Coolier - 新生・東方創想話

故に彼女は不敵に笑う

2008/02/18 02:24:34
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 枯れた向日葵が一面に敷き詰められ、何とも寂寞的な荒廃世界が広がっていた。枯れた姿が植物の亡骸だというのなら、さながら死体の山だ。なんと凄惨な景観だろうか。だが同時に種子を残し、次の夏へと備える繁栄も行われている。生の美しさもここにはあるのだ。
 死と生が混在する冬の枯野。夏には妖精や騒霊で賑わうここ、太陽の畑も、冬場は静寂に包まれるのが常であった。
 しかし、野を散らし、枯葉を巻き上げる一陣の風。そしてその風を纏い、風と化けて駆け抜ける一人の少女が、寂びた世界に騒々しいまでの動きを与えていた。
 少女が突き抜ける先にはもう一人、右手で日傘を差した女性の姿がある。肩にかかるか、かかるまいかという程の髪を揺らし、微笑んでいた。
 風の少女は携える団扇を一振り、暴風を爆発させ、女性目がけて、さらに速度を上げる。
 それは、風神の如く。風靡を生んで。
 瞬時、女性まで達した少女は突風の勢いのまま、拳を女性の顔へと放つ。風の勢いを持った拳は女性の頬を穿ち、女性を後方へと吹き飛ばす。吹っ飛び、何度も地に打ち付けられながらも、女性は日傘を持ったまま体勢を持ち直して両足と左手で着地する。勢いはやがて摩擦に殺され、両の足で立ち上がった女性は服に付いた砂を払う。
「結構痛いわね。ちょっとびっくりしちゃったわ。ほんのちょっと、だけど」
 血の混じった唾を吐き出し、女性は目を弓にする。
「私もびっくりです。顔の半分を持っていくつもりで撃ったのですが、まさか口の中が切れる程度だとは。一体どんな身体の作りしてるんですか?」
「失礼なものいいね。ひ・み・つ、とだけ答えておきましょうか?」
 女性は言って、愛嬌のある笑みを浮かべる。対して、少女は苦笑いだ。
「“それ”も秘密ですか。やはり、謎の多い方ですね」
 苦笑は強気な笑いに変わり、少女は再度動く。
「あなたもしつこいわね。友達少ないでしょ?」
 同時、女性も地も蹴り、少女に向かった。
「それはお互い様かと。私は言うほど少なくないと自負しておりますけど」
 二人の距離は一瞬の間に縮まる。いや少女がその俊足で一方的に縮めたといった方が適切だ。その勢いのまま少女が先手を取って女性の脇腹を狙い、身体を回して蹴りを放つ。だが、蹴りは女性の下腕に防がれ、腹まで到達しなかった。反撃に出る女性は日傘を閉じ、その日傘で少女の脇腹を横殴りにする。少女は脇腹の痛撃に目を見開き、悶絶の息を漏らす。
「私は程度の低い奴と付き合ってないだけよ。つまらないもの」
 痛みから少女が蹴り放った脚を戻してしまうと、女性は振り返るように回って、さらに日傘で少女の頬を殴りつける。
 少女は口から血を流して後退し、ある程度下がりきると体勢を持ち直した。
 対峙する二人、風神少女、射名丸文と百花繚乱の妖怪、風見幽香は、どちらからともなく不敵な笑みをお互いに浮かべ合う。
「先に言っておきます。私は速いですよ。この幻想郷で誰よりも」
「じゃあ私も言っておこうかしら。私はとても強いわ。幻想郷で誰よりも、ね?」
 幽香は言って、日傘を再び開き、膂力の自信のほどを象った笑顔を見せ付ける。
「強さとは曖昧なものですよ!」
 文は身を突き飛ばして瞬時の内に、幽香の背後に回った。文の後を辿る突風に煽られて、幽香はよろめく。
「そうね。何を持って強さというか、それは重要なことよね。だけど――」
 そして文は天狗の団扇を一振り、突然竜巻が巻き起こる。竜巻は一瞬のうちに幽香を巻き込んで、枯れた太陽の象徴達を散らし、うねる。突如現れた風の怒りは、暴虐の姿で野を荒らした。
「だけど? 続きを聞いておくべきだったでしょうか?」
 だが、竜巻は消滅も突然だった。文の悠然とした表情から余裕が失せゆく。
 枯れ野を巻き上げた猛威の竜巻が消え、中に依然と立つのは日傘を差した女性の姿。枯れ色だったはずの向日葵の葉や茎、花は、青々とした全盛の色で降り注いだ。
「――……だけど、それはあなたの身を持って知ってもらいましょうか。だらだらと語るよりも、手っ取り早いわ」
 文は苦虫を噛み潰し、団扇で風を巻き起こして後退、幽香と距離を取る。続いてもう一度大きく団扇は振るう。
「――疾風「風神少女」――!!」
 文は叫び、一枚の札が風に乗って流れ、幽香の頬を掠る。札によって幽香の左頬は切れ、一筋の赤が彼女の頬を彩った。札を追うようにして、幽香を襲うのは幾多の突風であった。幽香を襲いゆくその風に彼女は笑む。
 勢いを圧縮して固められた気流の弾。頬撫ぜるそれとも、肌を刺すような冷気を持ったそれとも違う。地を穿ち、枯れ葉を舞い散らせ、弾丸の風だ。天狗の力によって放たれた風の弾は幽香を狙った。
 幽香は文を揶揄するかのように、優雅にしてどこか滑稽な足取りで、風弾を踊るように避け始めた。速射される風弾は幽香の横を掠めて、彼女の背後に飛んでいく。回りながらふわふわと舞う幽香の動きは決して速いものではない。しかし、彼女の嘲りの舞踏は確実に風弾の軌道を読み、巧緻な動作の連続である。
 埒が明かないと踏んだ文は、次の動きに移った。まず彼女は風で地を撃って、砂塵と枯れ葉を巻き上げる。そして、砂の幕の中からさらに風の弾を飛ばした。砂の幕から飛び出す風弾は先ほどよりも軌道が読みづらいはずだが、幽香は変わらず避ける。しかし、文の真意はそこになかった。最初からただの煙幕が通用するなど思っていない。
「何それ? 小細工のつもり? ならもっと巧くやりなさいよ。白けるわ」
 いかにも興が冷めたような口調の幽香は右方に視線を向ける。
 幽香の右方、そこには自らで巻いた砂煙の幕を掻き切って、文が回りこんでいた。文は間もなく団扇を振って、風の弾丸を一発撃ち込む。
「すみません、こういう手は慣れていないもので」
 対して幽香は傘を盾のように横に傾けて、風弾を防ぐ。傘に当たった瞬間、空気の弾は爆ぜて、新たな気流を生み出した。風弾を受けた衝撃により、幽香は数歩退く。続いて幽香に飛んでいく風の弾は六発、幽香は傘をずらして視認する。瞬時に判断が出来たのか彼女は動きを見せない。
「本当に小細工が好きね……」
 幽香は笑みを漏らす。六発の風弾は幽香の周りの土を散らし、彼女の視界を覆う。そして、文は砂煙の中、一気に距離を詰めて幽香の胸郭に拳をぶち込んだ。
 幽香から血の交じった息が漏れ、彼女は苦悶の表情を浮かべたまま文に向かって拳を放つ。拳を避けるべく文は即座に対応した。跳躍し、幽香は幽香の肩に手を掛けて前転するように彼女の後ろに回る。幽香と背中合わせの形になった文は着地と同時に馬蹴りを、さらに次の動作で向き直し、横蹴りを幽香の背面に叩き込む。文は追撃の手を止めない。体勢の崩れた幽香の前に再び風と共に移動し、姿勢を低くして拳で顎を狙う。
 乱れる砂煙の中、文の一撃は幽香の顎を捉えた。だがほぼ同じくして、幽香も上から拳を振り下ろし、文の前頭を殴りつける。お互いの攻撃が重なり合い、手応えは不確かなものになってしまう。
 頭を叩き付けられた痛撃に文は顔を歪ませ、団扇を振るった。団扇の一振りによって生じた風の弾が幽香の腹を穿つ。風の弾は幽香を弾き飛ばし、勢いを辺りの空気に散らした。
 文の頭から顔にかけて、生暖かい血がどろりと流れる。顔半分を赤色に染めて、文は自らが吹き飛ばした幽香を確認した。文が見た彼女は相変わらず日傘を差したまま地面に座り込み、空いている左手で自身の顔を覆っている。よく見れば彼女の肩は微少ながらも揺れていた。
「……私の勝ちのようですね……。何も泣かなくても。天狗の風とあれだけ渡合ったのだから、十分あなたはお強いですわ。まあでも、約束は守ってもらわないと。さあ、“取材”、させてもらいましょうか?」
 文は微笑みながら得意気に告げるが、幽香の様子に気付き、すぐに表情を曇らせる。
「ちょっと待ってよねぇ。誰が負けたって言ったの? 誰が泣いているって? 私は人前で泣くなんて可愛らしいこと出来ないわ」
 幽香は肩を揺らし、笑っていたのだ。
「くく……、お笑いだわ。だってね、風の神だなんて云われていた天狗の風がこの程度なんだもの。廃れたものねぇ、前はもっと勢いがあったんじゃなくって? 片腹痛いってこのことよ。くくっ、あははははっ!」
「正直驚きましたよ。まだそんなこと言っていられる余裕があるとは。この際はっきり言わせていただきます。あなたは“大馬鹿”です。天狗を蔑み、喧嘩を売っているのですから」
 文は馬鹿笑いしている幽香を深く突き刺さんとするほど鋭い視線を彼女に向けた。笑いながら幽香は立ち上がり、柔和な視線を文に突きつけた。
「一天狗風情の分際で、私に喧嘩を吹っかけた“大馬鹿の中の大馬鹿”に馬鹿呼ばわりされたくないわ。それでも馬鹿と呼ぶなら、馬鹿同士仲良くしましょう?」
「何度でも言ってあげましょう、お馬鹿さん? 仲良くなんて冗談でも言わないでください。私は怒っているのですよ。――「無双風――」
 文が取り出したスペルカードを高々と示した瞬間、彼女の身体は膝元から崩れかけた。驚愕しながらも文は体勢を持ち直す。
「どうかしら、私のパンチ。結構キテるでしょう、お馬鹿さん?」
 幽香は笑み、戦慄が文の中で芽生える。そして同時に歓喜も、だ。
 喜懼に震える文はもう一度自身が握るスペルカードの名を叫んだ。
「――「無双風神」――ッ!!」
 文は再び疾風と化け、荒廃の野を駆ける。地を抉り返し、枯野を駆ける一陣の風。そこに存在するものを切り裂き、撒き散らし、吹き飛ばす猛威の具現。
 だが幽香は変わらず、むしろより濃く口元を歪ませる。
 風神少女は幽香の左脇を一気に駆け抜ける。後を追って吹き抜ける突風に幽香の身体がよろめいた。さらに文は進行を翻し、再び幽香の脇を通って幽香へと風を吹き当てる。
「月に叢雲、花に風……。全く持って雅の無い風ね」
 風で飛び散る塵が顔に当たるのを掌で防ぎ、幽香は面白くなさそうに告げる。
通り過ぎた文はまたも転回し、突風でその速度を上げた。吹き荒れる風の如く、文は高速で幽香の周囲をうねり回り、暴風で幽香を追い詰めていく。砂塵と枯れ色と狂風、そこに文の姿が留まることはなかった。
幽香はやがて駆け回る文を目で追うことを止め、そっと瞼を閉じた。
「速いわ。とっても速い。流石は幻想郷最速といったところかしら? でも、――」
そして刹那だ。文は右の拳を幽香の顔面へと撃ち放つ。自らの最高速に達した拳に、文は勝利を確信した。だが、
「――速いだけね」
 艶笑を見せる幽香は、文の拳を掌一枚で受け止め、まるで果実を扱うかのようにそのまま、文の拳を握り潰した。
「くぅッ!!」
 肉が拉げ、鮮血が飛び散り、惨い音と共に文自身と幽香を汚す。文が苦悶の表情を浮かべると、彼女の勢いにあわせるように風は落ち着き、やがて凪となった。幽香は文の拳を解放するが、すでに拳には痛覚以外の感覚は失せていた。苦痛を押し殺し、文は形勢に変化を与えようと幽香の首を狙って右脚を上げる。腰を捻って勢いをつけ、脚を一気に幽香の首元へと。威勢の声と共に振り切らんとする。
 しかし、十分に威力を持ったはずの上段蹴りは、またしても幽香の柔い掌に雑作もなく止められた。そして文の足首を掴んだ幽香の手指は圧を持って、彼女の筋繊維を瞬時に断絶する。幽香の美麗な白い肌が陰惨な赤に染められていった。血肉の咽返るような臭いが辺りに充満し、幽香は恍惚の表情を浮かべる。
「ああぅッ!!」
「もっと叫んでいいのよ? 叫喚ってのは素晴らしいわ。何度聞いても聞き飽きないもの」
 告げると同時、文の足首に掛かる握力がさらに増し、幽香の指は骨まで達した。
「ぐあぁぁッ!!」
 幽香は微笑み、文に向かって小首を傾げた。続いて彼女は文の脚を掴んだまま腕を振り上げる。文の身体は浮き上がり、幽香は勢いをつけてそのまま文を後方へと投げ飛ばした。数十メートルほど宙を漂った後、文は地面に打ちつけられながら転がった。やがて勢いを無くして止まる。文はうつ伏せとなり、その場から動くことも出来なかった。伏せる文の口腔には喉の奥から溢れる生臭い液体が充満していた。
 文の姿を見て、彼女に幽香は何度目かの笑みを向ける。そして文の伏せる地面から幾多の蔓が延び、抗う余力も残っていない文を吊り上げた。その姿はさながら磔刑である。
「滑稽ね。幻想郷最速だなんてあなたがもう動くことさえ叶わないなんて」
 幽香は笑みながら文の前へと歩み寄ってきた。
「……全く……、面目、ないですよね。正直、侮って、いました……。ま、まさか、これほどまでとは……。ですが、何をいい気になっているんですか? 驕ることなかれ、ですよ」
 文は途切れ途切れながらも、毅然と言い放つ。
「自分のこと棚に上げて、面白いこと言うわね。脚が潰れたあなたに何が残るというの? 風を失ったあなたに何が出来るのかしら?」
「私はまだ事実を書き綴ることが出来ます! 真実を探求することができます! あなたを知ることが出来ます!」
 文が昂ぶった言葉を幽香に向けた瞬間だ。
瞬間に文の右腕が幽香の手刀によって切り落とされた。文の寸断された右腕が地を打ち、裂傷から血が噴出する。
 文の思考はあまりの一瞬のことについていけず、訳もわからないまま右肩から伝わる激痛に文は絶叫した。
「あああぁぁぁッ!!」
「能弁は聞き飽きたわ。もっと叫び声を聞かせて頂戴」
 文が激痛の先に視線をやると、そこにあるはずの自分の右腕は無かった。文は自分の腕が落とされたことを解した。だが、これ以上叫びを上げることは文の矜持が許さない。息を荒げて肩を何度も揺らし、歯を食いしばって痛撃に耐える。
「これで書き綴ることは出来ないんじゃないかしらねぇ」
 幽香は差し続けていた日傘を閉じて、その先端で文の腹を突く。さらに力を加え続け、文の腹に日傘を捻じ込ませ、強引に突き刺す。腹部から血を噴き出し、文の顔がさらに歪んだ。幽香は文に刺し込んだまま日傘を手放し、次いで文の傍らに落ちた彼女の腕を拾い上げた。
「私ね、他の奴が大切しているもの目の前で壊すの、大好きなのよ。悪趣味でしょ?」
 幽香は言って、くすりと微笑み、文の腕を上へと高く放り投げた。やがて重力に従って落ちてくる腕に幽香は拳を一つぶつける。すると、今まで数多の記事を書き連ねてきた文の分身とも呼べる彼女の片腕は残酷な音を立てて――、
「さよなら。あなたの人生」
 ――破砕した。
 腕は跡形も無く、肉片となって赤く散り、枯れ野を塗り潰す。
 目前で起こった事実に文は確実に追い込まれていた。自らの腕が粉微塵に砕かれたのだ。憤怒や焦燥、数々の感情が溢れでる。しかしそれでも文は、音が漏れるほど歯を食いしばってただ耐え抜き、幽香を見据えていた。
「……つまらないわ。こういうときはもっと悲観的な目をするものよ」
「ざ、残、念ながら……、はぁはぁ、私は、まだ、右腕を失った、うっ、だ、だけです……。まだ、諦める、わ、けには、ごほッ! ……いきません……!」
 文は血泡を吐きながらも、揺るがぬ声で強く告げた。対する幽香は露骨に顔をしかめる。
「私ね、基本的にあなたみたいな面白いのを苛めるの大好きなんだけど……。それ以上に折れない奴って大嫌いなのよね」
 幽香は文の腹部に刺さった傘を左手で引き抜く。幽香は次に文との間に五メートルほどの距離を取った。そして、ゆっくりと右腕を水平まで上げ、手の内を文へと見せ付けるように手指を広げた。
だが、そこで幽香の動きは止まった。少女による制止の声が掛かったからである。
「そのへんで止めなさい! あんた達は際限ってもんを知らないわけ!?」
 朦朧とする意識の中、文が声の方に目をやると二人の少女が立っていた。一人は紅白の巫女服に映える黒髪の少女、もう一人は全体的にモノクローム調で着飾っている少女である。博麗霊夢と霧雨魔理沙だ。



