今日はひさびさの新聞配達。
右手に団扇を左手には新聞を持って幻想郷の空を飛び回ります。
身をきる風が気持ちいいです。
私の名前は射命丸文。
妖怪の山に住むカラス天狗です。
新聞記者である私は毎日、新聞のネタを探すため、カメラを片手にMyカラスと一緒にいろーんな所を駆け回っています。
ちなみに今回、Myカラスは家でお留守番です。
現在私は香霖堂というお店に向かってます。
人里と魔法の森のちょうど中間にある、風変わりな雑貨屋さんです。
今日の配達先はそこで最後になります。
私が執筆している新聞「文々。新聞」。
おもに人里なんかで読んでもらってる私の渾身の作品です!
元々要塞であった妖怪の山の報道機関は、敵地の情報収集を目的として発足したものです。
報道機関の者は全員、妖怪の中でもトップクラスのスピードを誇るカラス天狗で構成されています。
そんなわけでその名残なのか、山の外で集めた情報は山の中でしか公開されません。
人里まで新聞を持ち込む天狗は私だけです。
じゃあ何で私は山の外まで新聞を持っていくのか。
もちろんより多くの人に私の書いた新聞を読んでもらうためです!
そんな古い規則に縛られる私じゃありませんし…。
妖怪の山では私の新聞を読んでくれる人、だーれもいませんからね。
しくしく…。
ちなみに読んでくれない理由ですが…。
「自分は世間の動きに興味ありませんし、新聞って活字だらけですから読んでて目が痛くなるんですよね。
あ、いえ!! 決して文様の新聞が嫌いなわけではなく……」(某ワンコさん)
「文さんの新聞は胡散臭くて信憑性がないんですよ。書かれてる内容も少ないですし。
他の天狗さん達の新聞の方が、世の中を知るのによっほど役に立ちますよ」(某ぐるぐるリボンさん)
だ、そうです。大抵の人はこのどっちかの理由に当てはまります。
ちくしょーめ。
でも私はめげません! 負けません! 屈しません!
報道員として冷たい世間と断固戦います!
おっと、そうこう言ってる間に香霖堂の真上に来てました。
危うく通り過ぎてしまうところでした。
実はここの店主さん、私の新聞を読んでくれる数少ない愛読者の一人なんです。
ここの店主、森近霖之助さんは非常に変わった人で、
売り物を知り合いに平気で盗られるわ、破格の値段で売ってくれるわ、
商売する気あるのかないのかよく分からない人です。
いつもは新聞を窓の縁にポンと置いとくだけですが、今日は店の中に入ってみることにしましょう。
気分の問題です、気分の問題。
地面に降りて、店の全貌を見渡します。
色が濃い木製の家屋で、いい感じに古臭さをかもし出しています
わが家が貧乏だけに共感できるものがありますね。
扉を開けます。
もちろんノックも忘れずに。
「こんにちはー。店主さんいらっしゃいますかー?」
まあ「いらっしゃいますかー?」って言っても大抵はいるんですがね、ここの店主さん。
店の中は相変わらず、物がゴチャゴチャと置かれています。
整理整頓を心がけてる私としては、ちょっと見苦しいです。
ところでこの店の戸、鍵が付いてないんですけど大丈夫なんですかね…。
さてさて、問題の店主さんは、と。
いましたいました、って……。
「あやや…」
寝てますね。
カウンターではなく、日当たりの良い窓の近くのテーブルにいます。
日向ぼっこの最中のようです。
テーブルの上に本が置いてあることから、読書が一段落してそのまま昼寝モードに入ったというところでしょう。
それにしても営業時間中に昼寝するなんて、どんだけ暇なんですか……。
そもそも店の位置からして一般人には非常に来づらい場所ですし…。
ホントに商売する気あるんですかねこの人?
テーブルの上に新聞を置いてあげます。
ここでちらっと彼の顔を見ます。
いつも澄ました態度してますが、寝てるときまで澄ました顔してますねー。
しばらく彼の顔をじー、と見つめます。
ところで彼って何で眼鏡をかけてるんでしょう?
目が悪いんでしょうか?
そういえば…
普段眼鏡をかけてる人が眼鏡を取るとかっこよく見えるって、どっかで聞いたことがあります。
私の中の天邪鬼の部分が刺激されます。
冴えない店の冴えない店主さんが、眼鏡を取っただけでどれくらいかっこよく見えるのか。
これはぜひとも見てみたいものです! にししし。
思い立ったが吉日と言います。
それでは早速取ってみましょう。
それ~!
