Coolier - 新生・東方創想話

呼ばう声

2008/01/12 17:07:32
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ざっざっざっ

小気味良く一定のリズムで竹箒が掃かれる。
しぶとく季節の移ろいに抵抗した桜の花も無残に散り、その花びらは石畳に張り付く。

散りゆく桜は綺麗だけれど、掃除は面倒くさい。
規則的に竹箒の音が鳴り響く。
ざっざっざっ

花見という名の宴会続きの日々も、主役の退場をもって終わってしまった。
そうして、博麗神社にいつもの静けさが戻ってくる。

ざっざっざっ

ふう、だいぶ集まったわ。
とりあえずこのくらいにして、お茶でも飲もうかしら。
竹箒を片手に持ち、満足そうに戦果を見下ろす。

ひゅうっと、風のはぜる音がした。
見上げると、抜けんばかりの青空に黒い点。
次第に黒い点が形をなし、風を切らす少女と竹箒がもう一本。
少し距離をとり、境内に降り立つ。
「よう、霊夢。来てやったぜ」
巫女と同じように竹箒を手に取り、魔法少女は挨拶を交わす。
「宴会はもうお終いよ」
「つれないな。その宴会の誘いに来てやったぜ」
「嫌よ。折角境内が片付いたのに」
ちっちっ、と魔理沙は指を振る。わかってないなぁと顔で語り、
「山桜が見ごろだぜ。山の宴会にお呼ばれだ」
半年ほど前までは、関わりのない世界だった。
山に新しい住人がやってきて、ちょっとした騒動の結果知り合いとなった。
「あら、そうなの。ここでじゃないなら行くわ」
「お、よかった。呼ばれてるのが天狗やら河童やらで、私たちはゲストだ。それだけでも十分賑やかだろ」
「まあ、そんなもんかしら」
「そうだな。それより、お茶がほしい。飛ばしてきたから喉が渇いてな」
にっと笑い、手を差し出す魔理沙。
「素敵なお賽銭箱はあっちよ」
「おいおい、良い知らせを持ってきた私に、お茶の一つでもあるだろ」
「あんたなんかに飲ませるお茶はないわ」
「私に飲ませるお茶はあるわね」

ぬっと空間が割け、神出鬼没な妖怪が顔を出す。
「霊夢ったら、私の為にお茶をとって置くなんて本当にいい娘ねぇ」
「あんたに飲ませるお茶もないわよ」
即座に否定する。
全くもって神出鬼没だ。どこかで聞き耳でも立ててるのかしら。
「よう、紫。こないだの花見以来か」
「そうねぇ。しばらく外の世界に行っていたから。今久しぶりに帰ってきたところよ」
「こんなところで立ち話もなんだし、お茶でも飲みながら聞かせろよ」
「らしいわよ、霊夢」
満面の笑みを向けてくる二人。
本当に人の迷惑ってものを考えないのね。

「まあ、いいわ。休憩しようと思ってたから、ついでに淹れてあげるわ」
自分で飲もうとしてたんだから、しょうがないか。
仕度しなきゃ。
そう結論付け、神社へと向かっていった。





 ◆◆◆





華やかな桜色の世界の次は、長い雨が幻想郷を支配する。
雨はしっとりと優しく降り落ちる。
宴に浮かれていた日々に落ち着きを取り戻させる。

山での宴会も終わり、霊夢は代わり映えのない生活を送っていた。
雨が降り続いては、外に出ることもままならない。
境内の掃除がなくなった分、護符の製作に時間を回し、降りしきる雨を眺めてお茶を啜って過ごしていた。
でも、そろそろ雨の支配も終わりを迎える。
十分に潤いを蓄えた木々の、最も輝きを見せる太陽の、ありとあらゆる生命が謳歌する季節がやってこようとしていた。

出歩けないし、洗濯物は乾かないし、いい加減早く終わりにしてほしかったけど、終わろうとするとこの雨も惜しいわね。
縁側に腰掛け雨を眺めながら、今日も霊夢はお茶を飲んでいた。
土の香りに瓦屋根を叩く音。お茶請けには丁度いいかしら。
そういえば、しばらく誰とも会ってないわね。
この雨が降り止めば、また魔理沙が宴を開きにやってきそうな気がするわ。
騒々しいのは好きじゃないけど、いつまでも一人は物淋しいわね。