 霊夢は目の前に広がる光景に、驚愕を覚えると同時に辟易していた。風の噂と自身の勘を信じて来てみれば、目の前に広がるのは地獄絵図さながらの無残な文の姿である。魔理沙も同様に呆れている様子だった。
「どう見てもありゃ、やりすぎだぜ」
 魔理沙はそう言って首を横に振る。
「派手にやっちゃってくれて。とりあえず経緯を説明しなさい」
 霊夢は鋭い双眸で幽香を睨みつける。普通の妖怪達ならば恐れをなす、博麗の巫女の睥睨と対峙する幽香が見せた反応は、微笑だ。幽香もまた霊夢の周りに集まる尋常ならざる妖怪だということであった。
「どうだったかしらねぇ?」
 幽香がそう言ってとぼけると、満身創痍の文が変わりに口を開く。
「な、ならば……、わ、私が、お答えしましょう……」
「うおっ、まだ喋れたのか」
 魔理沙が驚くが、霊夢は変わらず強い口調で、教えて頂戴とだけ言う。幽香はただ面白くなさそうな表情を浮かべるだけで何も言わなかった。ややあって文が苦しげな声で語り始める。
「何故か……、と、問われ、ましたね? はぁはぁ、私にはどうしても、どうしてもッ! 追求しなければなら、ない……、こ、ことがあるのです……! 例え、い、……命、を懸けてでも。ごほッ、ごほッ!」
 文は咳き込み、吐血する。やがて咳が収まると、話を続けた。
「この、幻想郷には、素晴ら、しい、ものがあります! それは……――」
 文の真摯な視線が霊夢の瞳を射抜き、霊夢は固唾を呑んでしまっていた。そして、文は言い放つ。

「――少女達の美しい身体の神秘です! 特に胸とか」

 文の言葉に霊夢は、思わず隣の魔理沙と顔を見合わせた。
「ねぇ、あいつ今胸がどうとか言った?」
「残念ながら私もそう聞こえた」
 魔理沙は苦笑いをする。
「ね? 何言ってるかわからないでしょう?」
 幽香も呆れた口調で漏す。
「……帰っていい?」
「ダメだぜ」
 霊夢が魔理沙に尋ねると、魔理沙は打って変わって満面の笑みで答えた。一間置き、霊夢が語気を荒げて頭を抱える。
「どうして私の周りにはこんな奴らしかいないのよッ!?」
 霊夢の物言いに、すかさず魔理沙と幽香が反論する。
「私を一緒に括らないでくれる?」
「私もこんな変態思想は願い下げだぜ」
 三人がそんなやり取りをしていると、
「変態、と、は失礼、な……。ある事柄を、つ、追求する。記者の魂の基本、ですよ」
 文がさらに言葉を紡いだ。
「追求するものを間違ってるでしょ……」
 霊夢が溜め息交じりに、面倒臭さを滲み出して告げる。対して文は、まるでわかっていないと言わんばかりに反駁した。
「何を、言ってるん、ですか……。はぁはぁ、強さ、と美しさは妖怪にとって永遠のテーマですよ。つ、強さばかり、を追求すれば、優美さは薄まり、美しさばかりに気を取られれば強さは疎かになってしまう……。これは、スペルカードルールにも、い、言えると思うのです。血がありったけ張り付いた刀はそれだけで厳しいですが故に風雅は無く、水面のように美しい刀身と言えど、模造刀では切れません。私が求めるのは、妖しく輝く妖刀ですよ」
 文は大きく吐息を一つ、さらに続ける。
「そこで、神社周辺を探っていたのですが、聞き込みの結果辿り着いたのが幽香さんです。女性特有な柔らかなボディライン、太陽のような美しい笑顔。そして、その膂力も自他共に認められている。そんな幽香さんの秘密を、赤・裸・々! に書き綴ってやったら、間違いなく文々。新聞の部数は伸びることでしょう」
 幽香が引きつった笑みを霊夢に向けるが、霊夢は首を横に振る。
「でもそれなら、紫でもいいような気がするんだけど……。ていうか、前に取材受けてたんだし、そっちの方が良かったんじゃない?」
「紫さんはダメです。何だかインチキっぽいですから」
「あんた、それが紫の耳に入ったらえらいことになるわよ」
 霊夢は呆れながらも周囲を何気なく見渡した。八雲紫は誰もが恐れる神出鬼没のスキマ妖怪だ。それこそどこに目や耳があるかわかったものじゃない。壁も障子も関係無いのである。
 一通り見渡し、紫の気配の有無を確認し終えると霊夢は一息吐いた。霊夢が確認したのは別に文のためではない。こんな場面に出てこられても話が余計に拗れるだけと危惧してのことだった。
「まあそれはともかく。魔理沙、永琳呼んできて。いくら妖怪といえど、あの深手じゃマズそうよ」
 魔理沙はわかってるぜと了承し、箒に跨ってこの場を飛び去る。高速で空を駆けていく魔女は見る見るうちに小さくなっていった。魔理沙を見届け、霊夢は再び幽香を見据える。
「さて、どうしたもんかしらね? そのへんで止めてくれないかしら」
「嫌よ、せっかく面白くなってきたんだから。それにこの子、私のことを好き勝手に書こうとしてたのよ? とっても気分悪いし、怒りもまだ収まってない。……だから、消えてもらわなくちゃね」
 幽香は不満そうに漏らし、文の血で赤く彩られた日傘を広げる。日傘が役割通りの形を取り戻すと、血が周囲の空気に散布した。霧状になった血は日の光を反射し、何とも美麗な赤を映えさせる。赤い世界の中心に立つ幽香は酷薄な笑みを浮かべ、霊夢から文に双眸の光を移した。そして、緩慢といえるほどゆったりと、右手を水平にまで上げ、手を翳す。
「魔理沙に盗まれちゃったのが、ちょっぴり癪だけど、まあいいわ。よく見ておきなさい霊夢、これが“魔法”マスタースパークよ」
「ちょっと、待ちなさい!」
 霊夢が制止を叫び、身を突き出した刹那だ。幽香の掌の前に光が集束し、視界を焦がすような強い光の塊となった。暴風といえるほどの風が幽香を中心に広がり、彼女を取り巻いていた赤い霧を消し飛す。風の波紋に幽香と文の髪が揺すぶられた。全てを焼き尽くさんと存在する光が、荒廃の野を爛々と浮かび上がらせていく。光はまさに精密に縮小された太陽そのものであった。
「さよなら」
 凶悪な笑みで幽香が告げたと同時、光は直線に伸びる閃光となった。文を空間ごと穿つために、暴悪の象徴ともいえる一閃の砲撃へと姿を変えたのだ。光の砲撃は地を削り、向日葵の亡骸を焼却し、文を撃とうとより光を増幅させた。強さを増すその光に、幽香はより笑みを濃くする。
 しかし、幽香の笑みは、途端に消えた。



