魔法の森の道具屋香霖堂。
ここでは、今日も閑古鳥が鳴いている。
「……ふわぁ」
そんな店の奥から、左手に急須と湯飲みの載ったお盆、右手に煎餅の入っている袋を持ち、姿が見えるなり大きなあくびを披露した青と黒の着物姿の青年が一人。この店の主、森近霖之助である。
「大きなあくびねぇ。隠すくらいしたら?」
「……そうしたいのはやまやまなんだが、生憎と手がふさがっていたからね」
「そ。そんなことより早くお茶頂戴。それにお茶請けもね」
そんな霖之助に声をかける少女が一人。
髪に付けた大きなリボンと紅白の装束がよく似合っている彼女こそ、この幻想郷という忘れ去られた者たちにとっての楽園の素敵な巫女、博麗霊夢である。
……しかしまぁ、閑古鳥が鳴いていることからも分かるだろう。彼女は、今日は(も?)お客として来たわけではない。目的も何も無く暇だから遊びに来ただけである。霖之助からしたらいい迷惑だ。
だが、そんなことを気にする霊夢ではない。
「全く君という奴は……毎度毎度、新しいお茶菓子が入ったら絶対に来るんだから」
「気にしない気にしない」
「一体どうやってそのことを知るんだい?」
「感よ。感」
訂正。目的はあったようである。なんだか物凄くめめっちい目的のような気もするが。
香霖堂聞聞伝
現在時刻は昼下がり。その後暫くの間、二人が茶を楽しむといったのんびりまったりな光景が続いていく。
「……暇ねぇ」
「僕は商売中だ」
「どうせお客なんて来ないでしょ? あーあ、最近は全く異変も起きないし、本当に暇」
「不謹慎な事を言うんじゃない。大体起きたら起きたで面倒だなんだと言うくせに」
「それはそれ、これはこれ。それにね、異変が全く無かったらスペルカードルールを考えた意味がなくなっちゃうわ。暇すぎる巫女も考えものなのよ?」
「それはそうだが……まぁ今は平和なんだから。暇なら掃除でもしたらどうだい?」
「うーん。なんだか此処に、解決しなきゃいけない異変があったような気がしたんだけどなぁ」
「……気のせいだろう。君の感も偶には外れるという事さ」
表情に出さない事には成功したものの(返答は少し間が空いてしまったが、霊夢は気にしていないようなので平気だろう)、霖之助の内心は動揺やらなんやらで今一杯一杯である。解決しなきゃいけない異変とはあれか、この間アリスが商品を大量に買っていった事かその事なのか。何で普通に商売しているだけでそんな異変認定を受けなきゃならないのだ。畜生、泣くものか。
そんな霖之助の内心の事など露とも知らず、未だに疑問顔の霊夢は茶を啜っている。ついでに掃除云々は無視されたようだ。
「ねぇ霖之助さん。何か最近変わったことは無かった? 例えば品物が大量に売れたとか。あとちょっとお茶、熱い」
「無い。これっぽっちも無い。それにさりげなく失礼な事を言うんじゃない。ついでに言うなら文句があるなら自分で淹れなさい」
「面倒だから嫌」
「……はぁ」
「あら、溜息をつくと幸せが逃げるわよ?」
「……ご忠告どうも。胸に留めておくよ」
――霊夢は相も変わらずにマイペースだな。
彼女と会話をしていると、霖之助は特に強くそう思う。先程から会話の主導権を彼女にとられっぱなしだ。いやまぁ、単なる雑談に会話の主導権もへったくれもないだろうが……ある意味会話が必須技能と言える商売人の身分の者が、こうも簡単に渡していいものなのだろうか?
「起きてもいない異変を探るくらいなら、帰って神社の掃除でもしたらいいんじゃないかい?」
なんとなく口惜しくなってきたので、無視された掃除云々を、もう一度蒸し返す。どうせ面倒くさがりの彼女の事だからあんまりきちんとしていないだろうと予測してのことだ。
仮にも幻想郷で唯一だった(最近妖怪の山に一つ増えたらしい)神社がそんな有様でいいのだろうか? いいやよくない。……と、霖之助は思っている。
「終わったわ」
「……何だって?」
「だから、終わったって言ったの。掃除」
「僕の耳がおかしくなったわけでは、なさそうだね。そっちの方がよっぽど異変に近い気がするんだが……一体何があったと?」
霖之助の発言は大げさに聞こえるかもしれないが、実際に大げさである。この香霖堂が繁盛する事ほどの異変なんてそうそうあるものじゃない。
誤解が無いよう補足をしておくが、霊夢とて普通に掃除はしている。境内掃いたりとかは日課だし(ただ、のんびりとしているために時間はかかっている)。霖之助が驚いているのもこれに関係している。例えば毎年毎年、年が変わる直前まで面倒くさがって大掃除を始めないのがこの博麗霊夢という少女なのである。
それなのに、今年はもう既に取り掛かっているどころか終わってすらいるという。一体何があったと疑問に思っても仕方がないこと……なのかも知れない?
「別に何も?」
「そんなはず無いだろう」
「否定、早すぎない?」
「……そんなはず無いだろう」
そしてその当人は至極あっさり質問に答える。だがそんなことでは霖之助の心に宿った疑惑は払拭する事はできない。
「……ああ、でも敢えて言うのなら」
「言うのなら?」
「鬼って便利よね。ただ飯食らいで無ければ」
「……幻想郷でも、君くらいなものだろうね。鬼をそんな風に使えるのは」
「ちょっとお願いしただけよ。『瓢箪が返して欲しければ家の中掃除しておいて』って」
「それは脅迫とは言わないか?」
「お願いだってば。それよりも、さっきの『掃除でもしたらいいんじゃないか』って言葉、そのまま返すわ霖之助さん。この店内の状況、すごいもの」
ぐるりと店内を見渡しても、ごちゃごちゃしていて棚など既に半分は埋まっており床に置かれた物に物が置かれてピラミッドを形成しているこの状況。思わず溜息の一つもつきたくなってくる。
恐らくこの店の有様ならば、誰が見ても片付けろと口を揃えるだろう。あのメイド辺りは我慢できなくなって勝手に掃除を始めてしまうかもしれない。家の中が同じように盗ひ……他から失敬してきた魔法具やら本やらなんやらで散らかっている魔理沙なら問題ないのかもしれないがそれはそれで問題だ。いくら兄妹みたい関係だからって、こんなところが似ていなくてもよかろうに。
そんな霊夢の言葉に、霖之助は、ひらひらと手を振って拒否の意思を示す。
「返さなくてもいいよ。このままでも僕は、店の何処に何があるのか把握しているからね。掃除は必要ない」
「お客がわからないでしょ。実際私はどうなっているのか、さっぱり分からないし」
「別にわからなくても問題無いじゃないか。何が欲しいか言ってもらえれば、僕がその品を取ってこられるのだから」
「……霖之助さん? 貴方本当に商売する気があるの?」
「勿論だとも。目下の悩みはこのやる気が何故周りに伝わらないのかということだね。全く。理解不能だ」
「恐らく一生誰も理解できないと思うわよ」
二人揃って溜息。ついた理由は勿論正反対。
こういった世間話によって暇を日暮れまで潰そうとしていた霊夢だったが(客が来るなんて霊夢は考えていない)、扉が開く音と、其処から聞こえてきた声により話を中断することとなった。
「お邪魔するわね」
入ってきた人物は金髪のショートカットで、珍しく肩の辺りには何時もいる筈の人形が浮いていない。服は何時もの青を基準としたワンピースではなく、黒のゴシック調。ようするにアリス・マーガトロイドである。今日は何を入れているのか、右手に持っているパンなどを入れるような小さめのバスケットからは、距離があるにも関わらず、甘いいい匂いが漂ってくる。
「あら、アリスじゃない。こんな所に何の用?」
「霊夢? そっちこそ、どうしてこんな所に?」
お互いに此処で会ったことが意外だったようで驚きが顔に出ている。というか香霖堂、行き成りこんな所扱いである。気持ちは分かるが。
「君たち……店主を前にしてこんなところあつかいは無いだろう。大体霊夢、此処は道具屋だ。何の用も何も」
言外に道具を買いに来たに決まっていると言っている霖之助。まぁその予想は外れるのだが
「あ、今日は買い物に来たわけではないから」
「は?」
「やっぱり」
「やっぱり? やっぱりって言ったかい?」
「でもじゃあホントに何しにきたの? こんなとこ、買い物以外で来る理由あるの?」
もうなんか散々な言われ方だ。というか霊夢、それは自分自身のことを踏まえて言っているのか? 霖之助が膝を抱えて落ち込むぞ?
