前回と前々回投稿したSSを合体及び一部の修正やその続きを加えたものです。前回同様オリキャラが出てくるので、そう言ったのが嫌な方は見ない事をお勧めします。
なお、所々に私的な解釈が書れた所もありますので、東方の世界観を壊したくない方にもお勧めはいたしません。
鬱蒼と生い茂る木々により日光が遮られ、昼間でも薄暗い事で有名な魔法の森に住む魔法使いの一人。アリス・マーガトロイドは、ここ最近長年の夢である自立人形の作成に没頭していた。
「ここをこうして…これならいけそうね」
アリスはそう言うとカーテンにより光を遮った部屋の中、何かしらの記号で構成された魔方陣の中央に一体の人形を置き、少し離れるとグリモワールと言われる本を片手に呪文の詠唱を開始した。
「我。ここに禁忌の呪詛を紡ぐ…」
アリスがその可憐な唇から呪詛を唱え始めると、人形を囲う様に描かれた魔方陣が呼応するかの様にうっすらと輝き始めた。それは一見すると美しい光景ではあったが、その儀式の内容は見た目とは逆に禍々しい物だったりする。
「神の摂理に逆らい、今我は魔に属すものとして願う…」
今手に持っているグリモワールを日夜読み通し、アリスは一字一句間違わないようにほぼ完璧に暗記した呪詛を唱えながら、魔方陣から放たれる白い光に包まれていく自分で作った人形を見て、彼女は非常に美しいと思った。
そう、今アリスが行っている儀式とは本来ならば命…正確には『自意識』を持たない物に、人が自然の摂理を曲げる事で擬似的に命の息吹を吹き込む為に行うもので、本来ならばゴーレム等の明確な目的を持った物を作る以外には、原則禁呪として封印されている術である。
(私には明確な理由がある…それにこれは、絶対に成し遂げればならない事なのよ!!)
普段は絶対他人に見せない真剣な表情にて、儀式に全意識を集中するアリスの気迫には鬼気迫るものがあるのだが、整った人形のような容姿の為にいまいち迫力にはかける。
「この命無き人形に、偽りの命を!!」
そして、呪詛の最後の部分をアリスが唱え終わると魔法陣が放っていた光が人形に集約していき…
【ボシュウ!!】
何かが蒸発する様な音がして、アリスは一応儀式が成功した事に安堵した。
(呪詛も魔方陣の構成も寸分違わず出来た…今度こそ失敗はありえないわ)
アリスは儀式が終わった後、緊張で荒くなった息を深呼吸で整え、それまで儀式の邪魔になる外の光を遮っていたカーテンを明け放った。
「ふぅ…いくら儀式の為とは言え、暗闇の中は気分が滅入るわ」
アリスは木々の間から漏れる光を体に浴びつつ、大きく背伸びをしながらそんな事を言ってみる。いくら彼女が自ら『インドア派』と言ってるとは言え、それ=『暗い所が好き』とは限らないのだが、この発言のせいで一部の人間は彼女の事を他人から聞かれた際、暗い部屋の中で嬉々としてわら人形や、その他の怪しい人形を作っているイメージしか浮かばなかったりする。
「さて、今日こそは念願が叶う筈…」
朝起きて一番最初に自分で行った占いの結果、今日の運勢はかなり良く、それに朝食を取った際に飲んだ玉露(霊夢の所から少しいただいた物)には茶柱がたっていたのだ。これで失敗した場合、それこそ博麗神社を五寸釘を打ち付けたわら人形まみれにしても飽き足りない位恨むだろう。(だが、本当にやれば巫女が妖怪退治の名目で復讐に来るだろうからしないが…)
こうして、アリスは光を失った魔法陣の中心にまだ座ったままの人形に近づき、希望を抱いてそっと触れてみた。
「さあ、目を開けて見て」
そして、優しくアリスが声を人形にかけると、それまで目を瞑っていた人形の瞼が開いた。
(よし…これならいけるかも)
いままで三桁にも亘る失敗を繰り返し、さらには技術と知識の向上の為に、紅魔館の大図書館に丸三日間篭って関連書物の類を読み漁りったり、普段は使わない茸を使ってみたりと試行錯誤の成果を、彼女は笑顔で見つめた。
しかし……
「…これで六百六十六回目の失敗ね」
自宅権研究所である洋館の一階にあるリビングにて、アリスはテーブルの上に肘を立てながら、今回も失敗に終わった事に落ち込んでいた。
先程の儀式により人形に擬似生命を吹き込む事には成功したのだが、それは彼女が長年夢見ていた物には程遠く、自意識はおろか何かしらの命令がないと動けない代物であった。
(はぁ…こう失敗が続くと、流石に自信というかやる気が萎えて来るわね)
