「ゆっきゆっき降れ降れ~もっと降れ~♪」
12月24日・天気 雪
外の世界ではクリスマスイヴに該当する今日も、幻想郷では普通の一日。
その冬としては当たり前の寒空を、冬の妖怪、レティ・ホワイトロックが楽しそうに飛行する。
「ん~………やっと私の季節、いや、時代が来たわ!!」
寒空を優雅に旋回しながら叫ぶレティ。
冬以外の季節は眠っているだけあって、冬になるとそれまでの鬱憤を晴らすように活発になる。
活発になりすぎて、偶に幻想郷が大変な事になりそうになったりする。
そうなると、巫女辺りに退治される。
が、暫くすると復活してまた活動を始める。
まぁ、一年の4分の1しか活動できないのだから、その間くらい本人も派手に暴れたい事だろう。
しかして、それでも寒さを苦手とする者には厄介な存在な訳で………
チュドーンッ!!
「ふぎゃっ!!」
レティは突然の襲撃を食らった。
「な、何事!?」
驚いて辺りを見回すレティ。
そこには
「ま~た~お~ま~え~かぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
鬼の様な形相をした紅白の巫女、博麗霊夢が居た。
「げ!?鬼巫女!!」
「誰が鬼巫女よ!!」
「あんたよあんた!!今の顔鏡で見てみなさい!!」
確かに、レティの言うとおり今の霊夢の形相は凄い。
「だまらっしゃい!!あんたの所為で雪まで降ってきたじゃないの!!」
「知らないわよ!!冬なんだから雪ぐらい降っても変じゃないでしょう!!」
「うっさいわね!!雪降ると寒いのが更に寒くなるじゃないの!!」
「風情があって良いじゃないの!冬独特の景色なんだから楽しみなさいよね!!」
「あんたが寒気を操って雪を降らせてるんでしょうが!!」
「これは違うわよ!普通の自然現象!!大体、寒いなら上着なさいよね!!!」
レティの言い分も尤もである。
何故なら、霊夢は何時もの巫女服にマフラーをつけているだけである。
そりゃ、寒い。
「そんな金など無い!!!」
きっぱりと言い切る霊夢に、レティはちょっとだけ目頭が熱くなった。
そして、ちょっとだけ寒気抑えてあげても良いかな?と思ってもいた。
まぁ、冬にちょっとくらい寒気抑えた程度で巫女服一丁で過ごせるとは思わないが。
「そう言うわけだから…………」
「げ!?ちょ、ちょっと!!!」
霊夢の霊力が上昇していくのを感じ、レティは後ずさる。
「夢想封印!!!」
「あんまりよぉぉぉぉぉぉ!!!」
哀れ、冬の妖怪は巫女の八つ当たりにより撃沈させられてしまった。
レティ・ホワイトロック……彼女の時代は3分で終了した。
マヨヒガ
「うぅ………寒いわねぇ…………」
境界の妖怪、八雲紫が境界から出てきた。
「あ、紫様、やはり起きられましたか」
紫の式、八雲藍はそれを見てお茶の用意をする。
因みに、橙は里の方に遊びに行っている。
「冬眠中でもお祭りの時は起きるわよ」
密かに、紫はお祭り事のある日は冬眠から目覚めていたりした。
「今日は外の世界ではクリスマス、でしたね」
藍が紫にお茶を出しながら言う。
「正確にはイヴ、だけどね」
出されたお茶を啜りながら紫が応える。
「では、今年も例年通りに?」
「ええ、お願いね」
「畏まりました」
何時の頃からかは定かではないが、ここマヨヒガでは、外の世界と同じようにクリスマスを楽しんでいた。
「さて、今年の橙のプレゼント、どうしようかしら?」
「聞いてみましたが、食べた事も無い美味しい魚が食べたいと言ってましたよ」
紫の呟きに藍が困ったように笑いながら答える。
「生ものか…………」
「橙が起きる間際に冷凍した外の魚でも置いておきましょうか」
「そうね。それにしても、靴下に冷凍魚ってシュールよねぇ………」
「まぁ、現代の外の子供たちが見たら泣くかも知れませんね」
「泣くでしょうね。生臭さとガッカリ感で」
ズズーッとお茶を啜りながら紫は言う。
「さて………私は外の世界の魚は用意出来ませんので…………」
「皆まで言わなくても解ってるわよ。任せておきなさい」
「はい。申し訳御座いません」
「気にしなくて良いわ。こっちも好きでやってる事だしね」
クリスマスの夜にそわそわしながら「サンタクロース」の存在を信じて、一目会おうと中々寝ようとしない橙を見て。
そして、朝起きた時に何時の間にか置かれているプレゼントを見て喜ぶ橙を見て、紫も藍もその様子を微笑みながら毎年楽しんでいるのだった。
「じゃあ、マグロでも用意してあげましょうかしら」
「マグロですか……捌くのが大変ですねぇ………」
そう言いつつも、藍の顔は喜ぶ橙の顔を想像して微笑んでいる。
こういう場合は紫が素材を送り、藍が調理をすると言う形で二人からのプレゼントと言う事になっている。
余談だが、橙にはクリスマスとサンタの存在は幻想郷の者達に言う事を固く禁じている。
言った場合は、サンタがプレゼントを持って来ないと言ってある。
まぁ、紫が無駄に外の風習を幻想郷に持ち込みたく無い所為であろう。
「さて、それじゃあパーティーの準備は頼むわよ」
「万事滞りなく」
藍にそう言い付けて、紫は境界を開けて出て行った。
恐らく、プレゼントを手に入れに行ったのだろう。
「さ、準備をしないとな」
そして、藍も準備に取り掛かった。
紅魔館
今日の紅魔館は大童(おおわらわ)だった。
「ほら、そこの装飾歪んでるわよ!しっかり飾りなさい!!」
メイド長、十六夜咲夜がメイド妖精達に指示を送る。
「その机は向こう!!椅子は後にしなさい!先に机を設置して!!」
この時ばかりはメイド妖精も真面目に働く。
何故か?
この後に楽しいパーティーが待ってるから。
目的があれば、妖精もしっかりと働くのだった。
それ故に、何時もの仕事は、仕事したからと言って何かあるわけではないので真面目に働かないのだ。
しかし、それであってもパーティーの準備は忙しい。
故に、今日限定で臨時に妖精を多めに雇っている。
報酬はパーティーの参加で。
「修羅場ね、咲夜」
「あら、パチュリー様。あっ!その装飾はそっち!その机は向こうよ!!」
準備中の会場にやって来たパチュリーに咲夜は挨拶しつつも指示を止めない。
紅魔館は、この幻想郷の中でマヨヒガを除いてクリスマスを知る唯一、否、二つの集団の内の一つだった。
知ってる理由は、今やって来たパチュリー・ノーレッジの管理する大図書館に外の書物が入ってくるから。
その書物に、今の外のクリスマスの事が書かれている書籍が転がり込んできたのが始まりだ。
無論、パチュリーはクリスマスの起源ぐらいは知っている。
が、どうせ外でもそんなのは気にしていない、ただのお祭りの一貫になっているので、ここでもそうするようにした。
それでも、レミリアにも正しい意味でのクリスマスのなんたるかは教えてある。
レミリアは悪魔で、このクリスマスは本来は聖人の誕生を祝う行事。
場合によってはレミリアを不快にするからだ。
が、レミリアは「最早外でお祭りの一貫になってるならそっちで楽しみましょう」と、あっさりと受け入れた。
要は、楽しめれば良いようだ。
余談だが、幻想郷にクリスマスの事がそんなに広まっていないのは、働いている妖精達が特にクリスマスと意識せず、今日は紅魔館では特別な日、程度にしか認識していないからだ。
「窓際!装飾薄いわよ!!なにやってんの!!」
「メイド長!キャンドルが倒れて火が!!」
「消火作業急げ!!」
わーきゃーわーきゃーと、修羅場はますます激しくなっていく。
「やりたい事あるから、勝手にやらせてもらうわよ」
「はい、こちらは手が離せませんので、お手伝いは出来ませんが…………料理班!そろそろ料理を始めなさい!!」
その後も会場では怒号が飛びまくっていた。
博麗神社
夕方になり、日も暮れてきた。
「雪だから夕暮れは見えんが、暗くなってきたな」
「ええ、早くなって来たわね」
縁側でお茶を啜りながら霊夢が呟く。
隣に居るのは、言わずもがな、黒と白の魔法使いの霧雨魔理沙だ。
因みに、霊夢は布団で体を覆っている。
流石に、上着は無くても室内なら防寒する術はあるようだ。
「しかし、今日はえらく冷えるな」
「冬の妖怪を退治したんだけどねぇ………やっぱりそれくらいじゃ変わらないか」
解っててやるのだから、結構鬼である。
「お邪魔するわよ~って何て格好してるのよ、霊夢」
突如神社に現れた来訪者。
それはこの季節をとっても、そして来訪者としてもとても珍しい者。
「珍しいわねぇ……あんたがこの季節にウチに来るなんて」
「本当だ。雪でも降るんじゃないか、ってもう降ってるか」
「ああ、だから来たのね」
「随分酷い言い様じゃない?」
「しょうがないじゃない。だってあんたが冬に私の前に来た事なんて一度もなかったでしょ?幽香」
やって来たのはフラワーマスター・風見幽香。
花の妖怪だけに、冬場に活動をしていると聞いた事はめったに無い。
殆ど動かなくなったと言う最近では尚更だ。
「まぁ、確かにこの季節は大人しくしてるのが普通だったけどね」
「一体どういう心境の変化?」
「別に~、なんとなく、よ」
「適当だな」
魔理沙がお茶を啜りながら言う。
「あんたに言われたくないわ」
「それもそうよね」
「いや、霊夢も同類だろう」
「そうね」
魔理沙の言葉に幽香が同意する。
「んじゃ、皆同類じゃない」
呆れたように霊夢が言う。
「人類皆友達」
