Coolier - 新生・東方創想話

Reine Himmel Sein ~レイム~

2008/01/24 10:06:40
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注:『Reine Himmel Sein ~マリサ~』の霊夢側の話です。






 小さいころから、空を飛ぶコトが好きだった。
 いつから飛べるようになったのかは知らない。気づけば飛べるようになっていた。
 普通の人間が空を飛ぶコトが出来ないと知ったのは少し後……
 博麗の名の重みを知ったのは、それからずっと後……

 ワタシは何故、空を飛べるのだろう……






 ● ● ● ● ● ●






 博麗霊夢はある朝靄の立ち込む山の中で妖怪と対峙していた。
 霊夢の隣には腰を抜かして座っている一人の男がいる。
 霊夢が山菜を採りに来たのと同じように、男もまた山菜を採りに来たのだろう。その最中に妖怪と出くわしたようだ。
 妖怪は獲物が増えたコトを喜んでいるのか、息使いが荒く、口腔からあふれ出る唾液の量も多いようだ。
 霊夢は懐の封魔針を持ったまま、妖怪の様子を伺っていた。
 
(知性の低い妖怪ね。スペカも持たず、本能だけで人を襲う低級妖怪)

 にらみ合うこと数秒。
 妖怪が先に飛び出し、霊夢の柔らかい首もとへ牙を突き立てようとした。
 対して霊夢はつまらなさそうな顔で妖怪を見やると、封魔針を投げつけた。
 投擲された針を妖怪は大きく跳躍して避け、そのまま獲物へ向かって大きく口を開ける。
 しかし、そこへ光る物体が妖怪の眉間、胴、手足へ突き刺さり--避けるコトを見越した霊夢が第2波として投げておいた針である--激しい雷撃が走った。
 そのまま勢いよく地面に落ちた妖怪は全身に酷い痺れを残したまま、あたふたと山の中へ逃げていった。
 嘆息を付いた霊夢は男へ振り向き、大丈夫かと尋ねた。
 男は何度もうなずいたあと、抜けた腰も戻らないまま這うようにしてその場を去ってゆく。
 霊夢はまた息を付くと、何事もなかったように山菜採りに戻った。






 ● ● ● ● ● ●






 神社に戻った霊夢は背負った籠を台所へ置き、やかんに水を入れて湯を沸かし始める。
 戸棚から急須と煎餅を乗せた盆を取り出し、急須に茶葉を入れて、湯が沸くまでの間に山菜の芽抜きをする。
 しばらくすれば、やかんの頭から蒸気が零れ鳴く音が聞こえてくるようになると、作業を中断して急須へお湯を注ぎ、湯のみと盆を持って縁側-本堂の縁-へ出た。
 盆を置き、急須から湯のみへお茶を注ぐと、ふわりとお茶の良い香りが漂う。
 熱くもなく温くもない、自分好みの温度になってから霊夢はお茶を啜る。
 
 上向けた目に入るのは青い空。
 雲がゆっくりと流れ、風が気持ちいい天気だ。

 霊夢は空を見てふと思う。
 



 空にはいつも雲がいるのよね……



 雲だけじゃない。風や太陽だって空の物。夜になれば星と月が空を埋めつくす。

 



          ワタシはドコにイケバイイノ?



 今、ヘンな考えが頭をよぎった気がする。どうも陽気にあてられて頭が春になってるみたい。
 こんな状態を紫にでも見られたら、何を言われるものか分かったもんじゃないわ。
 何か気分転換になるようなコトはないかしら……普段あまりしないコトをしてみるといいかもしれない。
 
