(▼師走 聖夜前夜/正午 魔界にて)
「はぁ……はぁ……。昔と違って今、魔界を進むのは……私でもしんどいわ」
へろへろになりながら、私はようやく氷河地帯を抜けて魔界の最深部に辿り着いた。けれど懐一杯に用意してきたお札とスペルカードは、ほとんど全部使い潰している。
「流石に参ったわね。生きてる間にまた魔界に来るなんて、もう思ってなかったし……」
溜息混じりに私が頭を掻いた時、暗がりから……と言っても魔界だから周囲全部暗いけど、唐突に人影が飛び出してきた。
格好だけならばレミリアの所にいるのと同じ、メイド姿の金髪少女が。
「えーと……あれ、名前なんて言ったかしら。まあ兎に角お久しぶり」
「随分騒がしいと思って来てみたら……あんたはいつぞやの巫女っぽいの! 魔界のこんな奥まで来て、また神綺様に乱暴狼藉強盗略奪三昧でもするつもり!?」
「いやあの。っぽい、じゃなくて正真正銘の巫女なんですけど」
来て早々、随分と酷い言われようだった。
だいたい強盗や略奪は、少なくとも私はやった覚えは無いけどなぁ。そんな事するのは魔理沙くらいのもんでしょうに。
言われっぱなしは癪に障るんで、色々言い返してやろうと口を開きかけて、私は目的を思い出す。そうだ、メイドと世間話やってる場合じゃなかった。
「面倒だから本題から入るわね。わざわざこんな所までやって来たのは他でも無いわ、神綺に用があって来たの。だから取りついで」
「こんな所とは失礼な。どっからどう見ても不審者のあんたを神綺様に会わせるもんですか、六十年前においで!」
「あ……こらちょっと。私は別に戦いに来たわけじゃ……」
「問答無用よ!」
私の言葉を完全に無視し、メイドは唐突に話を叩き切って、いきなり私に向かってナイフを放り投げてくる。
うぇえ、ちょっと待ちなさいよ……。まずい、奇襲されると思ってなかったから、このままじゃ避けきれない……しょうがないか。
私は虎の子に残しておいた、最後のスペルカードを袖から引き抜き放り投げる。
「二重結界!」
宣言と同時に、数枚の紅い符が迫り来る山のようなナイフと私の間に壁をつくり、ナイフを明後日の方向へと弾き散らす。
あーびっくりした……。
そう私がほっと一息ついた直後。
「へ? 何これ。あんた、霊撃はどーしたのよ」
メイドは毒気を抜かれたような表情で、攻撃するのをやめて降りてきた。
……あー、そっか。こいつらは知らないのか、スペルカードのルール。まあ力=正義の魔界の連中じゃ、仮に教えても全く馴染まないだろうし当然と言えば当然かな。
「色々あってね。私達の世界は、全力全開の決闘を私が禁止したのよ。勿論それは私だって例外じゃないわ、ルール提唱した奴が自分から破ってるようじゃ話にならないからね。……だから正直言って、あんたに全力でドンパチやられたら今じゃまず勝てないから、私としては御免被りたいんですけどー」
軽く掻い摘んで適当に説明し、私は降参とばかりに両手を挙げる。ここに来るまでにスペルだけじゃなく残機も全部使い果たしてるし、これ以上は本当もう無理だ。
「……今一良く分からないんだけど……あれ? ひょっとして私、もう勝ったの?」
「夢子ちゃんが勝ったんじゃなくて、ルールが根本的にもう違うのよ。夢子ちゃんのは差し詰め、手でサッカーやるようなもんね」
「わぁ! 神綺様、いつの間にお側に?」
そんな話をしていると、気がついたら神綺がメイドの後ろに立っていた。
「ようこそ魔界へ。で、今回は一体何しに来たのかしら?」
「別に。ただあんたをかっ攫いに来ただけよ」
「さら……!?」
私の言葉にメイドが敏感に反応して、またぞろナイフを構えようとするのを、神綺が軽く片手で制した。
「どうやら本気で大事な用みたい、夢子ちゃんはしばらく席を外してて」
「えぇっ!? し、しかし神綺様……」
どうやら納得が行かないのか、メイドは僅かの間、食い下がるそぶりを見せた。
けれど、そんなメイドをあやすように神綺は優しく頭を撫でる。
「大丈夫よ夢子ちゃん。一日くらい外に出かけるかもしれないから、その場合は留守をお願いね」
「……うぅ。はい、分かりました」
良い年したお姉さんが幼女にあやされてるという何ともアレな光景がしばし展開された後、私は神綺と二人っきりになる。
「さて……と。簡単で良いから状況を教えて」
「本当に簡単にしか説明できないけどね。魔理沙が血相変えてうちに飛んできたのよ。で、あんたを引っ張って来いって言われた。それだけ」
事情を知らない奴が聞いたら、何の話かさっぱり分からないような説明だろう。
だけど、神綺と私と魔理沙の間では、これで十二分に事足りる。
何故かって。この三人の間で共通する話題なんか一つしかないから。
「……そう……すぐ行くわ。霊夢、アリスちゃんの家まで案内お願い」
目を閉じて神綺はほんの数秒だけ押し黙った後、すぐに決断した。
正直、ここで神綺を説得するのに余計な時間なんか使ってる場合じゃないから、話が早いのは凄く助かる。
「神綺がいれば帰り道は全部顔パスで素通りできるでしょうけど、それでも半日以上は楽にかかるわ。……今回ばかりは私の勘が当たらない事を祈るけれど……今のうちに最悪の場合を考えていた方が良いかもしれない」
普段から勘に頼って行動する私にとって、それはとても嫌な勘だった。
さっきから胸騒ぎがする。物凄く。
「そんなこと百も承知よ。ただ『あの子』には今、もし干渉してくるなら可能な限りアリスちゃんを止めるように伝えたから……少しは時間稼ぎが出来ると思う。じゃあ急いで出発しましょうか」
そして私は、神綺を引き連れて戻る。
さっきの金髪メイドが咲夜みたいに時間を止められれば良いのに。
無理と分かっていても、つい私はそう思わずにはいられなかった。
***
■師走 参/聖夜前夜 午後六時
私は目の前の光景を、即座に理解する事が出来なかった。
確かに、蓬莱が素直に封印を解いてくれるとは私だって思ってはいなかったけれど、私の事を敵として認識されるのは、幾ら何でも想像の遥か外だったから。
「蓬莱……これは、何の冗談かしら……」
蓬莱の周囲に浮かぶ数々の魔法陣は、明らかに攻撃準備に入っている。
でも、どうしても信じられず、震える足で私が一歩蓬莱に向かって踏み出した時。
蓬莱の放ったレーザーが私のすぐ側を通り過ぎて壁に大穴を開け、これが冗談でも夢でもなく現実である事を、私は嫌でも理解させられた。
「私があなたの真のマスターではない事は、もう理解してるわ。でも……これは一体どういうつもり……?」
私の問いかけに対し、蓬莱は小さく首を横に振り、部屋に戻って欲しいという意識だけを私に返してきた。
「……上海、危ないからしばらく離れていなさい。手荒な事はしたく無かったけど、そういう訳にもいかないみたい」
私から蓬莱への魔力供給を一時的に絶って、外部からの魔力干渉を遮断してあげれば問題ないと思っていたけれど……これでは無理だ。最低でも蓬莱の動きを止めない事には、どうしようもない。
私と蓬莱の方を交互に見ながら、間に入って上海は必死に首を横に振っている。
でも、まっすぐにこちらを見つめる蓬莱の瞳を見て、説得が絶対に不可能だという事を私は悟った。
「上海そんな顔をしないで。可能な限り、蓬莱を傷つけはしないから」
私と同様、蓬莱も小さな手振りで何かを上海に伝えたのだろう。上海は力なくうな垂れ床に降り、座り込んでしまったけれど……それ以上は何も言わなかった。
そんな上海の姿を見ていると、戦いなどせず蓬莱の言う通り素直に部屋に引っ込んでいてあげたいとさえ思える。
でも……それでは根本問題の解決にならない。
家の中で戦うのは流石に避けたいので、蓬莱の開けた穴から私は家の外に出る。そんな私の気持ちを理解したのか、蓬莱も私の後をついてきた。
「まさかこんな日が来るなんてね……。でも、人形達を使ってあなたを墜とすような真似はしないわ」
記憶を取り戻す為に蓬莱と戦うのは避けられないにしても、うちの子達同士で攻撃し合うのを見るのだけは、私は我慢が出来そうにない。
だから私は一切の人形を連れてはこなかった。
……私が最後に、人形達を全く介さずに自分だけで戦ったのは……いつだったろう。すぐには思い出せない位に昔の事だと思う。だから上手く戦える自信はあまり無い。
けれども、私は蓬莱を見据えて宣言する。
「いらっしゃい蓬莱。私の力だけで相手をしてあげる」
この私の言葉が戦闘の合図になった。
次の瞬間、蓬莱の周囲に漂う魔法陣が輝いたかと思うと、一斉に私めがけてレーザーが降り注いだ。私の頭上を通り過ぎ、森の木々を打ち倒す。
威力は十二分だけど、狙いがまだ甘い。……今度はこちらの番っ。
蓬莱の左右を大量の弾で封鎖し動き回れないようにしてから、二本の魔力光を撃ち出す。
見た目は単純で直線的な攻撃だ。余計な隙を作らず次の攻撃に移れるよう、最小限の動きで蓬莱は僅かに後ろに下がった。
けれど、蓬莱には悪いけど私は最初から長期戦にするつもりは無い。
「教えてあげるわ、蓬莱。レーザーってのは真っ直ぐ飛ぶだけじゃない」
直線的だった軌道がいきなり曲線に変化する。
慌てた蓬莱が次の攻撃準備を止め、高度を下げたその瞬間を狙って、私は一気に蓬莱に肉薄する。
遠隔攻撃じゃどうしても蓬莱を傷つける事になる。でも、接近して直接掌ごしに魔力を目一杯叩き込めば、動きだけを止めてあげられるはずだ……!
