少女会話中…
「ストーカーってあのストーカーか?」
「多分そのストーカー。というか他にどんなストーカーがあるのか聞いてみたいわ」
「神社の周り中に結界トラップがあったのはそのためだったのか」
「気づいたなら迂回しなさいよ。いちいちぶち壊さないで」
「いや、てっきり1日限定10個しか販売しない中村屋のどら焼きでも守っているのかと」
「そんなの手に入ったらすぐ食べるわよ」
いや、中村屋のどら焼きとなるとなると、それに釣り合うお茶も欲しいからすぐにとはいかないか。
「で、被害は?」
「四六時中見られてる気がするし、帰ってきたら家の中を荒らした形跡があるし、特にタンス。
それに一度狙撃されたわ、麻酔銃で。極めつけに恋文が賽銭箱に。」
……………賽銭箱?
「どーかした魔理沙?」
「いやなんでも。あぁまぁ確かにストーカーっぽいかもなな。じゃあ犯人はアリスだ」
「アリスはあんたの、でしょ。今も屋根の上あたりに人形が一匹いるじゃない」
「あぁ、でも案外便利だぜ?こっちの声は聞こえるらしいからな、いつでも連絡取れるし。まぁアリスの声が聞けないのは残念だけどな」
これを聞いたアリスは会話可能な人形の製作を開始してることだろう。最終目的の全自律型人形の研究をすっぽかしてでも。
「………相談する相手を間違えたかしら」
どうもストーカーに対する認識が違いすぎる。これじゃあ、辛さを共感してくれそうにない。
といっても他の親しい相手、鬼や吸血鬼や隙間には頼れば、マヌケにも犯人に相談して殺される、
なんて推理ゲームにありがちなバッドエンドになりかねない。
「まぁ待てって。こんな面白そうな話からのけ者にしようとするな。で、犯人は鬼か隙間か吸血鬼か?」
………どうも考えることは同じらしい。
「それがわかれば苦労しないわよ。まったく、どいつもこいつも真っ向勝負でもキツいのに、隙をつかれた日にはひとたまりもないわ」
「貞操の危機だな」
ニヤニヤと笑っている魔里沙がイヤに腹立たしい。だが今は魔里沙を怒らせる訳にはいかない。
「わかってるなら話は早いわ。お願い魔里沙、しばらくの私と一緒にいて。ここに泊まっていいから」
「別に構わないぜ。でも相手が相手だからな、過度な期待するなよ」
「ありがとう魔里沙、やっぱり持つべきものは親友ね」
「でも根本的な解決にはなら……」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
唐突だがアリス登場。明らかに怒っていらっしゃる。人形は攻撃体制で展開中だし。
「……来るとは思ってたけど速すぎでしょ」
どんなに飛ばしたとしてもアリスの家からの距離を考えたら有り得ない。
愛の力か?
「人形はカモフラージュで本人が尾行しているときもあるんだ。」
その疑問は魔里沙があっさりと解説してくれた。要するに近くにいたわけだ。
一応愛の力のなせる業ではあったが、その愛の形に少々疑問が残る。そしてそれをあっさり受け入れる魔里沙もおかしいと思う。
「霊夢!!あんた上手いこと言って魔里沙にナニする気だったのよ!?」
「…何もしないわよ」
なかばどころかかなり呆れつつ答える。
「甘い!仮に今ナニもしないつもりでも、魔里沙が同じ屋根の下にいたら我慢なんかできるわけないじゃない!!
