Coolier - 新生・東方創想話

Wedding Luna Clock

2007/12/17 23:48:27
最終更新
サイズ
69.25KB
ページ数
1
閲覧数
2523
評価数
43/134
POINT
7570
Rate
11.25

分類タグ


 




 思えば、肝心な事を忘れていたのかもしれない。
 紅魔館にいるのは、吸血鬼や魔女や妖精。いずれも幻想的な種族であり、世間の常識に囚われることのない存在。
 ゆえに人と相容れることもなく、一方的に疎まれ、恐怖される者達であった。
 周りにいたのは、そんな連中ばかり。だから、ついつい忘れてしまっていたのだろう。
 それとも、故意に忘れようとしていたのか。
 過ぎ去った今となっては、どうでもいいことだった。
「十六夜咲夜……」
 手の中を懐中時計を握りしめる。渇いた音と共に、ガラス盤に新しいヒビが刻まれた。
 十六夜咲夜が大事にしていた時計だ。
 しかし、かつての重厚さは見る影もなく、それは最早時計としての機能も放棄していた。
「もっと早く気づいていれば、違った結末があったかもしれない。いえ、きっと無理ね。どの時点で気づいたとしても、私は自分を偽っていた」
 運命を操る吸血鬼が、あれほど重大な未来を察知することができないなど、笑い話にすらなりはしない。
 いや、本当は気づいていたのかもしれない。でも、きっとそれは悪い夢だと嘲笑おうとしていた。
 そんな自分が、一番嘲笑われるべきだというのに。
「本当に……馬鹿な話」
 味わうことなく、グラスのワインを一気に飲み干した。
 一瓶で数十万円もする代物だったが、今のレミリアにとってそれは、ただのアルコールでしかない。
 こんな飲み方をしていたら、きっと過去の自分に怒られるだろう。
 ワインは嗜好品であり、酔う為に飲む物ではないと。
「美味しくないわね、やっぱり」
 らしくないと、自分でも分かっている。
 紅魔館の主たるもの、常に余裕を心に添えて行動しなくてはならない。
 少し嫌な事があったからといって、愚痴をこぼしながらやけ酒を煽るなど、当主失格だ。
 しかし、それでも酔いたい時があるのだと、今のレミリアは理解してしまっていた。
 空になったグラスが、赤い絨毯の上にこぼれ落ちる。
 拾う余力すらなく、もたれるようにレミリアは背もたれに体を預ける。
 窓の外からは、赤い絨毯を更に濃くするような光が降り注いでいた。
 今夜は満月。それも赤い満月だった。
「夜空の月は紅いのに……」
 何も言わない時計を見つめる。
「私の月は、どこにもいない」















 紅魔館で誰が一番紅茶を容れるのが上手いかと訊かれれば、迷わず十六夜咲夜と答えるだろう。
 パチュリーは知識はあるのだが、いかんせん技術が追いついていない。
 美鈴は知識も無ければ、技術すら無かった。
 アジア系のお茶ならそれなりに飲めるものを持ってくるのだが、それにしたって何故か餃子や饅頭を一緒に用意したがるので雰囲気は台無しだ。点心が楽しみたいわけではない。
 レミリアが望んでいたのは、もっと優雅で楚々としたお茶会なのだ。
 だから、咲夜が紅魔館で働く事を一番望んでいたのは、ひょっとしたらレミリアだったのかもしれない。
 この頃、とみにそう思う。
「お嬢様、お茶の用意が出来ました」
 レミリアは、自室の窓から曇天を覆う夜空を怨みがましく見つめていた。
 些か自己主張が強すぎる日光は見たくもないが、控えめな月光が見られないのは少し寂しい。
 吸血鬼としての本能がそう感じさせるのか、それとも元からそういう性分なのか。
 考えていても、答えは出ないように思われた。
「お嬢様?」
「なんでもないわ、少しつまらない事を考えていただけよ。すぐに行くから、ポットのお湯を冷まさないように注意していなさい」
「ご心配なく、ポットの時間は止めてあります。例え日をまたいでも、お容れするのは最上の紅茶ですわ」
 主ながら、よく出来た従者だと思う。
 これが咲夜の前にメイド長をしていた奴なら、「大丈夫です。冷めた紅茶も美味しいですよ」と本末転倒な戯言を返していたことだろう。
 そういう事ばかりしているから、この寒い中、門を守る職になど就かなければならないのだ。
 いつまでも雲の晴れる事がない空を尻目に、レミリアは自室からダイニングへと向かう。
 咲夜は何も言わず、一歩ほど後を歩いていた。
「そういえば、最近フランが館にいないようだけど。魔理沙の所にでも行ってるのかしら?」
「ええ、魔理沙の家でお泊まり会をするんだと、嬉しそうに出ていかれました。悪い癖が出なければいいのですが……」
 フランは時折、気が触れたように暴れ出す事がある。
 しかし、それも魔理沙達と出会ってからは滅法回数が減った。
 おそらく、咲夜が心配がしているのは別の事なのだろうと分かった。
「あの子の寝癖の悪さは、ある意味犯罪的よね。悪い意味でも、凄く悪い意味でも」
「……良い意味は無いのですね」
 苦笑しながら咲夜が言う。
 だが寝ぼけてレーヴァテインを放つ癖など、良い意味であるわけがない。
「ですが、パチュリー様もご一緒に行かれたようですし、大事にはならないと思います」
「パチェも付いていったの? まあ、どうせ魔理沙には無許可なんでしょうけど」
 そうすると、小悪魔もいない可能性が高い。
 あの悪魔はパチュリーがいないからといって、気をきかせて図書館を整理するような性格ではない。
 大方、パチュリーを追って行ったのだろう。
「なんだ、だったら今日は咲夜以外いないのね」
 咲夜の他にもメイドがいるにはいるが、どうにも気まぐれで必ずしも館の中にいるとは限らない。
 そんな連中を数にいれることは、できやしなかった。
「一応、門の所にもう一人ほどいますけど」
「私のワインを無断で飲むような妖怪が、この館にいると思う?」
「……キツく叱っておきます」
 言葉が終わるか終わらないかのところで、咲夜が一瞬だけ姿を消した。
 どこに向かったのかは、考えずとも分かる。
 門の辺りから、悲鳴が聞こえてきた。










「ふと、気になったんだけど。咲夜はどこかに行く用事とか無いのかしら?」
 空のティーカップを片づけていた咲夜は、レミリアのその質問に動きを止めた。
「そうですね……買い物以外では特に」
 咲夜とて、朝から晩まで悪魔の犬をやっているわけではない。
 どこかの時間に、十六夜咲夜として過ごす時間があるはずだった。
 レミリアの質問は、その時間に何をしているのかと暗に尋ねたわけなのだが、
「別に私が寝ている時まで、私の為に仕えなさいとまでは言わないわよ。張り詰めすぎた糸ほど、脆いものはないのだから。十六夜咲夜は好きに過ごしていいのよ」
「と言われましても、昼は館の掃除に買い出し。暇な時間があるとすれば、寝ている時だけですから」
 生活の全てを咲夜に任せている状態では、自由な時間が無いというのも当然のことか。
 咲夜が有能すぎるのか、その他のメイドが無能過ぎるのか。
 どちらともという線が濃いのだが、咲夜はそれほど不満そうには見えなかった。
「それに、仮にそんな時間があったとしても、私はお嬢様の為に働いています。この身も心も、全てあなたのものなのですから」
 恭しく傅く咲夜。そんな彼女の姿は、紅魔館で働いて間もない頃の彼女を思い起こさせる。
 懐かしい記憶が脳裏を掠め、ふっとレミリアは口の端を吊り上げた。
「出来た従者というのも困りものね。厳格な主を笑顔にするなんて、せっかくのカリスマが台無しだわ」
「そのままでも充分にカリスマがありますよ」
「駄目よ。最低限でも輝夜よりもカリスマがないと、色々と馬鹿にされるじゃない」
 宴の席で、レミリア・幽々子・輝夜の三人が集ると、度々話が『カリスマ度が一番高いのは誰か』という方向へ進んでいく。
 弁舌に長けていないレミリアは、いつだって輝夜に敗北していた。
「あいつ、姫の癖に口が達者すぎるのよ。平安の貴族というのは、どいつもこいつもあんな感じだったのかしら」
「いえ、おそらくは永遠亭で切磋琢磨して磨き上げたものだと思います。あそこはその、いわゆる伏魔殿みたいなものですから」
 レミリアが頂点に君臨する絶対君主制の紅魔館とは違い、永遠亭はこれといった君主が存在しない。
 姫たる輝夜が君主だと本人と永琳は主張するのだが、いかんせん部下の兎達はそう思っていないようだ。
 なので、頻繁に革命や下克上が起こるらしい。
 一度だけ、因幡てゐが君主になった時などは「キャラ付けを強くするために、兎、人間問わず、これからは語尾にウサを付けるウサ」という規律を作ったとか。
 勿論、三日で天下は終わったのだが。
「紅魔館もあんな感じにしようかしら」
「したとしても、お嬢様と対等に戦えるのは妹様ぐらいだと思いますが。まあ、その前に紅魔館が崩れるかもしれませんね。お二方の戦いとなると、どうしても弾幕ごっこになってしまいますから」
 言われてみれば、自分とフランが大人しく口喧嘩をするとは思えない。
 どうしたって、最終的には周りに被害を及ぼしてしまうだろう。それも壮絶な。
 寝るところもなく、寒空の下で凍える自分を想像して、レミリアは顔をしかめた。
「現状維持が一番ね」
 偽りのない、心のからの感想だった。










 冷たい門を背中に、うつらうつら船を漕いでいると、ふいに人の気配を感じた。
「あれ、咲夜さん? どうしたんですか、こんな時間に?」
「どうしたもこうしたも、もうとっくに夜明けよ」
 山の方を見れば、確かに太陽が僅かに顔を覗かせていた。
「不思議ね。しっかりと門番をしているはずなら、そんな質問なんてしないはずなのに」
「い、いや、あの、その、寝てないですよ! もうバッチリ目が覚めてました」
「涎がついてるわよ」
「え、嘘」
「うん、嘘」
 古代から使い古された手だが、現代においても有効らしい。
 額に刺さったナイフが授業代となった。本日二本目の授業代だ。
「門番が寝ているようじゃ、ここの警備がザルだって噂されても仕方がないことね。今後は湖の妖精達が、遊びにこないぐらい厳しい警備を敷きなさい」
「えー、でも妖精が遊びに来るぐらいいいじゃないですか。害があるわけでもないし」
「妖怪達になめられるでしょ。それに、害がある奴だって通しているじゃない」
 美鈴の脳裏に、黒い魔法使いの姿が浮かぶ。何度も挑んでは敗北し、最近では挑むのも面倒なので素通ししている奴だ。
「あれはまあ、彗星みたいなもんですし。一種の行事だと諦めません?」
「パチュリー様にそう説明できるのなら、それで納得してもいいわよ」
 薄氷のような冷たい笑みを浮かべる咲夜。
 どこか挑発的な態度だが、迂闊にのってパチュリーに同じ台詞を吐こうものなら、凍えた体が温まるだろう。ロイヤルフレア的な意味で。
 トカゲやヤモリじゃあるまいし、魔女に焼かれる趣味は無い。ずれた帽子を直しつつ、美鈴は門から背を離す。
「わかりました。この紅美鈴、心を入れ替えて、粉骨砕身の覚悟で職務に当たらせてもらいます」
「……わざとらしい言い方ね。試しに、粉骨砕身させてもいい?」
 無言で首を左右に振る。
 口調は冗談混じりだったが、目は鋭く、殺気立っていた。
 このままではマズイ。本能的に危険を察知した美鈴は、話題を逸らすことにした。
「そ、そういえば、こんな朝早くからどうしたんですか? お嬢様はもう寝られたはずですし」
「門番がサボってないか、見張りにきたのよ」
 回り道してもゴールは同じだった。
 思わず顔が強ばる。
 ナイフの追加も覚悟したのだが、意外にも聞こえてきたのは風を切るナイフの音ではなく、どこか楽しそうな咲夜の笑い声だった。
「咲夜さん?」
「冗談よ。今日は朝市の日だから、里の方へ早くから行かないといけなかっただけ。私だって暇じゃないんだから、一々あなたの様子なんて見にこないわよ」
 助かった気もする反面、なんだか酷い事を言われているようで気分は複雑だ。
 唇を尖らせる美鈴を見て、咲夜は我慢できず、噴き出した。
「もっとも、あなたのそういう表情は仕事の息抜きとして楽しみにしているんだけどね。ふふっ」
 ひとしきり笑い終えた後、咲夜はいつもの真面目な表情に戻った。
 笑われるのは不本意ではあったが、少女らしい咲夜の笑い顔が見られるのなら、また笑われてもいいかもしれない。
 里の方へ向かう咲夜の背中を見て、美鈴はそんな事を思っていた。