…………………………………………………いや………。
………………………………まさか………。
…………これ程とは………。
あわてて彼に眼鏡をかけなおしてあげます。
なんでしょう? 正直墓穴を掘った気分です。
なんだか心臓がバクンバクン鳴ってます。どうしてしまったのでしょう、私。
落ち着け、落ち着くんです、私。
深呼吸ー、はい深呼吸ー。
大丈夫、私はやればできる子です。
ハァー、スー、ハァー、スー……。
…………。
しかし店主さんが起きていれば軽い世間話でも出来たのですが、寝ていたのは予想外でした。
せっかく店の中まで入ったのに、新聞を置いただけで帰るのはなんかシャクです。
どうしましょうか…。
まわりを見渡します。
…そういえば店の中をゆっくり見るのはけっこう久しぶりな気がします。
物もずいぶん増えてるみたいですし…。
なにか興味をそそられるものがあるかもしれません。
少し店内を見て回る事にしましょう。
―――――――
…まったく、こんなところにも埃が積もってますね。
物が積み重なってて隅々まで目が届かないってのもあるのかもしれませんが、
読書するくらいならもう少し掃除に時間をまわしてもいいでしょうに。パタパタ…。
ここの本棚の本も分類とかめちゃくちゃじゃないですか…。
著者名とか書かれてない本もありますから、とりあえず題名順でいいですかね。
えーと、これはここに…。
…………。
はっ!!! わ、私はいったい何を!!?
これでは家政婦もしくは通い妻状態ではありませんかー!!!!
ち、違うんです! 私の綺麗好きの性分がこの店を掃除しろと私を誘ったんです!
べ、別に店主さんのためと思ってやったわけじゃないんですからね!(ツン)
ほ、本当ですよ!
落ち着け! 落ち着くんです! 私!
こういうときは深呼吸をするんです!
ゼー、ヒュー、ゼー、ヒュゴ!! ゲホゲホ…む、むせ…!
くっ、Myカラスを置いてきたのは失敗でした。
気分が落ち着きません。
早いとこ貧乏ったらしいわが家に帰って彼の毛づくろいをしてあげたいです。
けど現在本棚の整理の途中で、すでに何冊か引き出してる状態です。
……私は礼儀知らずじゃありません。どこぞの黒白とは違うんです。
立つ鳥後を濁さず! 鳥類の名誉のためにこれだけは終わらせなければなりません!!
これだけですからね! この後はもうしませんからね!!
「ん? あれ?」
本棚の目線より少し高い位置にある段に、やたら分厚くて大きい冊子があります。
他の本と比べてそれだけ異様に分厚く、いやでも目に付きます。
それを取って見てみます。
表面は普通の本とは違って、全体がつるつるしてて固いけどよく曲がる、よく分からない素材で出来ています。
表紙には「新聞帖」と書かれています。
はて? 何でしょうこれ?
私は表紙を開いて中身を見てみました。
「あ…」
そこには私が今まで書いてきた、文々。新聞が丁寧に収められていました。
号外まで全部あります。
一番古い記事の見出しには「香霖堂設立」と書かれています。
つまり店が出来てから今までずっと、新聞を取っといてくれたということです。
…何だか…凄く嬉しいです。
私は天狗の中でも、自他共に認める変わり者です。
他の天狗達と違って社交的で、人間達と積極的に付き合っています。
新聞の内容も、大衆が気にするような大きな出来事ではなく、ちょっと変わった小さなネタを記事にしています。
暗い出来事よりも、明るい出来事を記事にした新聞が、私は好きです。
…それが裏目に出ているのでしょう。
私の新聞の評価は、はっきり言って良くありません。
暇つぶし程度で買う人はそこそこいますが、積極的に読みたいという人は本当に数えるほどしかいません。
無料で号外を頻繁に配ったりしてますが、それさえもほとんどの人が見てくれません。
次の日見に来てみれば、グシャグシャになった自分の新聞を目にするのはいつものことです。
中には一瞥もしないでビリビリに破いたり、薪の代わりにしたりする人もいます。実際、その現場を見た事もあります。
――ポタ
あ…あれ…?
――ポタ…ポタタ…
私…泣いて…る…?
今まで気づかなかった…。
意地張ってて、気づこうともしなかった…。
自分が作ったものを大事にしてもらうのがこんなに嬉しいなんて……。
「…ひぐっ……ぐず……ひっく……」
両手がふさがっていて目から零れ落ちる涙を拭うことも出来ず、
私は、その場で声を殺して泣きじゃくっていました――
しばらくすると気持ちが落ち着きます。
冷静に考えてみれば、彼の事ですから暇つぶし程度の軽い気持ちで新聞を残してるのかもしれません。
それでも嬉しいものは嬉しいです。
なんだか気持ちがさっぱりしてます。
涙と一緒に心のもやもやも流れてしまったのでしょうか。
私はいまだに寝ている彼の方に振り向き、ゆっくりと近づきます。
彼のすぐ脇で立ち止まります。
「いつもご愛読ありがとうございます」
自分にしか聞こえない様な小声で言います。
そして…。
「これは、そのお礼…です…」
私は彼の顔に、口を近づけます―――
―――――――
「…ん」
目を開けると、景色がぼやけて見える。
頭の中もぼーっとする。
どうやら僕は眠ってしまっていたようだ。
いかんな、営業時間中に寝てしまうなんて…。
何度か瞬きをし、軽く体をのばす。
なんだか右の頬が若干湿ってる感じがするが…気のせいだろう。
「ん?」
テーブルの上には寝る前まではなかったはずの新聞が置かれている。
ああ、また文さんの新聞か。
どうやら律儀にも、店の中まで持ってきてくれたらしい。
彼女の新聞を読むのは僕の楽しみの一つだ。
この店を開いた日に、文さんは「開店記念です」と言って新聞片手に店の中に入ってきた。
それが彼女と文々。新聞(号外以外)との最初の出会いだ。
次に彼女が新聞を持って店を訪れた時、
僕がその新聞を「買うよ」といった時の彼女の、ハトが豆鉄砲を食らったような顔は今でも鮮明に覚えてる。くくく…。
いや、彼女はハトじゃなくてカラスだけど…。
書かれてる内容がとても面白いし、それに加え、新聞からは彼女の頑張りがひしひしと伝わってくる。
捨てるのは勿体無いと思い、今までこの店に来た分は全部大きめのクリアファイルに閉じてある。
店の中を見渡してみる。
はて?
