※1・2話は作品集47に、3話は作品集48にそれぞれあります。以下本編
☆
「はぁ。手こずらせてくれたわね」
地に倒れ伏した巨人と立ち尽くす巨人を眼下に見下ろしながら、霊夢は事も無げに呟いた。
永琳とのやり取りに、喉の奥の小骨のような引っかかりを覚えながらも、ひとまず全ては終わったのだ。
後は首謀者のくせに何一つ苦労もしなかったクロマクパープルに、文句を言うだけ言って帰ればいい。
特に最近は、たった今調伏した永遠178号の歩き回る音や気配に安眠を妨害されていたこともあって、睡眠欲は最骨頂に達しようとしている。
隣であくびをかみ殺している早苗も、寝まい寝まいと振る舞ってはいるが、今の心境は霊夢と同じなのだろう。
「みんな、ご苦労様。さすがは私の集めた調伏戦隊ね」
「それ以上戯れ言を口走るつもりなら、あんたも調伏するわよ」
冗談ではないと凄みをきかせる霊夢に、「おぉ、怖い」と大袈裟に反応を返す紫。
それを見てさらに苛立ちのオーラを大きくする霊夢をこれ以上怒らせると冗談も本気で通じなくなってしまう。
紫は扇を広げると口元を隠して、その場を誤魔化した。
そんな戦いの後の和やかな? 雰囲気を作っているハクレイジンジャーを、一人厳しい視線で見つめる者がいた。
両腕、両足をもがれたヴァンピリッシュVの操縦席で、誰よりも敗北を噛みしめているレミリアだ。
彼女は未だこの結末が納得ができずにいた。
本来なら流れ的に、最初に煮え湯を飲まされた自分たちが、永遠亭に対し劇的な勝利を飾っての大団円に違いなかったのだ。
こんな運命が待っているなんて、運命の申し子である自分にも想像しえなかった。
「お嬢様……」
「何?」
「い、いえ……なんでもありません」
咲夜は従者として何かできることはないかと話しかけようとするが、すぐに掛ける言葉を見失ってしまう。
自身の失態に関することならいくらでも応対できるが、主の敗北ほど気まずいものはない。
「咲夜、ちょっと」
「なんですか、パチュリー様」
レミリアに聞こえない程度のひそひそ声で呼ばれ、咲夜はその声の主であるパチュリーに顔を近づけた。
この状況下でも冷静に事を見つめている魔女に、何だか言い表しようのない雰囲気を感じ取り咲夜は怪訝な視線を送る。
「こういう時はそっとしておくのが一番よ」
「ですが……」
「あなたの信じるレミリア・スカーレットは、そんなに頼りない吸血鬼なのかしら」
「そんなことはありません!」
小声でもきっぱりと言い切る瀟洒な従者に、パチュリーは満足そうに頷きを返した。
その反応に咲夜は、先程感じた雰囲気とのこの差にやはり何か引っかかりを覚えながらも、主の親友である魔女の言葉と、なにより自分が信じる主を信じて従うことにした。
「お嬢様、この交戦で屋敷に及んだ被害状況を見てきます。お嬢様はここでお待ちください」
「そう。頼むわ」
「レミィ、私も小悪魔と一緒に書庫の様子を見てくるわね。一応結界は張っているけど心配だから」
「えぇ、見てくるといいわ」
レミリアは端的な返事しか返さないが、そこには弱気な様子も含まれてはいない。
パチュリーの言うように、高貴とカリスマを備えた夜の王たるレミリアが、そう簡単に打ちひしがれるはずもないのかもしれない。
咲夜は少し安堵しながら、パチュリーと小悪魔に続いて操縦席を出て行った。
他には誰もいなくなった操縦席で、レミリアは一人考えた。
従者にも、親友にも、あれだけ心配されてしまうなんて。
本人たちは聞こえないように喋っていたつもりなのだろうけど、この閉鎖された空間で聞こえないわけがない。
「まったく。これじゃあ格好が悪すぎるじゃないか」
乾いた笑いを浮かべながら、自身のふがいなさを改めて恥じるレミリア。
紅魔館の主として、誇り高き吸血種の血族として、譲ってはならないものがあったのではなかったか。
しかも自分以上に、咲夜達はまだそれを信じている。
自分がその大切なものを未だ捨ててなどいないと。
それなら、為すべき事は一つしかない。
☆
一方、動力を失って立ち尽くす永遠178号の操縦席では、輝夜が呆然とうなだれていた。
あれからいろいろ試したがうんともすんとも言わない。せっかく永琳が作ってくれたのに。
ヴァンピリッシュVもやられてしまったようだし、動いたところで意味はないのだけど。
「輝夜っ!」
そこへ霊夢との対峙から永琳が戻ってきた。
しかし彼女が見たのは、がっくりとうなだれた輝夜の姿。びっくりした声をあげるのも仕方がない。
「あぁ、永琳……どうやら私達は負けてしまったのね」
「もしかしてそれで落ち込んでいたの?」
輝夜の返事はないが、それが肯定を表していることくらい誰でもわかる。
だが元・月の姫として一度負けてしまったからと言って落ち込んでいるようでは、全盛期のカリスマを越えることなど到底かなうはずもない。
そして、それではせっかくの“計画”も失敗に終わってしまう。
そこで永琳が取った行動、それは――
「しっかりなさい!」
「った!? い、いきなり何するのよ」
たった今ぶたれた頬を押さえながら、ようやくいつもの調子で返してきた輝夜。
その顔には、どうしてぶたれたのかわからないという様がありありと浮かんでいる。
そんな輝夜に「そんなこともわからないの!?」と叱咤激励を飛ばす永琳。
「あなたのカリスマは、この程度で消えてしまうものだったの?」
「永琳……」
「私の教育で大事だと教えたことは何だったかしら」
「……なんだっけ」
永琳の手刀が輝夜の脳天に直下型クリティカルヒットする。
倒れ伏しかける輝夜だったが何とか持ちこたえながら、永琳を睨み付けた。
それだけの攻撃力ならば、反動も相応に返ってきているはずだが永琳は平然としている。
「私が何より大事だと言ったのは、あきらめない不屈の心」
「言ったっけ?」
「さて、今度は斜め45度で延髄かしら」
「お、思い出したからっ! 言った言った、そういえば言った!」
明らかに思い出していない輝夜だが、ここで彼女を気絶させるわけにはいかない。
永琳は、何より輝夜本人のために、何事も無かったかのように話を続けた。
「……今のあなたに圧倒的に足りないのは、カリスマをあきらめない事よ」
指を鼻先まで突きつけられて輝夜は困惑の表情を浮かべる。
永琳の言いたいことがわからないわけではない。
「そうは言っても、巨大ロボでもドリルでもダメだったのよ」
「ほらまた」
永琳はどうしろと言うのか。
いい加減輝夜も、こっちがなにも考えていないように言われることに腹が立ってきた。
ちゃんと考えて、いっぱい考えて、それで出した結論なのに。
「どうやらその顔だと納得どころか、理解もできていないようね」
「だったら教えてくれたっていいじゃない!」
「それだと意味がないでしょう? って言っても仕方がないわね。それじゃあヒントだけよ」
「ひんと?」
「カリスマに善悪はないの」
それだけ言うと、永琳は部屋を出て行ってしまった。
輝夜ならそれでわかるということなのだろうか。
残された輝夜は、「何なのよ」と悪態を吐きながらも考える。
カリスマをあきらめない。
カリスマに善悪はない。
『……い、おい』
そんな輝夜の元に届く声。
何事かと顔を上げると、その先には体だけ残されたヴァンピリッシュVから、レミリアの声が聞こえていた。
しかしこちらは動力が断たれているため、輝夜は聞こえてくる声に耳を傾けることしかできない。
しかし返事ができたところで、どうにもならないと輝夜は半ば諦めていた。
『聞こえているならそのまま聞け。お前も私もこっぴどくやられてしまったが、これで終わっていいのか』
良いとは思わない。
だがどうすればいいと言うのか。
そもそもレミリアは手足をもがれたその機体で何を企んでいるのだろうか。
「なに、あんた達はまだやられたりないの?」
レミリアの言葉に、それが聞こえている霊夢達が割り込んでくる。
すでに休戦モードに入っている彼女たちの声はとても朗らかで、敗者にはいっそうの惨めさを感じさせる。
「あきらめない姿勢は大事だけどな」
「あら、あきらめが肝心ってありがたい言葉もあると思うけど?」
「アリスはいつもあきらめが早いからな」
「なんですって!? そういう魔理沙は無茶しすぎなのよ」
何を言っても、もはや完全にレミリアも輝夜も人生の負け犬扱いされているようにしか聞こえない。
すっかり戦い終えた彼女たちは、カリスマなど微塵も感じていないようだ。
『おい! 宇宙人。こんなコケにされっぱなしで悔しくないのか!?』
吠えるレミリアの言葉は、輝夜の今の気持ちそのものだ。
できることなら今すぐにでも自分達をなめている連中に一泡あわせてやりたい。
ジブンタチ?
「そう、永琳。“そういう”ことなのね」
輝夜はゆっくりと顔を上げると、迷うことなく操縦桿を握りしめた。
動かないのはわかっている。
だが、それでもあきらめてはいけないのだ。
「レミリアァァァァァッ!!!!」
輝夜の拡声器も何も使わない、届くはずのない声。
だがそのとき、輝夜のカリスマとレミリアのカリスマが響き合った。
理論では到底証明することのできない現象。
本来音は空気に波を起こして相手に意思を伝える術だが、今の彼女たちの意思を繋げているのは空気の波などではない。
互いの熱い思念、仲間からの思いを受けて目覚めた真のカリスマが、彼女たちの意思を一つにしているのだ。
「輝夜ああぁぁぁっ!!!!」
二人のカリスマが交錯し、一体となり、科学では解明できない反応を引き起こす!
紅と銀の輝きをそれぞれまといながら、もう動かせるはずのないヴァンピリッシュVと永遠178号が動き始めた。
それだけではない。
二つの輝きは天に昇ったかと思うと、交互に螺旋を描きながら、次第に一つに混じり合っていく。
突然の変化を目の当たりにした、霊夢達にも戦慄が走る。
「こ、これは一体どうなっているんですか!?」
「紫っ!?」
「……始まってしまったようね。できればこうなる前に終えておきたかったのだけど。これもあいつ等の“計画の範疇”ということかしら」
どうやら何か知っているらしい紫の表情からは、いつの間にか余裕の色が消えている。
いったい何を知っているのか。
霊夢がそう尋ねようとしたときだった。
「私達の悲願の達成よ」
困惑するハクレイジンジャーの元に響く、勝ち誇った声。
五人が振り返った先には、さっきまで互いに敵として戦っていたはずのパチュリーと永琳の二人だった。
二人は肩を並べて一つの光となった、互いの技術の集大成と、それに搭乗している者達を凝視している。
「もしかしてあんた達グルだったの? さっきまで戦っていたんじゃないの?」
霊夢の当然の疑問にも、知識人二人はしれっと答える。
「戦っていたのは輝夜とレミリアよ。私達は私達の計画を進めていたにすぎないわ」
「そう……すべてはあの時から進められていたの」
☆
紅魔館の書庫で、カリスマの上昇に何か良い方法はないかと研究を続けるパチュリー。
なんとなくの構想はできていたが、まだまだ足りないものが多く、実際に事として起こすにはまだしばらく時間が掛かりそうだった。
そんな時だ。小悪魔が客人を連れてやってきたのは。
その顔を見るなり、あからさまに嫌そうな表情を浮かべるパチュリーに、客人は苦笑を浮かべる。
「歓迎してとまでは言わないけど、もう少し愛想が欲しいところね。動かない大図書館」
「生憎、あなたに振りまく愛想はないわ。月の頭脳」
小悪魔が連れてきたのは、ここに来ること自体珍しい永遠亭の八意永琳だった。
そもそもパチュリーも紅魔館を出ることが少ないのもあって、知り合いと呼べる程度の認識しか二人にはない。
しかし互いに幻想郷有数の知識人ということで、ライバル意識を燃やす。
今にも弾幕が飛び交いそうな空気を止めたのは、永琳を連れてきたパチュリーの使い魔、小悪魔だった。
「もぅ、せっかくお互いの利益になると思ってこの場をセッティングしたんですから」
「誰がそんな事をしろって言ったかしら」
「私はパチュリー様の使い魔ですよ。お役に立ちたいんです。そしてこの方は、パチュリー様と同じ悩みを抱えていたもので。これも何かの縁ですし、ここはお二人で解決に挑んだ方が良いかなぁ、と」
ニコニコと可愛らしい微笑みを浮かべる小悪魔。
パチュリ-にしてみれば、永琳はたしかにあまり好きではない相手だが、組めばこれほど心強い者もいない。
人里の半ハクタクよりは知識のベクトルも方向を向いているようにも思える。
小悪魔の言うとおり自分と彼女の悩みが同じなら、ここで争わず協力するのは最も合理的な選択だろう。
後は相手の出方次第だが。
「あなたはそれで良いのかしら」
「そうね。私は私の目的が達成できるなら構わないわ。それにここの資料なら私の望む物があるかもしれない」
「そう。なら、私にも異論はないわ」
口元には互いにシニカルな笑みを湛えながら、二人は握手を交わす。
親友と元・教育者と立場は違えども、二人とも大事な者の将来のため悩みを持つ者同士。
そして奇しくも彼女たちの脳裏には、似たような計画が浮かんでいた。
こうして秘密裏に、二人の知識人による『C計画』は始まったのである。
☆
「C計画の目的は、カリスマの低下したレミィと輝夜のカリスマを取り戻す。いえ、全盛期のそれすら越えさせること」
永琳のアイデアを元に、パチュリーの持つ資料からヒントを得て永遠178号を作り、レミリアに輝夜へのライバル意識を持たせることを発端とし、ヴァンピリッシュVを用意する。
ヴァンピリッシュVの合体、永遠178号のドリルといったカリスマ要素で、互いのカリスマを引き上げていく。
それによって互いを越えようと、二人のカリスマは自然に上がっていくのだ。
「しかしそれでは全盛期を越えることはできないわ」
「なぜ私達が、こんな人目に付きやすい手段を取ったのか。一番の理由は単純に格好が良いから。だけどもう一つ、この計画を結実させるための重要な理由があったのよ」
これだけのことをすれば、必ず異変を感じ取った者が邪魔をしにやってくる。
そう、もう一つの理由とは“わざと人目に付くこと”。
しかし目的は邪魔をしにきた者を倒すことではない。
この二人にとって、ヴァンピリッシュVや永遠178号が倒されるのは計画の範疇。
いや、むしろ計画完遂のために最も重要なプロセスと言っても過言ではない。
「一度高めたカリスマを、敗北によって崩壊させる。そしてそれを再び取り戻したとき、輝夜たちのカリスマは限界を超えるのよ!」
永琳の興奮じみた高らかな声とともに、満月が如く膨張した光球が破裂した。
白く囁かな月影の降り注ぐ夜を赤くまばゆい光が包み込む。
「二人のカリスマは互いに意識し合い、上昇し、そして互いに認め合う。今こそ私達が設計制作したカリスマの神が降臨する!」
パチュリーの言葉が終わるのと同時に、光が収まり場にいる全員の視線がそこに集中した。
しかしそこにあったのは、さっきの光球よりも一回り小さい黒い球が浮かんでいるだけ。
ヴァンピリッシュVや永遠178号のような人型でないことに、一斉に不信の目を向けるハクレイジンジャーの面々。
「あれは……何なんですか」
そこへ、パチュリー同様ヴァンピリッシュVから離れていた咲夜も合流してきた。
その様子を見るに咲夜もパチュリー達の計画を知らなかったようだ。
その時である。
光の膜を払って現れた黒球から荘厳にして雅やかな二つな声が響いてきた。
『天に浮かびし狂気と力の象徴、お月様』
『でもそれは満ちては欠ける不安定な光』
『ならば私達は、けして欠けることのない月となろう』
『夜も朝も輝き続け、太陽すら平伏させてみせましょう』
黒球が開いていくと、それが前進を覆うほど巨大な六枚お翼であったことがわかる。
悪魔の翼の内側は鮮やかなほどの深紅。
漆黒と深紅の翼に隠されていた本体は、翼の黒と紅とは対照的すぎるほどの純白のボディを見せつけていた。
素体となっているのは永遠178号で、その各部にバラバラにされたヴァンピリッシュVのパーツが流用されている。
見た目の大きな変化そのものは、巨大な翼と純白の輝きを放つ月光色の体だけだ。
だがその姿を見た全ての者が、あるゆる言葉を失っていた。
考えられない、感じるしかない、言葉にできない、それはまさしく――
「カリスマ……」
その呟きは誰のものだったか。
しかし、この場にいるほとんどの者が同じように感じていたのは言うまでもない。
カリスマの神とすら称した、二人の知識人が作り上げた巨人の名、それは――
『『月・紅・神!!!! カリィィス、マガンッ!!!!』』
いっそうの輝きを煌めかせながら、地に降り立つ夜と月の王。
その翼が羽ばたき起こされる風に、髪や衣装をなびかせながら、一同はその一挙一動を見つめるしかない。
「カリスマの神とは、また大きく出たものね」
その中で唯一平静を保ちながら、いつになく鋭い視線を送り続ける紫が呟く。
彼女はこうなることを知っていたらしい。
それがどうしてなのか、そのことにつっこむ者はいない――だって紫だし――。
『そんなに呆けてどうした。ようやく私達のカリスマに気づいたのか?』
『無理もないわね。私達自身、己が内から湧き上がってくるカリスマに打ち震えているほどだもの』
まさか全てのことが、自分たちのカリスマ低下を危惧した知識人の計略によるものだっなど知らず、カリスマの限界を突破した二人は喜びの声を上げる。
しかし事実彼女たちが発しているカリスマはそれまでのものとは一線を画していた。
相対するものとの協力。
それはそれまで否定してきた相手を越えることよりも、余程勇気と決意を要するものだ。
逆に言えばそれを乗り越えたとき、それらを手に入れたことになる。
彼女達に足りなかったもの、つまり他を認め協力する精神は、彼女達のカリスマを枠から突破させたのである。
『さて、それじゃあ第二戦……いや、本番開始と洒落込もうかっ』
カリスマガンの右手、眩い光子を散らしながら蓬莱ドリルが回転を始める。
だがその回転は先程まで永遠178号の右手に付いていたものとは段違いだ。
彼女たちのカリスマが、ドリルの威力をも上げているのだろう。
『行くわよ、愚民共っ』
光子を纏うドリルが螺旋状のエネルギーを放出する。
ヴァンピリッシュVの左腕のアームバスターから発射されていた魔砲との混合技だ。
ただ放たれるだけの魔砲に、回転という力が加わることで命中率、威力などの全てが上がっている。
しかもその回転は二人のカリスマによって生み出されている特殊なもの。
「避けなさいっ」
紫の恫喝に霊夢達は我に返り、すんでの所でカリスマガンの先制攻撃を避けきった。
標的に避けられ大地に激突したドリル魔砲は、木々を焼き岩を削り黒い穴を穿つ。
あんなものをまともに喰らったら、いつもの弾幕ごっこのかすり傷程度では済まないのは明白だ。
相手のカリスマに圧倒されている場合ではない。
「完成したカリスマガンに太刀打ちできるものならやってみなさい」
「言われなくてもやってやるわよ! ていうかあんなもの放っておけるわけ無いじゃない」
攻撃の当たらない範囲まで避難するパチュリーの挑戦的な言葉に、噛みつくような剣幕で答える霊夢。
あんなものと呼び捨てた代物は、傍から見てもヤバイ物だということが一目瞭然だ。
どうして紫がこうなることを知っていたのかはわからないが、こんな深夜に人数を集めてこの戦いに巻き込んだ理由は分かった。
あんな危険な物を、野放しにできないからに決まっている。
『ほらほらほらぁっ! どんどん行くわよーっ』
怒濤の波状攻撃に近づくことすら許されないハクレイジンジャー。
一対五など、普段なら数の暴力とでも言えそうだが、今はこれで対等と言えるくらいだ。
この唯一の利である人数を活かして、どうにか流れをこちらに向けさせなければならない。
うまく隙を作り、弱点でも突ければ最善だが、果たして弱点など存在するのだろうか。
「私がやるわ」
「アリス?」
「合体してパワーアップしたって、所詮は作られた人形なんでしょ。人形相手なら私に任せて」
アリスの言葉に、互いの顔を見合わせる霊夢達。
確かにアリスならヴァンピリッシュVにしたのと同じように、連結術式の構成を分析し、それに相対する分離術式をぶつけることもできるかもしれない。
相手の情報が二つの巨人が合体した物としか分かっていない今、数少ないそれらから弱点を推測するしかないのだ。
「それじゃあ私と霊夢でアイツの気を引くぜ」
「私はどうしたら?」
魔理沙の作戦に頷く霊夢に、やや疲れた表情で早苗が自分のやるべき事を尋ねてくる。
そんな早苗に霊夢が与えた役目は、早苗に自身の耳を疑わせた。
「早苗は……少し休んでいた方が良いわ。さっきの戦いでだいぶ神力を消費したはずだから」
「で、でも。霊夢さんだって」
