Coolier - 新生・東方創想話

崩れた洞窟は元には戻らない

2007/12/17 13:25:59
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「ふぅ…」
魔理沙はため息をつく。
「どうしたのよ、魔理沙がため息をつくなんてめずらしいわね」
「ん…、…最近アリスが冷たいように思えてならないんだ」
「ふうん…」
霊夢はお茶を啜りながら興味がなさそうに聞いている。
「最近は、紅魔館に入り浸ってるようなんだ。たまに遊びに行ってもそっけないんだよな」
「そっけないのはいつもの事じゃない。それに遊びにって…盗みに行ってるんじゃないの?」
「私はただ紅茶を飲んで、お土産に何か貰って帰ってるだけだぜ」
霊夢はあきれて肩を竦めた。
「そうかしら? あなたの強奪行為には目に余るものがあるわ。例えば…今取った私の饅頭とかね!!」
霊夢が立ち上がり、お札を取り出した。
「さっきから一個も食べてないじゃないか。いらないなら食べてあげようという私の親切心が分からないのか?」
魔理沙は饅頭をお椀ごと奪って逃げだしたが、霊夢は追わずに眺めていた。
「かかったわね…。あれは全部賞味期限がとっくに切れた饅頭よ…! 
魔理沙…私の恨みを思い知りなさい! ふふふふふ…! あははははは!!」
霊夢は高らかに笑いだす。
魔理沙の姿が見えなくなったので、隠してあった饅頭を取り出した。
「ふ…間違えたわ。こっちが賞味期限切れの饅頭だったわ…しくしく…」
霊夢はベソをかきながら饅頭を頬張った。

「霊夢のやつ追ってこないな…まさか針とか入ってないよな」
魔理沙は勝ち取った勝利を味わいながら食べた。
家に着き、さっそく本を読むことにした。パチュリーから借りた本を…。




翌昼。
昨日、夜更かしをして本を読んでいたため、寝坊をしてしまった。
魔理沙は服を着替え、箒をもって家を飛び出した。
「んー、いい天気だぜ。暇だしアリスの家に遊びに行こうかな」
森の上に出ると眩しいほどの陽が照りつける。魔理沙は帽子を深く被った。
魔理沙は速度を上げて、一直線にアリスの家に向かうことにした。


「到着っと」
魔理沙はアリスの家のドアを叩く。
「おーい、来てやったぜ。開けてくれー」
しばらくすると中からアリスが出てきた。
「魔理沙、どうしたの?」
「遊びに来てやったぜ」
「はぁ…。目的は何よ? また勝手にマジックアイテムを持っていかないでね」
アリスは文句をいいつつも魔理沙を家の中に招き入れる。
「別に嫌われてはいないようだが…」
「何か言った?」
「いや、別に。アリスの紅茶とお菓子が楽しみだって言っただけだぜ」

魔理沙は帽子を脱いでソファに置いてイスに座る。
「お菓子までたかる気? まったく…」
アリスはそう言い残して魔理沙に背を向けると、台所に向かった。
アリスがいつも通りだったので、魔理沙は何となく杞憂が晴れた気がした。
「はい、おまたせ。紅茶にクッキーよ」
いつも通りのいい香りがする紅茶にいつも通りの美味そうな菓子。何をそんなに心配していたのか、今考えると不思議だった。
アリスは上目で魔理沙を見ている。クッキーの感想でも欲しいのだろうか。
「いつも通り、アリスのクッキーは最高だぜ」
「そう? ありがとう。でも別に褒めても何もでないわ」
魔理沙がそういうとアリスが目を反らす。ふとアリスの顔を見ると頬が少し赤かった。


魔理沙とアリスはしばらく紅茶とお菓子を楽しんでいた。
「なあ、アリス。最近紅魔館の連中と仲がいいようだな」
「何よいきなり。まあ、間違ってはいないわ。割と歓迎されているようだから、私としても嬉しいのだけどね」
図書館で調べ物などをしているうちに紅魔館の人と(妖怪と?)仲良くなっていたようだ。
「ふぅん。…そうだ、明日、紅魔館へ一緒に行かないか?」
「別にあなたに言われなくても明日行く予定だったわ」
「パチュリーのところか?」
「なんでそこまで話さなければならないのかしら?」
アリスが少し厳しい口調で言うと、魔理沙は眉をひそめた。
「ま…まあ、明日迎えに来るぜ。楽しみに待ってるんだな」
「はいはい、待ってるわ。でもあんまり遅いと先に一人で行っちゃうわよ?」

アリスが紅茶のおかわりを注ぎにに台所に行ってしまった。
なかなかアリスが戻って来ず、魔理沙が手持ち無沙汰にしていたところにいきなり新聞が投げ込まれた。
「おいおい…窓ガラスを割って行くなよ…まあ私の家じゃないからいいか」
そういって魔理沙は新聞を読みはじめた。
「何々? えーと…『号外! 神社の巫女が境内で倒れているのを昨日の夜に発見された。原因は近くに落ちていた腐った饅頭だろうか』だって? アイツ腐った饅頭を食うのが好きなのか? 今度持って行ってやるか、腐った饅頭を。なんてな」

魔理沙が一人で腹を抱えて笑っていると台所からアリスが戻ってきた。
「今の音は何?」
「知らないぜ」
「じゃあなんであの窓ガラスは割れてるのかしら…?」
アリスの周りにいつの間にか数体の人形が召喚されていた。
「割ったのは私じゃないぜ。どこぞの新聞屋だ。それじゃ明日、迎えにくるぜ」
魔理沙は箒に乗ってアリスの家から逃げ出した。



次の日。
「アリス~、迎えに来たぜ」
魔理沙はドアを叩く。
「遅いわ、いつまで待たせるの?」
そう言って出てきたアリスの両手にはたくさんの荷物が握られていた。
「なんだ、その荷物は…。いったいどこに行くつもりなんだ?」
「うん? あぁ、実はパチュリーと魔法の研究を一緒にしようって約束があってね。それで少しの間だけど泊まりにいくのよ」
「そうか。それじゃ、留守の間アリスの家は私に任せろ。誰も入らないように見張っててやるぜ」
「あんたに任せてたら家の物がなくなってしまうわ。さあ、とにかく行きましょう」

魔理沙たちは飛び上った。魔理沙の飛行速度はアリスよりかなり速い。
その上アリスの荷物の量を考えると、必然的にスピードが遅くなる。
「アリス、遅いぜ」
「仕方ないでしょ! 文句言うくらいなら先に行ってよ!」
魔理沙は一瞬口ごもって言う。
「ん…いや、私の箒に乗れよ。あまりもたもたしてると日が暮れるからな」
「え…そう? なら言葉に甘えるわ」
アリスは箒に乗って荷物を落ちないように固定し、両腕を魔理沙の腰に回す。
「そ…それじゃ、行くぜ?」
「いつでもいいわ」
魔理沙は全速力で紅魔館に向かった。