アリスは先程上海が持ってきた紅茶を一口飲んだ後、何か気分転換になるような事はないかと思考を巡らす。
(魔理沙を誘って博麗神社へ遊びに行くのも良いけど。あのぐうらた巫女と魔理沙が顔合わしたら確実に弾幕ごっこに発展するし、巻き込まれるのはほぼ確実…)
あれやこれやと考えて見るも、こんな時に限ってなかなか良い案は浮かんでこず。アリスはそんな自分に肩を落としてがっかりすると、ふとある事を思い出した。
「そうだわ!!あそこに行けば良いのよ!!」
アリスが肩を落とした事で思い出したのは、数年前に人里から少し離れた場所に開業したマッサージ店の事であった。そのマッサージ店は開業している場所もさる事ながら、何故か妖怪のみを相手にマッサージを施すという本当に変わった店である。さらに店主で人間であるというのだからこれまたおかしく。その変わり者度は森近に匹敵するとも言う里の人間達がいるほどであった。
「あいつなら一通り弾幕も使えるから、ストレス発散の弾幕勝負も出来るわ」
アリスは考えが纏まると、善は急げとばかりに外出する準備を始める。とは言っても、大抵の物は人形達に用意させるので、彼女自身が動く事はあまり無い。まあ、その人形を全て彼女が一人で操っていると考えると、たまに『自分で用意したりした方が早くないのか?』といいたくなる人もいたが、前にその質問をしたアホが、翌日永遠亭に全身を複雑骨折で運ばれて以来、暗黙の了承となっていたりする。
「戸締りと防犯対策もOK!!さて、行きましょうか」
アリスはそう言うと玄関の扉にしっかりと鍵を掛け。お供の上海を連れて目的地であるマッサージ店へと向かったのであった。しかし、先程作ったまま放置した人形が、後々彼女とその関係者達に少しばかりの恐怖をもたらす事になるとは、この時誰も想像だに出来なかっただろう…
(サミシイ…ダレカ……ワタシヲ……)
【ちりーん!!ちりーん!!】
「はーい!!」
青年が台所でお茶受け様の羊羹を切っていると、ふいに玄関から来客を告げる鈴の音が聞こえてきたので、彼は羊羹を切る手を止めて返事を返した後、急いで来客を迎える為に玄関へと向かった。
「今開けます」
玄関についた青年はそう言うと、扉越しにいるであろう客に向かって声をかけてから木で作られた扉を開ける。するとそこには一体の人形をお供に、見慣れた金髪の少女が立っていた。
「…なんだ。アリスか」
「何だとは何よ!?」
開口一番にそう言われたアリスは、頬をハリセンボンの様に膨らまして青年を下から睨み、こんな事なら来るんではなかったと思った。
「気を悪くしたらごめん。今日はそろそろ別の来客が来る時間だから…それと、お詫びにお茶とお菓子を出すから上がるか?」
そんなアリスを見て、青年は照れ隠しに頬をポリポリと掻きながら言うと、立ち話も何ので取り合えず彼女を家の中に招待する事を決める。
「…毎回毎回そんなので、私が許すと思う?」
「なら、今回は森近さんの店で買った本を数冊付けるよ」
青筋を額に浮かべながらアリスがそう青年に告げると、彼はしょうがないなと言う表情を浮かべてそう切り出したのだが…
「そう言う問題じゃないわよ!!この馬鹿ぁー!!」
青年の態度と言葉についにキレたアリスは、八つ当たりもかねて彼に渾身の一撃を叩き込む。
【ドガァ!!】
「ぐべばらぁ!!」
そして、その一撃は完全に油断していた青年の鳩尾にクリーンヒットし、彼をその場に崩れ落とした。
「全く、アリスの一撃程度で沈む何て軟ね…」
すると、二人のやり取りを上空から見ていたレミリア・スカーレットは、少し青年を見下した口調で喋りながら降下を始めた。そのシルエットは弱点の一つである日光を遮る日傘の為、大きい茸に蝙蝠の翼が生えた様な姿になっている。
「だらしないわね雅人。それでも美鈴に鍛えられてるの?」
「あっ…いらっしゃい。レミリアさん」
レミリアが地上に舞い降りた時には、彼女に雅人と呼ばれた青年も息を整えて立ち上がっており、何とか会話は可能であった。ちなみに、彼が名前の後に『さん』を付けるのは、レミリアを含めた幻想郷の名立たる実力者達(ただし、人間サイドは除く)や、永遠亭のメンバー等に限られている。
「まあいいわ。アリスも一緒にいるなんて好都合ね」
「…どういう事よ?」
