Coolier - 新生・東方創想話

友達のつくりかた3

2008/01/27 03:06:31
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この作品は、作品集47にある「友達のつくりかた」「友達のつくりかた2」の続きになっています。
先に上記の2作品を読んで頂けると、話の内容がわかりやすいと思います。




 
年明けしてしばらく、寒さも厳しくなってきた頃、アリス・マーガトロイドは幽々子と妖夢に会いに白玉楼へとやってきた。



【白玉楼】


「あ、アリスさん。おはようございます。外は寒かったでしょう?
まずは中へどうぞ。幽々子様もお喜びになります」

妖夢はアリスを幽々子のいる広間へと笑顔で案内する。
アリスは先のお茶会以来何度も白玉楼に来ていて、一緒にお茶や食事(料理)をしたりしていて、とても仲が良い。
幽々子もアリスのことは客人ではなく友達と思っているので、基本的には取次ぎなしで部屋に通すようにいってある。
妖夢は最初こそ照れてわたわたしていたけれど、今では優しい笑顔をアリスに向けている。
幽々子(主)に向けるのとは少し違う、温かいその表情を見るとアリスも嬉しくてつい白玉楼に足を向けてしまう。
今では特に用事がなくとも結界を越えて遊びに行くことも多い。
今日も特に何かをしようというわけではなく、天候も良く比較的暖かいので元気にしているかな、と遊びに来たのだった。
  

  
「失礼します、幽々子様。
アリスさんがいらっしゃいました」
妖夢が襖を開けると奥にいた幽々子が座ったまま笑顔でアリスを迎えてくれた。
「いらっしゃい、アリス。
妖夢、あったかいお茶をお願いね」
「かしこまりました」
妖夢が部屋を出て行くと、アリスは幽々子の正面に座り幽々子に話しかける。

「おはよう、幽々子。
今日は天気も良いし、今の季節にしては暖かいわね。
元気にしてた?」
「ええ。私はいつも元気よ」
  
幽々子は相変わらず笑顔でゆっくりとした口調で話すが、アリスはそれを注意深く聞いている。
このお嬢様が病気で元気でなくなるということは(亡霊なので)まずない。
あるとしたら退屈でつまらない時ぐらいだ。
そんな時にちょうど自分が行くと幽々子はとても明るい笑顔を見せてくれる。
そう、今みたいに………。

「ふふふ。ねぇ、アリス。あなたのいったとおり今日は天気も良いし暖かいわ。
せっかくだからたまには身体を動かしてみない?
冬だからといって、いつも家の中にいるのも良くないわ」
「身体を動かすって、何をするの?」
「ほら、冬に身体を動かすといったら決まっているじゃない。
餅つきよ、餅つき」
「餅つき? 確かに身体を動かすけど……(いったい、いつ決まったのかしら?)」
「それにね、白くてやわらかいお餅をたくさん食べたら妖夢も大きくなるわ」
「…………そ、そうね。まだ成長期だし」

一瞬、アリスは妖夢の半霊が幽々子に食べられてしまうのをイメージしてしまった。

「幽々子様、失礼します。
お茶をお持ちしました」

ここでちょうど妖夢がお茶を持ってきてくれた。
お茶を渡してくれる妖夢の後ろで半霊はふわふわと浮いている。
 
「妖夢、あなたお餅好きよね?」
「はい。好きですけど?」
「そう。じゃあ、お昼はお餅にするわ」
「わかりました。ありがとうございます。早速準備します」

妖夢は笑顔で部屋を出て行く。
幽々子の視線が半霊に向いていたように見えたのは、気のせいだろう。
そんなことにはならないと思いつつも、妖夢の半霊を心配してしまうアリスだった。






   ~2時間後~


白玉楼の庭に大きな臼(うす)と杵(きね)、柄杓(ひしゃく)、手桶(ておけ)、蒸し器などが並べられている。
   
妖夢はそんなにお餅が好きなのか、幽々子が自分のために昼食をお餅にしてくれた(と思っている)のが嬉しかったのかわからないが、
とても嬉しそうだ。
   
「ねぇ、妖夢。確かお餅って、作るときは前日からお水に浸しておくって聞いたことあるんだけど、平気なの?」
「大丈夫ですよ、アリスさん。実は昨日から米も臼も杵も準備してあったんですよ。
幽々子様のおやつにと思って」