「私は別に何ともないわ。大きな攻撃と言っても鬼神玉くらいしか使ってないもの」
永遠178号の中でも、永琳は全てが前戯にすきないことを知っていたから下手な攻撃はしてこなかった。
おかげで霊夢の霊力はまだまだ余裕があったのだ。
それに対し、外で永遠178号の攻撃をかわしながら、常に神力を放出していた早苗はすでに霊撃一つ撃てない状態だ。
眠そうに見えたのも、それだけ体力神力共に消費していたからに違いない。
「役に立ちたいなら、少しでも休んで回復に専念することね。まだ戦っているようなら割って入ってくるなり好きにすればいいわ。ただ、足手まといになるようならさっさと小山の神社に帰ることね」
ここまで言われ最早何も言い返せず、早苗はその助言通りひとまず回復するため戦線を離脱することにした。
足手まといになりかねないということは、何より自分が一番わかっている。
神力が底尽きそうなのも事実だ。
「無事に」
「わかってるわよ。あんたの分も活躍してあげるから安心しなさい」
「お願いします……って、それだと守矢の信仰がっ」
「こんな時まで神社の心配か……霊夢は少し早苗の爪の垢を分けてもらった方が良いんじゃないか?」
茶化す魔理沙に御幣の一撃を食らわせながら、霊夢は早苗の元を離れていった。
そうなるのが困るならさっさと回復しろ、と一言言い残して。
「じゃあ私も行ってくるぜ」
魔理沙も霊夢から一足遅れて早苗の元を離れて、すでに臨戦態勢に入っているアリス達と合流する。
アリスは紫の結界の中から術式の分析を行うようだ。
本命の攻撃が悟られないように、霊夢と魔理沙は囮として演出するのだが、二人ともあわよくば自分が倒してやろうという気迫が滲み出ている。
これなら気を引くための演技など必要ないだろう。
「さぁて、さっさと調伏するわよ」
「さっきよりも大きい的だ。攻撃なんか当て放題だぜ」
やる気満々で飛び出していく二人を後ろから眺めながら、紫は依然として難しい表情を浮かべている。
その隣にいるアリスは、紫が何を考えているのか気になって仕方がない。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら」
「どうして相手が合体するって知ってたの。それだけじゃないわね。まだ何か知っているんじゃない?」
「乙女の秘密ってことで納得してもらえないかしら」
真剣な顔で「乙女」と言われ、アリスは思わず吹き出してしまった。
直後どこからともなく降ってきた金だらいの脳天直撃を喰らいながら、紫には紫の思惑があるのではとアリスは推測する。
だがそれも、目の前の巨人を倒さなければ思惑も何もないだろう。
何を考えているのか分からないのは常のことだし、今はそんなことよりもいち早く相手の連結術式を分析するのが自分の役目だ。
「分析――開始(スキャニング、スタートっ)」
アリスは四方八方に人形を飛ばし、空中に陣を描く。
その陣が内部の魔術を分析し、直接アリスの頭に転送するという仕組みだ。
理論派を自称するアリスならではの魔法と言えるだろう。
すぐに術式のデータが数値、属性、式となってアリスの頭に流れ込んでくる――はずだったのだが。
「な、何のこれはっ!? ぅぅっ、きゃああぁぁっ!」
突然頭を抑えて苦しみ始めるアリス。
側にいた紫が肩を抱いてその痛みの原因を探るが、なおもアリスを襲う頭痛は治まらない。
霊夢と魔理沙もその異変に気がつき、攻撃の手を緩めアリスの異変に視線を向けた。
「っああぁぁっ!!」
「どうしたの!? 落ち着きなさい」
アリスの苦しむ声が結界の中に響く。
そしてついにアリスは痛みに耐えきれなくなったのか、糸が切れた人形のように意識を失ってしまった。
紫がその体をしっかりと抱き留め落下は防ぐも、掻いた冷や汗でアリスの体はぐっしょりと濡れている。
「ちょっと、アリスはどうしちゃったの」
「わからないわ、分析術を始めてすぐに苦しみだしたのよ」
攻撃を魔理沙に任せて戻ってきた霊夢に、紫は起こったことをそのまま話した。
だが見たままを話しただけでは何もわからない。
アリスが魔法陣から送られてきた分析結果を見てから苦しみだしたのは確かだが、とすれば問題はその分析結果ということになる。
「現実と意識の境界を越えて、アリスの見た物を見てみるわ」
「そんなことして、あんたまで倒れないでよ?」
「大丈夫よ。私が何年大妖怪をやってると思うの」
紫はアリスの額に人差し指を当て、目を瞑る。
途絶える直前の記憶を見ようというのだ。
それを見ればアリスが気を失った原因、そしてカリスマガンの秘密がわかるかもしれない。
「こ、これは……」
「どうしたの? 何が見えた?」
アリスの意識の世界から戻ってきた紫は、どうにも納得のいかない表情を浮かべて霊夢を見る。
ン百年大妖怪をやって来た賢者にも、理解できないことがあったというのか。
「まったく、なんて非常識な物を作ったのかしら」
「わかるように説明しなさいよ。何が非常識なの」
「パチュリー・ノーレッジと八意永琳が、最初からあの巨人を作らなかった……いえ作れなかった理由が分かったのよ」
二人を共闘させるように仕向ける、それだけなら方法はいくらか考えられたはずだ。
しかし敢えてこの手段を取り、しかもその上で二つの巨人を一つにするという二度手間をかけさせたのには、やはり理由があったのだ。
「あの巨人。魔法や式なんて論理的なもので動いてないのよ」
「と言うと?」
「あいつ等のカリスマが全ての連結、動力となって動いてるって事」
「それじゃあアリスは……」
「考えるな、感じろって言うのが無理な子でしょう。流れ込んでくるものに頭が耐えきれずに、オーバーヒートを起こしてしまったって所ね」
魔法やカラクリ、式といった知識人の専門分野ではどうにもならない力を使って動く巨人。
確かにそんなものを、そもそもの源であるカリスマがない状態で作れるはずもない。
だが魔法使いの脳をパンクさせる程のカリスマとは、流石の紫も唖然とするしかなかった。
☆
「ふ、あれぞ私達の智力の結晶。カリスマを動力源に変える駆動装置、“Cドライブ”っ!」
「試運転すらできなかったけど、そんなもの必要なかったわね。私達の知識に不可能はなかったわ!」
カリスマガンとハクレイジンジャーの戦いを見守りながら、自分たちの最高傑作に見惚れる知識人二人。
その隣では、二人のテンションについて行けず咲夜が冷ややかな視線を送っていた。
レミリアが立ち直ったまでは良いとしよう。
だがそれも全て含めてパチュリーの計略によるものだったとは、咲夜からすれば何だか裏切られた気分である。
正確には何も知らされていなかったと言うべきだが、そんなことはどうでも良い。
「パチュリー様。本当にこれで良かったのですか?」
「どうしたの。レミリアのカリスマは以前とは比べものにならないほどに上がってるのに」
「ですがそれはパチュリー様の計略によるもの。お嬢様が自ら引き出したカリスマではありません」
苦言を呈する咲夜に、パチュリーは違うと言わんばかりに首を振る。
そして自分はあくまでもレミリアのために、今回の計画を立てたのだと弁明を始めたのだ。
「確かに私達はあの二人のカリスマを引き出すための計画を立てたわ。でも、全てレミィ達が“自分で気付く”ようにするだけに留めてあったはずよ。私達はきっかけを作ったに過ぎないわ」
「そうやってご自分を正当化されるつもりですか」
さも当然というパチュリーの言葉に、咲夜を包む空気がざわりと変わる。
パチュリーの言うことを信用していないわけではない。
だがそれでも咲夜にはどうしてもパチュリーを許せない理由があった。
「お嬢様をその気にさせるためとはいえ、私を輝夜と鉢合わせたのも計画の内だったと?」
「もしかして貴女の仕事を台無しにしてしまったときの話をしているのかしら」
「そうよ。あんな失態、自分で自分が許せない。だけど、それが謀られたものだったのなら!」
咲夜の両手に鈍い光を放つナイフが握られる。
刹那パチュリーは魔導書を、永琳は肩からかけていた弓を構え、場の空気が張り詰めた。
「あなたも変なところで真面目ね」
「それが従者たるものの在り方ですわ」
互いの動きに注目しながら、一触即発の会話を続ける三人。
だがそこへ思わぬ闖入者が現れた。
「その考え方には賛同ですっ!」
宵闇を一閃の斬激が如き速さで切り裂き現れたのは、霊魂を側に連れた小柄な少女剣士。
ずいぶん遅れた登場となった魂魄妖夢である。
まさかの白玉楼関係者の参戦に、一同は彼女の主である幽々子の登場に意識が向く。
「あぁ、いや。幽々子様はすでにお休みになってます」
恥ずかしそうに俯く妖夢。
あの後デザートを作り、風呂を焚き、床の準備までしてからここに赴いたのだ。
前話でまったく出番がなかった間も、彼女は便利な小間使、もとい優秀な従者として働いていたのである。
「そ、そんなことよりっ! 話は大体聞かせてもらいました。あの巨人を叩っ斬れば良いと思っていたけど、黒幕がこんな所にいたなんて。……斬ります」
「黒幕、ねぇ。カリスマガンが完成した時点で、時既に遅しなのだけれど」
「そんなことはないですわ。お嬢様達を説得して、あれから降ろせば良いだけの話」
立ちはだかる妖夢の隣に共に立ち、永琳の言葉を穏やかな殺意で否定する咲夜。
状況はこれで二対二になった。
刀を抜いて妖夢もすぐに斬りかかれる体勢に入る。
「説得の前にまずはあなた達を倒す。妖夢、良いわね」
「無論です」
どうあっても向かってくる従者二人の真面目さに、知識人二人は辟易した様子で溜息を吐く。
こればかりは二人にとっても計画外のこと。
計画の成就に祝杯でも挙げようとしていたところを邪魔されては、せっかくの機嫌も損なわれてしまう。
何よりあのカリスマガンが気にくわないとは、意識の不一致も甚だしい。
「少し灸を据える必要がありそうね」
「まったく、これだから思慮の浅い人間は困るのよ」
知識人サイドもやる気になり、どちらも冷静に事を収束させる気はなくなったらしい。
それぞれの得物を構え、後は緊張の弦が微かにでも弾かれれば刹那の内に戦いは始まることだろう。
その時、彼方の空が白い輝きを放ち、同時に爆音が鳴り響く。
鼓膜を通して体全体に行き渡る重低音に誰一人怯むことなく、まるでそれを待っていたかのように四人が四方に跳ねた。
それぞれの思惑を胸に秘め、ここにもう一つの戦いの火ぶたが切って落とされたのである。
☆
咲夜達が戦い始めた頃、その合図となった爆発を起こした魔理沙は、まだ魔力の放出の残り香漂う八卦炉を片手にカリスマガンを見下ろしていた。
渾身の一撃として放ったマスタースパークも、六枚翼の鉄壁に阻まれ本体には届かない。
攻撃力だけでなく防御力まで、まるで次元違いとなった相手に対し、忌々しげに舌を打つ。
さっきのヴァンピリッシュVの戦いの時もそうだったが、やっぱりこれはフェアではない。
自分はアリスのように論理立てた戦い方は性に合わない。
真っ向から叩きのめしてこそ、真に相手を打ち負かしたと、何より自分が納得できる。
だがこの体格差と、ポテンシャルの差では真っ向勝負も最初から無理な話だ。
どうやらアリスはやられてしまったようだし、真っ向勝負も最初から諦めるしかない。
だとすれば自分が打てる最善手は何なのか。
「そんなこと……考えたって分かるはずないよな」
自分ができることはただ一つ。
それは相手が何であろうと変わらない。
それが霧雨魔理沙。
それが普通の魔法使いの生き様なのだ。
「こんなこともあろうかとっ! 魔力結晶はわんさと用意してきたんだぜぇっ!」
腰に括り付けた巾着から、赤い金平糖のような粒を取り出す魔理沙。
それは魔法の森の茸から作った魔理沙特製の魔力の結晶だ。
汎用性は無いが利便性は高い。
八卦炉に一粒入れれば、それだけで強力な魔砲を放つことができる。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。マスタースパークも数打ちゃ効く! 多分っ」
確定要素なんかどこにもない。
そんなもの無いからこの世界は楽しく、挑戦しがいがあるのだ。
それがどんなに理不尽だったり圧倒的でも、怯んだり諦めたりしたらそこで終わってしまう。
「終わりになんかさせないぜ! こんな楽しいこと、疲れて寝るまでどこまでだって付き合ってやるよ! そらっ、もう一発お見舞いだ!」
景気よく魔力結晶を魔砲として放つ魔理沙。
こんなこと普段の弾間幕ごっこではけっしてやらない暴れ技だ。
だがカリスマガンは無情にも、ドリル砲の連射でマスタースパークの連撃を打ち払っていく。
魔理沙の限りある攻撃とは違い、二人のカリスマが無尽蔵なエネルギー源となり、いくらでも攻撃のできるレミリア達にとって、その程度の攻撃など全く脅威ではないのだ。
それでも魔理沙は止まることはない。
残り僅かとなった魔力結晶をすべてぶち込んで、自身の魔力も一滴残らず搾り取るように八卦炉に込めた。
一粒でもマスタースパーク一発分の強力な魔砲が放てる魔力結晶だ。
その結晶が八卦炉という特殊な炉の中で溶け出し、綿密に計算し尽くされて作られた魔力が高熱・高密度・高威力のエネルギーとなって外部に放出される。
「これで終いだ! スペシャルファイナルスパアアアァァァック!!!!」
特太サイズのファイナルスパークが放たれ、そのキャパシティギリギリの攻撃に八卦炉もぎちぎちと悲鳴を上げている。
(これは目が覚めたら香霖に見てもらわないといけないな)
そんなことを考えながら、魔理沙は渾身の一撃を最後の最後まで放ち続けようと腕を前に突き出し続けた。
まだまだ倒れるわけにはいかない。意識の残り続ける限り攻撃を止めたりはしない。
そんな魔理沙の思いを体現するかのように、魔理沙の残る全ての力を一つとした攻撃は一直線にカリスマガン目掛けて迸る。
さすがにカリスマガンのドリル魔砲でもこの一撃はそう易々とは打ち破れない。
いくら無尽蔵に攻撃を放つことができても、その攻撃そのものが無効化されてしまっては意味がない。
ついに本体に届くかと思われたその矢先、カリスマガンは右腕のドリルを直接ファイナルスパークにぶつける荒技に出た。
『この程度っ、私達のカリスマの前には無意味よ!』
「それはどうかな。私の根性だって負けてないぜ」
『あなたの捻くれた根性がなんだって言うの』
「生憎様。曲がってる方が直線より長いんだ。私の根性はそんじょそこらの根性よりも長くて太いのさ」
いつまで経っても減らず口を閉じない魔理沙に、カリスマガン搭乗者の二人も少し気圧され気味になる。
だがようやくここまでして手に入れたカリスマを、このしきのことで手放していいはずもない。
よりいっそうのカリスマを燃やし、その力をドリルへと集中させていく。
『どれだけお前の根性があろうと!』
『私達のカリスマは無敵なのよ!』
激しい鍔迫り合いを続けていた二つの強力な力は、ついに魔理沙側の魔力が限界を迎え始めたことでその均衡を崩す結果となった。
力を失ったファイナルスパークはドリルの直接攻撃によって蟹蒲鉾のように割け、大気中に霧散していく。
「くっそ……完敗とはね」
魔理沙自身全ての魔力を注ぎ込んで、しかもあれだけの威力の攻撃を放ち続けるのに体力も精神力も随分消費した。
もはや意識を保つのにも限界がきており、攻撃を打ち破られたことで緊張の糸も解けてしまったようだ。
だがその表情には、全力を出し切って負けたというどこか清々しささえ感じられる表情が浮かんでいる。
魔理沙はそのまま目を閉じ、口元に笑みを浮かべたまま、ぐらりと体のバランスを崩し、箒もろとも落下していく。
「ちょっと!? 魔理沙っ」
その攻防に割り込むことができず、見守っていた霊夢が叫ぶ。
すぐに地面との激突を避けるため飛び出そうとするが、その動きが何故か止まる。
魔理沙が落ちていく所、霊夢より先に飛び出していた早苗が受け止め、その落下を阻止したのだ。
「魔理沙さんのことは私に任せてください」
自身もまだ本調子ではないはずなのに、それでも魔理沙を助けるために力を振り絞った早苗。
霊夢はその行動に安堵し、そして次は自分の番だと立ちはだかる巨人を真っ直ぐに見据えた。
『敵ながら天晴れな攻撃だったわね』
落下していく魔理沙を見下ろしながら、レミリア達はたった一人でここまでカリスマガンとやり合った普通の魔法使いに敬意の言葉を贈っていた。
だが二人には感傷に浸っている暇はない。
アリスと魔理沙を倒しても、まだまだそれ以上に危険な奴等が残っているのだ。
その相手の一人、博麗霊夢もこちらに鋭い眼差しを向けている。
どうやら向こうも同じ気持ちらしい。
『やってあげる。あんたと紫を倒して、私達が幻想郷一のカリスマを持つ者として君臨してやるわ!』
『今日はその記念すべき日。私達はあなた達に勝ってみせる! いいえ、今の私達なら勝てる!』
「何とでも言いなさい。私は自分の安眠の為に、あんた達を調伏して帰るだけよ」
それぞれに意気の上がってきた三人の側に、意識を失ったアリスを安全な場所に移して紫が戻ってきた。
特徴的なパラソルをクルクルと回しながら、その口元にはいつもの薄気味悪い笑みは浮かんでいない。
霊夢の隣に浮かび立ち、こちらを見つめる巨人の視線を鋭く射抜く眼光で見返す紫。
「そうね。少しばかり調子に乗りすぎているようだし、ここいらで一つ痛い目を見てもらいましょうか」
『ふん、それでこそ妖怪の賢者が一人。その顔で言われたら、そんじょそこらの妖怪はすぐさま平伏するはず。だけど私達がそんな玉じゃないことくらいわかってるわよね?』
「それくらいの玉なら最初から私が出てくることもなかったわ。本当は私の手も患わせずに霊夢達が全部終わらせてくれることを期待していたんだけど」
「悪かったわね。期待はずれな働きで」
「そんなことはないわ。予想よりもずっと早く“こうなった”んですもの」
むくれっ面で不平を漏らす霊夢に、紫は真剣な表情を崩し苦笑を浮かべた。
だが、その纏う雰囲気からは隙など微塵も感じられない。
そして再びカリスマガンと向かい合う霊夢と紫。
「さぁ、お喋りはこれくらいにして。さっさと始めてとっとと終わらせましょうか」
『そうね。長い長い夜だけど、そろそろお開きの時間だわ――博麗の巫女と境界の賢者の大敗という、これ以上ない幕引きでねぇ!』
輝夜の言葉が終わると同時に、カリスマガンの右腕が突き出され、破壊の回転を始めたドリルから光の粒子が放出される。
それが光の螺旋となって放出されるまでに掛かる時間は、ものの一秒にも満たない。
しかしそれだけの時間があれば、霊夢達がその場を動き攻撃を避けるのには充分な余裕だった。
その余裕を無くさんとカリスマガンの猛攻はさらに激しさを増す。
ひらりひらり舞うように避ける霊夢と、どこから現れるか分からないスキマを通って神出鬼没の避け方を見せる紫。
どちらも回避能力という点だけでも、厄介なことこの上ない相手である。
しかし避けるだけでは決着はつけられない。
もしエネルギー切れを狙っているとしても、今のカリスマガンにそれはない。
そしてそれは相手もわかっているはずだ。
どこかで何かを狙ってくる可能性は充分考えられる。
「輝夜、あいつ等が何を狙っているかわかる?」
「さぁね。ただでさえ何を考えているのか分からない二人なのよ」
「そうだな……だったら私達が先手を取ってできることと言えば一つだけ」
「えぇ。相手が何を考えていても、それを起こさせる暇を与える前にとどめを刺す」
互いに考えていることは同じだったらしく、八重歯を覗かせながら不敵な笑みを浮かべるレミリア。
今の彼女たちは同じカリスマを求める同士として、一心同体に近い。
呼吸もぴったりで、それがあるからこそこのカリスマガンは、紫の表情を真剣にさせるほどの力を発揮することができている。
『片手で足りないならぁっ!』
『もう一つ増やすだけぇっ!』
二人の呼吸が一つとなり、それに反応してカリスマガンの体にも変化が起きた。
ただバランスを取っているだけだった左手が変形し、まさかの両腕ドリルが完成する。
単純に二本になっただけだが、一つ一つの威力が桁違いなため倍になるだけで脅威はそれよりも上がったと言えるだろう。
現にさらに激しさを増した攻撃に、霊夢も紫もだいぶ手こずっている。
密度の増したドリル弾幕をただ避けるしか無く、その避ける余裕すら次第に減らされつつある。
『逃げてるだけじゃ、じきに追い詰められるわよ』
「わかってるわよ!」
だいぶ優勢に傾いたことで挑発の言葉すら言えるようになったレミリア達に対し、特に霊夢は余裕がなくなってきている。
そしてついにその当たり判定の小さい回避の鬼も、避けきることのできない状況に追い詰められた。