非常に含みのある言葉を言いながら、レミリアはそれこそ悪魔の笑みを浮かべつつ、雅人の家の中に勝手に入って行く。だが、他にも勝手に家に入ってくる人物や妖怪は沢山いるのか、それともレミリアの力が怖いのかは知らないが、彼はそんな彼女に対して何も注意する気配は無かった。
「雅人にアリスも、少し話があるからさっさと入りなさい」
レミリアはそれだけ言うとさっさと家の奥へ向かって行き、それを追う形で雅人とアリスも彼の家の中へと上がることにした。
「大図書館の大掃除?」
雅人が出したお茶と羊羹を頬張りながら、アリスは先程レミリアから聞かされた話の内容にびっくりした様に答えた。
「そう、パチェの話だと。二人の能力を見込んでの頼みだそうよ」
レミリアも出されたお茶を飲みながらそう付け加え、二人の返事を待つ。だが、アリスには拒否権が一応はあるものの、とある事情にてレミリアに特に頭の上がらない雅人には、彼女及びパチュリー・咲夜からの依頼を拒否する権利は無い。それ故に彼の出す答えは決まっていた。
「拒否する理由も無いですし、お引き受けします」
(こいつは~)
敬語でレミリアに答えを出す雅人を見て、アリスはなぜこうも自分と態度が違うのかと怒りを隠せずにはいられなかった。しかし、彼女と言うか恐らく幻想郷の殆どの妖怪や人間は知らないだろうが、彼は彼女に対して非常に大きな貸しがあり、その事もあってこうやって話をしていたりするのだ。
「素直でいいわ。…っで、そこの人形遣いはどうする気?」
雅人からの返事を聞いたレミリアは、今度はアリスの方へと向きを変へて悪魔の笑みと共にそう問いかける。もちろん、アリスが最初は拒否してくるのを計算にいれて…
「私はパスね。そんな事につき合ってる程暇じゃ……」
「あら。それは残念ね…依頼を引き受けてくれたら、大図書館から好きな本を好きなだけ上げるって。パチェ言ってたのに」
すると案の定、アリスは非常に怪訝な表情で拒否の意思表示をしてきたのだが、レミリアはその言葉を遮る様に手持ちのカードをちらつかせた。
「残念だけど、あそこの書物はそれなりに…」
「昨日入った新刊も、もちろん含まれるわよ」
なおも拒否しようとしたアリスは、レミリアの言葉に自分の心が大きく揺れるのを感じた。それはあの本の虫で別名を『動かない図書館』とすら付けられるパチュリー・ノーレッジが、本当にそこまで言うのかという事と、もしこれが本当ならば、自分は相当な損をすると言う感情の板ばさみである。
「まぁ、別にあなたじゃなくても良いし。それに魔理沙の方が後々フランの相手も頼めるから、そっちの方が良いわね」
非常に業とらしい言葉だったが、そこは五百年も生きてきた吸血鬼である。旨い事ある単語を混ぜる事によって、彼女がそんな事に気付かなくなる術を完成させていた。その魔法の言葉は…
【魔理沙】
このたった三文字を入れるだけで、レミリアはこの会話の主導権を握った。何せアリスと魔理沙と言えば、幻想郷で知らぬ物はいないと言う珍品の奪い合いをする仲である。それに魔理沙の方は特に意識はしていないのだが、アリスの方は彼女の事を一方的にライバル視しており、それこそ彼女が自分より珍しいも物をゲットすれば、それよりも珍しい物をゲットしようと動き出す位に…
「その話、本当なの?」
「あら、引き受けないんじゃないの?」
そんな二人の会話を聞きながら、雅人はアリスが完全にレミリアの手の平で踊る操り人形に見えた。もちろん、そんな事を口に出せば最近彼女が幻想郷に流れ着いた書物から編み出した新必殺技『コズ○ック・マリ○○ーシ○ン』にて、全身の骨をぼろぼろにされるのを分かっているので口には出さないが…
「そうそう、ちょっと肩が凝ったから雅人。マッサージしてよ」
(流石レミリアさん…完全に主導権握ってるな)
レミリアはアリスの質問をはぐらかして回避すると、さらにアリスをあせらす為の行動を起こす。雅人もその意思に従い彼女の後ろに回った後、自身の持つ『振動を操る程度』の能力を使用してマッサージを始める。
【シビビ!!】
「ふふ、流石私が開眼させた能力ね。物凄く気持ち良いわ」
「ちょ!!私の話に答えなさい!!」
自分の質問にまともに答えなかったレミリアに対し、アリスはこれが罠だと解りつつも焦る気持ちが先行してしまい、その結果どんどん彼女の話術に嵌って行く。ちなみに、今現在雅人が使っている能力は、彼がレミリアの『運命を操る程度』の能力を受けて開眼したと言われており、彼が彼女に頭が上がらない理由の一つとなっている。
