Coolier - 新生・東方創想話

年が明けてのクリスマスプレゼント

2008/01/01 22:11:42
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*ご注意*いわゆる《けーもこ》?です。百合とか苦手な方、カプとか論外な方は、生温かい目でスルーしてください。
*でも実態は友人以上恋人未満のほのぼの物語(自称)です。慧音と妹紅が親友設定でokな方は大丈夫だと思います。










大晦日は明けて元旦。年の一番初めの日。
上白沢慧音宅、裏の井戸端。

ザクザク、ザック。ザクザクリ。
キュ、ジャー。

きゅっと蛇口を閉め、銀色のバケツを傾けてとぎ汁を流す。白いモチ米がバケツの縁のギリギリまで来たところで止める。ふぅ、と一息。緩んでしまっていた袖を捲くり直す。青空をぐるりと仰げば、流れていく白雲達。もうひとつ、深呼吸。

痛くなってきた背を伸ばしがてら指先で額の汗を拭った。

2升ほどいっぺんに研いでいるのでけっこう体力を使う。かがんで作業しているから背中や腰が痛くなってくるし、足もだんだん痺れてくる。加えて、水を扱うので寒さがキツい。水そのものの冷たさはそうでもないが、濡れた部分が寒風に当たるとアッサリ体の熱を奪われてしまうのだ。ジンジン痺れて、ゆっくりと感覚が鈍くなってくる。額を拭った指先もよほど神経を意識しないと、もうよく動かない。時折、痙攣みたいに震える。

風が冷たい。

寒さはそれなりだが、晴れていて日差しはとても暖かいし、何より寺子屋の子ども達がクリスマスにくれたマフラーがある。お小遣いを出し合って買ったという七色のマフラーは少し派手だが、その温もりは慧音にとって何物にも代え難かった。体も動かしているので寒くはない。ただ濡れた所に風が当たるととても痛い。

自分の手に触れるととても冷たい。

むしろ水の中の方が温かい。慧音はもう一度水を注ぎ、その中に手を沈めてゆっくりさすった。水は、地下の深くから汲み上げている井戸水なので普通より温かい気がする。お風呂でするみたいに、指を組んでぱちゃぱちゃと水鉄砲を飛して遊ぶ。ちょっと一休みだ。

少し、疲れた。けれど。

ザクッと両手で米を掬う。手のひらから水が零れ、顕われた真白な米が冬の透明な日差しを受けてキラキラと輝く。このモチ米は明日の餅つき大会で使うのだ。いつも寺子屋で教えている生徒達をみんな呼ぶ予定だ。どの子もみんな楽しみにしてくれている。子ども達の笑顔を思い浮かべればこの程度の疲れはいつの間にかどこかへ行ってしまう。慧音はマフラーを巻き直す。ザクッ。ザクッ。ザック。ザクザクリ。キュ、ジャー。キュっ。ザー。とぎ終わったバケツを持ち上げる。「よし、6臼め」

あと1臼分。頑張ろう。


[.................................................................]


とぎ込みが終わって、勝手から台所に入る。竈にかかっているお煮しめと黒豆の様子を確かめて火を調節したあと、水にさらしてあったニンジンを酢の物と金平用に分けて水を切っておく。それから数の子の下味を付けて、用意しておいたゴボウを昆布でくるんでカンピョウで巻く。昆布巻きの下ごしらえだ。それが終わると、今度は黒豆を味見して砂糖を足し、お煮しめを一旦下ろして、代わりにキントン用のサツマイモを鍋にかける。ああ、キントンに混ぜる栗も剥かないといけない。その前に、そろそろ洗濯機ができる頃だから干さないと……。

忙しい。

(すでに去年のこととなってしまったが)12月は師が走るとはよく言ったもので、寺子屋の仕事に家の大掃除、おせちの用意と休む暇もなく、気がつけば年を越しても全く終わっていない。合間には日々の家事もやらなくてはいけないし、文字通り目の回るような忙しさだ。……子ども達みんなもそれぞれの家でちゃんとお手伝いをしているだろうか(橙はまだ良く手伝いをするけれど、伊吹萃香はつまみ食いばかりしていないだろうかと心配だ)。今頃はお年玉を貰っている頃かもしれない。

