1月1日・午前0時・上空
ゴーンッ…………
博麗神社から除夜の鐘が鳴り響く。
「え?鐘?」
守矢神社の巫女、東風谷早苗がその音を聞いて驚く。
「ああ、なるほど。あのチラシの催し物とはこれの事か」
神奈子が納得したように言う。
「チラシ?」
「あれ?早苗知らないの?」
早苗の呟きに諏訪子が意外そうに言う。
「何の事ですか?」
「なんか、今回博麗神社で厄神様の厄集めともう一つ催し物するって書いてあったわね」
「え?雛様も博麗神社に行ってるんですか?」
「そりゃ行くでしょうよ。ウチの神社じゃ厄集めなんて出来ないでしょうし」
意外そうに言う早苗に呆れたように返す神奈子。
「うぅぅ…………」
自分の神社の集客率の悪さを改めて思い知る早苗。
まぁ、客、ではなく参拝者ではあるが。
「それはそれとして、もう一つの催し物がこの除夜の鐘って訳ね」
「って、除夜の鐘は仏教じゃないですか。神社なのになんで………」
「幻想郷に仏教なんてなさそうだし、知らないんじゃないの?」
「いや、知らないって……そう言う問題なんですか?」
「向こうの神からすればなんだって良いんじゃないの?信仰集まるし」
「そんな適当な………」
事も無げに言う神奈子に早苗は言う。
「実際問題として、私達に必要なのは信仰よ。経過や過程は基本的に人間任せだわ」
早苗達の様に神と交信できる者などほんの一握りなのだから。
結果として、信仰を集めるやり方が、最初に神の指示したものから逸れ、人間独自のものになるのも珍しくない。
しかし、それでも結果的には信仰は集まる。
神によっては過程を気にする者もいるだろうが、神奈子の様に気にしない者もいる。
「昔、神奈子も私に似たような事したしね~」
「そうそう」
かつて神奈子が諏訪子と争い、勝利したが、民が神奈子を受け入れなかったなかったため、神奈子が準備した「守矢」という神様と諏訪子を融合させた神を崇めさせた。
だが、裏ではその信仰は融合させた神でなく、諏訪子へと集められていた。
手段や過程はどうあれ、結果として信仰は諏訪子に集まり、そして諏訪子はその力を使って神奈子を山の神とした。
信仰する者がいなければ神の力は弱まる。
余裕で信仰の集まる神なら兎も角、諏訪子や神奈子の様に信仰の集めにくい神はある程度は信仰を集める手段は問わないのかもしれない。
「ま、貴女は貴女が思うように信仰を集めてみなさい。巫女が信仰の集め方に疑問持ってたんじゃ集まる物も集まらないしね」
「そうだね~……って、うわ!」
神奈子の言葉に同意した諏訪子が何かを見て驚く。
「どうしました?諏訪子さ………うわぁ…………」
早苗も諏訪子と同じ方を見て驚く。
「へぇ………流石「幻想」郷、外での幻想もここなら可能って訳ね」
3人が見て驚いてのは、この正月と言う季節外れに咲いている桜。
フラワーマスター・風見幽香がその能力を使って咲かせた物だ。
「良いねぇ、態々来た甲斐があるってもんさね」
「おお~!もっと近くで見ようよ!!」
そう言って加速する二人。
「ちょっ!置いてかないで下さいよ!!」
そして、急いで後を追う早苗だった。
同刻・博麗神社
「うはぁ………例年以上に凄まじい参拝者だな」
毎年神社で参拝状況を見ている魔理沙が人ごみを見て呟く。
「そうなの?」
毎年この時間には来た事がないアリスが尋ねる。
「ああ。いつもは日が明けてからチラホラ来るのが普通だったからな……ほら、夜だと妖怪が怖いだろうから」
「あ、なるほど」
「だが、今年は鐘と、何より桜に釣られたんだろうな………流石に、この季節外れの桜の下で血生臭い事をする無粋者は居ないだろう」
「言えてるわね」
「ほら、そこ二人!口より手を動かしなさい!!」
喋っていた魔理沙とアリスに霊夢の檄が飛ぶ。
「こういう日は流石にちゃんと巫女してるのね」
「ああ」
珍しくしっかりと働いている霊夢を見て感心するアリス。
因みに霊夢がお祓いを行い、厄集めの神、鍵山雛が厄を集める。
アリスと魔理沙、そして
「魔理沙!「い」の67!アリスは破魔矢を2本!!」
妖夢が魔理沙とアリスに叫ぶ。
「はいよ!」
「はい、お待たせしました」
この三人はおみくじと破魔矢の販売を受け持っていた。
何やらおみくじを買う参拝者に男性客が多いのは気のせいでは無いだろう。
ついでに、神社の裏手に行く参拝者も男性が多い。
なぜなら、そこには巫女服で鐘をついている八雲藍が居たから。
正月早々、眼福と言った所なのだろう。
「大盛況だな、霊夢」
お祓いをしている霊夢の所に慧音と妹紅、そして輝夜、永琳、鈴仙、てゐが来た。
「本当、何時もはこんなに入ってないでしょ?」
次いで鈴仙が尋ねた。
「慧音!いい所に!!」
「な、なんだ?」
お祓いを終えた霊夢にガシッと肩を掴まれて驚く慧音。
「紫!!」
「はいは~い」
そして、霊夢の呼びかけに応えて紫が境界を開いて現れた。
「二名様ご案内!」
「はいは~い♪二名様ごあんな~い♪」
霊夢の言葉に応じて、紫が慧音の腕と、そして
「何で私!?」
鈴仙の腕を掴んで境界に引きずり込んだ。
「ちょっ!?何をする気だ!八雲紫!!」
「慧音!?」
突如慧音が境界に引きずり込まれて驚く妹紅。
「ちょっ!?何するのよ!!師匠!助けて下さい!!」
鈴仙は永琳に助けを求める。
「がんばってらっしゃいね~鈴仙~」
が、当の師匠はにこやかな笑顔で優雅に手を振って見送った。
「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?」
暫くして、境界から二人が出てくる。
霊夢とおなじ巫女服の姿で。
「察しがつくから敢えて問わん。とりあえず、文句だけ言おう。何故私が手伝わねばならんのだ?」
慧音は霊夢に問い掛ける。
「猫の手も借りたいくらい忙しいから。あと、客が集まるから」
「前者は良い。が、後者は…な、なんだ!?」
話の途中で腕を引っ張られる慧音。
「おい、用意が出来たなら早く手伝ってくれ!人手が足りないんだ!!」
魔理沙が現れて慧音を引っ張って行った。
「ま、待て!私は手伝うとは………!!」
「お洋服はこちらよ~♪終わるまで返さないから~♪」
「八雲紫ぃぃぃぃぃぃ!!!」
慧音の服をヒラヒラさせながらにこやかに言う紫に慧音が叫ぶ。
「拉致られる前に行こうかな」
「ええ、そうして頂戴」
諦めの表情で言う鈴仙に霊夢が言い放つ。
「これで少しはマシになるかしら………」
霊夢が二人を見送りながら言う。
「霊夢、お祓い待ってるわよ?」
輝夜が霊夢に言う。
「っと!いけない!!」
霊夢も自分の仕事に戻る。
「あんな真面目に働く博麗の巫女、初めて見ましたよ」
てゐが霊夢を見ながら言う。
「そうね。私も初めてだわ。ああ、以前の異変の時を除いて、ね」
自分達が起こした永夜異変の事を指して永琳が言う。
「さて、私達は桜でも眺めながら出店でも回りましょうか?」
「良いですね」
「あ、私りんご飴食べたいです!」
「はいはい、買ってあげるわよ」
てゐの頭を撫でながら輝夜はそう言い、そして3人は出店の方へと向かった。
午前0時30分・博麗神社
「しかし、本当に圧巻ですねぇ………この桜は」
早苗は桜の木の下を歩きながら神奈子と諏訪子に言う。
「ええ、本当………後で花見酒でもやらないと勿体ないわ」
「だね~」
「元々宴会するつもりだったのに、何を今更」
呆れたように早苗が言う。
「それにしても、本当凄い参拝客………こりゃ、本当にあっちに居なくて良かったわ」
神奈子の言うあっちとは、当然守矢神社の事である。
「流石にこれじゃあウチに参拝客は来ないね~」
諏訪子も同意した。
「残念ですが、私もそう思います」
流石に、早苗もこの光景を見ては認めざるを得ない。
「博麗の巫女が何やってるか見てみる?」
「お祓いなんじゃないですか?」
「そのお祓いの方法よ」
「………確かに、ちょっと興味ありますね」
以前あった時は、とても巫女らしいとは思えなかった博麗霊夢。
彼女のお祓いとはどういう風なのか?
