神主CDについてくるショートストーリーをイメージして書いたものです。
1、無何有の郷 ~Deep Mountain 「東方妖々夢」1面のテーマ
2、懐かしき東方の血 ~Old World 「東方永夜抄」3面のテーマ
3、風の循環 ~Wind Tour 「東方文花帖」撮影曲1のテーマ
4、オリエンタルダークフライト ~Dark Situation 「東方花映塚」霧雨魔理沙のテーマ
5、夢、理想描いて ~Closed World 「幻想大紀行」オリジナル
6、少女綺想曲 ~Dream Battle 「東方永夜抄」博麗霊夢のテーマ
7、少女が見た日本の原風景 ~Sight Of Gensokyo 「東方風神録」5面のテーマ
8、ネイティブフェイス ~Hidden Truth 「東方風神録」洩矢諏訪子のテーマ
9、日暮れに散る命の花 ~An Unexpected Meeting With Her 「幻想大紀行」オリジナル
10、魔法少女達の百年祭 ~Imaginary Festival 「東方紅魔郷」エクストラステージのテーマ
1、―無何有の郷 ~Deep Mountain― 「東方妖々夢」1面のテーマ
「メリー、今日はちょっとお願いがあるの」
突然蓮子にそう言われた。「今日は」じゃなくて「いつものように」じゃないのかしら?
しかも「ちょっと」じゃないのよね。
「なに?また結界でも見つけるつもりなの?」
蓮子はその言葉を聞くと、こくんと頷いた。
「博麗大結界のおおよその位置の情報を手に入れたのよ。行ってみない手はないでしょう?」
そういえば、前に博麗大結界の話題が出たのは……えーと……確か、蓮台野に行った時だったかな?
彼岸花はもう見たくないわね。だって、何だか怖いですもの。
「また裏ルート?蓮子も懲りないわよねぇ……。一体何の裏なのか知りたいわね」
「裏の裏は表。ならこの場合の表って何なの?って事になるわね。まぁ、そこら辺は気にしない、気にしない」
そう言って蓮子は地図を広げた。
「私が得た博麗大結界の情報から推測すると、多分この辺り。この神社の周辺かしら?
まぁ、周辺って行っても3km近く離れてるけど。
今日から連休に入るし、行くにはちょうど良いとは思わない?」
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2、―懐かしき東方の血 ~Old World― 「東方永夜抄」3面のテーマ
蓮子と来たのは、凄い田舎だった。
列車を日本乗り継いでようやく来れるような辺境の地。廃屋も結構目立つわね。
「蓮子、ほんとにこんなところに結界の入り口があるの?私には何もないように思うんだけど……」
蓮子は振り向いて言った。
「言ったでしょ。まだまだ奥の方にあるのよ。ここからだと、そうね、だいたい4kmぐらい森の中かな?
さぁ、どんどん行くわよ!あと、今日は森の中で野宿よ。急がないと飢えた獣に食べられちゃうわね」
そういって蓮子はどんどん歩いていった。
あぁ、うっそうとした森林……。気分も悪くなってくるわ。
どうして休みの日に山登りなんてしないといけないのよ……。これなら彼岸花鑑賞の方がマシね…。
そう思っていると、蓮子の嬉しそうな声が聞こえた。いつの間にか目的地に着いていた様だ。
「メリー。ここら辺に結界の入り口があるはずよ!
結界探しは夜するとして、とりあえず晩御飯でも作ろうか」
そういうと、蓮子はキャンプセットを取り出して夕食の準備を始めた。
あぁ、何でだろう……。自然物のタケノコが食べたくなってきた………?
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3、―風の循環 ~Wind Tour― 「東方文花帖」撮影曲1のテーマ
夜が来た。何も聞こえない沈黙の時間が。
風の音も、梟のような夜行性の鳥の鳴き声も聞こえない。何か凄く異様とも思える夜だ。
「ねぇ蓮子。ちょっと静か過ぎないかしら?流石におかしいわよ、これ」
「そうね……。結界が強すぎる事が原因なのかもしれないわね。
メリー、夜だから結界も強さを増してると思うわ。どこら辺にあるのか、大体で良いから感じ取れる?」
私は少し考え、こう言った。
「それなら、全ての音が聞こえないここら辺に結界があるんじゃないかしら?
