この作品は、創想話作品集その33に投稿させていただきました「きゃっとみーつすかーれっとⅠ・Ⅱ」の続編となっております。
前二作を読んでいなくても『吾輩は猫である』のパロディーであるという事、この猫(♀・乳好・邪念を気付かれない程度の能力)
の能力と傾向を抑えておけば、それなりにお楽しみいただけます。
吾輩が猫である。近頃新聞に載る機会があり多少有名になったが、やはり名は無い。
有名なのに無名なのは如何なものかと云う事で、鴉のブン屋が吾輩の名を公募する企画を立てていたが、
集計当日に何物かによる襲撃を受け結局企画はお流れになってしまったそうだ。
代わりに『謎の覆面三人組、当紙記者を襲撃!』という見出しが一面を飾る事になったのだが、まあ吾輩にはどうでもよい話である。
どうでもよいついでで思い出したが、襲撃記事が紙面を飾る前日にこぁ女史の行方が分からぬとパチュリー先生が文句を言って居た。
丁度同じ頃、正門にてチルノ嬢が大妖精が居なくなったと騒いでいたそうだが、これまた吾輩には関係の無い話であろう……多分。
きゃっと みーつ すかーれっとⅢ
~正月編~
さて、何時の間にやら年が明けて新年である。
年明け早々主人の許へ一枚の絵葉書が来た。
これは白玉楼の亡霊嬢、西行寺幽々子といふ女性からの年賀状であるが、裏面に一匹の動物が蹲って居る所を水墨画で描いてある。
「へー上手いものね。あの大食い亡霊にこんな特技があるなんて知らなかったわ」
主人はパチュリー先生の書斎で此絵を、横から見たり、縦から眺めたりしてしきりに感服して居る。
既に一応感服したものだから、もうやめにするかと思うと矢張り横から見たり縦から見たりして居る。
体を捻じ曲げてたり、手を伸ばし目を細めて年寄りが物を見る様にしたり、又は窓の方へむいて鼻の先迄持って来たりして見て居る。
早くやめて呉れないと膝が揺れて剣呑でたまらない。
乳好きを公言して憚らぬ吾輩が、着痩せの泰斗たるパチュリー先生の書斎に居ながらわざわざ居心地の悪い主人の膝の上に丸まって居るのには些か訳が有る。
最近吾輩が図書館に入り浸り、こぁ女史やパチュリー先生にばかり懐いている事を主人はあまり面白く思っていない節があるのだ。
自らの日頃の行いを貧相な乳に手を当てて省みてみれば、到底その様な事は考えぬ筈なのだが家主としての立場上、
飼い猫が借家人の方に懐くという事態は到底看過しえぬ事であるらしい。
まったくもって了見の狭い事で、そんな風であるから何時までたっても胸が大きくならぬのである。
中国君の胸の垢でも煎じて飲ませたい位の物であるが、これでも吾輩を拾ってくれた恩人である。
これしきの辛抱でその薄っぺらな胸とプライドを張れると言うのなら、吾輩とて我侭は言わぬ。
「ねぇパチェ、これっていったい何を描いてあるのかしら?」
漸くの事で動揺が余り激しくなくたったと思ったら、この様な事を聞く。
主人は絵葉書の濃淡には感服したが、かいてある動物の正体が分からぬので、先刻から苦心をしたものと見える。
主人の絵ではあるまいし、そんな分からぬ絵葉書かと思いながら、寝ていた目を上品に半ば開いて、落ち着き払って見ると紛れも無い、
吾輩の肖像だ。
新聞に載った吾輩の写真を手本に描いたと見え、主人の様に心眼を極め込んだものでもあるまいが、
形態も毛皮の模様もちゃんと整って出来て居る。
誰が見たって猫に相違ない。少し眼識のあるものなら、猫の中でも他の猫では無く吾輩である事が判然とわかる様に立派に描いてある。
この位明瞭な事を分からずにかく迄苦心するかと思うと、少し主人が気の毒になる。
「レミィ、あなた本当に分からないの?“貴族には審美眼が必要なのよ!”って前に言って無かったかしら?」
「むむ……」
本当に気の毒になる。
出来る事なら其の絵が吾輩であると云う事を知らしてやりたい。
吾輩であると云う事は好し分からないにしても、せめて猫であるという事だけは分らしてやりたい。
然し吸血鬼というものは大抵吾輩猫族の言語を解し得る位に天の恵に属して居らん動物であるから、残念ながら其の儘にして置いた。
「小悪魔、あなたも分かるわよねぇ?」
「え?ええ……まぁその……はい……」
「レミィ?」
「ぐがくくくくっ」