アリスが美鈴に頼んだおかげで魔理沙はすんなりと紅魔館に入ることが出来た。
広い迷路のような廊下を進んで行き、図書館に辿り着いた。
「こんにちは、小悪魔」
「ようこそいらっしゃいました、アリスさん。…と、ついでに魔理沙さん」
小悪魔はまったく魔理沙と目を合わせようとしない。
「ついでは酷いぜ。それと人と話すときは目を…」
「アリスさん、パチュリー様がお待ちですよ。こちらにいらして下さい」
小悪魔は魔理沙の言葉を打ち切って、アリスに優しく微笑む。
「なんだなんだ、私は無視か?」
「本を返していただけるのであれば歓迎しますが?」
一瞬で小悪魔の顔が無表情に変わる。
「いつか返すぜ」
「はぁ…」

小悪魔の案内で奥のテーブルまで案内された。いつも通りパチュリーはイスにもたれかかって本を読んでいる。アリスを見ると本を閉じて立ちあがった。
「いらっしゃいアリス。待ちわびたわよ。泊まる準備もしてきたのね。部屋には後で案内させるわ。小悪魔、アリスの荷物を部屋に運んできてちょうだい」
小悪魔はアリスの荷物を持って図書館を出て行った。
「私の部屋で一緒に寝るのもいいかもしれないわね…」
「何言ってんのよ、パチュリーったら…」
何やら二人の世界に入っているようで魔理沙は置いてきぼりだ。
「お~い…私のことを忘れてないか…?」
魔理沙は情けない声をだした。
「あら、魔理沙もいたの?」
「最初からいるぜ」
興味がなさそうにパチュリーは言葉を投げかける。
「気がつかなかったわ。本を読みに来たのなら静かに読むことね。それとちゃんと戻しておきなさい」
「パチュリーが冷たいぜ…どっかの氷精よりもな…」
「あら、それならその氷精に抱きついてくるといいわ。きっと温かいわ…私よりもね」
そういってアリスを奥に連れて行ってしまった。
「ちぇ、連れないぜ。まあいいや、せっかくだし本でも読んでいようかな」
魔理沙は面白そうな本を見繕って読むことにした。


数刻ほど経っただろうか。魔理沙は休憩にアリスたちを探すことにした。
図書館を回ったがいないようだったので、魔理沙はパチュリーの部屋へ向う。扉の前には小悪魔がいた。
「ここで何してるんだ?」
「魔理沙さんこそ。ちなみにここは通さないように命令が出てますので」
「そうか。それじゃ通るぜ」
魔理沙は小悪魔を無視して扉に手をかけようとする。
「ダメです」
「そうか、それじゃ…」
魔理沙は一歩下がってミニ八卦炉を懐から取り出した。
「わわ…! ちょ、ちょっと魔理沙さん! それは無しです!!」
小悪魔はドアに張りついたまま、両手をばたばたと振っている。
「や…止めてくだうわわわわっ」

ドアが開き、支えが無くなった小悪魔は後ろに倒れて尻もちをついた。
「いたたたた…。もう…パチュリー様、いきなりドアを開けないでください」
「魔理沙がここで魔法を使うよりはいいと思って」
「大丈夫、小悪魔? まったく魔理沙はじっとして本を読んでいられないのかしら?」
「私だけ仲間外れってのは気に入らないからな」
部屋に入ると魔法具やら本やらがたくさん置いてあった。
「なんだ。本当に魔法の研究をしていたんだな」
「それ以外になにがあるのよ」
「見張りをつけるくらいだからな。何かよからぬことでもやってるのかと思ったぜ」
魔理沙が下品な顔で笑うが、アリスは気にした様子もなかった。
「まあ、魔理沙には関係ないわ。私たちも疲れたし、休憩にしましょう」
「あ、じゃあ紅茶を淹れてきますね」
小悪魔が打った尻を擦りながら出て行った。

「ところで何の研究をしているんだ?」
紅茶を啜りながら魔理沙が聞いた。
「それがね、パチュリーったら何にも考えてないのよ。手伝いを頼まれたから来たのに…もう」
アリスは文句を言ってはいるが、本当に怒ってはいないようだった。
「それじゃ、アリス。今日は帰るのか?」
「帰らないわ」
アリスが答える前にパチュリーがすかさず答えた。
「お前には聞いてないぜ」
魔理沙とパチュリーが睨みあう。
「ふん。じゃあ明日迎えに来るぜ、アリス。ついでに本を借りてくぜ」
魔理沙はそこらへんに積んである本で面白そうなものを数冊抜き出した。
「あ…それはダメよ。私が今読んでるのよ。それに返す気ないでしょう?」
「返すぜ。気が向いたらな」
「はぁ…。その気とやらはいつ向いてくれるのかしら…」
魔理沙が図書館から出て行った。

「いやに素直に引き下がるわね。もっと抵抗しないのかしら?」
アリスは少し腹立たしげに魔理沙が出て行ったドアを睨んでいる。
「体調がよければいいのだけど…ごほっごほっ…。喘息のせいで戦えそうにないのよ…」
パチュリーが急に咳き込み始めた。
「大丈夫? 背中をさするわ」
「ありがとう、アリス。優しいのね…」
「あぁ、アリスさん、それは仮病ですから」
「小悪魔! 余計なことはいわなくていいわ!」
「心配して損したわ。あまり嘘をつくと本当に病人になってしまうかもしれないわ」
アリスはからかわれたのが分かり頬を引きつらせている。
「病人にしてあげる…じゃなくて?」
「それがお望みなら」
「お望みでないわ」
小悪魔は隅で腹を抱えて笑っていた。
「小悪魔。あなたはお尻ペンペン100回の刑よ。あとで私の部屋に来なさい…?」
パチュリーの言葉に小悪魔は顔を青くしてうなだれた。

「さて、魔理沙もいなくなったことだし…」
パチュリーが急に真面目な顔になった。といってもいつも通りの無表情だけど。
「最近の魔理沙の強奪行為は目につくわ。だから魔理沙にお灸を据えたいと思うのよ」
パチュリーはニヤリと口元を釣り上げた。
「面白そうね。でもどうするの? 魔理沙のとこだから弾幕で追い返すだけじゃ懲りないと思うわよ」
「確かにそれだけではやり返してくるだけだわ。だからね…」




魔理沙は湖を飛んでいた氷精を捕まえ、抱きついてつぶやいた…。
「当たり前だが、パチュリーより冷たいぜ…」
解放すると目を回した氷精がフラフラとどこかに飛んで行った。

「魔理沙~」
後ろからアリスの呼ぶ声が聞こえた。
「どうしたんだ? 今日は帰らないんだろ?」
「私は帰らないとは言ってないわ」
「それもそうだ。じゃあ帰ろうぜ」
夕陽が沈む中、二人は帰路についた。




