「あなたは、店を構えているにも関わらず客を大切にしない。そして、騙して物を不当に安い値段で買い取る事など言語道断です。それだけではありません。人に宴会などに誘われても、用事がある、善処するなど適当なことばかり言ってせっかくの誘いを無碍にするなど他人に対して薄情すぎます。そう、貴方は少し人との縁を蔑ろにしすぎている。こんなことでは死んだ後、地獄に行くどころか三途の川すら渡れません。いいですかあなたにできる善行は───」
僕は今、幻想郷の閻魔に説教を受けている。
ふらりと店にやってきて、店内で浄玻璃の鏡を取り出し僕の過去の罪一つ一つについて叱ってきたのだ。
このような厄介な閻魔が店にやってきた原因はやはりアレを拾った事だろうか……
~☆~
一月ほど前、いつもの様に無縁塚を散策していると、いつかの人魂灯を再び拾った。
前回拾ったときは彼岸花が咲く頃だったのを覚えている。
そして、灯りが点ったのが冬だった。
人魂灯とは人魂によって明かりを灯し、幽霊を誘導する道具である。
幽霊というものは温度が非常に低くいのである。
人魂灯に導かれて店の中に幽霊が集まった結果、非常に寒い思いをしたものだ。
その人魂灯だが、数日前に灯りが点いた。
どうやらまた幽霊を集めだしたらしい。
前回と同じ季節ならば寒い思いをしなければいけないが、現在は夏である。
人魂灯に幽霊が集まっているおかげで店内はひんやりとしており、実に快適な状態を保っていた。
本来ならこのように便利な物は非売品にするのだが、この人魂灯の持ち主である白玉楼のお嬢様の機嫌を損ねるのはあまりよろしくない。
せいぜい、買戻しにきた庭師の少女に高く売りつける程度にとどめよう。
しかし、この人魂灯が余計な者まで呼ぶとは考えもしなかった。
~☆~
コンコン
先日手に入れた本を確認していると扉が叩かれる音が聞こえた。
どうやら誰かが来たようだ。
「どうぞ、開いていますよ」と、声を掛け、入ってきた客をもてなすのが正しい対応だろう。
たしかに接客が僕の仕事だ。
しかし、新しい商品の確認も大切な仕事である。
そして、やりかけの仕事を放り出すのは良くないことだ。
決して快適な空間を邪魔されたくない等と考えている訳ではない。
僕は使命感を胸に、再び手元の本に視線を戻した。
カランカラン
「失礼しますよ」
顔を上げると入り口に見慣れぬ格好をした少女が立っていた。
入ってきてしまったのなら仕方が無い。
「いらっしゃい。ゆっくり見ていくといい」
とだけ声をかけ、みたび本に視線を戻した。
これは客に気兼ねなく商品を見てもらう為の心遣いであり、決して面倒だから放っておこうと思っている訳ではない。
等と思っていたところ、一頁も読まぬうちに本に影が刺した。
顔を上げるとそこには腰に手を当て、私は怒ってますと言わんばかりの顔をした少女が立っていた。
どうやら僕の気遣いは理解してもらえなかった様である。
「幽霊が集まっているので何事かと思って来てみたのですが、そんなことよりも先にあなたに説教をしなければいけないですね。」
「は?」
「ここは店なのでしょう? 客が来たにもかかわらず出迎えも無ければ接客もしない。それ以前に店が汚すぎます。こんなことでは商売人失格です」
「それは申し訳ありません。ところで私は森近 霖之助といいますが……あなたは?」
「私は四季 映姫、幻想郷の閻魔をやっています。」
/
これがおよそ2時間前の出来事だ。
それからずっと閻魔様の説教を受けている。
最初のうちはいくらか反論していたのだが、そのことごとくを論破され、遂には、
「黙って話を聞きなさい、いい加減にしないと舌を引っこ抜きますよ!」
と、脅されては黙るしかなかった。
幽霊達はとうの昔に逃げ出しており、今は店内もじっとりと暑くなっている。
説教にジリジリと暑さが重なり更に気分が重くなっていく。
四季映姫の長々として説教だが、その内容は大きく分けて3種類に別れていた。
まず1つ目……商売に力を入れること。
商売とは普通、生活を豊かにする為に行うものだ。
珍しい品物を売ってしまったり、静かに本を読む時間が減ってしまったりしては、僕の心の豊かさは失われてしまい、本末転倒になってしまう。
そう反論したのだが「お黙りなさい」の一言で切って捨てられてしまった。
取り付く島もないとは正にこの事を言うのだろうか。
そして2つ目……もっと人付き合いをすること。
僕の周りにいる人物といえば、人の話を聞かない巫女や商品を勝手に持っていく魔法使い、何を考えているのか分からないスキマ妖怪など一癖も二癖もある奴ばかりである。
そんな連中とまともに付き合っていてはこちらの体が持たないのだが、それは分かっているのだろうか?