弾幕ごっこで言えば、よく弾幕ごっこで使われる中心部にだけ当たり判定があるような見かけ倒しの攻撃などではない。
当たれば即ピチューンな当たり判定が、しかも大玉以上の大きさでランダム連射されるのだ。 現在霊夢が置かれている状況の鬼畜さが理解できることだろう。
最初から言えることだが、これは弾幕ごっこではない。
それでもこれまで避け続けられていた霊夢だったが、それも最早限界の域だ。
『これで四人目退場ね!』
周囲を攻撃で包囲され、残っている前方もすでに攻撃が放たれ避けることは適わない。
霊夢はとっさに結界を張り、回避ではなく防御の選択肢を選んだ。
その判断があとコンマ一秒でも遅れていたら、霊夢の体は為す術もなく月夜に放り出されていたことだろう。
だがこの短時間で張った程度の結界では強度が心許ない。
「魔理沙のマスタースパークを容易く破るくらいだものね。この結界もいつまで保つか……」
アリスが理解不能で気絶したのも、魔理沙が渾身の一撃を放っても通用しなかったのも、実際やり合ってみると頷ける。
それほどまでにカリスマガンの力は強すぎるのだ。卑怯とか最早そういうレベルではない。
見た目や名前に惑わされてはいけない。そもそも操っているのはあのレミリアと輝夜なのだ。
幻想郷でも指折りの実力者がタッグを組んだという時点で、充分警戒に値する相手であることは間違いない。
その上今の二人はカリスマ向上によって本気で向かってきている。
カリスマ如きで強さが変わるものかと思うが、実際これだけの力を発揮しているのだからそうなのだろう。
考えても理解できないからアリスは気絶したのだし。
『流石は霊夢ね。この攻撃に耐え続けるなんて。だけどいつまで保つのかしら』
「くぅっ……調子に乗って」
レミリアの言葉にも、霊夢はまだ噛みつき返すことはできるようだ
しかし自分の結界もすでに限界が来ていることは霊夢自身が一番理解している。
うまくタイミングを掴んで攻撃と攻撃の合間に結界を解き、この場から離れるのが唯一の選択肢だろう。
このままここでこうしていても、いずれは結界を破られてゲームオーバー。
問題はその隙を相手がくれるかどうかということだ。
すでにカリスマガンの攻撃は霊夢に集中しており、二つのドリルから放たれる強力無比な攻撃は止むことを知らないように続いている。
これでは結界を解く暇すら見いだせない。
(成る程……相手もこっちの思惑はお見通しってわけね)
自分だって相手の立場なら同じ事をするだろう。
攻撃は無限に続けられるのだから、ボム切れとかパワー切れなどを考慮して計算しながら戦う必要もないのだし。
考えれば考えるほどやっぱり卑怯すぎる相手だ。
「絶対にその図に乗った頭を地面に擦りつけさせてやるんだからっ」
だが霊夢の気負いとは裏腹に、結界には亀裂が走りもう数秒とも保たない状況に陥ってしまう。
なおも続くカリスマガンの猛攻。
さらに細かくひび割れていく結界。
「ちょっと、もう少しくらい踏ん張りなさいな」
だがその時、砕け散りかけた結界の前にもう一枚強力な結界が張られ、霊夢に攻撃が届くことはなかった。
見るといつの間にか側に現れていた紫が結界を張っているではないか。
何をしに来たのか――そんな野暮なことを聞く必要がどこにあるだろう。
「手伝うんならもっと早く手伝いなさいよ。私達と違って、あんたは何もしてないんだから」
「だから言ったでしょう。できることなら私自身の手は患わせたくないって」
「そんなんだから無駄な肉が溜まるのよ」
ぼそりと呟かれた一言に、紫はぎくりと肩を震わせる。
妖怪の賢者でも、やはり悩むことはそこいらの女性と変わりないらしい。
それはともかくとして、これで紫と霊夢の結界コンビが、永夜異変ぶりに結成されたことになる。
輝夜としては永夜異変の際に飲まされた煮え湯の屈辱を晴らす良い機会だ。
『ここであなた達二人と戦うことになるなんてね』
「奇遇……とでも言いたいのかしら」
『まさか。こうなることはきっと運命づけられていたんだわ。この最高の舞台であなた達二人を同時に屠ることができるんだもの。これをできすぎたシチュエーションと言わないで何というの?』
「できすぎているのは、そこの吸血鬼が居るからなんじゃないの」
『確かにね、紅霧異変は言わずもがな。砕月異変では引き分けるし、永夜異変の時は先を越されるし……。私自身、お前達との再戦をどこかで望んでいたのかもね』
『まぁそんなことはどうでも良いわ。これでようやく最終決戦もフィナーレということですもの。お互い全力でぶつかりましょう?』
霊夢の勘が告げる。
次の攻撃が全ての勝敗を分かつ、と。
物凄い速度で迫り来るカリスマガン。その地響きは眠っていた幻想郷の山々まで轟き、全ての生き物にこの戦いの報せとなって走る。
二つのドリルを振りかざし、その螺旋状に振りまくエネルギーが一つとなり、まるで巨大な一つのドリルのように変化する。
まさにカリスマガンの最大の攻撃。
だが霊夢達も負けを認めるわけにはいかない。
再度結界を構築し、紫もさらに強固な結界を張り巡らせた。
何重にも重ねられていく、人と妖が織りなす二つの結界は互いに融合し本来の強度を遙かに上回るものとして構築されていく。
一重、二重、四重、八重、十六重、三十二重…………
『『アンリミテッドスパイラルゥゥゥッッッッ!!!!』』
「「千弐拾四重結界!!!!」」
最強の矛と最強の盾がぶつかり合い、この戦いで一番激しい競り合いが始まった。
両者一歩も引かず、結界とドリルはどちらもそれぞれの身を削りながら相手の攻撃が滅するのを耐えている。
だが最強の矛と盾。
それらの存在は、それらが名を成すとおり矛盾するものとして古くから伝えられている。
最強の矛で最強の盾を貫くとき、最強の盾は最強ではなくなりその存在は嘘となる。逆の場合もまた然り。
辻褄の合わないことの例えとして用いられる話だが、この話をさらに解釈するとある一つの結論に辿り着く。
最強の物が二つもあるから、その存在が疑われることになり矛盾を生むのだ。
ならば一つしか無くなってしまえば、その矛盾も解消されることになる。
つまり、盾と矛のどちらか一方のみの存在こそが許されるのだ。
この戦いも同じ事。
今は拮抗している力も、いずれはどちらかが負け、どちらかが勝つ。
最強は二つもあってはならないのだ。
『私達がっ!』
『勝つっ!』
ノリが最早完全にカリスマではなく熱血になってしまっているという、今回の件全てを否定しかねないツッコミも、今の彼女たちには届くことはないだろう。
今の彼女たちに見えているのは、カリスマを追い求めることよりも、目の前の宿敵を倒すことだけ。
しかしその気迫から滲み出るのは紛れもなく、カリスマを感じさせる程の気概。
ドリルの回転もその気迫に呼応して、更なる回転を掛ける。
カリスマガン全体のエネルギーが充満し、銀色のボディーはまさしく地上の月とも見まごう輝きを放つ。
一歩、そしてまた一歩と、カリスマガンの足は確実に前へと進む。
その度に結界は一重、また一重と破られ、結界組の顔に苦渋の汗が浮かんだ。
『『これでジ・エンドよぉっ!!』』
カリスマの咆哮と共に、ついに最後の一枚にドリルの先端が触れる。
それまでギリギリのラインで保たれていたバランスが完全に崩れたとき、そこに込められていた魔力霊力妖力の全てが爆発した。
☆
目を空けていられないほどの光が辺り一帯を包み、戦いの結末は誰にも見ることができない。
地上でアリスと魔理沙の介抱をしながら、戦いを見守っていた早苗も袖で決着の光から視界を塞ぐ。
この光が消え去るまでは結末は分からないのだ。
そして次第に収まっていく光。
当たりに再び夜の静寂が戻ってきたのを感じ、早苗は恐る恐る目を開けた。
目が闇に慣れるとすぐに、空を仰いで満月を間に挟んで戦っていた者達の結末を確認する。
彼女の目が捉えたもの、それは片方のドリルを失ったカリスマガン。
その反対側に、人影は――――あった!
衣装はボロボロだが紫はまだそこにいた。
だがすぐに早苗はその紫が抱いているものに気がつく。
彼女の隣に残っているはずの霊夢が力尽き、その腕の中にいるのだ。
「そ、んな……」
これだけの実力者が集まったというのに、それでもあの巨人を倒すことはできなかったのか。
カリスマは神奈子も大事だと言っていたが、まさかこれ程の力を持っているものだったのか。
なんにしても紫と霊夢の敗北が幻想郷に知れ渡ってしまえば、守矢神社への信仰にも関わってくることだろう。
新しいカリスマを持つ者の登場に、幻想郷はこれからどんな変化を起こしていくのか。
考えたくはないが、これから先幻想郷で暮らしていくならば、避けては通れぬ道なのだ。
『ははっ、あははははははっ! 勝ったわ! ついに私達が幻想郷一のカリスマを手に入れたのよ!』
『えぇ、そうね。見なさい、紫のあのボロボロになった姿! なんて気分が良いのかしら』
カリスマガンから聞こえてくる、勝者の喜びにむせぶ声。
その声を聞き、咲夜・妖夢と戦っていた永琳達も満足げに口元に笑みを浮かべてその勝利を讃えていた。
こちらの戦いも押しつ押されつの攻防が繰り広げられ、周囲は斬撃や焦げ痕で、その戦いの凄まじさを物語っている。
すでにどちらも手を尽くしたようで、カリスマガンと霊夢達の戦いが終結したのを切っ掛けに、どちらも武器を置いて座り込んでいた。
そんな中、レミリアと輝夜の勝利の声が飛び込んできたのだ。
「どう、咲夜。これでも間違っていたと言うの?」
「私は……まだ納得したわけではありません」
「そう、強情ね。まぁ良いけど」
何を言っても、もう全て終わってしまったこと。
咲夜もこれ以上の争いは無意味だと判断し、ただ今は体力の回復に専念している。
その隣では妖夢がどう幽々子に話すべきか、頭を抱えていた。
「あぁどうしよう。これから先あの二人がのさばることになるなんて……。幽々子様が起きてこの事を知ったら……」
「もし白玉楼にいられなくなったら、その時はうちに来なさい。専門医として輝夜に口添えしてあげるわ」
「そんなこと、できるはずがないでしょうっ」
「あら残念。半人半霊なんて珍しい存在、良い検体になると思ったんだけど」
「やっぱりそっちが目的なんじゃないですか……って、もおっ、半幽霊に触るなぁっ」
半幽霊を抱きかかえて永琳から距離を取る妖夢に苦笑を浮かべながら、永琳はふと空を見上げる。
視線の先に堂々とした態度で浮かび立つ、手負いの巨人。
その傷を負っても尚輝くその姿は、まさしくカリスマの神と呼ぶに相応しい。
これから先、未来永劫その勇士は幻想郷の歴史に名を馳せていくことだろう。
幻想郷の歴史を、妖怪の歴史を、新たな世代に変革をもたらした大いなる存在として――
《完》
「……誰が終わらせて良いと言ったかしら」
結界が破られた反動で、か弱い人間の体でしかない霊夢は意識を失ってしまった。
その霊夢を抱きかかえながら、最後に残ったハクレイジンジャーの一人、八雲紫は呟く。
彼女の呟きはとても微かなものであったが、その威圧に満ち満ちた言葉はレミリア達にも届いていた。
『おや、まだ何か用でも?』
「そうよ。あなた達は本当にやりすぎたわ。だからこっちもそろそろ奥の手を使わせてもらうことにするわね」
『奥の手? さっきの霊夢と協力して張った結界よりもどうにかできる手があるって言うの?』
にっこりと微笑む紫。
だがその笑顔の下から滲み出ているものは、全然穏やかな雰囲気ではない。
むしろその真逆。その笑顔を見た瞬間、誰もが震えを起こしそうな威圧がそこからは感じ取れるようだ。
「シリアスなのはもう終わり。肩が凝って仕方がないしね。ここから先は、あなた達へのふるぼっこ、もといお仕置きタイムよ」
パチンっ、と紫が指を鳴らすと、その隣にスキマが生じる。
紫がその中から何かを取り出すことはない。
しばらくすると、そのスキマから人の足がにょっきりと現れたではないか。
その光景をギョッとしながら見つめるレミリア達に、紫は不敵な笑みと共に言葉を漏らした。
「知ってる? 五人がピンチに陥ると、物凄く強い六人目が現れるのが、正義の味方のセオリーなんですって」
『セ、セオリーって……おいっ、いつの間にお前達が正義になったんだ!?』
「そんなの、私が正義に決まっているじゃない。まぁそんなわけだから、“奥の手”を出させてもらうわね。さぁ出てらっしゃいな、幻の六人目」
喚くレミリアの言葉も、軽くスルーしてスキマから伸びる足に呼びかける紫。
いったいこの期に及んで誰を連れてきていたというのか。
固唾を呑んでレミリア達が見つめる中、その六人目の戦士は正体を現した。
「魔法のステッキ一振りすれば、どんな悪でもやっつけちゃう。魔法少女――じゃなかった。調伏戦隊ハクレイジンジャー、最後の戦士! ロリブラッド、華麗に参上っ☆」
背景に色取り取りの星が飛び交ってそうな登場の仕方で現れたのは――
『ちょっと!? なんであんたがそこにいるのっ』
『レミリアっ、落ち着いて。あれはあなたの知っている奴なの?』
知っているも何も。
ハクレイジンジャー共通のスカーフとサングラスを着けていても、そのあまりにも特徴的すぎる羽や、手に持っている魔法のステッキことレーヴァテインを見れば一目瞭然。
何より五百年以上も聞き慣れた声を聞けば、実姉であるレミリアに分からないはずがない。
「な、何故っ。どうして妹様がここにっ」
何やら雲行きの怪しくなってきた展開を見守っていたパチュリーにも驚愕の色が浮かぶ。
彼女の登場は本当にイレギュラー。
計画の最初の段階で、参加させることは得策ではないと判断して外したはずの危険度AAAの阻害要素。
レミリアの妹であり、全てを破壊する程度の能力を持った狂気の吸血鬼――フランドール・スカーレット。
『フランっ! あんたは地下室に封印を施して眠らせていたはずよっ。なんでここにいるのっ』
「でもその封印が解けちゃっていたのよね。だからお外に出てきてみたら、こんな面白そうなことをやっていたなんて」
フランドールはサングラスを外し、その狂悦に満ちた三日月の笑みを姉に晒す。
純粋に彼女はこの状況を喜んでいるのだ。
そして同時に純粋な怒りも抱いていた。
「さっきお姉様は、どうして私が霊夢達の方にいるのかって聞いたよね?」
『そ、そうよっ。あなたは私の妹なんだから、こっち側にいるのが当然でしょうが! それがどうしてそんな恥ずかしいサングラスまで着けて、紫のスキマから出てくるっ』
「だって、お姉様……」
フランドールはゆっくりとレーヴァテイン矛先をカリスマガンへと向ける。
そして何の躊躇いもなく、破壊の一撃を放った。
姉の紅い魔力よりもさらに深い紅色の魔力が細長く尖って、カリスマガンの左肩を撃ち貫く。
「私だけ仲間はずれにしたじゃない。私、とぉっても寂しかったのよ?」
口調では寂しがりやな妹を演出しながらも、その強力な攻撃は次々と放たれカリスマガンの体を撃ち抜いていく。
魔理沙のマスタースパークよりも、遙かに威力と貫通力の増したフランドールの怒りの攻撃はカリスマガンの防御もあっけなく突破するようだ。
「そうしたらこの妖怪がお姉様と遊ばせてくれるって言うから、やって来たの」
発射、貫通、発射、貫通、発射、貫通――――
「お姉様? 謝ってよ。私を仲間に外れにしてごめんなさいって」
『フランッ! いい加減にしなさいっ』
「謝らないの? だったら私だって許さないもんね。ほら、穴ぼこだらけにしちゃうわよ」
次から次へと放たれる容赦のない攻撃。
ひと思いに一発でとどめを刺さないのは、それだけフランドールが怒っているということなのだろう。
下手に理性が残っている分じわじわといたぶり尽くそうとしているのだ。
「レミリア、あれあなたの妹なんでしょ。だったら何とかしなさいよ」
「わかってる! でもだいぶ頭に血が上っているようだし、下手に刺激したらもっと非道い攻撃を仕掛けてくる……。あれは私でも手に負えない子なの」
「自分の妹なのに、手が出せないなんて。それでもあなたはカリスマを取り戻した夜の王者なの!?」
「う、うっさいわねっ。あの子の姉になったら、あんただって」
カリスマが通用する相手ではないことがわかる、そう言いかけたレミリアだったが、そこで若干の冷静さを取り戻した。
確かに輝夜の言うとおり、実妹に手こずるようでは真にカリスマを手に入れたとは言えるはずもない。
今までその性格と能力を気に掛けて、多少腫れ物に触れるような付き合いしかしてこなかったが、姉の威厳というものをここらで一つガツンと思い知らせてやる必要がある。
何のためのカリスマだ。妹から嘗められる姉にカリスマがあるものか。
『フラァァンッ!』
「アハッ、怒った怒った。そうでなきゃ面白くないわっ」
残る右手のドリルから放たれるドリル魔砲。
反撃が返ってきたことに、フランドールは嬉しそうに顔を綻ばせる。
目前にまで迫った攻撃にも全く怯えもせず、逃げることもなくフランドールは真っ向からその魔砲とぶつかり合った。
レーヴァテインを両腕で握りしめ、魔砲を正面から真っ二つに切り裂こうとしているのだ。
そんな危険な行為にも愉悦を感じられるのは、幻想郷でもフランドールのように気が触れた性格をしているものくらいだろう。
「ふぅん、すぐには切れないかぁ。さすがはお姉様。……だけど」
これまで愉悦に満ちていたフランドールの顔が、途端般若が如き形相へと変貌する。
そこに含まれるのは憤怒と失望。そして――侮蔑。
「つまんない」
フランドールがレーヴァテインの尖端を少し傾け力を込めるだけで、威力は半減しても充分な破壊力の込められていたドリル魔砲は呆気なく切り裂かれてしまう。
信じられない光景を目の当たりにし、レミリアだけでなく輝夜も、この状況がどれだけ危険なのかを理解した。
そんな二人の心境を察していたかのように、奥の手を隠していた紫がいつもの妖艶な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「カリスマと言えども、所詮は絶対的な力量差の前には無意味ということよ」
『フランを使うなんて……』
『ひ、卑怯よ!』
「どの口がそんな戯れ言をほざけるのよ。そっちはそんなものに乗ってるくせに」
卑怯という点ではどっちもどっち。
狡猾さで言えば、最後の最後にフランドールという最終鬼畜魔法少女を参戦させた紫の方が一枚上手だ。
「こ、このままじゃ、せっかく手に入れたカリスマの玉座から引きずり下ろされてしまうわ」
「わかってる。……あれだけの大口を叩いておきながら、即降格というのは今後の私達の威信に関わってくるわ」
「何か手はないの?」
「それはこっちの台詞よ。どりるとやらも通用しそうにないし、他に武器は無いの!?」
何か逆転の手だてはないものかと、操縦席を離れてコクピット内を探索し始めるレミリアと輝夜。
あのパチュリーや永琳がこんなピンチを全く想定せず、何の準備もしていないわけがない。
まだ自分たちの知らない何かとっておきの隠し球がどこかにあるはず……多分。
でなければこのままむざむざとやられるだけの、みっともないオチが待っている。
もし万が一負ける運命にあったとしても、そんなものでは絶対に許されない。
「レミリアっ」
「なんだっ、何か見つかったか!?」
レミリアが輝夜の元に駆け寄り、その手が持っている物に視線を落とす。
そこには『取扱説明書』と書かれてある分厚い本があった。
勿論、無くさないでくださいの注意書きも右隅の所にきちんと記載されている。
その説明書をばらばらと捲っていくと、最後の部分に大きく赤い字でマル秘と書かれた頁を発見した。
しかもご丁寧に袋とじ状態で。
「これは……もしかして」
「こんな大きくマル秘と書いてある上に、袋とじにしてあるんですもの。絶対に最終兵器の事が書いてあるに違いないわ」
「よし、破らないように丁寧に開いて……と」
レミリアの鋭い爪を使って、ゆっくりとその秘密のページを捲る二人。
そこには思っていたとおり『カリスマを爆発させる最終兵器の使い方』と何とも直球的すぎる表題が書かれてある。
目的の物を見つけた二人は、勝利を確信して再びその顔に不敵な笑みを浮かべるのだった。
☆
フランドールの登場により完全に逆転してしまった戦況を見せつけられ、それまで二人の勝利を信じて疑わなかった知識人はその顔を驚愕で染めていた。
永琳もパチュリーも、まさかフランドールの登場というイレギュラーが発生しただけで、ここまで戦況が変わってしまうとは思ってなかったのだ。
「どうやらパチュリー様達の計画は失敗に終わりそうですわね」
「あんな方法で手に入れたカリスマなんて所詮は俄物。ボロが出るのも時間の問題だったようですね」
