Coolier - 新生・東方創想話

ぐにゃぐにゃじょんがら

2008/01/09 07:53:53
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※オリキャラ且男キャラ注意之事




目を開けるとこの世のものとは思えぬ顔が僕を睨んでおったものだから、僕はわっと叫んで飛び起きた。
途端に眩暈。頭痛。吐気。薄暗い部屋。むかむかする。身体の中で各種の汚辱と酒精が腐敗・醗酵して熱い、だるい、重い。胃の腑がずんずくする感じに耐えながら、恐ろしい顔の正体を見るとビール瓶のラベルに印刷された麒麟であった。
あーやれやれと、一息吐いた所で一際の強い吐き気。酸っぱい汚辱と酒精の混じり合ったゲロを放出するが為、口の中に唾液がじゅんわり充満してゆくもんだから、こりゃいかん。
勝手知ったる他人の家、大慌てで厠へと飛び込みゲエゲエゲエ。胃の裏返る吐瀉。
一頻り吐いて落ち着くと喉と鼻の奥が酸っぱくてしりしり痛い。
今度はコップを手に取り水を頂戴。がぼがぼと腹を水でいっぱいにするに至ってようやく人心地付く事が出来たので、くらくらしながら部屋へ戻るとこの家の主、射命丸文が下着姿で布団の上に胡坐をかき、寝ぼけ眼でこちらを見ていた。
ドタドタ走り回る僕の足音で目覚めたのであろう。やや不機嫌気な不服顔であった。

昨日の夕刻、香霖堂にて麦酒数種の大瓶一ケース分をアホのように安く買い叩けたので、あすこの主人は中々に気前がよろしいなあ。
なぞと思いながら馬鹿みたいに重たいケースを持ち、うんうんと唸りながらよっちらよらよらと魔法の森の中を徘徊。もとい歩いておると上空から声。
仰ぎ見るる視線の先で文がこちらに舞い降りてくる所であった。見えたパンツは黒レース、何時ものズロースではなかった。幻想郷にもショーツ。そうか、もうそんな時代か。
地に足をつけた文は矢鱈と目を輝かせながら、挨拶もそこそこに「それは外から来た麦酒ですね? おや、ヱビスも在りますね」などと問うて来るので、彼女の下着が見せパンであるか否かという考察をしておった僕は思考を一時中断。そうだ。と答えると「それなら一緒に飲みましょう」と誘うて来る。
本当は後生大事にチビチビと一人だけで飲む予定だったものだから厚かましい申し出に渋っていると「今晩泊まらせてあげますし、ウヰスキーも有りますよ」と言うので、常に宿無し根無し草の瘋癲やってる身であり、幻想郷では珍品である蒸留酒をきゅっとやるのが好きな僕としては一も二も無くその話に飛びつき彼女と共に酒宴を開く事となった。
ビールケースは文に運ばせた。僕よりずっと力持ち。適材適所。これ、人類の知恵。

「もう少し静かに起こしてください」「御免なさい」
そう言った僕の顔を見て文が問う「効かなかったんですか? 薬」「いや、効くには効いたんだけどね。それでも飲みすぎたみたいだ」と床上に脱ぎ散らかしたズボンを穿き穿き答える。

この天狗相手に酒を飲んだのである。普通であれば救急病院に搬送すれど手当ての甲斐も虚しく霊安室行き。明後日葬式。という酒量であった。
この程度の宿酔いで済むとは流石に八意永琳処方の薬、胡散臭くは在るが効果覿面であった。
しかし頻尿症を患った老人の如く、頻繁に尿意をもよおし小便をジャアジャアというのはどうにかならぬだろうか。宿酔いなのは手持ちの量が足らなかったのであろうが。
ともあれ、後日永遠亭に手土産の一つでも提げていかねばなあ。あすこの子たちは少し苦手だけれども、この薬が無いと幻想郷では生きていかれないし。