朝。実によく晴れた清々しい朝だった。魔理沙は窓を開け放った。
「うぅ、寒っ」
冷たい空気が流れ込んでくる。思わずベッドに戻りたくなるのを我慢し、着替えを終えた。
魔理沙は出かける準備をする。
「よし。準備完了だぜ」
外に出ると一層寒さが強く感じられる。肌を貫通するような冷たさを感じた。
風が強く吹きつけ、木々から落ちた葉が辺りを舞っている。

「アリス、いるか?」
魔理沙はノックをする。まだ早朝ではあるが、アリスならこの時間に起きているだろう。
「何よ…こんな早くに」
アリスは起きたばかりのような顔で出てきた。
「朝飯の同伴に与ろうと思ってな」
「そう…さよなら」
アリスはドアを閉めようとする。魔理沙はすかさず閉められないように足をドアに突っ込んだ。
「まあ、そう言わずに。せっかく来たんだから、少しくらいいいだろ?」
「はぁ…まったくこんなに早くに何かと思ったら朝ごはんをたかりに来ただなんて…」
アリスは心底呆れたような顔で魔理沙を家に招き入れた。
「それは違うぜ。飯は一人より二人で食べたほうがうまいんだ。だからアリスのためでもあるんだぜ」
「意味が分からないわ。でも特別に、準備を手伝ってくれるならいいわ」
「そうこなくっちゃ!」
魔理沙は嬉しそうに笑う。
「お皿を並べて置いてね」
アリスは料理の途中だったようなので台所に戻って行った。
「味噌汁も頼むぜ」
「ここは食堂じゃないわ」


「そういえば、研究とやらは何をするか決まったのか?」
魔理沙が味噌汁を飲みながら聞いた。
「ん? そうね…決まったわ」
「どんな研究なんだ?」
「強いて言えば…消極的にネズミを更生させる研究らしいわ」
「更生? ネズミ? もしかして私のことか?」
「もし魔理沙が本を返さないようならその必要があるっていってたわ」
「まあ頑張ってくれ。どうせその研究は失敗するさ」
「そうかしら?」
アリスは食べ終わって空になった食器を台所に運んで行った。


「ふぅ…食った食った」
魔理沙はだらしなくソファに寝転んだ。
「まったくあんたは…それで今日は何しに来たの?」
「んー? 別にあまり何も考えてないぜ」
アリスが肩を落とす。
「はぁ、まさか本当に朝ごはんをたかりに来ただけとは…」
「いやいや。え~と…。そうだ! 研究に必要な道具が足りなくなってな。近所の好で少し貰いにきたんだ」
アリスはさらに肩を落とす。
「さらに悪いわ…まったく自分の必要なものくらい自分で確保しなさいよ」
「だから確保しに来たんだ」
魔理沙は既に物置部屋に入っており、あたりを漁っていた。
「ちょっと、魔理沙。あまり持ってかないでよね! 私だって必要なんだから」
「分かってるぜ」
どこから取り出したのか、魔理沙は風呂敷に物を詰め込んでいく。
風呂敷がみるみる膨れ上がってくる。
「サンキュー、アリス!」
「それはいくらなんでも取り過ぎよ!」
アリスの叫びも虚しく、魔理沙は素早く箒に跨って飛んで行ってしまった。



「さてと…これで当分は材料に困らないな」
魔理沙はアリスから貰った物を家で取り出した。
「あれ…あまり使わなさそうなものばかり取ってきてしまったなぁ」
倉庫に荷物を置き、魔理沙は出かける準備をする。
「まあ、他の材料は明日でいいか。それより実験用の本が必要だな…」
魔理沙は本を借りるために紅魔館へと向かった。


「また来たの?」
「また来たぜ。魔法の研究の為に本が必要でな。借りに来たんだ」
「小悪魔、お客様がお帰りよ。外まで連れて行ってあげなさい」
小悪魔は困った顔をしている。
「え…えっと魔理沙さん…。お帰りはこちらです…っていない!?」
既に魔理沙は本棚を漁っていた。
「小悪魔…」
「…はい?」
小悪魔は次の言葉を聞きたくないとばかりにびくびくしている。
「止めてきなさい…?」
「何で疑問形なんですか…」
小悪魔は大きなため息を吐いて飛んでいく。

数分もたたない間に、轟音と共に小悪魔が降ってきた。
「小悪魔…重いわ…」
「酷いです…」
二人の頭上で魔理沙が叫ぶ。
「これは借りてくぜ! いつか返すから心配するな!」
魔理沙は飛んで行ってしまった。
「使えないわね…」
「無理ですよ…パチュリー様が応戦すればいいじゃないですか…」
「疲れるから嫌よ」
小悪魔はガクッと頭を落とした。


「今日はこんなもんかね」
魔理沙は今日の収穫を抱え、帰宅した。
いつもと変わらない楽しい日であった。
帰り道、夕日が眩しく魔理沙を照らしていた。



雲一つない空。こんな日には外出にもってこいである。
朝食を取り、身支度をすると魔理沙は箒に跨って大空へと飛び立った。

「今日は割と温かい方だな、採集には持ってこいだな」
魔理沙は魔法石を探しに洞窟に向かう。洞窟は湖の向こうにある。
この前、散策していたときにたまたま見つけたのだ。
魔法石とは自分の魔力を上げるマジックアイテムみたいなものだ。
石に魔力が入っておりそこから魔力が装備している者に供給される。
または魔法の触媒に使ったりいろいろと応用することが出来る。
「きっきっきのこ~は美味しいぞ~っと」
魔理沙は上機嫌に訳の分からない歌を口ずさむ。
「プッ」
魔理沙が振り向くといつぞやの氷精がいた。腹を抱えて豪快に笑っている。
「あははは…何よそれ! おっかしい~。みんなに教えて来なきゃ!」
氷精は魔理沙に背を向け飛び去っていく。
「ほう…それなら私が送ってやるぜ…マスタースパーク!!」
「っきゃあああぁぁぁ……」
氷精の声は次第に聞こえなくなっていった。
「ふぅ…いいことした後は気持ちがいいぜ」
魔理沙は何事も無かったかのように、目的地に向かった。

洞窟に着いた。明かりを灯し奥に進んでいく。
通路は割と広く歩きやすい。天井は重力に負けたかのように落ち込んでいる。
前に来たときにいくつか穴場をみつけたのでそこに向かうことにした。
その時、魔理沙の後ろから足音が聞こえてきた。
「だ…誰だ!」
だんだんと灯りで姿が見えてくる。その先にはアリスがいた。

「何だ、アリスか。どうしたんだ?」
「あなたと同じ、私も研究で必要なのよ。だから集めに来たってわけ」
「それじゃ今日は敵同士ってわけか」
魔理沙は腕をまくってやる気を見せる。
「そういうことになるわね。それじゃ私は行くわね」
「あ…待てよ、アリス! せっかくだから勝負しないか?」
「勝負?」
「そうだな…質の良い魔法石をたくさん取ってきた方が勝ちってのはどうだ?」
アリスは腕を組んで考えている。
「そうね…。たまにはそういうのもいいかしら。分かったわ、その勝負受けて立つわ」
「そうこなくっちゃな! だいたい昼ごろになったら洞窟の外で待機な!」
魔理沙は早速とばかりに暗闇に消えて行った。
「あ、ちょっと! はぁ~、本当に適当ね…昼といっても洞窟の中じゃ分からないわ…」
アリスも魔理沙と同じ方向に飛んで行った。

