立てて入ってくるんだから当たり前でしょう」

 遠足気分でステップを弾ませている魔理沙とは逆に、咲夜は酷
く不機嫌そうに鼻を鳴らした。
 しかし、その態度とは逆にメイド長としての姿勢は大したものだ。
客人を先導する咲夜の背筋は滑らかに伸びていた。
 そんな咲夜の後姿に、魔理沙はさして感慨も抱かず付いて行く。
 だが、魔理沙は急に首を捻り始めた。

「ん? あれ?」
「……何よ?」

 一人ぶつぶつと呟き出した魔理沙に、咲夜が変な物を見るよう
な目で振り向く。

「いや、何で私が来るって分かったんだ? 誰にも連絡なんて入
れてないのに……」

 魔理沙の声が暗い廊下に響く。
 確かに紅魔館に来ることを連絡したわけでもないのに、咲夜は
魔理沙を出迎えた。まるで訪ねてくることを事前に知っていたか
のように、咲夜は門のところまで出てきたのだ。
 一体なぜなのか?
 コツコツ、と二人の足音がしばらく続く。
 すると、急に咲夜の肩が大きく下がった。

「はぁ……。全く、私を何だと思ってるの? 侵入者の気配くら
い分かるわ。ただ、今まで忍び込んできたのを容認してただけよ」

 咲夜の思いも寄らぬ回答に、魔理沙が口の端をひくつかせる。
 本当に同じ人間か、と突っ込みの言葉が出そうになったが、呑
み込んでおくことにした。何せ後が恐い。

「は、ははっ……恐れ入るぜ」
「……? まあ、いいわ。とりあえずパチュリー様があなたと話
がしたいそうよ。だから客人として……」
「は? ちょ、ちょっと待て。話……? 何だ、そりゃ? 聞い
てねぇぞ」
「さぁ? 毎度毎度の窃盗行為に耐えかねて、説教でもするん
じゃないの?」

 興味がない、と咲夜が手を振る。
 毛ほども客人扱いされていないことを、今更に魔理沙は悟った。
 とはいえ、咲夜が無愛想なのはいつものことだ。一々リアクション
を取ったり、話を弾ませる咲夜など想像すらできない。むしろ、
想像するのは禁忌を破るに値するだろう。

「ま、パチュリー様から直接聞いて頂戴」
「ん、んー……とりあえず了解だぜ」

 バツが悪い顔をして、魔理沙は頭を掻く。
 パチュリーが魔理沙より常識人なのは確かだが、何も企んでい
ないとも限らない。彼女とて魔女である。
 コンコン、と二回のノックが鳴る。
 あの広い図書館にいる人間が、この音を拾えているのか激しく
疑問だったが、数秒と待たずして扉が開いた。

「あ、お待ちしておりました」

 二人を出迎えたのは、パチュリーの使い魔である小悪魔だった。
 頭から生えた黒い翼――いや、耳だろうか。それが忙しなく動
いている。表情もそうだが、どうやらご機嫌らしい。

「それで……パチュリー様は?」
「今はお茶を入れて休憩なさってます。お話もしやすいことで
しょう」

 二人を招き入れる小悪魔は非常に浮かれているようだった。普
段の礼儀正しさは守られているが、大人しいイメージは消えていた。
 その違いに、また魔理沙が微妙な表情を浮かべる。
 どうも自分の知らないところで良からぬ企みがあることに察し
つつあるらしい。
 結局、身の危険を感じながらも、魔理沙はヴワル魔法図書館へ
と足を踏み入れることにした。





 暖炉の中で薪が小気味良い音を奏でていた。まるで張り詰めた
空間とでも言うべきだろうか。ギリギリにまで伸ばしたピアノ線
が少しの衝撃で響くように、燃え上がる炎の音は微弱ながらも強
大だった。
 この木が焼けるにおいから少し離れたところで、二つの人影が
見える。両方の影ともに暖炉の灯りで大きく伸びていた。
 だが、その影に図書館の主である魔女のシルエットは含まない。
 いるのは先ほどの二人だ。

「で、パチュリーは?」

 机の上には小悪魔が案内用に持っていた大きなカンテラと、洒
落た細工が施されたカップ。
 しかし、先ほどからカップの中身は片方ばかり減っていた。

「まぁまぁ、そんな怒らずに魔理沙さん。美容に悪いですよー?」

 と、カップに口を付ける小悪魔。
 ギラギラと眼光を飛ばす魔理沙に一切構わず、といった感じだ。
だが、その相手にもしていないという態度が逆効果になっている
のは一目瞭然である。