「あんたは妖怪でしょ」
「冷たいわね~」
「冬だからな」
「そう言う問題?」
「さぁ?」
幽香の言葉に興味なさ気に返す霊夢。
「冷たいと言えば」
「ん?」
幽香の呟きに魔理沙が反応する。
「来る時に冬の妖怪見かけたから、八つ当たりがてら苛めておいたわ」
レティ・ホワイトロック、哀れの極み。
「酷い事するわね」
「いや、霊夢もだろう」
「私は妖怪退治。八つ当たりじゃないわ」
霊夢も多分に八つ当たりな気がする。
「あら?今日は珍しいのが居るわね」
再びの来訪者。
「ん?お前こそここに来るのは珍しいんじゃないのか?アリス」
魔理沙と同じく魔法の森に住む人形遣い、アリス・マーガトロイドだ。
「まぁ、言われてみればそうよね」
「お賽銭なら大歓迎。冷やかしならとっとと帰りなさい」
「貴女も相変わらずねぇ…………」
普通に考えればあんまりな霊夢の対応も、アリスには予測の範疇だったようだ。
「貴女は何の用でここに来たの?」
「それはこちらも聞きたいわ、風見幽香」
「私はなんとなく、よ」
「適当ねぇ………」
「さっきも言われたわ、それ」
「で、お前は何の用なんだ?アリス」
アリスと幽香の会話に魔理沙が割ってはいる。
「別に、大した事じゃなんだけどね………」
アリスは若干言い難そうにしている。
「冷やかしならお断りよ」
そこを霊夢がバッサリと斬る。
「あっそ。ちょっと外の行事に乗じてご馳走とか作ったから招待しようと思ったけど……他を当たるわね」
「さ、早く神社を閉めて行きましょうか」
態度を180度変える巫女。
「現金ねぇ………」
その様子にアリスが半ば呆れる。
半ば、と言う事は、ある程度予測は付いていたのかもしれない。
「それには私も行って良いのか?」
魔理沙が尋ねる。
「ええ、構わないわよ」
「じゃあ、私もお邪魔するわ」
続いて幽香も行こうとする。
「くれぐれも、場をぶち壊す真似をしないでよね。それさえしなければ良いわよ」
アリスが幽香に釘を刺す。
「安心なさい。妖怪は喧騒を好むものだけど、基本的に祭りの邪魔はしないものよ」
「……それもそうね」
アリスも納得するとおり、妖怪は確かに騒動を起こすが、祭りなどを妨害すると言う事はしない。
妖怪にも騒動を起こすのに、ある種の境界線があるのだろう。
「よし!神社は閉めたわ!さぁ、行きましょう!!」
「はやっ」
魔理沙が驚くとおり、霊夢は驚くべき速さで神社を閉め終えていた。
「お金と食べ物が関わると、本当凄いわね、霊夢は」
「誉めても何もでないわよ」
「いや~、誉めてないと思うぜ?」
幽香の言葉に返す霊夢に魔理沙が半ば呆れる。
「それじゃあ行きましょうか。風も少し強くなってきたし、吹雪かれると困るから」
「それもそうね」
アリスの言葉に幽香が頷き、一同はアリス宅へと向かった。
妖怪の山近く・上空
「う……ううぅ…………」
ボロボロになったレティがふらふらと空を飛ぶ。
言わずもがな、霊夢と幽香に八つ当たりをされた為だ。
「なんだって私がこんな目に…………こうなったら寒気の嵐を起こしてやるわ!!」
ヤケになったレティが妖気を溜める。
「リンガリングコールド!!!」
そして辺りの寒気を強めた。
気温はますます下がり、雪が強くなり始めた。
「リンガリングコールド……か。随分風情のある事をする妖怪も居るのね」
突如、レティの背後から声が聞こえた。
「誰!?」
咄嗟にレティは振り向く。
「初めまして。私は守矢神社の巫女、東風谷早苗。貴女が冬の妖怪のレティ・ホワイトロックさんかしら?」
そこにいたのは青と白の巫女服を着た少女、東風谷早苗だった。
「げ!?巫女!?」
つい先程、別の巫女からの襲撃にあったレティは早苗を警戒する。
「ああ、警戒しなくて良いですよ。別に貴女を退治しに来た訳じゃありませんから」
「だったら何でここに居るのよ」
レティは依然警戒を解かない。
「いえ、この辺りで強い霊力と妖力を感じたので来て見ただけです」
「あぁ………あいつ等の、ね」
「まぁ、貴女の姿を見れば大体の事情は察せますが」
強い霊力と妖力、そしてボロボロになったレティ。
大抵の者は何が起きたかを察すれることだろう。
「時に貴女の先ほどのスペルですけど」
「ん?私のスペルがどうかした?」
「貴女のそのリンガリングコールドの、「リンガリング」は「Ring-a-Ring(鈴が鳴る)」なのかしら?」
「違うわよ。私のは「Lingering(長引く)」よ」
余談だが、「LingeringCold」で「長引く冬」と言う意味だ。
「あら?そうだったの。それは残念」
「は?何が?」
「何でもないですよ。こちらの話です」
「まぁいいわ。用が無いなら行くわよ」
「ええ、失礼しました」
そう言って早苗はレティを見送った。
「放って置いて良かったの?早苗」
突如、早苗の後ろに蒼い髪の女性が現れた。
「ええ、既にかなり痛い目に遭わされてるようですから………あれ以上は可哀想じゃないですか?神奈子様」
早苗は後ろを振り向いて、現れた女性、神属の一、八坂神奈子にそう言った。
「ま、確かにね~」
神奈子も早苗の意見に同意する。
「で、リンガリングコールドの何処が風情があったの?」
神奈子は早苗に尋ねた。
「Ring-a-Ringは鈴が鳴る。Coldは寒気。この季節での寒気なら転じて雪空とも解釈できますからね」
「それで?」
「クリスマスの夜にRing-a-Ring-Cold(鈴が鳴り響く雪夜)………ロマンチックだと思いません?」
早苗は神奈子にそう尋ねた。
「まぁ、実際は違ったみたいだけどね」
「ええ。ちょっと残念ですね」
リーン……リーン…………
「あら?」
「鈴の音ね」
小さいが、確かに遠くから鈴の音が響いてくる。
レティの去った方向から。
「案外、あの妖怪が意識していないだけで、Ring-a-Ring-Coldにもなってるのかもしれないわね」
「ええ……そうですね」
早苗と神奈子は音のした方を見ながらそう言う。
「時に早苗」
「はい?」
唐突に神奈子が呼びかける。
「ロマンチックな夜は良いけど、そのロマンチックな夜を過ごす相手はいるの?貴女」
「……………そ、その内出来ますよ」
「居ないのね」
「い、良いじゃないですか!まだ若いんですから!!」
「そう言ってると、あれよあれよと言う内に年を取り、気が付いたら………なんて事になるわよ?」
「んぐ…………」
神奈子に突っ込まれて早苗は口をつぐむ。
「さて、ロマンチックじゃないけど、まぁ、帰ったら楽しいパーティーでもしましょうか」
「そうですね。って、あれ?諏訪子様は?」
早苗は守矢神社に住まうもう一神、洩矢諏訪子の事を尋ねる。
「ああ、雪が降ってきたら布団にうずくまったわ。「あ~う~」とか言って」
「ケロちゃん風雨にも負けず。されど雪には勝てず………か」
「ま、両生類だしね」
「そもそも、霊体化すれば寒さは感じないのでは?」
元々神とは物理的な存在ではなく精神的、霊的な存在。
具現化も出来るが、霊体、つまり物理と干渉しないのが普通である。
よって、霊体なら寒い暑いを感じる事は無い。
「そこは、まぁ…………諏訪子だからじゃない?」
「…………なるほど」
己が崇める神ながらも、なんとなくその言葉に納得してしまう早苗だった。
そして、空を闇が包んでいった。
紅魔館
パーティー会場の準備も無事に終わり、今は館内の者全員でパーティーを楽しんでいた。
「場も盛り上がってきたし、そろそろ何か欲しいわね」
紅魔館の主であるレミリア・スカーレットが呟く。
因みに、レミリアのテーブルには他に、フラン、咲夜、美鈴、パチュリー、小悪魔が一緒に座っている。
「それでは、僭越ながら私めが一芸披露して参ります」
その呟きに咲夜が名乗り出た。
「何?また手品?貴女の場合時間停止あるから、あまり驚けないわよ?」
レミリアは釘を刺した。
確かに、時間停止の出来る咲夜はある意味大抵の手品を出来てしまう。
最初見るときは驚くものだが、彼女が時間停止できると知ってしまうと、さほど驚けなくなる。
魔法を使えるものが魔法を使って見せても、その派手さ以外では驚かせられないのと同じだ。
魔法使いが魔法を使って驚く物は居まい。
「はい、心得ております。ですから、今回は少々趣向を変えてみました」
が、その辺りは咲夜も解っているらしい。
流石、完全にして瀟洒な従者。
「へぇ、それは楽しみね」
レミリアが薄く笑う。
「ご期待に添えて見せますわ。美鈴。手伝って頂戴」
「へ?私ですか?」
久々のご馳走を掻き込んでいた美鈴に突如指名が来た。
「ええ、一緒に来て頂戴。大丈夫、貴女は何もする必要はないわ」
「解りました~」
基本的に断る事の無い美鈴。
今回もあっさりと承諾した。
そして、咲夜が美鈴を連れて会場の前方にあるステージに上がる。
会場に居る者達も、そこに注目する。
「それでは、盛り上がってきました所で、私、メイド長咲夜による芸を披露させていただきます」
そう言って礼をする咲夜。
会場中から歓声と拍手があがる。
「じゃあ、美鈴。そこの板を背に立って頂戴」
ステージ上には何時の間にか一枚の厚めの板が置かれていた。
美鈴はそれを見て咲夜のしようとしている事を察する。
「解りました~」
そして板を背に立つ。
「ああ、板にくっついて十字架をかたどるように両手を横に上げて」
咲夜の指示されたとおりに美鈴は手を横に上げる。
ガシャンッ!!