妙なお祓いのやり方なら、そこに付け入る隙がある。
自分は代々お祓いのやり方をしっかりと習っているのだから。
早苗も興味を惹かれ、霊夢の居るお堂の方へと向かった。
「うわ、凄い行列」
長蛇の列を見て諏訪子が言う。
「厄神様の効果は凄いですね………私も、来年は雛様にお願いしようかしら?」
早苗はそれを見てそう呟いた。
「さて、私達は別にお祓いしてもらう訳じゃないから直行しましょうか」
神奈子はそう言い、列を無視してズンズン進む。
「まぁ……横から列に割り込まなければ大丈夫ですかね?」
早苗は自分にそう言い聞かせて列の横を進んでいく。
幸い、誰も咎めはしない。
そして、何事もなくお堂へと辿り着く。
「ん?あ、あんたは!」
ちょうど今居る人間のお祓いを終えた霊夢が早苗を見つけて叫ぶ。
「あけましておめでとう。邪魔しに来たわけじゃないから気にしないでぇぇぇぇぇぇ!?!?」
喋っている早苗の腕を掴んで引っ張っていく霊夢。
「ちょ、ちょっと待って!だから邪魔しに来たんじゃないんですって………へ?」
何やら暴行でもされるかと思い、弁明する早苗の前にお祓い棒をビシッと突き付ける霊夢。
「ほら!これ持って!!」
「え?え?あ、はい」
言われるがままにお祓い棒を持つ早苗。
「よし!お祓い巫女獲得!!」
「は、はい!?!?」
「はい、お祓いの巫女が一人増えたから、二人目からはこっちの子に祓ってもらってね」
霊夢が並んでいる参拝者に言う。
「ちょっ!?待ちなさい!なんで私が貴女の手伝いを………!!」
「そっちの神様二人、この子借りるわよ」
早苗の問いには答えず、霊夢は神奈子と諏訪子にそう言い放つ。
「そんな事許される訳……」
「ええ、どうぞ」
「がんばってね早苗~」
「えぇ!?神奈子様!?諏訪子様!?」
あっさりと自分を切った二人に非難の声を上げる早苗。
「ほら!待ってるんだからボサッとしないの!!」
「あっ!はい!!いや、そうじゃなくて………」
怒鳴られて、思わず従ってしまう早苗。
だが、待ってる人の視線に耐えられず、結局お祓いを手伝う羽目になってしまった。
「良かったの諏訪子」
「早苗の事?」
お堂から離れた二人は言葉を交わす。
「そう。仮にも敵の神社の手伝いさせて」
「そう思うなら止めれば良かったじゃないの」
「私は止める気なかったわよ」
「私だって貴女と同じ考えよ」
二人の考え、それは
「こっちに来て漸く心が開ける相手に出会えたのに、親交を交わさないのは勿体ないものね」
「ええ」
早苗は生まれ持った能力により、外の世界の一般人とは違う生き方をしてきた。
得意な能力を持ち、神が見える。
しかしながら、外の世界でのそれはただの異端。
世間に無暗に知らせようものなら、どうなるか解ったものではない。
科学が進んだがゆえに、全てを論理的に解明しようとし、解明できないなら徹底的に調べ上げるだろう。
そう………例え非人道的な方法を取っても。
そう言う輩は、間違いなく存在する。
その為、常に隠さなければならなかった。
つまり、早苗は常に隠し事をしながら生活をしていたのだ。
友人達にさえ。
友達だと思いながらも、言えない真実。
その後ろめたさが、早苗を他の人間から確実に遠ざけていた。
だが、この幻想郷は違う。
外の世界の非常識がこちらの世界では常識として通用する。
もはや、早苗は隠し事をする必要はない。
なにせ、それを言った所で少し驚かれるか、「へぇ、そう」で終わってしまうような世界なのだから。
しかして、まぁ、こちらに来た場所も少しばかり悪かった。
排他的な妖怪の山。
普通の人間はとてもじゃないが来れる場所では無い。
折角、早苗が心を開ける環境が整ったと言うのに、開けるような相手が居ない。
まぁ、妖怪は居るが。
「これで少しは繋がりが出来ると良いんだけどね~」
「大丈夫じゃない?なんか、サバサバしてるし、あそこの連中は」
諏訪子の呟きを神奈子が下らん、とでも言うように言う。
「さってと!そんじゃ私達は宴会の場所を探しましょうか!」
「だね!」
そう言って神奈子と諏訪子は歩いて行った。
午前2時
流石に、参拝客の足も少なくなってきた。
大抵の者は参拝と桜の見物を終えて帰ったのだろう。
そして、人が少なくなり、空いてる土地が出来てくると。
「一気!一気!一気!!」
今度は宴会が始まる。
「まだまだぁ!!」
一升瓶を一気飲みした神奈子が吼える。
「こんなものぉ!!」
同じく、一升瓶を一気飲みして諏訪子が吼えた。
二人して結構飲んでるのだが、全く酔っている様子がない。
「ああ、もう………早速騒ぎの中心に居る」
ようやくお祓いを終えた早苗がお堂から出てきて頭を抱える。
「景気良いじゃない、あんたん所の神様」
霊夢もお堂から出てきて言う。
肩をポンポンと叩いているところを見ると、いささか疲れたようだ。
「良すぎなんですよ。疲れるんですよ?こっちは」
早苗は溜息を吐きながら言う。
「よう!何景気悪い顔してるんだ?宴会なんだ、楽しもうぜ!」
魔理沙が霊夢と早苗の肩に手をかけて圧し掛かりながら言う。
「いきなり飛びつかないでよね。けど、まぁ、せっかくの宴会なんだから楽しまないとね」
霊夢がそう言う。
「私も、なんか食べたいわ。流石にお腹も減って来たし」
アリスも後から来てそう言った。
「幽々子様はどちらに?」
妖夢が現れて尋ねる。
「ん~………、あそこじゃない?」
霊夢が境内を見回してから何かを見つけて指さす。
そこには
「YU・YU・KO!YU・YU・KO!!」
幽々子コールに乗りながら物凄い勢いで屋台の食べ物をくらっている幽々子の姿があった。
「幽々子様………」
妖夢は主のそんな姿を見てちょっと泣きたくなった。
「って、あれ?幽々子様、あんなお金何処から………?」
「霊夢、お前のあげたタダ券ってそんなに一杯あったのか?」
「まさか。一屋台に付き、商品一個分よ」
「じゃあ、あのお金はどこから出てるのよ」
鈴仙も仕事を終えてやって来た。
「アッー!!!!」
いつの間にか別の部屋へ移動した妖夢が叫び声をあげた。
「なんだ!?なにかあったのか!?妖夢!!」
同じく仕事を終えた慧音が妖夢の叫び声に驚いて駆けつける。
「わ、私のお財布が………………無い」
幽々子に脱がされ、畳まれた衣服をひっくり返して妖夢が言う。
もう、既に皆解っていた。
敢えて「何処に?」とは問うまい。
何故なら、財布の中身は既に商品と交換され、幽々子の胃袋に納まっているのだから。
そんな折
「もう一遍言ってみなさいよ!!神奈子!!」
「何度でも言ってあげるわよ!あんたじゃ何千回挑んでも私に勝てないわ!!」
ヒートアップしすぎた神奈子と諏訪子が喧嘩を始めた。
「か、神奈子様!!諏訪子様!!」
慌てて早苗が駆け寄ろうとする。
が、突如現れた何者かに行く手を遮られた。
「だ、誰です!?邪魔しないで下さい!!」
「そう怒らないの。可愛い顔が台無しよ?」
そう言いながら現れたのは、神出鬼没と言えばこの人と鬼の伊吹萃香のみ。
そう、八雲紫である。
「紫?一応、神社壊れるような争いは私も困るんだけど?」
霊夢が紫にそう言う。
「紫……?まさか、八雲紫……?」
霊夢の言葉に顔色を変えて尋ねる早苗。
「あら?私の事をご存じ?嬉しいわ」
「ええ……神奈子様から聞いてます」
その内容は
「そうだ。早苗、一つ伝えて置く事があったわ」
それは博麗の巫女達によって打ち負かされてから数日経った日の事。
神奈子は突然早苗にそう言った。
「はい、なんですか?またお酒が切れましたか?」
「違う違う。これはまじめな話。ちゃんと聞きなさい」
神奈子がいつになく真剣な顔で話す。
「この幻想郷で二つ、やってはいけない事を教えておくわ」
「やってはいけない事、ですか?」
早苗は首を傾げる。
外の世界では無敵に等しかった早苗の力も、この世界では精々中から中の上と言った所だ。
無敵に等しかったのは、似たような力を使う者も、その力の対処法を知っている者もいなかったからだ。
中の上程度だとするなら、やってはいけない事にはまず、自分より力の上の物を敵に回す事だろう。
「まぁ、あんたの事だから、自分より強い奴は敵に回すなって言うのは態々言うつもりはないわ」
が、その辺りは神奈子も理解している。
「これから言う事は、必ず守りなさい。良い?必ずよ?」
「はい」
滅多に見ない神奈子の表情に早苗にも緊張が走る。
「一つ。博麗の巫女の殺害を行わない事」
「はぁ………まぁ、流石に敵対している所の巫女とは言え、そこまでやるつもりはありませんが…………何故です?」
「博麗の巫女はこの幻想郷を包み込んでいる大結界の要を担っている。つまり、博麗の巫女を殺せば結界は壊れる」
「結界が壊れたらどうなるんですか?やるつもりは毛頭ありませんが」
「さぁ?幻想郷が消滅するか、外の世界と統合されるか………どちらにせよ、私達がそれを知る事は無いわ」
「??何故です?」
「その理由がもう一つのやってはいけない事。それは、境界を操る妖怪、八雲紫を敵に回さない事よ」
「境界の妖怪?」
「詳しい話は小難しくなるから省くけど、簡単に言うと、物事全てに干渉できる力、とでも言えばいいかしら?勿論、貴女達人間にも、私達神々にさえも」
「干…渉……?」
「簡単にいえば、私達を好き勝手に弄くり回せる力があるのよ、そいつには」
「妖怪がそんな力を?」
「妖怪だけど、あれの能力は完全に神の領域よ。だけど、妖怪。ここが厄介なのよ」
「妖怪と言う事は霊体にはなれないと言う事ですよね?」
「そう、逆を返せば肉体があるがゆえに、その力は私達の様に信仰に左右される事がない。つまり、安定してるのよ」
「つまり、信仰を貶めたりして力を削ぐと言うような事が出来ない、と」
「そう言う事。で、さっきの博麗結界を壊したら、の結果を私達が知る事がない理由は、それをしようと行動を起こした瞬間、あいつに殺されるからよ」
「殺………神奈子様や諏訪子様でも、ですか?」
「信仰が弱くて力が大して出ない今じゃ、100%、いえ200%殺されるわね。どうあがいても無理。勝てっこないわ」
自負心が強く、滅多に他人を認めない神奈子がはっきりと「勝てない」と言い放った。
それがどれほどのものか、早苗にも漠然とは解る。
「あれ自身半端無く強いうえに、その式も桁が外れてる。今の私達じゃ、下手すりゃ式にさえ勝てないかもね」
「そんな妖怪が………」
「話してみて、あの妖怪は幻想郷をかなり大事にしてるように感じたわ。だから、それを害するものは一切許さない。ま、逆を言えば、馬鹿やらなきゃ良いってだけの話だけどね」
「なるほど………あれ?話した事あるんですか?」
「ん?ああ、前に幻想郷の説明を態々しに来てくれたわ。ま、どっちかと言うと、馬鹿な真似するなよって釘を刺しに来たんでしょうけど」
「解りました。その二つは肝に銘じておきます」
「まぁ、そこまで神経質にならなくて良いわよ。あれも妖怪らしく、一々人間の事なんて気にしないだろうから」
と言うような物だった。
実際に対峙して早苗も感じる。
(神奈子様の言う通りだわ…………測れない……底が…………)
早苗は紫に畏怖を感じていた。
「あらあら、そんなに怯えないで頂戴な。取って食おうって訳じゃないんだから」
扇子を口に当てて楽しそうに笑う紫。
高位の妖怪独特の、掴めない雰囲気がありありと出ている。
「で、紫。あれどうすんのよ?止めるからには何か手はあるんでしょうね?」
霊夢が不機嫌そうに言う。
当然だ。
酔っぱらいの乱闘で神社が壊れた日には何が起きるか解ったものではない。
「ええ、任せなさい。そこの二人」
紫が今にも殴り合いでも始めそうな神奈子と諏訪子の方を振り返り、呼びつける。
「何さ!!」
「何よ!!」
ものすごい目でにらんでくる二人。
「落ち着きなさい。誰も止めようなんて野暮な真似はしないわ」
止めないのかよ!!っと、多くの者達が突っ込んだ。
「だから、いっその事派手にやりなさい。ただし………」
紫はそう言って、空に大きく境界を引き、そこから隙間が開いて何かが落下してきた。
ズドンッ!!!