などと思いながらシャーツに頭を突っ込んでもぞもぞやっておると「今度は酒癖を治す薬も貰ってください」「昨日、やっぱり僕は酷かった?」「酷いなんてもんじゃありませんよ。無茶苦茶です」「例えば、どんな?」箪笥から引っ張り出した衣類を着込みながら文は答える。
「フランドール腐った人形。人形人形マーガトロイド、メトロイド。蓬莱人形、永遠軒先ブーラブラ。怒った蓬莱肉まん豚まん兎まん。だの妙な詩に妙な節をつけながら一人で気が狂ったようにひいひい笑ってました」「あ、そうなんですか」「そうなんですかって、憶えていないんですか?」「いや、ぼんやりとは覚えているんだけれども……」
「それに……」「まだありますか」「まだあります。何なんですか。銭ゲバじょんがら踊りって」「銭ゲバ、じょんがら踊り、ですか?」「銭ゲバじょんがら踊りです。憶えていませんか?」「はい。いや、まあ、人形はたまにやるんだけれど、その、銭ゲバじょんがら踊りというのはいっこうに……」「その人形、憶えているなら本人達の前で言わない方が良いですよ」「気を付けます。だけどじょんがらは……」
「じゃあ、教えてあげますけど、突然パンツ一枚になったあなたはベリーダンスみたいに腰を揺さぶりだしたんです」「ベリーダンス……ですか」「だけではなく腕はのっさりした阿波踊りのようにひらりひらり」「ひりひらり……」「それで無表情なあなたが音頭も何も無く、無言で部屋の中をじりじぐるぐると移動するんです。あんな不気味なもの、かつて見たことが在りません」
それを聞いた僕は頭を抱え、「あ~、やってしまいましたか」「やってしまいました」「ドン引きですか」「ドン引きです」
うわ~、僕は何をやっておるのだ。いくら酒を飲んだからって前後不覚も良い所である。しかし全く以って憶えておらぬ。
「でも、キモロい感じでしたよ」「はあ、キモロい感じですか」「キモロい感じです」つまり、気持ち悪いがおもろい感じであったと。そう言う事であるのだが、ちょっと想像が出来ぬので「やってみて貰えませんか」と問うてみる。
「え? 何をです?」「いえ、ですから。その銭ゲバじょんがら踊りってヤツをです」「何故ですか?」「それが一体どういったモノなのか覚えていないので分からないのは気持ちが悪いし、興味があるからです」「そうですか。分かりました」
そういって文はすっくと立ち上がると、ゆるりと腕を持ち上げ、ベリーダンスの如く腰を激しく揺すぶり始めた。腰の動きは激しけれど、手はのっさりとした阿波踊りの如くひらりひらり。腰の動きにあわせて揺すぶられる小ぶりな乳。そして無表情で部屋をじりじりぐるぐると練り歩く。
「確かに、キモロいですな」と言えば踊りを止めて「キモロいでしょう?」と相槌。
「しかし余り見たくありませんな」「なら自重してください」「御免。スンマセン。以後気を付けます」「それに、いきなり倒れて寝始めるんですから、始めびっくりしましたよ」「いや、面目ない」非常にバツの悪くなった僕は低頭傾首、謝罪する。
「顔を上げてください。別に怒ってないですから」「本当ですか?」「ふふふ。本当ですよ。だって、以前のぼてふり音頭以来の面白い記事が書けそうですから」という言葉を聞いた瞬間、僕の胃は宿酔いとは別にしくしくと痛み始めた。

