Coolier - 新生・東方創想話

文々。新聞号外(バレンタインデー、深夜特別号地方版)

2008/02/15 09:35:37
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*2008.02.15の昼ごろ修正。感想で指摘いただいた誤字のみです。

*百合です。そしてネタです。珍しくギャグに走ろうとして失敗しました。
*いわゆる(?)「ゆゆよむ」「ユカレイ」「スイレイ」「かなさな」「すわさな」「マリアリ」「ランチェン」「さくめー」「フラマリ」をカヴァー。でもネタですギャグです。扱いの比重もバラバラです。一応「ゆゆよむ」メイン。

*ギャグのくせに長いです。しかも前半と後半でペース配分を間違え、随分と雰囲気が違ってしまっているのでご注意ください。

*原作とは遠く離れた支離滅裂な展開を不快に思われる方は、どうぞ避けて通るようにお願いします。

























2月中旬、白玉楼。


立春を過ぎたというのに風はいまだ冷たい。
空は一面、雲が覆っている。曇り空だというのに妙に明るく、白っぽい。そして寒い。昼を過ぎたというのに気温が下がってきているのだ。今夜辺り、また雪が降るのかもしれない。どこかで白狼天狗のくしゃみが聞こえた。
白玉楼自慢の庭園も凍えている。
根雪の傍で威勢のよかった福寿草はすっかり縮込まってしまったし、先週辺り少し暖かかったせいで例年より早く膨らみかけていた桃の蕾も、今日の寒さで萎んでしまった。


幽々子様に一足早く春を見ていただけると思ってたんだけどな、と庭師である魂魄妖夢は溜息をついた。庭に面した縁側を、お盆に載せたお茶と茶菓子を運んでいる途中である。
お茶は二人分、茶菓子は一人分。けれどそれは主である西行寺幽々子に供するためのものではない。また幽々子の来客などでもない。妖夢の個人的な客だ。客といっても、そこら辺を飛んでいるところを半ば強引に引っ張ってきてのだが。


客とは、射命丸文。
『文々。新聞』の執筆者兼編集者兼発行者である天狗。ネタを掴んで書いて伝えて逃げるまで何者にも追従されない最速のブン屋、愛すべきゴシップライター、ピーピング・アヤ、1kmスナッパー、名前を呼んだら飛んで来るあの人、知る権利は知ってるけど知られない権利は知らない等等、数々の勇名(?)を轟かす新聞記者。
そして、幻想郷随一の情報通。
妖夢がその様な危険人物をわざわざこの白玉楼内に招き入れたのには、とあるワケがあった。


白玉楼の応接間。
畳敷きの和室で、床の間に生けられた蝋梅が初春を飾っている。
隅には黒い火鉢が置かれており程よく暖かい。
硝子の入った襖を通し、縁側を挟んだ庭を臨むことができるこの一室は、白玉楼の中でも特に上等の部屋の一つだ。
その部屋で今、妖夢は文と向かい合って談笑していた。
明日は雪になりそうですねぇええまああまり降らないといいんですけど、といった具合に。新聞記者だけあって文は会話を繋ぐのは上手い。どちらかといえば世間話の類が苦手な妖夢も、彼女とは会話を楽しめていた。
ニコニコと文が始終浮かべている気安い、人懐こい笑みに、見る者は自分でもなんとなくニコニコしてしまう。 もちろん妖夢もニコニコ。
噂よりまともそうな人だなぁ、と安心していた。
ニコニコ。
ニコニコ。
緩い空気。


妖夢よ、騙されてはいけない。あのニコニコは、ああまたナニか面白そうなネタが自分からカモネギに鍋と薪まで背負ってやって来たわウフフフフ、っていう笑みだ。などと霧雨魔理沙あたりがいれば真剣に諭したことだろうが、生憎彼女はここにはいない。結果として、それが妖夢を幸せにしたのかどうかは、この話が終わった後に読者諸賢が夢想するところによる。


さて、と不意に文が切り出した。手にはペンとメモ帳。一瞬で記者モードである。
「それで相談したい事、というのは?」
「あ、はい……」
対して妖夢の口は重い。文の手元を見て言いにくそうに、
「あ、あの、できればこの話は内密にしていただきたいのですが……」
「ああ、はいはい。その辺りはよく分かっていますよ」
パタンとメモ帳を閉じて、文は安心させるように笑む。
ちなみに『口外はしません』『記事にはしません』などとは口が裂けても言わない。
だから早く喋って下さい。
「はい。では……」
そんな文の思惑など想像もせず、妖夢はぽつぽつと語り始めた。




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事の始まりは今朝方。
幽々子様が朝の炊事場に来られた事までさかのぼる。


白玉楼の一日の食事タイムは全部で9回。
朝起きてまずは何か一口、朝食、朝食後しばらくして一服、昼食を待ちきれなくて間食、昼食、昼食のデザート、庭でおやつ、夕食前に小腹が減ったのでツマミ食い、夕食、夜食①、夜食②、といった感じに計9回もあるのである。来客があったり近所で宴会があると更に増える。
ちなみに妖夢が食べるのは三食のみ。あとは時々おやつをお相伴するくらい。
ただし用意するのは妖夢の仕事。他にも掃除洗濯繕い物に、庭の手入れから修行まで全てこなすが、それらの仕事の合間はほとんど食事の支度に費やされることになる。実は妖夢の一日の中で、庭にいるよりも炊事場にいる時間の方が長い。
また幽々子様は先述のペース以外にも気紛れで食物を所望されるので、妖夢はいつも何かしらを作り置いている。幻想郷の中で最も早く河童印の冷蔵庫を導入したのは、何を隠そう白玉楼(の炊事担当の妖夢)だ。
そんなわけで妖夢は、今朝も早よからぐつぐつコトコト朝食の準備に追われていたのだが、そこへ幽々子様が現れた。


