晩秋も終わりに差し掛かったある日、霖之助はいつものように店の中で商品の手入れをしていた。時刻は正午の少し前と言ったところだろうか。今日は昨日より又、一段と肌寒いように感じる。
きっと北風が強いせいもあるのだろう。それこそ本格的な冬の訪れを感じさせる強い北風が、そこらじゅうの枯れ葉を吹き回していた。俗に言う木枯らしというやつだ。
彼はその木枯らしの吹きすさぶ音を聞きながら、いよいよ彼女が姿を現す頃なのだという事を、ひしひしと感じていた。
不意に入口のドアが開く音が聞こえた。人影があるところを見ると、どうやら風の悪戯というわけではなさそうだ。彼はその客を出迎えるために店の玄関へと向かった。
「いらっしゃい……って君達か」
客の正体は、文とにとりだった。
「こんにちはー! 今日は寒いねー」
そう言って、にとりは霖之助に対して一礼する。
彼女は、文ほどではなかったものの、割と礼儀は正しい方だった。
時折、態度を急に変えたりする時もあったが、霖之助は「それは河童という種族の特徴みたいなものなんだろう」と思って気にしてはいなかった。
なんでも彼女曰く「河童と人間は古くからの盟友なのだ」とのことらしい。
故にハーフとは言え、人間の血を引く霖之助には好意的なのだという。
彼はその理由に少し疑問を感じたが、友好に接してくれる分には何ら問題ないと思い、特に口出しはしなかった。
「二人とも、外は寒かっただろう? 今、お茶でも出すから奥の部屋で待っててくれ」
彼は、挨拶もそこそこにして、二人を店の中へと案内する。
にとりは、先日の一件から、この店が気に入ったのか、文と一緒にちょくちょく遊びに来るようになっていた。
特に彼女は、機械いじりが大好きなので、店の奥にある倉庫に行って、めぼしい物を見つけては、それを解体したり修理したり、時には改良まで施していた。そしてその都度、機能等の説明を自慢げにするのだが、例によって専門用語ばかりなので、霖之助達にはほとんど理解出来ていなかった。
彼女が修理した機械は店頭に出したり、物によっては彼女がそのまま持って帰ったりしていたため、足の踏み場もなかった倉庫の中も、今では見違えるほど綺麗になっていた。
そのかわり店頭の商品が増えてしまったのだが、それは霖之助にとって悪い事ではなかった。しかし、たまに来る霊夢や魔理沙にとっては、ただでさえ狭い店の中が、更に輪をかけて狭くなってしまったのでかなり不評なようなだったが。
「……で、今日はどうしたんだい?」
彼が二人にもてなしの緑茶を差し出すと、にとりは急いでそのお茶を口にする。そして彼女はひとしきりお茶を飲み終えると一息つく。
どうやら外は相当寒かったらしく、文の方も湯飲み茶碗を両手で持って手のひらを暖めているようだった。
「どうやら、外は大分寒いみたいだね」
「……ええ、でも私達天狗は寒さには平気なんですけどね」
文はそう言ってお茶をすする。
「なるほど……じゃあ……」
霖之助は店の奥から小さな八卦炉を取り出してくる。それを見たにとりが思わず指を差した。
「あ、それって……前、山に来た人間が持ってた奴と同じだ!」
「あぁ、もしかして魔理沙の事かい? あの八卦炉は僕があげたものだからね。これはそのレプリカさ。だからあそこまで強い力は持っていない」
彼が八卦炉に火をともすと、たちまち部屋の中を暖かな空気が包み込む。
「でもこうやって、暖を取る事くらいは十分可能だよ」
「おぉー!」
にとりは嬉しそうに、八卦炉へと近づく。彼女の場合、暖かさというより八卦炉そのものへの興味の方が大きいのだろう。
「さあ、君もこっちに来て暖まったらどうだい?」
彼は離れている文をこっちに誘う。しかし、彼女は何か考え事をしていたのか、霖之助の呼びかけに気づかなかった。彼の二回目の呼びかけでようやく文はこっちの呼びかけに気づく。
そういえば今日の彼女はいつもほど顔色が良くなく、どことなく元気がなさそうに見えた。霖之助はてっきり寒さのせいかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「どうかしたのかい? なんか元気なさそうだけど……」
「……あ。はい、すいません」
そう言って彼女は気を取り直したように八卦炉の方へと近づく。
霖之助は何か悩み事でもあるのだろうかと思ったが、正直、天狗がどんな事で悩むものなのか見当もつかなく、彼は尋ねようにも尋ねられなかった。
一方のにとりは、八卦炉のそばでおいしそうにお茶をすすり、幸せそうな表情を浮かべている。どうやら彼女の方は、いつもどおりのようだ。
霖之助は思い切って、彼女に小声で聞いてみる事にした。
「……彼女、元気なさそうだけど……どうかしたのかい?」
彼の言葉に気づいたにとりは、同じくひそひそ声で言葉を返す。
「あぁ……そうそう、文がね。あんたに聞いてみたい事があるんだって」
「僕に……?」
「うん。なんでも、あの傘を持ったヒラヒラ妖怪になんか言われたらしいよ?」
「ヒラヒラの……ああ、彼女か……」
傘を持ったヒラヒラ妖怪とは言うまでもなく紫の事だ。