本っっ当ぉぉぉぉに、気の毒である。
一寸読者に断って置きたいが、元来人間が何ぞというとエロ猫だ、ぬこだど事も無げに軽侮の口調をもって吾輩を評価する癖があるは甚だよくない。
二次作家の思念から巨乳門番と貧乳メイドが出来て、さらにその残り滓である筆者の妄想から吾輩が製造された如く考えるのは……
……まぁその通りなのだが、いくら吾輩がエロいからといって粗末簡便に扱うのは、はたから見て余りみっともいい者じゃない。
よそ目には吾輩がただ単に大きさだけを重視しているだけの無節操なエロ猫に見えるのだろうが、
吾輩の乳思考世界に入ってみると中々複雑なもので十人十色という人間界の言葉は其の儘ここにも応用ができるのである。
あまり詳細に話してはガイドラインに抵触する恐れがあるが、猫である吾輩の知った事ではない。
吾輩が違いの分かる猫である証拠としてサイズは無論の事、色・艶・張り具合から各所の形、黒子の数・場所に至るまで、
吾輩が風呂の湯にも怯まずに決死の思いでリサーチしたこぁ女史・パチュリー先生・中国君、紅魔館三大乳娘達の詳細なデータを此処に明らかに……!
『私が説教をした意味をちっっっっとも理解していない様ですね♪』
……しようと思ったのだが、極めて危険かつ現実性に富んだ幻聴が聞こえてきた為、
やはり此処は良識に従って吾輩の胸の内にしまい置く事にする。
……うるさい、前にも言ったが吾輩だって命は惜しいし筆者とて怒られるのは嫌なのだ。
閻魔に世話になるのはどうせ死んだ後だから良いではないかという人もいるだろうが、此処紅魔館は実に物騒な所で、
吾輩が無縁塚送りにされた回数は既に二桁に及ぶ。
小町姐さんの見るもの全てを死に誘う死神の乳に会えるのは嬉しいが、高確率でちびっこ閻魔に遭遇する可能性を考えれば此処は引きの一手である。
誰が吾輩を臆病者よと罵れようか?
日本人男児ならば脳内補完のスキルは標準装備の筈、己の全力をもって妄想しきるが良い。
余談ながら、着替え直後のメイド長の背中や腋は深紅に染まるのだが、理由は敢て此処では言わぬ。
彼女が己のプライドを守る為にどれ程の見栄をかき集め、どれ程の欺瞞を詰め込んでいるのか……余人が知れば死は免れまい。
まあ、どこぞの紅白や黒白などは集めようにもモノが無いのだから、まだましと言えるのだろう。
彼女等が密かにメイドの下にこの奇術を学びに来て、更なる絶望と将来への微かな希望とをその平たい胸に抱えて帰った事は吾輩とパチュリー先生だけが知る黒歴史である。
兎も角、吾輩が言いたい事は乳も猫も千差万別であるのだが、結局の所は同類でなければ分かり合えぬと云う事だ。
貧乳の悩みは貧乳にしか分からぬように、猫の事は矢張り猫にしか分からぬ。
いくら人妖が力を持とうと是許りは駄目である。
況や実際を言うと彼女等が自ら信じて居る如くえらくもなんとも無いのだから猶更六づかしい。
又況んや同情に乏しい吾輩の主人の如きは、相互を残り無く解するというが愛の第一義であるということすら分からない幼女なのだから仕方がない。
彼女が頭の悪い氷精の如く己の強さを誇って外界を圧し、未だに人参も食えぬ分際で自分丈がカリスマの権化であるかのような面構をしているのは一寸可笑しい。
主人がカリスマで無い証拠には現に吾輩の肖像が目の前にあるのに少しも悟った様子も無く……
「え~と……分かったわ!今年は戌年だから犬の絵ね!!」
「レミィ、今年の干支は猪よ」
残念、既に子年である。作者がぐぅたらな人間であるから一年越しの投稿で、このような破目になるのだ。
既に前作を憶えていてくれる読者も居ないだろうに。
「そ、そうだったわね……それじゃあ猿かしら?」
「それも違う……ねぇレミィ?」
「な、何かしらパチェ?」
「……十二支って全部言える?」
「!?……も、もちろんよ。えーと、ねーうしとらうーたつみー……」
「……」
「……ねーうしとらうーたつみー……」
「…………」
「…………ねーうしとらうーたつみー!」
と、この様に気の知れぬ事をうーうー言ってへたれているのであるから、如何にカリスマなどと云う単語から程遠い存在であるか、
チルノ嬢であろうとも容易く理解できるであろう。
吾輩が主人の膝の上で眼を瞑りながら斯く考えて居ると、やがてメイド長が第二の絵葉書を持って来た。
