※この話は前々作「風祝の星」(作品集48)の続きとなっております。
※ご覧にならなくても「早苗が以前香霖堂に興味を持った」「早苗が以前文のせいで酷い目にあった」と言う事だけご理解いただければ一応読めると思います。
秋も深まり、だんだんと冬が気配を見せ始める幻想郷。
私こと東風谷早苗は、秋晴れの空の下を歩いていた。
今日は八坂様にお願いをして、早くからある場所へと出かける事にしていたのだ。
それは以前魔理沙さんに用事があって、魔法の森へと赴いた時の事。
その魔法の森の入り口に、外の世界の物が沢山置いてあった店を見つけたのだ。
「おっかいもの、おっかいもの~っ。」
何のCMだったかな。とにかくそんな歌を口ずさみながら、私は魔法の森へと歩いていた。
飛べばいいじゃないかという突っ込みもあるだろうが、私は普段はこうして歩く事にしている。
体型維持とか健康のためと言うのもあるのだが、そもそも私の能力はあくまで「奇跡を起こす程度の能力」。
つまり、霊夢さんと違って空を飛ぶ事に長けている訳じゃない。要するに疲れるからやりたくない。
まあそういうわけで、私はのんびりと目的地である「香霖堂」へと足を進めている。
因みに、何故か今回も全然妖怪と逢わない。
また射命丸さんに憑けられているんじゃないかと不安になる。妖怪だからこの漢字でいいだろう。
…まあ、今回は買い物に行くだけだ。万一憑けられていても、別に記事にされる事もない。と言うよりされても困らない。
前回は魔理沙さんとの事を記事にされて、霊夢さんとアリスさんに本気で殺されそうになって…。
…その事で文句を言いに行ったら、じゃあ飲み比べで勝ったら土下座でも何でもします、と、とても理不尽な事を言われた。
…ああ、だからお酒なんか…。…私は一応未成年なんだ…、…と、思う。
いや、だって風神録のキャラテキストに年齢なんか書いてませんし。
…えっ?そんなギリギリな話するなって?既に手遅れだから大丈夫です。
それはそれとして、とりあえず超奥義…じゃなくて、霊夢さんや魔理沙さんも未成年だろうに、どうしてお酒飲んでるんだろう…。
外の世界ではお酒は二十歳から、だというのに…。早めに止めておかないと成長が…。
…あ、だからあの2人はあれなのか、あんなに成長してないのか。何がとは言わないけれど。
…これ以上色々考えてると、また霊夢さんに殺されるかもしれない…。そろそろ止めよう。目的地も見えてきたし。
久々…と言うほどでもないか、前回のことから実は一週間しか経ってない。
行動を起こすには遅かったかもしれないけれど、何せ私は2日前まで寝込んでいた。何故って、傷が癒えなくて。
まあ、だけどちゃんとこの店があってよかった。場所が場所だけに、一週間でも潰れていないかと少し気になっていた。
…いや、そもそも最初から営業しているのかが不明なのだが。
まあいいや、営業してないならしてないでも、外の世界の物は見ておきたい。久々に外の世界の心に戻るのもいいだろう。
私は香霖堂の扉に手をかけようとして…。
どごんっ!!!!
…殺人的な音と共に、何かに撥ねられた。
いっその事意識を削り取ってほしかったのだが、悲しい事に私は暫く、とんでもない腹部の激痛にもだえ苦しんだ。内臓潰れたかも…。
気のせいか何処か遠くで「じゃあな香霖、そのうち返すからツケといてくれ」と、何処かで聞いたような声が聞こえた気がしたのだが…。
「全く、何時もの事とは言え…。」
…多分、気のせいじゃなかったのだろう。じゃあやっぱり私を撥ねたのは魔理沙さんか。あれか、これは変な報道を流された事への逆恨みか?
ただそんな事は今はどうでもよく、私はお腹の痛みを必死で我慢し、声の方へと目を向けてみる。
…なんだか、とても懐かしい気がした…。
「おや、君は…見ない顔だね、村の人かな?」
私の苦痛に気づいているのか単に無視しているのか、銀髪の青年は優しく声をかけてくれた。優しい声をかけるくらいならこの痛みに気づいてほしい。
ただ、私はその問いには答えなかった。なんだろう、何故か眼が離れない。
勿論、私と彼は初対面だ。ただ、何だろうこの懐かしさは。お腹の痛みも少し忘れるほど、私は悩んでから…。
「…なんだい?僕の顔に何かついてるかな…?」
…あ、そうか、だから懐かしかったのか、何だかんだで、そう言えば幻想郷に来てからは初めてだった気がする。
私は何とか立ち上がり、とりあえず背中の土を払った。
「あ、すみません、男性の方を見たのが久しぶりだったものですから…。」
私が幻想郷で出会った人々は、そう言えば全員女性だった。
なので、男性の姿を見たのは外の世界以来の話だ。…えっ?人間の里で逢ってないのかって?細かい事は気にしてはいけません。
「私は東風谷早苗、最近妖怪の山に越してきた物です。以後お見お知りを。」
初めて会った人には挨拶を、それにこのお店の関係者なんだろうし。
「ああ…そうか、君が魔理沙の言ってた…。」
…どうやら、魔理沙さんから何か聞いているらしい。
「この間急に店に来て「霊夢が分裂した、流石はミコだぜ。」とかよく分からない事を言ってたんだが…。そうか、そういう事か。」
…巫女はミコであって、決してミコトンドリア…って、なんだそれ、ミトコンドリアではない。
…何でネタが分かったんだ私。凄くないですか?
「僕は森近霖之助、この店の店主だ。よろしく、早苗君。」
…霖之助さんは、外の世界ではまさに幻想となったと言うべき存在の、好青年と言った感じの笑みを浮かべた。
…よし、だいぶお腹の痛みも落ち着いてきた…。
…なんと言うか、魔理沙さんの家を少し思い出した。まあ、あれよりははるかにマシな訳なんだが…。
店にしては流石に雑多すぎる。棚に並んだ商品の種類とか完全にぐちゃぐちゃだし。
…まあいいや、外の世界の品の山だ。まさか幻想郷で、こうも沢山外の世界の物を見られるとも思わなかったし。
「本当に色々ありますね、何処でこんな商品手に入れてくるんですか?」
折角なので、思っていた事を質問してみる事にした。これだけの品を、一体何処で手に入れてくるんだろうか。
「ああ、時々結界の端まで赴いたりしてね。博麗神社の裏は結構物が落ちてるよ。」
成る程、外の世界に近い場所ほど、外の世界の物が落ちていると言う事か。
…今度私も行ってみようかな?
