Coolier - 新生・東方創想話

東方的小噺「小鬼酒盛」

2008/01/29 08:20:39
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 ※落語調で進みますので、そのような感じで読んでもらえると幸いです。





 やれ忘年会だやれ新年会だなんてお酒の席が多かった年末年始もいつのまにか過ぎちまってますね。時間の流れってのは早いもんで。
 それでまぁ、酒は飲んでも飲まれるな。だなんて昔の人は言いますが、よく言ったものですよ。
飲み過ぎると人の本性が出ちゃうもの。笑い上戸に泣き上戸、暴れ上戸や怒り上戸とか言ったりして、そりゃあどれも迷惑極まりないもんです。
私はというと、あまり酒には強くないってんで嗜む程度にしか飲まないんではめを外しすぎることは無いんですけどね。いやまぁ覚えてないだけってこともあるんですが。

 そしてまぁもちろんそれは人に限ったことじゃございません。
妖怪だって神様だって鬼だって、酔っちまえば本性が出ちまうものなんですよ。
特に、博麗の神社で夜な夜な宴会を開くような酒好きには要注意です。普通でも手がつけられないような連中が、酔っちまえばなにをしでかすか。
 いまのところは博麗神社になんの被害が無いのが不思議でしょうがないくらいでございます。
 とまぁ、そんな物騒な話は隅っこに置いておきましょうか。


「おーい霊夢。おーい霊夢。なんだ居ないの? せっかく人が暇をつぶそうって来てやったのになんて奴だ」
「あら萃香。何か用?」
「なんだ居るんじゃない。居るなら居るって言ってくれればいいのに」
「しょうがないでしょ、いまちょっと立て込んでるのよ」
「へぇ? あの博麗神社に立て込むような用事があるって。そいつは聞きたいね。
 もしかして、さっきから暇そうに庭を掃いてる事が関係ある?」
「バカにしてる? 一応、少ないけど来てくれる参拝客がいるのよ。だからそのために……」
「参拝客!? あはははは! 博麗神社に参拝客だって!?
 ちょっと霊夢、来年の事じゃないけど思わず笑っちゃうようなこと言わないでよ」
「よっぽど笑い上戸な鬼なのね。邪魔するのなら帰ってくれない?」
「邪魔なんかするつもりはないよ」
「だったら少しは手伝ってよ」
「あー、あいにくだけど、さっきこの瓢箪からもそう言われててね。もうちょっと手伝いに時間がかかるんだ」
「はぁ? 瓢箪が?」
「うん。さっき来る途中にね、『体が重いから、ちょいと中の水分を飲んじゃってくれないか?』だなんてさ。
 いや頼まれたのならしょうがなじゃない?」
「頼まなくてもいつも飲んでるじゃない。まったく」
「あぁ、行っちゃうの? まったく風流が分らない巫女さんだねぇ。
 こくこくこく……ぷはぁ~。やっぱりお酒は素晴らしいよ。え? まだ体が重いってのかい? まったくしょうがない瓢箪だなぁ~」


 境内の奥の方に行っちまった霊夢なんか気にしないで、萃香は鳥居の傍でグイグイと瓢箪をあおっている。
これじゃあ何しに来たのかさっぱりなんだが、ちょうどその時神社の階段をかけ足で登る音が聞こえてくるじゃねぇか。
 タンタンタンだなんて小気味のいい音を鳴らしながら上ってきたのは、人里から離れることはめったにねぇ稗田阿求だってんで霊夢も驚いた。


「阿求、どうしたのよこんなとこまで」
「はぁはぁ……霊夢さん、ちょっと里まで来てくれませんか?」
「なにかあったの?」
「美鈴さんがお使いの途中で買い食いしてて、それをたまたま咲夜さんが見つけちゃって……」
「まさか、人里で暴れてるの!?」
「はい……」
「ったく……メイドも門番の事になると周りの事が見えなくなるのね」
「なんだなんだ、面白そうな話をしてるね?」
「萃香はいい。あんたまで来ると余計こじれるわ」
「ちょ、いくら私でもそこまでバカじゃないわよ」
「いいから。とにかく萃香は留守番してて。お勝手にお酒あるから、それ飲んでていいわよ?」
「留守番くらいなんだい。任せなさいよ!!」


 さすがの霊夢。幻想郷一の呑兵衛の萃香の性格をうまく掴んでいる。
聞くや否や、萃香はさっさとお勝手の方に走って行っちまうので、霊夢も阿求に連れられ人里へと向かったのである。

