Coolier - 新生・東方創想話

アリスが人形を作る理由

2008/02/02 19:07:48
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※オリキャラ出ます。嫌いな人は要注意。
 アリスのキャラがおかしいとしたら、それは筆者の知識不足故です。





1.
――「アリス・マーガトロイドの日記」XXXX年※月△日分より抜粋――
私は日記をつけている。でも最近、これといってネタが無い。
・・・そうだ、時には昔の話でも綴ろうかしら。


2.
私は、元々魔界に居た。
けれどある日、巫女やら魔法使いやら悪霊やら妖怪やらがやってきて・・・。
私はおろか、姉さん達やお母さんまでもが倒されてしまった。
その後、禁忌の魔導書の力で再戦を挑んだけれど、やっぱり倒された。

悔しかった。勝ちたかった。倒したかった。私は、魔界を飛び出した。
彼奴等に勝つ方法は無いか、彼奴等の居場所は何処だ・・・。それだけを考えて。
私は、飛び出した。修行して、彼奴等を倒す為に。


3.
・・・甘かった。勢いで飛び出したものだから、何処に居を構えるかなんて考えてなかった。
水も、食料も、寝る所さえ無い。正に無い無い尽くし。
どうしよう。せめて寝る所位は確保しないと・・・。

途方に暮れながら歩いていると、一軒の家があった。
思わず訪ねようとして、ふと疑問が湧いた。
「・・・今夕方よね。何で明かりもつけないのかしら?」

もしかして廃墟なのだろうか。それなら好都合だ。
これから先、少なくとも寝る所は確保出来る事になる。
意を決して、扉を開いた。

最初に目に飛び込んできたのは、地面に倒れている人間だった。
ギョッとしたが、屈んでみると直ぐにそれが死体であると判った。

正直、逃げ出そうと思った。けれども顔を上げた時――私は息を飲んだ。





生きているのか判らない位に白い、痩せた、生気の無い、だのに美しい女の子が、





寝床から、こちらを見ていたのだ。





こうして、私は「彼女」と出会った。


4.
余りに突然の事で、最早頭が回らなかった。側にある死体の事すら、数秒忘れた。
落ち着け、ええと、と、兎に角何か、何か一言・・・。
「こ、今晩は・・・。」
取り敢えず、最初に出てきたのは挨拶だった。自分でも間の抜けた行動だとは思う。
「・・・。」
少女は答えない。怯えているのだろうか。ならさっさと立ち去って、他を当たると・・・。

あれ?

ふと、違和感に気づく。この子・・・。
「笑ってる?」
そう、顔が笑っているのだ。普通、こういう状況で笑えるものだろうか?
不思議に思って近付くと、目が近付く私を見ていない事に気付いた。
「この子・・・。」
もしかして、目が見えないのか?
私を見たのでは無く、音がした方を向いただけ・・・?

そこで、ピンと来た。この子は、私をこの死体の人間だと思っているのではないだろうか。
恐らくこの死体はこの子の親か、そうでなければこの子を養っていた誰かなのだろう。
それが何が原因か死んでしまい、この子はそれを知らずにいるのだ。それなら、笑ったのも納得出来る。
・・・相変わらず、この子はこちらを向いて笑っている。私が侵入者だと気付く様子は無い。
あの様子なら、一晩此処に泊まる位は簡単だろうが・・・。

どうする。此処を出て他を当たるか、此処でこの子と一夜を明かすか。

「ああもう」

考えるまでも無い事だった。外はとっくに日が暮れている。今から他を当たるのは無理があるだろう。

・・・それに。知らず知らずの内に、私は彼女に見とれていたのだから。


5.
流石に死体と一緒に寝るのは無理があるので、取り敢えず家の外に出しておいた。
今は冬だし、腐る事は無いと思う。明日になったら、お墓でも作って埋めておこう。これも、何かの縁だ。
さて、やる事も特に無いし、着替えて、布団を敷いて、早めに寝ておくか。

その後、何度か彼女に話しかけたが、一向に返事は帰って来なかった。

やっぱり、おかしい。

幾ら目が見えないとは言え、声が違えば普通、気付くか、そうでなくとも何かおかしいと思うだろう。
所がこの子は訝しみすらしない(様に見える)。私の声に反応するので、一応聞こえてはいるのだろうが。
・・・止めた。考えても埒が開かないなら、ひとまず眠るとしよう。


6.
朝が来た。取り敢えず、井戸で顔を洗う。朝食は家の中の物で間に合わせるとしよう。
・・・そう言えば、この子はご飯を食べるのだろうか。そう思って訪ねてみたが、返事は無かった。
仕方無しに自分一人で作って食べていると

「・・・。」

後ろから視線を感じる。何だかんだで、お腹は空いているのだろう。無理も無いか。

「食べたいなら食べたいって、そう言えば良いのに。」
急いで自分の分を片づけ、彼女の分を作って持って行く。

「ほら、出来たわ。召し上がれ。」
しかし、待てど暮らせど一向に食べようとしない。一体何が・・・
「あ。」
そうか、彼女は目が見えないのだから、食べさせる必要が・・・え、まさか。もしかして?