周りを見回してみて、見覚えがある随分懐かしいゲーム機を見つけた。
「あ、これって初代のファミ○ンですね。別名ファミリー○ンピューター。」
「別名って…そっちが正式名称じゃないのかい?」
おお、まさか即ツッコミが返ってくるとは思わなかった。
「外の世界の物に詳しいみたいですね。」
「今のはそれを測るためだったのか…。僕の能力は「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」なんだ。触れた道具の名前は全て分かる。
ただ使い方までは分からないから、その辺は自分で調べてもらう事にしてる。」
成る程成る程、するとこうして並びが滅茶苦茶な理由も納得できる。
…少しくらい整理してあげるのもいいかもしれないが、面倒だから止めておこう。バイトしに来たわけじゃない。
まあ、アルバイトに困った時は訪ねてみるのもいいかもしれない。これフラグですよ。
適当に相槌を打って、私はまた周りを眺めてみる。
そして眼に入ったのは、カラフルな色の9×9のブロックが集まった立方体。
「おっと、これはルービックキューブですね。結構前からあったから、流行る前にいくつか流れ込んだんですかね。」
ちょっと周りが硬いが、全然動かない訳ではなかった。折角なのでチャレンジ。
「さあ、それは分からないけどね、それを拾ったのは結構前だったと思うよ。」
そうですか、と返しておいた。とりあえず今はルービックキューブにチャレンジ。
こういうのは熱中すると周りがどうでもよくなる。暫くは会話もなしだった。
「…ふぅ、出来ました。」
思ったよりは時間は掛からなかった。ものの3分ほどだ。
私は全ての色が揃ったルービックキューブを、元あった場所へと戻した。
「へぇ…。…結構早かったね。魔理沙なんか10分くらいやってても全く出来なかったけど…。」
…ま、まあ、魔理沙さんはきっとこういうのは得意じゃないんだろうな。こういう作業は直球な人には似合わない。
「そう言えば、さっきも魔理沙さんが来てたみたいですけど、よく来るんですか?」
とりあえず話題を変えてみる事にした。
「ああ、よく来てはよく物を勝手に持っていくよ…。…霊夢君と魔理沙はこの店の万引き常習犯さ。」
…聞くんじゃなかった。なんとも言えない表情を浮かべる霖之助さんを見ると、本気でそう思う。
魔理沙さんはともかく、霊夢さんは一応巫女だろうに、神に仕えるものだろうに。
…だからお賽銭入らないんだ。
…そう言えば、霊夢さんもこの店に来てるのか。
いやまあ、この間魔法の森への道を聞いたとき、真っ先にこの店を目印として教えたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが…。
「霖之助さんと霊夢さんって仲いいんですか?」
折角なので聞いてみる事にした。
「…まあ、例えるならル○ンと銭○警部みたいな関係だよ。」
まさかこんな答えが返ってくるとは…。流石に予想外だった。
「じゃ、じゃあ魔理沙さんとは…?」
だんだんなんでこんな質問してるのかが分からなくなってきた。慌てすぎか私。
「…今の所は似たような関係かな。まあ、魔理沙の事は昔から知ってたよ。僕はこの店を開く前は、魔理沙の御両親の所で働いていてね。
一人立ちして此処に店を構えてから、まあたまたま魔理沙の家が近いところにあってね。それからはしょっちゅう万引きされてるよ。」
つまり、魔理沙さんの方が万引き暦は長いと。確かに言っても聞きそうもありませんけどね。
ただ、こうして話を聞いてると、魔理沙さんの違った一面が垣間見えてくる。
彼女から彼女自身の事を聞いた事はあまり無かったので、なんだか気になってしまう。
「魔理沙さんって、実家は何かのお店なんですか?」
とりあえず、今は色々聞いてみる事にしよう。そう思っての質問だったのだが…。
…霖之助さんは、その質問を聞くなり、少し嫌そうな顔をした。
「…そうか、魔理沙からは聞いてないのか…。
…君には悪いけれど、魔理沙には魔理沙の事情があるんだ。あまり、あいつの過去には触れないでやってくれないか?」
…どうやら、聞いてはいけない話題だったようだ。私も気分が重くなる。
魔理沙さんを見ている限りは、あまり重い過去を持っているようには見えなかったが…。
…あの人はあの人で、何か事情を抱えていると言う事か…。
…前回のことも含めて、少し魔理沙さんのことを見直した。
「…すまない、変な事を言ってしまったね。」
何故か頭を下げられた。変な質問をしたのはこっちの方だと言うのに…。
…ああ、この人は本当に好青年と言う言葉が相応しいな。外の世界ではもう天然記念物クラスだろうに。
…学校の友人に見せてみたかったな。
「いえ、私こそ変な事を聞いてすみませんでした。…それにしても、霖之助さんって…。」
…そこで一回言葉を区切ると、霖之助さんは何かと思ったのだろう、きょとんとした表情を浮かべる。
…きっと、霖之助さんみたいな人は、この言葉を聞いたら予想通りの反応をしてくれるだろうなぁ…。
「なんだかお兄さんみたいですね。」
…予想通り、物凄く狼狽した。からかいがいもあるなぁ…。
「さて、気を取り直して…。」
私はまた周りをきょろきょろと見回す。自分でこんな擬音を使うのも変だが。
と、見回した先にこれまた面白そうなものが…。
「あ、これってブルーア○ズ・ホワ○トドラゴンの初期バージョンですね。
しかもシークレットレアじゃないですか。これってかなり値打ちありましたよ外の世界では。」
束になった遊○王カードの一番上にあったカードは、なんとまあカードショップで2万とか3万とかしたやつだった。
私も本物を見るのは初めてだ。
「そんなに貴重な物なのかい?幻想郷では特に欲しがる人もいないな。まあ強いから欲しいと言う子もいるけど…。」
まあ幻想郷でこのカードゲームが流行ってるって事は無いだろう。まだ絶賛放送中だ。
流石にそうとう昔のカードは幻想郷入りしているみたいだけど。
ひーふーみー…、…あれ?丁度40枚…。…しかもカードの比率もいいし、これってひょっとして1デッキになってるんじゃ…。
…よし。物は試しだ。
「あ、霖之助さん、折角ですから気分直しに一戦やりませんか?丁度私のデッキも持ってきてますので。」
そう提案してみた。ご都合主義?何ですかそれ?
「おっ、いいのかい?折角ルールを覚えたのにあまり戦う相手がいなかったから、丁度よかったよ。」
思ったより乗り気だったのに驚いた。まあ何だろう、こういう商売をやっているだけに、好奇心は結構強いのかもしれない。
…よし、折角だから本気で戦わせて貰おう。外の世界でもそんなにできなかった事ですし。
「私も幻想郷で一戦できるとは思いませんでしたしね。それと、私のデッキは外の世界での最新式ですからね?」
「ははは…、お手柔らかに頼むよ。」
* * * 少女青年決闘中 * * *
「ダイレクトアタック、これで私の勝ちですね。」
「……。」
唖然とする霖之助さん。手加減抜きで思い切りやったので、ライフは8000対0となった。完封勝利。
うん、やっぱり私とこのデッキの愛称は良さそうだなぁ。外の世界で一回くらい大会に出ておけばよかった。
「…えっと、早苗君、一ついいかな…?」
何か納得いかないといった表情を浮かべる霖之助さんが一人。
「なんでしょうか?」
「えっと、君の使っていたカードなんだけど…。」
「アル○ナフォースって言うんですよ。タロットカードをモチーフにしたカードですね。」
「それは分かってるよ。だけど、そのモンスターの効果って、コインの裏表で決まるんだよね…?」
「はい、殆どのカードは表がいい効果ですね。」
「コイン判定の8割くらいが表じゃなかったかい?」
「ちゃんと裏も出てたじゃないですかぁ。」
「いや、それは裏の方がいい効果のカードの時だよね?」
「そうでしたっけ?」
「しかも途中で「勿論正位置」とか言ってたよね?確信犯だよね?」
「ええ、それが「奇跡を起こす程度の能力」ですから。毎ターンディスティニードローですし。」
「どうりてやたら都合よく展開が進むと思ったよ。なんて才能の無駄使いだ。」
「おっ、いい突っ込みですね、八坂様とは大違いです。」
「それはどうも…。…とにかく、そんな絶対に狙った効果が出るなんて反則じゃないか。」
「ルールブックに「特別な能力を使ってはいけない」なんて項目ありましたか?」
「いや、ないけどさ…。…それで戦ってて面白いかい?」
「ええ、とても面白いです。運命に抗えない人を見下すのが。」
「どれだけ鬼畜なんだ君は!!」
「勝てば官軍、結局は勝った者が偉いんですよ。霊夢さんと弾幕りあってて気付きました。」
「いや、悟るポイント間違ってるよ!!」
「第一ですね、アニメでも主人公は同じようにア○カナフォースで苦しめられますけど、最後はちゃんと勝ってますよ。」
「主人公が負けたら駄目だろう!!それにあれは厳密にはフィールドカード一枚だけだよねコイン判定は!!」
「知ってるとは思いませんでした。ですが、そうやって強力な効果を得ても負けるときは負けるんですよ。それにアニメでは…。」
「早苗君、そろそろ東方小説じゃなくなってしまうから自重してくれ。」
…むぅ、仕方ないですね…。ジャンルを変更する訳にはいきません。仕方ないので私は口を噤む事にした。
…それにしても霖之助さん、ナイスなギリギリ発言でした。
(※アル○ナフォース:DMにおけるコイン判定次第でずっと俺のターンも可能な素敵なカード。使用者はなんか凄い顔芸で有名。
因みに一般発売は2008年2月23日なので、時系列が現在と同じなら早苗が持ってるのはどう考えてもおかしい。これも奇跡です。)
「さて、気を取り直して…。」
「いや、気を取り直すのは僕のほうだよね、随分満足してるよね君は。」
霖之助さんの言葉を雑音として無視して、私はまた周りを見回してみる。
それにしても、今更だが本当に色々なものがある。私が日常で眼にした事があるものから、歴史的にも価値がありそうなものまで。
こういうものを見ていると、外の世界の事を鮮明に思い出せる。
学校で友達と話していたり、みんなでちょっと遠くまで遊びに行ったり、楽しかった事、辛かった事、色々と…。
…やっぱり、私は外の世界にはまだ未練が残っているのかもしれない。此処に来たいと思ったのが、何よりの証拠だろう。
勿論、私が幻想郷が気に入っている。此処でなら、私の奇跡の力は普通の物である。
普通でしかないと言うのも少し口惜しいものではあるけれど、異端な眼で見られるよりははるかにマシだ。
…ただ、それでも時々懐かしくなる。仲が良かった友達の事を思うと、泣きたくもなる。
ああ、今はどうしてるんだろうなぁ…。…みんな、元気なんだろうか…。
「…早苗君?どうしたんだい…?」
ハッとして、霖之助さんの顔を見た。…少し、ボーっとしてしまっていたか…。
なんでもないですよ、と誤魔化して、私はまた周囲を見回した。
…もう外の世界には戻れないんだろう。だったら考えても仕方がないか…。
答えの出ない疑問に正解はない。それは、1週間前に魔理沙さんに教わった事だ。
…でも、ちょっとくらいはいいですよね?此処に来て、ちょっと昔の事を思い出して、そして少しくらい、涙を流しても…。
…ああ、少し暗くなってしまったなぁ…。…何か面白そうなものを探そう。
「さて、気を取り直して…。」
「君は一体何回気を取り直す心算なんだい?」
そう言えば3回目でしたね、こう言ったの。
そんな事は全くもってどうでもいいのだが、実はちょっと困ってしまっていた。
…私の気を引くものが見つからない…。…いや、気を引くもの自体は沢山ある。
だけど、これを一々語ってたらとんでもない長さになると言うか、今日は此処に泊まらなくちゃいけなくなる。それは避けたい。
…う~ん、電気のない幻想郷だと、電子機器は話題にならないから困る…。
此処にあるもので私が知ってるのは殆ど電子機器だし…。
…あれ?そう言えばと思い辺りを見回してみれば、幻想郷には必要ないだろうに、やたらとある物が多い事に気がついた。
デジカメとかパソコンとかゲーム機器とか携帯とか、まあ現代の物もたまたま幻想郷入りしたのだろうが…、…電子機器、多くない?