 幽香が笑みを消した理由は簡単である。自らの砲撃が文まで届くことなく、強い防壁によって防がれていたからだ。
光の砲撃の威力は失せ、勝利の喜悦に代わって幽香に与えられたのは、何とも胸糞の悪い事実だけであった。幽香はすぐに自分の一撃を受け止めたであろう少女の名を呼ぶ。
「霊夢、どうして邪魔をするのかしら?」
 幽香の相好からは笑顔が完全に消え失せ、残るは冷淡な怒りだけだった。幽香の砲撃によって舞い上がっていた砂煙が晴れていくと、幽香と文の間にはやはり霊夢が割って立っていた。幽香の前に立ちはだかった霊夢は幽香に向かって手を広げ、自身の周りを朱色の淡い光で包み込んでいた。ややあって光は消え、彼女は大きく肩で息をして膝を付く。
「冗談じゃ、ないわよ。はぁはぁ、魔理沙とのなんて、比べ物にならないじゃない……」
「私はどうして邪魔をしたのか、って聞いてるのよ?」
「はぁはぁはぁ、どうもこうも、あんたの撃った方向には人里があるのよ! あんなもの撃たれたら、たまったもんじゃないでしょ」
 霊夢は鋭い眼光と剣幕で言い放つが、幽香はまるで表情を変えない。幽香にとって、普通の人間が集まって暮らす人里などどうでもいい場所だった。強いて惜しむとすれば、なかなか仕入れのいい花屋があったくらいだろうか。
「ああ、そうだったの」
 関心など皆無の幽香は冷めた口調で言った。相対している霊夢の睨みがより強いものへと変わる。だが、幽香は臆することなどなく、再び腕を水平まで上げた。
 そして、幽香は笑む。次は無い、と。
「でも、だからどうしたというの? 最後の忠告よ。退きなさい」
 幽香は言葉に確実な威を込める。だが霊夢はただ首を横に振るのみ、拒否の意思を示したのだ。
「そう。あなたのこと、結構好きだったんだけどね。……じゃあね、霊夢。地獄の果てでまた会いましょう」
「全く、何で私がくたばる前提で話をしてるのよ」
「そのつもりだもの」
 言って、幽香の掌の前に爆発的に光が集束する。瞬く間に凄まじいまでに威力を固めた光の球が出来上がり、幽香は満足げな微笑みを浮かべた。再度生まれた太陽の模造からは、熱風が波紋のように広がっていく。熱風はまるで、夏の炎天下のように大気へと熱を浸透させていった。太陽の畑は今再び、名の通りの熱が支配をする世界となったのだ。
 再び、閃光の砲が放たれる。
 世界が焼かれていく光景は実にいいものであると、幽香は悦を覚えていた。同時にこれだけ荒らしてしまったことを危惧していた。下手をすると夏には向日葵が咲かないのかもしれないのだ。それは幽香にとって嘆かわしいことだった。
 ……しっかりと、整え直さなくちゃね……。
 幽香は思いながら、自らが放った光の一撃を見据えた。
 光の砲撃は跡形もなく、一瞬にして霊夢と文を蒸発させる、はずだった。
 だが実際にはまたしても砲撃は届くことなく、防壁に隔てられていた。さすがは博麗の血だ、と幽香の胸を躍らせる。しかし幽香はその結界が博麗の力ではないと気付き、露骨に表情を険しくした。結界は純粋な霊力だけではなく、妖術に近い邪まな力を組み合わせて固められたものだ。結界から放たれる妖力が幽香の肌を刺し、彼女を何とも不愉快にさせる。
 砲撃の威力は失せ、しばらくすると砂煙も消える。そして、幽香の一撃を受け止めた者の姿がはっきりと見受けられた。

 境界の妖怪、八雲紫である。

「紫、あんた何しにきたの!?」
 紫の登場に霊夢は怒鳴るように訊ねた。紫は左手で差す卍傘を揺らして振り向き、膝を付いている霊夢を見下げた。そして紫は微苦笑を交えて答える。
「命の恩人にご挨拶ねぇ。あなた達を助けに来たに決まっているじゃない。……それにしても満身創痍ねぇ。天狗の名が泣くわよ?」
 紫は霊夢を越して、文に視線をやった。
「ええ、お、お恥ずかしい限り、です。自己の慢心っぷりが身に染みますよ。相手の力量も推し量れぬようでは私もまだまだですね」
「久しぶりに本気でやりあったのだもの、そんなものでしょう。龍神様にバレちゃ一大事だし、こういうことは控えて頂きたいけど、得られることも多いわ。妖怪の力量は曖昧になってきているのよ。それを吉と取るか、凶と取るか、重要な分岐点ですわ」
「きょ、興味深いお話です。今度、是非とも取材を」
 苦痛に耐える表情から文は笑顔を搾り出し、対する紫もそっと微笑む。続いて、二人のやり取りを傍観していた霊夢が口を開いた。
「助けに来たのなら、もう助かったからいいわよ」
 霊夢の口調は明らかに怒気を含むものだった。
「そうね。でも、もう一つやりにきたことがあるのよ。……博麗の巫女を消し飛ばそうとした、“大妖怪”さんに仕置きを、ね」
 紫が再び幽香の方を向く。幽香は紫の言葉に眉尻を下げ、優美に笑んだ。霊夢は立ち上がりながら、紫を抑止の言葉をかける。
「ダメよ! あんたは大人しくしてなさい!」
 紫を抑えようとする霊夢だが、彼女の周りの空間が三箇所裂ける。スキマ妖怪が作り出す“スキマ”であった。空間の裂傷、スキマから鎖が飛び出し、霊夢の身体に巻きつく。霊夢は鎖を絡められ、地面に倒れ伏した。
「ちょっと紫! どいうつもりよ!?」
 身動きが取れなくなった霊夢は紫を見上げながら、怒声を上げた。
「大人しくだなんて嫌よ。あなたこそ大人しく見ていなさいな。幻想郷を傷つけるだけではなく、私の霊夢を亡き者にしようとしたんだもの、この手で鉄槌を下さなければ気が済まないわ。心配しなくても、周りに被害が出そうになったらちゃんと結界を張るわ」
 紫は笑みを浮かべる。彼女が浮かべる優雅な笑みは、紛れもなく闘争の本質を表したものだった。
「鉄槌……? じゃあ、あなたの拳も後ろの鴉同様に潰してあげるわ」
 幽香は一歩前に出た。対する紫は苦笑をする。
「そう急いちゃダメですわ。まずその前に、一つ聞いておきたいことがあるの。ちゃんと答えて下さる?」
 ええ、いいわと幽香は承諾する。それを聞くと喚く霊夢を尻目に紫は笑みを消し、幽香を射るように見据えた。
「霊夢を殺せば、博麗大結界は保てなくなり、結界はいずれ倒壊することになるわ。博麗の巫女はいわば幻想郷の秩序そのもの。そんな数々の魑魅魍魎が恐れていることをあなたは平然とやってくれようとしたわけだけども、その後はどうするつもりだったのかしら? 一つ言っておくけども、このことに関しては私、――本気で怒っているわ」
 紫の言葉から垣間見れる憤りは、火を見るより明らかだった。鋭利な刀身の如く自らを切り伏せようとする彼女の言葉に、幽香は喜色を濃くする。
「さあ? とりあえず外の世界を侵略して、手中に収めてみようかしら。暴君と君臨するのも、また一興じゃない?」
 幽香はただの思い付きを述べた。紫も当然わかっているのだろうが、彼女から返る言葉に憤怒の色は皆無となり、口元は再び綻ぶ。
「頼もしいことね。今の幻想郷に外の人間に敵うなんて思っている妖怪はそうそういないわ。噂が噂を、憶測が憶測を、妖怪達はみんな外の世界に怯えてしまっている。あなたみたいな妖怪がいてくれるということは嬉しい限りですわ」
 紫は一呼吸置き、続ける。
「でもね、まだ“時期”じゃあないわ。だからまだ、あなたは幻想郷に“飼われて”いてくれないかしら?」
「あら、私はただの“必要悪”に成り下がった覚えはないのだけど。それにここもいい加減に飽いてきたわ。外の世界の花も見てみたいのよ」
 幽香と紫、お互いの笑みはより牽制を強めていく。笑顔を浮かべ合う幽香の胸を占有するのは狂喜だった。これほど殺気めいた笑顔と対峙したのは久しぶりだからである。幽香は揚がった気持ちを笑顔として発散しながら、さらに口を開いた。
「それにしても、あなたこそどうして未だに幻想郷に留まったままなの? あなたの力なら――」
 紫は幽香の言葉を遮る。
「だから言ったじゃない。まだ時期じゃないのよ。今欲すべきものは……」
 言って、紫は垂直まで右腕を上げ、空を指差した。遥か頭上に広がる蒼茫の空。指に釣られて見上げた幽香はある噂を思い出した。昔、月に攻め込んだ無謀な妖怪がいた。その妖怪は懲りず、またしても月に向かうそうだ。誰から聞いたかはすっかり忘れた幽香だったが、その話を聞いたときの胸から込み上げてくる愉快さは忘れることが出来なかった。幻想郷にはまだ馬鹿な妖怪がいたのだ、と。
「だから、邪魔をしないでくれる?」
 紫は差した指で宙をなぞった。そして、“そこ”が裂け、スキマが生まれる。スキマからはゆっくりとナイフが落ちてきた。紫は人差し指と中指で掴み、そのまま右腕を振り下ろして、ナイフを投擲した。
 幽香は咄嗟に日傘を横にしてナイフを防いだ。傘に弾かれたナイフが宙を舞い、銀色の刃で陽光を反した。幽香は傘をずらし、紫の姿を確認する。だが、視線の先に彼女の姿はすでにない。
「こっちよ」
 幽香は向きを変えて、声のする方に視線を上げた。見上げた先、空と重なって紫は浮かんでいる。紫の差す日傘と艶やかな長髪は風に揺られ、青空に浮かぶ彼女は幻想的な美しさを醸し出していた。
 優雅に振舞う彼女の周りには、幾本にも及ぶ妖怪針が鋭い先を幽香に向けて存在していた。紫がいつのまにか右手に持っていた扇子を広げると、妖怪針が一斉に射出された。無数に降り注ぐ殺意の雨に幽香は臆することなく、傘を盾にしながら後方に跳んだ。妖怪針が地と傘に当たり、飛び散る。
 幽香が着地をすると同時に、赤、黄、白、様々な色の花弁が舞い上がった。百花繚乱の花畑に立つが如く、色彩豊かな花弁を纏って、幽香は笑う。そして、花弁は意思を持ったかのように、紫に向かって宙を流れていった。まるで花が風に散りゆくように見えるが、花弁が流れる先にも後にも気流は無い。
「あらあら、綺麗ね」
 風無き花吹雪が紫を襲う。見た目だけなら変哲の無い花弁だが、幽香が撃ち放ったのは妖力を込めた花弁だ。威力を持った一枚一枚は、触れたもの全てを鋭利な刃物の如く切り裂く。いわば花吹雪は刃の弾幕だった。
 迫り来る花弁の弾幕に紫は笑みを崩さず回避していく。左へと、右へと、決して慌てる様子はなく、むしろ彼女からは余裕が感じられた。それは当然のことで、幽香は避けられるであろう範疇の弾幕を放ったからである。紫もわかっているのだろう。彼女は優雅な舞で魅せるように花弁を避けていた。しかし、これではただの決闘になってしまう。幽香が求めるのは、そして紫も求めているであろうものは、狂気じみた死闘だ。満面の笑顔を咲かせて幽香は言い放つ。
「お遊びもそろそろ本気でやらなくちゃね」
「そうよ。小手調べなんてくだらないことしてなくていいですわ」
「そうね。今から咲き誇るは、この世でもっとも綺麗で、卑猥で、残酷な、真っ赤なお花よ」
「それはあたなの血かしら? それともあなたの肉かしら?」
「どちらでも、ないわ」
 幽香は紫の血肉の花を咲かせようと、先ほどの弾幕とは比べ物にならないほど多量の花弁を舞い上がらせる。だが瞬間、幽香の頭上から巨大な石の塊が降ってきた。それは墓石だった。咄嗟の動作で幽香は傘を閉じ、落下してくる墓石の下面の中心を突いた。幽香の腕に重量と衝撃が加わったと同時、墓石にひびが入り、石塊は途端に音を立てて崩壊した。大小様々な形の欠片が幽香の周囲に飛び散る。
「非常識でしょう? 人の上に墓降らせるなんて」
 幽香が視線を紫のいた空に戻すとすでに紫は空から消えていた。幽香は舌打ちを一つ。性質の悪いイリュージョンに彼女の怒りは煽られていた。
「次はどこに言ったのよ……?」
「こっちですわ」
 突如背後から、幽香の髪を鷲掴む手が現れた。幽香は髪を掴む手首を握り、潰す。間もなく手指は力を無くし、髪から解ける。
「はい、は・ず・れ」
 幽香の目の前、息がかかるほどの近距離に紫は空間を割って、唐突に現れた。咄嗟に幽香が殴り付けようとすると、またしても背後から無数の手指が絡みつき、身体を拘束する。
「神隠しになんて遭ってみたくない?」
 幽香の是非など聞かず、微笑む紫の背後に開くスキマが紫色に輝き始める。紫色と無数の眼が蠢く漆黒の裂け目は、より大きく口を空けて幽香を飲み込もうとしていた。
「興味ないわ!」
 無数の腕が作り上げる束縛を幽香は力に任せて振り切って、拳を紫の頬に打ち当てた。紫はよろめきながら、大きく開いたスキマの中に再び飲み込まれていく。光を消滅させたスキマは紫を嚥下し終えると閉じ、幽香の視界には元の景色が広がった。幽香に絡み付いていた手も握力を失い、幽香の背後に開いたスキマの中へと退いていく。
「それは人間との戯れでしょう?」
 幽香は身体の向きを返し、背後に存在していた紫に問う。紫との距離は十メートルほどだ。
「妖怪も大歓迎よ。生と死が作り出す、楽しい楽しいカオスとファンタジアですわ」
「意味がわからない」
 幽香は捨てるように言い放つ。紫は幽香が殴った側の頬を手で押さえ、軽く俯く。いくら紫であろうと、幽香の拳は多少なりとも効いているようだ。
「わからなくて結構。わかってもらっては純粋に楽しんでもらえませんもの」
 紫が告げ終わる前に幽香は動き、地を蹴飛ばした。幽香が身を突き飛ばし、向かうのは紫の懐。対して頬を押さえたまま紫は変わらぬ様子で続ける。
「それにしても、すごい力ねぇ。適当に絡めたとはいえ、結構な力だったはずだけど」
 確かに中々の力だったと浮かべながら、幽香は紫との間合いを一気に詰めた。
「馬鹿力って言いたいんでしょう?」
 幽香は訊ねながら上身体を反時計周りに捻り、もう一度右から頬を狙って殴り付ける。しかし、二度目の拳が撃ったのは宙だった。
「馬鹿力だなんて。むしろ誇るべきでしょう? まあ、少しだけ思っているけど」
 紫の口調には嫌味がなく、むしろそれが胡散臭さを醸し出していた。幽香は捻った上半身を戻す勢いを使って、一歩踏み込みながら裏拳を放つ。紫は二歩退いて、回避した。
「あなたも、“スキマ”を持ってるじゃない?」
 幽香は言いながら素早く踏み込み、正拳を紫の胸に向かって撃った。
「インチキだって言いたいんでしょう?」
 だが、紫は軽い足取りで幽香の右に周り込むように避けた。
「その通りよ」
 右脚を振り上げて腰を捻り、幽香は右方の紫に回し蹴りを放つ。対応する紫は浮かぶように自身の後方へと跳んだ。重力を感じさせない奇妙な回避であった。
「あなた、とっても変わってるわね」
 告げた幽香は一息付き、畳みかけるために紫へと大きく詰め込んだ。
紫の強みはその曖昧さにあるのだろうと、幽香は思う。幽香が今まで出会った妖怪達と紫との決定的な相違箇所は、対峙しているときの感覚にあった。まるで雲を相手にしているような、明確に見えているのだが掴むことが出来ないのだ。
「よく言われるわ」
 何とももどかしい気持ちに、幽香の心は焦がされていた。