 目を覚ました瞬間から気づいていた。
 外見年齢が幼いとはいえ、実年齢は咲夜の数十倍もあるレミリアだ。
 表層的な部分ならば、一目見ただけで相手の心情を読みとることだって出来る。
 ましてや、それが従者の事であるなら尚更だ。
「おはようございます、お嬢様」
 いつもながらの卒のない声。だが、どこか違和感を感じる。
 時計の針が時刻を刻むような声に、僅かな苛立ちが混じっているのをレミリアは聞き逃さなかった。
 開口一番、レミリアは微笑を浮かべつつ尋ねる。
「あなたは、何に憤っているのかしら?」
 一瞬だけ驚いた顔をする咲夜。
 手に持っていた水差しを落としそうになるほど動揺していた。
 しかし、その表情もすぐに困ったような顔へと変わる。
 レミリアが咲夜を知り尽くしているように、咲夜もまたレミリアの事を知り尽くしていた。
 自分の主が従者の動揺を見逃さない器だと、咲夜は知っていたのだ。
 しかし、だからといって話すわけにはいかないらしい。
「詮なき事です。主に愚痴を零すわけにはいきません」
「あら、勘違いしたら駄目よ。これから咲夜が話すのは愚痴ではなく報告。だから、主に話すのは至極当然のこと。むしろ、言わない方が職務怠慢だわ」
 レミリアの詭弁に、咲夜も観念した顔で口を開く。
 主がそう言う以上、従者に反論する権利など無かった。
「実は、朝市でこの時計を落としまして」
 咲夜が取り出したのは、金色の懐中時計。
 レミリアと出会う以前から、咲夜が肌身離さずもっていた代物だ。
「大切な物なんでしょ。それを落とすだなんて、あなたらしくないわね」
「どこで落としたのかはわかりませんが、確かに私らしくない失態でした」
 後悔しているのか、咲夜はあからさまに肩を落とした。
「勿論、無くしたままでいるわけにはいきません。ですので市場中を探したのですが見つからず、途方に暮れていた所にあの男が!」
 急に語気を荒げる咲夜に、レミリアは目を丸くした。
 これほど憤った咲夜を見るのは、これで二度目だ。
 ちなみに、一度目は自分と戦っていた時。
 色々と過去について突いてみたら、鬼も逃げ出す程の怒気をぶつけられた。
 それに匹敵する怒りを覚えるとは。どうやら余程腹に据えかねる事があったらしい。
「し、失礼しました。思い出しただけで怒りが込み上げてきたものですから」
 顔を赤くしながら、慌てて咲夜が頭を下げる。
 瀟洒な従者をここまで動揺させるなど、一体どのような男なのだろう。
 少しだけ、話の先が楽しみになった。
「構わないわ。続けて」
「はい」
 咳を一つして、咲夜は再び口を開いた。
「端的に言ってしまえば、その男が私の落とした時計を拾ってくれたのです。それで持ち主を捜していたら、ちょうど辺りをキョロキョロしていた私が見えたので、ひょっとして落とし主ではないかと声をかけてきました」
 多少は頭の切れる男らしい。
 面白くなってきた。
 そうでなくては、この十六夜咲夜という従者の感情を揺るがすことなど出来るわけがない。
 レミリアはまだ櫛が入っていない髪を掻き上げ、唇の周りをぺろりと舐めた。
「最初は私も素直にお礼を言ったのですけど、あろうことかその男! わ、わたしの懐中時計を古いと貶めまして、しかも良かったら直してあげようかなどと!」
 さて、古いという発言ならともかく、修理してあげようかという言葉が不快に感じられるものか。
 吸血鬼的に考えても、それはただの親切にしか聞こえない。
「確かに、最近時計の調子が悪かったのは事実です。だからといって、見ず知らずの赤の他人に命よりも大切な時計を触らせるなど、出来るわけがありません!」
 次第に熱が籠もる咲夜の言葉に、ふとレミリアは面白い事を考えた。
「なるほど。命より大切な時計を触らせるなんて、それはさぞや不快だったわね。ねえ、咲夜。良かったら私にその時計を貸してくれないかしら?」
 日光を透き通らせるかのように、白く透明な手が咲夜へ伸びる。
 他人に触らせたくないと言った側から、この発言。試しているのは、自明の理だ。
 しかし、咲夜は即座に時計をレミリアに渡した。
 あまりの決断の早さに、さすがのレミリアも二の句が継げない。
 手のひらに置かれた時計から、雛菊のように微笑む咲夜へ視線を移す。
「渡さないとお思いでしたか?」
「咲夜なら渡すだろうとは思っていたわ。でも、こんなに反応が早いとは思わなかった。少しぐらいは迷ってもいいんじゃない?」
 咲夜はクスリと笑い、言った。
「簡単な事です。私にとっては、自分の命よりもお嬢様の方が大事なだけ。そのお嬢様の命令とあらば、聞かないわけにもいきません。迷う必要など、どこにもありませんから」
 装飾過多のグラスを手に取る。
 すかさず、咲夜がグラスに水を注いだ。
 血と違って無味無臭の液体が、レミリアの喉の渇きを潤す。
「甘いわね」
「ただの水ですが」
「あなたの世辞がよ」
 そう言って、咲夜にグラスを手渡す。咲夜は変わらぬ笑みで答えた。
「事実ですから。我慢してください」
 舌先に残った水が、本当に甘くなったような錯覚に陥る。
 それが何を意味するのか。わかってはいたが羞恥心が邪魔をして、それ以上の思考は不可能だった。
 せめて威厳だけは保たなくてはと、レミリアは顔が赤くなるのを堪えるように、口を固く紡いでベッドから降りる。
 その背中に、咲夜は語りかけた。
「お嬢様に命を救って貰った日から、私は人であることを捨て、月になりました。吸血鬼と切っても切り離せない関係の月。私とお嬢様の関係は、月と吸血鬼の関係なのですよ。ですから、お嬢様。心配なさらなくとも、私はあなたを裏切らない」
 不意打ちである。
 そんな言葉を真剣に言われては、反応すらできやしない。
 咲夜はその後にクスクスと笑っていたが、レミリアは全て聞こえない事にした。
 そうでないと、赤面した顔を見られてしまう。
 最後のプライドは、守らなくてはならなかった。










 紅魔館の台所を預かるのが咲夜だという事を、知らないメイドはいない。
 一応は調理担当のメイドもいるのだが、今となっては咲夜の手伝い程度でしか活躍していなかった。
 もっとも、当人達は楽が出来るからと喜んでいたが。
 つまり、咲夜がいなければ台所を仕切る者がいないということ。
 したがって美鈴の暗躍する時間は、咲夜がいなくなってからという事だ。
 足音や気配を消して、台所に忍び込む。
 メイド如きの力では、美鈴の影すら見つけることはできないだろう。
 忍んでも門番。その程度の力は持ち合わせている。
 お喋りに花を咲かせるメイド達から隠れ、ようやく冷蔵庫にたどり着いた。
 大所帯の紅魔館だけあって、その大きさも半端ではない。
 伝説になりかねない巨大北極熊だって、優に詰め込めるほど大きかった。
「あっ、ソーセージ発見」
 しかして、どんなに大きくても相手は物である。
 反抗してこないのだから、中身を取り出すのも楽勝だ。
 戦利品を剥きながら、冷蔵庫の扉を閉める。
 このぐらいの大きさともなると、ただ氷で冷やせばいいわけでもない。
 外の世界では電気を使って冷やしているらしいのだが、さて。
 この冷蔵庫はいかなる手段で中を冷やしているのか。
 ソーセージを頬張りながら、美鈴はそんなどうでもいいことに頭を悩ませた。
 大方、パチュリーの魔術が関係しているのだろうと結論づけたところで、いきなり肩を誰かに掴まれる。
「ねえ、美鈴」
 一瞬咲夜かと思ったが、彼女は今日も朝市に出ている。
 ただ、時間を考えればそろそろ戻ってきていてもおかしくはない。
 接触の悪い人形のようにぎこちなく、美鈴はゆっくりと後を振り返る。
 レミリアだった。
「おっ、お嬢様!?」
 もうすぐ夜が明けようというのに、どうしてこんな台所にいるのか。
 稀に昼間でも活動することはあるが、そういう時は代わりに前日の夜に睡眠をとっている。
 その前兆を察知して、咲夜は日傘などを用意しているのだ。
「ど、どうしたんですかこんな時間に。昨日は夜も活動されていたんでしょう。ほら早く寝ないと、日が昇って来ちゃいますよ」
 しどろもどろな説得をしつつも、さりげなくソーセージを背中に隠すことを忘れない。
 盗み食いをしていたとわかれば、文字通り容赦ない責め苦が待っているかもしれないのだ。
 手加減をしない咲夜よりも、慈悲を知らないレミリアの方が恐ろしい。
 必至になって誤魔化す美鈴であったが、残念なことにレミリアの目は食べかけのソーセージを見逃しはしなかった。
 僅かに眉を顰めるが、すぐに呆れた表情に変わる。
「まあ、いいけどね。そんなに隠さなくても怒りはしないわよ」
「へっ?」
 間抜けな声を出してしまう美鈴。
「ワインや血にさえ手を出さなければどうでもいいわ。勿論、好きにしろってことじゃないけど」
 以前、レミリアが機嫌を損ねたのはお気に入りのワインに手をつけたからであった。
 嗜好品であるワインと、生命線である血を横取りされる事だけは許せないらしい。
 その事がわかり、美鈴はほっと胸を撫で下ろす。
「それよりも、咲夜を見なかったかしら? 館の中を探したのだけれど、どこにも見あたらないのよ」
「ああ、咲夜さんだったら朝市に行ってますよ。でも、そろそろ帰ってきても良い時間だと思うんですが。見かけたらお嬢様が捜していたとお伝えしますね」
「頼んだわ」
 そう言い残し、レミリアはキッチンから姿を消した。
 ここまで大仰に会話をしていれば、さすがに調理担当のメイド達だって気がつく。
 レミリアからの折檻は避けられたものの、彼女らからの厳しい視線を避ける事はできない。
 苦笑いしつつ、逃げるように外へと飛び出した。
 手にはソーセージ。その辺りの抜け目の無さは、さすがと賞するべきか。
 息を切らせることもなく、全速力で門へと戻ってきた美鈴。
 魔理沙よろしく盗んできた品物は、既に全部お腹の中であった。
 咲夜の前でソーセージを頬ばれるほど、美鈴の神経は焼き切れていない。
 背筋を伸ばしながら、湖の向こうを遠く眺める。
「それにしても、咲夜さん遅いなあ。普段なら、もう帰ってる頃なのに。何かあったのかな?」
 しかし、あのメイド長に何かあった光景など想像することができない。
 タチの悪いスキマ妖怪に絡まれたとか、それぐらいじゃないと足止めを喰らうこともないだろう。
「悪かったわね、私だってちょっとぐらいミスすることもあるのよ」
「うわっ! 咲夜さん!?」
 気が付けば、いつのまにか隣に噂の十六夜咲夜が立っていた。
 自分の想像の中から抜け出したきたのかと、思ってしまうぐらい唐突な登場である。
 大方、時間を止めていたのだろうけど。
「トラブルがあったのよ。それで、思ったより時間をとられて……」
 地面に座り込んでしまった美鈴の手をとりながら、咲夜はそう弁解する。
 まさか、本当にスキマ妖怪に絡まれていたのだろうか。
「だけど、そんなに心配することじゃないわよ。ただちょっと、関わりたくない奴に関わっていただけ」
 それでピンときた。
 以前の朝市での出来事は、レミリアから話を聞いている。
 咲夜が、必要以上に憤っていたことも。
「ひょっとして、また時計を見せてくれって言われたんですか?」
 美鈴も何度か見せて貰ったことはあるが、その度に軽く殺気じみた目で睨まれた。
 触る事を不快に思っていたわけではなく、単に壊したら本当に殺すという警告だったのだろうけど、生きた心地はしなかった。
 だからこそ、レミリアから話を聞かされた時は馬鹿な奴だと苦笑した。
 あの懐中時計は、咲夜にとって命と同じぐらい大切なものなのだ。
 見ず知らずの他人が触れば、それこそナイフの餌食だろう。
「見せてくれっていうか、直させてくれって頼まれたのよ。それであまりにしつこいから、ナイフを首筋にはわせて、この状態のままで修理できるならいいわよって」
 恐ろしいメイドである。
 少なくとも美鈴なら、その時点で土下座している。
「まあ、それだけやれば二度と付きまとってこないでしょうね」
「いや、それがその……」
 急に、返事の歯切れが悪くなる。
 視線はどことなく中を泳ぎ、気まずそうに咲夜は口の端を引きつらせて言った。
「そいつ、それでもいいから直させてくれって。さすがに言い出した手前、後にひくわけにはいかなくて、こんな時間に……」
 なんという。
 美鈴は絶句した。
 紅魔館に入ってきた時からの付き合いである美鈴でさえ、咲夜の殺気じみた視線を一分も浴びたくはないというのに、首にナイフを突きつけられて作業しろだなんて。
 正気の沙汰とは思えない。
 本当に相手は人間なのか。
 疑いの気持ちすら沸いてくる。
 咲夜は懐から懐中時計を取り出した。
 以前はぎこちなく時を刻んでいた時計だったが、今は軽快なリズムで気持ちよさそうに動いている。
「でも不調なままよりかは、快調な方が良いでしょう。それに、これでもう付きまとわれる心配もないわけだし。これはこれで良かったのよ。それじゃあ、私はお嬢様のところに行くから。サボらないように」
 矢継ぎ早に説明したかと思えば、再び咲夜の姿は消えていた。
 文字通り、忽然と。
 懐中時計を見ながら、嬉しそうに微笑む咲夜の姿を思い浮かべる。
 美鈴は頭を掻きながら、呟いた。
「う~ん、まっいいか」
 悩みを打ち消すその言葉は、事態の変化にいち早く気づいたのが美鈴であることを示していた。