霖之助は思わず顔をしかめる。彼は彼女のことを苦手にしているのだ。
文字通り神出鬼没で、つかみどころのない雰囲気、人の中を見透かしたような態度、そして何よりも胡散臭い。
もっとも妖怪という存在は大概皆、扱いにくいところを少なからず持ちあわせている部分があるのだが、彼女の場合はそれがより顕著に表れていた。とは言え、それは同時に彼女――八雲紫という妖怪が、いかに強力な力を持つ存在であるかを物語ってもいるのだ。
彼女の『境界を操る程度の能力』は極めて強大な能力である。その気になれば、この幻想郷なんて、いとも簡単に潰す事も可能だろう。
極力なら彼は彼女に関わりたくなかった。だが、霖之助は紫の世話になっているというのも事実だった。と言うのも彼が普段使っている燃料などは、すべて彼女から調達しているのだ。
紫は幻想郷と外の世界を自由に行き来することが可能だ。故に幻想郷では手に入りにくいもの、例えば石油やガソリンといった燃料の類も持ち合わせていた。
更に彼女は、外の世界についても詳しかった。外の世界の事を語らせたら幻想郷で右に出るものはいないだろう。 きっと、この店にある商品の事も紫ならすべてわかるはずだ。しかし、霖之助は、決して自分から彼女に尋ねようとはしなかった。
なにしろあの胡散臭い紫の事、本当の事を言うとは限らないし、場合によったらとんでもないデマを吹き込まれる事だって有り得ると思っていたからだ。実際、彼は彼女に既に何度かデタラメな事を吹き込まれた経験がある。そんな彼女から果たして文は何を言われたというのだろうか。
彼は文の正面に座り直すと改めて尋ねた。
「にとりから聞いたよ。紫に何か言われたんだって?」
「あ、はい。……実はその事であなたに聞きたい事があって……」
「僕に? 一体何だい」
「あの……その前にちょっと見てほしいものがあるんですけど」
「ふむ?」
文は、にとりのリュックから薄い鉄板のようなものを取り出す。その板はほとんどが錆びてしまっていて一見何だかわからなかったが、よくよく見ると表面に文字が書いてあるようだった。
「これは……看板のようだね」
「はい。それはわかるのですけど……ちょっと書いてある文字読んでもらってもいいですか」
霖之助は目をよく凝らしてその表面の文字を読み取った。
「何々……『テングランド この先右折』……って書いてあるみたいだ」
「ええ、そうなんです」
「どうしたんだい。これは」
「山の中に落ちていたんですよ」
「それをどうして僕のところに?」
「はい、あなたにテングランドとは何なのかを聞きに来たんです」
「……は?」
思わず霖之助は目が点になってしまう。
「いえ、私も自分なりに情報収集はしたんですよ。他の天狗達にも勿論聞いて回りましたし、博麗巫女の所に行ったり、更に偶然通りかかった式の猫にもたずねたりと……でもめぼしい情報は手に入りませんでした」
「……まぁ、そうだろうね。他の天狗達はともかく、その二人には聞く事自体間違ってると思うよ」
「やっぱりそうですよね。私も尋ねてから思いました」
そう言うと文はにこりと笑う。例によって悪びれた様子はない。
「……でもどうしてそこまでして知りたいんだい?」
とたんに彼女の顔が真剣なものに戻った。
「……実はこれを見つけたとき、そばにあのスキマ妖怪がいて、この場所に行った事があるって言ってたんです」
「なるほど、ここで彼女ってわけか……それで彼女はここがどんな場所だと?」
「それが『人間に捕まった天狗たちが見世物にされてる場所』との事なんです……もしそれが本当ならとんでもない事ですよ」
彼女の語調は自然と強くなっていた。無理もない、自分の種族が危険にさらされてる話を聞いて平然としていられる方がおかしいだろう。とは言え霖之助はその『テングランド』という場所についての情報を知らなかった。いや、むしろ外の世界にそんな場所があることすら聞いたことがなかった。
「……それで色々と博識なあなたなら、きっと何か知っていると思って聞きに来たんです」
「……そういうことか」
「ねぇ、文はあんたを頼りにしてるんだよ。力になってあげてよ」
にとりはそう言いながら二人の横で、なにやら機械を弄っている。どうやらいつの間にか倉庫の中から取り出して来たらしい。
「ふーむ……」
さてどうしたらいいものか。いよいよ霖之助は困ってしまう。
文は期待の眼差しで霖之助を見つめている。
自分が頼りにされているのは悪い事ではない。とは言えその期待に応えられないとなるとなんとも格好がつかない。せっかく二人は自分を頼りに来たというのだから、ここはせめて何か助言だけでも与えてやらねばいけないところだろう。彼はそう結論付けると、意を決したようにお茶をぐいっと飲み干し、静かに口を開く。
「……事前に断っておくけど、これから僕が言う事は、今までの経験と知識に基いた上での予想に過ぎないが、それでもいいかい?」
「ええ、是非!」
そう言って頷いた文の目は真剣そのものだった。
「よし、じゃあ始めよう。まずはその名称からみた考察だ」