 紫は確実に幽香の攻撃を見切り、かわしていた。しかし幽香の一撃は速く重い為、連打を叩き込まれれば回避はいずれ追いつかなくなるだろうと踏んでいた。紫はそれほど彼女の膂力に脅威を感じている。先ほど受けた一撃も実はそれなりに堪えていた。幽香は単純な力比べなら鬼に劣ることもないのかもしれない。
 そして今まさに紫の危険視していた形勢となった。幽香が紫の懐へと深く入り込んできたのだ。
近接戦闘では分が悪い紫が勝利を得るためには距離が必要だった。スキマさえ開ければ一瞬のうちに距離を取ることができるものの、紫には幽香がそんな隙を与えてくれると思えなかった。
 ……ならば、どうするべきかしら?
 紫が沈潜することなど知ってか知らずか、幽香は左手に持つ日傘を地面に突き立て、右を紫の顔面に寄越した。一手目で当たる気など殊更ない紫は二歩引いて避けた。次いで左の拳。紫がもう一歩引くと、間もなく右の拳に追われた。紫は身体を左に逸らして、対応した。
こちらからも撃ってみようかと紫は考えたが、生憎賭けに出られるほど紫に風は向いていなかった。紫は思考を巡らせる。この向かい風をどう活かそうか、と。
 さらに幽香の回し蹴りが、再び右拳、左、蹴り、幽香の連撃に紫は着実と追い詰められていった。幽香の左拳の一撃を紫が右半身となって避けると、幽香は勢いを殺さないまま右回りをして右手で裏拳を放った。
 そして、紫の頬に幽香の手の甲が叩き付けられる。紫の頭は揺さ振られ、身体は左に流れてふらつく。
 幽香が決着をつけるべく、間を置かずに踏み込んでくる。
 しかし、すでに紫は幽香を謀っていた。
 幽香の頭上にはスキマが開き、スキマからは二本の鉄の棒が伸びる。真っ直ぐ撃ちだされた二本の鉄の棒は、幽香の一撃を放とうと伸ばしていた右腕を挟む形で地面に突き刺さる。幽香の身体は棒に高い音を上げて激突した。続いて四本、六本、八本、スキマから次々と出現する鉄の棒は幽香を取り囲んで地に刺さっていった。瞬きの間に円柱形の鉄格子が完成する。紫は微笑を幽香に当てつけた。
 スキマは紫が殴られ、よろめいたときに開いたものだ。回転を利用した攻撃は動作も大きい。次の動作に移るまでに時間も大きくなる。いわば隙が出来るのだ。その隙に便乗するべく紫は甘んじて攻撃を受けたわけだが、実際には少し身体をずらし、直撃を逃れていた。幽香から見れば、避け損なったように見えるだろう。幽香の攻撃が当たった瞬間、彼女に余裕が生まれるだろうと踏み、その余裕という虚を紫は突いたのである。半ば賭けに近く、あまりスマートとは呼べないが、紫は十分だと思っていた。
 もちろん、無理矢理スキマをこじ開けることだって可能だった。それをしなかったのは、いや出来なかったのは、紫の矜持が許さなかったからだ。彼女は、強引なやり方が嫌いなのである。妖怪の行動原理など、極論を言ってしまえば好きか嫌いかで決まるものだ。
「然らば、生とも死ともつかぬ世界へ」
 舌打ちを一つ打ち、幽香は紫を捉えようとしていた腕を引いた。だが紫の言葉を素直に聞き入れたわけではなかったようだ。幽香は鉄の棒を握り締める。すると握った部分を中心に鉄は赤い光を広げ、熱を放ちだし、瞬く間に鉄火と化した。
「これで閉じ込めたつもり?」
 幽香が告げると、紫は自らの背後の空間を切り開き、裂傷の中に身を投じる。
 間もなく、幽香が握る棒は爆発し、爆風と轟音を辺りに散らす。
 紫は幽香と距離を置いた場所の世界を裂いた。開いたスキマから顕界に舞い戻った紫が見たのは、濛々と立ち込めて揺れる煙と灰燼だった。煙の中に影が覗える。蒙昧の中、紫に向かって歩む影は地に着き刺さった日傘を左手で取るとそれを広げた。やがて、煙の中の影は風見幽香としての姿をはっきりと現し、狂喜の笑みを浮かべて口を開いた。
「楽しいわぁ。楽しい。今日ほど楽しい日は久しぶり」
「私もよ。楽しくて、笑みが止まらないわ」
 紫も笑んだ。そして続ける。
「でも、けじめってものは必要ですわ。楽しいことばかりじゃ、ダメなのよ」
 紫は笑みを絶やさなかった。喉奥から溢れる生臭い真っ赤な血を、口から零しながら。
「……しかし驚いた。お腹に風穴を開けられていたなんて」
 言った通り、いつの間にか紫の腹には穴が空けられていた。背まで貫通し、大きさは拳より一回り大きい程度だ。紫の華麗な服は、とめどなく溢れ出る赤に侵食されていく。赤く染め上げられる衣服を一瞥し、紫は笑みを濃くした。もはや紫は、いつ空けられたかなどとは気にも留めていなかった。
「霊夢に手を出し、仕置きには応じてくれない。その上、私の服を汚す。とりあえずあなた、詫びなさいな」
「詫びる? 妖怪は滅多なことがない限り、謝ってはいけないわ。妖怪の鑑たるあなたが――」
 幽香の言葉を遮り、
「詫びなさいな」
 紫はもう一度強く言い放った。そして、間髪いれずに幽香の両脚を、左右から一筋の光が撃つ。二本の閃光に脚の肉を抉られた幽香はその場に前のめりに倒れこんだ。
「あら、私は土下座までしろなんて言ってないのですけど」
 幽香はゆっくりと立ち上がり、服に付いた砂を払った。
「どうやら脚は繋がっているみたいね。ご親切にどうもありがとう」
 紫に向かって幽香が明らかな皮肉を投げかけると、紫は心外だと言わんばかりの声色で返す。
「それじゃあまるで私がやったみたいじゃない。濡れ衣ですわ」
「おかしいわね。日常生活の中でいきなり、脚を撃たれたことなんてなかったのだけど」
「今までは運が良かったのね。これからは全身が穴だらけになるかもしれませんわ」
 紫はスキマを開いて手をいれ、一枚の札を取り出した。
「動かぬ証拠、発見ね」
 幽香が札を指して指摘すると、紫はあらあらいつの間にと、わざとらしく驚いてみせる。吐息を一つ、紫は優雅の極みを象った笑みを幽香に向けて宣言した。
「――外力「無限の超高速飛行体」――」
 だが、そこで紫は思わぬ風が煽られることとなった。一陣の風が、紫と幽香に間を駆け抜け、縛られていた霊夢を攫い、磔刑に処されていた文を解く。



