Coolier - 新生・東方創想話

優しい狐 (4/6)

2007/12/21 05:25:04
最終更新
サイズ
5.25KB
ページ数
1
閲覧数
294
評価数
2/5
POINT
290
Rate
10.50

「猫を飼いたいの」
「む゛・・・けほっ、けほっ・・・うぅ・・・」
夕餉の時の事だった。
あまりの唐突さに口をつけていた味噌汁をふきそうになり、
無理して我慢した所為でむせた。鼻が痛い。
「・・・あら?どうしたの?」
「はぁ・・・い、いえ・・・あまりにいきなりだったので・・・
一体どうしたというんですか?」
この主人の唐突さにはもういい加減慣れた頃だと思っていたのだが、
こういうタイミングで言われるとダメな辺り、それはただの気のせいだったらしい。
「実は今日、気が向いたから人里に行ったのよ」
「はぁ・・・」
この方がそんな早くから外に出るなんて珍しい。
「そしたらね、猫を飼ってる家があったのよ」
「猫・・・ですか。珍しいですね」
「でしょ?犬はよく見るけど、猫って珍しくない?って思って。
でもそれがすごく可愛いのよ。
鍋の中に入ったり、ミルクを飲んだり、ごろんと横になって無防備に寝てるの」
お豆腐をつつきながら紫様はアップテンポで話す。
どうやらいつもの病気が始まったらしい。
「そんな訳だから、是非とも我が家にも猫を・・・」
「駄目です」
とりあえず、反対しておく。
「・・・えぇー」
いかにも不服そうにお豆腐を上からつつく。
そろそろ崩れそうだ。
「大体誰が面倒見るんですか。私だって今の分でも大変なのに」
紫様のお世話をしながら、
紫様がお休みの間はその役目のいくつかを代替わりしなければいけない。
いくら式として強化してあるとは言え、これはかなりの重労働だ。
「それ位私が見るわよー。自分のペットだものっ」
「・・・信用できません」
「できてもできなくても飼うのーっ、猫が良いのーっ」
頬を膨らませてすねた様にぐにぐにと豆腐を押す・・・あ、崩れた。
「駄々をこねないで下さい・・・」
溜息をつきながらも、主人の扱い方に慣れを感じ始めている自分に、
若干悔しさを感じた。
が、そう感じたのも束の間。
紫様はさっきまでの拗ねたような目ではなく、
いつものざらりとした目で私を見て言う。
「藍・・・」
「な、なんですか・・・?」
「あなた、私の式神よね?」
威圧的なその言葉に、先ほどまでの子供っぽさは微塵も無い。
駄目な事だと解っていても、こう言われた時点で、
既に私の次の言葉は決定されていた。
「・・・解りました。お好きにどうぞ」
私は式神。八雲 藍という一個の生物ではなく、
八雲 紫という方の道具である。
故に、本質的には逆らえない。
紫様が主として命じたなら、私は頷かなくてはならない。
「ふんふんふ~ん、どんな子がいいかしら~
真っ白?茶色?それとも虎柄?楽しみだわ~」
たとえこの笑顔の主人が、理不尽かつ不可解な事を企んでいたとしても。

翌日。里に出た私は、朝早くから猫探しをしていた。
「・・・うぅ、なんで私がこんな事を」
結局、紫様は自分で飼う猫を自分で捕まえず、私に捕まえろと命じた。
色とか柄とかは迷うので、
もう最初に捕まえてきた猫をペットにするつもりらしい。
「と言ってもな・・・猫はすばやいし臆病だもの・・・
どうやって捕まえたものか」
まぁ私も一応式だし、
足の速さには自信もある。
だからその点抜かりはないけれど、そもそも、猫そのものが見つからない。
あいつらが普段どこに居るのか皆目見当がつかない。
よく猫は集会をやっていると聞くが、
そんな場所があるなら是非とも行ってみたいものだ。
「・・・まぁ、愚痴っていても仕方ない。手当たり次第探すかな・・・」
まさか通りすがる人に「猫は居ませんか?」なんて聞くわけにも行かない。
空から探すにも小さすぎて見えないし、地道に見て回るしか無さそうだった。