白玉楼の炊事場は、実は土間である。
煮炊きはカマド、洗物も井戸の汲み置きの水を使う。そこに冷蔵庫が強烈な違和感を放っているが、まあ気にしない。
ぐつぐつコトコト。味噌汁の鍋が音を立てている隣で炊き上がった白米が真白な煙がプシュプシューと吹いている。床に置いた七輪でジリジリいっている干物の焼き加減を横目で見ながら、割烹着姿の妖夢は味噌汁の具を刻んでいた。頭の中では今日のお昼は何にしよう朝餉が魚だから昼は豚汁にでもしようかな、とか考えている。
目も回るような忙しさ。
なにせここのご主人は朝から満漢全席をたいらげる健啖なのだ。朝食とはいえガッツリ作らなくてはならない。
そこへ、


「妖夢~。おなか空いた~」
「ああ幽々子様、おはようございます。朝のおやつでしたら冷蔵庫の正面の扉を開けた上から3段目の白いお皿の上にありますから召し上がってください。他のは食べちゃ駄目ですよっ」


朝の挨拶よりも先に空腹を訴える主に妖夢は慣れた感じで答える。ちゃんと釘を刺すのも忘れない。
幽々子様に答えながらも妖夢の動きは止まらない。刻んだ具を鍋に落としかきまぜながら、火加減を見て片足で追加の薪を蹴り込む。続いて白米を蒸らすために火から下ろす。
流れるようなコンビネーションは、炊事のプロというよりもはや芸術の域に達している。
が、毎朝見慣れている幽々子様は特に感動もせず感慨も湧かず、フラフラと冷蔵庫に向かわれた。


右の扉を開けようとして妖夢に睨まれ、左の引き出しを開けようとして妖夢に睨まれ、残念そうに言われた扉を開けて、そして三角に積まれた苺大福を発見する。計9個。
既製品ではなく、一つ一つが妖夢手ずからの一品だ。大粒の苺が白い皮に透けて見える。
幽々子様の好物の一つで、いつもならワーイワーイと諸手を挙げて大喜びされるはずなのだが、なぜか今日は皿を持ったままジーっと大福を凝視して動かない。
「? どうされましたか、幽々子様。辛味の方がよろしかったですか?」
でしたら胡椒煎餅などありますがと気を利かせる妖夢に、けれど幽々子様は「ううん、いいのよ。いただきまーす」と首を振り振り大福を食み食み、向こうへ行ってしまわれた。「あー苺大福美味しいわー」フェードアウト。
(? なんだったんだろう。変な幽々子様)
残された妖夢は多少の違和感に首を傾げたが、まぁいいか、と朝食の支度に戻った。


異変は朝食でも続いた。
お櫃を三つ空にされたのはよくある事だが、なぜか今日は食後にしきりに甘いものを所望された。
苺大福の残りや蓬饅頭一箱、カステラ三本、先日越してきた巫女が持ってきた外界の焼き菓子も食べ尽くされ、昨晩食べ残って妖夢がおやつに食べようと思っていた杏仁豆腐(一杯だけ)もお出ししたのだが、それでも止まぬ催促。
そこでさすがの妖夢も「あとは次のおやつまでおよしになった方がよろしいかと……」と忠言し、一応幽々子様も納得された様子だったのだが、今度は「次のおやつはナニかな~?」とやたらお聞きになってくる。
そしてお昼前のおやつでも幽々子様の暴食は続いた。
昼食になっても、お櫃を一つ空にしただけでご飯をもういいわと断って、代わりに甘いものはないかしら、とねだってくる始末。明らかに甘味を優先している。


ここに来て妖夢の違和感は危機感に転じた。
胃袋に関して幻想郷に並ぶ者なしと謳われる幽々子様だが、実は暴飲暴食はなさらない。幽々子様にとって米櫃三つを空にするのは食べすぎではなく腹八分。虫歯や二日酔い、胃もたれにはとんと縁がないし、栄養のバランスだってちゃんと考えて食べておられるのだ。
バランス良く摂ってこそご飯もおやつもを美味しくいただけるのよ、というのが幽々子様の金科玉条である。


その幽々子様が、いつものバランス配分を崩してまで甘味を所望される。
おまけにものによっては半分くらい食べたところで手が止まり、そのまま残される事すらあるのだ。
出されれば皿まで、が信条のあの幽々子様が!
はっきり言って異常事態。
少なくとも妖夢が幽々子様にお仕えするようになってから初めての異変である。どう対処していいか分からずオロオロしながら、それでも主に求められる以上はお出しせずには置けまいと、妖夢は作り置いていたお菓子はもちろん、急ごしらえながらも新たに用意してまで幽々子様に甘味を供し続けた。
そうして日々のおやつの一週間分を喰らい尽くしたところで、さすがの幽々子様も限界に達したのか、
「もういいわ、下げて頂戴……」
と、青い顔をして口許を押さえ、そのままヨロヨロと寝床に入られてしまった。
食べ過ぎて気持ち悪くなったらしい。
こと此処に至って妖夢は今回の事態を先の花の異変を凌ぐ大異変と認識し、解決に向けて動き出したのである。