目の前にある大量のもち米を見て笑顔が軽く引きつるアリス。
……この量のおもちがおやつになるとはさすが幽々子。
   
「そうなんだ。それならちょうどよかったわね。
あとね、私、実はおもちって自分でついたことないのよ。教えてくれるかしら?」
「はい。わかりました」
  
妖夢は丁寧にアリスにやり方を教えると、早速2人で餅つきを始めた。
幽々子はそれを楽しそうに見ていた。
  
  


~少女餅つき中~

「はい。もう大丈夫ですね、出来上がりです。
お水もってきますので少し休んでいて下さい」

アリスは久しぶりに身体を動かしたのと、初めての餅つきで息を切らしていた。
餅をこねるにしてもつくにしても、慣れていないせいでかなり疲れたようだ。
出来上がったお餅は半霊が適当な大きさに丸めてくれている。
まるで餅が餅を丸めているようで不思議だが、出来上がりはとても綺麗な丸になっているので気にしないようにする。

妖夢からお水をもらい、蒸し器から新しいもち米を出して2人でつく。
「妖夢、あなた今まで1人でこの量を作ってたの?」
アリスはまだ蒸し器にある大量の米を見てきいてみた。
「ええ、そうですよ。最初は大変ですけど、慣れてくると力の加減がわかるので大分楽になると思います」
「…なるほどね。確かに最初に比べれば少し楽になってきたわ。
ふふ。私もお餅は好きだし、お米が餅に変わっていくのも結構楽しいわ。
2人で一緒にこういうことをやるのも良いわね」

「ええ。私もアリスさんと一緒に作るのは楽しいですよ。
きっと美味しいお餅が出来ますから、がんばりましょう」


妖夢は楽しそうにアリスに話す。
アリスはやっと妖夢がご機嫌の理由がわかった。
妖夢にとって餅つきを2人でするのは(妖忌を抜かして)初めてだったのだ。


「そうね。幽々子がびっくりするぐらいの美味しいお餅を作りましょうか?」
「はい」

妖夢はアリスに最高の笑顔で答えてくれた。
妖夢とアリスはその後大量にあったもち米を全て綺麗なお餅に変えていった。
冬の寒空の下、汗をかきながら楽しそうに餅をついている2人を、幽々子はいつものやわらかい笑顔で見守っていた。








           ~お昼~

ついたお餅を丸め、あんこ、醤油、お雑煮、おしるこ等で十分に堪能した3人は、上機嫌で会話を交わしていた。

「ご馳走様。やっぱりつきたては美味しいわね」
「アリスさんが頑張ってくれたからですよ。とても美味しく出来ています」
「ありがとう。妖夢が丁寧に教えてくれたおかげね」
     
アリスは妖夢に優しく笑いかける。
「いや、その ……喜んでくれて嬉しいです」

妖夢は顔を赤らめながらも笑顔をアリスに返す。

「ふふ、なんだか幽々子がうらやましくなっちゃうわね。
いつもこんな美味しい料理を食べているなんて。
私も妖夢に毎日作ってもらいたいわ」
 
アリスは笑いながら話す。

「あらあら、駄目よ~。妖夢は私の大事な従者なんだから。
食べたくなったらあなたが来ないと」

「ふふ、そうね。妖夢を困らせない程度にお邪魔させてもらおうかしら」

アリスは幽々子と笑顔で軽くお酒も酌み交わす。

「こ、困ったりなんてしませんよ。いろいろと頂いたり、手伝ってもらったりして、こちらが申し訳ないくらいです。
いつでもいらして下さいね。幽々子様もお喜びになりますし、私も嬉しいです」

