Coolier - 新生・東方創想話

優しい狐 (2/6)

2007/12/18 11:18:33
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「ただいま戻りました」
反応は無いだろう、そう思っていた。
「あら、おかえりなさい。早かったわね」
「なっ!?」
主が起きていて驚くというのは、どういう驚き方なのだろう。
自分でも解らない。
「・・・何よ、その反応は」
私の驚き様に紫様は、不機嫌さを顕にし頬を膨らませる。
「も、申し訳ありません。てっきり寝ているものと・・・」
「寝てたけど。寝てたけど、起こされたのよ。アレに」
「アレ・・・ですか?」
言われ、指差す方を見る。
「おぉーいっ、紫っ、つまみはまだかーっ
早くだしてよーっ
じゃないと・・・あばれるぞーっ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
得体が知れない。
角の生えた娘が我が家の茶の間で暴れている。
「あの・・・一体・・・」
「鬼よ・・・」
「・・・はぁ?」
確かに鬼、と仰った気がしたのだが。
いや、しかしいくらなんでも、あんな華奢な鬼は・・・
「・・・ついでだわ。アレも一応友達だから、挨拶してきなさい。
それから相手もしてあげるのよ。これは命令だわ」
「えっ?あ、はぁ・・・」
溜息をつき頭を押さえ、紫様は私に命じた。
「こ~らぁ~っ!!
は・や・くおつまみ~っ
それからおかわりのお酒樽で持ってきなさいっ
あっ、隠したって無駄なんだからねっ
屋敷の裏の貯蔵庫に高そうなの一杯あるの知ってるんだから~」
「はいはい、お酒はいくらでも飲んでいっていいから私の眠りの邪魔しないで頂戴」
「何おーっ、あんたが相手してくれなかったら誰が私にお酌するってのさっ!?」
「この子が相手するから。じゃ、私寝るから・・・がんばりなさい藍」
「へっ?あ、は、はい・・・」
言うが早いか、私の返事を背に、そのまま寝室へと入っていってしまった。
恐らくはもう出てくることは無いだろう。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
鬼(?)と目が合う。
「あんた、狐だね?」
一瞬、冷めた声だった。
「そっか・・・あんたが・・・よしっ、飲もうっ、飲むよっ、飲めぇっ」
しかしすぐに酔っ払いの口調になり私の腕を引っ張る。
「うぉっ、わっ、たたたっ、あぁっ―――」
ブォン―――ガスッ
「ぐぅ・・・」
が、全く予想外の力に引っ張られ、
私は受身も取れずまともに壁に打ち付けられた。
「ありゃ・・・?」
不思議そうにこちらを見る。
「う・・・痛・・・鬼っていうの、本当だったんですね」
その痛みで、初めて鬼という不釣合いな言葉が真実味を帯びてきた。
「そりゃそうだわ。さ、まずは一献」
そしてその鬼は、投げられた私を全く気にもせず升で差し出す。
「あ、どうも・・・では・・・」
私も、酒は嫌いではない。
痛みを忘れ、勧められるまま升を一気に飲み干した。

「あっはっはっ、良い飲みっぷりじゃないかいっ
あたしゃそういう強い奴が好きなのさっ
さぁ飲もう、さぁ飲めっ」
「は、はいっ、まだ飲めますっ
これでも式神となる前はウワバミのお藍と周りからですね・・・」
「はっはっはっ、藍っていうのは式神としての名前だろーがーっ
あー楽しい。こんな楽しいお酒は久しぶりだよー」
始終ご機嫌な鬼は、がぶり、と勢い良く桶で飲み干す。
既に裏から持ってきた樽酒は二つ目。
さすがの私も酔いが強く回ってきて、
少し前に何があったのかすら覚えていない。
しかし、不思議とこの陽気な鬼とならまだ飲めた。
「ほんとに・・・人間ともこんなに楽しい酒が飲めるなら、
まだまだ捨てたもんじゃないんだけどな」
「なに変な事言ってるんですか。酔うには早いですよ」
「あんだとー?酔っ払いながら良く言うじゃないかー」
「酔っ払ってなんていませんよっ、まだまだですっ」
「そうかそうか良し飲め。飲んだらまた乾杯だ。
鬼と妖怪と・・・とにかく色んなものに乾杯だっ」
「かんぱーいっ」
「かんぱーい!!」