いや、別に電子機器が多い事が問題なのではない。問題なのは、それを一体誰が買うんだと言う事だ。
霊夢さんや魔理沙さんは万引きの常連者らしいけれど、流石に使えない物は持って行きはしないだろう。
逆に言えば、使えそうな物は魔理沙さんや霊夢さんが全て持っていってしまっているかもしれない。特に魔理沙さんが。
…じゃあ、後は誰がどんな物を買うんだ…?
「…あの、霖之助さん、失礼かもしれませんけど、此処って霊夢さんや魔理沙さん以外はどんな買い物をされるんですか?」
ちょっと嫌な言い方かもしれないけれど、手っ取り早く聞いてみる事にした。
「ああ、他は殆どさっぱりだよ。」
いや、そんな挨拶するみたいにあっさり言う言葉じゃありませんから。
「時々だけど華人小娘や七色の人形遣いや歴史食いの半獣や超妖怪弾頭が来るんだけどね。まともに買い物をしていくのはにとり君くらいなもんだよ。
他はメイド長に串刺しにされて連れ去られたり、適当に愚痴を言うだけ言って帰ったり、世間話をしただけで買い物はしていかないね。」
…すみません、頭の演算機能が追いついていません。そろそろ容量過剰でフリーズしそうです。
にとりさんは以前あった事があるし、七色の人形遣いはアリスさんだろうからまだ分かりますけど…。
…メイド長に串刺しって何ですか?しかもそれを平然と話す霖之助さんも霖之助さんなんですけど?
…序になんて3ボス同盟?
「それで商売が成り立つんですか?」
思わず突っ込んでしまった。
「ああ、以前文君にも同じ事を言われたよ。商売はする気はあるんだけどね…。
もっとも、僕が気に入った物は売りに出さないから、結果として使用可能なものは殆ど売りに出ないわけさ。」
「それって完全に自業自得じゃないですか商売成り立たないの!!」
ああもう幻想郷の人はちょっとゆったりすぎる!!わけも分からず腹が立ってきた!!
「こうなったら私が使えるもの全部発掘します!!それを売りに出してちゃんと商売してください!!」
自分でも何を言ってるのかよく分からなかったが、とにかく私の何かに火がついたみたいだ。
呆然とする霖之助さんを放置して、私は早速辺りの使えるものを模索し始める。
とりあえず電子機器はアウト。幻想郷で使用可能なのは電池マスターの私と、機械に強いにとりさんたち河童くらいだ。
それよりもまずはジャンルごとに整理をした方がいいか。その方が後の仕分けに楽だ。
えっと、これは…剣ですね、武器はこっち。雑誌はこっち、小道具はこっち、壺はこっち、ペット用品はこっち、薬はこっち、文房具はこっち、ハサミはこっち…。
…ああもうコッチコッチややこしい!!私は韓国ドラマ派じゃない!!意味が分からなかった人はググってみよう。
…それにしても、何で私が手をつけた一エリアだけで、こんなにもジャンルがあるかな…。
とりあえず一エリアごとに仕分けていこう。まずは武器の仕分けを…。
…あ、これってロ○のつるぎ?…なんだ、攻撃力が+40しかしないザコ剣かぁ…。
これで全ての物が切れると言うなら、攻撃力+110のは○いのつるぎは振っただけで辺り一帯壊滅するんじゃないかな。(ド○クエ2基準)
おっと、噂をすればは○いのつるぎも出てきて…、…って!手から離れない!!しまった呪われた!!シャ○クシャ○ク!!
…うん、ちょっと武器は後回しにしよう、何時呪われたアイテムが出てくるか分からない。
さて、次は雑誌の仕分け…。…おっと、見た事もないような表紙のジャ○プ。まあ少年誌には興味がないからパス。
古い音楽雑誌なんかもありますね…。…うわぁ、バッ○とかベー○ーベンが生きていた時代のですか、これは貴重だ。
どうでもいいですけど、ベー○ーベンって駅弁の名前みたいで美味しそうじゃありません?
っと、そんな事はどうでもいい。雑誌だけでもジャンルが結構あるから、一々中を確認しないといけないからめんどくさい…。
音楽雑誌はこっちで、漫画雑誌はこっちで…。…ゲーム雑誌はいらないかな…?…あ、これは焼こう。何かはご想像にお任せします。
次は小道具か…。…これはこれでややこしい…。救援要請かな?
「…霖之助さん、ボケッとしてないで手伝ってください。」
「いや、いきなり仕分けを始めていきなり手伝えって…。」
「元はといえば霖之助さんがしっかり商売しないからこんな事になったんです。やらないなら壺全部破壊しますよ?」
「それは勘弁してほしいな…。」
「全く、褌の癖に一々口ごたえしないでください。」
「何で君がその事を知ってるんだ!!そもそもあれは僕のせいじゃなくて…!!」
「壺破壊。」
「…ゴメンナサイ…。」
* * * 少女青年整理中 * * *
「ふぅ、ようやく終わりましたね…。…うわっ、もう夕方じゃないですか!」
「……。」
窓から見える夕焼けの光が差し込む。電灯という物がないだけあって、これだけでも結構薄暗い。
ただまあ、久々に色々仕事をしただけあって、ちょっとした疲労感がまた心地よい。
こうして真面目に仕事をしてみるのも、たまにはいいものだなぁ。
…と、そんな悦に浸っている場合じゃない、早く帰らないと夕飯に間に合わなくなる。
「霖之助さん、今日はちょっと疲れたから買い物はまたに…。…あれっ…?」
…何故か霖之助さんは口から魂を出して倒れていた。
「…霖之助さん?」
へんじがない ただの しかばねのようだ ▼
「…ただの屍なら放っておいても構いませんか。」
「いやいやちょっと待ってくれ。」
おっと、生き返った。やっぱり人を復活させるにはちょっとした冗談が一番。
「霖之助さん、だらしないですね。男の人がこんな事で倒れてるようじゃ、この先思いやられますよ。」
これだから近頃の男は駄目だとか言われるんだ。誰に?知りません。
「いや、体力的にはそうでもないんだが…。…その、精神的に…。」
「何言ってるんですか、精神的に疲れるなんて、物売りにはもってのほかじゃないですか。」
「そうだろうけど…。…いや、幾らなんでもあれは…。」
「何かありましたっけ?」
「いや、君は自分がした事を理解していないのかい?」
「ちょっと薬の試飲させたりハリセンでひっぱたいたりカッターが切れるか確かめたりその他色々しただけじゃないですか。」
「充分酷いよ!!僕が人妖じゃなかったら下手したら死んでる!!」
「あっ、霖之助さんは人妖だったんですか。どうりて頑丈だと。」
「分かっててやったわけじゃない!?酷いとか言うレベルじゃないだろ!!」
「霖之助さん、商売というものを私はよく知りませんが、少なくとも精神面は強くないと出来ないと思います。
要するにですね、ちょっとした事で酷いとかそういう事は言ってはいけませんよ。子供じゃないんですから。」
「…全ての元凶である君にそう言われたくはないんだが…。」
「口ごたえするな。メガネ割るぞ。」
「…ゴメンナサイ…。」
…あれ?私今まで何を言ったんだろう?霖之助さんの魂を見たあたりから記憶があやふやだなぁ…。
…あれ?何で霖之助さんそんなに落ち込んでるんですか?あれ?泣いてますひょっとして?男泣きってやつですか?