呆然とカリスマガンが穴だらけになっていく様を見つめる二人の知識人の背後、激戦を終えた二人の従者はしみじみと呟いた。
咲夜にとってはレミリアの敗北という何とも微妙な立ち位置にいるわけだが、その相手が妹のフランドールということもあり、その心はだいぶ凪いでいる。
やはり自ら模索し、自らの手でカリスマを昇華させてこそ、真にカリスマを手にすることができるのだ。
今回の失敗を活かし、将来必ず真のカリスマを手に入れることができるよう、共に道を歩むことでこうなることを止められなかったせめてもの罪滅ぼしをしようと咲夜は堅く胸に誓う。
「さぁ、パチュリー様。もうすぐ妹様が決着をつけられます。私達もお嬢様の所に行きましょう。紅魔館の修復にはパチュリー様のお力が必要不可欠なんですから」
穏やかな声で話しかけ、へたり込む主の親友の肩に手を掛けようとする咲夜。
しかしその手が肩に掛けられることはなかった。
「いいえ、まだよ」
「八意永琳……あなたは現状を見ても、まだそんなことを言うの」
「私達がこの最悪の状況に陥ることを、全く予想していなかったと思う? 確かにあの妹さんの登場と瞬く間にやられてしまったことには驚いたけど……」
ボロボロの状態でも、その顔には不敵な笑みを浮かべて、永琳はまだ諦めていない瞳で今にもとどめを刺されようとしているカリスマガンを見上げる。
その顔には確固たる勝算が得られる色が浮かんでいる。
しかしどう考えても、今の状況を打破することは余程のことがない限り無理に見える。
それだけの自信が残っているということは、その余程のことをまだ残しているというのか。
「パチュリー、勿論“アレ”は取り付けてあるわね?」
「え? え、えぇ。封印兵器『ラストC』のことね?」
封印兵器。その響きだけで嫌な予感が背筋を走る。
作ったのがこの二人という時点で、その予感は確実なものになるであろう確信が咲夜にはあった。
永琳に詰め寄り、その胸ぐらを掴む咲夜。
「一体何なのそれはっ。どんな武器が隠してあるって言うの!?」
「ふふ、すぐに分かるわ。あの子達のことだもの。必ず私達が残したメッセージに気付くに違いないわ」
咲夜の剣幕にも涼しげな口調で返す永琳。
その寒々しいまでの言動に、咲夜の悪寒は次第に怒りへと変わっていく。
どこまで腹の内を隠しているというのか。
主君の無事を確保するためにも、その『ラストC』呼ばれる兵器の正体を吐かせなくては。
咲夜は再び永琳に尋ねようとするが、その時カリスマガンからけたたましい警報音が聞こえ、その場にいた全ての者の動きを止める。
その音を聞いた瞬間、胸ぐらを掴まれた状態のまま永琳は高らかな笑い声を上げた。
「フフフフッ。どうやら輝夜達が『ラストC』の第一準備を終えたようね」
「第一準備ですって?」
「そう。あれはとても強力な兵器だもの。周囲にいる者すべて駆逐できる。だからあぁして警告を与えてあげているの」
そんな危険な力がまだあの巨体に残されている。
永琳達が距離を取って戦況を見守っていたのも、予めその最終兵器が使われるかもしれないと考えていたからなのか。
「『ラストC』……。二人のカリスマによって高まったエネルギーを一瞬で体外に放出し爆散させる、まさに最終兵器」
「ちょっと! それって単なる自爆ってやつでは?」
パチュリーが語った最終兵器の正体に、咲夜は至極当然のツッコミを入れる。
確かにあらゆる意味で最終兵器としか言いようのないものだが。
その説明に補足を入れるように、永琳がやや陶酔気味に話を継いだ。
「負けるくらいなら、自らの手で幕を下ろす。それこそカリスマのラストとして相応しいんじゃない?」
「でもそんなことをしたら乗ってる者だってただじゃ済まないだろうっ」
「中には誰もいないわよ。合体する前に、どっちの機体からも全員降ろしているから」
「いやいやいや! 一番大事な人たちが乗ってるじゃないですかっ」
「輝夜は死なないから大丈夫。レミリアだって、体の一部があれば再生できると聞いてるわ。それを考慮した上で使わせるに決まっているじゃない。だからそんな武器があるなんて知らせてないのだし。勿論説明書にもそんな武器だなんてこれっぽちも書いてないわ」
なんとも無責任な物言いに、もはや怒る気すら失せてしまう咲夜と妖夢。
今近づいてもその自爆に巻き込まれてしまうのは目に見えている。
自分たちにできるのは、全てが終わった後の後始末に向けての体力回復に専念するしかない。
だが、肝心の自爆はいつまで経っても起きやしない。
「どうなってるの……もしかして不発?」
「そうじゃないわ。第二段階のスイッチが押されていないだけ」
永琳が指差す先、カリスマガンの頭部にはそれまで無かった赤いスイッチらしき物が現れていた。
あれが自爆スイッチの本体らしい。
「あれを押せば、輝夜達のカリスマは永遠の輝きとなって私達の胸に刻み込まれることでしょうね。いいえ、幻想郷全体にそのカリスマの輝きは広がっていくはずよ」
「お嬢様、無力な私をお許し下さい……こんな狂った奴の計画に乗せられてしまうなんて」
最後の最後でどんでん返しによる成就を喜ぶ永琳と、その側にがっくりと膝を突き懺悔の言葉を口にする咲夜。
対照的な二人が見守る中、レミリアと輝夜はそのスイッチが自分たちの最後を別の意味で飾る物とは知らずに、カリスマガンの腕を伸ばしていく。
操縦席で自分たちの逆転勝利を信じながら嬉々とした表情を浮かべている二人の様子が思い浮かばれる。
だが項垂れた頭上から、永琳が信じられないと叫ぶ声が聞こえ、咲夜は何事かと面を上げた。
永琳が見つめているのは、爆散するはずのカリスマガンの最期の姿――のはずだったのだが。
「どうして……なんで爆発していないの」
カリスマガンの巨体はいまだ顕在で、爆発した様子もない。
頭上のスイッチはまだ押されてなかったのだ。
寸前になってレミリア達がその兵器の正体に気付いたのか。
いや、そうではなかった。
「手が……頭の上まで届かないの?」
カリスマガンはその大きな右手を使って、頭の上に現れたスイッチを押そうとしているが、手がそこまで届かないのだ。
どうにかこうにか押そう押そうと奮戦しているが、どうにも届きそうで届かない。
そんな情けない様を見せつけられた永琳は、あの巨人を共に設計したパチュリーへと詰め寄った。
「パチュリー! あれは一体どういうこと!? 各部位の連結に関しては貴女に一存したけど、あんな仕様にするなんて聞いてないわよ」
「それは……」
「まさか、『ラストC』を使わせないように最初から仕組んでいたの!?」
初めて取り乱した様子を見せる永琳に、パチュリーは視線を合わせないようにしながら、どうしてそんなことをしたのか話し始めた。
「私は魔法使いよ。自分の作り上げた物を、そう易々と壊すなんて……」
「親友のカリスマよりも、作った物への親心が勝ってしまったと言うの!?」
「……ごめんなさい。だけど、やっぱり私には耐えられなかったのよ!」
ここに来てまさか計画に最初から齟齬が生じていたことを知り、永琳はその膝を折った。
これで計画が成就することはない。
カリスマガンは、幻想郷に迷惑を掛けるだけ掛けて、調伏された愚か物の象徴として記憶に刻まれてしまうのだろう。
「あらあら、そんな物騒な物だったの?」
完全に永琳が意気消沈した時、突然そこにいる四人の誰の物でもない声が響く。
直後、空間を裂いて紫が姿を現した。
「紫様、どうしてここに」
「あら妖夢、貴女も来ていたんだったわね。黒幕がどうしているのか気になって、スキマ越しに話だけ聞いていたのだけど。そうしたら、何やら危険な話が始まったじゃない? 私だって痛いのは嫌だから避難してきたのよ」
紫の無事に安堵して駆け寄ってきた妖夢に、紫は戻ってきた理由を話すと、そのままの足で永琳の所へ歩み寄る。
永琳の目には、紫がこの無様な姿を笑いに来たように見えていることだろう。
だが紫の目的はそういうことではなかった。
膝を突いた永琳の目線に合わせるように、腰を折ってしゃがみ込む紫。
「どう? 計画が最後の最後で崩れた印象は」
「……まさか全部分かっていたの」
「いいえ。あれの力は私が思っている以上の力を持っていた。フランドールの手も借りる予定は無かったし。だけど、だからこそ万全の準備をして私はここに来たのよ」
「どうやら完敗ね。さすがは妖怪の賢者とでも言っておきましょうか?」
「あら、貴女は私がこれで許したとでも思っているの?」
「え?」
紫はゆっくりと立ち上がると、その顔には満面の笑みを浮かべる。
しかしそこにはやはり表情通りの感情はない。
「貴女達はやりすぎたって、そう言ったわよね? まだまだお仕置きタイムは終わってないのよ?」
紫が何を言っているのか、その場にいる誰も理解できない。
そんなことを気に掛けることなく、紫はスキマの中から愛用のパラソルを取りだした。
それを優雅な動作で差すと、傘を持っていない左手を天高く掲げる。
「さぁ、フィナーレよ」
乾いた音を立てて、紫の指が弾かれる。
直後、変化が生じたのは、カリスマガンの頭上。その空間に一筋の線が現れた。
意識のある者全てがその行く末を見守っていると、その線は異空間へと繋がる口を開いていく。
そして、そこから出てきたのは巨大な巨大な――――
金だらい。
重力に引かれ落下するタライは、見事な角度でカリスマガンの頭上に直撃する。
勿論そこにはご丁寧にドクロマークをあしらったあのスイッチがあるわけで。
刹那、幻想郷の夜空はカリスマの弾けた花火によって、一足早い朝焼けのような輝きに包まれた。
☆
翌朝、すっかりいつもの静けさを取り戻した幻想郷は、いつも通りの朝を迎えていた。
人里では昨晩の地響きや光、爆音の話で持ちきりだったが、その真実は知る者はいない。
後日配られる天狗の新聞によって、何があったのかを知るが、それも様々な過剰脚色や主観で書かれているため、やはり真実を知っているのは、その場にいた当事者達だけということになる。
しかもその大半は意識を失っていたり途中で参戦したり、逆に途中で現場を離れたりしていたため、現場にいたとしても全てを知る者は数少ない。
あの一夜で決着した戦いに参戦した者はそれぞれの帰るべき場所に戻り、今は疲れた体を癒していることだろう。
さてそんな途中で現場を放棄した一人、もとい一羽である鈴仙も、朝が訪れてからだがようやく戻ってきていた。
勢いで飛び出してしまったまでは良いが、仕事を放りっぱなしで飛び出したのは、冷静になって考えるとあまり芳しくない行動だった。
元々のお仕置きよりも酷いことをされるかもしれない。
そんなことばかり考えていては、耳の垂れ具合も当社比倍になるというものだ。
それでも帰るべき場所は、永遠亭しかないのである。
「はぁ……お師匠様、怒ってるかなぁ。怒ってるわよねぇ」
気乗りはしないが、いつまでもこうして外をうろうろしているわけにもいかず、決心して戻ってきたのだ。
えぇい、後は野となれ山となれ。兎は度胸が肝心よ、と鈴仙は迷いの竹林へと降り立った。
だがその目の前には、そこにあるはずの我が家は存在していなかった。
「え? あ、あれっ?」
何が何だか分からず、屋敷のあった跡の周辺を歩き回る鈴仙。
しかし永遠178号として歩き回っていたのだから、何の痕跡もないのは当然である。
静かになったし、もう戦っているはずはないのだが。
「あれ? 何だろう、これ……」
鈴仙は草むらに落ちている一冊の本を見つけ拾い上げた。
こんな所に本が落ちているなんてどう考えても怪しすぎる。永琳が落としていった物なのだろうか。
色々考えながら鈴仙はその表紙に目を見やる。
そこに書かれたタイトル、それは――
☆
場所は変わって博麗神社。
気を失ってしまった霊夢は、あの後紫の手によって無事に自宅へと送り届けてもらっていた。
目が覚めるといつもの部屋で、いつもの布団の上で横になっていた。
服装も腋巫女装束から寝間着に着替えていたし、まるで昨夜の出来事全てが夢だったような錯覚を覚える。
だがすぐにあれらは全て現実のことだと理解することになる。
いや理解せざるとを得ない、というのが正しいか。
ひとまず気怠い体を起こして紅白の装束に着替える。
すると胃袋が空腹を主張し始めたので、霊夢は土間へと向かうことにした。
だが土間の障子を開いた霊夢は、そのまま立ち尽くしたまま視線をある一点に凝視させる。
「……なんであんたがここで朝餉の準備をしているのよ」
霊夢があんたと称した相手は、神社の土間には不釣り合いなメイド服を着て、手慣れた様子で椎茸の出汁を取っていた。
話しかけられ、霊夢の存在に気がついた彼女は、振り返るとにっこりと微笑んで「おはよう」のごく自然な朝の挨拶を返してきた。
思わず同じように返しそうになるが、そうは問屋が卸さない。
「おはよう、じゃないわよっ。だからなんであんたがここにいるのか聞いてるのよ。咲夜!」
「なんでって……昨日話したはずよ? 正確には今日の早朝だけど」
霊夢は咲夜が言う今日の早朝のこととやらを思い出そうと腕を組んで考える。
すると何やら夢のようなものを見た気がして、その残滓を追いかけてみた。
自分は寝床で眠っていて、そこを誰かに起こされたのだ。
そう言えばその起こした相手は、メイド服を着ていた気がする。
その相手は確か何か言っていた。
なんだっけと、霊夢はさらに記憶に意識を集中させる。
『それじゃあ、これからしばらくお世話になるわね』
そう、確かそんなことを言っていた。
「って、ちょっと待ちなさいよっ! お世話になるってどういうことよっ」
「どうもこうも、そのままだけど……って霊夢?」
咲夜の言葉が終わる前に、霊夢は土間を離れて茶の間へと走る。
メイド長がいた時点で嫌な予感が脳裏をよぎって仕方がない。
その予感が嘘であることを願いながら、そして同時に心の何処かで諦めを感じながら、その襖を勢いよく左右に開く。
朝日が差し込む温かな茶の間には、やはり見たくなかった光景が広がっていた。
「あらようやく起きたの? 早寝早起きは長生きのコツよ」
「こんな明るい内から起きてなきゃいけないなんて、人間ってやっぱり不便ね」
畳の上に自慢の黒髪を散らして寝転がり、まるで自分の家のようにくつろぎながら煎餅を食べている輝夜。
もう一人、太陽は高いというのに活動しているレミリアの姿を確認して、霊夢は深い深い溜息を吐いた。
「聞いても状況は変わらないけど、一応聞いてあげる。どうしてあんた達が私の家でくつろいでんのよ」
「そんなの決まってるじゃない。私達家無しなんだもの」
輝夜の言うとおり、永遠亭も紅魔館もカリスマガンとして合体し、自爆してしまったのだから彼女たちに帰る家があるはずがない。
しかしその言葉だけでは理解できない霊夢は輝夜から、今回の件にまつわる話を全て聞き出した。
その結果、とりあえず二人が屋敷を失ったことまでは理解できた。
だがそれがどうしてこの状況と繋がるというのか。
「霊夢は私達に負けたでしょう。だから」
「そんな理由がまかり通るわけないでしょうがっ」
さも当然と言い切る輝夜の脳天に蹴りを食らわして、霊夢は理不尽な言い分を却下する。
しかし霊夢が負けたのは事実だと、レミリアが間に入ってきた。
ただ霊夢の意識はそんなことよりも、レミリアの状況に完全に映ってしまっている。
「それで? どうしてあんたはそんな手の平サイズなのよ」
「こっ、これは……」
レミリアの体は、茶碗を風呂釜代わりにできるほどの大きさまでに縮んでしまっている。
これではカリスマも最早形無しだ。
「カリスマガンが爆発する瞬間に、体の一部を切り離して外に避難させたみたいよ。元の大きさに戻るまで十三日は掛かるみたいね。あと永遠亭や紅魔館の修復もそれくらい掛かるって」
霊夢に蹴られた頭をさすりながら、レミリアが言い淀んだ部分を輝夜が捕捉する。
つまり何か。あと二週間近くもこの連中と同居しなきゃならないのか。
「ねぇっ、本当の黒幕はどこに行ったの!」
「永琳達? 今はそれぞれの屋敷の修復をしていると思うけど……」
「文句言ってくる!」
すっくと立ち上がり、抗議のために神社を飛び出ていこうとする霊夢。
だがその時、そのお腹の虫が朝食の摂取を求めて鳴きだした。
苛立ちと羞恥で顔を染める霊夢は、ゆっくりと振り返るとちゃぶ台まで歩を進め、そこに腰を下ろした。
「とりあえず……御飯を食べてからよ」
タイミング良く咲夜が朝餉を運んできて、部屋は焼き魚の香ばしい香りに包まれる。
焼き魚だけではない。ふんわりした卵焼きや、瑞々しいほうれん草のおひたし、出汁の利いた味噌汁、何より白く輝く御飯と、何を取っても完璧な朝食が並べられていく。
霊夢もそれだけの食事を前にしては、唾を飲み込まずにはいられない。
よく考えれば、レミリアがここにいる以上咲夜が世話係として一緒に居ることになる。
その間はこんな食事が、自分で作らなくても出てくるのだ。
「……それじゃあ私が御飯で釣られてるようじゃないっ」
自分で自分を戒めるが、霊夢も人間である以上食欲には勝てないわけで。
食材を無駄にしてはいけないからと、無理矢理な理由をこじつけて、霊夢は食事に手をつけた。
その食事の間、霊夢はある一つの引っかかりを感じながら箸を動かしていた。
それは紫がどうして、今回のパチュリーと永琳が立てた計画を知っていたのかということだ。
さらに自分が気絶していた間に、紫はあのフランドールまで味方としてスカウトしていたらしい。
レミリアは封印を施していたのに、と不思議がっていたが、そのことも紫は知っていたのだろうか。
妖怪の賢者とはいえ、いくらなんでも色々知りすぎている気がする。
(ま、考えたって仕方ないわよね。あの紫のことだから、スキマから覗いていたとかそういう理由で誤魔化すだろうし)
それにもう終わったことと、霊夢はひとまず目の前の食事を楽しむことにした。
これを食べた後、文句を言いに行くことも忘れないようにと、茶碗を握る手に力を込めながら。
「ところで、カリスマがどうのって言っていたけどもう良いわけ?」
「あぁ、そのこと? また機会があったら挑戦するわ。私は蓬莱人ですもの」
「私だって体が元に戻ったら、いずれ必ずカリスマを取り戻してみせる!」
全然懲りていない様子の二人を見ながら、霊夢はまた溜息を吐く。
しかし、間もなくして紅魔館と永遠亭の名は幻想郷中に知れ渡り、レミリアと輝夜もそこらかしこで名が囁かれるようになる。
その意味を屋敷の中で暮らす二人が知る由はなく、有名になったと喜ぶだけだ。
幻想郷はやっぱり平和なのである。
☆
――紅魔館の書庫であった場所。
貴重な文献を守るための結界を張っていたので、この場所自体には大きな被害は出ていない。
フランドールの部屋も別空間に転移させてあったので部屋主と共に顕在だ。
そして、この書庫を主な活動場所としているパチュリーは紅魔館修復のため出掛けているため、今ここには誰もいない。
いや、暗がりにたった一人、ほくそ笑む者がいた。
その手の上には一冊の本が開かれ、彼女はそれを見ながら笑っている。
だが笑っている理由は、その書物の内容にあるわけではない。
「あ~面白かった。まさか紅魔館が爆発しちゃうなんて思わなかったけど。でも、パチュリー様の悩みもとりあえず解決したし、結果オーライかな。全部上手くいっちゃったら後でばれたとき怖いものね。紫さんの協力で、私が色々リークしてたって事はばれないだろうし……」
クスクスと笑いながら、小悪魔は読んでいた書物を棚に戻す。
その表紙に書かれたタイトルは『カリスマのスヽメ』。
帯には『すっかり衰えてしまったあなたのカリスマも、これを読めばバッチリ回復』とか書かれており、表紙共々暑苦しい漢達や怪しげな司祭などのイラストが施されている。
どこから見ても胡散臭い代物を片付けながら、小悪魔は背中の羽を羽ばたかせて扉へと飛んだ。
「さて、紅魔館が直るまでは何して暇潰そうかなぁっと」
悪魔の尻尾を軽快に揺らしながら、小悪魔は書庫を後にする。
クスクス、クスクス、と。
書庫中に笑い声を響かせながら。
『Chaotic Charisma Carnival』~《完》~
☆
「はぁ。手こずらせてくれたわね」
地に倒れ伏した巨人と立ち尽くす巨人を眼下に見下ろしながら、霊夢は事も無げに呟いた。
永琳とのやり取りに、喉の奥の小骨のような引っかかりを覚えながらも、ひとまず全ては終わったのだ。
後は首謀者のくせに何一つ苦労もしなかったクロマクパープルに、文句を言うだけ言って帰ればいい。
特に最近は、たった今調伏した永遠178号の歩き回る音や気配に安眠を妨害されていたこともあって、睡眠欲は最骨頂に達しようとしている。
隣であくびをかみ殺している早苗も、寝まい寝まいと振る舞ってはいるが、今の心境は霊夢と同じなのだろう。
