空気の冷たさに、手は悴み。はあっと息を吹きかければ、たちまちそれは空から降る雪へと変わりいくような錯覚。
なんとはなしに、手紙を送ってみようと思った。かれこれ数年は帰っていない神社に帰ろうとも思った。
博麗神社の境内、石畳の上で霊夢は来たる新年の準備に追われていた。
暦の上では、あと一月ほどで新年を迎える時期だ。それを考えて、私は手紙にある趣向を施す事にした。
神酒や一年の煩悩を払う太鼓にその田諸々を用意し、万全。これで準備は全て済んだ。あとは大晦日を待つだけ。
さらりさらりと、書き連ね……としたいところだが、はてさてどうしたものか。
悲しい事と言えば、あまり参拝客が来ないであろう事だが、まあそこは強制しても意味などない。
あまりに冗長では面白みが足りない。さりとて短すぎても……いや、シンプルに伝えるというのが良いか。
そう考えて、霊夢は母屋に戻る事にした。いつまでも外にいては凍える。さっさと火鉢にでも当たって暖まりたい。
ならば、あとは簡潔に書きつつ、あの子が解るようにヒントを。
「遅かったわね」火鉢の前には先客が居た。
さらりさらり、と無色を乗せて筆は紙の上を滑る。
「紫、邪魔」横に腰を下ろしつつ、霊夢は文句を漏らす。
この手紙を届ける為に柏手を打つ。すると久しく見ていなかった顔が現れる。
「あらあら、つれないわ。せっかく貴方にお手紙を持ってきたのに」
「珍しい。神主様が何か頼み事かしら?」
「ふうん? 妖怪を廃業して郵便屋にでもなったの?」
スキマから顔を覗かせ、知人はそう問う。私はかくかくしかじかと、簡単に用件を伝えた。
「そうそう、最近は妖怪も不景気でねえ……って、まあそれはさておき、はい渡したわよ。それじゃ帰るわ」
仕方がないなあと呟きつつも、私から手紙を受け取る。「ああ、ついでに貴方も送りましょうか?」
「……ああ、なるほど。ありがとう」差出人を確認してお礼を述べた。「はいどうも。それじゃ良いお年を」そう言っては紫は消えていった。
「有り難い申し出ですが」それは固辞させてもらう。なに、どうせ近くまで来ている。自分で帰れるのなら、そうするべきだろう。
博麗神社神主となぜか蜜柑の絵が記された箇所以外は白紙の手紙。霊夢はそれにしばし悩み、やがて気づき、手紙をあぶるように火鉢の上で躍らせる。
そろそろ帰ります。出来れば、風呂と食事の準備をしていただけると助かります。
ああ、それと出来れば大吟醸を。あるいは何か、いや、とりあえずお酒を用意してください。
風呂と食事は二の次でも構いません。それではよろしくお願いします。
博麗神社 神主
「いつもいきなりなんだから。良いんだけど……大吟醸ねえ」相変わらずのお酒好きなのは変わらず。
「それでは、またあちらで。ああ、そうそう」金の髪を揺らして「良いお年を」スキマは閉じた。
遠く何処かを、歩く誰かを、思うように、想うように――くすりと笑って、霊夢は目を伏せた。
私は口笛を吹きつつ、帰途への一歩を踏み出す。さあ帰ろう、さあ帰ろう。
幻想満ちる郷の新年はすぐそこまで、ああもうそこまで。
耳を澄ませば、ただどおんと太鼓の音が聞こえてくる。
幻想の彼方へと去り逝く年、送り出す響き、そして余韻。
重なり合うあらゆる、万象一切の息吹の中、どこか新たな年に、鼓動、弾ませて。
次回作はもう少し長いのを期待してます。
後、待ってるさささ
そして未だに長さで場所を決めようとしている人がいることに絶望した