…大人がこうして泣いてる姿って言うのも、ちょっとみっともないですね。
「誰のせいだ誰の。」
誰のせいなんですか?と、私は首を捻った。
「それでは失礼します、今日はどうもありがとうございました。」
店を出る際に一礼。守矢神社は二拝が基本だけど。
「…ああ、僕のほうも色々助かったよ、ありがとう…。」
喜んでもらえたなら幸いだ。人を喜ばせる事も、巫女の勤めである。
…あれ?何でそんな明後日のほうを見ているんですか霖之助さん。
まあいいや、私はそうして霖之助さんに背を向け…ようとして、
「あっ、そうだ、一つお願い事が…。」
一つ頼もうと思っていた事があったのを思い出した。
「なんだい…?もうなんでも言ってくれ…。」
…う~ん、何でこんなにも疲れてるんだろう。ちゃんと休養は取らないといけませんよ。
「それでは遠慮なく…。…もしよければ、電池を仕入れておいていただけませんか?」
「電池?」
「はい、それがあれば多少の電子機器は動かせますので…。電池も置いておけば、電子機器を買ってくれる人も増えると思いますよ。」
DSなんかは専用の部品が必要だけど、GBなんかは電池だけでも動かせるし、デジカメなんかも使えるかもしれない。
ああ、なんて親切な私だろう。最後まで霖之助さんの事を考えていられるなんて。
「そうか…。見つけたら仕入れておくよ、ありがとう。」
その時やっと、霖之助さんがまともに笑ってくれたような気がした。
* * * * * *
霖之助さんに別れを告げて十数分、私は帰り道ゆっくりと歩いていた。
なんとも開けた場所だった。道の両脇を背の高い雑草が囲んでいる。
もうそろそろ日も沈む。幻想郷ではまさに「逢魔が時」という時間になろうとしている。
「…さて、時間的にも丁度いいですし、逢魔が時を過ごすとしますか…。」
私はいつも手に持っている玉串(あれって玉串でいいんですか? by作者)を強く握り締め…。
…道の脇、雑草が茂っている一転を目掛けて…。
…ピッチャー、第一球、投げましたーっ。
「はごっ!!」
ストライク、と心で実況しながら、私は声のした方へと駆け寄り、雑草の海の中で、頭を擦りながら尻餅をつく妖怪の胸倉を掴んだ。
「あ、あはははは…、さ、早苗さん、こんな所で奇遇ですね…。」
全く白々しい。今回はこの事に気をつけていたので、ちゃんと妖力を探るのを私は忘れてはいなかった。
結果やっぱり相当前から憑けられている事には気づいていた。冒頭のはハッタリですよ。
「射命丸さん…?今日という今日は新聞になんかさせませんからね…?」
そう、突然とは言え今日は香霖堂の売り物整理をやってきたのだ。
どうせ射命丸さんの事だから、その場面を写真に撮っている。またあらぬ疑いを掛けられてはたまらない。
この罪深き新聞記者に、私は神の仕える者として制裁を与えようと思う。
「わ、私は健全な新聞記者です!何の罪もありません!!て、手を離して…な、何ですかこの力はっ!!」
何を言ってるんだこの犯罪者は。
「盗撮は立派な犯罪ですよ、私の法律は外の世界の法律に準じています…。」
私は射命丸さんのカメラに手を掛ける。
一眼レフ、オーソドックスなフィルム式ですねぇ…。…うん、フィルム式のカメラの弱点を教えて差し上げましょう…。
「へっ…?…ちょ、早苗さん何を…!!」
カメラの裏側の蓋を開き、フィルムを取り出して…。
…ああ、そう言えばカメラマンを罰する時、漫画ではよくこうやっていましたね。
片手が塞がっているので、私はフィルムの端っこを噛む。そして…。
…フィルムを、あらん限りの力で引っ張り出した。ビーッ、と言う、ビニールを引き裂くような音が響いた。
「あ゛や゛や゛や゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーーーー!!!!」
そして射命丸さんの悲鳴が響いた。うん、とってもスッキリした気分だ。
カメラのフィルムは光に弱いので、こうして夕焼けの光に晒してしまえば、もうまともな写真は現像できなくなる、と聞いたことがある。
こうしてしまえば、これで今回の事が問題になる事はなくなったわけだ。
…さて、後はこの烏天狗をどうしてくれようか…。
「ひいぃっ!!さ、早苗さん恐いです!!人間の目をしてませんよ!!妖怪の私に此処まで恐怖を感じさせるなんて!!」
ええ、そうでしょうねぇ、今の私は邪神にだって何だってなりますよ…。
「くけけけけけ…。この間の借りを、どうやって返して差し上げましょうかねぇ…。」
前回は射命丸さんのせいで大変な目にあったからなぁ…。同じように半殺しでもいいんですけどねぇ…。
でも妖怪相手だからなぁ…、肉体的より精神的に傷つけた方がいいですかねぇ…。
…そうだ、多分予備のフィルムがあるだろうから、あられもない姿を逆に新聞にしてやるのもいいかもしれないなぁ…。
「鬼っ!!悪魔っ!!鬼畜巫女ぉ!!!!」
妖怪のくせに何を言ってるんだこの人は。
…ああ、でもこういう姿も可愛いですねぇ…、…虐めがいがありますねぇ霖之助さんとは違う意味で…。
あははははははははははははははははは!!!!!!!
「いや、ちょ、やめっ…やめて下さいぃ!!いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
このあと、射命丸さんがどうなったのかは…、…私と射命丸さんとの秘密です。
※ご覧にならなくても「早苗が以前香霖堂に興味を持った」「早苗が以前文のせいで酷い目にあった」と言う事だけご理解いただければ一応読めると思います。
秋も深まり、だんだんと冬が気配を見せ始める幻想郷。
私こと東風谷早苗は、秋晴れの空の下を歩いていた。
今日は八坂様にお願いをして、早くからある場所へと出かける事にしていたのだ。
それは以前魔理沙さんに用事があって、魔法の森へと赴いた時の事。
その魔法の森の入り口に、外の世界の物が沢山置いてあった店を見つけたのだ。
「おっかいもの、おっかいもの~っ。」
何のCMだったかな。とにかくそんな歌を口ずさみながら、私は魔法の森へと歩いていた。
飛べばいいじゃないかという突っ込みもあるだろうが、私は普段はこうして歩く事にしている。
体型維持とか健康のためと言うのもあるのだが、そもそも私の能力はあくまで「奇跡を起こす程度の能力」。
つまり、霊夢さんと違って空を飛ぶ事に長けている訳じゃない。要するに疲れるからやりたくない。
まあそういうわけで、私はのんびりと目的地である「香霖堂」へと足を進めている。
因みに、何故か今回も全然妖怪と逢わない。
また射命丸さんに憑けられているんじゃないかと不安になる。妖怪だからこの漢字でいいだろう。
…まあ、今回は買い物に行くだけだ。万一憑けられていても、別に記事にされる事もない。と言うよりされても困らない。
前回は魔理沙さんとの事を記事にされて、霊夢さんとアリスさんに本気で殺されそうになって…。
…その事で文句を言いに行ったら、じゃあ飲み比べで勝ったら土下座でも何でもします、と、とても理不尽な事を言われた。
…ああ、だからお酒なんか…。…私は一応未成年なんだ…、…と、思う。
いや、だって風神録のキャラテキストに年齢なんか書いてませんし。
…えっ?そんなギリギリな話するなって?既に手遅れだから大丈夫です。
それはそれとして、とりあえず超奥義…じゃなくて、霊夢さんや魔理沙さんも未成年だろうに、どうしてお酒飲んでるんだろう…。
外の世界ではお酒は二十歳から、だというのに…。早めに止めておかないと成長が…。
…あ、だからあの2人はあれなのか、あんなに成長してないのか。何がとは言わないけれど。
…これ以上色々考えてると、また霊夢さんに殺されるかもしれない…。そろそろ止めよう。目的地も見えてきたし。
久々…と言うほどでもないか、前回のことから実は一週間しか経ってない。
行動を起こすには遅かったかもしれないけれど、何せ私は2日前まで寝込んでいた。何故って、傷が癒えなくて。
まあ、だけどちゃんとこの店があってよかった。場所が場所だけに、一週間でも潰れていないかと少し気になっていた。
…いや、そもそも最初から営業しているのかが不明なのだが。
まあいいや、営業してないならしてないでも、外の世界の物は見ておきたい。久々に外の世界の心に戻るのもいいだろう。
私は香霖堂の扉に手をかけようとして…。
どごんっ!!!!
