Coolier - 新生・東方創想話

風甘~少しばかりの後日談~

2008/02/22 10:37:25
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※これは、作品集50の「風甘」の後日談です。あれで話が終わったと思う方は見ない事をお勧めします。
 なお、結の話しかここでは書いてないので、初見の方は「風甘」を先に見ることをお勧めします。





















―――仕事がはかどらない。


閻魔である四季映姫は、溜息と共に、机に置かれている書類の束から眼を離す。
「…はぁ」
何故自分の仕事がはかどらないか。
いつもなら部下である小町のサボりのせいだと、言い切れるのだが。

「…はぁ」
再び溜息を漏らす。今回は、小町が悪いとは言い切れなかった。
(いや、悪いのですけど…)

昨日、幻想郷で行われた行事に、あの鴉天狗の善行を見過ごせない自分としては、誰かに私もチョコを贈るべきだと考えた。
だが、そこで大切な人、想い人へと考え、頭に浮かんだのが部下である小町なのはどうしてだろうか。
部下だから。その一言で私はその時済ませた。そうしなければ、きっと渡せなかった。
当日、仕事の合間を利用して小町の様子を見に行ってみれば、案の定、大の字で地面に倒れていた。

私はそれに一瞬怒りを覚えるが、我慢した。別に説教をしにきたわけではなかったから。
小町は寝ているようではなかった。独り言をぼやいているようで、ただぼんやりと霧が広がる空を眺めているだけだった。
そんな小町に声をかけてみたら、食われるとでも思ったのか、飛ぶように身を起こし、私の方へと振り返る。少しばかりその反応に再びカチンと来たが、我慢した。

小町にサボっていたかと聞けば、青ざめた顔をして弁明されて、少しばかりいつも自分がしている説教がそこまで辛いのかと思ってしまった。思うだけだが、非は小町にあるのでやめるはずがない。
ともあれ、小町のサボっていた光景を見過ごす代わりに、眼を閉じて口を開けろと言ってみた。正面から渡すのは、少しばかり恥ずかしい為に。
小町はしっかり目を閉じて、口を開けてくれた。若干身体が震えていたが。

私は懐から作っておいたチョコを取り出し、小町の口へとチョコを投げこむ。
小町はそれを少しずつ咀嚼するように目を閉じながら味わっていた。
小町のそんな顔を見ながら私は告げた。今日は、大切な人や、想い人へと贈り物をする行事だと。

眼を開けた小町は未だに理解が出来ていないようだった。
私は自分の言った言葉に、恥ずかしくなって、小町の顔を直視出来なかった。
サボらないように、働くように小町に言って、赤くなる顔を小町に見られないように逃げるように自分の職場へと戻った。
そして、今がこの状況だ。

「…はぁ」
思えば思う程に、自分の取った行動で、小町がどんな風に思ったのか悩んでしまう。
小町にとって、私は怖い上司以外の何者でもないはずだ。
それは、あの青ざめた顔を見ればわかる。
なのに、私はあんな事をして、勝手に思い悩んで、自分の仕事のペースを遅らせている始末だ。

「……小町が悪いんですよ」
一人呟く。自分が勝手に悩んでいるだけなのはわかっているが、そんな風にさせた小町も小町だ。半分ぐらい悪いと思え、馬鹿。
「…はぁ」
椅子から立ち上がる。仕事がはかどらないのならいっそしない方がいい。
「…様子でも見に行きましょうか」
ずっと頭の中に浮かぶ死神に、私は今、何をしているか見に行く事にした。

大体、予想が出来ているが。










「…はぁ」
予想は出来ていたのだ。頭ではわかっていたのだ。
だが、期待を裏切らないように、今日も地面で寝ている小町に溜息を吐きたがる私の心境は間違っていないだろう。

「……」
小町の寝ている姿を見て、叩き起こそうと思ったのだが。
「…すぅ…すぴー……」
「…気持ち良さそうですね」
あまりにも気持ちよく寝ているその様に、少し微笑んでしまう。