でも、最大速度で飛びながら魔力を全力で溜めていった時、それは唐突に起こった。
「あぐっ……! な、何よこれ……く、苦しい……痛い……!!」
心臓を握り潰されるような凄まじい激痛に、私はバランスを崩し胸を抑えて無防備に空中を漂った。痛みは胸から全身に広がっていく。
息をするのさえ苦しい中で、攻撃なんか出来る訳がない。
飛行状態を維持するのさえ厳しい……誰か、助けて……!
「はぁ……はぁ……」
呼吸が全く収まらない。酷く吐き気がする。視界が定まらない。そして……熱病にでも冒されたみたいに、体が熱くて仕方が無い。
まずい……今このタイミングで蓬莱に攻撃なんかされたら、確実に浮力を失って地面に叩きつけられる事になる……!
けれど、こんな隙だらけの私を蓬莱が放置する訳が無かった。
蓬莱から撃ち降ろされた弾が何度も私の背中を激しく叩き、私はバランスを崩して地面に落ちた。
「う……!」
常に自分の身を守る為に張っている防御結界が衝撃を吸収してくれなかったら、これだけで私の意識は間違いなく飛んでいただろう。
額が割れて、赤いものが滴り落ちる。
でも蹲っている場合じゃない……!
私が横へと転がるように移動してすぐ、さっきまで私がいた地面を蓬莱の放ったレーザーが直撃した。
ふらつく足と意識を、両方ともどうにか奮い立たせて私は立ち上がる。訳の分からない胸の痛みが、ようやく少しづつ引いていった。
変よ……人形を介さないで強力な魔力を直接操るのが幾ら久しぶりだからって、これは絶対おかしい。まるで私の身体が拒否反応でも起こしてるみたいに。
……いや、そんな事を考えるのは後だ。
今は蓬莱との真剣勝負の真っ最中、余計な事を考えている暇は無い。
「まさか単独であなたがこれだけ戦えるとは思わなかったわ……蓬莱」
素直にそう思う。蓬莱と戦闘でもっと連携できれば、魔理沙だって目じゃないかもしれないと思えるくらいに。
『…………』
けれど、蓬莱の表情は変わらない。蓬莱は首を横に振り、お願いだから部屋に戻って欲しいという意思が繰り返されるのみだった。
「……嫌よ」
私だって上海や蓬莱が悲しむのを見るのは、もう沢山だ。
これ以上は何も詮索しないで、起こった事を全て忘れられれば誰にとっても一番幸福なのは分かっている。
けれども。
「私は自分の記憶を失っている事を知ってしまった。時間は巻き戻らないわ、蓬莱」
今になってパチュリーの言葉が思い出された。
『世の中には知らないでいる方が良い知識もある』
……確かに……そうかもしれない。
でも、知ってしまった以上、知らなかった頃にはもう戻れない。ましてや、現在私を苦しめ悩ませている全ての謎の鍵がそこにあるならば。
「勝負よ蓬莱!」
蓬莱の気をそらす為、私は三本同時に細いレーザーを打ち出した後に、一気に飛び上がる。けれど元々蓬莱の身体は小さい。
僅かに身を捻って避けた後に、蓬莱が私に向けて迎撃態勢を取った。
蓬莱の今の実力を正しく分析すれば、すぐ側まで近づいて直接魔力を叩き込むなんてのは……最初の隙を逃した時点で、もう多分無理だ。
でも私には、今たった一つだけ打てる手があった。
はっきり言って危険な賭け。だけど私は迷わなかった。だって……蓬莱を傷つけない方法は、これしかないんだから。
蓬莱が迎撃態勢から、反撃すべく胸の前に光を集めて撃ち出そうとしたその瞬間。
私は、自分を守っている防御結界を全て消した。
これで今の私は、ただの人間と同じだけの脆さだ。
もし蓬莱が別のマスターからの命令を忠実に守っているだけの、文字通りの人形ならば……蓬莱のレーザーに撃ち抜かれて、下手をすれば私は死ぬだろう。
でも。蓬莱が私の事を主人だと思っていてくれるならば。
そして。私の思いはやはり正しかった。
『…………!!』
蓬莱は撃ち出したレーザーを一本残らず、私の手前であらぬ方向へと曲げる。
それが致命的な隙になった。
今度こそ、私は魔力を集め掌底のようにして蓬莱に叩きつけた。そして蓬莱の胸に手をあて、私は即座に魔術的な封印をかける。
外部からの魔力の流入を阻止されて、蓬莱は完全にその動きを止めた。
私の胸の中で動かない蓬莱の頭を、私はそっと撫でる。
「ごめんなさい、蓬莱……。あなたの気持ちを利用するような戦い方をしたわ。酷いマスターよね、私は」
蓬莱を抱いたまま、私はふらふらと危なっかしい飛び方で地面に降り、上海の待つ家の中に戻る。
「ただいま上海。……大丈夫、蓬莱は無事よ」
蓬莱を抱いた私を見て、上海は喜びと悲しさの入り混じった表情をした。
「上海、ちょっとタオルを持ってきてくれないかしら? 額の辺りに血が出てるから……っ!!」
そして、私が上海に用を頼もうと思った時。
唐突に頭が割れそうな程の頭痛が襲ってきた。
「……頭が、痛い……!」
血が出た所が切れて痛いんじゃない。
まるで万力で頭を締め上げられるような、酷い痛みに私は蹲る。
でも、やがて嘘のように痛みがすっと消え去った。
「……ありがとう。でも大丈夫みたい上海、もう消えたわ……心配しないで」
慌てながらも、タオルに巻いた氷枕を持ってきた上海に感謝した直後。
まるで雪崩れのように。
覚えの無かった映像が、押し寄せて流れてきた。
「そうだ……魔理沙にやられて、私は……!」
間違いない、これは蓬莱が必死になって止めていた私の記憶。
私はゆっくりと糸を手繰るように、遡っていく。
蓬莱が身を呈してまで隠そうとした……自らの過去を。
***
あの魔理沙とか言う人間の魔法使いに、けちょんけちょんにやられた後。
わたしは、これまでに無い位にお家の書庫に篭って猛勉強をしていた。
『精進しなさい』
……うー人間の癖に偉そうにっ。見てなさいよ、今度あったら絶対に10倍返しで、ぎったんぎったんにしてあげるんだから……!
もう何度目か分からないけど、ついまたあいつの顔を思い浮かべてしまう。
午前中の間わたしがずっと読み耽っていた魔法の教本を苛立ち紛れに思いっきり閉じて、私は改めて考えてみた。わたしの魔法に何が足りないかを。
まず攻撃速度が遅い。
次に攻撃のバリエーションに乏しい。
そして何といっても――密度が薄すぎ。
……ようするに。
「ダメダメじゃないの……しくしくしく……」
小手先でちょっとずつ威力を上げるだけなら、頑張れば出来る自信は勿論ある。
でも元々1だったものが2や3になっても、あいつにはまだ全っ然追っつかない。程遠い目標に思わずわたしが頭を抱えた時、書庫の扉が軽く叩かれ、ひょこっとお母さんの顔が覗いた。
「アリスちゃん、ごはんよ~」
「……ん。今いらない」
にべもなくパスして、私は勉強を再開しようとする。
「がーんがーんがーん……。あ、アリスちゃ~ん……勉強するのはお母さん嬉しいけど、やりすぎは体に毒よ。ほら、お小遣いあげるからご飯たべて遊びに行ってらっしゃいな」
……けど出来なかった。どうやらよっぽどショックだったのか、ぴったりと擦り寄って力いっぱい抱きしめてくる。
お母さん、ひっつき過ぎ……暑苦しいってば。
心の中ではそう思ったけど口に出しては言わない。言ったらお母さん絶対泣くから。
「もう、集中できないー! いっつもは勉強しなさいってうるさく言うのに、いざ勉強始めたらそんなこと言うのはずるいよ」
「あら。そんなの勿論よアリスちゃん。親ってのはずるくて勝手なのよ?」
うわぁ、言い切った。
「…………」
わたしも、流石にこの言葉にはむっとしたので、無言でお母さんの背中をドアの向こうに押し出して強引に扉を閉める。
『ああアリスちゃんが冷たい……お腹空いたら降りてきなさいね~~!』
扉向こうのお母さんの声を聞きながら、わたしは今日何度目かの溜息をついた。いつまでも子供あつかいなんだからなぁ……そりゃ確かにまだ子供だけど。
やる気を削がれて、わたしは何気なく魔法とは全然関係ない本棚を眺めてみる。
そこには、わたしがもっと小さな頃、お母さんに読んでもらった絵本や童話が一杯詰まっている本棚があった。
うんうん。こんなの読んで貰ったなぁ……ちょっとだけ懐かしい。
その時、わたしの目に見慣れない本が一冊飛び込んできた。他の本と違い、豪華な皮の装丁に金文字でタイトルが書かれていて、明らかに場違いな本だ。
「なんだろ、これ? えーとタイトルは……っと。不思議の国のアリス?」
自分と同じ名前が書かれているのに首を傾げながら、わたしは本を開こうとして……あれ、開かない。
そしてすぐ、わたしはこの本が何か強い魔法で閉じられているのに気がついた。
「む~。大抵こういうのは、何か合言葉で開くんだけど。でもどんな言葉なのかさっぱり分からないし……わたしじゃ開けるの無理だよね……」
わたしの力じゃとても強引に解除とかできそうにないし、諦めてわたしが本を棚に戻そうとした時だった。
不意にわたしの頭に、まるで浮かび上がるように、ある言葉が思いついた。
「……? おーぷんせさみ……? きゃぁ!」
何気なく人差し指で金文字をなぞりながら、わたしが浮かんだ言葉を言い終わるのと同時に、わたしの手の中にあった本がひとりでに開いてパラパラと凄い速さで捲れて行く。
何なのこれ!? と、止まってよぉ!