「こ、これは!?」
神奈子が目を見張る。
落ちてきたそれは、リングだった。
「貴女達が居た外の世界のスポーツ、ボクシングで決着をつけたらどうかしら?」
紫はそう言った。
リングの上にはご丁寧に試合用の8オンスのグローブまである。
「良いわ。なんであろうが私が諏訪子に負けるわけは無いわ」
「それはこっちのセリフよ!!」
二人は勢いよくリングに上がる。
「ラ~ン」
紫が己の式を呼ぶ。
巫女服から元の服に着替え、橙を膝の上に置きながらまったりとしていた藍は、主の呼び声に溜息を吐きながらやって来る。
「なんでしょう?」
「審判お願いね♪」
「畏まりました」
反論しても無駄だと悟っている藍は素直に応じた。
「さて、それじゃあ解説も必要よね」
紫はそう言って再び境界を引き、隙間を開く。
そして、今度は解説用の机と椅子が降って来た。
「じゃあ、早苗ちゃん、手伝って頂戴♪」
紫は早苗の腕を引っ張りながらそう言った。
「ちょっ!?ちょっと!!」
抵抗しようとするが、妖怪の力に人間が敵う道理は無し。
「外の世界のスポーツだから知ってる人の解説必要でしょ?」
「いや、まぁ、それはそうかもしれませんが」
「と、言う訳で、まずは自己紹介をするわね~」
設置されて居るマイクに向かって喋る紫。
「実況は私、八雲紫と」
そう言って紫が隣に座らせた早苗を見る。
早苗は溜息を吐いて。
「解説は私、東風谷早苗でお送りいたします」
「おせんみこちゃ~♪」
「ハッ倒しますよ?」
いきなりの紫のボケに、思わず相手が八雲紫と言う事を忘れて突っ込む早苗。
「ああ、良いわ。良い突っ込み。そうでなくちゃいけないわ」
が、紫は事の外、御満悦だった。
(本当、掴めない…………)
早苗はそう思っていた。
「さぁ、第一回、GBA(幻想郷ボクシング協会)無差別級タイトルマッチ!いよいよ始まるわよ!」
紫の言葉に歓声が上がる。
なんであろうが、宴会に参加している者達は面白ければそれで良いのだ。
「ボクシングに無差別級何てありませんけどね」
「ルールはいたって単純。手を使って戦って、下半身への攻撃、眼つぶし、頭突き、肘打ち、投げ技、後は倒れてる相手への攻撃は反則よ」
早苗の突っ込みをサラッと流して紫は続ける。
「1ラウンド3分間で………」
「あ、まだるっこしいからラウンド制排除ね。10カウント以内に立てなくなるまで続けなさいな」
「そんな、危険な………」
「大丈夫よ、リングドクター居るから」
「それはもしかしなくても私の事よね?」
紫に視線を送られた永琳が答える。
「勿論♪」
「まぁ、良いわ。どうせ観戦させてもらうし」
永琳はあっさりと受け入れた。
「さぁ、それじゃあめんどい前置き抜きにして………始め!!」
カーンッ!!
既に準備を終え、ゴングを待っていたリング上の二人に向けてそう言うと同時にゴングを鳴らす紫。
「さぁ、始まりました。どちらが優勢でしょうかねぇ、解説の早苗さん」
「どう見ても神奈子様ですよ。リーチ、ウェイト、ボクシングに置いて重要なファクター、っと、腕の長さと体重、その要素の二つの内両方とも神奈子様の方が上ですから」
幻想郷に英語が無い事を思い出し、日本語に訳して言う早苗。
早苗の言うとおり、見ればわかるくらい二人の差は歴然だった。
「ただ………」
「ただ?」
何かを言いかけた早苗に紫が反応する。
「諏訪子様は背が低すぎます。つまり、神奈子様は諏訪子様の上半身を凄く狙い辛いんですよ」
「お~、言われてみればそうですね~」
そんな折、リングを一定の距離を保ちながら円を描くようにグルグルと回っていた神奈子と諏訪子だったが、神奈子の方が構えをとった。
左腕を直角に曲げて左右にゆすり始めた。
「あれは……ヒットマンスタイル!」
それを見て早苗が叫ぶ。
「と言う事は、蛇神様は、フリッカーを?」
「恐らくは………あ、フリッカーとは腕を鞭のようにしならせて打つジャブ、左パンチの事で、軌道が読みづらいので避け辛く、さらには当たった所が腫れやすいんです」
空かさず早苗は知らない人たちに解説をする。
なんだかんだ言ってしっかりと仕事をしていた。
「なんか面白い事になって来たな~」
リング上が見えるように縁側に座って酒を飲みながら魔理沙が言う。
「そうね」
霊夢が同じく酒を飲みながらそれに同意する。
「あら、お祓いは終わったの?霊夢」
そこにレミリアと咲夜が現れた。
「ん?来てたんだ、あんた達」
「酷いわね。ちゃんとお賽銭も入れてあげたのに」
「それはありがとう。あんた達も座ったら?」
「そうね。咲夜、貴女も座りなさい。隣で突っ立たれてても目障りなだけだわ」
「承知いたしました」
レミリアの言い方はきついが、そうでも言わないと咲夜が座ろうとしない為、敢えてそう言っている。
「どっちが勝つと思う?」
魔理沙がレミリアに問う。
「白い方が勝つわ」
「お嬢様、そのネタは霊夢達には解りませんわ」
咲夜がレミリアに突っ込む。
「冗談はさておき、青髪の方じゃない?」
「理由は?」
霊夢が尋ねる。
「あの青巫女が言ったとおりよ。リーチとウェイト、格闘において重要な要素の内二つともあっちの方が有利だから。」
「腕の長さはわかるが、体重がどう重要なんだ?」
今度は魔理沙が尋ねる。
「単純に考えて、そこに転がってる小石と、そっちの石、同じ速度でぶつけられたらどっちが痛い?」
小石の方は精々五円玉程度の大きさ、対して石の方は野球ボールくらいはある。
「ああ、なるほど」
「そう。事、拳での破壊力と言うのは、握力(硬さ)×体重×速度。加えて体が大きい方が基本的に耐久力高いから、あっちのちっこいのは何発も当てる必要があるけお、青い方は強力なの一撃入れれば、ほぼ勝利は確実ね」
「って事は、さっきから打ってるあまり威力なさそうなあの左も?」
再び霊夢が聞く。
「ええ、あのちっこいのにとっては相当な威力の筈よ」
リング上では諏訪子が必死に神奈子のフリッカーを避けていた。
「良く避けるわね~蛙の神様」
戻ってこちらは実況の紫。
「あ!諏訪子様が」
早苗が声を上げる。
それは諏訪子が突進したからだ。
ただでさえ低い体勢をさらに低くして。
「ちっ!!」
神奈子は舌打ちをしつつジャブを繰り出す。
が、殆どは背中の方に行ってしまい、ダメージはほとんど入らない。
「なるほど、良い手ね」
「あ、諏訪子様、懐に潜り込んで………あ、あれは!!」
諏訪子は潜り込むと同時に神奈子の足元でしゃがみ込む。
そして
「あ~~~う~~~~~~!!」
思いっきり跳ね、同時に突き上げるように拳を振り上げる。
「っく!!」
寸での処で避ける神奈子。
「カ、カエルパンチ!!」
「流石蛙の神様、見事なカエルパンチね。避けられたけど」
「ええ、足もとからしゃがんで、全体重を乗せて体ごと突き上げるパンチ。不格好な見た目とは裏腹に、威力は相当高いですよ」
「あれなら、まともに入るとまずいわね。顎に当たれば簡単に脳震盪くらい起こすでしょし」
「ええ。これで神奈子様も油断できなくなりましたね」
「それはそうと、貴女、やけに詳しいわね。それ程詳しい解説は期待してなかったんだけど」
「え?あ、ああ………向こうで本で読んだので…………」
向こうとは言わずもがな、外の世界の事だ。
「ああ、もしかしてあれ?はじめの独歩」
「惜しい。何かがかなり違うんですけど、惜しいですね」
「まぁ、ともあれ、あれを読んでた訳ね」
「ええ、まぁ………」
「おっと、そんな事言ってる間に再び蛙の神様が懐に入ったわよ!」
リング上を見ると、諏訪子がさっきと同じ方法でフリッカーをかいくぐり、再び懐に入っていた。
「あら、懲りずにカエルパンチ?」
「まずい……神奈子様はもう解っているわ………カエルパンチは外した時の隙が大きすぎるのに」
先ほど避けられても無事だったのは、神奈子が行き成りの事だったので避ける事だけで精一杯だった為だ。
そして、諏訪子が再びカエルパンチを放った。
「あ~~~う~~~~~!!」」
「見え見えなのよ!!」
が、案の定、今度はあっさりと避けられてしまった。
「あら、隙だらけ」
紫があっけらかんに言う。
「いえ、あ、あれは!?」
だが、その後の諏訪子の行動を見て早苗が驚く。
しかし、リング上の神奈子はそれに気づかず、空中で隙だらけの諏訪子を叩き落とそうと、拳を振りかぶり、諏訪子の方を見る。
そして、その表情が驚愕に変わる。
「あ~~~…………」
諏訪子は空中で反転し、掟破りの上から下へのカエルパンチを放つ体制になっていた。
拳を振りかぶっていた為、何より完全に予想外の光景に神奈子は完全に隙だらけになっていた。
そして、その神奈子の顔面めがけて
「う~~~~~!!!」
ドゴンッ!!!