 さてそのお勝手。萃香は入ったとたんにご自慢の酒を嗅ぎ分ける鼻を使い、あっさりと酒の場所を見つけちまった。


「うへぇ! こりゃあ極上のものじゃん。霊夢めさてはこれを1人で楽しもうとしてたな? 器が小さいなぁ。
 こういういい酒はみんなで飲んでこそだってのにねぇ。どれ一杯……っと、駄目だ駄目だ。こんないいお酒、こんな薄暗いしんみりした場所で飲んじゃ可哀そうだ。
 そうだねー……うん。いつも霊夢がお茶を飲んでる縁側にでもいこうかな。つまみが無いのが残念だけど、本当の酒飲みってのは塩だけどころか風景をつまみに飲めるって言うしねぇ」


 一升瓶を抱えて良い笑顔でスキップする少女なんてのは、幻想郷でしか見れないだろうねぇ。
スキップなんかもしちゃったりして、萃香は意気揚々と縁側までたどり着いた。
 さてまずは一口。だなんて時に、今度は空からなにかが飛んでくる音がするじゃねぇか。
 いいところだってのに無粋なお客さんだ。なんて萃香はすごい顔をするんだが、空からのお客さんは軽やかな笑顔でいる。


「よー萃香。霊夢はいるか?」
「はぁい魔理沙。霊夢は人里の方に行ってるよ。さぁ帰った帰った」
「おいおい連れないな。お? もしかして今から酒盛りするところだったか? 真昼間から飲むか普通」
「分かってるのなら早い。今から私はこのお酒飲みながら留守番しなきゃいけないのよ。ほら帰れ帰れ」
「まぁ霊夢がいないなら意味ないしな。しょうがないからかえ……って、ちょっと待てそのお酒!」
「しまった……」
「こいつは里の方でも伝説にされてる銘酒『幻想の里』じゃないか!! 萃香が持ってきたのか!?」
「違うわよ。霊夢が留守番代にくれたの」
「おいおいおい、こんな上等な酒1人で飲むつもりだったのか? 器が小さいな。こういういい酒はみんなで飲んでこそだろ?」
「……しょうがないな。でも一応このお酒は私が貰ったものだから、少しは動きなさいよ?」
「あぁ構わない構わない。こんな良い酒が飲めるならなんだってするぜ」
「そう。だったらちょっと何かつまみを用意してくれない? 生憎なにもないのよ」
「任せとけ!!」


 言うや否や、魔理沙が文字通りに吹っ飛ぶみたいに飛び出しちまった。
きっと人里にでも買いに行くつもりなんだろう。
 さて、と残った萃香は頭を働かせた。


「せっかくいいところだったのにとんだ邪魔が入ったなー……確かに1人で飲むにはおしい酒だけど、魔理沙が相手ってのがねぇ。
 あいつは酒を楽しむっていうより、ただ飲むだけって感じで好きじゃないんだよなー。そんなやつにこんなお酒は勿体ない。
 うーん……ってもう帰ってきたのか。早いなー」
「当り前だぜ。ほら、ちょうどいいところに居た門番から刺身を貰ったぜ!!」
「……つまみはできたわね。それにしても、さすがにちょっと寒いわね」
「燗にするってか? よし待ってろ準備してきてやるよ!!」


 帰ってくるなり、こんどはお勝手のほうに飛び出しちまう魔理沙。
 刺身を受け取った萃香はまた頭を働かせる。


「こう甲斐甲斐しく働かれちゃ、ムゲにはできないなー……うーん……
 まぁとりあえず、一口飲んでから考えるかな」


 考えは一向に纏まらないってんで、瓶のふたを開けるとおちょこになみなみと注いでグイッと一口で飲み干しちまう。
 するってぇとどうだ。いままで何千何万と飲んだ酒の中でも五指には入るんじゃねぇかってくらいのうまさじゃねぇか。
これにはさすがの呑兵衛萃香も驚いた。だてに伝説だなんて名づけられてないね。だなんてまた一口おちょこに注ぐ。