「もう…貴方は拒否したんだし。後で魔理沙にでも頼むから良いわ」
雅人のマッサージを受けつつ、レミリアは自分の話術の糸に絡まっていくアリスに苦笑しながらそう言うと、最後の羊羹を口に含んだ。
「まだ完全には拒否してないわよ!!それに、さっきの話が本当かどうか証拠はあるの?」
(ありゃりゃ…)
レミリアの余裕綽々の言葉に、アリスはついに自らどつぼを掘ってしまう。それを聞いた雅人は苦笑し、当の本人は待ってましたとばかりに服の袖から一枚の紙を取り出すとアリスの方へと差し出した。
「どう?それを見ても疑うの?」
レミリアが取り出した紙には、次のような文章が書かれたいた。
『私ことパチュリー・ノートレッジは、今回の図書館掃除に参加した者に私秘蔵のグリモワール他、望む物を渡す事をここに書き記します』
それが紛れも無くパチュリー本人の文字であるのは、その独特の筆記体により大図書館に何回か通った事のある者ならば直ぐにわかるものであり、こんな物を突き付けられたアリスの頭の中には、これを見た魔理沙が二つ返事で了承する姿がくっきりと描かれてしまった。
「もう良いでしょ?これから私は魔理沙…もとい博麗神社に行くんだから、さっさと返しなさい」
アリスが紙切れ一枚に燃え尽きていると、いつの間にかマッサージの終わったレミリアが横から手を差し出していた。
「ちょ…ちょっと待ちなさいよ!!何も引き受けないなんて一言も言ってないわ」
完全に狼狽の色を見せるアリスを見て、レミリアはチャンスの到来を察知すると、そのチャンスを逃す事無く行動に移した。
「あら?じゃ、引き受けてくれるの?」
散々じらした挙句、たたみかける時は一気に行動に移すレミリアの言動は、まさに文字通り『悪魔の誘惑』である。生きてきた歳月の違いをまざまざと見せつけれられたアリスは、渋々ながら降参と承諾の忌意味を込めて首を縦に振ったのであった。
「じゃ、今夜九時に館に来なさい」
レミリアは持ってきた日傘を差すとそう言い残し、一対の翼を羽ばたかせて青空に縁側から飛び立っていった。そしてそれを見上げていた雅人だったが、ふと別方面からの視線を感じ、何気なく視線を感じた方向を見るとそこには…
(人形?)
そう、そこに居たのは人や妖怪ではなく、一体の人形が宙にふわりと浮いていたのである。最初はアリスの連れてきた上海かと思ったが、雅人が確認の為に後ろを振りかえると、そこには落ち込んでいるアリスを宥めている上海がおり、そんな光景を見て、彼が確認の為に再び人形のいた方角に視線を戻すと、そこには既に人形の姿は無かった。
(…気のせいだったか?)
断れなかったとは言え、厄介事を引き受けた雅人は人形の事を脳内でそう片付けると、取り合えず目の前にいる非常に不機嫌な人形遣いをどう宥めるかに思考を傾ける事にした。
≪続く≫
なお、所々に私的な解釈が書れた所もありますので、東方の世界観を壊したくない方にもお勧めはいたしません。
鬱蒼と生い茂る木々により日光が遮られ、昼間でも薄暗い事で有名な魔法の森に住む魔法使いの一人。アリス・マーガトロイドは、ここ最近長年の夢である自立人形の作成に没頭していた。
「ここをこうして…これならいけそうね」
アリスはそう言うとカーテンにより光を遮った部屋の中、何かしらの記号で構成された魔方陣の中央に一体の人形を置き、少し離れるとグリモワールと言われる本を片手に呪文の詠唱を開始した。
「我。ここに禁忌の呪詛を紡ぐ…」
アリスがその可憐な唇から呪詛を唱え始めると、人形を囲う様に描かれた魔方陣が呼応するかの様にうっすらと輝き始めた。それは一見すると美しい光景ではあったが、その儀式の内容は見た目とは逆に禍々しい物だったりする。
「神の摂理に逆らい、今我は魔に属すものとして願う…」
今手に持っているグリモワールを日夜読み通し、アリスは一字一句間違わないようにほぼ完璧に暗記した呪詛を唱えながら、魔方陣から放たれる白い光に包まれていく自分で作った人形を見て、彼女は非常に美しいと思った。
そう、今アリスが行っている儀式とは本来ならば命…正確には『自意識』を持たない物に、人が自然の摂理を曲げる事で擬似的に命の息吹を吹き込む為に行うもので、本来ならばゴーレム等の明確な目的を持った物を作る以外には、原則禁呪として封印されている術である。
(私には明確な理由がある…それにこれは、絶対に成し遂げればならない事なのよ!!)