上からのカエルパンチが、見上げた神奈子の顔面にクリーンヒットした。
そして、そのまま仰向けにダウンする神奈子。
「ド、ドラゴンフィッシュカエル!?」
「あっちでは幻の技に終わったけど、確かに空を飛べる者なら可能ね」
因みにドラゴンフィッシュカエルのドラゴンフィッシュとは、ドラゴンフィッシュブローと言われる、マンガの中のパンチである。
それは、まず左をボディへ放ち、相手の視線がボディ、即ち下に向いた所に右を弧を描くように振りまわし、下を向いている相手の死角から当てるパンチだ。
その上下のコンビネーションにちなんで、カエルパンチと組み合わせて上と下からカエルパンチを放つのをドラゴンフィッシュカエルと名付けられ、考案されたが、外の世界では人間が空を飛べるわけもなく、上からが不可能な為、幻の技となった。
「ラ~ン、カウント~」
紫が審判の藍にカウントを数えさせる。
「って、空飛ぶのアリなんですか!?」
早苗がその事に思い至って叫ぶ。
「ボクシングのルールに空を飛んではいけないとは書いてないわ」
「いやいやいや、向こうじゃ空飛べる人間いませんから!!」
「じゃあ、5秒以上空飛んじゃダメ。これ追加ね」
「って事は結局今のはアリと?」
「反則と言うほどじゃないでしょ?」
「まぁ、それは………っと、神奈子様、カウント6で立ち上がり始めました!」
「立て!立つんだ縄(ジョー)!!」
「誰が上手い事言えと」
「突っ込みありがと♪」
実況してるんだかコントしてるんだか解らない二人である。
カウント8で神奈子は立ち上がり、ファイティングポーズをとった。
「ファイッ!!」
そして、藍が続行させる。
「うわ、効いてますね、神奈子様………」
まだ、足取りが怪しい神奈子だった。
「そりゃねぇ………上から全体重を乗せて降って来たものねぇ」
「体重に重力加速度も加われば、地に足を付けて打つパンチと比べたら破壊力が桁外れですからね…………」
「下手に今、大きいの貰うとまずいかもしれないわね」
そして、そのチャンスを諏訪子が見逃すわけもなく、突進してきた。
神奈子もフリッカーで応戦するが、キレが無い。
「あちゃ~………今度は真正面から突進されてるわ」
「キレが落ちてますから、態々体勢低くする必要なんてないと言う事でしょう」
そして、あっという間に懐に潜り込む。
が、今度はしゃがまない。
それどころか
「と、止まった!?」
「何で止まるのかしら?」
少しだけ間合いを開けた状態で諏訪子は急ブレーキをかけた。
突然の事に神奈子も警戒をして手を出さない。
そして
「ああ!?あれは、まさか!!」
早苗が叫ぶ。
同時に、諏訪子がまるで何かを見つけたかのように顔を横に向けた。
神奈子が釣られ、観客も、審判の藍も「何だ?」とばかりにそちらを向いてしまう。
そして、その後諏訪子は素早くしゃがみ込み、カエルパンチの体勢になる。
思わずよそ見をした人間が、ハッとなって前を向いた時にしゃがんでいると、相手からは突然消えたように見える。
そのパニックの瞬間を狙って下から突き上げるカエルパンチ。
ダメージを受けている神奈子が今これを貰えば、まず立てないだろう。
そして、今度はバレないよう、声を出さずにカエルパンチを放つ。
勝利を確信し、よそ見をしている神奈子を見上げる諏訪子。
だが、見上げた先にあったのは、逆に勝利を確信した笑みを浮かべ、思いっきり振りかぶっている神奈子だった。
「引っ掛からなかった!?」
早苗が叫ぶ。
「いえ、完全に横を向いていたわ。つまり、わざと掛った振りをしたのよ」
紫が冷静に分析する。
そして、最早カエルパンチを止める事も出来ず、跳躍する諏訪子の顔面めがけて
「チョッピングオンバシラ!!!!」
ズドゴンッ!!!
オンバシラを思いっきりぶつけた。
「ちょっ!!オンバシラ!!凶器!!反則!!!」
早苗が叫ぶ。
当然だ。
「ラ~ン」
紫が審判の藍に声をかける。
「カウント~」
そしてそう言った。
「「ええぇぇぇぇぇぇ!?!?」」
叫び声をあげたのは早苗と藍、両方。
「反則じゃないですか!!」
早苗が抗議の声を上げる。
「何で?」
「何でって、凶器攻撃ですよ!?」
「あらあら、貴女聞いてなかったの?」
「何をですか?」
紫の言葉に怪訝そうな顔で聞き返す早苗。
「私が最初に言ったルール」
「勿論聞いてましたけど、パンチのみじゃないですか」
「言ってないわ、そんな事」
「えぇ!?」
「良い?私が言ったのは、こう。手を使って戦って、下半身への攻撃、眼つぶし、頭突き、肘打ち、投げ技、後は倒れてる相手への攻撃は反則」
「ま、まさか………」
「いつ私が「パンチのみ」とか「道具を使ってはいけない」とか言ったかしら?」
「そんな馬鹿な………」
「それに、あの蛇神様、ちゃんとグローブしながら柱に取っ手を付けてトンファーの様に握ってたわ。これは「手を使って」に相当するから問題ないわよ」
「あ、あり得ない…………」
「んもう、硬いわねぇ………大丈夫よ。前にサッカーが流行った時も「フィールダーは手を使わなければ何をしても良い」って感じだったし」
「そんなのサッカーじゃない………そんなのサッカーじゃない…………」
「あ、話してる間に10カウント終わったわね」
「そりゃ立てないでしょう………」
諏訪子はつぶれた蛙のようにひっくり返ったまま目をグルグルと回していた。
オンバシラをぶつけられて鼻血すら出てないのは大したものである。
「ま、当然ね。最強は常にこの私よ」
リング上で勝ち誇ってそう言う神奈子。
だが、その言葉に反応した者がいた。
「何言ってるのよ!サイキョーは常にこのあたいよ!!!」
ご存じ、⑨こと、チルノだ。
「チ、チルノちゃん!!」
慌てて大妖精が止めようとする。
当たり前だ。
相手は神様、弾幕ならいざ知らず、肉弾戦ではチルノがどうひっくり返っても勝てる相手じゃない。
弾幕でも相当に勝ち目は薄いが。
「はん!あんたの相手なんて私で十分よ!!」
が、チルノの相手に名乗り上げる者がいた。
「ちょっ!?てゐ!?あんた酔ってるわね!?」
酒の為か、ちょっと頬を赤くしてるてゐだった。
「なにお~!?」
そして、見事に挑発に乗るチルノ。
「良いじゃない良いじゃない。じゃ、今度はその二人ね♪」
そしてそれに乗る紫。
「ちょっ………二人とも子供じゃないですか!!」
「大丈夫よ、かたや元々サイズの小さい妖精、かたや見た目はアレでもかなり長生きしている妖怪だから」
「だ、大丈夫なんですか?」
「問題ないわ。リングドクター居るじゃない」
再び永琳の方を見て言う紫。
「まるで私に全責任を投げるようなその言い方、止めて頂けるかしら?」
永琳は諏訪子の治療をしながらそう返した。
もっとも、治療と言っても額に氷嚢(ひょうのう)を置いているだけだが。
「でも、死ななければ治せるでしょ?」
「否定はしないわ」
その辺りは否定しない永琳。
「と言う訳だから、始めちゃいましょ♪」
「何が、と言う訳だから、ですか…………」
「それにほら、リング上の二人も、観客ももう待ちきれないみたいよ?」
「うわ、いつの間に。ああ、もう。それじゃあ今度はさっきのに加えてグローブ以外の道具使うの禁止ですからね!」
早苗が素早くルールを追加する。
そして、てゐもチルノも既にリング上でグローブをはめて待っていた。
「と言う訳で、開始!」
カーンッ!!
再びゴングが鳴らされた。
「チルノ~!真正面から打ち合うな!速さで撹乱しろー!!」
チルノ側のコーナーからレティがそう指示を出す。
「あったりまえよ!かくらんしてやるわ!!」
が、チルノはそう言いながらも真正面から突っ込んでいった!!
「全然解ってないじゃん!!」
叫ぶレティ。
「レティちゃん。撹乱なんて言っても、チルノちゃん解らないよ?」
「はっ!!」
レティはチルノの知能指数の事を失念していたようだ。
「もらった!!」
そのチルノに挨拶代わりのジャブをお見舞いするてゐ。
「わわっ!!」
寸での所で避けたチルノ。
「や、やるじゃないの………」
「あんたこそ。良く避けたじゃない」
てゐの構えはオーソドックスな構えで、その姿からボクシングは知っているように見受けられる。
「前からは危ないわね………」
流石のチルノも、今ので真正面からの突撃は危険だと学習したようだ。
「横に動け!チルノ!!」
再びレティのアドバイスが飛ぶ。
「解ったわ!!」
そう言ってチルノは、本当に真横にスライドした。
「そうじゃねぇぇぇぇぇぇ!!!!」
リングサイドをバンバンッ!!と叩きながら叫ぶレティ。
「ダメよ、レティちゃん。チルノちゃんに説明するには噛み砕いて磨り潰して、粉々にするくらい詳しく言ってあげないと」
さり気なく毒を吐く大妖精。
「はっ!やっぱりただのバカね!!」
今度はてゐが前に出る。
どこで学んだのか、しっかりとしたジャブでチルノを狙う。
「わっ!わわっ!!」
しかし、そこは最強の妖精チルノ。
そう簡単にはもらわない。
「ああ、もう!そうじゃないってのに!!」
リングサイドのレティがチルノの動きにやきもきする。
「大丈夫だよ、レティちゃん」
「大ちゃん?」
「チルノちゃんは理論よりも本能で動く方だから、チルノちゃんに任せておけば大丈夫だよ」
大妖精は笑顔でそう言った。
「そ、それもそうね」
大妖精に言われて、レティも納得する。
同時に、やはり親友なんだなぁと関心もしている。
「それにね」
「うん?」
言葉を続ける大妖精にレティが相打ちを打つ。
「馬鹿に何言っても無駄でしょ?」
ニコッと笑ってそう言う大妖精。
「ソ、ソウデスネ。大妖精サン」
思わず片言になり、さん付けまでしてしまうレティ。
(降臨してる………今の大ちゃんには何かが降臨してる…………)
背中に寒いものを感じれずにはいられないレティだった。
一方、リング上では。
「この!ちょこまかと!!」
大妖精の言うとおり、本能で動き続けるチルノは、いつの間にかてゐの動きに順応していた。
「ふん!当たらないわよ!!」
ドスドスッ!!