「よ~し、やる気が出てきたぜ!」
魔理沙は早速洞窟を掘っていく。
「う~ん。使えなさそうなものばかりだな…。まあいいものがぽんぽん見つかるわけないか」

さらに奥に進み来たことのないところに行くことにした。
「ここら辺はどうだろう。何かがありそうな感じがするぜ」
魔理沙はどんどん奥に進み、行き止まりに辿り着いた。
「おぉ、なかなか良さそうなのがありそうだぜ」
この部屋一帯から強い魔力を感じた。
魔法石の質量の割に、中に入っている魔力の量が少ないものが多い。
そういうものはあまり利用価値がない。一番良いものは小さくて魔力の含有が多いものだ。
加工することによってマジックアイテムのように戦闘の時に魔力を増幅させることもできる。
魔理沙は地道に壁を掘っていった。壁から出てきた魔法石を一か所に集める。
「ふぅ…疲れたぜ」
辺りの壁を一通り掘り進め、魔法石を鑑定する。
「こんなにあれば一つぐらいいいのもあるだろう」
魔理沙は辺りに使えそうにない魔法石を放り捨て、鑑定を進める。
「お、これなんかどうだ。こっちも使えそうだぜ」
魔理沙は使えそうな魔法石を次々と袋に詰めていく。

気がつけばずいぶん時間が過ぎていた。そろそろ昼時だろう。
もうアリスは戻っているだろうと思い、魔理沙は洞窟の外に出ることにした。
すでにアリスは外に出ていた。
「遅いわよ。いつまで待たせるつもり?」
「悪い悪い。なかなかいい場所を見つけてな。時間がかかったんだ」
魔理沙がニヤリと笑うがアリスはそれに動じずに言った。
「そう。自信があるようね。それじゃ結果を見せてもらおうかしら」
「ああ。見て驚くな! 当分は安泰って量だぜ!」
魔理沙は地面に袋を広げた。
「なかなかやるわね。それじゃ私も」
アリスも手に入れたものを披露していく。
魔理沙はそれを手にとって見ている。
「う~む。引き分けってところか?」
「そのようね…でもなんか残念ね。特別いいものは見つからなかったわ。」
アリスは少し残念そうな顔だった。
「そうだなー。私が最後に行った場所に何かありそうだったんだが…強い魔力を感じたんだ」
「そうなの? 私の部屋も強い魔力を感じたから何かあると踏んだのだけど…結局見つからなかったわ」
残念ね…とアリスがもう一度呟いた。

「とりあえずお昼にするわ」
どこに持っていたのかアリスは弁当を広げ始める。
「うまそうだな。私も食べていいのか?」
「ダメって言ってもどうせ食べるでしょ?」
アリスは苦笑して魔理沙を見る。
「ああ。それにアリスの作った飯は美味いからな!」
そういって魔理沙は遠慮なく食べだした。
「魔理沙…手を拭かないと汚いわよ」
アリスは苦笑しながら魔理沙におしぼりを渡す。
「うん…やっぱ弁当はおにぎりに限るな!」
魔理沙は美味しそうにアリスの弁当を食べている。
アリスで迷惑そうな顔をしながら、本心では嬉しそうだった。
「さてと…私も食べるとしますか。って魔理沙! そのおかずは私のよ!」
「残念だが早い者勝ちだぜ! 早く食べないと無くなるぜ?」
「はぁ…まったく。魔理沙と一緒だと静かに食べることもできないわね」
しばし二人は晴天の中での昼食を楽しんだ。


「じゃあ、行くか」
食事も終わり休憩をしていたら、魔理沙が突然立ち上がった。
「帰るの?」
魔理沙は肩を竦め、頭を横に振る。
「おいおい、蒐集家ともあろうものがこの程度で諦めて帰るのか?」
「諦めるって…十分な量よ?」
「お前も、そして私も何か強い魔力を感じた。ってことはだ。これ以上のお宝が眠ってるってことじゃないか?」
魔理沙は洞窟の方を指差す。
「どうだ、これからは共同作業といかないか? 何か見つけたら分け前は半々でな」
「そうね…分かったわ。このままでは悔しいものね!」
「よし! じゃあさっそく行こう!」
二人は再び洞窟の中に入っていった。

二人がさっき出会ったところまで向かう。
「私はここから真っすぐ行ったんだ。…そうそう、この道を右に行って…次を真っすぐ…」
魔理沙の誘導にアリスがついてくる。
「最初の分岐点から私たちは違う方を進んで行ったのね」
「…そして最後にここを左だったな」
二人が辿り着いた場所は行き止まり。さっき魔理沙が来た場所に着いたようだ。
「んー…。確かに、強い魔力を感じるわ。でも魔力が部屋中に充満してるから魔力の流れがうまくつかめないわ」
「そうなんだよ。こうなったらマスタースパークで吹き飛ばすか?」
「馬鹿! 洞窟が崩れるわよ! ただでさえ変な形の洞窟なのに…」
アリスが魔理沙を睨みつける。
「じょ…冗談だって。そう睨むなよアリス、可愛い顔が台無しだぜ?」
「もう…調子のいいこと言って…」
「しかしな…全方向掘っていったら確実に日が暮れるぜ?」
魔理沙は自分で作った地図を見る。魔理沙が通った場所が記録されていた。
「私も地図を作ったのよ」
アリスが地図を差し出す。
「ふむ…ここが私たちのあった場所だな」
魔理沙は新しい紙に二つの地図を統合したものを描いていく。
「出来た! アリスが強い魔力を感じた場所はどこだ?」
「確かここよ」
アリスが地図に標をつける。
「それとここだな」
「せっかくだし他の場所も探索してみない?」
「そうだな。他にもお宝が隠されているかもしれないしな」

二人は地図を持ってまだ踏み行ってない場所へ行く。
「ということで今日はこの地図を埋めることに専念するか」
アリスは頷いて自分の地図をポケットに入れた。
「じゃあ私は地図のここから右を、アリスは左を頼むな」
「わかったわ」
アリスと魔理沙はそこで別れて、それぞれの持ち場に行くことにした。

「さて…私はこっちだな」
魔理沙は未知の場所へと飛んで行く。
「アリスと会ったのは奇遇だったが、楽しくなりそうだぜ!」



「ふぅ~…疲れたぜ」
「私もよ…とりあえず行くことの出来る場所は標したわ。距離は飛行速度と方角から計算して出したわ。まあ分かれ道以外が割と直線だったからだいたいあってると思うけど…」
「よし、私の方も出来たぜ!」
魔理沙が再び二人分の地図を合わせて書き直した。
「完成だぜ!」
魔理沙とアリスは手を取り合って喜んでいた。
「とりあえず今日は帰りましょう」
「そうだな」
もう空は薄暗く、今から帰れば途中で真っ暗になるだろう。
「私は紅魔館に泊めてもらうわ。ここから近いし」
「それじゃ私もそうしよ」
「あなたは泊めてもらえるかしら?」
アリスは横目で魔理沙を見る。
「大丈夫さ」
そういって魔理沙は先に飛んでいく。