私ならできないわ!!私にできないことが霊夢にできるわけないじゃない!」
うーん、暴走してますね、これは。
「じゃああんたも泊まってよ、戦力は多いにこしたことないし」
アリスの説得と戦力アップで一石二鳥といこう。
「え?それはさすがに心の準備が……」
アリスは顔を真っ赤にしてしおらしくなる。もらったな
「霊夢。待ちの構えなんてお前らしくないぜ」
そんなアリスを全無視で魔里沙は話を続けてる。
「でも敵の狙いが霊夢ならお前は動くべきじゃない。だから私とアリスで犯人を見つけてやるぜ」
・・・・・・
少女移動中…
アリスを箒の後ろに乗せて空をかける。
こんなに抱きつかなくても落ちやしないし、落ちてもアリスも飛べるのだから抱きつく必要はない。
というか二人乗りする必要からして存在しない。
でも必要はないが意味ならある。まぁ手を繋がなくても歩けるけど、それでも手を繋ないで歩く感じだ。
二人は第一の容疑者に会いに、紅魔館に向かっている。
霊夢は霊夢争奪戦線において中立、というか無関係とも言える永遠亭に預けてきた。
最初渋られたが、キノコをあげたら喜んで引き受けてくれた。薬に使うのだそうだ。
「見えたぜ」
湖と共に紅魔館が見えてきた。
「上空は対魔法使い用トラップがあるから正門からいきましょ」
「魔法使い限定なんて効率が悪いことこの上ないぜ」
「訂正。対魔里沙用トラップだったわ。おかげでこっちはいい迷惑よ」
「いいじゃないか、どーせお前は滅多に行かないだろ」
「たまにしか行かないからこそ、忘れた頃に引っかかるのよ」
「引っかかったことあるのか…」
くだらない話をしながら堂々と正門から入る。
中国っぽい妖怪は寝ていたので無視した。
なぜか魔里沙はまっすぐに地下の図書館に向かった。
「よう、パチェリー」
「今日は普通に入ってきたみたいね」
「そういつもいつも窓を突き破っては来ないぜ。三回に一回くらいのもんだ」
「充分多いじゃない。っていうかレミリアに会いに来たんじゃないの?」
「焦るなってアリス、犯人を見つけたとしても、犯行を辞めさせなきゃ意味はないぜ」
「レミィが何かしたの?」
あの目は明らかに怪しんでいる。
まぁ当然の反応だ。いきなり来て館の主が犯人だと言い出したのだから。
「ストーカーの現行犯だぜ」
「現行犯…ね」
訪ねてきた時点で現行ではありえないがまぁ放っておこう。
「正確には容疑者ね」
「細かいことは気にするな。パチェリー、とりあえず咲夜に会わせてくれ、レミリア抜きで」
・・・・
「お嬢様は犯人じゃないわよ。吸血鬼は日に弱いし」
確かに夜はともかく昼間は無理だろう。
「日傘でなんとかなるわ」
「パチェリー様、敵に回ってないでお嬢様を弁護してください」
「咲夜が気づかないうちに外出してるってことは?」
いくら完璧で豪奢なメイドでも、主の行動全ては把握できないだろう。
できてたらそれこそストーカーだ。
「まぁそれは当然有り得るけれど、長時間いなければさすがに気づくわ」
それだけ確認すると私達はさっさと紅魔館を後にした。
「レミリアに会わなくていいの?」
「あぁ目的は果たしたからな」
「犯人を見つけてないじゃない?」
「さっきも言ったろ、目的は犯人を見つけることじゃない。犯行を止めることだ。
咲夜達にそれとなく伝えてれば、勝手に警戒して止めてくれるだろ?」
なるほど。犯人を捕まえるわけでも平和的方法だ。しかし…
「しょせん犬よ?」
「主を正しい道に導くのも一流の仕事らしいぜ」
「それは執事の話でしょ…」
門を通ると中華っぽい門番はやっぱり寝ていた。
ただ、先ほどと違ってナイフが刺さっているところを見ると居眠りというわけではなさそうだ。
さっきまで会っていたというのに。さすがに時を操るだけのことはある。
その光景を見て、咲夜に任せておけば大丈夫だなと納得した。
・・・・・・
少女移動中…
私たちは第三の容疑者の翠香を探して空を飛んでいる。
ちなみに第二の容疑者である紫は、
「1日の大半を寝てるんだ、ストーカーするヒマなんてないぜ」という魔里沙の一言で除外された。
もっとも1日の大半を寝てられるほどヒマという解釈もできるが。
「ところで翠香ってどこに住んでるんだ?」
「私は知らないわよ。ってなに?わからないのに飛んでたの?」
「あぁ」
呆れた。
でもまぁこれなら魔里沙にくっつく理由ができるからいいか。
「仕方ないわね。一旦永遠亭に戻りましょ、霊夢なら知ってるかもしれないし」
「了解。飛ばすから舌噛むなよ」
二人乗りとはいえ、さすがは魔理沙、自分で飛ぶよりは速い。気をつけなければ舌くらい簡単に噛むだろう。
加速に備えて身構える。ついでにどさくさにまぎれて強く抱きつく。
胸を押し付ける形だが、悲しいかな押し付けるほどのサイズはない。
・・・・・・
「というわけでレミリアと紫は大丈夫だぜ、残るは翠香だな」
永遠亭にて霊夢に結果報告中。