「みんな、ご苦労様。さすがは私の集めた調伏戦隊ね」
「それ以上戯れ言を口走るつもりなら、あんたも調伏するわよ」
冗談ではないと凄みをきかせる霊夢に、「おぉ、怖い」と大袈裟に反応を返す紫。
それを見てさらに苛立ちのオーラを大きくする霊夢をこれ以上怒らせると冗談も本気で通じなくなってしまう。
紫は扇を広げると口元を隠して、その場を誤魔化した。
そんな戦いの後の和やかな? 雰囲気を作っているハクレイジンジャーを、一人厳しい視線で見つめる者がいた。
両腕、両足をもがれたヴァンピリッシュVの操縦席で、誰よりも敗北を噛みしめているレミリアだ。
彼女は未だこの結末が納得ができずにいた。
本来なら流れ的に、最初に煮え湯を飲まされた自分たちが、永遠亭に対し劇的な勝利を飾っての大団円に違いなかったのだ。
こんな運命が待っているなんて、運命の申し子である自分にも想像しえなかった。
「お嬢様……」
「何?」
「い、いえ……なんでもありません」
咲夜は従者として何かできることはないかと話しかけようとするが、すぐに掛ける言葉を見失ってしまう。
自身の失態に関することならいくらでも応対できるが、主の敗北ほど気まずいものはない。
「咲夜、ちょっと」
「なんですか、パチュリー様」
レミリアに聞こえない程度のひそひそ声で呼ばれ、咲夜はその声の主であるパチュリーに顔を近づけた。
この状況下でも冷静に事を見つめている魔女に、何だか言い表しようのない雰囲気を感じ取り咲夜は怪訝な視線を送る。
「こういう時はそっとしておくのが一番よ」
「ですが……」
「あなたの信じるレミリア・スカーレットは、そんなに頼りない吸血鬼なのかしら」
「そんなことはありません!」
小声でもきっぱりと言い切る瀟洒な従者に、パチュリーは満足そうに頷きを返した。
その反応に咲夜は、先程感じた雰囲気とのこの差にやはり何か引っかかりを覚えながらも、主の親友である魔女の言葉と、なにより自分が信じる主を信じて従うことにした。
「お嬢様、この交戦で屋敷に及んだ被害状況を見てきます。お嬢様はここでお待ちください」
「そう。頼むわ」
「レミィ、私も小悪魔と一緒に書庫の様子を見てくるわね。一応結界は張っているけど心配だから」
「えぇ、見てくるといいわ」
レミリアは端的な返事しか返さないが、そこには弱気な様子も含まれてはいない。
パチュリーの言うように、高貴とカリスマを備えた夜の王たるレミリアが、そう簡単に打ちひしがれるはずもないのかもしれない。
咲夜は少し安堵しながら、パチュリーと小悪魔に続いて操縦席を出て行った。
他には誰もいなくなった操縦席で、レミリアは一人考えた。
従者にも、親友にも、あれだけ心配されてしまうなんて。
本人たちは聞こえないように喋っていたつもりなのだろうけど、この閉鎖された空間で聞こえないわけがない。
「まったく。これじゃあ格好が悪すぎるじゃないか」
乾いた笑いを浮かべながら、自身のふがいなさを改めて恥じるレミリア。
紅魔館の主として、誇り高き吸血種の血族として、譲ってはならないものがあったのではなかったか。
しかも自分以上に、咲夜達はまだそれを信じている。
自分がその大切なものを未だ捨ててなどいないと。
それなら、為すべき事は一つしかない。
☆
一方、動力を失って立ち尽くす永遠178号の操縦席では、輝夜が呆然とうなだれていた。
あれからいろいろ試したがうんともすんとも言わない。せっかく永琳が作ってくれたのに。
ヴァンピリッシュVもやられてしまったようだし、動いたところで意味はないのだけど。
「輝夜っ!」
そこへ霊夢との対峙から永琳が戻ってきた。
しかし彼女が見たのは、がっくりとうなだれた輝夜の姿。びっくりした声をあげるのも仕方がない。
「あぁ、永琳……どうやら私達は負けてしまったのね」
「もしかしてそれで落ち込んでいたの?」
輝夜の返事はないが、それが肯定を表していることくらい誰でもわかる。
だが元・月の姫として一度負けてしまったからと言って落ち込んでいるようでは、全盛期のカリスマを越えることなど到底かなうはずもない。
そして、それではせっかくの“計画”も失敗に終わってしまう。
そこで永琳が取った行動、それは――
「しっかりなさい!」
「った!? い、いきなり何するのよ」
たった今ぶたれた頬を押さえながら、ようやくいつもの調子で返してきた輝夜。
その顔には、どうしてぶたれたのかわからないという様がありありと浮かんでいる。
そんな輝夜に「そんなこともわからないの!?」と叱咤激励を飛ばす永琳。
「あなたのカリスマは、この程度で消えてしまうものだったの?」
「永琳……」
「私の教育で大事だと教えたことは何だったかしら」
「……なんだっけ」
永琳の手刀が輝夜の脳天に直下型クリティカルヒットする。
倒れ伏しかける輝夜だったが何とか持ちこたえながら、永琳を睨み付けた。
それだけの攻撃力ならば、反動も相応に返ってきているはずだが永琳は平然としている。
「私が何より大事だと言ったのは、あきらめない不屈の心」
「言ったっけ?」
「さて、今度は斜め45度で延髄かしら」
「お、思い出したからっ! 言った言った、そういえば言った!」
明らかに思い出していない輝夜だが、ここで彼女を気絶させるわけにはいかない。
永琳は、何より輝夜本人のために、何事も無かったかのように話を続けた。
「……今のあなたに圧倒的に足りないのは、カリスマをあきらめない事よ」
指を鼻先まで突きつけられて輝夜は困惑の表情を浮かべる。
永琳の言いたいことがわからないわけではない。
「そうは言っても、巨大ロボでもドリルでもダメだったのよ」
「ほらまた」
永琳はどうしろと言うのか。
いい加減輝夜も、こっちがなにも考えていないように言われることに腹が立ってきた。
ちゃんと考えて、いっぱい考えて、それで出した結論なのに。
「どうやらその顔だと納得どころか、理解もできていないようね」
「だったら教えてくれたっていいじゃない!」
「それだと意味がないでしょう? って言っても仕方がないわね。それじゃあヒントだけよ」
「ひんと?」
「カリスマに善悪はないの」
それだけ言うと、永琳は部屋を出て行ってしまった。
輝夜ならそれでわかるということなのだろうか。
残された輝夜は、「何なのよ」と悪態を吐きながらも考える。
カリスマをあきらめない。
カリスマに善悪はない。
『……い、おい』
そんな輝夜の元に届く声。
何事かと顔を上げると、その先には体だけ残されたヴァンピリッシュVから、レミリアの声が聞こえていた。
しかしこちらは動力が断たれているため、輝夜は聞こえてくる声に耳を傾けることしかできない。
しかし返事ができたところで、どうにもならないと輝夜は半ば諦めていた。
『聞こえているならそのまま聞け。お前も私もこっぴどくやられてしまったが、これで終わっていいのか』
良いとは思わない。
だがどうすればいいと言うのか。
そもそもレミリアは手足をもがれたその機体で何を企んでいるのだろうか。
「なに、あんた達はまだやられたりないの?」
レミリアの言葉に、それが聞こえている霊夢達が割り込んでくる。
すでに休戦モードに入っている彼女たちの声はとても朗らかで、敗者にはいっそうの惨めさを感じさせる。
「あきらめない姿勢は大事だけどな」
「あら、あきらめが肝心ってありがたい言葉もあると思うけど?」
「アリスはいつもあきらめが早いからな」
「なんですって!? そういう魔理沙は無茶しすぎなのよ」
何を言っても、もはや完全にレミリアも輝夜も人生の負け犬扱いされているようにしか聞こえない。
すっかり戦い終えた彼女たちは、カリスマなど微塵も感じていないようだ。
『おい! 宇宙人。こんなコケにされっぱなしで悔しくないのか!?』
吠えるレミリアの言葉は、輝夜の今の気持ちそのものだ。
できることなら今すぐにでも自分達をなめている連中に一泡あわせてやりたい。
ジブンタチ?
「そう、永琳。“そういう”ことなのね」
輝夜はゆっくりと顔を上げると、迷うことなく操縦桿を握りしめた。
動かないのはわかっている。
だが、それでもあきらめてはいけないのだ。
「レミリアァァァァァッ!!!!」
輝夜の拡声器も何も使わない、届くはずのない声。
だがそのとき、輝夜のカリスマとレミリアのカリスマが響き合った。
理論では到底証明することのできない現象。
本来音は空気に波を起こして相手に意思を伝える術だが、今の彼女たちの意思を繋げているのは空気の波などではない。
互いの熱い思念、仲間からの思いを受けて目覚めた真のカリスマが、彼女たちの意思を一つにしているのだ。
「輝夜ああぁぁぁっ!!!!」
二人のカリスマが交錯し、一体となり、科学では解明できない反応を引き起こす!
紅と銀の輝きをそれぞれまといながら、もう動かせるはずのないヴァンピリッシュVと永遠178号が動き始めた。
それだけではない。
二つの輝きは天に昇ったかと思うと、交互に螺旋を描きながら、次第に一つに混じり合っていく。
突然の変化を目の当たりにした、霊夢達にも戦慄が走る。
「こ、これは一体どうなっているんですか!?」
「紫っ!?」
「……始まってしまったようね。できればこうなる前に終えておきたかったのだけど。これもあいつ等の“計画の範疇”ということかしら」
どうやら何か知っているらしい紫の表情からは、いつの間にか余裕の色が消えている。
いったい何を知っているのか。
霊夢がそう尋ねようとしたときだった。
「私達の悲願の達成よ」
困惑するハクレイジンジャーの元に響く、勝ち誇った声。
五人が振り返った先には、さっきまで互いに敵として戦っていたはずのパチュリーと永琳の二人だった。
二人は肩を並べて一つの光となった、互いの技術の集大成と、それに搭乗している者達を凝視している。
「もしかしてあんた達グルだったの? さっきまで戦っていたんじゃないの?」
霊夢の当然の疑問にも、知識人二人はしれっと答える。
「戦っていたのは輝夜とレミリアよ。私達は私達の計画を進めていたにすぎないわ」
「そう……すべてはあの時から進められていたの」
☆
紅魔館の書庫で、カリスマの上昇に何か良い方法はないかと研究を続けるパチュリー。
なんとなくの構想はできていたが、まだまだ足りないものが多く、実際に事として起こすにはまだしばらく時間が掛かりそうだった。
そんな時だ。小悪魔が客人を連れてやってきたのは。
その顔を見るなり、あからさまに嫌そうな表情を浮かべるパチュリーに、客人は苦笑を浮かべる。
「歓迎してとまでは言わないけど、もう少し愛想が欲しいところね。動かない大図書館」
「生憎、あなたに振りまく愛想はないわ。月の頭脳」
小悪魔が連れてきたのは、ここに来ること自体珍しい永遠亭の八意永琳だった。
そもそもパチュリーも紅魔館を出ることが少ないのもあって、知り合いと呼べる程度の認識しか二人にはない。
しかし互いに幻想郷有数の知識人ということで、ライバル意識を燃やす。
今にも弾幕が飛び交いそうな空気を止めたのは、永琳を連れてきたパチュリーの使い魔、小悪魔だった。
「もぅ、せっかくお互いの利益になると思ってこの場をセッティングしたんですから」
「誰がそんな事をしろって言ったかしら」
「私はパチュリー様の使い魔ですよ。お役に立ちたいんです。そしてこの方は、パチュリー様と同じ悩みを抱えていたもので。これも何かの縁ですし、ここはお二人で解決に挑んだ方が良いかなぁ、と」
ニコニコと可愛らしい微笑みを浮かべる小悪魔。
パチュリ-にしてみれば、永琳はたしかにあまり好きではない相手だが、組めばこれほど心強い者もいない。
人里の半ハクタクよりは知識のベクトルも方向を向いているようにも思える。
小悪魔の言うとおり自分と彼女の悩みが同じなら、ここで争わず協力するのは最も合理的な選択だろう。
後は相手の出方次第だが。
「あなたはそれで良いのかしら」
「そうね。私は私の目的が達成できるなら構わないわ。それにここの資料なら私の望む物があるかもしれない」
「そう。なら、私にも異論はないわ」
口元には互いにシニカルな笑みを湛えながら、二人は握手を交わす。
親友と元・教育者と立場は違えども、二人とも大事な者の将来のため悩みを持つ者同士。
そして奇しくも彼女たちの脳裏には、似たような計画が浮かんでいた。
こうして秘密裏に、二人の知識人による『C計画』は始まったのである。
☆
「C計画の目的は、カリスマの低下したレミィと輝夜のカリスマを取り戻す。いえ、全盛期のそれすら越えさせること」
永琳のアイデアを元に、パチュリーの持つ資料からヒントを得て永遠178号を作り、レミリアに輝夜へのライバル意識を持たせることを発端とし、ヴァンピリッシュVを用意する。
ヴァンピリッシュVの合体、永遠178号のドリルといったカリスマ要素で、互いのカリスマを引き上げていく。
それによって互いを越えようと、二人のカリスマは自然に上がっていくのだ。
「しかしそれでは全盛期を越えることはできないわ」
「なぜ私達が、こんな人目に付きやすい手段を取ったのか。一番の理由は単純に格好が良いから。だけどもう一つ、この計画を結実させるための重要な理由があったのよ」
これだけのことをすれば、必ず異変を感じ取った者が邪魔をしにやってくる。
そう、もう一つの理由とは“わざと人目に付くこと”。
しかし目的は邪魔をしにきた者を倒すことではない。
この二人にとって、ヴァンピリッシュVや永遠178号が倒されるのは計画の範疇。
いや、むしろ計画完遂のために最も重要なプロセスと言っても過言ではない。
「一度高めたカリスマを、敗北によって崩壊させる。そしてそれを再び取り戻したとき、輝夜たちのカリスマは限界を超えるのよ!」
永琳の興奮じみた高らかな声とともに、満月が如く膨張した光球が破裂した。
白く囁かな月影の降り注ぐ夜を赤くまばゆい光が包み込む。
「二人のカリスマは互いに意識し合い、上昇し、そして互いに認め合う。今こそ私達が設計制作したカリスマの神が降臨する!」
パチュリーの言葉が終わるのと同時に、光が収まり場にいる全員の視線がそこに集中した。
しかしそこにあったのは、さっきの光球よりも一回り小さい黒い球が浮かんでいるだけ。
ヴァンピリッシュVや永遠178号のような人型でないことに、一斉に不信の目を向けるハクレイジンジャーの面々。
「あれは……何なんですか」
そこへ、パチュリー同様ヴァンピリッシュVから離れていた咲夜も合流してきた。
その様子を見るに咲夜もパチュリー達の計画を知らなかったようだ。
その時である。
光の膜を払って現れた黒球から荘厳にして雅やかな二つな声が響いてきた。
『天に浮かびし狂気と力の象徴、お月様』
『でもそれは満ちては欠ける不安定な光』
『ならば私達は、けして欠けることのない月となろう』
『夜も朝も輝き続け、太陽すら平伏させてみせましょう』
黒球が開いていくと、それが前進を覆うほど巨大な六枚お翼であったことがわかる。
悪魔の翼の内側は鮮やかなほどの深紅。
漆黒と深紅の翼に隠されていた本体は、翼の黒と紅とは対照的すぎるほどの純白のボディを見せつけていた。
素体となっているのは永遠178号で、その各部にバラバラにされたヴァンピリッシュVのパーツが流用されている。
見た目の大きな変化そのものは、巨大な翼と純白の輝きを放つ月光色の体だけだ。
だがその姿を見た全ての者が、あるゆる言葉を失っていた。
考えられない、感じるしかない、言葉にできない、それはまさしく――
「カリスマ……」
その呟きは誰のものだったか。
しかし、この場にいるほとんどの者が同じように感じていたのは言うまでもない。
カリスマの神とすら称した、二人の知識人が作り上げた巨人の名、それは――
『『月・紅・神!!!! カリィィス、マガンッ!!!!』』
いっそうの輝きを煌めかせながら、地に降り立つ夜と月の王。
その翼が羽ばたき起こされる風に、髪や衣装をなびかせながら、一同はその一挙一動を見つめるしかない。
「カリスマの神とは、また大きく出たものね」
その中で唯一平静を保ちながら、いつになく鋭い視線を送り続ける紫が呟く。
彼女はこうなることを知っていたらしい。
それがどうしてなのか、そのことにつっこむ者はいない――だって紫だし――。
『そんなに呆けてどうした。ようやく私達のカリスマに気づいたのか?』
『無理もないわね。私達自身、己が内から湧き上がってくるカリスマに打ち震えているほどだもの』
まさか全てのことが、自分たちのカリスマ低下を危惧した知識人の計略によるものだっなど知らず、カリスマの限界を突破した二人は喜びの声を上げる。
しかし事実彼女たちが発しているカリスマはそれまでのものとは一線を画していた。
相対するものとの協力。
それはそれまで否定してきた相手を越えることよりも、余程勇気と決意を要するものだ。
逆に言えばそれを乗り越えたとき、それらを手に入れたことになる。
彼女達に足りなかったもの、つまり他を認め協力する精神は、彼女達のカリスマを枠から突破させたのである。
『さて、それじゃあ第二戦……いや、本番開始と洒落込もうかっ』
カリスマガンの右手、眩い光子を散らしながら蓬莱ドリルが回転を始める。
だがその回転は先程まで永遠178号の右手に付いていたものとは段違いだ。
彼女たちのカリスマが、ドリルの威力をも上げているのだろう。
『行くわよ、愚民共っ』
光子を纏うドリルが螺旋状のエネルギーを放出する。
ヴァンピリッシュVの左腕のアームバスターから発射されていた魔砲との混合技だ。
ただ放たれるだけの魔砲に、回転という力が加わることで命中率、威力などの全てが上がっている。
しかもその回転は二人のカリスマによって生み出されている特殊なもの。
「避けなさいっ」
紫の恫喝に霊夢達は我に返り、すんでの所でカリスマガンの先制攻撃を避けきった。
標的に避けられ大地に激突したドリル魔砲は、木々を焼き岩を削り黒い穴を穿つ。
あんなものをまともに喰らったら、いつもの弾幕ごっこのかすり傷程度では済まないのは明白だ。
相手のカリスマに圧倒されている場合ではない。
「完成したカリスマガンに太刀打ちできるものならやってみなさい」
「言われなくてもやってやるわよ! ていうかあんなもの放っておけるわけ無いじゃない」
攻撃の当たらない範囲まで避難するパチュリーの挑戦的な言葉に、噛みつくような剣幕で答える霊夢。
あんなものと呼び捨てた代物は、傍から見てもヤバイ物だということが一目瞭然だ。
どうして紫がこうなることを知っていたのかはわからないが、こんな深夜に人数を集めてこの戦いに巻き込んだ理由は分かった。
あんな危険な物を、野放しにできないからに決まっている。
『ほらほらほらぁっ! どんどん行くわよーっ』
怒濤の波状攻撃に近づくことすら許されないハクレイジンジャー。
一対五など、普段なら数の暴力とでも言えそうだが、今はこれで対等と言えるくらいだ。
この唯一の利である人数を活かして、どうにか流れをこちらに向けさせなければならない。
うまく隙を作り、弱点でも突ければ最善だが、果たして弱点など存在するのだろうか。
「私がやるわ」
「アリス?」
「合体してパワーアップしたって、所詮は作られた人形なんでしょ。人形相手なら私に任せて」
アリスの言葉に、互いの顔を見合わせる霊夢達。
確かにアリスならヴァンピリッシュVにしたのと同じように、連結術式の構成を分析し、それに相対する分離術式をぶつけることもできるかもしれない。
相手の情報が二つの巨人が合体した物としか分かっていない今、数少ないそれらから弱点を推測するしかないのだ。
「それじゃあ私と霊夢でアイツの気を引くぜ」
「私はどうしたら?」
魔理沙の作戦に頷く霊夢に、やや疲れた表情で早苗が自分のやるべき事を尋ねてくる。
そんな早苗に霊夢が与えた役目は、早苗に自身の耳を疑わせた。
「早苗は……少し休んでいた方が良いわ。さっきの戦いでだいぶ神力を消費したはずだから」
「で、でも。霊夢さんだって」
「私は別に何ともないわ。大きな攻撃と言っても鬼神玉くらいしか使ってないもの」
永遠178号の中でも、永琳は全てが前戯にすきないことを知っていたから下手な攻撃はしてこなかった。
おかげで霊夢の霊力はまだまだ余裕があったのだ。
それに対し、外で永遠178号の攻撃をかわしながら、常に神力を放出していた早苗はすでに霊撃一つ撃てない状態だ。
眠そうに見えたのも、それだけ体力神力共に消費していたからに違いない。
「役に立ちたいなら、少しでも休んで回復に専念することね。まだ戦っているようなら割って入ってくるなり好きにすればいいわ。ただ、足手まといになるようならさっさと小山の神社に帰ることね」