普段は絶対他人に見せない真剣な表情にて、儀式に全意識を集中するアリスの気迫には鬼気迫るものがあるのだが、整った人形のような容姿の為にいまいち迫力にはかける。
「この命無き人形に、偽りの命を!!」
そして、呪詛の最後の部分をアリスが唱え終わると魔法陣が放っていた光が人形に集約していき…
【ボシュウ!!】
何かが蒸発する様な音がして、アリスは一応儀式が成功した事に安堵した。
(呪詛も魔方陣の構成も寸分違わず出来た…今度こそ失敗はありえないわ)
アリスは儀式が終わった後、緊張で荒くなった息を深呼吸で整え、それまで儀式の邪魔になる外の光を遮っていたカーテンを明け放った。
「ふぅ…いくら儀式の為とは言え、暗闇の中は気分が滅入るわ」
アリスは木々の間から漏れる光を体に浴びつつ、大きく背伸びをしながらそんな事を言ってみる。いくら彼女が自ら『インドア派』と言ってるとは言え、それ=『暗い所が好き』とは限らないのだが、この発言のせいで一部の人間は彼女の事を他人から聞かれた際、暗い部屋の中で嬉々としてわら人形や、その他の怪しい人形を作っているイメージしか浮かばなかったりする。
「さて、今日こそは念願が叶う筈…」
朝起きて一番最初に自分で行った占いの結果、今日の運勢はかなり良く、それに朝食を取った際に飲んだ玉露(霊夢の所から少しいただいた物)には茶柱がたっていたのだ。これで失敗した場合、それこそ博麗神社を五寸釘を打ち付けたわら人形まみれにしても飽き足りない位恨むだろう。(だが、本当にやれば巫女が妖怪退治の名目で復讐に来るだろうからしないが…)
こうして、アリスは光を失った魔法陣の中心にまだ座ったままの人形に近づき、希望を抱いてそっと触れてみた。
「さあ、目を開けて見て」
そして、優しくアリスが声を人形にかけると、それまで目を瞑っていた人形の瞼が開いた。
(よし…これならいけるかも)
いままで三桁にも亘る失敗を繰り返し、さらには技術と知識の向上の為に、紅魔館の大図書館に丸三日間篭って関連書物の類を読み漁りったり、普段は使わない茸を使ってみたりと試行錯誤の成果を、彼女は笑顔で見つめた。
しかし……
「…これで六百六十六回目の失敗ね」
自宅権研究所である洋館の一階にあるリビングにて、アリスはテーブルの上に肘を立てながら、今回も失敗に終わった事に落ち込んでいた。
先程の儀式により人形に擬似生命を吹き込む事には成功したのだが、それは彼女が長年夢見ていた物には程遠く、自意識はおろか何かしらの命令がないと動けない代物であった。
(はぁ…こう失敗が続くと、流石に自信というかやる気が萎えて来るわね)
アリスは先程上海が持ってきた紅茶を一口飲んだ後、何か気分転換になるような事はないかと思考を巡らす。
(魔理沙を誘って博麗神社へ遊びに行くのも良いけど。あのぐうらた巫女と魔理沙が顔合わしたら確実に弾幕ごっこに発展するし、巻き込まれるのはほぼ確実…)
あれやこれやと考えて見るも、こんな時に限ってなかなか良い案は浮かんでこず。アリスはそんな自分に肩を落としてがっかりすると、ふとある事を思い出した。
「そうだわ!!あそこに行けば良いのよ!!」
アリスが肩を落とした事で思い出したのは、数年前に人里から少し離れた場所に開業したマッサージ店の事であった。そのマッサージ店は開業している場所もさる事ながら、何故か妖怪のみを相手にマッサージを施すという本当に変わった店である。さらに店主で人間であるというのだからこれまたおかしく。その変わり者度は森近に匹敵するとも言う里の人間達がいるほどであった。
「あいつなら一通り弾幕も使えるから、ストレス発散の弾幕勝負も出来るわ」
アリスは考えが纏まると、善は急げとばかりに外出する準備を始める。とは言っても、大抵の物は人形達に用意させるので、彼女自身が動く事はあまり無い。まあ、その人形を全て彼女が一人で操っていると考えると、たまに『自分で用意したりした方が早くないのか?』といいたくなる人もいたが、前にその質問をしたアホが、翌日永遠亭に全身を複雑骨折で運ばれて以来、暗黙の了承となっていたりする。