「いや、普段なら無いんだけれど……今日はこの間のお礼に」
「お礼参り?」
「そんな物騒なお礼はいらない! ……というか、お礼? 何のことかな?」
「割り引いてもらった事の、よ。流石に少し図々しかったかなって思って、クッキー焼いてきたんだけど……あれ?」
手に持った小さめのバスケットを掲げて見せようとしたアリスだが、いつの間にかその手からバスケットが消えている。
不思議に思い首を傾げているアリスだったが、既に霖之助には在り処が分かっている。だって隣からサクサクって音が聞こえてきているし。
視線を移動させると案の定、霊夢がクッキーをぱくついていた。
「あら、美味しい」
「こんなときばっかり素早いな君は。普段は重い腰な癖して全く意地きたな」
「霊符『夢想封印』」
「ぐはぁ!」
吹っ飛ぶ霖之助。汚いガラクタ……もとい、大切な商品に突っ込んでいく。口は災いの元とはよく言ったものだと霖之助は今身をもって体験している。体験しているだけで学習はしていないが。
霊夢はそんな霖之助の一部始終を見届けてから、ぴっと指を立てて説教を開始する。アリスは行き成りの行動に唖然として動けないようだ。
「女性にそういう言葉は禁句よ、霖之助さん。それに私はマイペースなだけ。何事ものんびりでいいのよ。のんびりで」
「……貴方、容赦ないわね」
「そうかしら? それよりも、割り引いてもらった事って?」
「……彼は放置?」
「大丈夫よ。何時もの事だから」
涼しい顔でアリスへの返答をしている霊夢。その様子から見るに、これは本当に何時ものことなのだろう。例え慣れていないアリスが顔を引きつらせるような有様だろうがなんだろうが。
ピクピクと痙攣している霖之助のことを本当に大丈夫なのかなぁとか思いつつも、自分よりも付き合いの長い霊夢が平気と言っているのでアリスも気にしないことにする。
「ああそう……ならいいか。この間、ちょっと物入りで色々買ったのよ。それで、量が多かったから割引してもらったの」
「どのくらい買ったのよ」
「えぇと……あれとそれとこれと……その他色々?」
「ふぅん。……霖之助さん」
「グ……な、何か?」
「霊符『夢想封印・集』」
「ごはぁ!」
「確りと異変起きてるじゃない。この香霖堂が繁盛するなんて……するなんて?」
以下、なんとも分かりやすい霊夢の思考である。
香霖堂儲かる―→お金が手に入る―→食材ゲット―→美味しいご飯が食べられる!
すでに自分が一緒にご飯を食べることは確定しているようだった。まぁ今までもご飯を作っていたようなので(食料持参の事など殆ど無いが)、特に問題ないのだろう。
「……いいわね。御免なさい霖之助さん。私が悪かったわ。じゃんじゃん繁盛して」
先程とは態度が壱百八拾度変わっている。その目には直視できない(したくない)輝きが宿っている気もする。
「い、いや……わかって、くれたなら……いいんだ。なんだか納得いかないような気もするが……」
「……色々と大変なのね。貴方も」
なんだが居た堪れなくなって声をかけてしまった。そんなアリスの言葉が、心に染みる霖之助だった……。
「もう、慣れたよ……は、はは、ははははは……はぁ」
そう言いつつも何だか目が虚ろなのはアリスの気のせいだろうか? ……彼の隣に座っている霊夢は暢気にお茶を淹れているし、自分の目の錯覚だろう。
笑い声が乾いて聞こえてくるのはアリスの気のせいだろうか? ……彼の隣に座っている霊夢は暢気に手土産のクッキーを齧っているし、自分の幻聴だろう。
そういうことに決めた。あんまり関わってとばっちり受けたくないし。
「そういえばアリス」
「何?」
「何時も一緒のえぇと……そう、上海人形は?」
「今日は家でお留守番。まぁ、呼ぼうと思えば呼べるんだけど」
「召還するの?」
「似た様なものね。ちょっと違うけど……実際に見た方が早いか」
そう言って徐に手を掲げるアリス。霊夢は何をするのかと期待に満ちた目で見ているが、霖之助は生憎とグロッキーで顔を上げることもままならない様子。まぁ貧弱なひきこも……インドアな彼にはスペル二連発はキツかったらしい。マスタースパークなら食らい慣れているので平気なのだが。
「でろぉ!! シャンハーーーイ!!」
パチィ!!
「ヨバレタトビデタシャシャンハーーーイ!!」
「ゴバァ!!」
「あら、地面の中から出てきた」
この場合は床からではなかろうか? ここは香霖堂の中だし。
まぁそんなことはともかくとして。今、霊夢の前にはその出てきた上海人形がふわふわと宙に浮いている。地下から出てきた筈なのに全く汚れていない。ついでに何故か表情が誇らしげである。
「魔理沙の『アースライトレイ』からヒントを得たのよ。行き成り下から撃たれるのって、結構嫌なものなのよね」
「パクリ?」
「それはあの野良魔法使いの専売特許。私のはオマージュと言って頂戴」
「……何が違うの?」
「…………何かが? ああ、勿論のこと上海だけじゃなくて蓬莱仏蘭西オルレアン和蘭に露西亜、倫敦西蔵京人形なんででも可能よ」
「はあ。まぁそれはいいんだけど……さっきので霖之助さんが天井に突き刺さったわよ」
「え? ……本当ね。何時の間に」
「だからさっきだってば」
アリスは素で気づいてなかったようだ。天然って怖い。
というか霊夢にはもう少し慌てるなり何なりリアクションをして欲しいものだ。仮にも知り合いだろうに。
その後霖之助は吹っ飛んだ原因である上海人形によって助けだされるのだが、その時の恰好は襟首掴まれぷかぷかと。小さい体なくせに意外と力持ちである。その際霖之助の顔にチアノーゼがでていたのには……今生きているのだから特に触れる必要も無いだろう。霊夢とアリスも気にしてなかったし。
「何だか咽渇いたわね。お茶貰っていい?」
「どうぞ。でももう急須中身ないから自分で淹れてきてね」
「……はいはい」
「あ、温めでよろしく。70度くらいでね」
「細かいなぁ。だったら自分で淹れたら?」
「面倒だから嫌」
「……はぁ」
「あら、溜息をつくと幸せが逃げるわよ?」
「……ご忠告どうも。胸に留めておくわ」
「……あれ? 何かしらこの既視感」
霖之助が復活に要した時間はそれほど長くない。アリスがお茶を淹れなおしてきたら、もう平気な顔で入ってきた時と同じ場所に座っていた。
「謎の声と共に腹部に衝撃が来て気がついたら吹っ飛んでいて天井に近づいたと思ったら既に突き破っていたよ。いやはや、屋根裏は暗い汚い狭いと三拍子揃っていたね。気絶していて殆ど憶えていないが」
その割に詳細に語っている気がしなくも無いが。
「……もう回復してるなんて」
「ブキミー」
「だから何時ものことだって言ったでしょ?」
「何時もの事、という事自体が問題だと、僕は思うわけだが」
「……霖之助さん? 思ってるだけじゃ駄目よ。ちゃんと行動に移さないと」
「移さなきゃいけないのは君たちだ!」
相も変わらず涼しい顔で会話を流す霊夢に、机をダン! と叩き声を荒げて憤る霖之助。……だが、叩いた手を痛そうにさすっているのでいまいち決まらない。
そんなことでは霊夢のことを納得させることなどできるはずも無く。
「あら残念。思ってもいないことって、行動には移せないのよ」
「……霊夢。君、最近紫に似てきてないか?」
「そうかしら?」
「ああ間違いなく」
「……それは嫌ね。ちょっと態度改めるわ」
霊夢、本気で本当に嫌そうな顔だった。流石は幻想郷の賢者というか色物大将というかなんというかな八雲紫である。その影響力は抜群だ。良くも悪くも。
霖之助としてもこれが聞いてくれなかったら、後はツケをいくらか減らすというまさに身を切る代償を払うくらいしか方法が脳裏に浮かばなかっただけに、ほっと胸をなでおろす気分だ。
「漫才は終わった?」
「ナカイーネー」
声をかける機会をうかがっていたのだろう。アリスは会話が途切れたのを確認するように話しかける。その声には呆れが多分に混じっている。
「漫才ではないんだが……」
「傍から見てたら完全に漫才よ。今の」
「嫌だわ夫婦漫才ですって霖之助さん。どうする?」
「誰も言ってないだろそんなこと!」
「付けた方がよかったかしら?」
「イヌモクワナイー?」
からかっているように付け加えるアリス。もしかして霊夢ってそうなの? 的な少女らしい好奇心らしきものが覗いているようで、声のトーンも目の輝きも違っているように見える。というか違う。
だが霊夢にはそんなものは関係ない。何時も何時でも自分のペースを貫くのみである。最初の時から殆ど表情も変わってないし。
「やめて頂戴な。霖之助さんとそんな関係になる予定無いもの。今のところ」
「言い出したのは、君だろうに……」
グッと忌々しげに睨みつける。今はその涼しい顔が憎い、ほんの少しだけ。……いやかなり。
「彗星『ブレイジングスター!!』」
「な、と、扉がーーー!!」
なんの前触れもなく扉に突っ込んできたのは、箒に跨った白黒服の人物だった。ようするに霧雨魔理沙である。いつでもスペルは全力全開という迷惑なもっとうの持ち主でもある。……魔砲使いはそんなのばっかりか?
「また吹っ飛んだわね。二回目?」
「……今週、三回目だよ」
「……そんなに吹っ飛んでるの? なんでよ」
「タテツケワルイー? オンボロー?」
「すぐ分かると思うわよ。霖之助さんも、今日三回とかで無くてよかったわね」
「……なんかそれ、違くない?」
「よ! 香霖。お邪魔するぜ」
「するぜ。じゃ無い! 何で君はこういちいち何かを壊しながら現れるんだ!」
「そうなの?」
「あー、この間は窓を消し飛ばして入ってきてたわね。何でそんなことしてるのか知らないけど」
「……野良だから?」
「ヤセイジー」
「躾はされてる筈なんだけどね。実家で」
魔理沙の行動に意味を求めてはいけない。どうせ聞いても『あー? なんとなくだぜ』で誤魔化されるから。もしくは何も考えてないから。
「五月蝿いなぁ香霖は。そんなんじゃ大物には成れないぜ?」
「結構だ! 僕はこうして道具屋を営めるならそれでいいからね! そんなことよりその扉、どうする気だ!」
「あー? 後で直すからそれでいいだろ? アリスが」
「何で私!?」
「私が知るか。あー、器用だからだろ。……ん? そういえばなんでアリスがいるんだ? 霊夢は暇つぶしだろうけどさ」
「名前出しといてさも今気づいたかのように言わないでよ!」
「私、夫婦だから」
「……はぁ?」
「それ、まだ引っ張るのかい?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔というのだろうか? 割と見物な魔理沙の表情だった。そして慌てたように
「だ、誰とだよ!? アリスとか!?」
「……私にそっちの気は無いわよ」
「霖之助さんと」
「なっ!?」
「その時だったーー! 一陣の風が吹いたのはーー!」
「っ!? 誰だ!」
謎の声と共に香霖堂の中に風が吹き荒れる。ついでにシャッター音も木霊する。
「ここでビックリドッキリシャッターチャーーンス!! 明日の一面決定ですよーー!!」
そして風と共に去りぬ。残るは放心状態の三人と変わらぬ一人。
「「「……」」」
「漫才の、だけどね」
「何もかもが遅い! ああもう!」
既にカラスは居ない。幻想郷最速は伊達ではないという事か。それにしても、裏づけを取る事もしないとは……。手間は掛けないでデマを書くと。
「ああ、明日の新聞を見るのが怖い……」
「なら、明日を迎えるの止める?」
「さらっと怖いこと言うのは止めてくれ!」
「何なら手伝うわよ? 半分私の責任かもしれないし」
「半分もかもしれないも何もかも全部全て纏めて君の責任だーーー!!」
「だから付き合うってば。えーっと、明日を迎えるのやめるのよね? どのスペルがいい?