「へ?」
と、突然木の板から手錠のような物が飛び出し、美鈴の手足をロックする。
「な、何ですか!?これ!!」
「今日の為にパチュリー様に作っていただいた拘束用の板よ」
「パチェ、何時の間にあんな物を?」
テーブルに居るレミリアがパチュリーに尋ねた。
「暇を見てコツコツと、よ」
紅茶を啜りながら事も無げに返すパチュリー。
「大丈夫よ、美鈴。動くと危険だから動けないようにしただけだから」
「そ、そうなんですか?」
「あら?貴女は私のナイフ投げの腕を信用していないの?」
やはり、美鈴の予想通りナイフ投げだったようだ。
「いや、それは信用してますけど………」
「それじゃあ、行くわよ」
そう言って咲夜がナイフを取り出す。
因みに、咲夜と美鈴の立ち位置は、ステージを正面から捉えて斜めに向き合っている。
真横だとナイフが板に刺さった時に美鈴の体に隠れて見えず、正面だとステージ正面に居る主賓のレミリアに見えないからだ。
そして、咲夜はナイフを投げ始める。
トスッ……トスッ……トスッ………
流石にナイフ投げの名手。
美鈴の衣服、あるいは肌ギリギリの所に刺さっている。
美鈴も咲夜のナイフの腕は信用しているので、あまり緊張はしていない。
が、咲夜のナイフは特殊加工しており、美鈴の気功防御をあっさりと切り裂く。
故、当たってしまった場合は大怪我確実だ。
10本ほど投げたところでレミリアは飽き始めた。
他の者は手に汗握る、といった状態だが、動体視力の良すぎるレミリアには大して面白いと感じない。
ほぼ投げた瞬間に当たらない事が解ってしまっているのだ。
「私の声が聞こえるかしら、美鈴」
突如、咲夜が美鈴に話しかけた。
「え?あ、はい」
あわてて返事をする美鈴。
「聞こえているのなら貴女の体の不幸を呪いなさい」
「はい?」
行き成り不可解な事を言う咲夜に美鈴は戸惑う。
「あなたは優秀な門番だったわ………でも……………」
殺人ドール
「全ては貴女のその胸が悪いのよ」
咲夜の背後に無数のナイフが展開された。
「ちょっ!?マジですか!?謀りましたね!?咲夜さん!!!」
そして、美鈴の叫びと共に無数のナイフが一斉に襲い掛かる。
一本と違わず、美鈴の体目掛けて。
「咲夜ぁ!?」
流石にレミリアも驚く。
「きゃあぁぁぁぁぁ!!!紅魔館に栄光あれぇぇぇぇぇぇ!!!」
美鈴は悲鳴を上げて叫ぶ。
同時に会場にも悲鳴が上がる。
ズドドドドドドドドスッ!!!!
ナイフが全て突き刺さった。
一本残らず。
「あ~………ちょっと本気で怖かったですよ?」
美鈴にではなく、板の方へ。
同時に美鈴の手錠が解除された。
そして、咲夜と美鈴がステージの中央に立ち、同時に礼をする。
美鈴は普通に、咲夜はカーテンコールのように、スカートの裾を軽く持ち上げて恭しく。
会場に再び拍手と歓声が上がる。
そして、二人は席に着く。
「どうでしょう?お楽しみいただけましたか?」
戻ってきて咲夜がレミリアに尋ねる。
「面白かったよ~咲夜!!」
レミリアより先にフランが答えた。
「楽しんでいただけて何よりです、妹様」
咲夜はフランに笑顔を向けてそう言う。
「最初は退屈だったけどね、最後のは驚いたわ。何?時間止めたの?」
「ええ、当たる少し手前で時間を止めて全ナイフの軌道を逸らしました」
「あんまり迫真の演技だったから解らなかったわ」
「それは良う御座いました」
レミリアを満足させられた事で咲夜も満足したようだ。
「ふ……これは私も負けてられないわね」
そう言ってパチュリーが席を立った。
「あら?パチェも何かやるの?」
「ええ、あっと驚く事をやって見せるわ。小悪魔、行くわよ」
「はい!パチュリー様!」
パチュリーは小悪魔を伴ってステージへと上がった。
今度はパチュリーがステージ上に姿を現したことで、再び会場が期待にざわめく。
「それでは、二番手は私、パチュリー・ノーレッジが行くわ」
壇上でそう言うパチュリーに歓声と拍手が上がる。
「さて、既に準備の方は出来てるのよね」
パチュリーはそう言った。
「それじゃ、始めますね~」
「ええ、お願いね。小悪魔」
小悪魔は何やらブツブツと呟き始めた。
「それでは、これから私がお見せするのは召喚術」
再び会場がざわつく。
今度は期待と不安で、だ。
そして、パチュリーの横の床に魔法陣が浮かび上がる。
先ほど会場を訪れた時に仕込んだのだろう。
「呼び出す者は、今日この日にちなんでサンタクロース………」
「え?居るの!?」
レミリアがその言葉に反応し期待のまなざしを向ける。
「本当に!?」
フランもサンタの事は聞いているのだろう、同じように期待の眼差しを向ける。
「の「サンタ」と掛けて「サタン」召喚」
「パチェェェェェェェェェェ!?!?」
レミリアが悲鳴に近い声を上げる。
当たり前だ。
悪魔達の頂点に立つ魔王・サタン。
そんな者を召喚したらどうなる事か…………
手に余る事請け合いだ。
ついでに幻想郷どころか外の世界だって洒落にならない事になる。
「それじゃ、いっきま~す」
まったく緊張感の無い小悪魔の声が響き、召喚が行われる。
「ちょっ!待ちなさい!!」
レミリアが制止の声を上げるが、遅い。
ズドーンッ!!!