「戸締りと防犯対策もOK!!さて、行きましょうか」
アリスはそう言うと玄関の扉にしっかりと鍵を掛け。お供の上海を連れて目的地であるマッサージ店へと向かったのであった。しかし、先程作ったまま放置した人形が、後々彼女とその関係者達に少しばかりの恐怖をもたらす事になるとは、この時誰も想像だに出来なかっただろう…
(サミシイ…ダレカ……ワタシヲ……)
【ちりーん!!ちりーん!!】
「はーい!!」
青年が台所でお茶受け様の羊羹を切っていると、ふいに玄関から来客を告げる鈴の音が聞こえてきたので、彼は羊羹を切る手を止めて返事を返した後、急いで来客を迎える為に玄関へと向かった。
「今開けます」
玄関についた青年はそう言うと、扉越しにいるであろう客に向かって声をかけてから木で作られた扉を開ける。するとそこには一体の人形をお供に、見慣れた金髪の少女が立っていた。
「…なんだ。アリスか」
「何だとは何よ!?」
開口一番にそう言われたアリスは、頬をハリセンボンの様に膨らまして青年を下から睨み、こんな事なら来るんではなかったと思った。
「気を悪くしたらごめん。今日はそろそろ別の来客が来る時間だから…それと、お詫びにお茶とお菓子を出すから上がるか?」
そんなアリスを見て、青年は照れ隠しに頬をポリポリと掻きながら言うと、立ち話も何ので取り合えず彼女を家の中に招待する事を決める。
「…毎回毎回そんなので、私が許すと思う?」
「なら、今回は森近さんの店で買った本を数冊付けるよ」
青筋を額に浮かべながらアリスがそう青年に告げると、彼はしょうがないなと言う表情を浮かべてそう切り出したのだが…
「そう言う問題じゃないわよ!!この馬鹿ぁー!!」
青年の態度と言葉についにキレたアリスは、八つ当たりもかねて彼に渾身の一撃を叩き込む。
【ドガァ!!】
「ぐべばらぁ!!」
そして、その一撃は完全に油断していた青年の鳩尾にクリーンヒットし、彼をその場に崩れ落とした。
「全く、アリスの一撃程度で沈む何て軟ね…」
すると、二人のやり取りを上空から見ていたレミリア・スカーレットは、少し青年を見下した口調で喋りながら降下を始めた。そのシルエットは弱点の一つである日光を遮る日傘の為、大きい茸に蝙蝠の翼が生えた様な姿になっている。
「だらしないわね雅人。それでも美鈴に鍛えられてるの?」
「あっ…いらっしゃい。レミリアさん」
レミリアが地上に舞い降りた時には、彼女に雅人と呼ばれた青年も息を整えて立ち上がっており、何とか会話は可能であった。ちなみに、彼が名前の後に『さん』を付けるのは、レミリアを含めた幻想郷の名立たる実力者達(ただし、人間サイドは除く)や、永遠亭のメンバー等に限られている。
「まあいいわ。アリスも一緒にいるなんて好都合ね」
「…どういう事よ?」
非常に含みのある言葉を言いながら、レミリアはそれこそ悪魔の笑みを浮かべつつ、雅人の家の中に勝手に入って行く。だが、他にも勝手に家に入ってくる人物や妖怪は沢山いるのか、それともレミリアの力が怖いのかは知らないが、彼はそんな彼女に対して何も注意する気配は無かった。
「雅人にアリスも、少し話があるからさっさと入りなさい」
レミリアはそれだけ言うとさっさと家の奥へ向かって行き、それを追う形で雅人とアリスも彼の家の中へと上がることにした。
「大図書館の大掃除?」
雅人が出したお茶と羊羹を頬張りながら、アリスは先程レミリアから聞かされた話の内容にびっくりした様に答えた。
「そう、パチェの話だと。二人の能力を見込んでの頼みだそうよ」
レミリアも出されたお茶を飲みながらそう付け加え、二人の返事を待つ。だが、アリスには拒否権が一応はあるものの、とある事情にてレミリアに特に頭の上がらない雅人には、彼女及びパチュリー・咲夜からの依頼を拒否する権利は無い。それ故に彼の出す答えは決まっていた。
「拒否する理由も無いですし、お引き受けします」
(こいつは~)