爆死(霊符『夢想封印』)に圧死(宝具『陰陽鬼神玉』)に絞殺(神技『八方鬼縛陣』)に……」
「それが巫女の言うことなのか!?」
「あの……霊夢? からかうの、その辺にしといてあげなさいね」
「コロスノー? ショーコノコスナー」
哀れだからという言葉は喉の奥のほうに何とか封印しておけた。この言葉をかけたらなんか、霖之助が白い砂のような物になってさらさらとどこかに流れていくような気がする。多分その予想は間違ってない。もしかしたら泣くのかもしれないが。
なんだかとても手馴れているような気がする霊夢のからかい方から今までの霖之助の苦労が垣間見れて、ほろりときそうなアリスだった。
「なーんか、さっきからなんか置いてけぼりにされてる気がするんだが。私」
「気のせいじゃないから帰りなさい。邪魔だから」
「シッシッノシー」
頭を抱えてこれどう収拾つけようかなぁなんて考えているため、魔理沙への対応に容赦と余裕の無いアリス。だがこんなことで『はいそうですか』と引き下がる魔理沙では無い。というか下がったら魔理沙では無い。
案の定アリスの言葉に肩を竦めながら、ハッと鼻で笑う。
「お前に言われなきゃならない理由が分からないな」
「これ以上は事態が収集できなくなりそうだからよ……」
「字体が蒐集? それは楽しそうだな。集めた分、貰うぜ?」
「こんな時くらい話あわせてよ頼むから!」
「アタマワルーイ」
アリスは忘れている。魔理沙はとんでもない天邪鬼であると。ついでに生粋の負けず嫌いでもある事を。
そして、何が“負け”なのかは当人にしか分からないという事を。
「やれやれ。蒐集癖の悪い奴は困るなぁ。こんなものの収拾でも集めようとするんだから。全く理解不能だぜ」
「……喧嘩売ってる? 売ってるのよね?」
「カネハネーガー、カウゼー?」
「御心配なく……ってな。金の代わりにお前の蒐集品を貰ってくぜ!」
「この間盗って行ったじゃない! 生活用品諸共ーーー!!」
今、アリスの背後に確かに噴火した火山が見えた。ああフジヤマボルケイノ。こんな所でもパク……オマージュしているとは。
「この間の大量購入には、そんな理由が……!?」
「まぁ予想できたオチよね」
「オチとか言わない……確かに予想はできたが」
でも言わない。だって足元見られてもっと割引させられたかもしれないし。
いつの間にか観客と化していた二人。どうやら、霊夢がからかうのに厭きたらしい。何故分かるかって? だって霖之助が霊夢に勝てるわけ無いし。色々なもので。
「その歴史は多分慧音に食われたな。記憶に無いぜ」
「んなわきゃないでしょうが!」
「コノジャクネンセイチホーショーメー」
「……言ったな?」
「……だから?」
「このままお前を帰すわけには行かないぜ!」
「帰るのは私じゃなくてアンタでしょ!」
「ヤッパリジャクネンセイチホーショーダー」
「……」
「……」
一触即発の雰囲気である。今にもスペルを宣言しそうだ。
「ファイト」
ポク
「グランドスターダスト!」
「アーティフルサクリファイス!」
「伏せろーー!」
「もう結界は張ってあるわ。早くこっちに非難して霖之助さん」
「あ、ああ。わかった」
霊夢の張ってある結界まで伏せたままカサカサと移動を開始する。はっきり行って恰好悪い。というか霊夢、結界(しかもこの二人の弾幕に耐えられるほど強固なもの)を張るまでの時間を考えると、先程の行動は確信犯の可能性が高そうである。生きるのに必死な霖之助は気づきそうに無いが……知能犯か?
「イツモヨリオオクバクハツシテオリマスー」
「するなー! 店の中で爆発物を使うんじゃない! 商品が壊れるから! 売り物にならなくなるから!」
ドゴーンバゴーンという効果音によって彩られている香霖堂に霖之助の悲痛な叫びが響き渡る。とっても切実だ。
勿論決闘中の二人にそんな言葉は届くはずもなく、被害は広がるばかりだ。
「大丈夫よ」
「霊夢?」
そんな中、確信に満ちた言葉が隣から聞こえた。視線を向けてみると、こんな中でも何時もと変わらない様子の霊夢が続けて言葉を放とうとしている。
何が大丈夫なのだろう? もしかして、彼女がこの騒ぎを収めて――
「このままじゃ壊れるのは商品だけに止まりそうに無いから。商売する場所が無ければこんなのガラクタでしょ?」
「くれるわけ無いよなああわかっていたさ! 畜生それの何処が大丈夫なんだいいから止めてくれ!」
「めんど――」
「ツケ一割チャラにする!」
「神技『八方鬼縛陣』!」
発言から0コンマ5秒掛からずに発動するスペル。変わり身も此処まで早ければ素敵。思わずそう思いたくなる霊夢の反応だった。
五秒後には、雁字搦めにされて芋虫のようになり床に転がされているアリスと魔理沙の姿があった。
「二人とも、はしゃぐのは場所と時を考えましょう? 他人に迷惑かけちゃ駄目よ」
「く、納得が」
「いかないぜ……」
呆れたように諭し始める。どの口で言っているつもりなのか。魔理沙とアリスの歯軋りの音が此処まで聞こえてきそう。
「二人とも、なんてことをするんだ。お蔭で店の中がめちゃくちゃだ!」
二人の前に立ち、怒りを露にする霖之助から、罰が悪そうに目を逸らすアリス。魔理沙はまだ愚痴愚痴と霊夢に向かって言葉を吐いているが……あ、大麻で横面叩かれて無理やり霖之助のほうに向かされた。
ちなみに店の中の様子はといえば。本気で争いが起きる前だったし元々が元々なので、傍から見ればそう変わった様に見えない。辛うじてあった通路にも物が落ちたかな? といった程度のものだ。被害は最小限といってもいい。
……被害が起きてしまうこと自体が問題なのだよ。
「だって魔理沙が――」
「アリスが全部纏めて悪いんだ。私は悪くないぜ」
「どの口がほざくのかしら。この野良はホント躾がなって無いわねぇ?」
「なんだ都会派自分の罪は自分で償えよ。ここには頼りになる母親は居やし無いぜ?」
「……ふふふふふ」
「……ははははは」
「…………兎に角、もうこんな真似はしないように。店の掃除はしてくれよ」
一応注意をしておくが、こんなものは気休めにすらなら無いであろうことは、長い付き合いから十分に理解している。
それでもこれで手打ちにしたのには訳がある。
二人を遣り取りを聞いていたら、今までの疲れが押し寄せてくるように眩暈がしてきてぶっ倒れそうになったのだ。今布団に入れば、あのスキマ妖怪もかくやというほどに素早くぐっすりと眠れそうだ。本気でそうしたいと思う。
この二人の取り扱い説明書には、『混ぜるな危険』と一言添えておく必要があると切実に霖之助は思った。主に自分の平穏のために。
「助かったよ霊夢。有難う」
「お礼はツケを二割引いておいてくれればいいから」
「まぁ仕方ない……って思い出したぞ元はと言えばこんなことを煽った君のせいじゃないか! というか何処から持ってきたその木魚」
「其処のガラクタの山。そんなことより霖之助さん。女には、時に戦う事でしか解決できない事があるの」
「……で?」
「と言う訳でファイト」
ポク
そして悪夢は動き出す。
「いけ!! オーレリーズソーラーシステム!!」
「なんの!! 上海蓬莱仏蘭西オルレアンに和蘭露西亜倫敦西蔵京全員集合! 押し返しなさい!!」
「テヤンデーバーロー」
「止めんかアリスあんな迷惑な召還の仕方するんじゃない! ただでさえ最近客が来ないんだ! 頼むからこれ以上床も物も壊さないでくれ! 魔理沙もそのビットを仕舞いなさい!」
だがすっかりヒートアップしてしまった二人に、霖之助の必死の制止が届くはずもない。
今や香霖堂は幻想郷一の道具屋だ。危険度が。
段々と弾数が多くなる(危険度もそれに伴って上昇)中、それでも何とかその事態を引き起こしている二人の魔法使いを止めようと奮闘している霖之助に、満面の笑顔でささやく霊夢。
「ほらほら霖之助さん。頼ってくれてもいいのよ? ツケの一割で」
「断る! 断るぞこの悪魔! ああ君のツケなんてなにがあろうと絶対に必ず鐚一文足りとも減らない減らさない減るもんか!」
「前言撤回? 言った事には責任持ちましょうよー」
「君こそ自分の発言の責任をとれーーーー!!!」
「えー?」
「……いいか、泣くぞ? これ以上は僕泣くからな! 恥も外聞もかなぐり捨ててみっともなく泣き喚くからな!」
「む~。仕方ないなぁ」
霖之助のプライドをかなぐり捨てた脅しになってない脅しに流石にばつが悪くなったのか、渋々と従う霊夢。だって声とかもう泣いてたし。
この辺り霊夢は甘い。紫なら絶対にこんな所で引いたりしない。むしろ嬉々として泣かす。そしてからかう。
そしてスペルを発動させてわーぎゃーとやっている二人(勿論周囲のことなんて考えていない)に、死刑宣告をやる気の無い何時もの声で告げる。
「二人ともー。これ以上やるなら外でやりなさーい。でないと問答無用で夢想シリーズ全段叩き込むわよー?」
「表に出ろアリスこんな狭いところじゃ私の幻想郷最速のスピードを発揮できないし全力なんか出せないぜ出す必要なんて無いけどな!」
「望むところよこんな狭いところ人形全体出せないわあんた相手に全体なんて必要無いけどそれにあんたもう幻想郷最速じゃ無いからね!」
「神霊『夢想封印しゅ――』」
「さっさと出ろぉ!!」
「あんたこそぉ!!」
初っ端から二番目に強いラストスペルの名を聞いて一刻の猶予も無いと悟り、先程のカラスもかくやという速度で外へと出て行く二人。流石は幻想郷の守護者の言葉である。効果は抜群だ。
「これでいいでしょ?」
「……」
「……霖之助さん?」
「……」
返事が無い。正面から覗き込むと、目が遠くを見ていた。今彼の目には何が映っているのだろうか?
