※ この作品は「霖と囚われの自由人」の続きとなっております。
※ この作品はキバヤシ分を多く含みます。
「落ちなさい」
「くっ!」
スペルカードの宣言と共に翻る弾幕。
刹那の美しさを兼ね備えた暴力に、少女は目を閉じる。
一瞬の衝撃と浮遊感……それらを感じた後に妹紅は竹林に墜落した。
輝夜との勝負に負けたのだ。
完敗と言ってもいい。
ここまで一方的な勝負はどれくらいぶりだろうか。
少なくともここ数百年では記憶を探っても出てこない。
本来、蓬莱山 輝夜と藤原 妹紅どちらも不死者である以上勝負がつかないのが常である。
しかし、今日は違うところが一つあった。
こちらの攻撃が効かないのである。
幾度も炎を放ち、そしてそれが当たった筈である。
だが、炎は一度も輝夜を傷つけることは無く、彼女の着る衣を焦がすことなく消えていった。
輝夜は避ける事すらせず、妹紅の攻撃を無効化して見せたのだ。
それに対しこちらは輝夜の攻撃を受け続けることなどできない。
たとえ不死者であろうと痛いものは痛いのだ。
輝夜の攻撃を避ける度に体力を消耗し、攻撃を受けるたびに精神力を消耗して、遂には地面に突っ伏すことになった。
「何なのよそれは!?」
空に浮かび、素晴らしい笑顔を浮かべている輝夜に向かって妹紅は叫んだ。
「いいでしょ、これは本物の『火鼠の皮衣』よ。素敵な男性にいただいたの」
火鼠の皮衣。
輝夜が婚姻の条件として求めた物の一つであり、火に入れても燃えないといわれる物だ。
それならばこちらの炎が全く効かなかったのも納得がいく。
しかし、右大臣の阿部が持っていったものは偽者だったはず……
誰がそんな物を……
「紛い物しか用意できないあなたのお父様達と違って、本物が分かるいい男よ」
輝夜は妹紅の思考を読んだように答えた。
「くそっ!」
妹紅自身、父親のことは駄目な男だと思う。
あんな女に惚れるなど人を見る目が無く、要求された宝物が見つからないからと、偽物で誤魔化そうとするような底の浅い男だったのだ。
しかし、そのような真似をした原因にまで馬鹿にされるのはどうにも許せない。
「お父様を馬鹿にするな」
「そろそろ目障りね、消えなさい」
空に浮かぶ月のように大きな光弾。
それを見たのを最後に妹紅の意識は闇に閉ざされた。
~☆~
「輝夜につまらんものを渡したのは貴様かー!!」
そんな罵声と共に炎をまとった少女が怒鳴り込んで来た。
比喩表現ではなく本当に炎をまとっている。
蹴り破られた扉を背に、鬼のような形相で僕を睨んでいるではないか。
彼女とは初対面のはずで、恨まれるようなことをした記憶は無い。
まぁ、そんな相手を前に僕ができることなど知れている。
「香霖堂へようこそ。僕は店主の森近 霖之助といいます。今日はどんな御用ですか?」
次の瞬間思いっきり殴られ、意識を失ったことについては、甚だ僕の接客術が未熟だったとしか言いようが無い。
/
で、意識を取り戻してまずは自己紹介。
そして次に相手の事情を聞きだす事に成功した。
藤原 妹紅と名乗る少女は迷いの竹林の奥に住んでいること、蓬莱山 輝夜と憎みあっていること、そして先日の火鼠の皮衣のせいで輝夜に酷い目に合わされたことを聞き出した。
「輝夜に火鼠の皮衣を渡したのは確かに僕ですが、それは正当な取引をした上で売ったのです」
「私はお前の売った物のせいで酷い目にあったのよ。何とかできないの」
「売った後、商品をどのように使うかは僕の知るところではありませんよ」
「では、輝夜にギャフンと言わせれるような物は無いの?」
「ギャフンとは、また古い」
「何か言った?」
「いえ……少々お待ちを」
僕は、困ったことに巻き込まれたと思いながら倉庫に向かった。
これならばいつもの紅白か黒白の鼠の方がよっぽどマシだ。
~☆~
さて、妹紅が輝夜にギャフンと言わせれるような物とはどんな物か?