 本の密林とも呼ばれる、大図書館。
 あちらこちらを本を抱えた小悪魔やメイド達が飛び回り、そこらかしこで埃が舞い散っては掃除担当のメイドが四苦八苦している。
 これで窓でもあれば、差し込む日光で埃が多少は美しく見えるのだが。
 本の傷みが早くなるという理由で、図書館の主は窓を設置していない。
 吸血鬼たるレミリアからしてみればありがたい話なのだが、その理由が本の保存というのは少し複雑な気持ちである。
「ねえ、パチェ」
 レミリアは対面のパチュリーに声をかけた。
 古びた樫の椅子に座るパチュリーは、黙々と妖しげな文字の書かれた本に視線を落としている。
 こうしていると、魔女という単語がよく似合う。
「聞いてるの、パチェ」
 まるで間に防音ガラスがあるかのように、パチュリーはレミリアの言葉を無視してページを捲る。
 小悪魔が抱えた本を落としても、眉毛一つ動くことはなかった。
 大したものである。
 この集中力を乱せるとしたら、どこぞの黒い魔法使いしかいない。
 まあ、パチュリーからしてみれば、ただの黒い泥棒なのだろうけど。
「パチェ?」
 対面に座るレミリアは、小鳥でも扱うように優しい手つきで、パチュリーの読む本をつついた。
 聞こえてはいたのだろう。パチュリーは溜息をつき、おもむろに顔をあげた。
「なによ、レミィ。読書の邪魔をしないでくれる」
 不快な表情で睨まれるも、レミリアは気にした風もなくテーブルに顎をつける。
「最近、咲夜が妙に嬉しそうだと思わない?」
「もう少し人の話を聞いた方がいいわよ」
「人なら聞くわよ。でも、魔女なら問題ないでしょ。魔女なんだから」
「強引ね」
 それで会話を切り上げたつもりなのか、パチュリーは再び本へ視線を戻した。
 しかし、それを許すレミリアではない。
 さながらグングニルを投げ放つかのように、思い切り本をつついた。
 貧弱な魔女の力では抵抗しきれず、本は見事に彼方へと飛んでいく。
 クリティカル。飛行中の小悪魔にヒットした。
「あのね……私はただでさえ普段から読書する機会に恵まれていないの。夜は研究に当てたいし、昼は邪魔者が来るし。だから邪魔者が来ない間だけが、私の読書タイムなの。友人なら理解できるでしょ?」
「友人だからこそ、相談にのってくれるべきだと思わない?」
「傍若無人ね」
「友人よ」
「なら、傍若友人ね」
「相談にのってくれるのなら、それでもいいわ」
 狂気に関してフランの右に出る者がいないように、我儘に関してレミリアの右に出る者はいない。
 長年の付き合いだけあって、パチュリーもレミリアが引かないことを察知したらしい。
 青白い顔を更に白くして、肩を落とした。
 死刑宣告された病人のようである。
「それで、何だったかしら?」
「咲夜のこと」
「ああ、そうそう。妙に嬉しそうだって言ってるけど、別に何も問題はないでしょ。咲夜だって人間なんだから、機嫌の良い日だってある」
 それはそうなのだが、あの笑顔が妙に引っかかるのである。
 美鈴は何か知っていそうだったが、白々しく惚けるばかり。
 あの門番だけは敬う気持ちが足りないと、改めて再確認させてもらった。
「でも、そんなに気になるのなら咲夜に聞けばいいじゃない。あなたの命令なら、絶対に聞くでしょ。従者の管理も主の務め」
「……そうなんだけど」
 勿論、それが最適な手段だとレミリアもわかっている。
 だから何度も尋ねようとしたのだけれど、その度に声が出なくなるのだ。
 何かの病気に罹ったわけではない。
 強いて言うなら、今は微かな危険を察知して様子を見ている状態なのだ。
 迂闊に手を出せば、何かが爆発するような気がする。
 だから万全を期すために、手を出さないでおこうとしている。
 だから声を掛けられない。
 急に黙りこくるレミリアを、パチュリーは怜悧な視線で見下ろした。
「ひょっとして、恐いんじゃない? 咲夜に尋ねて、答えて貰えないことが」
「な……そんなわけじゃない。咲夜ならきっと、私が何を聞いても答えてくれるはず」
「きっと、ね。いつのまにか絶対では無くなっている。確信から希望に変わっているわよ、レミィ」
 顔を真っ赤にして、レミリアは椅子から立ち上がった。
 そして長年の友人を睨みつける。
 彼女の言葉が正しければ、レミリアは単に咲夜から裏切られるのを恐れて声を掛けていないようにとれる。
 病気には罹っていたと言うのだ。
 臆病風という、誇り高き吸血鬼が最も避けるべき病気に。
 そんな主張を認めるわけにはいかない。
 殺気立つレミリアに、小悪魔達も何事かと作業の手を止めた。
 しかし、当のパチュリーは涼しい顔で、真正面からレミリアの顔を見つめている。
 パチュリーの方が椅子に座っているにも拘わらず、レミリアは自分が見下ろされているような錯覚を覚えていた。
「私は咲夜を恐れてなどいない。咲夜は月。月と吸血鬼は、切っても切り離せない関係なのよ」
 かつて咲夜は、自分を月だと称した。
 吸血鬼は月夜の晩に活動し、満月にその力を発揮する。
 月と吸血鬼は深い絆を持ち、自分とお嬢様もそういった関係にあるのだと。
 レミリアはその言葉を信じていた。
 だからこそ、咲夜は自分を裏切らないと確信している。そのはずだった。
 だが、パチュリーはレミリアのそんな考えを一笑する。
「何を勘違いしているの? 咲夜は人よ。月じゃない。感情だってあるし、誰かを裏切ることだってできるのよ」
 歯を噛みしめる。
 咄嗟に手が出そうになったが、すんでのところで理性が止めた。
 ここで暴力を振るようなら、それはパチュリーの言い分が正しいと認めてしまう。
 それだけは、絶対に避けないといけない。
 赤い殺気を身体中から放ちながら、レミリアは踵をかえす。
 これ以上は、どちらにとっても不幸な結末しか招かない。
 理性の残っているうちに、ここを去るべきだと考えたのだ。
 コウモリのような羽を広げ、言葉を掛けることなくレミリアは飛び去っていった。
 その背中に向かって、パチュリーが呟く。
「それを理解していない、あなたじゃないでしょ」










 門番という職にあると、どうしても他人の細かな変化に目がいってしまう。
 門番は客を選別し、招かれざる客を追い出す役目も持っているのだ。
 ある意味、職業病と言っても過言ではない。
 だが、さすがに今の咲夜の変化は門番でなくとも察することができる。
 足取りは妙に軽いし、手にはバスケット。
 メイド服さえ着ていなければ、これからピクニックだと勘違いしてもおかしくはない。
「咲夜さん」
「あら、どうしたの?」
 無粋かとは思ったが、一応訊いてみる。
「何処へ出かけるんですか?」
 買い出しというには、中途半端な時間帯だった。
 朝市をやっているわけでもないし、店の人間だって朝食を終えた頃だろう。
 だからこそ、どこへ行くかは見当がつくのだが。
「ちょっと、届け物に」
 そう言ってバスケットを掲げる。
 やっぱりかと、美鈴は溜息をついた。
「懐中時計のお礼ですか?」
「何よ、わかってるんじゃない」
 ここ数日の様子を鑑みれば、わからない方がどうかしている。
 現に美鈴は、何度かそのバスケットの中身の試食をやらされているのだ。
 おかげで口の中が甘ったるいまま、門の前で立ちっぱなしだった事もしばしばだ。
 それに加えて、最近の咲夜の会話の大半は、その男性の事で占められている。
 まあ大概は悪口に近いものだったが、あまりに同じ事を繰り返すので、新手の嫌がらせかとも思ったぐらいだ。
「上手に焼けたから。これなら謝礼としても充分でしょ。曲りなりにも私の命とも言える懐中時計を直したんだから、このぐらいの事をしなくては失礼よ」
「そうですか……」
 少女のように笑う咲夜を、美鈴を複雑な気持ちで見ていた。
 笑顔が増えるのは良いことだがしかし、それは自分の手によるものではない。
 見知らぬ誰かの功績であり、自覚こそしていないものの咲夜も惹かれつつある。
 喜んであげたいのは山々だったが、結末が予想できるだけに素直に祝福しづらい。
「喜んで貰えるといいですね」
 だが、ここで咲夜の気持ちを壊すわけにはいかない。
 薄っぺらい笑みを浮かべて、美鈴は口先だけの激励を送る。
 軽い嫌悪感に苛まれながら、自分がいかに汚い妖怪だったのか再確認した。
 せめてもの救いは、咲夜が美鈴の胸中に気づかなかったことぐらいだろう。
 機嫌が良いことを隠すように照れながら、そうね、と返した。
 そして里へ向かう咲夜。
 どことなく陽気な雰囲気が漂う咲夜の背中を見て、改めて決断の時が近いことを知る。
 レミリア、咲夜、そして自分。
 それぞれがどんな決断をするのかはまだわからないが、必ず誰かが不幸になることだけはわかっている。
 だけど、時の流れは選択を先延ばしにはしてくれない。
 来るのだ、必ず。
 祝福と妨害の選択をする日が。
 今のところ、美鈴の中にその答えは無かった。










 パチュリーとの口論の苛立ちも取れぬまま、幾日もの日が過ぎた。
 炎か氷であるならば、時間と共に小さくなるものだが、生憎と苛立ちは日を増す事に大きくなっていく。
 紅魔の夜。
 その日も、レミリアは起きがけから非常に不快だった。
 乱暴に目を擦りながら、窓の外を見る。
 今宵の月も曇天に覆われ、それがまたレミリアの不快指数を高めていった。
「咲夜、今日は気分が悪いから屋敷で過ごすことに……」
 当たり前のような口調で話しかけるが、寝室の中に咲夜の姿は無い。
 いかなる手段で察知しているのかは知らないが、咲夜はいつだってレミリアが起きればすぐ側にいた。
 ひょっとしたら、寝ている間もずっと側で立っているのではと思うほどだ。
 だから今日も居るはずだと思っていたのに。
「咲夜?」
「も、申し訳ありません、お嬢様。すぐに用意を致します」
 瞬きする刹那の時間、幻のように咲夜が現れる。
 時間を止めて来るなど、よっぽど慌てていた証拠だ。
「何をしていたの?」
「少し仕事に手間取っていまして。申し訳ありません」
 何度も謝罪を繰り返す咲夜に、レミリアは顔をしかめた。
 器量ある主ならここで許してやるものかもしれないが、何故だかとても腹が立つのだ。
 ベッドから降りながら、レミリアは咎めるように目を細くする。
「最近、仕事が雑になっているわよ。浮かれるのは結構だけど、職務を疎かにしていいわけじゃないわ。紅魔館のメイド長としての立場を忘れないように」
「了解しました、お嬢様」
 だが、それから食事の席に着くまで、咲夜の仕事ぶりはどことなく劣っているような気がした。
 普段が普段なだけに、少し力を抜けば手抜きに見えてしまうのは仕方のない事だ。
 瀟洒な従者だって完璧なわけではない。そういう日だってある。
 しかしながらその日の咲夜の仕事は、苛立ちを抜きにしたとしても目に余るものだった。
 言われなければグラスに水をつがず、着替えの時だってもたついて時間が掛かった。
 歩きながらも気はそぞろで、視線はいつだって屋敷の外を向いている。
 レミリアの命を狙う刺客がやってきたとしても、今の咲夜なら見逃してしまうかもしれない。
 そんな馬鹿げた考えが思い浮かぶほどだ。
 前菜が運ばれてくる頃には、レミリアの理性も我慢の限界に達していた。
 従者に苛立ちをぶつけるなど、無能な主のすることだと抑えてきたのだが、これはあまりにも酷すぎる。
「はぁ……」
 レミリアの側に付き添いながら、重いため息をつく咲夜。
 本来ならレストランのボーイのように、主人の一挙手一投足に目を凝らしてないといけないのだが、その視線はどこか遠くを眺めるばかり。
 試しにフォークを落としてみたが、注意するまで気がつかなかった。
「溜息ばかりつかないで頂戴。食事が不味くなる」
「あっ、申し訳ありません」
 さて、今日だけで何度咲夜の謝罪を見てきたか。
 いい加減、つむじを見るのも飽きてきた。
 実は美鈴が化けているのですと言われても、今なら容易に信じる事ができるだろう。
 いや、美鈴の方が幾ばくかマシか。
 少なくともレミリアから注意を外すことはしない。
 レミリアの苛立ちは起きた時の二倍に達しようかという勢いで、食堂の中は静電気が十万しているのではないかというぐらいピリピリしていた。
 食事を運んでくるメイドが、来る度に体を震わせて帰っていく。
 これは久々にきつい灸を添えなくてはならない。
 レミリアがそう思い始めた時に、その事件は起こった。
 空っぽのグラスを差し出し、慌てて咲夜がワインボトルを手に取る。
 しかし余程慌てていた為か、ボトルは咲夜の手の中から離れ、レミリアの膝の上に着地した。
 反動で、中身の液体が辺りに飛び散る。
「お、お嬢様!」
 薄いピンク色のドレスが、血を零した時のように赤く染まる。
 自分の過失なら許せるが、従者の失態となると話は別だ。
 レミリアは無表情で、赤いシミが広がるドレスを見下ろしていた。
 一方の咲夜は子供のように慌てふためき、終いにはテーブルのクロスでドレスを拭こうとしている。
 何もかもが、滑稽だった。
 レミリアは無造作に右手を振るい、テーブルの上の料理をひっくり返す。
 豪華な食事は見る影も無く、赤い絨毯の上で残飯となった。
「食欲が失せたわ。片づけておきなさい」
 淡々とした声で告げる。
「それと、代わりのメイドを私の部屋に寄越しなさい。当分、あなたの顔は見たくないわ」
 咲夜は身体をビクリと震わせ、わかりましたと消え入るような声で答えた。