「所詮白黒は二色! その力は私の二割八分六厘にも満たない!」
「はん! なに言ってやがるこの七色人形遣い! 色が多けりゃ偉いのか!」
「そういえばあんた前は一色だったわね。真っ黒黒助うふ、うふ、うふふふふ……!」
「ウフ、ウフ、ウフフフフーーー」
「!? そ、その笑い方をするんじゃないぜ!!」
「あらあら言葉遣いもそんなに変わっちゃってどうしたのかしら? うふ、うふ、うふふふふ……!」
「カッチャッター?」
この瞬間、博霊神社で原因不明の落雷が観測されたそうだが、この発言との関連性は確認されていない。ないったらない。
「あら、あの二人今日は本当に本気ね。気迫が何時もの三割ましだわ」
弾幕中の二人を見上げながらポツリと呟く。
そう、“見上げて”である。香霖堂の中から。
「昔の事まで持ち出しやがって! 根暗陰険引きこもり! 七色魔法馬鹿!」
「なんですって!? たいした魔法も使えないくせにいきがってんじゃないわよ!」
「キノコバカー」
「試してみるか!? オダイは見ての御帰りだぜ!」
「帰るのはあんたよこのド低脳!」
「やっかましい! そぉら落ちろ! 落ちろ! 落ちろぉ!」
「そんな程度の弾幕! 避けきって見せる!」
「キャイン。アタッチャッター。アリスーガンバー」
香霖堂の上空をマジックミサイルが、ナパームが、大中小の丸球にクナイと鱗が、ところどころ座薬にレーザー、御札までもが飛交ってい……御札?
「あ、スペルの解除忘れてた」
「「忘れるなーーー!!!」」
既に両者共、スペルは三枚目に移行しており、アリスは上海を含む主力の人形が何体か被弾し、魔理沙のビットも半分にまで減っている。ただ、本体の被弾は依然零のままだ。
お互いの回避した弾が森へと降り注ぐ。なまじっか実力が高いだけに周りの森林への被害も大きいものとなっている。このままでは、一時間掛からずに辺り一面焼け野原になりそうな勢いだ。
そんな中にあっても香霖堂が健在なのは、単に霊夢への恐怖心が働いているからなのだろう。
「霖之助さーん?」
「……」
「もしもーし。おーい。やっほー」
「……屋根が」
「あ、やっと返事……って屋根?」
「おかしいなぁ。家の中にいるはずなのに、空が見えるぞ。眼鏡が壊れたかな?」
「普通ならそれは眼鏡じゃなくて頭が壊れてるわ」
「そうか……屋根が無いように見えるのは錯覚かぁ……」
「いえ吹っ飛んだだけだけど」
「……もう、暗い汚い狭いと三拍子揃っていた屋根裏は味わえないのか……」
「味わいたいの?」
「いや全く。それにしても……屋根、どうしたらいいんだ……」
「なんとかなるわよ。多分。慧音に頼めばあっという間じゃない?」
「それはそうかもしれないけどね。今日中には無理だろう。この時期に屋根無しで寝るのは厳しそうだ」
「家来る? 一日位なら泊まってもいいわよ」
「賽銭入れたら、だろ?」
「正解。流石分かってるわね」
ちなみに屋根を吹っ飛ばしたのは半分魔理沙で半分上海だ。いつもより多くの爆発は伊達ではなかった様子。
「大体な! 人形遣いと人情遣いは間違えやすいんだよ!」
「言いがかりにも程があるわよ誰が風来坊か!」
「お前じゃない事だけは――おわぁ!」
「……え? 陰陽玉? なんで?」
アリスと言い争いながら闘っていた魔理沙に突如、白と黒の人間より少し小さい程度の大きさの陰陽玉が襲い掛かる。これにはアリスも驚いている。バランスを崩した魔理沙に追撃をするのも忘れているくらいだ。
そして、この陰陽玉を魔理沙に投げつけた人物が、ゆっくりと空に姿を現した。
「行き成り何するんだよ霊夢。危ないじゃないか」
「そうよ。邪魔しないで頂戴。貴方の手助けなんか」
「魔理沙、貴方は今とってもうかつなことを言ったわ」
「な、なんだって?」
「ちょっと、無視する気?」
「『人形遣いと人情遣いは間違えやすい』……そう、言ったわよね?」
「あ、ああ」
「そんなはず、無いじゃない」
「……そりゃ、普通は間違えないでしょうよ」
「五月蝿いぜ外野」
「私はとうじ――」
「だから五月蝿いぜ外野。で、どういうことなんだ? 霊夢」
「……簡単なことよ。そう、とても簡単」
そこで霊夢はアリスに視線を固定した。その目は、とても、とても悲しい光を宿している。
何故そんな目で自分を見るのだろう。そのアリスの疑問は、言葉に発せられることなく解決した。
「人情が使えたら、アリスが友達零人な訳が無いじゃない」
「丑三つ時だけだと思うなよ馬鹿ぁぁぁ!!」
爆発。残っていた人形による一斉リターンイナニメトネスが空を赤く染め上げる。
この攻撃は今の全力の一手だったのだが、この程度では巫女の口は防げなかったようで、再び口撃が襲い掛かってきた。
「だから人形に奔ったのよね?」
「それ曲解にも程がない!?」
「大丈夫。幻想郷は全てを受け入れるわ」
「いやぁぁぁぁ!? そんな生温い優しい目で私を見ないでぇぇぇ!!」
だが口撃はこれだけでは収まらない。アリスの苦難は続く。
「……すまん。私が悪かった」
「なんで……謝るの? ねぇ魔理沙なんで!?」
「……(フイ)」
「こっちを向いてお願いぃ!!」
その後も、魔理沙は目を合わせてくれることはなかった……。
霊夢も駄目、魔理沙も駄目。こいつら人の話聞いてくれない。会話をするということは、とても、とても尊いことだというのに……! きっと人の皮被ったなにか別の生物なんだ。そう思わないとやってられない。
こうなったら、最後の希望を香霖堂の中の人物に託すしかない! 急降下!