凄い振動と共に、何かが召喚された気配がある。
因みに、魔法陣上は煙で覆われて何がいるか把握できない。
「あ、あれ?」
レミリアは拍子抜けしていた。
万が一、億が一、魔王を本当に召喚したのなら、いつでも対応出来るようにしていたのだが、感じる気配は軟弱だった。
「うお!?ぶほっ!ぶほっ!!な、何が起きた!?」
魔法陣の煙の中から野太い男の声が聞こえる。
「ちょっと、小悪魔」
パチュリーが小悪魔をジト目で睨む。
「てへっ☆失敗しちゃいました☆」
小悪魔は可愛らしく目をつぶって舌を出しながらそう言う。
詠唱失敗。
目的の者とは別の者が呼び出されたようだ。
「む!?誰かそこに居るな!?何者かは知らんが成敗してくれる!!ダイナマイトキーック!!」
「火符・アグニシャイン」
「ぐわぁ!!!」
召喚された何者かが行動を起こそうとしたが、パチュリーにより即潰された。
「あぁ、もう。台無しじゃない」
「いや、そうは言われましても召喚の詠唱と言うのは長いわけでして、その上外の世界の者をこちらに呼び寄せるとなるとその詠唱の繁雑さは著しく上がる次第で、ちょっとくらい詠唱を間違えても仕方のない事かと。ああ、でも召喚で詠唱を間違えるってかなり危ないんですよね。ダメですよ、パチュリー様、そんな事を私に任せちゃ。ほら、私ってうっかりしてるじゃないですか。って自分で言ってどうするんですかね?いやいやいや、別に私に責任が無いとか言うんじゃなくて、ちょっと荷が重かったんじゃないかと思ったりなんかして…………」
小悪魔お得意のマシンガントークが炸裂する。
「まぁ、良いわ。なら別の物を披露しましょう」
やはりそこは慣れなのか、小悪魔のマシンガントークをあっさりと流すパチュリー。
「まだ何かあるんでしょうか?」
咲夜がレミリアに問いかける。
「さぁ?取り敢えず、心臓に悪いのはもう勘弁して欲しいわ」
流石に、レミリアとて悪魔王とは事を構えたくないようだ。
「さて、それじゃあ次の…………ぐふっ!!」
突如、パチュリーが吐血して倒れた。
「パ、パチェ!?」
「パチュリー様!!」
レミリアと咲夜がガタンッ!と席を立つ。
流石に場内からも悲鳴が上がる。
次の瞬間。
「TO・MA・TO」
むくっと上半身を起こしてそう言うパチュリー。
「紛らわしいわっ!!!」
流石に突っ込まずには居られないレミリア。
場内も安堵の溜息が漏れる。
「う~ん………ウケがイマイチね」
「いや~、流石にあれはウケるよりも引かれますよ?」
小悪魔が的確な突込みを入れる。
「そう、残念だわ」
さして残念そうには見えないが、そう言いつつパチュリーはステージを降りた。
「あまり心臓に悪い事は止めてくれないかしら?パチェ」
席に戻ってきたパチュリーにレミリアは言う。
「盛り上げようと思ったんだけどね………失敗したわ」
「そう言えば、召喚した者はどうしたんですか?」
美鈴がパチュリーに尋ねる。
「ああ、アグニシャインをぶつけると同時に強制送還しておいたわ。鬱陶しそうな気がしたから」
「同感ね。私ももう少しでグングニル投げるところだったもの」
「奇遇ですわ、お嬢様。私ももう少しでナイフを投げるところでしたわ」
「私も~。もう少しでレヴァンテインする所だったよ~」
「それは危なすぎですよ、妹様………」
美鈴が控えめに突っ込む。
確かに、レヴァンテインを振り回されたら洒落にならない。
「それにしても何だったのかしらね?ヤケに神経を逆撫でする様な存在な気がしたけど………」
レミリアが呟く。
「さぁ?見ない方が良かったと思うわよ。見たら会場が酷い事になってたかも」
パチュリーがそれに答える。
「時にパチュリー様。本当にサタンを召喚しようとしたんですか?」
咲夜がパチュリーに尋ねた。
「まさか。いくらなんでも呼べる訳無いじゃない。まぁ、幻想郷全土を生贄にささげれば可能かもしれないけどね」
物騒な事をサラッと言うパチュリー。
「ま、それ自体無理だし、なにより本気で呼ぼうとしたらその前にスキマに殺されるわよ、私が」
パチュリーも流石にそう言う事は解っているようだ。
「じゃあ、何呼ぼうとしたの?」
レミリアが問いかける。
「本当はトナカイを召喚して、それと同時に小悪魔と私をサンタの衣装に着替える事を計画してたんだけど、ね」
そう言って再びジト目で小悪魔を見るパチュリー。
「いやいやいや、そんな目で見られましても失敗してしまったものはどうしようもない訳でして、何より私としてもパチュリー様のミニスカサンタの衣装を見れなかったのは思いっきり悔やんでますし、ああ、この機会にパチュリー様の魅力を知れ渡せようとする私の野望が潰えてしまいました。いやいやいや、まだまだチャンスはありますからね、今度はもっと入念に仕込みをして確実なる計画を…………」
「ちょっとお待ちなさい。貴女、そんなの用意してたの?」
パチュリーが小悪魔のマシンガントークから聞き捨てなら無い単語を拾って聞き返す
「当然じゃないですか!好い加減パチュリー様の魅力という物を世に知らしめませんと!!ほら、そんな服着てたら解らないかもしれませんが、パチュリー様ってば着やせしてますから、中に隠れてる豊満な………」
「ストップ。そこで止めなさい」
パチュリーは小悪魔の口を手で押さえる。
「ん、んむ~!!」
小悪魔は抗議をしようとするが、口は開かない。
「速すぎて何言ってるか解らなかったけど………まぁ、あまり物騒な事はしないでよね」
レミリアがパチュリーに釘を刺す。
「ええ、善処するわ」
(善処するという事は、止める訳ではない、という事ですわね………)
いずれ起きる問題ごと、そしてその後片付け役を任される咲夜は溜息を吐いた。
ともあれ、その後も妖精たちによる様々な出し物が続き、紅魔館のパーティーは盛況だった。
永遠亭
「まったく何だってこんな事に…………」
永遠亭の廊下を歩きながら妹紅は呟く。
「だから言っただろう。今日行くのは止めろと」
その隣で慧音が妹紅の呟きに答える。
「いや、だってあんなに吹雪くと思わないじゃん」
「現に吹雪いているだろうが」
竹林の外は吹雪が舞っていた。
いや、竹林の外だけではない。
今や幻想郷全体が吹雪に覆われていた。
「言っただろう。今日の急激な気温の低下には冬の妖怪が関わっている可能性があると」
「妖怪一人でこんなに出来るもんかね?」
「冬の妖怪個人の力なら無理だな。だが、自然の力を借りた時の奴の力は途方も無いんだぞ」
何せ、普通の生き物では太刀打ちできない「自然」そのものの力を借りる。
借りる、とは言え、その力は圧倒的なものだ。
無論、借りる以上貸す側の自然の状態に左右されて力もその分上下するのだが。
今日は朝からかなり冷え込んでいた為、冬の妖怪の寒気を操る力が相当に強化されたようだ。
そして、霊夢と幽香に八つ当たりをされた冬の妖怪レティは、これまた八つ当たりに要領で寒気を強めた。
結果、幻想郷全土が吹雪きに見舞われる事となった。
つまり、今日のこの現象の原因は霊夢と幽香と言えなくも無い。
その運の悪い日に、妹紅と慧音は何時ものように輝夜や永琳との戦いに来ていた。
正確には、妹紅が戦いに赴き、慧音は見届け人として随伴していた。
以前のように竹林や周りに被害が出る前に止める為も含めて。
しかし、慧音は先ほど言ったとおり、今日は天候が悪化する恐れがあるので止める様に妹紅に進言した。
が、妹紅はそれに耳を貸さず竹林へと向かい、そして吹雪に襲われた。
結果、近かった永遠亭へと逃げ込む事へとなった。
輝夜も輝夜で永遠亭内で暴れない事を条件に二人を迎え入れた。
「ん?」
「何だ?」
話しながら歩いていた二人が廊下の角を曲がると、そこには何故かダンボールが置いてあった。
廊下のど真ん中に、これでもかと言うほど不自然に、だ。
「何でこんな所にダンボール?」
「知らん」
「中に何か居るのか?」
妹紅がダンボールを持ち上げた。
すると
「……………………………」
中には蹲っている妖怪兎(獣型)が居た。
「なぁ、慧音。これなんだと思う?」
「私に聞くな」
二人の声に反応してか、妖怪兎が顔を上げる。
「バ、バレた!?」
「いや、何が?」
妖怪兎の言葉に妹紅が聞き返す。
「く………もはやここまでか?」
「いや、だから何が?」
妹紅が呆れて聞き返す。
その時
グゥ~ッ
妖怪兎のお腹が鳴った。
「うぬぅ………食欲を持て余す」
「何だ?腹が減ってるのか?だったらこれでも食っておけ」
そう言って妹紅は何処からか人参を取り出し、妖怪兎に渡す。
「む?有難い」
妖怪兎はそれを受け取ると、おもむろにかじり始めた。
「所詮は獣……か。まぁいいや。行こう、慧音」
「そうだな」
二人は良く解らない妖怪兎を無視して先に進む事にした。
そして、少しして鈴仙の姿が見えた。
「来たわね、こっちよ」
そう言って鈴仙は直ぐ側の部屋の襖を開ける。
「漸く来たわね、待ちくたびれたわよ」
そこには机を囲んで座っている輝夜、永琳、そしててゐの姿があった。
「鍋?」
そして、その机の上には土鍋が置かれていた。
「ええ、こう寒いと鍋を突付きたくならない?」
「同感だな」
妹紅が輝夜の言葉に同意する。
「ふむ………色々な意味で邪魔をしてしまったようだな」
慧音がそう言う。
「あら、気にしなくて良いわよ。鍋は人数多い方が楽しいもの」
が、輝夜は気にもせずに言う。
「お?私達も食べて良いのか?」