 咲夜のワインひっくり返し事件は、瞬く間に紅魔館の中を駆けめぐった。
 だから外だけでなく、内部にも目を光らせる門番としては知らないわけにもいかなったわけで。
「あっはははははは、いやぁ咲夜さんは凄いなあ。私だったら恐くて泣いてましたよ」
 小悪魔から話を聞かされた時と同じリアクションを、本人の前で披露する。
 ナイフの代わりに、軽蔑するような眼差しが飛んできた。
「笑い事じゃないでしょ。本当に、ショックだったんだから」
 膝を抱えて門に背を預けるその姿は、紅魔館にやってきた頃の咲夜を思い起こさせる。
 あの頃の咲夜も、度々失態をやらかしてはお嬢様に叱られ、こうして門で暗い顔をしていた。
 最初から完璧な人間などいない。
 それが年若い少女であるなら、出来ない事の方が多いのは当たり前だ。
 今の技術を身につけるまで、どれほどの時間を落ち込むことに費やしたのか。
 郷愁が胸をよぎり、美鈴は目尻に溜まった涙を拭いながら、笑いすぎで乱れた呼吸を整える。
 雰囲気を陽気にしようと無理して笑っていたのだが、いつのまにか本当に笑っていたらしい。
「でも、そんなに落ち込むことは無いと思いますよ。人間、誰だって失敗の一つや二つはするんですから。むしろ、咲夜さんは失敗しなさすぎです。これまでの失敗分を取り戻しているんだと思えば、まだまだ失敗してもお釣りが来るぐらいですよ」
「ありがと。一応、褒められてると思っておくわ」
「いや、褒めてるんですけどね。私なりに」
 笑顔の戻った咲夜は、意地悪そうな顔で言った。
「あなたは失敗してばかりだけど」
「私は妖怪ですから。人間の理論は通用しません」
 えっへん、と胸を張る美鈴。
 自信満々に言うような事ではない。
 咲夜も呆れ顔で頬を掻いている。
「そこまで元気だと、こっちも元気になってくるから不思議ね」
 腰を上げ、スカートについていた砂埃を払う。
 ベッドドレスを整え、緩んでいた頬を引き締める。
 それだけで、いつもの十六夜咲夜が戻ってきた。
「相談にのってくれて助かったわ。とりあえず、今日はお嬢様にばれないように作業するしかないわね」
 引き締まった表情を見る限り、また同じようなミスをすることもないだろう。
 良い意味でも悪い意味でも、今の彼女は気持ちを入れ替えていた。
 だから、本来なら口にすべきではなかったのだろう。
「誰のことを、考えてたんでしょうね」
「えっ?」
 整った顔が、一瞬にして唖然としたものへ変わる。
 言うべきではない。
 わかってはいたが、刺激しなければ何事も始まらない。
 例え、全て人間が不幸になろうとも。
 前へ進むためには、多少強引でも背中を押さないといけないのだ。
 自分の心中すらわからないまま、美鈴は強引に事を進める。
「咲夜さんは、誰のことを考えながら失敗したんでしょうかね」
「誰って……特には考えてないわ」
「お嬢様でもないし、パチュリー様でもないし。ましてや私であるはずがない」
「美鈴?」
 なるべく咲夜の方を見ずに、何気ない口調で言う。
「あの男の人が、好きなんですか?」
 その一言で、咲夜の顔から表情が消えた。










 真紅の絨毯の上を、踏みつけるようにレミリアが歩く。
 絨毯に意志があるならば、悲鳴をあげているほど乱暴な足取りだ。
 咲夜を側から離して早一週間。
 その間にレミリアが怒鳴りつけたメイドの数は二十を超える。
 単純計算で一日に三人は怒鳴っていた。
 無理もない。
 紅魔館のメイドは、本来それほど優秀ではないのだ。
 しかも比較対照は咲夜。
 色鮮やかな花を目にしていたものが、急に普通の花に満足できなくなるようなものだ。
 自分から遠ざけておいて何だか、心中としては早々に咲夜に戻って欲しかった。
 しかし、事はそう簡単ではない。
 一度開いてしまった溝は、容易に埋まるものではない。
 特にそれが主従のものとなれば尚更だ。
 咲夜が謝ればいいものでもないし、レミリアが折れるわけにもいかない。
 解決には何らかのキッカケが必要になる。
 だが、そのキッカケが何かわからない。
 運命を操ればキッカケなどすぐに出来るだろう。
 もっとも、それではレミリアの方が折れたことになる。
 従者と仲直りする為に主が動くなど、あってはならないことだ。
 レミリアはそう思い、今日まで何もしてこなかった。
「でも、それも限界かもしれないわね……」
 色褪せた溜息をつく。
 足取りも急に、弱々しいものへ変わった。
 咲夜が側にいないせいか、この頃一人で愚痴る回数も増えてきた。
 パチュリーとも険悪なままだし、美鈴に愚痴るわけにもいかないのだから、当然といえば当然なのだが。
「よもや一週間も紅茶が飲めなくなるとは思わなかったわ」
 考えてみれば、咲夜が来るまではパチュリーとレミリアしか紅茶を容れられる者がいなかった。
 美鈴は中国系のお茶しか容れられないし。
 自分で容れてもいいのだが、それはそれで癪にさわる。我儘だった。
「どうしたものかしら……」
 鬱屈した声色で項垂れる。
 と、廊下の向こうからメイド達の話し声が聞こえていた。
 レミリアには気づいていないらしく、小鳥のように賑やかにさえずっている。
 注意してやろうかと思ったが、メイドの言葉に開き掛けた口も閉じる。
「本当だって! 確かな筋からの情報なんだから」
「でもねえ、俄には信じられないよねえ」
「そうそう、メイド長がプロポーズされただなんて。大体、相手は誰なの?」
「ん~、人間だってことはわかっているんだけど。どこの誰かまではちょっと……」
「ほら。その程度の情報じゃ、信憑性は薄いよね」
「確かに」
 五秒か十秒か。
 頭の中が空白で埋め尽くされる。
 そして不意に沸き上がる幾つかの単語。
 咲夜。人間。プロポーズ。
 メイド達が立ち去っても尚、レミリアはその場から動くことすらできなかった。
 目は夜空の月を嘲笑うように丸く開かれ、真紅の絨毯を焦がすように凝視している。
 身体は小刻みに震え、絞るように出てきた声は掠れていた。
「なんで……?」
 真実か虚偽かもわからないのだから、本当は動揺する必要などない。
 くだらない噂だと鼻で笑い、騒がしいメイドを怒鳴りつければ良いだけのことだった。
 それなのに、レミリアは。
「嘘よ……咲夜がそんな……人間と」
 思い当たる節など、出来の悪い竹のようにある。
 冷静沈着な咲夜を、あれほど憤らせた人間。
 それに加えて、この頃妙に嬉しそうだった咲夜。
 二人の間に何があったのかは想像できないが、咲夜の感情がどう動いたかは想像できる。
 現実にはなって欲しくなかったが。
 レミリアは拳を握りしめ、踵を返した。
 だが、すぐに立ち止まる。
 咲夜に会って、何を尋ねるのだ。
 まさか馬鹿正直に、「人間にプロポーズされたみたいだけど、了承するのかしら?」などと訊くつもりか。
 それに咲夜が答えてくれる保証などないのに。
 唇を噛みしめる。
 鋭い犬歯が、柔らかい唇を突き刺した。
 顎の上を、流れるように一滴の血がしたたり落ちる。
 認めざるを得ない。パチュリーの指摘は、正しかったのだ。
 レミリアには自信がなかった。
 今の咲夜が、自分の質問に答えてくれるという自信が。
 だからこそ、無意識に咲夜を側から離したのかもしれない。
 自分が拒否されるかもしれないという、あってはならない未来を避ける為に。
 運命を操れるレミリアのことだ。その程度の未来は予言できてもおかしくない。
 たとえ、そんな考えが露ほど浮かばなかったとしても。
 深層心理は感じ取っていたかもしれないのだ。
「………………………………」
 顎に溜まっていた血を拭う。
 そして、レミリアは再び踵をかえした。
 まだだ。まだ咲夜はこちら側にいる。
 取り返しがつかなくなるまで、まだ猶予はあるはずだ。
 本格的に猶予が無くなってから、私は動けばいい。
 それまでは、座して待つのが一番だ。
 下手に刺激をすれば、咲夜の背中を押すことになってしまう。
 今の私には、待つことしかできない。
 目を閉じ、いつのまにか乱れていた呼吸を整える。
 既に猶予が無くなっているという、最悪の事態を考えないまま。
 レミリアは再び真紅の絨毯の上を歩き出した。
 その足取りを乱暴と評するか、力無くと評するか。
 それは本人にもわからなかった。