・・・が。
やはり、見つからない。
もうこれは諦めるしかないかもしれない。
努力はした。少なくとも普通に立ち入ることのできる範囲は見て回った。
あまり入りたくは無いが神社の境内の下まで潜り込んだりもしたのだ。
それでもいないのだから、この上探すと言うならもう家捜しでもする他ないだろう。
「流石に紫様でも、
人間の家をひっくり返してでも捕まえろなんて仰らないだろうし・・・」
自分を慰めるように呟くが、言ってみると現実になりそうで肩が震える。
「・・・か、帰ろうかな」
ヒュ―――ン―――
昼間弱々しかった風は今では渦巻き、旋風とも思える程に強く感じる。
バタバタと衣服を煽り、まるで早く帰れと促すようだ。
ならば、と震える肩を抑え、帰路に着こうと体を浮かせた、その時だった。

「ニャ―――ン」

「っ!?」
小さな、風にかき消されそうなほど弱々しい鳴き声だった。
だが耳はピクリと反応し、本能が即座にその居場所を教えた。
木の陰・・・ではない、その上。枝か。
「・・・まさかと思うが」
私の背丈からでも正確な高さが解らない大木。
その幹に近い枝の分かれ目で、小さな黒い猫が一匹、
風に煽られながらしゃがみこんでいた。
「降りられないのか・・・全く。運の悪い子だわ」
よりによって、私に見つかるなんて。
しかし、見つけてしまった以上、見過ごす訳にも行かないだろう。
「ミィ―――」
浮き、見える高さまで飛んで初めて気づくが、小さく震えていた。
寒いのだろうか。それとも怖いのだろうか。
見ればまだ幼い。
親は居ないのだろうか。
好奇心のまま外に出てしまったのかもしれない。
ああ可哀想に。
いや・・・本当に、可哀想な子だと思った。
「よ・・・っと」
適当な太さの枝に降り立ち、子猫の元へと近づく。
目の前にいきなり現れてしまったからか、
その子は一瞬、びくりと尻尾を震わせたが、暴れる事無くそのままで居てくれた。
「良い子だな・・・飼い猫・・・には見えないか。
大体黒猫を飼う家なんて想像もつかない」
黒猫は凶兆の証。
縁起で言えば最悪の部類に入る不幸の呼び鈴という位置付けだ。
元々猫を飼う事自体が珍しいのだから、
尚更の事、わざわざ縁起の悪いものを飼おうとする者は居まい。
「・・・困ったな」
しかし。
それは人間に限ったことで、非常に遺憾ながら私の主は人間ではない。
あの性格を考えれば、色の黒白なんて気にもせず、
猫であればそれでよしと言い張るだろう。
「お前・・・うちの子になるか?」
一応聞いてみる。嫌がったらやめよう。
「にゃ~♪」
・・・嬉しそうに聞こえる。
なる気はあるらしい。
ますます困ってしまう。
「・・・はぁ」
寒かった。早く帰りたい。
「にゃー・・・」
猫も同じらしかった。
「帰る、か」
このまま外に居るのも馬鹿みたいだし、と、
枝から飛び、マヨヒガへと向かった。
新しい家族を抱えて。

(続く)
こんばんは、小悪亭・斎田です。
6話完結の4話。やっと投稿できました。
前の投稿後、
時間の都合やなんかで中々ネットが出来ず間が開いてしまいました。失礼。

まだ後にありますしあまり長くてもアレなので、これにて。
ではでは。
小悪亭・斎田
http://www.geocities.jp/b3hwexeq/mein0.html
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.140簡易評価
1.50名前が無い程度の能力削除
橙かわいいよ橙

5.100名前が無い程度の能力削除
ちぇぇぇぇん