…殺人的な音と共に、何かに撥ねられた。
いっその事意識を削り取ってほしかったのだが、悲しい事に私は暫く、とんでもない腹部の激痛にもだえ苦しんだ。内臓潰れたかも…。
気のせいか何処か遠くで「じゃあな香霖、そのうち返すからツケといてくれ」と、何処かで聞いたような声が聞こえた気がしたのだが…。
「全く、何時もの事とは言え…。」
…多分、気のせいじゃなかったのだろう。じゃあやっぱり私を撥ねたのは魔理沙さんか。あれか、これは変な報道を流された事への逆恨みか?
ただそんな事は今はどうでもよく、私はお腹の痛みを必死で我慢し、声の方へと目を向けてみる。
…なんだか、とても懐かしい気がした…。
「おや、君は…見ない顔だね、村の人かな?」
私の苦痛に気づいているのか単に無視しているのか、銀髪の青年は優しく声をかけてくれた。優しい声をかけるくらいならこの痛みに気づいてほしい。
ただ、私はその問いには答えなかった。なんだろう、何故か眼が離れない。
勿論、私と彼は初対面だ。ただ、何だろうこの懐かしさは。お腹の痛みも少し忘れるほど、私は悩んでから…。
「…なんだい?僕の顔に何かついてるかな…?」
…あ、そうか、だから懐かしかったのか、何だかんだで、そう言えば幻想郷に来てからは初めてだった気がする。
私は何とか立ち上がり、とりあえず背中の土を払った。
「あ、すみません、男性の方を見たのが久しぶりだったものですから…。」
私が幻想郷で出会った人々は、そう言えば全員女性だった。
なので、男性の姿を見たのは外の世界以来の話だ。…えっ?人間の里で逢ってないのかって?細かい事は気にしてはいけません。
「私は東風谷早苗、最近妖怪の山に越してきた物です。以後お見お知りを。」
初めて会った人には挨拶を、それにこのお店の関係者なんだろうし。
「ああ…そうか、君が魔理沙の言ってた…。」
…どうやら、魔理沙さんから何か聞いているらしい。
「この間急に店に来て「霊夢が分裂した、流石はミコだぜ。」とかよく分からない事を言ってたんだが…。そうか、そういう事か。」
…巫女はミコであって、決してミコトンドリア…って、なんだそれ、ミトコンドリアではない。
…何でネタが分かったんだ私。凄くないですか?
「僕は森近霖之助、この店の店主だ。よろしく、早苗君。」
…霖之助さんは、外の世界ではまさに幻想となったと言うべき存在の、好青年と言った感じの笑みを浮かべた。
…よし、だいぶお腹の痛みも落ち着いてきた…。
…なんと言うか、魔理沙さんの家を少し思い出した。まあ、あれよりははるかにマシな訳なんだが…。
店にしては流石に雑多すぎる。棚に並んだ商品の種類とか完全にぐちゃぐちゃだし。
…まあいいや、外の世界の品の山だ。まさか幻想郷で、こうも沢山外の世界の物を見られるとも思わなかったし。
「本当に色々ありますね、何処でこんな商品手に入れてくるんですか?」
折角なので、思っていた事を質問してみる事にした。これだけの品を、一体何処で手に入れてくるんだろうか。
「ああ、時々結界の端まで赴いたりしてね。博麗神社の裏は結構物が落ちてるよ。」
成る程、外の世界に近い場所ほど、外の世界の物が落ちていると言う事か。
…今度私も行ってみようかな?
周りを見回してみて、見覚えがある随分懐かしいゲーム機を見つけた。
「あ、これって初代のファミ○ンですね。別名ファミリー○ンピューター。」
「別名って…そっちが正式名称じゃないのかい?」
おお、まさか即ツッコミが返ってくるとは思わなかった。
「外の世界の物に詳しいみたいですね。」
「今のはそれを測るためだったのか…。僕の能力は「未知のアイテムの名称と用途がわかる程度の能力」なんだ。触れた道具の名前は全て分かる。
ただ使い方までは分からないから、その辺は自分で調べてもらう事にしてる。」
成る程成る程、するとこうして並びが滅茶苦茶な理由も納得できる。
…少しくらい整理してあげるのもいいかもしれないが、面倒だから止めておこう。バイトしに来たわけじゃない。
まあ、アルバイトに困った時は訪ねてみるのもいいかもしれない。これフラグですよ。
適当に相槌を打って、私はまた周りを眺めてみる。
そして眼に入ったのは、カラフルな色の9×9のブロックが集まった立方体。
「おっと、これはルービックキューブですね。結構前からあったから、流行る前にいくつか流れ込んだんですかね。」
ちょっと周りが硬いが、全然動かない訳ではなかった。折角なのでチャレンジ。
「さあ、それは分からないけどね、それを拾ったのは結構前だったと思うよ。」
そうですか、と返しておいた。とりあえず今はルービックキューブにチャレンジ。
こういうのは熱中すると周りがどうでもよくなる。暫くは会話もなしだった。
「…ふぅ、出来ました。」
思ったよりは時間は掛からなかった。ものの3分ほどだ。
私は全ての色が揃ったルービックキューブを、元あった場所へと戻した。
「へぇ…。…結構早かったね。魔理沙なんか10分くらいやってても全く出来なかったけど…。」
…ま、まあ、魔理沙さんはきっとこういうのは得意じゃないんだろうな。こういう作業は直球な人には似合わない。
「そう言えば、さっきも魔理沙さんが来てたみたいですけど、よく来るんですか?」
とりあえず話題を変えてみる事にした。
「ああ、よく来てはよく物を勝手に持っていくよ…。…霊夢君と魔理沙はこの店の万引き常習犯さ。」
…聞くんじゃなかった。なんとも言えない表情を浮かべる霖之助さんを見ると、本気でそう思う。
魔理沙さんはともかく、霊夢さんは一応巫女だろうに、神に仕えるものだろうに。
…だからお賽銭入らないんだ。
…そう言えば、霊夢さんもこの店に来てるのか。
いやまあ、この間魔法の森への道を聞いたとき、真っ先にこの店を目印として教えたのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが…。
「霖之助さんと霊夢さんって仲いいんですか?」
折角なので聞いてみる事にした。
「…まあ、例えるならル○ンと銭○警部みたいな関係だよ。」
まさかこんな答えが返ってくるとは…。流石に予想外だった。
「じゃ、じゃあ魔理沙さんとは…?」
だんだんなんでこんな質問してるのかが分からなくなってきた。慌てすぎか私。
「…今の所は似たような関係かな。まあ、魔理沙の事は昔から知ってたよ。僕はこの店を開く前は、魔理沙の御両親の所で働いていてね。
一人立ちして此処に店を構えてから、まあたまたま魔理沙の家が近いところにあってね。それからはしょっちゅう万引きされてるよ。」
つまり、魔理沙さんの方が万引き暦は長いと。確かに言っても聞きそうもありませんけどね。
ただ、こうして話を聞いてると、魔理沙さんの違った一面が垣間見えてくる。
彼女から彼女自身の事を聞いた事はあまり無かったので、なんだか気になってしまう。
「魔理沙さんって、実家は何かのお店なんですか?」
とりあえず、今は色々聞いてみる事にしよう。そう思っての質問だったのだが…。
…霖之助さんは、その質問を聞くなり、少し嫌そうな顔をした。
「…そうか、魔理沙からは聞いてないのか…。
…君には悪いけれど、魔理沙には魔理沙の事情があるんだ。あまり、あいつの過去には触れないでやってくれないか?」
…どうやら、聞いてはいけない話題だったようだ。私も気分が重くなる。
魔理沙さんを見ている限りは、あまり重い過去を持っているようには見えなかったが…。
…あの人はあの人で、何か事情を抱えていると言う事か…。
…前回のことも含めて、少し魔理沙さんのことを見直した。
「…すまない、変な事を言ってしまったね。」
何故か頭を下げられた。変な質問をしたのはこっちの方だと言うのに…。
…ああ、この人は本当に好青年と言う言葉が相応しいな。外の世界ではもう天然記念物クラスだろうに。
…学校の友人に見せてみたかったな。
「いえ、私こそ変な事を聞いてすみませんでした。…それにしても、霖之助さんって…。」
…そこで一回言葉を区切ると、霖之助さんは何かと思ったのだろう、きょとんとした表情を浮かべる。
…きっと、霖之助さんみたいな人は、この言葉を聞いたら予想通りの反応をしてくれるだろうなぁ…。
「なんだかお兄さんみたいですね。」
…予想通り、物凄く狼狽した。からかいがいもあるなぁ…。
「さて、気を取り直して…。」
私はまた周りをきょろきょろと見回す。自分でこんな擬音を使うのも変だが。
と、見回した先にこれまた面白そうなものが…。
「あ、これってブルーア○ズ・ホワ○トドラゴンの初期バージョンですね。
しかもシークレットレアじゃないですか。これってかなり値打ちありましたよ外の世界では。」
束になった遊○王カードの一番上にあったカードは、なんとまあカードショップで2万とか3万とかしたやつだった。
私も本物を見るのは初めてだ。
「そんなに貴重な物なのかい?幻想郷では特に欲しがる人もいないな。まあ強いから欲しいと言う子もいるけど…。」
まあ幻想郷でこのカードゲームが流行ってるって事は無いだろう。まだ絶賛放送中だ。
流石にそうとう昔のカードは幻想郷入りしているみたいだけど。
ひーふーみー…、…あれ?丁度40枚…。…しかもカードの比率もいいし、これってひょっとして1デッキになってるんじゃ…。
…よし。物は試しだ。
「あ、霖之助さん、折角ですから気分直しに一戦やりませんか?丁度私のデッキも持ってきてますので。」
そう提案してみた。ご都合主義?何ですかそれ?