なんだか店の中が少し綺麗になったように感じる。
文さんが掃除でもしてくれたのだろうか?
……もしそうなら非常に申し訳ない。
今度来たときは何かお礼をしなければならないな。
太陽は大分傾いてしまってるが、閉店までまだ時間がある。
僕は今日届いた新しい新聞を手に取り、腰を落ち着けてゆっくりと読み始めた―――
―――――――
私、射命丸文は現在幻想郷の空を飛んでおります。
今日の新聞配達はこれで終わってしまったので、あとは山に帰るだけです。
なんだか顔が熱いです。
かなり高い所を飛んでるのですが、熱が全く冷めません。
頭の中はぼーっとしますし、心臓の鼓動は激しいです。
でも不思議と不快な感じはしません。
何か変な病気にでもかかってしまったのでしょうか?
山に帰ったら、何人かの知り合いに聞いてみましょう。
妖怪の山が見えてきました。
明日からまたネタ探しの日々が始まります。
…私はもう迷いません。
どれだけ私の新聞を読んでくれる人が少なくても、
どれだけ新聞をボロボロにされても、
私は新聞を書き続けます。
たとえたった一人でも、私の新聞を読んでくれる人がいるのなら……。
「…霖之助さん。私のファーストキス、受け取ってもらえましたか?」
文ちゃんの純情に泣いた
そして、文文。新聞を全部取って置いているこーりんに感動した
ソレはともかくこーりん殺す
心理描写が見てるこっちがこっぱずかしくなるような初々しさよのう。
おどおどする文さん。
新鮮味あって良かったです。
何はともあれ純情なぶんぶんまるかわいいよあやややや
実に良いお話です。
まっすぐすぎて、汚れた私にはもう眩しいです。
作者コメに同意
こーりんを殺すのにも同意(笑
初々しすぎてニヤニヤクネクネジタバタしそうになりました。
それはそれとして、こーりん今回寝てるだけなのにwww
こぉぉぉりぃぃん!!!貴様は!貴様だけはぁぁぁ!!!!
文はやはり純情ですね。そうですね。
しかもいい話とは…。
これからも良いSSをよろしくお願いします!!
だがそれがよい
文句なしの100点です、甘くて虫歯になりそうです。
おもしろかった。
そんな私は、店主×白黒派だったり
続編に期待するしかない
主観で構成されてるのに状況把握しやすい文章に20点
初々しさに30点
糖尿病発症率に100点
よって合計は……あれ?
とりあえず、こーりん殺す。
それはそれとして、
こーりん!貴様のような奴がいるからぁっ!
こーりん許す!!
こーりんは個人的にかなりの数のフラグを立ててるイメージがあります。
そして立てっぱなし…かれは鈍いから…
文句ナシの100点です。
…あと前作に誤字がありましたよ…感想欄に書いときました。
あ、眼鏡取ったら目が「3」←こんなんだと期待していて落胆したってのはあるか。
次回に期待。
読んでて楽しかったです。
気分転換用のお気に入り短編集の中の作品って感じ(わけわからんよね、すまない)
それにしても純情文ちゃんの破壊力がこれほどとは…
それはともかく霖之助殺して入れ替わりてぇ…
霖乃助がまともな作品がもっと増えたらいいのに
甘いぜ……いろんな意味で甘かったぜ……
あとこーりん殺す
手近な男キャラならなんでもいいって考えが見え見え
文はそういの嫌いって閻魔に言ってるからねぇ
また機会があったらこういう文霖を書いてもらいたいものだ
あと、こーりんの日頃の行いと真心の素晴らしい。
1つだけ言うなら文の新聞は天狗の中で一番信憑性があるはず。
甘かったから許す。
可愛いよ純情あやややややややややややや!
それはそうとこーりん○す
優しさに惚れたのだ!!
でも寝てるだけで惚れられるってどんだけ・・・(;´ω`)
ちくしょー!こーりんの野郎!
だが許そう、傍から見てこそ悶えるものもある…
100をつけていかざるを得ない
※ただし心意気に限る
激甘でしたw