ここまで言われ最早何も言い返せず、早苗はその助言通りひとまず回復するため戦線を離脱することにした。
足手まといになりかねないということは、何より自分が一番わかっている。
神力が底尽きそうなのも事実だ。
「無事に」
「わかってるわよ。あんたの分も活躍してあげるから安心しなさい」
「お願いします……って、それだと守矢の信仰がっ」
「こんな時まで神社の心配か……霊夢は少し早苗の爪の垢を分けてもらった方が良いんじゃないか?」
茶化す魔理沙に御幣の一撃を食らわせながら、霊夢は早苗の元を離れていった。
そうなるのが困るならさっさと回復しろ、と一言言い残して。
「じゃあ私も行ってくるぜ」
魔理沙も霊夢から一足遅れて早苗の元を離れて、すでに臨戦態勢に入っているアリス達と合流する。
アリスは紫の結界の中から術式の分析を行うようだ。
本命の攻撃が悟られないように、霊夢と魔理沙は囮として演出するのだが、二人ともあわよくば自分が倒してやろうという気迫が滲み出ている。
これなら気を引くための演技など必要ないだろう。
「さぁて、さっさと調伏するわよ」
「さっきよりも大きい的だ。攻撃なんか当て放題だぜ」
やる気満々で飛び出していく二人を後ろから眺めながら、紫は依然として難しい表情を浮かべている。
その隣にいるアリスは、紫が何を考えているのか気になって仕方がない。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら」
「どうして相手が合体するって知ってたの。それだけじゃないわね。まだ何か知っているんじゃない?」
「乙女の秘密ってことで納得してもらえないかしら」
真剣な顔で「乙女」と言われ、アリスは思わず吹き出してしまった。
直後どこからともなく降ってきた金だらいの脳天直撃を喰らいながら、紫には紫の思惑があるのではとアリスは推測する。
だがそれも、目の前の巨人を倒さなければ思惑も何もないだろう。
何を考えているのか分からないのは常のことだし、今はそんなことよりもいち早く相手の連結術式を分析するのが自分の役目だ。
「分析――開始(スキャニング、スタートっ)」
アリスは四方八方に人形を飛ばし、空中に陣を描く。
その陣が内部の魔術を分析し、直接アリスの頭に転送するという仕組みだ。
理論派を自称するアリスならではの魔法と言えるだろう。
すぐに術式のデータが数値、属性、式となってアリスの頭に流れ込んでくる――はずだったのだが。
「な、何のこれはっ!? ぅぅっ、きゃああぁぁっ!」
突然頭を抑えて苦しみ始めるアリス。
側にいた紫が肩を抱いてその痛みの原因を探るが、なおもアリスを襲う頭痛は治まらない。
霊夢と魔理沙もその異変に気がつき、攻撃の手を緩めアリスの異変に視線を向けた。
「っああぁぁっ!!」
「どうしたの!? 落ち着きなさい」
アリスの苦しむ声が結界の中に響く。
そしてついにアリスは痛みに耐えきれなくなったのか、糸が切れた人形のように意識を失ってしまった。
紫がその体をしっかりと抱き留め落下は防ぐも、掻いた冷や汗でアリスの体はぐっしょりと濡れている。
「ちょっと、アリスはどうしちゃったの」
「わからないわ、分析術を始めてすぐに苦しみだしたのよ」
攻撃を魔理沙に任せて戻ってきた霊夢に、紫は起こったことをそのまま話した。
だが見たままを話しただけでは何もわからない。
アリスが魔法陣から送られてきた分析結果を見てから苦しみだしたのは確かだが、とすれば問題はその分析結果ということになる。
「現実と意識の境界を越えて、アリスの見た物を見てみるわ」
「そんなことして、あんたまで倒れないでよ?」
「大丈夫よ。私が何年大妖怪をやってると思うの」
紫はアリスの額に人差し指を当て、目を瞑る。
途絶える直前の記憶を見ようというのだ。
それを見ればアリスが気を失った原因、そしてカリスマガンの秘密がわかるかもしれない。
「こ、これは……」
「どうしたの? 何が見えた?」
アリスの意識の世界から戻ってきた紫は、どうにも納得のいかない表情を浮かべて霊夢を見る。
ン百年大妖怪をやって来た賢者にも、理解できないことがあったというのか。
「まったく、なんて非常識な物を作ったのかしら」
「わかるように説明しなさいよ。何が非常識なの」
「パチュリー・ノーレッジと八意永琳が、最初からあの巨人を作らなかった……いえ作れなかった理由が分かったのよ」
二人を共闘させるように仕向ける、それだけなら方法はいくらか考えられたはずだ。
しかし敢えてこの手段を取り、しかもその上で二つの巨人を一つにするという二度手間をかけさせたのには、やはり理由があったのだ。
「あの巨人。魔法や式なんて論理的なもので動いてないのよ」
「と言うと?」
「あいつ等のカリスマが全ての連結、動力となって動いてるって事」
「それじゃあアリスは……」
「考えるな、感じろって言うのが無理な子でしょう。流れ込んでくるものに頭が耐えきれずに、オーバーヒートを起こしてしまったって所ね」
魔法やカラクリ、式といった知識人の専門分野ではどうにもならない力を使って動く巨人。
確かにそんなものを、そもそもの源であるカリスマがない状態で作れるはずもない。
だが魔法使いの脳をパンクさせる程のカリスマとは、流石の紫も唖然とするしかなかった。
☆
「ふ、あれぞ私達の智力の結晶。カリスマを動力源に変える駆動装置、“Cドライブ”っ!」
「試運転すらできなかったけど、そんなもの必要なかったわね。私達の知識に不可能はなかったわ!」
カリスマガンとハクレイジンジャーの戦いを見守りながら、自分たちの最高傑作に見惚れる知識人二人。
その隣では、二人のテンションについて行けず咲夜が冷ややかな視線を送っていた。
レミリアが立ち直ったまでは良いとしよう。
だがそれも全て含めてパチュリーの計略によるものだったとは、咲夜からすれば何だか裏切られた気分である。
正確には何も知らされていなかったと言うべきだが、そんなことはどうでも良い。
「パチュリー様。本当にこれで良かったのですか?」
「どうしたの。レミリアのカリスマは以前とは比べものにならないほどに上がってるのに」
「ですがそれはパチュリー様の計略によるもの。お嬢様が自ら引き出したカリスマではありません」
苦言を呈する咲夜に、パチュリーは違うと言わんばかりに首を振る。
そして自分はあくまでもレミリアのために、今回の計画を立てたのだと弁明を始めたのだ。
「確かに私達はあの二人のカリスマを引き出すための計画を立てたわ。でも、全てレミィ達が“自分で気付く”ようにするだけに留めてあったはずよ。私達はきっかけを作ったに過ぎないわ」
「そうやってご自分を正当化されるつもりですか」
さも当然というパチュリーの言葉に、咲夜を包む空気がざわりと変わる。
パチュリーの言うことを信用していないわけではない。
だがそれでも咲夜にはどうしてもパチュリーを許せない理由があった。
「お嬢様をその気にさせるためとはいえ、私を輝夜と鉢合わせたのも計画の内だったと?」
「もしかして貴女の仕事を台無しにしてしまったときの話をしているのかしら」
「そうよ。あんな失態、自分で自分が許せない。だけど、それが謀られたものだったのなら!」
咲夜の両手に鈍い光を放つナイフが握られる。
刹那パチュリーは魔導書を、永琳は肩からかけていた弓を構え、場の空気が張り詰めた。
「あなたも変なところで真面目ね」
「それが従者たるものの在り方ですわ」
互いの動きに注目しながら、一触即発の会話を続ける三人。
だがそこへ思わぬ闖入者が現れた。
「その考え方には賛同ですっ!」
宵闇を一閃の斬激が如き速さで切り裂き現れたのは、霊魂を側に連れた小柄な少女剣士。
ずいぶん遅れた登場となった魂魄妖夢である。
まさかの白玉楼関係者の参戦に、一同は彼女の主である幽々子の登場に意識が向く。
「あぁ、いや。幽々子様はすでにお休みになってます」
恥ずかしそうに俯く妖夢。
あの後デザートを作り、風呂を焚き、床の準備までしてからここに赴いたのだ。
前話でまったく出番がなかった間も、彼女は便利な小間使、もとい優秀な従者として働いていたのである。
「そ、そんなことよりっ! 話は大体聞かせてもらいました。あの巨人を叩っ斬れば良いと思っていたけど、黒幕がこんな所にいたなんて。……斬ります」
「黒幕、ねぇ。カリスマガンが完成した時点で、時既に遅しなのだけれど」
「そんなことはないですわ。お嬢様達を説得して、あれから降ろせば良いだけの話」
立ちはだかる妖夢の隣に共に立ち、永琳の言葉を穏やかな殺意で否定する咲夜。
状況はこれで二対二になった。
刀を抜いて妖夢もすぐに斬りかかれる体勢に入る。
「説得の前にまずはあなた達を倒す。妖夢、良いわね」
「無論です」
どうあっても向かってくる従者二人の真面目さに、知識人二人は辟易した様子で溜息を吐く。
こればかりは二人にとっても計画外のこと。
計画の成就に祝杯でも挙げようとしていたところを邪魔されては、せっかくの機嫌も損なわれてしまう。
何よりあのカリスマガンが気にくわないとは、意識の不一致も甚だしい。
「少し灸を据える必要がありそうね」
「まったく、これだから思慮の浅い人間は困るのよ」
知識人サイドもやる気になり、どちらも冷静に事を収束させる気はなくなったらしい。
それぞれの得物を構え、後は緊張の弦が微かにでも弾かれれば刹那の内に戦いは始まることだろう。
その時、彼方の空が白い輝きを放ち、同時に爆音が鳴り響く。
鼓膜を通して体全体に行き渡る重低音に誰一人怯むことなく、まるでそれを待っていたかのように四人が四方に跳ねた。
それぞれの思惑を胸に秘め、ここにもう一つの戦いの火ぶたが切って落とされたのである。
☆
咲夜達が戦い始めた頃、その合図となった爆発を起こした魔理沙は、まだ魔力の放出の残り香漂う八卦炉を片手にカリスマガンを見下ろしていた。
渾身の一撃として放ったマスタースパークも、六枚翼の鉄壁に阻まれ本体には届かない。
攻撃力だけでなく防御力まで、まるで次元違いとなった相手に対し、忌々しげに舌を打つ。
さっきのヴァンピリッシュVの戦いの時もそうだったが、やっぱりこれはフェアではない。
自分はアリスのように論理立てた戦い方は性に合わない。
真っ向から叩きのめしてこそ、真に相手を打ち負かしたと、何より自分が納得できる。
だがこの体格差と、ポテンシャルの差では真っ向勝負も最初から無理な話だ。
どうやらアリスはやられてしまったようだし、真っ向勝負も最初から諦めるしかない。
だとすれば自分が打てる最善手は何なのか。
「そんなこと……考えたって分かるはずないよな」
自分ができることはただ一つ。
それは相手が何であろうと変わらない。
それが霧雨魔理沙。
それが普通の魔法使いの生き様なのだ。
「こんなこともあろうかとっ! 魔力結晶はわんさと用意してきたんだぜぇっ!」
腰に括り付けた巾着から、赤い金平糖のような粒を取り出す魔理沙。
それは魔法の森の茸から作った魔理沙特製の魔力の結晶だ。
汎用性は無いが利便性は高い。
八卦炉に一粒入れれば、それだけで強力な魔砲を放つことができる。
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる。マスタースパークも数打ちゃ効く! 多分っ」
確定要素なんかどこにもない。
そんなもの無いからこの世界は楽しく、挑戦しがいがあるのだ。
それがどんなに理不尽だったり圧倒的でも、怯んだり諦めたりしたらそこで終わってしまう。
「終わりになんかさせないぜ! こんな楽しいこと、疲れて寝るまでどこまでだって付き合ってやるよ! そらっ、もう一発お見舞いだ!」
景気よく魔力結晶を魔砲として放つ魔理沙。
こんなこと普段の弾間幕ごっこではけっしてやらない暴れ技だ。
だがカリスマガンは無情にも、ドリル砲の連射でマスタースパークの連撃を打ち払っていく。
魔理沙の限りある攻撃とは違い、二人のカリスマが無尽蔵なエネルギー源となり、いくらでも攻撃のできるレミリア達にとって、その程度の攻撃など全く脅威ではないのだ。
それでも魔理沙は止まることはない。
残り僅かとなった魔力結晶をすべてぶち込んで、自身の魔力も一滴残らず搾り取るように八卦炉に込めた。
一粒でもマスタースパーク一発分の強力な魔砲が放てる魔力結晶だ。
その結晶が八卦炉という特殊な炉の中で溶け出し、綿密に計算し尽くされて作られた魔力が高熱・高密度・高威力のエネルギーとなって外部に放出される。
「これで終いだ! スペシャルファイナルスパアアアァァァック!!!!」
特太サイズのファイナルスパークが放たれ、そのキャパシティギリギリの攻撃に八卦炉もぎちぎちと悲鳴を上げている。
(これは目が覚めたら香霖に見てもらわないといけないな)
そんなことを考えながら、魔理沙は渾身の一撃を最後の最後まで放ち続けようと腕を前に突き出し続けた。
まだまだ倒れるわけにはいかない。意識の残り続ける限り攻撃を止めたりはしない。
そんな魔理沙の思いを体現するかのように、魔理沙の残る全ての力を一つとした攻撃は一直線にカリスマガン目掛けて迸る。
さすがにカリスマガンのドリル魔砲でもこの一撃はそう易々とは打ち破れない。
いくら無尽蔵に攻撃を放つことができても、その攻撃そのものが無効化されてしまっては意味がない。
ついに本体に届くかと思われたその矢先、カリスマガンは右腕のドリルを直接ファイナルスパークにぶつける荒技に出た。
『この程度っ、私達のカリスマの前には無意味よ!』
「それはどうかな。私の根性だって負けてないぜ」
『あなたの捻くれた根性がなんだって言うの』
「生憎様。曲がってる方が直線より長いんだ。私の根性はそんじょそこらの根性よりも長くて太いのさ」
いつまで経っても減らず口を閉じない魔理沙に、カリスマガン搭乗者の二人も少し気圧され気味になる。
だがようやくここまでして手に入れたカリスマを、このしきのことで手放していいはずもない。
よりいっそうのカリスマを燃やし、その力をドリルへと集中させていく。
『どれだけお前の根性があろうと!』
『私達のカリスマは無敵なのよ!』
激しい鍔迫り合いを続けていた二つの強力な力は、ついに魔理沙側の魔力が限界を迎え始めたことでその均衡を崩す結果となった。
力を失ったファイナルスパークはドリルの直接攻撃によって蟹蒲鉾のように割け、大気中に霧散していく。
「くっそ……完敗とはね」
魔理沙自身全ての魔力を注ぎ込んで、しかもあれだけの威力の攻撃を放ち続けるのに体力も精神力も随分消費した。
もはや意識を保つのにも限界がきており、攻撃を打ち破られたことで緊張の糸も解けてしまったようだ。
だがその表情には、全力を出し切って負けたというどこか清々しささえ感じられる表情が浮かんでいる。
魔理沙はそのまま目を閉じ、口元に笑みを浮かべたまま、ぐらりと体のバランスを崩し、箒もろとも落下していく。
「ちょっと!? 魔理沙っ」
その攻防に割り込むことができず、見守っていた霊夢が叫ぶ。
すぐに地面との激突を避けるため飛び出そうとするが、その動きが何故か止まる。
魔理沙が落ちていく所、霊夢より先に飛び出していた早苗が受け止め、その落下を阻止したのだ。
「魔理沙さんのことは私に任せてください」
自身もまだ本調子ではないはずなのに、それでも魔理沙を助けるために力を振り絞った早苗。
霊夢はその行動に安堵し、そして次は自分の番だと立ちはだかる巨人を真っ直ぐに見据えた。
『敵ながら天晴れな攻撃だったわね』
落下していく魔理沙を見下ろしながら、レミリア達はたった一人でここまでカリスマガンとやり合った普通の魔法使いに敬意の言葉を贈っていた。
だが二人には感傷に浸っている暇はない。
アリスと魔理沙を倒しても、まだまだそれ以上に危険な奴等が残っているのだ。
その相手の一人、博麗霊夢もこちらに鋭い眼差しを向けている。
どうやら向こうも同じ気持ちらしい。
『やってあげる。あんたと紫を倒して、私達が幻想郷一のカリスマを持つ者として君臨してやるわ!』
『今日はその記念すべき日。私達はあなた達に勝ってみせる! いいえ、今の私達なら勝てる!』
「何とでも言いなさい。私は自分の安眠の為に、あんた達を調伏して帰るだけよ」
それぞれに意気の上がってきた三人の側に、意識を失ったアリスを安全な場所に移して紫が戻ってきた。
特徴的なパラソルをクルクルと回しながら、その口元にはいつもの薄気味悪い笑みは浮かんでいない。
霊夢の隣に浮かび立ち、こちらを見つめる巨人の視線を鋭く射抜く眼光で見返す紫。
「そうね。少しばかり調子に乗りすぎているようだし、ここいらで一つ痛い目を見てもらいましょうか」
『ふん、それでこそ妖怪の賢者が一人。その顔で言われたら、そんじょそこらの妖怪はすぐさま平伏するはず。だけど私達がそんな玉じゃないことくらいわかってるわよね?』
「それくらいの玉なら最初から私が出てくることもなかったわ。本当は私の手も患わせずに霊夢達が全部終わらせてくれることを期待していたんだけど」
「悪かったわね。期待はずれな働きで」
「そんなことはないわ。予想よりもずっと早く“こうなった”んですもの」
むくれっ面で不平を漏らす霊夢に、紫は真剣な表情を崩し苦笑を浮かべた。
だが、その纏う雰囲気からは隙など微塵も感じられない。
そして再びカリスマガンと向かい合う霊夢と紫。
「さぁ、お喋りはこれくらいにして。さっさと始めてとっとと終わらせましょうか」
『そうね。長い長い夜だけど、そろそろお開きの時間だわ――博麗の巫女と境界の賢者の大敗という、これ以上ない幕引きでねぇ!』
輝夜の言葉が終わると同時に、カリスマガンの右腕が突き出され、破壊の回転を始めたドリルから光の粒子が放出される。
それが光の螺旋となって放出されるまでに掛かる時間は、ものの一秒にも満たない。
しかしそれだけの時間があれば、霊夢達がその場を動き攻撃を避けるのには充分な余裕だった。
その余裕を無くさんとカリスマガンの猛攻はさらに激しさを増す。
ひらりひらり舞うように避ける霊夢と、どこから現れるか分からないスキマを通って神出鬼没の避け方を見せる紫。
どちらも回避能力という点だけでも、厄介なことこの上ない相手である。
しかし避けるだけでは決着はつけられない。
もしエネルギー切れを狙っているとしても、今のカリスマガンにそれはない。
そしてそれは相手もわかっているはずだ。
どこかで何かを狙ってくる可能性は充分考えられる。
「輝夜、あいつ等が何を狙っているかわかる?」
「さぁね。ただでさえ何を考えているのか分からない二人なのよ」
「そうだな……だったら私達が先手を取ってできることと言えば一つだけ」
「えぇ。相手が何を考えていても、それを起こさせる暇を与える前にとどめを刺す」
互いに考えていることは同じだったらしく、八重歯を覗かせながら不敵な笑みを浮かべるレミリア。
今の彼女たちは同じカリスマを求める同士として、一心同体に近い。
呼吸もぴったりで、それがあるからこそこのカリスマガンは、紫の表情を真剣にさせるほどの力を発揮することができている。
『片手で足りないならぁっ!』
『もう一つ増やすだけぇっ!』
二人の呼吸が一つとなり、それに反応してカリスマガンの体にも変化が起きた。
ただバランスを取っているだけだった左手が変形し、まさかの両腕ドリルが完成する。
単純に二本になっただけだが、一つ一つの威力が桁違いなため倍になるだけで脅威はそれよりも上がったと言えるだろう。
現にさらに激しさを増した攻撃に、霊夢も紫もだいぶ手こずっている。
密度の増したドリル弾幕をただ避けるしか無く、その避ける余裕すら次第に減らされつつある。
『逃げてるだけじゃ、じきに追い詰められるわよ』
「わかってるわよ!」
だいぶ優勢に傾いたことで挑発の言葉すら言えるようになったレミリア達に対し、特に霊夢は余裕がなくなってきている。
そしてついにその当たり判定の小さい回避の鬼も、避けきることのできない状況に追い詰められた。
弾幕ごっこで言えば、よく弾幕ごっこで使われる中心部にだけ当たり判定があるような見かけ倒しの攻撃などではない。
当たれば即ピチューンな当たり判定が、しかも大玉以上の大きさでランダム連射されるのだ。 現在霊夢が置かれている状況の鬼畜さが理解できることだろう。
最初から言えることだが、これは弾幕ごっこではない。
それでもこれまで避け続けられていた霊夢だったが、それも最早限界の域だ。
『これで四人目退場ね!』
周囲を攻撃で包囲され、残っている前方もすでに攻撃が放たれ避けることは適わない。
霊夢はとっさに結界を張り、回避ではなく防御の選択肢を選んだ。