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とはいえ、一介の庭師である妖夢は、家事はできても病理についてはとんと知識がない。
幽々子様は死んでいるから(今日まで)病気もなんにもない健康優良児だし、妖夢も修行中の打ち身や擦り傷ならともかく、病気はせいぜい風邪ぐらいしかやったことがない。
ならば、他人の知恵を借りるのが道理だろう。


そこでまず向かったのが永遠亭。
月の姫が住まう其処には、幻想郷でも指折りの薬師、八意永琳がいる。
食べ過ぎだか過食症だか分からないが、彼女に相談すれば幽々子様の異変についても何かいい知恵を授けてくれるのではないか、と期待したのだが、なぜか今日は永遠亭も異常だった。
異常というか、普段は屋敷の中にしかいない兎達が大勢竹林に溢れているのである。それぞれエプロンに三角巾着用、腕まくりをしてなにやら忙しそうに駆けずり回っていた。
(季節外れの大掃除かな……?)
なんにしろ忙しい時にお邪魔するのも悪いだろうと、たまたまそこを通りかかった顔見知りの兎、鈴仙・優曇華院・イナバに聞いてみた。彼女も腕まくりでエプロンをし、三角巾の変わりにカチューシャで前髪を上げている。
「もしもーし」
「あら庭師さん。こんにちわ。今日はどうされました?」
「ちょっとお願いしたい事があったんですが……今こちらはお忙しいんですか?」
「忙しいというか忙しくされたというか……てゐがちょっと…………。急ぎのご用事?」
「ああいえ、そういうわけでも。また日を改めます」
食べ過ぎです、と正直に言って主人のカリスマを落とすのもどうかと思い咄嗟に断ってしまったが、
(しょせんは食べ過ぎ……でもそれが幽々子様だからなぁ)
もしかしたら氷精が風邪をひくより性質が悪いかもしれない、と飛び立ちながら考える妖夢であった。


次に降り立ったのは紅魔館。
目的地はこの館内にある広大な図書館。
壁を埋めつくす千とも万とも及びのつかない蔵書、そしてそれらを管理・熟読している魔女、パチュリー・ノーレッジの知識を借りたいと思ったのだ。
ところがこちらもなにやら騒がしい。
まず、門番がいない。
続いて門をくぐった先、紅魔館本館では所々で黒煙が上がり、ドカーン爆発音、ズズゥン地鳴り。見ている間にも館の一角が基部からゴゴゴゴ崩れていった。盛大な土ぼこり。メイド達の悲鳴。
こちらはまず大掃除ではなさそうだったが、取り込み中には間違いないだろう。
庭師も危うきに近寄らず。
何かに巻き込まれる前に妖夢はさっさと飛び立った。


こんな調子が続いていった。
博麗の巫女と、幽々子様のご友人であるスキマ妖怪に力を借りようと博麗神社に向かえば、境内には人っ子一人いない。
ではもう一方の神社はと洩矢神社に向かえば、こちらも人の気配がない。
変な薬を掴まされそうで怖かったがダメもとで魔法の森の普通の魔女の家を訪ねても留守であり、そもそも普段かしましい妖精たちに全く会わないというのはどういう事だろう。
まるで幻想郷全体に何か異変が広まっているようなのだが、原因はもちろん、具体的に何が起こっているのかもわからない。
妖夢は途方に暮れてしまった。




###############################################




「で、ふと空を見上げたら私が飛んでいるのを見つけて呼び止めたと」
「はい」
答えてから、ちょっと失礼な言い方だったかなと顔を赤くする。
「記者さんならご存知かな、と。ホント、それだけでお引止めしてしまってスミマセンっ」
「いえいえ気になさらないでください。幻想郷のマスメディアを標榜するわたくしとしましても、皆様の日々の疑問にお答えするのは使命感が燃えるところ……」
ところで、と文はポシェットから一組の新聞を取り出した。
「お宅では以前からウチの新聞をご愛顧いただいていると思うのですが、この記事はご覧になりました?」
「あ、……えーと」


文々。新聞は確かに以前からとっているが、新聞を新聞受けから取ってくるのは幽々子様の仕事(?)だ。早朝のおやつを食べた後、腹ごなし~と言って庭を散歩するついでにいつも取ってきて下さっている。そして朝食までその新聞を眺めて時間を潰すのだ。
しかし白玉楼の家事全般を請け負う妖夢としては潰せるような時間などなく、たま~に料理のの合間に時事欄などを斜め読みするくらいである。
そして文が指差した記事には、見覚えはなかった。