 小悪魔経由の噂はいつだって五分の信憑性しかないが、今度ばかりは十割方間違いないと言える。
 なにせ、あの十六夜咲夜のナイフを首筋に突きつけられながら、精密作業をするような人間だ。
 プロポーズぐらいのことなら、やってもおかしくない。
 美鈴はあぐらをかきながら、夜空に浮かぶ月を見ていた。
 今日は満月。
 吸血鬼にとって最高の夜であり、人間にとっても明るく最高の夜である。
「猶予はもうないか。まあ、残り時間を早めちゃった妖怪の言葉じゃないけどね。ああ、早まったかなあ」
 咲夜が相手の気持ちに気づいても、自分の気持ちに気づいていなかったら、まだ若干の猶予はあったかもしれない。
 しかし、それが相思相愛となると、話は飛躍的に加速していく。
 ハッピーエンドであれ、バッドエンドあれ。
 コツン、と頭を門に打ち付ける。
 後頭部に鈍い痛みが走り、漏れ出しそうな溜息を引っ込めてくれた。
 相談される側が、暗い表情をしていてはいけない。
 気持ちを入れ替えねば。
 足音が聞こえてきた美鈴は、振り返ることなく、それが誰であるかわかった。
 長い付き合いだ。これぐらいの芸当は出来ても、不思議ではない。
「もう、会ってくれないのかと思ってました」
「不思議な事を言うわね。門番に会わずにどうやって外へ出るのかしら?」
「裏口とか」
「そこは泥棒専用よ。紅魔館のメイドは、正門から堂々と出入りしないといけないの」
「初耳です」
「いま決めたのよ」
 そう言って、いつぞやのように咲夜は膝を抱えて美鈴の隣に座り込んだ。
 表情は至って普通で、悲しそうでも嬉しそうでもない。
 美鈴の洞察眼をもってしても、今の咲夜の感情を察するのは不可能だった。
「月が綺麗ね」
「えっ、ああ、そうですね。今日は満月ですから、門番としても周りが見やすくて丁度いいです」
「どこまでも実務的なのね。ちょっとだけ見直したわ」
 久々に褒められた気がする。
 嬉しくもあるが、何故か少し物足りない。
 捻くれた感性に育ってしまったなと、自嘲の笑みがこぼれた。
 そしてそのまま二人は口をつむぎ、しばしの静寂が場に居座る。
 虫の鳴き声もピタリと止んでいた。
 季節ではないのか、それとも空気を読んだのか。
 後者だとすれば、後で餌でもあげなければ。
 林の中を見ながら、美鈴がそう思っている時だった。
「あの噂、耳にしているわよね?」
「ええ、一応は」
 咲夜とて、わざわざ一緒に月見と洒落こんできたわけでもないのだろう。
 おそらく、これが本題。そして出来ることなら避けたかった話題でもある。
 咲夜は腿のサスペンダーから、一本のナイフを取り出した。
 反射的に、美鈴は身を固くする。
 しかし咲夜はそれを投げるでもなく、月光を透き通すかのように月に掲げた。
 銀色の刀身が、淡い白光を反射する。
 ふと、美鈴はそのナイフの柄に目を遣った。
 普段から咲夜が持ち歩いているナイフと、些か異なっている。
 咲夜のナイフは実用性重視で細工など欠片も無いが、そのナイフには十六夜の月が彫られていた。
「変わった人よね。普通、プロポーズと言ったら指輪じゃない。それなのに、ナイフだなんて。私にはお似合いかもしれないけど、常識的な人間なら怒るわよ」
 指輪代わりのナイフといったところか。
 しかし、それが咲夜の手元にあるということは、
「咲夜さん、ひょっとしてプロポーズを?」
 苦笑しながら、咲夜は首を横に振る。
「これはただの贈り物。ナイフはもう一本あって、そっちの細工はあの人の名前からとった物が彫ってあるそうよ。それを受け取れば、今日から私も人妻ね」
 茶化して言うが、その口調に精彩は無い。
 ほっとする反面、心配でもあった。
 このまま悩み続け、決断をうやむやにしては誰もが不幸な結末を迎えるだろう。
 時は全てを解決してくれるが、それは情状酌量の余地もなく裁断するということである。 その為にはまず、自分から決断をしなくてはならない。
 いや、この期に及んで何を悠長な事を言っているのか。
 決断などとうに、あの質問をした日から出来ている。
 悩んでいたのは単に、走り出したにも拘わらず後ばかり見ていたからだ。
 前を見よう。咲夜と、自分と、レミリアの進む先を。
 美鈴は決意を固め、重い腰を上げた。
「咲夜さんが来るまでは、それはもう紅魔館は大変な毎日でした。掃除や調理が出来るのは私だけでしたし、紅茶が容れられるのはお嬢様とパチュリー様しかいない」
「美鈴?」
 怪訝そうな顔で咲夜は美鈴を見上げる。
「今でこそ他のメイドも多少は掃除や調理が出来ますけど、お嬢様を満足させられる紅茶が容れられるのは咲夜さんだけです」
 その言葉で、咲夜の表情が暗くなる。
 それは暗に、咲夜がいなければ紅魔館が機能しないと言っているようなものだ。
「紅魔館は咲夜さん無しじゃ動かないし、咲夜さんがいなければ明日にでも崩壊してしまうかもしれない」
「そうね、確かに私がいなければ紅魔館は――」
 咲夜は俯き、今にも泣きそうなほど弱々しい声で答えた。
 だが、しかし。
「なんて、言うと思いましたか?」
「えっ?」
 美鈴を見上げる咲夜の顔には、驚きと困惑の色が見て取れる。
「実は、パチュリー様から密かに紅茶を容れる特訓をしてもらっていたんです。咲夜さんには及びませんけど、あともう少しでお嬢様を満足させられるはずです」
 パチュリーは時間を取られることに嫌悪感を示していたが、最終的にはフライング土下座で無理矢理教えてもらうことに成功した。
「メイド達も頑張っていますし、今の紅魔館は咲夜さんがいなくても大丈夫。むしろ一人ぐらい多いかもしれません」
「で、でも私以外にお嬢様の側にいられるメイドは……」
 咲夜の心残りの一つである、自分いなくなった後の紅魔館については、これで取り払ったも同然である。
 しかし、これは元から大した懸念ではない。
 問題なのは、レミリアとの絆。
 命すら賭けられる二人の絆を引き裂く事は、容易ではない。
「考えてもみてください。その男性と出会った時の咲夜さんなら、プロポーズされて迷ったりしましたか?」
「それは、しなかったと思う。多分、激怒してナイフのサボテンにしていたわね。そう、私があの人に惹かれている事は確かよ。でも、お嬢様を裏切るわけにはいかない!」
「その人の気持ちを拒否することになってもですか?」
 反論しようと開けられた口からは、何も出る事がなかった。
 咲夜は悔しげに顔を歪め、美鈴から顔を背けた。
「咲夜さんが今まで、悩まずにいてこれたのは全ての事柄よりお嬢様の方が大事だったからです。でも、いまそこに対等の人物が現れた。いつだってお嬢様寄りだった天秤に、同じ重さの人間が乗ることで、咲夜さんは選ぶことができなくなったんです」
 そもそも、咲夜は何も選んではこなかった。
 当然だ。天秤はいつだって傾いているのだから、選ぶ必要など無い。
 全ての結論はお嬢様寄りであれば良いのだ。
「私は別に、どちらかを強制しているわけじゃありません。ただ、今回の天秤はどちらにも傾いていない事を知っていて欲しかっただけです。だから、いつものように無意識的にお嬢様を選んで欲しくない。咲夜さんの意志で、どちらかを取るのか決めて欲しい!」
 いつのまにか怒鳴るような声量になっていた。
 それほど、美鈴は咲夜の事を思っていたのだ。
 出来ることなら、咲夜には幸せになって欲しいと。
 それで、今まであった幸福が壊れたとしても。
 咲夜は顔を背けたまま、何も語らない。
 美鈴としても、言いたい事は全て言った。
 これ以上、何かを伝えるつもりはない。
 後は咲夜に任せる他なかった。
「随分と勝手よね。それだけ後押ししておきながら、後は私の判断に任せるだなんて。どっちを選んでも、完璧な幸福なんて無いのに」
「そ、それはそうですけど……」
 おもむろに立ち上がった咲夜は、十六夜のナイフをしまい込み、新たにいつものナイフを取り出した。
「これは偉そうな口をきいた罰よ!」
「痛っ!!」
 目視すら不可能のナイフは、見事に美鈴の額に突き刺さる。
 妖怪でなければ即死してもおかしくない。
 理不尽な罰だと文句をつけようとする美鈴。
 しかし、それは咲夜の笑顔で制される。
「そして、背中を押してくれたお礼よ。そのナイフはもういらないから、好きに処分してもいいわよ」
 咲夜なりのプレゼントとなのだろうか。
 それにしては、物騒な贈り物だ。
 なるほど、相手の男が指輪の代わりにナイフを贈ったのも頷ける。
 随分と、お似合いの二人ではないか。
「そこそこ長い付き合いだったけど、あなたほど怠慢で適当でいい加減なな門番は見たことなかったわ」
「……それ、褒めてませんよね」
「でも、同僚としては問題ありだったけど、親友としては最高だったわ」
 咲夜は背を向け、紅魔館へと戻っていった。
 去り際、聞こえるか聞こえないかの声で、
「ありがとう、美鈴」
 それでなんとなく、これが別れなのだと美鈴は察した。
 おそらく、偶然でもない限りはもう二度と会うことはないのだろう。
 ならば、自分は出来る事をする。
 親友と呼んでくれた人の為に、せめての恩返しとして。
 去りゆく背中に、美鈴は大声で激励の言葉を送った。
「頑張ってくださいね、咲夜さん!」
 咲夜は無言で、十六夜のナイフを掲げてみせた。










 紅魔館の二階。レミリアの私室を出て、廊下を右へ進んだところで白亜のテラスが目に入る。
 庭へ突き出すように作られたそのテラスは、月を眺める為のものであった。
 本来は日差しの下で紅茶を楽しむものだが、生憎とレミリアは吸血鬼。
 死を覚悟してのティータイムなど冗談ではない。
 それに紅茶は月の下が一番映える。レミリアの持論だ。
 機嫌の良いときは、ここで咲夜とティータイムを満喫する。
 調子さえ良ければ、パチュリーを誘うことだってあった。
 それなのに、今となっては。
 白い蔦をあしらった椅子に腰掛け、レミリアは力無く両手を垂れ下げる。
 顔は空を見上げていたが、目は月すら捉えていない。
 虚ろな瞳は、まるでここにいない誰かを捜しているのようだった。
「咲夜……」
「はい、なんでしょうかお嬢様」
 思わず漏れた呟きに、予期せぬ答えが返ってくる。
 恐る恐る、レミリアは声のした方を向いた。
 銀の髪を棚引かせ、十六夜咲夜がそこにいた。
 嬉しさが込み上げる反面、引っ込んでいた気まずさも同様に顔をもたげる。
「何しに来たのかしら。私は顔を見たくないと言ったはずだけど」
「承知しております。ですが、私はどうしてもお嬢様に伝えたいことがあったのです。無礼は承知しています。どうか、私の話に耳を傾けてください」
 真剣な態度と声色に、思わぬ期待が膨らんでくる。
 ここまで慇懃にして話したい事と言えば、謝罪の他にあるまい。
 レミリアとて、本心では咲夜を許したいと思っていた。
 最初は従者の謝罪如きでは許せないと考えていたが、今では謝罪するなら許しても良いほど条件は緩められている。
 嬉々と歪みそうになる顔を制し、レミリアは鷹揚な態度で足を組んだ。
「良いわよ。時間も余っていることだし、聞いてあげるわ」
 咲夜は頭を下げ、礼の言葉を口にする。
 レミリアの機嫌は急上昇で上がっていた。
 これからの展開を思えば、例え再びワインを零されても寛容な態度をとれる自信がある。
 表情を隠しておくのにも限界があった。
 早く先へ進んで欲しい。
 その願いは叶えられる。
 ただし、その結末はレミリアの願った未来ではなかったが。
「今まで、お世話になりました」
 暢気に動かしていた足の先。
 犬の尻尾のように小刻みにばたつく背中の羽。
 緩みそうになる表情。
 その全てが一瞬にして凍りつく。
「お嬢様に命を救って貰った事を、忘れたわけではありません。お嬢様は私に命と、新しい名前を与えてくださった。それは一生をかけても返せるものではなく、だから私は一生をかけてお嬢様に尽す事を誓いました」
 悲しそうであり、そしてどことなく辛そうな表情の咲夜。
 その右手は十六夜が刻まれたナイフを握り、その左手は金の懐中時計を握りしめている。
「私は、きっと生涯をお嬢様の為に生きるのだろうと思っていました。でも、それは違ったのです。今の私は不遜にも、お二方を選ばなくてはならない立場にある」
 ここに至って、ようやく自分の期待が愚劣で滑稽で的はずれだったことに気が付く。
 咲夜は自分との仲を修復する為にやってきたのではない。
 清算する為にやってきたのだ。
 疑問も幾つか浮かび上がる。
 だが、それを口に出来るほどレミリアはショックから立ち直れていなかった。
 咲夜は話を続ける。
「どちらも、私にとっては大切な方です。お嬢様、あなたは私に命と名前を与え、過去を消し去ってくれた。そしてあの人は、私に愛と子を宿す権利を与え、未来を指し示してくれた。選ぶことなど、出来るはずもありません」
 それでも、と咲夜は俯いていた顔を上げる。
 黒曜石のような双眼が、レミリアを真っ直ぐ射抜いてきた。
「私は選ばなくてはならない。どちらかを不幸にするとわかっていても、どちらも不幸にしたくないから!」
 ほんの一瞬だけ、十六夜咲夜という少女の素顔が見えた気がする。
 レミリアと一緒にいる時の咲夜は、良くも悪くも悪魔の犬であった。
 瀟洒な従者であろうと務め、少女としての表情は捨て去っていったように思える。
 だとしたら、この表情を引き出したのは誰か。
 瀟洒な従者のレッテルを剥ぎ取り、ありのままの十六夜咲夜を見つけだしたのは。
「申し訳ありません、お嬢様。私は、あの人と共に未来を歩む道を選びました」
 男は、十六夜咲夜という少女を欲した。
 レミリアは、悪魔の犬たる優秀なメイドを欲した。
 その差が、いまここにある。
「お嬢様と過ごした日々も、決して色褪せるようなものではありません。ただ朽ち果てるだけだった少女が過ごすには、あまりにも幸福な現実でした。その事だけは、例え私が再び朽ち果てるような事があろうとも、絶対に忘れはしません」
 咲夜にとって、レミリアは最早過去の吸血鬼であった。
 未来を生きると決めた彼女だ。
 それも当然のことであるが、レミリアに与えたショックは計り知れない。
 未だに立ち直れず黙りこくるレミリアに、咲夜は再び頭をさげた。
 そして、本当の別れの挨拶を告げる。
「私はもう、あなたの月ではありません」
 頭を上げた咲夜の顔に、迷いの色はもう無かった。
「今までお世話になりました、お嬢様。過去の咲夜を救ってくれて、本当にありがとうございます。そして、さようなら」
 踵を返し、咲夜はバルコニーから無言で立ち去る。
 夢でも、幻でもない。
 これは、紛れもなく現実で起こった出来事なのだ。
 何秒くらい経っただったろうか。
 その事にレミリアはようやく気づいた。
「咲夜っ!!」
 乱暴に椅子を倒しながら立ち上がる。
 しかし、既に咲夜の姿はない。
 レミリアは羽を広げ、バルコニーから飛び立った。
 紅魔館の屋根に降り立ち、辺りを見渡す。
 正門から、走り去る咲夜の姿が見えた。
 再び羽を広げ、咲夜の元へと飛び立とうとする。
 こちらはまだ、聞きたい事が山ほどあるのだ。
 しかし。
 門の上空を通りすぎようとしたところで、何者かの攻撃を受ける。
 いや、曖昧な表現で誤魔化す必要はない。
 あれほど鮮明な弾幕を見て、放った者の正体がわからぬほど混乱はしていなかった。
 地上に降り立った二人は、敵同士であるかのように向かい合う。
「どういうつもり? あなたも主に逆らうの?」
「この紅美鈴。一応は優秀な門番のつもりですし、お嬢様の命令に背くことなんてありませんよ」
 いつもと変わらぬ表情で、レミリアの前に立ち塞がる美鈴。
 進路の妨害をしている事にも、咲夜がいなくなろうとしているのに態度が全く変わらない事にも腹が立つ。
「だったらどきなさい。こっちはあなたと話をしているほど暇な状況じゃないの。わかるでしょ、咲夜がいなくなりそうなのよ!」
「勿論、わかってますよ」
「だったら!」
「いえ、だからこそ」
 美鈴は拳を突き出し、腰の位置を落とした。
「ここを通すわけにはいきません。今の私は門番ではなく、咲夜さんの親友なんですから」
 ニヤリと、挑発するように笑みを浮かべる。
「十秒でも一秒でも、咲夜さんが思いを伝えられる可能性が高まるように、足止めさせてもらいますよ。紅魔館のおチビちゃん」
 咲夜の姿が、林の中へ消えていった。
 もはや、躊躇している暇などない。
 そしてレミリアは、目の前の妖怪を敵だと認識した。