「………もう少し」
小町のその様子を、もう少し眺めていよう。
彼女が起きれば、私は彼女の上司として怒らねばならない。
だから、もう少し、彼女が寝ている姿を見ていよう。
「…全く、いつもの私らしくありませんね」

小町の寝ている姿を見ながら、一人顔を赤くする映姫は、微笑みながら彼女をじっと見続けていた。















「…ん」
アリスは自分の顔にかかる、日の光に目を覚ましていた。
「……ここ、は?」

キョロキョロと周りを見渡してみても、自分の家ではない事がわかった。
木造の寝室は、自分が寝ている大きなベットに、机に、端に置かれているタンスぐらいだ。

「…魔理沙の家?」
アリスはこの部屋に覚えがあった。以前、魔理沙の自宅を訪れた時、一階にくつろげる場所がなかった為に、二階のこの部屋で本を読んだ覚えがある。

「でも、どうして…?」
今、私はここで寝ているのか?
昨日の事を思い出す。昨日は確か、文が教えてくれた行事とは名ばかりの博麗神社での宴会があったはずだ。
そこで確か、お酒を結構な量飲んで……。

「お、起きたか。おはようアリス」
考えているアリスに、不意に寝室の入り口の扉が開いた先から、この家の主である、魔理沙が、いつものエプロンドレスとは違う、白一色のパジャマを着て立っていた。

「お、おはよう魔理沙……」
彼女のそんな姿に、一瞬、アリスは見惚れた。
これは一体どういう事か? 何故、私はここにいるのか?

「いやー、昨日は大変だったぜ。起きる気配がなかったから背負ってここまで来たけど」
アハハと笑っている魔理沙の言葉に、アリスは思い出した。
魔理沙を追いかけていたのまでは覚えていたが、そこから視界がグルリと回って、意識が落ちた事を。

「せ、背負ってって…神社からここまで私を運んだの?」
「ああ、霊夢に神社で寝かせられないか聞いたんだけど、早苗が先に寝ちゃってたみたいでな。それならと思って私の家に連れてきたんだ」
「そ、そうなの…」

アリスは動揺が顔に出ないように、懸命に平静を装った。魔理沙の話が本当ならば、昨日、意識がなかった時に、魔理沙と一緒にここで寝たという事になる。

「ああ、そうそう」
そんなアリスの内心を知ってかしらずか。
「着ていた服さ、今乾かしてるからもうちょっと待ってくれないか?」
「…え?」

魔理沙のその言葉に、アリスは思考が飛びかけた。

今、この黒白魔女は、何て言ったのか?

「え、じゃなくて。昨日暴れまわったせいか、アリス、結構汚れてたからさ」
「…え、ええと?」

おそるおそる、アリスは自分の姿を見るために、一度視線を自分の身体に向ける。
昨日着ていた自分の服ではなく、黒一色のパジャマだった。

「でも正直驚いたぜ。服脱がしても全く起きないし、風呂場でアリスの身体を洗ってる時も起きる気配がなかったのは」
「……な」

その魔理沙の言葉に、アリスは平静を装う以前に。
「――――あ」
あまりにも自分の無様で、恥辱すぎる状況を魔理沙に見られてしまった事に、身体の力が抜けていった。
「…おい? アリス?」