「紅魔館にでも行ってみようかしら」

 向こうから来るコトは有っても、こちらから出向くコトはしないから。
 お煎餅を一枚パリッと食べ終えてから、ワタシは紅魔館へ向かうコトにした。






 ● ● ● ● ● ●






 空を飛ぶ度に気分が少し憂鬱になる。
 意識しているワケではないのだけれど、この時だけは自分が普通の人間ではないコトを感じるからだ。
 普通の人間は空を飛ぶコトが出来ない。あの魔理沙だって自力で飛ぶコトは叶わず、箒を使って飛んでいる。
 博麗のみが持つ特殊能力なのか、ワタシは物心付いたときにはもう飛べるようになっていたと思う。少し曖昧なのは、あまり覚えてないからなんだけど。
 それくらいワタシにとって、空を飛ぶというコトは当たり前のコトであって、特に驚くようなコトでも何でもなかった。
 けれど、他の人間から見れば空を飛ぶのは鳥か、もしくは妖怪の類であるという見方がある。ワタシ以外の退魔師の人も空を飛ぶコトなんて出来ない。

 空を飛べるワタシは彼らの目から見れば妖怪と同じか……今朝助けた男が見たように……
 



 今日のワタシはやはりどこかヘンだ。
 嫌な思考に陥ってる間に紅魔館が見えてきたので考えを放棄して、減速する。
 降りた先の紅魔館の大きな門の前で、中華服の門番が先を塞ぐようにして立ちふさがっていた。けど、ワタシの顔を見た途端、少し間抜けな顔を見せてくれた。
 
「あ、あれ? 霊夢さん?」
「確かに私は霊夢だけど、誰だと思ったの?」
「いやぁ~まぁ、その、ココに来る人と言えば大体は……」
「魔理沙ね……まったく」
「それよりもですね、霊夢さん。いったい何の用事で紅魔館に?」

 しまった、特に何も考えていない……かと言ってここまで来てしまった以上、普通に帰るのも何かイヤだ。
 結局ワタシは適当に思いついたコトを言った。

「えっと、本でも読もうかなと思ってきたんだけど……」
「本ですか? 霊夢さんが本だなんて珍しいですね」
「確かにそうだけど、人から言われると何かムカついてくるわね」
「いやいやいや!! 決してそんなつもりで言ったわけじゃありません!! ええ本当に!!」
「まぁいいから案内してよ。ここの図書館にいるもやし魔女の所にさ」
「あの~、霊夢さん。いくつか言いたいコトがあるんですけど」

 美鈴がおずおずと言った。



「私は門番であって案内係じゃありませんし、今の言葉をパチュリー様が聞いたら激昂すること間違いなしですよ」






 ● ● ● ● ● ●






 赤を基調にした紅魔館の廊下は吸血鬼の主の為か、窓がなく、昼間でも日が差すコトはない。
 そのため絶えずロウソクが灯され、暗い廊下をほんの少しだけ明るくさせるコトに成功している。
 そんな薄暗い廊下を二つの足音がリズムを奏でて響かせる。
 音の一つは客人の博麗霊夢。そしてもう一つは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜だ。
 二人は人っ子一人どころか妖精の気配もない廊下をどちらも口を聞くことなく、淡々と歩いていた。

「時に霊夢。貴女、気分が悪くなったりはしていない?」

 先を行く咲夜が口を開いた。

「突然何? 別に気持ち悪くはないわよ」
「そう。やっぱり貴女は普通の人間ではないわね」
「どういう意味よ」

 赤の壁よりもなお赤い敷き詰められた絨毯。暗闇によって生まれる黒の色と混ざり、二色が織りなす空間は人の認識を歪ませ、精神を汚染させる。
 紅魔館は人が住むには向かない造りになっているのだと、と咲夜は説明した。

「貴女がここで特に変調をきたしていないのは、どういうコトなのか、ちょっと気になっただけよ」
「多分、博麗の名に刻まれた言の所為じゃないかしら。変化を受けないような守護を得ていると以前読んだ記憶があるわ」
「言霊の世界ね。私の名はお嬢様に与えられたものだけど、どのような意味を刻まれているのかしら……」
「咲夜?」
「はは、おかしいわね、私も廊下の毒に冒されたかしら」

 普段からは想像も出来ない咲夜の発言にワタシは何も言えない。そもにして咲夜が普通の人間なのかと疑うコトになってしまう。



 普通の人間……咲夜も空を飛び、人間が変調をきたすというこの館で今まで暮らしている。
 そんな咲夜はワタシと同じ人から外れた人なのだろうか……



「霊夢?」
「え、何ッ」
「何を惚けているの。着いたわよ」
「あ、ココがそうなの」

 咲夜に呼ばれて気が付けば、眼前に木で出来た両開きの扉が重々しくその存在感を示していた。
 咲夜自身もいつもの瀟洒なメイド長に戻っている。
 それにしても、今、ワタシは何を考えた?