「っく!!」
そして、顔にはまだ当ててはいないが、コツコツとボディにパンチを当てている。
ボディにパンチをもらい過ぎると、スタミナが削られ、その内足と手の速度が落ちる。
無論、チルノはそんな事は知らない。
偶々かいぐくった時にボディが空いてるから殴る。
それだけであった。
が、その効果は徐々に現れ始めた。
「てゐ!落ち着きなさい!!あんたスタミナ落ちてるわよ!!」
リングサイドの鈴仙がてゐに向かって叫ぶ。
「気をつけるがいい、勇敢なる妖精よ」
「うわっ!びっくりした!!」
いつの間にかリングサイドの鈴仙の隣にはラビット・スネークとその仲間が集まっていた。
因みに、どう見ても身長が足らないので、みかん箱のような物の上に乗っている。
「軍曹は妖怪の誇りを背負って戦っていると勘違いをしている」
「軍曹………ああ、てゐの事だっけ?」
「負ける事などプライドが許さない。どんな事をしてでも勝ちにいくだろう………「どんな事をして」でも」
鈴仙の問いには答えず、ラビット・スネークはそう呟く。
「ぐっ!!」
ついに、てゐは顔にも被弾をし始めた。
ボディを打たれて顔が下がり、更に動きが止まった所を打たれる。
「ああっ!軍曹が!!」
「た、倒されてしまう!!」
ラビット・スネークの仲間二人が悲鳴を上げる。
「こ、この!」
苦し紛れにてゐは拳を振るう。
が、それはチルノに攻撃のチャンスを与えているだけだ。
「ぐっ!!あぅ!!」
更に被弾するてゐ。
(た、倒れないわよ…………妖精に屈服する事など許されないのよ!!)
「もらったわ!!」
動きが止まったてゐに、トドメを刺さんと、チルノが突っ込む。
「っ!!」
そのチルノに向けて大きく左を打ち込むてゐ。
「見え見えよ!!」
てゐの拳は避けられ、大きくチルノの後部へと抜けた。
が、その拳はそのまま戻されず、チルノの後頭部の方へと向かい
(妖精に負ける事なんて………許されないのよ!どんな事をしても!!!)
ゴッ!!!
「!!!!!」
チルノの後頭部を殴った。
「「あっ!!」」
レティと大妖精が同時に声を上げる。
「あ、あんた………後ろ頭を………!!!」
後頭部と言わないあたり、チルノである。
そして、そのまま、ストンッとリングに膝を付いてしまった。
「ラビットパンチ………」
ラビット・スネークが呟く。
「なんだ?スネーク。そのラビットパンチと言うのは」
ラビット・スネークの仲間が問いかける。
「後頭部を直接叩き、脊髄に直接衝撃を与える。最も脳障害が起こりやすい、最悪の反則打だ。」
これは実際のボクシングでも当然そうである。
「間違いなく狙って打った………軍曹は拳闘家としての誇りを捨てた………!!」
「いや、てゐは別に拳闘家じゃないでしょ」
悔しそうに呟くラビット・スネークに冷静に突っ込む鈴仙。
「い、今のはラビットパンチですよ!!」
解説の早苗が叫ぶ。
そして紫が
「ラ~ン」
審判の藍に声を掛け。
「カウント~」
「「「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」」
今度は早苗と藍、加えてレティも叫んだ。
「ちょっと!今の反則打ですよ!?」
早苗が紫に抗議する。
と同時に、レティが走る。
「レ、レティちゃん!?」
大妖精が驚く。
「反則打とかそんな事言ってる場合じゃないのよ!!」
レティはてゐのコーナー近くで座り込んでいるチルノの元へと走る。
「後頭部への衝撃は最も脳障害を招きやすい………それを元々脳に障害(バカ)を抱えている者が食らったとしたら…………!?」
「逆に良くなるんじゃない?」
「それ言えてる」
何処からともなく聞こえた声に、思わず足を止めて納得するレティ。
「レティちゃあぁぁぁぁぁぁぁん!?」
感動ぶち壊しなレティに叫ぶ大妖精。
「9~…………10!」
そして、リング上の藍が10カウントを数え終えた。
「な、何でありなんですか!?」
早苗が紫に食ってかかる。
「だって、手を使って戦って、下半身への攻撃、眼つぶし、頭突き、肘打ち、投げ技、後は倒れてる相手への攻撃は反則。加えてグローブ以外の道具は使用禁止。これがこちらの提示したルールでしょ?」
「ま、まさか貴女はまた…………」
「ええ、「上半身前面」しか攻撃範囲として認めないなんて言ってないじゃない」
「もういや…………」
机に突っ伏して呟く早苗。
この妖怪はルールを解ってるくせに、わざと面白おかしくするために詳しくルールを提示しないのだ。
それが解った早苗は一気に力が抜けてしまった。
「チルノちゃん!チルノちゃん!!」
リングサイドのスーパードクターEこと、八意永琳の下で倒れているチルノに大妖精とレティが駆け寄る。
「心配しなくて良いわよ。何も問題はないわ」
その二人に永琳は優しい笑顔で返す。
「良かったぁ………」
大妖精が胸を撫で下ろす。
「あたいは……サイキョーなのよぉ………」
うわ言でも普段と同じような事を呟くチルノ。
「こりゃ確かに大丈夫そうね」
「そうだね………ところで、レティちゃん?」
ガシッ!とレティの肩を力をこめて掴む大妖精。
「な、何?大ちゃん」
やや俯(うつむ)き加減な為、大妖精の表情は見えない。
「なんでさっきチルノちゃんの所に駆け寄るの止めちゃったのかな?」
「え?いや、ほら、なんか納得されるような言葉聞いちゃったから、ね?」
冷汗を垂らしながらレティは答える。
「ねぇ、レティちゃん?」
「な、何?大ちゃん」
大妖精はそこで顔をあげてレティの方を見、そして
「ちょっと、私とお散歩しようか」
目が笑ってない笑顔でそう言い放った。
「ひぃ!!」
思わず怯えるレティの首根っこを素早くつかみ、引きずっていく大妖精。
「ご、ごめん!ごめんなさい!大ちゃん!いや、大妖精さん!!」
引きずられながら必死に謝るレティ。
「うふふふふふふふふ」
だが、それには応えず、聞くものを畏怖させる笑い声を出しながらレティを引きずる大妖精。
「いやああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それを見ていた者達は一様に思った。
(大妖精………恐ろしい子!!)
と。
午前3時・博麗神社・境内
「しかし、この時期に花見酒とはね~」
霊夢は咲き乱れる桜を見上げながら呟く。
「良い仕事したでしょ?」
幽香がそう言う。
「ええ、今回ばかりは素直に認めるわ」
「いつもこう言う事をしてくれれば有難いのだがな」
慧音が現れて幽香にそう言った。
「あら、それはダメよ。だって、こう言うのは偶にやるから良いんじゃない。お祭りだって毎日やってたら面白くないでしょ?」
「宴会なら大歓迎だぜ」
幽香の言葉に魔理沙が返す。
「そうとも言えないんじゃないの?前に無理やり宴会させられてた時だってそうじゃない」
魔理沙の言葉にアリスがそう言う。
「あれは途中から殺伐としてたものねぇ」
視線を上にあげ、思い出すようにレミリアが言う。
「まぁ、あの事態にいつまでも気がつかない呑気な巫女も居ましたけどね」
「うっさいわねぇ」
咲夜の言葉に霊夢がムスッとして言い返す。
「ところで、その件の鬼は?」
アリスが尋ねる。
「どうせそこら辺にいるでしょ。萃香!出てらっしゃい!!」
霊夢が叫ぶ。
「呼んだ~?霊夢」
すると、突然鬼の伊吹萃香が現れた。
「お前、今までどこに居たんだ?」
魔理沙が尋ねる。
「萃香さんはずっと居ましたよ、この神社に」
突如、文が現れてそう言った。
「あら、鴉天狗。良い記事はかけたかしら?」
幽香が尋ねる。
「ええ、お陰さまで。まぁ、大勢の目に触れたので、みんな同じネタを書くでしょうけどね」
困ったように笑いながら文は言う。
「あら?だったら当事者の話でも記事に載せてみる?」
幽香が文にそう言った?
