注意書き
・超重要)オリキャラが出現します。
・内容が意味不明、かつ展開は迷宮入りです。
・俺設定が含まれています。
・矛盾や文章構成の出来の悪さ、表現力の無さは一級品です。
以上を踏まえた上で読むのはご自由に。ただ「俺の時間を返せ!」とか
「俺設定?オリキャラ?何それ美味し(ry」とか言われても責任は負いかねますので。
もう少し下から始まりますよ↓
周りに何やら気が感じられる。正の気か、負の気のどちらかと言ったら、間違いなく負の気だ。
それもそのはず、私は厄神。周りに厄が集うのは当然と言えば当然でもあるだろう。
厄と聞くと『不幸』を連想させてしまうが、運が悪いなど、そのような可愛いものではない。
それ故に、人から妖怪、はたまた神まで私を恐れる。正確に言えば、私ではなく、その周りの厄を恐れているのだが。
そんな話はさて置き、私もそろそろ厄を放つ必要がありそうだ。それほど厄も溜まっていた。
厄神とは言え、周りに厄を溜め続けると言うのはあまり気分は良くない。私自身に、厄の影響は一切無いのだが。
私が厄の処理に向かうのは極普通の山奥。と、言っても、実際には人里等は近くには無いので安心である。
もし近くに人が居たならば、その際に厄を一気に被ってしまう。そのような事は絶対に避けたかった――。
昔、私は一人の神として崇められていた。私は勿論悪い気はせず、そこに居た人たちと人間同様の生活を送っていた。
当然、その頃から既に厄神であったために、私は定期的に里を離れ、厄払いを行っていた。
そこに居た人々は私に躊躇いを感じながらも、笑顔は優しく、暖かく、何より彼らは幸せそうだった。
勿論、私も幸せだった。
そう、だった――。
そんなある日、村長の家に泊まらせてもらうことになった。このような経験は珍しくも無く、最早日常でもあった。
村長は妻と兄と妹の4人家族だった。どこの家族にも劣らぬ笑顔で、本当に幸せそうだった。私も、幸せだった。
そんなこんなで、いつの間にか日は沈み、もうすっかり就寝時間であった。
就寝前、村長の子どもが突然私と寝たいと言い出した。
私は別に嫌ではなかったので、その子を招き入れた。その晩、その子は前から思っていたということを聞いてきた。
神様は何の神様――?
私?私はね、厄神って言うのよ――。
この子は勿論、私がどんな神様なのかは分からないだろう。厄神なんて、本来好まれるものではない。
それでも、ここの人たちはそんな私を普通の人同様に扱ってくれた。これ以上の幸せは今までに無かった気もする。
ほんの些細な、10秒にも満たない短い会話だった。それが、永遠の迫害を受けようとは思いもしなかった――。
私が目を覚ましたときには既にその子は姿を眩ましていた。どこに行ったのかは知らないが、特に気にはしなかった。
しかし、私が居間へ行っても誰一人姿は無かった。その子は勿論、村長も、その妻も、娘も。
さすがに不審に思い、家の中を探し回ったがそれでも誰一人居なかった。それどころか、人の気配も無い。
もう探す当ては家の中には無いので、私は外へ足を一歩踏み出した。
――その瞬間だった。
何か硬いものが私の腕に当たった。それが何なのか確認するよりも先に、民衆の姿が目に映った。
彼らの幸せそうな表情は、愉快な笑い声は、暖かい挨拶は見ることも、聞くことも出来無かった。
いずれも私を嫌み、拒み、邪険に扱うような目付き、構え、雰囲気。
私は何が何だか理解が出来ず、また一歩足を前に出した。
出て行け――。
最初に口を開いたのは大柄な男性だった。
昨日まで、私と親しかった男性だ。やくざを連想させる顔つきからは想像も出来ないほど優しい心の持ち主だった。
その恵まれた体を生かし、力仕事を次々とこなして行く人だった。
その隣にいる女性にも見覚えがあった。彼の妻である。人は外見が全て。そんな先入観を覆され、心を引かれたそうだ。
が、彼女も彼と同じく、目付きは非常に鋭かった。周りの人も、昨日と同一人物なんだとは信じたくも無かった。
厄神はこの村には必要ない――。
早く厄を抱えてここから消えてくれ――。
すると、また何かが私の元へ飛んできた。どうやらただの石ころのようだった。
それでも、私を迫害する材料には充分だった。
次々に飛ぶ数が増し、私はとうとうその場から逃げ出した。幸いにも追っ手は居らず、簡単に振り切ることが出来た。