(時間さえあればそれぞれのお宅に年始の挨拶に伺いたかったのだが、今年はどうにも無理そうだな)

本当に暇がないのだ。洗濯機から大量の洗濯物を引っ張り出して籠に放り込みながら思う。今日は天気が良かったのでシーツまで洗ってしまった。暇がないのに……。それでも、大掃除や薪割りなどの力仕事は妹紅がやってくれているので大変助かっている。これ以上仕事が増えたらフランドール・スカーレットのように4人に分身したって間に合わない……ん。

(いや……そういえば)

その妹紅も、今年はちょっと変なのだ。心ここに在らずというか、仕事中にもしょっちゅう手を止めて何か考え込んでいる。そのくせ何かあったのかと聞いたり、食事中にふと目が合ったりすると猛烈な勢いでソッポを向くのだ。あれは何か、悩み事でもあるのだろうか。そういえばここ最近は寺子屋の方に追われていてあまり妹紅のことを気にかけてやれなかったような気がする。思い返せば先月の始め辺りからあんな風ではなかったか。妹紅も子どもではないのだろうからと軽く考えてしまっていた。

妹紅は元々長寿命な慧音たち妖怪と違って蓬莱の薬によって後天的に不死という長い生を得たヒトだ。それ故か、どこか精神的に不安定な所がある。精神的な成熟は妖怪にも個体差があるが(ルーミアはもう少し大人になってもらわないと困る……せめて焼肉程度でホイホイついて行かないようになってくれないと)、妹紅の場合はひどく長じている所とひどく幼い所が同居していて、それが交互に顔を出す。だから慧音が常に気にかけていて、常に目を配ってやらなければと考えているのは妹紅だ。なのに最近は少し多忙にかまけていたような気がする。

(しっかりしようっ……!)

パンっと両頬を張って気を引き締める。ついでに七色のマフラーを巻き直す。まだまだ仕事は山積みだし明日は餅つきだけれど、妹紅の話を聞くくらいの時間は作ろう。そういえば今もまた掃除の音がしない、またどこかで悩んでいるのではないだろうか。

洗濯籠を抱えて庭に出るために縁側に向かう途中、妹紅の部屋の前を通る。案の定そこにはこちらに背を向けて座り腕を組んでいるらしい妹紅の姿。ちなみに胡坐(あとで注意しないと……)。

そっとその場に洗濯籠を置いて、足音を忍ばせ妹紅の後ろをとる。「妹紅……」

「け、慧音っ……!?」全く気配に気づかなかったのか、大袈裟なほどに慌てる妹紅。立ち上がる暇もなくバタバタと背後にあるモノを隠そうとするが、慧音は目ざとくそれを見つけた。チラッと見えた限りだと箱か何かだったが。

「?……妹紅? なんだ? また子猫でも拾ってきたのか」くすっと優しそうに笑う。妹紅は時々猫や犬、小鳥を拾ってくる。寺子屋で忙しい慧音に迷惑をかけたくないのかいつも黙っていて、そのくせ責任感だけは強いものだからどこかに里子に出したりせず自分だけで育てようとするのだ。結局は慧音に見つかって(大抵は育て方が分からなくなりパニクって)慧音が世話する事になるのだが。この様子だと今回も多分それだろう。

「怒ったりしないからちゃんと見せてみろ」「い、イヤ違うんだこれはっ」「だったら隠さなくてもいいだろう。ほら、見せてみろってば」「ヤ、だから駄目だって!」隠されると余計に見たくなるのは妖怪もヒトも慧音先生も変わらない。ちょっと意地悪気分で、右から左から妹紅の背後を覗こうとする。妹紅も防ごうとするが座ったままではろくに動けない。