「良いんですか!?」
よもや幽香がそう言うとは思ってなかった文は食いついた。
「ええ、今日は珍しく気分が良いから答えてあげるわよ」
「それでは早速!」
文は幽香の取材に入った。
「私としてはあいつの言った「ずっとこの神社に居た」の説明をして欲しかったんだがな」
魔理沙がボソッと呟く。
「言葉通りよ」
「あら、幽々子。お腹は膨れたの?」
やって来た幽々子に霊夢が尋ねる。
「ん~………まぁまぁね」
幽々子はそう答えた。
「私のお財布は飢え果ててしまいましたがね」
妖夢が涙を流しながら空の財布を逆さにする。
無論、何も出てこない。
「で、言葉どおりって言うのは?」
アリスが尋ねる。
「萃香の能力は「密と疎を操る程度の能力」、自分を疎にしてこの神社一帯に広がっていたのよ。前もそうしてたじゃない」
幽々子がそう答えた。
「無理だよ、幽々子。普通の奴らじゃ気づけないからさ」
瓢箪の酒を飲みながら萃香はそう言った。
萃香にしてみれば霊夢も魔理沙もアリスも「普通」にカテゴライズ(分類)されるようだ。
因みに、さっきのボクシングの時にレティに「逆に良くなるんじゃない?」と言ったのは、この萃香だ。
「あら、萃香。現われてたの?貴女」
更に紫も登場した。
因みに後ろには藍と橙も居る。
「霊夢に呼ばれたからね~」
自覚はないが、霊夢には不思議と人妖問わず惹きつける力がある。
この神社に妖怪の来訪者が多いのもその為だろう。
「ちょうど良かったわ。折角だから幻想郷にふさわしい光景を作り出そうと思ったから」
「へぇ?何するの?」
萃香が紫に尋ねる。
「まずは、この子の力を借りるわ」
紫はそう言うと隙間を開いて、そこから誰かを落とした。
「へぶっ!?いったぁぁ…………何なのよもう!!突然引っ張られたと思ったら、ここ何処よ!?…まぁ、大ちゃんからは逃げられたけど」
落ちてきたのは冬の妖怪のレティだった。
「ん?冬の妖怪じゃない。ああ、なるほどね~」
萃香はそれを見て察した。
「何?妙な事はしないでよ?」
霊夢が萃香と紫に釘を刺す。
「大丈夫よ。良い物見せてあげるわ。お酒がおいしくなる物を、ね」
紫がウィンクしながらそう言った。
「って、ここ神社?」
レティが漸く場所の把握をする。
「さて、冬の妖怪さん」
「んげ!?八雲紫!!」
やはり紫は有名、かつ、恐れられているようだ。
「失礼な驚き方ねぇ………まぁ、いいわ。貴女にやって貰いたい事があるのだけど」
「やってもらいたい事?」
流石にレティも真っ向から刃向う真似はしない。
まずは話を聞く。
「そう。耳を貸してもらえるかしら?ああ、大丈夫よ。物理的に貸せなんて言わないから」
「んな事言った方が怯えるっつの」
魔理沙が紫に突っ込む。
レティは渋々耳を貸す。
その耳に紫が何やらボソボソと呟く。
「へ?そんな事でいいの?」
「ええ、そんな事でいいの。お願いできるかしら?」
「まぁ、そんな事でいいなら構わないけど」
レティはそう言うと、空へ向かって上昇を始めた。
「萃香は言う必要ないわよね?」
「あったり前じゃん」
萃香は自信満々にそう言った。
「何する気?」
レミリアが紫に尋ねる。
「直ぐに解るわ」
だが、紫は問いには答えずにそう返す。
そして、それは確かにすぐに解った。
「あ…………雪」
アリスが天を仰いで呟く。
それに釣られるように、全員空を仰ぐ。
「へぇ………雪見酒に花見酒。確かに普通じゃ見れないわね」
霊夢が感心したように言う。
レティが上空で寒気を操り、雪を降らせたのだ。
「まだ感心するのは早いよ、霊夢」
「え?」
萃香はそう言うと同時に、空の一点を見上げる。
やはり、釣られるようにみんなその一点を見る。
すると、次第にその一点のみ雲が散り、そして…………
「月が…………」
月が顔を出した。
「雪・月・花…………決して揃う事のない三つが揃う。幻想的じゃなくて?」
紫が誰にともなく言う。
「へぇ………粋な事するじゃない、貴女も」
輝夜が永遠亭の面々をひきつれて紫にそう言った。
「もっと褒めて頂戴♪」
扇子を口に当てながらコロコロと笑いながら紫はそう返す。
「本当に、ここは「幻想」郷だねぇ」
神奈子も諏訪子と早苗と一緒に現れてそう言った。
「本当、これだけでも来たかいがあったかもねぇ」
諏訪子もそう言う。
つい先ほど殴りあってたのに、既に和解している。
まぁ、あの程度の事はいつもの事なのだろう。
「貴女もいつもこう言う事してくれていれば一々お説教しないで済むのですがね」
映姫も小町と一緒に現れてそう言った。
「あら、映姫様。お気に召されまして?」
「ええ。久しぶりに良い物を見せて頂きましたよ」
「確かに、こりゃ酒を飲むのに最高だねぇ」
映姫と小町が順に感想を言う。
「こう言う時は自分の能力に感謝しますね」
「あら?てっきりとっくに帰っちゃったと思ってたわ」
意外な来訪者に紫も驚く。
「そう思ったんですがね、何やら珍しい方々も居るので顔を出してみたくなったんですよ」
「まぁ、帰りは私が送っていくさ」
慧音と共に現れた者。
それは九代目御阿礼の子、稗田阿求だった。
「子供が夜更かしするもんじゃないわよ、あっきゅん」
霊夢が阿求にそう言う。
「こんな事もあろうかと昼間寝ておいたので問題ありません。それから、あっきゅんは止めてください」
「子供はかわいらしい方がいいぞ?」
阿求の頭をグシャグシャと撫でながら妹紅も現れる。
「あ、頭をグシャグシャしないで下さい!藤原様!!」
「お、悪いな。加減が解らなくてな」
「もう…………」
髪を直しながら阿求は呟く。
「やれやれ………これまた大集合ね」
知り合いの殆どが集まった状況を見て霊夢が呟く。
「ま、新年なんだし、良いじゃない♪」
紫がそう言う。
「暫くは景色を肴に飲みましょう♪」
幽々子もそう言った。
皆それに従うように、暫く景色を肴に呑んでいた。
午前4時
「さて、景色を眺めるのも良いけど、そろそろ余興が欲しいわね」
紫がふと呟いた。
「それもそうだな」
魔理沙も同意する。
「はいは~い♪私やりま~す♪」
何処からともなく底抜けに明るい声が聞こえてきた。
その声の主は
「橙!?誰だ!橙に呑ませたのは!!」
いつの間にか酔っぱらっていた橙だった。
藍がその様子を見て叫ぶ。
「あらあら~藍ったら。硬い事言いっこ無よ♪」
「幽々子様!貴女ですか!?」
「良いじゃないの藍。橙にも良い経験だわ」
文句を言おうとした藍だったら、主の言葉により引っ込まざるを得ない。
「し、しかし………」
「貴女は少し過保護過ぎなの。少しは橙の自主性も尊重しなさい」
藍はそれでも講義をしようとしたが、正論を返され、完全に黙らされてしまった。
「それで、その黒猫は何してくれるの?」
霊夢が尋ねる。
「それじゃあ1番橙!」
そう言って橙はみんなの前に躍り出る。
そして
「脱っぎま~す♪」
「チェェェェェェェェェェェェェェン!!!!」
服に手をかけた橙を、物凄い勢いで藍が突進して止めた。
「幽々子様!紫様!!貴女方がいつも酔っ払ってこう言う事するから橙が真似するんですよ!!!」
橙をタックルの様に止めて、滑って止まった先で藍が叫ぶ。
「だって、呑むと熱くるじゃな~い」
「ね~?」
まったく反省などしていない紫と幽々子だった。
「ふふふ………八雲紫の式ともあろう者が大した取り乱しっぷりね」
藍の近くで勝ち誇るようにそう呟く者。
それは紅魔館の主、レミリアだった。
「何だと?」
「あの程度で大仰(おおぎょう)に取り乱して………みっともないったらありゃしないわ」
ワインを傾けながらレミリアは言う。
「ふん、貴様に私の気持ちが解るものか」
「別に解りたくも…」
レミリアが言いかけた時。
「じゃあじゃあ2番!!」
またしても元気な声が聞こえてきた。
それも、紅魔館の面々には聞き覚えのある声。
「フラン!脱っぎま~す♪」
「フラァァァァァァァァァァァァァン!?!?!?!?」
藍と同じように突進してフランを止めるレミリア。
藍の隣に咲夜が立ち。
「主に代わって前言撤回させて頂きますわ」
そう言った。
「ああ。ま、見れば解るがな」
藍も特に文句は言わずそう返した。
「まったく、しょうがないねぇ。芸になっても居ないじゃないか」
そう言って立ち上がる者がいた。
「あら、死神。何か見せてくれるの?」
輝夜が小町に問い掛ける。
「ああ、取って置きを見せてやるよ」
小町は自信たっぷりにそう言う。
そして、みんなの前に躍り出る。
「3番、小野塚小町。面白い物見せてやるよ」
そう言って小町は自前の鎌を前に突き出して構えをとった。
「まさか………」
それを見て映姫がボソッと呟いて立ち上がる。
「ハァァァァァァ……………!!!」
小町に物凄い力が集まる。
「な、何!?」
近くに居たアリスが驚く。
「ちょっと!神社壊さないでよ!!」
霊夢は釘を刺すのを忘れない。
「目ん玉かっ開いてよく拝みなよ!!!卍(ばん)か…」
スパンッ!!
「きゃん!!」
何かをしようとした小町を、映姫が悔悟の棒で頭を叩いて止めた。
「何するんですか、四季様」
邪魔をされて思わず抗議の声を上げる小町。
「それはこちらの台詞です。貴女は何をする気だったんですか?」
「何って、そりゃ卍か…」
スパンッ!
「きゃん!!」
「それをお止めなさいと言う意味で叩いているのが解らないのですか?」
「え~?だって、他のなら見た目が変われば驚きますけど、私の場合常時始か…」
スパンッ!!
「きゃん!!」
「もう良いから貴女は下がりなさい」
下がりなさい、と言いつつも襟首を掴んで引きずって行く映姫。
「何?今の出し物は漫才だったの?」
「じゃないの?」
雛の呟きに答える文。
山の仲間同士ゆえか、言葉遣いが戻っている。
「まったく、貴女は何を考えてるんですか」
小町を連れ戻してさっそくお説教モードの映姫。
「正月くらい良いじゃないですかぁ」
「そう言う問題ではありません」
小町の抗議を一刀両断する。
「まぁまぁ、良いじゃないの、映姫様」
紫が助け船を出す。
「そうは言いますがね…………」
「そう言えば、ウチでもしばらく眠らせたままね~」
映姫の言葉をマイペースな口調で途切らせる幽々子。
「え?何がですか?」
妖夢が幽々子に尋ねた。
「何って、刀よ」
「刀?」
「何意外そうな顔してるの?妖夢。私が何の為に貴女達庭師から剣術を習ってると思ってるのよ」
そう、普段から刀剣を使わない為知られていないが、幽々子は庭師から剣も習っている。
「す、すみません………普段刀を持っていないので………」
「しょうがないじゃない。あれは気軽に振り回せるものじゃないもの」
「そんな刀が?」
妖夢は初耳だった。
「偶には使ってあげましょうかしらねぇ…………千本ざく…んんぅ?」
「そこでお止めなさい」
幽々子の口を悔悟の棒で強制的に塞ぐ映姫。
「そう言えば、ウチも眠ってるわねぇ………紅ひ…んん……もう、イケズねぇ」
「貴女もお止めなさい」
次いで何かを言おうとした紫を、やはり悔悟の棒で止める映姫。
「でも、あれよね。あの氷精なら大紅蓮とか似合いそうじゃない?」
「似合うわね~………幻想郷のパワーバランス偉い事になりそうだけど」
幽々子と紫は懲りずに話を続ける。
「闇の妖精は閻魔蟋蟀(えんまこおろぎ)かしら?」
「かしらね~」
「もうその話はそこでお止めなさい」
映姫が止めに入った。
「釣れないわね~」
「そう言う問題ではありません。全く、貴女達は………」
「あ、盛り上がってないままだから、私舞ってくるわ~」
「私も一緒に舞うわ、幽々子」
幽々子と紫は逃げるようにそう言って立ち去った。
「あ、八雲紫!西行寺幽々子!!」
映姫が叫ぶ、が遅い。
既に幽々子も紫も皆の前に躍り出ている。
これでは引きずり降ろせない。
「まったく………仕方ありませんね」
悔悟の棒を口に当てながら呟く映姫。
そして
ガシッ!!