「失礼いたします、中国からこれを預かってきたのですが……」
「どうしたの咲夜?腑に落ちない様子だけれども……」
「はい、これは中国がチルノ達から貰った年賀状だそうなのですが、お嬢様にもお見せする様に、と……」
見ると洋装に服を着た猫が四五匹ずらりと行列してペンを握ったり書物を開いたり勉強をして居る。
その内の一匹は席を離れて机の角で弾幕を撃ち込まれ、ホットなチャチャを踊って居る。
其の上に墨書で「あたいってばきいさょーね!」と下手糞な字で黒々とかいてある。
「……何これ?きいさ……なんて読むのよ?」
主人が吾輩の心中を代弁してくれる。「き」と「さ」を間違うな⑨。
微笑ましい絵柄の猫達の中、一匹だけ弾幕を撃ち込まれ必死に逃げ回る猫の表情だけがやけに写実的で実に迫って居る……
あの毛並みは吾輩であろうか?
「最近中国が非番の時にチルノ達に字やら絵やらを教えているらしいんですよ。そのお礼と成果発表も兼ねて送ってきたそうです」
「あの門番も意外に器用ね……で、なんで猫の絵なの?咲夜、ひょっとして今年って猫年?」
「……さて……どうだったでしょうか……」
成程、吾輩は頻繁に中国君の乳……ではなく顔を見に正門や門番小屋に足を運んで居るので、チルノ嬢達とも親交がある。
おそらくこれは中国君に学問を教わっている様子を吾輩になぞらえて描いた物なのだろう。
一匹だけ上手い絵……先述の猫は大妖精の描いた物だろうか?絵の隅に綺麗な字で『名無し同盟の猫さんへ♪』と書いてある……
いや怖いから本気で……
中国君は折角吾輩を絵に描いてもらったのだから、と主人にも見せたのであろうが、主人は相変わらず見当違いの寝言を言って居る。
吾輩が是程有名になったのを未だ気が着かずに居ると見える。
そうこうしている所へ、他のメイドが第三の葉書を持って来る。
これは彼の白黒魔砲使い霧雨魔理沙嬢からパチュリー先生宛の物で、今度は絵葉書では無い。
謹賀新年、今年もさっくり貰っていくぜと書いて、傍らに『今度拾ったっていう例の猫にもよろしく』とある。
「……ああ、そういう事ね……」
如何に迂遠な主人でもこう明らさまに書いてあれば分かるものと見えて、漸く気が付いた様にフンと言いながら不機嫌そうに吾輩の顔を見た。
「レミィ?」
「わかっているわよパチェ、何の絵か分からなかったのは別にこの子の責任では無いものね」
「そう……で、十二支は?」
「~~~~~~~~!!??」
だから何故に吾輩を睨む。因みに吾輩の種族は十二支には入って居らんぞ
「……そういえばレミィ」
「こんどはどうしたぁっ!!」
「この本によると、一家の主は正月家人に昨年一年の労いと感謝の意を籠めて『落し弾』という物を振舞うそうよ」
むぅ、オチが読めたな……
一転して穏やかな笑顔を浮かべる主人。
だが、その両手は既に胸の前に構えられ、安全ピンを抜かれた手榴弾が如き物騒極まりない妖気を漂わせて居られる。
「……欲しいの?」
「私はいらない、レミィが居てくれればそれだけで十分だもの」
「咲夜?」
「私もそのお言葉だけで十二分に。咲夜は幸せ者で御座います」
忍び寄る即死フラグを華麗にグレイズする御二方。こぁ女史に至っては既に姿も見えぬ。
「そう……それじゃあ中国にでも渡してこようかしら……」
「はい、それが宜しいかと」
嗚呼、まったくもって貧乳は横暴である。
主人は紅の妖気を其の身に纏い、うふうふ笑いながら去っていった。
「……飽きないわね」
「ええ、本当に」
「ところで咲夜、さっきのレミィの様子はちゃんと盗撮してあるのでしょう?」
「無論ですわ、半泣きでへたれてうーうー唸っているお嬢様のお姿ときたら……正に れ み り あ うー ♪……ですもの」
「完璧ね咲夜。これなら八雲紫ですら萌やし尽くせるわ」
「感謝の極み」
ズパっと音を立ててポーズをキメル貧乳メイド。
どうでもよいから鼻血を拭け、吾輩にかかる。
古人曰く「一年の計は元旦にあり」その元旦からこの体たらくでは、主人が幻想郷縁起に記された様な吸血鬼に相応しいカリスマを得る事は夢のまた夢であらう。
遠くからは中国君達の悲鳴と弾幕の炸裂音が悲しげに響き渡って居た。
合掌
●
「もちよ!モチを搗くのよ!」
