いつもの様に、周囲に闇を広げて、宵闇の妖怪であるルーミアは、ふよふよ、ふわふわと漂っていた。
熱く、眩しい日差しを完全に遮断し、涼しく、暗いという妖怪にとって快適な空間を維持しての散歩である。
気持ちよすぎて眠りながら漂うこともあるが、外からは黒い球体にしか見えないので周囲の目を気にする必要もなかった。
「♪~」
しかし、この快適な散歩は行き先が判らず、ぶつかってしまうという難点があり……
「ふぎゅ!?」
案の定、何かにぶつかり散歩は中断された。
「いったぁ……」
何にぶつかったのか確認するために広げていた闇を薄くし、光をとりれる。
すると、闇の向こう側に見えたのは大きな木であった。
周囲を見渡すと里の近くまで来ていたことが判る。
里を眺めると、普段見ないものが視界に飛び込んできた。
赤に、緑に白。
それは、色とりどりの装飾だった。
「なんだろ……?」
不思議に思ったルーミアは里の様子を伺うことにした。
里を見れば見るほど、普段とは違っていた。
里の木々には色とりどりな飾り付けがなされ、人々もどこか浮かれていた。
そんな里の様子に妖怪少女は小首を傾げて、不思議そうに見つめる。
「今日って何かのお祭りだったっけ?」
独り言として呟いた疑問。
里の人間達は妖怪を恐れているし、今日はそれ以上に浮かれている。
独り言にわざわざ答えるような暇な人物は……
「今日はクリスマスなのよ」
居た。
まさか答えてくれるとは思わず、驚いたルーミアが振り返ると、そこには傘を手にした女性がいた。
「あ……、紫さん!」
神出鬼没な彼女は何の脈絡もなく現れる。
何度か会っているのでルーミアの驚きは少ない。
それよりもルーミアは聞きなれない単語を聞き返す。
「くりすます?」
「えぇ、外の行事よ。 元々は『神様が人間として産まれてきたこと』を祝うことが本質のお祭りなんだけどね」
「神様が……、人間になったのを祝うの?」
神様の事は霊夢にちらりと聞いた事がある。
簡単に言ってしまえば、徳を与え、信仰される存在が神様である。
「えーっと……、信仰されるような人間の誕生日?」
これに紫は苦笑して答える。
「そういう事。ちなみに、十字架に磔られた聖者の誕生日よ」
「そーなのかー!」
いろいろと納得したルーミアはもう一度里を見渡す。
「そっかー、誕生日かー……」
そこでルーミアはふと気が付き、隣に佇む紫の袖を引っ張る。
「でも……、どうして外の世界の誕生日を祝ってるの?」
「それはね、外から流れ着いた人間や、山に新しく来た子達の影響かしらね」
「そうなんだ……」
そう呟いたルーミアは里の様子をじっとみつめる。
目を輝かせて眺めるその表情は、どこか羨ましそうで、
紫によからぬ事を計画させるのには十分な材料だった。
「ねぇ、クリスマスやってみたい?」
その言葉にルーミアは即座に反応する。
「うん!」
ルーミアは期待に胸膨らませ、目を輝かせる。
紫の目が一瞬、獲物を見つけた猛禽類の様に鋭くなった事に、ルーミアは気が付かなかった。
§ § §
その日、里から離れた神社では、外の行事には我関せずといった感じでいつもと変わりなかった。
「今夜はクリスマスだぜ!」
と勢い良く魔理沙が訪ねてきたが、神社の巫女さんである霊夢は
「宗教が違うでしょ!」
と追い返したばかりだった。
こたつに入り、お茶を啜りながら霊夢は一人愚痴りだす。
「まったく、預言者っていっても結局は神の言葉を直接聞き、それを伝えるってだけでしょ……」
お茶請けの煎餅をバリっと齧りながら、霊夢は続ける。
「だったら巫女と同じじゃない。 それなら私の誕生日を祝いなさいよね……」
どうして外から来る物ばかり持て囃されるのか、その事に霊夢は苛立っていた。
信仰に関しても、山の守矢神社の方が里の評判も高い。
今夜里で祝っているクリスマスとやらも、そのうち外から流れてきた人達が宗教活動の一環にしてしまうかもしれない。
そうなっては幻想郷に3つも宗教が存在するようになり、信仰の少ない博麗神社にとっては最大の危機である。
「うー、お祭りや宴会ならうちの神社だってやってるのに……」
そりゃあ、収穫祭ほど里に直結はしてないけど……
でも、どうして家の神社だけ妖怪が集まるのよ……
「うぅ……っ」
改めて自分の神社と周囲を見比べてみた霊夢はこたつに突っ伏す。
あまりにも空気の沈んだ痛い痛しい空間に、突然陽気な声が響く。
霊夢の背後の空間が裂け、その隙間から突然サンタのコスプレをした紫が現れる。
「はぁい霊夢ちゃーん、メリーぃ、くりすmっんぁぶっ」
が、最後までセリフを言い終わる前に、振り向くことなく正確に退魔針で眉間を打ち込まれた紫は文字通りもんどりうつ。
眉間から血を噴出し、涙目になって紫が抗議する。
「ひどいっ、これは何でもひどすぎるわ!」
しかし、こたつから出た霊夢は一切を無視して紫の前に立つ。
「今の私ね、すっごく気分悪いのよ……、知ってた?」
「……知らない」
霊夢はどこからとも無く御祓い棒を取り出す。
……完全な八つ当たりである。