「ふふ、妖夢ったら私をだしにアリスと会うつもりなの?」
「そんな、だしだなんて……」
「冗談よ、妖夢。でもね、素直に自分の気持ちを伝えないと、うまく相手には伝わらないものなのよ?」
     
幽々子の言葉に妖夢は一瞬息が止まる。
その表情にはためらいと不安が濃く出ていて、口の中は緊張のせいで乾いていた。
妖夢は自分に言い聞かせるように小さく声を出す。
「……気持ちを伝える」



それをみていたアリスは妖夢の変化に戸惑っていた。
妖夢の態度を見れば自分のことを慕ってくれているのはわかるし、突然に白玉楼に来ても妖夢は困った顔を一度も見せていない。
それどころか、いつもあの温かい笑顔で妖夢はアリスを迎えてくれる。
さっき妖夢に「困らせない程度に」と言ったのはあくまで少し冗談を言っただけだ。
それなのに、幽々子の言った「素直に自分の気持ちを伝える」という言葉に妖夢は動揺している。
もしかしたら、もしかしたら実は顔や態度に出さなかっただけで、アリスに言いたいことがあったのだろうか?
       
アリスは段々と不安になってきて、何か妖夢を困らせるようなこと、悲しませるようなことをしていないかを思い出そうとしていた。

先日お土産として持ってきたお菓子を妖夢のものだけ甘めにしたのが良くなかったのかもしれない。
あの時妖夢は年末の掃除等で忙しく、かなり疲れていると思って妖夢の分だけは少し甘めに作ったのだ。
甘いものが苦手でないことは知っているし、一緒に掃除を手伝ったアリス自身、疲れのため甘みをもう少し強くすればよかったかな、
と思ったくらいなので間違いではなかったと思う。
けれど、子供扱いをされたと妖夢は感じたかもしれない(庭師、従者として妖夢は自分が未熟者だと意識しているが、
他人から子供扱いされるのは嫌っている)。

いやいや、それとも剣の稽古の後お水を渡したときに、手を掴んでしまったのがいけなかったのかもしれない。
汗をかいていたから、タオルとお水を用意したまではよかったんだけど、
あまりに妖夢がかわいく「ありがとうございます」って爽やかに笑うものだから、思わず手を掴んでしまったのだ。
でも、掴んでいたのは数秒だし、謝ったら許してくれた。
ただその時、妖夢は驚いたせいか声も出さずにかたまっていたし、少し顔が赤かった。
稽古のせいだと思っていたけど、もしかしたらそれが原因なのだろうか。
妖夢は──────

アリスが頭の中でいろいろと考えている間に、妖夢は軽く深呼吸をして、アリスの方を向くと少し大きめな声で話しかけた。

「あ、アリスさん」
「はい。何、妖夢?」

突然呼ばれたにもかかわらず、動揺をみせないアリスはさすがである。
内心はドキドキしていたが。

「あの、言いたいことがあるんです」
         
妖夢の瞳は先ほどまでと違い、迷いがなく澄んでいた。
見つめられたアリスは、考えてきたことを捨てて、ただ妖夢の言葉を受け止めることだけに意識をやる。
      
「何かしら?」
 
「私は、アリスさんが来てくれると嬉しいんです。
一緒に料理や食事をしたり、ただお話をするだけで楽しい気持ちになるんです。
ですから、冗談でもアリスさんが来て私が困るなんていわないで下さい。
私はいつも白玉楼で、アリスさんが来るのをお待ちしています。
私は、アリスさんが大好きですから」


アリスは驚きながらも冷静に妖夢を見つめる。
手が僅かにだけど震えていて、表情にも若干の不安が見て取れる。
幽々子(主)の前でこれだけのことを妖夢(従者)が言うのはどれだけの勇気が必要だったのだろう。
アリスは妖夢の言葉の意味を急いで考えた。