「さぁて、一体これはどうしたのかしらね」
 霊夢を抱えたまま、注連縄を背負う女性は風を纏い、宙で胡座をかきながら漏らした。
「どうやら、一歩遅かったようだな。状況は最悪だ」
 傍らの魔理沙が、紫を見て溜め息を吐く。対して紫は魔理沙に軽く笑ってみせる。そして、幽香は驚いているのか、こちらの様子をただ眺めていた。魔理沙の横には負傷した文を横抱きにし、銀髪の女性が降り立った。
「こんにちは、天狗さん。診察料は高くつくわよ」
 銀髪の女性が自ら抱く文に苦めの笑みを向けた。
「すみません、永琳さん」
 文がそう言うと銀髪の女性、八意永琳は頷いた。
「何か余計なものまでついてきたみたいだけど、どういうこと?」
 守矢の祭神、八坂神奈子に抱かれた霊夢は辟易としながら告げ、傍らにいる同じく守矢の祭神、洩矢諏訪子、守矢の風祝の東風谷早苗を見た。
「余計なものとは失礼ですね。これでも頼まれて来たのですから」
 早苗は霊夢に不満気な声で言った。
「頼まれて? 誰からよ」
 抱えられたまま早苗に首を向け、霊夢が訊ねる。その表情は心底怪訝そうだ。
「大天狗からよ。勝手な突撃取材で、強力な妖怪を怒らせた鴉天狗がいるから、他の天狗達に波及する前に連れ戻してきて欲しいんだって。管理職は大変ね」
 諏訪子がそう告げると、神奈子はさらに補足をする。
「大天狗直々に出向くのもいろいろと問題があるしね。それで私達が頼まれたのよ。まあ、これも祈願ってことさ。神様は願いを叶えるものってこと」
二注の神の話を聞いて、文は力無く謝罪をする。
「八坂様、洩矢様、早苗さん、申し訳ありません」
 気にするな、と神奈子は文を励ます。実際、彼女の言葉は本心からである。信仰を貰っている者に徳を返すのは神として当然の務めであり、何より徳を返せる相手が再び見つかったということは本当に喜ばしいことだ。それに神奈子は現在の妖怪の実力にも興味があった。外の世界では、その名を物語の中だけに忍ばせてしまった存在が、この幻想郷には溢れている。そんな妖怪達がどれほどの力を持って跋扈しているのか、神奈子には気になって仕方がなかったのだ。
「ところで、何であなたこそ鎖に縛られているのかしら? それともこれは何かのお遊び?」
 神奈子は苦笑を交えて霊夢を見た。霊夢は露骨に不機嫌な顔をして、経緯を告げた。
「紫に縛られたのよ。誰が好き好んでこんな格好になると思ってるの?」
「そうよね。あなたはどっちかっていうと縛るほうだと思うわ」
 笑いながら神奈子は霊夢に巻きついた鎖を二回軽く叩いた。途端、霊夢に絡む鎖は錆びて朽ち、一瞬のうちに砕け散った。
「ありがとう」
 神奈子が少し驚いた様子の霊夢を下ろすと、霊夢は表情を改め、巫女服に付着した錆を払い落とした。神奈子も胡座を解いて、地に足をつける。そして、霊夢は紫に憤りに燃える視線を向け、怒鳴った。
「紫、引きなさい! ずっと無視して! 大体、私はあんたの物じゃないのよ!?」
 紫は霊夢の憤怒に動じることなく、
「はーい、じゃあ引くわね。後は任せますわ」
 快く承諾した。
「何で素直に応じるのよ!?」
「何で素直に応じちゃいけないのよぉ?」
「じゃなくて、いいんだけど! あっー、もうっ! わかるでしょう!?」
 からかう紫に対し、余計に声を張り上げる霊夢に魔理沙が声をかける。
「落ち着け霊夢。紫の思う壺だぜ?」
「……そうね」
 霊夢は紫から視線を外して吐息を一つ、再び紫を睨みつける。
「理由なんて簡単じゃない。面白そうだもの」
 不気味なほどに美麗な笑みを浮かべ、紫は告げた。次いで紫は神奈子達の方に向かって歩み出す。そこで今まで傍観していた幽香が紫に苛立った言葉を投げかけた。
「見世物ってこと? あなた、馬鹿にするのもいい加減にしてほしいんだけど」
 背後からぶつけられた言葉に紫は歩みながら頭だけ振り返り、横目で幽香を見る。
「否定はしないけど、別に馬鹿にしているわけじゃないわ。単純に面白そうってだけよ」
 やがて紫が神奈子達の集合に加わると、彼女は霊夢に苦笑をする。霊夢は相変わらずの憤怒を秘めた視線を向けるだけだ。
「もう、怖い顔しないでよ」
「あんたはよくそんなことがいけしゃあしゃあと言えるわね」
「だって悪いとなんて思ってないもの」
 紫はまるで無邪気な笑顔を霊夢に向けた。当然の如く、再び霊夢の怒りは爆発する。
「あんた、封印されたいの!?」
 紫は以いかにもわざとらしい声色でこわぁいと言い、スキマを開け、中に逃げ込んでいった。
「全く、あのスキマ妖怪……」
「まあまあ、落ち着けよ。よくあることじゃないか」
 笑いを堪えながら魔理沙は霊夢を宥める。神奈子や他の皆も苦笑していた。一頻り笑って、神奈子は表情を険しいものとし、幽香を見た。
「さて、そろそろ茶番は済んだ?」
 待ちかねたと言わんばかりに幽香の退屈そうな声が飛んでくる。幽香は神奈子達を見渡し、脅威を孕ませた微笑みを浮かべた。
「多勢に無勢ね。ホント、さっきから胸の高鳴りが止まらないわ」
「そうだ。多勢に無勢だ。敵うと思っているの?」
 神奈子が厳かな声で強く訊ねる。
「ええ、もちろんよ。私が敵わないと思うなら、その道理を聞かせてくれない?」
 幽香は右腕をゆっくりと水平まで上げ、指を広げた。彼女の手の先に光が集束し始める。野を焦がすかのような、規格外の光と熱が集まっていく。
「本日三回目よ。魔理沙とのは桁が違うから気をつけなさい」
 霊夢がやれやれとした声で告げ、魔理沙も呆れた口調で反した。
「おいおい、オリジナルの方が強いってのはセオリーだぜ?」
「今はそんなことどうでもいいわ。それよりも、来るわよっ!」
 霊夢が告げると同時、光の球は屹然と光輝を放ちながら、絶大な威力を持った砲撃に変わった。だが神奈子は怯むことなどなく、平然と構えて自らが絶対的な信頼を置く友に呼びかけた。
「諏訪子、頼むわよ!」
「はいはーい、わかってるわよ!」
 諏訪子は手には札が握られていた。札から姿を現すは白い蛇である。その白さは雪のように輝き、霧のように幻想的だった。白蛇は召還されるやいなや、一直線に砲撃へと、幽香へと向かっていく。
 そして、蛇は瞬時に巨大化する。頭から尾まで一気に肥大し、蛇の胴回りは樹齢千年を超える巨木程となった。白い大蛇は眼光で幽香を突き刺して進行し、向かい来る閃光の砲と、砲ごと幽香を喰らった。
「“魔法は派手ゆえに蛇に飲まるる”、――なんてね。威力だけなら褒めてあげるけど、大雑把すぎるわ。もっとスマートに出来ないもんかしらね」
 神奈子、諏訪子を除く皆が一瞬の出来事に圧巻されていた。神奈子は諏訪子の顔を見て笑み、諏訪子も神奈子と視線を合わせて吐息を一つ吐いた。
 しかし安息もつかの間、不意に神奈子が大蛇へ視線を戻すと大蛇が縦に裂かれ、真っ二つとなった。割られた左右の大蛇の亡骸は霞が晴れゆくように消えていく。
 大蛇の分割し、中から現れたのは当然のことながら幽香である。神奈子も諏訪子も驚きを隠せずにいた。
「大喰らいなペットね。私まで食べちゃうなんて。ちゃんと躾けたほうがいいわよ?」
 幽香は憫笑を全面に出して提案する。
「消化の悪い妖怪だなぁ……。まあ、善処はしておくわよ。次はあんたの番、神奈子」
 幽香は次の動きに出た。自ら前に一歩踏み出た神奈子を狙ってだろう。地を蹴り、向って来る。そして、ある程度の距離が縮まると、幽香は強く地面を蹴飛ばし、飛び込む。瞬時にして接近した幽香は右手を伸ばし、神奈子の顔を捉えようとする。だが、幽香の手が神奈子に辿り着くことはなかった。幽香の手はあと数センチで神奈子に届く。しかし、それは叶わない。
「相手を違えるな妖怪。私は神よ?」
 神徳によって神奈子が作り上げた風の防壁が、神奈子と幽香を画していたからである。風の壁は爆ぜ、幽香を大きく吹き飛ばした。
吹っ飛び、神奈子から遠ざかっていく幽香は空中で身の平衡を安定させてのか、何事もなかったかのように着地した。
「知っているわ。外の世界から幻想郷に“逃げ込んできた”無能な神様でしょう?」
「痛いところ突くわねぇ。確かに逃げ込んできたわ。でもね、あなたが無能と呼ぶのは神の風よ。八坂を上り、八坂から下ろす神の風、とくとその身に受けなさいっ! ――「マウンテン・オブ・フェイス」――!!」
 神が怒号を上げた瞬間、野に暴風が吹き荒れる。気流が乱れに乱れ、枯れ葉も砂も巻き上げて、幽香に向かって押し寄せていく。乱気流が全てを等しく飲み込む姿は、猛威そのものである。だが神の暴風はただ暴れまわる風ではなく、乱流の中に精密な統制があり、相手を追い込むという確固たる意思が存在していた。とどのつまり、神奈子が放った暴風の幕は、遊びの弾幕ではなかった。
 幽香は舌打ちを一つ。スペルカードを一枚取り出して、宣言する。
「――幻想「花鳥風月、嘯風弄月」――!」
 札を掲げる幽香の周りに色彩豊かな無数の花弁が浮かび上がる。繚乱の空間に立つ幽香。彼女の纏う花弁が一斉に動きを持った。一片も遅れることなく、統率された動きで見るものを魅せ、花弁が向かうは暴風の弾幕だ。
 そして、神の風と妖怪の百花はぶつかる。
 ……互角、か……。
 風は弾けて勢力を失くし、花弁は優雅などまるで無く、無残に散ってゆく。
「やるわね、妖怪」
 神奈子は不敵な笑みを浮かべる。幽香もそっと笑んだ後、再び地を蹴って身を突き出した。神奈子も幽香に向かって駆け出す。神奈子の行動に、幽香の笑みは喜びの色を強くする。



 神が近接戦闘を挑んでくるとは、幽香にとって願ってもいないことだった。再び二人の距離は縮まり、先手を撃つのは幽香だ。深く低く入り込んだ幽香は右腕を伸ばし、正拳を神奈子の腹部目がけて放った。
「遅いわよ!」
 言い放ち、幽香は確実に神奈子を捉えた、かのように見えた。しかし、実際には幽香が撃ったのは宙であった。幽香は空振りしていたのだ。あまりに不愉快な錯覚に、幽香に焦りと驚きが生まれた。露骨に険の表情を表し、彼女は前に踏み込んだ右足に揃えるよう、左足も引き寄せて体勢を立て直す。
「悪いわね。こっちだ」
 自身の後方から聞こえた神奈子の声に、幽香は振り向く。振り向いた先には、神奈子の後ろ姿があった。彼女の手には一枚の札も存在していた。
「御神渡り」
 神奈子が告げると、名の通りの奇跡が起こった。
氷の割れる音。幽香が視線を前に戻すと、氷塊が列を作って地面から突き出で、前方から迫ってきた。氷塊はまるで見えぬひびを辿るように少しくねりながら幽香に迫り来る。隆起した氷塊の高さは幽香の背丈を凌ぎ、二枚の分厚い氷の板が左右から突き出て重なったような形をしている。一度突き上げられれば幽香の身体は真っ二つだろう。かといって、左に避ければ諏訪子が、右に避ければ永琳が、それぞれ体勢を崩した幽香を狙っていた。抜け目がない、と幽香は内心で苦笑をする。
 左右が絶たれたとなれば、残るは上である。そして上空で構えるのは一番戦闘経験が浅い、早苗だった。見上げ、幽香は飛んだ。間もなく、幽香立っていた場所を氷塊が貫いていく。