「おっ、いいのかい?折角ルールを覚えたのにあまり戦う相手がいなかったから、丁度よかったよ。」
思ったより乗り気だったのに驚いた。まあ何だろう、こういう商売をやっているだけに、好奇心は結構強いのかもしれない。
…よし、折角だから本気で戦わせて貰おう。外の世界でもそんなにできなかった事ですし。
「私も幻想郷で一戦できるとは思いませんでしたしね。それと、私のデッキは外の世界での最新式ですからね?」
「ははは…、お手柔らかに頼むよ。」
* * * 少女青年決闘中 * * *
「ダイレクトアタック、これで私の勝ちですね。」
「……。」
唖然とする霖之助さん。手加減抜きで思い切りやったので、ライフは8000対0となった。完封勝利。
うん、やっぱり私とこのデッキの愛称は良さそうだなぁ。外の世界で一回くらい大会に出ておけばよかった。
「…えっと、早苗君、一ついいかな…?」
何か納得いかないといった表情を浮かべる霖之助さんが一人。
「なんでしょうか?」
「えっと、君の使っていたカードなんだけど…。」
「アル○ナフォースって言うんですよ。タロットカードをモチーフにしたカードですね。」
「それは分かってるよ。だけど、そのモンスターの効果って、コインの裏表で決まるんだよね…?」
「はい、殆どのカードは表がいい効果ですね。」
「コイン判定の8割くらいが表じゃなかったかい?」
「ちゃんと裏も出てたじゃないですかぁ。」
「いや、それは裏の方がいい効果のカードの時だよね?」
「そうでしたっけ?」
「しかも途中で「勿論正位置」とか言ってたよね?確信犯だよね?」
「ええ、それが「奇跡を起こす程度の能力」ですから。毎ターンディスティニードローですし。」
「どうりてやたら都合よく展開が進むと思ったよ。なんて才能の無駄使いだ。」
「おっ、いい突っ込みですね、八坂様とは大違いです。」
「それはどうも…。…とにかく、そんな絶対に狙った効果が出るなんて反則じゃないか。」
「ルールブックに「特別な能力を使ってはいけない」なんて項目ありましたか?」
「いや、ないけどさ…。…それで戦ってて面白いかい?」
「ええ、とても面白いです。運命に抗えない人を見下すのが。」
「どれだけ鬼畜なんだ君は!!」
「勝てば官軍、結局は勝った者が偉いんですよ。霊夢さんと弾幕りあってて気付きました。」
「いや、悟るポイント間違ってるよ!!」
「第一ですね、アニメでも主人公は同じようにア○カナフォースで苦しめられますけど、最後はちゃんと勝ってますよ。」
「主人公が負けたら駄目だろう!!それにあれは厳密にはフィールドカード一枚だけだよねコイン判定は!!」
「知ってるとは思いませんでした。ですが、そうやって強力な効果を得ても負けるときは負けるんですよ。それにアニメでは…。」
「早苗君、そろそろ東方小説じゃなくなってしまうから自重してくれ。」
…むぅ、仕方ないですね…。ジャンルを変更する訳にはいきません。仕方ないので私は口を噤む事にした。
…それにしても霖之助さん、ナイスなギリギリ発言でした。
(※アル○ナフォース:DMにおけるコイン判定次第でずっと俺のターンも可能な素敵なカード。使用者はなんか凄い顔芸で有名。
因みに一般発売は2008年2月23日なので、時系列が現在と同じなら早苗が持ってるのはどう考えてもおかしい。これも奇跡です。)
「さて、気を取り直して…。」
「いや、気を取り直すのは僕のほうだよね、随分満足してるよね君は。」
霖之助さんの言葉を雑音として無視して、私はまた周りを見回してみる。
それにしても、今更だが本当に色々なものがある。私が日常で眼にした事があるものから、歴史的にも価値がありそうなものまで。
こういうものを見ていると、外の世界の事を鮮明に思い出せる。
学校で友達と話していたり、みんなでちょっと遠くまで遊びに行ったり、楽しかった事、辛かった事、色々と…。
…やっぱり、私は外の世界にはまだ未練が残っているのかもしれない。此処に来たいと思ったのが、何よりの証拠だろう。
勿論、私が幻想郷が気に入っている。此処でなら、私の奇跡の力は普通の物である。
普通でしかないと言うのも少し口惜しいものではあるけれど、異端な眼で見られるよりははるかにマシだ。
…ただ、それでも時々懐かしくなる。仲が良かった友達の事を思うと、泣きたくもなる。
ああ、今はどうしてるんだろうなぁ…。…みんな、元気なんだろうか…。
「…早苗君?どうしたんだい…?」
ハッとして、霖之助さんの顔を見た。…少し、ボーっとしてしまっていたか…。
なんでもないですよ、と誤魔化して、私はまた周囲を見回した。
…もう外の世界には戻れないんだろう。だったら考えても仕方がないか…。
答えの出ない疑問に正解はない。それは、1週間前に魔理沙さんに教わった事だ。
…でも、ちょっとくらいはいいですよね?此処に来て、ちょっと昔の事を思い出して、そして少しくらい、涙を流しても…。
…ああ、少し暗くなってしまったなぁ…。…何か面白そうなものを探そう。
「さて、気を取り直して…。」
「君は一体何回気を取り直す心算なんだい?」
そう言えば3回目でしたね、こう言ったの。
そんな事は全くもってどうでもいいのだが、実はちょっと困ってしまっていた。
…私の気を引くものが見つからない…。…いや、気を引くもの自体は沢山ある。
だけど、これを一々語ってたらとんでもない長さになると言うか、今日は此処に泊まらなくちゃいけなくなる。それは避けたい。
…う~ん、電気のない幻想郷だと、電子機器は話題にならないから困る…。
此処にあるもので私が知ってるのは殆ど電子機器だし…。
…あれ?そう言えばと思い辺りを見回してみれば、幻想郷には必要ないだろうに、やたらとある物が多い事に気がついた。
デジカメとかパソコンとかゲーム機器とか携帯とか、まあ現代の物もたまたま幻想郷入りしたのだろうが…、…電子機器、多くない?
いや、別に電子機器が多い事が問題なのではない。問題なのは、それを一体誰が買うんだと言う事だ。
霊夢さんや魔理沙さんは万引きの常連者らしいけれど、流石に使えない物は持って行きはしないだろう。
逆に言えば、使えそうな物は魔理沙さんや霊夢さんが全て持っていってしまっているかもしれない。特に魔理沙さんが。
…じゃあ、後は誰がどんな物を買うんだ…?