「おいおい、先に始めちゃったのか。貰う私が言うのもなんだけどちょっとは待っててくれてもいいだろ?」
「あぁごめんごめん。思わずね」
「まったく。ほら、部屋に入れよ。鉢も用意したし、炭も起こしたからいつでもいけるぜ」
「悪いね悪いねっと……よし、これで完成だ」
「…………」
「グッグッグッ……ぷはぁ~。あぁこりゃいいや。
 そうだ魔理沙。さっきこの刺身を門番から貰ったっていってたろ?」
「……ん? あ、あぁ言ったな」
「霊夢の用事ってのがそれだよ。里の方で門番とメイドが暴れてるって言うから仲裁に行ったんだよ。会わなかった?」
「ん……会ってないな。きっと紅魔館の方に行ったんじゃないか?」
「あぁなるほど、そっちか。っと、いい具合に温くなってるね……っと、くっくっくっ……ぷはぁ~!!!」
「……あぁそういえば、確かに門番のやつちょっと服装が乱れてたな」
「人間がいるってのに、まぁあの冷静なメイドがよくそこまでやるね。愛されてるってことなのかな?」
「あんな愛はご免こうむりたいけどな。
 ……なぁ萃香」
「うん?」
「その、なんだ……美味いか?」
「くっくっくっ……ふぅ~。上物の酒を飲む時ってのは、誰にも邪魔されず、救われなきゃだめなんだ。静かで豊かでねぇ」


 さっきから1人で飲んではグチグチと物をたれるだけで一向に飲ませようともしない萃香に、さすがの魔理沙も思わず頭に来ちまう。
しかしまぁ自分は人のものを貰う身だってのは自覚してるからか、なかなか前に出ようとしねぇ。
そうこうしてるうちに、いつのまにか燗は空になっちまってた。


「いやぁいい酒だ。酔い心地っていうのかな、とてもいい気分で酔えるねぇ。酒は万病の薬だなんてよく言ったもんだよ。
 ちょっと魔理沙、また燗をつけてくれない?」
「……」
「いやぁ、やっぱり酒ってのは魔理沙か霊夢とかみたいな奴らと飲まないとうまくないねぇ。気がある奴と飲む酒はいつもの何万倍にもなるよ」
「……ったく、しょうがねぇな」


 頭にきてる魔理沙だが、褒められて悪い気はしねぇ。ってなもんで、まんまと萃香の口車に乗せられてまた熱燗の準備を始めちまった。
そうしてる間にも、萃香は刺身にも手を出し始める。ムシャムシャとおいしそうに食べながら酒をまた一杯。
それをあえて黙ってみてた魔理沙だが、さすがに今度の燗ができたころには飲んじまおうと手を伸ばす。

「あーあーあー、なにやってんの魔理沙」
「ちょ! なに勝手に盗ってんだよ萃香!!」
「あのねぇ魔理沙。これはあんたの事を思ってやってるんだよ?」
「私の事を?」
「そうさ。こんな最高の酒、せっかくだから最高の状態で飲んでほしいじゃない。
 だから私がまず先に呑んで、上出来かどうか試してやろうっていうのよ」
「はぁ」
「どれ……くっくっくっ……んんぅ~!! いいねぇいいねぇ上出来だ。こうも最高の状態が続くと怖いくらいだよ」
「そ、そうか! だったら次は私にも」
「ん……ってあー!! ちょっとちょっと魔理沙。なんだよそのおちょこは!」
「へ? な、なんかおかしいか?」
「ここを見て! ここ!! 汚れてるじゃん!!」
「ん……そういえば霊夢最近忙しいから洗い物していないって言ってたな。これもその辺にあるの適当に持ってきたやつだし」
「かぁ~! わかってないよ魔理沙! こんな最高のお酒だよ!? 少しの混じりっ気もない状態で飲まないとこのうまさは味わえないじゃないか!
 それなのに汚れを気にしてないだなんて……まったく、ほら洗ってきな! しょうがない奴だねぇ」