私は今まで経験をしなかった悲しみに襲われた。勿論、以前から厄神と言う理由で人々から避けられてきた。
しかし、お互いに親しみを持ち、信頼していた分、その悲しみは大きかった。
涙が枯れるまで泣くとはまさにこのことだろう。
悲しみの次に来た感情は、怒りだった。何故私をそこまで邪険に扱うのか。理由は分かる、それでも――。
それでも、許せなかった。私を裏切ったという行為が、神を迫害したという行為が。
その日の夜、私は村に戻り厄をばら撒いた。厄をあるだけ解き放ち、復讐を試みたのだ。後悔は一切無かった。
暫らくして、その里を嵐が襲った。かなり大型の物だったようで、家の木片も、人の死体も見当たらなかった。
これで私の心は晴れた。これで復讐を成し遂げた。
神の冒涜はいかなる愚行か。厄神とは何か。彼らに知らしめてやったのだ。
しかし、どこかで虚しさのようなものもあった。あれだけ優しかった人々を殺めてしまったという事実が。
――いや、私は神。厄神。人の救いは要らない。迷いは断たねばならない。
とりあえず、厄は全て放ちきった。暫らくは、普通の生活が送れそうだ――。
それから10年程経っただろうか。私の体は再び厄で満ちて、これから厄払いをするのだ。
そして、私はいつもの山へと向かった。そのいつもの山とは、かつて私が幸せと、嘆きを得た場所。勿論、
理由は分からないが、どうしてもこの一帯から離れる気にはなれないのだ。山に降り、いつもの場所へと向かう。
その時――
「きゃっ!」
何たる失態。私は足を滑らし、転んでしまったのだ。転んだだけで済んだなら、大して問題ではない。
この山はまだ未開拓で道は勿論、断崖も多く、普通は歩くべき山ではない。
あの村が今もあったら、こんなことは無かったかもしれない。
私は断崖を転げ落ち、何本もの枝を折りながら、無惨にも転落していった――。
気が付いて目を覚まし、一番最初に目に映ったのは天井だった。その天井は所々腐り、穴が開いている所もある。
部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、明りは囲炉裏のみで、決して衛生が良いとは言えない場所だ。
そして、何故か私は布団に寝付かされている。何が何だか良く分からないので、とりあえず立ち上がろうとする。
すると、突然腹部に激痛が走った。
痛みで顔を歪めながら布団でうずくまっていると、隣の部屋から何者かの足音が耳に入った。
「……気が付いたか。」
「なっ……だ、誰……?」
私の視界に進入してきたのは、背が高めの黒髪の男性。彼は湯飲みを片手に持ち、もう片方の手で本を抱えている。
彼は本を片手に囲炉裏の傍に座り、私の方を向く。
「望月 蒼夜。あんたは?」
「それよりも先に……私は今どんな状況なのですか?」
「……下腹部中心に酷い切り傷、俺に恩を着せられている。大体はこの二つだな。」
なるほど、つまり崖から転落した私に手当てを施してくれたと。だから私が彼に恩を着せられていると。
いや、表面ではこのように振舞ってはいるが、きっと裏がある。またすぐに化けの皮を剥ぐ。すぐに態度を変える。
――何故なら、彼は人間だから。
私が厄神だと知ったら、この場から逃げ出すか、無理矢理追い出すか。
――彼もまた、人間だから。
しかし、まだ傷は癒えてはいない故に、正体を証して自らを窮地に追い込む必要はない。
暫らくは、ここに身をおくことにする。
彼はまだ湯気が立つ暖かいお茶を差し出してくれた。私は躊躇いながらもありがたく頂くことにし、起き上がろうとした。
「痛っ……くぅっ……。」
「無理なら大人しくしてろ、傷口が開くぞ。」
私が厄神だとも知らず、大した口を訊くものだ。――いやいや、仮にも自分の恩人。恨んではいけない。
いくら人間といえど、やはり最低限の情はあるようだ。それでも、人間は許すわけにはいかない。
問題なのは、私の厄によって彼がどうなるかだ。
何の支障も無いかもしれないし、一つの原因で死んでしまうかもしれない。
出来るなら、彼に何の危害を与えること無くこの場を立ち去りたい。厄が溜まる前に、この場を立ち去りたい。
起きることもままならない私は布団に潜り込み、囲炉裏に目を向けていた。必然的に本を読む彼の姿も目に映る。