その判断があとコンマ一秒でも遅れていたら、霊夢の体は為す術もなく月夜に放り出されていたことだろう。
だがこの短時間で張った程度の結界では強度が心許ない。
「魔理沙のマスタースパークを容易く破るくらいだものね。この結界もいつまで保つか……」
アリスが理解不能で気絶したのも、魔理沙が渾身の一撃を放っても通用しなかったのも、実際やり合ってみると頷ける。
それほどまでにカリスマガンの力は強すぎるのだ。卑怯とか最早そういうレベルではない。
見た目や名前に惑わされてはいけない。そもそも操っているのはあのレミリアと輝夜なのだ。
幻想郷でも指折りの実力者がタッグを組んだという時点で、充分警戒に値する相手であることは間違いない。
その上今の二人はカリスマ向上によって本気で向かってきている。
カリスマ如きで強さが変わるものかと思うが、実際これだけの力を発揮しているのだからそうなのだろう。
考えても理解できないからアリスは気絶したのだし。
『流石は霊夢ね。この攻撃に耐え続けるなんて。だけどいつまで保つのかしら』
「くぅっ……調子に乗って」
レミリアの言葉にも、霊夢はまだ噛みつき返すことはできるようだ
しかし自分の結界もすでに限界が来ていることは霊夢自身が一番理解している。
うまくタイミングを掴んで攻撃と攻撃の合間に結界を解き、この場から離れるのが唯一の選択肢だろう。
このままここでこうしていても、いずれは結界を破られてゲームオーバー。
問題はその隙を相手がくれるかどうかということだ。
すでにカリスマガンの攻撃は霊夢に集中しており、二つのドリルから放たれる強力無比な攻撃は止むことを知らないように続いている。
これでは結界を解く暇すら見いだせない。
(成る程……相手もこっちの思惑はお見通しってわけね)
自分だって相手の立場なら同じ事をするだろう。
攻撃は無限に続けられるのだから、ボム切れとかパワー切れなどを考慮して計算しながら戦う必要もないのだし。
考えれば考えるほどやっぱり卑怯すぎる相手だ。
「絶対にその図に乗った頭を地面に擦りつけさせてやるんだからっ」
だが霊夢の気負いとは裏腹に、結界には亀裂が走りもう数秒とも保たない状況に陥ってしまう。
なおも続くカリスマガンの猛攻。
さらに細かくひび割れていく結界。
「ちょっと、もう少しくらい踏ん張りなさいな」
だがその時、砕け散りかけた結界の前にもう一枚強力な結界が張られ、霊夢に攻撃が届くことはなかった。
見るといつの間にか側に現れていた紫が結界を張っているではないか。
何をしに来たのか――そんな野暮なことを聞く必要がどこにあるだろう。
「手伝うんならもっと早く手伝いなさいよ。私達と違って、あんたは何もしてないんだから」
「だから言ったでしょう。できることなら私自身の手は患わせたくないって」
「そんなんだから無駄な肉が溜まるのよ」
ぼそりと呟かれた一言に、紫はぎくりと肩を震わせる。
妖怪の賢者でも、やはり悩むことはそこいらの女性と変わりないらしい。
それはともかくとして、これで紫と霊夢の結界コンビが、永夜異変ぶりに結成されたことになる。
輝夜としては永夜異変の際に飲まされた煮え湯の屈辱を晴らす良い機会だ。
『ここであなた達二人と戦うことになるなんてね』
「奇遇……とでも言いたいのかしら」
『まさか。こうなることはきっと運命づけられていたんだわ。この最高の舞台であなた達二人を同時に屠ることができるんだもの。これをできすぎたシチュエーションと言わないで何というの?』
「できすぎているのは、そこの吸血鬼が居るからなんじゃないの」
『確かにね、紅霧異変は言わずもがな。砕月異変では引き分けるし、永夜異変の時は先を越されるし……。私自身、お前達との再戦をどこかで望んでいたのかもね』
『まぁそんなことはどうでも良いわ。これでようやく最終決戦もフィナーレということですもの。お互い全力でぶつかりましょう?』
霊夢の勘が告げる。
次の攻撃が全ての勝敗を分かつ、と。
物凄い速度で迫り来るカリスマガン。その地響きは眠っていた幻想郷の山々まで轟き、全ての生き物にこの戦いの報せとなって走る。
二つのドリルを振りかざし、その螺旋状に振りまくエネルギーが一つとなり、まるで巨大な一つのドリルのように変化する。
まさにカリスマガンの最大の攻撃。
だが霊夢達も負けを認めるわけにはいかない。
再度結界を構築し、紫もさらに強固な結界を張り巡らせた。
何重にも重ねられていく、人と妖が織りなす二つの結界は互いに融合し本来の強度を遙かに上回るものとして構築されていく。
一重、二重、四重、八重、十六重、三十二重…………
『『アンリミテッドスパイラルゥゥゥッッッッ!!!!』』
「「千弐拾四重結界!!!!」」
最強の矛と最強の盾がぶつかり合い、この戦いで一番激しい競り合いが始まった。
両者一歩も引かず、結界とドリルはどちらもそれぞれの身を削りながら相手の攻撃が滅するのを耐えている。
だが最強の矛と盾。
それらの存在は、それらが名を成すとおり矛盾するものとして古くから伝えられている。
最強の矛で最強の盾を貫くとき、最強の盾は最強ではなくなりその存在は嘘となる。逆の場合もまた然り。
辻褄の合わないことの例えとして用いられる話だが、この話をさらに解釈するとある一つの結論に辿り着く。
最強の物が二つもあるから、その存在が疑われることになり矛盾を生むのだ。
ならば一つしか無くなってしまえば、その矛盾も解消されることになる。
つまり、盾と矛のどちらか一方のみの存在こそが許されるのだ。
この戦いも同じ事。
今は拮抗している力も、いずれはどちらかが負け、どちらかが勝つ。
最強は二つもあってはならないのだ。
『私達がっ!』
『勝つっ!』
ノリが最早完全にカリスマではなく熱血になってしまっているという、今回の件全てを否定しかねないツッコミも、今の彼女たちには届くことはないだろう。
今の彼女たちに見えているのは、カリスマを追い求めることよりも、目の前の宿敵を倒すことだけ。
しかしその気迫から滲み出るのは紛れもなく、カリスマを感じさせる程の気概。
ドリルの回転もその気迫に呼応して、更なる回転を掛ける。
カリスマガン全体のエネルギーが充満し、銀色のボディーはまさしく地上の月とも見まごう輝きを放つ。
一歩、そしてまた一歩と、カリスマガンの足は確実に前へと進む。
その度に結界は一重、また一重と破られ、結界組の顔に苦渋の汗が浮かんだ。
『『これでジ・エンドよぉっ!!』』
カリスマの咆哮と共に、ついに最後の一枚にドリルの先端が触れる。
それまでギリギリのラインで保たれていたバランスが完全に崩れたとき、そこに込められていた魔力霊力妖力の全てが爆発した。
☆
目を空けていられないほどの光が辺り一帯を包み、戦いの結末は誰にも見ることができない。
地上でアリスと魔理沙の介抱をしながら、戦いを見守っていた早苗も袖で決着の光から視界を塞ぐ。
この光が消え去るまでは結末は分からないのだ。
そして次第に収まっていく光。
当たりに再び夜の静寂が戻ってきたのを感じ、早苗は恐る恐る目を開けた。
目が闇に慣れるとすぐに、空を仰いで満月を間に挟んで戦っていた者達の結末を確認する。
彼女の目が捉えたもの、それは片方のドリルを失ったカリスマガン。
その反対側に、人影は――――あった!
衣装はボロボロだが紫はまだそこにいた。
だがすぐに早苗はその紫が抱いているものに気がつく。
彼女の隣に残っているはずの霊夢が力尽き、その腕の中にいるのだ。
「そ、んな……」
これだけの実力者が集まったというのに、それでもあの巨人を倒すことはできなかったのか。
カリスマは神奈子も大事だと言っていたが、まさかこれ程の力を持っているものだったのか。
なんにしても紫と霊夢の敗北が幻想郷に知れ渡ってしまえば、守矢神社への信仰にも関わってくることだろう。
新しいカリスマを持つ者の登場に、幻想郷はこれからどんな変化を起こしていくのか。
考えたくはないが、これから先幻想郷で暮らしていくならば、避けては通れぬ道なのだ。
『ははっ、あははははははっ! 勝ったわ! ついに私達が幻想郷一のカリスマを手に入れたのよ!』
『えぇ、そうね。見なさい、紫のあのボロボロになった姿! なんて気分が良いのかしら』
カリスマガンから聞こえてくる、勝者の喜びにむせぶ声。
その声を聞き、咲夜・妖夢と戦っていた永琳達も満足げに口元に笑みを浮かべてその勝利を讃えていた。
こちらの戦いも押しつ押されつの攻防が繰り広げられ、周囲は斬撃や焦げ痕で、その戦いの凄まじさを物語っている。
すでにどちらも手を尽くしたようで、カリスマガンと霊夢達の戦いが終結したのを切っ掛けに、どちらも武器を置いて座り込んでいた。
そんな中、レミリアと輝夜の勝利の声が飛び込んできたのだ。
「どう、咲夜。これでも間違っていたと言うの?」
「私は……まだ納得したわけではありません」
「そう、強情ね。まぁ良いけど」
何を言っても、もう全て終わってしまったこと。
咲夜もこれ以上の争いは無意味だと判断し、ただ今は体力の回復に専念している。
その隣では妖夢がどう幽々子に話すべきか、頭を抱えていた。
「あぁどうしよう。これから先あの二人がのさばることになるなんて……。幽々子様が起きてこの事を知ったら……」
「もし白玉楼にいられなくなったら、その時はうちに来なさい。専門医として輝夜に口添えしてあげるわ」
「そんなこと、できるはずがないでしょうっ」
「あら残念。半人半霊なんて珍しい存在、良い検体になると思ったんだけど」
「やっぱりそっちが目的なんじゃないですか……って、もおっ、半幽霊に触るなぁっ」
半幽霊を抱きかかえて永琳から距離を取る妖夢に苦笑を浮かべながら、永琳はふと空を見上げる。
視線の先に堂々とした態度で浮かび立つ、手負いの巨人。
その傷を負っても尚輝くその姿は、まさしくカリスマの神と呼ぶに相応しい。
これから先、未来永劫その勇士は幻想郷の歴史に名を馳せていくことだろう。
幻想郷の歴史を、妖怪の歴史を、新たな世代に変革をもたらした大いなる存在として――
《完》
「……誰が終わらせて良いと言ったかしら」
結界が破られた反動で、か弱い人間の体でしかない霊夢は意識を失ってしまった。
その霊夢を抱きかかえながら、最後に残ったハクレイジンジャーの一人、八雲紫は呟く。
彼女の呟きはとても微かなものであったが、その威圧に満ち満ちた言葉はレミリア達にも届いていた。
『おや、まだ何か用でも?』
「そうよ。あなた達は本当にやりすぎたわ。だからこっちもそろそろ奥の手を使わせてもらうことにするわね」
『奥の手? さっきの霊夢と協力して張った結界よりもどうにかできる手があるって言うの?』
にっこりと微笑む紫。
だがその笑顔の下から滲み出ているものは、全然穏やかな雰囲気ではない。
むしろその真逆。その笑顔を見た瞬間、誰もが震えを起こしそうな威圧がそこからは感じ取れるようだ。
「シリアスなのはもう終わり。肩が凝って仕方がないしね。ここから先は、あなた達へのふるぼっこ、もといお仕置きタイムよ」
パチンっ、と紫が指を鳴らすと、その隣にスキマが生じる。
紫がその中から何かを取り出すことはない。
しばらくすると、そのスキマから人の足がにょっきりと現れたではないか。
その光景をギョッとしながら見つめるレミリア達に、紫は不敵な笑みと共に言葉を漏らした。
「知ってる? 五人がピンチに陥ると、物凄く強い六人目が現れるのが、正義の味方のセオリーなんですって」
『セ、セオリーって……おいっ、いつの間にお前達が正義になったんだ!?』
「そんなの、私が正義に決まっているじゃない。まぁそんなわけだから、“奥の手”を出させてもらうわね。さぁ出てらっしゃいな、幻の六人目」
喚くレミリアの言葉も、軽くスルーしてスキマから伸びる足に呼びかける紫。
いったいこの期に及んで誰を連れてきていたというのか。
固唾を呑んでレミリア達が見つめる中、その六人目の戦士は正体を現した。
「魔法のステッキ一振りすれば、どんな悪でもやっつけちゃう。魔法少女――じゃなかった。調伏戦隊ハクレイジンジャー、最後の戦士! ロリブラッド、華麗に参上っ☆」
背景に色取り取りの星が飛び交ってそうな登場の仕方で現れたのは――
『ちょっと!? なんであんたがそこにいるのっ』
『レミリアっ、落ち着いて。あれはあなたの知っている奴なの?』
知っているも何も。
ハクレイジンジャー共通のスカーフとサングラスを着けていても、そのあまりにも特徴的すぎる羽や、手に持っている魔法のステッキことレーヴァテインを見れば一目瞭然。
何より五百年以上も聞き慣れた声を聞けば、実姉であるレミリアに分からないはずがない。
「な、何故っ。どうして妹様がここにっ」
何やら雲行きの怪しくなってきた展開を見守っていたパチュリーにも驚愕の色が浮かぶ。
彼女の登場は本当にイレギュラー。
計画の最初の段階で、参加させることは得策ではないと判断して外したはずの危険度AAAの阻害要素。
レミリアの妹であり、全てを破壊する程度の能力を持った狂気の吸血鬼――フランドール・スカーレット。
『フランっ! あんたは地下室に封印を施して眠らせていたはずよっ。なんでここにいるのっ』
「でもその封印が解けちゃっていたのよね。だからお外に出てきてみたら、こんな面白そうなことをやっていたなんて」
フランドールはサングラスを外し、その狂悦に満ちた三日月の笑みを姉に晒す。
純粋に彼女はこの状況を喜んでいるのだ。
そして同時に純粋な怒りも抱いていた。
「さっきお姉様は、どうして私が霊夢達の方にいるのかって聞いたよね?」
『そ、そうよっ。あなたは私の妹なんだから、こっち側にいるのが当然でしょうが! それがどうしてそんな恥ずかしいサングラスまで着けて、紫のスキマから出てくるっ』
「だって、お姉様……」
フランドールはゆっくりとレーヴァテイン矛先をカリスマガンへと向ける。
そして何の躊躇いもなく、破壊の一撃を放った。
姉の紅い魔力よりもさらに深い紅色の魔力が細長く尖って、カリスマガンの左肩を撃ち貫く。
「私だけ仲間はずれにしたじゃない。私、とぉっても寂しかったのよ?」
口調では寂しがりやな妹を演出しながらも、その強力な攻撃は次々と放たれカリスマガンの体を撃ち抜いていく。
魔理沙のマスタースパークよりも、遙かに威力と貫通力の増したフランドールの怒りの攻撃はカリスマガンの防御もあっけなく突破するようだ。
「そうしたらこの妖怪がお姉様と遊ばせてくれるって言うから、やって来たの」
発射、貫通、発射、貫通、発射、貫通――――
「お姉様? 謝ってよ。私を仲間に外れにしてごめんなさいって」
『フランッ! いい加減にしなさいっ』
「謝らないの? だったら私だって許さないもんね。ほら、穴ぼこだらけにしちゃうわよ」
次から次へと放たれる容赦のない攻撃。
ひと思いに一発でとどめを刺さないのは、それだけフランドールが怒っているということなのだろう。
下手に理性が残っている分じわじわといたぶり尽くそうとしているのだ。
「レミリア、あれあなたの妹なんでしょ。だったら何とかしなさいよ」
「わかってる! でもだいぶ頭に血が上っているようだし、下手に刺激したらもっと非道い攻撃を仕掛けてくる……。あれは私でも手に負えない子なの」
「自分の妹なのに、手が出せないなんて。それでもあなたはカリスマを取り戻した夜の王者なの!?」
「う、うっさいわねっ。あの子の姉になったら、あんただって」
カリスマが通用する相手ではないことがわかる、そう言いかけたレミリアだったが、そこで若干の冷静さを取り戻した。
確かに輝夜の言うとおり、実妹に手こずるようでは真にカリスマを手に入れたとは言えるはずもない。
今までその性格と能力を気に掛けて、多少腫れ物に触れるような付き合いしかしてこなかったが、姉の威厳というものをここらで一つガツンと思い知らせてやる必要がある。
何のためのカリスマだ。妹から嘗められる姉にカリスマがあるものか。
『フラァァンッ!』
「アハッ、怒った怒った。そうでなきゃ面白くないわっ」
残る右手のドリルから放たれるドリル魔砲。
反撃が返ってきたことに、フランドールは嬉しそうに顔を綻ばせる。
目前にまで迫った攻撃にも全く怯えもせず、逃げることもなくフランドールは真っ向からその魔砲とぶつかり合った。
レーヴァテインを両腕で握りしめ、魔砲を正面から真っ二つに切り裂こうとしているのだ。
そんな危険な行為にも愉悦を感じられるのは、幻想郷でもフランドールのように気が触れた性格をしているものくらいだろう。
「ふぅん、すぐには切れないかぁ。さすがはお姉様。……だけど」
これまで愉悦に満ちていたフランドールの顔が、途端般若が如き形相へと変貌する。
そこに含まれるのは憤怒と失望。そして――侮蔑。
「つまんない」
フランドールがレーヴァテインの尖端を少し傾け力を込めるだけで、威力は半減しても充分な破壊力の込められていたドリル魔砲は呆気なく切り裂かれてしまう。
信じられない光景を目の当たりにし、レミリアだけでなく輝夜も、この状況がどれだけ危険なのかを理解した。
そんな二人の心境を察していたかのように、奥の手を隠していた紫がいつもの妖艶な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「カリスマと言えども、所詮は絶対的な力量差の前には無意味ということよ」
『フランを使うなんて……』
『ひ、卑怯よ!』
「どの口がそんな戯れ言をほざけるのよ。そっちはそんなものに乗ってるくせに」
卑怯という点ではどっちもどっち。
狡猾さで言えば、最後の最後にフランドールという最終鬼畜魔法少女を参戦させた紫の方が一枚上手だ。
「こ、このままじゃ、せっかく手に入れたカリスマの玉座から引きずり下ろされてしまうわ」
「わかってる。……あれだけの大口を叩いておきながら、即降格というのは今後の私達の威信に関わってくるわ」
「何か手はないの?」
「それはこっちの台詞よ。どりるとやらも通用しそうにないし、他に武器は無いの!?」
何か逆転の手だてはないものかと、操縦席を離れてコクピット内を探索し始めるレミリアと輝夜。
あのパチュリーや永琳がこんなピンチを全く想定せず、何の準備もしていないわけがない。
まだ自分たちの知らない何かとっておきの隠し球がどこかにあるはず……多分。
でなければこのままむざむざとやられるだけの、みっともないオチが待っている。
もし万が一負ける運命にあったとしても、そんなものでは絶対に許されない。
「レミリアっ」
「なんだっ、何か見つかったか!?」
レミリアが輝夜の元に駆け寄り、その手が持っている物に視線を落とす。
そこには『取扱説明書』と書かれてある分厚い本があった。
勿論、無くさないでくださいの注意書きも右隅の所にきちんと記載されている。
その説明書をばらばらと捲っていくと、最後の部分に大きく赤い字でマル秘と書かれた頁を発見した。
しかもご丁寧に袋とじ状態で。
「これは……もしかして」
「こんな大きくマル秘と書いてある上に、袋とじにしてあるんですもの。絶対に最終兵器の事が書いてあるに違いないわ」
「よし、破らないように丁寧に開いて……と」
レミリアの鋭い爪を使って、ゆっくりとその秘密のページを捲る二人。
そこには思っていたとおり『カリスマを爆発させる最終兵器の使い方』と何とも直球的すぎる表題が書かれてある。
目的の物を見つけた二人は、勝利を確信して再びその顔に不敵な笑みを浮かべるのだった。
☆
フランドールの登場により完全に逆転してしまった戦況を見せつけられ、それまで二人の勝利を信じて疑わなかった知識人はその顔を驚愕で染めていた。
永琳もパチュリーも、まさかフランドールの登場というイレギュラーが発生しただけで、ここまで戦況が変わってしまうとは思ってなかったのだ。
「どうやらパチュリー様達の計画は失敗に終わりそうですわね」
「あんな方法で手に入れたカリスマなんて所詮は俄物。ボロが出るのも時間の問題だったようですね」
呆然とカリスマガンが穴だらけになっていく様を見つめる二人の知識人の背後、激戦を終えた二人の従者はしみじみと呟いた。
咲夜にとってはレミリアの敗北という何とも微妙な立ち位置にいるわけだが、その相手が妹のフランドールということもあり、その心はだいぶ凪いでいる。
やはり自ら模索し、自らの手でカリスマを昇華させてこそ、真にカリスマを手にすることができるのだ。
今回の失敗を活かし、将来必ず真のカリスマを手に入れることができるよう、共に道を歩むことでこうなることを止められなかったせめてもの罪滅ぼしをしようと咲夜は堅く胸に誓う。
「さぁ、パチュリー様。もうすぐ妹様が決着をつけられます。私達もお嬢様の所に行きましょう。紅魔館の修復にはパチュリー様のお力が必要不可欠なんですから」