彼女は文文。新聞という新聞と言うよりも江戸時代における瓦版的なものであるとも言えるし、ペラモノ同人誌的なものであると言えなくも無い。
少なくとも八雲の蔵で見た官板バタビアの方が、余程新聞としての体裁を保っておるように思えるなにやら判別の付かぬ物を不定期刊行しておるのだが、本名よりそっちの方がよっぽどおもろ。という事で彼女をブンブン丸という呼称で呼んでみた所、鏡で見た自分の顔が自分の物であると判別できぬ程、幻想郷に跋扈するそこいらの妖などよりも余程化け物じみた風貌となった為、彼女のことを本名で呼ぶ事ととしたのである。痛かった。本当に痛かった。
何故殴るのだ。お前は自分の新聞名が恥ずかしいのか。と顔を腫らす途中、声にならぬ涙声で問うと「何となく、あなたにそう呼ばれるのがウザいので」なんて言いやがる。何となくで言えば僕だってお前の名前がアヤである事が気に入らないのだ。普通はフミであろう。フミフミフミ。
ともあれ問題はその文文。新聞に博麗の娘やらその友人とやらと飲んで居った時に犯した失態、ぼてふり音頭を素っ破抜かれたことである。
べろんべろんに酔いどれた僕はその時もやはりパンツ一丁となり、そこいらに落ちておった棒を拾い、天秤棒のように担ぐと「シジミ~、アサリ~ウッチャウヨ。ウッチャッタラ嫁ガ暴レル。棒手振リスルト人生棒ニフッチャウヨ。ボテフリ来ルト黒船来ルヨ。ボッテフリフリボッタクリ。ラヴ&ピース、ラヴ&ピース」なんたらと、訳の分からぬおかしげな事をおかしげな韻を踏みながら歌い倒し、ひょっこらひょっこらそこいら中をおかしげに踊り、おかしげに歩き回ったのであった。
当然の事ながら僕はこの事を殆ど覚えて居なかったのだが、その場に居合わせたブン屋、射命丸文。これは面白い記事が出来ると、微に入り細に渡って写真つきでその痴態を掲載した新聞を幻想郷にバラ撒いた。
当然、幻想郷中に知れ渡る事になったその痴態によって、あらゆる者にからかわれたのは言うまでも無く、穴が有れば今すぐにでも飛び込みたい。飛び降りて頭打って忘れてしまいたい。恥ずかしい。

「堪忍してください射命丸さん」「分かりました。堪忍してあげます」「ありがとう御座います」「人形の事は記事にしますけど」「ホンマ勘弁してください」
土下座しながらの嘆願に思案顔の文。「また外のお酒が手に入った時に飲ませてくれれば、考えないでもありません」「善処致しますので本当に許してください」「分かりました。けれど絶対ですよ」「絶対です」
ああ、良かった。齢二十を数えぬまま、命散らずに済んだのである。万歳万歳万歳。三回言った。万歳。
ともあれ僕らは部屋中に散乱した麦酒やウヰスキーの空き瓶、清酒の空き樽、ツマミの乗っていた皿などをのろのろと二人で片し、残り物で朝飯を済ませ、それではこれで失礼する。
と以前、博麗霊夢が手持ち無沙汰に編み始めたは良いが途中で飽きてしまい片方半、神社の裏手にほっぽって在った作りかけの草鞋を拾い、自分でサンダル風に作り上げた物を突っかける。
そろそろ擦り切れ、底に穴が空きそうにあるのでまたほっぽっていないかと思うが、いないであろう。
一応、靴を持ってはいるのだが、面倒くさがりな僕はぞろげな突っ掛けの類の方が好きなのだ。楽だから。