暫らく見つめていると、彼は何かを思い出したかのように本を閉じ、立ち上がり、部屋を出る。
「これから飯作るけど……何か要望あるか?」
「え、えぇ……食べられるものなら何でも良いですけど……。」
彼は馬鹿にするな、と言わんばかりに笑い、奥の部屋へと消えていった。
周囲を見渡す限り、彼以外に人の気配はなく、生活用品も見当たらない。今日まで独りで生活していたのだろうか。
いや、ここは列記とした集落かもしれない。外が見えないため、確認は出来なかったが。
それにしても……やはり人間にも、彼のような人は居るのだろうか。いや、今の私は人間だと思われているからだろう。
彼は何やら米やら卵やらの材料を持ってきて、傍にある囲炉裏で料理を始める。
彼の手付きはすっかり慣れていて、家事は女性という概念を持っていた私は驚いた。
私はやっとの思いで起き上がり、布団に包まって座っていた。どうやら彼はおかゆを作っているらしい。
することもなく、私は蜘蛛の巣に引っかかっている最早何だか分からない獲物の最期を見届けていた。
「ありがとうございます……。」
湯気の上がったおかゆは私の鼻をくすぐり、食欲をそそる。一何が入っているのか分からないが、訊く必要は無かった。
私は腕の傷のせいか、あまり口に含むことは出来なかったが、彼の料理は美味しかった。
彼も食事をしているが、むしろ私の姿を見ている時間の方が長い。理由は分からないが、嫌な気はしない。
「そんな上手そうに食われるのなんて久し振りだな。」
「……ここら辺には誰も住んでいないんですか?」
「あぁ、前は村に居たんだけどな。訳あってその村を離れたんだよ。」
彼は明るく振舞ってはいたが、声は少し小さくなっていることに気が付いた。どうやら、今の質問は不味かったらしい。
理由を訊こうとはしなかった。何故かは分からない。何かを恐れていたのかもしれない。それが何なのかも分からない。
その会話から、彼は私の方を向くことは一切無かった。
「ご馳走様でした、美味しかったですよ。」
私の食器と自分の食器を奥の部屋へ運び、また奥の部屋へ消えていった。
この部屋には時計がなく、今の時刻を知ることが出来ない。就寝時間を決めている身にとって、不便な話だ。
戻ってきた彼に今の時刻を尋ねようとしたが、それよりも重要な出来事を、私に気付かせた。
「これ、もう着れなさそうだけど、どうするんだ?」
紛れも無い、私の服だった。驚いて自分の服装を見ると、やはり服が違っていた。
「……捨てておいてください。……。」
「別に何もしてないから安心しな。……傷の手当に邪魔だっただけだ。」
そう、そうだ。傷の手当に邪魔だったからに決まっているではないか。まともな人間に救われて、幸運と言う訳だ。
彼はまた奥の部屋へ私の服を持って行った。彼も顔を合わせ辛いと思ったのか、今日はもう寝付いてしまったようだ。
仕方ない、私も寝ることにしよう。布団を頭から被り、腹部を抑えながら丸まって眠りについた――。
朝日の眩しさに目が覚めた。窓は無かったはずなのに、何故か光が私のいる部屋へと注がれている。
昨夜は暗くて分からなかったが、どうやらこの家にある隙間から外の光が漏れているようだ。
後ろから戸の開く音が耳に入る。振り向くと、やはりそこには彼がいた。
彼は私の顔をちらっと見ると、すぐに奥の部屋へと引き返した。きっと、朝食の支度でもするのだろう。
それにしても、彼のことについて一つ不審なことがある。望月と言う苗字が、引っ掛かるのだ。
私のいた村の長。彼の苗字もまた、望月だったのだ――。
いや、考えすぎだ。何故なら、あの日の災厄は私が引き起こしたものであり、逃れられぬ運命だったからだ。
それに、私が確認に向かったときは既に人影はおろか、家屋の木片や人骨すらなかった。
あの状況で生き残ることは無理に等しく、ましてや、村を立て直すなど不可能だっただろう。
そう、考えすぎだ。同じ苗字の人間などこの世に何人でもいる。人違いに決まっている。
「おい、飯食うか?」
考え事をしていた為か、彼が囲炉裏の傍に座っていることに気が付かなかった。
私は体への負担を最小限に抑えながら起き上がり、首を軽く縦に振った。
朝食といっても、どうやら昨夜の余りのようだ。確かに、昨夜で食べきるのは多すぎるとは思ったが。