正月二日目もまだ明けぬ時刻だというのにこんな戯けた事を絶叫しだすようなカリスマに満ち溢れた阿呆は、此処紅魔館には一人しか居らん。
全身に巻かれた包帯も痛々しく、仄かに香る治療薬の臭いも乳臭い我が主人、
紅魔館が誇る我が儘お嬢様ことレミリア・スカーレットその人である。
その我が儘ペド吸血鬼にまだ日も昇らぬ時刻から叩き起こされたパチュリー先生は、妖怪でも殺せそうな目付きで主人の事を睨み付けて居られる。
が、思い遣りという言葉とは無縁の性格をして居る主人はそれに気付くふうでも無くああだこうだと持論をぶちまけて居る。
「……と言うわけなのよ。それでパチェの意見を聞きたいの!」
どうだ参ったか!とばかりに胸を張る主人。
パチュリー先生はそんな主人をむっきゅりと睨み付けた後にっこりと笑って
「そうね……とりあえず……」
……にっこりと……嘲笑って……
「あら…?」
「一編死んで反省なさい」
“日符『ロイヤルフレア』”
~幼女&子猫臨死中~
~子猫挟乳中~
~少女説教中~
「酷いじゃないパチェ、心と体に重傷を負った友人相手になんてことするのよ」
「病弱な友人を日も出ないうちから叩き起こすのは酷く無いのかしら?」
「太陽なら今目の前で出た様な気がするのだけど……」
「レミィ?」
「なんでもない!何も言ってないからそのスペルカードをしまって!!」
毎度毎度幼気な子猫を死の淵に臨ませる事は酷くないのだろうか?
正月早々本年初臨死、初小町、初説教である。
まだ松も取れない内からこの有様では、今年も先が思いやられる。
「で、結局何の用なの?今度は客観的に、かつ簡潔に説明なさい」
「初詣に行った。霊夢に抱きついたら殴られた。祭壇にぶつかった。鏡餅だと思ったら固めた雪だった。蜜柑も皮だけだった。
その事を聞いたら夢想転生された。死ぬ思いで這って帰ってきた」
「簡潔に過ぎるわね」
「過ぎた方が及ばざるよりましよ」
餅買う金も無いんかあの神社は。
「つまり巫女に貢ぐ為に紅魔館で餅つきがしたい、と?」
「そうなのよ!流石パチェね!」
「で、私をこんな時間に叩き起こす必然性は何処にあるの?」
「え?」
「餅つきがしたいのなら咲夜か門番にでも頼めば良いんじゃないの?」
「……あ」
「つまり私の親愛なる友人殿は、よくよく考えもせずに厄介事というだけで私の安らかな眠りを妨げてくれた訳ね」
安らか過ぎて見ている方が心配になる様な寝顔であった。
今は主人の方が心配になるような顔色になって居るが。
しばらくの間、だらだらとあぶら汗を流す主人を睨め付けていた先生であったが、やがて諦めた様に息を吐いた。
「まぁ良いわ……小悪魔、話は聞いていたわね?」
「はい、餅つき関連の資料ですね」
吾輩の蘇生・修復術式を終えたこぁ女史が即座に答えを返した。
うむ、今年も惚れ惚れする有能振りである。
「咲夜?」
「はいお嬢様、明日の昼までには全て準備を整えられるかと」
何時の間にか主人の背後に控える貧乳メイド
此処までなら瀟洒の二つ名に恥じない有能振りであるが、
先刻のロイヤルフレアでぼろぼろになった主人の服を紅い眼でハァハァと荒い息を立てながら凝視しているものだから台無しである。
「霊夢に招待状を出しなさい、明日は紅魔館餅つき大会よ!」
つづく
前二作を読んでいなくても『吾輩は猫である』のパロディーであるという事、この猫(♀・乳好・邪念を気付かれない程度の能力)
の能力と傾向を抑えておけば、それなりにお楽しみいただけます。
吾輩が猫である。近頃新聞に載る機会があり多少有名になったが、やはり名は無い。
有名なのに無名なのは如何なものかと云う事で、鴉のブン屋が吾輩の名を公募する企画を立てていたが、
集計当日に何物かによる襲撃を受け結局企画はお流れになってしまったそうだ。
代わりに『謎の覆面三人組、当紙記者を襲撃!』という見出しが一面を飾る事になったのだが、まあ吾輩にはどうでもよい話である。
どうでもよいついでで思い出したが、襲撃記事が紙面を飾る前日にこぁ女史の行方が分からぬとパチュリー先生が文句を言って居た。
丁度同じ頃、正門にてチルノ嬢が大妖精が居なくなったと騒いでいたそうだが、これまた吾輩には関係の無い話であろう……多分。
きゃっと みーつ すかーれっとⅢ