私のことを好きだと強く想ってくれているということ。
妖夢が私のことを大切に想っていて、一緒に時間を過ごすことを楽しく感じてくれている。
その想いを語ってくれたきっかけは、私が冗談で言った「(白玉楼に)妖夢を困らせない程度にお邪魔する(来る)」 という言葉。
そして妖夢の「いつも白玉楼で、アリスさんが来るのをお待ちしています」という言葉。
………妖夢が私に伝えたかったのは、ただ本当に裏もなく、「ここ(白玉楼)に私(アリス)が来ても妖夢は困ったりすることは絶対にありません、来てくれると嬉しいんです」という気持ちだけなのかもしれない。

妖夢の不安げな表情は、アリスには告白をして返事を待っているというよりも、何かに恐れているように見えた。
何か、とはアリスが白玉楼に行かなくなることだろう。
         
つまり、今アリスが妖夢に対して答えるのは愛の告白ではなく、友達としてまた来てくれますか、来てくれると嬉しい
です、という問いに対しての返事なのだ。
アリスは理解すると、僅かに震えている妖夢の手をそっと両手で包みこみ、ゆっくりと返事をする。
妖夢の気持ちに応えるように、精一杯の気持ちを込めて。


「………妖夢、ありがとう。
私もあなたが好きよ。誤解させてしまってごめんなさい。
一緒に時間を過ごすのを楽しいって思っているのは私も同じなのよ。
妖夢。これからもよろしくね」
 
妖夢はその言葉を聞くと緊張の糸が解けたのか、力が抜けて前に倒れそうになる。
アリスはそんな妖夢を支えて、軽く抱きしめると、もう1度「ありがとう」とお礼を言った。
 
妖夢は今の状況を理解すると顔を真っ赤にし、アリスに感謝の言葉を伝えようとしたが、うまく言葉が出てこない。
自分の気持ちを聞いてくれて、これからも一緒にいてくれると言ってくれたのだ。
妖夢はそれが本当に嬉しくて、アリスにお礼を言おうとするが、気持ちがあまりにも強くて声ではなく、涙が出てきてしまった。


「っす、すみませ────」
 
妖夢が慌てて涙を拭おうとすると、アリスはその手をそっと掴み、もう片方の手でそっと涙を布で拭いてくれる。

「妖夢、そんなに慌てなくて良いのよ。
ゆっくりでいいから……………」

アリスは優しく微笑んで、妖夢の言葉を待っている。
妖夢は涙が止まらなくて、アリスに(待たせていることを)謝ろうとしたが、アリスは全く気にしていない様子で、
むしろ嬉しそうにしていた。
        




落ち着いたせいか涙もようやく止まった。
アリスを見ると、変わらずに笑顔で自分を見つめている。
妖夢はようやく言いたかった言葉をアリスに伝える。

「ありがとうございます、アリスさん。
これからもよろしくお願いします」
「ええ。こちらこそ」


お互いしばらく見つめ合っていると、突然幽々子が笑い出した。

「ふふふ、ごめんなさい。あなた達ほんの少しの誤解なのに、とっても遠回りしてるのね」
「そ、そうかもしれませんね」
「そうね。でも、遠回りでも嬉しいことはあったわ」
「嬉しいこと? なんですか、それは?」
「それはね、妖夢が言いたいことを全部話してくれたことよ。
それと、言葉だけじゃなくて、表情とかでもいろいろ教えてくれたしね。
いろいろと得した気分だわ」
「あ~、妖夢は考えてることすぐに顔とかに出ちゃうのよね~」
「そ、そんなにわかりますか?」
「ええ、わかるわよ」
「そ~ね~、とってもわかりやすいわね」

アリスと幽々子は不思議そうな、ちょっと困った顔をしている妖夢がかわいくて、つい笑ってしまった。

「……まだまだ修行が足りませんね。
あ、でも私も今日は嬉しかったです」
「あら、どうして?」
        
幽々子が妖夢に聞く。

「アリスさんの言葉も嬉しかったんです。
でもそれ以上に、私を抱きしめてくれたときとか、手を握ってくれたときに、優しさとか思いやりとか、
アリスさんの温かい気持ちが私に伝わってきたんです。
それで、ああ、本当にアリスさんは私のことを大切に思ってくれているんだなってわかったんです。
……なんだか、アリスさんの優しさに包まれていたみたいで、嬉しかったです」