 早苗は震えていた。幻想郷に来てから何度か妖怪と勝負をしてきた彼女だったが、これほどまでに殺気を帯びた強大な力と向かい合ったことはなかった。いつも前提に幻想郷を守るルールというものが存在していたからだ。
しかし、今は違う。
 単純な暴力によって勝敗が決まる。それは早苗にとって大変恐ろしいことだ。心臓が痛いほど早く鼓動し、早苗の息は少し荒くなっていた。飛翔してくる幽香の相好から伝わる恐怖が早苗の心を病のように侵し、全身から汗が噴出す。容赦してはいけないと、早苗は自分に言い聞かせた。
 やがて、幽香が早苗の高度まで達する。その過程をただ睨みつけていた早苗は、幽香と重なった空が悪意を持って押し潰しにくるような錯覚に陥った。透き通る蒼や疎らに散らばる雲の一つ一つが早苗に畏怖の念を与える。早苗の瞳が潤み、視界がぼやけていく。
 怖気付く自らの心に叱咤を浴びせる為に、早苗は眼下に広がる枯野から自分を見上げる二柱の神を見た。早苗を見守る神はいつものように朗笑を浮かべ、頷く。早苗もまた頷いて、笑顔を返す。そして、早苗はしっかりと幽香を見据えた。空にも、彼女の笑顔にも、気圧されることなく真っ直ぐと。
「お手合わせ願うわ」
 幽香の声は、まるで勝利を確信したかのように自信と余裕が溢れたものだった。
「喜んで、お受けしましょう」
 早苗は表情を崩さず、了解する。
 先に動いたのは早苗だった。早苗は意識を集中して、奇跡を起こす。彼女の奇跡は気流を乱して弾丸とし、その風の弾丸を速射した。撃ち放った風の弾は計八発。しかし風の弾が幽香に通じることはなかった。幽香はいとも簡単に回避する。
「山の連中は揃いも揃って風しか知らないわけ?」
 幽香は退屈そうな口調で告げる。早苗は臆すること、幽香を直視し続けていた。幽香に対する畏怖が消えたわけでは決してない。だがそれでも早苗は、殺意に必死に対峙し続けている。
「名は体を表すとは、よく言ったものです。“風”が“見えている”んですか、“風見”幽香さん?」
「風は花の味方であり、大敵よ。見えていて当然だわ。気流は一見、目に見えないから避けにくいものだと思っているのならそれは大間違い。空気の乱れは思いのほか、感じやすいものなのよ。何せ全身に備わっている触覚で“見る”ことが出来るんだもの」
 風は空気の流れである。そして、空気はいたる場所に存在するものだ。その為、風を起こす能力は場所をほとんど選ぶことなく、強力で効果的な攻撃が可能であった。しかし反面で、空気は相手の知覚出来る範囲にも同様に存在する。それ故に風が正確に読める相手には、風の攻撃が行き着く前に空気の微かな変動を読み取られてしまう。文の敗因は、彼女の慢心だけではなく、幽香の風に対する知覚能力の高さもあったのだろう。
 天狗と同じく、主に風が武器の早苗にとってこれほど分の悪い勝負もなかった。だが、早苗はそれでも立ち向かおうとしていた。無謀だなと自嘲しながらも、彼女は自分自身の持つ、そして神から賜った能力を信じていたのだ。
「ですが、私の風はただの風ではありません。神から下賜された風、奇跡の風です。油断していると大怪我しますよ」
 言い放って早苗は横に一列、風を発生させて飛ばした。幽香は上昇してかわす。上昇した幽香は口元だけで笑い、双眸は早苗を卑下にするよう見下していた。
「神の風か……。狂信者ねぇ。狂ってるわよ、あなた」
 言い終えると幽香は傘で周りの空気を払うように一回転する。回転の後、傘の内側から現れたいくつもの菫の花がくるくると回って、幽香の周りに浮いていた。青空に咲く紫色の花々は何ともいえぬ不気味さを生む。
「何といわれようと結構です。教えに関わる者は大抵そんなものですよ」
 早苗は幽香の圧に負けぬよう、半ば虚勢を張って取り憑いた恐怖心を祓おうとしていた。
「そうね。そんな可愛らしいあなたにこのお花を贈るわ」
 そんな早苗の心情を察するように幽香はくすりと笑んで、菫の花が発射される。回転しながら向ってくる紫の花を、早苗は撃ち落すべく風を放った。
「でもあなたの神様、抜け目がないっていうか卑怯よ。さっきのだって騙し討ちだし、あの氷も左右に避ければ他の二人の餌食だったわ。性質の悪さならスキマ妖怪と変わりないわよ」
「そんなことありません。“良き人間”と“良き妖怪”はしっかりと導いて下さいますよ」
 菫と風が衝突する。菫は散り、風は止んだ。早苗の風よりも菫の威勢の方が強く、技巧的な動きで攻められ、風はやがて追いつかなくなる。風を抜け、早苗に向かって飛んでくる幽香の花を早苗は避ける。一つ、二つ、と早苗まで辿り着く菫の数は時間を追うごとに増し、彼女の回避はより困難なものとなっていった。
「私は悪しき妖怪なの? ふふっ、まあいいわ。というわけで左右を絶たれた私に残ったのは上だけよね。だから飛んだの。いいえ、飛ばされたのね。そう仕向けられたのよ。あなたがいる空へと」
 幽香の花の弾が早苗の右腕を掠る。早苗の服の袖は切れ、露出した白い肌にも赤い一筋が描かれていた。それを見届けたのか幽香は微笑のまま続ける。
「この意味がわかる? あなたが私に敵う理なんて、万に一つ、臆に一つ、兆に一つ、無量大数の遥か果てにも存在しない。霊夢と魔理沙がいたならば、多少は相手になったかもしれないわ。だけど、経験も浅く、そんな半端な能力を持った人間が私の前に一人出てきたところで、力不足よ。どんな作戦を吹き込まれたかは知らないけどね、つまりあなたは捨て駒なのよ。単なる時間稼ぎなのでしょうね」
 幽香の言葉は確と早苗の耳に入り、彼女の心を追い詰めていた。
 作戦は永琳が立てたものだった。二人の神が交互に幽香の相手をしているときに提案したのだ。
 花が早苗の左の脇腹を掠め、腹に裂傷が開く。軽い切り傷だが、花がもたらした一閃からは血が滴った。早苗は心身共に追い込まれてゆく。だがそれでも彼女は永琳の作戦を、神の風を疑うことはなかった。早苗には折れぬ信念があったからだ。だから早苗は立ち向かうことをやめない。
「それでも私は信じます。信じるからこそ、救われるんですよ!」
 花の名を借りた幽香の弾を回避し、早苗はさらに風を飛ばして幽香を狙った。しかし、やはり幽香は正確な動きで風の先手、先手を読んでかわしていく。
「とち狂ってちゃ、何言ってもダメよね。おめでたい頭の人間ほど、失笑を買うものもそうそういやしないわ」
 幽香は告げて、周りに花弁を纏う。繚乱の弾丸が一斉に早苗に向かって飛びかった。
「信仰は儚き人間の為に! 人間は脆弱ですが、それ故に強く他の者を信じることが出来るんですッ! ――準備「サモンタケミナカタ」――!!」
 札を掲げた早苗の背後に赤い光と青い光で五芒星が描かれ、その五芒星に吸い寄せられるように風が集まる。辺りの気流が乱れ、同時に五芒星の光が弾け、狂風と光の弾が幽香を襲う。風が幽香の放った花弁を弾き飛ばし、早苗を守った。それでも幽香は変わらない勝者気取りの笑みを浮かべて、華麗に避ける。
「その信じた者が正しいとは限らないわ。誰も保障してくれないのよ?」
 光と風の弾幕を避け続け、幽香が鋭く訊いた。早苗は毅然として言い放つ。
「感情論でしかありませんが、それが信じるということですよ! 正しいと思えるから、信じるんです! 私が信じる神の風は私に勝利を与えてくれますッ!」
 早苗の背後から爆発的な風が幽香目がけて吹き抜けた。早苗の長い髪や風祝の服の袖を煽って、真っ直ぐ幽香に向かう。神奈子の風や天狗の風には劣るが、早苗の力を存分に引き出し、放った風だ。いくら幽香といえど、避けることは不可能だろうと早苗は確信していた。
 早苗の思惑通り、幽香はスペルカードを取り出す。そして、宣言した。
「――花符「幻想郷の開花」――!」
 無数の花弁が現れ、早苗の奇跡の風に向かってぶち当たっていく。風は押され、早苗に花弁が徐々に迫ってきた。
 だが、早苗は平静を保っていた。今こそが早苗の勝機なのである。
 幽香は風を読むことに優れ、雑作もなく早苗の攻めを無効としてしまう。天狗の風も然り、早苗よりも速度を持つはずの文の風でさえ彼女には通用しなかった。だがその高度な回避行動は、一点を攻めた場合である。隙間の無い面で攻めれば回避のしようがなく、幽香は弾幕に弾幕でもって対応した。いくら風が読める幽香でも弾幕を放ちながらでは集中するのは難しいだろう。今の幽香の力は早苗に向かって放たれていた。
 早苗の奇跡と天狗の風は同じようで、その性質は実のところ違う。天狗の風は団扇の一振りによって放たれる。つまり当人が風を吹かせるのだ。対して奇跡の風は、奇跡を起こした当人から放たれるわけでなく、風が吹くという事象を起こす。つまるところ、空気さえあればどこに風を起こすことも可能なのだ。
 そして、幽香が前方に力を注いでいるということは、
「引っ掛かりましたね。 ――大奇跡「八坂の神風」――!!」
 彼女の後方は無防備だった。
早苗は幽香の後方に、奇跡を起こした。
 奇跡の風が幽香を背後から飲み込む。