「今、開けるからちょっと待ってて」

 懐から鍵の束を取り出し、ロックされた図書館の鍵を外す。

「中に人がいるんでしょ? なのに鍵を閉めているの?」
「こうでもしないとメイド達がここでサボタージュするから。」

 ガチャリとノブを回し、内開きの扉を片方だけ開ける。
 中は廊下と同じように暗く、いくつもの天窓から差す日差しが通路だけを明るくしている。左右に配置された本棚に挟まれるような形の通路は思いの外広く、人5人分の幅がありそうだった。
 咲夜が中に入り、続いて霊夢も入る。

「パチュリー様、お客様です」

 誰もいそうにない図書館内で咲夜はパチュリーを呼びかける。当然のように何も声は返ってこない。

「いないんじゃないの?」
「パチュリー様に限ってそれはありえません。もうしばらくすれば」

 咲夜が言った瞬間、床が突然光りはじめて魔法陣を描き出した。描かれた魔法陣から光の柱が生まれ、中から一人の魔女が飛び出してきた。
 図書館の君主にして日陰の魔女、パチュリー・ノーレッジ。
 魔法陣はパチュリーを生み出すとその痕跡を残さずに消えてしまった。

「お客ってそこの巫女のコト?」
「ええ、そうでございます」
「ふ~ん、珍しいわね。咲夜もそう思わない?」
「思いましたので連れてきました」
「おい」
「まぁ、何を読みに来たのか知らないけれど、ここではあまり大したおもてなしは出来ないわよ」
「別に期待はしてないわ」
「だそうよ、咲夜。頑張ってね」
「分かりました。誠心誠意を込めておもてなしをさせていただきます。はぁ……」
「アンタも苦労してるのね」
「放っておいてちょうだい」

 やはり先程の翳りは見えなかった。



 あのあとパチュリーはざっと陳列してある棚の分類を挙げたあと、小悪魔に案内を託して奥へ引っ込んでしまった。
 咲夜は入口辺りに設置されたテーブルセットにカップを用意しておもてなしの準備をしている。

「で、どんな本をお求めですか?」

 目の前でパタパタと羽を動かして浮いてるのは、ここで司書をしているという小悪魔だ。「こぁと呼んで下さい」と自己紹介された。
 霧の異変の際、速攻でぶっ飛ばしたからあまり記憶にないけど、その後の宴会にはちょくちょく来ていたような気がする。
 
「ん~、こう、生活を楽にする為の本ってない?」
「『家庭・生活』の本ですね。それだとエB-01の棚だったかな。あ、そこに立っていて下さい」

 こぁに言われた様に立っていると、足下に光が生まれ、魔法陣が描かれてゆく。先程パチュリーが登場したのと同じものだ。
 
「座標OKっと。じゃあ飛びますね」
「え、飛ぶ?」と言った時には光に包まれ、気付けばさっきとは違う通路に立っていた。周りにいた咲夜はおらず、こぁが隣にいる。
「あ、そういえば初めてだったんですね。今のはですね~パチュリー様が組んだ転移魔法陣なんですよ」

 こぁの説明によるとあの魔法陣は図書館内に設置された同型の魔法陣を通して人・荷物を瞬時に移動させる魔法なのだという。
 これによって図書館内の利便性が一気に向上し、司書のこぁは歓喜したそうだ。