妖夢は少し照れながら、嬉しそうに話した。

それを聞いたアリスは恥ずかしそうに口をぱくぱくさせたが、嬉しそうに笑う妖夢を見て結局何も言えなかった。

「あらあら、妖夢もやるわね~」
「え?」

妖夢は赤くなったアリスを見てようやく自分の発言に気付いた。
 
「あ、いえ。その、そういう意味では…………」

妖夢までだんだんと顔が赤くなってきた。


「あらあら、なんだかお邪魔かしらね~」

幽々子は2人の顔を見ながら楽しそうに笑っていた。
恥ずかしそうに笑う妖夢とアリス、楽しそうに笑う幽々子。
3人のいるこの部屋はとても温かく、一足先に春が訪れたかのようだった。








その後、アリスは残ったお餅(もともと大量に用意してあったので、残った分だけでも十分な量)をもらうと、博麗神社に飛んだ。


霊夢とは魔理沙と一緒に初詣に行って以来会っていない。
秋以降は何度か会いに行くことがあったけれど、ここ最近は少し足が遠のいていた。
久しぶりだし、つきたてのお餅を持っていったらきっと霊夢も喜んでくれるだろう。
アリスは飛ぶペースを速めた。

  



     【博麗神社】


飛んできたアリスは神社を見渡すと、すぐに霊夢は見つかった。
「霊夢。久しぶりね。元気にしてた?」
「…あら、アリス。久しぶりね。
私は元気よ。正月にはお賽銭もたくさん入ったしね」

霊夢はいつもの場所でお茶を飲みながら言った。

「お茶、飲むでしょ?
ちょっと待ってなさい。いれてくるから」
「ありがとう」

霊夢がお茶を取りに行っている間にアリスは御参りを済ませておくことにした。
ちょっと多めのお賽銭を入れてお願い事をする。
 

「アリス、お茶入れたわよ」


……願い事を祈るのに集中していたせいで気付かなかった。
アリスは少し恥ずかしそうに霊夢の隣に座ると、いれてもらったお茶を飲む。

「おいしいわ。ありがとう」
「そう? いつもと変わらないと思うけど」


「今日は冬にしては暖かいけれど、やっぱり飛んでくると寒いもの。
お茶、私のために温めてくれたんでしょう?」
「さあ、どうかしらね」
「優しいのね、霊夢」

アリスは霊夢に笑いかけるが、霊夢は変わらずにお茶を飲んでいる。
アリスはそれを全く気にしていないのか、嬉しそうにまたお茶を飲んだ。
とてもゆったりとした居心地の良い時間が流れる。
アリスは霊夢とのこの時間がとても気に入っていた。
特に今日は暖かい太陽の光がよりこの雰囲気を快適なものにしてくれているので、とても気持ち良い。
霊夢の雰囲気もいつもより柔らかい気がした。



アリスはふと霊夢の視線がある一点に集中していることに気付いた。
「ああ、ごめんなさい。実はね、妖夢に習って一緒にお餅をついたのよ。
それで、よかったらと思って持ってきたの。
霊夢ってお餅、大丈夫だよね?」
「ええ、好きよ。ありがと。せっかくだし、頂くわね」

霊夢はアリスが持ってきたお餅のセット(あんこ餅、きなこ餅など)を食べ始める。

「ん~、美味しいわね。ほら、アリスも食べなさいよ。
食べちゃうわよ?」
「ありがとう。私はここに来る前に食べてきてるから、そんなに入らないのよ。
私に気にしないで食べちゃっていいわよ」
「そう? じゃあ遠慮なく」