「はい、お願いします!」
文はそう言うと座ったままで霖之助に対して一礼する。
「テングランド……その名前からして、天狗になんらか関係する場所なのは、ほぼ間違いないだろう」
「はい、それには異論ありません」
「問題は、それがどんな場所なのかって事だ」
「ええ、そうです」
文はメモを取り出して彼が言う言葉を記しながら相槌を打っている。その姿はまさに取材中の記者そのものだ。
「……もう一度聞くけど彼女は『人間に捕まった天狗たちが見世物にされてる場所』と言ったんだね」
「はい! もしそれが本当ならば大変です」
「……ふむ、だがちょっと冷静になって考えてみてくれ。果たして天狗が、そう易々と人間に捕まるものだろうか」
「……う~ん、どうでしょうか。私は外の世界のことはよくわからないのですが、噂によると、この幻想郷よりは文明が発達してると言う事ですし……あるいは……」
「いや、僕の意見としては、人間に天狗を捕まえる事は不可能だと思う」
霖之助の言葉が彼女の言葉を遮った。
「その根拠は?」
すかさず文が彼に問うと、霖之助は堰を切ったように語りだす。
「確かに外の文明はここより発達している。それはこの幻想郷に流れてくるモノを見れば手に取るようにわかる。だが、それでも人間に天狗を捕まえるのは容易な事じゃない。なにしろ天狗はとにかく素早いし、普段は滅多に姿を現さない。そして人と同等以上の知能も持っている。他の動物を捕まえるような感覚では絶対に捕まえる事はできないだろう」
「……たしかに天狗が、そう簡単に人に捕まるとは思っていません。けどあのスキマ妖怪は……」
「……まぁ、彼女の言った事は、この際ひとまず置いておこう。それが真実とは限らないし」
霖之助はそこまで言うと、おかわりしたお茶を飲んだ。それを見て文もお茶を一口ほど口に含む。
「……いや、むしろ、僕は彼女の言った事は嘘だと踏んでいる」
「え、嘘……ですか? 彼女が?」
「そうさ」
驚く二人は尻目に彼は続ける。
「第一、僕は今までそんな話や情報を聞いたことがない。もし、彼女が言った事が本当なのならば、それに関する資料の一つくらい、こっちに流れ着いてもおかしくないだろう」
「……確かにそうですが、逆にこうは考えられませんでしょうか?」
「なんだい?」
「この件が一部の人にしか知らないような秘密事項で、公の場には決して出ない事であり、よってこの世界には情報が一切流れてこないと」
文は身振り手振りを加えながら、霖之助に意見を披露する。
彼は腕組みし相槌を打ちながら彼女の意見を聞いていた。
「……なるほど、確かにそういう考え方もある。だがそれなら尚更だ」
「……と、言いますと?」
「実は向こうで秘密裏にされたものほど、こっちに流れ着いてくる可能性が高いんだ。現に僕はそれらしいものを何回か見つけたことがあるしね。大抵は書類の束みたいなのばかりで、内容も僕にはまったく関係ない事だから、別に拾ったりはしてないけど」
「う~む、なるほど……それは盲点でした」
彼女はそう言って思わず自分の頬をかく。
「以上のことから、天狗が人間に虐げられているなんて、言ってしまえば事実無根なわけだ」
「……確かに言われてみればそうですね。火のないところに煙は立たぬといいますし……」
「うん、いい言葉だね。むしろ今回の場合は火も煙も立っていない。あるのは外の世界に詳しい彼女が言ったという事実しかない。つまり物的証拠は何もないに等しいんだ」
「おぉ! 言われてみればその通りかも! やっぱあんた頭いいね!」
彼が一通り意見を述べると、にとりはさも感心したように拍手をする。
「……いやいや、これはあくまでも僕の推測に過ぎないからね……そこは忘れないでくれ」
にとりの賛辞に霖之助は思わず恥ずかしそうに手をかざす。
「で、あのスキマ妖怪が言った事が嘘となると……次に問題になってくるのは……」
「わかった! この看板の材質が何なのかって事?」
「へ……?」
彼女の突然の割り込みに文はあっけに取られてしまっている。
そのにとりは看板を指で突っついたりしながら真顔で霖之助を見つめていた。
「……あ、ええと材質かい? この看板の?」
「うん!」
にとりはさきほどの文のように期待の眼差しで霖之助の答えを待っている。
「……ああ、それはね。多分、ただの薄く延ばした鉄板だと思うよ。この店にも似た看板あるし」
霖之助は、いたって冷静に彼女の質問に答えた。
「ほうほう、そうなのか。んじゃ、外の世界では鉄の看板が主流って事なんだね」
「うん、まぁ、そう言えるね。何せ鉄は銅より頑丈だし、加工も比較的容易だ。おそらく外の世界では、入手も簡単なのだろう。その証拠に鉄製の商品もこの店に沢山あるし……」
「おー! そうなのか! 例えばどんなの? どんなの?」
あらぬ方向に進んでしまった二人の会話を文は明らかに不満そうな表情で聞いていたが、やがて痺れを切らしたのか口を挟んだ。
「あの……二人とも、話が脱線してる気がしますけど……」
文の言葉に霖之助とにとりは思わず苦笑を浮かべる。