文の家を出た僕は、酔いの抜けきらぬ足取りでひょろりひょろりと歩きつつ、腰に下げたスキットルで文から貰ったシーバスをくいっ、迎え酒。至福、これ人生の幸いなるかな。
良い気分で歩いておると塗壁やら見越入道が出てきたもんで、木の枝で地面払ったり見越入道見越したァ。なんてドアホのように叫ばにゃならんのが面倒くさい、収まりかけた宿酔いがぶり返して気持ち悪い。反吐出そう。
あんまりにも面倒くさくって気持ち悪くなったもんだからポケットから紙巻を取り出すと、これまたポケットより取り出したマッチを擦る。
三口ほど吸うと宿酔いの不快感は消え幸福感。この紙巻、森に生える数種類の薬草やら茸やら何やらを乾燥させ磨り潰し、煙草の葉っぱと混ぜたものを以前、香霖堂で入手したデーヴァナーガリー文字と英文パッケージのシガーペーパーに包んだ物で、力の弱い妖怪避け。後何か知らんが気色が良くなる。偶に悪くなる。アルコールと併用すれば尚良し。
ともかく此れによって僕は楽しい幻想郷生活を送る事が出来るのであり、今歩いておる魔法の森においてウニャウニャと蛸の足の如く天を這いずり回る木々の枝間から、けたくそ悪いおばはんの視線の如き遠慮の無い日差しがジロジロと差込み。
嗚呼、今日も幻想郷は美しく平和であった。空が蒼く腐敗しておる。
暫らく色付き素麺で作ったような、ぐにゃぐにゃの森の、これまたぐにゃぐにゃした径。
それを自称印象派であるがその実、正反対である理念のキュビズム的技法を重んじる画家が描き始めたは良いが、これを途中で飽いてしまい、その後をペットのチンパンジーが絵筆を持って引継ぎ。描き殴ったような森の中を歩いておると声。
振り返ると黒白金のぐにゃぐにゃが立っていた。そのぐにゃぐにゃはバクテリア共で乳白色に酷く汚れた水槽に放り込まれている出目金を見ているよう。濁った水槽の中から喋っている為、出目金の声が妙な具合に籠もり、土人の占師が発する呪詛のようであった。
地の底、水の底から響いて来るような声に難儀しながら内容を聞き取ると、ヴワルがどうこう言うので、はっはあん。これからこの出目金は紅魔の方に遊びに行く事が知れる。
今日はヴワル魔法図書館を寝床にしようかな。あすこは居心地がよろしい事だし、着替えも置いてある事だし、もしかすると風呂にあやかれるかも知れん。夜までは掠めたワイン呑み呑み読書してみたり。なので出目金にそこに僕も連れて行っては呉れまいか。と頼み込むと了承の意。ぐにゃぐにゃしてて分かんないけど。多分、そんな感じ。
出目金が自分の持ってた茶色いぐにゃぐにゃ棒に跨ったもんだから僕もその後ろに跨る。
途端に飛行、飛翔。鳥っつーか飛行機みたい。カタパルト付きの。

うひゃひゃひゃひゃ、速い速い。
どんどんと加速して行くにつれ、周りの素麺のぐにゃぐにゃが伸びて行き、ぎゃんぎゃんびゅんびゅん。加速した世界は棒に変じる。棒の瞬き流星が如く。綺羅綺羅と輝く棒は僕の身体を突き抜け、それは突き抜ける度にこの身体から穢れ、不浄といったものをこそぎ落とし、僕は清らかだ。耳元でゴウゴウと唸る音が奇妙な旋律で以って僕を祝福、気持ち良い。世界が単純化し、鋭角化し、根源的キュビズムにグルーヴ感。何時も目にしておるものはこの瞬きの音階を、脳味噌の中で捏ね繰り回した紛い物の虚像に違いない。ビバッ、美しき世界。ビバッ、幻想郷。
輝ける世界をぎゃんぎゃん飛んでおると空で、世界で唯一明確な形を保っておる巨大な大日如来の金ぴかに光る顔が、気味の悪い薄笑いをニヤニヤ浮かべて幻想郷を睥睨し、世界を照らしており、ああ何か偉大やなぁ。すごいなぁ。と思っておったら、今度はそのニヤニヤが八雲紫の顔になって何覗いてけつかっとんねん。ごっつムカつくわぁ。
そのニヤニヤ眺めて、今度油揚げでも持って八雲の狐んトコ遊びに行こかな、飯が美味いし。紫は好かんけど。
なぁんて思っておると降下を始めたので先の方を見やる。在ったのは紅い塊、紅魔館。
どんどんびゅんびゅん地面に向かって堕ちて行く。
地面が間近まで迫った時、花火。色とりどりに花弁が散る。
何や花火まで上げて祝ってくれるんか。流石に太っ腹であるな、紅魔館。
なんて仕掛け花火を見ておると、此方に向かってその大きな火の玉がぐんぐん迫る。此方からも火の玉に向かってぐんぐん迫る。
うぎゃわあ、ぶつかる。と思った瞬間、急旋回。
途端、訳も分からず目の前が黒。