霊夢は待っている間、輝夜とゲームをしていたらしい。あの顔からすると連敗だったようだが。
「うーん…翠香か。」
霊夢なら、と思ったが知らないようだ。
伊吹翠香。幻想郷から姿を消したはずの鬼の生き残り。実力は幻想郷最強クラス。疎密を操る程度の能力。
この能力があれば人払いはいくらでもできる。ストーカーにはぴったりかもしれない。
しかし。
「まぁ翠香一人ならなんとかなるわ。ありがとう」
言葉こそやれやれという感じだが、その顔は『翠香ならいいかな』みたいなものだった。見なかったことにしよう。
結局したことと言えば、咲夜に注意を促しただけ。これでいいのか?という疑問は残るが、霊夢がいいと言うのだからいいのだろう。
魔里沙が神社に泊まることを阻止できただけでよしとしよう。
「じゃあ私は帰るわ」
「アリス、帰りにちょっと寄り道させてくれ」
私が立ち上がると、魔理沙は一緒に帰るのが当然というようにそんなことを言った。ちょっと嬉しい。
「何かあるの?」
「里にちょっとな」
・・・・・・
少女張り込み中。
里で張り込みの支度を整えて神社に戻ってきた。
寒い時期ではないので買ってきたのは食事だけ。
魔理沙曰わく、『張り込みにあんぱんと牛乳は必須だぜ』らしい。意味が分からない。
それにしても私も人がよくなったものだ。
魔理沙と一夜を過ごせるとはいえ、こんな無駄なことに付き合うとは。
確かに霊夢も心配ではあるが、私より遥かに強いというのに。
今日の一件で霊夢は安心したらしく結界を解いていた。
と言っても博霊神社の結界にはもともとたいした意味はなかった。
人を迎える神社である以上、入り口に結界を張るわけにはいかない。
要するにコソコソとわき道からの侵入は阻めるが、堂々と入り口からの訪問は防げない。
だがら霊夢が結界を解いたところで大した問題はない。
問題はもう大丈夫だと安心していることにある。
「とどのつまり犯人は別にいるってこと?」
「そうだぜ」
「で、霊夢を安心させて囮にしたと?」
「敵を欺くには味方からってな」
「まぁそれはわかったけど、なんで翠香達じゃないってわかったのよ」
「霊夢の言ってた恋文の犯人は私だからな」
「ぶっ!?」
ベタに牛乳を吐き出してしまった。
「汚いなコレで拭いとけ」
「ありがと、じゃなくてどういうことよ、それ?」
「誤解するな。お祈りする時いつも賽銭の代わりに、ポッケに入ってるものを適当に入れてるんだ。」
「普通恋文はポケットに入ってないわよ」
もっともなことを指摘すると魔理沙は恥ずかしそうに顔を背けた。
「まぁとりあえずそうゆうわけで恋文と他の件は関係ない。で、恋文を抜いたらどう考えてもストーカーってより闇討ち狙いだろ」
「まぁ確かに」
しかし、霊夢に闇討ちしようなんて命知らずもいいところだ。
霊夢が強いからというのもある。霊夢になにかあれば黙っていない恐い人達もたくさんいる、というのもある。
が、そんなことより何より、霊夢は霊夢である以前に博霊の巫女だ。
博霊の巫女なくして大結界は存在できない。大結界なくして幻想郷は存在できない。幻想郷なくして私たちは存在できない。
跡継ぎもいない霊夢を殺すということは、己が死に直結する。
まぁ、そんな命知らずがいないとも限らないし、少しくらい付き合うとしよう。
・・・・・
「動くな。撃つと動くぜ。まんまと引っかかったな、名もなき妖怪?」
張り込んでから五時間後、本当に何者かが現れた。
翠香でも紫でもレミリアでもない。見たこともない、魔理沙の言う通り名もなき妖怪。
「……………」
敵は問答無用で一撃を放つ。が、魔理沙は楽々とかわす。
明らかに下級。チルノでも楽勝であろう相手。
そんな妖怪の一撃など、魔理沙に当たる訳がない。
それでも今の不意打ちは恐ろしかった。スペルカード戦ではない、純粋な殺意を持った一撃。
「霊夢を付け狙う理由、話してもらうぜ」
敵の真後ろでマスタースパークを構えながら悠然と言う。
私が驚愕している間に魔理沙はチェックメイトに入っていた。
「博霊の巫女は唯一無二の存在。それを本気で狙っているというなら、理由を知りたいわね」
魔理沙に続いて敵へとプレッシャーをかける。
「博霊の巫女かどうかなんて関係ない。あいつだけは許せない」
「霊夢が死んだら幻想郷もどうなるか分からないんだぜ?」
「関係ない」
「……あいつ何やったんだ?」
「私の親友を殺した」
「退治されたのか」
「…………………」
肯定の沈黙。
確かに霊夢の機嫌によって退治される数は前後する。
だが、妖怪を退治をすること自体は、霊夢にとって仕事以上に使命と言っていい。
「そんなの霊夢に悪意はないわ!!だいたい人間は妖怪に喰われ、妖怪は適度に退治されなければ幻想郷のバランスは…」
「アリス。こういうのは理屈じゃないぜ」
「……魔理沙?」
「私だって、もし霊夢がアリスを退治したら、霊夢を許せない。アリスだってそうだろ?」
「それは…………」
じゃあ魔理沙はこいつを見逃すというのか?
