霊夢の博麗お悩み相談?室
いつもいろんな妖怪が勝手に相談に来る博麗神社
一体どんな相談に来ているのか覗いてみましょう
魂魄 妖夢の場合
「たっ大変なんです!聞いてください!!」
と、突然やってきたのは半人半霊の少女、魂魄 妖夢。
その額には玉の汗が浮かんでおりよほど急いでいたのであろう事が見て取れる。
ぜいぜいと肩で息をし両手を膝についてそこに佇んでいる。
「何よ、やぶから棒に。私だって生憎暇じゃないのよ。手短に済まして頂戴。」
相変わらずマイペースにそう答える博麗 霊夢は縁側に座ってのんびりとお茶を飲んでいる。
どう見ても暇そうにしか見えない。
「まあまあ、そう言うなよ霊夢。面白そうじゃないか、ちゃんと聞いてやれよ。」
霊夢の横で煎餅をポリポリとかじっていた魔理沙は面白そうなネタが飛び込んできた事に目を輝かせているようだ。
「魔理沙は黙ってて。それで、どうしたのよ?あなた一人で来るなんて、珍しい。」
「そっそれが…幽々子様が、幽々様が!ゲホッゲホッ。」
よほど慌てていたのか咽こむ妖夢
「どうしたのよ?幽々子になにかあったの?」
妖夢の尋常でない様子に眉をひそめる霊夢
「幽々様がご飯を三人前しか食べないんです!!」
「帰れ」
ひゅる~っと冷たい風が落ち葉を巻き込みながら三人の前を通り過ぎる。
「霊夢、ちゃんと話聞いてやれって。そりゃあ普段の幽々子なら十人前はかたいもんなあっ!」
腹を抱えてケタケタと笑う魔理沙を忌々しそうに睨み付けながら霊夢はため息を吐く。
「みんな勘違いしているみたいだけど、ここは相談所でも困ったときの駆け込み寺でもないんだから。」
そう言いながら多少ぬるくなったお茶を一気に口の中に流しこむ。
動くのが面倒なのか全く動く気の無いようだ
「お願いです!ちゃんとそれなりのお礼はしますから!」
お礼という言葉にビクンッと反応した霊夢は
「困った人の役に立つのも巫女の役目よね」
と既に出かける準備をしている
魔理沙の現金な奴だぜという言葉も全く耳に入っていないようであった。
…場所は変わって白玉楼
「あっいました!幽々子様です。」
植木の陰に隠れて幽々子の様子を伺う三人
何故か妖夢だけ手ぬぐいを頭にまいて鼻の下で結んで、更に接木を持っている事には誰も突っこまない。
どうやら、幽々子はお茶を片手に空を見ながらぽけ~っとしているようである。
「あんまり、変わったような所は見られないけど…」
「ぼ~っとしてるじゃないか。悩み事があるとか…」
「いや、幽々子様はいつもあんなんです」
さり気にひどいことを言う妖夢
「へぷちっ!」
「あっ、くしゃみした。」
「風邪とか?」
「いや、幽々子様は亡霊なので風邪など引きません。仮に引いたとしても栄養が必要よ~とか言って倍は食べる筈です。」
さり気に更にひどいことを言う妖夢
「っていうか、こんな事してないで直接幽々子に聞けばいいじゃないか。」
と魔理沙が至極当然のことを言うが妖夢は首をぶんぶん振ってそれを否定する。
「駄目なんです。いくら問い詰めても何でもないの一点張りで…」
そこに八雲 紫がスキマから尋ねてきたようだ
「おっ!紫が来たぜ」
「そういえば、今日遊びに来られると仰ってましたね。」
「物事がややこしくならなければいいんだけど…」
話の内容を聞き取るためにこそこそと二人の近くに移動する三人。
「あら、どうしたのかしら。今日は調子が良くなさそうじゃない?」
顔を見るなりそう幽々子に切り出す紫
「そんな事無いわよ、私はいつだって…」
なんでもないように質問に答えようとする幽々子を紫が遮る
「何年来の付き合いだと思っているの?貴方の顔を見ればわかるわ。何があったのか話して御覧なさい。」
幽々子はふっと笑みをこぼしながら
「貴女には敵わないわね…」
と呟く
「おいおい!こりゃ早速真相に迫りそうじゃないか!!」
展開の早さに興奮する魔理沙
「狭いんだから暴れないでよっ!」
声を潜めながら顔を歪める霊夢
因みにこの三人のいる場所は幽々子の座っている縁側の下あたりだったりする。
「最近、お腹はすくんだけど食べる気があんまりしなくて…」
幽々子がゆっくりと打ち明け始める。
その答えに紫は随分と驚いた様子だった。
「今までそんな事は一度だって無かったわよね?い、一体どうしたの!?」
若干紫の声が上ずっている。
余程動揺したようだ。
幽々子は少し考える素振りをした後、思い出すように話し始める。
「う~ん、少し前にね妖夢に『その白米の代わりに虫の卵を盛っても気づかないんじゃないですか?』って…
それが少しショックだったのよ。別に虫の卵も美味しいけどやっぱり、やっぱりご飯はご飯で楽しみたいわ。」
その衝撃の事実にあいた口が塞がらない三人
ちなみに三人とは霊夢、魔理沙、紫だ。
「………」
「………」
「そっ、そういえば幽々子様があまりにご飯を召し上がるものだから、少々戒めの為にそんな事を言ったような…言わなかったような…」
あせあせと弁解を始める妖夢。
今この瞬間までそんな事を言ったのも忘れているようだった。
「他にも野菜の代わりに雑草を…とか、ぜんざいの代わりに芋虫を…とか、胡椒の変わりに砂を…とか他にも他にも…」
氷のように固まる妖夢
そして、それを見つめる二人の後ろから何やら怒りのようなオーラが湧きあがってくる。
「つ ま り」
「原因はお前じゃ ボケェ!!」
「ぶべらっ!!!」
一件落着である。
蓬莱山 輝夜の場合
「こんにちは、霊夢は居るかしら?」
そういって訪ねてきたのは月の姫、蓬莱山 輝夜だ。
縁側で一人茶をすすっていた魔理沙は突然の訪問者に少々驚いているようだ。
それもそのはず引き篭もりで有名な姫が従者も連れずに一人この辺境の地である博麗神社に訪ねてきたのだから。
少しの間固まっていた魔理沙だが面白い事を思いついたとでも言わんばかりの顔でこう答える。
「ああ、『誰か来たら霊夢なら川に洗濯に行ったから居ないぜって言え』って霊夢に言われた。」
「…つまり居るのね?」
「ああ「コラッ!!」」
まったく居留守もろくに出来ないのかしら…とぶつぶつ言いながら出てきたのはこの神社の巫女、博麗 霊夢だ。