目が覚めるとベッドに寝かされていた。
横手の方を見ると紅魔館で門番をやっており乳が無闇にデカい紅美鈴が、大層美味そうに午飯を食っていた。支那人の着ていそうな人民服的要素の見えるベベを着た彼女は、炒飯のようなものと緑な野菜炒めのようなものを大変美味そうに食っていた。相変わらずセクハラとしか思えない切れ込みのエグいスカート穿きながら、余りにも美味そうに食うので腹の減りを覚える、怒りを覚える。
僕はこんなにも腹が減ってんのに、お前は旨そうな物を食う、肉おきの良い太腿は見せる。許せん。
僕の餓鬼的飢餓的な視線を感じたのであろうか、美鈴は箸を動かす手を止め此方を見ると「あ、大丈夫ですか?」と心配げな様子で問うて来るので「うん。大丈夫だよ。うん」と起き上がろうとしたが起き上がるのに大層難儀。痛くは無いが体中が突っ張る感じ。
ベッドの上でうんうんしておると美鈴が手を添えてくれたのでありがとう。しかし彼女は「あ、いえ。当然の事をしただけで……」と妙に余所余所しい。
これは知らぬ間に大変失礼な事を働いたのではと危惧した僕は、彼女も怒らせると痛い人に違いないので「その。僕は寝ている間に、何か不愉快な事を?」と腰を低めに。
しかし「い、いえ、そんな事ありませんよ。その、失礼したのは寧ろ私の方で……」顔を紅潮させしどろもどろ煮えきらぬ。まあ余計な詮索はするまいよ。と、面倒に思った僕は「ともあれベッドを貸してく呉れてありがとう」寝床を提供してもらった礼を言うと、美鈴、一層慌ててわたわた。訳が分からぬ。
ふとテーブルの上に残る食いさしの飯がやはり、とても美味そうに見えたのだが、馬鹿正直にたかってはこの乞食、不労者め。飯欲しさに此処に来たのか。貴様は余り物の残飯を、狗のように貪るが良い。と哂われること違いないので押し黙った。
そこで空気の読める女、美鈴が「お腹空いていませんか?」と言うので、ぎゅんぎゅんする胃袋を押さえつけ、一生懸命の涼しげな顔で「そう言えば小腹が空いてきたなあ。もう午なのか」と何気ない風を装い呟く。
「そうですか、私は午飯を食べたのでもう殆どお腹いっぱいです」それがどうした。それならば何故僕に腹が減ったのか等と問うのだ。空気を読め。
そう思っておると「小腹が空いたって言いましたけど、何か食べます?」と問われたので、君がさっき食べていた炒飯と野菜炒めはもうないのか? 「あれはもう、私の食べ掛けしか在りませんけど。それが欲しいのならどうぞ」と言って皿を勧めて来るが別段、僕は彼女の食いさしが欲しかった訳ではなく、只炒飯と野菜炒めが旨そうだからそう聞いた訳であって、しかし態々に何か賄って呉れと言うのも憚られるし、彼女の勧めを断るのも気が引ける。
結局、彼女の申し出をありがたみ半分で受け、食事をする事となったのだが箸とレンゲまでそのまま推し進められた。そこまで不潔では無しまあ良いのだけれども、何となく微妙な気分、敗北感。言外に、お前は私の、紅美鈴の食いさしが欲しいのだろう。この豚め。と言われているようで。別に腹が膨れればそれで良いのだけれど。
それで美鈴が食べていたのは卵と葱だけが具の炒飯、けど米の一粒一粒がパラパラ。豚肉の無い青椒肉絲、只のピーマンの細切りを広東風にオイスターソースで甘く仕上げたものだった。貧乏臭い飯ではあるが腕は確かなもので非常に美味であった。些か少ないけれど旨い旨い。敗北感も忘れた。

以前、何所ぞで食った炒飯は非道かった。それはドブ川のような薫りで、肉も入ってはいたが飯よりも矢鱈多くて腐れ焼け爛れていた。葱は藻、飯は蛆虫。紅生姜はボウフラのよう。
味も矢張り、まるでドブ川から掬い上げた腐肉の塊その物のようであり、それを炒飯と、食事と称すのが世に対する冒涜としか思えぬ程の物であった。余りにも激烈強烈な味覚体験であった為、それが何時何所で、誰が作ったものであったのかは分からない。覚えているのはドブ肉の味と腹痛。