「あんたは話がわかるみたいね。じゃあ道をあけてもらえる?」
「勘違いするなよ、名もなき妖怪。あんたが親友のために闘おうとするのは、当然で正当な理由だよ。でもそんな理屈は関係ない」
マスタースパークが輝きを増す。その光で魔理沙の顔は見えない。
「ただ、私は……私の親友を守るだけだ」
会話の終わりを合図に爆音と光がはぜる。
一瞬の結末。
月明かりが静かに魔理沙の顔を映していた。
・・・・・
「まぁアレだ、霊夢には黙っとこうぜ」
「そうね」
こんなこと霊夢に伝えても仕方がない。
例え恨まれようと、憎まれようと霊夢が妖怪を退治することに変わりはない。
やりづらくなるだけなら、知らない方がいい。
魔理沙はこうなることを予想して、私たちだけでケリをつけたんだろうか?
なら、でも、魔理沙はどうなるんだろう?
「魔理沙は妖怪退治を続けるの?」
魔理沙はただの魔法使いでしかない。妖怪退治は使命どころか仕事でもない。趣味のレベルに近い。
「続けるぜ。霊夢1人に任せちゃおけないからな」
「そっか」
ちょっと妬けるけど、まぁ我慢しよう。
霊夢1人に背負わせるわけにはいかないものね。
「じゃあ帰ろうか魔理沙」
「確かにいいかげん眠いな。家まで持ちそうにないから、お前ん家で寝させてくれ」
………………。
神社から私の家と魔理沙の家は大して距離に差がない。
ベッドも1つしかないから寝るにも適さない。
だから、魔理沙が言ったのは表向きの理由。
本当の理由は、きっと………。
『アリスと一緒にいたいだけ』って理由だったら嬉しいけれど、それは贅沢な望みだろう。
「ふぅ、ご飯が食べたいなら素直にそう言いなさいよ」
「バレたか。さすがにアンパンだけじゃ足りなかったぜ」
・・・・・
少女食事中……
「ところで魔理沙」
「ん?ほぉしたふぁりす?」
「食べ終わってから喋りなさいよ…。結局あの恋文はなんだったの?いたずら?」
霊夢へのいたずらだったら許す。
『霊夢へ』だったら許さないけれど。
「だ、だからたまたまポケットにだな…」
「たまたまポケットに入ってるモノじゃないでしょ。言わないとデザート出さないわよ?」
「あぁだからその…まぁアレだぜ。あのな、書いたはいいが、恥ずかしくて渡せなくてな。
それでずっと持ってたんだよ。ほら、これでいいだろ?」
「……誰宛てよ?」
「やっぱ言わなきゃだめか?」
「この前焼いたおいしいケーキがあるんだけどなぁ」
「………うぅ」
「中村屋のどら焼きもあったっけ」
「…………アリス」
「何?」
「だからアリス」
「へ?…………私?え?そんな心の準備が…あわわわわ」
「落ち着けアリス」
「わ、私ね、魔理沙・マーガトロイドより霧雨アリスの方がいいと思うの!!」
「あー…どっちでもいいぜ」
end
「ストーカーってあのストーカーか?」
「多分そのストーカー。というか他にどんなストーカーがあるのか聞いてみたいわ」
「神社の周り中に結界トラップがあったのはそのためだったのか」
「気づいたなら迂回しなさいよ。いちいちぶち壊さないで」
「いや、てっきり1日限定10個しか販売しない中村屋のどら焼きでも守っているのかと」
「そんなの手に入ったらすぐ食べるわよ」
いや、中村屋のどら焼きとなるとなると、それに釣り合うお茶も欲しいからすぐにとはいかないか。
「で、被害は?」
「四六時中見られてる気がするし、帰ってきたら家の中を荒らした形跡があるし、特にタンス。
それに一度狙撃されたわ、麻酔銃で。極めつけに恋文が賽銭箱に。」
……………賽銭箱?