交代の時間だろうか、美鈴がいなかったので紅魔館には簡単に入れた。
「さて、図書館に行くか。ちょうどいいし本でも読まないとな」
「そうね。でも夜更かしして明日に響かせないでよね」
「分かってるさ」

話しているうちに図書館に着いた。
「こんばんは、小悪魔」
「よう、小悪魔」
「こんばんは、アリスさん。…と、ついでに魔理沙さん」
「またついでか」
「魔理沙はついでよ。それより今日、一泊させてもらえるかしら?」
小悪魔はパチュリー様に聞いてきますと言って奥に消えて行った。
「信頼あるんだな」
アリスは苦笑いをする。
「私はあなたと違って本をちゃんと返すもの。あなたもしっかりしないと、いつかパチュリーの逆鱗に触れても知らないわよ?」
「はいはい、肝に銘じておくぜ」
「はぁ…まったく」

奥から小悪魔がパチュリーを連れて戻ってきた。
「いらっしゃい、アリス。急だったから部屋の用意が出来るかわからないわ」
「そうなの? 無理にとは言わないわ」
「あ…でも私の部屋なら空いているわ。ベッドで一緒に寝ても構わないわよ…?」
「な…何言ってるのよ!」
アリスが慌てて手を振っている。
「あぁ、アリスさん。それ嘘ですから。余ってる部屋なら腐るほどありますよ」
「小悪魔! だから余計なことを言わなくていいわ!」
「この振り上げた手はどうすればいいと思う?」
「アリスの慌てた時の表情も可愛いと思うわ。だからその手はゆっくり下げるといいわ」
「意味が分からないわよ…まあ部屋があるなら助かるわ」
アリスは落ち着きを取り戻して言った。

「お~い、私のこと忘れてないよな…?」
「忘れてるも何も気付かなかったわ」
パチュリーはいつものように淡々と言う。
「またか…酷いぜ。私も泊めてもらうからよろしくな。それで私の部屋は?」
「無いわ」
「そうか、じゃあアリスの部屋に泊まって一緒に寝るぜ」
「小悪魔! 大至急一つ部屋を用意させなさい! 犬小屋でも構わないわ! なるべくアリスの部屋から遠いところにしなさい。それとアリス? 寝るときは部屋に鍵をしなさい…危ないのがいるわ…!」
「犬小屋なんてあるんですか?」
「危ないのはお前だろ? それと図書館に近いところがいいぜ」
「泊めてもらえるんだから文句を言わない!」
アリスが魔理沙の頭を小突く。
「…それもそうだな。ありがとうな、パチュリー」
魔理沙がお礼を言う思っておらず、パチュリーは面食らっていた。
「ん…別にたいしたことではないわ。それよりそろそろ食事の時間ね。メイドに持ってこさせるわ。あのテーブルで待ってて」
パチュリーは奥の部屋に消えて行った。



夕食も終わり魔理沙は適当に本を読んでいた。
ふと目をあげると、アリスとパチュリーは仲が良さそうに話していた。
集中力が切れてしまったので魔理沙は二人のところへ行くことにした。
「何の話をしているんだ?」
「ひゃ!? ま…魔理沙! いきなり後ろから声をかけないでよ!」
アリスは驚いて数センチほどイスから飛び跳ねた。
「いや…そんなに驚くと思ってなかったんだが…。私の悪口でも言ってたのか?」
「そ…そんなわけないじゃない! 考え過ぎよ!」
アリスが慌てて答える。
「怪しいな。どうなんだ、パチュリー?」
「別にあなたのことは話してないわ。そういうのは自意識過剰っていうのよ…」
「そうか。じゃあ何の話をしていたんだ?」
「雑談よ。最近何があったとか、何をしたとかね」
「そうよ。魔理沙が本を何冊盗んで行ったとかそういう話」
パチュリーは本に目を落として言った。
「ほう…それで私はいったい何冊借りて行ったんだ?」
「…今月十八冊目よ」
パチュリーは大きなため息を吐く。
「そろそろ魔理沙は図書館への立ち入りを禁止するべきかしら…」
「まあ、禁止にしたところで魔理沙は遠慮なく入ってきそうだけど」
アリスが横目で軽く睨んだ。魔理沙は気にも留めずに言う。
「そうだな。私にはそんなルールは通用しないぜ」
「そう…。ルールを守れないんだったら仕方ないわ…。いつか後悔してもしらないわよ…?」
パチュリーは脅すように語気を強める。魔理沙はいつものパチュリーらしからぬ剣幕に少し気圧され、唾を飲み込んだ。
「紅茶が入りましたよ」
小悪魔がお茶菓子を持ってきたのでその話はそこまでになった。
「まあ、いいわ。お茶の時間にしましょう」
三人はイスに座って紅茶を啜る。
「ところで魔理沙。昨日貸した本は早く返却してもらわないと困るわ…」
魔理沙は腕を組んで首を傾げた。
「あ~…どの本だっけ?」
「覚えてないなら全部返してもらえばいいわ。私も研究で使うのよ…」
パチュリーは、言っても無駄とばかりに投げやりに言う。
「わかったよ、近々返すぜ。それじゃ私は疲れたから寝る」
魔理沙は立ち上がり、自分の部屋に向かった。

「行ったわね…?」
「そのようね」
二人は声のトーンを落とす。
「まったく…このままじゃ私の図書館の本が全部なくなりそうね…」
「だいたい魔理沙は思いやりがないのよね」
「魔法遣いであるあなたがそれを言うのは違和感あるわ…まあアリスらしいけど」
パチュリーは微笑する。
「明日早いのでしょう? 疲れてるでしょうから体を休めるといいわ」
「そうするわ。それじゃ、またねパチュリー」
アリスも図書館から出て行った。
「さて…小悪魔」
アリスが出て行ったのを確認して小悪魔を呼びつける。
「なんですか? パチュリー様」
「なんで呼ばれたのか分からない?」
小悪魔は身に覚えがないらしく、首を傾げている。
「アリスと一緒にベッドで寝るという高度に計算された私の計画が全て水の泡よ…。私はその計画のために朝からずっと難しい計算をしていたのよ…!」
「え…あれのどこに計算する要素が…」
「だまりなさい! 罰として…そうね。新しい魔法薬の実験台になってもらおうかしら」
パチュリーはどこから出したのか、魔法瓶を手に持っている。
「ちょ…待って下さい! パチュリー様の作ったものなんて飲んだら死にますって!」
小悪魔は一目散に逃げようとした。
だが、パチュリーの魔法陣によって身動きが取れなくなってしまった。
「あ…あの…? 冗談ですよね…?」
「冗談じゃないわ。いろいろとね…」