敬語でレミリアに答えを出す雅人を見て、アリスはなぜこうも自分と態度が違うのかと怒りを隠せずにはいられなかった。しかし、彼女と言うか恐らく幻想郷の殆どの妖怪や人間は知らないだろうが、彼は彼女に対して非常に大きな貸しがあり、その事もあってこうやって話をしていたりするのだ。
「素直でいいわ。…っで、そこの人形遣いはどうする気?」
雅人からの返事を聞いたレミリアは、今度はアリスの方へと向きを変へて悪魔の笑みと共にそう問いかける。もちろん、アリスが最初は拒否してくるのを計算にいれて…
「私はパスね。そんな事につき合ってる程暇じゃ……」
「あら。それは残念ね…依頼を引き受けてくれたら、大図書館から好きな本を好きなだけ上げるって。パチェ言ってたのに」
すると案の定、アリスは非常に怪訝な表情で拒否の意思表示をしてきたのだが、レミリアはその言葉を遮る様に手持ちのカードをちらつかせた。
「残念だけど、あそこの書物はそれなりに…」
「昨日入った新刊も、もちろん含まれるわよ」
なおも拒否しようとしたアリスは、レミリアの言葉に自分の心が大きく揺れるのを感じた。それはあの本の虫で別名を『動かない図書館』とすら付けられるパチュリー・ノーレッジが、本当にそこまで言うのかという事と、もしこれが本当ならば、自分は相当な損をすると言う感情の板ばさみである。
「まぁ、別にあなたじゃなくても良いし。それに魔理沙の方が後々フランの相手も頼めるから、そっちの方が良いわね」
非常に業とらしい言葉だったが、そこは五百年も生きてきた吸血鬼である。旨い事ある単語を混ぜる事によって、彼女がそんな事に気付かなくなる術を完成させていた。その魔法の言葉は…
【魔理沙】
このたった三文字を入れるだけで、レミリアはこの会話の主導権を握った。何せアリスと魔理沙と言えば、幻想郷で知らぬ物はいないと言う珍品の奪い合いをする仲である。それに魔理沙の方は特に意識はしていないのだが、アリスの方は彼女の事を一方的にライバル視しており、それこそ彼女が自分より珍しいも物をゲットすれば、それよりも珍しい物をゲットしようと動き出す位に…
「その話、本当なの?」
「あら、引き受けないんじゃないの?」
そんな二人の会話を聞きながら、雅人はアリスが完全にレミリアの手の平で踊る操り人形に見えた。もちろん、そんな事を口に出せば最近彼女が幻想郷に流れ着いた書物から編み出した新必殺技『コズ○ック・マリ○○ーシ○ン』にて、全身の骨をぼろぼろにされるのを分かっているので口には出さないが…
「そうそう、ちょっと肩が凝ったから雅人。マッサージしてよ」
(流石レミリアさん…完全に主導権握ってるな)
レミリアはアリスの質問をはぐらかして回避すると、さらにアリスをあせらす為の行動を起こす。雅人もその意思に従い彼女の後ろに回った後、自身の持つ『振動を操る程度』の能力を使用してマッサージを始める。
【シビビ!!】
「ふふ、流石私が開眼させた能力ね。物凄く気持ち良いわ」
「ちょ!!私の話に答えなさい!!」
自分の質問にまともに答えなかったレミリアに対し、アリスはこれが罠だと解りつつも焦る気持ちが先行してしまい、その結果どんどん彼女の話術に嵌って行く。ちなみに、今現在雅人が使っている能力は、彼がレミリアの『運命を操る程度』の能力を受けて開眼したと言われており、彼が彼女に頭が上がらない理由の一つとなっている。
「もう…貴方は拒否したんだし。後で魔理沙にでも頼むから良いわ」
雅人のマッサージを受けつつ、レミリアは自分の話術の糸に絡まっていくアリスに苦笑しながらそう言うと、最後の羊羹を口に含んだ。
「まだ完全には拒否してないわよ!!それに、さっきの話が本当かどうか証拠はあるの?」
(ありゃりゃ…)
レミリアの余裕綽々の言葉に、アリスはついに自らどつぼを掘ってしまう。それを聞いた雅人は苦笑し、当の本人は待ってましたとばかりに服の袖から一枚の紙を取り出すとアリスの方へと差し出した。
「どう?それを見ても疑うの?」
レミリアが取り出した紙には、次のような文章が書かれたいた。
『私ことパチュリー・ノートレッジは、今回の図書館掃除に参加した者に私秘蔵のグリモワール他、望む物を渡す事をここに書き記します』