「よう、霊夢。珍しい客人が来てるぜ。」
全く悪びれることなく楽しそうに笑う魔理沙
理由がわかっているのかいないのかすまし顔の輝夜
そして、ため息をつきながらウンザリ顔の霊夢
「何か嫌な予感がしていたから隠れていたってのにまったく…それで、何か御用?無いならさっさと帰って。」
露骨に嫌な顔をしながら腕でしっしっと追い返す仕草をする霊夢。
対して厄介ごとを持ち込んだ魔理沙は胡坐をかいて事態を見守っている。
「ふふっ、随分と嫌われたものね。実は相談があってここまで来たのよ。まあ、要点から言うと私働いてみたいのよ。」
「「うえぇぇぇぇ!!??」」
その衝撃の発言に二人合わせて奇声を発する。
更に余りのショックに霊夢は口からエクトプラズム的な何かを垂れ流し、
魔理沙は自分のお尻についてる何かを必死に追い掛け回す奇行にはしる。
輝夜は可笑しそうにそれを見ながら言葉を続ける。
「まあ、落ち着きなさいよ。そんなに驚く事でもないでしょうに。それで貴女に何処か働くところを斡旋して欲しいんだけど。」
霊夢はガタガタ震えながら膝をついて手で両肩を抱く。
魔理沙は全てを失ったかのように力なくうな垂れる。
「い、異変だわ。コレはとんでもない異変よっ!!幻想郷が滅ぶ災厄の前触れなのかも!魔理沙っ私は永遠亭に直行するわ!
あんたは紅魔館と白玉楼を回って原因を探って!あと天狗に連絡をっ!!」
「お、おうっ!!」
一目散に飛んでいこうとする二人の襟をはっしと捕まえてなだめる様にして輝夜が言う。
「こらこら、話は最後まで聞きなさい?ご存知の通り私は月の姫君だったの。その後地上に落とされていろいろあってずっと逃亡生活、
更にその後幻想郷に辿り着いて引き篭もり生活。あまりそういうものに接する機会が無かっただけなのよ。だから…そう!職場体験
ってやつをやってみたかったのよ。」
最後まで話を聞いて、ようやく納得顔?の霊夢と魔理沙。
「ふ~ん…つまり暇だったから暇潰しがしたいんだな。」
もっともな事を言う輝夜に対して相変わらず話をろくに聞かない魔理沙は話の流れを踏み外した、それでいて的を得た答えを返す。
「…まあ、斡旋って言っても私に出来るのは声をかけるくらいのことよ。後の事は自分で責任を持つこと!それで良いなら引き受けて
あげるわ。」
珍しく相談を受ける霊夢。
そう、博麗の巫女は異変を解決する為には躊躇無く動くのだ。
「ありがとう!ただ、私には何が出来て、何が出来ないのかわからないの。まあ時間は腐るほどあったからたいていの事は
やれると思ってるんだけど。料理、裁縫、竹細工、ツボ、針、陶芸、栽培、刀鍛冶…他にも色々。」
引き篭もって時間を持て余していた輝夜は密かに部屋でいろんなことに挑戦していたのだ。
お灸や針や手術の哀れな実験台が兎達であったのも愛嬌である。
もちろん永琳がサポートするが。
「それだけ、出来れば大丈夫でしょ。ってか刀鍛冶とか凄いわね。ちょっと待ってなさい。少し回ってみるから。」
「あっあと、永遠亭にはなるべく秘密にして欲しいの。余計な心配や心労をかけたくないしね。普段部屋から出ないから
皆、私は部屋にいるって思ってるだろうし。ああ、ちゃんと永琳には皆に内緒で出かけてある事を言ってあるから大丈夫よ。」
「はいはい」
こうして、輝夜の職場体験が始まった。
・STAGE 1 接客
彼女の美貌は巷にすぐ広がり沢山の客が八目鰻の店に押し寄せる
「あら、いらっしゃい。何をご注文かしら?」
「お、おらぁあんたみたいな美人が欲しいだぁ。」
「ふふっお上手ですわね。この難題が解けたら考えて差し上げますわ。」
『全品制覇』
大好評のようだ。
・STAGE 2 教師
寺子屋にて。
「それでは、今日は和歌と俳句のお勉強をしましょう。」
「「「は~い!」」」
「くっ!ここまで子供達の心を掴むとは。…見事だ。」
その柔らかな物腰は子供にも人気だ。
・STAGE 3 技術者
「月から持ってきた永琳の秘密道具」
「わっわっ!!コレすんごい技術だよっ!?」
・STAGE 4 記者
「カメラで一瞬のチャンスをモノにするのはとても難しいんですよ。」
「永遠と須臾を操る程度の能力」
「うわ~コレはスクープ撮り放題です!!撮り逃しもありませんっ!!」
・STAGE 5 司書
「う~ん…あなた、この文字読めるかしら?」
「あらっ?これ、月の言語じゃない。」
・STAGE 6 庭師
「あら、これ美味しいわね!」
「隠し味に私の肝を入れたのよ。」
「んぐっ!?」
「幽々子様っ!!」
「冗談よ。」
概ね好評だった輝夜なのだがある日を境にぱったりと顔を出さなくなる。
そして、結局アフターケアとして霊夢が動く事になるのだ。
さすがの霊夢も皆から頼まれたら動かないわけにはいかない。
向かう先は永遠亭。
目的の場所に彼女はいた。
「ちょっと!突然顔を出さなくなるなんてどういうつもり!?皆心配してるのよっ?」
霊夢は部屋で仰向けに寝ていた輝夜に向かって怒鳴った。
輝夜の表情は心なしか暗く見える。
輝夜はゆっくりと起き上がり少し考えるような素振りを見せる。
そして、少しずつ言葉を紡ぎだす。
「…永琳に…これ以上下々の、下賤の民と付き合うのは止めなさいって…貴女は姫なのだからそんな事しないで
命令さえしていればいいって……」
それだけ言い終わるとさめざめと泣く輝夜。
それを見た霊夢はカッとなりその部屋を飛び出る。
そのまま向かいにある永琳の部屋の戸を蹴破り中で本を読んでいた永琳に掴みかかる。
「あんたそれでも輝夜の従者なの!?何でもっと彼女のことを…」
急に掴まれ頭をがくがくと振らされる永琳。
突然の事に目を白黒させている。
「お、おちっ落ち着きなさい霊夢。私には貴女が何を言っているのか理解が出来ないわ!!」
ぱっと手を離されゲホゲホと咽る永琳。
霊夢の怒りは未だ収まっていないようである。
「何で輝夜から仕事を取ったのって言ってるの!!」
永琳の目が点になる。
「はっ?仕事?姫が…?寝言は寝てから言いなさい霊夢。姫が仕事なんてするわけ無いでしょう?