鍋に火を通している間、彼は私の顔を何度も見ていた。悪い気はしなかったが、気にはなる。
「何か?」
「いや、傷が治るの早いな。あんたの右腕、肘にあった擦り傷がもう治ってるし。」
当然だろう、私は人間ではないのだから。即死や瀕死ではなければ骨の一本や二本、切り傷など大したことは無い。
しかし、彼は不審に思うはずだ。人間からすれば、かなりの重傷であろう傷が、数倍も早く回復するのだから。
まぁ、腹部のほうは予想以上に痛みが強い。完治するまで3週間といったところだろうか。
「……そうでしょうか?相変わらずお腹は痛みが酷いですが。」
「そうだな、あんた妖怪じゃないもんな。」
遠からず当たっている答えに、私はドキッとしたが、彼に追究する気が無い様で安心した。
私が厄神だと知れたら、それこそ大変だ。まぁ、傷を癒すだけならもうここにいる必要はないのだが。
昨夜と変わらない味のおかゆを美味しく頂き、静かに器を置いた。
――不思議だ。
私は人間嫌いだったはずだ。少なくとも今は。それなのに、彼はとても同じ人間とは思えない。
何故か親しみを覚えてしまう。彼に特別な感情を抱いたわけではない。恩を理由に、人間嫌いを隠している訳でもない。
ならば、この気持ちは一体――?
「……俺の話聞いてるか?」
「えっ!?あ、済みません……。」
私の悪い癖だ。考え事をすると周囲の音が耳に入らなくなる。
「まだ名前聞いてなかったんだよな。」
「そうですね……鍵山 雛です。」
「……そうか。じゃあ鍵山、出かけるけど独りで大丈夫だよな?」
私は無言で頷き、布団に潜り込んだ。戸の開く音がして、戸の閉まる音がした。
囲炉裏の火は暖かく、器はそのままにしてあった。大丈夫、独りは慣れている。
神と言う立場からして、それに私は厄神だ。誰かと、ましてや人と共に過ごすなど、普通はない。
それでも、家族のような一つの集団に交わりたいという気持ちも捨て切れない。
何故なら、その暖かさを知ってしまったから、共に在る幸せを覚えてしまったから――。
――やめよう、考えるだけ無駄だ。そう、今は彼がいるではないか。彼が――。
――何を言っているんだ私は。先程、人とは共に在れないと思ったばかりではないか。矛盾にも程があるというものだ。
そう、考えるだけ無駄だ。することもないし、暫らくの間は一日中寝て過ごしてみるのも良いだろう。
心配なのは、厄だけだが――。
墓石の前で手を合わせ、線香を添え、花を飾り、墓石を磨く。今日は俺を除く家族全員の命日だ。
墓石に深く彫られている名前は俺の両親の望月 紅夜と月夜、妹の暦。皆、亡くなるには早すぎる歳だった。
3人が同時に死ぬなんて滅多なことはそうそう無いだろう、ましてや自分の家族が。
幸いなことに、俺が独り立ちできるようになった後だったから、救われたほうだ。
神の悪戯だろうか、それとも必然だったのか。
――そんな感傷に触れるためにここへ来たわけではない。勿論、墓参りが第一の目的だったわけだが。
そのついでに、一つ相談がしたかった。死人に口なし。そんなものは関係ない。気持ちの問題だ。
「親父、鍵山 雛だとよ。やっぱり――だよな。」
無論、墓石は動くはずも無く、喋るはずも無く――。
「俺、どうすりゃいいかな。――暦ならどうするよ?」
「――お袋もそう思うか?」
勿論、亡き家族はここに居る筈も無く、見えるはずも無く――。
「分かった、俺なりにがんばってみる。――相談に乗ってくれてありがとな。」
静まり返った墓場に俺の声が響いたかと思うと、まるで音を追い出すようにして、再び沈黙が生まれた。
寝付けない私の耳に、また戸の開く音が入り、戸の閉まる音が入る。どうやら、彼が帰ってきたようだ。
両手には野菜や果物等を抱え、私の居る部屋を通って奥の部屋へと向かった。
また何かご馳走してくれるのだろうかと、淡い期待を抱いていたが、その様子は見られない。
私に見向きもせずに、彼はまた外へ出て、どこかへ行ってしまった。
特にすることも無く、その上、体を縛されているも同然の状態では何かをしようにも何も出来ない。
仕方が無く私は目を瞑り、眠ることにした。
川のせせらぎや鳥のさえずり、木々の揺れる音が耳に入るほど、辺りは静けさに包まれていた――。
そんなこんなでもう3週間。この生活にも慣れ、私の傷はもうほとんど完治している。