「おや、これは上に破片が積もっていただけで無事か。貴重な一品だったからよかった。危ないから今のうちに安全な場所に」
「霖之助さん!」
「うわぁ! あ、危ないじゃないかアリス君! いきなり背後から大声をかけないでくれ。貴重な一品を」
「霖之助さんはわかってくれるわよね!? 友達よね!?」
「え? なんの話?」
「だから友達よね!?」
「誰が?」
「この甲斐性なし根性なし商才なしぃ! こんな店もう二度と来ないもん!」
「え、ア、アリス君?」
「かえる! わたしもういえかえるーー! うわぁぁぁぁん!」
絶叫しながら走り去る。事態を把握できていない霖之助には、呆然とその背中を見送ることしかできなかった。
その軌跡には、夕日によってきらきらと光る涙が、止め処も無く舞っていたそうな……。
「なんだったんだ……?」
「現実は常に非常……ということよ。それより暗くなってきちゃったから、早く行きましょう」
「何処に?」
「私の家。さっき言ってたじゃない」
「僕はここの片づけをしなくちゃならないんだが」
「そんなのは明日でもいいでしょ? 泥棒対策に結界はちゃんと張っておくから。早くしないと妖怪が大量に来るかもしれないわよ?」
「……仕方ない。ここは君の言葉に従うことにしよう」
「じゃあ支度してきて。その間に結界張る準備しておくから」
「わかった。……ん? ところで魔理沙は?」
「さぁ? 帰ったんじゃない?」
そう答える、霊夢の表情は―――
次の日の早朝。
滝の下にて、大量の新聞と共に一匹の鴉天狗が水没しているのが河童によって発見された。猶、その大量の新聞に書かれていたことは、残念なことにインクが滲んで解読不可能だったそうだ。
ここでは、今日も閑古鳥が鳴いている。
「……ふわぁ」
そんな店の奥から、左手に急須と湯飲みの載ったお盆、右手に煎餅の入っている袋を持ち、姿が見えるなり大きなあくびを披露した青と黒の着物姿の青年が一人。この店の主、森近霖之助である。
「大きなあくびねぇ。隠すくらいしたら?」
「……そうしたいのはやまやまなんだが、生憎と手がふさがっていたからね」
「そ。そんなことより早くお茶頂戴。それにお茶請けもね」
そんな霖之助に声をかける少女が一人。
髪に付けた大きなリボンと紅白の装束がよく似合っている彼女こそ、この幻想郷という忘れ去られた者たちにとっての楽園の素敵な巫女、博麗霊夢である。
……しかしまぁ、閑古鳥が鳴いていることからも分かるだろう。彼女は、今日は(も?)お客として来たわけではない。目的も何も無く暇だから遊びに来ただけである。霖之助からしたらいい迷惑だ。
だが、そんなことを気にする霊夢ではない。
「全く君という奴は……毎度毎度、新しいお茶菓子が入ったら絶対に来るんだから」
「気にしない気にしない」
「一体どうやってそのことを知るんだい?」
「感よ。感」
訂正。目的はあったようである。なんだか物凄くめめっちい目的のような気もするが。
香霖堂聞聞伝
現在時刻は昼下がり。その後暫くの間、二人が茶を楽しむといったのんびりまったりな光景が続いていく。
「……暇ねぇ」
「僕は商売中だ」
「どうせお客なんて来ないでしょ? あーあ、最近は全く異変も起きないし、本当に暇」
「不謹慎な事を言うんじゃない。大体起きたら起きたで面倒だなんだと言うくせに」
「それはそれ、これはこれ。それにね、異変が全く無かったらスペルカードルールを考えた意味がなくなっちゃうわ。暇すぎる巫女も考えものなのよ?」
「それはそうだが……まぁ今は平和なんだから。暇なら掃除でもしたらどうだい?」
「うーん。なんだか此処に、解決しなきゃいけない異変があったような気がしたんだけどなぁ」
「……気のせいだろう。君の感も偶には外れるという事さ」
表情に出さない事には成功したものの(返答は少し間が空いてしまったが、霊夢は気にしていないようなので平気だろう)、霖之助の内心は動揺やらなんやらで今一杯一杯である。解決しなきゃいけない異変とはあれか、この間アリスが商品を大量に買っていった事かその事なのか。何で普通に商売しているだけでそんな異変認定を受けなきゃならないのだ。畜生、泣くものか。
そんな霖之助の内心の事など露とも知らず、未だに疑問顔の霊夢は茶を啜っている。ついでに掃除云々は無視されたようだ。
「ねぇ霖之助さん。何か最近変わったことは無かった? 例えば品物が大量に売れたとか。あとちょっとお茶、熱い」
「無い。これっぽっちも無い。それにさりげなく失礼な事を言うんじゃない。ついでに言うなら文句があるなら自分で淹れなさい」
「面倒だから嫌」
「……はぁ」
「あら、溜息をつくと幸せが逃げるわよ?」
「……ご忠告どうも。胸に留めておくよ」
――霊夢は相も変わらずにマイペースだな。
彼女と会話をしていると、霖之助は特に強くそう思う。先程から会話の主導権を彼女にとられっぱなしだ。いやまぁ、単なる雑談に会話の主導権もへったくれもないだろうが……ある意味会話が必須技能と言える商売人の身分の者が、こうも簡単に渡していいものなのだろうか?
「起きてもいない異変を探るくらいなら、帰って神社の掃除でもしたらいいんじゃないかい?」
なんとなく口惜しくなってきたので、無視された掃除云々を、もう一度蒸し返す。どうせ面倒くさがりの彼女の事だからあんまりきちんとしていないだろうと予測してのことだ。
仮にも幻想郷で唯一だった(最近妖怪の山に一つ増えたらしい)神社がそんな有様でいいのだろうか? いいやよくない。……と、霖之助は思っている。
「終わったわ」
「……何だって?」
「だから、終わったって言ったの。掃除」
「僕の耳がおかしくなったわけでは、なさそうだね。そっちの方がよっぽど異変に近い気がするんだが……一体何があったと?」
霖之助の発言は大げさに聞こえるかもしれないが、実際に大げさである。この香霖堂が繁盛する事ほどの異変なんてそうそうあるものじゃない。
誤解が無いよう補足をしておくが、霊夢とて普通に掃除はしている。境内掃いたりとかは日課だし(ただ、のんびりとしているために時間はかかっている)。霖之助が驚いているのもこれに関係している。例えば毎年毎年、年が変わる直前まで面倒くさがって大掃除を始めないのがこの博麗霊夢という少女なのである。
それなのに、今年はもう既に取り掛かっているどころか終わってすらいるという。一体何があったと疑問に思っても仕方がないこと……なのかも知れない?
「別に何も?」
「そんなはず無いだろう」
「否定、早すぎない?」
「……そんなはず無いだろう」
そしてその当人は至極あっさり質問に答える。だがそんなことでは霖之助の心に宿った疑惑は払拭する事はできない。
「……ああ、でも敢えて言うのなら」
「言うのなら?」
「鬼って便利よね。ただ飯食らいで無ければ」
「……幻想郷でも、君くらいなものだろうね。鬼をそんな風に使えるのは」
「ちょっとお願いしただけよ。『瓢箪が返して欲しければ家の中掃除しておいて』って」
「それは脅迫とは言わないか?」
「お願いだってば。それよりも、さっきの『掃除でもしたらいいんじゃないか』って言葉、そのまま返すわ霖之助さん。この店内の状況、すごいもの」
ぐるりと店内を見渡しても、ごちゃごちゃしていて棚など既に半分は埋まっており床に置かれた物に物が置かれてピラミッドを形成しているこの状況。思わず溜息の一つもつきたくなってくる。
恐らくこの店の有様ならば、誰が見ても片付けろと口を揃えるだろう。あのメイド辺りは我慢できなくなって勝手に掃除を始めてしまうかもしれない。家の中が同じように盗ひ……他から失敬してきた魔法具やら本やらなんやらで散らかっている魔理沙なら問題ないのかもしれないがそれはそれで問題だ。いくら兄妹みたい関係だからって、こんなところが似ていなくてもよかろうに。
そんな霊夢の言葉に、霖之助は、ひらひらと手を振って拒否の意思を示す。
「返さなくてもいいよ。このままでも僕は、店の何処に何があるのか把握しているからね。掃除は必要ない」
「お客がわからないでしょ。実際私はどうなっているのか、さっぱり分からないし」
「別にわからなくても問題無いじゃないか。何が欲しいか言ってもらえれば、僕がその品を取ってこられるのだから」
「……霖之助さん? 貴方本当に商売する気があるの?」
「勿論だとも。目下の悩みはこのやる気が何故周りに伝わらないのかということだね。全く。理解不能だ」
「恐らく一生誰も理解できないと思うわよ」
二人揃って溜息。ついた理由は勿論正反対。
こういった世間話によって暇を日暮れまで潰そうとしていた霊夢だったが(客が来るなんて霊夢は考えていない)、扉が開く音と、其処から聞こえてきた声により話を中断することとなった。
「お邪魔するわね」
入ってきた人物は金髪のショートカットで、珍しく肩の辺りには何時もいる筈の人形が浮いていない。服は何時もの青を基準としたワンピースではなく、黒のゴシック調。ようするにアリス・マーガトロイドである。今日は何を入れているのか、右手に持っているパンなどを入れるような小さめのバスケットからは、距離があるにも関わらず、甘いいい匂いが漂ってくる。
「あら、アリスじゃない。こんな所に何の用?」
「霊夢? そっちこそ、どうしてこんな所に?」
お互いに此処で会ったことが意外だったようで驚きが顔に出ている。というか香霖堂、行き成りこんな所扱いである。気持ちは分かるが。
「君たち……店主を前にしてこんなところあつかいは無いだろう。大体霊夢、此処は道具屋だ。何の用も何も」
言外に道具を買いに来たに決まっていると言っている霖之助。まぁその予想は外れるのだが
「あ、今日は買い物に来たわけではないから」
「は?」
「やっぱり」
「やっぱり? やっぱりって言ったかい?」
「でもじゃあホントに何しにきたの? こんなとこ、買い物以外で来る理由あるの?」
もうなんか散々な言われ方だ。というか霊夢、それは自分自身のことを踏まえて言っているのか? 霖之助が膝を抱えて落ち込むぞ?
「いや、普段なら無いんだけれど……今日はこの間のお礼に」
「お礼参り?」
「そんな物騒なお礼はいらない! ……というか、お礼? 何のことかな?」
「割り引いてもらった事の、よ。流石に少し図々しかったかなって思って、クッキー焼いてきたんだけど……あれ?」
手に持った小さめのバスケットを掲げて見せようとしたアリスだが、いつの間にかその手からバスケットが消えている。
不思議に思い首を傾げているアリスだったが、既に霖之助には在り処が分かっている。だって隣からサクサクって音が聞こえてきているし。
視線を移動させると案の定、霊夢がクッキーをぱくついていた。
「あら、美味しい」
「こんなときばっかり素早いな君は。普段は重い腰な癖して全く意地きたな」
「霊符『夢想封印』」
「ぐはぁ!」
吹っ飛ぶ霖之助。汚いガラクタ……もとい、大切な商品に突っ込んでいく。口は災いの元とはよく言ったものだと霖之助は今身をもって体験している。体験しているだけで学習はしていないが。
霊夢はそんな霖之助の一部始終を見届けてから、ぴっと指を立てて説教を開始する。アリスは行き成りの行動に唖然として動けないようだ。
「女性にそういう言葉は禁句よ、霖之助さん。それに私はマイペースなだけ。何事ものんびりでいいのよ。のんびりで」
「……貴方、容赦ないわね」
「そうかしら? それよりも、割り引いてもらった事って?」
「……彼は放置?」
「大丈夫よ。何時もの事だから」
涼しい顔でアリスへの返答をしている霊夢。その様子から見るに、これは本当に何時ものことなのだろう。例え慣れていないアリスが顔を引きつらせるような有様だろうがなんだろうが。
ピクピクと痙攣している霖之助のことを本当に大丈夫なのかなぁとか思いつつも、自分よりも付き合いの長い霊夢が平気と言っているのでアリスも気にしないことにする。
「ああそう……ならいいか。この間、ちょっと物入りで色々買ったのよ。それで、量が多かったから割引してもらったの」
「どのくらい買ったのよ」
「えぇと……あれとそれとこれと……その他色々?」
「ふぅん。……霖之助さん」
「グ……な、何か?」
「霊符『夢想封印・集』」
「ごはぁ!」
「確りと異変起きてるじゃない。この香霖堂が繁盛するなんて……するなんて?」
以下、なんとも分かりやすい霊夢の思考である。
香霖堂儲かる―→お金が手に入る―→食材ゲット―→美味しいご飯が食べられる!