「どーかした魔理沙?」
「いやなんでも。あぁまぁ確かにストーカーっぽいかもなな。じゃあ犯人はアリスだ」
「アリスはあんたの、でしょ。今も屋根の上あたりに人形が一匹いるじゃない」
「あぁ、でも案外便利だぜ?こっちの声は聞こえるらしいからな、いつでも連絡取れるし。まぁアリスの声が聞けないのは残念だけどな」
これを聞いたアリスは会話可能な人形の製作を開始してることだろう。最終目的の全自律型人形の研究をすっぽかしてでも。
「………相談する相手を間違えたかしら」
どうもストーカーに対する認識が違いすぎる。これじゃあ、辛さを共感してくれそうにない。
といっても他の親しい相手、鬼や吸血鬼や隙間には頼れば、マヌケにも犯人に相談して殺される、
なんて推理ゲームにありがちなバッドエンドになりかねない。
「まぁ待てって。こんな面白そうな話からのけ者にしようとするな。で、犯人は鬼か隙間か吸血鬼か?」
………どうも考えることは同じらしい。
「それがわかれば苦労しないわよ。まったく、どいつもこいつも真っ向勝負でもキツいのに、隙をつかれた日にはひとたまりもないわ」
「貞操の危機だな」
ニヤニヤと笑っている魔里沙がイヤに腹立たしい。だが今は魔里沙を怒らせる訳にはいかない。
「わかってるなら話は早いわ。お願い魔里沙、しばらくの私と一緒にいて。ここに泊まっていいから」
「別に構わないぜ。でも相手が相手だからな、過度な期待するなよ」
「ありがとう魔里沙、やっぱり持つべきものは親友ね」
「でも根本的な解決にはなら……」
「ちょっと待ったぁぁぁ!!!」
唐突だがアリス登場。明らかに怒っていらっしゃる。人形は攻撃体制で展開中だし。
「……来るとは思ってたけど速すぎでしょ」
どんなに飛ばしたとしてもアリスの家からの距離を考えたら有り得ない。
愛の力か?
「人形はカモフラージュで本人が尾行しているときもあるんだ。」
その疑問は魔里沙があっさりと解説してくれた。要するに近くにいたわけだ。
一応愛の力のなせる業ではあったが、その愛の形に少々疑問が残る。そしてそれをあっさり受け入れる魔里沙もおかしいと思う。
「霊夢!!あんた上手いこと言って魔里沙にナニする気だったのよ!?」
「…何もしないわよ」
なかばどころかかなり呆れつつ答える。
「甘い!仮に今ナニもしないつもりでも、魔里沙が同じ屋根の下にいたら我慢なんかできるわけないじゃない!!
私ならできないわ!!私にできないことが霊夢にできるわけないじゃない!」
うーん、暴走してますね、これは。
「じゃああんたも泊まってよ、戦力は多いにこしたことないし」
アリスの説得と戦力アップで一石二鳥といこう。
「え?それはさすがに心の準備が……」
アリスは顔を真っ赤にしてしおらしくなる。もらったな
「霊夢。待ちの構えなんてお前らしくないぜ」
そんなアリスを全無視で魔里沙は話を続けてる。
「でも敵の狙いが霊夢ならお前は動くべきじゃない。だから私とアリスで犯人を見つけてやるぜ」
・・・・・・
少女移動中…
アリスを箒の後ろに乗せて空をかける。
こんなに抱きつかなくても落ちやしないし、落ちてもアリスも飛べるのだから抱きつく必要はない。
というか二人乗りする必要からして存在しない。
でも必要はないが意味ならある。まぁ手を繋がなくても歩けるけど、それでも手を繋ないで歩く感じだ。
二人は第一の容疑者に会いに、紅魔館に向かっている。
霊夢は霊夢争奪戦線において中立、というか無関係とも言える永遠亭に預けてきた。
最初渋られたが、キノコをあげたら喜んで引き受けてくれた。薬に使うのだそうだ。
「見えたぜ」
湖と共に紅魔館が見えてきた。
「上空は対魔法使い用トラップがあるから正門からいきましょ」
「魔法使い限定なんて効率が悪いことこの上ないぜ」
「訂正。対魔里沙用トラップだったわ。おかげでこっちはいい迷惑よ」
「いいじゃないか、どーせお前は滅多に行かないだろ」
「たまにしか行かないからこそ、忘れた頃に引っかかるのよ」
「引っかかったことあるのか…」
くだらない話をしながら堂々と正門から入る。