~正月編~
さて、何時の間にやら年が明けて新年である。
年明け早々主人の許へ一枚の絵葉書が来た。
これは白玉楼の亡霊嬢、西行寺幽々子といふ女性からの年賀状であるが、裏面に一匹の動物が蹲って居る所を水墨画で描いてある。
「へー上手いものね。あの大食い亡霊にこんな特技があるなんて知らなかったわ」
主人はパチュリー先生の書斎で此絵を、横から見たり、縦から眺めたりしてしきりに感服して居る。
既に一応感服したものだから、もうやめにするかと思うと矢張り横から見たり縦から見たりして居る。
体を捻じ曲げてたり、手を伸ばし目を細めて年寄りが物を見る様にしたり、又は窓の方へむいて鼻の先迄持って来たりして見て居る。
早くやめて呉れないと膝が揺れて剣呑でたまらない。
乳好きを公言して憚らぬ吾輩が、着痩せの泰斗たるパチュリー先生の書斎に居ながらわざわざ居心地の悪い主人の膝の上に丸まって居るのには些か訳が有る。
最近吾輩が図書館に入り浸り、こぁ女史やパチュリー先生にばかり懐いている事を主人はあまり面白く思っていない節があるのだ。
自らの日頃の行いを貧相な乳に手を当てて省みてみれば、到底その様な事は考えぬ筈なのだが家主としての立場上、
飼い猫が借家人の方に懐くという事態は到底看過しえぬ事であるらしい。
まったくもって了見の狭い事で、そんな風であるから何時までたっても胸が大きくならぬのである。
中国君の胸の垢でも煎じて飲ませたい位の物であるが、これでも吾輩を拾ってくれた恩人である。
これしきの辛抱でその薄っぺらな胸とプライドを張れると言うのなら、吾輩とて我侭は言わぬ。
「ねぇパチェ、これっていったい何を描いてあるのかしら?」
漸くの事で動揺が余り激しくなくたったと思ったら、この様な事を聞く。
主人は絵葉書の濃淡には感服したが、かいてある動物の正体が分からぬので、先刻から苦心をしたものと見える。
主人の絵ではあるまいし、そんな分からぬ絵葉書かと思いながら、寝ていた目を上品に半ば開いて、落ち着き払って見ると紛れも無い、
吾輩の肖像だ。
新聞に載った吾輩の写真を手本に描いたと見え、主人の様に心眼を極め込んだものでもあるまいが、
形態も毛皮の模様もちゃんと整って出来て居る。
誰が見たって猫に相違ない。少し眼識のあるものなら、猫の中でも他の猫では無く吾輩である事が判然とわかる様に立派に描いてある。
この位明瞭な事を分からずにかく迄苦心するかと思うと、少し主人が気の毒になる。
「レミィ、あなた本当に分からないの?“貴族には審美眼が必要なのよ!”って前に言って無かったかしら?」
「むむ……」
本当に気の毒になる。
出来る事なら其の絵が吾輩であると云う事を知らしてやりたい。
吾輩であると云う事は好し分からないにしても、せめて猫であるという事だけは分らしてやりたい。
然し吸血鬼というものは大抵吾輩猫族の言語を解し得る位に天の恵に属して居らん動物であるから、残念ながら其の儘にして置いた。
「小悪魔、あなたも分かるわよねぇ?」
「え?ええ……まぁその……はい……」
「レミィ?」
「ぐがくくくくっ」
本っっ当ぉぉぉぉに、気の毒である。
一寸読者に断って置きたいが、元来人間が何ぞというとエロ猫だ、ぬこだど事も無げに軽侮の口調をもって吾輩を評価する癖があるは甚だよくない。
二次作家の思念から巨乳門番と貧乳メイドが出来て、さらにその残り滓である筆者の妄想から吾輩が製造された如く考えるのは……
……まぁその通りなのだが、いくら吾輩がエロいからといって粗末簡便に扱うのは、はたから見て余りみっともいい者じゃない。
よそ目には吾輩がただ単に大きさだけを重視しているだけの無節操なエロ猫に見えるのだろうが、
吾輩の乳思考世界に入ってみると中々複雑なもので十人十色という人間界の言葉は其の儘ここにも応用ができるのである。
あまり詳細に話してはガイドラインに抵触する恐れがあるが、猫である吾輩の知った事ではない。
吾輩が違いの分かる猫である証拠としてサイズは無論の事、色・艶・張り具合から各所の形、黒子の数・場所に至るまで、
吾輩が風呂の湯にも怯まずに決死の思いでリサーチしたこぁ女史・パチュリー先生・中国君、紅魔館三大乳娘達の詳細なデータを此処に明らかに……!