そんな私の願いを聞いてくれたのかどうかは分からないけれど、それから少しして、一番最初のページを開いた状態で本はようやく止まってくれた。
「び……びっくりしたぁ……。何が書いてあるんだろ……あれ」
高鳴る心臓を抑えながら、おっかなびっくりで覗き込んだわたしは目を丸くした。
だって、真っ白なんだもん。
他のページも捲ってみたけれど、中身は全部真っ白。これだけ大騒ぎしたのに、こんなんじゃ拍子抜けも良い所だ。
「ぶ~、期待して損した。でも良いや、折角だからわたしのお絵描き帳にしちゃえっ。……あーあ、わたしもお母さんみたいに色々な事が出来たらいいのになぁ」
はかどらない勉強の手を止め羽ペンをクルクル回しながら、わたしはついつい調子に乗って色々と描いてみる。これでも、絵を描くのは好きだし得意だもの。
わたしは世界のお姫様。で、当然わたしの為の兵隊さんが沢山いる。
でも人間じゃメルヘンぽくないし……そうだ、トランプの兵隊なんかどうだろ。世話してくれるメイドはわたしの持ってるお人形さん達だ。
神様なお母さんの真似をするような感覚で、色々とわたしは本の上に絵を次々と描き足していく。
そう、これはほんの神様ごっこ。
「で、わたしの世界なんだから、やっぱりわたしが誰よりも最強じゃないとね」
色とりどりの美しくて隙の無い攻撃、どこの誰よりも強力なレーザー、すっごくぶ厚い魔力障壁。どれもこれも、今のわたしじゃ絶対できないようなのを夢見て。
絵の中の私は、どこからどう見たって半人前じゃない。お母さんとだって勝負できそうだ。
「なんちゃって……まだまだこんなの夢だけど。でもこれだけ出来たら、流石にあの黒いのも絶対へっちゃらへーよっ」
そんな風に、誰も敵わないような大魔女になった自分を想像して悦に浸ってた時……いきなり、何の前触れも無く本が光り輝いた。
「きゃぁ!!」
驚いて慌てて椅子を引いたせいで、わたしは椅子から転げ落ちた。
……うぅ、いたいよぉ……。
泣きたいのを我慢して、わたしは腰をさする。すると、まるで嘘みたいに痛みがあっという間に消えてなくなった。
あれ……でもおかしい。治癒なんて難しい魔法はまだわたし全然使えないのに……。
不思議に思った直後、わたしは自分の体の異変に気がついた。
魔力が体中に満ち足りて、今にも溢れてきそうなくらい。なんだろう……凄く……ドキドキする。今だったら何だって出来そうだ。
「これ、もしかしてこの本の力……?」
起き上がったわたしは、そーっと本に近づく。開かれたページの表面は七色に光り輝いていて、とても綺麗だった。
「絶対そうだ。でも閉じたら……どうなるんだろう……」
試しにわたしがページを閉じようとすると、一気に全身から魔力が消えていく。慌ててわたしは本を元のように開きなおした。
「ずっと開きっぱなしじゃ無いと使えないんだ……残念。でも、それにしたってこれは凄い本よ! 描いた事が現実になるなんて、究極の魔道書だわ!!」
興奮で胸が高鳴る。これがあれば、どんな事だってできるもの!
何をしよう? お菓子の家を作るのも良いし、部屋を人形さんで一杯にするのも素敵だ。
……でも。一番最初にやる事は、もちろん決まってる。
「ついさっきまでは何年かかるか分からなかったけれど……今ならあの黒いのも、確実に一捻り。目にもの見せてあげるわ」
本を抱き寄せ、わたしは部屋を出る。
行き先はもちろん、向こう側の世界だ!
***
■師走 四/聖なる夜
まるで堰を切ったように、凍り付いていた記憶が洪水のように押し寄せてくる。
想像以上に時間が過ぎていたらしく、窓の横を見ると、いつの間にか外はもう完全に真っ暗になっていた。ひょっとしたら日付も変わっているかもしれない。
私の中の何かが全力で警鐘を鳴らす。
これ以上の記憶はいらない、知っちゃいけない。私を傷つけるだけだと。
「そうだ。そして、私は魔理沙に戦いを挑んで……!」
でも。
もう止まらない。
洪水が全てを押し流すように。
全ての記憶が流れきるまで――
***(絵本のとびら開いて~Open sesami)
魔界を抜け、人間達の住む世界へと私はやってくる。
こっちにも妖怪変化のような存在はいるらしく、私を見つけて襲ってくるお馬鹿さん達も結構あった。
どいつもこいつも例外なく、後悔するまでに10秒とかからなかったけど。
「ふふ~ん。弱いわね、一昨年いらっしゃい! ……って、息してないから無理かな」
さっきまでは動いていた妖怪、と言っても今はただの消し炭の『それ』を一瞥して、わたしはその場を飛び去る。
黒いのが住んでる場所を見つけるのは簡単だった。
こっちには魔法を使う奴はあまり多くないのか、強力な魔力を発している場所からして少ないし、何よりあいつの魔力はすっごく特徴的だからすぐ分かる。
家の側まで辿り着き、わたしは十数ページほどを一気にパラパラと捲る。
「ここはたった今からわたしの世界よ、さあみんな出てらっしゃい!」
わたしの言葉に従って、直立不動で出てくるトランプの衛兵や騎士や王様。
そして、可愛らしい人形達。
「今日はこれからお茶会をやろうと思うの。でも、お客さんはまだ来てくれない。ここにいる皆で、相手を出迎えに行ってきてね」
わたしは命令を下す。
衛兵は一糸乱れぬ行進を。
騎士達は恭しく敬礼をして。
王様は堂々と彼らを従えて。
人形達は服の端を摘んで微笑み、わたしに挨拶をしてからお客さんを迎えに行く。
「まさか、わたしの所までさえ来れない……って事は無いよね? それは、幾らなんでも興ざめだもん」
黒い人間を待つ間、どんな攻撃をしようかペンを片手に考えながら、わたしは大真面目にそんな心配をしていた。
それからたっぷり一時間は経ったと思う。
「もう何なのよ~。どこのどいつが、私の家の周りでこんな妙な事を……」
きた!
古臭い箒に乗って飛んできたのは、確かにあの黒いのだった。
「待ちくたびれたわ、もう。やっときたわね」
「!?」
黒いの……確か魔理沙って言ったと思う。
そいつは、明らかに驚いていた。恐らくわたしの姿……というよりは、わたしの魔力の大きさを見て。
「久しぶりね」
「そうでもないかしら? まだ一月も経ってないじゃない。まあ、家に篭りっきりだったのか、ちょっとばかり太ったように見えるけどね」
表情は余裕たっぷりに見える。でも、虚勢なのがはっきり分かった。
だって……話の途中なのに、いつ戦いになっても良いみたいに間合いをとってるんだもん。
「今日は、この前の借りを十倍返しに来たのよ。今度こそ負けないわ!!」
「これはまた、酷い利子がついた気がするんだけど。でも妙に自信ありげね」
「究極の魔法を記した本を手に入れたのよ。ううんちょっと違うわね、正確には究極の魔法を記せる本、かな」
わたしは羽ペンをポケットに仕舞う。
お絵描きの時間はおしまい。ここから先は、仕返しの時間。
「あ、それ欲しいわ。良かったら譲ってくれない?」
「残念でした。あなたたち人間には使いこなせない魔法よ」
正確には、わたし以外の誰も使いこなせない魔法。使ってみて分かった。
『アリス』以外は、この本の契約者にはなれないんだって。
だからこの魔法はわたしだけのもの。
「そうなの? じゃあこの際、見るだけでもいいわ」
あらら。魔界で暴れまわってた時と違って随分と弱気ね。でもそんなの勿体無いじゃない? それにあなたは、このお茶会の主賓だもの。
――――最大級のおもてなしをしてあげないと……ね?――――
にっこりと微笑んだつもりだったけど、魔理沙は何故か一歩後ずさった。失礼しちゃうわね、そんな恐ろしいものを見るような目で。
「安心して。この最強魔法をあんたの体の芯まで、いやでも味わさせてあげるわ!!」
開いていたままのページが光り輝くと、わたしと魔理沙の間に巨大な星の魔法陣が出現する。
次の瞬間に、世界を構成する色が変わった。
わたしの意志通りに、真紅の弾幕が襲い掛かる。
速さも。密度も。威力も。全てが桁違いな。
「え、ちょっと。最初はもうちょっと優しくって言うじゃないの……きゃあ!」
唸りを上げて高速で襲い掛かる弾は、わずかの差で帽子だけを叩き落した。地面に落ちる隙も与えずに、後からきた弾で帽子は穴だらけにされ、ちぎれてボロ布になり果てる。
「うーん残念、もうちょっとだったのに」
「しゃ、洒落になって無いってば……!」
「大丈夫よ、当らなければどうって事ないわ。それにほら、これでもまだちゃんと手加減してあげてるんだもん。頑張ってね?」
わたしの言葉に魔理沙は色を失った。
そんな驚くほどの事でも無いと思うけどな。
ちゃんと一番最初に言ってあげたのに、十倍返しって。
抗議を無視して、わたしは次のページを捲る。
さっきは弾だけが赤かったけれど、今度は世界全体も真っ赤。でもそれだけじゃ面白くない。片手で本を支えながら、空いた手でわたしは交互に魔力を放つ。
それはもう弾と呼べない赤くて紅い、寄せては返す魔力の波。
「あち、あちち! 何よこれ!?」
隅っこに逃げていた魔理沙が、ローブの端を焦がしながら慌ててわたしの目の前に戻ってくる。
「隅に行くのは禁止だよ、焼き人間になりたく無かったらね。さあ、狭い逃げ道で素敵な箒のダンスを踊ってみせてっ」
打ち寄せる波に追いたてられるように、目の前にやってきた魔理沙へタイミングを少しづつずらした攻撃が降り注ぐ。
「この……調子に乗ってるんじゃないの!!」
ついに攻撃を避けきれなくなったのか、それとも押されっぱなしなのに苛々したのかは分からないけど、魔理沙は胸の前で即座に小さな魔法陣を描いてレーザーを撃ちだしてくる。
うわ……これ、この間さんざん酷い目に合わされたこいつの必殺技だ……!