「ごめんなさい、ちょっと覚えが……」
すまなそうにする妖夢に文はニコニコ笑みを絶やさず解説する。
「これは昨日の朝刊の一面トップ記事なんですけどね……」
「『今年のトレンドはコレ!! 手作りチョコであの人のハートをゲットだZE☆~注目の“ばらんたりん・でー”』?」
「“バレンタイン・デー”です。ご存知ですか?」
横文字が苦手な妖夢であった。
もちろんバレンタイン・デーも知らない。フルフルと首を横に振ると、
「大切に想う人にチョコをプレゼントする日なんです。もともとは外界の風習なんですが、ここ数年幻想郷でも流行ってるんですよ」
「へぇ~」
「昨年まではポッキーとかチョコムースが主流だったんですが、今年は我が文々。新聞の総力を挙げて手作りチョコをクローズアップしているんですよ~」
「はぁなるほど」
そういえば、昨年のこの時期にも幽々子様がしきりにチョコをねだられた記憶があるが、そういう風習があるとは知らなかった。
確か、洋菓子は苦手なので出来合いのものを買ってさしあげたらやたらと喜ばれたのだっけ。
あと変なゲームをさせられたり。
思い出してちょっと赤面。
「おそらく西行寺さんは妖夢さんから手作りのチョコを貰いたいんですよ。それも妖夢さんが自発的にという形で」
言われてみると、確かに毎年幽々子様が仰るから、という事で差し上げていた気がする。
日ではなく、だいたいこの時期という事ぐらいしか覚えていなかったから、幽々子様が甘いものがほしいと言い出しても察する事ができなかったわけだ。
「さあ妖夢さんっ。西行寺さんの暴食の原因はこれで明白です。さっそく手作りチョコをプレゼントするのですっ」
ドドォンと盛り上げる文……しかし妖夢のテンションはいまいち低かった。
「う~ん。大切な人に、チョコを差し上げる日ですか……」
でも洋菓子は苦手だし……。
「ええ、そうです。例えばご家族とか、友人とか、ご主人様とか……」
「家族とか、友達とか、ご主人様とか……」
チョコって初めて作るし……。
「あと、好きな人とか!」
「あと、好きな人、とか……」「はいっ、そうです!」全力肯定。
…………。
……。
やがて妖夢は意を決したように真剣な眼差しで文に問うた。
「あの……記者さん、チョコレートの作り方も教えていただけますか?」
「はいっ。もうドンと来いですよっ」
こうしてネタが一匹釣れましたとさ。




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この人に習えば完璧ですっあなたが訪ねて行く事は伝えておきますから、と文はとある妖怪の名前と地図を残して去っていった。
その地図に従って不思議な森を抜けて行くこと30分、辿り着いたのはマヨヒガの最奥、八雲家である。
文がチョコレートの師にと推挙したのは八雲紫の式神にして最強の妖獣、八雲藍。
主に仕える式として長い時を経ている彼女は、主の身の回りの世話から家事に至るまで相当な知識と深い経験を持っている。実際に会った回数こそ少ないが、主の友人繋がりで何度か一緒に食事の支度をした事があり、その時に料理について幾つかの薫陶を受けた。
いわば家事の大先輩である彼女ならばチョコレートの作り方も熟知しているだろうと期待して、妖夢は呼び鈴を押した。
ぴぽーん。
「はいはいは~い」
トテトテと軽い足音がして、すりガラスの引き戸の向こうに影が立つ。
「おまたせしました~」
戸をガラリと開けて元気よく挨拶したのは、八雲紫の式である八雲藍のそのまた式神、橙である。
「こんにちわ。魂魄妖夢と申しますが……」
「ああ、はいはい。天狗さんからお聞きしてま~す。どうぞ~」
ピョコピョコ揺れる2本の尻尾について行く。


通されたのは八雲家の台所。
しかしそこには先客がいた、それも沢山。
「いらっしゃい」
と慈母の微笑みを浮かべて迎えたのは八雲藍。
この人は、まあいいとして。

「あら、あんたも来たの」とちょっと不機嫌そうに言ったのは博麗霊夢。

「珍しいわね」と無感動に言ったのはアリス・マーガトロイド。

「この間はどうも」と微笑んで会釈してきたのは東風谷早苗。

滅多にない取り合わせ、というか、なんで集まっているのか分からない面子だった。
とりあえず妖夢は早苗に挨拶を返す。
「あ、こちらこそどうも。この前の焼き菓子は美味しくいただきました」幽々子様が。


その脇では橙が片手を元気よく上げて報告する。
「藍さまっ。お客様をお連れしました~っ」
「ん~。偉いぞ、橙」かいぐりかいぐりかわいがり。
遺憾なく親バカぶりを発揮する。


「あんたも文の紹介できたの?」
霊夢が訊いてきた。
「あ、はい。というと……霊夢さんも?」
「そ。あとそっちの二人もね」
「妖夢さんはやっぱり西行寺さんにおねだりされたんですか?」と早苗。
「はい」
おねだりというか、食べ過ぎて寝込むというノンバーバルコミュニケーションだったが。
「あたしは八坂さまと洩矢様のお二人のステレオ状態でして……」苦笑しながら早苗は言う。
「うちも紫と萃香でステレオよ。五月蝿いったらありゃしない」霊夢は疲れたような溜息。
「………………魔理沙は一人で三人分だったわ……」ポツリとアリス。
「皆さんそれぞれで大変なんですねぇ」
さすがに幽々子様のような遠回しな表現はなかったようだ。
「しかし早苗がチョコの作り方知らないって意外ねぇ。外界で作った事なかったの」
「溶かして作るっていうのはやった事なかったんですよ。チョコチップを混ぜたクッキーとかは結構作ってたんですけど」
「あ、それ今度レシピ教えてください。幽々子様もそういうの好きなんで」
「……」
『女三人寄れば姦しい』とはよく言ったもの。
しばらくの間、どうでもいい話がワイのワイの。


その脇ではあいかわらず藍が橙を褒めている。
よくやった~よくやった~。
「きゃはは。くすぐったいですよ~藍さま~」
「ん~。ホントに偉いぞ、橙ぇ~ん」うりうり頬ずりかわいがり。
遺憾なく耽溺ぶりを発揮している。
っていうか誰か止めないの。