『私が説教をした意味をちっっっっとも理解していない様ですね♪』
……しようと思ったのだが、極めて危険かつ現実性に富んだ幻聴が聞こえてきた為、
やはり此処は良識に従って吾輩の胸の内にしまい置く事にする。
……うるさい、前にも言ったが吾輩だって命は惜しいし筆者とて怒られるのは嫌なのだ。
閻魔に世話になるのはどうせ死んだ後だから良いではないかという人もいるだろうが、此処紅魔館は実に物騒な所で、
吾輩が無縁塚送りにされた回数は既に二桁に及ぶ。
小町姐さんの見るもの全てを死に誘う死神の乳に会えるのは嬉しいが、高確率でちびっこ閻魔に遭遇する可能性を考えれば此処は引きの一手である。
誰が吾輩を臆病者よと罵れようか?
日本人男児ならば脳内補完のスキルは標準装備の筈、己の全力をもって妄想しきるが良い。
余談ながら、着替え直後のメイド長の背中や腋は深紅に染まるのだが、理由は敢て此処では言わぬ。
彼女が己のプライドを守る為にどれ程の見栄をかき集め、どれ程の欺瞞を詰め込んでいるのか……余人が知れば死は免れまい。
まあ、どこぞの紅白や黒白などは集めようにもモノが無いのだから、まだましと言えるのだろう。
彼女等が密かにメイドの下にこの奇術を学びに来て、更なる絶望と将来への微かな希望とをその平たい胸に抱えて帰った事は吾輩とパチュリー先生だけが知る黒歴史である。
兎も角、吾輩が言いたい事は乳も猫も千差万別であるのだが、結局の所は同類でなければ分かり合えぬと云う事だ。
貧乳の悩みは貧乳にしか分からぬように、猫の事は矢張り猫にしか分からぬ。
いくら人妖が力を持とうと是許りは駄目である。
況や実際を言うと彼女等が自ら信じて居る如くえらくもなんとも無いのだから猶更六づかしい。
又況んや同情に乏しい吾輩の主人の如きは、相互を残り無く解するというが愛の第一義であるということすら分からない幼女なのだから仕方がない。
彼女が頭の悪い氷精の如く己の強さを誇って外界を圧し、未だに人参も食えぬ分際で自分丈がカリスマの権化であるかのような面構をしているのは一寸可笑しい。
主人がカリスマで無い証拠には現に吾輩の肖像が目の前にあるのに少しも悟った様子も無く……
「え~と……分かったわ!今年は戌年だから犬の絵ね!!」
「レミィ、今年の干支は猪よ」
残念、既に子年である。作者がぐぅたらな人間であるから一年越しの投稿で、このような破目になるのだ。
既に前作を憶えていてくれる読者も居ないだろうに。
「そ、そうだったわね……それじゃあ猿かしら?」
「それも違う……ねぇレミィ?」
「な、何かしらパチェ?」
「……十二支って全部言える?」
「!?……も、もちろんよ。えーと、ねーうしとらうーたつみー……」
「……」
「……ねーうしとらうーたつみー……」
「…………」
「…………ねーうしとらうーたつみー!」
と、この様に気の知れぬ事をうーうー言ってへたれているのであるから、如何にカリスマなどと云う単語から程遠い存在であるか、
チルノ嬢であろうとも容易く理解できるであろう。
吾輩が主人の膝の上で眼を瞑りながら斯く考えて居ると、やがてメイド長が第二の絵葉書を持って来た。
「失礼いたします、中国からこれを預かってきたのですが……」
「どうしたの咲夜?腑に落ちない様子だけれども……」
「はい、これは中国がチルノ達から貰った年賀状だそうなのですが、お嬢様にもお見せする様に、と……」
見ると洋装に服を着た猫が四五匹ずらりと行列してペンを握ったり書物を開いたり勉強をして居る。
その内の一匹は席を離れて机の角で弾幕を撃ち込まれ、ホットなチャチャを踊って居る。
其の上に墨書で「あたいってばきいさょーね!」と下手糞な字で黒々とかいてある。
「……何これ?きいさ……なんて読むのよ?」
主人が吾輩の心中を代弁してくれる。「き」と「さ」を間違うな⑨。
微笑ましい絵柄の猫達の中、一匹だけ弾幕を撃ち込まれ必死に逃げ回る猫の表情だけがやけに写実的で実に迫って居る……
あの毛並みは吾輩であろうか?