 風に撃たれ墜ちゆく幽香を、永琳は確かにその目で見ていた。
「今です!」
 次いで、空から降り注ぐ早苗の声と、彼女の奇跡により生み出された客星の明るすぎる光。目に映る全てを白に染め上げる。単純な眩迷だが、これで幽香が永琳を察知することは難しくなっただろう。永琳は、我ながら荒削りな作戦だったと浮かべながらも、ここまでの成功を無駄にするわけにはいかないと身を突き飛ばした。真っ白に辺りを眩ます光の中、永琳が目指すは幽香だ。永琳は左右の手で二本のナイフを握っていた。
 疾走し、永琳は光輝の中でも視認出来るほど幽香に接近した。衣服は破れて肌を露出させ、幽香は手を顔の前で翳しながら上を見上げて立っている。幽香の日傘は開いたまま傍らに転がっていた。躊躇することなく永琳はまず右のナイフを幽香の背後に突き刺す。続いて抱きつくように左手を彼女の前に回し、もう一本のナイフを幽香の胸を突いた。
「痛いわね。何なのよ?」
 抱きついた体勢のまま、永琳は幽香の耳元に囁いた。
「毒よ。麻痺毒がたっぷりと塗ってあるの。普通の妖怪なら一秒も持たない」
 永琳は六歩下がり、幽香を見据えた。幽香は始めに背に刺さったナイフを抜き、次いで胸に刺さったナイフを引き抜く。傷口から鮮血が溢れ、幽香は永琳の方を向いた。永琳と向き合った彼女は苦しげに笑みを浮かべていた。
「流石といったところかしら。まだ喋れるなんてね」
「霊夢とスキマ妖怪には邪魔されるし、山の巫女には嵌められる。仕舞いには医者に毒入れられちゃうなんて、何だが今日は厄日ね……。つ、ついでに厄神様でも出てこないかしら……」
「厄は自分で呼んだものでしょう? 責任を持って自分自身で買い取りなさい」
 ついには幽香の表情から笑顔が消え、幽香は顔を掌で押さえて右膝を地につけた。永琳は機を逃さず、一気に間合いを詰めた。幽香に掴みかかろうとした瞬間、
「なんちゃって、嘘よ」
 幽香は立ち上がり、彼女の右拳が放たれた。咄嗟に永琳は幽香の伸びた腕を掴み、そのまま彼女の背後に回り込んだ。幽香の腕を彼女自身の背に押し当て、永琳は彼女の動きを奪った。
「効いてないの?」
「どうやらそうみたい。すこぶる快調よ」
 効いていない、というのは虚言だろう。少なからず幽香の動きは鈍っていた。永琳が唐突に放たれた幽香の一撃を捌けたのもそのためだ。薬で完全に大人しくなるかどうか、永琳の中では五分五分と踏んでいた。多少の効果があっただけでも、永琳は役割を果たしたといえる。そして、永琳に残された役目は幽香の体力を少しでも削ることであった。いくら精神に生きる妖怪といっても体力が無限というわけではない。疲労は蓄積され、動作や感覚は鈍る。
 幽香の右腕に力が加わった。解かれまいと永琳も自身の体重をかけて、さらに強い力で押さえつける。お互いの力が強い力を、さらに強力な力を。一本の腕にかけられる力が倍々に増大してゆく。そんな無理な力のかけ合いをしていると、ややあって幽香の肩は音を立てて外れた。
「あら、ごめんなさい」
 永琳が謝罪をすると幽香は動いた。外れた肩など気にも留めず、むしろ好機にとったのか、
「謝らなくてもいいわ。これで好きに動けるもの」
 身を右回りに翻して左の拳を永琳の右脇腹にぶち込んだ。永琳は内臓を揺さ振る一撃に苦痛を漏らした。休む間のなく、幽香は外れた右肩を振りかぶるように大きく上げ、力無くぶら下がる右腕を振り上げた。すると彼女の右肩は再びはまる。威力を取り戻した拳が永琳の顔面に降った。
 永琳は怯んで後退し、吐血と鼻血で真っ赤に汚れる顔を左手で押さえた。幽香の一撃は脳に響き、感覚を鈍化させていく。だが、永琳に間などなく幽香の左拳が顔を狙って飛んでくる。永琳は両下腕を盾にして防ぎ、下段回し蹴りを放つ。足下を狙われ、少し怯んだ幽香の左頬に永琳はすかさず上半身を捻り、掌底をぶち込んだ。掌底を受けながらも幽香は右の拳を永琳の胸に寄越した。その一撃が胸郭を砕き、片肺を破砕する。
 呼吸を困難なものにされるが、永琳は自らの胸に埋まった幽香の手首を左手で握り、右拳で彼女の肘の間接を逆方向に打ち上げる。幽香の右肘はあらぬ方向に曲がった。幽香から苦悶の表情が浮かぶがそれもつかの間、幽香は永琳の右膝目がけて踏み蹴る。永琳の右膝もまた、幽香の肘同様に逆方向に曲がる。次いで永琳を襲うのは腹部への膝蹴りだった。避ける間もなく直撃し、永琳は血と反吐を吐き出した。
 右の脚をやられた永琳は踏みとどまることも出来ず、仰向けに倒れた。
「何なのよ、あんたは……。普通の人間ならもう死んでるでしょ?」
 幽香が息を切らしながら告げた。永琳は倒れたまま返す。
「普通の、人間、ならね……。もう今頃は、彼岸に直行よ。でも、私は違う。何度殺しても死なないわ。千殺そうと、万殺そうと、那由他殺しても私は死なない。とっても残念なことにね」
 永琳が告げ終わると、幽香は覚束ない足取りで永琳に近付き、永琳に馬乗りなった。永琳の右腕は幽香の膝に押さえつけられたが、左腕は逃れることが出来た。自由である左手で砂を掴み、永琳は幽香の顔にかけ当てた。砂をかけられた幽香は微苦笑をする。そして、右腕を振り上げ、肘の関節をはめ直し、拳底を永琳の左肩に打ち入れた。永琳の肩の間接は肉ごと拉げる。永琳は歯を食いしばり、幽香を見た。
「那由他殺しても“死なない”のなら、那由他“死にたい”と思わせるだけよ」
 幽香の拳が永琳の顔面に飛ぶ。次いで反対の拳で撃たれ、永琳の両頬に拳が交互に撃たれてゆく。永琳は痛覚さえ鈍くなっていく中、これでいいと内心でほくそ笑んでいた。
 蓬莱の薬を飲んだ永琳を殺すことは永遠にかなわない。何度殴りつけようと、それはただ疲弊をもたらすだけだ。幽香はそれに気付いてなお、永琳を殴り続けているのだろう。彼女の自己の力に対する自信が、諦めるということを忘れさせているのだろう。故に彼女は体力を磨り潰していく。その後は他の皆に任せればいいだけの話だった。
「どう? もう何百回かは死にたいと思った?」
 言い終え、幽香は殴打を止める。対して、もう顔の感覚がほとんどない永琳だったが、出来る限りの嘲笑を浮かべた。
「まさか。生きる、って素晴らしいことよ」
 永琳が言い放つと、幽香はにっこりと笑う。
「口は災いの元っていうわね。災厄を呼ぶ前に削ぎ落としてあげる」
 幽香は狂気に歪んだ笑みを浮かべたまま、右腕を振り上げた。
 しかし、拳が永琳の頬を抉ることはなかった。何かが幽香に当たり、彼女は永琳の上から吹き飛んだのだ。幽香に何かが当たった瞬間、辺りに気流が広がったことを感じ、永琳は早苗の風弾が飛んできたのだと理解した。明滅を繰り返す意識の中、永琳は吹き飛ばされた永琳に目をやった。幽香は地面を転がった後、無表情でゆっくりと立ち上がり、自身の日傘が転がっている方に足を進めていた。そして傘を手に取ると、幽香は疾走し、風弾が飛んできた方向、早苗の方向に向かった。
「……またなの……? またあなたなの!? いい加減、私も怒っちゃったわ」
 早苗はただ幽香を睥睨する。彼女の背後に立つ、二柱も動こうとしない。霊夢と魔理沙もただ見据えるばかりだった。
 一直線、このままいけば早苗は幽香の拳を受ける。能力以外は普通の人間と何ら変わりない早苗が幽香の一撃を受ければ、一瞬で微塵となるだろう。だが、永琳は皆が動かぬ理由を知っていた。もちろん、早苗が攻撃を甘んじて食らうわけではない。
 そして、幽香は右方駆け抜ける風にぶち当てられ、進行を止めることなった。
 残る力を搾り出し、再び風神とかした文が、幽香に跳びかかったのだ。
「くたばり損ないの分際で!」
 当たった文だったが、幽香に軽く投げ飛ばされる。だが、永琳は彼女の役割の成功を確かに見届けた。



 文は投げ飛ばされる中、幽香の胸を見た。そこには御札が貼り付いていた。文が口で咥え、幽香に当たった瞬間貼り付けたものだ。文が確認を終えると、彼女の身体は地面に打ちつけられた。
「何これ?」
 幽香が御札に気付き、触れようとする。そのとき、神奈子が御札の正体を明かす。
「守矢の御札さ。妖怪を封印するのなんて久しぶりだしね。御札を避けられちゃたまったもんじゃないわ。そこで文に貼ってもらったのよ」
 告げ終わると同時、幽香の周りに御柱が四本降り注ぎ、取り囲む。神奈子と諏訪子、早苗が左右の手を打ち合わせた。瞬く間に、四本の御柱を角にした青白い方形の結界が張られる。
 刹那、幽香の動きが封じられた。幽香は結界を振り払おうとしているのか、歯を食い縛り、全身を震わせている。
「まだ少し動けるようね、たいしたもんだ」
 神奈子は半分呆れたような声で言った。
「これが結界ですって? 笑わせないでッ!」
 突如、御柱が砕け始め、幽香の胸の札が紫色の炎を上げた。幽香の縛りが徐々に解けていき、緩慢な動きで幽香は一歩踏み込んだ。
「あーうー、冗談でしょう? 結界破られそうよ」
「どどど、どうするんですか神奈子様!?」
「私だって結界が破られるなんて想定外よ!」
 守矢の神と風祝は狼狽し始め、幽香の封印は解かれていく。
 幽香は守矢の結界を力で振り解いているのだ。そんな幽香を見ていた文も作戦の失敗を思い浮かべ、同時に再び身を震わせた。
 誰もが勝利を忘れた瞬間、幽香の動きはまたしても止まる。幽香だけではない。御柱の崩壊も、御札の燃焼も、幽香の周りの現象全てが止まったのだ。まるで時間が停滞したかのように、その光景に映る全ての動作が消えた。
 咄嗟に文は、いつものように突如現れ、結界の崩壊を止めたであろう人物に視線をやる。視線の先に立つ女性、紫は閉じた扇子の先を幽香に向けて、艶やかなで気品のある笑みを浮かべる。
「これでいいんでしょ? さあ、霊夢、魔理沙、今よ! 派手にやっちゃいなさいな!!」
 紫が叫び、霊夢と魔理沙はスペルカードを取り出した。霊夢はカードと同時に博麗の御札を、魔理沙は手に収まるほどの八卦路を携えて、眼光を幽香へと向け放つ。
「わかってるわよ!」
「わかってるぜ!」
 二人の声が重なる。そして、同時にスペルカード宣言をした。
「霊符ッ!」
「恋符ッ!」
 霊夢と魔理沙が握るカードが眩い光を放ち、

「――「夢想封印」――!!」
「――「マスタースパーク」――ッ!!」

 霊夢の御札が色鮮やかな輝きとなって散らばり、魔理沙のミニ八卦路から光の砲が撃たれる。二つの力は重なり、色彩豊かな霊力の砲撃となって幽香に放たれた。瞬時の内に太陽の畑を包み込む彩光は、野にある全てを飲み込んでいく。その光はありとあらゆるものを在るべき場所へ回帰させるような暖かさを持っていた。
 野だけではないのかもしれない。幻想郷の全てに、この光は振り注いでいるのではないだろうか。文はそんな思いに駆られていた。心地よく心を蝕むような光。
 ……これが人の持ちうる力なの? ならばこんなものに……。
光に包まれる文は妖怪として倒錯な衝動を覚えていた。
 そして、砲撃が幽香を飲み込み、爆発が起こる。爆風が太陽の畑全体を吹き抜けた。
「弾幕は――」
 霊夢が叫び放ち、
「――パワーだぜッ!!」
 魔理沙が決着の言葉を紡いだ。