「さて。じゃ面子も揃ったみたいだし、そろそろ用意しますか」
「わぁ。アリスさん、そのエプロン可愛いですね。どこで買ったんですか?」
「…………手製よ」
「スゴイですスゴイです」
パチパチと拍手する妖夢と早苗。
「って妖夢。あんたまさかソレ着て作るわけ?」
「えっ。だ、ダメですか?」
「ダメって事はないけど……チョコ作るのに割烹着っていうのもね」
「エプロンも結構機能的でいいものですよ」
「…………」
見れば他の三人ともエプロンである。
なんだろう、この遠足に重箱を持って来てしまったような疎外感は。
「で、でもわたしコレしか持ってなくて……」
「…………予備があるから。貸してあげるわ」
「あ、スミマセン」
「ハイ、手を上げて……、…………終わったわ」
手際よく妖夢にエプロンを着せるアリス。腰の蝶々結びの形を整える所が凝り性だ。
「ありがとうございます」
「別に……」
「さて、ではそろそろ始めるか」
やっとこさ向こうの世界から帰還を果たし満足げな顔で吐息をついた藍が言う。
妖夢は稽古の時のように礼をする。
「よろしくお願いしますっ」
「よろしく」
「ま、お手柔らかに」
「……よろしくお願いするわ」
ようやくチョコ作りが始まろうとしていた。
が、藍に抱えられたままグッタリしていた橙が……、
「ら、藍しゃま……、わたしも作りたいですぅ~」
「ああああああ、ああ、ああ、いいとも橙っ。可愛い橙にはどのエプロンが似合うかな~っ」
即座に20分ほど中断した。




###############################################




八雲家の台所から、襖一枚隔てて居間がある。
炬燵を中心とした十二畳。
その炬燵にもぐりこんで、台所を窺う複数の視線。

「よ、妖夢がエプロンだなんて……っ」変な所で感激している西行寺幽々子。

「霊夢のエプロン姿には及ばないけれど」とは幽々子を拉致ってきた八雲紫。

「霊夢の方が腰つきがせくしーだよっ」更に変な所で張り合う伊吹萃香。

「あら、立ち姿は早苗が一番綺麗よ」不毛な争いに参戦したのは八坂神奈子。

「足首の華奢さもね」斜め上に援護射撃をする洩矢諏訪子。

「なんにしろアリスのうなじには敵わないんだぜ……」涎を垂らして霧雨魔理沙。

それぞれがそれぞれ意中の相手にチョコをねだり倒した猛者たちだが、それぞれ個性的な魅力の観点について暑苦しく語っているのでは、ただの変態集団である。
そんな欲望の炎のぶつかり合いなど露知らぬ台所。
エプロン姿の少女4人がチョコ作りの準備を進めている。
その無垢な後姿をギラギラ光る目で堪能しつつ、炬燵にあたる六人だった。




###############################################




所変わって、永遠亭。
竹林を埋めつくす勢いで兎たち。
急ごしらえの演台を囲んで、円状に集結している。
もう30分ばかりこの状態で待たされているのだが、冷めやらぬ熱気がモワモワと立ち込めていた。
『とにかく面白い事があるから集まれ』『一大事だから集まれ』『鈴仙ちゃんが萌へだから集まれ』『美味しいものが食べられるから集まれ』『っていうか食い放題だから集まれ』『酒が飲めるらしいから集まれ』『鈴仙ちゃんはおやつに入らない』『鈴仙ちゃんは食べちゃダメ』『ご褒美が貰えるらしいから集まれ』『鈴仙ちゃんからご褒美があるらしい』『鈴仙ちゃんのポロリがあるから集まれ』等等、てゐがあの手この手で集合をかけた結果だが、あちらこちらからよくもまあ集まったものである。 総勢は万をゆうに越えているだろう。
圧巻の一言に尽きる。


拡声器を持ったてゐが演台に上がってきた。
ずもももも、と観衆の期待が高まる。
『らびーーーーーーっつエンドらびーっっつっっ!』
てゐが叫んだ。できる限り長く、伸ばす。
そして、
『さあみんなお待たせしましたわね、ああ分かってるわよ多くは語らないわ待ちきれないもんねでも一つだけ言わせて今日はバレンタインデーなのよだからみんなにはチョコを作ってもらうわ姫様のためにねそれもできるだけ多くお給金は出ないけど気にしないちょっぴりならツマミ食いもOKよただしもうとにかく作って作って作りまくるのよっ』
ここまでで10秒フラット。
要点だけ、繰り返す。
『姫様のために、バレンタインのチョコを、作るのよ』
そして観衆から不満が噴出する前に、
『講師はなんと、あのっ、鈴仙・優曇華院・イナバっ!』
どわわわわわわわわわぁぁぁぁぁわあわわわああわわわわぁぁぁと歓声が沸いた。
偉い人気である。
というか姫の立場が。
『ど、どうもー。鈴仙です』
てゐに招かれて(というか強引に引っ張り上げられて)鈴仙が壇上に上がる。
証明に照らし出されたのは相変わらずのエプロン姿。
腕まくりで二の腕が晒され、カチューシャでおでこが全開。
意外なポロリに失神者が続出した。
『姫様のためです。みなさん、がんばりましょうっ』
やけくそ気味でえいえいおーと拳を上げる鈴仙。
ギャわわわわわぁぁっっぁぁぁわわわわわわわわぁぁぁあああんと咆哮が上がり、万にも及ぶ拳が天高く突き上げられた。


騒ぎの裏。
永遠亭の玄関先にて。
蓬莱山輝夜と八意永琳は、のんびりお茶を飲んでいた。
ふと輝夜が言う。
「ねえ永琳」
「はい?」
「アレ全員分を私が食べなきゃいけないのかしら」
「さあ」


騒ぎの渦中。
因幡てゐは盛り上がる観衆にほくそ笑んだ。
手には文々。新聞との契約書。
永遠亭と紅魔館でどちらがより多くのチョコを量産できるのかという企画に協力する代わりに、チョコの個数換算の歩合で慰労金が支払われるというものだ。
(働け働け。うふふふふ)
これだけの人数が一斉に動いたら、どれだけの数が作れるかしら。
早くも皮算用を始めていた。