 懐かしい記憶が蘇る。
 あれはまだ、美鈴が幻想郷へやってきたばかりのことだった。
 己の力を過信していた妖怪は、真祖の吸血鬼に完膚無き敗北を喫したのだ。
 その代償として、紅魔館の門番として勤めることになった。
 今にして思えば幸運なことであるが、当時はそれはそれはふて腐れたものである。
「懐かしいわね、そう呼ばれるのはいつぶりかしら」
 咲夜が確認できなくなったからか、レミリアの口調に多少の余裕が出来てくる。
 普通の人間ならいざ知らず、レミリアの場合は多少の余裕がある時の方が恐い。
 どうやら、美鈴を完全な敵として認識したようだ。
 迂闊に気を抜くことはない。
 今のレミリアなら、美鈴を殺すことも厭わないだろう。
「覚えていませんね。年を数えるのは苦手なんです。妖怪ですから」
「あら、私は吸血鬼だけど覚えているわよ。四年前だわ」
「記憶力のいいことで。私なんか昨日の晩ご飯も……」
「時間稼ぎのお喋りは止めにしましょう。生憎と私は急いでるの」
 美鈴の言葉を遮り、レミリアはその右手に紅槍を携える。
 いや、それは既に槍というより弓矢に近い。
 投擲を主として作られたそれは、中距離よりも遠距離での戦いに適している。
 近距離での戦闘を得意とする美鈴にとって、最も警戒すべき攻撃であった。
 それを初手から使ってくるとは。
 浮かべた余裕の表情は、偽りであるかもしれない。
 どうやらレミリアは想像以上に、焦っているようだ。
 だとしたら、まだ勝負になる。
「退職金よ、奮発しておいたから素直に受け取りなさい!」
 剥き出しの土を抉りとりながら、赤い槍が美鈴目がけて滑空する。
 スペル宣言すら無いところを見ると、本気ではあるがやはり焦っているらしい。
 大地を跳躍し、身体中が土まみれになるのを恐れず横へ飛ぶ。
 あの槍は紙一重で避けたとしても、致命傷を負いかねない危険な槍だ。
「お嬢様、スペル宣言を忘れてますよ」
「スペル宣言? 必要ないわ。これは弾幕ごっこでも決闘でもなく、ただの処罰なのだから」
 レミリアの右手に紅い霧が集い、槍の形に凝縮していく。
 美鈴は再び足に力をこめた。
 攻めに転じるのなら反撃の機会を窺う必要があるが、時間稼ぎとなると話は別だ。
 必要なのは徹底的な防御。そして美鈴の、最も得意とする事だった。
 門番とは門を守るもの。ひいては防衛の達人でなくてはならない。
 守るという一点においては、美鈴を凌ぐ者は紅魔館にいなかった。
 問題は、そんな防御力よりも遙かに優れた攻撃力の持ち主が紅魔館にはうようよといること。
 それ故に、彼女の活躍はあまり目立つことがない。
「罪人は大人しく、あの世での言い訳でも考えておきなさい!」
 前へと出た足が、力強く大地を踏みしめる。
 その姿はまさに槍投げの選手のフォームそのもの。
 神経を集中させ、美鈴も携えられた槍一点を睨みつける。
 しかし。
「へっ?」
 凝縮した紅い霧は、再び元の形へと霧散する。
 それに合わせ、レミリアの姿も消えた。
 フェイク。
 その単語が頭をよぎった時には、懐に潜り込まれていた。
「安心なさい、代わりの門番なら幾らでもいる」
「くっ!」
 気を腹部に集中させる。
 それで鉄並みの強度にはなったが、レミリアが攻撃の手を緩めることはなかった。
 紅い霧を身体中に纏わせ、レミリアは頭から回転しながらドリルのように美鈴の腹部を抉る。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 大声を張り上げる事によって、腹部への衝撃を何とか和らげようとするが、圧倒的にレミリアの攻撃の方が上だ。
 大地に下ろしていた足は宙に浮き、腹部の服は摩擦と衝撃で燃え尽きる。
 長くも短い時間の果て、ようやくレミリアは回転を止めた。
 気づけば二人の身体は、いつのまにか空中へと投げ出されていた。
 何という衝撃か。しかし、それにも耐え抜いた。
 後は徹底的に相手の動きを読み切り、時間を稼ぐ他ない。
 次への展開を考えて美鈴に、レミリアの無情なる宣告が告げられる。
「耐えぬいた事は褒めてあげたいけど、私の攻撃がこの程度で終わりだと思ったのかしら?」
 レミリアの両手が、鳥のように左右へ広がる。
 それはまるで、磔にされた聖者のようで、
「さあ、人類が採用したのは何進法だったでしょうか?」
 嘲笑の笑みと共に、大地へ赤い十字架が打ち付けられた。
 侮っていたとしか言えない。
 余裕なきレミリアなら、耐えしのげると誤解していた。
 だが、結局はどちらにしろ変わらない。
 余裕があろうと無かろうと、レミリアはレミリアだ。
 その力が変わることなく、この結末の当然のことだったと言えよう。
 ハートブレイクのフェイクから、デーモンキングクレイドルで相手ごと身体を空中へと浮かせ、不夜城レッドでトドメを指す。
 なんという、極悪なコンボ。
 ボロ雑巾のように身体中を引き裂かれる中で、美鈴は視界の端に、咲夜の消えた林を捉えた。
 果たして、自分はどれだけの時間を稼げただろうか。
 気になるのはその一点。
 時を数えるのが苦手な妖怪は、消えた従者の行方を心配しながら、大地に倒れ伏した。










 木々の間を、一匹の吸血鬼が通り抜けていく。
 その顔には、美鈴と戦っていた時のような余裕ある表情は浮かんでいない。
 その身体からは異様というほどの殺気が漏れだし、レミリアが通り過ぎた後からは、地震の到来を予知したかのように動物達が逃げ出していく。
 そして、一分ほど林の中を飛んだところで、目的の人物を発見した。
 大きな杉の木の前に立ち、迎え撃つようにナイフを握りしめている。
 レミリアは速度を落とし、咲夜の前に降り立った。
「やはり、追いかけてこられたのですね」
「当然よ。私はまだ納得していないし、そもそもあなたの言いたい事を理解したわけでもない」
「理解と言われましても、あの時の言葉が全てです。私はもう、お嬢様の従者ではない。それだけですよ、レミリア・スカーレット」
 自分の名前を呼ばれるだけで、これほど腹立たしい瞬間が来るなど、誰が予想できただろうか。
 レミリアはヒビが入りそうなほど歯を噛みしめ、殺気をこめて睨みつける。
 それでも、咲夜に動じた様子はない。
「ですが、これでも長年あなたに仕えてきたメイドです。あなたが私の説明如きで、納得できるような素直な吸血鬼でない事も知っている」
「だからここで待っていたと?」
「わかりやすいのは好きでしょう。勝てば官軍、負ければ賊軍」
 つまり咲夜は、決闘をしようというのだ。
 誇り高き吸血鬼である以上、むざむざと自分の従者を奪われては面子が立たない。
 レミリアは決闘に負けて初めて、咲夜を心の底から手放す事が出来るのだ。
 少なくとも、話し合いで解決できる段階ではない。
 どこかに戦いが入り込むのは必定。
 だったら、いっそ互いの願いを賭けて勝負した方が良い。
 咲夜の提案は合理的であったが、肝心な部分が間違っていた。
「駄目よ、咲夜。賭けるものが間違っている。だって、私が勝ったとしても手にはいるのは見知らぬ誰かに心を奪われた従者。あなたが勝ったとしても、私はこの命ある限りあなたを許しはしないもの。これでは決着がつかない」
「では、どうしろと?」
「決まっている。賭けるのは願いではなく、互いの命。本物の決闘こそ、この場に相応しい。勝てば官軍、負ければ死人よ」
「なるほど。そちらの方がわかりやすい」
 狂気じみた笑みを交わす。
 どちらとも、なんとなくわかっていた。
 二人が別れる時はすなわち、死をもっての別れしかないのだと。
 だったら、いっそ自分の手で。
 それなら、全てに決着が着く。
「馬鹿だったわね、最初からこうすれば良かった。裏切った従者には相応の死を。何を悩んでいたのかしら、私は」
「私も、あなたを切り捨てればよかった。そうすれば、もう過去に未練などない」
 咲夜の両手のナイフが増える。
 レミリアの両手に槍が現れる。
 そして、二人が再び笑みを交わしたところで、別れの決闘が銅鑼もなく始まりを告げた。