ここが一番怪しいと思うわ」
すると、蓮子はこういった。
「それじゃあ…、ここなのかしら…?でも、結界の力なんて感じないのよね?」
「うん。微弱な力は感じるけれど、これが博麗“大”結界ってぐらい強い結界があるとは思えないのよね」
それを聞くと、蓮子は少し考えてから寝袋を出し始めた。
「それじゃあ結界探しは明日にして、今日はもう晩いから寝ましょう?
ほら、昔どっかの芸術家さんも言ってたでしょ?何とかは爆発だ!って。
その人、多分寝不足だったからそんな変なことを言ったんだろうね?」
そんな変なことを言いながら、就寝の用意をし始めた。
本当にここで野宿なのかしら?もう嫌になってくるわね……。
満天の星空の下で寝るのは、確かに気持ち良い。それに虫もいない。
…今が秋じゃなければ最高なんだけどなぁ…。
温度は大体14度くらい?それに風も吹いてきてるし。少し肌寒いわね…。
そう思っていると、いつの間にか深い、闇の中に落ちていた。
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4、―オリエンタルダークフライト― 「東方花映塚」霧雨魔理沙のテーマ
「…リー!………!…リーってば!」
あぅ……。
「もぅ……。何よ、蓮子、そんなに取り乱して……。
朝ごはんの材料が無いとか言わないわよね…?」
目を開けると、そこには顔面蒼白になった慌てふためいた蓮子がいた。
「メリー!そんなことなら良かったわよ……。いや、良くないね。それも十分悲惨だ。
って、そんな事じゃない。とりあえず周りを見て。何かに気付かない?」
本当、朝ごはんは大切よ…。蓮子も分かってるじゃない。
朝ごはんを食べないと脳に栄養が行かないから、致命的なミスも犯しやすいし。
「周りって……。森でしょ?それにしても暑いわね……。フェーン現象かしら?」
「もっとよく見て。昨日私達が寝た場所に、あんな大木はあった?
それに、フェーン現象が起きたとしても、こんな真夏日並みの気温まで一気に上がるなんて無いはずよ。
多分、寝ている間に、メリーの力で結界を越えたんじゃないかな…?」
「ふぇ……?………結界を?ということは、ここは博麗大結界を越えた世界……?!
ちょっと待って!寝ている間にそんな事が起こるなんて今まで無かったわよ?
しかも、結界の力は凄く微弱で、こんな地域を丸ごと隔離しているようなものじゃなかったのよ?」
「分からないけど…。何かの力が作用して、こっちの世界に引きずり込まれたのかしら…?
そういえば…。確か近くに神社があったはずよ。元いた世界と違うのなら、それは無いはず。
時空を司る結界を超えたのか、それとも次元や世界を司る結界を超えたのかそれで分かるはずよ!」
蓮子は凄く眩しい笑顔をしながらそう言った。もう、蓮子ったら……、この状況を楽しんでるわね?
もし、もしあの夢みたいに、得体の知れない怪物が襲ってきたら…!
そうね…。その時は…覚悟を決めるしかないわね…!
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5、―夢、理想描いて ~Closed World―
昨日着た道とは全く違う、獣道とでも言うべき道しか残されていなかった。
そんな道を、苦心して30分ほど歩いただろうか。目の前に開けた道が現れた。
「やっと道らしき道に出れたわね…。…どうしたの、蓮子?何かあるっていうの?」
不審そうに周りの様子を窺っている蓮子に聞いてみた。
「何か…、嫌な感じがしない…?メリー、少し、ここで様子見しましょう…?」
おびえた顔をしながら私に小声で話しかけた。普段の蓮子からは全く想像も付かない姿だった。
「え、えぇ…。蓮子、熱でもあるの?何か、今の蓮子、おかしいわよ…?」
「……メリー、驚かないで、あの少女を見て。丑寅の方角にいる、あの少女を」
その言葉を聞いて、北東の方角を見たけれど、何もいなかった。はずだった。
上空を、飛んでいる。その違和感に気付いた瞬間、私の体に鳥肌が立った。
「空を……飛んでいる…なんて…」
少女はこちらの方角を一瞬見て(本当に見たのかしら?)、西の方角へと飛んでいった。
もしかして、私たちに気付いたのだろうか…?