「そら、見つけたっ」
「わぁっ、ダメだってば!!」
カコン、と蓋が外れる。そこから零れ落ちたのは……、
「……マフラー?」
「ああぅ……」

零れ落ちたのはマフラーだった。クリーム色とと薄い緑色の二色が使われていて、螺旋形の模様もが二筋入っている。ただ、その模様は所々崩れていて、編み目も不揃いだし端も幾つかほつれている。それと少々長いようだ。多分、手編みだろう。
「これは……どうしたんだ?」
「これは……、……これは、慧音に……」
「私、に……?」
「本当は……クリスマスに渡そうと思ってたんだけど……寺子屋の子達が、……寺子屋の子達もマフラー渡してるの見て……」
「で……渡せなかった?」
「……うん」
「馬鹿だな……。そんなの遠慮する必要なんてなかったのに……」
そっと彼女の頬に手を添える。
「顔を下げないで。私はすごく嬉しいよ……」
ふわっと七色のマフラーを外し、妹紅が編んでくれたのを首に巻く。
「ほら、すごく暖かい」
本当に暖かい。
目の不揃いなマフラー。妹紅は針仕事はそれなりに得意だが編み棒を使うことには慣れていないのだろう、あちこちに失敗と努力のあとが窺える。そう思うと、不思議な感じだが、心の奥の方から暖かくなってくるような気がする。それを素直に言っただけなのだが「……」妹紅はさっき以上に紅くなってまた俯いてしまった。

仕方ないなぁ。

「ほら……」
そっと妹紅を抱き寄せ、長いマフラーの余った部分を彼女の首にかけてやる。
「ほら。こんなに暖かい」
その温もりを伝えるように正面から抱きしめる。
「……ね?」
「…………うん」
顔は見えないけれど、妹紅は頷いた。慧音も頷き返す。ギュッと、抱きしめる腕に力を込める。
「……妹紅」「……なんだ?」「もう少し、このままでいて良いか」「……いいけど、……なんで?」「ん。嬉しかったんだ」
妹紅が、自分が心配していたように悩んで落ち込んでいたわけではないのがわかって。
妹紅が、自分の事を大切に想っていてくれてことがわかって。
妹紅のことを子どものように考えていたが、彼女は自分が考えているよりずっと強い。忘れていたが、ヒトは成長するものなのだ。妖怪である自分たちが驚くほどに、早く、たくましく。
それが、嬉しかったのだ。


[.................................................................]


縁側。
仕事は一休みにして、二人で手をつないで庭を眺める。気の早い福寿草の黄色い顔が、あちらこちらでのぞいていた。風は相変わらず冷たいけれど、二人の首に巻かれたマフラーはとても暖かい。ふと、妹紅が言った。
「……やっぱり、迷惑じゃなかったか」
「……何が?」
「マフラー……。二つあったって仕方がないだろう……。明日の餅つきじゃ子ども達がプレゼントしてくれた方をつけてた方がいいだろうし……」
迷惑とか、そんな事はないのだけれど。でも確かに明日は子ども達の方を着てやりたいし。むぅ、と考える慧音。数瞬で妙案がひとつ。では、
「ではちょっと遅いけど、初詣、行こうか」
このマフラーで。
二人で。



END.
前回コメントくださった方ありがとうございました。あれから色々と精進してみました(年末なのでなかなか東方に時間を割けなかったのですが)。

今回の主役は、原作では満月の晩にお会いしたことのない慧音さんと未だお姿を見かけたことすらない妹紅さんですが、口調とかはなるべく原作に近づけたつもりです。とはいえ(この話を書くにあたって初めて知ったのですが)慧音と妹紅の親友設定ってそれ自体が二次だったんですね……orz。

この二人はとっても好きなので、なにがなんでも幸せ方向に持っていこうとする悪い癖が発動、あいかわらず話全体はぬるくなってしまってます……。

ちなみに慧音の忙しさの3分の1くらいは畦とシンクロしています。いや決して忙しさを愚痴りたかったわけではないですよ。
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コメント



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1.80名前が無い程度の能力削除
ほのぼのしていて癒されました
2.70名前が無い程度の能力削除
マフラーを隠そうとするもこたんの動作を幻視して悶えてます。やっぱこの組み合わせはいいのぅ。
3.100名前が無い程度の能力削除
あなたが神か
4.90名前が無い程度の能力削除
はっはっはっ
このバカップルめ!

自分は妖怪だと何度か強調してますが、けーねも半分人間なんですよね~