「きゃん!!」
「ですが、貴女まで逃げて良いと言った覚えはありませんよ?小町」
コッソリと逃げようとしていた小町の肩をしっかりと掴む映姫。
そして、映姫様の今年度初のお説教タイムが始まった。
午前5時
「もう少しで初日の出が拝めそうだな」
ふと呟く妹紅。
「ああ、そうだな。阿求、眠くはないか?」
「大丈夫です、上白沢様」
阿求はそう返事を返す。
「しかし、酒で時間を潰すのも良いが、何か面白い事ないかねぇ?」
妹紅が再び呟く。
強制的に降らせた雪も既に止み、月もすっかり傾いて、もう見えなくなる。
「だったら、一勝負する?」
輝夜がやってきてそう言った。
「勝負ったって何をだ?こんな所で殺し合ったら、それこそ巫女に殺されかねんぞ」
妹紅が言葉を返す。
「その辺の話は付けてきたわ。ねぇ、八雲紫?」
「まぁ、お酒の無いあっきゅんには興じる物がないと暇でしょうしね」
紫が突如として現れた。
「だから、あっきゅん言わないで下さい」
「で、なんなんだ?八雲紫」
妹紅が紫に問い掛ける。
「貴女達、最近これで遊んでるそうじゃない。だったら、この際、この場に居る色んなのとやってみたら?」
ドンッ!
そう言って、紫が隙間を開いて落ちてきたのは、机と麻雀牌だった。
「麻雀!?けど、良いのか?幻想郷に広まるぞ?」
妹紅が再び紫に尋ねる。
「何を今更」
紫が呆れたように返す。
「言っておくけど、貴女達が知らないだけで、人の里にもとっくに知られてるわよ?これ」
「何!?」
慧音が驚いた。
「まぁ、そこのワーハクタクは生真面目だから賭け事に興味持たなくて知らないのは無理無いわね」
「な、何故知られているのだ?これは外の世界の遊戯ではないのか?」
慧音が問う。
「何故って、香霖堂で販売してれば人の手にだって渡るでしょ?」
「え?でもそれは輝夜達が購入したのでは?」
「一組だけしか来ないとは限らないでしょ。外の世界じゃ結構ありふれてるんだから、これ」
何も幻想となった物しかこの幻想郷に来ない訳ではない。
偶発的に、近代で普通に使われている物もこの幻想郷に送られる事はある。
除夜の鐘もその一例だ。
「で、購入してその存在が知られれば、誰かがそれを商売の為に作って販売すると言う行動は自然じゃなくて?」
まさしく紫の言う通りの手順で人の里に麻雀は広まっていた。
「ま、小難しい事はどうでもいいわ。やれるんならやりましょうよ」
輝夜は楽しげに言う。
「楽しそうだな、輝夜」
「ええ、妹紅。だって、今まで同じ面子としかやってなかったもの。偶には違うのとやりたいわ」
「なるほどな」
「じゃ、決まりね」
紫はそう言うと、いくつもの机と麻雀牌のセットを隙間から降らせた。
「暇つぶしに興じましょう。初日が昇るまで」
「ええ」
「ああ」
紫の言葉に輝夜と妹紅が応じ、周りの者たちもゾロゾロと集まってくる。
ある者は既に知っているため、また、ある者は興味を惹かれて。
そして、今度は麻雀勝負が境内で始まった。
「ツモ。天和」
「はぁ!?また!?」
「卑怯だぞ!!レミリア!!」
「流石お嬢様」
こちらは、レミリア、霊夢、魔理沙、咲夜が組んで打っていた。
しかし、レミリアと咲夜の二人の前に、霊夢と魔理沙はまるで勝てない。
当たり前だ。
レミリアは運命操作で意識せずとも良い牌が転がり込んでくる。
咲夜は時を止めてイカサマ出来る。
勝てと言うのが土台無理な話だ。
が、負けず嫌いな二人は懲りずに勝負を挑む。
「霊夢、それロン。緑一色(リューイーソー)ね」
「また役満かぁぁぁぁぁ!!!」
今度は咲夜に当てられた霊夢。
緑一色。
ソウズと呼ばれる緑色の牌の中で、更に緑のみしか牌の絵柄に使われて居ないものと、そして字牌の「発」のみで作られた役の事だ。
「神奈子様、それロンです」
「げっ!?」
一方、こちらでは守矢神社の面々とプラスしてアリスが打っていた。
「どう見たって危険牌じゃない」
「馬鹿だねぇ………神奈子は」
「う、うっさいわねぇ…………」
再び仕切りなおす。
「神奈子、それポンするわ」
「ちっ」
アリスが神奈子の牌で鳴く。
「あ、それ私がポンするわ、アリス」
アリスが捨てた牌で今度は諏訪子が鳴く。
「あ、それチー」
そうしたら、今度は再びアリスが諏訪子の捨て牌で鳴く。
「リーチです」
「なにっ!?」
「気をつけないとね………」
「早苗がリーチか……」
アリスが捨てた後、早苗がリーチを掛けた。
「ふ………天命は我にあり!!」
牌を引いた神奈子が叫ぶ。
「通れば…………リーチよ!!」
そして、そう言って牌を捨てる。
「ロンッ!国士無双です」
しかし、通らなかった。
「アッー!!!」
神奈子の悲鳴がこだました。
早苗の力は奇跡を起こす程度の能力。
奇跡と言える役満をその能力にて連発している。
幸か不幸か、この面子は誰も気づいていなかった。
「射命丸様。イカサマは止めてください」
「え!?な、なんの事ですか?」
何事もなく進んでいたかのように見えた対局中に、突如阿求がそう言った。
因みに面子は、文、椛、阿求、妖夢だった。
「私の能力をお忘れですか?」
「見た物聞いた物を忘れない程度の能力………」
阿求の問いに妖夢が答えた。
「目に見えないほど細かすぎれば別ですが、見えさえすれば傷は覚えてるんですよ?牌の傷を」
「う……ぐ………」
文は言葉を詰まらせた。
何故なら、文は自慢の速さでツバメ返しを行ったからだ。
それ自体は完璧だった。
誰もやった事すら気づけないほど。
が、阿求の目は誤魔化せなかった。
行い自体は見えなくても、牌がすり替えられた事には気づける。
その、常人ならざる記憶力で。
「親を移して仕切りなおしましょうか」
「く………」
「あ、文様………」
椛が文を心配そうに見上げる。
親が文から阿求に移る。
「さて………」
阿求が準備を終えて呟く。
「終わらせましょうか」
「え?」
「は?」
「へ?」
突然の阿求の言葉に三者三様に声を上げる。
そして
「ツモ。四暗刻(スーアンコウ)・天和。ダブル役満です」
「はいぃぃ!?」
「えぇぇぇ!!」
「な、なんですって!?」
やはり三者三様に驚く。
因みに上から妖夢、椛、文だ。
四暗刻。
暗刻とは、ポンで鳴かずに自牌の積み込みのみで同じ牌を三枚そろえる事だ。
そして、その暗刻が4組、つまり頭以外の12枚全部を自牌の積み込みのみで暗刻をそろえる役。
これも役満だ。
そして、同じく役満の天和と組み合わさり、ダブル役満となる。
「そ、そんな………」
文が愕然とする。
「もう一度言いますよ?私は牌の傷を覚えてるんですよ?」
つまり、動体視力が付いていけば、狙った牌を最初に積み込めると言う事だ。
イカサマではない。
自身で用意した牌でもなければ、仕掛けをしたわけでもない。
単に記憶力の問題だ。
人の記憶力にイチャモンを付けられる訳がない。
恐るべきダークホース、阿求の存在により、この机は戦慄が走っていた。
「あら、あの兎。今ツバメ返ししなかった?」
紫が幽々子と遠くで観戦しながら、その内の一つ、てゐの居る場所を見ながら言った。
「ええ、やったわねぇ………やるじゃない」
幽々子が感心したように言う。
その机の面子は、てゐ、チルノ、レティ、大妖精だった。
しかし、机上の者達は誰も気づけず、そのまま対局は続いた。
「むっ!リーチよ!!」
「何!?」
「ちっ」
「凄いね、チルノちゃん!」
チルノがリーチをかけた。
因みにチルノが狙ってるのは七対子(チートイツ)。
これは通常とは違って、3・3・3・2の組み合わせで作るのでなく、2・2・2・2・2・2・2の同じ牌を二枚7組で役を作れる。
初心者が最も覚えやすい役である。
「あ、私もリーチ!」
そして、チルノの前の大妖精もリーチを掛けた。
「む、大ちゃんもやるじゃない」
「ふふふ」
嬉しそうに笑う大妖精。
一方、てゐはツバメ返しをしかけたが、それが効果を発動するのはもう少し先のようだ。
「む、これじゃない!」
チルノが牌を切る。
そして順が回り、大妖精が牌を引く。
「あ」
声を上げたのは離れて見ていた幽々子。
「あ~あ……当たり牌引いちゃったわね、あの子」
大妖精が引いたのはチルノの当たり牌だった。
基本的にリーチをした者は、引いた牌が自身の当たりでない限りはその牌を捨てなければならない。
つまり、この場合、リーチをしている大妖精はその牌を切り、チルノにロンをされるのが確定してしまったのだ。
そして、大妖精がその牌を切ろうとした瞬間。
「きゃっ!」
ゴトンッ
机に乗っていた、中身が入っている湯呑を大妖精が倒してしまった。
因みに倒れた方向はチルノとは逆方向だ。
「わっ!ふぅ………掛らなく良かったわ」
チルノと反対側に居たてゐは一安心する。
「ご、ごめんね」
「ん、別にいいわよ」
てゐも大妖精には敵意を向けて居ない為、あっさりと許した。
「ちょっと、紫………今の…………」
「ええ、見たわ………なんて事…………」
幽々子と紫は何かを見、そして驚愕していた。
「ごめんね。あ、それじゃ牌捨てるね」
そう言って大妖精は牌を切る。
「あっ!それローンッ!!」
チルノが嬉しそうに叫ぶ。
「あ~あ、大ちゃん当てられちゃった」
レティがそう言う。
「ま、私じゃなくて良かったわ」
てゐもそう言う。
「あれ?でも、チルノちゃん」
「ん?何?」
チルノが不思議そうな顔で聞き返す。
「その牌、最初に捨ててるよ?」
「え!?」
驚いて自分の捨て牌を見るチルノ。
確かに、たった今チルノが当たり牌としてロンをした牌が最初に捨てられていた。
「あ、あれ?あたい、これ捨てたっけ?」
「もう、ダメじゃないチルノちゃん。ちゃんと覚えてなきゃ」
「はん、所詮はおバカね」
「なにお~!!」
てゐの挑発に乗るチルノ。
因みに、自分が過去に捨てた牌で上がるのは反則だ。
それで上がった場合は罰則として減点される。
「あの子………なんて事を…………」
離れてみている幽々子が呟く。
「恐ろしい子………」
紫も思わず呟く。
この二人が驚いた事。
それは、大妖精が湯呑を自分で倒し、視線がそちらに行ったその刹那。
大妖精はなんと、自分の手牌の中にある、自分が今引いたのと同じ牌をチルノの最初の捨て牌とすり替えたのだ。
皆倒れたお茶の方に意識が向いた為、見えてなかった。
更に恐るべきところは、大妖精自身も、ちゃんとそのお茶の方を見てたのだ。
つまり、よそ見しながらすり替えたと言う事だ。
「さっきの兎のツバメ返しの応用ね………」
「と言う事は…………」
「ええ、あの子。ツバメ返し、ちゃんと見てたのよ」
恐るべし、大妖精。
そして、白熱した戦いが繰り広げられたまま時間は過ぎていく。
午前6時
「そろそろ日が昇るわね」
紫の言葉に皆手を止める。
そして、日が昇るであろう方向を見る。
文はカメラを構える事を忘れていない。
「ん、昇って来るよ~」
萃香がそう言い、みんな一層注目する。
そして、今年初めての太陽が顔を出す。
「綺麗ねぇ………」
「だな」
霊夢の言葉に魔理沙が答える。
「また一年が始まったわね」
「今年は良い年でありますように」
アリスが言い、早苗は初日に拝む。
「偶にはこんなのも良いわね」
レミリアが太陽を眺めながら呟く。
「ええ、そうですね…………って、お嬢様!?体から煙が!!!」
「え?あ、あら?」
見ると、レミリアの体からブスブスと煙が上がっている。
「お嬢様!日よけ薬の服用は!?」
「あ~………まさかここまで残ると思ってなかったから忘れてたわ」
呑気にそう言い放つレミリア。
「呑気なのは良いけど、レミィ。妹様もそうじゃないの?」
「はっ!?フラン!!」
レミリアはパチュリーに言われてフランの方を振り向く。
因みに、咲夜が日を遮るようにレミリアと太陽の間に立っている。
「美鈴~もっと初日の出見せてよ~」
「ダ、ダメですよ妹様!!煙出てたじゃないですか!!」
美鈴はフランを抱きかかえて太陽に背を向けている。
「ちゅ・う・ご・くーーーーーー!!!」
その様を見てレミリアがグングニルを投げようとする。
「失礼」
咲夜は小さくそう言うと。
ズドンッ!!