それとも、密かに永遠亭を抜け出していたことと関係があるのかしら?」
「しらばっくれないで!!」
「本当に知らないのよ。因みに私は今まで姫に通算358795641回姫に働くように言ったわ。まあ全て無駄に終わったけど。」
どういうことだろう?
話がかみ合わないじゃないか。
驚きの表情でそんなことを考えていた霊夢を見ながら永琳は全てを察した表情でため息をつく。
「ああ…貴女、姫に担がれたわね。恐らくソレは姫のお遊び。まあ、騙されたと思って許してやって。」
暫くたって再び輝夜の部屋
「話は聞かせてもらったわ。一体どういうこと…?」
声のトーンを下げて輝夜に迫る霊夢。
対する輝夜はこれっぽっちも悪い事をしたとは思っていないのかニコニコ笑っている。
「ん~っと何て言えばいいのかしらねぇ……
ぶっちゃけ飽きた 」
「なっ!?」
霊夢が怒って立ち上がろうとしたときにそれは起こった。
- 待ちなさい! -
何処からかその部屋に声が響き渡る。
「誰っ!?」
- 職を弄んだあなたは許せない!! -
「っ!上からか!?」
- 飢えと嘆きと悲しみのっ! 中国キーック!! -
「職の辛さと尊さを思い知れっボケェェ!」
「あべしっ!!」
何故か美鈴が空から降ってきた。
一件落着である。
射命丸 文の場合
「依頼?」
霊夢は掃除していた手を休め箒を片手にめんどくさそうに彼女を見上げる。
「そうです。これは私、射命丸 文よりの正式な依頼です。」
真剣な眼差しでそう答える文。
正式な依頼であればそれ相応の報酬がもらえる筈だ。
少し考えてから霊夢はそれを承諾した。
「…ふ~ん、それであんたを装って悪さをする犯人を見つけて欲しい…ねえ。」
「そうなんです、偽者のおかげで私の信用はガタ落ち。このままでは記者生命に関わります!」
話はこうだ。
近頃里や近辺の妖怪の家で悪さをする者がいてどうやら、それが文であるらしいというのだ。
しかし、文の身に全く覚えがなくそこで偽者の存在が浮上したというわけだ。
「ホントにあんたがやったんじゃないの?」
ごもっともな質問を文にぶつける。
「この天狗の誇りにかけて違うと誓えます!」
もともとプライドの高い天狗がここまで言い切ったのだ。
霊夢はとりあえず文のことを信じる事にする。
「でも、その悪さってのは一体何をやられたのかしら?」
状況を調べようと文に詳細を聞いてみたところ返ってきた返事は
「わかりません」
の一言だった。
「わからないってどういうことよ!?」
早くも壁にぶち当たり憤慨する霊夢
「とにかく私を犯人だと思い込んでいて、話も聞いてくれないしろくに顔も合わせてくれません…だから
私にはお手上げだったんです。」
事態は思ったよりも深刻なようだった。
文もいつになく落ち込んでいるようで自慢の翼もしゅんっと下を向いている。
暫く考え込んでたようだが埒が明かないと思ったのか霊夢は文にこう告げる。
「じゃあ、その偽者の被害にあった人たちの名簿を作ってちょうだい。私が一人一人調べて回るから。」
捜査の基本。
地道に足で調べようというのだ
「わかりました、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げる文
こんな殊勝な天狗の姿は滅多に見れないだろう。
霊夢は早速調査を開始する。
「…最初はアリス邸か……。アリス~いるかしら~?ちょっと文の事で聞きたいことがあるんだけど」
玄関に立ってアリスを呼んでみる。
あまり外に出ないからきっと家にいる可能性の高いアリスから始める事にしたのだ。
少したってから仏頂面のアリスが顔を覗かせる。
「…何よ突然やってきて。あの鴉天狗のことなんて思い出したくもないのに…」
不機嫌そうなアリスをビシッと霊夢は指差して言った。
「そこよ!あいつは一体何をやったのかしら?」
するとアリスは耳を赤くしながら俯いてしまう。
霊夢が怪訝そうな顔をしてアリスの顔を見る。
「………られたのよ…」
「えっ何っ?」
声が小さくてあまり聞き取れない
「着替えているところを写真に撮られたのよ!あの天狗、すぐに追いかけられない状況なのをいいことに!