 決闘であるからには、スペル宣言が必要となり、先程の美鈴との戦いとは勝手が異なる。 とはいえ、所詮は人間と吸血鬼。
 油断でもな何でもなく、そこには歴然たる種族差が存在した。
 例えば人間は身体をコウモリに変える事ができないし、腕だって新しく生えてきたりはしない。
 弾幕ごっこならいざ知らず、真剣な決闘となると、それらは覆しがたいハンディキャップとなるのだ。
「幻符『殺人ドール』」
 スペルカードに導かれ、咲夜の周りに無数のナイフが現れる。
 各々の軌道を突き進むそれらはしかし、レミリアに向かって一直線に伸びてきた。
 喰らえば腕ぐらい持っていかれるかもしれないが、交差する点にさえいなければ、それほど恐い攻撃でもない。
 むしろ、気をつけるべきは、
「ふん、定石ね」
 規則性に則ったナイフに紛れるようにして、咲夜が投擲したナイフが飛んでくる。
 迂闊に殺人ドールに気を取られていたら、このナイフに磔にされるわけだ。
 レミリアは片手でナイフを受け止め、無造作に地面へ放る。
 一々破壊してやってもいいが、咲夜のナイフの総数がわからない。
 十本程度なら効果はあるかもしれないが、五十を超えると破壊する労力の方が無駄だ。
 時刻と空間を操る咲夜のこと。
 どこぞから手品のようにナイフを取り出してもおかしくはない。
「だったら、暇を与えないまで。神槍『スピア・ザ・グングニル』!!」
 右手に携えた槍を投擲する。だが、これで決められるとは思っていない。
 あくまで暇を与えさせない為の威嚇に過ぎない。
 咲夜は何かのカードを構え、物理法則を嘲笑うように姿を消した。
 レミリアの高速移動とは異なる、正真正銘のテレポーテーション。
 レミリアは残った槍を霧散させ、上空へと飛んだ。
 そして地面一帯に向けて弾幕を張る。
 これには不意を突かれたのか、姿を現した咲夜は何とかグレイズしながら、張り巡らされた弾幕の雨をかいくぐった。
 しかし、この好機を逃すレミリアではない。
「レッドマジック」
 六文字の単語から紡ぎ出される、紅の弾幕。
 それは先程の比ではなく、雨というより豪雨に近い。
 弾幕は咲夜に逃げる暇も与えず、猛然と地面に降り注いだ。
 地響きと砂煙が夜の林を彩る。
 そして、弾幕の豪雨が止んだ。
 濛々と舞い上がる砂の霧。
 レミリアの火照った頬を撫でるようにして、一陣の風が砂煙を消し去る。
「そうでなくちゃ、決別の決闘にはならないわよね」
 嬉々として、地上の人間を見下ろす。
 あれだけの弾幕、余程の腕が無ければ避ける事はできない。
 人間であれを避けられるとなると、霊夢か魔理沙か、咲夜ぐらいしかいないだろう。
 レミリアは咲夜から視線を外すことなく、地上に降り立った。
「これだけの人間、殺すのは惜しい。でも、とても楽しいわ」
「それは同感です。殺すには惜しい。でも、出来ることならこの時を一生止めてしまいたい」
 本能を呼び起こすような戦いがしたかった、という事もある。
 だが、それ以上にレミリアは、咲夜が自分だけを見てくれるのが嬉しかった。
 だから、なるべくこの時間を楽しみたいと思っている。
 勝者がどちらにせよ、こんな戦いは二度と出来ないのだから。
「不思議ね、手を抜いているわけもないのに、相手に生き残っていて欲しいだなんて。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてもかもしれないわ」
「光栄です。世辞ついでに命もくれるのなら、最高なんですけどね」
「過剰サービスは嫌いなの。欲しければ自分で奪っていきなさい」
 投擲の構え、右手には紅い霧が集っていく。
 美鈴を撃沈させたコンボ。
 初見でこれを躱すのは、まず不可能と言える。
 そして、喰らえばタダでは済まない。
 だけど、心のどこかでは咲夜ならかわせると確信していた。
 身構える咲夜。
 しかしレミリアは槍を投げることなく、瞬間的に咲夜の懐に潜り込む。
 後は流動的にスペルを重ねていくだけ。
 咲夜の腹部目がけて、大地を割るように踏みしめる。
 しかしレミリアのスペル宣言よりも早く、咲夜がスペルカードを掲げて唱える。
「時符『プライベートスクウェア』」
「しまっ……」
 後悔の叫びをあげ終えた頃には、眼前に咲夜の姿はなく、周りを無数のナイフで取り囲まれていた。
 慌てて、スペルカードを変え、宣言する。
 少し離れた所にいる咲夜も、同時に宣言をした。
「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』!」
「紅魔『スカーレットデビル』!」
 レミリアに殺到するナイフと、レミリアの周りを包み込む十字の紅い霧。
 それらが互いにぶつかり合い、金属音の交響曲を奏でる。
 やがて音が鳴り終える頃には、全てのナイフが地面を覆い尽くしていた。
「っ!」
 さすがに全てが無駄になると思っていなかったのか。
 咲夜はまだ次の手を用意していない。
 だが、もう遅い。
 レミリアの手には、新しいスペルカードを握られている。
「夜王『ドラキュラクレイドル』」
 空中からの鋭角な突撃に、咲夜の対応も数秒遅れた。
 結果的に、その数秒が勝敗を分けることになる。
 咄嗟に後へ飛ぶ咲夜だが、ドラキュラクレイドルの衝撃波は、彼女を逃がしたりはしなかった。
 紅い余波が、咲夜の身体を吹き飛ばす。
 これで詰み。
 吹き飛ばされた状態で、スペル宣言をできるものなど、そうそういない。
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
 悲しみと別れの思いを込めて、紅い槍を手放そうとしたところで、レミリアは自分の身体に違和感を覚えた。
 地面に零れる、槍よりも紅い血液。
 はっとして胸を見ると、そこには十六夜が刻み込まれたナイフが突き立てられている。
 そして、背中には太陽が刻み込まれたナイフ。
 正確に心臓を表と裏から突き立てられ、さしものレミリアも地面に倒れ伏した。
 手の中の槍は、フェイクでもないのに霧散していく。
「なるほど……失念していたわ」
 立ち上がる咲夜を視界に捉えながら、レミリアは悔しげに呟く。
 言葉だけではなく、血液も口から溢れ出した。
「あの無数のナイフは殺人ドール。夜霧の幻影殺人鬼は、この二本を放ったものだったのね。ふん、しかも片方は太陽のナイフだなんて。縁起でも、ないわ」
 トドメを刺さんと、こちらに歩み寄る咲夜。
 静かな林の中で、後悔するような咲夜の声が耳に届く。
「せっかくの贈り物なのに、こんな使い方をしてしまうなんて。私は悪い女です」
 趣味が悪いわけだ。
 十六夜のナイフは咲夜を。
 太陽のナイフは、おそらく相手の男を象徴したものなのだろう。
 それが二人合わせて心臓を貫くなど、レミリアの想像以上に縁起が悪い。
 だが、これで勝負は決した。
「私の勝ちです、レミリア・スカーレット」
「そうね、私が人間だったらあなたの勝ちだわ。十六夜咲夜」
 レミリアの身体中が黒く染まり、至る所に隙間が生まれる。
 やがて身体はコウモリに変わり、咲夜に向かって殺到した。
「うっ!」
 突然の事に咲夜は顔を覆いながら、思わず尻餅をついてしまう。
 原始の世界において、それは敗北を意味するポーズだった。
 コウモリは人の形に戻り、その右手は咲夜の首を締めていた。
「声が出なければ、スペル宣言をすることはできない。忘れていたのかしら、咲夜。私は吸血鬼。誇り高き真祖の一族よ」
 首を絞めたまま、咲夜の身体を押し倒す。
 その弾みで、咲夜のスカートから金色の懐中時計が落ちる。
 ふとそれが目に入り、一瞬だが咲夜との思い出が脳裏をよぎった。
 そして沸き上がる、抑えていたはずの感情。
 後悔と悲哀と絶望。
 だが、それらの感情を振り払う。
 そんなものは、後で好きなだけ味わえばいい。
 今はただ、目の前の敵を殺すのみ。
 振り上げられた右の腕。
 果たして、これはスペルカードルールの元での決闘なのか。
 疑問も浮かぶが、最早そんな事はどうでも良かった。
 矜持も、未練も、法則も、今だけは何も必要ない。
 感情を殺し、ただ腕を下ろすだけ。
 だから絶対に何も考えない。
 スペルカード宣言をしなければ咲夜は助かるのに、それでもまだ何もしないこととか。
 苦しいはずなのに、咲夜の顔が微笑んでいるかもしれないこととか。
 首を絞める手に落ちる、温かい涙なんて絶対に!
「見えたりなんかしないのよ!」
 絶叫と共に、振り下ろされる腕。
 鈍い音が、林に響く。
 そして、十六夜咲夜の命は壊れた。















 今夜は満月。それも赤い満月だった。
「夜空の月は紅いのに……」
 何も言わない時計を見つめる。
「私の月は、どこにもいない」
 消え入るような声。誰かに答えて欲しかったわけではない。
 それでも、誰も答えてくれないのは自分が孤独であることを再認識させる。
 無気力が身体中に浸透し、このまま消えてなくなりそうだ。
「呆れた。いつから紅魔館の主は門番以上の役立たずになったのかしら」
 懐かしい声に、いつのまにか開かれていた扉も向こうを見る。
「パチェ……」
「その門番だって大怪我から復帰したっていうのに、主がそれだとやる気を無くすわよ」
 今にして思えば、もう少し彼女の言葉を聞くべきだった。
 そうすれば、ある程度はショックを和らげられたかもしれない。
 それに、もっと明るい未来があったのかもしれない。
 滑稽だ。
 自然と嘲笑が零れる。
 運命を操る程度の吸血鬼が、Ifの世界を望むだなんて。
 敢えて未来を見ないようにしていたくせに、今更なんと都合の良いことか。
「何を考えているのか想像に難くないけど、私はただ一つだけ質問をしにきただけだから。激励とかそういった言葉は期待しないように」
 辛辣な親友の言葉に、反論する元気もない。
 パチュリーは溜息をつくと、レミリアが握っている懐中時計を指さして言った。
「どうして、咲夜を殺さなかったの?」
 あの時、レミリアの振り下ろした腕は咲夜の心臓ではなく、地面に落ちた懐中時計に向けられていた。
「これは咲夜にとって命と同じくらい大切なものなのよ。だから、これを壊したということは、咲夜を殺したも同然」
「詭弁ね。じゃあ、どうしてそちらの命を狙ったのかしら。別にどちらでも良かったんでしょう」
 その質問には、答える事ができない。
 答えたくないのではない。自分でもわからないのだ。
 咲夜に同情したのか、未練が残っていたのか、本当に偶然だったのか。
「その質問はあの時の私にして頂戴。今の私には、何もわからない」
「そう。なら、いいわ。でも、立ち直るなら早く立ち直りなさいよ。妹様が暴れて大変なんだから」
 咲夜が抜けて変わらなかったのは、パチュリーと小悪魔ぐらいのものだろう。
 美鈴はどことなく寂しそうだし、フランドールは咲夜がいない事に腹を立ててしょっちゅう暴れている。
 そして自分もまた。
 パチュリーが立ち去っても、レミリアも気持ちが晴れることがなかった。
「未来か……」
 今なら、咲夜の気持ちが分かるような気がする。
 過去を振り返ったところで、今更どうこうする事はできない。
 できるのは後悔と反省。それと涙を流すこと。
 未来は変えられるかもしれないが、過去を変えることはできないのだ。
 だから前を見る。
 何とも合理的で、わかりやすい。
 それに、そもそもレミリアが見ているのは未来だけだったはず。
 運命とは即ち、未来の事であり、過去の運命は歴史と呼ぶ。
 歴史は、あのワーハクタクに任せておけばいい。
 自分はただ、未来という運命を手に握り、思うがままに弄べばいい。
「まったく、私らしくなかったわね」
 いつかららしく無かったのか。
 咲夜の様子がおかしかった頃か、ワインをこぼされた頃か。
 考えるまでもない。
 咲夜と出会った日から、レミリア・スカーレットはおかしかったのだ。
「サキュバスにでも聞かれたら笑われるわね。吸血鬼が人に魅入られただなんて」
 椅子から立ち上がり、グラスをテーブルの上に戻す。
 絨毯に染みが出来てしまったが、それは新しく雇ったメイドにやらせるとしよう。
 懐中時計を拾い上げ、躊躇なく握りつぶす。
 歯車や金属片が、絨毯の上に霰のように落ちた。
 これで、全ては消えて無くなった。
 後は、自分が元に戻るだけ。
「さて、次はどんなメイドを雇おうかしら」
 破片を踏みしめ、レミリアは窓辺へ歩み寄る。
 あれだけ霞んで見えた月が、今ではいつもより大きく見えた。
 最後に懐中時計だった物に目を遣り、どこか楽しそうにレミリアは呟く。
「今度は殺しても後悔しないようなメイドを雇わなくちゃ」
 懐中時計は時を刻まない。
 しかし、レミリアの時間はゆっくりと動きだそうとしていた。
 人とは異なる、吸血鬼の時間を。







 幸せに笑う人の影では、悔しくさに涙を流す人がいるわけです。
 この出来事も、レミリアと美鈴視点から見れば悲しい話でしかありません。
 しかし、咲夜や男の視点から見れば苦難を乗り越えた末の結末。ハッピーエンドへの序章でしかないのです。
 物事は、とかく見方によって変わるという事。
 それだけのお話しです。
八重結界
http://makiqx.blog53.fc2.com/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.3980簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
こういう可能性もあるんだね…願わくば、この元メイド長に祝福があらん事を
2.80名前が無い程度の能力削除
引きこまれた。うん。一気に読んでしまったよ
4.70幻想入りまで一万歩削除
紅魔館、しばらくは寂しくなりそうですね。
5.80名前が無い程度の能力削除
女の幸せを求めたってイイじゃない
いつの日か元メイド長の下に赤い花束が届きますように
9.90名前が無い程度の能力削除
テストが近いときになぜこう自分のツボを刺激するような作品がくるのか・・。

少し悲しい、すばらしいお話でした。
11.80名前が無い程度の能力削除
人間三人の中では一番真っ当に結婚しそうだし
お幸せに、メイド長(元)

子供生まれたらお嬢様も笑って祝福してくれるんじゃないかなあ
12.100名前が無い程度の能力削除
なぜか涙が出た
こういう未来もありえるんだよね
吸血鬼にとってはそれこそ一瞬の出来事だったに違いない
一瞬のうちに咲夜さんの様子がおかしくなって、大丈夫大丈夫と思っているうちに咲夜さんは手の届かない処に行ってしまった・・・

長生きをするとどんどん時間の感覚が短くなるという話を聞いたことがある
頭に生きた時間が記録されていくかららしいのだが、500年生きた吸血鬼と人間の間には一年、一日、一時間、一分、一秒にどれだけの差があるのだろうか