ベットにぼふんと、再び倒れこんだアリスに、魔理沙は近寄る。
「おい? どうした? 大丈夫か?」
魔理沙は、顔を真っ赤にして倒れるアリスに、心配する顔を向けるが。

「……もう、生きていけない」
自分の想い人に、全部見られた事を、嬉しいと思えばいいのか、それとも恥ずかしく思えばいいのか。

どちらにしても、壊れたように顔を赤くして笑うアリスは、何処か幸せそうだった。














「…ん」
朝日が差し込んだせいか。眼が覚めた。
いつもの自分の部屋ではない景色に、妹紅は寝ぼけ眼をこするようにして、周りを確認する。

「……すぅ」
隣には、慧音が妹紅の手を握り締めて寝ていた。
「……ああ、そうか」

慧音を見て思い出す。昨日、彼女に言われた事を。
慧音と共に帰ってきた後はずっと一緒に、夜空を見ながらお酒を飲んでいた。
空は最近ずっと快晴のせいか、雲一つない、星と月が輝く空だった事を覚えている。
慧音は思いのほか酔い方が酷かった。彼女にとって、昨日の事は必死であったのだろう。
反動でお酒をがぶがぶ飲んだのもわかる気がする。

そんな慧音を自室へと運んでやり、寝苦しいだろうと思って服を脱がして、敷いた布団に寝かせた。
だが、慧音は妹紅の手を離そうとはしなかった。
まるで、妹紅が何処かにいってしまうのを止めるかのように。
仕方なく、妹紅は慧音の布団へと入り込んで、一緒に寝た。

「…慧音」
妹紅は寝ている慧音の寝顔を見ながら、名前を呼ぶ。
「…すぅ」
慧音は幸せそうに寝ていた。一体どんな夢を見ている事か。
「………」

そんな慧音を起こすのは悪いと思ったのか。
妹紅は再び慧音が眠る布団へと入り込んで、慧音を抱きしめながら目を閉じる。
起きた時、何と言われるかわからないが、仕方がない。

慧音の寝ている姿を見て、このまま手放して起きてしまうのは惜しいと思ったから。














「はい、永琳」
永遠亭にて、輝夜は永琳一日遅れのチョコを渡していた。
「ありがとう、輝夜」

寒い冬空の中、昨日輝夜を待っていた永琳は、輝夜にチョコを渡したはいいが、輝夜が自分にチョコを作っていなかった事にがっかりしていた。
そんな永琳の様を見てか、一日遅れでいいならチョコを渡すという話を言われ、昼頃に完成した輝夜のチョコを、今受け取っていた。
早速包装された紙を破り、輝夜が作ったチョコを頬張る。

「おいしいかしら?」
「ええ、とても」

永琳はにこりと微笑みながらチョコを頬張っていく。
「そう。それなら作ったかいがあるわ」
そんな永琳の様子を見て、輝夜も同じように微笑んだ。

昨日の慌てふためいていた永琳の姿はここにはない。
だが、輝夜はそれでいいと思った。悠久の時を生きた自分にとって、新鮮な物は、いつまでも新鮮なままであってほしい。
永琳のまだ見た事がない様子があると思うと、それはそれで、見た時が楽しそうだ。
「ふふ…」

横で自分が作ったチョコを食べる永琳の姿を見て、そんな風に思う輝夜であった。












「号外~!」
「号外~!」
共に飛ぶように幻想郷の空を駆ける二人。
新聞の為に共に駆けた事等一度もなかった二人が、今、最後になるかもしれない文々。新聞を配っている。

いや、最後に等決してさせないが。
横に共に飛ぶ椛を、見る。
一緒に迫害されてしまうかもしれないというのに、自分の為に奮起した彼女の為にも。

私は新聞を配らなければならない。
それに、自分の新聞を読んでくれている人達は、いるのだ。
文は、肩下げ鞄の外から、カフェに置きに行った時に、マスターから渡されたチョコの感触を確かめる。
それは多くの、知らない人間達から自分に向けて昨日渡されるはずだったチョコ達だった。

自分の新聞を読んで、いつも面白い新聞を配る私を見てきた人達からだと、マスターは笑って言っていた。
その場で私は泣きそうになった。大量のチョコがそこにはあって、これだけのたくさんの人が、私の為にチョコを渡そうとしていたその事実に。
しかし、泣く前に私は慌ててそれらのチョコを鞄に押し込んで、マスターにお礼を言って、空へと飛んだ。