不安に思っていると、蓮子が唐突に言った。
「…夢に描く世界は理想の世界。でも、理想の世界なんて夢物語。その理想が夢だと気付かないのは
その世界が既に閉ざされた世界だから。私たちがもといた世界は、閉ざされた世界だった…?」
「閉ざされた世界でも、幸福を感じることが出来るなら、私はそれでも良いと思う。
でも、いつかきっと…。それに満足出来なくて、その先を探す為に前に進む人間も出てくると思う。
その役目が、私たちに回ってきただけの事だと思う」
「…そうね、そうよね。メリーの言うとおりかもね。先に、進もうか」
その言葉に、私は首を縦に振った。
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6、―少女綺想曲 ~Dream Battle―
「あった!」
蓮子が唐突に叫んだ。目の前を良く見ると、確かに神社らしき建造物が見えた。
あの後私たちは、開けた道沿いに森の中を進んでいった。勿論、隠れながら。
警察から逃げようとしている犯人みたいな感じだったわ…。
「神社があったって事は、次元か世界を超えたのではなくて、時空を超えたって事?
でも、時空なんて単一的なものを遡るなんて出来るのかしら?」
蓮子は地図を見ながら言った。
「時空を超えるのは、一方は難しくて他方は難しくない。遡るのは不可能だけれど、進むのは可能よ。
例えるなら、そうね。
前者はホーキングの時空の矢逆転で、後者はアルベルトの相対性理論で説明が付くはずね。
でも、まさか……。今ありえない事だなんて言ったけれど、これは戻っているんじゃないかしら…?」
そう言って蓮子は一枚の写真を取り出した。
「これが裏のルートでてにいれた神社の写真。見る限り、構造的にはあの神社と同じ。
でも、明らかに写真よりも新しい。手入れもされている。
という事は、結界はあの神社を起点にしていて、あの神社が時間軸の中心点となっているのかしら…?」
「蓮子、手入れされているんなら人がいるかもしれないわよ?いきなりとって喰われたりはしないだろうし、
ここの神主さんか誰かに話を聞いたらどう?」
「そうね、いきなりとって喰われたりはしない…でしょうしね」
不安の残る表情で蓮子はそう言った。
そして、私たちは神社へと足を踏み入れた。
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7、―少女が見た日本の原風景―
「ごめんくださーい。どなたかおりませんかー?」恐る恐る声を出してみる。
奥の方から何やら音が聞こえる。という事は、誰かいるという事か。
暫くしたら、紅白の服を着た少女が出てきた。神社だから、巫女なんでしょうね。
「えーと…?どちら様ですか?賽銭箱ならあちらの方向ですよー」
まぁ、至極当然な言葉と、予想に反した言葉の二種類が出てきた。答えあぐねていると、蓮子がこう言った。
「えっと、私は蓮子。こっちは、メリー。
変な事を言うようだけど、森の中で寝ていたらいつの間にかこんな所に来ちゃってて。
良かったらここの事を教えてもらえないでしょうか?」
「あなた達、博麗大結界を破って入ってきたの?!あー…。また紫の仕業なのかしら…!
でも、この前弱っている部分は補強したって言ってたのに…。
……そうね。こんな所で話すのも何だし、ちょっと奥で話しましょうか。お茶ぐらいは出しますから。
あ、よかったらお賽銭入れてくれる?もしよかったらで良いわよ、よかったらで。」
そういってその巫女は奥へスタスタ歩いていった。私たちは顔を見合わせて、巫女についていくことを決めた。
勿論、お賽銭など入れるはずもなく。
「幻想郷…?」
博麗霊夢と名乗る巫女の口から飛び出た言葉に、私たちは聞き覚えが無かった。
この巫女さん、結界を掌っているのかしら?