紅魔館に悲鳴が響き渡った。





「あ、おはよう魔理沙」
魔理沙が図書館に行くと既にアリスがいた。
「おう。朝食はでるのか聞きに来たんだが」
「図々しいわね…」
二人はパチュリーの部屋に行く途中で小悪魔に会った。
「おはようございます。アリスさん、魔理沙さん。もうすぐ朝食ができるので座ってて下さい」
「え…わかったわ。ねぇ小悪魔…パチュリーは?」
「…魔法薬の研究でとても疲れたようで、まだ眠っていますよ」
「そう…昨日悲鳴が聞こえたけどなんだったの?」
「気のせいでは? 私は何も聞こえませんでしたよ」
小悪魔が朝食を運んでくる。
昨日より小悪魔の肌が潤っていた。アリスは何が起こっていたのか考えるのを止めた。
「そ…それじゃいただきます」
二人は小悪魔の作った朝食を食べることにした。


「さてと…アリス。そろそろ行くか?」
魔理沙が出発を促す。
「そうね。そろそろいきましょうか。準備は出来てるわ」
「そうこなくっちゃ!」
魔理沙は元気よく立ちあがった。
「あ、お弁当を作っておきましたのでよかったらどうぞ」
小悪魔が二つ弁当箱を差し出す。
「ありがとう小悪魔、そういえばお昼のことをまったく考えてなかったわ」
「しっかりしろよ、アリス。飯はお前担当なんだからな!」
「うるさいわね…はぁ」
アリスが不頭を抱えて機嫌そうな顔で魔理沙を睨む。
「行ってくるわね、小悪魔。パチュリーによろしく言っといて」
アリスは魔理沙を置いて先に飛んで行ってしまった。
「おい、待てよ。私を置いていくなって」
魔理沙は慌ててアリスを追いかけて行った。


「さて、地図も出来たことだし今日は一つ一つの部屋をよく調べて行こうか」
魔理沙は洞窟について地図を取り出して言う。地図には十部屋ほど記されており、すべて調べていては時間がかかるだろう。
「それでは無駄に時間を浪費してしまうわ。昨日どこか強い魔力を感じる場所は無かったの?」
「う~ん…そんなものは感じなかったな」
「私の方はこの二つの部屋が怪しいと踏んでるのよ」
アリスが地図に標をつける。
「なんだ、そういうことは早く言えよ。それじゃこの部屋を調べてみようか」
「魔理沙はこっちをお願い。私はこの部屋を調べてみるわ」
アリスはそう言い残して行ってしまった。

魔理沙はアリスに言われた部屋に向かう。部屋に入ると、強い魔力が感じられた。これで三部屋目。期待とともに、もしかしたら全てハズレなのではないかという不安もあった。
どこに埋まっているかなど、全く見当がつかなかったのでとりあえず地面を掘り起こすことにした。
部屋の半分くらいを掘ったところで魔理沙は少し諦めかけていた。
とりあえず疲れたので一度外に出ることにした。

洞窟の外でしばらく休憩しているとアリスが戻ってきた。
「よう、成果は?」
アリスは首を横に振る。
「無いわ。私の方ははずれよ」
「私の方は当たりだと思う。まあ、モノは見つかってないが。それはともかく腹も減ったし弁当でも食べようぜ」
魔理沙は座って弁当を開ける。アリスも隣に腰を下ろし、蓋を開けた。

先に弁当を食べ終わった魔理沙は片づけをして、アリスの方を向いた。
「なあ…最近パチュリーと仲が良いよな」
アリスは質問の真意を汲み取れずに首を傾げている。
「それがどうかしたの?」
「いや、パチュリーにはいい笑顔を見せるんだなって思ってな」
「はあ? 魔理沙、何言ってるの? 熱でもあるのかしら」
アリスは心配そうな顔をして魔理沙のおでこに手を触れる。
魔理沙は不意をつかれて動けなくなってしまった。
「魔理沙…顔が真っ赤よ。本当に熱があるのかしら」
魔理沙は前で手をぶんぶん振って違うと言い張った。
「ふふ…何を慌てているのかしら。魔理沙も可愛いところがあるのね」
アリスは真っ赤になった魔理沙を見てくすくすと笑っている。
「わ…笑うなよ! まったく…」
アリスも弁当を食べ終わり、片づけを終えた。スカートを軽くはたき立ち上がる。
「パチュリーといると落ち着けていいわ。魔理沙と違ってね」
アリスの言葉に魔理沙の顔が曇る。
「でも、あんたといるといろいろ刺激があって楽しいわ」
魔理沙がその言葉に顔を上げると、アリスはそっぽを向いた。
「つまりアリスは私のことが好きなんだな」
魔理沙が理解したようにうなずくとアリスは赤くなって反論した。
「何でそうなるのよ!」
「だって…一夜を一緒に過ごした仲じゃないか…。それにあれはアリスからのお誘いだったし…」
魔理沙はわざとらしく頬に手を添えて赤くなる。
「ぶっ! そ、それは月の異変を解決するために誘っただけじゃない!」
アリスはそれ以上に赤くなって魔理沙を追いかける。魔理沙も追いつかれないようにアリスから逃げる。
真昼。照りつける陽の中、二人は笑いながら原っぱを走り回っていた。


「はぁ…はぁ…疲れたわ…」
「ふぅ…同じく…」
アリスと魔理沙は二人仲良く大の字で寝転んでいる。
「まったく…アリスがしつこく追いかけてくるせいだぜ…」
「うるさいわね…」
しばらく二人は転がったまま空を眺めていた。

「さてと…続きするか?」
魔理沙が起き上がり少し乱れた服を整えた。
「そうね…なんか無駄に疲れたし、明日にしましょう」
魔理沙は賛成し、ひとまず紅魔館に戻ることにした。



「あら、早いわね。目的のものは見つかったのかしら?」
パチュリーは例の如くいつものイスに座って本を読んでいた。
「明日には見つかると思うぜ」
「そう…それは良かったわね」
「そうだ。パチュリーも手伝ってくれないか?」
「嫌よ。面倒だし、髪が汚れるのも嫌だし」
魔理沙がパチュリーの前に地図を広げた。
「この三点。多分この部屋のどこかに埋まっていると思うんだ。だけど魔力が充満していて位置が全然つかめない。お前は私たちの中で一番魔法遣いをやってるんだ。そういうのは詳しいんじゃないか?」
小悪魔が急にパチュリーの背後ににやけながら現れた。
「パチュリー様ならそのくらい計算で導き出すことができますよ。なにせ昨日は…」
「小悪魔! 余計なことは本当に言わなくていいわ。分かったわ…協力するわよ」
魔理沙とアリスは状況が呑み込めなかったが、パチュリーが手伝ってくれるということに素直に喜んだ。
「パチュリー、頼りにしてるぜ!」
魔理沙がパチュリーの肩に触れるとパチュリーはその手を振り払う。
「はいはい…気のいいこと…」
「まったく素直じゃないですね、パチュリー様。そんなところも可愛いのですけど…」
小悪魔が持っていた本を抱きしめて悶えている。
パチュリーが睨むと小悪魔はゴメンナサイと言いながら逃げて行った。