「文様! 大体この周辺にはばら撒きました!」
横に飛ぶ椛が大きく叫ぶ。

文はそれに頷いて、次の場所へと新聞を配る為に再び羽ばたいた。







「……」
霧の湖で遊ぶチルノと大妖精を見て、レティは昨日の言葉を反芻していた。
―――チルノの事が、好きなんでしょ?
花の妖怪の言った言葉は、私にとって毒でしかない。

好きでも、この想いを伝えた所で、チルノに決して届かないから。
彼女に恋愛感情等ない。妖精にしては強力なだけであり、本来の妖精達と何ら変わらない。彼女は、全て友達感覚で色んな物と付き合っている。
そして、それ以上に。

レティは拳を握り締める。
冬にしか、まともに活動できない、自分の妖怪としての身体に、悔しさしか出なかった。
昨日は楽しかった。あんなに皆が、幻想郷の冬の中、楽しそうにしていたのを見るのは始めてかもしれない。
あんな皆が笑いあう中を、チルノと他の季節も回れたらと、少しばかり思ってしまう。

「レティ? どうしたの?」
いつの間に、目の前に来ていたのか、チルノは私の顔を下から覗くように見つめていた。

「…何でもないわ」
そんなチルノに、そっけなく答え。
「チルノ、今度は何をして遊んでいるの?」
「今度は鬼ごっこだよ! 弾幕勝負だと、あたいってば強すぎて勝負にならないからさ!」
「そうね」

そんなチルノの元気な言葉に、レティは笑う。
もうすぐ春が来てしまう。それだったら、春までずっとチルノと一緒にいよう。
好きだと言わなくても、彼女の笑顔を見られるだけで、私は幸せなのだから。












「…ゴホ、ゴホ」
日が射すこともない紅魔館の地下。

「…パ、パチュリー様、大丈夫ですか?」
「…これが…ゴホ…大丈夫に…ゴホゴホ……見えるかしら…?」
パチュリーはベットで寝ていた。

「…あれほどご無理をしないようにとずっと言っていましたのに…」
何度も咳き込むパチュリーに小悪魔は困ったようにパチュリーの看病をしていた。
昨日の神社にて酔い潰れたパチュリーは、小悪魔に背負われて紅魔館へと戻ってきた。
だが、昨日の神社での魔理沙を追いかけた代償か。

「…うぅ、頭が痛い……ゴホ」

二日酔いに持病の喘息、加えて全身の筋肉が痛い痛いと叫んでいた。

「今日一日は、寝てないと駄目ですね…」
「うぅ……」


パチュリーの嘆く声は、一日中続いたのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
後日談を読んでみたいという方がいたので、書いて見ましたが、いかがでしたでしょうか。
他キャラクターの話も書いたのですが、全て載せるともはや後日談にならない量になるので都合によりカットさせて頂きました。期待していたかたは申し訳ございません。
七氏
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コメント



0.560簡易評価
9.90名前が無い程度の能力削除
待ってました~
いやはや良かったですよ~

次回も期待しています!!
12.60名前が無い程度の能力削除
非常にもったいないというか、各々が短すぎる・・!
幾人かに絞ってもう少し長くして欲しかったです。
何気にアリスが実は報われてない事実。
裸を見られても何も感じられてないとか……
13.80名前が無い程度の能力削除
うん、甘いねww
16.70名前が無い程度の能力削除
前作でも思っていましたが、文の努力と受難を、イベントに参加した者の多くが認識せずに話が終わってしまっているのがもったいないというか。
文がイベント成功の立役者でありながら辛い目に遭っている最中、イベント便乗で勝手に盛り上がってる妖怪たちがちょっぴり薄情に感じてしまうのはうがった見方でしょうか?
文のフォローエピソードもありましたが、個人的にはちと淡泊な印象でした。
参加したみんなが一緒になって文のためになにかを起こすような描写があれば、より大きなカタルシスを味わえる作品になったんじゃないかなと思います。

とはいえ、要所でしっかり泣かせていただきました。ごっそさんです!