「最近中国が非番の時にチルノ達に字やら絵やらを教えているらしいんですよ。そのお礼と成果発表も兼ねて送ってきたそうです」
「あの門番も意外に器用ね……で、なんで猫の絵なの?咲夜、ひょっとして今年って猫年?」
「……さて……どうだったでしょうか……」
成程、吾輩は頻繁に中国君の乳……ではなく顔を見に正門や門番小屋に足を運んで居るので、チルノ嬢達とも親交がある。
おそらくこれは中国君に学問を教わっている様子を吾輩になぞらえて描いた物なのだろう。
一匹だけ上手い絵……先述の猫は大妖精の描いた物だろうか?絵の隅に綺麗な字で『名無し同盟の猫さんへ♪』と書いてある……
いや怖いから本気で……
中国君は折角吾輩を絵に描いてもらったのだから、と主人にも見せたのであろうが、主人は相変わらず見当違いの寝言を言って居る。
吾輩が是程有名になったのを未だ気が着かずに居ると見える。
そうこうしている所へ、他のメイドが第三の葉書を持って来る。
これは彼の白黒魔砲使い霧雨魔理沙嬢からパチュリー先生宛の物で、今度は絵葉書では無い。
謹賀新年、今年もさっくり貰っていくぜと書いて、傍らに『今度拾ったっていう例の猫にもよろしく』とある。
「……ああ、そういう事ね……」
如何に迂遠な主人でもこう明らさまに書いてあれば分かるものと見えて、漸く気が付いた様にフンと言いながら不機嫌そうに吾輩の顔を見た。
「レミィ?」
「わかっているわよパチェ、何の絵か分からなかったのは別にこの子の責任では無いものね」
「そう……で、十二支は?」
「~~~~~~~~!!??」
だから何故に吾輩を睨む。因みに吾輩の種族は十二支には入って居らんぞ
「……そういえばレミィ」
「こんどはどうしたぁっ!!」
「この本によると、一家の主は正月家人に昨年一年の労いと感謝の意を籠めて『落し弾』という物を振舞うそうよ」
むぅ、オチが読めたな……
一転して穏やかな笑顔を浮かべる主人。
だが、その両手は既に胸の前に構えられ、安全ピンを抜かれた手榴弾が如き物騒極まりない妖気を漂わせて居られる。
「……欲しいの?」
「私はいらない、レミィが居てくれればそれだけで十分だもの」
「咲夜?」
「私もそのお言葉だけで十二分に。咲夜は幸せ者で御座います」
忍び寄る即死フラグを華麗にグレイズする御二方。こぁ女史に至っては既に姿も見えぬ。
「そう……それじゃあ中国にでも渡してこようかしら……」
「はい、それが宜しいかと」
嗚呼、まったくもって貧乳は横暴である。
主人は紅の妖気を其の身に纏い、うふうふ笑いながら去っていった。
「……飽きないわね」
「ええ、本当に」
「ところで咲夜、さっきのレミィの様子はちゃんと盗撮してあるのでしょう?」
「無論ですわ、半泣きでへたれてうーうー唸っているお嬢様のお姿ときたら……正に れ み り あ うー ♪……ですもの」
「完璧ね咲夜。これなら八雲紫ですら萌やし尽くせるわ」
「感謝の極み」
ズパっと音を立ててポーズをキメル貧乳メイド。
どうでもよいから鼻血を拭け、吾輩にかかる。
古人曰く「一年の計は元旦にあり」その元旦からこの体たらくでは、主人が幻想郷縁起に記された様な吸血鬼に相応しいカリスマを得る事は夢のまた夢であらう。
遠くからは中国君達の悲鳴と弾幕の炸裂音が悲しげに響き渡って居た。
合掌
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「もちよ!モチを搗くのよ!」