###############################################




一方こちらは紅魔館。
館の中は日中でも太陽の光がさしにくく、暗がりの中に沈んでいる。
厚く引かれたカーテンの隙間から僅かに差し込む光によって、照明がいらない程度に明るいが、それでもなおこの館は暗い。


その部屋には二人しかいない。
紅いお嬢様ことレミリア・スカーレットは午後の紅茶を楽しんでいた。
傍に控えるのは完璧で瀟洒な従者、十六夜咲夜。そのどんな時にも動揺を見せない端正な横顔が、不意に歪んだ。

ずごごごごぉぉぉぉん

鈍い破壊音。
パラパラと天井から落ちてくる埃。咲夜はさっとお嬢様を日傘の下に隠した。
続けて、

ドがぁぁぁんッ

先ほどよりも大きく短い、でもやっぱり破壊音。
我関せずと紅茶を干すお嬢様。
咲夜は音を立てずに日傘をたたむ。
そこへパタパタと駆けて来る音がして、

バタンっ

勢いよく扉が開かれた。
駆け込んできたのは一人のメイド。
紅魔館自慢のメイド服が激しい戦闘を駆け抜けてきたようにボロボロだ。左手の包帯の下から血が滲む。
失礼いたしますっ、と叫んで、足をもつれさせたように膝をつく。

「報告しますっ。第13副厨房、壊滅しましたっ!」

報告して、こらえ切れなくなった涙を拭う。
仕方あるまい。自分の持ち場を失ったのだ。永遠に。
声を上げて泣かないのは、メイドとしてのせめてもの矜持か。
どんな言葉をかけてやるべきか咲夜が悩んでいるうちに、続けてもう二人、駆け込んでくる。
こちらは片方が他方の肩を借りようやく立っている状態だった。片足があり得ない方向に曲がっている。添え木がされているが、それすらも折れていた。「立ったままでいいから報告しなさい」咲夜が気をきかす。

「ほ、報告します……第27厨房、損耗、6、割。稼働率、20%を切りました……」
「担当の部隊が善戦していますが、これ以上の活動は無謀かと。撤退の許可を」

報告を終えて気を失ったメイドの言葉を、もう片方が引き継ぐ。
咲夜は嘆息して、頷いた。
「許可します。第13副は第17へ、第27は第61へ。それぞれ移動しなさい。また担当はヒトヨンマルマルをもって第六から第七シフトへ順次入れ替え。あなた達も伝令がすんだら休んでいいわ」
パンパンと手を叩くと、暗がりから数人のメイドが進み出た。報告に来たメイド達が下がるのを手伝うように命じる。
また別のメイドを呼び、
「待機していた予備大隊を全て呼集。紅魔館庭園全域に展開、簡易厨房の準備をさせなさい。倉庫にあるやつは全部出してしまってかまわないわ。100年くらい埃を被っていたやつだからどれだけ機能するか分からないけど。整備班には1時間で全機動かせるようにと伝えて」
メイドが緊張した面持ちで復唱する。
「……これ以上は外でやってもらいましょう。ああ、手すきになった者はそれぞれ自分の分を作ってかまわないわ」
その一言で、メイドの緊張が溢れ出さんばかりの笑みに変わる。
さっと身を翻し、駆け出したかと思うともう暗がりに消えていた。


また二人だけになった部屋で、
「珍しいわね。貴女が部下の前で溜息なんて」
「メイドの長として、不適切な行為だとは分かっているのですが」
それでも嘆息を隠せない。半日で、我が紅魔館の厨房の三分の二が失われたのだから。修理にどれだけ日数がかかるか、その間の調理場のローテーションはどうするのか、考えただけで頭が痛くなる。
「戦績は?」
「美鈴が24、フランお嬢様が22で、美鈴が二つリードしていますね」
「あら、門番てばやるじゃない」
「フランお嬢様は全てを破壊する程度の能力のせいでやる事なす事が破壊に繋がっているようですが、美鈴の場合は数が少ないながらも致命的なミスをおかしているようですね」
「例えば?」
「フランお嬢様はチョコを持てば蒸発しお玉を持てばへし折って徐々に厨房の備品を損耗していきますが、美鈴の場合、鍋を火にかけた瞬間コンロが謎の大爆発を起こして厨房を丸ごと破壊します」
「キャハハ。なにそれ」
「不明です。科学班に調査させていますが全く分からないと」
「たかがチョコ作るのに大袈裟ねぇ」
「大袈裟で屋敷を破壊されたらたまりませんっ」


なぜかフランお嬢様と美鈴が『自分でチョコを作りたいっ』と言い出し、許可したまでは良かったが、なぜかチョコができずに次々と厨房が破壊されていくのだ。
こんな感じに↓。


「うう、あたし、もうダメかも……」
「諦めちゃ駄目ですっ美鈴さん!」「そうですっ。メイド長に今年こそ手作りチョコ渡すんでしょ」「頑張ってくださいっ。私たち応援してますからっ」
「あ、ありがとうみんな……。よしっ、がんばるゾ! ……ってわきゃぁぁっ」
ずぱこぉぉんっ
「すごい……。鍋が底抜けて吹き飛ぶのって、ワタシ初めて見た……」「しかも天井突き破って……」「あれはもうスペカ申請していいわね……」