それが紛れも無くパチュリー本人の文字であるのは、その独特の筆記体により大図書館に何回か通った事のある者ならば直ぐにわかるものであり、こんな物を突き付けられたアリスの頭の中には、これを見た魔理沙が二つ返事で了承する姿がくっきりと描かれてしまった。
「もう良いでしょ?これから私は魔理沙…もとい博麗神社に行くんだから、さっさと返しなさい」
アリスが紙切れ一枚に燃え尽きていると、いつの間にかマッサージの終わったレミリアが横から手を差し出していた。
「ちょ…ちょっと待ちなさいよ!!何も引き受けないなんて一言も言ってないわ」
完全に狼狽の色を見せるアリスを見て、レミリアはチャンスの到来を察知すると、そのチャンスを逃す事無く行動に移した。
「あら?じゃ、引き受けてくれるの?」
散々じらした挙句、たたみかける時は一気に行動に移すレミリアの言動は、まさに文字通り『悪魔の誘惑』である。生きてきた歳月の違いをまざまざと見せつけれられたアリスは、渋々ながら降参と承諾の忌意味を込めて首を縦に振ったのであった。
「じゃ、今夜九時に館に来なさい」
レミリアは持ってきた日傘を差すとそう言い残し、一対の翼を羽ばたかせて青空に縁側から飛び立っていった。そしてそれを見上げていた雅人だったが、ふと別方面からの視線を感じ、何気なく視線を感じた方向を見るとそこには…
(人形?)
そう、そこに居たのは人や妖怪ではなく、一体の人形が宙にふわりと浮いていたのである。最初はアリスの連れてきた上海かと思ったが、雅人が確認の為に後ろを振りかえると、そこには落ち込んでいるアリスを宥めている上海がおり、そんな光景を見て、彼が確認の為に再び人形のいた方角に視線を戻すと、そこには既に人形の姿は無かった。
(…気のせいだったか?)
断れなかったとは言え、厄介事を引き受けた雅人は人形の事を脳内でそう片付けると、取り合えず目の前にいる非常に不機嫌な人形遣いをどう宥めるかに思考を傾ける事にした。
≪続く≫
導入部分だから仕方がないと思うけど、
せめてオリキャラの立ち位置をはっきりさせるなり
話をある程度進めて大筋が見えるという所まで
書ききってから投稿すべきだと思いますよ。
最後にこのオリキャラSSの全体においての調理の仕方は非常に不味い。
物語開始時点で既に便利な能力を持っており、弾幕まで使える。アリスや美鈴、幻想郷の実力者たちと顔見知り。レミリアがパチェのパシリ的な用事で自ら出向いてくる程に好感を抱いている……。
冒頭の文章を読むと、狂月様は創想話でオリキャラが嫌がられる傾向にあることはご存知のようですが、それは何故なのか真剣に考えてみることをお勧めします。
多くは語るまい
・受け入れやすいオリキャラと受け入れにくいオリキャラがいる。
もう一度その違いは何かをよく考えてみよう。
受け入れられないと割り切った上で書くのであれば、自分の創作活動スタイルを見直そう。
作品公開の場はここだけじゃない。
・キャラクターの名前は、原作者であるZUN氏本人も間違えないで下さいと注意深く言っているので気をつけよう。
漢字キャラ、横文字キャラ共に辞書登録してみるとか。
ぱちぇでパチュリー・ノーレッジに変換するとかね。
・連載物は一度最後まで書いてしまおう。
本文がムリでも最低限プロットまで。
物語については導入なので今回は割愛。
というか最終的には書きたい内容を書くのがいいとも思うしね。
めげずに頑張れ。
あえてマイナス点入れるけれど、続けていけばいつかきっとこのマイナス点が自分にプラスになってるから。
オリキャラを出したいのならそこのところをもっと詳しく掘り下げて書くべきです
もとの作品と馴染むキャラ、というとこが大切です。
やはり、見て貰って意見を聞かないと解らない事は沢山あると実感しました。
後、オリジナルキャラは旧作のあるキャラを出す為布石と考えてます。
(ヒント:神・旧作・アリスラブ)
文章は水準以上だと思うし、説明不足な所は連作だと後述されることも多いので、現段階でその辺には触れません。
期待を込めた点数を入れておきます。