「設置する前と設置作業が大変でしたけどね~」

 と、どうでもいいおまけを涙流して話して下さいましたが。



 案内された本棚から十冊ほど抜き出したところで妙な本を見つけた。
 大きさは和綴本みたいだが、本文が固い表紙に挟まれた形の本。くるりと回すとタイトルが書いてある。



 『何もない空』



 胸がズクンと痛んだ。
 



「あれ? 何ですかそれ。って、ああ!! 私ったら間違って入れていたぁぁ!!」
「これも借りていくわ」
「え、まぁ、別にいいですけど……霊夢さん、何か様子が変ですよ?」
「そうかしら? あと、本はこれぐらいでいいわ。そろそろ戻りましょう」
「わかりました。じゃあさっき出てきた場所へ戻って、入口ロビーへ転送しましょう」



 入口ロビーへ戻ると、パチュリーが既にテーブルの上で本を読みながらお茶を飲んでいた。
 しかし、咲夜の姿はどこにもなく、聞いてみると「レミリアに呼ばれた」と返答がきた。
 司書に預けていた本をテーブルに下ろし、パチュリーと同じ様にお茶を飲みながら本を読み始める。
 日が高くなる頃、パチュリーが「客を迎えに行ってくるわ」と言い残して、席を立った。こぁに自ら積み上げた本の塔の片づけを命じて--
 二人が去ったコトを確認してから、読んでいた『生活のハウツー本』を脇に置き、固い表紙の本を取り出した。
 固い表紙には焼き印を押されたような形で『何もない空』と題名が刻まれている。作者は日本語で『創始』と表紙と同じ様に刻まれていたが、このような印刷技術は幻想郷ではありえないから、おそらく外の人間だろう。
 パラリと一枚めくる。



      空にはなにもない 故 すべてを受け入れる

        我らが見やる 空は 常に寛大で

      雲も 風も 鳥も  すべてを  受け入れ

          そして 空の一部となる



 心が震えた。
 本を見つけたときよりも痛んだ。
 今まで空はそこに有る物達のものだと思っていた。けれど、この本はそれらも空なのだと言っている。
 ならば空を飛ぶワタシも空と一つになっているということなのだろうか。

 動悸を抑えたままページを捲ろうとしたとき

「霊夢、お客を連れてきたわよ」

 パチュリーの声が聞こえた。
 声に誘われて顔を向けると、そこには魔理沙がいた。恐らく今日も強奪に来たのだろう。二人が来たので本を閉じる。
 あれ? 今、後ろをこぁが通っていったような……

「『何もない空』?」

 いつの間にか魔理沙が読んでいた本をのぞき込んでる。
 一瞬、口から叫びが出そうだったがガマン。

「詩集というか空想物語というか、中身を簡単に言うと空に憧れた人の心象を描いた本ね」
 
 ワタシが説明したとき、魔理沙の表情が変わった。
 非常に驚いた顔だけど、ワタシには分かってしまった。魔理沙もこの本が持つ魅力に惹かれたのだ。
 薄々気付いてはいたけれど、魔理沙は空を飛ぶコトが非常に好きだ。何故、そのような考えを持つようになったのか、本人に聞いたことはないけれど魔理沙は空を愛してる。
 一度、そのコトを聞こうとしたコトがある。けれど、急に怖くなって言えなくなってしまった。
 
 そう思案してる内に魔理沙の手が本へと近づき--パシッ
 思わずはたいた。体が自然に動いたコトに動揺し、その後冷静に振る舞おうとして失敗した--何故、弾幕勝負なんて挑んでしまったのだろう。
 結局、図書館を追い出されて、神社で再戦するハメとなる。

 でも、あの本に対して持った気持ちは多分……独占欲と呼ぶものなんだ。






 ● ● ● ● ● ●



 神社へ戻ったあと、本を部屋へ投げ込むと魔理沙はかなりやる気でこちらを挑発するような物言いをしてきた。
 あの本に固執する気分も分かる。あの本は空を愛する者が作った本。同じ空を愛する者が惹かれるのは至極当然のコトだ。
 そう、ワタシも気付かされた。
  
 

      ワタシがまだ空を好きなコトに



 だからもっとあの本を読みたい。あの本を読めば、ワタシが置いていったものが取り戻せる、そんな確信が何故かあった。
 その為にも今はまだ魔理沙にはあの本を渡すわけにはいかなかった。