許せないわ!!」
再びあの時の状況を思い出しているのか、ハンカチを口にくわえ地団太を踏んでいる。
うーん…と腕を組んで考え込む霊夢
「それで、文の姿はハッキリと見たわけ?」
問題はここだ。
ここで姿を見られていたなら、もはや文に言い訳は出来ない。
しかし、答えはこうだった。
「…いいえ、見ていないわ。外はもう暗かったし。でも、シャッターの切る音が聞こえたら誰だってあいつの仕業って思うでしょ?」
「ふ~ん、なるほどね。でも本人はそれを強烈に否定してるわ。だから私が調査しに来たんだけど、まだ何とも言えないから…
憶測や推測で物事を決め付けるべきではないわね。」
博麗の巫女は如何なる時も中立の立場を崩さない。
それは自らが幻想郷のルールだからでもある。
「…助言として受け取っておくわ。まあ、確かに文が犯人でないとしたら失礼な態度をとった事になるわけだしね…
ただ、犯人がハッキリしない限りは文に謝罪するつもりもないわ。普段から疑われるような行動を取っているのも事実だし。」
…という一連のやり取りをしたのち、霊夢はアリス邸を後にする。
「次は慧音宅ね…あ~めんどくさいなあ」
この寒空のした巫女服で飛び回るのも楽ではない。
空から見る幻想郷は秋の装いを通り越して冬真っ只中である。
燃えるように真っ赤だった紅葉の山も今ではその葉を落とし淋しい限りだ。
霊夢はそんな景色を見ながらコレって巫女の仕事じゃなくね?という思いが一瞬頭に浮かぶが考えないようにする。
…慧音宅にて
「…んで、あんたは一体何をされたのかしら?」
面倒くさいという表情を隠そうともせずに慧音宅に上がりこんでお茶をしばく霊夢。
相対しているのは怒髪というか怒角天を突きそうな慧音と難しい顔をした妹紅だ。
「湯浴みをしているところを撮られたのだ!全く卑猥で卑劣な許せん行為だ。しかも私だけならともかく里の者や妹紅にまでっ!
こうなったら新聞の購読を解除して……ぶつぶつ」
頭から湯気が出ている慧音が一旦収まるのを待ってから霊夢はアリスと同じ質問をぶつけてみる。
そして、答えもアリスと同じものだった。
どうやら、慧音が言うには里の人たちも同じような状況らしい。
「う~ん…妹紅、あんたも似たような感じなのかしら?」
質問の矛先を妹紅に向けてみると毛色の違う答えが返ってきた。
「うんにゃ、あたしの場合はアレだ。…その、輝夜にやられて動けないとことを撮られた。人の負けざまを撮るなんて…
ホントいい趣味してるよまったく。」
霊夢はおや、と思った。
慧音も里の者も着替えだの湯浴みだのを撮られたのに一人だけ負けざま?
思った疑問を口にしてみる。
「ん?そのときの格好…?ああ…人様には見せられないような、あられもない姿をしていたかもね。服もボロボロだったし。」
納得。
と同時に更なる疑問
「ってことは意識はあったんだよね?姿は見てないの?」
「…ああ、視界が霞んでぼやけてたからよく見えなかったのよ。あの耳障りなシャッターの音が聞こえた後、
満足そうに歩いて帰っていったよ。」
「待って、今何て言った?」
「ん?視界が霞んでってヤツか?」
「違う、その後」
「満足そうに歩いて帰っていった…って、ん?」
「そう、文だったら自慢の翼で飛んで帰るはずよ。やっぱり犯人は文じゃない…となると…カメラ……歩いて?…まさか…!」
……
…………
……………………
「はっ犯人が判ったって本当ですかぁ!?」
神社でひざを抱えてお留守番をしていた文に報告をする霊夢。
「だっ誰!犯人は何処にっ!」
「落ち着きなさい、これから捕まえに行くわ。あなたも来なさい。」
そんなこんなで、ある家の影に隠れて犯人が出てくるのを待つ二人。
もう日も落ちてから、随分と経つ。
辺りは真っ暗で静寂に包まれていた。
暫く待つと家から1つの人影、すなわち犯人が出てくる。
「待ちなさい!!何処に行くつもりかしら!?」
「……おや?霊夢じゃないか。それと…確か射命丸 文君だったね。新聞はいつも見させてもらっている。
残念ながら今日はもう店じまいしているんだ。それにこんな時間に女の子が出歩くもんじゃない。」
そこにいたのは森近 霖之助だった。
「…もう一度質問するわ霖之助さん…そんな格好で何処に行くつもりなのかしら?」
霖之助の格好は褌一丁にカメラをぶら下げ、手ぬぐいをかぶり鼻の下で結んでいる不審者も泥棒も裸足で逃げ出す変態ルックだった。
文は顔を真っ赤にして両手で目を覆っている。
が、隙間からしっかり見ている。
「ん?…はっは、コレはまあ一種のライフワークのようなものだよ。気にしないでくれ。」
何故か誇らしげに褌がはためいている。
「人の着替えを覗くのが趣味とは…随分なライフワークねぇ…」
霊夢の声は僅かに震えている。
コレが呆れからくるのか、それとも怒りからくるのか誰にもわからない。
しかし、不幸な事に霖之助は全く気づいていない。
「おや?知っていたのか、なら話は早い。どうだい、キミ達も少女の園に一緒に…」
「「行くかっ!このボゲがぁぁぁぁ!!!!」」
「たわばっっ!!??」
フィルムは俺が回収
一件落着である
いつもいろんな妖怪が勝手に相談に来る博麗神社
一体どんな相談に来ているのか覗いてみましょう
魂魄 妖夢の場合
「たっ大変なんです!聞いてください!!」
と、突然やってきたのは半人半霊の少女、魂魄 妖夢。
その額には玉の汗が浮かんでおりよほど急いでいたのであろう事が見て取れる。
ぜいぜいと肩で息をし両手を膝についてそこに佇んでいる。
「何よ、やぶから棒に。私だって生憎暇じゃないのよ。手短に済まして頂戴。」
相変わらずマイペースにそう答える博麗 霊夢は縁側に座ってのんびりとお茶を飲んでいる。
どう見ても暇そうにしか見えない。