「う・・・ぁ・・・」
目が覚めたのは何時頃だろう。
瞼を開くとそこはもう明るくて。
ただ、散らかりに散らかった部屋が、
夕べあったことを思い出させてそして―――
「痛・・・ぅ・・・」
腹部、それから頭に痛みが走る。
どうやら投げられた時に打ち付けた部分が直っていないらしい。
それから、考えたくは無いが二日酔いだろうか。
なんとも言えないクドイ痛みがじんじんと響く。
「くっ・・・私も・・・もう若くないな・・・」
思っても居ないことを呟くのは、腹いせというか、強がりだった。

「もう行くのかしら?」
靴を履き立ち去ろうとするあたしを、あの女は屋根の上で待ち伏せしていた。
気づけなかったのが悔しいから、私は思い切り笑顔で返す。
「うんっ。最後に楽しく飲めたよ。もしまた機会があったら・・・
いや、それはないか。とにかく、未練は無くなったかな」
「そう・・・それは何よりです」
「ふん、微塵も思ってないくせに。じゃ、あたしゃもう行くよ。
向こうで仲間が待ってる」
ここへは、別れの挨拶のつもりで着ただけだった。
本当なら三日も四日もひと月でも、
ずっと居座ってどこかの酒造の酒が尽きるまで飲んでやるのだけれど、
急ぎなのだからそんな暇は無い。
「幻想郷に戻るつもりは無いの?」
「人間が―――」
「ん?」
「もしまた骨のある人間が現れたら、その時はまた、勝負をしたいな」
「そうね。その時は私も一緒に暴れてやるわ」
「勘弁してくれ。あんたの能力は迷惑すぎる」
最後に、この女を相手にした時はいつもやっているこんな皮肉の言いあいで笑って、そして
「ふふっ・・・まぁ、お元気で」
「うん、じゃ」
あたしは仲間の元へ向かった。


「いててて・・・
あれ、紫様?こんな時間に起きてらっしゃるなんて珍しいですね」
痛む頭を押さえながら洗面所に行くと、そこには以外にも主人が居た。
「・・・おはよう」
不機嫌らしいと解るのはトーンから。
しかし、それだけではないなと感じたのはどこからだろうか。
何が違うのか考えるも、その頭がこの様では。
「藍。随分飲んだようね」
「は・・・私自身良く覚えていない部分もあるのですが・・・はい」
「そう。楽しかった?」
「え・・・?えーっと・・・はい。すごく楽しかったと・・・思います」
「そう。じゃあ、次もまたお願いね」
私でなければ聞き取れないくらいに小さく呟くと、
紫様は背を向け、廊下へと出ようとする。
「へ?あの鬼の人、また来るのですか?」
「来るわよ。必ず」
立ち止まり、それだけ言うとまた歩いていってしまう。
「・・・は、ぁ・・・」
言われたというのに、まるでそれは私ではない、
別の誰かに言っているように聞こえてしまう。
「うぐっ・・・くぅ・・・」
しかし、頭痛ですぐに現実に呼び覚まされてしまい、
それ以上は考える事は無かった。

(続く)
初めましての方初めまして。小悪亭・斎田という者です。
ここまで読んでいただけてありがとうございます。
・・・と同じ文章ではつまらないですね、はい。

この「優しい狐」、話の時代は正確には設定せずに書きました。
強いて言うなら霊夢が生まれる前?位?
かなり曖昧です、はい。
というか、9割がた歴史の捏造で書きました。
ただ、極力違和感を出さないように本やサイト、ゲーム等を調べたので、
そんなに問題ない・・・はず(´・ω・`)
もしかしたらツッコミどころ満載かもしれませんが。

とりあえず後もあるので今回はこの辺で、ではでは。
小悪亭・斎田
http://www.geocities.jp/b3hwexeq/mein0.html
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コメント



0.70簡易評価
2.60名前が無い程度の能力削除
かしこまったというか流されやすい藍様ですのう