周囲の弾を全て吹き飛ばして向かってくる光に、反射的に思わずわたしは目を閉じてしまった。
でも、衝撃が来ない。
そっと目を開けて驚いた。本とわたしを包むように、ぶ厚い魔法の壁が出来ていて、魔理沙の攻撃は全っ然届いてなかったんだもの。
だけど流石に本の方でも少しは嫌だったのかもしれない。わたしが命令せずとも、自動的に次のページへと本が捲れる。
でも、それだけ。
「うそっ!」
大きく目を見開いて、魔理沙が驚愕している。わたしだって驚いた位だから、気持ちは分からないでもないけど。
「嘘でも夢でも幻覚でも無いわ、これは現実。本のページはまだまだある、お代は見てのお帰りよ!」
世界を支配する色が、即座に青に塗り代わる。
底冷えする氷の世界を思う存分味わいなさい!!
それからどの位たっただろう。
時間的にはほんの数分だと思う。ページを八回めくってる間に服装も見かけも随分ボロボロになったけれど、魔理沙はまだ宙に浮かんでいた。
「はぁ……はぁ……! まだ続くの……もう勘弁してー!?」
「む~。何だかくやしい、まだ動き回られてるなんて思わなかったもん」
「正面からまともに当ったら死にかねない攻撃してるくせに、そんな無茶言わないでよ!!」
肩で息をして弱音を吐きながら、それでも向こうは反撃をやめない。それがまた、わたしの癪に障る。
わたしの圧勝だったら早い段階でやめてあげても良いと思ったけど、こんなに耐えられた時点で、ものっ凄く消化不良だ。
それに考えてみたら十倍返しって言ったんだし……。
「じゃあ……そうね。せめてあと4ページ分は頑張って乗り切って?」
「鬼ー!」
そして、わたしは本のページをめくり世界の支配色を緑から紫に変える。
さあ、巨大なクナイが円を描いて高速で襲いかかる最悪の高速迷路を抜けられるっ?
ドクン
その時。
聞こえるはずなんか無いのに、わたしは確かに自分の心臓の音を聞いた気がした。
「あ、あれ?」
突然目の前が何重にもだぶって見えた。
お母さんのお酒をこっそり呑んで酔っぱらっちゃった時みたいに、ふらふらする……どうしちゃったんだろ……。
不意に言い知れない恐ろしさを感じて、わたしは慌てて本を閉じようとする。
えっ……閉まらない、なんで!?
その間にも、攻撃は物凄い勢いで強力になっていく。向かっていく弾丸は、木々を貫いても勢いをまるで衰える事がない。
こんなの……わたしが考えていたレベルの攻撃じゃないよ……当たったらどんな相手だって殺しちゃう……!
わたしは仕返しする為に来ただけで、殺し合いする為に来たんじゃないのに……!!
でも、わたしが何かを言うよりも速く。
「この、このっ……このぉ!!」
もう余裕なんか欠片もない、必死の形相の魔理沙からの攻撃が飛んできた。
それは多分魔理沙の最後の悪あがきだったと思う。
ありったけの魔力をこめた、弾幕を吹き飛ばすレーザーが立て続けに何発も打ち出され、本とわたしを守っている障壁に激突する。
―――― パァン ――――
膨らましすぎた風船が割れるみたいに、軽い音を立てて壁が壊れて……本が閉じた。
「あ……」
そんなわたしを目がけ、防ぎきれなかった最後のレーザーが向かってくる。避けようにも、体は言う事を聞かなかった。
わたしを守ってくれるものは、もう何もない。
こんな事が起こるなんて思ってなかったから……いつもわたしが張ってる、自分の身を守る障壁さえも。
今のわたしは何の力も持たない、人間の女の子と変わらないのに――
「や……来ないで! 止まって……!!」
助けて夢子さん……お母さ……
ズン
鈍い音がした後、レーザーがわたしの後ろへと通り抜けていく。
「あ……」
そっとわたしは自分の胸に目を落とすと、ぽっかりと大きな穴が開いていた。
……あれ……? なんだろう、これ……?
震える右手を胸に押し当てると、手のひらがすぐ、真っ赤に染まった。
それはとても赤くて朱くて……まるで血の色みたいで。
「う……ぶ……!」
いきなり襲ってきた吐き気。
けれど、わたしの口から出たのは真っ赤な血。痛いのか熱いのか、それとも両方なのかさえ判然としないような感覚の中で、わたしは地面に向かって落ちていく。
やっぱり……自分の力でも無いのに本に頼って戦ったのが良くなかったのかな。凄く怖い思いもさせちゃっただろうし、仕返しにしても黒いのには悪い事……しちゃった。
それに服も真っ赤だし……絶対これは帰ったらお母さんに怒られるなぁ。
お母さんには素直に……帰ったら……ごめんなさいって……言――――
******
「……何よこれ。何なのよ、どういう事……」
記憶の洪水が止まる。
あまりの光景に私の頭は良く回ってくれない。
だって。
今の光景はつまり、私は魔理沙と戦って死んだって事に……まさか!?
呆然としながら部屋の中を彷徨う私の姿が、部屋の隅にある鏡に映りこむ。
「え……?」
そこで私は、とんでもない事に気がついた。
記憶の中の私の姿は、もっともっと小さかった。
なんで? どうして魔界人の私が、まるで人間みたいに……いいや、人間以上の速さで、こんな短期間で成長してるの……!?
その時、大きな音を立てて玄関の扉が開く。
トレードマークの黒帽子に古ぼけた箒。確かに魔理沙だった。
「アリス……やたらと派手な光や攻撃が見えたんだが、お前一体何を……お、おい!?」
私は魔理沙の胸倉を掴んで詰め寄る。
考えるよりも、聞いた方が早い。
「魔理沙、私はあんたに聞きたい事がある。あんたが魔界に物見遊山に来たとき、私はあんたと戦った。その後、私はあんたの家に仕返しに行った。これは両方とも……合ってるかしら……」
私の問いかけに、魔理沙は息を呑んで固まった。
「どうなのよ!!」
「う。……あ、ああ」
脅えながら私の勢いに気おされるように、魔理沙は首を縦に振った。
「そう。じゃあもう一つ聞くわ、間違っていたら馬鹿げていると笑い飛ばしてくれて構わない」
むしろ、笑い飛ばして否定して欲しい。
お願いだから言って頂戴。『何を寝言を言ってるんだよ、アリス?』って。
「そこで私があんたに…………た、何て事は……無いわよね……」
「……す、すまんアリス、ちょっと聞き取れなかった。もう一度言ってくれ」
唇が震えてしまい、肝心な部分が伝わらなかったせいで魔理沙に聞き返される。
だから。
私は最大の勇気を振り絞って叫んだ。
「私が魔理沙に殺されたなんて馬鹿げた事は無いわよね! 否定して魔理沙、お願いだから!!」
言った。確かに伝えた。後は、私は魔理沙からの返事を待つだけ。
ほら言いなさいよ魔理沙。熱でもあるんじゃないのか、とか笑い飛ばしなさい。
そうして私は魔理沙を見上げ。
「………………………………」
血の気が引いて、顔面蒼白になった魔理沙の顔を見た。
……何よその顔は……。
「何で黙っているのよ魔理沙! 答えなさいよ!!」
とてもとても長い沈黙があった。
そして魔理沙の口が開かれる。
「ああ。……本当の事……だぜ」
搾り出すように紡がれた魔理沙の言葉は、否定ではなく……肯定だった。
胸倉を掴んでいた私の手から、力が抜けていく。
「本当の事ですって……? じゃあ今の私は何? 生きているし息もしているわ。魔法も使えるし、自分で物事を考える事も出来る。この私は何なのよ!?」
俯いたまま、魔理沙は答えない。
その時、不意に数日前に聞いたメディスンの言葉が頭に浮かんだ。
『だってさ、アリスったら自立人形を探してる何て言うんだもん。だから言ったんだよ、鏡を見てって』
『あなたも私と同じ。人形だもの。やっぱり知らなかった?』
そんな。まさかそんな。
私が人形ですって? それも完璧な自立人形!?
ありえない……ありえないありえないアリエナイ。
大体、かつての私が死んだからって、私を人形で再現しようなんて考えるような奴がどこにいるのよ。そんな事が可能な奴も、そんな事をして得する奴も……!!
『アリスちゃんっ』
「あ……」
たった一人だけ、いた。
それだけの力があって……もし私が死んだりしたら、どんな事をしてでも何とかしようとする……そんな人が。
頭の中のピースが次々に合わさっていく。
上海と蓬莱の真のマスターが誰なのか。
私の記憶を封印していた相手も。そしてこんな封印を私にかけた理由も全て。
ある一つの絵が頭の中で完成していく。けれど、私は最後の一ピースを遥か彼方へと迷わず放り投げた。
「……ふ。ふふ……あはは……あははははははははははは……!」
「あ、アリス……?」
いきなり笑い出した私を、魔理沙が驚いて見ている。
でも可笑しくてしょうがない。
私は一度魔理沙に殺されて、今の私はお母さんに作り直された人形ですって?
笑うのをやめ、私はこれ以上ない程の憎悪を込めて魔理沙を睨みつける。
「……冗談じゃないわ。『人形達の主人が実は人形でした。長年捜し求めていた自立人形は私自身でした』だなんて、最下等の笑い話よ。……私は認めない、そんなの絶対に認めない!」
私がこれまでどれだけの人形を使い潰してきたか。正直、数え切れない。
でも、それは私が人形遣いだから気にせずに出来た事だ。もし私が人形だなどという事を認めてしまったら。
私は……ただの同族殺しだ。
例えどんな過去があろうと、私は納得するつもりだった。でもこんなものを、受け入れられる訳がない。これだけは受け入れてはいけない。
ましてや私が既に一度死んだなど、それこそ冗談じゃない……!
そうよ、これはどこかのおかしな奴が私を惑わす為にかけた呪いだ。
そうに決まっている。
「アリス、黙ってたのは悪かった。でも最後まで聞いてくれ、これは神綺や霊夢と話し合ってお前の為に……」
「聞きたくない! 黙りなさい魔理沙!! ……これ以上の話は無用よ。あんたの言葉が全て妄言だという事を、私自身が証明してあげる」
私は一枚のカードを懐から引き抜く。
このスペルカードは通常のものと違い、二つの代償を必要とする。両方の代償が支払えなければ、何の力も発動しないただの紙切れ。
一つ。通常のスペルと同様に魔力を消耗する。
そしてもう一つ。特別な触媒を必要とする。
「アリスお前何を……っ!!」
『…………!』
私が何をしているのか、少し遅れて魔理沙や上海も気がついたのだろう。
「やめろアリス! それだけはやめろ!!」
魔理沙が、そして上海が。
私の詠唱を中断させるつもりなのか、突っ込んでくる。とっくに発動準備なんか終わっているのに。
そうよ。私アリスは魔界人で悩みなんか持たない魔女。断じて作り物じゃない……! スペルの触媒対象は私自身、これで全てが証明できる!