食後には温かい烏龍茶が出てきたのでこれに砂糖とミルク。「美味しいと言ってくれて何よりですよ。何時もは近所の野良犬にあげるんですけど」と配膳してくれた美鈴は微妙な顔をするが、烏龍茶の風味が紅茶とまた違った感じでとても美味い。
取り合えず腹の虫を静めた僕は煙草を取り出し一服。この瞬間、自分は幻想郷の誰より幸福であった。そんな僕を美鈴は上目遣いでちらと見た後「その、煙草を止めて貰えませんか? 臭いが苦手なので」と言う。妖怪だから。
飯を奢って呉れた為、彼女の嘆願を聞き入れることが吝かではない僕は、ズボンのポッケより取り出した携帯灰皿に、ああ勿体無い勿体無い、勿体無いお化け出て来おへんかな。と思いながら吸いさしの煙草を放り込み、消火した。「ありがとうございます」「いえいえいえ」腰が低い。
こんなのだから門番が勤まらぬのではと思うが、余計なお世話であろう。と思い何も言わぬ事にした。妖怪だし。
一息ついて疑問。何で僕はこんな所に何時の間に、分からん。記憶があるのは塗壁やら見越入道まで。などと首を捻っておると、頭に当たっちゃったから。やら私の所為で記憶障害。だの美鈴の不穏な呟き。
もの至極気になるけれど、余りにも不穏なので聞かなかった事にしようと決意。今朝のように知らないままで居た方が悪い方向に傾くこともあるので、やっぱり聞く事にした。

話を聞くに、霧雨魔理沙が紅魔館に特攻。美鈴、此れを弾幕にて迎撃。
その時魔理沙が駆る箒に同乗しておった僕は一度目の回避の際、急激な旋回Gに対し何ら抗う術を持たぬ為ブラックアウト。そりゃ頭に血液、酸素がいかなけりゃ気絶するよね。
当然箒から放り出され、そのまま残りの弾幕によってスマートボールの玉の如くあっちゃこっちゃへ弾かれてばいんばいん、地面にぐちゃ。
此れを見た美鈴、人命優先の素晴らしき道徳心で慌てて駆け寄り、気による手当てを開始。魔理沙、その隙に悠々と紅魔館へ侵入。
妖怪よりも余程非道な薄情者め、地獄の業火で焔に焼かれろ。四季映姫様、閻魔様、どうかあやつめを地獄に落として下さいまし。
僕の手当てが終わったところで紅魔館メイド長、十六夜咲夜が現れ美鈴に説教。屑にカマけていないで仕事をしなさい、貴女まで屑になるわよ。ああ、そんな汚物は門の外に捨てておきなさい。とごっつ最悪。
ここから美鈴の愚痴が延々と始まったので適当に聞き流し、でも精一杯の聞いたフリ。こいつと話すと会話の半分が愚痴で終わる。しんどい。
で、結局美鈴、僕を放っておく事が出来ずベッドに寝かしつけ僕が起きるまでに至る。
感謝の至り、菩薩のようである。人の方が妖よりも尚鬼畜な幻想郷。今の世の中、人情こそが幻想ではないのか。呪われろ愚民ども。外道な人類に災いあれ。善なる者に祝福を、妖怪でも。

状況を知り、美鈴に「気にしなくとも良いよ。全て悪いのはあのアンクルファッカー共だから」と寛大な心で許しを与えた後、暫らくの間会話も無くクルクルパーのようにぼへっとしておった僕と美鈴であったが、そろそろお暇しようと腰を上げることにする。
何時までも此処で駄弁っておっては咲夜に再び見つかった場合、彼女がお叱りを受ける事になり、僕もイテコマされた挙句、可燃物として廃棄されるに相違ない。
懲罰大好きメイド長は鬼軍曹、口から糞を垂れる前にサー。妖怪じゃないけど妖怪みたいなもんだよ。

