「あ・・・あの雪女、絶対、絶対倒してやるんだからっ!!」
今日はいけると思った。
いつも私の邪魔をしてくるちっちゃいのは倒せたし、
お札のキレもいつもよりしっかり当てられた。
もうちょっとで、いけると思っていたのに。
「おー、霊夢。相変わらず寒いなぁ。
それ見てるともっと寒いんだけど」
バシャン―――
精神集中の修行で頭から水を被る。
後ろから魔理沙の声がするけど、気にしない。
「なぁ霊夢。この時期にその修行ってかなり危なくないか?」
「止めてよ!!」
・・・正直、洒落にならない程寒かった。
「いや、そういう修行もあるんだろうなぁって思ったから止めるか迷ったんだよ・・・
本当にやるとは思わなかったし」
「寒いわよっ、すごく寒いわっ」
「だよなぁ」
「で、でも・・・うぅ・・・仕方ないじゃない。あの妖怪強いんだもの・・・
これくらいやって寒さに耐えられるようにならないと・・・」
最初は、ほとんど勝負にならなかった。
というか、我ながら寒いのに薄着で突撃したのがいけないと思った。
お札を投げつける所か弾幕をかわすこともままならず、追い返されてしまった。
「なんか、大変そうだなぁ。
やっぱり、今回も私がやろうか?」
「なっ、何言ってるのよっ!?
吸血鬼の時は魔理沙がやったんだから、ここは私がやらないとっ」
面子もあった。
代々妖怪退治を請け負っていた博麗の巫女が、
魔法が使えるとは言え普通の人に先を越されたなんて、
ちょっとプライドが傷ついた。
その異変を解決したのが友人の魔理沙だったので、
今回は私に解決させてくれるように頼んで・・・でもこの有様だった。
「でもなぁ、夏もこの調子だったらちょっと困るぜ・・・」
確かにこのまま寒さが続くとなると、
魔理沙の助力も考えないといけないかもしれない。
でも、もう少し。
もう少し私に力があれば、あの妖怪が倒せる。
あの妖怪は寒気を操る能力があるみたいだから、
倒しさえすればきっと暖かくなる・・・はず。
「もう少しだけ。きっと大丈夫だから」
「そうかぁ?まぁ、霊夢がそういうなら・・・」
こんなに努力をしたのは初めてだと思う。
生まれて今まで、自分の力をどれだけ驕っていたかが痛いほど解る。
でも、だからこそ今はがんばらないといけない時だと思った。
「ねぇねぇレティ」
「うん?どうしたのチルノ」
「今日もあいつ、来るのかしら」
「・・・さぁ」
もうすぐ夏を迎えようという時期だった。
本来ならとっくに他所へと旅立っているはずの時期に、
こうして相性の良い氷の妖精と一緒にくつろぐ。
今年はとても貴重な体験が出来たと思う。
春だと言うのに冬のままで、なのに所々花は咲いていて。
異常気象というのはこんなものなのかしらん、と、
多少風情に欠ける木蓮の花びらを弄りながら、散歩していた。
「ま、あんな奴何回来たってあたいのパーフェクトフリーズで倒しちゃうんだけどねっ」
「ふふ・・・そうね」
果たしてそれはいつからだったか。
出会って間もない頃は本気で敵だと思っていた。
だけれど、こんな奇妙な関係でも、続いていると情が通じるのか、
変に親しみを感じるようになっていた。
隣を歩くこの子も、同じらしい。
「でも、もうすぐ夏だわ。春の妖精はとっくに飛び去って、
これからは向日葵の妖怪が闊歩するようになるでしょうし。
そろそろ私も行かないと」
ほんの四ヶ月ほどが、今年は少しだけ長引いた。
春の妖精が来た時はそんなに親しくなかった相手とも、
もう大分馴れ合うようになっている気がする。
雪女と恐れられてずっと孤独だった自分としてはひどく例外的な今が、ここにはある。
「・・・ね、チルノ。もし私が行ってしまっても、あの巫女は来るかしら」
「んー?ど、どうだろう・・・」
「もし来たら、また来年、って伝えて頂戴」
「うん、解ったっ」
「お願い。本当にもうすぐ、もうすぐだから・・・」
私にはとても心地よい北風。
人には辛く厳しい寒気。
しかし、確実に季節は私を追いかけ、今捉えようとしている。
夏は近い。
日はどんどん長引いていき、
本来とは少しだけずれて、休みぼけの植物達が眼を覚ますだろう。
そうなれば、もう私の出番は無い。
彼らを眠らせ続ける必要は無いのだから、素直に帰るとしよう。
「はぁ・・・ぁっ・・・はぁっ・・・」
額に汗しながら、その姿を探していた。
強風が吹き荒れる、それらを身で切り進む。