もともと遠慮していたとは言いがたいスピードで食べていた霊夢だったが、さらにその勢いを増した。

「……もしかして、ずっとご飯食べてなかったの?」

さすがに心配になってアリスがきいてみる。

「そうね。お茶飲んでたから平気だと思ったけど、やっぱりお腹空いていたみたい。
 昨日まで雪降ってたし、家にはろくなものがなかったからね」
「…そ、そう」

どのぐらい食べてなかったのだろう? 具体的に言わないところが怖い。
さっきお賽銭が入ったと言っていたのに、ろくに食べていなかったのは材料の買出しを忘れたか、
動くのをギリギリまで我慢していたかのどちらかだろう。
アリスは軽くため息をつくと、改めて咀嚼中の霊夢を見た。

空腹感もおさまってきたのか、先程と違い味わうようにゆっくりと食べている。
霊夢は表情をあまり変えないが、嬉しそうなのが雰囲気や仕種でわかる。
アリスはそれ(喜んでもらえたこと)が嬉しかったし、食べている霊夢が可愛らしく見えた。

「ん? どうかした?」
「え?」


お餅を食べ終えた霊夢は、先程からずっと自分を見ながら優しく微笑んでいるアリスに声をかけた。
どうも食べているところをじっと見られていると照れくさい。
以前もおはぎを持ってきてもらった時に同じ状況になったけれど、あの時よりも少し恥ずかしく感じた。

霊夢はアリスを食糧提供者として大切にしていたが、それ以上にアリスの持っている穏やかで優しい空気が好きだった。
2人でお茶を飲みながらゆっくりとしているだけで、のんびりと落ち着いた気持ちになれるからだ。
アリス本人は気付いていないようだが、嬉しそうだったり、不思議そうにしていたりと、
どう思っているかが(霊夢には)ほとんど丸分かりなので、(もともと気を使ったことなどないが)気も楽だ。

ただ、今のアリスの表情は初めて見るので気になった。
見られていて嫌な感じはしなかったが、軽く聞いてみようと思ったのだ。


「私の顔を見ながら笑ってたでしょう?」

アリスは霊夢の言葉でようやく自分が笑っている(顔に出してしまっている)ことに気がついた。
そして、それが霊夢を怒らせて(誤解させて)しまったのではないかと思い、あわてて謝る。

「……っあ、ごめんなさい。悪気はなかったの。
本当に、悪い意味じゃなくて…………」

アリスの表情が見ていて気の毒な程、悲しいものに変わっていく。
霊夢は逆に驚いて、あわてて言葉を返す。

「別に怒っているわけじゃないわ。
なんで笑っていたのか気になっただけよ。教えてくれる?」

アリスは霊夢の言い方から怒っているわけではないとほっとする。
そして少し躊躇ったけれど、嫌われたくないので正直に答える。

「…れ、霊夢が私の作ったお餅を美味しそうに食べているのが可愛かったから………」

「………」

「霊夢?」


霊夢の頭の中はフリーズ気味だった。
今までに可愛いと言われたことが無かった訳ではない。
レミリアなどから、からかいで何度か言われたことはある。
だが、今回のはそれ(からかい)とは違う。

言うのが恥ずかしかったのか、少し顔を赤くして霊夢を見つめるアリス。

霊夢はどう返して良いのかわからなかった。
これが紫なら弾幕飛ばしておさまるのに、などと現実逃避をしそうになるが、
目の前にはしっかりとアリスが返事(許してくれるの)を待っている。

霊夢は結局。

「そう。さっきも言ったけど、怒ってたわけじゃないのよ。
なんか、無理に言わせちゃったみたいで悪かったわね」
「そんなことないわ。こっちこそごめんなさい」
「いいのよ。それに、言われて嫌だったわけじゃないから………」
「……っえ────」

ごまかした。

「アリス、今日はありがとう。お餅、本当に美味しかったわ」
「あ…、いいのよ。喜んでもらえてうれしいわ。
ねぇ、霊夢。その… また来ても良いわよね?」
「…ええ、待ってるわ」


アリスは霊夢に詳しく聞きたかったが、とりあえず悪く捉えられていないことが分かっただけで、よしとした。
時刻はもう夕方で霊夢の邪魔をしたくなかったし、また今度会いに来ればいい。
アリスは霊夢に手を振り、家に帰っていった。