若いのに結構凄いのね……。もしかしたら、神主の代理なのかもしれないけれど。
「そう、幻想郷。話すと長くなるから掻い摘んで話すけど、あなた達のいた世界、外の世界とは違う
隔離された世界。外の世界で幻想や、消えそうになったり忘れられたりしたものが集まる世界。
勿論人間も住んでいる。その他は、妖怪、獣人、神様とか色々いるわね。
妖怪や獣人には気をつけないと食べられたりする可能性もあるから、出来る限り近づかない方が良いと思う。
まぁ、高位の妖怪とかは妄りに人を襲ったりはしないから、丁寧な対応を心がければ危害は与えないはずよ」
私と蓮子は、その後も色々と質問したりした。
だって普通誰だってそうするでしょう?
まだ見ぬ知らない不思議で素晴らしい世界を目の当たりにしたら。
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8、―ネイティブフェイス―
「ところで…私たちって外の世界に戻れるのかしら?」
唐突に蓮子が聞いた。
「どうだろう?今までの人達は、ちゃんと送り返せたんだけど、あなた達はどこか違うらしくて、
送ることが出来ないのよね…。結界を見るという特殊な能力が発達して、結界を超える能力を持った。
その結果、想定されていない入り方をして、帰れなくなったのかしら?
とりあえず、あいつに話せば何とかなると思うけど、いつ来るのか分からないし…。
暫くはゆっくりしていて頂戴。ここを自分の家だと思ってくれてもかまわないわよ。
片付けは自分たちでしてもらう事になるけれど」
なんて無責任なことを霊夢は言っている。
そんなこんなで、幻想郷で二日過ぎた。
私たちが分かったことは、ここは日本の昔の姿そのものだと言う事(大体江戸時代後期?それぐらいかしら)、
外の世界とはほぼ繋がりがないと言うこと(香霖堂という所では、外の世界の道具を取り扱っているとか)、
カニバリズム(妖怪という種族は人間という種族とは違うから当てはまらない?)が行われている(いた?)という事など。
そして……私たちの休みは今日を入れて残り二日になったという事。
「メリー、そんな事で慌てない。そんな些細な事で焦ってたらこの世界では生きていけないよ?」
なんて楽観的に言ってる蓮子が羨ましいわ…。
この二日間、色んな事があった。もふもふした九尾を持つ狐が歩いていたり(しかも凄い綺麗)、
小さい可愛らしい羽の生えた子がいたり(霊夢に聞いたところ、妖精なんだとか)。
そして、外の世界ではあまり見られなかった、子供達の心からの笑顔。
ここは、本当に良い所だ。外のゴミゴミとした世界よりも、ずっと、ずっと…。
出来れば、この世界にずっといたい。そんな事を、思ってしまった。
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9、―日暮れに散る命の花 ~An Unexpected Meeting With Her―
「やっぱり美味しいお味噌汁ね。味噌が違うのかしら?」
本当にこの霊夢が作ったお味噌汁は美味しい。やっぱり天然物は美味しいのかしら?
「そう?ありがと。ありきたりの材料で作ったからあまり美味しくないかなと思ったんだけど」
「十分美味しいよ。こんな美味しいお味噌汁、久々に飲んだわ」
蓮子の言うように、確かにこんなお味噌汁は外の世界ではそうそうお目にかかることが出来ない。
まぁ、具材とか殆ど人工だものね…。
食事の後片付けを終えた時、霊夢が言った。
「そろそろ来るかな。あいつが」
「あいつ?」
蓮子が聞き返した。そういえば、来たときにもあいつって言ってた様な…?
