どうも、初めまして。天狗の頭領をやらせてもらっている天魔です。
皆は僕のことを天魔様と呼びます。本当は様付けなんて嫌なんだけど、そこは色々と規律があるらしいです。天狗なのに、堅苦しいなあ。
天狗ってのはもっと大らかで、自由奔放としているイメージなんですけど。しがらみだって意外とあるんです。
なんて、いきなり愚痴から始まっても面白くないですよね。
あ、でも日記だから別に面白くなくてもいいのかな。まあいいや。
ひょっとしたら誰かが見るかもしれないし、見なきゃ見ないで困るわけでもなし。
気楽に書こう。気楽に。
そもそも、僕が日記をつけ始めたのには訳があります。
内心ではこんな風に、ちょっと思春期がちな男の子っぽいですけど、僕ってば意外に強面なんです。しかも、結構体が大きいです。
仲間の天狗達ですら、僕の顔を見れば道を譲ります。
もしかしたら、この顔のせいで頭領になれたのかもなんて最近では思っていたり。
真偽の程は定かではないんですけど。
とにかく、この顔のおかげで誰も僕にあまり近寄ろうとしないんです。幸いにも、僕は賑やかなのよりは、静かな方を好むのでむしろ有り難いと思っていたんですが。
その静寂を打ち壊した人がいるんです。いや、妖精か。
突然ふらふらと現れた彼女は、何を思ったのか僕の背中にのしかかり、ぺしぺしと頭を叩いてこう言いました。
「ねえねえ、そんなに怒ってばかりで疲れない?」
急に背中が重くなったので、どうしたもんかと振り向いてみれば、そこには見覚えのある妖精がいました。
チルノちゃんと言うそうで、確か文の知り合いだったはず。
妖精の中でも結構な力を持つそうです。まあ、僕ら天狗には敵いませんけど。
「ひょっとして、それにらめっこ? だったら、あたいも負けないわよ」
急にのしかかって来たからといって、僕は怒ったりしません。顔が怖いのは生まれつき。勿論、にらめっこをしているわけでもないのです。
「何処からやってきた?」
「にらめっこしましょ、笑ったら負けぶぶっ!」
凄いです、この子。掛け声の最中に笑う人なんて、初めて見ました。
どれだけにらめっこが苦手なんでしょうか。
苦手なら、やらなきゃいいのに。
「あんた、なかなか手強い顔してるじゃない。あたいを笑わせたのは、あんたが5,5人目なんだから」
なんで小数点が入ってるんですか。
僕は顔中につけられた唾を拭いながら、これからどうしたものか考えました。
そもそも、この子はどこからやってきたのか。
厳重な警備が敷かれているこの山で、僕のいる場所に誰にも会わず辿り着くなんて不可能です。白狼天狗が一斉にストを起こして、警備を放り投げない限りは。
「おい、妖精。どうやって儂の所までやってきた?」
ああ、いけません。小さな子供との接し方がわからず、ついつい乱暴な口調になってしまいました。いつもこうです。
緊張したり困ったりすると、一人称も僕から儂に変わります。きっと、威厳があるように見せることで周囲の外敵から身を守っているのでしょう。なんだか小動物みたいですね、僕。
「どうやってって、普通に山の中を抜けてきたのよ。湖で遊ぶのも楽しいけど、たまには山で遊ぶのも楽しそうだと思って」
「普通に抜けてきた? そんな馬鹿な話があるか」
「あはは、馬鹿だって。ばーか、ばーか」
いまいち話が成立しません。なんか子供を相手にしているようです。
妖精ってのは、こんな子ばかりなんでしょうか。だとしたら、少し苦手かも。
とりあえず、これ以上は僕の手に余ります。早急に文に手渡して、静寂を取り戻さなくては。
僕は側近の天狗を呼び、文に此処へくるよう伝言を頼みました。
やってきた天狗は僕の頭の上のチルノちゃんを見て、怪訝そうな顔をしていました。それでも何も言わなかったのは、置物か飾りだとでも思ったんでしょう。
これでも厳格な僕の頭の上に、妖精なんているはずはない。
固定観念ですね。世の中、何が起こるかわからないというのに。
「ねえねえ、次は何して遊ぶ?」
「いま、文を呼んだところだ。それまで大人しくしていろ」
「わかった、かくれんぼね!」
何がわかった。
僕、そんなこと一言も言ってないのに。
チルノちゃんはそんなことお構いなしに、近くの茂みの中へ飛び込んでいきました。
あれ、僕が鬼?