―――― 魔符「アーティフルサクリファイス」 ――――
ドン
私がカードの魔力を解き放った直後。
小さく鈍い音が私の耳に届いた。
「あ……れ」
胸元に目を落とすと、私の左胸に大きな穴が開いていた。ついさっき見たおかしな光景を繰り返すかのように。
世界がグルンと一回転して、私の視界が低くなる。膝を突いて倒れたんだ、という事を少し遅れて私の頭が理解した。
でもおかしいわね……私はいつ、うちの床を赤絨毯に変えたんだっけ……。
「アリス、しっかりしろアリス!」
ぼんやりとした意識の中で、視界に魔理沙の顔が飛び込んでくる。
大粒の涙を零して、魔理沙が泣いていた。
ああ……そっか。
……リアリティが全然ないもの……なるほど……これは夢……ね。
「……魔理沙……黒白の次は……紅白に、鞍替えでも……するの……」
赤く染まった魔理沙の姿というのは、私も初めて見る。正確には紅白というより、赤と黒かしら。人生そのものが博打みたいな魔理沙には似合ってるかもね。
「余計な事を喋るな……! くそ、血が止まらないぜ……くそくそくそ……!」
段々とぼやけていく視界に、魔理沙から視線を移すと、上海が私の肩にすがって泣いていた。例え涙は流せなくても、そんな上海の様子は夢でさえ、見ているだけで辛い。
だからせめて。
「上海……そんな、泣か……ないで。良い子、だ……から……ね……」
頭を撫でてあげようと思った。
嘘みたいに重い手をどうにか持ち上げ、上海の頭に載せる。
そこまでで、私の力は抜けてしまい、頭を撫でてあげる事は出来なかった。でも。
凄く無理してはいたけれど。
瞳を閉じる前に、上海は最後に微笑んでくれていた。
***
くそ……どうして私はこんな時の為に、治癒魔法の一つでもどうして覚えておかなかったんだよ!
後悔ばかりが私の頭の中を駆け巡る。でも……仮に覚えてても、こんな心臓に馬鹿でかい大穴が開いていたら助けようなんか……。
鮮血で真っ赤に染まったアリスを前に折れそうになる心を私はどうにか奮い立たせ、必死に私は頭を回転させる。
諦めるな、何か方法を考えろ、一分一秒でも早く……!
けれどその時。
誰かがそっと私の肩を揺らした。
「上海……」
目の前で、上海が小さく首を横に振っている。上海の視線の先には、アリスの姿。
おい……やめてくれよ上海。
生憎私は、そういう冗談は嫌いなんだ。
アリス、お前も私がそんな嘘で騙されると……思うなよ……?
「……アリス目を覚ませ。もうすぐ霊夢の奴が来るんだ、だからそんな寝てて笑われても知らんぜ……」
頬を叩いても、肩をゆすってもアリスは何も喋らない。
絨毯の上で静かに横たわるアリスの姿は、それこそまるで……人形みたいだった。
まだ夜中の一時過ぎ程度だろ。全然お前は良い子じゃないんだから……寝る時間には早いぞ。
「ほら、起きろよアリス。……頼むから起きて……くれよ……アリス……アリス――――!!」
あらん限りの声で私は叫ぶ。そうする事で身体から空気が無くなってしまっても構わない。アリスに私の声が届くなら……!!
その時。
大きな音を立ててドアが開いた。
「魔理沙、少々手間取ったけど神綺を連れてきたわ!」
「アリスちゃんっ!」
中に飛び込んできたのは、霊夢と神綺。
けれど入ってきて即座に二人とも入口で固まった。
「バカ霊夢……遅いぜ……遅すぎるぜ……! 何で……ひっく……あと数分で良いから……早く来れないんだよ……!」
涙が止まらない。人前で泣いたりなんかしないのが私の自慢だったのに。
どうしようもなく、涙が零れてしょうがなかった。
けれど、次の瞬間駆け出して来た神綺が私の胸倉を掴む。
「黒白すぐに教えなさい、アリスちゃんがこうなったのはいつ!?」
「……え……あ……」
いきなりで言葉が続かない。と、私は頬を思いっきり張り飛ばされた。
「呆けてないで! アリスちゃんが死んだのはいつかって聞いてるのよ!?」
「……あ……す……数分前……だよ……」
私の言葉に、神綺は胸を撫で下ろした。
「そう、じゃあまだ十分に間に合うわ。死神の船にアリスちゃんの魂が乗せられて冥界まで行ってしまったら、幾ら私でも閻魔と冥界に喧嘩売る位しか方法が無かった。霊夢、すぐ家の周りの霊の出入りを封じて」
「もう終わってるわよ」
見ると、いつの間にか二人が入ってきた玄関ドアだけでなく窓という窓の全てが、霊夢の札で埋め尽くされていた。
「いつかこうなる覚悟はしていたわ。何かの契機で綻びが生じて、アリスちゃんが全てを知ってしまったら、この事実に耐えられるとは思えなかった。だから、念入りに封印したのにね……」
慈しむようにアリスの頬に触れながら、神綺は小さく首を横に振る。
「覚悟はしてた……って事は……じゃあこの後の手はあるんだよな、神綺!?」
へたりこんで座っている場合じゃない。
私の全身から抜けていった力が戻ってくる。
「当たり前よ。魂の出入りは霊夢が封じた。後はアリスちゃんの魂を呼び戻して、一時的にでも移す器が必要なんだけど」
「……分かった神綺。無いんだったら私を使え。アリスとの相性は、夜を止めに行った時に確認済みだ」
何が言いたいかを大体理解した私は、神綺の言葉を中途で制して言う。
夜を止めて輝夜の奴をとっちめに行った時、アリスとの魔力同調があるんじゃないかと、洒落でやってみた連結レーザー攻撃。
あれは私の想像を遥かにぶっちぎる破壊力があった。性格的なもんは最悪だが、魔力相性だけは理想的だろうぜ。
けれど神綺は首を横に振った。
「それはダメ。一つの体に二つの魂なんて入れたら、どちらかが弾け飛んで消えてしまう可能性が高い。……それに、こんな事があっても良いように、魂の器はちゃんと用意してあるから心配しなくて良いわ」
用意してあるって?
そんな話は私も初耳だぜ。でも一体どこに。
神綺の視線の先を追って、私は愕然とした。
「おい器ってまさか……上海なのか!?」
「そうよ。上海は元々その為に私が作った子だもの。アリスちゃんと上海はとても仲が良かったでしょう? でもそれは当然。極端に言えば、上海はアリスちゃんの半身みたいな物だから。上海、おいで。蓬莱も起きなさい」
神綺の命令に従って、上海が動く。
まるで見えない糸で繋がってるかのように。さらに、部屋の隅で置物のように座っていた蓬莱へと神綺が手をかざすと、弾かれたように蓬莱が動き出した。
「上海、アリスちゃんはどこまで気がついてたの? ……そう……ええ、いや良いわ。放って置いて精神が壊れるよりも、余程良かった。蓬莱も、そんな悲しまないで、あなたは良くやったわ。二人とも自分を責めないで」
まるでアリスがそうするように、上海や蓬莱に向かって話す神綺を見て……そこで私もようやく知る。
私が知っていたのは、今のアリスが一度死んだ後に神綺の力で復活した事と、元の体が損傷しすぎて体を丸ごと変えた事だけだ。
昨日アリスの奴が、呪いとか、上海の本当のマスターがどうとか言ってたのは……。
「神綺だったのか……」
「私以外にこんな事、誰も出来やしないわ。私は魔界の全ての生き物の創造主。ゆえに干渉しようと思えば魔界生まれの誰に対しても同じ事が出来る。……余程の場合を除いて、そんな事は一切やらないけど……」
自嘲気味に呟いて、神綺は小さく嘆息した。
「って、ちょっと待て。さっきお前言ったよな、一つの体に二つの魂入れたらどちらかの人格が消えるって。って事は……」
それは物凄く嫌な予感……というよりは、確信だった。
「さっきも言ったけど、上海は元からアリスちゃんの器の為に私は作ったわ。上海には人格もあるし感情もある。でも、それらは全て上書き可能な物」
一度上海のほうを見た後、目を伏せて神綺はそう言う。
少しの間、私は言葉が出なかった。
「い……意味が分からんぜ。それってつまり……どういう事なんだよ!?」
分かってる。
頭では分かってるが理解したく無いだけだ。上書き可能って事は、つまり。
けれど、答えを言ったのは神綺の奴じゃなかった。
「アリスの魂を納めた時点で、上海の自我や記憶は全部飛んじゃうって事ね」
肩を竦めて霊夢が答える。それはどこまでも冷徹な事実だった。
「ちょ……おい! なんでそんなお前は冷静でいられるんだよ、霊夢! アリスを何とかする為だからって……上海が消えるんだぞ!? 人格的な物が全部すっぱり!」
思わず私は霊夢に詰め寄る。
「魔理沙こそ冷静になりなさいよ。そりゃあ私だって……あんたの気持ちは分からないでも無いけど。でも神事にだって流し雛はあるわ。用途があるから人形は生まれるの。魔理沙は、上海人形の存在意義を否定するつもり?」
だけど霊夢は、私の目を見据えてそうはっきりと言い切った。
霊夢……そんな言い方は卑怯だぜ。
「神綺、上海を犠牲にしないでアリスを助ける方法の一つや二つ位ないのかよ! 見かけはちんちくりんだけど、それでも神様だろお前!」
八つ当たりなのは百も承知で、私は神綺に食ってかかる。
「そうね。神だったら何だって出来ると思ってた頃が、私にもあったっけ」
けれど神綺は小さく首を横に振る。
自嘲するように浮かべた笑みが、とても痛々しかった。
「これ以外に方法は無いの。一度死んだアリスちゃんを私が生き返らせた時に、アリスちゃんの存在は酷く不安定になってしまった。黒白は妙だと思わなかった? 昔はいつも本気で戦っていたアリスちゃんが、こっちに来てから本気を出さなくなった事」
「そんなの、ただの心境の変化だろ……」
私は精一杯の虚勢を張る。
でもそんなのは嘘だ。私だって……おかしいとは思っていたさ。