「まあまあ、そう言うなよ霊夢。面白そうじゃないか、ちゃんと聞いてやれよ。」
霊夢の横で煎餅をポリポリとかじっていた魔理沙は面白そうなネタが飛び込んできた事に目を輝かせているようだ。
「魔理沙は黙ってて。それで、どうしたのよ?あなた一人で来るなんて、珍しい。」
「そっそれが…幽々子様が、幽々様が!ゲホッゲホッ。」
よほど慌てていたのか咽こむ妖夢
「どうしたのよ?幽々子になにかあったの?」
妖夢の尋常でない様子に眉をひそめる霊夢
「幽々様がご飯を三人前しか食べないんです!!」
「帰れ」
ひゅる~っと冷たい風が落ち葉を巻き込みながら三人の前を通り過ぎる。
「霊夢、ちゃんと話聞いてやれって。そりゃあ普段の幽々子なら十人前はかたいもんなあっ!」
腹を抱えてケタケタと笑う魔理沙を忌々しそうに睨み付けながら霊夢はため息を吐く。
「みんな勘違いしているみたいだけど、ここは相談所でも困ったときの駆け込み寺でもないんだから。」
そう言いながら多少ぬるくなったお茶を一気に口の中に流しこむ。
動くのが面倒なのか全く動く気の無いようだ
「お願いです!ちゃんとそれなりのお礼はしますから!」
お礼という言葉にビクンッと反応した霊夢は
「困った人の役に立つのも巫女の役目よね」
と既に出かける準備をしている
魔理沙の現金な奴だぜという言葉も全く耳に入っていないようであった。
…場所は変わって白玉楼
「あっいました!幽々子様です。」
植木の陰に隠れて幽々子の様子を伺う三人
何故か妖夢だけ手ぬぐいを頭にまいて鼻の下で結んで、更に接木を持っている事には誰も突っこまない。
どうやら、幽々子はお茶を片手に空を見ながらぽけ~っとしているようである。
「あんまり、変わったような所は見られないけど…」
「ぼ~っとしてるじゃないか。悩み事があるとか…」
「いや、幽々子様はいつもあんなんです」
さり気にひどいことを言う妖夢
「へぷちっ!」
「あっ、くしゃみした。」
「風邪とか?」
「いや、幽々子様は亡霊なので風邪など引きません。仮に引いたとしても栄養が必要よ~とか言って倍は食べる筈です。」
さり気に更にひどいことを言う妖夢
「っていうか、こんな事してないで直接幽々子に聞けばいいじゃないか。」
と魔理沙が至極当然のことを言うが妖夢は首をぶんぶん振ってそれを否定する。
「駄目なんです。いくら問い詰めても何でもないの一点張りで…」
そこに八雲 紫がスキマから尋ねてきたようだ
「おっ!紫が来たぜ」
「そういえば、今日遊びに来られると仰ってましたね。」
「物事がややこしくならなければいいんだけど…」
話の内容を聞き取るためにこそこそと二人の近くに移動する三人。
「あら、どうしたのかしら。今日は調子が良くなさそうじゃない?」
顔を見るなりそう幽々子に切り出す紫
「そんな事無いわよ、私はいつだって…」
なんでもないように質問に答えようとする幽々子を紫が遮る
「何年来の付き合いだと思っているの?貴方の顔を見ればわかるわ。何があったのか話して御覧なさい。」
幽々子はふっと笑みをこぼしながら
「貴女には敵わないわね…」
と呟く
「おいおい!こりゃ早速真相に迫りそうじゃないか!!」
展開の早さに興奮する魔理沙
「狭いんだから暴れないでよっ!」
声を潜めながら顔を歪める霊夢
因みにこの三人のいる場所は幽々子の座っている縁側の下あたりだったりする。
「最近、お腹はすくんだけど食べる気があんまりしなくて…」
幽々子がゆっくりと打ち明け始める。
その答えに紫は随分と驚いた様子だった。
「今までそんな事は一度だって無かったわよね?い、一体どうしたの!?」
若干紫の声が上ずっている。
余程動揺したようだ。
幽々子は少し考える素振りをした後、思い出すように話し始める。
「う~ん、少し前にね妖夢に『その白米の代わりに虫の卵を盛っても気づかないんじゃないですか?』って…
それが少しショックだったのよ。別に虫の卵も美味しいけどやっぱり、やっぱりご飯はご飯で楽しみたいわ。」
その衝撃の事実にあいた口が塞がらない三人
ちなみに三人とは霊夢、魔理沙、紫だ。
「………」
「………」
「そっ、そういえば幽々子様があまりにご飯を召し上がるものだから、少々戒めの為にそんな事を言ったような…言わなかったような…」
あせあせと弁解を始める妖夢。
今この瞬間までそんな事を言ったのも忘れているようだった。
「他にも野菜の代わりに雑草を…とか、ぜんざいの代わりに芋虫を…とか、胡椒の変わりに砂を…とか他にも他にも…」
氷のように固まる妖夢
そして、それを見つめる二人の後ろから何やら怒りのようなオーラが湧きあがってくる。
「つ ま り」
「原因はお前じゃ ボケェ!!」
「ぶべらっ!!!」
一件落着である。
蓬莱山 輝夜の場合
「こんにちは、霊夢は居るかしら?」
そういって訪ねてきたのは月の姫、蓬莱山 輝夜だ。
縁側で一人茶をすすっていた魔理沙は突然の訪問者に少々驚いているようだ。
それもそのはず引き篭もりで有名な姫が従者も連れずに一人この辺境の地である博麗神社に訪ねてきたのだから。
少しの間固まっていた魔理沙だが面白い事を思いついたとでも言わんばかりの顔でこう答える。
「ああ、『誰か来たら霊夢なら川に洗濯に行ったから居ないぜって言え』って霊夢に言われた。」
「…つまり居るのね?」
「ああ「コラッ!!」」
まったく居留守もろくに出来ないのかしら…とぶつぶつ言いながら出てきたのはこの神社の巫女、博麗 霊夢だ。
「よう、霊夢。珍しい客人が来てるぜ。」
全く悪びれることなく楽しそうに笑う魔理沙
理由がわかっているのかいないのかすまし顔の輝夜
そして、ため息をつきながらウンザリ顔の霊夢
「何か嫌な予感がしていたから隠れていたってのにまったく…それで、何か御用?無いならさっさと帰って。」