そして最後の3つ目……妖怪なのか人間なのか立ち位置をはっきりさせること。
僕は自分の立ち位置を曖昧にしたまま生きてきた。
人は自分達と違うモノを恐れ、妖怪の世界では弱いモノは虐げられる。
人ではなく力も弱い人妖である僕は、人のように里で暮らすでもなく、妖怪のように森で暮らすでもなく、こんな所で店を出して暮らしている。
人では無く、妖怪でも無い。
誰の敵でも、味方でもない。
どちらからも一歩だけ身を引いている。
そんな曖昧な立場を取っていたのだが、幻想郷の善悪を司る神はそれを良しとしないようだ。
「いいですか、貴方は人間にでも妖怪にでもなれる恵まれた立場にいるんです。それを理解しなさい。例えば上白沢 慧音がいます。彼女は貴方と同じ半人ですが、人里で暮らしきちんと人々と溶け込んでいます。逆に魂魄 妖夢は人ではない道、彼女の場合は幽霊として冥界の管理手伝いをしています。彼女達を見習って貴方も人と妖怪どちらとして生きるのかはっきりさせなさい。はっきりしないのはいけません」
僕は、納得できない物を感じながらこの閻魔の説教に耳を傾けていた。
/
ドンドンドン
扉をたたく音、僕にはそれが天の助けに思えた。
この訪問者を客として接客しよう。
幻想郷の閻魔は商売に力を入れるよう言っているのだ、接客の邪魔になる説教は中断するはず。
そう考え腰を浮かせた時、扉が開かれた。
「すいませーん!貴方の店で調べたいことがあるのですがー!」
入ってきたのは見覚えのある少女。
確か魂魄 妖夢だった。
大方お屋敷のお嬢様に怒られ、人魂灯を探しにきたのだろう。
珍しくまっとうな客である。
しっかりと商売に精を出している姿を幻想郷の閻魔に見せなければ。
「いらっ――」
「妖夢ではありませんか、あなたにも言いたいことがあります。こちらに座りなさい」
僕の声を遮り幻想郷の閻魔が妖夢に声をかけた。
「やや、閻魔様どうしてこんなところに居られるのですか」
「私だって仕事を休んで幻想郷を廻る事もありますよ。それよりもあなたは、また人魂灯をなくした様ですね。一度の失敗は誰にでもあります。しかし、同じ失敗を繰り返すのは反省していない証拠です。そんなことだからあなたはいつまでたっても半人前といわれるのです」
どうやら妖夢は僕を解放してくれる救いの神では無く、共に説教される哀れな民だったようだ。
/
「しくしく、どうして閻魔様がいらっしゃるんですか。恨みますよー」
僕の横に座り説教を受けている妖夢が小声で愚痴をこぼした。
まったく、恨み言を言いたいのはこちらのほうだ。
幻想郷の閻魔が言うには、幽霊が集まっていたからこの店に訪れた、ということ。
つまり妖夢が人魂灯を落とさなければ、僕が人魂灯を拾う事も無く、店に幽霊が集まることも無く、幻想郷の閻魔もこの店に訪れなかったはずなのだ。
彼女の失敗のとばっちりなんて受けたくも無い。
妖夢が愚痴をこぼす度、幻想郷の閻魔の説教が長引く度、僕の中で人魂灯の値段は釣り上がっていった。
すんなりとよめて、それでいて内容もおもしろかったですw
良い話でした。
その頃・・・小町は何してるかな~。
なるほど、こーりんは妖怪にも人間にもなれるのか・・・・・・
ふと、蝙蝠を思い出した。
その辺りの解釈の違いも面白いところですね。
みょんむーの様子が香霖堂登場時の印象と似てて、ちょっと新鮮でいい感じでしたw
片方の親は人間だし、もう仏さまになってるかもしんないけど
主の作品大好きです
てるよともこーとの絡みもまたお願いします
一番の勝ち組は映姫いないのをいいことにサボってるこまっちゃんかもw
ありがとうございました。
果たして妖夢は香霖からどんな仕打ちを受けるのかww
映姫様落ち着いて、説教は仕事じゃないんですか?www
妖夢涙目wwwwwwwwwwwwww