耐えられないほどの寒気ではない。
修行の成果が出ているのかもしれない。
そう感じると、自分の強さに少しだけ自信を持てる。
だというのに。
その、力を一番見せ付けたい相手が、どこにも見当たらない。
「どこ・・・どこにいるのよ・・・っ」
いつも遭遇する辺りを重点的に探したのだけれど、どうしても見つからなかった。
いつもなら近くを通るといきなり現れ私の邪魔をしてくる氷の妖精も、
今日に限っては出てこない。
「・・・だめ、こんな調子で戦ったらまた負ける・・・」
瞬、冷静になった。
慌てることは無い。
妖怪だって、足もあるし空も飛べる。
いつも居る所に、必ず居るとは限らないじゃない―――
自分で自分を落ち着かせ、す・・・と、地に降りた。
「あっ・・・」
「え?」
甲高い声だった。
声のするほうを見ると、ちっちゃい水色の妖精―――
道中、いつも騒がしく私の邪魔をしてくる奴だった。
「居たわね・・・覚悟しなさい」
いつもとは違うシチュエーション。
だけれど、気を取り直してお札を手に取り構える。
・・・が、一向に弾幕が展開されない。
「・・・・・・」
「え・・・何?ちょ、なんでそっぽ向くのよ!?」
意外すぎる態度だった。
この好戦的な妖精が、まるで私の事を何とも思ってないみたいに、
つまらないものを見るようにふい、と向こうを向いてしまったのだ。
「ふんっ・・・はくれいの巫女のばーか。
もっと早く来れば、間に合ったのに・・・」
ひどく不機嫌そうに、吐き捨てるように呟いた。
「・・・間に合った・・・?」
「そうよっ、あんたがもっと早く来れば、レティと会えたんだからっ
あんたが遅いから、レティ行っちゃったのよっ」
「行った・・・って、どこによ・・・」
「知らないっ、あたいがそんなの知る訳ないじゃないかっ」
返すチルノの眼は、少しだけ涙ぐんでいた。
「最後まで会えるかなって言ってたのにっ
ずっと楽しみにしてたのにっ
みこのばーかっ、ばかばかばかーっ!!」
小さな身体を大きく震わせて、その涙が零れ落ちる。
地に落ちる涙は結晶になってパシャ、と、静かに砕けた。
「え・・・あ・・・いなく・・・なった・・・?」
「そうだよ、もう居ないよっ
夏がきたから、いなくなっちゃったんだよ!!」
すとん、と、力が抜けた。
顔にかかる日差しは強くて。
そういえば、今日はひどく汗をかいていた。
気づくと何もかもが馬鹿らしいほどに当たり前で、
寒さを感じなかったのは私が強くなったからじゃなくて、
単に、夏という季節が始まったからなのだと、今更に初めて理解できた。
「あはは・・・何・・・タイムオーバー?
何よ、こんなの、勝ち逃げじゃない・・・」
涙も出ないほど、呆気ない終わり方だった。
結局私は一度も勝てず、
この長すぎた冬は、独りよがりの努力で時が費やされ、終わった。
「・・・逃げてないもん」
私の呟きに反応してか、チルノは顔をあげ、私を睨んだ。
「似たようなものじゃない」
気の抜けた私は、こんな小さい子のそんな言葉でさえ、否定してしまう。
「嘘だよっ、逃げてないもんっ
レティ、来年も来るって言ってたもんっ」
「来年も・・・来るの?」
「くるよっ、絶対くるよっ!!」
それが、子供の強がりの様に聞こえても。
「・・・ふん」
「な、何よぉっ、レティは逃げたんじゃ―――」
ただこの子の希望でそう言っているだけだとしても。
「なら、次に会う時の為に、もっと強くならなくちゃ」
その言葉を、信じてみたくなった。
「あ・・・ふ、ふんっ、あんたなんか、あたいで十分よっ
レティに挑もうとするなんて十年早いんだからねっ」
「何を・・・っ、言ったわね、ならまずあんたから沈めてやるっ」
「ま、負けないぞーっ」
弾幕ゲーム、開始。
(終)
三人揃って来年の冬にまた出会ってもらいたい
これは大いなる萌えの可能性を秘めている
……多分白玉楼の面々は咲夜がやっちゃったんだろうなぁ。
こんなカワイイ霊夢だったら舎弟にしたくなるぜ。
なんなら永夜抄ボスも俺様が出ておいてやるよ(笑
うははははははははははっ(笑
>お札を投げつける所か
間違いじゃないと思いますがひらがなのほうがいいんじゃないかな~と
というかうちは誰使ってもこんなもんだわw
ありがとうございました。
長かった・・・(´・ω・`)これからもよろしくお願いします
あるな、これはある