彼との会話も増え、外を歩き回ったりすることも出来るようになった。何にしろ、良いことである。
しかし、気になることがあるのだ。
外には人が通った跡を示すように草が生えていない道がある。その道に沿って行くと、見たことのある光景があるのだ。
広場にしては広すぎる空間に、どこか見覚えがあるのだ。人が手入れをした様子は無く、辺りは草木が生い茂っている。
そして、注意深く辺りを見渡すと、墓石があるのだ。と言っても、かなり粗末な造りで、墓石とは言い難かったが。
添えてある花が枯れていなかったり、線香の燃え尽きた跡が残っているところからして、最近墓参りをされたようだ。
墓石には望月の苗字。きっと彼の家族の墓なのだろう。家からも近いし、納得がいく。
見覚えのあるこの地が、一体何なのかは未だ明らかになってはいないが。
そして、もう一つ。気になることと言うよりも、不思議な話と言おうか。彼が出かけると、何故か不安になるのだ。
しかも、彼が帰ってくると、その不安は安らぎのようなものへと変わる。
あまり信じたくは無いのだが――彼が私にとって特別な人になってしまったのではないだろうか――。
仮にそう考えるとすれば、辻褄が合う。彼の傍に居たいから寂しくなり、傍に居るから幸せを感じるのだろう。
それでも、これはあってはならないことなのだ。
人間と神が愛し合うなど、ましてや交わることなどは禁忌と言い切ってしまえるほどである。
この気持ちを断ち切るには、やはり彼の元を離れるしか方法は無いだろう。もう心に決めたのだ。
今日の朝から何度もそう考え、彼に伝えようとした。しかし、彼の声や私への気遣いがそれを許さなかった。
彼の顔を見れば私の口は塞がり、彼の手が触れればそのような気持ちは遥か彼方へ飛んでいってしまう。
もう、言い訳はしない。私は彼に恋をしてしまったのだ。彼と共に在りたいのだ――。
「おい鍵山……その癖どうにかならないのか?」
「だ、大丈夫です。ちゃんと聞いていましたよ。」
本当は彼が何を話していたかなんて耳には入っていない。――目には、はっきりと愛する人が映っているが。
囲炉裏の傍でお茶を貰い、彼と会話を楽しんでいたところだ。そこで、前々から聞きたかったことを質問することにした。
今の状況なら、多少彼の気に触れることでも話してくれるのではないだろうか。
「一つ、訊いてもいいですか?」
「俺が答えられる内容ならな。」
「どうして……村を離れたんですか?」
一瞬、聞くべき事ではないと思ったが、勝手に口が動いてしまった。彼は一つため息を吐き、口を開いた。
「村が無くなったから。跡形も無かったよ。」
私は確信した。聞いてはいけなかった、と。同時に、一つ思い当たる節が――。
「――あんたがその村から出てった後にな。」
「!!」
私はまるで何かに拘束されたかの様に、体が動かせなかった。体だけでなく、口も動かない。
「あんた、あの日の俺を覚えてるか?一緒に寝ただろ?」
「それって……まさか――。」
「そう、村長の息子が俺だ。」
彼の名前を聞いたとき、不審には思っていた。それでも、気にはしなかった。
いや、単純に信じたくなかっただけなのかもしれない。言葉を失うというのは、まさに今の状況だろう。
自分から話を切り出せない。村を壊滅に追いやった原因は私にあるのだから。
彼もまた、喋ろうとはしない。しかし、それは言葉を失うというよりも、私の口から何かを聞きたそうな表情でもあった。
普段の他愛の無い会話や彼の笑い声は生まれず、その代わりに沈黙だけが生まれ続けた。
が、彼はあっさりと沈黙を絶ち、私にいつもの声を聞かせてくれた。
「ま、幸いにも俺と家族は丁度都会に出かけていたから良かったけどな。」
「あ……の……。」
「――何だ?」
「私を……怨んでいますか……?」
恐る恐る口を開き、下を向きながらそう言った。
今、彼と目を合わせてしまったら、それこそ本当にどうすれば良いのか分からない。
「は?何でお前のこと怨むんだ?」
「え……?」
質問に質問で返される。彼の返答が、意外すぎて驚いてしまった。
彼は拍子抜けした私の顔を見て軽く笑い、口を開いた。
「いや、俺の親もあんたのことが厄神だって知ってたし、定期的に厄払いに行っていたのは俺も知っていたぞ?