「パチュリーはど、こ、だ!?」

 カップがガシャンと揺れる。
 乱暴な態度に出始めた魔理沙を見て、さすがに小悪魔は慌て始
めた。

「も、もうしばらくお待ちを……! 本当にあともうちょっとで
すから!」
「……」

 どうやら思い止まったのか。
 椅子に深く座り直して、魔理沙は足を組んだ。
 呼び付けたと思えば、その張本人がいない。
 一体どう見るべきか? 小悪魔は小悪魔で元より害意がなさそ
うな顔をしているし、判断に悩む。
 メイド長は図書館の前で姿を消すし、どうにも癪だ。

「んー……」

 らしくもなく、貧乏ゆすりを始める魔理沙。どうしようもなく
イライラしているのだろう。
 その様子に小悪魔は申し訳なさそうに体を縮ませる。本当に企
みも腹の内も見えない。むしろ罪悪感が湧きそうなほどであったが、
魔理沙は小悪魔のことなど気にも止めることはなく――

「……何か話せ」
「は?」

 自分のことだけを考えていた。

「つまんねぇから、何かしゃべってくれよ。退屈でしょうがないぜ……」
「え、えっと、そうですねぇ……」

 言われた通りに小悪魔は考え始める。
 果たして自由奔放を絵に描いたような人間に、堅苦しい人間の
話が通じるだろうか。話し始めた途端、帰り支度を始めてしまい
そうだ。

「ねーのかー?」
「んー……」
「ぅおーい」
「……」
「おいってばー」
「……」

 魔理沙が呼び掛けているにも関わらず、小悪魔から全く返事が
ない。完全に自分の世界へと入っているようだ。
 話し始めるまでもなく、魔理沙は帰り支度を始めてしまった。
考えすぎた小悪魔が悪いというのも可哀想だが、ともかく本末転
倒であった。

「言っていいものか……」

 唐突に、そう小悪魔が漏らす。もちろんその言葉は魔理沙の耳
に入った。
 言っていいのか迷うとなれば、間違いなくそれは秘密事。秘密
事といえば弱みである。

「さて、お姉さんに話してみようか」
「誰がお姉さんよ」

 凄く漢らしい顔で小悪魔に迫る魔理沙だが、後ろから突っ込み
が入れられる。本の角での突っ込みだ。もちろん魔理沙は転げ回
ることとなったのは言うまでもない。
 そして、その本の持ち主こそ、
 この大図書館の主――パチュリー・ノーレッジだった。

「な、何をする……」
「それはこっちが聞きたいわよ……全く」

 パチュリーが赤らめた顔でそっぽを向く。
 主のあからさまな態度に小悪魔は肩を揺らして笑っていた。
 毎日顔を合わせていれば、今のパチュリーが何を考えているか
はすぐ分かってしまう。
 全く素直ではない主だ。

「私が何したっていうんだ!」
「何したって……ナニをしようとしてたじゃないの」
「ぷっ……。あ、魔理沙さん、ストップストップ」

 パチュリーの『ナニ』という発音に笑いながらも、小悪魔が間
に入る。
 しかし、パチュリーの脳内では、あれだけで『ナニ』に繋がる
のだから、大した嫉妬心と妄想力だ。

「パチュリー様。せっかくあれを作ったんですから。今日は仲
良く仲良く」
「あれ?」

 魔理沙の注意が小悪魔に移ると同じように、パチュリーも小悪
魔に対して首を傾げる。
 だが、瞬く間にパチュリーの顔は真っ赤に熟れた。

「あ、あれはただ妹様の退屈凌ぎにと思っただけで、決して魔
理沙になんか……。それに興味もあったのよ。知的好奇心……そ
うよ、知的好奇心なんだから……」

 そう言いつつもパチュリーは一歩二歩と後退していく。
 戦術的撤退? いいえ、ただの恥ずかしさ故の言いわけです。

「パチュリ~?」
「ッ!?」

 そして下がった先には、目を光らせ待ち構えていた魔理沙がいた。
 ついでに白い歯を光らせていたりもした。

「あれって何かね……? あれとは……?」

 得意げに魔理沙がパチュリーへ問い掛ける。
 意地が悪い例として、辞典に写真付きで載りそうな光景だ。
 人の弱みに付け込むというのは、本来卑しい行為のはずな
のに、魔理沙のこの意気揚々とした様子。だって面白いじゃん。
この一言で済みそうな魔力を秘めている。