「……失礼。話を戻そう。気を取り直して次に問題となってくるのは、このテングランドとはどんな場所なのかと言う事だよ」
「ですよね」
彼の言葉に文はそう言って頷く。
「ちなみに、参考ながら君はどう推測する?」
「……そうですね」
彼女は腕組みをして目を閉じた状態で暫く黙り込む。そして、やがて彼女はすっと目を開けると静かに喋り出した。
「……まず結論から言いますと、テングランドとは山全体を祀る社のようなものかと思います。その理由としては、天狗は山に住む存在であること。それに天狗は人間にとっては山の神様であり信仰の対象であることなどです。天狗は進んで人と馴れ合う事はまずありません。よって人と天狗の接点を考えるとなると私にはこれしか考えられないのです」
意見を述べている間の彼女の目は、すごく真っ直ぐで澱みがない、所謂、論客の眼差しだった。
実際、彼女は頭もいいのだろう。でなければ新聞記者なんてつとまらないものだ。
「ふむ、なるほど……」
霖之助は彼女の意見に思わず頷くと三度おかわりしたお茶を口に含む。
「それじゃあ……次に君はどうだい?」
「へ、私?」
急に話を振られたにとりは、思わず目を丸くして霖之助を見る。
「せっかく同席している事だし、河童としての君の意見も聞いてみたいんだ」
「うーん。そうだなぁ……山にあるってのは文と同じ意見なんだけど、なんて言うかなぁ、天狗をモチーフにした遊園地みたいな感じかな?」
「遊園地…かい?」
「そうそう、前に外の世界では機械を使った遊具があるってのを本で読んだ事があるんだけど。ちなみにいつか再現させてみようかなって思ってるんだけどね。んで、その遊具があるところが、なんとかランドって名前だったんだ」
「なるほど……つまり、天狗そのものは一切関わってないというわけかい?」
「ん、まぁ……そうなるかな……?」
にとりは言葉を濁らせて自信なさそうに目線を下に向けてしまう。
一方、文と霖之助は思わずお互い顔を見合わせていた。
「ご、ごめんなさい。全然的外れだったよね……?」
「にとり、何であろうと、まず自分の意見にはもっと自信持つべきだと思うわ」
「うん、もっと自信持っていいと思うよ。実際、その意見は非常に参考になる」
「ええ……それってどういうこと?」
二人は驚いて思わず霖之助の方を向く。
「どうやら僕達はテングという言葉にとらわれ過ぎていたようだ。君の言う通り、ただ単に、天狗をモチーフにしただけの娯楽施設という可能性も大いにありうる……」
そう言いながら、霖之助は本棚から古ぼけた薄い雑誌を取り出すとパラパラとページをめくり始めた。
「ちょっとこれを見てくれないか」
「これは何ですか?」
「向こうの世界から流れ着いてきた雑誌だよ。どうやら娯楽場についての事が記されているみたいなんだ」
「あ! これ前に本で読んだ事ある遊具だ!」
にとりは思わずその記事の写真に指を差して叫ぶ。
「この娯楽場はどうやらをこのネズミをモチーフにしたキャラクターをテーマにしたところらしい。ちなみにここの名前もなんとかランドという名前なんだ」
「なるほど……それにしても写真で見る限りすごい人だかりですね……人間はこんな鉄の塊の遊具を建造するほど娯楽に飢えてるのでしょうか…?」
メモを取っていた文が思わずつぶやいた。
すかさず霖之助が答える。
「人間は妖怪と違って、自由に空を飛んだりは出来ない。故に普通では味わえないスリルを手に入れようとしてこういった大型の遊具施設を建造するんだろうね、これだけ人だかりができているということはそれが受け入れられてるという証拠だろう」
「なるほど……ところで話を戻しますが……このテングランドも同じような施設であると考えていいのでしょうか?」
「うん、その可能性は高いだろう。ただ、もう一回言うけど、これはあくまで僕の推測なんだ。だから、必ずしも事実とは限らないよ。現にこの看板が幻想郷に入ってきた理由は定かじゃないし」
「でも、あんたの言う事は妙に説得力があるんだよね。つい、本当にそうなんだと思い込んじゃうよ」
「私も同じくですよ」
「まぁ、そう思ってくれるのはありがたいけどね……」
「よーし! 見てて文、この私が遊具施設をい~っぱい作って幻想郷にテングランドを再現して見せるから!」
沢山の遊具の資料を見てエンジニア魂に火がついたのか、にとりはそう言って拳を突き上げる。
その様子を二人は苦笑しながら見ていた。
それから数日後
「おや、二人とも今日はどうしたんだい?」
「あの、にとりがあなたに聞きたいことがあるとか」
「へぇ……」
「あのさ、ヒラヒラ妖怪が言ってたんだけど、ここって河童を収監してる場所っての本当? あんたなら知ってるって言われたんだけど」
そう言って彼女が出した看板にはこう書いてあった。
『カッパピアへようこそ!』
それを見た霖之助はため息をつき思わず呟く。
「……また紫か」
その時、彼はすぐそこで紫がほくそ笑んでいるような気がした。
きっと北風が強いせいもあるのだろう。それこそ本格的な冬の訪れを感じさせる強い北風が、そこらじゅうの枯れ葉を吹き回していた。俗に言う木枯らしというやつだ。