「もーいいーよ!」
思い切り、茂みの中から声が聞こえてきます。
頭隠して声隠さず。というか、隠れるところから見てますし。
僕はやれやれとため息をつきながら、茂みの中へ手をつっこみました。
そして手応え。思い切り引っ張りだすと、
「あ、ちゃっす」
見覚えのある白狼天狗がかかりました。
変わり身の術!?
というか、どうして見張りの椛がここに?
混乱して黙りこくる僕の背中に、誰かが手を置く感触が。振り返るとチルノちゃんでした。
「はい、次はあんたが鬼」
え、なにこれ。どういうルール?
目を白黒させる僕。
自然と手から力が抜けて、白狼天狗を離してしまいました。
しかし、そこは天狗。
鮮やかな着地を決め、両耳が得意げに揺れていました。
「もう、危ないです天魔様。危うく頭から落ちるところだったです」
「それよりも聞かせて貰おうか。どうしてこんなところにいたのか。大体、見張りはどうした?」
僕がいる場所は妖怪の山でも結構な中腹です。
見回りにしたって、少し奥まで入りすぎです。こんな所を見回るよりも、麓で不審者を見張ってた方がよっぽど有意義だというのに。
もしかして、彼女がこんなところにいるからチルノちゃんが迷い込んできたのでしょうか。
「よもや、この妖精が迷い込んだのは貴様の所行か?」
「いえいえ、違いますです。ちょっと侵入者に手こずってる間に、妖精が一匹が入り込んだみたいなので追って来ただけですって」
「……儂の言ったことと何が違う?」
「つまるところ、わたしの所行にあらずと。さあさあ、妖精さん。元いた湖に帰りましょうです」
何事もなかったように、チルノちゃんを連れていこうとする椛。
しかし、そうは問屋が卸さない。
「待て」
「っふぅ!」
逃げようとする椛の尻尾を掴む。変な声が出た。
「曲がりなりにも頭領の領域まで侵入を許したとあっては、責を問わぬわけにもいかぬ。ここで見逃せば、他の者への示しもつかぬ」
厳しいようだけど、これも集団の掟だし。
甘い顔ばかりを見せていたら、いずれ崩壊しちゃうかもしれないしね。
僕はなるべく厳めしい顔をしながら、威圧的な口調で椛を諭す。
反省したのか、椛の耳もしゅんとうなだれていた。
「あー、弱い者いじめはいけないんだ。そういう人はお仕置きされるって慧音が言ってた」
空気を全く読めていないチルノちゃん。
頭突きをされるなら、むしろ椛の方でしょうに。
騒ぐチルノを手で制し、椛は目尻の涙を拭いながら言った。
「良いんです。わたし一人が罪を感じ、罰を背負えば良いだけのこと。庇ってくれてありがとう、チルノ。でも、わたしが我慢すればいいだけの話だから!」
「でも……」
「お気持ちだけで充分です。さあ天魔様! わたしを存分に罰してください!」
なにこの展開。僕が完全に悪者じゃん。
「天魔の鬼! 仏!」
けなしているのか、褒めているのか。
判断しづらいチルノちゃんの後ろで、してやったり顔の椛。
気づいてチルノちゃん。本当の鬼は後ろにいるから。
などとやっていたら、ようやく文がやってきた。
「何事かと思えば、どうして湖の妖精がこんなところに?」
僕が説明しようとするより早く、椛が文に説明を始める。
「なるほど。つまりチルノちゃんは天魔様の愛人だったと」
「そうです。そして、それを見てしまった私を力でねじ伏せ、お前も俺の女になるかと……よよよ」
この子、怖い。
短時間で、僕をどれほどおとしめれば気が済むのだろうか。