妹紅が各屋に尋ねる。
「ま、折角だしね。妙な事しなきゃ別に良いわよ」
「飯にありつけるなら大人しくしてるさ」
「現金ね。まるで巫女みたいよ?」
永琳が妹紅の言葉にそう返す。
「霊夢と一緒にされるのはなぁ………」
妹紅が若干嫌そうな顔をする。
「なら……って、妹紅。貴女その人参どうしたの?」
永琳が妹紅のもんぺのポケットからはみ出している人参を見て言う。
「あ、これ?なんか置いてあったから貰っておいた」
「妹紅。人の家の物を勝手に取るな」
慧音が妹紅を叱り付ける。
「まぁ、貴女なら死なないから良いけど」
「は?」
永琳の呟きに妹紅が呆けて聞き返す。
「それ、毒入りなのよ。無味無臭の。鼻の良い獣でも引っ掛かるかテストをする為に置いてあったんだけど………」
恐るべし永琳。
薬の試験のためなら部下とも言える妖怪兎にも容赦なし。
「なぁ、妹紅。その人参ってもしかして…………」
慧音が続きを言いかけた時………
「どうしたんだ、スネーク?応答しろスネーク!!スネェェェェェェクッ!!!」
近くから叫び声が聞こえてきた。
「………一応聞くけど、妹紅。貴女その人参………」
「なんか腹が減ってるって言う兎が居たからあげたぞ」
「うどんげ、解毒薬持って言ってあげて頂戴」
「解りました」
すぐさま永琳は鈴仙に命令を飛ばす。
「ああ、それから毒の反応結果もまとめておいて頂戴」
そして、そう言うこともしっかりと忘れないSDE(スーパードクター永琳)だった。
「それじゃあイナバが戻ってくる前に始めましょうか」
鈴仙が出て行った所で輝夜がそう言う。
「ま、待ってやらないのか?」
慧音が尋ねる。
「何言ってるの。ただでさえ取り分減っているのにこれ以上減らされたら敵わないわ」
「鈴仙………」
慧音は心で涙した。
が、自分達は突然の客人故、強く言う事は出来ない。
「ねぇねぇ、早く始めようよ」
てゐも急かす。
「そうね、それじゃあ始めましょうか」
そう言って永琳が鍋の蓋を取り、食事が始まった。
因みに言うまでも無く、入っている肉は鶏肉だった事を追記しておく。
アリス宅
アリスの家はまるで外の世界のそれの様に装飾がなされていた。
「しっかし、また随分と凝った装飾だな」
用意されたご馳走を食べながら魔理沙が呟く。
「まぁ、折角だから出来るだけ文献の物に似せようとしただけよ」
アリスはそう答える。
「それにしても、外。吹雪いてるわね」
霊夢が食べつつ窓の外を見ながら言う。
「そうね………冬の妖怪、大張り切りって所ね」
「張り切りすぎよ。これじゃ帰れないじゃない」
アリスの返答に幽香が零す。
「お前らがイジメたから腹いせに暴れてるんじゃないのか?」
魔理沙があてずっぽうに、しかし、まさに正解を答える。
「失礼ね。先に寒さで私の機嫌を損ねたのは向こうよ」
「右に同じ」
が、霊夢と幽香はどこまでも傍若無人だった。
冬が寒いのは当たり前であろうに。
「冬の妖怪も災難ね………」
「だな」
アリスと魔理沙がレティに同情する。
「まぁ、こんな天気じゃ帰れないでしょうから貴女達、今日は泊まって行きなさいよ」
「ええ、そうするわ」
「だな」
「まぁ、確かにこれじゃ帰れないものね。花畑までも遠いし」
そうして3人はアリスの家に泊まっていく事になった。
マヨヒガ
「メリ~クリスマ~ス!」
「メリ~クリスマース!」
マヨヒガでもクリスマスパーティーは始まっていた。
このパーティーには毎回必ず妖夢と幽々子を招いていた。
内輪だけでは少々寂しいからという理由もある。
始まって間もないが、紫と幽々子は既に出来上がっているあたり、かなり盛り上がってるようだ。
「ほらほら、妖夢と藍ももっと飲みなさい」
紫が妖夢と藍に酒を勧める。
「私は後片付けが残ってますから」
「私も幽々子様を送らねばなりませんから」
「何言ってるの~妖夢ぅ。今日はここに泊まっていくに決まってるじゃな~い」
「ダメですよ、幽々子様。きちんと白玉楼にむむぅ!?」
「ほれほれ~飲め飲め飲め~」
喋ってる途中で妖夢は紫に酒を突っ込まれた。
「ゆ、紫様!!」
藍が叫ぶが、解き既に遅し。
酒は妖夢の喉の奥へと流し込まれた。
「っぶはぁ!!何するんですか!紫様!!」
「ダメじゃない、妖夢~お祭りは楽しまないと~」
「無理に酒を捻じ込まにゃいでくらひゃいよ………」
早くもろれつが回らなくなって来ている妖夢。
「ほらほら、橙も飲みなさい」
そう言って紫は橙に酒を注ぐ。
「紫様!!!」
溜まらず、藍が叫ぶ。
「隙あり!!」
「むぐぅ!?」
一瞬気を取られたその隙に、藍は幽々子に酒を捻じ込まれた。
「あはははは~藍もまだまだ甘いわね~」
「修行が足りんぞ修行が~」
幽々子と紫の二人にからかわれる藍。
「っぐ………!!酒は無理に飲ませるものでは………」
「じゃあ、ここらで一発芸いっきま~す!」
藍の言葉など欠片ほども聴かず、幽々子は叫ぶ。
「ピーピー!」
紫が口笛を鳴らす。
「それじゃあ1番、西行寺幽々子!脱っぎま~す!!」
「幽々子しゃまぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ろれつは回らなくてもまだ意識は幾分残ってるようで、妖夢は必死に幽々子を止める。
「あらあら、それじゃあ題目変えて…………1番、西行寺幽々子!妖夢を脱がせま~す!!」
「ひゃい!?」
「やれやれ~!!」
驚く妖夢に煽る紫。
「ほれほれ~」
「ひゃ、ひゃめてくらしゃいよ!幽々子しゃま!!」
必死に抵抗するが、既に結構酒が回っているので抵抗は弱い。
「良いではないか、良いではないか~♪」
そして、楽しそうに脱がす幽々子。
「幽々子様、その辺りで………」
藍も酒を飲まされはしたが、ちょっとやそっとじゃ酔いはしない。
何とか幽々子を止めようとする。
「隙あり!!」
「うひゃぁ!!」
が、紫が藍に絡みついた。
「それじゃあ、2番!八雲紫!!藍を脱がせま~す!!」
「ちょっ!?紫様!!」
「橙、貴女も手伝いなさい」
「な、何を言って……」
(橙がそんな事する訳が………)
「は~~~~い♪」
「橙!?」
藍の予想に反して、橙の明るい声が返ってきた。
「藍しゃま~脱ぎ脱ぎしましょうね~♪」
「橙!?お前酔ってるな!?」
藍はハッとなって、先ほど紫が橙に注いだコップを見る。
見事、コップは空になっていた。
橙としても酒自体には興味があったのだろう。
そして、一気に飲んでしまったのだ。
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ~♪」
とても楽しそうに藍を脱がせ似かかる紫。
「くっ!かくなる上は………!!」
スペルを出してでも抵抗しようとする藍。
しかし………
「無駄よ、藍。貴女は式。私は主。解るわよね?」
式は基本的に主の命令どおりに動かないと力を発揮できない。
つまり
「私に妙な命令を掛けましたね!?」
「あら~?単に抵抗しちゃダメって命令掛けただけよ?」
つまり、抵抗した場合、力はまったく発揮できない。
「鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
藍の悲鳴がマヨヒガに響き渡る。
この地、既に修羅場なり……………
紅魔湖近くの妖精の住処
「ただいま~途中で吹雪かれたから危なかった~」
この住処はこの湖に出現する妖精の内の一人、氷精チルノの住処だ。
「おかえり大ちゃん」
そしてこの家に入ってきたのはチルノの親友の大妖精。
「おかえり~何処行ってたの?」
チルノの住処にはもう一人、今日は散々な目に遭っている冬の妖怪、レティが居た。
「うん、ちょっと紅魔館で働いてたの」
大妖精は今日の紅魔館の臨時アルバイト募集の触れ込みを見て紅魔館でバイトをしに行っていた。
「へ~大変だね~。言ってくれればあたいも行ったのに」
「あはははは………」
チルノの言葉に乾いた笑いを返す大妖精。
チルノが手伝った日には叩き出される事請け合いだ。
とてもじゃないが手伝ってとは言え無い。
「何言ってんのよ。あんたが手伝った日には追い出されるに決まってんじゃないの」
そして、レティが見事に代弁する。
「なに~!?あたいはサイキョーなのよ!それくらいヨユーよ!!」
最強だと何故パーティーの準備の手伝いが余裕なのか解らないが、まぁ、そうらしい。
「だからダメだって言ってんじゃないの」
が、レティはチルノの言い分を認めず、正論を返す。
「何を~!?寒いからってちょっとチョーシに乗ってるんじゃないの!?」
「へぇ………この冬の寒空の中で私とやろうって言うの?チルノ」
チルノとレティが臨戦体勢に入る。
「ちょ、ちょっと二人とも………」
大妖精は持って帰って来た物をテーブルに置いて二人の制止に入る。
が、この二人が言葉だけで止まる訳は無く。
「ジョートーよ!表に出なさいよ!!」
「良いわ!返り討ちにしてあげるわよ!!」
二人はそう言うと、吹雪の中へと出て行く。
レティは勿論、チルノも氷精だけあってこれくらいの吹雪は何とも無いようだ。
「行くわよ!アイシクルフォール!!」
「そんなもの!!リンガリングコールド!!」
そして、案の定弾幕合戦を始めた。
「二人とも止めてよ!!」
大妖精は叫ぶ。
が、止まらない。
「やるじゃないの!!」
「あんたこそ!!」
二人は次第にヒートアップしていく。
その刹那。
ヒュゴゥッ!!!