「うう~ん。チョコ作りってば意外と奥が深いなぁ」
「そ、そうですか……」
全力で結界を張り衝撃に備えながら、本日314人目のチョコ作り指導係であるメイドは言う。
冷や汗が頬を伝う。とっくに退避済みの同僚に恨みを。ジャンケンに負けた自分に悔やみを。
「でも負けない。ぜったい魔理沙にチョコを上げるんだっと。そいやっ」
「あああっですからフランお嬢様、チョコは湯煎で溶かすので禁忌級の火力は要りませんってばぁぁぁっ」
どががぁぁっぁぁぁぁん。


厨房だけでなく、そこに隣接する各部屋も巻き込まれており、いまや紅魔館は半壊といっても他言ではない。
「二人に戦績一個ずつ追加ね」
「誰よ、手作りチョコが今年のトレンドなんて言い出したの……」
厨房だけでなく、そこに隣接する各部屋も巻き込まれており、いまや紅魔館は半壊といっても他言ではない。
メイド長は涙目である。


庭にピクニック用の簡易式の厨房セットを用意させたから、館が破壊される事はもうないだろう。
咲夜が窓の外を見やると、大勢のメイド達がチョコ作りに励んでいる。他のメイド達もそれぞれで手作りチョコを作りたかったのだろう、手が空いているものは全員外に出ているようだ。その中に、先ほど満身創痍で報告に来ていたメイドの姿も見える。対日光装備(宇宙服)を着込んだフランドールや、なぜか火だるまになっている美鈴もいた。
ふと、レミリアの声がかかる。
「咲夜」
「はい」
「貴女は加わらなくて良いのかしら?」
メイド長は、今日久しぶりに不敵な微笑を浮かべた。
「既に準備は完了しております」




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場面は戻って、八雲家。
なんだかんだといるうちにチョコは完成。
それぞれがそれぞれ、チョコを渡す。

「はい、紫。こっちは萃香のね」
「ありがとう霊夢」「あっりがとーぉう」
「私の方が大きいわね」「萃香の方が大きいぉ」
「なにをこのツルぺタ幼女」「なにをこのカレー臭」
「二人とも。喧嘩するんなら来年はナシよ?」
「「ゴメンなさい……」」


「どうぞ、八坂さま。どうぞ、洩矢さま」
「ありがとう早苗」「ありがとっ」
「どっちが本命?」「わたしだよね?」
「神様よね?」「ご先祖様でしょ?」
「うーん……もうお風呂を覗くのをやめてくれたら考えます」
「「ご、ゴメンなさいっ」」


「はい、魔理沙」「サンキューっ、アリス」
「……これでもう満足した?」「したした」
「勘違いしないでよね……別に貴女のために作ったわけじゃないんだから」
「ウンわかってる。バレンタインチョコってのは好きな人のために作るモンだからな」
「……………………………………………………………………………………(真っ赤)」
「お返しにチョコより甘いちっすをそのうなじに」「……やめなさい」


そして妖夢は。
「幽々子様……」もう食べ過ぎはやめてくださいね何か食べたいものがある時はちゃんと口に出して言って下さいわたしは未熟ですからまだ幽々子様のお気持ちをちゃんとお察しする事はできませんが言って下さった事をちゃんと実現して差し上げるくらいの事くらいはできますから云々、妖夢が照れ隠し代わりのお小言を垂れようとした時、
「わーいわーい。妖夢の手作りチョコだー」
幽々子様は瞬時に妖夢の手からチョコを奪い去り、コンマ一秒で包装を解いて、
うーんモグモグおいしーとご満悦の主に、妖夢は、
(…………仕方ないですねぇ)
と微笑むのだった。
やはり幽々子様はお腹いっぱい好きなものを食べて、幸せそうに微笑んでいらっしゃるのが一番だ。
なぜなら、自分はそんな幽々子様のことが……、
「…………美味しいですか?」
「うんうんムグもぐ」
なら、いいや。
お小言はまた今度。
今は仕える者として、まず一番しなければならない事をしよう。
そして妖夢は主に尋ねるのだった。
「夕食は何がいいですか?」




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八雲家の台所にて。
「はい、藍さまっ。わたしから日頃の感謝を込めてバランチャリン・チョコですっ」
「橙ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっぇぇぇぇんっ」
なんてイイコなんだー。
ギュってしてゴロゴロゴロゴロ。
「むぎゅう。藍さま、そんなにキツク抱っこされたら苦しいですぅ」
「橙ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっぇぇぇぇんっ」
なんて可愛いんだー。
ギュってしてギュギュってしてゴロゴロゴロゴロ~。
誰か止めろ。
しかしそれぞれの世界にいってしまっている居間の皆さんの目には入りませんでしたとさ。




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永遠亭。
過労で倒れた鈴仙。
試算に笑いが止まらないてゐ。
永琳と輝夜の前には、山と積み上げられたチョコの山。
兎の好物、向日葵の種を入れたという丸いチョコが、黒いチョコが、ころころゴロゴロ、これでもかというくらい天を目指して積み上げられている。見上げていると首が痛くなってきた。
それはまるで……、
「ねえ永琳」
「はい?」
「これって丸いし黒いしコロコロしてるしまるで兎のフ」
「はいストップ。姫様、それ以上は姫的に禁則事項です」