「お呼びかしら」
すうっと後ろから両の手が伸び、がっちりと霊夢を捕らえる。
背中に二つの圧力がかかり、頬の先にはもう一つの顔が。
「お呼びでないわ」
湯飲みを置き、腕を振りほどく。
しなだれかかる重みを受け、身体を前に倒し束縛から逃れる。
「ちょっと、紫」
声に棘が混じる。
心の内を見透かされたように思えたのか、いらつきが伴い、護符を取り出し、振り向きざまに投げつける。

べちっ。「きゃあ」

上体を捻りきり後ろを見遣ると、顔にお札が張り付いた紫の上半身があった。
わざとらしく泣き声をつくり、非難の声をあげる。
「痛いわよ、霊夢」
はいはい、夢想封印。
振り放った手をそのままに、十八番のスペルを見舞おうとする。
が、しかし、スペルが発動されることはなかった。
「くっくっ」
なんといっても紫の姿が可笑しいのだ。
額にお札を貼り付けじたばたと動き回るその姿は、さながらキョンシー。
「っくっはは、あははっ、似合ってるわよ、紫」
先ほど感じていたはずの怒りは消え去り、代わりに笑いがこみ上げてくる。
「やあねぇ、人を笑いものにするなんて。そんな育て方した覚えはないのに」
ぺりぺりとお札をはがし、紫がぶーたれる。
「いや、可笑しいもん」

そこで、ふと気づく。
今までこんな風にして、紫に攻撃が当たったことはあっただろうか。
スキマの中に退避するか、別のスキマで攻撃を無効化してたのに。
いったいどうしたのだろう。
「あ、いたっ。何かぶつかったわ。ホントにもう踏んだり蹴ったりね」
そう云いながら、霊夢の隣にスキマを開いて縁側に腰を下ろす。
「あれ、紫いま何か云った?」
「聞いてなかったのかしら」
いや、違う。
紫の言葉とは別に、何かの声が聞こえたような気がした。
藍の声?
いや、聞いたことのない声だ。
「じゃなくて、何か呼ぶ声が聞こえた気がしたんだけれど」
「気のせいじゃない」
空耳かしら。

横に座った紫を見る。
ぱっと目に付くのは、軽くウェーブのかかったブロンドの髪。大きなリボンのついた薄紫色の帽子を乗せている。
服も同じ色調で統一され、首もとや袖口がリボンやらフリルやらで、飾り立てられてる。
多少ゆったりとした服のためわかりにくいが、その下には成熟したプロポーション。
布を突き破らんとばかりに、胸の双極は存在を主張させている。
さっき背中にあたった感触はこれか。
自分を顧みると、太腿に置いた手が障害もなく見下ろせる。
貧乏巫女。
そんなフレーズが脳裏をよぎる。
泪をこらえ、ぎりっと豊かな実りを睨みつける。
このまま睨み続けたら、死線でも見えるようにならないのかしら。
、、、でもその前に泣きたくなるわね。
内面での戦いに破れ、力なく目を落す。

そこで、ふと思い当たることがあった。
確かに紫は多くの衣装を持っている。
ただ、いつも着てるのはもう少し体の線がわかる服のはず。
でも今日はゆったりとした、あまり見たことのないタイプ。
それに、さっき攻撃を受けたのは、胸じゃなくて別のところがひっかかったから、、、?

「そんなに見つめても、何もでてこないわよ」
「それより、久しぶりだけどどうしてたの?」
鎌をかける。
「雨だし出歩いてもつまらないから、家でごろごろしてたわ」

よし、ビンゴ。
内心の興奮を気取られないように、少し時間をおこう。
「お茶淹れなおしてくるわね。お茶請けは?」
「ありがとう――甘いものよりお煎餅があるならば」
「そう。わかったわ」

紫に背を向け、にやりとほくそ笑む。
台所へと向かいながら、降り続く雨の音を聞いて心を落ち着かせる。
何か変な臭いがするような気もしたが、お煎餅があったかしらと気をとられ、それ以上気にすることはなかった。





 ◆◆◆





長雨も終わりを告げ、太陽が顔を出す。
太陽にあてられたのか、早速宴好きの少女が神社での宴会の約束を取り付けにきた。
なんでウチなのよ、と不満を口にしつつも、実のところ快く承諾。
久しぶりに顔を合わせる者たちのことを考えると、普段より寛大な気分でいることができた。
翌日に迫った宴を心待ちにし、鼻唄交じりで夕餉の準備に取り掛かっていた。

