創想話45の『私はこうしてニートを抜けだした 』の続編です。
知らなくてもまぁ、もこてるな内容だと認識してくれればいいです。
「ほら、その料理はあっちに持って行って」
「はーい」
「てゐ―てゐー!!」
「てゐはまだ見つからないの?」
「あ、師匠……すみません」
「いいわ、きっと姫様たちでも迎えに行ってるんでしょう」
「師匠、いくらなんでもそれはないですよ」
「そうかしらね? てゐはあれでいてけっこう真面目よ?」
「はぁ」
「あ、その料理。姫様のぶん少し減らして。姫様それあまり好きじゃないから」
「はーい」
その日、永遠亭はとてもとても賑やかだった。
兎も右に左に大慌て。
鈴仙も右に左に上に下に大慌て。
あの永琳ですら、朝から台所を中心にひっきりなしに動いている。
てゐの姿は見えないが、きっとどこかで働いているのだろう。きっと。
それもこれも、今日が正月であること。元旦であることが原因である。
と、その時玄関の開く音がした。
勝手知ったる何とやら。訪問者は迷いの無い足取りで台所まで歩いてきた。
訪問者は台所ののれんをくぐると、その自慢の(?)帽子を机におき、台所に溢れかえる兎や永琳たちに大きな声であいさつした。
「あけましておめでとう、みんな」
慧音のその声にみんな思い思いに返事をする。慧音もそれを聞きながら永琳へと近づいて行く。
「あぁ慧音。遅かったわね」
「すまない。寺小屋のみんなにもあいさつしてきたのでな。準備は順調か?」
「はい。あとはあの2人が来るのを待つだけです」
「そうか。一応、つきたての餅を貰ったのだが……ここには不要か」
「いいえ、貰っておくわ。姫様はお雑煮ならいくらでも食べれるから」
慧音もエプロンをしつつ、兎達の手伝いを始めた。
総員総出での準備は滞りなく進んでいく。
あとは主賓の2人を待つだけである。
ちょうどその時……
「ぴんぽーん」
「……てゐの声だ」
玄関からてゐの声が聞こえる。
インターホンのまねだろうか、やけに楽しそうな声だ。
顔を見合わせる永琳と鈴仙と慧音。仕方なさそうに鈴仙は玄関へと向かった。
「ちょっとてゐ、いままでどこで……」
「よう、おめでとさん」
「あけましておめでとうイナバ」
玄関についた鈴仙は口をあんぐりとさせた。
そこにいたのは、すごく輝かしい笑顔のてゐと、とても奇麗な晴れ着をきた輝夜、そしていつもよりちょっといい格好の妹紅だった。
まさか師匠の言った事が本当になるとは。と鈴仙はじっとりとした目でてゐを見る。てゐはそれをあっさり流しながら後からきた永琳と慧音を見た。
「今日の主賓、藤原妹紅さんと藤原輝夜さん連れてきましたー」
その笑顔は極上で、てゐがこういった顔をするときはイタズラが成功した時だということは、永遠亭の住人なら誰でも知っている。
だからそれを見た瞬間、鈴仙と永琳は大きなため息をついた。
そしてこうして、今日の主賓の藤原夫妻がそろったところで全員が集合したことになったのだった。
「大体、案内されないでも迷うことなんてないのにね」
「だって誰か案内役いないとお2人ともずっとイチャイチャしてそうじゃないですか」
「あー、そう言われると否定はできなわね」
「否定しろよ! それくらいの自制心は持とうな?」
「なんだかんだでてゐは仕事ほっぽってますよね?」
「まぁいいじゃない。結果オーライよ」
「妹紅も輝夜も楽しそうだし、いいんじゃないか?」
朝は永遠亭全体が。そしてお昼には永遠亭の宴会場が大賑わいとなった。
上座には輝夜と妹紅。そして永琳や慧音、鈴仙やてゐだけではなく一般兎までおり、さっきまでの忙しさを振り払うかのように騒いでいる。
それぞれの前には永遠亭特製のおせちが並ぶ。その他にも魚の生き造りやらなんやらと豪華な食事が並ぶ。
まさに新年会。まさに金持ちの道楽。
「妹紅さん、姫様大丈夫ですか? ちゃんと家事とかやってくれてますか?」
「ちょっとイナバ、それは失礼じゃない? いくら私でも……」
「あんまりだな。1か月のうちに5、6回やってくれたらいい方かな?」
「妹紅のばかー!」
バチーンと妹紅の頭を叩く輝夜。その勢いで顔の半分が無くなるがすぐにリザレクションした。新年初リザらしい。