一方、霊夢は……

「ごめんね、アリス……」

まだアリスの言葉を思い返していた。嫌だったわけではない。
恥ずかしい気持ちも少しはあったが、それよりも驚きのほうがずっと強かった。
アリスのあの目は私を、巫女としてではなく1人の女の子としてしっかりと見つめていた。
もう、私があの目で見られることはないと思っていた。

多分、言葉ではこの気持ちをうまく伝えられない。
ただ、アリスがくれる温かさが優しくて、心地よい。


「またね…… アリス」


霊夢はアリスが飛んでいったほうを見て、中に入っていった。
寒さが少し和らいだ気がした。

4作品目の投稿となります。
白玉です。

ほのぼのとした作品ですが、楽しんで頂けると嬉しいです。
これまでストーリーもゆったりと進んできましたが、次回で最終回です。
魔理沙もちゃんと出てきます。


批評・感想もよろしければお寄せ下さい。



*解説*
作中のポーカーフェイスの上手さを表すとこんな感じです。

幽々子>>霊夢>アリス>>>妖夢
白玉
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コメント



0.1380簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
特に好きなキャラ達ではないけど、ツボにきました。
3.100名前が無い程度の能力削除
このまったりした雰囲気や空気が好きだ。
4.100名前が無い程度の能力削除
良いですねこの雰囲気
7.100名前が無い程度の能力削除
なんかこう、いいですね、こういう雰囲気。
9.100名前が無い程度の能力削除
いや~悶えた!もう読んでるこっちが恥ずかしくなってくるっつーか、赤面するっつーかw
登場キャラを二文字で表すと
アリス=母性
妖夢=初心
幽々子=食欲
霊夢=貧窮
かな? 良いレイアリとアリ妖でした!
12.100名前が無い程度の能力削除
このシリーズを読むたびに思う事は何でこのアリスに今まで友達がいなかったのだろうという事。
メチャメチャ良い子じゃないですか!
やっぱり少し内気な所為か?それ位しか理由が思いつかない……
このまま東方では珍しい(失礼)友達一杯なアリスを目指して欲しいです。
最終回も期待してますね!


あ、後、本編とは関係ありませんが改行がおかしいところがあるので投稿後、確定させる前に見直したほうが良いかと。
13.無評価白玉削除
改行がおかしいところを修正しました。
名前が無い程度の能力様(6人目の方)、ご指摘ありがとうございました。


☆コメントを頂けた方への御返事☆
名前が無い程度の能力様(1人目の方)
楽しんで頂けたみたいで嬉しいです。コメントありがとうございました。

名前が無い程度の能力様(2人目の方、3人目の方、4人目の方)
コメントありがとうございます。作者もまったり、ゆったりとした雰囲気が好きなので、
気に入ってもらえて嬉しいです。

名前が無い程度の能力様(5人目の方)
楽しんで頂けたみたいで嬉しいです。
「キャラを二文字で表すと」っていうのは面白かったです。
ありがとうございました。

名前が無い程度の能力様(6人目の方)
そうですね、アリスは内気で少し不器用な(自分の気持ちをうまく言えない)子でしたが、とても良い子だと思います。
最終回も楽しんで頂ける作品にしたいと思います。
15.90司馬貴海削除
サッカリンみたいに甘い作品……!(知らない人は調べてみてね)
公式設定では人間に興味がないような行動とるんですよね、アリス。魔法の森で迷った人間を介抱するけど自身は魔法の研究やら人形操ったりで会話しないとか。
魔法使いという種族がそもそも引き篭もりだし、アクティブなアリスはこんな感じになるのかなー?

次回で最終回か……はてさてどんな終わり方になることやら
19.100時空や空間を翔る程度の能力削除
つきたてのお餅って美味しいですよね~。
もぉ~何年も食べてない事やら・・・
私個人として納豆も良く合いますね~。 うん。

20.100名前が無い程度の能力削除
次も期待しています。
23.100名前が無い程度の能力削除
いい作品すぐる 俺はこういうの大好きだw

次の作品にもwktk