中国っぽい妖怪は寝ていたので無視した。
なぜか魔里沙はまっすぐに地下の図書館に向かった。
「よう、パチェリー」
「今日は普通に入ってきたみたいね」
「そういつもいつも窓を突き破っては来ないぜ。三回に一回くらいのもんだ」
「充分多いじゃない。っていうかレミリアに会いに来たんじゃないの?」
「焦るなってアリス、犯人を見つけたとしても、犯行を辞めさせなきゃ意味はないぜ」
「レミィが何かしたの?」
あの目は明らかに怪しんでいる。
まぁ当然の反応だ。いきなり来て館の主が犯人だと言い出したのだから。
「ストーカーの現行犯だぜ」
「現行犯…ね」
訪ねてきた時点で現行ではありえないがまぁ放っておこう。
「正確には容疑者ね」
「細かいことは気にするな。パチェリー、とりあえず咲夜に会わせてくれ、レミリア抜きで」
・・・・
「お嬢様は犯人じゃないわよ。吸血鬼は日に弱いし」
確かに夜はともかく昼間は無理だろう。
「日傘でなんとかなるわ」
「パチェリー様、敵に回ってないでお嬢様を弁護してください」
「咲夜が気づかないうちに外出してるってことは?」
いくら完璧で豪奢なメイドでも、主の行動全ては把握できないだろう。
できてたらそれこそストーカーだ。
「まぁそれは当然有り得るけれど、長時間いなければさすがに気づくわ」
それだけ確認すると私達はさっさと紅魔館を後にした。
「レミリアに会わなくていいの?」
「あぁ目的は果たしたからな」
「犯人を見つけてないじゃない?」
「さっきも言ったろ、目的は犯人を見つけることじゃない。犯行を止めることだ。
咲夜達にそれとなく伝えてれば、勝手に警戒して止めてくれるだろ?」
なるほど。犯人を捕まえるわけでも平和的方法だ。しかし…
「しょせん犬よ?」
「主を正しい道に導くのも一流の仕事らしいぜ」
「それは執事の話でしょ…」
門を通ると中華っぽい門番はやっぱり寝ていた。
ただ、先ほどと違ってナイフが刺さっているところを見ると居眠りというわけではなさそうだ。
さっきまで会っていたというのに。さすがに時を操るだけのことはある。
その光景を見て、咲夜に任せておけば大丈夫だなと納得した。
・・・・・・
少女移動中…
私たちは第三の容疑者の翠香を探して空を飛んでいる。
ちなみに第二の容疑者である紫は、
「1日の大半を寝てるんだ、ストーカーするヒマなんてないぜ」という魔里沙の一言で除外された。
もっとも1日の大半を寝てられるほどヒマという解釈もできるが。
「ところで翠香ってどこに住んでるんだ?」
「私は知らないわよ。ってなに?わからないのに飛んでたの?」
「あぁ」
呆れた。
でもまぁこれなら魔里沙にくっつく理由ができるからいいか。
「仕方ないわね。一旦永遠亭に戻りましょ、霊夢なら知ってるかもしれないし」
「了解。飛ばすから舌噛むなよ」
二人乗りとはいえ、さすがは魔理沙、自分で飛ぶよりは速い。気をつけなければ舌くらい簡単に噛むだろう。
加速に備えて身構える。ついでにどさくさにまぎれて強く抱きつく。
胸を押し付ける形だが、悲しいかな押し付けるほどのサイズはない。
・・・・・・
「というわけでレミリアと紫は大丈夫だぜ、残るは翠香だな」
永遠亭にて霊夢に結果報告中。
霊夢は待っている間、輝夜とゲームをしていたらしい。あの顔からすると連敗だったようだが。
「うーん…翠香か。」
霊夢なら、と思ったが知らないようだ。
伊吹翠香。幻想郷から姿を消したはずの鬼の生き残り。実力は幻想郷最強クラス。疎密を操る程度の能力。
この能力があれば人払いはいくらでもできる。ストーカーにはぴったりかもしれない。
しかし。
「まぁ翠香一人ならなんとかなるわ。ありがとう」
言葉こそやれやれという感じだが、その顔は『翠香ならいいかな』みたいなものだった。見なかったことにしよう。
結局したことと言えば、咲夜に注意を促しただけ。これでいいのか?という疑問は残るが、霊夢がいいと言うのだからいいのだろう。
魔里沙が神社に泊まることを阻止できただけでよしとしよう。
「じゃあ私は帰るわ」
「アリス、帰りにちょっと寄り道させてくれ」