それを探すにはまず、妹紅が輝夜に負けた理由を考えなければいけないだろう。
妹紅が輝夜に負けたのは属性の相性が悪かったのではないかと考える。
人の属性はおおよそ名前に表される。
いわゆる『名は体を現す』というやつだ。
蓬莱山 輝夜……蓬莱山とは富士山のこと、つまりは火山だ。
火山が示す属性は五行で表す所の土、又は火になるのだが、輝夜の属性はおそらく土だろう。
なぜなら彼女は蓬莱の姫、つまりは王族である。
王とは『央』にして『黄』をあらわす。
そして『黄』は土の属性を表す色だからだ。
それに対し妹紅の紅は『赤』、火の属性を表している。
まぁ、名前以前に炎をまとって店に入ってくるような人間だ。
火の属性と見て間違いない。
火の属性と土の属性では、“火生土”というように、やや土に分がある。
そのうえ得意の炎を封じられた為に手も足も出なかったのだろう。
その点を踏まえ、輝夜に勝つ為にどうすればいいか。
輝夜が土の属性であるならば、“木剋土”又は、“土生金”。
つまり木の属性か、金の属性を使えばいい。
僕は赤ん坊程の大きさの金属塊に歩み寄り、足を止めた。
そもそも千年以上生きる蓬莱の姫に一泡吹かせられるようなものなど限られている。
そしてそれらは非売品なのだが……
「店で暴れられでもしたらそれこそ大変か」
数瞬の思考の後、金属塊を抱えると倉庫を後にした。
~☆~
「これなど、どうでしょう」
僕は店内で不機嫌そうに待つ妹紅の前に金属塊を置いた。
「これは何?」
「これは遥か昔より存在し、未だ名前の無い金属ですよ」
「名前の無い金属?そんなもので輝夜にギャフンと言わせれるの?」
「今のままでは無理でしょうね」
「ふざけるな!!」
ぶわっと炎が膨れ上がる。
あやうく大切な本棚に引火する所だった。
「話を最後まで聞いてください」
いきり立つ妹紅をなだめ、再び座らせた。
せっかく商品を持ってきたのだ、説明くらい最後までさせてほしいものだ。
「これは今のままではただの金属です。ですが名前を付け、しかるべき形に加工すればあなたの望みを叶えてくれることでしょう」
「ふむ、詳しく話してみて」
僕の説明に多少の含蓄はあったのだろうか。
妹紅は僕に話を勧めた。
/
「古いものには力が宿ることはご存知ですか?」
「それは身を持って知っているわ。私自身、長い時間を生き、力を持つようになったから」
「では、名前をつけることで物の性質が変化することは?」
「たしか、名前をつけることで物体に宿る神の一面を引き出す……だったかしら?」
「その通りです」
どうやら彼女は見た目程に幼くも愚かでもないようだ。
「だけど、名前の無い金属などいくらでもあるんじゃないの?宝石などならともかく、金属に名前をつけることなど稀でしょ」
「あなたが言っているのは個体としての名前でしょう。これには種としての名前がついていないのです」
「……どういうこと?」
彼女が理解できなかったのも無理ない。
名前が付けられるようになってから長い歴史と時間がたった為、種としての名前がついていない物など非常に希少である。
種としての名前を付ける機会など、新たに物を作り出す発明家か学者ぐらいにしかないだろう。
僕は彼女に種としての名前について例を挙げて説明することにした。
「昔は金剛石と呼ばれる物が、今より脆かったのをご存知ですか?」
「初耳よ」
「今、金剛石と呼ばれる石は発見された当初は今よりずっと脆かった。しかし、“非常に固い意志”を持つ金剛薩の名前が付けられたことにより、“非常に硬い石”という特性が現れた。そして今も力を蓄えるたびに“非常に硬い石”という特性が強化され続けている」
「つまり、金剛石にあたる部分が種としての名前というわけね」
「その通り。そして、金剛石の中にも個体としての名前をつけられ、“魔よけ”や“幸運をもたらす”、“不幸をもたらす”など別の特性を持つものがあります。
しかし、それらは決して“非常に硬い石”という種としての特性を変えることも、超えることもありません。それほど種としての名前が持つ意味は大きいのです。」
「なるほど、その金属に名前を付けることで好きな性質を付ける事ができるのというわけね」
「そういうことです。これは、遥か昔より力を蓄え続けた性質が決定されていない金属。名前を付けることにより現れる性質は凄まじいものになるでしょう。」
そして僕はこの金属を持ってきた本当の理由を語った。
「蓬莱山 輝夜はミステリウムというものを探しているようですが、きっとそれはこのような物のことでしょうね」