のっけから調伏する気満々である事に、さすがの紫も焦る。
「ちょ、ちょーっと待ってくれる?」
「……なによ?」
紫はサンタに付き物である巨大な袋を隙間から取り出す。
「今日はね、霊夢にプレゼントを持ってきたのよ」
プレゼント、と聞いて霊夢は呆気にとられる。
「……へ?」
「何を怒ってるのかは知らないけれど、霊夢にゆかりんサンタからのプレゼントよ♪」
紫はそう言うなり、プレゼントの入った袋を置いて隙間に逃げ込む。
「あ、こらっ……、行っちゃったか……」
怒りのやり場を失った霊夢はイライラしたまま残された袋に目をやる。
「あの紫が私にプレゼント……?」
居て欲しいときに現れず、居て欲しくない時に現れるような奴である。
「まぁ、何か裏があるんでしょうけど……、貰える物は貰っておこうかしら」
結ばれていた袋の口を解くと、袋の口が四方に広がる。
袋だと思っていたものは風呂敷だったのだ。
そして、風呂敷に包まれていたのは……
「何これ……、靴、かしら?」
蓋をされた、赤い長靴のような作り物。
「そういえば靴にプレゼントを入れるって風習って聞いたわ……」
先ほどの怒りもどこへやら。
「さーて、中身は何かしら?」
プレゼントの中身が気になって仕方が無い霊夢は蓋を開ける。
ワクワクして中を見ると、そこには……
「…………えへ♪」
靴の中には、ほにゃっと笑顔を見せるルーミアがひょっこりと顔を出す。
「は……?」
プレゼントと聞いて、食べ物かお酒か便利な道具かと思っていた霊夢は完全に呆気にとられて放心していた。
「んふふ、どうかしら? これ以上のプレゼントは無いと思うけれど」
と舞い戻ってきたのか、それとも今まで見ていたのか、隙間から紫が顔を出し、ふふんと鼻を鳴らす。
正気に戻った霊夢は呆れ果てて怒るタイミングを失ってしまった。
「あ、あんたねぇ……、ルーミアになにやらせてるのよ……」
霊夢は大きく溜息を吐いて気持ちを切り替える。
「ほら、あんたもそこから出てきなさい」
「う、うん……」
大きな靴から出ようと縁に手をついて体重を掛けた所で、大きくバランスを崩して、ルーミアの入っていた靴が傾く。
「あっ、あわっ、あわわっ」
べしゃり、と倒れた靴の中からルーミアは投げ出される。
「ぁうぅ……」
「!?」
呻くルーミアの姿を目にして霊夢は硬直する。
何せルーミアは、全身に可愛らしいリボンでラッピングされていたのだ。
ただリボンが巻かれているのであれば別に良かったのだが、何故か着衣はリボンだけ。
つまり、ほぼ全裸。
硬直から瞬く間に復活した霊夢は紫に掴み掛かる。
「ゆ、紫っ、あんたルーミアになんて格好させるのよ……ッ」
顔を真っ赤にした霊夢にガクガクと揺さぶられながらも紫は丁寧に答えてゆく。
「クリスマスしてみたいって言うからそれを叶えてあげたのよ」
「だからって、なんで全裸にリボン巻いてるのよ!」
「だってー、プレゼントっていったらやっぱりラッピングしなきゃ、ねぇ」
それに、可愛いでしょ?
と紫はどこまでも不敵に、ニヤニヤと笑みを浮かべる。
「そういう問題じゃないでしょ!」
怒り心頭な霊夢だったが、不意にルーミアに袖を引かれて我に返る。
「ど、どうしたの?」
「れいむ、寒いよぉ……」
そこで霊夢はようやく気が付く。
たとえ部屋の中であっても、ほぼ全裸では寒くて当然だ。
紫を締め上げる前にルーミアに服を着せるのが優先だった。
「あぁ、ごめんねルーミア……、ほら、こっちいらっしゃい」
紫への怒りも忘れて、霊夢はルーミアの肩を抱いて部屋を出ていった。
すぐ隣が寝室である。
霊夢は風邪を引く前にルーミアを寝巻きに着替えさせ、寝かすのだろう。
一人部屋に残った紫はしてやったりといった表情でクスクスと笑う。
霊夢をからかい、怒らせ、それを回避する。
全てが彼女の思惑通りに行っていた。
紫は隙間を開いてその中に身を滑り込ませる。
立ち去る前に、もう一度、襖を眺めて、一人呟く。
「うふふ、そして若い二人は聖夜を性夜として過ごすのdっしぶっ」
またもやセリフを言い終わる前に、眉間から血を噴出した紫は隙間の奥へと転げ落ちる。
襖のほんのわずかな隙間を縫って飛来した退魔針が紫の眉間を打ち抜いたのは言うまでも無い。
あなたが書かれるルーミアと霊夢は可愛いくて仕方がないです。
それはそうと、コロッと騙される純真なルーミアが良いですね。
ルーミアが長靴からひょこっと笑顔を覗かせた場面には、思わずキュンとなりました・・・。
出せるものなら出したい気分です、鼻血。
ほのぼので甘くて、ちょっぴりギャグで。
大満足です。
ところでこのルーミアは巫女においしくいただかれたのでしょうか
ニヤニヤが止まりません
EXAM氏のルーミアは可愛くて可愛くて頬が緩みます。
クリスマスに全然関心が無い霊夢がプレゼントに反応するのも子供らしくて良いな。
穏やかで温かい空間。いつまでも浸って居たくなるようなお話ですね。
メリーに反応してしまった・・・
少年は今~。
魔理沙「霧雨流星拳!!!」
霊夢「博麗昇竜覇!!!」
紫「うわああーーーーーーーー!!!!」