まぁ、他の人はそんなこと知らないだろうから、あんたを追い出しても無理はないだろうけどな。」
「むしろ親父は自分の方に責任があるって言ってたくらいだし。どうせなら裁きを受けたほうが良かった、とか。」
「そ、それなら……。」
「それなら、何だ?」
「私のことは……嫌いではない……と。」
「はっ、あんたみたいな可笑しな神様が嫌な訳ないだろ。」
彼は作り笑顔だったかもしれないが、それでも私の心は満たされた。彼とまだ共に在れる、それだけで充分だ。
私はきっと顔を真っ赤にしていたに違いない。愛の告白をされた訳でもないのに、何を照れているのか。
彼は囲炉裏の火で鍋を暖め始めた。もう夕食の時間なのか。やはり、楽しい時間とは早く過ぎ去るものだ。
それにしても、彼の料理は本当に絶品だ。それは言い過ぎかもしれないが、少なくとも私が作るよりも美味しい。
それとも、彼の腕前の良し悪しではなく、独りではないという事が影響しているのだろうか。
彼との生活や、あの時の生活を通して思う。人間は、私利私欲の為に生き、下等で、愚かな生き物だと思っていた。
しかし、そんな考えは言語道断であった。今ここに、彼の様な人がいるではないか。彼らのような人がいたではないか。
そんな簡単なことも忘れて、本当に愚かなのは自分ではないか。私利私欲を求めていたのは自身ではないか――。
「お、おい……どうした?」
彼は心配そうに私の顔を見る。何のことだかさっぱりだったが、何かが頬を伝って行くのが分かった。
「いえ……済みません……。」
自然と、口から零れた言葉だった。彼への謝罪の念もあったが、自信への怒りを静めるためでもあったかもしれない。
下を向きながら私が涙を拭っていると、何か暖かいものが私に触れた。それも、体全体に。
「……あっ、あの、なな何ですか?」
「いや……ごめん。あんたが泣くのが嫌だからさ……。嫌だったら言ってくれ。」
まさか、嫌なはずがないだろう。何しろ、愛する人に抱かれているのだから。むしろ、意地でも離れたくない。
私は今までに無いくらい心臓が高鳴っている。本当に、呼吸が苦しくなりそうなくらい心拍数が上がっている。
彼の腕の中に丁度収まるようにして、私も彼に抱きついた。
気のせいか、彼の胸からも私に劣らぬ速さの心音が聞こえる。
私は幸せ者だ。大罪を犯しておきながらも、こうして彼の傍にいることが出来る。彼を愛することが出来る。
「……あちゃー、焦げちまったよ。」
「珍しいですね、失敗するなんて。」
「何だよ、雛が俺のこと離さなかったからだろ?」
言い返す言葉も無い。確かに、彼が腕を解いた後も私は彼に抱きついてはいたが。しょうがないではないか。
それでも彼は焦げなど気にせず器に移し、私へ差し出した。が、どうやら私のに焦げた部分は入らないようにしたようだ。
そのくせに、遠慮して自分のは焦げた所ばかり。だが、そんな彼の優しさに、私は心引かれたのだ。
私は思わず笑い、彼もまた、私に釣られて笑った。この幸せな時間がもっと長く続くように。
一分一秒でも長く、彼と共に在りたい。
しかし、彼と別れる時は確実に迫って来ていることに、私は気付いていた――。
彼が傷を負って帰宅することが多くなってきたのだ。
幸い、どれも大事ではなかったが、その度に私は不安を隠せずにいた。
彼もある程度自覚はしていたようだったが、運が悪かったとか、偶々等と理由をつけて、また私を庇った。
彼に厄払いに行くと話し、出来るだけ遠くで厄払いを行った。
しかし、どういうわけか彼に掛かる不幸は絶えなかった。
まるで、私と彼の間を裂くように。まるで、私に別れを告げさせるように。そして、私の心を傷つけるように――。
「あの……今日は一緒に寝ませんか?」
「いいけど……どうした?」
「良いじゃないですか……一緒に寝たいだけです。」
彼は悪戯っぽく笑い、布団に寝ている私の隣へ入った。私も彼も天井を見ていたが、突然彼が私の手を握り締めた。
外では雨が降り、雨漏りしている天井に目を向けることも出来ず、私も彼の手を握り締めた。