「わっ!?」
「なにっ!?」
突風が二人を襲った。
そして、その突風のした方を見る。
「ねぇ、二人とも」
そこには大妖精が居た。
「だ、大ちゃん?」
「な、なに?」
二人とも大妖精のほうを向いて固まった。
何故か?
大妖精は笑顔だった。
ただ、目だけが笑っていない。
見るものを畏怖させる笑顔。
そして、その笑顔のまま
「少し、頭冷やそうか」
そう言い放った。
「ひっ!?」
「ご、ごめんなさい!!」
二人は咄嗟に謝った。
何故かは解らない。
しかし、その時の大妖精の背後に、何やら恐ろしいモノが見えたと後に二人は語る。
二人は直ちに戦闘をやめてチルノの住処へと戻った。
「ご、ごめんね大ちゃん」
「え、ええ、私達が悪かったわ」
二人は戻るなりもう一度謝った。
「解ってくれればそれで良いよ」
そう言った大妖精の笑顔は、普段見ているそれであり、二人は安堵の息を漏らした。
「ほら、折角ケーキ持って帰ってきたんだから、食べよ」
「ケーキ!?」
大妖精の言葉にチルノが反応する。
「へぇ、それが報酬って奴?」
レティが大妖精に尋ねる。
「え?ううん、報酬はパーティーに参加できる事。これは、黙って持ってきちゃった」
笑顔で大妖精はそう言う。
「黙って持ってくるって………どうやって?」
いくら騒がしくなってても、ケーキを黙って持ち出す事は容易ではない。
まぁ、レミリア用でなく、妖精用のケーキなら咲夜もこの日くらいは見て見ぬ振りをしたかもしれないが。
「んっと、ちょうど同じ目的で来てた子達が居て、その子達に協力してもらったの」
「ふ~ん………まぁいいや。早く食べようか。チルノが待ち切れないみたいだし」
そう言って二人はケーキを目の前にしているチルノを見る。
まるで、目の前に餌を用意されたのにお預けをされている犬のようだった。
「ふふ、そうだね。今切るね」
「早くっ!早くっ!!」
「チルノ、少しは落ち着きなさいよ」
レティがはやるチルノをなだめる。
「う~………!!」
それに対し、やはり犬のように唸るチルノ。
「はい、切れたよチルノちゃん」
「やった!!」
更に切って渡されたケーキに勢い良く食いつくチルノ。
「まったく、チルノは………」
その様子をレティも顔の笑みを浮かべながら眺める。
「はい、レティちゃん」
「ん?ああ、ありがとう」
レティも大妖精にケーキを渡される。
「それにしても、これ。大きいわね」
「えへっ、ちょっと大きめに作っちゃった」
舌をペロッと出して大妖精はそう言う。
チルノが沢山食べるのを見越しての事だ。
「こりゃ、今日はこれだけでお腹膨れそうだね」
「レティが食べないならあたいが貰うわよ!!」
「冗談。私だって食べるわよ」
「ほらほら、チルノちゃん焦らないで。一杯あるから」
相変わらず外は寒いが。
この住処の中は暖かだった。
魔法の森・とある大木
「うひゃ~!寒い寒い!!」
「行き成り吹雪いてきたわね~」
「ルナ、ドア直ぐ閉めて」
「解ってるわよ」
光の三妖精が住処へと戻ってきた。
「しかし、成果は上々よね」
「ま、今回は悪戯じゃないけどね」
「良いのよ、結果的に私達が楽しければ」
それが妖精の理論。
「じゃ、戦利品のご対面といきましょう」
スター・サファイアが持って帰って来た物をあける。
「お~、結構大きいわね」
サニー・ミルクがそれを見て簡単の息を漏らす。
「これなら十分に三人で分けられるわね。ってか、余るんじゃない?この量」
ルナ・チャイルドもそれを見て驚く。
彼女らが持って帰ってきた戦利品とは、ケーキ。
そう、大妖精が協力してもらった妖精達とは彼女等の事だ。
「でも、なんで毎年この時期にパーティー開くのかしら?あそこは」
スターがケーキを切っている間にルナがサニーに問いかける。
「さぁ?年の瀬近いからじゃない?」
あてずっぽうに答えるサニー。
「まぁ良いじゃない。結果として私達がこうやってご馳走にありつけるんだから」
「それもそうね」
スターの言葉に頷くルナ。
深く考えない。
これもまた妖精ならではの思考だ。
「でも、この様子だと間違いなく明日は銀世界ね」
「そうでしょうね」
サニーの言葉にルナが同意する。
「ねぇ、折角だから明日は雪ならではの悪戯しない?」
「良いわね、それ。何やる?」
スターの提案にサニーが食いついた。
「今から考えれば良いじゃない。ケーキでも食べながら」
「それもそうね。あ、ルナ、コーヒーお願い」
「了解」
スターに言われてルナがコーヒーを淹れる。
「明日が晴れなら結構面白い事出来そうなんだけどね」
「何で?」
サニーの呟きをルナが問い返す。
「ほら、雪って積もると光反射するじゃない?」
「そうね。上と下、両方から太陽の光が差してるような物だものね」
「あ、なるほど~」
スターの言葉でルナも察する。
サニーは光の屈折を操る程度の能力。
その光、しかもサニーの力の源となる太陽の光が満遍なく注がれれば、力も遺憾なく発揮できるというもの。
「後はルナが音を消せば、色んなところで悪戯できるわよ」
「断然面白くなってきたじゃない」
三人の顔が喜びで満ちてくる。
その日、その日を楽しく生きるのが妖精の生き方。
で、あるのなら、翌日に楽しみが待っているなら、これ以上の事は無い。
3人はケーキを食べながら遅くまで次の日の計画を練っていた。
妖怪の山・守矢神社
「で、何で貴女達が居るんですか?」
家で3人……人と言うかどうかは解らないが、ともあれ、神社の面々でご馳走を食べる事を考えていた早苗は、突然の来訪者を冷めた目で見る。
「だってしょうがないじゃない。突然吹雪かれちゃったんだから」
そう言い返すのは、幻想郷最速の鴉天狗、射命丸文だ。
「すみません。本当、すみません」
そしてその横で謝るのは白狼天狗の犬走椛。
「それとも何?私達に遭難しろとでも?」
「そうは言ってませんけど、何でまたウチへ?」
「近かったから」
早苗の質問を一言で返す文。
因みに文の口調が何時もと違うのは、取材をする時はあくまで記者として接するため、丁寧な口調になっている。
妖怪の山での仲間内との素の会話の時はこんな口調なのだ。
「貴女の足なら吹雪かれる前に帰れそうな気がしますけど…………」
「私はね~。じゃあ、何?椛見捨てろって事?」
「すみませんすみません文様。すみません東風谷さん」
さっきから頭をぺこぺこ下げて謝りっぱなしの椛。
「まぁ、良いじゃないの早苗。パーティーは人数多い方が楽しいわ」
「流石神様。解ってらっしゃいますね」
文の口調が再び変わる。
自分より格上の者には腰を低くする。
天狗の特徴だ。
「神奈子様は飲める相手が出来て嬉しいだけじゃないんですか?」
ジト目で早苗が睨む。
「もちろん」
誤魔化しもせずにキッパリと返す神奈子。
「だって、早苗って全然飲まないじゃないの。飲めないし」
「私は未成年です」
「あら?魔理沙も霊夢も未成年だけど、普通に飲んでるわよ?」
しっかりと答えた早苗の言葉を文がバッサリと斬って捨てる。
「それに未成年飲酒禁止なんて外の世界の法じゃないの。ここは幻想郷よ?早苗。外の法律なんて関係ないわよ。ほら、天狗。まずは一杯」
「お、すみませんね」
既に神奈子と馴染んでいる文。
「では、こちらからも」
「あら、ありがと」
そして神奈子に注ぎ返す文。
「それじゃあ、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
家主の早苗の事など無視して飲み始める神奈子と文。
「はぁ………もう良いです。好きにしてください」
早苗は諦める事にした。
「すみません、本当すみません」
そして椛はひたすら謝っていた。
「ああ、いえ。貴女が悪い訳では………」
とは言え、文が悪いといえば、文を慕っているこの白狼天狗はまた謝るだろう。
「まぁ、折角だから貴女も楽しんで行って」
「すみません、ありがとうございます」
やはり頭を下げる椛だった。
「さてっと」
早苗は立ち上がって襖を開け、隣の部屋へと行く。