ん、誰かきたみたい。
、、、魔理沙じゃないわね。誰かしら。

博麗神社には簡単な結界がかけられている。
無論、普段は誰でも入れるようにしてある。有事の際すぐに防御体制を取れるように、術式が準備されているだけだ。
そして、その防御結界の一回り外側に感知結界が張られている。
誰かが入ってくれば、その進入を感知できる。
便利なものだ。

よく訪れる魔理沙は、もっと暴力的だ。
箒に乗ってスピードを出してくるため、特徴的でわかりやすい。
これは、むしろゆっくりと空を飛んできている。
誰だろう。アリスあたりかな。
そう予想しつつ、表へ顔を出す。

ブロンドの髪に、装飾過多な服装。
しかし人形のお供はいなく、日傘を差している。
境内にいたのは、紫であった。
「何の気まぐれかしら。普通に神社にやってくるなんて」
珍しい。
いつもはスキマでの移動しかしないくせに空を飛んでくるなんて。
「雨上がりの散歩ですわ。だってこんなにも綺麗なんですもの」

朱い光が世界を包む。
一日の役目を終えた太陽が、今まさに稜線へと沈もうとしていた。
狂おったかの様に最後の力を朱へと変え、迫りくる闇を仄かに照らす。
木々や建物や人妖はその力に抗えず、朱く染まるのみ。
ただ、闇だけがその支配を逃れようと力を増し、光源を地の下へと押し込める。
少しずつ朱が失われ、新たな時の支配者が天空へと昇っていく。
しばし、その鬩ぎ合いに無言で見蕩れた。
ちっぽけな、あまりにも小さな存在だと感じさせる、確かな存在がそこにはあった。

「良いもの見させてもらったわ」
ほうっと息を吐き、紫に感謝する。
「偶にはスキマを使わないのもいいわね」
「本当に珍しい」
「散歩したかったってのもあるんだけど、なんか最近スキマの調子がおかしいのよ」
そんな話聞いたことがない。
道具かもしれないが、そんな道具のような振る舞いをするのだろうか。

――紫のある一点を見つめる。
方便であるとするなら、スキマではなく紫の体がいつもと異なるのだろう。
今日もゆったりとしたワンピース。
その意図するところは?
「これから夕飯なんだけど。準備するから少し待って」
「別に食べてきてるからいいわ。お茶でもあれば」
「そういえば、明日宴会開かれるわよ」
「気が向いたら顔を出すわ」

やはり予想通り、か。
疑惑が確信へと変わり、笑顔となって溢れる。
「とりあえず、夕飯にしましょ」





 ◆◆◆





宴会の後片付けをようやく終え、霊夢は部屋でお茶を飲んでいた。
久しぶりの宴会でいつも以上にハイになったのか、魔理沙は大勢の人妖を集めてきた。
主だったところで紅魔館に白玉楼に永遠亭の住民たち、もれなく妹紅と慧音も。妖怪、妖精なんでもアリで、騒音三姉妹と夜雀が共演し、閻魔に死神も表れる。花見のお返しか、メインゲストで守矢の神たちも呼ばれてきた。
長雨の鬱憤を晴らすかのごとく酒宴は盛り上がった。

気の早い蝉が己の存在を主張しはじめ、初夏の太陽があたりを照らす。
そろそろ縁側より、風通しのいい屋内が涼しいわね。
日本家屋の利点を活かし、戸を全て開いた神社は風通しがよく、最も気持ちのいいひと時を迎えていた。
どこからか響いてくる蝉の声に茶を啜る音。
いつもと変わらぬ平凡で幸せな時間を霊夢は楽しんでいた。

あら、誰か来たみたいね。
この感覚魔理沙じゃないから、あ、紫かしら。
そう期待しつつ表へ出る。
賽銭箱の前に行儀良く立っていたのは、予想に反して違う人妖であった。
「あら、どうしたの? 素敵なお賽銭箱なら目の前よ」
「こんにちは、霊夢さん。残念ながら私は信仰する神様が既にいますから」
「そう。じゃあ、用は無いわね」
そう云って踵を返す。それに慌てたのか、早苗が声をかける。
「ちょっと、待ってくださいよ。宴会のお礼にと思って、甘いもの持ってき、、、うわっ!」
甘いもの、という声に反応せずにはいられなかった。
即座に振り向きターゲットをロックオンすると、風神少女顔負けのスピードでそれを手にしていた。
ホーミングは百発百中。狙った獲物は逃さないのよ。
「お茶入れるから、ちょっと待ってて」
「それ、私に対して云ってます?」
霊夢の両手は、しっかりと早苗の持ってきた包みを抱えていた。