彼はその木枯らしの吹きすさぶ音を聞きながら、いよいよ彼女が姿を現す頃なのだという事を、ひしひしと感じていた。
不意に入口のドアが開く音が聞こえた。人影があるところを見ると、どうやら風の悪戯というわけではなさそうだ。彼はその客を出迎えるために店の玄関へと向かった。
「いらっしゃい……って君達か」
客の正体は、文とにとりだった。
「こんにちはー! 今日は寒いねー」
そう言って、にとりは霖之助に対して一礼する。
彼女は、文ほどではなかったものの、割と礼儀は正しい方だった。
時折、態度を急に変えたりする時もあったが、霖之助は「それは河童という種族の特徴みたいなものなんだろう」と思って気にしてはいなかった。
なんでも彼女曰く「河童と人間は古くからの盟友なのだ」とのことらしい。
故にハーフとは言え、人間の血を引く霖之助には好意的なのだという。
彼はその理由に少し疑問を感じたが、友好に接してくれる分には何ら問題ないと思い、特に口出しはしなかった。
「二人とも、外は寒かっただろう? 今、お茶でも出すから奥の部屋で待っててくれ」
彼は、挨拶もそこそこにして、二人を店の中へと案内する。
にとりは、先日の一件から、この店が気に入ったのか、文と一緒にちょくちょく遊びに来るようになっていた。
特に彼女は、機械いじりが大好きなので、店の奥にある倉庫に行って、めぼしい物を見つけては、それを解体したり修理したり、時には改良まで施していた。そしてその都度、機能等の説明を自慢げにするのだが、例によって専門用語ばかりなので、霖之助達にはほとんど理解出来ていなかった。
彼女が修理した機械は店頭に出したり、物によっては彼女がそのまま持って帰ったりしていたため、足の踏み場もなかった倉庫の中も、今では見違えるほど綺麗になっていた。
そのかわり店頭の商品が増えてしまったのだが、それは霖之助にとって悪い事ではなかった。しかし、たまに来る霊夢や魔理沙にとっては、ただでさえ狭い店の中が、更に輪をかけて狭くなってしまったのでかなり不評なようなだったが。
「……で、今日はどうしたんだい?」
彼が二人にもてなしの緑茶を差し出すと、にとりは急いでそのお茶を口にする。そして彼女はひとしきりお茶を飲み終えると一息つく。
どうやら外は相当寒かったらしく、文の方も湯飲み茶碗を両手で持って手のひらを暖めているようだった。
「どうやら、外は大分寒いみたいだね」
「……ええ、でも私達天狗は寒さには平気なんですけどね」
文はそう言ってお茶をすする。
「なるほど……じゃあ……」
霖之助は店の奥から小さな八卦炉を取り出してくる。それを見たにとりが思わず指を差した。
「あ、それって……前、山に来た人間が持ってた奴と同じだ!」
「あぁ、もしかして魔理沙の事かい? あの八卦炉は僕があげたものだからね。これはそのレプリカさ。だからあそこまで強い力は持っていない」
彼が八卦炉に火をともすと、たちまち部屋の中を暖かな空気が包み込む。
「でもこうやって、暖を取る事くらいは十分可能だよ」
「おぉー!」
にとりは嬉しそうに、八卦炉へと近づく。彼女の場合、暖かさというより八卦炉そのものへの興味の方が大きいのだろう。
「さあ、君もこっちに来て暖まったらどうだい?」
彼は離れている文をこっちに誘う。しかし、彼女は何か考え事をしていたのか、霖之助の呼びかけに気づかなかった。彼の二回目の呼びかけでようやく文はこっちの呼びかけに気づく。
そういえば今日の彼女はいつもほど顔色が良くなく、どことなく元気がなさそうに見えた。霖之助はてっきり寒さのせいかと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「どうかしたのかい? なんか元気なさそうだけど……」
「……あ。はい、すいません」
そう言って彼女は気を取り直したように八卦炉の方へと近づく。
霖之助は何か悩み事でもあるのだろうかと思ったが、正直、天狗がどんな事で悩むものなのか見当もつかなく、彼は尋ねようにも尋ねられなかった。
一方のにとりは、八卦炉のそばでおいしそうにお茶をすすり、幸せそうな表情を浮かべている。どうやら彼女の方は、いつもどおりのようだ。
霖之助は思い切って、彼女に小声で聞いてみる事にした。
「……彼女、元気なさそうだけど……どうかしたのかい?」
彼の言葉に気づいたにとりは、同じくひそひそ声で言葉を返す。
「あぁ……そうそう、文がね。あんたに聞いてみたい事があるんだって」
「僕に……?」
「うん。なんでも、あの傘を持ったヒラヒラ妖怪になんか言われたらしいよ?」
「ヒラヒラの……ああ、彼女か……」
傘を持ったヒラヒラ妖怪とは言うまでもなく紫の事だ。
霖之助は思わず顔をしかめる。彼は彼女のことを苦手にしているのだ。
文字通り神出鬼没で、つかみどころのない雰囲気、人の中を見透かしたような態度、そして何よりも胡散臭い。