見ず知らずの他人に?
私が?
ご飯を?
食べさせるの?

・・・仕様が無い、わね。私1人しか居ないんだし。

少し体を起こさせて蓮華を口元に押し込むと、意外にあっさり食べた。あ、笑ってる。一寸嬉しい。


7.
朝食が終わった後少しして私は、あの子を養っただろう死体を埋めた。お疲れ様。全然知らないけど。
「出掛けてくるわ。」
一応出掛ける旨を伝えておく。相変わらず、返事は無かった。

「さて、どうしようか。」
そう言って、今日為すべき事を模索し始める。不思議と、此処を出て行こうという気はしなかった。



夕暮れに、私は帰って来た。相変わらず、彼女は横になっているだけだった。今日は一寸収穫があった。
あの巫女と悪霊が「博麗神社」という場所に住んでいる事、魔法使いは悪霊の弟子である事を掴んだ。
彼女にその事を話したが、やっぱり返事は無かった。期待してなかったとは言え、少し寂しい。

夕飯は朝食より豪華だった。台所の様子から見て蓄えが有りそうに無かったので、調達してきたのだ。
昨日と同じ様に蓮華を口元に押し込むと、昨日同様あっさり食べた。また、笑ってる。


8.
正直、何故世話をし続けたのか、今でも解らない。
可哀想だった?放っておけなかった?死にそうなので、最期を看取ろうと思った?
確かにそれも無いでは無い。でも、最たる理由じゃない。

・・・多分、彼女が美しかったのだ。

「生」を全く感じない、人の身に有らざる美しさ。正に人形の様だと思った。
その美しさを、可能な限り眺めていたかった。それが世話をし続けた理由だろう。

彼女は、私が押し込む食べ物によって、その日を生き延びた。
私は、彼女を生かし続けた。それが当たり前の様に思えたからだ。

今日も私は、彼女に話しかける。そして、返事は無かった。けれど、別に構わなかった。
ちゃんと、聞いてくれている。それだけで、独り身の私にとっては、十分有り難かった。
そんな日々が暫く続いた。



・・・それでも。
・・・最後の時は、やって来た。


9.
その日は、大雪だった。私は、雪が綺麗ねと言った。勿論、返事は期待していなかった。

この何日かで、薄々解りつつあった。
彼女は、恐らく生まれつきこうなのだ。返事がしたくても、出来なかったのだ。
いや、そもそも「返事をしよう」と考える事すら出来ないのかもしれない。
原因は・・・医術の心得が無いので解らないが。

耳は聞こえる。しかし目が見えず、口も利けず、手足も動かせず。・・・彼女は、正に「人形」だ。



否、そうでは無い。
彼女は、人間だ。只、少し体に不自由が有る。それが、彼女を人形らしく見せているだけ。

そう思う様になったのは――あの時、か。



寒い。すきま風がビュウビュウ吹いてくる。元々隙間だらけの家では当然だが、それにしても、寒い。

あんまり寒くて寝付けないので、仕方無く彼女の寝床に御邪魔した。・・・何故か、緊張する。



か細い体にも関わらず、彼女はとても暖かかった。それは正に、生きる者の暖かさだった。

初めて彼女を見た時、人形の様だと感じた。けれど、人形ではこの暖かさは出せないだろう。
・・・美しさこそ人形のそれだけど、彼女は紛れも無く「人間」だ。その時から、そう考える様になった。



そんな思いを巡らせていた時、ふと彼女に目をやると、何時も見開いている筈の目が閉じていた。
おや、と思って近付くと息がとても幽かだった。何とは無しに、私は彼女の頭を膝に乗せて撫でてやった。
「寝付き」が悪いといけないから、子守歌も歌ってやった。子供の頃、良く歌ってもらった歌だ。

私は、感じていた。「彼女」が、ゆっくりと、崩れてゆくのを。

驚きは無かった。元々長く生きられない命だ。私が此処に来た時、既に失われつつあった命。
それを、私の我が儘で、ほんの一寸生き延びさせたに過ぎない。何れ、それも終わる事は解っていた。