人間である僕がその日暮らしの身であり、まともな労働に殉じる事が出来ぬにも関わらず、彼女は門番なる格好の良い真っ当な職に就き日銭を稼ぐ。
お化けには学校やら仕事が無くとも妖怪に仕事は存在するらしく、妖怪が仕事をして食い扶持を稼ぐなどと、幻想的であるのか俗であるのか訳分からん。如何すれば彼女のように労働意欲がもりもりと湧き上がるのかも分からん。何か悔しい。
外に居た頃僕の周りに居た大人は皆、社畜かルンペン。そのどちらにも身を貶たく無いなぁといった思いはこちらに来ても変わらない。
家は無いけど心は錦。ルンペンじゃないよ、僕は。乞食じゃないのよ、僕は。

別れの挨拶をし、屋敷内へと歩を進めながら、何時の世も何所の世も社畜は大変であるなと思った。幻想郷なのに、妖怪なのに。
結局、僕をあっさりと通過させた美鈴は、矢張り門番失格であった。
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コメント



0.290簡易評価
2.無評価名前が無い程度の能力削除
読み辛いことこの上なし。改行くらいしろよ。
点数は最後まで読めなかったのでフリーレスで。
4.100名前が無い程度の能力削除
テンポがよく、大変面白かったです。

ただ、幻想郷で根無し草だと妖怪に喰われそうな気もするね

めーりんはやっぱええ娘やー
5.無評価名前が無い程度の能力削除
 むむむ、なんとなくツボにはこなかったので感想が批評
寄りになってしまう。

 オリキャラ使って日常っぽいことを書くのはよいけど
何か刺激がほしい。正直、主人公や、酒でベロン
ベロンになって、紅魔館までかっとばされて美鈴の
世話になってまったくなにしとん、としかいいようが
なかった。

 独特な文はなかなかよいけれども、使い道がむつかしいなぁ。
6.-30名前が無い程度の能力削除
読み難い上に、微妙な代物です。
7.10名前が無い程度の能力削除
うーん・・・
文章自体は悪くないんだけど、正直読みづらかったです。
次回に期待。
8.無評価名前が無い程度の能力削除
せめて改行くらいはしてほしいです
開いた瞬間に立ち去っていく人もいると思うので
9.70名前が無い程度の能力削除
芸術家気取りのろくでなし感溢れる良い文章でした。
10.無評価e:s削除
弾幕ゲームはプレイすれども弾幕文字を目で追うのはしんどい。
改行少なめワザとだけれども公共の場にて発表する以上、此処は一つ読者に対する考慮、配慮もせねばと改行。
態々絶望的なまでに面倒なのに、感想やら意見を呉れた方々に対する誠意でもある。小生ならば書かない。ありがたや。
しかし我を貫けば自滅するのが世の中の定め、貫くなど創作のようにはいかぬ。という理由も無きにしも非ずであった。
まだ少ないかもしれないけれども、取り敢えずは此れで勘弁して下さい。お願いします。許してください。後生ですから。
縦書き印刷媒体ではないのでまあ、色々と仕方なし。うん、きゃべつ。
11.30名前が無い程度の能力削除
なんとなく国語の教科書に載ってた作品を思い出しました。
12.-30名前が無い程度の能力削除
本編・後書き・コメント読んで、怒りがわいてきましたよ?
笑わせようとかじゃなくて、読み手を馬鹿にしてるように感じるのは勘繰り過ぎかな?
少なくても、コメントに誠意はないね
13.無評価名前が無い程度の能力削除
↓のコメントいくらなんでも勘ぐり過ぎじゃね?
ただケチつけたいだけじゃないのか?