すでに自分が一緒にご飯を食べることは確定しているようだった。まぁ今までもご飯を作っていたようなので(食料持参の事など殆ど無いが)、特に問題ないのだろう。
「……いいわね。御免なさい霖之助さん。私が悪かったわ。じゃんじゃん繁盛して」
先程とは態度が壱百八拾度変わっている。その目には直視できない(したくない)輝きが宿っている気もする。
「い、いや……わかって、くれたなら……いいんだ。なんだか納得いかないような気もするが……」
「……色々と大変なのね。貴方も」
なんだが居た堪れなくなって声をかけてしまった。そんなアリスの言葉が、心に染みる霖之助だった……。
「もう、慣れたよ……は、はは、ははははは……はぁ」
そう言いつつも何だか目が虚ろなのはアリスの気のせいだろうか? ……彼の隣に座っている霊夢は暢気にお茶を淹れているし、自分の目の錯覚だろう。
笑い声が乾いて聞こえてくるのはアリスの気のせいだろうか? ……彼の隣に座っている霊夢は暢気に手土産のクッキーを齧っているし、自分の幻聴だろう。
そういうことに決めた。あんまり関わってとばっちり受けたくないし。
「そういえばアリス」
「何?」
「何時も一緒のえぇと……そう、上海人形は?」
「今日は家でお留守番。まぁ、呼ぼうと思えば呼べるんだけど」
「召還するの?」
「似た様なものね。ちょっと違うけど……実際に見た方が早いか」
そう言って徐に手を掲げるアリス。霊夢は何をするのかと期待に満ちた目で見ているが、霖之助は生憎とグロッキーで顔を上げることもままならない様子。まぁ貧弱なひきこも……インドアな彼にはスペル二連発はキツかったらしい。マスタースパークなら食らい慣れているので平気なのだが。
「でろぉ!! シャンハーーーイ!!」
パチィ!!
「ヨバレタトビデタシャシャンハーーーイ!!」
「ゴバァ!!」
「あら、地面の中から出てきた」
この場合は床からではなかろうか? ここは香霖堂の中だし。
まぁそんなことはともかくとして。今、霊夢の前にはその出てきた上海人形がふわふわと宙に浮いている。地下から出てきた筈なのに全く汚れていない。ついでに何故か表情が誇らしげである。
「魔理沙の『アースライトレイ』からヒントを得たのよ。行き成り下から撃たれるのって、結構嫌なものなのよね」
「パクリ?」
「それはあの野良魔法使いの専売特許。私のはオマージュと言って頂戴」
「……何が違うの?」
「…………何かが? ああ、勿論のこと上海だけじゃなくて蓬莱仏蘭西オルレアン和蘭に露西亜、倫敦西蔵京人形なんででも可能よ」
「はあ。まぁそれはいいんだけど……さっきので霖之助さんが天井に突き刺さったわよ」
「え? ……本当ね。何時の間に」
「だからさっきだってば」
アリスは素で気づいてなかったようだ。天然って怖い。
というか霊夢にはもう少し慌てるなり何なりリアクションをして欲しいものだ。仮にも知り合いだろうに。
その後霖之助は吹っ飛んだ原因である上海人形によって助けだされるのだが、その時の恰好は襟首掴まれぷかぷかと。小さい体なくせに意外と力持ちである。その際霖之助の顔にチアノーゼがでていたのには……今生きているのだから特に触れる必要も無いだろう。霊夢とアリスも気にしてなかったし。
「何だか咽渇いたわね。お茶貰っていい?」
「どうぞ。でももう急須中身ないから自分で淹れてきてね」
「……はいはい」
「あ、温めでよろしく。70度くらいでね」
「細かいなぁ。だったら自分で淹れたら?」
「面倒だから嫌」
「……はぁ」
「あら、溜息をつくと幸せが逃げるわよ?」
「……ご忠告どうも。胸に留めておくわ」
「……あれ? 何かしらこの既視感」
霖之助が復活に要した時間はそれほど長くない。アリスがお茶を淹れなおしてきたら、もう平気な顔で入ってきた時と同じ場所に座っていた。
「謎の声と共に腹部に衝撃が来て気がついたら吹っ飛んでいて天井に近づいたと思ったら既に突き破っていたよ。いやはや、屋根裏は暗い汚い狭いと三拍子揃っていたね。気絶していて殆ど憶えていないが」
その割に詳細に語っている気がしなくも無いが。
「……もう回復してるなんて」
「ブキミー」
「だから何時ものことだって言ったでしょ?」
「何時もの事、という事自体が問題だと、僕は思うわけだが」
「……霖之助さん? 思ってるだけじゃ駄目よ。ちゃんと行動に移さないと」
「移さなきゃいけないのは君たちだ!」
相も変わらず涼しい顔で会話を流す霊夢に、机をダン! と叩き声を荒げて憤る霖之助。……だが、叩いた手を痛そうにさすっているのでいまいち決まらない。
そんなことでは霊夢のことを納得させることなどできるはずも無く。
「あら残念。思ってもいないことって、行動には移せないのよ」
「……霊夢。君、最近紫に似てきてないか?」
「そうかしら?」
「ああ間違いなく」
「……それは嫌ね。ちょっと態度改めるわ」
霊夢、本気で本当に嫌そうな顔だった。流石は幻想郷の賢者というか色物大将というかなんというかな八雲紫である。その影響力は抜群だ。良くも悪くも。
霖之助としてもこれが聞いてくれなかったら、後はツケをいくらか減らすというまさに身を切る代償を払うくらいしか方法が脳裏に浮かばなかっただけに、ほっと胸をなでおろす気分だ。
「漫才は終わった?」
「ナカイーネー」
声をかける機会をうかがっていたのだろう。アリスは会話が途切れたのを確認するように話しかける。その声には呆れが多分に混じっている。
「漫才ではないんだが……」
「傍から見てたら完全に漫才よ。今の」
「嫌だわ夫婦漫才ですって霖之助さん。どうする?」
「誰も言ってないだろそんなこと!」
「付けた方がよかったかしら?」
「イヌモクワナイー?」
からかっているように付け加えるアリス。もしかして霊夢ってそうなの? 的な少女らしい好奇心らしきものが覗いているようで、声のトーンも目の輝きも違っているように見える。というか違う。
だが霊夢にはそんなものは関係ない。何時も何時でも自分のペースを貫くのみである。最初の時から殆ど表情も変わってないし。
「やめて頂戴な。霖之助さんとそんな関係になる予定無いもの。今のところ」
「言い出したのは、君だろうに……」
グッと忌々しげに睨みつける。今はその涼しい顔が憎い、ほんの少しだけ。……いやかなり。
「彗星『ブレイジングスター!!』」
「な、と、扉がーーー!!」
なんの前触れもなく扉に突っ込んできたのは、箒に跨った白黒服の人物だった。ようするに霧雨魔理沙である。いつでもスペルは全力全開という迷惑なもっとうの持ち主でもある。……魔砲使いはそんなのばっかりか?
「また吹っ飛んだわね。二回目?」
「……今週、三回目だよ」
「……そんなに吹っ飛んでるの? なんでよ」
「タテツケワルイー? オンボロー?」
「すぐ分かると思うわよ。霖之助さんも、今日三回とかで無くてよかったわね」
「……なんかそれ、違くない?」
「よ! 香霖。お邪魔するぜ」
「するぜ。じゃ無い! 何で君はこういちいち何かを壊しながら現れるんだ!」
「そうなの?」
「あー、この間は窓を消し飛ばして入ってきてたわね。何でそんなことしてるのか知らないけど」
「……野良だから?」
「ヤセイジー」
「躾はされてる筈なんだけどね。実家で」
魔理沙の行動に意味を求めてはいけない。どうせ聞いても『あー? なんとなくだぜ』で誤魔化されるから。もしくは何も考えてないから。
「五月蝿いなぁ香霖は。そんなんじゃ大物には成れないぜ?」
「結構だ! 僕はこうして道具屋を営めるならそれでいいからね! そんなことよりその扉、どうする気だ!」
「あー? 後で直すからそれでいいだろ? アリスが」
「何で私!?」
「私が知るか。あー、器用だからだろ。……ん? そういえばなんでアリスがいるんだ? 霊夢は暇つぶしだろうけどさ」
「名前出しといてさも今気づいたかのように言わないでよ!」
「私、夫婦だから」
「……はぁ?」
「それ、まだ引っ張るのかい?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔というのだろうか? 割と見物な魔理沙の表情だった。そして慌てたように
「だ、誰とだよ!? アリスとか!?」
「……私にそっちの気は無いわよ」
「霖之助さんと」
「なっ!?」
「その時だったーー! 一陣の風が吹いたのはーー!」
「っ!? 誰だ!」
謎の声と共に香霖堂の中に風が吹き荒れる。ついでにシャッター音も木霊する。
「ここでビックリドッキリシャッターチャーーンス!! 明日の一面決定ですよーー!!」
そして風と共に去りぬ。残るは放心状態の三人と変わらぬ一人。
「「「……」」」
「漫才の、だけどね」
「何もかもが遅い! ああもう!」
既にカラスは居ない。幻想郷最速は伊達ではないという事か。それにしても、裏づけを取る事もしないとは……。手間は掛けないでデマを書くと。
「ああ、明日の新聞を見るのが怖い……」
「なら、明日を迎えるの止める?」
「さらっと怖いこと言うのは止めてくれ!」
「何なら手伝うわよ? 半分私の責任かもしれないし」
「半分もかもしれないも何もかも全部全て纏めて君の責任だーーー!!」
「だから付き合うってば。えーっと、明日を迎えるのやめるのよね? どのスペルがいい?