冬がやたら長かった時、あれだけ愚直に全力でぶつかって来てたアリスが本気を出して来なかったのは、不思議でしょうがなかった。
「出さないんじゃなくて、出せないのよ。強力な魔力を放出する事にアリスちゃんの体はもう耐えられない。だから、私はアリスちゃんの性格を弄ったのよ。『本気を出して負けたら後がないから、常に余裕を残しておく』と考えるように。主に人形達に戦わせるようになったのも全く同じ理由。媒介無しで今のアリスちゃんに魔法を使わせ続けるのは危険だったから」
酷い母親よね、と自嘲気味に神綺は付け加える。
確かに神綺だったらそれ位は出来るんだろう。でも、神綺の説明からは大事な事が抜けている。
「そんな細かい事まで出来るんだったら……どうしてアリスを完全な形で生き返らせなかったんだよ!?」
「出来たなら私だってそうしたわよ! 幾ら神でも蘇生がどれだけ難しいかも知らないで……勝手な事ばかり言うな!!」
神綺の怒鳴り声に、私は面食らう。
長い付き合いじゃないが、こいつが激昂する所を私は想像さえしなかったから。
「……怒鳴って悪かったわ……。分かりやすく例えると、精緻な硝子細工を落としてしまって無数のヒビが入った状態を想像してみて。下手に弄るとどうなると思う?」
それはとても適格で、嫌な比喩だった。
私も元は商家の娘の端くれだから、高そうな硝子食器の類を見たことは沢山ある。ほんの僅かの衝撃であっさり壊れて、父親にしこたま怒られた。
「全部のヒビを取る為に、私は表面をさらに薄く削る事しか出来なかった。だから魂の損耗はどうしようも無いし、アリスちゃんの外見が、まるで人間みたいに短期間で成長して『しまった』のも、そのせいよ。そして何より耐久性に致命的な問題があるのは言うまでもない。……もう一度削れと言われたら、私にはもう自信が無いわ」
自信が無いという神綺のその言葉は、どこまでも重かった。
もし失敗した場合はどうなるのか。
考えるまでも無い。
アリスはきっと、魂ごと消えるんだ。永遠に。
「……くそ……だから温室育ちだって言ったんだよ……!」
やり場の無い怒りを私は壁に叩きつける。
色々な事が起こりすぎてもう感覚が麻痺してるのか、手の痛みは感じない。
代わりに、どうしようもない程に心が痛かった。
「魔理沙、悪いけど悩んでる時間は無いわ。何時間も魂を一所に留めては置けない。放って置くと場所との結びつきが強くなりすぎて、自縛霊になるかもしれないし」
けれど霊夢が淡々と事実を告げる。
普段と変わらない霊夢の冷静さが、今だけはどこか恐ろしくさえ私は感じた。
「ダメに決まってるだろそんなの! ああくそ……待てよ、考えてみたら上海はどうなんだ? 肝心の上海の考えが一番大事だろ!?」
やはり責任は私が取るべき。
上海が犠牲になるのは大間違いだ。元を正せば原因は全て私にある。人格が消えるって? そんなもん気合で乗り切ってやるよ!
「……確かにそうね……。上海、あなたの素直な気持ちを黒白に教えてあげて」
神綺は上海の背中をそっと押す。
その時、私は自分の言葉が墓穴を掘った事に気がついた。
自分の身を優先して、上海がアリスを救うのを拒否するだって?
それこそ今すぐ幻想郷が崩壊したって。
そんな事あるわけ無いじゃないか。
私の考えを肯定するように、小さな手で私の頭を撫でながら、上海が私に向かって小さく微笑んだ。
その様子は、これから起こる事を覚悟してるとか、そんなレベルでさえない。
ただ純粋に上海は、アリスの為に自分が役に立てる事を喜んでいる。
言葉は無くてもストレートに伝わってきた。
「上海……」
色々な言葉が頭のなかでごちゃごちゃに絡み合って、そして形にならず消えていく。何も言えず、私は黙って立ちつくすしか出来なかった。
だって。これ以上、私が上海に何を言える……?
下手に止めようもんなら、それは上海の気持ちを踏みにじる事になる。
だから泣くな、上海を褒めてやれよ私。『偉いぜ上海、頑張れ』って。
そう思っても私の瞳からは、情けない位に涙が溢れて……褒めるどころか、受け入れる事さえ出来やしない。
けれど、衝撃を受けたのは私だけじゃなかった。
それまでずっとアリスにすがってうなだれていた蓬莱が、ふらふらと上海の方へと寄っていく。
何も聞こえない私から見たら、上海と蓬莱の間は全くの無言劇だ。だから、正確にどんな会話をしているのかは分からない。
でも。
全身を震わせて呆然と上海を見つめる蓬莱に、優しく笑って蓬莱の小さな手を握る上海の姿を見ていると、言葉なんか聞こえなくても。
私の心は、それだけで押し潰されそうに辛かった。
言葉の無いやりとりが何分も続く。私も霊夢も立ち入れなかった二人の間に入っていったのは、神綺だった。
「蓬莱も……上海の気持ちを分かって上げて。蓬莱にそう思って貰えただけで、上海は嬉しいんだから……ね」
神綺の言葉の後。
少しの間を置いて、蓬莱はぎゅっと上海に抱きついた。上海も同じように蓬莱を抱きしめ合う。
言葉なんか無くても、これは上海と蓬莱の別れの挨拶だって分かって。
私はもう、悲しさと後悔で……死にたくなった。
「全部、全部私のせいだ……! 私が……あんな攻撃しなきゃ……!!」
「魔理沙、あれは事故よ。それもどちらかと言うと、神綺には悪いけどアリスの側に責任のあった事故。そんな風に自分を責めるのが一番良くない。もし私が魔理沙の立場だったら、同じ事故を起こす危険は十分あったもの」
ずっと黙って私の横にいた霊夢が口を開き、神綺も少しの間の後に小さく頷いた。
「…………ああ、確かにそうかもしれないぜ。いつもみたいに全部アリスのせいにできれば、そりゃあ楽だろうな」
でも、他の事は全部アリスのせいにしても……これだけはしちゃいけないんだ。
事故だろうが何だろうが。
かつて私がアリスを殺してしまった事実だけは曲げられない。無かった事にしちゃいけない。
そんな時、神綺が私の肩に手を置いて言った。
「さっきの霊夢の言葉には一つだけ間違いがある。上海は消える訳じゃないわ……アリスちゃんと一緒になるの。だから今からやる儀式は、上海にとって結婚式と呼んであげても良い物なのよ」
「でも……そんなのって……そんなのって……!!」
止まらない涙を無視し、私は子供のように首を大きく横に振って神綺の言葉を否定しようとした。
だって……そんなのってない。
誰かを助ける為に誰かが犠牲になるなんてのは、私は嫌だ。
でも。
悲しそうに私を見つめる上海の瞳が私の視界に入って。私はもう、今度こそ……すっかり何も言えなくなった。
「そんな泣いていたら上海の一番大事な舞台が台無し。だから……参列者も祝福してあげて」
神綺の言葉を受け、上海の小さな手がアリスの身体に触れる。
「……じゃあ、家の周りの結界を解くわ」
その霊夢の言葉は、儀式の始まりを意味していた。
私達の姿をまるで焼き付けるみたいに見ている上海の側へ、うすぼんやりとした虹色の光が引き寄せられるように近づいていく。
蓬莱と、そして私を交互に上海が見る。上海を見送るんだから、本当は私も笑顔で手でも振ってやれば良いのかもしれない。
だけど……笑顔でなんかいられる訳がなかった。
代わりに私は、私は最後の一瞬まで目を逸らさずに前を向いて、見続ける。
アリスの器だからとかじゃない。
上海がそう決断したから、私は上海の晴れ舞台を見守るんだ。
上海は他の何かでいるより先に、まず上海なんだぞ……! そんな思いを込めて。
私の気持ちが上海に伝わったかは分からない。
でも。
小さな光が上海の身体に吸い寄せられ、消える寸前。
『ありがとう』
絶対に幻聴じゃない。
最後の瞬間、私に向けた上海の言葉を。確かに私は……聞いた。
そして。
上海は『人形』になった。
「……ここから先は、私の仕事。アリスちゃんを元気にしてあげられるのには、一週間位かかる。その間に、霊夢と黒白にやって欲しい事があるんだけど」
「やって欲しい事……って、何だよ……?」
「アリスちゃんに馬鹿な事を吹き込んだ人形がいるでしょう。そいつが二度と、余計な事を言わないようにして欲しいの。難しかったら言って、私が自分で何とかする」
何とかする。
そう言った神綺の瞳は、ぞっとするほどに冷たくて。
神綺に任せた場合、メディスンに何をするかは想像に難くなかった。
けれど、私が何か言うより先に霊夢が機先を制する。
「神綺が動くまでも無いわよ、レミリアに頼めば何とかなる。アリスとメディスンを、互いの運命の輪から隔離してくれってね。そうすれば二度と出会う事は無いわ。それこそ金輪際、永遠に……」
霊夢の言葉は、どこか寂しげだった。
メディスンにしても、アリスの事が憎かったり嫌いだったりして言った事じゃない。むしろ完全に逆だ。
誰に対しても平等に接する霊夢にとって、フェアじゃないと思うのは当然だし、負い目は私も感じる。
しかし、それでも。
「ああ……私も賛成だ。それが一番、互いにとって幸せだと思う」
勝手な判断だと誰に罵られても構わない。
私はもう、自分の目の前でアリスが死ぬのを見るのは嫌だ。
「そう……分かった、そっちは任せたわ。じゃあ私は魔界に戻らせて貰う。全部終わったらアリスちゃんを連れてくるわ」
神綺はそう言って蓬莱に何かを伝えた後、背中にアリスを背負い上海人形を抱いて立ち上がった。けれど、立ち去る前に神綺が振り返る。
「黒白に一つ聞きたいんだけど。あなたは、アリスちゃんの事をどう思っているのかしら。私の目から見ても、あなたは相当にお節介で世話焼きだと思うけど」
私がアリスをどう思ってるか……だって?