もっとも妖怪という存在は大概皆、扱いにくいところを少なからず持ちあわせている部分があるのだが、彼女の場合はそれがより顕著に表れていた。とは言え、それは同時に彼女――八雲紫という妖怪が、いかに強力な力を持つ存在であるかを物語ってもいるのだ。
彼女の『境界を操る程度の能力』は極めて強大な能力である。その気になれば、この幻想郷なんて、いとも簡単に潰す事も可能だろう。
極力なら彼は彼女に関わりたくなかった。だが、霖之助は紫の世話になっているというのも事実だった。と言うのも彼が普段使っている燃料などは、すべて彼女から調達しているのだ。
紫は幻想郷と外の世界を自由に行き来することが可能だ。故に幻想郷では手に入りにくいもの、例えば石油やガソリンといった燃料の類も持ち合わせていた。
更に彼女は、外の世界についても詳しかった。外の世界の事を語らせたら幻想郷で右に出るものはいないだろう。 きっと、この店にある商品の事も紫ならすべてわかるはずだ。しかし、霖之助は、決して自分から彼女に尋ねようとはしなかった。
なにしろあの胡散臭い紫の事、本当の事を言うとは限らないし、場合によったらとんでもないデマを吹き込まれる事だって有り得ると思っていたからだ。実際、彼は彼女に既に何度かデタラメな事を吹き込まれた経験がある。そんな彼女から果たして文は何を言われたというのだろうか。
彼は文の正面に座り直すと改めて尋ねた。
「にとりから聞いたよ。紫に何か言われたんだって?」
「あ、はい。……実はその事であなたに聞きたい事があって……」
「僕に? 一体何だい」
「あの……その前にちょっと見てほしいものがあるんですけど」
「ふむ?」
文は、にとりのリュックから薄い鉄板のようなものを取り出す。その板はほとんどが錆びてしまっていて一見何だかわからなかったが、よくよく見ると表面に文字が書いてあるようだった。
「これは……看板のようだね」
「はい。それはわかるのですけど……ちょっと書いてある文字読んでもらってもいいですか」
霖之助は目をよく凝らしてその表面の文字を読み取った。
「何々……『テングランド この先右折』……って書いてあるみたいだ」
「ええ、そうなんです」
「どうしたんだい。これは」
「山の中に落ちていたんですよ」
「それをどうして僕のところに?」
「はい、あなたにテングランドとは何なのかを聞きに来たんです」
「……は?」
思わず霖之助は目が点になってしまう。
「いえ、私も自分なりに情報収集はしたんですよ。他の天狗達にも勿論聞いて回りましたし、博麗巫女の所に行ったり、更に偶然通りかかった式の猫にもたずねたりと……でもめぼしい情報は手に入りませんでした」
「……まぁ、そうだろうね。他の天狗達はともかく、その二人には聞く事自体間違ってると思うよ」
「やっぱりそうですよね。私も尋ねてから思いました」
そう言うと文はにこりと笑う。例によって悪びれた様子はない。
「……でもどうしてそこまでして知りたいんだい?」
とたんに彼女の顔が真剣なものに戻った。
「……実はこれを見つけたとき、そばにあのスキマ妖怪がいて、この場所に行った事があるって言ってたんです」
「なるほど、ここで彼女ってわけか……それで彼女はここがどんな場所だと?」
「それが『人間に捕まった天狗たちが見世物にされてる場所』との事なんです……もしそれが本当ならとんでもない事ですよ」
彼女の語調は自然と強くなっていた。無理もない、自分の種族が危険にさらされてる話を聞いて平然としていられる方がおかしいだろう。とは言え霖之助はその『テングランド』という場所についての情報を知らなかった。いや、むしろ外の世界にそんな場所があることすら聞いたことがなかった。
「……それで色々と博識なあなたなら、きっと何か知っていると思って聞きに来たんです」
「……そういうことか」
「ねぇ、文はあんたを頼りにしてるんだよ。力になってあげてよ」
にとりはそう言いながら二人の横で、なにやら機械を弄っている。どうやらいつの間にか倉庫の中から取り出して来たらしい。
「ふーむ……」
さてどうしたらいいものか。いよいよ霖之助は困ってしまう。
文は期待の眼差しで霖之助を見つめている。
自分が頼りにされているのは悪い事ではない。とは言えその期待に応えられないとなるとなんとも格好がつかない。せっかく二人は自分を頼りに来たというのだから、ここはせめて何か助言だけでも与えてやらねばいけないところだろう。彼はそう結論付けると、意を決したようにお茶をぐいっと飲み干し、静かに口を開く。
「……事前に断っておくけど、これから僕が言う事は、今までの経験と知識に基いた上での予想に過ぎないが、それでもいいかい?」
「ええ、是非!」
そう言って頷いた文の目は真剣そのものだった。
「よし、じゃあ始めよう。まずはその名称からみた考察だ」
「はい、お願いします!」
文はそう言うと座ったままで霖之助に対して一礼する。
「テングランド……その名前からして、天狗になんらか関係する場所なのは、ほぼ間違いないだろう」
「はい、それには異論ありません」
「問題は、それがどんな場所なのかって事だ」