 神社の境内で魔理沙と対峙する。
 魔理沙も普段のような軽薄な顔だけど、その内に秘めた想いというのは、ワタシと同じだろうか?
「ねぇ、魔理沙」と言ったところで止めた。どうせ今から分かるコトだ。
 共に空へと浮き上がる。頬と髪に吹き付ける風が気持ちよく感じるなんて、何年ぶりのコトだろうか?
 ふと昔を思い出した。



 あれは今よりもっと小さい頃。
 空を飛べるようになった時だ。空へ上がるたびに吹いてくる風が気持ちよくて、いつまでも飛んでいたくて、神社の上空をずっと飛び回っていた。
 それはとても幸せで、いつまでも浸っていたいと思っていた。
 けれど、幸せは崩壊する。
 あれは他の退魔師を助けた時のコトだ。
 ワタシも小さく、退魔師もプライドがあったのだろう。ワタシは苦戦していた退魔師に「空を飛べるようになればもっと楽に戦えるようになる」と軽く言った。
 退魔師は「人間が空なんか飛べるか!!」と激しく怒鳴った。その後の言葉もまだ覚えている。

「お前みたいな化け物と一緒にするな」
 
 初めて自分が他とは一線を画した存在だと知った。それまでのワタシの世界は博麗であるかないかの違いだけで、中身を取り違えていた。
 それがどれだけ人間とかけ離れ且つ重要だとは知らなかったのだ。

 博麗大結界を支える柱・その為に与えられた大きな力・人でありながら最も人より離れた存在。

 博麗の名の意味を知り、人がどのような目で見てるかを知り、それが悲しくて、刻が経つにつれ何も感じなくなっていった。
 心は静かに死んでゆくと共に空を愛した心もまた死んでいった……

 

 今、ワタシは楽しんでいる。
 魔理沙の放つ弾を避けながら、魔理沙が避けると分かっている弾を撃つ。
 ムダにばらまく弾幕などはこの争いにはない。
 弾幕ごっことしか称するコトが出来ないけど、ワタシたちは互いに空を飛ぶことを楽しんでいる。
 もっと飛びたい。もっと跳ねたい。もっと楽しみたい。
 魔理沙も同じ気持ちのハズだ。遠目でも分かるほどに顔が笑っている。魔理沙から見ればワタシも同じ様に笑っているだろうか。

「なぁ、霊夢!!」
「何、魔理沙」
「楽しいなっ!!」
「……ふふっ。魔理沙らしいわ」
「何だよ、それ? 霊夢は楽しくないのか?」

 楽しいに決まっている。まさかまたこんな気持ちになるコトが出来るなんて信じられないくらい……

「楽しいわよ……まさか、私も楽しいだなんて思いもしなかったわ」
「さて、本当に名残惜しいが、そろそろ勝負を決めてやらないとな」

 そう、もう終わってしまうのね。名残惜しいというのは同感だわ。
 魔理沙が懐から八卦炉を取り出すの見ると、ワタシも裾からスペルカードを取り出す。

「いっけぇぇぇぇ、恋符『マスタースパーク』!!!!」
「舞いなさい、霊符『夢想封印』!!!!」

 魔理沙から極太の光が発射され、それを止めるように夢想封印がぶつかってゆく。
 けど、マスタースパークは幻想郷でも屈指の威力を誇る魔理沙自慢のスペル。正面からぶつかっても勝ち目はない。
 そこで一計を案じた。
 夢想封印をダミーとして使い、魔理沙へ近づく。フルパワーで放つマスタースパークは太く、魔理沙自身も前が見えない状態になっている。自身の技で目を覆うのも間の抜けた話だけど、魔理沙ならありうる話。
 ワタシはただ撃つフリをして(実際には撃ってるけど)魔理沙の元へと出向けばいいだけ。
 作戦は成功し、ワタシは魔理沙を撃墜した。