そんな光景をいつも通りだと思いつつ、結婚しても変わってないないんだなぁと呆れた皆だった。
「まったく、これじゃあなんのために送り出したか分からないじゃない」
「あら永琳。私は私のために妹紅の家にいったのよ? 働く働かないは別よ」
「はぁ……なんで結婚しちゃんたんだろうな、私」
「嫌になったらいつでもうちに来ていいですからね?」
「ちょっとイナバ。そんなの私許さないわよ?」
わいわいがやがやと宴は進んでいく。
酒は進み、食も進む。
永琳がせっかく事前に減らしておいた輝夜の嫌いな田作りも、妹紅にあーんさせて苦労を無にしたり、
輝夜の来ている晴れ着は妹紅のお手製だとバレて妹紅が恥ずかしがったり、永琳に面倒な事ばかりやらせるなと怒られたり、
酔っぱらったてゐが鈴仙とちょっとアレでそれこれな事になったり、
永琳と慧音が愚痴りながらお酒を飲んでいる光景がまるでそれぞれの両親が愚痴っている光景のようで馴染み過ぎてたり。
とにかく、そうやって時間はどんどんと進んでいった。
昼から始まった宴も、いつのまにか夕方になっていた。
酔いつぶれたもの。まだ食べているもの。すでに寝てしまっているもの。などなど、まるで宴会の後のような光景である。まぁ、宴会に違いは無いのだが。
いつのまにか寝てしまっていた妹紅はそこで目を覚ます。
目をこすって見てみると、隣に座っていた輝夜の姿は無く、永琳の姿もなかった。
鈴仙とてゐが絡まるように寝ていて、その横で慧音がまだご飯を食べていた。
「……けーね、輝夜は?」
「おぉ、起きたか妹紅。輝夜なら永琳と大人の話だ」
「大人の?」
「輝夜は、けっこう勢いで出て行ってそのまま妹紅の家に住み着いたからな。積もる話もあるんだろう」
「そっか……」
慧音もあるんじゃないか? と聞こうとして、妹紅は止めた。
あるならあるで慧音から喋るだろうし、それに、なんとなく今は輝夜を待っていたいと思うし。
と、そこでふと輝夜の座っていたところを見てみると、座布団の上に一枚の紙が置いてあった。
『私のもこたんへ(はぁと) ちょっと席を外すけど寂しがらないでね。今日の夜は…………』
夜はなんだよ、夜は。なんだか嫌な予感がしてならない妹紅だった。
「妹紅の家での生活はどう? 迷惑かけてない?」
「かけてはない……と、思う」
輝夜の自室。といっても、今はなってはほぼ何も無い空室に近いのだが。
そこで輝夜と永琳は向かい合って座っていた。
「本当? いくら妹紅が優しいからって、それに頼っちゃだめよ?」
「はーい、わかってるってば」
「わかればよろしい。で、次にてゐの事だけど……」
「あ、それはもういいわ」
すこし言いにくそうにする永琳だが、輝夜はあっさりとキッパリとそう言う。
はぁ? と顔をゆがませる永琳。だが輝夜はケロッとした顔でいる。
「だから、それはもういいの」
「もういいって、てゐは計画のうちとはいえ姫様にけっこう酷い事を」
「だから、さっき迎えに来た時に謝られたから」
「え?」
「まぁそもそもあれが計画のうちって聞いた時から私は別に気にしてないんだけどね」
てゐからのけっこう的を得ている厳しい一言で家を飛び出し、妹紅の家へと逃げ込んだ輝夜。
永琳はそれで、輝夜が多少はてゐに恨みごとの1つも言いたいんじゃないのかと思っていたが、どうやら見当違いだったらしい。
なんだか1人で気を張ってバカみたいだなと永琳は肩を落とした。
「逆にこっちはどうなの? みんな元気?」
「そうりゃあもう。優曇華院なんて姫様がいた時より元気よ?」
「……後でお仕置きが必要なようね」
そういえば、さっき玄関で会った時もわりとイキイキしていたような気がしてきた。
……ここは怒るべきか、自分を変えるべきか。
「あとはまぁ、てゐと優曇華院がちょっといい仲になってしまったとか、そんなくらいね」
「つくづくお仕置きが必要な2人ね。永琳が可哀そうじゃない」
「私はいいのよ。優曇華院とてゐが仲が良いのも、姫様が妹紅と仲がいいのもね。でも」
永琳はそこで一拍置き、しっとりとした目で輝夜を見た。
「たまにでいいから、こっちにも戻ってきなさい。みんな待ってるから」