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紅魔館。
壊れた厨房を片付け何とか用意した夕食の後、お嬢様に極上のチョコムースを差し上げてご満足いただいて、咲夜は自室へと戻った。
すると自室のベットの上には、大小さまざま色とりどりのチョコの山。寝る場所もない。
メイド達からの贈り物、らしかった。紅魔館のメイド全員分?
どうやって食べようかしら、と悩みながら寝る場所を空ける。
すると、どけたチョコの下から半分焦げた美鈴が出てきた。チョコに押しつぶされて気絶したのか、あるいはチョコ作りで力尽きたのか、すー、すー、と穏やかな寝息を立てている。首にリボンが巻かれているのは誰かの悪戯か。
手にはハート型のチョコレート。
包装紙がくしゃくしゃになってしまっているが、何とか完成にこぎつけたらしい。
咲夜は美鈴を起こさないように、そっとチョコを握る指を外して、包みを開けた。
欠片を口に運ぶ。
舌の上で、ほろ苦い味がとろけた。
「20点。でも初めてにしては上出来、かな」
そういって微笑み、寝ている美鈴の額にチュ、と口付けた。




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「ウフフフフ」
夜の霧雨宅に不気味な笑い声が響く。
月光がベットの上を照らし出す。
散る金髪。
アリス。
時を止めたような、綺麗な寝顔。
ゆっくりと上下する胸。
その傍に立つのは、白黒というには黒っぽ過ぎる魔女。
「油断したなぁ、アリス」
お返しにとあげたチョコが睡眠薬入りだと、彼女は全く気づかなかったようだ。
あまりにも無防備すぎる。
二人は今宵結ばれるのだ。挙式の後には、そこら辺を注意してあげなくちゃ。
そして今にも毒牙がきらめくというその時、
「まっりさぁぁぁぁぁぁぁっっっぁぁああっ!遊ぼっ」
「わわっ、ってフラン!?」
無邪気な闖入者が訪れた。しかし彼女は同時に魔理沙の定命を告げるものであり……、
「ん? そこで寝てるの誰かと思えば、人形師じゃない。…………魔理沙?」
フランの手の中、クレヨンで大きく『まりさえ』と書かれたチョコが、グシャリと握り潰される。
「ひぃぃぃぃぃっぃ!?」
深夜、魔理沙の絶叫が夜空高くへと響きわたった。




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文々。新聞号外。

『先日のバレンタインデーにおけるチョコ作り合戦(主催・企画・実行・裏方:文々。新聞)は、ひとまず個数を優先した永遠亭の勝利に終わった。しかしながら全体的な質を問うなら紅魔館に軍配が上がるとの意見も……しかしながら記者の個人的な意見を述べるなら、今期一番の美味だったのは白玉楼庭師、魂魄妖夢さんの手作りチョコであり…………』





END.

日付変わってしまいましたが、みなさまハッピーバレンタイン。
睡眠不足でチョコを食べても食べても眠いです。いっこうに目が冴えません。
そんな人間がバレンタインに浮かれ不得意なギャグに走って滑りました。
すべっていてもだから仕様ですゴメンナサイ。

いろんな意味でほんわかしたりニヤニヤしていただけたら本望です。

ここまで読んでくださったみなさまに幸いあれ@バレンタインの夜

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コメント



0.320簡易評価
1.80削除
ああ、バレンタインってのは素敵な日さ。この日を境に、しばらくチョコの値段が下がって買いやすくなるからな……ふふ……。ところで、魔理沙のとこでどれほどの修羅場が繰り広げられたのか興味がありますね(笑

3.50名前が無い程度の能力削除
前書きでもおっしゃっているように、全体の構成に一貫性がないように感じました。キャラクターも不十分な点が見受けられるものの、そこそこたっているようなので、今後に期待ということで。
作る側の絡みとか入れたら面白くなるかもです。
4.60名前が無い程度の能力削除
>「ねえ永琳」
>「はい?」
>「アレ全員文を私が食べなきゃいけないのかしら」

全員分ですね。
自分の好きな、慧音 妹紅 映姫 小町が出てなかったのが
惜しい!


5.無評価名前が無い程度の能力削除
>「アレ全員文を私が食べなきゃいけないのかしら」
誤字ですかね?
6.無評価名前が無い程度の能力削除
すいません、指摘がかぶりました。
7.90名前が無い程度の能力削除
なんとなく短編が沢山くっ付いている感じはしましたが、
話自体は非常に面白かったですw

しかし良いですねえ、この作品のアリス。
喋り方がクールというか落ち着いていると言うかw
8.-10名前が無い程度の能力削除
キャラ同士の繋がりに違和感を感じます。妖夢や霊夢が文を通じないと八雲家とコンタクトが取れないのはおかしくないですか?
9.無評価削除
「全員文」→「全員分」の誤字を修正しました。
指摘していただいた方、ありがとうございます

>妖夢や霊夢が文を通じないと八雲家とコンタクトが取れないのはおかしくないですか?

うわぁ、仰る通りです。
自分で読み返しみて今気づいたんですが、どちらも紫さま繋がりがありますね。特に霊夢の場合は紫さまがスキマから引っ張って行ったんでしょう……。
文が全てを仕組んだって事にしたかったんですが……。

コジツケですが「文からは藍をチョコ作りの先生として『紹介』してもらった」ということにさせて下さい。


(甘々ギャグだからと設定まで甘めに作っては駄目でしたね……猛省します)
(あと、一度に大勢のキャラを登場させるのは封印します。やっぱりそれぞれ短編として独立させた方がいいみたいですね。初期プロットでは慧音・妹紅、映姫さま・小町はもちろん、パチュや小悪魔、ミスチーにリグルまでいたなんてとても言えない……)
10.90名前が無い程度の能力削除
いやはやごちそう様です。
つか美鈴に妹様厨房壊しすぎw

私は逆にこの形がマルチビューっぽくて読みやすかったです。

蛇足ではありますが
>証明に照らし出されたのは相変わらずのエプロン姿。
これ、『照明に照らし出された』の誤字でしょうか?