Coolier - 新生・東方創想話

ポイズンホリック!

2008/01/27 02:02:02
最終更新
サイズ
11.5KB
ページ数
1
閲覧数
598
評価数
4/13
POINT
600
Rate
8.93

・・・事の起こりは些細なことだった。
いや、どんな大事も初めは小さなことから始まるわけだから
こんな言葉は使うだけ無意味という物だろう。

そう、今考えるべきは目の前のこの少女に如何にして勝つかということで___

「言っておくが香霖、いくら知略をめぐらせたところで無駄だぜ。
 私がどれだけ気まぐれかは知っているだろ?
 相手の行動が予測できない作戦なんて、何の意味も無い。」

「魔理沙・・・本当に、これしかないのか?
 こんなことでお互いの命を掛けてまでやる必要が・・・本当にあるのか?」

「くどいぜ香霖、私たちはお互いに納得してこういう結論を出したはずだ。
 つまり、『私たち二人のどちらかが犠牲にならなければならない』ってな。」

そう言った魔理沙の顔は苦渋に満ちていた。
おそらく彼女の目にも僕の顔がそう映っていることだろう。

お互い傷つけることを望んでいる筈が無い、
だが気紛れな運命は時としてこんな残酷な戦いを要求するのだ。

「そうか・・・そうだな、いまさら逃げられるはずも無い・・・か」

「そうだぜ香霖、仮にも男なら・・・覚悟を決めろ!」



そうして、戦いが始まる。


______動いたのはほぼ同時。

皮肉にも長年共に過ごしたがゆえに、お互い見事に相手の動きを予測したのだ。


戦いには弾幕を使わない。
僕達は真剣勝負には古来から続く原始的でシンプルな方法を選んだ。
すなわち、


「ああああああああああああああああああぁぁぁ!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!!!」

二人は鏡写しのような動作で踏み込み、気合を込めたこぶしを振りかぶる!





「最初はグー!!!じゃんけんっ____」

「・・・何をやってるんだお前らは」






・・・・・・・・・・・少女(と男)中断中・・・・・・・・・・・







んで、

「果物?」「そう、果物」

寺子屋で使うという教材を探しにきた上白沢 慧音氏に
二人して先ほどの奇行の説明をしているわけである。

「・・・一体どうやったら果物がじゃんけんにつながるんだ?」

「いや、そもそもの始まりは魔理沙が奇妙な赤い物体を持ってきたのが原因なんだが・・・」

要約するとこうだ、
まず魔理沙が変な物を拾ったから鑑定してくれと僕のところに持ってきた。
調べてみると、どうやら顕界に存在する果物らしい。
さっそく食ってみようという魔理沙に僕は警告した。

『食べ方によっては毒があるかもしれない。』

たとえ用途が『食用』とあっても安心はできない、河豚を例に出すまでも無く
自然界には調理法を間違えれば危険な食材が多数存在するのだ。
残念ながらいくら調べても調理法が分からない。
ならばどうするか、しばらく二人で考えて出した結論が