露骨に嫌な顔をしながら腕でしっしっと追い返す仕草をする霊夢。
対して厄介ごとを持ち込んだ魔理沙は胡坐をかいて事態を見守っている。
「ふふっ、随分と嫌われたものね。実は相談があってここまで来たのよ。まあ、要点から言うと私働いてみたいのよ。」
「「うえぇぇぇぇ!!??」」
その衝撃の発言に二人合わせて奇声を発する。
更に余りのショックに霊夢は口からエクトプラズム的な何かを垂れ流し、
魔理沙は自分のお尻についてる何かを必死に追い掛け回す奇行にはしる。
輝夜は可笑しそうにそれを見ながら言葉を続ける。
「まあ、落ち着きなさいよ。そんなに驚く事でもないでしょうに。それで貴女に何処か働くところを斡旋して欲しいんだけど。」
霊夢はガタガタ震えながら膝をついて手で両肩を抱く。
魔理沙は全てを失ったかのように力なくうな垂れる。
「い、異変だわ。コレはとんでもない異変よっ!!幻想郷が滅ぶ災厄の前触れなのかも!魔理沙っ私は永遠亭に直行するわ!
あんたは紅魔館と白玉楼を回って原因を探って!あと天狗に連絡をっ!!」
「お、おうっ!!」
一目散に飛んでいこうとする二人の襟をはっしと捕まえてなだめる様にして輝夜が言う。
「こらこら、話は最後まで聞きなさい?ご存知の通り私は月の姫君だったの。その後地上に落とされていろいろあってずっと逃亡生活、
更にその後幻想郷に辿り着いて引き篭もり生活。あまりそういうものに接する機会が無かっただけなのよ。だから…そう!職場体験
ってやつをやってみたかったのよ。」
最後まで話を聞いて、ようやく納得顔?の霊夢と魔理沙。
「ふ~ん…つまり暇だったから暇潰しがしたいんだな。」
もっともな事を言う輝夜に対して相変わらず話をろくに聞かない魔理沙は話の流れを踏み外した、それでいて的を得た答えを返す。
「…まあ、斡旋って言っても私に出来るのは声をかけるくらいのことよ。後の事は自分で責任を持つこと!それで良いなら引き受けて
あげるわ。」
珍しく相談を受ける霊夢。
そう、博麗の巫女は異変を解決する為には躊躇無く動くのだ。
「ありがとう!ただ、私には何が出来て、何が出来ないのかわからないの。まあ時間は腐るほどあったからたいていの事は
やれると思ってるんだけど。料理、裁縫、竹細工、ツボ、針、陶芸、栽培、刀鍛冶…他にも色々。」
引き篭もって時間を持て余していた輝夜は密かに部屋でいろんなことに挑戦していたのだ。
お灸や針や手術の哀れな実験台が兎達であったのも愛嬌である。
もちろん永琳がサポートするが。
「それだけ、出来れば大丈夫でしょ。ってか刀鍛冶とか凄いわね。ちょっと待ってなさい。少し回ってみるから。」
「あっあと、永遠亭にはなるべく秘密にして欲しいの。余計な心配や心労をかけたくないしね。普段部屋から出ないから
皆、私は部屋にいるって思ってるだろうし。ああ、ちゃんと永琳には皆に内緒で出かけてある事を言ってあるから大丈夫よ。」
「はいはい」
こうして、輝夜の職場体験が始まった。
・STAGE 1 接客
彼女の美貌は巷にすぐ広がり沢山の客が八目鰻の店に押し寄せる
「あら、いらっしゃい。何をご注文かしら?」
「お、おらぁあんたみたいな美人が欲しいだぁ。」
「ふふっお上手ですわね。この難題が解けたら考えて差し上げますわ。」
『全品制覇』
大好評のようだ。
・STAGE 2 教師
寺子屋にて。
「それでは、今日は和歌と俳句のお勉強をしましょう。」
「「「は~い!」」」
「くっ!ここまで子供達の心を掴むとは。…見事だ。」
その柔らかな物腰は子供にも人気だ。
・STAGE 3 技術者
「月から持ってきた永琳の秘密道具」
「わっわっ!!コレすんごい技術だよっ!?」
・STAGE 4 記者
「カメラで一瞬のチャンスをモノにするのはとても難しいんですよ。」
「永遠と須臾を操る程度の能力」
「うわ~コレはスクープ撮り放題です!!撮り逃しもありませんっ!!」
・STAGE 5 司書
「う~ん…あなた、この文字読めるかしら?」
「あらっ?これ、月の言語じゃない。」
・STAGE 6 庭師
「あら、これ美味しいわね!」
「隠し味に私の肝を入れたのよ。」
「んぐっ!?」
「幽々子様っ!!」
「冗談よ。」
概ね好評だった輝夜なのだがある日を境にぱったりと顔を出さなくなる。
そして、結局アフターケアとして霊夢が動く事になるのだ。
さすがの霊夢も皆から頼まれたら動かないわけにはいかない。
向かう先は永遠亭。
目的の場所に彼女はいた。
「ちょっと!突然顔を出さなくなるなんてどういうつもり!?皆心配してるのよっ?」
霊夢は部屋で仰向けに寝ていた輝夜に向かって怒鳴った。
輝夜の表情は心なしか暗く見える。
輝夜はゆっくりと起き上がり少し考えるような素振りを見せる。
そして、少しずつ言葉を紡ぎだす。
「…永琳に…これ以上下々の、下賤の民と付き合うのは止めなさいって…貴女は姫なのだからそんな事しないで
命令さえしていればいいって……」
それだけ言い終わるとさめざめと泣く輝夜。
それを見た霊夢はカッとなりその部屋を飛び出る。
そのまま向かいにある永琳の部屋の戸を蹴破り中で本を読んでいた永琳に掴みかかる。
「あんたそれでも輝夜の従者なの!?何でもっと彼女のことを…」
急に掴まれ頭をがくがくと振らされる永琳。
突然の事に目を白黒させている。
「お、おちっ落ち着きなさい霊夢。私には貴女が何を言っているのか理解が出来ないわ!!」
ぱっと手を離されゲホゲホと咽る永琳。
霊夢の怒りは未だ収まっていないようである。
「何で輝夜から仕事を取ったのって言ってるの!!」
永琳の目が点になる。
「はっ?仕事?姫が…?寝言は寝てから言いなさい霊夢。姫が仕事なんてするわけ無いでしょう?