爆死(霊符『夢想封印』)に圧死(宝具『陰陽鬼神玉』)に絞殺(神技『八方鬼縛陣』)に……」
「それが巫女の言うことなのか!?」
「あの……霊夢? からかうの、その辺にしといてあげなさいね」
「コロスノー? ショーコノコスナー」
哀れだからという言葉は喉の奥のほうに何とか封印しておけた。この言葉をかけたらなんか、霖之助が白い砂のような物になってさらさらとどこかに流れていくような気がする。多分その予想は間違ってない。もしかしたら泣くのかもしれないが。
なんだかとても手馴れているような気がする霊夢のからかい方から今までの霖之助の苦労が垣間見れて、ほろりときそうなアリスだった。
「なーんか、さっきからなんか置いてけぼりにされてる気がするんだが。私」
「気のせいじゃないから帰りなさい。邪魔だから」
「シッシッノシー」
頭を抱えてこれどう収拾つけようかなぁなんて考えているため、魔理沙への対応に容赦と余裕の無いアリス。だがこんなことで『はいそうですか』と引き下がる魔理沙では無い。というか下がったら魔理沙では無い。
案の定アリスの言葉に肩を竦めながら、ハッと鼻で笑う。
「お前に言われなきゃならない理由が分からないな」
「これ以上は事態が収集できなくなりそうだからよ……」
「字体が蒐集? それは楽しそうだな。集めた分、貰うぜ?」
「こんな時くらい話あわせてよ頼むから!」
「アタマワルーイ」
アリスは忘れている。魔理沙はとんでもない天邪鬼であると。ついでに生粋の負けず嫌いでもある事を。
そして、何が“負け”なのかは当人にしか分からないという事を。
「やれやれ。蒐集癖の悪い奴は困るなぁ。こんなものの収拾でも集めようとするんだから。全く理解不能だぜ」
「……喧嘩売ってる? 売ってるのよね?」
「カネハネーガー、カウゼー?」
「御心配なく……ってな。金の代わりにお前の蒐集品を貰ってくぜ!」
「この間盗って行ったじゃない! 生活用品諸共ーーー!!」
今、アリスの背後に確かに噴火した火山が見えた。ああフジヤマボルケイノ。こんな所でもパク……オマージュしているとは。
「この間の大量購入には、そんな理由が……!?」
「まぁ予想できたオチよね」
「オチとか言わない……確かに予想はできたが」
でも言わない。だって足元見られてもっと割引させられたかもしれないし。
いつの間にか観客と化していた二人。どうやら、霊夢がからかうのに厭きたらしい。何故分かるかって? だって霖之助が霊夢に勝てるわけ無いし。色々なもので。
「その歴史は多分慧音に食われたな。記憶に無いぜ」
「んなわきゃないでしょうが!」
「コノジャクネンセイチホーショーメー」
「……言ったな?」
「……だから?」
「このままお前を帰すわけには行かないぜ!」
「帰るのは私じゃなくてアンタでしょ!」
「ヤッパリジャクネンセイチホーショーダー」
「……」
「……」
一触即発の雰囲気である。今にもスペルを宣言しそうだ。
「ファイト」
ポク
「グランドスターダスト!」
「アーティフルサクリファイス!」
「伏せろーー!」
「もう結界は張ってあるわ。早くこっちに非難して霖之助さん」
「あ、ああ。わかった」
霊夢の張ってある結界まで伏せたままカサカサと移動を開始する。はっきり行って恰好悪い。というか霊夢、結界(しかもこの二人の弾幕に耐えられるほど強固なもの)を張るまでの時間を考えると、先程の行動は確信犯の可能性が高そうである。生きるのに必死な霖之助は気づきそうに無いが……知能犯か?
「イツモヨリオオクバクハツシテオリマスー」
「するなー! 店の中で爆発物を使うんじゃない! 商品が壊れるから! 売り物にならなくなるから!」
ドゴーンバゴーンという効果音によって彩られている香霖堂に霖之助の悲痛な叫びが響き渡る。とっても切実だ。
勿論決闘中の二人にそんな言葉は届くはずもなく、被害は広がるばかりだ。
「大丈夫よ」
「霊夢?」
そんな中、確信に満ちた言葉が隣から聞こえた。視線を向けてみると、こんな中でも何時もと変わらない様子の霊夢が続けて言葉を放とうとしている。
何が大丈夫なのだろう? もしかして、彼女がこの騒ぎを収めて――
「このままじゃ壊れるのは商品だけに止まりそうに無いから。商売する場所が無ければこんなのガラクタでしょ?」
「くれるわけ無いよなああわかっていたさ! 畜生それの何処が大丈夫なんだいいから止めてくれ!」
「めんど――」
「ツケ一割チャラにする!」
「神技『八方鬼縛陣』!」
発言から0コンマ5秒掛からずに発動するスペル。変わり身も此処まで早ければ素敵。思わずそう思いたくなる霊夢の反応だった。
五秒後には、雁字搦めにされて芋虫のようになり床に転がされているアリスと魔理沙の姿があった。
「二人とも、はしゃぐのは場所と時を考えましょう? 他人に迷惑かけちゃ駄目よ」
「く、納得が」
「いかないぜ……」
呆れたように諭し始める。どの口で言っているつもりなのか。魔理沙とアリスの歯軋りの音が此処まで聞こえてきそう。
「二人とも、なんてことをするんだ。お蔭で店の中がめちゃくちゃだ!」
二人の前に立ち、怒りを露にする霖之助から、罰が悪そうに目を逸らすアリス。魔理沙はまだ愚痴愚痴と霊夢に向かって言葉を吐いているが……あ、大麻で横面叩かれて無理やり霖之助のほうに向かされた。
ちなみに店の中の様子はといえば。本気で争いが起きる前だったし元々が元々なので、傍から見ればそう変わった様に見えない。辛うじてあった通路にも物が落ちたかな? といった程度のものだ。被害は最小限といってもいい。
……被害が起きてしまうこと自体が問題なのだよ。
「だって魔理沙が――」
「アリスが全部纏めて悪いんだ。私は悪くないぜ」
「どの口がほざくのかしら。この野良はホント躾がなって無いわねぇ?」
「なんだ都会派自分の罪は自分で償えよ。ここには頼りになる母親は居やし無いぜ?」
「……ふふふふふ」
「……ははははは」
「…………兎に角、もうこんな真似はしないように。店の掃除はしてくれよ」
一応注意をしておくが、こんなものは気休めにすらなら無いであろうことは、長い付き合いから十分に理解している。
それでもこれで手打ちにしたのには訳がある。
二人を遣り取りを聞いていたら、今までの疲れが押し寄せてくるように眩暈がしてきてぶっ倒れそうになったのだ。今布団に入れば、あのスキマ妖怪もかくやというほどに素早くぐっすりと眠れそうだ。本気でそうしたいと思う。
この二人の取り扱い説明書には、『混ぜるな危険』と一言添えておく必要があると切実に霖之助は思った。主に自分の平穏のために。
「助かったよ霊夢。有難う」
「お礼はツケを二割引いておいてくれればいいから」
「まぁ仕方ない……って思い出したぞ元はと言えばこんなことを煽った君のせいじゃないか! というか何処から持ってきたその木魚」
「其処のガラクタの山。そんなことより霖之助さん。女には、時に戦う事でしか解決できない事があるの」
「……で?」
「と言う訳でファイト」
ポク
そして悪夢は動き出す。
「いけ!! オーレリーズソーラーシステム!!」
「なんの!! 上海蓬莱仏蘭西オルレアンに和蘭露西亜倫敦西蔵京全員集合! 押し返しなさい!!」
「テヤンデーバーロー」
「止めんかアリスあんな迷惑な召還の仕方するんじゃない! ただでさえ最近客が来ないんだ! 頼むからこれ以上床も物も壊さないでくれ! 魔理沙もそのビットを仕舞いなさい!」
だがすっかりヒートアップしてしまった二人に、霖之助の必死の制止が届くはずもない。
今や香霖堂は幻想郷一の道具屋だ。危険度が。
段々と弾数が多くなる(危険度もそれに伴って上昇)中、それでも何とかその事態を引き起こしている二人の魔法使いを止めようと奮闘している霖之助に、満面の笑顔でささやく霊夢。
「ほらほら霖之助さん。頼ってくれてもいいのよ? ツケの一割で」
「断る! 断るぞこの悪魔! ああ君のツケなんてなにがあろうと絶対に必ず鐚一文足りとも減らない減らさない減るもんか!」
「前言撤回? 言った事には責任持ちましょうよー」
「君こそ自分の発言の責任をとれーーーー!!!」
「えー?」
「……いいか、泣くぞ? これ以上は僕泣くからな! 恥も外聞もかなぐり捨ててみっともなく泣き喚くからな!」
「む~。仕方ないなぁ」
霖之助のプライドをかなぐり捨てた脅しになってない脅しに流石にばつが悪くなったのか、渋々と従う霊夢。だって声とかもう泣いてたし。
この辺り霊夢は甘い。紫なら絶対にこんな所で引いたりしない。むしろ嬉々として泣かす。そしてからかう。
そしてスペルを発動させてわーぎゃーとやっている二人(勿論周囲のことなんて考えていない)に、死刑宣告をやる気の無い何時もの声で告げる。
「二人ともー。これ以上やるなら外でやりなさーい。でないと問答無用で夢想シリーズ全段叩き込むわよー?」
「表に出ろアリスこんな狭いところじゃ私の幻想郷最速のスピードを発揮できないし全力なんか出せないぜ出す必要なんて無いけどな!」
「望むところよこんな狭いところ人形全体出せないわあんた相手に全体なんて必要無いけどそれにあんたもう幻想郷最速じゃ無いからね!」
「神霊『夢想封印しゅ――』」
「さっさと出ろぉ!!」
「あんたこそぉ!!」
初っ端から二番目に強いラストスペルの名を聞いて一刻の猶予も無いと悟り、先程のカラスもかくやという速度で外へと出て行く二人。流石は幻想郷の守護者の言葉である。効果は抜群だ。
「これでいいでしょ?」
「……」
「……霖之助さん?」
「……」
返事が無い。正面から覗き込むと、目が遠くを見ていた。今彼の目には何が映っているのだろうか?