「…あの、霖之助さん、失礼かもしれませんけど、此処って霊夢さんや魔理沙さん以外はどんな買い物をされるんですか?」
ちょっと嫌な言い方かもしれないけれど、手っ取り早く聞いてみる事にした。
「ああ、他は殆どさっぱりだよ。」
いや、そんな挨拶するみたいにあっさり言う言葉じゃありませんから。
「時々だけど華人小娘や七色の人形遣いや歴史食いの半獣や超妖怪弾頭が来るんだけどね。まともに買い物をしていくのはにとり君くらいなもんだよ。
他はメイド長に串刺しにされて連れ去られたり、適当に愚痴を言うだけ言って帰ったり、世間話をしただけで買い物はしていかないね。」
…すみません、頭の演算機能が追いついていません。そろそろ容量過剰でフリーズしそうです。
にとりさんは以前あった事があるし、七色の人形遣いはアリスさんだろうからまだ分かりますけど…。
…メイド長に串刺しって何ですか?しかもそれを平然と話す霖之助さんも霖之助さんなんですけど?
…序になんて3ボス同盟?
「それで商売が成り立つんですか?」
思わず突っ込んでしまった。
「ああ、以前文君にも同じ事を言われたよ。商売はする気はあるんだけどね…。
もっとも、僕が気に入った物は売りに出さないから、結果として使用可能なものは殆ど売りに出ないわけさ。」
「それって完全に自業自得じゃないですか商売成り立たないの!!」
ああもう幻想郷の人はちょっとゆったりすぎる!!わけも分からず腹が立ってきた!!
「こうなったら私が使えるもの全部発掘します!!それを売りに出してちゃんと商売してください!!」
自分でも何を言ってるのかよく分からなかったが、とにかく私の何かに火がついたみたいだ。
呆然とする霖之助さんを放置して、私は早速辺りの使えるものを模索し始める。
とりあえず電子機器はアウト。幻想郷で使用可能なのは電池マスターの私と、機械に強いにとりさんたち河童くらいだ。
それよりもまずはジャンルごとに整理をした方がいいか。その方が後の仕分けに楽だ。
えっと、これは…剣ですね、武器はこっち。雑誌はこっち、小道具はこっち、壺はこっち、ペット用品はこっち、薬はこっち、文房具はこっち、ハサミはこっち…。
…ああもうコッチコッチややこしい!!私は韓国ドラマ派じゃない!!意味が分からなかった人はググってみよう。
…それにしても、何で私が手をつけた一エリアだけで、こんなにもジャンルがあるかな…。
とりあえず一エリアごとに仕分けていこう。まずは武器の仕分けを…。
…あ、これってロ○のつるぎ?…なんだ、攻撃力が+40しかしないザコ剣かぁ…。
これで全ての物が切れると言うなら、攻撃力+110のは○いのつるぎは振っただけで辺り一帯壊滅するんじゃないかな。(ド○クエ2基準)
おっと、噂をすればは○いのつるぎも出てきて…、…って!手から離れない!!しまった呪われた!!シャ○クシャ○ク!!
…うん、ちょっと武器は後回しにしよう、何時呪われたアイテムが出てくるか分からない。
さて、次は雑誌の仕分け…。…おっと、見た事もないような表紙のジャ○プ。まあ少年誌には興味がないからパス。
古い音楽雑誌なんかもありますね…。…うわぁ、バッ○とかベー○ーベンが生きていた時代のですか、これは貴重だ。
どうでもいいですけど、ベー○ーベンって駅弁の名前みたいで美味しそうじゃありません?
っと、そんな事はどうでもいい。雑誌だけでもジャンルが結構あるから、一々中を確認しないといけないからめんどくさい…。
音楽雑誌はこっちで、漫画雑誌はこっちで…。…ゲーム雑誌はいらないかな…?…あ、これは焼こう。何かはご想像にお任せします。
次は小道具か…。…これはこれでややこしい…。救援要請かな?
「…霖之助さん、ボケッとしてないで手伝ってください。」
「いや、いきなり仕分けを始めていきなり手伝えって…。」
「元はといえば霖之助さんがしっかり商売しないからこんな事になったんです。やらないなら壺全部破壊しますよ?」
「それは勘弁してほしいな…。」
「全く、褌の癖に一々口ごたえしないでください。」
「何で君がその事を知ってるんだ!!そもそもあれは僕のせいじゃなくて…!!」
「壺破壊。」
「…ゴメンナサイ…。」
* * * 少女青年整理中 * * *
「ふぅ、ようやく終わりましたね…。…うわっ、もう夕方じゃないですか!」
「……。」
窓から見える夕焼けの光が差し込む。電灯という物がないだけあって、これだけでも結構薄暗い。
ただまあ、久々に色々仕事をしただけあって、ちょっとした疲労感がまた心地よい。
こうして真面目に仕事をしてみるのも、たまにはいいものだなぁ。
…と、そんな悦に浸っている場合じゃない、早く帰らないと夕飯に間に合わなくなる。
「霖之助さん、今日はちょっと疲れたから買い物はまたに…。…あれっ…?」
…何故か霖之助さんは口から魂を出して倒れていた。
「…霖之助さん?」
へんじがない ただの しかばねのようだ ▼
「…ただの屍なら放っておいても構いませんか。」
「いやいやちょっと待ってくれ。」
おっと、生き返った。やっぱり人を復活させるにはちょっとした冗談が一番。
「霖之助さん、だらしないですね。男の人がこんな事で倒れてるようじゃ、この先思いやられますよ。」
これだから近頃の男は駄目だとか言われるんだ。誰に?知りません。
「いや、体力的にはそうでもないんだが…。…その、精神的に…。」
「何言ってるんですか、精神的に疲れるなんて、物売りにはもってのほかじゃないですか。」
「そうだろうけど…。…いや、幾らなんでもあれは…。」
「何かありましたっけ?」
「いや、君は自分がした事を理解していないのかい?」
「ちょっと薬の試飲させたりハリセンでひっぱたいたりカッターが切れるか確かめたりその他色々しただけじゃないですか。」
「充分酷いよ!!僕が人妖じゃなかったら下手したら死んでる!!」
「あっ、霖之助さんは人妖だったんですか。どうりて頑丈だと。」
「分かっててやったわけじゃない!?酷いとか言うレベルじゃないだろ!!」
「霖之助さん、商売というものを私はよく知りませんが、少なくとも精神面は強くないと出来ないと思います。
要するにですね、ちょっとした事で酷いとかそういう事は言ってはいけませんよ。子供じゃないんですから。」
「…全ての元凶である君にそう言われたくはないんだが…。」
「口ごたえするな。メガネ割るぞ。」
「…ゴメンナサイ…。」
…あれ?私今まで何を言ったんだろう?霖之助さんの魂を見たあたりから記憶があやふやだなぁ…。
…あれ?何で霖之助さんそんなに落ち込んでるんですか?あれ?泣いてますひょっとして?男泣きってやつですか?