それとも、密かに永遠亭を抜け出していたことと関係があるのかしら?」
「しらばっくれないで!!」
「本当に知らないのよ。因みに私は今まで姫に通算358795641回姫に働くように言ったわ。まあ全て無駄に終わったけど。」
どういうことだろう?
話がかみ合わないじゃないか。
驚きの表情でそんなことを考えていた霊夢を見ながら永琳は全てを察した表情でため息をつく。
「ああ…貴女、姫に担がれたわね。恐らくソレは姫のお遊び。まあ、騙されたと思って許してやって。」
暫くたって再び輝夜の部屋
「話は聞かせてもらったわ。一体どういうこと…?」
声のトーンを下げて輝夜に迫る霊夢。
対する輝夜はこれっぽっちも悪い事をしたとは思っていないのかニコニコ笑っている。
「ん~っと何て言えばいいのかしらねぇ……
ぶっちゃけ飽きた 」
「なっ!?」
霊夢が怒って立ち上がろうとしたときにそれは起こった。
- 待ちなさい! -
何処からかその部屋に声が響き渡る。
「誰っ!?」
- 職を弄んだあなたは許せない!! -
「っ!上からか!?」
- 飢えと嘆きと悲しみのっ! 中国キーック!! -
「職の辛さと尊さを思い知れっボケェェ!」
「あべしっ!!」
何故か美鈴が空から降ってきた。
一件落着である。
射命丸 文の場合
「依頼?」
霊夢は掃除していた手を休め箒を片手にめんどくさそうに彼女を見上げる。
「そうです。これは私、射命丸 文よりの正式な依頼です。」
真剣な眼差しでそう答える文。
正式な依頼であればそれ相応の報酬がもらえる筈だ。
少し考えてから霊夢はそれを承諾した。
「…ふ~ん、それであんたを装って悪さをする犯人を見つけて欲しい…ねえ。」
「そうなんです、偽者のおかげで私の信用はガタ落ち。このままでは記者生命に関わります!」
話はこうだ。
近頃里や近辺の妖怪の家で悪さをする者がいてどうやら、それが文であるらしいというのだ。
しかし、文の身に全く覚えがなくそこで偽者の存在が浮上したというわけだ。
「ホントにあんたがやったんじゃないの?」
ごもっともな質問を文にぶつける。
「この天狗の誇りにかけて違うと誓えます!」
もともとプライドの高い天狗がここまで言い切ったのだ。
霊夢はとりあえず文のことを信じる事にする。
「でも、その悪さってのは一体何をやられたのかしら?」
状況を調べようと文に詳細を聞いてみたところ返ってきた返事は
「わかりません」
の一言だった。
「わからないってどういうことよ!?」
早くも壁にぶち当たり憤慨する霊夢
「とにかく私を犯人だと思い込んでいて、話も聞いてくれないしろくに顔も合わせてくれません…だから
私にはお手上げだったんです。」
事態は思ったよりも深刻なようだった。
文もいつになく落ち込んでいるようで自慢の翼もしゅんっと下を向いている。
暫く考え込んでたようだが埒が明かないと思ったのか霊夢は文にこう告げる。
「じゃあ、その偽者の被害にあった人たちの名簿を作ってちょうだい。私が一人一人調べて回るから。」
捜査の基本。
地道に足で調べようというのだ
「わかりました、よろしくお願いします。」
深々と頭を下げる文
こんな殊勝な天狗の姿は滅多に見れないだろう。
霊夢は早速調査を開始する。
「…最初はアリス邸か……。アリス~いるかしら~?ちょっと文の事で聞きたいことがあるんだけど」
玄関に立ってアリスを呼んでみる。
あまり外に出ないからきっと家にいる可能性の高いアリスから始める事にしたのだ。
少したってから仏頂面のアリスが顔を覗かせる。
「…何よ突然やってきて。あの鴉天狗のことなんて思い出したくもないのに…」
不機嫌そうなアリスをビシッと霊夢は指差して言った。
「そこよ!あいつは一体何をやったのかしら?」
するとアリスは耳を赤くしながら俯いてしまう。
霊夢が怪訝そうな顔をしてアリスの顔を見る。
「………られたのよ…」
「えっ何っ?」
声が小さくてあまり聞き取れない
「着替えているところを写真に撮られたのよ!あの天狗、すぐに追いかけられない状況なのをいいことに!