『そうだ、自分以外の誰かに毒見させよう!』だったわけだ。


・・・「自分達以外」ではなく「自分以外」であることから
この時点で二人とも手っ取り早い毒見役を決めていたともいえる。



「それで・・・お互いに醜い押し付け合いをした挙句、シンプルな方法で決めようとしたわけか。」

「「Exactly(そのとおりでございます)!」」

白い歯を光らせてハモる僕らを見る慧音の眼は、・・・・まあ、新聞紙で一撃加えた後逃げ出そうともがく
ゴキブリを見る眼よりはましだったと言っておこう。

「それで、これがその果物か・・・」

その果物は、赤よりはピンクに近い皮に覆われ、ところどころが緑色の舌のように捲れていた。
ハッキリ言って毒物といわれたほうが納得できそうな代物である。

「どうだ、慧音なら知ってるんじゃないか?」

魔理沙の期待はあっさり否定される。

「いや、悪いが分からん。少なくとも近隣の国の物ではないな。
 いづこか遠い海の向こうから渡ってきた類だろう。」

「慧音でも駄目か・・・」

がっくり肩を落とす。

「・・・諦めたらどうだ?どうみてもうまそうには見えないぞ、コレ」

「否!珍味ってのは大概ちょっとアレな外見をしてるもんだぜ。」

「なら、紫に尋ねてみたらどうだ?
 顕界の果物なら、顕界をよく知る者に聞くのが道理だろう。」

「まあ・・・僕達も彼女に聞くという案を思いつかなかったわけじゃない。
 だが、考えてもみてくれ、あのスキマ妖怪が親切にもただで教えてくれると思うか?」

「まぁ・・・ありえないな。」

彼女に『この果物は食べられますか?』と聞いたとしよう、
もしコレが普通に食える物なら、
『あらあら、これは危険な毒のある果物だから私が処分しておきましょう。』
とかのたまってボッシュートされるのが落ちだろう。
また毒の場合、及び紫がこの果物を知らない場合もほぼ同じ結果になるといえる。
つまり、どうあったところで僕らの口に入るという選択肢は無くなるわけだ。


「やっぱり他に毒見役を探すしかないぜ・・・
 断食5日目に突入した霊夢なら二つ返事で引き受けてくれるんだが・・・」

さらりと親友を毒見役の候補に入れる魔理沙に慧音さんはドン引きです。

「・・・5日目は一昨日過ぎてしまったからね。」

僕もしみじみと呟く。・・・・・・慧音がずっこけた。

「死ぬだろ、助けろよ!!」

「いや、今あいつの視界は消化できる物とそれ以外になってるから。
 下手するとこっちが食われかねないぜ。」

「僕も以前知らずに立ち寄ったけど、まさか江戸川乱歩の
 『闇に蠢く』の世界をリアルで見れるとは思わなかったよ。」

下手すれば一生もののトラウマになりかねない光景だったな、アレは。

「明日になればエネルギーをすべて使い切ってピクリとも動かなくなるから
 そん時に飯を持って行ってやるのが友情を長続きさせるコツだぜ。」

「お前のそれは多分友情じゃない・・・」

そう呟いてガックリと崩れ落ちる慧音。
どうやら人間好きを自称する彼女には、少々つらい人間関係だったようだ。


「まあ、細かい話はおいといて。とりあえず他の候補を考えようぜ。」

「そうだな・・・毒に当たってもまず死ぬことが無い妖怪。
 こいつらは一見毒見役としては理想的に見えるが、
 問題は妖怪が食っても大丈夫だからといって
 それが人間・・・人妖にも通用するとは限らないというのが問題だな。」