「まったく…あの子には何をいってもダメなようね…」
「いいじゃない、慕われているのよ」
パチュリーは微笑しながら小悪魔の飛んで行った方を見る。
「そうね…」
「その笑顔を少しでも私にわけて欲しいものだぜ」
魔理沙がにやけて言うとパチュリーは元の無表情に戻った。
「あなたに必要なのは私の笑顔じゃなくて、本を返すように書かれた督促状だけよ」
「まったくひどいぜ…」
魔理沙は苦笑しながらやれやれと肩を竦めた。

「しかし最初はみんな敵同士だったのに、今ではこうしてお喋りをしたりしている。なんか不思議なもんだよな」
「急に真面目なこと言うのね。私とパチュリーもここで出会って戦ったもの…敵としてね。でも今では普通にお話したり紅茶を楽しんだりしてるわ。そんなものよ」
「そうだな。でもパチュリーは未だに冷たいぜ」
再び魔理沙はにやにや笑う。
「それなら私のロイヤルフレアでも受けてみる? とても温かいわよ」
「熱くて死ぬぜ…」

「…でも私たちの仲もひょんなことで崩れていくものよ」
パチュリーは魔理沙の瞳を真っ直ぐにみつめる。まるでこれからそうなるかもしれないから気をつけろとでも言っているようだった。
「おいおい、脅かすなよ…」
「本を返却させるためなら魔理沙を脅かすこともあるわ」
パチュリーはジト目で魔理沙を見つめる。
「へいへい、善処しますよ。それより明日のことだ。朝食後、少し経ったら出発でいいな?」
「構わないわ」
「私もそれでいいわ」
「よしっ、決まりだ! 明日が楽しみだぜ!」
「それより早く汗を流したいわ。パチュリー、お風呂を借りていいかしら?」
アリスは汚れた服を早く着替えたいようだった。
「ええ、どうぞ。場所は…分かるわよね」
「私も風呂に入りたいぜ。アリスが追いかけまわすせいで、冬なのに汗をかいてしまったからな」
「うるさいわね…」
「さあ! 早く風呂に行こうぜ! 友好の証に背中を流してやるから!」
「え…? ちょっと…二人で…!?」
魔理沙は慌ててアリスの背中を押して図書館から連れ出そうとする。
「待ちなさい!」
パチュリーが珍しく大きな声を出した。
「一緒に入るなんてけしから…いえ…風呂場は狭いのよ。一人ずつ入りなさい?」
パチュリーがしどろもどろに喋るのを魔理沙は見逃さなかった。
「いや…部外者があまり長く風呂を占領してたら悪いだろ? だから時間短縮のために一緒に入るのがいいかと思ってな」
パチュリーは必死に言い訳を考えているようだ。
「それに私は風呂場を見てきたことがあるが、どう見ても一人用には見えなかったが」
魔理沙が止めを刺した。パチュリーはうなだれて言った。
「仕方ないわ…私も一緒に入るわ。アリスになにかあったら困るもの」
「パチュリーは喘息だろう? 風呂に入っても大丈夫なのか?」
魔理沙はにやにやしながらパチュリーを見ている。
パチュリーは引っ込みがつかない様であった。
「そのくらい大丈夫よ…それに何かあったらアリスに介抱してもらうから」
「何が大丈夫なのよ! 私の意見は聞いてくれないの?」
「望みどおり一緒に入ってあげるわ」
「ああぁぁ…。そんなこと言ってないわ…」
三人の微笑ましい状況を小悪魔が見ている。
「なんだかんだ言ってホントに仲がいいですよね…みなさん」
とりあえず小悪魔は鼻血を拭いたほうがいいと思う。ホントに。



風呂シーンはページ数のためカットされました。



三人は風呂からあがり、図書館に戻ってきた。
「おかえりなさい、みなさん」
アリスだけとても疲れた顔をしていた。
「な…何かあったのでしょうか…?」
「聞かないでほしいわ…」
アリスは盛大にため息をつくと机にうつぶした。
「疲れが溜まっていたのでしょう。無理はよくないわよ…アリス」
「はぁ…パチュリーったら。あなた本当に喘息なのかしら…」
「そうだな。意外と元気だよな」
「今日はいつもより喘息の調子がいいのよ」
パチュリーは腰に手をあてて胸を張った。
「それなら明日は期待できそうだな!」
「そうね。明日は是非活躍してもらわないとね!」
「も…もちろんよ。まったくあなたたちは私がいないと何も出来ないのだから…」
パチュリーが焦って答える様を見た小悪魔は堪え切れずに笑っていた。
「何よ、小悪魔! 最近のあなたは主人にたいしての態度がなってないわ!」
「す…すみません~!」
逃げる小悪魔をパチュリーが追い回す。
「本当に元気よね…」
「…あぁ、元気だな」
飛び回っている二人を見ながら魔理沙とアリスは苦笑した。





―翌日―
「今日もいい天気だな」
魔理沙は大きく伸びをした。
「天気が良いと身も心も元気になれる感じがするよな」
「確かにね。一日の気分って天気に影響されるところもあるわね」
パチュリーも用意が出来たようで奥の部屋から出てきた。
「私は天気になんて影響されないわ」
魔理沙はそりゃあな…と納得する。

「それじゃあ行くとするか!」
魔理沙が先頭に立って三人は飛んでいく。太陽は出ているが気温が昨日よりずいぶんと低いようで冷たい風が肌を突き刺すようだ。
「髪が痛むわ…」
パチュリーは魔理沙の後ろでぶつぶつ文句を言っているが、魔理沙は気にせずに先を急ぐことにした。

「ここだぜ」
魔理沙がパチュリーを誘導して中へ入っていく。
「まずはこの三部屋のうち一番近いところに行こう」
三人は一緒に部屋を回っていくことにした。
パチュリーは一つ目の部屋に入ると羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「どうするんだ?」
「魔力の流れを読んで計算で場所を導き出すのよ」
「昨日そんなこと言ってたけど本当にできるのか?」
「私を誰だと思ってるの…? アリス、手伝ってちょうだい」
「分かったわ」
「私はどうすればいい?」
「邪魔にならないように部屋の外でじっとしてて」
魔理沙はぶつぶつ文句を言いながら部屋の外に出て行った。

しばらくすると、パチュリーたちが部屋から出てきた。
「それでどうなんだ? この部屋にあるのか?」
「確かに魔力を放出している何かがあるようね。場所は…ちょうど真ん中辺りの天井ね」
「天井か…あの突き出た場所か。天井にあるとは思わなかったな」
「あと二つの部屋も調べてしまいましょう」
「体のほうは大丈夫? 結構疲れているんじゃないかしら?」
アリスが心配そうにするとパチュリーは少し不機嫌そうにした。
「まだまだ大丈夫よ。というか始まったばかりよ。私もそこまで軟弱じゃないわ」
パチュリーが先に行ってしまったので、魔理沙とアリスは急いでパチュリーの後を追いかけた。