「諏訪子様~起きてくださ~い」
未だ布団に蹲っている諏訪子に声を掛けた。
「あ~………う~………」
寒さで相当まいっているようだ。
同じく実体化している神奈子はピンピンしてるのに。
「解りました。じゃあ諏訪子様の分のご馳走はこちらで頂いておきますね」
「ご馳走!?」
ガバッと布団を吹っ飛ばす諏訪子。
「ご馳走どこ!?ご馳走!!」
早苗は溜息を吐いて頭を抑えた。
(何でウチの神様は、こう…………)
自分が守矢の巫女である事を嘆きたくなった早苗だった。
「で、どこ!?」
諏訪子は再び早苗に問いかける。
「あちらに既に用意されてますよ」
「あ、神奈子!それ私のよ!!」
今まで布団で蹲ってた姿は何処へすっ飛んだのか、物凄い勢いでテーブルへと突進する諏訪子。
「さて、残りの物も出して私も食べようかな」
そう呟いて、早苗は台所から出していなかった料理を持ってくる。
「はい、残りの持って来ましたよ~」
「お、来た来た!」
それを見て神奈子が更にテンションを上げる。
「へぇ、なになに?…………!!こ、これは!?」
その料理を見て文は表情を変える。
無理も無い。
早苗が持ってきたそれは、チキンの照り焼き。
鶏肉だったからだ。
「あ、貴女は私に喧嘩を売ってるの!?」
「貴女のその態度の方が私に喧嘩を売ってる気がしますが?」
冷めた目で見る早苗。
早苗の言う事も尤もだ。
何せ、急に上がりこんだ来訪者にそんな事を言われたのだ。
喧嘩を売られてる気にもなろう。
「大体、貴女を呼ぶ予定なんて無かったんですから文句を言われる筋合いは無いですよ」
「く………痛い所を突くわね」
「でも、美味しいですよ、文様」
しかし、たじろぐ文の隣で椛がそのチキンを食べていた。
「椛!?貴女、何を食べてるのか解ってるの!?」
「はい?」
キョトンとした表情をする椛。
「それは鶏肉!つまり貴女は私を食べてるのも同じなのよ!?」
「え、ええ!?あ、文様を!?あわわわわわわわ!!!」
食べていたチキンを皿において慌て出す椛。
「こらこらこら、嘘教えないの」
早苗が冷静に突っ込む。
「嘘なんかじゃないわよ!鳥は私達の仲間!であるなら、これは私の肉といっても過言じゃないわ!!」
「いや、どう考えても過言でしょ」
あくまで冷静な早苗。
「あわわわわわ!わ、私………私……!!」
周りをオロオロと見回しながら慌てふためく椛。
「ああ、もう。そっちのピザなら鶏肉入って無いからそっち食べれば良いでしょう」
「あ、じゃあこっち頂くわ。はい、椛も」
今までの剣幕は何処へやら、あっさりと切り替える文。
「あわわわわわ………」
「せいっ!」
パーンッ!!
「はわっ!!」
未だにパニクっている椛の目の前で強く手を打つ文。
いわゆる猫騙しだ。
そして、行き成り目の前でパーンッと手を打たれて耳と尻尾がピーンッと直立する椛。
「はい、椛。食べなさい」
「あ、有難う御座います文様」
なんとか平静を取り戻す椛。
そして、早苗の背後では………
「ちょっと神奈子!それ私のだってば!!」
「早い者勝ちよ諏訪子!!」
「言ったわね!?じゃあこっちは私が貰うわ!!」
「あ、それ私が狙ってた奴!!」
「早い者勝ちと言ってたのは誰かしら!?」
「上等よ!長年の決着!ここで着けてやろうじゃないの!!」
「臨む所よ!!」
神様達が次元の低い争いを繰り広げていた。
実は早苗がこちら側に来たのは、後ろの騒ぎに関わりたくないという理由もあったりした。
(なんでロマンチックなホワイトクリスマスにこんな事になってるんだろうな、私)
ふと、遠くを見る視線になりながら考え込む早苗だった。
アリス宅
「へぶちっ!」
客人3人の寝室に入ってきたアリスは、行き成り枕の洗礼を受けた。
「な、何事………?」
鼻をさすりながらアリスは問いかける。
「枕投げはパワーだぜ!!」
そう言って霊夢に枕を投げる魔理沙。
「私に当てようなんて10年早いわよ!!」
「枕投げはパワーなのよね?私のパワーに勝てるかしら?」
そう言って魔理沙に枕を投げる幽香。
「ちょっ!?お前の力は……はぶっ!!」
流石に妖怪の力は半端無い。
加減されても結構痛いようだ。
「あんた達ねぇ………」
アリスが怒ろうとした瞬間。
「お前も混ざれ!アリス!!」
そう言って魔理沙が枕を投げた。
「ぶっ!?…………良い度胸じゃない……後悔しなさい!!」
そう言ってアリスは人形達を展開させた。
「ちょっと人形は反則じゃない!?」
霊夢が抗議する。
「黙らっしゃい!行くわよ!!」
そして、人形達に枕を拾わせたり、止めさせたりするアリス。
「あら?面白くなってきたじゃぶっ!!」
喋っていた幽香の顔面に枕が直撃した。
「隙ありすぎね、幽香」
「やってくれるわね、霊夢」
「隙だらけだじぇ!?」
喋っていた霊夢に投げようとした魔理沙にアリスが枕を投げる。
「本気出すわよ!ホーミング枕!!」
そう叫びながら枕を投げる霊夢。
「枕が曲がるわけなんて無いでしょぶっ!?」
余裕で避けたつもりのアリスだった、突然枕が曲がった。
「ま、枕が曲がった!?」
驚く魔理沙。
「一体どういう原理よ」
幽香も呆れる。
「ふ………博麗の巫女に不可能は無いわ!!」
「なら、私がお前を沈めてやるぜぐは!!」
「貴女隙ありすぎよ、魔理沙」
霊夢を攻撃しようとした魔理沙の横から幽香が枕を投げ当てた。
「上等よ!ここいらで誰が一番か教えてあげようじゃないの!!」
ホーミング枕のダメージから復活したアリスが叫ぶ。
「私に決まってるじゃないの!!」
「何言ってんだ!私に決まってるぜ!!」
「馬鹿な事を………最強は常にこの私よ」
かくして低次元なんだが高次元なんだか解らない枕投げバトルが始まった。
しかし、最終的には全員疲れて同じ部屋で寝るという結果に終わった事を記しておこう。
永遠亭
「それロンっ!」
「何!?」
「また姫にやられたわね、妹紅」
「妹紅弱い~」
卓を囲んで輝夜、妹紅、鈴仙、てゐが麻雀をやっていた。
「あんなもの、どこで?」
離れて観戦していた慧音が永琳に尋ねる。
「前に香霖堂で売ってたから買っておいたのよ。暇潰し用に」
ルールブックの様なものも一緒に購入し、以来、偶に輝夜、永琳、鈴仙、てゐで暇つぶしをしているとの事だ。
麻雀は初心者は覚える事が多い。
故、妹紅がカモられるのは当然といえば当然だ。
余談だが、普段は鈴仙がカモられていたりする。
「くそー!もう一度だ!!」
妹紅が叫ぶ。
「何度やっても勝てないわよ」
「何を!?」
ジャラジャラと牌をかき混ぜながらも火花を散らす妹紅と輝夜。
「ん?」
「どうかした?」
何かに気付いた慧音に永琳が尋ねる。
「いや、今てゐが自分の手持ちの牌と積んである牌を取り替えたような………」
「あら、ツバメ返し?やるわね、てゐも」
「ありなのか?」
「イカサマよ」
「何!?」
「でも、イカマサもバレ無ければイカサマじゃない……一種の技よ。それに気付けないその場の面子が悪いの。私達が口出しするべきじゃあないわ」
「むぅ………」
お堅い所のある慧音はそれっぽい理詰めの話で丸め込まれてしまう。
因みに、輝夜はてゐのツバメ返しには気付いていたりする。
無視するのは余裕ゆえか、はたまた…………
「ツモッ!!天和!!」
「マジっすか姫!?」
「うそー!!」
「何だと!?」
自身もイカサマしてた為か………
因みに、天和(テンホー)とは、親が最初に用意された牌で既にアガリ役が出来ているもの。
役満という最高位の役だ。
この天和の役が更に役満だとダブル、トリプルと上がっていくが、はっきり言って普通にやったらまずお目にかかれない。
「しかし、今日は本当に悪かったな」
慧音が永琳に言う。
「気にしないで良いわよ。姫が決めた事だし、それに確かに大人数の方が賑やかで楽しかったわ」
永琳はそう返した。
「そうか。だがこの礼はいつかしないとな」
「気にしなくて良いわよ。姫だって気にしてないでしょうしね」
「ふむ………ならこっちで勝手に反させて貰うとしよう」
「好きになさい」