「貴女は、頑張ったわ。もう頑張らなくて良い。・・・ゆっくり、休みなさい。」

私が静かにそう言うと、その子は――





ありがとう





わたしの しらない だれかさん





そう言って、あの子は息を引き取った。とても、綺麗な笑顔だった。



幻聴だったかもしれない。そう言われても否定は出来ない。



けれど



「――馬鹿ねっ、お礼を言うのはこっちじゃないの・・・!」
「私は、貴女を騙して、ずっと住み着いていたのよ・・・?!」
「なのに何よ、有り難うって・・・!」



確かに、そう言ったのだ。少なくとも、私はそう信じている。





ありがとう





つきあってくれて





ほんとうに ありがとう





さようなら





ずっと わすれない


10.
次の日、私は彼女を埋めて、そこを立ち去った。
私は結局、彼女の名前さえ知らなかった。もしかしたら、彼女自身も知らなかったかもしれない。
・・・彼女は、最期には幸せになれたのだろうか。私は、なれたと信じている。

此処に住む気は全く無かった。客観的に見れば、私は彼女を騙して堂々と住み着いていた事になるからだ。
そんな所に住むのは罪悪感が有るし、何より彼女の居た家に住むのは辛すぎる。

この場所に来る事はもう無い。立ち去る時、そう直感した。事実、二度とあの場所を訪れる事は無かった。

あの後、私は何百体と無く人形を作り上げた。
人形の様な、彼女の美しさ。再現・・・とは行かないまでも、せめてそれに限りなく近付こうとした。
けれど、実際に出来上がったのは皆、それとは程遠い「失敗作」だった。・・・過去の私にとっては。

今は、そうでは無いと思っている。

「アレ」は、人間が人形に成ったから出来たのだ。人形を人間に近づけても、決してああは成らない。
元から壊れた物に幾ら近づけようと努力した所で、上手く行く訳が無いからだ。
「アレ」は再現できない美しさだし、再現してはいけない。恐らくは、そういう類の物なのだろう。
何より、今の私には「アレ」を再現しようという気が無い。生きている美しさに触れてきたからだろうか。
・・・こう考える辺り、私も変わったのかもしれない。事実、姉さん達から「大人びてきた」と言われた。

「おーい、アリス。居るかー?」「アリス・・・。来たわよ・・・。」

あ、魔理沙とパチュリーが来た。じゃあ、日記は此処までにして、あの2人を迎えないとね。

「今行くわ。一寸待ってて!」

――幻想郷の片隅での、一時の出来事――
――あの出来事は、後から見ればとても短い事だった――
――けれど、とても大きな変化をもたらした――

さようなら。一生忘れないわ、名前も知らない誰かさん。

END
初めまして、初投稿です。
だらだらと綴ってしまいました。
かなりの部分を端折ってしまいました。
おまけに意味不明なオチになってしまいました。
本当に申し訳有りません・・・。
アリス冷静過ぎ。普通死体見たらもっと驚くよ。

何はともあれ、こんな所まで読んで下さって本当に有り難う御座います。
次に書く時は、もう少し精進したい物です。・・・次が有ればの話ですが。

P.S.オリキャラですが、これといって元ネタはありません。
  只、筆者が昔見たとある写真集の女の子のイメージが少し投影されています。
seirei
http://www12.tok2.com/home/seirei/touhou/yugioh.html
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コメント



0.750簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
アリスらしいといえば、アリスらしいと思います。
まぁ、自分の中のアリスも怪しいですが。(笑)

4.100名前が無い程度の能力削除
本来のアリスはこういう冷静なキャラだと思う。
ちょっと浮世離れしているというか。
5.90三文字削除
良いアリスだ。
どこぞの映画にこの世でもっとも美しい人形とは動くことのない人間である、みたいなことを言ってたなぁ。
8.70名前が無い程度の能力削除
これはこれでよかったけど、端折られた部分も気になるしすっげぇ読みたい。
12.90名前が無い程度の能力削除
これはいい。面白かったです。
端折られた部分が気になるし読みたいです…。
雰囲気が出ていて良かった。
16.80名前が無い程度の能力削除
そっけない優しさはアリスの魅力。
17.無評価seirei削除
作者です。感想、本当に有り難う御座います。
要望に応えて「端折った部分」を追加してみました。
と言っても「書いてから」では無く「構想段階で」カットした部分なので、
もしかしたら繋がりが悪いかもしれません。
おまけに、追加前の台詞を否定する様な台詞が入ってます。
後は一寸「日常」と「最後の時」を補足しました。
改悪になってなければ良いんですが・・・。