お茶にお饅頭って、素晴らしい組み合わせね。
考え出した人にノーベル賞でもあげたいわ。
「、、、って、聞いてます?」
頬を少し膨らませて、早苗が覗き込んでくる。ついついお饅頭に気をとられて、上の空になってしまったわ。
「心配しなくても、お饅頭はいただいてるわよ」
「そうじゃなくてですね」
「はいはい、ちゃんと聞いてるわよ。そんな感じで合ってるわ」
つくづく真面目な娘だと思う。
宴会で初めて顔を合わせた方が多く、失礼のないようにその方たちのことの話を聞いておきたいです、って。これから信仰を集めにでも行くのかしら。
まあ、でも、宴会で人恋しさを思い出して、茶のみ話をしに来たってのが本当のとこかしら。
「それで宴会にいたのは全員だったっけ?」
「たぶんそうです。他にいらしたかしら?」
「えーと、紫はいなかったのよね」
「八雲紫さんですか? まだ会ったことないですね」
「名前は知ってるんだ」
「はい、こちらにご厄介になるときに色々とお世話になっていて。神奈子様が全てやりとりしてたので、直接はお会いしてないんですけど」
「呼んだかしら?」
「うわっ!」
急に聞こえてきた声に早苗は飛びのく。
こんなことに驚いてたら、幻想郷じゃやっていけない。
スキマが開き、私の隣に腰を下ろす。
「霊夢、私にもお茶をもらえるかしら。あら、守矢の風祝じゃない。初めまして、八雲紫ですわ」
「あ、はい、初めてお目にかかります、東風谷早苗と申します。先日は私たちの為に骨を折っていただき、誠に有難う御座います。改めて御礼を申上げます」
姿勢を正し、深々と頭を下げる。
「あらあら、そんなに畏まらなくていいわよ。これからもよろしくね」
「そうそう、ただのぐーたらスキマ妖怪だから」
「つれないわねぇ。霊夢は少し見習った方がいいんじゃないかしら。ふふ、それにしてもいい娘じゃない」
「そうね。お茶新しく入れてくるから、少し待ってて」

女三人集まれば姦し、とはよく云ったものだ。
たわいもない話に興じ、お茶とお饅頭だけがどんどんなくなっていく。
楽しそうに喋りつつも、どこか紫に対して緊張がとけない早苗を見て、霊夢は何かしてやろうと思った。
そういえば、ここ最近の紫はおかしい。
スキマを使わず飛んできたり、宴会に顔を出さなかったり、、、
――ここらで明らかにしましょうか

「それよりも紫、お饅頭そんなに食べていいのかしら?」

何気ない風を装いながら、口の端がわずかに歪むのを止められなかった。
ああ、サディスティック。
お饅頭よ、すべからく私の糧となれ。
「紫さん、気にしなくていいですよ。食べてもらおうと思って持ってきたんですから」
「ほら、早苗もこう云ってるじゃない。なくなったら何か持ってくればいいんでしょ」
だから、そうじゃなくて。
そうじゃなくて、この場の食欲より大切にしてるものがあるでしょう?
歪んだ笑みもそのままに、決定打を解き放つ。

「ダイエット中じゃなかったの?」
「違うわよ」
「早苗がいるからって虚勢はらなくてもいいのに」
「お饅頭食べたりないの? いいわよ、何かお茶請け出せばいいのね」

即座の否定。
あれ、どうしたんだろう。
私の見立ては間違っていたのか。

「お煎餅は、、、なくなってるわね。甘いもの続いちゃうけど、大福でいいかしら?」

スキマに手を伸ばし、大福を取り出す。
また、甘いもの?
カロリーいくらになると思ってんの。

「どうしたのかしら、霊夢。貴女の分もあるわよ」
「え、本当にダイエット中じゃなかったの!?」
「何を寝惚けているの」
急き込んで尋ねるも、空回り。
じゃあ、ガラにもなく空を飛んできたあの日は、昨日の欠席はいったいなんだったというのか。

「だって、スキマを使ってなかったじゃない!?」
「ああ、一昨日ね。だから、スキマが調子悪かったって云ったでしょ」
「紫さんのスキマって調子悪くなったりするんですか? そもそもどんな構造で?」
早苗が新たな話題に興味を惹かれる。
紫のスキマが調子悪くなったなど、私も聞いたこともない。
「そうねぇ。構造なんてことはよくわからないけれど、狸ロボットのポケットよりは便利なものよ」
何を云ってるのか理解できなかったが、早苗がしきりに肯いてるのを見ると、外の世界のものだろうか。
お茶で喉を潤し、紫が続ける。