「あー。……スキマ妖怪よ。境界を弄る能力を持っているから、その能力で外の世界に帰れると思うけれど。
……言ってる内に来たわね」
そう言う霊夢の視線の先を見ると、得体の知れない不思議な空間の裂け目が出来ていた。
その裂け目から、にゅっと手が飛び出している。
「珍しいわね、霊夢から誘ってくるなんて。良いお酒でも手に入った?」
そんな事を言いながら、一人の少女が出てきた。
「違うわよ。外の世界の人が来たから帰そうと思ったんだけど、何でか知らないけど帰せないのよ。
紫なら帰すことが出来ると思って呼んだのよ」
その言葉を聞いてか知らないけれど、その紫と呼ばれた人(妖怪って言ってたわよね?)はこっちを見た。
「あら、あらあら。あらあらあらあら。今日がその日だったのね。ようこそ、幻想郷へ。蓮子、そしてメリー」
「!!」
どうしてか、その妖怪は私たちの名前を知っていた。そして、今日会うことも知っていた…!?
「紫、どうしてこの人達の事を知っているの?あなたが連れてきた訳でもないのに……?」
その言葉を聞いて、紫は微笑んだ。
「簡単なことよ。まぁ、そうね…。ダイヤモンドと黒鉛みたいな関係かな?何れ分かる時が来ると思うわ」
意味深な事を言い始めた。そして、私の方に向いてこう言った。
「メリー、幻想郷はどうだった?かつてあなたが夢で見た世界のように、恐怖とか感じた?」
「どうして、どうして夢の事まで…!あなたは一体……」
私は、驚きを越して恐ろしさを感じた。どうして、蓮子以外の人は知らないはずなのに…。
「まぁ、恐ろしいわよね。いきなり、話した蓮子以外の人から夢の事を話題に振られるなんて。
ごめん、忘れて。…って言っても、私が覚えてるなら忘れたことにはならないのよね…」
正直、何が何だか分からない。蓮子も蓮子で何か考え事をしているし…。
「紫、何が何だか分からないけど、この二人はちゃんと外の世界に帰すことが出来るのかしら?」
霊夢が言った。
「多分、出来ると思うわ。霊夢、ちょっと外へ出ていてくれる?ちょっと込み入った話もしたいしね」
その言葉に頷くと、霊夢はぶつくさ文句を言いながらも外へと出て行った。
霊夢が出て行った後、少し間をおいて紫はこう言った。
「私がここにいる理由、わかる?もしわかったのなら、それが答え。
……でも、世界は幾つも分かれている。一定のベクトルしか持たない世界なら、私はここに残ることはなかった」
言っている事がよく理解できない。平行世界の理論?どうして今ここで?
「でも、そのベクトルに逆らう能力を私は得た。というより、自然に力が上がっていっただけなんだけど。
結界を越える能力。場数を踏めば、その能力は何れ日常と非日常を分ける境界を越える能力となり、
そしてその境界を弄る能力へと変貌する」
確かにそうだ。結界を見る能力だったのが、越える能力に上がってきた。
このままいけば、紫の言うとおりにもっと世界の真理を無視する能力となるだろう。
「私は、あの時私自身に会った。あの時の私も、数ある平行世界の事と、境界の事を聞かされた。
そして、結果的に私はこの世界に残ることになってしまった。
あの時の私自身は私と蓮子を外の世界に送った。だけれども、失敗して私はこの世界に残る事になった。
それも、今よりもずっとずっと昔に遡って。
本来なら有り得ない事だけれど、起こってしまったのだから、仕方がないことよね」
そのとき、蓮子が口を開いた。
「そんな、有り得ない…!同一次元上に同一人物が二人も存在するなんて。物理学の範疇を超えた現象、
これが、この世界?メリー、あなたは一体何を知っているの?」
やはり、目の前の人物は、マエリベリー・ハーン。
私自身なの…!違っていてほしい。何故だか分からないけど、そう思いたいッ……!!