最早、そういう競技に参加しているとしか思えない。
だとしたら、もう優勝でいいよ。
「あたいが愛人? いいけど、あたいは安くないよ。最低でも水飴くらいは貰わないと」
安いな、チルノちゃん。
下手したら紙芝居のおじさんについて行きそうだ。
なんてことを考えてる場合じゃない。このままだと、僕の威厳が消えてなくなる。
慌てて弁明を始めようとする僕の声を遮ったのは、椛の頭を叩く音だった。
「まったく、あれほど嘘は止めなさいと言ってるでしょ」
「痛いです、文さん」
「自業自得です。すみません、天魔様。この子は嘘が好きなもんで、隙があればすぐに誰彼かまわず騙す癖があるんですよ」
なんとはた迷惑な癖だ。
できることなら、早く矯正して貰いたい。
「ほら、椛も天魔様に謝る」
「うう、すみませんでした天魔様」
半べそをかきながら、椛は頭を下げる。
ここまでされてなお、罰を要求するほど僕も人でなしじゃない。人じゃないけど。
「以後気をつけるというのなら、構わん。それより、この妖精を早くなんとかしてくれ」
「ああ、すみませんでした。まったく、なんで天魔様のところに来たんだが」
「そこの天狗が、あっちに行けば水飴貰えるからって」
「お前の仕業か!」
「違いますよー」
否定しながら全速力で逃げる椛を、チルノを抱えた文が追う。
なんとも騒がしい一日になったものだと、寝酒を飲みながら思い出したものだ。
あまり山から出ることはないのだけど、話によればあの妖精は山の神様の頭もぺしぺししたらしい。
怖い者知らずというか、無謀な勇者というか。
数多の頭をぺしぺししたチルノちゃんは、今日も僕の頭の上に乗っかっている。
「やっぱり、これが一番叩きがいがあるのよね」
そう言って、満足そうにぺしぺし叩く。
どうやらぺしぺしソムリエは、僕の頭がお気に入りのようだ。
僕はため息をつきながら、近くの茂みに手を伸ばす。
案の定、白狼天狗が釣れた。
「賄賂なんて貰ってないですよ」
木の実を頬張りながら弁明する天狗をどうしたものか。
文が来るまでの間、僕はそのことを考えていた。
ぺしぺし。
……気が散るんだけどなあ。
(ぺしぺし…ぐちゃっ!)
そのうち他の天狗たちに吊るし上げられることだろうww
て言うか椛、案外軽いな
斬新でした。
というわけで、チルノちゃんに水飴あげてきますね!
> 固定概念ですね。
固定観念です。
>引っ張りだしすと、
「だしますと」か「だすと」の間違いかと。
>審者を見張って方が
「た」か「いた」の抜けかと。
> 判断しずらいチルノちゃんの
しづらいです。
チルノったら最強ね!
しかし、この椛は新鮮で面白かったw
この性格の椛はてゐと気が合いそうだw
そして本文でもwwwww
ぺしぺし。
なんて斬新な職業なんだwwwww
ご指摘ありがとうございます。
ぺしぺし。
仮にも頭領に「ちゃっす」ってのはまずいだろうwww
オリキャラだけど何だかマッチしてて面白かった。
妖夢とか優曇華とか
天魔様の声が置鮎さんで再生されてしょうがないですw
>天魔様の声が置鮎さん
もうそれにしかry
↓
しかし、あんたってやつはなんて可愛い人なんだ。ぺしぺし
がなんだかエロかった。
あと
>5,5人目
に笑いました。
あとがき読んで皆さんの感想読んで自分の感想各段階でやっと気がついたよ!
天魔様はお優しい方ですな。
こんな頭領は嫌だw