薄く微笑みながら永琳はそう反す。
「ロンッ!国士無双!!」
「なんでだぁぁぁぁぁ!!!」
「あら、役満。やるわねイナバ」
「あぶな……危うく鈴仙に当てられる所だった…………」
戦いはまだまだ続きそうである。
マヨヒガ
「橙は?」
「寝ましたよ。流石に」
紫からの問いを簡潔に反す藍。
「妖夢も寝ちゃったみたい」
「まぁ、あれだけ飲まされれば当然でしょう………」
あの後、脱がされるのは何とか免れたが、変わりに酒を飲まされ、妖夢はダウンした。
藍は後片付けをし、紫と幽々子はチビチビと飲んでいる。
「さて、それじゃあプレゼントを置いておいてあげるとしましょうか」
そう言って幽々子は立ち上がり
「紫、頂戴」
「はい、どうぞ」
紫のスキマから用意しておいたプレゼントを出してもらった。
プレゼントの隠し場所としてはこれ以上ない場所だろう。
「幽々子様は何を用意されたのですか?」
エプロンで手を拭いながら藍が戻ってきて尋ねる。
「大した物じゃないわ。でも、普段の苦労に少しは報いてあげたいでしょ?」
「そうですか」
微笑みながら藍はそう反す。
幽々子が用意したのは頭につけるリボン。
いつも仕事仕事の妖夢に少しは女の子らしい事をさせてあげたいのだろう。
「それではまだ朝まで時間がありますので、私も加わってよろしいですか?」
橙のお願いである食べた事のない魚。
マグロを用意しては来たが、生もの故、今置く訳には行かない。
生臭くもなるし。
朝方まで待って、橙が起きるより少し早めに置いておいてあげるつもりなのだ。
元々、紫は特異な妖怪。
藍も強力な妖獣。
少しくらい寝なくとも大した問題ではない。
「そうね。3人で飲みましょうか」
そして、亡霊故に本来睡眠などまったく不要な幽々子。
静かに飲みながらも3人は想像する。
朝起きた時に喜ぶ二人の顔を。
そして、それを肴に静かに、静かに飲んでいた。
守矢神社
「本当に弱いですね~」
「まぁ、まだ子供だからね」
隣の部屋で酔い潰されて寝ている早苗を見ながら文と神奈子は言う。
「そっちの子も同じじゃない?」
諏訪子は文の膝に抱きつくように寝ている椛を指差して言う。
「この子もまだ子供に分類されますからね」
椛の頭を撫でながら文は言う。
「今日はすみませんでした。お邪魔してしまったようで」
文はここで初めて謝った。
「別に良いわよ、楽しかったし」
「そうね。偶には私たち以外とも接して欲しいものね。あの子には」
神奈子も諏訪子もそう言う。
「ありがとうございます」
「気にしなくて良いわよ。吹雪で遭難しかけたのは本当なんでしょうし」
「あ~う~」
吹雪と聞いて再び身を振るわせる諏訪子。
「さてと、それじゃあサンタさんからのプレゼントでもしてきましょうか」
そう言うと神奈子は立ち上がった。
「何です?その惨太さんとは?」
「その字は嫌ね。まぁ、外の世界の風習の一つよ」
「なるほど………」
「ああ、でも記事にはしないでね」
「何でですか?」
まさに記事にしようとしていた文は神奈子に聞き返す。
「幻想郷を見て回って解ったけど、ここって外の世界で失われた物がある世界じゃない?」
「そう聞いてます」
「外の世界を知っている私達からすると、あまりこの世界に外の物を持ち込みたくないのよ」
「何故ですか?」
「外の世界は確かに利便性に優れた物が溢れている世界だわ。でも、その一方で大切な物がどんどん失われている」
「つまり、迂闊に外の物を持ち込むとこちらでもそれが失われる、と?」
「ええ。まぁ、風習くらいじゃあどうって事はないでしょうけど、可能な限りそうしたくないのよ」
「外の世界とはそんなにも悪いんですか?」
「良し悪しどっちもよ。けど、やはりここはこの姿のままが一番だと思うわ。来たばかりの私が言うのもなんだけどね」
文は何となくわかっていた。
神奈子は文明が進化する様を直にその目で見続けていた。
それ故に、今の外の世界から失われ、そして己にとって懐かしかったこの幻想郷の風景を大事にしたいのだろう。
失った物は戻らない。
しかし、その失われた物が、今、ここにある。
それを守りたいという気持ちがあるのだろう。
「そうですか………そう言う事でしたら、私も記事にするのは止めにしておきましょう」
面白いネタは記事にしたい。
だが、無粋な真似はしたくない。
それが文にあるプライドのような物だった。
「あ~………う~………」
机に突っ伏したまま唸る諏訪子。
「なんて台無しなのよ、あんたは」
行き成り空気をぶっ壊した諏訪子を小突く神奈子。
「ほら、諏訪子様。飲みましょう。飲めば温かくなりますよ」
文が諏訪子のコップに酒を注ぐ。
「ん!」
そして一気に飲み干す諏訪子。
「よーっし!二回戦!行くわよ!!」
瞬く間に復活した諏訪子。
「返り討ちにしてあげるわ!!」
「天狗の底力、見せてあげましょう!!」
そうして居間で飲み比べの二回戦が始まった。
その喧騒とは無縁の様に布団の中で眠り続ける早苗。
その枕元には大きな袋と共に、一枚のカードが添えられていた。
「今年一年良い子だった早苗ちゃんへ、サンタさんより」
中に入っているのは厚手の羽織。
冬の、しかも山の上の方という寒い場所でも平気なように
大小二人のサンタさんからのプレゼントだった。
それでは皆様も、Merry X’mas
それなのにその直後にあんなことがあるなんて…いいぞ!もっとやれ!幽々子様に紫様!!
そして枕さえもホーミングさせる博麗の巫女の神秘に吹いた
あと、てゐのツバメ返しで某マンガを思い出しました。
おとなしい幽香もいいなぁ。
定番の話ではありますが、安心して読めてよかったです。
いろんなネタが盛り込まれていて楽しく読めました。
ケロちゃんは可愛いなぁ
クリスマスっぽいことしてても、最後はやっぱいつもどおりなとこがいい!
神奈子と諏訪子様の優しさにほんのり温かくなった。
こあが召喚したのは某連鎖ゲームのきもけーね似の人だと思ってたり・・・w
EDでは文がタメ口で神奈子様が敬語だったよ
これぞ幻想郷のクリスマス、という感じで素敵なお話でした。
総じて高い評価を頂、ありがとうございます^^
>「窓際!装飾薄いわよ!!なにやってんの!!」にはまってしばらく笑い悶えたあげく~
すんごく何気なく思いついたネタだったんですが、笑って貰えた様で何よりです^^
>ホーミングさせる博麗の巫女の神秘
因みに原理は不明です(´・ω・`)
>てゐのツバメ返しで某マンガを思い出しました
その思い出した漫画こそが元ネタです^^
>大妖精のCVが田村ゆかりに~
思った以上に自分の中でハマって居るので、再登場します。
ええ、乗り移ってる魔王様が、ですが。
>某魔人と仲良しなミスターですか?
まさしく、です^^
>魔界神が召喚されると思った
あ~……旧作やってないんで、キャラ掴めてないんですよ^^;
>神奈子と諏訪子様の優しさにほんのり温かくなった。
あの二人はなんだかんだと無茶を言いながらも、早苗を大切にしてると思ってますので^^
>こあが召喚したのは某連鎖ゲームのきもけーね似の人だと思ってたり・・・w
ああ、その魔王も居ましたねぇ………すっかり忘れてました(´・ω・`)
>EDでは文がタメ口で神奈子様が敬語だったよ
ぐっは………すみません、まだ神奈子様倒せてないんです。
某空気男の歌のごとく倒せないんです○| ̄|_
>これぞ幻想郷のクリスマス、という感じで素敵なお話でした。
ありがとうございます^^
なんだかんだで皆楽しくやってると言うイメージがあったので、こう書きました。
吹いたw
丁寧な感じがしてよかったです。
結構長かったようですが、場面が小気味よく切り替わっていたからか
最期まで面白く読めました。
持って行ってあげて頂戴
魔界神召喚で歩いてお帰りって言うのもアリですねw
ありがとうございました
実際の北欧神話だったら諸説あるんで間違ってはないのですが。
まさか管理局の白い悪魔が出ようとは。そのうち魔王になってこぁに召還され(ry