「そんなの決まってるぜ。世界中で一番、私はアリスの事が大嫌いだ」
迷わず私は即答する。神綺が目を丸くしていた。
「レアアイテム集めは邪魔されるし、どっか澄ましてるような態度も気に入らん。魔法の使い方や考え方もまるで理解できないからな。それに今日、今まで以上にアリスの事が嫌いになったぜ」
「差し支えなければ、理由を聞きたいわ」
理由なんか一つしかない。
「一度ならず二度も、私の目の前で死にやがって……! 三度目はもう御免だぜ、私より先に死なれてたまるか。あいつも少しは居合わせる奴の立場になれってんだ。良いか神綺、絶対に成功させろよ!」
それは私の切実な思いだ。
けれど、何故か神綺は苦笑いをしていた。
「そう。つまらない事を聞いたわね……『魔理沙』じゃあ私はもう行くから。戻ってきたら、これまで通りアリスちゃんと接してあげて頂戴」
「待てよ、私も一つ聞きたい。……そういうお前は、どうしてそんなにアリスの為に真剣になれる?」
「愚問ね。母親が自分の子供を愛するのに、理由なんか何もいらないわ」
振り返る事も無く、そう言い切って神綺は飛んで行く。
言われて私も気がつく。確かに……酷い愚問だった。
「それにしても……何が聞きたかったんだ、神綺の奴は」
妙な質問も気になるし、神綺に始めて名前で呼ばれたのも変な感じだ。
訝る私を見て、霊夢がぽそっと呟く。
「魔理沙、好きの反対は何か知ってるかしら」
「ん……嫌いだろ?」
「間違いね、正解は無関心よ。……じゃあ、私はこれからとりあえずレミリアの所に行くけど……魔理沙も来る?」
「当たり前だぜ」
真夜中に紅魔館を訪問するような物好きは普通いない。まして、空を見上げてみて分かったが今日は満月のおまけつきだ。こんな日に吸血鬼の館に行く奴は、命知らずのバカ位しかいない。
きっと殴りこみと勘違いされるだろう。
でもそれでも良い、この言い様の無い悲しさとやりきれない気持ちが……少しは紛れてくれるんなら。
私と霊夢は、真夜中の紅魔館へと向かおうとする。
が、その時蓬莱の姿が目に入った。
「どうする蓬莱……お前も一緒に来るか……?」
蓬莱をこの場所にたった一人留めて置くことは抵抗がある。けれど、蓬莱は家の周りをゆっくりと見渡した後に、首を横に振る。
何故か、その簡単な動作だけで私はこの時、蓬莱の言いたい事が全て分かった。
「……そっか、そうだよな。アリスが帰ってくるまでこの家を守っていないとダメだったか。つまらん事を聞いて悪かったぜ、宜しく頼むな」
蓬莱は小さく、けれど力強く首を一度縦に振った。
そして私と霊夢はアリスの家を出る。
私がそのまま箒にまたがろうとした時、霊夢は後ろを振り返って溜息をついていた。
「どうした、霊夢」
「魔理沙には話した事なかったけど……私がスペルカードルールを作ったのって、アリスみたいな事故をもう起こしたくなかったからなのよ。神綺と話し合って、ルールを決めてね……」
予想外の霊夢の言葉に、私は驚いて振り返った。
「それなのに、まさかスペルカードを使ってこんな事が起こるなんて……皮肉なもんだなぁ……と思っただけ」
寂しそうに霊夢が呟いていた。
「霊夢……」
「つまんない事を言ってる場合じゃなかったわね。じゃあ行きましょう、やる事は沢山あるんだから」
それ以上、私が何かを言う前に霊夢は紅魔館へと飛んで行く。
……色々な意味で私にとって、これから長くて永い一週間になりそうだった。
■大正と昭和の境界線
浮遊感、とでも言えば良いんだろうか。
ふと気がつくと、雲の上を歩いているようなふわふわした感覚の中で私は周囲を彷徨い歩いていた。
面倒な事も悩みも重力さえも何一つ無い真っ白な景色は、ちょっとしたメルヘンの世界のようで心地よくて、ずっとここに居ても良いとさえ思える程。
けれど不意に私の袖が引っ張られる。
「あら。上海……どうしたの?」
愛らしい、私の大好きな上海の姿がそこにはあった。でも、上海にはあまり似合わない、とても難しい顔をしている。
『アリスはもう帰らないとダメ。みんな、待ってるよ』
「そうかしら? 私の事を待ってるのなんて人形達とお母さんくらいのもんだと思うし、もう少し居ようかと思ったんだけど」
『そんな事ないよ。それに……いつまでもここにいたら本当に……帰れなくなっちゃうもん』
上海が小さく首を横に振った。こんな穏やかな所でずっと過ごすのも悪く無いと思うけど……でも味気ないのも事実だ。
読む本も無いし、霊夢もいない。
魔理沙は……永遠にいなくて良いけど。
「分かった、上海がそんなに言うなら帰るわ」
私の言葉に上海は嬉しそうに、それでいてほんの少しだけ寂しげに微笑んだ。
帰り道は知っているから、私はそちらに足を向けて歩き出す。……けど、ふと後を振り返ると上海がついてきていない。
たった一人、向こうでポツンと立ち尽くしたままだった。
「何をしてるの上海? あなたも早く来なさい」
声をかけても、上海は言葉を返さず困ったように小さく首を横に振るだけだったので私は迷わず、上海の立っている所まで戻る。
「ほら上海、一緒に帰りましょう。私に帰るように薦めておいて、あなただけが残る法は無いわ」
私は上海に手を差し出す。
けれど上海は俯いて、首を小さく横に降った。
『……できないの……だから、アリスは一人で行って……』
「冗談を言わないで上海。できないって、何故?」
上海の真意を掴めず、私はつい怪訝な顔で上海を睨んでしまった。
けれど上海の俯く視線の先を見て、私はその言葉の意味を知る。
上海の両足には棘のびっしりついた植物の蔓が何重にも巻きついていたんだから。
「何よこれ……早く言いなさいよ上海。見てなさい、こんなもの……!」
私はおもむろに、蔓を力任せに引き抜く。
棘が私の手のひらや甲へと突き刺さる度に、私は顔をしかめた。
でも、そんな事は気にならない。上海は私の大切な大切な子だ。一人で置いていけるわけが無い。
『アリス、ダメ……!』
「良いから黙ってなさい、上海……っ、っつ!」
思っていた以上に棘は酷く食い込む。でもそんな物がどうでも良い。頭の奥へと突き抜けるような痛みを耐え、私は一本また一本と引き抜いていく。
「これで……最後、よっ……!!」
そして、私は上海の枷になっていた全ての蔓をすっかり引っこ抜いた。
上海を縛るものは、これでもう無い。
「これまでもこれからもあなたはいつも私と一緒。そう約束したでしょ? さあ……おいで上海」
痛みを我慢して、私は傷だらけの手を再び上海に手を差し出す。
『…………アリス』
上海の小さな瞳から、ぽろぽろと涙が溢れていく。
それ以上、上海は何も言わない。
ただ私の胸に飛びつき、ぎゅっと強くしがみつく事が上海の答えだった。
「ああもう……泣くこと無いじゃないの。あなたの一番大きな欠点が見つかったわ。甘えるのが下手なのよ、もっと甘えなさい……。じゃあ帰りましょう上海、私達が本来いるべき場所に」
その意思を持って目を閉じ、上海を抱いて頭を撫でてあげながら私は歩き出す。
次に目を開けた時にあるだろう、賑やかで騒がしい世界を思い浮かべながら。
■睦月/昭和二年の上海アリス
「よお、寝ぼすけ」
「……うわ」
目を開いて最初に私の視界に入ったのは、魔理沙の顔だった。
寝起きにいきなりこんな顔を見るとは、今日は厄日確定だ。
「っていうか、何であんたがこんな朝っぱらからうちにいるの。私はこれからケーキ作りの仕込みがあるんだから、とっとと出てけ。クリスマス終わったらどーするのよ」
お菓子作りは只の趣味だけど、邪魔されるのは腹が立つ。
けれど、魔理沙はにやにや笑いながら肩を竦めた。
「アリスのお楽しみを打ち砕くようで悪いんだが、今日はもう正月だぜ? つー訳で、新年明けましておめでたいアリスの頭に乾杯だ」
にゅっと魔理沙が一升瓶を突き出した。
おめでたいのは私じゃなくて、魔理沙の頭でしょうに。それも一年中。
って……は?