「ええ、そうです」
文はメモを取り出して彼が言う言葉を記しながら相槌を打っている。その姿はまさに取材中の記者そのものだ。
「……もう一度聞くけど彼女は『人間に捕まった天狗たちが見世物にされてる場所』と言ったんだね」
「はい! もしそれが本当ならば大変です」
「……ふむ、だがちょっと冷静になって考えてみてくれ。果たして天狗が、そう易々と人間に捕まるものだろうか」
「……う~ん、どうでしょうか。私は外の世界のことはよくわからないのですが、噂によると、この幻想郷よりは文明が発達してると言う事ですし……あるいは……」
「いや、僕の意見としては、人間に天狗を捕まえる事は不可能だと思う」
霖之助の言葉が彼女の言葉を遮った。
「その根拠は?」
すかさず文が彼に問うと、霖之助は堰を切ったように語りだす。
「確かに外の文明はここより発達している。それはこの幻想郷に流れてくるモノを見れば手に取るようにわかる。だが、それでも人間に天狗を捕まえるのは容易な事じゃない。なにしろ天狗はとにかく素早いし、普段は滅多に姿を現さない。そして人と同等以上の知能も持っている。他の動物を捕まえるような感覚では絶対に捕まえる事はできないだろう」
「……たしかに天狗が、そう簡単に人に捕まるとは思っていません。けどあのスキマ妖怪は……」
「……まぁ、彼女の言った事は、この際ひとまず置いておこう。それが真実とは限らないし」
霖之助はそこまで言うと、おかわりしたお茶を飲んだ。それを見て文もお茶を一口ほど口に含む。
「……いや、むしろ、僕は彼女の言った事は嘘だと踏んでいる」
「え、嘘……ですか? 彼女が?」
「そうさ」
驚く二人は尻目に彼は続ける。
「第一、僕は今までそんな話や情報を聞いたことがない。もし、彼女が言った事が本当なのならば、それに関する資料の一つくらい、こっちに流れ着いてもおかしくないだろう」
「……確かにそうですが、逆にこうは考えられませんでしょうか?」
「なんだい?」
「この件が一部の人にしか知らないような秘密事項で、公の場には決して出ない事であり、よってこの世界には情報が一切流れてこないと」
文は身振り手振りを加えながら、霖之助に意見を披露する。
彼は腕組みし相槌を打ちながら彼女の意見を聞いていた。
「……なるほど、確かにそういう考え方もある。だがそれなら尚更だ」
「……と、言いますと?」
「実は向こうで秘密裏にされたものほど、こっちに流れ着いてくる可能性が高いんだ。現に僕はそれらしいものを何回か見つけたことがあるしね。大抵は書類の束みたいなのばかりで、内容も僕にはまったく関係ない事だから、別に拾ったりはしてないけど」
「う~む、なるほど……それは盲点でした」
彼女はそう言って思わず自分の頬をかく。
「以上のことから、天狗が人間に虐げられているなんて、言ってしまえば事実無根なわけだ」
「……確かに言われてみればそうですね。火のないところに煙は立たぬといいますし……」
「うん、いい言葉だね。むしろ今回の場合は火も煙も立っていない。あるのは外の世界に詳しい彼女が言ったという事実しかない。つまり物的証拠は何もないに等しいんだ」
「おぉ! 言われてみればその通りかも! やっぱあんた頭いいね!」
彼が一通り意見を述べると、にとりはさも感心したように拍手をする。
「……いやいや、これはあくまでも僕の推測に過ぎないからね……そこは忘れないでくれ」
にとりの賛辞に霖之助は思わず恥ずかしそうに手をかざす。
「で、あのスキマ妖怪が言った事が嘘となると……次に問題になってくるのは……」
「わかった! この看板の材質が何なのかって事?」
「へ……?」
彼女の突然の割り込みに文はあっけに取られてしまっている。
そのにとりは看板を指で突っついたりしながら真顔で霖之助を見つめていた。
「……あ、ええと材質かい? この看板の?」
「うん!」
にとりはさきほどの文のように期待の眼差しで霖之助の答えを待っている。
「……ああ、それはね。多分、ただの薄く延ばした鉄板だと思うよ。この店にも似た看板あるし」
霖之助は、いたって冷静に彼女の質問に答えた。
「ほうほう、そうなのか。んじゃ、外の世界では鉄の看板が主流って事なんだね」
「うん、まぁ、そう言えるね。何せ鉄は銅より頑丈だし、加工も比較的容易だ。おそらく外の世界では、入手も簡単なのだろう。その証拠に鉄製の商品もこの店に沢山あるし……」
「おー! そうなのか! 例えばどんなの? どんなの?」
あらぬ方向に進んでしまった二人の会話を文は明らかに不満そうな表情で聞いていたが、やがて痺れを切らしたのか口を挟んだ。
「あの……二人とも、話が脱線してる気がしますけど……」
文の言葉に霖之助とにとりは思わず苦笑を浮かべる。
「……失礼。話を戻そう。気を取り直して次に問題となってくるのは、このテングランドとはどんな場所なのかと言う事だよ」
「ですよね」
彼の言葉に文はそう言って頷く。
「ちなみに、参考ながら君はどう推測する?」
「……そうですね」