「……わかったわ。暇な時にでもお土産持って帰るわ」
ならいいのよ。と永琳は笑顔で言った。
なので輝夜も、笑顔で過保護な親ね。と返した。
「それじゃあ、イナバたちによろしくね」
夜も更け、新年会は静かに終わりを告げた。
寝ているものをそれぞれの部屋に返した後、輝夜と妹紅、永琳と慧音は玄関で向かい合っている。
「慧音は帰らないのか?」
「片付けの手伝いをしてから帰るさ。お前たちの邪魔をしたくないしな」
「それくらいいいのに」
「慧音なりに気をつかったるんですよ。気にせず帰ってください」
「そう。それじゃ、またね永琳、慧音」
「お邪魔したなー」
納得した顔で帰って行く藤原夫妻。
それを見送る永琳と慧音は、2人の姿が見えなくなるとお互い目を合わせた。
「……まぁ幸せそうでなによりだな」
「そうね。2人の私生活見てみたいけど、きっと胸やけを起こすわね」
「はぁ。子供を持つ親の心境が分かった気がするな」
「それも、子供が巣立つ寂しみをね」
「…………片付けた後、飲もうか?」
「そうね。今日は夜通し飲みましょうか」
肩をガッチリと組んで、宴会場に帰って行く2人のおかん。
きっと今夜は永琳の部屋では本当に夜通し酒盛りが続くのだろう。
そんな永遠亭を離れ、妹紅宅への帰り道。
すこし肌寒い冬の夜を2人は寄り添って帰っていた。
「さっき永琳となに喋ってたんだ?」
「あら? もしかして嫉妬? 安心して、浮気なんてしてないわよ」
「……」
「いつもみたいに否定しなさいよ」
「……うるせー。してたからなんだよ!!」
顔を真っ赤にして大声を出す妹紅。
いつもより素直な妹紅に思わず輝夜が赤面してしまった。
「そ、そう。じゃあ以後気をつけるわ」
「そ、そうね。気をつけてよ」
なんだか不自然によそよそしい2人。
輝夜が押しに弱いのを発見した妹紅だったが、きっとそれが実行に移されるのは少ないだろう。
なぜなら、自分が一番恥ずかしいからである。
「……おかしいよな。3か月くらい前はもっと普通に殺し合ってたのにな」
「私はその頃から好きだったけどね」
「それは分かったから」
「妹紅がもっと素直ならもっと早くこうなったのにねぇ?」
寄り添う輝夜が、嬉しそうに妹紅の腕に絡みついた。
やめろーとか言いつつも、まんざらでも無い顔の妹紅。
もうきっとあの頃には戻れないんだろうなぁと感じた妹紅だった。
「というか、そっちこそ慧音となにもなかったんでしょうね?」
「うん? あー、内緒内緒」
「なっ! どういう事よ内緒ってなに!?」
「うるさい。内緒は内緒なの」
「なの♪ じゃないわよ!」
「♪は付いてない!!」
ギャーギャーとわめきながら歩いて行く。
そのうち、寒さのせいかくっ付いていた2人はどちらからとなく手を繋ぎだし、
妹紅はそっと自分のマフラーの端を輝夜に巻いてあげたりした。
「こういうさりげなく男前なところが好きよ」
「はいはい」
「なによー。もっと感動しなさいよー」
「はいはい。私も好きだよ」
言われたら言われたで赤面しちゃう輝夜は可愛いなぁ。と思い始めた妹紅は、もうきっと戻れないんだろうなぁと思った。
でもまぁ、殺し合っていた仲の2人がこうしているのも悪くはないんじゃないかと、けっこう前から思い始めていた。
よく書かれるじゃん。『殺し愛』って。
「それで、妹紅。私の座布団の上の手紙は見た?」
「……」
「なによその滝のような汗は」
「……み、見た?」
「なんで疑問形なのか分からないけど、まぁ見たことにしましょう」
「……こ、今夜なんだっていうんだ?」
「うふふ」
「……なんだその笑顔は」
「うふふ♪」
「なんだその♪は!!?」
「もう。分ってるくせにー。もこたんのエーッチ」
「や、やだ!! もうアレはやだ!!!!」
「やーん、もこたんってば積極的ー」
「たーすーけーてー!!!! 慧音でも永琳でもいいから、たーすーけーてー!!!!」
HAPPY END!!! ?
>寺小屋のみんなにも
寺子屋では?
>否定はできなわね
できないでは?
お正月verと言う事は次回作も有りか?楽しみにしてます。
永琳が鈴仙を呼ぶときはウドンゲでは?
いや、どうしても気になったので…