正月二日目もまだ明けぬ時刻だというのにこんな戯けた事を絶叫しだすようなカリスマに満ち溢れた阿呆は、此処紅魔館には一人しか居らん。
全身に巻かれた包帯も痛々しく、仄かに香る治療薬の臭いも乳臭い我が主人、
紅魔館が誇る我が儘お嬢様ことレミリア・スカーレットその人である。
その我が儘ペド吸血鬼にまだ日も昇らぬ時刻から叩き起こされたパチュリー先生は、妖怪でも殺せそうな目付きで主人の事を睨み付けて居られる。
が、思い遣りという言葉とは無縁の性格をして居る主人はそれに気付くふうでも無くああだこうだと持論をぶちまけて居る。
「……と言うわけなのよ。それでパチェの意見を聞きたいの!」
どうだ参ったか!とばかりに胸を張る主人。
パチュリー先生はそんな主人をむっきゅりと睨み付けた後にっこりと笑って
「そうね……とりあえず……」
……にっこりと……嘲笑って……
「あら…?」
「一編死んで反省なさい」
“日符『ロイヤルフレア』”
~幼女&子猫臨死中~
~子猫挟乳中~
~少女説教中~
「酷いじゃないパチェ、心と体に重傷を負った友人相手になんてことするのよ」
「病弱な友人を日も出ないうちから叩き起こすのは酷く無いのかしら?」
「太陽なら今目の前で出た様な気がするのだけど……」
「レミィ?」
「なんでもない!何も言ってないからそのスペルカードをしまって!!」
毎度毎度幼気な子猫を死の淵に臨ませる事は酷くないのだろうか?
正月早々本年初臨死、初小町、初説教である。
まだ松も取れない内からこの有様では、今年も先が思いやられる。
「で、結局何の用なの?今度は客観的に、かつ簡潔に説明なさい」
「初詣に行った。霊夢に抱きついたら殴られた。祭壇にぶつかった。鏡餅だと思ったら固めた雪だった。蜜柑も皮だけだった。
その事を聞いたら夢想転生された。死ぬ思いで這って帰ってきた」
「簡潔に過ぎるわね」
「過ぎた方が及ばざるよりましよ」
餅買う金も無いんかあの神社は。
「つまり巫女に貢ぐ為に紅魔館で餅つきがしたい、と?」
「そうなのよ!流石パチェね!」
「で、私をこんな時間に叩き起こす必然性は何処にあるの?」
「え?」
「餅つきがしたいのなら咲夜か門番にでも頼めば良いんじゃないの?」
「……あ」
「つまり私の親愛なる友人殿は、よくよく考えもせずに厄介事というだけで私の安らかな眠りを妨げてくれた訳ね」
安らか過ぎて見ている方が心配になる様な寝顔であった。
今は主人の方が心配になるような顔色になって居るが。
しばらくの間、だらだらとあぶら汗を流す主人を睨め付けていた先生であったが、やがて諦めた様に息を吐いた。
「まぁ良いわ……小悪魔、話は聞いていたわね?」
「はい、餅つき関連の資料ですね」
吾輩の蘇生・修復術式を終えたこぁ女史が即座に答えを返した。
うむ、今年も惚れ惚れする有能振りである。
「咲夜?」
「はいお嬢様、明日の昼までには全て準備を整えられるかと」
何時の間にか主人の背後に控える貧乳メイド
此処までなら瀟洒の二つ名に恥じない有能振りであるが、
先刻のロイヤルフレアでぼろぼろになった主人の服を紅い眼でハァハァと荒い息を立てながら凝視しているものだから台無しである。
「霊夢に招待状を出しなさい、明日は紅魔館餅つき大会よ!」
つづく
相変わらずの猫君、お見事でした。
あなたの実況は・・・すばらしい!
このエロ猫めwww
てっきり二作で完結したものと