「あ……あれはあれであって……あの……その……」
「あっれ~? あれはあれであってぇ~? 何ですか、
パチュリーさーん?」

 その魔力に小悪魔も取り込まれていた。
 弄られる主を見守るというよりは、共犯になりつつあるようだ。
気の毒に思いながらも、この状況が面白くて仕方ないのであろう。

「う、うるさいわねっ……。もう大体察し付いてるんでしょ?」
「頭の悪い私には分かんないんだZE☆」

 全く悪びれた様子もなく、魔理沙は開き直る。
 正にパチュリーにとって今日は厄日だろう。まさかこれほど
タイミング悪く魔理沙が登場するとは、思っていなかったのだから。

「魔理沙さん」

 さすがに助け舟を出すつもりになったのか。小悪魔は自分の懐
を指差した。
 しかし、魔理沙には理解出来なかったらしい。本当に頭が悪い
らしい。
 小悪魔も呆れて言葉に出してしまった。

「パチュリー様のポケットです」
「ん? ここか?」
「きゃっ! ちょ、ちょっと……!」

 遠慮もなく魔理沙はパチュリーの懐を弄り始めた。

「やっ……やめて、魔理沙……あっ……」
「ふふっ、もう覚悟を決めるんだなっ」

 乙女の純潔を奪おうとする変態に、見えないこともないこの光
景を、小悪魔はそれまでと同じように眺めていた。
 ちょっと予定とは違ってしまったけど、結果オーライといった
ところだろう。さて、パチュリー様の紅茶も用意しなければいけ
ない。あれの補充も必要だろう。
 そう色々と考えながら新しい紅茶の用意をしようと、小悪魔は
机の上を片し始める。

「あれ? 灯り?」

 しかし、新しい訪問者が現れる。暗闇に一つの火が見え始めた
のだ。
 そして、次の瞬間――

「ああああああああああああああああ!!!!!」

 と大きな声が響き渡る。

「この声……」

 辛うじて聞き覚えがある声。
 それはメイド長に足止めをお願いしたはずの者だった。

「い、妹様?!」

 緊張が走る。
 だが、そんなことはいざ知らずといった感じで、魔理沙はパ
チュリーから奪ったチョコレートを呑気に頬張っていた。
 そう、あれとは手作りチョコレートのことだったのだ。
 女性が丹精込めて作るあれである。

「せっかく私も作ったのに……」

 膨れ上がる殺気。
 それが鋭利に収縮し始め、殺意として形になったとき。

「魔理沙の――バカあああああああああああああ!!!!!!」

 紅魔館はこれまでにない地鳴りを体験することになる。
 そして大図書館が初めて改装されることにもなってしまうの
だった。





「あら、地鳴り?」

 その頃、この館の主は厨房にいた。

「フラン、またいたずらしたのね……はぁ」

 気怠げに頭を振る館の当主。
 その原因は妹にもあるわけだが、最たるは床に血を撒き散ら
して昇天しているメイド長だった。

「興味本位で作ってみるものじゃないわ……全く」

 からっぽになったティーカップにスプーンを打ちつける。
 チーン、チーンと音を鳴らしても、今日は頼もしいメイド長
が駆け付けることはなかった。


こんにちは。
そしてほとんどの方々初めまして。
廿楽(つづら)と申します。
バレンタイン用に書き始めた作品ですが、
紆余曲折がありながらも完成したので、
載せさせて頂きました。
チョコレートじゃなくて、
ただのお菓子にすれば良かったかもしれませんねぇ;
廿楽
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コメント



0.270簡易評価
3.60伊豆豆腐削除
こういうお話、大好きです。
ちょいとよく解らないポイントもありましたので、それも踏まえてこの点で。
6.40名前が無い程度の能力削除
面白いけど、説明不足かな、と。魔理沙が図書館に入った場面から次のパチェを待っている場面の間で、どれくらいの時間が流れたのか(魔理沙の苛立ち具合からすれば長いこと待ってるように見えるけれど……)とか、美鈴が何で血まみれになったのか、とか最後の場面とか。察せられる部分もありますけれど、詰まって生じる淀みが気になるところもありましたし。一行二行の説明を加えるだけで、随分と印象は変わるんじゃないかと思います。