「雛……愛してる……。」
「はい……私も――。」
最後に、彼にそう言われて嬉しかった。
明日が別れの日だとしても、私が彼のことを忘れることは無いだろう。願わくば、彼も同じであってほしい。
そして、出来るならばまた彼に会いたい。それも、一つの運命として再会したい。
翌日の早朝、彼よりも先に目覚めた私は置手紙を一つ残し、彼の家を後にした。
彼に心配を掛けないように。出来るだけ、彼を悲しませないように。
別れに必然と偶然があるならば、必然が良のではないだろうか。
何度も何度も彼の家を見ながら、中々足は前に進もうとしなかった。
辺りは昨夜の雨でどろどろになっているせいかもしれない。同時に足場も不安定だった。
また足を滑らしてしまいそうである。
そう、全ては些細な私のミスから起こったのだ。
では、もし今ここで私が足を挫いたとしたら?もし、今何らかの形で負傷したら?
また、彼の傍にいることが出来るのだろうか。また、独りではなくなるのだろうか――。
――独りとは、こんなにも寂しいものなのだと、改めて思う。
何故なら、その暖かさを知ってしまったから。共に在る幸せを覚えてしまったから――。
やはり厄神と言う立場である以上、誰かと共に在るなど考えることも出来ない話だ。
人が空を飛ぶことを夢見るようなものである。ぼーっとしながら、頭の中では彼のことしか無かった。
彼のことを思い出せばまた悲しくなる、それだけなのにも関わらず――。
すると、突如腕を何者かに引っ張られた。その力の動くままに、私は後方に倒れるように引き寄せられた。
「雛……なんだよ、あの手紙は。」
私の耳に響いたのは、紛れも無い彼の声だった。目に映ったのは、彼の姿だった。
私は彼の顔を見ることも敵わず、思わず彼の腕を振り払った。
しかし、彼は私の両肩を押さえて無理矢理自分の方を向けさせた。
彼は今まで見たことの無いような真剣な表情で、逃げるにも逃げられそうに無かった。
「……ちゃんと手紙を読みましたか?私からのお願いなんです。」
肩を掴む手の力は緩み、彼はそのままゆっくりと手を離した。そして、呆れるようにして天を仰ぎ、息を整えた。
「あんな別れ方って無いだろ……。」
考えずとも分かる。昨夜のことだろう。最後ならば、どうせ別れてしまうならば胸の内を明かそうと思っただけだ。
それが最善だと考えた。これできっと、私も彼も悔いはないと思ったのだ。が、それは違った。
結果、彼を悲しませる結果にもなってしまった。そして、私の悲しみを増幅させる結果にも――。
彼は私の背中に手を回し、自分の方へ引き寄せた。彼の力に我が身を預け、私も彼の背中に手を回した。
「いつかは出て行くんだろうと思ってたけど……やっぱ、駄目なのか?」
「……そもそも、厄神は嫌み拒まれる存在です……貴方のような方と会えただけでも、私は幸せです……。」
「分かった……けど、偶には来てくれよ。いつでも待ってるから。」
無言で私は頷いた。今、私は泣いているのだと思う。それが悲しみの涙なのか、喜びの涙なのかは分からない。
が、今の私は幸せだ。それだけは言い切れる。
1分もしない間だったのだろう短い時間が、私の至福の時間の一つであったかもしれない。
彼は私から腕を離し、また私の肩を掴んだ。すると、彼の両手は方から私の頬へと移る。
「んっ……。また別れ難くなる……じゃないですか……。」
「雛も同じようなことしただろ?その仕返しだ。」
「じゃあな、厄神様。」
彼のからかうような口調に私は笑みを浮かべ、去り行く彼の背中に軽く手を振り、私もその場を去った。
辺りはまだ朝方。日も出たばかりで、鳥のさえずりが耳に入る。今日から、また独りになってしまうだろう。
だが、それも一つの運命なのだ。この運命は、あの村にいた時から始まっていたのかもしれない。
彼と別れたというのに、後悔も無く、どこか清々しい気分でいる自分に驚きながらも、
真っ直ぐ自分の家へと向かっていった――。