「なら白玉楼の連中も却下だな。
 幽々子なんか濃縮ウランがぶ飲みしてもピンピンしてそうだ。」

「できれば人で試したいけど、本当に毒だった場合が大変だな・・・」

「ようするにあれだろ?たとえ毒で死んだとしても、生き返る人間が居ればいいわけだ。」

今まで、僕達二人の会話を呆然と聞いていた慧音がその言葉にピクリと反応した。

「ま、待て!それはまさか・・・」

「そうか慧音が居れば話は早いぜ。
 なあ、ちょっと竹林まで行って妹紅呼んで来てくれ。」

無論、毒見役として。
確かに蓬莱人の彼女ならどうあっても死ぬことは無い。・・・しかも一応人間。
まさに適役と言っていい。

「駄目だ駄目だ駄目だ!妹紅にそんな怪しげな物を食わせられるか!」

「まあ死なないとはいえ、何らかの副作用の可能性までは否定できないな。」

「副作用って・・・全身ゴム人間にでもなったらどうする気だ!?」

「幻想郷に海は無いから溺れる心配は無いぜ。」

「そういう問題じゃない!
 あいつに食わせるくらいなら私が毒見役を引き受けるっ!」

「そうか!引き受けてくれるか!じゃあはいコレ。」

その台詞を予想していたかのように魔理沙は謎の赤い物体を渡す。

「え?」

「いやぁ友人のためにあえて毒見役に志願するなんて、慧音はまさに教師の鑑だぜ。」

「全くだ。この尊い自己犠牲の精神は後世に語り継がれてしかるべきだね。」

口々に慧音を褒め称える僕達。もちろん彼女の逃げ道をなくすためだ。

「お、お前らまさか初めからこのつもりで・・・」

今更になって嵌められた事に気づいたのか、慧音の顔は青ざめていた。
悪いが僕は、魔理沙が『他に毒見役を・・・』と言い出した時点で、
不幸にも絶妙のタイミングでここへやってきた
慧音を生贄にするという意味だと理解していた。
そして魔理沙は、僕の『毒に当たっても・・・』のくだりから、
慧音の友人である妹紅を餌にすることを感じ取っていたのだ。

あらゆる状況において貧乏くじを引かないコツは
速やかに自分以外の誰かと手を結んで
数の暴力で生け贄の羊(スケープ・ゴート)を決めてしまうことである。

「で、どうするんだ?」

「・・・食ってやるさ、教師に二言は無い!」

追い詰められた慧音は覚悟を決めたように両手に持った赤い果物を見つめる。
そしてそのまま口をあけて・・・停止した。

「まさかまる齧りしようとするとは・・・」

未知の物体を前にしてよほどテンパっているようだ。
『どうする?』と魔理沙にアイコンタクトを送る。
返事は・・・『面白そうだから放っておけ。』か、なるほど。

慧音の口と謎の物体Xはまるで反発する磁石を
無理やりくっつけるように近づいていき、そして・・・


「慧音をいじめる悪い子はいねぇが~!!」


突然の闖入者が香霖堂の扉をぶっ飛ばした。


「妹紅、お前がなぜここに!?」

突然現れた全身に焦げ痕だらけの少女、妹紅は
慧音の疑問に胸を張って答える。

「竹林で筍狩りをしていた私は、突如慧音の心の中から発せられた
 『助けてもこたんコール』を聞くなり慌てて飛んできたのさ!」

非常識にも程がある。

「しかし、ここまでこんな短時間で来れる筈が・・・
 は!?まさかその焦げ痕は・・・」

「ちょっと空気摩擦でな。
 言っただろ?私は慧音の為なら射命丸だってブッちぎってみせる。」

「妹紅・・・」

十中八九初耳だろうが、幻想郷一のバカップルに時系列など関係ない。
何しろ片割れは歴史喰いの半獣『ワーハクタク』だ。
歴史を自分達の都合のいいように改ざんするなど容易なことだろう。