改行ないのは確かに読みにくかったが、後に改行いれたわけだし、
コメントに誠意がないなんて言い始めたら、いままでどれだけ誠意があったコメントが書かれたよ?と言わざるを得ない。
作者の遊び心ぐらい許容してやれ

コメントにコメントするのは
ルール違反だと知っているが、
どうしても我慢ならなかった。
ごめんなさい
14.60名前が無い程度の能力削除
流暢な語りが面白いです。
15.40名前が無い程度の能力削除
私の肌に馴染む作品でした。
16.10名前が無い程度の能力削除
テンポが良く非常に独特な文体でいいと思う。

ただ後書きといいレスといい、言ってることがさっぱり分からない。
日本語で頼む…
17.100名前が無い程度の能力削除
すばらしい。たいへんすばらしい。この文体でこの長さを書ききることは容易でないでしょう。ウヰスキー、シャーツなどの単語の言い回しもこの雰囲気になじんでいます。オリキャラを入れるという違和感がこの文体によって薄められていて、とても自然に感じられます。
日本語でおkといいたい気分にもなりますが、何か日常使われる日本語以上に日本語らしい感も受けます。
前書きとメッセージも作品の一部なのですね。
ただ一点だけ。
ゴキブリはやめてくれ・・・
最後の最後に不快感が残ります・・・
せめて「ゴキ退治」ならぎりぎり。「ごきたい」が全部入ってますし
18.-30名前が無い程度の能力削除
なんというかどこまでも飛ぼうとしてどこまでも飛んでいったような作品です。

ただまあ文句と言い訳ばっかりの内容を、暴言使わずに相手に不快感を与えるレスを臆面も無くする作者の精神に脱帽


作品に30点、作者の精神性を点数に追加でこの得点ということでひとつ
19.無評価名前が無い程度の能力削除
確かに縦書きの出版物で見たら、これ位の改行でも別に問題は無いですよね。
文体とかは我を貫けばいいと思います。
貶す人は次第に離れていくでしょうけど、支えてくれる人はきっとずっと支持してくれると思います。
点数はちょっと測れそうな物差しを私は持ち合わせていませんので、フリーで…
20.-10名前が無い程度の能力削除
内容はよいと思った。後書きもなんかいやだけど雰囲気でてると思った。下の方の作者レスを見て、作者はこの意味不明な書き方が素なのだと知った。萎えた。
22.60名前が無い程度の能力削除
おかしな人ですねw つっこみどころ満載で面白かった。
キモロイってなんですかw
>仰ぎ見るる視線の先
これ誤字だっけ、誤字じゃないんだっけ……違ってたらすいません。
25.90つくし削除
町田康をホウフツとさせるじょんがら節ですね。このバカバカしさなら幻想郷でも立派にやっていけることでしょう。ぎょんべらむ。
26.-30名前が無い程度の能力削除
後書きやレスを真面目に書いてさえいれば、プラス点になったのですが。残念です。
27.無評価e:s削除
この作品における後書き及びレスポンスに於いて、私の思考やノリが未だテキストサイト全盛より進歩しておらず、皆々様に多大なる不快感を与えてしまった事に対し謝罪致します。
本当に申し訳ありませんでした。
しかしながらに言わせて貰うならば、私は名前も顔も知らない不特定多数の人間を不愉快にさせた上で手を叩いて喜ぶ等という珍奇、珍妙な趣味は持ち合わせておりません。やる価値も意味も見出せません。
言語とは一見万能そうに見えてその実、受け手次第の不完全極まりないツールですから、不本意ながらも結果的には相手を不愉快な思いにさせてしまう。といった事も在る訳なのです。
その点だけはどうかご理解ご了承を戴きたいのですが、重ね重ね申し訳ありませんでした。
これより先、好き勝手をさせて戴くのは作品(と称するのは少々、かなり気恥ずかしいものですが)内のみに限定したいと思いますので、何卒よろしくお願い致します。
尤もこの文面に関しまして、くどくどと言い訳をするな。と云われれば私には最早どうしようもなく、これ以上の申し開き、弁明は有りません。
最後になりますが、このような作品を読んで戴き、誠にありがとう御座いました。


※前作感想内『つくし』さまへ
 早く誰か言ってくれないかと、ひたすら客の突っ込み、笑いを待つ屑芸人が如き心境でしたが、ありがとう御座いました。
 此れからも頑張っていく気力を充填する為に頑張りたいと思います。うくく。
28.無評価e:s削除
下記コメント内にて、今作感想内を前作感想内と誤表記してしまいました。
『つくし』さま、申し訳ありませんでした。