「同一というのは少し違うわね。でも、何れ知ることになると思うわ。
失敗したのなら、私と。成功したのなら、違う別の私と同じ道を進むだけでしょうし」
そういってニコリと微笑んだ。その微笑みは、何故だろう。凄く、恐ろしく感じた。
「そんな、そんな事って…。じゃあ、私はどうなるの…!メリーと一緒に帰れるのか、それとも…!!」
蓮子は、紫を正面からきっと睨み付けてそう大声で叫んだ。
「落ち着いて蓮子。私は、あなた達二人を外の世界に送り返す。それが、今の私に出来るベクトルに逆らう
唯一の方法。大海に小石を投げ入れても、小さな波紋を立てて消える。いや、波紋すら立たないかもしれない。
それと同じことなのかもしれないわね。
でも、私はそれが大きな事につながるという事に賭けたい。私が………。
………あら、ちょっと話しすぎたわね。良い?準備は出来た?って言っても、着の身着のままで来たのよね」
そう言って、紫は大きなスキマを作った。暗く、光の見えない闇に続くスキマを。
「ここに入れば、外の世界に出られる筈よ。何らかの外部干渉が無い限り、ね」
そう、私たちに言った。
「蓮子、私から行くわ…。紫、あなたの賭けに答えられるのかどうかは分からない。
でも、頑張ってみるわ……。さようなら、もう一人の私……」
そう言って、私はスキマの闇へと落ちて行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――
10、―魔法少女達の百年祭―
「ん…」
軽い頭痛がする。周りを見渡すと、持ってきた荷物、寝袋、食事のゴミなどがある。
という事は、元いた世界へと帰って来れたのかしら…?
そこまで思ってから、重大な事に気付いた。蓮子が、いない。
「どこ?!どこなの、蓮子、いたら返事してっ!!」
静まり返る森に、私の声が響き、吸収され、消えていく。
木々のざわめきしか聞こえない森の中を、私は蓮子の姿が無いか探す。
不意に、
「ここにいるわよ。起きてたのね。まだ寝てると思ったからちょっと歩き回ってたんだ」
という蓮子の声が後ろから聞こえてきた。
「蓮子…。良かった、戻ってこれたのね…!私たち、二人で元の世界に…!!」
私は、つい、泣いてしまった。
蓮子は、笑いながら言った。
「シリアスな雰囲気になっちゃったね。うん、戻って来れたね」
淡白な反応にちょっとムッとしたけれど、戻ってこれたから別にどうでもいい。
「もう、朝の7時だし、山を降りようか?急いで降りれば、昼食は街でランチセットでも頼めるんじゃないかしら?
多分、あんなに美味しいお味噌汁は飲めないと思うけれど」
そう蓮子が言うので、はいはい、と相槌を打って片付けた。
そして、無事に帰る事が出来た。休暇の殆どを費やして。
どう頑張れば、紫の期待に副えるのか分からない。でも、いつか、分かる時が来る。そんな気がする。
とりあえず、休みの明日一日、少し考えようと思う。
多分、蓮子に連れまわされる予感がするけれど。
CDを通して一本作るとは頭になかった作品、構想も面白かった。少女綺想曲みたいな強い曲はちょっと小説のBGMに合わない気もしますが……まあ霊夢が出てくる場面でしたし。
SS単体でも良かったですし、次にも期待。
で、マヌケな質問なんですが、「幻想大紀行」ってCDがあるんですか?
聞いたことが無かったもので・・・
たぶん蓮子ではないかと
>ここは、本当に良い所だ。外のゴミゴミとした世界よりも、ずっと、ずっと…。
出来れば、この世界にずっといたい。そんな事を、思ってしまった。
とまで思っていたのに、強く帰りたいと思うようになった理由が解りませんでした
と、疑問に思いました。
しかし紫と彼女の蓮子のことを思うと手ばなしで喜べないおもいも。
戻ろうとして戻れなかったという、自分の意思に反してなあたりがまたひとしお。
逐一音楽を流しながら読ませていただきました。
マッチ。とても合っている。
できればオリジナルの曲も聴きたかったけれど、それは土台無理な話。
しかし、八雲紫。また見方が変わっていく……
曲を脳内再生しながら読みました。
オリジナルは無理でしたけど。