「!!! つまり、この金属に名前を付ければ輝夜を殺せるうえに、悔しがらせることもできるのね」
「……そういうことになりますね」
物騒な言葉が聞こえた上に矛盾している気がしたが、気にしないでおこう。
「気に入ったわ店主、これをもらっていわよ」
どうやら商品に満足してもらえたようで何よりだ。
金属塊を抱き上げ、嬉しそうにしている妹紅に声をかけた。
「それでは、御代のほうですが……」
「御代ですって?」
「はい、物を買う時には必ず御代を払う。当たり前のことです。蓬莱山 輝夜も火鼠の皮衣の対価を払っていますよ。」
「……して、いくら?」
「そうですね……」
僕が値段を伝えると妹紅は烈火のごとく怒り出した。
いい加減しつこい位だが、本当に火をまとっているから性質が悪い。
「ふざけるな、高すぎる!」
まぁ、そうなるだろう。
金属塊の値段はおいそれと用意できるような額では無いのだから。
詳しくは避けるが、霊夢が一生見ることの無いような、紅魔館の主でも眉をひそめるような額とだけ言っておこう。
「値段の付けられるようなものではありませんからね。どんな値段でも高すぎるということは無いはずですよ。」
「しかし、そんな額は用意できないわ」
「今は、でしょう?あなたの長い人生、大金を手にする日も来るでしょう。これと釣り合うほどの価値があるものを手に入れることもあるでしょう。安心してください、この金属は誰にも売らずとっておきますので。」
「……分かった、今日は出直す」
しぶしぶながらも納得してもらえたようだ。
そっと胸をなでおろし、店を出て行こうとする妹紅を見送った。
「その金属を誰かに、特に輝夜なんかに売ったりしたらただじゃおかないわよ」
「もちろん、誰にも売りませんよ」
そう、誰にも売るつもりは無い。
こんな物を妹紅に譲ったりしたら、今度は輝夜が香霖堂に怒鳴り込んでくるのは目に見えているからだ。
「次はどうやって誤魔化そうか……」
嘘八百。
八百万の神には程遠いが、その数にあやかりたいものだ。
すっかり風通しのよくなった扉と、予想以上に高くついた蓬莱の薬学書を見比べため息をついた。
暗くなる前に、扉の修理はしておかないと。
僕は傾きかけた太陽を見ながら修繕作業へと取り掛かった。
かわるがわるに、もこてるが怒鳴り込んでくるという
ギャルゲチックな展開を期待してしまったのは内緒だ。
続編みたいなのが機会があればみたいです
ああ駄目だ、『火鼠の皮衣』もスペカなんだった
特に金…やはりこの名前のない金属とかかわりがあるんでしょうか。
まぁ火が使えるんなら窒息させるなりなんなりすれば殺せないこともないと思うが
結局この金属の名前はなんだったのだろうか・・・
オリハルコン?
>渡さなかったか……の方
やはりそのような話のほうが需要はあると思ったのですが、どうもラヴな展開の話を書くことができなかったためこのような閉め方になってしまいました。
>名無し妖怪様
薀蓄の部分はできるだけ嘘っぽくなるようにさわりの部分だけ調べて、そこから妄想で固めた物です。
苦労した部分なのでそう言って貰えるとうれしいです。
>香霖がなんかいいなーの方
ありがとうございます。
私達の書いた香霖でも喜んでくれる人がいるならば幸いです。
>ふぁるこ様
もしそれらと交換で売ったとしたら今度は輝夜だけではなく慧音もなだめる方法を考えなければいけませんねw
>ani様
残りの属性については考えていませんが、どんな人たちにも五行の属性はあると思うので木と金は誰という形では出せないです。
参考として、東方香霖堂で靈夢は木の属性と書かれていました。
あと、刃物を振り回す妖夢や咲夜、名前に白が付く慧音あたりは金属性じゃないかと考えています。
この話はこれで終わりの予定なので続きは考えていません。ごめんなさい
>火を無力化されたらもこたんの方
この金属は一応ミステリライトのつもりで書いていますが、もしどこかでミステリライトの説明が出た時の事を考えて名前は付けていません。
どうぞお好きな名前で呼んでくださいw
本文、レス共に間違えておりました。
申し訳ありません。
引き寄せられてるのかな?お店の中ガラクタばっかりらしいし・・
水である魔理沙からは物を安値で売って貰い。
同種の木である霊夢からは頼られて
金の咲夜さんには騙され・・ん?妖夢は?(汗
何にせよ何時も扉を破壊され修復する霖之助さんに哀愁を感じましたw
新規顧客ゲットだぜ!!
これは(キバヤシ理論も含め)いい香霖堂ですね。
しかし妹紅に逆転の芽が出るのを祈るばかりだww