「ふぐぅ!?」
時を止めてレミリアの腹部に寸頸を放った。
「八意永琳!日除け薬の持ち合わせある!?」
咲夜が蹲(うずくま)るレミリアを抱えながら永琳の方に向かって言う。
「あるわよ」
永琳はそう言って、何処からともなくヒヨケルミンSを取り出す。
「頂戴!二つ!!」
「今ならなんと、普段の二倍の値段でご提供よ?」
「足元見る気!?」
永琳の言葉に咲夜が食ってかかる。
「冗談よ。はい。お代は後でうどんげを向かわせるわ」
「私が出向くんですか………」
がっくりと項垂れながら呟く鈴仙。
「騒々しいな」
「そうね」
決してそっちの方は見ずに言う魔理沙と霊夢。
「どうやら、今年も静かに、ってのは無理そうだぜ?」
「新年早々気が重くなること言わないでよね」
「まぁ、でも………」
魔理沙は太陽を背にしながら振り返る。
そして、その喧噪を見ながら。
「楽しそうで良いじゃないか」
笑顔でそう言った。
「ったく………本当に騒々しい奴らだ事」
同じく振りむいた霊夢はそうは言うが、嫌な顔はしてなかった。
この神社を見る限り、今年の幻想郷も賑やかになりそうであった。
それでは皆様、本年度もよろしくお願いいたします。
ニコニコで見た動画と同じ展開で吹いたww
大妖精・・・恐ろしい子!
というか、ボクシングで思いっきり吹きました。それと、あっきゅんのセリフで印南を思い出したのは俺だけで十分
やっぱり最初のトランクスはDOPOなんですかねぇ。
あと、ニコニコネタ自重www
そのうちマスタースパークっぽいものが撃てそうですね・・・
まあとりあえずなんだ、大ちゃんから大物臭がぷんぷんとするのですがw
次回の作品も期待してます!
それはともかく、卍解って…幻想入りするには早すぎないですかね?
(っつーか、紅姫なんてまだ見せ場が…)
新年から賑やかな幻想郷が幻視できました。
みんな楽しそうだなぁ
ややシーン切り替えが早くて、各場面の長さ比がまとまっていないような気もするけど、それもテンポがいいと言ってしまえばそれまで
おもしろかった!
是非に行きたい博霊神社
すげ~楽しそうです。
それと過去の伏線回収はもうしないんですかね?
クリスマス・大晦日・正月の間だけの別ストーリーってことでしょうか?
あとニコニコのってのが分からない……あとは元ネタ分かったのに……
てゐのラビットパンチに吹きましたw
そういえばてゐも軍曹って呼ばれてましたねw
チルノが猫田さんみたくパンチドランカーにならなくて良かったw
幻想郷麻雀大会、決勝は大妖精・あっきゅん・レミリア・早苗の4人でしょうか。
それにしても、自動的に待ちが単騎になり読みにくい七対子の待ちを読みきってさばくとは…恐ろしい子!
正直読んでいて退屈でした。
あとは詰め込みすぎな感じも…
評価を見るにあわないだけだと思いますが…
なんというCV:田村ゆかり。間違いなく精神崩壊させられる。
ヒロポンなしでガンバイできるあっきゅんは強すぎると思います。
あとゲーセンの100円回収機(麻雀ゲームともいう)みたいなお嬢様自重。
今回も素晴しい作品でした!有難う!
読んでいて、だいぶネタがくどく感じました。
最初の早苗さん辺りの雰囲気で進行するのかと期待して読んだ分、残念だったなと。
ボクシング本のタイトルはいきなり武神だし、試合は二戦とも反則だし、モチーフバトルがM柴vsA木の夢の対決と米兵vsN田っていう極めて渋い選択だしで、読んでる方としては最高にハイって奴でしたw ただ、ドラゴンフィッシュ・カエルの行は蛇足に感じます。原作読者は名前でニヤニヤできますが実際にはあんまりドラゴンフィッシュじゃないし、原作知らなければ何の事やらって感じだし、普通に「カエルパンチは本来打った後隙だらけになるけど飛べるからもう一度打つことができた」ぐらいでいいのでは?
麻雀はあっきゅんのガン牌の最強っぷりが……超高速ツバメ返しの文をオヒキにすればレミリアや早苗にすら相手にならなそうなんですがww
>紫は事の外、
>事、拳での破壊力
「殊の外」「殊」かと。
>必要があるけお
「けど」かと。
>んもう、硬いわねぇ
>硬い事言いっこ無よ
「無しよ」かと。あと「堅い」の方がより良いかと。
>藍はそれでも講義を
「抗議」かと。
>腹部に寸頸を放っ
「勁」かと。あと何の断りもなく咲夜さんが中国武術の技を使うのは読者に不親切なような……。
藍とレミリアが止めたのが本当に残念で残念で
ああ、もう少しで桃源・・・もとい、理想郷が見れるところだったのにいいい
あ、すみません閻魔様赦し
そういや、なのはさんも私生活はサイドポニーだっけ
すでに言われとりますが、神仏混合という時代もあるので、神社や寺の(敷地の)中に神社や寺が(一部だけとかほこらとかやしろとかの場合もあり)一緒にあってもいいんじゃない?
外の世界(現実の世界ね)でもそういうところは(分かれてしまったところも多いですが)残ってるとこもありますし。まあ、確かに鐘のある神社は知りませんがw
お嬢様と咲夜さん卑怯すぎるw
ネタいっぱい使われてるんでしょうけれども、たぶん少ししか気付いてない。
それでも面白かったのが嬉しいです。
総じて高い評価を頂、ありがとうございます。
>ニコニコで見た動画と同じ展開で吹いた
>あと、ニコニコネタ自重
本当は違う面子にしようかな?と思いましたが、誘惑に負けました^^;
>大ちゃん最強説
>大妖精:CV田村ゆかり
>なんというCV:田村ゆかり
>大妖精? いいえ、大魔王です。
もう、あれですね。
自分の中では大妖精は完全に管理局の白い悪魔です(´・ω・`)
>卍解って…幻想入りするには早すぎないですかね
いや~、死神ネタはどこかで使いたかったので^^;
それにしても、大紅蓮チルノとか景厳幽々子とか白い悪魔な大ちゃんとか、絵で描きたいんですが、画力が………誰か描いて(ぁ
>過去の伏線回収はもうしないんですかね?
>クリスマス・大晦日・正月の間だけの別ストーリーってことでしょうか?
え~っと、今回の話は、一応今書いてる「幻想郷のとある一日」より後の話という設定です。
別ストーリーといえば、そうなるのかもしれません。
因みに、ニコニコとは、有名なニコニコな動画サイトです。
ググればすぐに解るかと^^
ただ、会員制の上、登録までに時間が掛かるのですぐには見れませんが・・・
>間柴眉毛の神奈子様を想像してふいた
それは考えてませんでした^^;
言われて想像して自分も吹きましたw
>14人目の名前が無い程度の能力さん
多数のご指摘ありがとうございます。
今後の作品を書く際に注意して行きたいと思います。
>うーん、もっと文章の表現に工夫を
>正直読んでいて退屈でした。
むぅ………表現の工夫は自分も常々考えてはいるんですが・・・技量不足ですかね・・・
退屈させてしまって申し訳ないです。
>・・・何ていうか、このスネークはソリッドみたいな話方のネイキッドみたい
>ラビット・スネーク
いずれ、この兎主役の阿呆な話でも書いてみようかと思います
>読んでいて、だいぶネタがくどく感じました。
>最初の早苗さん辺りの雰囲気で進行するのかと期待して読んだ分、残念だったなと。
ふむぅ・・・・・・日ごろから溜めておいたネタを騒ぎに乗じて使ったんですが・・・ちょっとしつこかったですかね?
展開等も含めてもう少し考えて見ます。
>某ボクシングネタ関連
動物をモチーフにしているパンチが多いので、いつか使いたいと思ってて、ついに使っちゃいました(´・ω・`)
あと、DOPPOネタは前にふと思いついたので、ちょっと使ってみました。
笑っていただけたようで何よりです^^