「慧音を苛めたのは貴様らだな!
 正義の鉄槌、必殺のもこたんナックルを食らうがいい!」

「待て待て、誤解だぜ。
 私達はただそこの赤いのを味見してもらってただけだ。」

まあ、嘘は言っていないな。味見ではなく毒見だが。

「赤いのって・・・慧音が持ってるこれか?」

「ああ、どうやら顕界の果物らしいが調理法がトンと分からない。
 困っていたところに彼女が現れて味見役を買って出てくれたのさ。」

慧音は僕達の説明に不満があるようだが、
誘導されたとはいえ自ら毒見役になったのは事実なので何も言えないようだ。

「ふむ、そういうことなら私に任せろ。」

と、妹紅が突然そんなことを言った。

「な!?まさかこれを食う気か妹紅!?
 やめておけ、どんな副作用があるか分からないぞ!」

「?よく分からんが、要するにコレを食べられるようにすればいいわけだろ?」

「あ、ああ・・・確かにそうだが。」

「なら簡単だ、ちょっと中では無理だから表へ出るぞ。」

そう言って店を出て行く妹紅。
つられて僕達も店の外へ。

「なあ、妹紅の奴はあの果物のことを知ってるのか?」

確かに初めて調理するにしてはやけに自信満々だ。

「流石は妹紅だ、おそらく私達には想像がつかないほど広い見聞を持っているに違いない。」

「そうか?僕はどうにもさっきから嫌な予感がするんだが・・・」


そして・・・

店から出て10mほど先にアレをおいた妹紅は何故かそのまま僕達のところへ戻ってきた。
・・・嫌な予感は現実の物となりつつあった。


「なあ、ちょっと聞きたいんだが君はあの果物を食べたことがあるのか?」

「いいや」

「じゃあ前に見たことがあるとか・・・」

「ないな」

「書物か何かで知っているとか、人に聞いたことがあるとか・・・」

「全然」

「・・・ならその自信の根拠は一体何なんだ?」

「しいて言うなら経験と勘だな。
 安心しろ、ああいうゲテモノは火を通せば大概何とかなる!」

そう言って拳を振り上げる妹紅の手には無数の火球が________


「「「ちょっと待てーーー!!」」」「『-フジヤマヴォルケイノ-』」




_______で、

「見事に炭化したな。」

机の上にはこれでもかと言うほどに黒焦げになった『元』果物が転がっていた。
こうなってしまえば毒があろうが無かろうが関係ない、ただの炭だ。

「すまん・・・せめて鳳翼天翔ぐらいにしておけば・・・」

「いや火力の問題じゃないから。」

どっちにしろ駄目だろそれは。

「しかし残念だな、こうなるならちょっとぐらい食っておけばよかったぜ。」

確かに、今になってあの赤い皮の内側には
いまだかつて無い極上の味が広がっていたのではないかと思えてくる。


「ふむ。それなら、これはこれで・・・」


僕の呟きに他の3人が怪訝な顔をする。

「いや、もし一口でも食べてたら
 こうやって味を想像することもできなかったんだろうな、と思うと
 これはこれで良いんじゃないかなって・・・」

人は未知の事柄があるからこそ、そこに恐怖や希望を見出すのだ。
分かってしまえばそれは、つまらない現実の一部となってしまう。

それはこの幻想郷も同じ、
結界という殻に守られて初めて幻想郷は幻想として存在できるのだ。


「なるほど、確かに・・・何もかも分かっている世界なんてつまらないぜ。
 私達はアレの中身を知らなかったからこそあそこまで大騒ぎ出来たわけだしな。」

それに慧音がうなずく。

「つまり、私達は妹紅のおかげで『未知の果実』という幻想を守れたわけだ。」

「・・・いやそこまでしてフォローしてくれなくてもいいよ、慧音。」




「まあ、一件落着っぽい雰囲気が漂ったところで
 ちょっと妹紅に頼みがあるんだが。」

魔理沙はそう言って、自分の鞄から何かを取り出した。

「・・・なんだそれ?」

「実はさっき森で拾ったんだが・・・この『玄田 哲章っぽい声で囁く人面茸』の味見を是非してほしい!」

「おいおいそれなら僕のこの『500年前の桐箱に入っていた怪しげな干し肉』の感想を先に____」



「「いい加減にしろ!!」」


初投稿です。
作中の怪しげな果物はスーパーで見かけたのですが
チキンな自分には手が出せませんでした。

書いているうちにどんどんキャラが駄目な人になってしまった・・・反省します。
火だるま
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.380簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
これはこれでいいと思いますよ。
怪しげな物体・・・何でしょうか、ドラゴンフルーツ?
3.40削除
霊夢はもはや獣かよw
4.70名前が無い程度の能力削除
「ちょっと空気摩擦でな」
もこたんがなんてオトコマエな。
9.50名前が無い程度の能力削除
このバカップル大好きw
10.60三文字削除
説明見た限りではドラゴンフルーツかな?
にしても、妹紅スゲエ!