「ちょ、ちょっと待ちなさい魔理沙。今日が正月って何の冗談!?」
私がベッドから飛び起きると、体の節々が痛かった。
「何だ何だ、全然覚えて無いのかよ? しょうがない、私が説明してやるか。あれは、一週間前の真昼間だったか。ケーキ作りに勤しんでるアリスの隙をついて、半分ばっかしつまみ食いしたんだが」
「半分って……間違っても、それはつまみ食いとは言わないと思うけど」
私の突込みを見事に無視して、魔理沙の説明は続く。
「そしたら何故かお前が逆上して弾幕り合う事になってなぁ。でも、びっくりしたぜ。私の完勝なのは当然としても、お前の頭に当ったせいで全然意識が戻らないんだ。流石に私も驚いた、死んだかと思ったぜ」
『何故か』とか『当然』とか色々と腹の立つ単語は多いけれど、とりあえずは、その時の状況を思い出そうとしてみる。
そんな光景は全く私の記憶には無かったけれど、確かに頭は少し痛い。
「今一つ信じられないんだけど……じゃあ本当の本当に今日は正月で、私は一週間丸々寝てたわけ……?」
確かに、関節が痛くなる位だからしばらく寝っぱなしなのは間違いないけど……それにしたって俄かに信じろというのは無理だ。
「信じられないなら後で霊夢の神社に行ってみろよ、初詣やってるぜ? 参拝客も二桁位は来てるぞ、無論十の位は一だが」
事も無げに言った魔理沙の台詞は、参拝客の人数まで込みでやけにリアルだった。神社に行けばすぐばれる嘘ついても意味は無いだろうし。
……うわあ、最悪だ……。万年爆睡のスキマ妖怪をこれじゃ笑えないじゃない。
「ん? でもだからって、何で魔理沙がうちにいたのよ」
「流石にほったらかす訳にもいかんだろ。ちょくちょく様子見に来たんだよ」
帽子をクルクルと指先で器用に回しながら、魔理沙はバツが悪そうに答える。
へえ……。それは少し意外だった。魔理沙の事だから完全に放置されるかと思ったけれど、多少は責任感じたのかしら。
「ああそうそう。腐らせるのも何だからアリスん家の食料、色々と拝借させて貰った。ちなみにケーキの残りもしっかり食ったぞ、美味かったぜ」
前言撤回。少しでも感心して損したわ。
「蓬莱、あなたにも心配をかけたわね。ちょっと着替えを持ってきて」
傍若無人の象徴みたいな魔理沙は放置し、いつものように蓬莱に身の回りの事を頼んでから、私は部屋のカーテンを横に引いて窓を開ける。
蓬莱は大きく頷いて、大急ぎで飛んで行く。
見上げれば、空は雲一つ無く晴れ渡っていた。
今だぼんやり気味の私の頭に、真冬の強烈な寒気は少々心地良くさえ感じる。
……それにしても。
「一週間も寝てたんだから当然かもしれないけど……何だか随分長い夢を見てた気がするわ。どんな夢か全然覚えて無いけど……」
頭を捻ってはみたけれど、碌に何も思い出せやしなかった。そんな事をやってると、魔理沙が側までやってくる。
「そりゃ夢ってのはそういうもんだからな。余計な心配ばっかしてると禿げるぜ?」
わしゃわしゃと、撫でてるんだか弄り倒してるんだが分からない魔理沙の手が、私の髪をかき回す。
――そんな魔理沙の仕草がいつも邪魔で、うっとうしい事この上ないと。私は確かに思っていたはずなのに――
何故かとても懐かしく暖かい気がして。
粗雑でガサツな魔理沙の手を、どこかくすぐったく感じながら。
「……」
私はどうしても普段のように魔理沙の手を弾く気にならず、ただ黙って目を閉じ、されるがままになっていた。
けれど、魔理沙の手がすっと私の頭上から離れる。
「…………な、なんだよアリス。うっとうしいって、てっきりすぐ止められると、思ってたんだ……けどな。調子狂うぜ……」
掠れるような魔理沙の声に見上げ、私は軽く驚いた。
魔理沙の瞳に溜まっている大粒の涙を見たから。
「……? 何を泣いてんのよ、魔理沙」
「うっさい、あんまりこっち見るな。昨日は本読んでて碌に寝てないから、欠伸した……んだよ……」
トレードマークの黒帽子を深く被り直し、魔理沙は横を向いてしまった。だからそこから先の魔理沙の表情は分からないけれど。
窓からの日の光に反射して、頬をつたって流れ落ちる魔理沙の涙の輝きを、私はただ黙って眺めていた。
【大正十五年の上海アリス 完】
旧作と現在の間にあるアリスへの矛盾への答えは、きちんと納得できるものでした。
最後のシーンで、頭を撫でられているアリスが、上海にダブります。
誰も悪くない、だけど起こりえるのが悲劇なんですよね。
とにかく、優しくも悲しい物語をありがとうございます。
考え抜かれた設定は非常に興味深いです。読み物としても面白かった!
お疲れ様でした!
ただ一つ、魔理沙と神綺、霊夢の押し問答が少し長すぎだったかなと思いました。
時間があまり無いという切迫した場面ですので、削れるところは削って欲しかったと。
しっかりお母さんしてる神綺様が良いですね。
旧作キャラを出すチャレンジ精神も素直に素晴らしいと思います。そんな私は魔界メンバーのファン。
はね~さんの創造力が次回作を産むと信じて…! ご執筆有り難うございました!
あと、後書きにある疑問点について私なりの回答を。でも人によって違った解釈はあるでしょう。
A1.旧作でも人形らしきものは使っているようです。(怪3面)
A2.経時による成長です。捨虫の魔法で完全な魔法使いになるまでは普通に成長します。
A3.最強魔法でも負けたので挫折したのだと思われます。人生の転機ってやつです。
A4.元人間の魔法使いですね。魔界人というのは魔界住人の総称(種族不問)ととらえるのが自然かと。
A5.(保留)
A6.メタな話をすると神主の思いつきでしょう。作中設定では簡単に言うと妖怪が気軽に
巫女と戦えるように。人間が妖怪と対等に戦えるように。といった理由だったはず。
A7.強者は興味ないのではなく、長く生きて見慣れた現象だから動かなかったのです。
また、アリスは森の中にひっこんでいたので異変に気づかなかったのだと思われます。
A8.元人間ゆえに人間への親和性が高いことが理由となるでしょう。萃香はアリスが元人間だった
ことをあの時点で知らなかったと考えればあの発言は不自然ではないでしょう。
しかし神綺さまがあまりに無責任であること、アリス自身の問題は全く解決して無いのが気になります。同じことの繰り返しになるだけのような。
俺の解釈では霊夢と魔理沙は旧作とWin版では別人で時代そのものが違うという解釈をしていましたが、確かにこういう可能性もありえますな
ちなみにこういう考えをすると60年周期で訪れる花の異変をアリスは全く異変と感じない、つまり既に経験済みであるとして説明できます
しかし、魂の劣化は止められず、最終的には消滅してしまう
はてさて、魂を輪廻に入れて転生するのと仮初めの永遠を生き、存在が永久に消滅してしまうのとでは、どちらが幸せなんでしょうねぇ
果たしてこの真実を隠すことが本当にアリスのためなのか。他に本当に手段は無かったのか等々。
スペカ設定周辺などに違和感がありましたがまあ些事ということで。
あと、神綺様と夢子ちゃんに出番を下さってありがとうございますw
さて、アリスは怪→妖の間を考えるのが面白いと思うのですが、この題材の作品をあまり見ないのは
スタート時点が旧作時代だからなんでしょうね…
紅の霊夢設定文によると旧作とwin版は大して時間を経ておらず、更に神主回答によるとアリスと旧アリスは
同一人物だそうなので、アリスは何年も経たないうちに大きくなったようで。
私は普通に成長したんだと思ってます。捨虫の魔法がまだなら普通に成長しますから。
win版で霊夢が変わったのなら同じ程度アリスも変わっていいかと。
ちなみに怪綺談ジャケ絵(海外版東方wiki参照)だと靈夢と旧アリス同い年ぐらいに見えますが如何に。
旧アリスがロリっぽいのは多分に作中のあの服装のせいだと思っとりますw
実際は本当にロリで、win版の姿は魔法での見せかけという説もあるようですがそれはそれで面白いですねw
ビバ・アリマリwww
またこのような事態が起きてしまうのではないでしょうか?
そうなった場合、また誰かを犠牲にしてアリスを生かすのでしょうか?
自分の体を失い、上海を失い(例え意思は受け継がれても失った事は事実)、メディスンを失い、魔理沙は罪悪感を抱えたまま。
本来なら他の方のように設定などの話をした方がいいでしょうし、
ハッピーエンドが良い、とはまったく思っていませんが・・・
これでは余りにこの後のアリスの未来に希望が見出せません。
「あくまでアリスへの疑問に対する答えを示す物語であり、結末はどうでもいい」という事であれば別ですが。
本当にアリスはアレで幸せなのでしょうか?
それと魔理沙の旧作でのセリフに少し違和感があるような・・・?コレばっかりは少ししか分かりませんが私はそう感じました。
アリスの記憶をまた封印して、それで生きながらえる。そしていつかまた同じことがまた起きるのではないでしょうか?また誰か人形を犠牲にして生き延びるのでしょうか?これ以上は↓で色々な方々が言われているので追求しませんが、自分はハッピーエンドがよかったなぁ と一言。
アリスにとって、記憶を封印しておくことが一番良い結末だったのか。
失ったものがあって、得たものが何も無いのはやはり寂しいと感じてしまう。
ですが、それしか方法が無いのなら……これも一つの幸せなのかもしれませんね。
色々と考えさせられる作品、手腕に感服致します。
旧作では、ストーリーで人形らしき物は使ってましたね。(使い魔かもしれませんが)
意外と旧作アリスは捨てられていたところを、魔界に拾われた人間の子供だったりして。(後に魔女へ)
妖々夢のアリスの会話から、過去に会っている設定になっているのは間違いないと思います。
それが怪綺談に繋がっているかは分かりません。
旧作とwin版はどれぐらい繋がりがあるのか分からないので、幾ら考えても無駄なわけですが。
花映塚の対戦モードで、幽香を相手にした時も昔を漂わせる会話があるのでゼロでは無い気がするけど。
霊夢・魔理沙・神綺の優しさと悲しみが、アリスの幸せに繋がることを祈っております。
お疲れ様でした、そしてありがとうございました!
私はこんな終わり方もありだと思います。ハッピーエンドも好きですが、救いのない物語もそれはそれでありだなぁと。世の中そうそううまくいくものではないですし。なんにせよお疲れ様でした。
難しい事も考えさせられる作品ですが、それに関しては敢えてノーコメで…人それぞれだし、語っても上手くまとめられないし、無駄に長くなるので。
単刀直入に純粋な感想を言わせてもらえば、良いモノを読ませていただきました。
アーティフィシャル・チルドレンは何度も聞いてたので、途中で何となく気付いてたり…。
良い感じにリンクしていたと私は思います。
ですが、私にはどこか神綺のやったことに違和感が、
死んだ子供の肉体を作り変え、記憶を封じ、性格さえも都合のいいように弄る
親が持つ子への愛というよりは、昔話によくある死者蘇生の失敗話のような失ったモノへの妄執といったものを感じました。
健気さに悶えたり、ラストはハッピーエンドとは言えないでしょうが、
上海はアリスの中にいるということで……
次回作も期待して待ってますっ!!!
良い作品をありがとうございます。