 夕暮れの境内に鴉の鳴き声が響き渡る。陽は神社を紅く染め上げ、霊夢は気絶した魔理沙を介抱しながら、本を読んでいた。
 
 「黄昏夕日の中に得無き空へ 影傾へ至るも塑は空と成る」
 「ん、んん」
 「あら、起きたのね」
 「霊夢……私はいったい」
 「あの距離で夢想封印を撃ったからね。気絶してたのよ」
 「そうなのか……ハァ、また負けちまったな」
 
 魔理沙は横たわったまま赤焼けの空を眺める。燃えるような空の色はどこか心を不安にさせるも美しかった。
 
 「魔理沙」
 「何だ」
 「……魔理沙はどうして空を好きになったの?」

 
 霊夢は読んでいた本を閉じて魔理沙を見ていた。問いかけの表情は少しだけ悲しみを持たせるも真剣。
 魔理沙には霊夢が悲しんでいる理由は分からなかった。しかし、問いかけられたからには答えないといけない。
 
 「改めて言われると難しいな。でも、あそこが私の居場所だと思ったんだ」
 「居場所?」
 「ああ。元々、親とは仲が悪くてな。何か怒られる度に空を見てた。見ていると自分も雲になったような気がしてな」
 「雲に……」
 「そう思う内に今度は空を飛びたいと思うようになってな。それで魔法使いになろうとしたんだ。初めて飛べた日は本当に嬉しかったぜ。ハハッ、何で好きになったのかが自分でもわかんねぇや」
 
 魔理沙の言葉に霊夢は微笑を見せる。夕日の日差しも当たって神々しささえ感じた。
 思わず魔理沙は顔を背けてしまう。あんな顔は直視できなかったし、自分の照れ顔も見られるのが恥ずかしかった。
 一方、霊夢は魔理沙の仕草の意味は分からなかったが、話してくれて嬉しかった。
 やはり魔理沙も自分と同じだった。



 いつ、空を好きになったのか分からない。
 
 
 
 空を飛びたいから好きになったワケでもなく、好きになったから空を飛びたいワケでもなく
 

  
 ただ、気付けば空に恋していた



「魔理沙、ご飯食べてゆきなさい」



 あとで魔理沙に話そう。



「ふぇ? 珍しいな。霊夢の方から誘ってくるなんて」



 魔理沙も話してくれた、空への想い。



「私も話してあげる。ただ、ちょっと長いからね」







 最後にワタシの空への想いを語って返そう



 なにもない空



 太陽と笑い 雲と戯れ 風と語る
 
 
 月と酒を交わし 星と飾る

 
 雨と泣き 雪と暮れ 雷と叫ぶ


 でも 全てはアナタ 見えやすく気づきにくい アナタの素顔
 

 Reine Himmel Sein?


 鳥も気候も全てアナタになれる きっとこの心も思い馳せる限り 空になれる


 Reine Himmel Sein



 だからボクは好き
こんにちわ、RATHといいます。
二回目の投稿です。前作の霊夢側の視点で書いてみました。

思いついたのが前作を書いている時だったので蛇足な部分も多々あります。さらにコレ書いてる間に違う人の話も考えていました。
ので、結構意図の見えにくい文章に仕上がってしまったと自負してます……orz
しかも一ヶ月近い間が開いてるし……

次は多分、咲夜さんかオリキャラか、筆を折るかの3つです。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。

1/26:朔夜→咲夜 「」内のアタシ・アナタを漢字に修正。
カタカナを使うのはタダのスタイルなのですが、ちょっとだけ貫かせてください m(_ _;) m
RATH
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コメント



0.320簡易評価
1.無評価名前が無い程度の能力削除
朔夜→咲夜
2.30名前が無い程度の能力削除
話はとても良かったです
しかし、気になるところが余りにも多い
ワタシ→私
アナタ→貴方、貴女
としたほうが良いと思いますよ
次回作に期待します
8.100名前が無い程度の能力削除
何だかんだで二人は似たもの同士だと思うのですよ
末永くマブダチでいて欲しいものです