「所詮白黒は二色! その力は私の二割八分六厘にも満たない!」
「はん! なに言ってやがるこの七色人形遣い! 色が多けりゃ偉いのか!」
「そういえばあんた前は一色だったわね。真っ黒黒助うふ、うふ、うふふふふ……!」
「ウフ、ウフ、ウフフフフーーー」
「!? そ、その笑い方をするんじゃないぜ!!」
「あらあら言葉遣いもそんなに変わっちゃってどうしたのかしら? うふ、うふ、うふふふふ……!」
「カッチャッター?」
この瞬間、博霊神社で原因不明の落雷が観測されたそうだが、この発言との関連性は確認されていない。ないったらない。
「あら、あの二人今日は本当に本気ね。気迫が何時もの三割ましだわ」
弾幕中の二人を見上げながらポツリと呟く。
そう、“見上げて”である。香霖堂の中から。
「昔の事まで持ち出しやがって! 根暗陰険引きこもり! 七色魔法馬鹿!」
「なんですって!? たいした魔法も使えないくせにいきがってんじゃないわよ!」
「キノコバカー」
「試してみるか!? オダイは見ての御帰りだぜ!」
「帰るのはあんたよこのド低脳!」
「やっかましい! そぉら落ちろ! 落ちろ! 落ちろぉ!」
「そんな程度の弾幕! 避けきって見せる!」
「キャイン。アタッチャッター。アリスーガンバー」
香霖堂の上空をマジックミサイルが、ナパームが、大中小の丸球にクナイと鱗が、ところどころ座薬にレーザー、御札までもが飛交ってい……御札?
「あ、スペルの解除忘れてた」
「「忘れるなーーー!!!」」
既に両者共、スペルは三枚目に移行しており、アリスは上海を含む主力の人形が何体か被弾し、魔理沙のビットも半分にまで減っている。ただ、本体の被弾は依然零のままだ。
お互いの回避した弾が森へと降り注ぐ。なまじっか実力が高いだけに周りの森林への被害も大きいものとなっている。このままでは、一時間掛からずに辺り一面焼け野原になりそうな勢いだ。
そんな中にあっても香霖堂が健在なのは、単に霊夢への恐怖心が働いているからなのだろう。
「霖之助さーん?」
「……」
「もしもーし。おーい。やっほー」
「……屋根が」
「あ、やっと返事……って屋根?」
「おかしいなぁ。家の中にいるはずなのに、空が見えるぞ。眼鏡が壊れたかな?」
「普通ならそれは眼鏡じゃなくて頭が壊れてるわ」
「そうか……屋根が無いように見えるのは錯覚かぁ……」
「いえ吹っ飛んだだけだけど」
「……もう、暗い汚い狭いと三拍子揃っていた屋根裏は味わえないのか……」
「味わいたいの?」
「いや全く。それにしても……屋根、どうしたらいいんだ……」
「なんとかなるわよ。多分。慧音に頼めばあっという間じゃない?」
「それはそうかもしれないけどね。今日中には無理だろう。この時期に屋根無しで寝るのは厳しそうだ」
「家来る? 一日位なら泊まってもいいわよ」
「賽銭入れたら、だろ?」
「正解。流石分かってるわね」
ちなみに屋根を吹っ飛ばしたのは半分魔理沙で半分上海だ。いつもより多くの爆発は伊達ではなかった様子。
「大体な! 人形遣いと人情遣いは間違えやすいんだよ!」
「言いがかりにも程があるわよ誰が風来坊か!」
「お前じゃない事だけは――おわぁ!」
「……え? 陰陽玉? なんで?」
アリスと言い争いながら闘っていた魔理沙に突如、白と黒の人間より少し小さい程度の大きさの陰陽玉が襲い掛かる。これにはアリスも驚いている。バランスを崩した魔理沙に追撃をするのも忘れているくらいだ。
そして、この陰陽玉を魔理沙に投げつけた人物が、ゆっくりと空に姿を現した。
「行き成り何するんだよ霊夢。危ないじゃないか」
「そうよ。邪魔しないで頂戴。貴方の手助けなんか」
「魔理沙、貴方は今とってもうかつなことを言ったわ」
「な、なんだって?」
「ちょっと、無視する気?」
「『人形遣いと人情遣いは間違えやすい』……そう、言ったわよね?」
「あ、ああ」
「そんなはず、無いじゃない」
「……そりゃ、普通は間違えないでしょうよ」
「五月蝿いぜ外野」
「私はとうじ――」
「だから五月蝿いぜ外野。で、どういうことなんだ? 霊夢」
「……簡単なことよ。そう、とても簡単」
そこで霊夢はアリスに視線を固定した。その目は、とても、とても悲しい光を宿している。
何故そんな目で自分を見るのだろう。そのアリスの疑問は、言葉に発せられることなく解決した。
「人情が使えたら、アリスが友達零人な訳が無いじゃない」
「丑三つ時だけだと思うなよ馬鹿ぁぁぁ!!」
爆発。残っていた人形による一斉リターンイナニメトネスが空を赤く染め上げる。
この攻撃は今の全力の一手だったのだが、この程度では巫女の口は防げなかったようで、再び口撃が襲い掛かってきた。
「だから人形に奔ったのよね?」
「それ曲解にも程がない!?」
「大丈夫。幻想郷は全てを受け入れるわ」
「いやぁぁぁぁ!? そんな生温い優しい目で私を見ないでぇぇぇ!!」
だが口撃はこれだけでは収まらない。アリスの苦難は続く。
「……すまん。私が悪かった」
「なんで……謝るの? ねぇ魔理沙なんで!?」
「……(フイ)」
「こっちを向いてお願いぃ!!」
その後も、魔理沙は目を合わせてくれることはなかった……。
霊夢も駄目、魔理沙も駄目。こいつら人の話聞いてくれない。会話をするということは、とても、とても尊いことだというのに……! きっと人の皮被ったなにか別の生物なんだ。そう思わないとやってられない。
こうなったら、最後の希望を香霖堂の中の人物に託すしかない! 急降下!
「おや、これは上に破片が積もっていただけで無事か。貴重な一品だったからよかった。危ないから今のうちに安全な場所に」
「霖之助さん!」
「うわぁ! あ、危ないじゃないかアリス君! いきなり背後から大声をかけないでくれ。貴重な一品を」
「霖之助さんはわかってくれるわよね!? 友達よね!?」
「え? なんの話?」
「だから友達よね!?」
「誰が?」
「この甲斐性なし根性なし商才なしぃ! こんな店もう二度と来ないもん!」
「え、ア、アリス君?」
「かえる! わたしもういえかえるーー! うわぁぁぁぁん!」
絶叫しながら走り去る。事態を把握できていない霖之助には、呆然とその背中を見送ることしかできなかった。
その軌跡には、夕日によってきらきらと光る涙が、止め処も無く舞っていたそうな……。
「なんだったんだ……?」
「現実は常に非常……ということよ。それより暗くなってきちゃったから、早く行きましょう」
「何処に?」
「私の家。さっき言ってたじゃない」
「僕はここの片づけをしなくちゃならないんだが」
「そんなのは明日でもいいでしょ? 泥棒対策に結界はちゃんと張っておくから。早くしないと妖怪が大量に来るかもしれないわよ?」
「……仕方ない。ここは君の言葉に従うことにしよう」
「じゃあ支度してきて。その間に結界張る準備しておくから」
「わかった。……ん? ところで魔理沙は?」
「さぁ? 帰ったんじゃない?」
そう答える、霊夢の表情は―――
次の日の早朝。
滝の下にて、大量の新聞と共に一匹の鴉天狗が水没しているのが河童によって発見された。猶、その大量の新聞に書かれていたことは、残念なことにインクが滲んで解読不可能だったそうだ。
やはり霊夢の傍若無人ぶりが読んでてムカムカした
こーなんていうか、人間臭さがもうちょっとほしいといいますか。人情?
でもバタバタしていて楽しかったです。
>上海
とっても素敵。でも、もうちょっと手加減したげて。
影響はもちろん、ここのSS達なんですけどね。
ワタシは違和感なかったですよ、GJ!
上海単体でも正義。
霊夢も中立と言われてるけど、完全に妖怪側ですよね…
もう里の人達も人間扱いしてなさそう
俺はあんまり好きになれませんでした、ごめんなさい
99のツンのあとの1のデレ。これこそがツンデレの魅力。
ツンを堪能するまもなくいきなりデレる昨今のツンデレもどきに食傷気味だったので新鮮だった。