穏やかな声で話しかけ、へたり込む主の親友の肩に手を掛けようとする咲夜。
しかしその手が肩に掛けられることはなかった。
「いいえ、まだよ」
「八意永琳……あなたは現状を見ても、まだそんなことを言うの」
「私達がこの最悪の状況に陥ることを、全く予想していなかったと思う? 確かにあの妹さんの登場と瞬く間にやられてしまったことには驚いたけど……」
ボロボロの状態でも、その顔には不敵な笑みを浮かべて、永琳はまだ諦めていない瞳で今にもとどめを刺されようとしているカリスマガンを見上げる。
その顔には確固たる勝算が得られる色が浮かんでいる。
しかしどう考えても、今の状況を打破することは余程のことがない限り無理に見える。
それだけの自信が残っているということは、その余程のことをまだ残しているというのか。
「パチュリー、勿論“アレ”は取り付けてあるわね?」
「え? え、えぇ。封印兵器『ラストC』のことね?」
封印兵器。その響きだけで嫌な予感が背筋を走る。
作ったのがこの二人という時点で、その予感は確実なものになるであろう確信が咲夜にはあった。
永琳に詰め寄り、その胸ぐらを掴む咲夜。
「一体何なのそれはっ。どんな武器が隠してあるって言うの!?」
「ふふ、すぐに分かるわ。あの子達のことだもの。必ず私達が残したメッセージに気付くに違いないわ」
咲夜の剣幕にも涼しげな口調で返す永琳。
その寒々しいまでの言動に、咲夜の悪寒は次第に怒りへと変わっていく。
どこまで腹の内を隠しているというのか。
主君の無事を確保するためにも、その『ラストC』呼ばれる兵器の正体を吐かせなくては。
咲夜は再び永琳に尋ねようとするが、その時カリスマガンからけたたましい警報音が聞こえ、その場にいた全ての者の動きを止める。
その音を聞いた瞬間、胸ぐらを掴まれた状態のまま永琳は高らかな笑い声を上げた。
「フフフフッ。どうやら輝夜達が『ラストC』の第一準備を終えたようね」
「第一準備ですって?」
「そう。あれはとても強力な兵器だもの。周囲にいる者すべて駆逐できる。だからあぁして警告を与えてあげているの」
そんな危険な力がまだあの巨体に残されている。
永琳達が距離を取って戦況を見守っていたのも、予めその最終兵器が使われるかもしれないと考えていたからなのか。
「『ラストC』……。二人のカリスマによって高まったエネルギーを一瞬で体外に放出し爆散させる、まさに最終兵器」
「ちょっと! それって単なる自爆ってやつでは?」
パチュリーが語った最終兵器の正体に、咲夜は至極当然のツッコミを入れる。
確かにあらゆる意味で最終兵器としか言いようのないものだが。
その説明に補足を入れるように、永琳がやや陶酔気味に話を継いだ。
「負けるくらいなら、自らの手で幕を下ろす。それこそカリスマのラストとして相応しいんじゃない?」
「でもそんなことをしたら乗ってる者だってただじゃ済まないだろうっ」
「中には誰もいないわよ。合体する前に、どっちの機体からも全員降ろしているから」
「いやいやいや! 一番大事な人たちが乗ってるじゃないですかっ」
「輝夜は死なないから大丈夫。レミリアだって、体の一部があれば再生できると聞いてるわ。それを考慮した上で使わせるに決まっているじゃない。だからそんな武器があるなんて知らせてないのだし。勿論説明書にもそんな武器だなんてこれっぽちも書いてないわ」
なんとも無責任な物言いに、もはや怒る気すら失せてしまう咲夜と妖夢。
今近づいてもその自爆に巻き込まれてしまうのは目に見えている。
自分たちにできるのは、全てが終わった後の後始末に向けての体力回復に専念するしかない。
だが、肝心の自爆はいつまで経っても起きやしない。
「どうなってるの……もしかして不発?」
「そうじゃないわ。第二段階のスイッチが押されていないだけ」
永琳が指差す先、カリスマガンの頭部にはそれまで無かった赤いスイッチらしき物が現れていた。
あれが自爆スイッチの本体らしい。
「あれを押せば、輝夜達のカリスマは永遠の輝きとなって私達の胸に刻み込まれることでしょうね。いいえ、幻想郷全体にそのカリスマの輝きは広がっていくはずよ」
「お嬢様、無力な私をお許し下さい……こんな狂った奴の計画に乗せられてしまうなんて」
最後の最後でどんでん返しによる成就を喜ぶ永琳と、その側にがっくりと膝を突き懺悔の言葉を口にする咲夜。
対照的な二人が見守る中、レミリアと輝夜はそのスイッチが自分たちの最後を別の意味で飾る物とは知らずに、カリスマガンの腕を伸ばしていく。
操縦席で自分たちの逆転勝利を信じながら嬉々とした表情を浮かべている二人の様子が思い浮かばれる。
だが項垂れた頭上から、永琳が信じられないと叫ぶ声が聞こえ、咲夜は何事かと面を上げた。
永琳が見つめているのは、爆散するはずのカリスマガンの最期の姿――のはずだったのだが。
「どうして……なんで爆発していないの」
カリスマガンの巨体はいまだ顕在で、爆発した様子もない。
頭上のスイッチはまだ押されてなかったのだ。
寸前になってレミリア達がその兵器の正体に気付いたのか。
いや、そうではなかった。
「手が……頭の上まで届かないの?」
カリスマガンはその大きな右手を使って、頭の上に現れたスイッチを押そうとしているが、手がそこまで届かないのだ。
どうにかこうにか押そう押そうと奮戦しているが、どうにも届きそうで届かない。
そんな情けない様を見せつけられた永琳は、あの巨人を共に設計したパチュリーへと詰め寄った。
「パチュリー! あれは一体どういうこと!? 各部位の連結に関しては貴女に一存したけど、あんな仕様にするなんて聞いてないわよ」
「それは……」
「まさか、『ラストC』を使わせないように最初から仕組んでいたの!?」
初めて取り乱した様子を見せる永琳に、パチュリーは視線を合わせないようにしながら、どうしてそんなことをしたのか話し始めた。
「私は魔法使いよ。自分の作り上げた物を、そう易々と壊すなんて……」
「親友のカリスマよりも、作った物への親心が勝ってしまったと言うの!?」
「……ごめんなさい。だけど、やっぱり私には耐えられなかったのよ!」
ここに来てまさか計画に最初から齟齬が生じていたことを知り、永琳はその膝を折った。
これで計画が成就することはない。
カリスマガンは、幻想郷に迷惑を掛けるだけ掛けて、調伏された愚か物の象徴として記憶に刻まれてしまうのだろう。
「あらあら、そんな物騒な物だったの?」
完全に永琳が意気消沈した時、突然そこにいる四人の誰の物でもない声が響く。
直後、空間を裂いて紫が姿を現した。
「紫様、どうしてここに」
「あら妖夢、貴女も来ていたんだったわね。黒幕がどうしているのか気になって、スキマ越しに話だけ聞いていたのだけど。そうしたら、何やら危険な話が始まったじゃない? 私だって痛いのは嫌だから避難してきたのよ」
紫の無事に安堵して駆け寄ってきた妖夢に、紫は戻ってきた理由を話すと、そのままの足で永琳の所へ歩み寄る。
永琳の目には、紫がこの無様な姿を笑いに来たように見えていることだろう。
だが紫の目的はそういうことではなかった。
膝を突いた永琳の目線に合わせるように、腰を折ってしゃがみ込む紫。
「どう? 計画が最後の最後で崩れた印象は」
「……まさか全部分かっていたの」
「いいえ。あれの力は私が思っている以上の力を持っていた。フランドールの手も借りる予定は無かったし。だけど、だからこそ万全の準備をして私はここに来たのよ」
「どうやら完敗ね。さすがは妖怪の賢者とでも言っておきましょうか?」
「あら、貴女は私がこれで許したとでも思っているの?」
「え?」
紫はゆっくりと立ち上がると、その顔には満面の笑みを浮かべる。
しかしそこにはやはり表情通りの感情はない。
「貴女達はやりすぎたって、そう言ったわよね? まだまだお仕置きタイムは終わってないのよ?」
紫が何を言っているのか、その場にいる誰も理解できない。
そんなことを気に掛けることなく、紫はスキマの中から愛用のパラソルを取りだした。
それを優雅な動作で差すと、傘を持っていない左手を天高く掲げる。
「さぁ、フィナーレよ」
乾いた音を立てて、紫の指が弾かれる。
直後、変化が生じたのは、カリスマガンの頭上。その空間に一筋の線が現れた。
意識のある者全てがその行く末を見守っていると、その線は異空間へと繋がる口を開いていく。
そして、そこから出てきたのは巨大な巨大な――――
金だらい。
重力に引かれ落下するタライは、見事な角度でカリスマガンの頭上に直撃する。
勿論そこにはご丁寧にドクロマークをあしらったあのスイッチがあるわけで。
刹那、幻想郷の夜空はカリスマの弾けた花火によって、一足早い朝焼けのような輝きに包まれた。
☆
翌朝、すっかりいつもの静けさを取り戻した幻想郷は、いつも通りの朝を迎えていた。
人里では昨晩の地響きや光、爆音の話で持ちきりだったが、その真実は知る者はいない。
後日配られる天狗の新聞によって、何があったのかを知るが、それも様々な過剰脚色や主観で書かれているため、やはり真実を知っているのは、その場にいた当事者達だけということになる。
しかもその大半は意識を失っていたり途中で参戦したり、逆に途中で現場を離れたりしていたため、現場にいたとしても全てを知る者は数少ない。
あの一夜で決着した戦いに参戦した者はそれぞれの帰るべき場所に戻り、今は疲れた体を癒していることだろう。
さてそんな途中で現場を放棄した一人、もとい一羽である鈴仙も、朝が訪れてからだがようやく戻ってきていた。
勢いで飛び出してしまったまでは良いが、仕事を放りっぱなしで飛び出したのは、冷静になって考えるとあまり芳しくない行動だった。
元々のお仕置きよりも酷いことをされるかもしれない。
そんなことばかり考えていては、耳の垂れ具合も当社比倍になるというものだ。
それでも帰るべき場所は、永遠亭しかないのである。
「はぁ……お師匠様、怒ってるかなぁ。怒ってるわよねぇ」
気乗りはしないが、いつまでもこうして外をうろうろしているわけにもいかず、決心して戻ってきたのだ。
えぇい、後は野となれ山となれ。兎は度胸が肝心よ、と鈴仙は迷いの竹林へと降り立った。
だがその目の前には、そこにあるはずの我が家は存在していなかった。
「え? あ、あれっ?」
何が何だか分からず、屋敷のあった跡の周辺を歩き回る鈴仙。
しかし永遠178号として歩き回っていたのだから、何の痕跡もないのは当然である。
静かになったし、もう戦っているはずはないのだが。
「あれ? 何だろう、これ……」
鈴仙は草むらに落ちている一冊の本を見つけ拾い上げた。
こんな所に本が落ちているなんてどう考えても怪しすぎる。永琳が落としていった物なのだろうか。
色々考えながら鈴仙はその表紙に目を見やる。
そこに書かれたタイトル、それは――
☆
場所は変わって博麗神社。
気を失ってしまった霊夢は、あの後紫の手によって無事に自宅へと送り届けてもらっていた。
目が覚めるといつもの部屋で、いつもの布団の上で横になっていた。
服装も腋巫女装束から寝間着に着替えていたし、まるで昨夜の出来事全てが夢だったような錯覚を覚える。
だがすぐにあれらは全て現実のことだと理解することになる。
いや理解せざるとを得ない、というのが正しいか。
ひとまず気怠い体を起こして紅白の装束に着替える。
すると胃袋が空腹を主張し始めたので、霊夢は土間へと向かうことにした。
だが土間の障子を開いた霊夢は、そのまま立ち尽くしたまま視線をある一点に凝視させる。
「……なんであんたがここで朝餉の準備をしているのよ」
霊夢があんたと称した相手は、神社の土間には不釣り合いなメイド服を着て、手慣れた様子で椎茸の出汁を取っていた。
話しかけられ、霊夢の存在に気がついた彼女は、振り返るとにっこりと微笑んで「おはよう」のごく自然な朝の挨拶を返してきた。
思わず同じように返しそうになるが、そうは問屋が卸さない。
「おはよう、じゃないわよっ。だからなんであんたがここにいるのか聞いてるのよ。咲夜!」
「なんでって……昨日話したはずよ? 正確には今日の早朝だけど」
霊夢は咲夜が言う今日の早朝のこととやらを思い出そうと腕を組んで考える。
すると何やら夢のようなものを見た気がして、その残滓を追いかけてみた。
自分は寝床で眠っていて、そこを誰かに起こされたのだ。
そう言えばその起こした相手は、メイド服を着ていた気がする。
その相手は確か何か言っていた。
なんだっけと、霊夢はさらに記憶に意識を集中させる。
『それじゃあ、これからしばらくお世話になるわね』
そう、確かそんなことを言っていた。
「って、ちょっと待ちなさいよっ! お世話になるってどういうことよっ」
「どうもこうも、そのままだけど……って霊夢?」
咲夜の言葉が終わる前に、霊夢は土間を離れて茶の間へと走る。
メイド長がいた時点で嫌な予感が脳裏をよぎって仕方がない。
その予感が嘘であることを願いながら、そして同時に心の何処かで諦めを感じながら、その襖を勢いよく左右に開く。
朝日が差し込む温かな茶の間には、やはり見たくなかった光景が広がっていた。
「あらようやく起きたの? 早寝早起きは長生きのコツよ」
「こんな明るい内から起きてなきゃいけないなんて、人間ってやっぱり不便ね」
畳の上に自慢の黒髪を散らして寝転がり、まるで自分の家のようにくつろぎながら煎餅を食べている輝夜。
もう一人、太陽は高いというのに活動しているレミリアの姿を確認して、霊夢は深い深い溜息を吐いた。
「聞いても状況は変わらないけど、一応聞いてあげる。どうしてあんた達が私の家でくつろいでんのよ」
「そんなの決まってるじゃない。私達家無しなんだもの」
輝夜の言うとおり、永遠亭も紅魔館もカリスマガンとして合体し、自爆してしまったのだから彼女たちに帰る家があるはずがない。
しかしその言葉だけでは理解できない霊夢は輝夜から、今回の件にまつわる話を全て聞き出した。
その結果、とりあえず二人が屋敷を失ったことまでは理解できた。
だがそれがどうしてこの状況と繋がるというのか。
「霊夢は私達に負けたでしょう。だから」
「そんな理由がまかり通るわけないでしょうがっ」
さも当然と言い切る輝夜の脳天に蹴りを食らわして、霊夢は理不尽な言い分を却下する。
しかし霊夢が負けたのは事実だと、レミリアが間に入ってきた。
ただ霊夢の意識はそんなことよりも、レミリアの状況に完全に映ってしまっている。
「それで? どうしてあんたはそんな手の平サイズなのよ」
「こっ、これは……」
レミリアの体は、茶碗を風呂釜代わりにできるほどの大きさまでに縮んでしまっている。
これではカリスマも最早形無しだ。
「カリスマガンが爆発する瞬間に、体の一部を切り離して外に避難させたみたいよ。元の大きさに戻るまで十三日は掛かるみたいね。あと永遠亭や紅魔館の修復もそれくらい掛かるって」
霊夢に蹴られた頭をさすりながら、レミリアが言い淀んだ部分を輝夜が捕捉する。
つまり何か。あと二週間近くもこの連中と同居しなきゃならないのか。
「ねぇっ、本当の黒幕はどこに行ったの!」
「永琳達? 今はそれぞれの屋敷の修復をしていると思うけど……」
「文句言ってくる!」
すっくと立ち上がり、抗議のために神社を飛び出ていこうとする霊夢。
だがその時、そのお腹の虫が朝食の摂取を求めて鳴きだした。
苛立ちと羞恥で顔を染める霊夢は、ゆっくりと振り返るとちゃぶ台まで歩を進め、そこに腰を下ろした。
「とりあえず……御飯を食べてからよ」
タイミング良く咲夜が朝餉を運んできて、部屋は焼き魚の香ばしい香りに包まれる。
焼き魚だけではない。ふんわりした卵焼きや、瑞々しいほうれん草のおひたし、出汁の利いた味噌汁、何より白く輝く御飯と、何を取っても完璧な朝食が並べられていく。
霊夢もそれだけの食事を前にしては、唾を飲み込まずにはいられない。
よく考えれば、レミリアがここにいる以上咲夜が世話係として一緒に居ることになる。
その間はこんな食事が、自分で作らなくても出てくるのだ。
「……それじゃあ私が御飯で釣られてるようじゃないっ」
自分で自分を戒めるが、霊夢も人間である以上食欲には勝てないわけで。
食材を無駄にしてはいけないからと、無理矢理な理由をこじつけて、霊夢は食事に手をつけた。
その食事の間、霊夢はある一つの引っかかりを感じながら箸を動かしていた。
それは紫がどうして、今回のパチュリーと永琳が立てた計画を知っていたのかということだ。
さらに自分が気絶していた間に、紫はあのフランドールまで味方としてスカウトしていたらしい。
レミリアは封印を施していたのに、と不思議がっていたが、そのことも紫は知っていたのだろうか。
妖怪の賢者とはいえ、いくらなんでも色々知りすぎている気がする。
(ま、考えたって仕方ないわよね。あの紫のことだから、スキマから覗いていたとかそういう理由で誤魔化すだろうし)
それにもう終わったことと、霊夢はひとまず目の前の食事を楽しむことにした。
これを食べた後、文句を言いに行くことも忘れないようにと、茶碗を握る手に力を込めながら。
「ところで、カリスマがどうのって言っていたけどもう良いわけ?」
「あぁ、そのこと? また機会があったら挑戦するわ。私は蓬莱人ですもの」
「私だって体が元に戻ったら、いずれ必ずカリスマを取り戻してみせる!」
全然懲りていない様子の二人を見ながら、霊夢はまた溜息を吐く。
しかし、間もなくして紅魔館と永遠亭の名は幻想郷中に知れ渡り、レミリアと輝夜もそこらかしこで名が囁かれるようになる。
その意味を屋敷の中で暮らす二人が知る由はなく、有名になったと喜ぶだけだ。
幻想郷はやっぱり平和なのである。
☆
――紅魔館の書庫であった場所。
貴重な文献を守るための結界を張っていたので、この場所自体には大きな被害は出ていない。
フランドールの部屋も別空間に転移させてあったので部屋主と共に顕在だ。
そして、この書庫を主な活動場所としているパチュリーは紅魔館修復のため出掛けているため、今ここには誰もいない。
いや、暗がりにたった一人、ほくそ笑む者がいた。
その手の上には一冊の本が開かれ、彼女はそれを見ながら笑っている。
だが笑っている理由は、その書物の内容にあるわけではない。
「あ~面白かった。まさか紅魔館が爆発しちゃうなんて思わなかったけど。でも、パチュリー様の悩みもとりあえず解決したし、結果オーライかな。全部上手くいっちゃったら後でばれたとき怖いものね。紫さんの協力で、私が色々リークしてたって事はばれないだろうし……」
クスクスと笑いながら、小悪魔は読んでいた書物を棚に戻す。
その表紙に書かれたタイトルは『カリスマのスヽメ』。
帯には『すっかり衰えてしまったあなたのカリスマも、これを読めばバッチリ回復』とか書かれており、表紙共々暑苦しい漢達や怪しげな司祭などのイラストが施されている。
どこから見ても胡散臭い代物を片付けながら、小悪魔は背中の羽を羽ばたかせて扉へと飛んだ。
「さて、紅魔館が直るまでは何して暇潰そうかなぁっと」
悪魔の尻尾を軽快に揺らしながら、小悪魔は書庫を後にする。
クスクス、クスクス、と。
書庫中に笑い声を響かせながら。
『Chaotic Charisma Carnival』~《完》~
それにしても、勢いのある戦闘シーンを書けるのは尊敬します。
うん、面白かった。
あと、手乗りお嬢様はお持ち帰りいいいい!!
いろいろと突っ込みどころは多いですが…
面白かったので良しということで
いい意味で裏切られました。(苦笑)
それにしても最終兵器が自爆とは…
マッドだなぁ、えーりん
ただ、フラン一人による圧倒的な逆転はしらけました
あれはちょっとね
小悪魔・・・いい仕事だ!
>下手な攻撃派
下手な攻撃は
>いつもの大玉のように中心部にだけ当たり判定
え~と、記憶があやふやですっごく自信がないのですが・・・紅魔郷だと中心部だけじゃなかったんではないかと・・・今、確かめられない状況なのがもどかしい
>爆算
爆散かな?
それと、お約束を極めるなら魔理沙のファイナルに、ドリルに目に見えない皹を入れて、それが最終戦で効いてくるくらいの意味は与えるべきでは。主人公格のうち何人かが明らかに添え物になってしまってます。
対フラン戦にしても、単純にフラン最強で終わらせてしまうのではなく、相性の問題だったと説明することもできたと思います(フランを溺愛しているレミリアが攻撃できなかった、とか)。
ですが途中までの盛り上がりや詰め込まれたネタの数々には感服させられたのも事実です。
完結お疲れ様でした。次回作も期待しています。