私が立ち上がると、魔理沙は一緒に帰るのが当然というようにそんなことを言った。ちょっと嬉しい。
「何かあるの?」
「里にちょっとな」
・・・・・・
少女張り込み中。
里で張り込みの支度を整えて神社に戻ってきた。
寒い時期ではないので買ってきたのは食事だけ。
魔理沙曰わく、『張り込みにあんぱんと牛乳は必須だぜ』らしい。意味が分からない。
それにしても私も人がよくなったものだ。
魔理沙と一夜を過ごせるとはいえ、こんな無駄なことに付き合うとは。
確かに霊夢も心配ではあるが、私より遥かに強いというのに。
今日の一件で霊夢は安心したらしく結界を解いていた。
と言っても博霊神社の結界にはもともとたいした意味はなかった。
人を迎える神社である以上、入り口に結界を張るわけにはいかない。
要するにコソコソとわき道からの侵入は阻めるが、堂々と入り口からの訪問は防げない。
だがら霊夢が結界を解いたところで大した問題はない。
問題はもう大丈夫だと安心していることにある。
「とどのつまり犯人は別にいるってこと?」
「そうだぜ」
「で、霊夢を安心させて囮にしたと?」
「敵を欺くには味方からってな」
「まぁそれはわかったけど、なんで翠香達じゃないってわかったのよ」
「霊夢の言ってた恋文の犯人は私だからな」
「ぶっ!?」
ベタに牛乳を吐き出してしまった。
「汚いなコレで拭いとけ」
「ありがと、じゃなくてどういうことよ、それ?」
「誤解するな。お祈りする時いつも賽銭の代わりに、ポッケに入ってるものを適当に入れてるんだ。」
「普通恋文はポケットに入ってないわよ」
もっともなことを指摘すると魔理沙は恥ずかしそうに顔を背けた。
「まぁとりあえずそうゆうわけで恋文と他の件は関係ない。で、恋文を抜いたらどう考えてもストーカーってより闇討ち狙いだろ」
「まぁ確かに」
しかし、霊夢に闇討ちしようなんて命知らずもいいところだ。
霊夢が強いからというのもある。霊夢になにかあれば黙っていない恐い人達もたくさんいる、というのもある。
が、そんなことより何より、霊夢は霊夢である以前に博霊の巫女だ。
博霊の巫女なくして大結界は存在できない。大結界なくして幻想郷は存在できない。幻想郷なくして私たちは存在できない。
跡継ぎもいない霊夢を殺すということは、己が死に直結する。
まぁ、そんな命知らずがいないとも限らないし、少しくらい付き合うとしよう。
・・・・・
「動くな。撃つと動くぜ。まんまと引っかかったな、名もなき妖怪?」
張り込んでから五時間後、本当に何者かが現れた。
翠香でも紫でもレミリアでもない。見たこともない、魔理沙の言う通り名もなき妖怪。
「……………」
敵は問答無用で一撃を放つ。が、魔理沙は楽々とかわす。
明らかに下級。チルノでも楽勝であろう相手。
そんな妖怪の一撃など、魔理沙に当たる訳がない。
それでも今の不意打ちは恐ろしかった。スペルカード戦ではない、純粋な殺意を持った一撃。
「霊夢を付け狙う理由、話してもらうぜ」
敵の真後ろでマスタースパークを構えながら悠然と言う。
私が驚愕している間に魔理沙はチェックメイトに入っていた。
「博霊の巫女は唯一無二の存在。それを本気で狙っているというなら、理由を知りたいわね」
魔理沙に続いて敵へとプレッシャーをかける。
「博霊の巫女かどうかなんて関係ない。あいつだけは許せない」
「霊夢が死んだら幻想郷もどうなるか分からないんだぜ?」
「関係ない」
「……あいつ何やったんだ?」
「私の親友を殺した」
「退治されたのか」
「…………………」
肯定の沈黙。
確かに霊夢の機嫌によって退治される数は前後する。
だが、妖怪を退治をすること自体は、霊夢にとって仕事以上に使命と言っていい。
「そんなの霊夢に悪意はないわ!!だいたい人間は妖怪に喰われ、妖怪は適度に退治されなければ幻想郷のバランスは…」
「アリス。こういうのは理屈じゃないぜ」
「……魔理沙?」
「私だって、もし霊夢がアリスを退治したら、霊夢を許せない。アリスだってそうだろ?」
「それは…………」
じゃあ魔理沙はこいつを見逃すというのか?