支離滅裂になってしまいましたが、本当に良い作品だと思います
14.70名前が無い程度の能力削除
しょうがないですよね、咲夜さんも人間ですもん。
レミリアの妖怪らしくない、あえて咲夜を見逃した場面が印象的でした。
17.90三文字削除
うーん・・・・・・咲夜さんスキーな自分としては、こんな形で咲夜さんに幸せになってほしいと思う反面、お嬢様に死ぬまで尽くして欲しいと思う訳で・・・・・・人生って難しいね。
そして、咲夜さんの心を射止めた男にちょっと嫉妬してしまった。
18.100中尉の娘削除
感動しました!
いつかは訪れる喜ばしいはずのお別れをレミリアと美鈴の側から捉えた視点には
自分の東方観と人生観がとても浅かったことを知らされました。
咲夜にレミリアの下にずっといて欲しいと願うと同時に
女の幸せも掴んで欲しいなんてきっと欲張りな話なんでしょうね…。

完全で瀟洒な仮面の下に隠したはずの少女らしさを殺しきれていないからこそ
彼女は美しく見えてたんだなぁとやっと気づきました。
だからこの咲夜さんの行動はある意味でとても咲夜さんらしく感じます。
やっぱ女の幸せは恋愛の中にこそあるんスよ!w
20.90名前が無い程度の能力削除
これはいい人妻。
人里でほっこり暮らしてください。お幸せに。
23.90名前が無い程度の能力削除
ご成婚おめでとうございます
末長くお幸せに

いつかお里帰りできるといいね咲夜さん
25.90名前が無い程度の能力削除
笑ってみました by小悪魔

ちょっ、永遠亭w
26.無評価名前が無い程度の能力削除
勘違いだったらごめんなさい。
題名の最後の単語は『Clook』じゃなくて『Clock』では…?
27.無評価八重結界削除
>題名の最後の単語は『Clook』じゃなくて『Clock』では…?
 辞書で調べたところ、確かにその通りでした。
 いやはや、こちら側の完全なる勘違いです。ご指摘ありがとうございます。
 英語がいつも赤点だった理由がわかったような気がしました。

 そして咲夜さんに祝福の言葉を送ってくださった方々に感謝を。
 咲夜さんもきっと、幸せな人生を歩んでくれることでしょう。
28.100名前が無い程度の能力削除
これは100点をつけたくなります。GJ!
30.80名前が無い程度の能力削除
美鈴はやられ損ですね。何かの伏線になっているかと思いましたが。最後に繋がっているといえばそうなのですが、ちょっと足りない気がします。
それでも全体的に良いストーリーだと思います。
31.90名前が無い程度の能力削除
「レッドマジック」六文字って??。なんかやけに失恋した気分になった自分は既にダメかなぁと思った今日このごろorz。もちろん面白かったですよ^^
33.100名前が無い程度の能力削除
こういうのもいいですね。素直に感動しました。
36.100名前が無い程度の能力削除
紅魔館組の各々の立ち位置が素晴らしい。一人一人が違和感無くきっちりとはまっていました。
終盤で咲夜がナイフを太陽と月の二本を持ってたということは、美鈴が時間を稼いでる間に彼女が求婚を受け入れていたということ……で合ってるのかな。
レミリアは切ないなぁ。それでも彼女が最後に時計を割ってみせたあたりは、「彼女らしくない彼女らしさ」みたいなものを感じました。

読んだあと、「例えばこういう可能性もあったんじゃないか」みたいに色々妄想しました。
咲夜がレミリアの元を離れなかったりとか、レミリアが思い切って相手の男を自分の配下にして咲夜との仲を応援したりとか。
そんな色んな可能性を振り切って、この話ではこういうたった一つの結末を迎えたということ、
だからこの話は印象に残ったんじゃないかと、そう思いました。
37.無評価名前が無い程度の能力削除
引き込まれました。
東方のゲーム暦は長くとも二次創作に触れ始めて間もなく、原作のイメージで頭がガチガチのせいか、似た状況にある同姓同名の人達の話にしか思えなかったのは残念です。
けれど、オリジナルとしての話ならとても面白かったです。100点満点。
東方の二次創作としては点数を付けられないのでフリーレスにさせて頂きました。
次回作も期待しています。
41.100名前が無い程度の能力削除
オリキャラが話に出てくるのは結構読む人を選びますけど
これはすんなりと読めてよかったです
44.80名前が無い程度の能力削除
客観的にはとても楽しめました。
しかし・・・レミリア&咲夜のカップルが好きな自分としては
もう少し他にも選択があったんじゃないかと思ってしまいます。
それでも咲夜に幸せが訪れて欲しいとは思いますけどね。

主観的には・・・え~い、咲夜はお嬢様の嫁なんだ!!
あの二人が結ばれることを強く望んでしまう自分がいる。(胸を張って発言

あとこの話の後日談・・・懐中時計が壊された後の咲夜の話が
欲しいかなぁ・・・と思ったりします。
45.90名前が無い程度の能力削除
相当珍しい作品を読めたと思います。しかし、「君には感謝している」だと70点になるので困りますのでこの点数です。
個人的には、レミリアが咲夜との(どういうかたちであれ)別れを悟った時はもう少しさばさばしているのではないかと思っていますが、こういう作品も好きです。
47.80名前が無い程度の能力削除
むー咲夜さんとお嬢様のコンビが大好きな自分としては残念な結末でしたけどいい話だったと思います。時計を壊してお嬢様が自分と一緒にいた「十六夜咲夜」は死んだって言うシーンが脳内で自動再生してしまった。
人里で幸せな暮らしを送れることを願いたいところ。
53.80上海削除
>男は、十六夜咲夜という少女を欲した。
 レミリアは、悪魔の犬たる優秀なメイドを欲した。
ここにグッときました。
54.100名前が無い程度の能力削除
「咲夜さんとレミリアはお互い愛し合っている。咲夜さんは死ぬまでレミリアと一緒にいる」
↑この関係なのが「当たり前」だと思っていた自分にとって、
咲夜さんに人間の男の想い人が出来て、咲夜さんはレミリアと決別してまでその男を選ぶ・・・
というこの話は、ひたすら衝撃的でした。
こういう可能性もあるのだなぁ・・・と、自分の想像の限界を打ち破ってくれた感じです。

この男のことはナイフ絡みでのことぐらいしかわからないけど、
「この男になら咲夜さんの一生を任せられるな」と無条件に思えてしまいます。
この男も、咲夜さんの話の中で間接的に出てくるのみで、直接的な出番は一切無し、
というのが逆にいろいろ想像の余地が残っていて、いいですね。

「私は悪い女です」の台詞が、男を愛することを知った少女、といった感じで色っぽい感じで好きです。

ラスト、懐中時計を握りつぶして過去を過去として受け入れたレミリア、
無事男と結ばれることのできた咲夜、
それぞれの立場で友人を応援してたパチェ、美鈴。
すっきりさっぱりした締めが、ほんとにいいな、と思います。
咲夜さんお幸せに!
56.90名前が無い程度の能力削除
一気に引き込まれて読んでしまいました。
なんとも言えない喪失感とともに長い年月共に歩んできた主従の
決別に泣きそうになりました。
良い話を有難う。
59.90名前が無い程度の能力削除
こんなにもこの十六夜咲夜に惹かれるのは、悪魔の狗じゃない、
どこにも完璧さなど見る事も出来ない、ただ一人の少女だからだと思います。
しかし、その十六夜咲夜は男の求める十六夜咲夜なのでしょうか?
でもきっと十六夜咲夜ならば、どうやったって幸せになるでしょう。

今迄の緩やかな時間と決別したレミリアは、さてどんな異変を起こすのでしょう。
うん、魅力的で妄想の幅を広げてくれる八重結界さんの幻想郷ステキ。
62.10名前が無い程度の能力削除
読んで気分が悪くなった。



文章や結末そのものはいいんだけど、咲夜が離れていく過程が酷すぎる。

結果命の奪い合いになるにしても、もう少し持って行き方があるだろうに。

感謝も礼節もない、劇的な展開にするために無理しすぎだと思った。

咲夜の対応は偽りと捉らえても、自分が殺されるという結末の場合以外には、誰にとっても有益には働かない。
65.無評価名前が無い程度の能力削除
咲夜がレミリアと別れるところがあっさりしすぎだと思いました
あと男との描写が少なくってレミリアから離れるほどの人なのかをもっと描いてほしかったです
主従の関係なんだから男とレミリアどっちを取るかの咲夜の心理描写ももっと描いて欲しかったです

レミリアと咲夜が好きな自分にはこの展開はつらかったです。
仮に男と会う前に両思いだったとしても人間だから心変わりするかもしれないんでしょうねぇ
66.50名前が無い程度の能力削除
点数付け忘れた
長年の主従関係なんてたいしたことないのかもしれないけど
過程や描写不足でさらにたいしたことがないように思えてしまいました
69.20名前が無い程度の能力削除
俺にはあいませんでしたわ
結果はともかくそれまでの展開がないとおもった
80.80名前が無い程度の能力削除
いつも通り主従関係に戻ってハイそれまでよ!とたかをくくっていたのでまさかの展開にびっくり
意外性を好みテンプレやお約束が嫌いな私にとってはご褒美なSSでした

残念なところは分かってはいても咲夜の心理描写が欲しかったところ
相手の男はいりません、咲夜のそれで代替出来ますからね

またこんな感じのSS 読みたいなぁ
82.80マイマイ削除
あえて言うなら、過程がもっと欲しかった。レミリアと咲夜の主従関係が淡白に感じてしまいます。
まぁ、レミリアが咲夜を便利な駒であると認識しているのを前提にしているのは分かるんですけど。
88.100名前が無い程度の能力削除
幻想入りとかにありそうな展開で素敵でした
まあ吸血鬼と人間いつかは分かれんですからこういう展開もあり
もっとやれwww
男と咲夜さんのラブラブ話も見たいです
90.10名前が無い程度の能力削除
途中が不足している
気分が悪くなるから読まない方がよかったわ
93.100名前が無い程度の能力削除
これはこれでアリだと思います.
とても面白かったです.
95.80名前が無い程度の能力削除
やけに高慢な態度で米してる人がいますが、お気になさらず。楽しめた人のほうが多いですよ。ただやっぱり展開が急だったかと。元メイド長お幸せに。
96.90名前が無い程度の能力削除
中国って元メイド長だったのか!!
97.90名前が無い程度の能力削除
咲夜さんは何があっても絶対にレミリアの傍を離れないと思っていただけに
ああも簡単に会って間もない男を選んでしまったことが残念でなりません。個人的に。話としては面白かったと思います。

最後に勝ったのが咲夜さんだったら躊躇なくレミリアを殺してそうなのも・・・。
なんだかいろいろと裏切られたレミリアがかわいそうとも思ったり。
100.100名前が無い程度の能力削除
後日談的な話で
咲夜さんが新任のメイド長の為にもの凄い沢山の置き書きを残していっているのを幻視した。
自分の能力の時を止めて、能力が使えなくなる代わりに紅魔館の広さを保つようにした所も幻視した。
やばい泣きそうだよ
寿命差系じゃないのに泣きそうになったのは初めてです。
111.90名前が無い程度の能力削除
すごく考えさせられる内容でキャラもそれぞれが自分なりに
悩んだ上で導き出した答えがあって良いと思います。

あえて言うなら咲夜さんが男とレミリアの天秤に揺らぐ描写が
もう少しあっても良いかな、と思いました。

美鈴がいい仕事しすぎである意味一番目立っていた気がしますw
114.100名前が無い程度の能力削除
実に面白かったです。少女な咲夜さんとは驚き。
忘れられたものが集う幻想郷でも、ありふれた幸せを求めるのだなぁと。

美鈴のいい友人ポジションが美味しすぎますねw
115.90名前が無い程度の能力削除
軽い誓いだぜ……咲夜さん…
あんたの二つの決意でレミリアは傷ついた
それは二人がどうであれ、裏切りでしかねぇ…
 過去の咲夜があるから今その選択ができるんだぞ。

そして、レミリアは今後メイドを仕えたとしても
そいつを信じることはできないだろう。いや、人間というのも信用できなくなる。
どんなに忠誠心や、親愛をみせられても、咲夜さんがチラついてしまうから。
そんな残された紅魔館に、オレには幸せが見えてこない…。
咲夜さんはそこまでみていたか?その上で選んだのか?
『恋は盲目』 残酷すぎる言葉だね。築いたものを振り回して振りほどく。

そして、作者様のあとがきを読んで納得しました。
こんなにもメッセージ性が強いSSを書けるとは…感嘆しました。
ですので私の点数は作者様の技量に。
118.100\(゚ヮ゜)/削除
紅き悪魔の館に祝福があらんことを。
131.90名前が無い程度の能力削除
ねとらレミリア、傷心の事。
精神が身体に直結する妖怪のことだから、どれだけ立ち直ったと本人が頭で納得しても、決して刻まれた傷は消えねぇな。歯車の喪失を知った紅魔の妖怪に、真なる安息はネバーカミン。なんてルナティックな余生。
それはともかく、めーりんがいい姉貴分でした。善かれ悪しかれ、彼女はまだ『喪うこと』を知っている妖怪であったのだろうと感じました。