――そんなこともあり、私は今に至る。とっくの昔の話なので、もう彼は他界し、会うことは出来ない。
が、悲しみは不思議と無かった。死に際の彼もまた、笑顔を絶やさず、私と会話を続けていた。
悔いの無かった証拠だろう。今までで、一番幸せだった時期だった。そうだったに違いない。
あの時以来、私が出会った人間は2人だけ。
博麗の巫女と、白黒の魔法使い。彼女らは空を飛んでいた。
人間が空を飛ぶことを夢見る――。それは、見事に実現していた。
それと同時に、私が人と共にあることも実現できた――。
その日の厄払いを終えた帰り道、あの日のような不安定な道なき道を歩いていた。
すると、まるで落とし穴のような溝に足を取られ、そのまま転倒してしまった。
それに加え、運悪くそのまま斜面へ倒れ、転落していってしまった。
これは――いや、まさか――
転落し、意識を朦朧とさせながら周りを見る。私が落ちたところは土煙が舞い上がり、木の枝が何本も折れている。
ふと、足音が聞こえる。それも、かなりの駆け足で。
その足音は次第に大きくなり、私のすぐ傍で止まったような気がした。
「――雛?大丈夫か――?」
聞き覚えのある声、見覚えのある顔だった。名も知らぬ彼は私の名を呼び、私を優しく抱き上げた――。
物語の移り変わりが唐突ということでしょうか
例えば「雛が起きていたら誰もいなかった」というのに厄神のことを話したその次の日には知れ渡っているという矛盾ですとかそのあたりを直せばいいと思います
偉そうで申し訳ない
・望月家の方々が無意味に、意味
ありげな姓と名前だったのに違和感(これ俺設定
じゃないかも)
・幻想郷は時計普及してたっけ?
あと、望月家の方々の死因が嵐じゃないなら何で
死んだのかというのが謎のまま(しかも一斉に死んだ
とは?)という所にいらん疑問が浮かんでしまった。
ストーリーに関してはもうちょっとという意味で-20点
(だだし赤点は気が引けるのでフリーレス)
とまぁ、そんなところで次はもうちょっとひねった話か
面白いお話を期待してます。
のかなあと
人によっては、不快感を与えてしまう可能性もあったりします。
前の方も言っていらっしゃるように、そのオリキャラの設定が甘く
感じられるのと、
ストーリーが少し唐突過ぎる点が見受けられる事。
あと、その終わり方で、どうやって次につなげられるのか?
1だと、時系列がメチャクチャになりかねないし、
(すでに文中で「彼は他界している」と書かれている以上)
もし、その子孫~としても、鍵山雛の顔を知っているのか?
という矛盾も生まれてしまう。
2だと、すでにオリキャラが亡くなっている現状でどうやって?
という矛盾が。
3だと、作者様も言うように、本当に苦肉の策というように、思ってしまいます。
まあ、外野の戯言と思っていただければ幸いですw。
もう少し、各部を煮詰めればいい作品になると思います。
偉そうにすいません。
なので、フリーレスで。
それは作者の仕事で、さぼっちゃいけない部分かと。
オリキャラについては最初に注意書きがあるので全く問題なし。設定が甘い部分もあるようですが、小説の登場人物としては十分です(人物設定を完全にしようとするのはライトノベルの傾向)。
二番煎じに関しても、盗用でなければよいので結果として今までにあったものと似た作品になっていたとしても大丈夫です。
感想です。さすがにオリキャラと雛がずっとラブなのには、てめkn何しやgr;h」@jp
という感じでした。文句を言う筋合いはないので言いませんが・・・・
物語自体はまあ普通でしょうか。ここの読者のニーズに応えるには、オリキャラを出すとしてもより特徴的なものにする方がよいと思います。
やはり、自分では気が付かないおかしな部分もあるんだなぁ、と実感しました。
まだまだ未熟ですが、がんばりたいと思います。
参考文献を見つつ、もう少し勉強して出直したいと思います。
もっと膨らませられそう。
ただオリキャラの名前ってあんまり凝りすぎると興醒めします。