 なんだか理不尽な気がしねぇでもねぇが、そりゃあもっともだ。と魔理沙はたったとお勝手に走ってく。


「まったく、気が利かないというか、どうしようもないやつだねぇ。酒飲みの風上にもおけやしない。
 こういう上物は、純粋に楽しむのがオツってもんだってのにね。くっくっくっ……ぷはぁ~!!!!
 っておぉ、戻ってきたか魔理沙」
「ダッシュで洗ってきたぜ! じゃあ私にも一杯……」
「あぁーごめんごめん。あんまり遅いから全部飲んじゃったよ」
「……」
「そう怖い顔しないで。ほら、また暖めればいいだけでしょ? 気が短いったらないねぇ」
「そいつは悪かったな」
「気が短いって言えば、あんたアリスから聞いたよ。また魔道書盗って行って返してないだって?」
「あれは借りてるだけだぜ?」
「返さなかったらどっちだって一緒だよ。アリスのやつカンカンだったよ。気が短いやつ相手にあんな態度はまずいよ魔理沙ぁ~」
「気が短いって、あいつどうせ長生きするからこれくらいいいだろ」
「あぁ~分かってない。分ってないよ人間。やっぱりそこが人間と私らの違いだってのかねぇ」
「へいへい。鬼と人間は大違いですよねっと、そろそろ暖まってきたな」
「あーあーあー! なにやってんだい魔理沙!! 勝手に持っていっちゃって! 替わりばんこ。こういうのは替わりばんこだろ?
 ったく。くぅっくぅっくぅっ……んん~いいねぇ。こいつは一曲歌いたくなっちまったよ。ほれなんだっけ?
 この間の宴会でミスティアが歌ってたあの~……」
「ミッスミスにしてあげる♪ってやつか?」
「そうそれ! あれはなかなかいい歌だったよね。思わず練習しちまったよ」
「だったら歌えばいいだろ勝手に」
「なんだよつっかかってきて。あ~あ~、歌で思い出したよ。いつだったかな、宴会で魔理沙歌ったでしょ?
 もうあれがうけにうけて。なかなかどうしていい歌声持ってるじゃないか。チルノも逃げだすような歌声なんて、酔っぱらったミスティアだって出せないよ!
 あっはっはっは!!! っと、くぅっくぅっくぅっ……っう~!!!」
「…………」
「お? なんだなんだその顔は。せっかくの酒飲みの場だってのになんて辛気臭い顔してるのかね。なにかあったの?
 だから人間ってのはだめなんだ。酒を飲む時は酒に集中する。そしていやな事は忘れる。それに限るだろう?」
「…………」
「おーおーなんだいなんだい。そんなに睨んじゃって。いやなことでもあったのか?
 そんな顔されちゃあ呑んでるこっちは台無しだよ。あーもう帰れ帰れ! 辛気臭い!」


 その萃香の一言に、ついに魔理沙の堪忍袋の緒が切れちまった。
 魔理沙は箒を掴むとそのままずんずんと庭の方まで歩いていっちまった。


「あーあー!! 帰ってやるよバカ野郎!! 一緒に酒飲ませてくれると思ったら1人で飲んで1人で食べて! もう2度とお前と酒なんか飲むか!!!」


 そしたら魔理沙。そのまま箒に乗ってピューンと飛んでいっちまいやがった。


「あーららぁ。冗談だってのに、本気にしちゃって。まぁスペルカードが出なかっただけありがたいかなぁっと、くぅっくぅっ……ぷふぅ~」


 飛び去ってく魔理沙と入れ違いに、今度は霊夢が帰ってきた。
両手に紅魔館から貰って来たであろう食材を抱えながらの帰宅だ。
そして開口一番、間抜けな顔をしながら萃香に問うた。


「ただいま。ねぇ萃香。さっき魔理沙がすごい形相で飛んでいったけどどうしたの?」
「あぁおかえりおかえり。いやね、霊夢からもらった酒でちょっとした宴会をしてたんだけどさぁ~」
「喧嘩でもしたの? 大丈夫なの?」


 そこで萃香は最後の一口をぐいっと一飲み。


「あー放っとけ放っとけ。あいつは酒癖が悪い奴だからねぇ」

どうも、少年改め『永遠亭少年』です。
とは言っても今回だけの限定になるであろう亭号ですけど。

元ネタは落語にある『ひとり酒盛』で、それの東方版です。
たまにはこんなのもいいのではと思い、思いきってやってみました。

実験的な作品なので否定的な意見が出るのも承知の上ですが、よければ一言よろしくお願いします。
永遠亭少年(少年)
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コメント



0.190簡易評価
2.40名前が無い程度の能力削除
萃香うぜぇ!
4.90名前が無い程度の能力削除
小噺が大好きな私にはとても面白かったです。
東方落語。
他の話も見てみたいですね。

> 一升瓶を抱えて良い笑顔でスキップする少女なんてのは、幻想郷でしか見れないだろうねぇ。
>スキップなんかもしちゃったりして、萃香は意気揚々と縁側までたどり着いた。
この部分が少しおかしいかな~と思います。
5.70Seji Murasame削除
萃香ならではという感じですねえ。
幻想郷は酒飲みだらけですが、酒豪というと真っ先に思いつくのがこの娘なあたり、
こういう小噺にはもっとも相応しい感じがしました
9.100名前が無い程度の能力削除
次回は霊夢とミスティアで「時そば」なんて如何でしょう?

配役が実に合っていてフイタ
しかし魔理沙が不憫でならないww