彼女は腕組みをして目を閉じた状態で暫く黙り込む。そして、やがて彼女はすっと目を開けると静かに喋り出した。
「……まず結論から言いますと、テングランドとは山全体を祀る社のようなものかと思います。その理由としては、天狗は山に住む存在であること。それに天狗は人間にとっては山の神様であり信仰の対象であることなどです。天狗は進んで人と馴れ合う事はまずありません。よって人と天狗の接点を考えるとなると私にはこれしか考えられないのです」
意見を述べている間の彼女の目は、すごく真っ直ぐで澱みがない、所謂、論客の眼差しだった。
実際、彼女は頭もいいのだろう。でなければ新聞記者なんてつとまらないものだ。
「ふむ、なるほど……」
霖之助は彼女の意見に思わず頷くと三度おかわりしたお茶を口に含む。
「それじゃあ……次に君はどうだい?」
「へ、私?」
急に話を振られたにとりは、思わず目を丸くして霖之助を見る。
「せっかく同席している事だし、河童としての君の意見も聞いてみたいんだ」
「うーん。そうだなぁ……山にあるってのは文と同じ意見なんだけど、なんて言うかなぁ、天狗をモチーフにした遊園地みたいな感じかな?」
「遊園地…かい?」
「そうそう、前に外の世界では機械を使った遊具があるってのを本で読んだ事があるんだけど。ちなみにいつか再現させてみようかなって思ってるんだけどね。んで、その遊具があるところが、なんとかランドって名前だったんだ」
「なるほど……つまり、天狗そのものは一切関わってないというわけかい?」
「ん、まぁ……そうなるかな……?」
にとりは言葉を濁らせて自信なさそうに目線を下に向けてしまう。
一方、文と霖之助は思わずお互い顔を見合わせていた。
「ご、ごめんなさい。全然的外れだったよね……?」
「にとり、何であろうと、まず自分の意見にはもっと自信持つべきだと思うわ」
「うん、もっと自信持っていいと思うよ。実際、その意見は非常に参考になる」
「ええ……それってどういうこと?」
二人は驚いて思わず霖之助の方を向く。
「どうやら僕達はテングという言葉にとらわれ過ぎていたようだ。君の言う通り、ただ単に、天狗をモチーフにしただけの娯楽施設という可能性も大いにありうる……」
そう言いながら、霖之助は本棚から古ぼけた薄い雑誌を取り出すとパラパラとページをめくり始めた。
「ちょっとこれを見てくれないか」
「これは何ですか?」
「向こうの世界から流れ着いてきた雑誌だよ。どうやら娯楽場についての事が記されているみたいなんだ」
「あ! これ前に本で読んだ事ある遊具だ!」
にとりは思わずその記事の写真に指を差して叫ぶ。
「この娯楽場はどうやらをこのネズミをモチーフにしたキャラクターをテーマにしたところらしい。ちなみにここの名前もなんとかランドという名前なんだ」
「なるほど……それにしても写真で見る限りすごい人だかりですね……人間はこんな鉄の塊の遊具を建造するほど娯楽に飢えてるのでしょうか…?」
メモを取っていた文が思わずつぶやいた。
すかさず霖之助が答える。
「人間は妖怪と違って、自由に空を飛んだりは出来ない。故に普通では味わえないスリルを手に入れようとしてこういった大型の遊具施設を建造するんだろうね、これだけ人だかりができているということはそれが受け入れられてるという証拠だろう」
「なるほど……ところで話を戻しますが……このテングランドも同じような施設であると考えていいのでしょうか?」
「うん、その可能性は高いだろう。ただ、もう一回言うけど、これはあくまで僕の推測なんだ。だから、必ずしも事実とは限らないよ。現にこの看板が幻想郷に入ってきた理由は定かじゃないし」
「でも、あんたの言う事は妙に説得力があるんだよね。つい、本当にそうなんだと思い込んじゃうよ」
「私も同じくですよ」
「まぁ、そう思ってくれるのはありがたいけどね……」
「よーし! 見てて文、この私が遊具施設をい~っぱい作って幻想郷にテングランドを再現して見せるから!」
沢山の遊具の資料を見てエンジニア魂に火がついたのか、にとりはそう言って拳を突き上げる。
その様子を二人は苦笑しながら見ていた。
それから数日後
「おや、二人とも今日はどうしたんだい?」
「あの、にとりがあなたに聞きたいことがあるとか」
「へぇ……」
「あのさ、ヒラヒラ妖怪が言ってたんだけど、ここって河童を収監してる場所っての本当? あんたなら知ってるって言われたんだけど」
そう言って彼女が出した看板にはこう書いてあった。
『カッパピアへようこそ!』
それを見た霖之助はため息をつき思わず呟く。
「……また紫か」
その時、彼はすぐそこで紫がほくそ笑んでいるような気がした。
しかも両方とも既に無いしww
テングランド跡地にはローソンがあるそうです
二つとも既に幻想入りしてるwww
某ネズミーランドもいつか幻想入りする時がくるのかしらん?
ウチの地元には蛙をモチーフにした施設があるけどもう半分潰れてるwwww
間違いなく次はケロちゃん
今では更地になってますよね・・・。
たしか、ガ・・・ガリ・・・・あれ?
いやぁ、面白かったww