「あんたは話がわかるみたいね。じゃあ道をあけてもらえる?」
「勘違いするなよ、名もなき妖怪。あんたが親友のために闘おうとするのは、当然で正当な理由だよ。でもそんな理屈は関係ない」
マスタースパークが輝きを増す。その光で魔理沙の顔は見えない。
「ただ、私は……私の親友を守るだけだ」
会話の終わりを合図に爆音と光がはぜる。
一瞬の結末。
月明かりが静かに魔理沙の顔を映していた。
・・・・・
「まぁアレだ、霊夢には黙っとこうぜ」
「そうね」
こんなこと霊夢に伝えても仕方がない。
例え恨まれようと、憎まれようと霊夢が妖怪を退治することに変わりはない。
やりづらくなるだけなら、知らない方がいい。
魔理沙はこうなることを予想して、私たちだけでケリをつけたんだろうか?
なら、でも、魔理沙はどうなるんだろう?
「魔理沙は妖怪退治を続けるの?」
魔理沙はただの魔法使いでしかない。妖怪退治は使命どころか仕事でもない。趣味のレベルに近い。
「続けるぜ。霊夢1人に任せちゃおけないからな」
「そっか」
ちょっと妬けるけど、まぁ我慢しよう。
霊夢1人に背負わせるわけにはいかないものね。
「じゃあ帰ろうか魔理沙」
「確かにいいかげん眠いな。家まで持ちそうにないから、お前ん家で寝させてくれ」
………………。
神社から私の家と魔理沙の家は大して距離に差がない。
ベッドも1つしかないから寝るにも適さない。
だから、魔理沙が言ったのは表向きの理由。
本当の理由は、きっと………。
『アリスと一緒にいたいだけ』って理由だったら嬉しいけれど、それは贅沢な望みだろう。
「ふぅ、ご飯が食べたいなら素直にそう言いなさいよ」
「バレたか。さすがにアンパンだけじゃ足りなかったぜ」
・・・・・
少女食事中……
「ところで魔理沙」
「ん?ほぉしたふぁりす?」
「食べ終わってから喋りなさいよ…。結局あの恋文はなんだったの?いたずら?」
霊夢へのいたずらだったら許す。
『霊夢へ』だったら許さないけれど。
「だ、だからたまたまポケットにだな…」
「たまたまポケットに入ってるモノじゃないでしょ。言わないとデザート出さないわよ?」
「あぁだからその…まぁアレだぜ。あのな、書いたはいいが、恥ずかしくて渡せなくてな。
それでずっと持ってたんだよ。ほら、これでいいだろ?」
「……誰宛てよ?」
「やっぱ言わなきゃだめか?」
「この前焼いたおいしいケーキがあるんだけどなぁ」
「………うぅ」
「中村屋のどら焼きもあったっけ」
「…………アリス」
「何?」
「だからアリス」
「へ?…………私?え?そんな心の準備が…あわわわわ」
「落ち着けアリス」
「わ、私ね、魔理沙・マーガトロイドより霧雨アリスの方がいいと思うの!!」
「あー…どっちでもいいぜ」
end
・魔里沙→魔理沙
・翠香→萃香
・博霊→博麗
とりあえず殺される為だけに出された名もなき妖怪が哀れだ
・視点がコロコロ変わりすぎもっとしっかり場面を区切るか
アリスメインでまとめるかしたほうが読みやすい
誤字
パチェリー→パチュリーもだな
文章の意味が変わってしまうぐらい致命的でもないし
目くじら立てて怒ることじゃないと思う
作者の人はまだ書き慣れていないのかな
数をこなして推敲すればもっと伸びると思うよ
せめてその点には気をつけましょう
話自体はそこそこ楽しめました。良くも悪くも「可もなく不可もなく」といった具合です
あとは場面の転換の描写も挿入できれば良かったかな、と…
※他人の感想読むまで誤字に気付かなかった。
誤字脱字は自分は気にならなかった