「そうねぇ。覚えているかしら、霊夢。少し前、久しぶりに此処へ顔を出した時よ。魔理沙もいたわね。
あの日が、そもそもの発端。しばらく外の世界で色々してたって話したわよね」

そういえば、そんなこともあったような気がする。
一月、いや、二月ほど前だっただろうか。

「久方ぶりに動き回ったせいかしらね、少しぬけてしまってたわ。
幻想郷に帰ってくる時、スキマを閉じ忘れちゃって、」
えへ、と舌を出しながら小さく笑ってみせる。

ぶっ
思わず飲みかけのお茶を吹き出しそうになって、すんでのところで自制する。
なんだ今の仕草は。年齢をわきまえろ。
噎せてしまって云いなおす気にもなれない。
ちらり、と横に目をやると、早苗も苦しそうな顔で笑いを噛み殺していた。
それでむしろ冷静を取り戻し、先を促す。

「その後しばらく家にいたから気づかなくてね。
どうも、スキマの調子がおかしくて。なんか変な臭いがしたり、動作が鈍くて。
しばらくは気にならなかったんだけど、どうも手に負えなくなってたわ。
それで泣く泣く宴会の誘いを断って、調べてみたのよ。
そうしたら
――覚えのないものが、たくさん紛れ込んでいたわ。
臭いの元はゴミね。それも大量の。それに、土砂や瓦礫だったり、ふふ、物騒なものも混じってたわ。
力を求めすぎても碌な結果にならないのに」

一旦言葉を区切ると、扇で口を隠し、薄く微笑む。
平素の静寂がしばし訪れる。
背筋がすぅっと寒くなった。
もう外では儚い命を謳歌するひと時ばかりの合唱が鳴り響く時分だというのに。
その歌声すらも、ここには届いてこない。

「スキマを閉じ忘れたことにそこで気がついて、とりあえず閉じようとしたのよ。
でも、その時、


――どこからか、呼ぶ声が聞こえたわ。

声がしたほうに向かうと、浮遊物も少なくなっていってね、くしゃくしゃに丸められた紙と、石ころ1つ。
それに、少年の声。

どうやら、そこが始まりだったみたい。スキマを開けて、外の世界に繋ぎなおしたわ」

思い出したかのように茶を啜る音。
動きを忘れ人形と化した二人にゆっくりと目を遣る。

「閉じ忘れたスキマが地面だったから、今度は空に繋いだの。
二つのスキマの道筋を隔離して、それでお終い」


扇を閉じ傍らに置くと、大福へと手を伸ばす。
「ふうん。それだけ?」
「それだけよ」
いつの間にか時が過ぎ去り、少女たちの横顔を朱く染める。
蝉の鳴き声も、いくらか静かになっていた。


「、、、あの、一つだけ聞いてもいいですか」
「なにかしら」

「その紫さんが聞いた声って、なんて呼んでいたのですか?
――お、、、」

そこまで云いかけて、口を閉ざす。

「さあ、どうかしら? 忘れてしまったわ」


被いもなく風通しのいい腋に、じっとりとした汗を彼女は感じていた。










紫に呼びかけた少年は、その後紫が美味しくいただきました。



どうも、moki@2作目です。
星新一氏の「おーい、でてこい」へのオマージュです。サブテーマは日常の幻想郷。
幻想入りしつつある自然と、非日常もまた日常のほんの一つ。幻想郷はそんな場所じゃないでしょうか。

08/1/13 04:30 後書き変更しました。ありえない誤字あり。恥ずかしい。スキマがあったら入りたい。
moki
[email protected]
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コメント



0.490簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
星新一のアレがまさかゆかりんだったとは・・・
4.80司馬貴海削除
靈夢の予想があたって冷や汗を流す紫が見てみたかったかもしれない可能性が無きにしも非ず
7.無評価moki削除
ありがとうございます。

>星新一のアレがまさかゆかりんだったとは・・・
そうかもしれませんし、そうでないかもしれません。
真相は紫の胸の中にしかないです。

>靈夢の予想があたって冷や汗を流す紫が見てみたかったかもしれない可能性が無きにしも非ず
霊夢に秘密を暴かれ、紫は腋にじっとりとした汗を感じていた。
と、なるでしょうかw