「疲れたわ……」
「全くだぜ……」
 霊夢と魔理沙は紫の膝を借りて枕にし、夕焼けの朱に染まる空を仰いでいた。霊夢はにこにこと笑う紫を見て、そして二人の一撃を受けた幽香に視線を移し、溜め息を漏らす。
「何でピンピンしてんのよ」
「あら、全然ピンピンじゃないわ。傘は骨だけだし、服もボロボロも、身体中怪我だらけよ」
 言う通り、幽香の日傘の傘布は全て破れ、骨組みが露出していた。彼女の肌を纏う衣服もその役目を果たしていなかった。さらに身体中に血が滲み、痛々しい切り傷や火傷が点在していた。だが幽香は涼しい顔をして、悠然と立っていたのだ。満身創痍とも呼べる状態で、自らの両脚で立っているのである。これには霊夢も唖然としていた。
「さて、そろそろ帰ろうかしらね。楽しかったわ、またやりましょう」
 骨だけとなった傘を畳み、幽かは朗笑を浮かべて告げた。対して霊夢は辟易を全面だして答えた。
「絶対嫌よ」
「私もゴメンだ」
 魔理沙も続ける。二人に膝枕をする紫は微笑を幽香に向けて言った。
「まあ、ほどほどにね」
 静かな笑みを一つ、幽香は霊夢達に背を向け、歩みだした。野には傾いた陽光が、幽香の長い影を映し出し、徐々にその影と共に彼女は遠ざかっていく。そこに、地面に寝転がっていた文が、上半身だけ起き上がらせて幽香に声をかけた。
「幽香さん、楽しかったです。そして私はとても嬉しい。あなたのような“化け物”がまだ幻想郷にいてくれて」
 文の声に幽香は足を止めて、振り向く。その表情には不敵であり、どこか嬉々とした笑みが浮かんでいた。
「化け物ねぇ……。聞き飽きたわ」
「聞き飽きたときましたか」
「また、機会があったら取材を受けてあげないこともないわ。ちゃんとした取材ならね」
「ええ、また機会があれば」
 文が傷だらけの顔で明朗な笑顔をすると、幽香は目を伏せて、進行に向き直した。夕闇へと遠ざかっていく彼女の背を見ながら、霊夢は安堵の吐息を吐いた。
「薬渡してあげるべきだったかしらね、あの妖怪にも」
 足を引きずり、左手を力無く垂らした永琳が、霊夢達の傍らへと立った。
「いいんじゃないの。一人で歩いてたし」
 霊夢が呆れ返った口調で言う。そうねと、永琳は頷き、紫に視線を移した。永琳は腫れ上がった顔で紫に微笑むと、右手を指し伸ばして手の内を見せた。彼女が持っていたのは米粒ほどの黒い丸薬であった。
「はい、どうぞ。怪我の治りが早くなるわ」
 だが永琳の好意に、紫は首を横に振る。
「大丈夫よ。お腹の穴はとっくに治ってるわ」
 紫の言葉に釣られて、霊夢は彼女の腹部を見た。本当に腹の傷は完治しているようで、彼女が纏う衣服にも損傷や血の跡はなかった。まるで新品同様である。しかし、永琳は手を引かなかった。
「違うわ、掌よ。どうせ、あの攻撃を片手で受けたのでしょう? あれは“片手”で受けるものじゃないわ」
 幽香の光の砲撃のことだろうと霊夢は直感した。あの一撃を片手で張った結界で防ごうなどとは、相変わらず何を考えているのか霊夢には全く理解できなかった。
「あら、お見通しだったの。思ってた以上に威力がすごくってね」
 言って、紫は右の掌を誰にともなく見せた。彼女の掌の皮膚は焼け爛れ、白い骨を覗かせている箇所もあった。
「いくらあなたのような妖怪と言えど、強い力で焼かれれば治癒には時間がかかるはずよ。あなたも痛いのは嫌でしょう」
「そうね、ありがたくいただいておきますわ」
 紫は永琳の手から丸薬を摘み、そのまま飲み込んだ。その後、紫は柔和な笑みを浮かべた。永琳はどういたしましてと笑顔で返す。次いで永琳はさて、と置いて文に視線を向けた。
「私も帰りましょう。ブン屋さんの治療もしなきゃいけないし」
 永琳の言葉を聞いて、文はばつが悪そうに苦笑した。
「それじゃ、文は私が背負っていくわ。あなたじゃ無理でしょう?」
 神奈子は永琳の身体を見回し吐息を一つ、やれやれと言わんばかりの表情を見せる。
「おかげさまでね。肺が破れて、息をするのも苦しいわ」
「それにしちゃあ、饒舌ね」
 諏訪子も言いながら、永琳に当てつけるように笑んだ。談笑をしている彼女達から霊夢が不意に夕空へと視線を戻すと、赤く焼ける空には人の影が重なっていた。新たなに現れた人影はどう見ても、霊夢達の方に向かってきている。誰だろうかと浮かべながら、厄介なことにならないで欲しいと霊夢は切に願った。
 やがて、霊夢は影の正体、その少女を解して、安息を一つ。皆も気付き、少女に視線を向けていた。そして少女は一同の視線を浴びて、霊夢達の前に降り立つ。白い服に銀髪のショートカットの少女は、白狼天狗の犬走椛であった。
「皆様、この度は文さんがご迷惑をおかけしました」
 椛の第一声は謝罪だった。椛は頭を深く下げる。当然、皆の視線は文の方にも向けられ、彼女は体裁の悪さに苦笑。次いで表情を改め、文も申し訳なさそうに頭を下げた。
「それにしても椛……。もしかして心配して来てくれたんですか?」
 椛が悪戯っぽく笑って見せると、椛は視線を逸らし、顔を赤らめた。
「ち、違います! 大天狗様から頼まれたのですよ」
「あら、でもあなたずっとこっちのこと見てたでしょう? 遠くからだったけど」
 明らかなからかいの笑顔で紫が言うと、椛は慌てて言い訳を始めた。
「そ、そそ、それはだから、あの、大天狗様がっ! と、とにかくっ、文さんは私が背負っていきますね。これ以上皆様に迷惑をかけるわけにはいきません」
 言って、椛は文に背を向けてしゃがんだ。笑いを堪えながら文は、言葉に甘えて椛の背にしがみ付く。文を背負い、火が出そうなほど真っ赤な顔で椛は、行きましょうと永琳を急かした。永琳は優しく笑んで頷く。
「椛の背中、暖かい……」
 文が静かに告げる。すると、椛の肩が少し揺れた。
「文さんだって、暖かいです……」
「身体中怪我だらけだもの」
 椛の声は少しばかり潤んでいた。椛は悟られないように必死に堪えているようだが、霊夢を始め、他の皆にも感づかれているだろう。
「椛、ありがとう……」
「はい」
 震えた声で短く告げた椛を文はそっと撫でた。ついに椛は断続的に肩を揺らして、ゆっくりと飛び立つ。素直じゃないと霊夢はその様子に苦笑いを浮かべた。
「それじゃあね、霊夢、魔理沙、紫。そして守矢の皆さん」
 永琳も別れを告げ、文と椛の後を追って慌てて飛翔した。文を背負った椛は飛び立った後、恥ずかしさのあまりか、速度を上げていた。しかも向かうはずの永遠亭とは、逆方向に向かっている。永琳もそんな椛を呼び止めるために、一気に速度を増して飛び去っていった。
「さてさて。私らも帰ろうかしら」
 吐息を一つ吐き、神奈子が帰宅を提案すると、
「そうね。まあ、楽しいっちゃ楽しかったわ」
 次いで諏訪子も了承した。
「私はもう懲り懲りですけどね。それじゃ、霊夢、魔理沙、紫さん、さようなら」
 懲りたという言葉とは裏腹に早苗は、清涼感のある笑みで三人に別れを言う。霊夢達が手を振って別れを返すと、守矢の二柱と風祝は風を巻き上げて、飛んでいった。
 皆が闇の迫る空へと散っていく。その姿を見届け、霊夢は膝枕をしてくれている妖怪の相好に視線を移し、吐息を吐く。霊夢も帰りたいのは山々だった。だが、残念なことに身体は疲弊しきっており、さらに紫の柔軟な腿肉がとても気持ちよく、起き上がる気力が湧いてこなかったのだ。
「なあ、最後の一撃。力全部持っていかれそうだったんだが」
 魔理沙が怪訝そうに言う。
「そうなのよね。私ももっていかれるかと思ったわ」
 霊夢も同感だった。いつものように普通にスペルを使うのなら、制御が利かなくなることなど、滅多なことが無い限りありえない。しかし、魔理沙と合わせて幽香に放った一撃は違った。魔理沙の力に同調して引きずり込まれるかのように、霊力が暴走してしまっていたのだ。
「相性がいいのかもね、あなた達」
 と紫は端麗な微笑をする。
「どうせあんたが弄ったんでしょ?」
 だが霊夢は紫の笑顔に騙されることなく、呆れ口調で指摘した。スキマ妖怪のことだから、どうせ面白半分で二人の力の境界を弄ったのだろう、と。
「あら、バレてたの?」
「どうりで制御が利かなかったわけだ」
 魔理沙も呆れ返っていた。
紫を見ていると腹が立ってくるため、気を紛らわせようと霊夢は再度黒と朱が混在する空を眺めた。日はもうほとんど沈んで、現在は黒が優勢である。星々がいくつか瞬き、月光がその美しさを際立て始めていた。
 紫もまた空を、いや月を眺めているのだろう。恐ろしいほど美麗な笑みを浮かべて、思慮に浸るように、眼を月に向けていた。
 ……何で今冬は冬眠しないんだろう?
 例年通りなら紫は冬眠する筈である。だが今冬に限り、紫は活発だ。
霊夢は疑問に思ったが、訊ねようとはしなかった。訊いたところで、また茶を濁されるだけだとわかっていたからだ。
 もう一度、霊夢は紫の表情に目をやった。月を眺める紫は本当に美しかった。その眼前にあるはずの表情が幻想的過ぎて、届かないかもしれないという錯覚を霊夢に与えていた。見ているだけで心の奥が底冷えしてしまう、そんな脆美がそこにある。
「化け物はここにもいたか……」
 霊夢は口の中で呟いた。少し聞こえてしまったのか、魔理沙が不思議そうに霊夢を見る。
「何か言ったか、霊夢」
「いいえ、何も言ってないわ」
 霊夢は心の中の小さなざわめきに、溜め息を一つ吐いた。
 夕闇の空に映る月は、輝いていた。

 さて趣味全開でお送りしましたが、いろいろと偏っておりますね。なんだかもう、能力バトルものです。
 というわけで、ゆうかりんです。実は自称最強なゆうかりんだったりしますが、神社周辺は巫女に襲われる可能性も高く、それなりの実力者が揃っていると思うんです。その中でも最強クラスな幽香はやっぱり強いんじゃないかなぁ、と。流石にやり過ぎた感もありますが、「ゆうかりん=化物」の構図で書き進めてたら止まらなくなっちゃいまして……。
 阿求が綴っていたようにゆかりんが妖怪らしい妖怪ならば、ゆうかりんは化物らしい化物かと。紫様といい、幽香様といい、強い者は大抵笑顔です(定説)。
 ということで、楽しんで頂けたならば幸いです。
 では、少しでも目を通して頂いた方、そして読んで頂いた方に感謝を込めて。ありがとうございました。


 ちょっと誤字脱字を訂正。
 
 評価をして下さいました方、ご感想を残して下さいました方、本当にありがとうございます!
 バランスは大切ですね。ノリで書き進めてしまった部分も多々あったので、全体にも気を配れるように精進していきたいと思います。
 それにしても感想や評価がもらえるというのは幸いなことですね。それだけまた自分の改善点が見つかり、励みにもなる。東方好きがこんなにも集まり、いろいろなお話が読め、自分の作品に評価をつけて下さる方がいる。こんな場があるというのは喜ばしいことですよね。
 それでは、この辺で。もう一度、ありがとうございました。
彼岸花
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コメント



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9.70三文字削除
むう、なんだか慌ただしいとうか、なんというか・・・
見ごたえもあり、迫力もある戦闘だったのですが、なんだかゆうかりんが化物過ぎてちょっと・・・
自分もゆうかりんは最強クラスだと思っているんですが、実質6対1。しかも神様二人がいる状態でほぼ五分五分の戦いを繰り広げるのはやりすぎかなと・・・
それにしても、胸について聞こうとして死にかける文ちゃん哀れ・・・いや自業自得か?
10.80名前が無い程度の能力削除
神は弱体化済みだから分かるんだ
でも早苗が強すぎると思う。もう少し観客に徹しても良かったかと。
13.70名前が無い程度の能力削除
登場人物の多さを活かしきれていない、というか
もっと絞り込めば良かったのではと思います。特に風神一行。
16.無評価名前が無い程度の能力削除
幽香を強く描きたいがために他を引き立て役にしたと言うか。
17.90名前が無い程度の能力削除
なんという幻想無双www
22.無評価名前が無い程度の能力削除
惜しいなと思うのが、内容じゃなく、改行の少なさ。
もう少し読みやすくなればいいなぁと、思いました。
このへんは好みもあるんでしょうけど・・・。
28.80名前が無い程度の能力削除
いまさらな感想ですが、楽しめました。
幽香はこれくらいの可愛さがちょうどいい気がした。
序盤で微妙なギャグはいらなかったかも。
36.100名前が無い程度の能力削除
良いよ良いよ