…大人がこうして泣いてる姿って言うのも、ちょっとみっともないですね。
「誰のせいだ誰の。」
誰のせいなんですか?と、私は首を捻った。
「それでは失礼します、今日はどうもありがとうございました。」
店を出る際に一礼。守矢神社は二拝が基本だけど。
「…ああ、僕のほうも色々助かったよ、ありがとう…。」
喜んでもらえたなら幸いだ。人を喜ばせる事も、巫女の勤めである。
…あれ?何でそんな明後日のほうを見ているんですか霖之助さん。
まあいいや、私はそうして霖之助さんに背を向け…ようとして、
「あっ、そうだ、一つお願い事が…。」
一つ頼もうと思っていた事があったのを思い出した。
「なんだい…?もうなんでも言ってくれ…。」
…う~ん、何でこんなにも疲れてるんだろう。ちゃんと休養は取らないといけませんよ。
「それでは遠慮なく…。…もしよければ、電池を仕入れておいていただけませんか?」
「電池?」
「はい、それがあれば多少の電子機器は動かせますので…。電池も置いておけば、電子機器を買ってくれる人も増えると思いますよ。」
DSなんかは専用の部品が必要だけど、GBなんかは電池だけでも動かせるし、デジカメなんかも使えるかもしれない。
ああ、なんて親切な私だろう。最後まで霖之助さんの事を考えていられるなんて。
「そうか…。見つけたら仕入れておくよ、ありがとう。」
その時やっと、霖之助さんがまともに笑ってくれたような気がした。
* * * * * *
霖之助さんに別れを告げて十数分、私は帰り道ゆっくりと歩いていた。
なんとも開けた場所だった。道の両脇を背の高い雑草が囲んでいる。
もうそろそろ日も沈む。幻想郷ではまさに「逢魔が時」という時間になろうとしている。
「…さて、時間的にも丁度いいですし、逢魔が時を過ごすとしますか…。」
私はいつも手に持っている玉串(あれって玉串でいいんですか? by作者)を強く握り締め…。
…道の脇、雑草が茂っている一転を目掛けて…。
…ピッチャー、第一球、投げましたーっ。
「はごっ!!」
ストライク、と心で実況しながら、私は声のした方へと駆け寄り、雑草の海の中で、頭を擦りながら尻餅をつく妖怪の胸倉を掴んだ。
「あ、あはははは…、さ、早苗さん、こんな所で奇遇ですね…。」
全く白々しい。今回はこの事に気をつけていたので、ちゃんと妖力を探るのを私は忘れてはいなかった。
結果やっぱり相当前から憑けられている事には気づいていた。冒頭のはハッタリですよ。
「射命丸さん…?今日という今日は新聞になんかさせませんからね…?」
そう、突然とは言え今日は香霖堂の売り物整理をやってきたのだ。
どうせ射命丸さんの事だから、その場面を写真に撮っている。またあらぬ疑いを掛けられてはたまらない。
この罪深き新聞記者に、私は神の仕える者として制裁を与えようと思う。
「わ、私は健全な新聞記者です!何の罪もありません!!て、手を離して…な、何ですかこの力はっ!!」
何を言ってるんだこの犯罪者は。
「盗撮は立派な犯罪ですよ、私の法律は外の世界の法律に準じています…。」
私は射命丸さんのカメラに手を掛ける。
一眼レフ、オーソドックスなフィルム式ですねぇ…。…うん、フィルム式のカメラの弱点を教えて差し上げましょう…。
「へっ…?…ちょ、早苗さん何を…!!」
カメラの裏側の蓋を開き、フィルムを取り出して…。
…ああ、そう言えばカメラマンを罰する時、漫画ではよくこうやっていましたね。
片手が塞がっているので、私はフィルムの端っこを噛む。そして…。
…フィルムを、あらん限りの力で引っ張り出した。ビーッ、と言う、ビニールを引き裂くような音が響いた。
「あ゛や゛や゛や゛や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーーーー!!!!」
そして射命丸さんの悲鳴が響いた。うん、とってもスッキリした気分だ。
カメラのフィルムは光に弱いので、こうして夕焼けの光に晒してしまえば、もうまともな写真は現像できなくなる、と聞いたことがある。
こうしてしまえば、これで今回の事が問題になる事はなくなったわけだ。
…さて、後はこの烏天狗をどうしてくれようか…。
「ひいぃっ!!さ、早苗さん恐いです!!人間の目をしてませんよ!!妖怪の私に此処まで恐怖を感じさせるなんて!!」
ええ、そうでしょうねぇ、今の私は邪神にだって何だってなりますよ…。
「くけけけけけ…。この間の借りを、どうやって返して差し上げましょうかねぇ…。」
前回は射命丸さんのせいで大変な目にあったからなぁ…。同じように半殺しでもいいんですけどねぇ…。
でも妖怪相手だからなぁ…、肉体的より精神的に傷つけた方がいいですかねぇ…。
…そうだ、多分予備のフィルムがあるだろうから、あられもない姿を逆に新聞にしてやるのもいいかもしれないなぁ…。
「鬼っ!!悪魔っ!!鬼畜巫女ぉ!!!!」
妖怪のくせに何を言ってるんだこの人は。
…ああ、でもこういう姿も可愛いですねぇ…、…虐めがいがありますねぇ霖之助さんとは違う意味で…。
あははははははははははははははははは!!!!!!!
「いや、ちょ、やめっ…やめて下さいぃ!!いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
このあと、射命丸さんがどうなったのかは…、…私と射命丸さんとの秘密です。
個人的にはこういう早苗も嫌いじゃありませんが…w
でも自分のデッキ持ってたりするのに「少年誌に興味ない」ってのは
流石ちょっと矛盾してるような気が…^^;
あんまり気になる事じゃないから大丈夫だとは思いますが。
面白かったです。次回も期待してます
>中尉の娘さん
>なんかDMに詳しかったりやけにアクの濃い巫女ですねw
とりあえずこれからも色々濃くなると思います。
>でも自分のデッキ持ってたりするのに「少年誌に興味ない」ってのは
>流石ちょっと矛盾してるような気が…^^;
はうあっ!!完全に迂闊でした!!パッと思いついたジャンプが少年誌だったから、思わず書いてしまいました。
…少年誌には興味ないけどカードゲームには興味津々と脳内変換をお願いします。
>00:46:17の名無しさん
>やめて早苗さんの声が子安になっちゃうw
ん、折角だから最後の早苗の笑い声は「ふひゃひゃひゃはははははは!!!」にしようかと思ってました。自重しましたけど。
まあ、東風谷早苗でも子安早苗でも読み方的にはそんなに変わりませんよ。
早苗さんは真面目で融通がきかなくて反面脆いところも多いけっこう健気な子というイメージが割と皆さんあるはずなのに。
ここまでブレークした早苗さんになるとはw
しては幻想郷に来たことで腋巫女の鬼畜属性が伝染ったか!?
またこの組み合わせでなにかひとつ読んでみたいです
誤字報告
射名丸→射命丸
女の子で遊戯王OCGやってる子も居ないし違和感がぬぐえない
>01:23:02の名無しさん
>早苗さんは真面目で融通がきかなくて反面脆いところも多いけっこう健気な子というイメージが割と皆さんあるはずなのに。
>ここまでブレークした早苗さんになるとはw
私は普通の設定を壊すのが好きみたいです。
>しては幻想郷に来たことで腋巫女の鬼畜属性が伝染ったか!?
前々回は霊夢に鬼畜な目に合わされてましたからね、そうかもしれません。
>08:09:04の名無しさん
>大 爆 笑
一人で爆笑できるとは兵ですね、とマジレスしてみます。満点ありがとうございます。
>11:42:25の名無しさん
>珍しい組み合わせで結構楽しめました。
方や現代人、方や現代の物を取り扱う人で共通点はあるはずなんですけどね。
>誤字報告
何の気の迷いもなくミスしてました…、報告ありがとうございます。
>11:56:37の名無しさん
>遊戯王のあたり作者さんの趣味を早苗に語らせただけという気がしてしまう
あそこは「早苗の奇跡+運要素のアルカナ=鬼畜」と言う事を表したかったわけなんですが…。
まあ確かに趣味もあるかもしれません…。まだまだ修行足らずですね…。
>女の子で遊戯王OCGやってる子も居ないし違和感がぬぐえない
流石にそれは言い過ぎかと、少なくはあるかもしれませんが。
こう、ほのかに外道な子っていいですよね・・・
ただ、霖之助が霊夢のことを霊夢君と呼んでるのはちょっと違和感ありました。
フラグが立ってるので次回作も期待しております。
この悲鳴だけでお腹いっぱいです
ホント幻想郷は地獄だぜふはははははぁ!!
>15:43:06の名無しさん
>メタ会話の多さが気になりましたが、おもしろかったです。
普段比較的シリアスな物(少なくとも笑い話ではない)を書いてる奴が無理してネタに走るとこうなってしまうんです。
>ただ、霖之助が霊夢のことを霊夢君と呼んでるのはちょっと違和感ありました。
香霖堂を読んだ事がないので今一霖之助の口調が分からないのです。
魔理沙だけは何となく呼び捨てって気はするのですが…。
>09:40:42の名無しさん
>DMは漫画の方しか知らなかったので、ようやく「ずっと俺のターン!」の元ネタが分かりましたwww
『アルカナフォースXXI THE WORLD』正位置の効果より。
>21:44:27の名無しさん
>この悲鳴だけでお腹いっぱいです
文は人気ですね。原作でもやたら優遇されてる気もしますし。
>三文字さん
>ここに新たな鬼巫女が誕生したのであった・・・
新たな、と言っても幻想郷には巫女は二人しかいないんですけどね。
神に仕える物が狂気に駆られるのが幻想の都たる所以でしょうか。意味不明ですね。
早苗さん素敵すぎます。
ありがとうございました。
>bobuさん
>文の悲鳴が最高
なんか気に入られてしまったようなので、いつかまた使う機会があったら使ってみます。
>早苗さん素敵すぎます。
現代っ子の早苗さんは何時だって素敵ですよ。たとえ子安ボイスでm(一子相伝の弾幕
遊戯は、ネタ自体あんまり知らなかったというのもあってか、そんなに違和感は感じなかったかな。
ギャグものとして普通に楽しめました。
>☆月柳☆さん
>超カオスwww
早苗の恐怖はここから始まります。…始まって続くといいなぁ…。
>19:35:42の名無しさん
>こういう早苗さんもたまらん
早苗にはもっともっと壊れていただく予定です。
満点ありがとうございます。
メタ会話が多すぎて違和感が強いです。メタ会話を自然に感じさせるのはかなり文章力がいるかと
文は自業自得ですねw
この早苗さんはタガがどうこう以前に元から鬼畜なんじゃw