許せないわ!!」
再びあの時の状況を思い出しているのか、ハンカチを口にくわえ地団太を踏んでいる。
うーん…と腕を組んで考え込む霊夢
「それで、文の姿はハッキリと見たわけ?」
問題はここだ。
ここで姿を見られていたなら、もはや文に言い訳は出来ない。
しかし、答えはこうだった。
「…いいえ、見ていないわ。外はもう暗かったし。でも、シャッターの切る音が聞こえたら誰だってあいつの仕業って思うでしょ?」
「ふ~ん、なるほどね。でも本人はそれを強烈に否定してるわ。だから私が調査しに来たんだけど、まだ何とも言えないから…
憶測や推測で物事を決め付けるべきではないわね。」
博麗の巫女は如何なる時も中立の立場を崩さない。
それは自らが幻想郷のルールだからでもある。
「…助言として受け取っておくわ。まあ、確かに文が犯人でないとしたら失礼な態度をとった事になるわけだしね…
ただ、犯人がハッキリしない限りは文に謝罪するつもりもないわ。普段から疑われるような行動を取っているのも事実だし。」
…という一連のやり取りをしたのち、霊夢はアリス邸を後にする。
「次は慧音宅ね…あ~めんどくさいなあ」
この寒空のした巫女服で飛び回るのも楽ではない。
空から見る幻想郷は秋の装いを通り越して冬真っ只中である。
燃えるように真っ赤だった紅葉の山も今ではその葉を落とし淋しい限りだ。
霊夢はそんな景色を見ながらコレって巫女の仕事じゃなくね?という思いが一瞬頭に浮かぶが考えないようにする。
…慧音宅にて
「…んで、あんたは一体何をされたのかしら?」
面倒くさいという表情を隠そうともせずに慧音宅に上がりこんでお茶をしばく霊夢。
相対しているのは怒髪というか怒角天を突きそうな慧音と難しい顔をした妹紅だ。
「湯浴みをしているところを撮られたのだ!全く卑猥で卑劣な許せん行為だ。しかも私だけならともかく里の者や妹紅にまでっ!
こうなったら新聞の購読を解除して……ぶつぶつ」
頭から湯気が出ている慧音が一旦収まるのを待ってから霊夢はアリスと同じ質問をぶつけてみる。
そして、答えもアリスと同じものだった。
どうやら、慧音が言うには里の人たちも同じような状況らしい。
「う~ん…妹紅、あんたも似たような感じなのかしら?」
質問の矛先を妹紅に向けてみると毛色の違う答えが返ってきた。
「うんにゃ、あたしの場合はアレだ。…その、輝夜にやられて動けないとことを撮られた。人の負けざまを撮るなんて…
ホントいい趣味してるよまったく。」
霊夢はおや、と思った。
慧音も里の者も着替えだの湯浴みだのを撮られたのに一人だけ負けざま?
思った疑問を口にしてみる。
「ん?そのときの格好…?ああ…人様には見せられないような、あられもない姿をしていたかもね。服もボロボロだったし。」
納得。
と同時に更なる疑問
「ってことは意識はあったんだよね?姿は見てないの?」
「…ああ、視界が霞んでぼやけてたからよく見えなかったのよ。あの耳障りなシャッターの音が聞こえた後、
満足そうに歩いて帰っていったよ。」
「待って、今何て言った?」
「ん?視界が霞んでってヤツか?」
「違う、その後」
「満足そうに歩いて帰っていった…って、ん?」
「そう、文だったら自慢の翼で飛んで帰るはずよ。やっぱり犯人は文じゃない…となると…カメラ……歩いて?…まさか…!」
……
…………
……………………
「はっ犯人が判ったって本当ですかぁ!?」
神社でひざを抱えてお留守番をしていた文に報告をする霊夢。
「だっ誰!犯人は何処にっ!」
「落ち着きなさい、これから捕まえに行くわ。あなたも来なさい。」
そんなこんなで、ある家の影に隠れて犯人が出てくるのを待つ二人。
もう日も落ちてから、随分と経つ。
辺りは真っ暗で静寂に包まれていた。
暫く待つと家から1つの人影、すなわち犯人が出てくる。
「待ちなさい!!何処に行くつもりかしら!?」
「……おや?霊夢じゃないか。それと…確か射命丸 文君だったね。新聞はいつも見させてもらっている。
残念ながら今日はもう店じまいしているんだ。それにこんな時間に女の子が出歩くもんじゃない。」
そこにいたのは森近 霖之助だった。
「…もう一度質問するわ霖之助さん…そんな格好で何処に行くつもりなのかしら?」
霖之助の格好は褌一丁にカメラをぶら下げ、手ぬぐいをかぶり鼻の下で結んでいる不審者も泥棒も裸足で逃げ出す変態ルックだった。
文は顔を真っ赤にして両手で目を覆っている。
が、隙間からしっかり見ている。
「ん?…はっは、コレはまあ一種のライフワークのようなものだよ。気にしないでくれ。」
何故か誇らしげに褌がはためいている。
「人の着替えを覗くのが趣味とは…随分なライフワークねぇ…」
霊夢の声は僅かに震えている。
コレが呆れからくるのか、それとも怒りからくるのか誰にもわからない。
しかし、不幸な事に霖之助は全く気づいていない。
「おや?知っていたのか、なら話は早い。どうだい、キミ達も少女の園に一緒に…」
「「行くかっ!このボゲがぁぁぁぁ!!!!」」
「たわばっっ!!??」
フィルムは俺が回収
一件落着である
>中国キック
美鈴の気持ちは痛いほどよく分かります…働くのは大変なんよ…
さて、そのフィルムをこちらへよこすんだ!
いや、ほんと楽しかったですww
個人的にはラストがちょっとあっさり気味に感じたのでそこだけ-10点。好みの問題ですが。
あと写真をうpしてくれ~!!ww
こーりんは「怪しすぎて疑われない」のを狙ったのか、
それとも性癖であんなカッコをしてたのか…