「終わったわ…。この部屋も天井のちょうど真ん中あたりにあるようね」
これで三部屋全て調べ終わった。
パチュリーは立ち上がると、ふらついてアリスにしがみついた。
「大丈夫、パチュリー?」
アリスが心配そうに尋ねる。
「ただの貧血よ…それより早く掘り出しましょう」
「う~ん…そろそろ昼時でしょうから昼食にしましょう。休憩も兼ねてね」
「ああ、そうだな。賛成だぜ」
「…そうね。あとは午後に回しましょうか」


三人は洞窟の外の原っぱで輪になって弁当を広げた。
魔理沙が地図を取り出す。
「一人一か所取りに行くか。ちょうど三部屋あるしな」
「そうね」
「好きなところを選んでくれ。そこから出たものが自分の取り分な! 公平だろ?」
「何も出なかったらどうするのよ…?」
「そうだな。その時は運がなかったということだな」
「まさに骨折り損のくたびれ儲けね…」
パチュリーが皮肉を込めて魔理沙に向かって言った。
「そう言うな。それは私も同じだ。とりあえずお前たちから選んでくれ」
魔理沙は地図を差し出した。
「魔理沙のことだから自分が先に選ぼうとすると思ってたわ」
「甘いぜ。残り物には福があるのさ」
「はいはい…分かったわ…」
アリスが適当に頷いた。
まずパチュリーが出口に一番近い部屋を選んだ。アリスは二番目の部屋にした。
「それじゃ、私は一番奥だな」
魔理沙は地図に自分の名前を書き込んだ。
「普通、奥の方がいいものがでそうじゃないか?」
「そうね…でもお宝を取ったとたんにトラップが発動…なんてよくある話じゃないかしら?」
パチュリーがにやりと笑う。
「おいおい…でもまあ、あり得ない話ではないが…」
「そうね…逃げ遅れておだぶつ…なんてことになったら笑えないわ」
「不吉なことを言うなよ…。トラップって岩でも転がってくるのか?」
魔理沙は冗談半分に言う。
「地形からしてそれはないでしょうね。魔法の罠もなさそうだったし…古典的に矢とか降ってきたりしそうね…」
魔理沙がおどけて言う。
「それはやだぜ」
二人は同時にため息をつく。
「魔理沙…とっても…」
「つまらないわ…」


昼食も終わり三人は再び洞窟に向かった。
「そうそう。トラップのことだけどね…矢は降らないけど、天井が落ちてきたりしてね」
「落盤ということか? この洞窟はそんなにヤバいのか?」
「……脅かしてみただけよ」
「何なんだよ、まったく…」
「それじゃ私たちはこっちだから、またね魔理沙」
分岐点で魔理沙は二人と別れた。
「まったく、脅かすなって…」
魔理沙は少し身震いしながら目的地まで飛んで行った。

「さて…地道に掘っていくか」
魔理沙はパチュリーの指定したところを慎重に掘っていく。
三十センチほど掘ったところで目的のものはあっさりと出てきた。
「ずいぶん楽に見つかったな。え~と…なんだこれは? 魔力が凝縮された石…魔法石か!」
魔理沙は細長く、宝石のように青く輝いているその石にしばらく見とれていた。

その時突然辺りが揺れ出した。
「地震か! いてっ!」
魔理沙は天井を見上げた。小石や時折大きな石が天井から降ってきている。
「まさか本当にトラップが…? 冗談はやめてくれ!」
魔理沙はお宝をしっかり握りしめ、全速力で出口に向かった。


「まさか本当にトラップ!? 魔法石を取ったとたんにこれだもの!」
天井からは絶えず小石やら岩の塊が降ってくる。これ以上ここに留まっていると潰されてしまうだろう。アリスは急いで部屋を出て、出口に向かう。
アリスは途中に倒れてのびているパチュリーを見つけた。
「どうしたの、大丈夫!?」
「大きな石が落ちてきたのよ…。危なかったわ…」
「急ぐわよ! あなたの言った通り本当に天井が落ちてくるわ!」
「天井というより洞窟が崩れていく…の方が正しいわ」
アリスはパチュリーの危機感の無さにいらついて地団太を踏んだ。
「そんなのどうでもいいわよ! 早く行くわよ!」
「私は無理よ…。力が入らないわ。先に行ってちょうだい…」
パチュリーはだらんと四肢を投げだす。
「仕方ないわね…私の背中につかまって」
「感謝するわ、アリス」
パチュリーは突然立ち上がりアリスの背中にしがみついた。
「あなた…本当に力が入らないの?」
「アリス! 危機感が足りないわ! 急がないと洞窟が崩れるわよ!」
「はいはい…もういいわ…」
アリスはため息を…つきたかったがそんな余裕もなく、パチュリーを背負って出口に向かっって飛び立った。

「アリス、右よ!」
アリスは右に避ける。大きな岩がアリスの体を掠める。
「ふう…私たち意外といいコンビかもね!」
アリスが笑う。パチュリーも同じく笑っていた。
「そうね…こんな危険な状況だというのに楽しくてしょうがないわ!」
アリスは全速力で飛んでいるため、頭上から落ちてくる岩に注意を払えない。
それをパチュリーが補うために指示を出している。一度当たれば大怪我は必至だったが、二人にはまったく当たることはなかった。
「出口よ!」
アリスたちが外に出た瞬間、轟音と共に出口が崩れて塞がってしまった。
「まさに間一髪ね…はぁはぁ…」
アリスは地面に着地する。
「大丈夫、パチュリー?」
「私は大丈夫よ…」
「それはよかったわ。…ところで何でずっと私の胸を鷲掴みにしているのかしら?」
アリスの体から怒気がにじみ出す。
「あら…気付かなかったわ。でも特に胸と呼べるものが無かった…」
ゴン…と鈍器で殴られたような音が辺りに響いた。
パチュリーは顔面から原っぱに倒れ動かなくなってしまった。
「ゆっくり休むといいわ…。疲れたでしょうからね…」
アリスは頬を引きつらせながら笑っていた。

洞窟からもう一度大きな音がした。洞窟が次第に崩れていって瓦礫の山になってしまった。
出口はもう完全に原型を留めておらず、中から脱出するのはもはや不可能だった。
「あ…魔理沙! 魔理沙はどこ!?」
アリスは辺りを見渡す。だが魔理沙の姿は見当たらなかった。
「魔理沙! 返事をしてー!」
パチュリーが目をこすりながら起き上がってきた。
「うるさいわよアリス…。ゆっくり眠れないわ…」
「何勝手に寝てるのよ! 魔理沙がまだ戻ってきてないのよ!?」
アリスがパチュリーを激しく揺さぶった。
「ゆらさないでー。そもそも私が倒れたのは、あなたが私のお腹に蹴りをいれたからじゃない…」
アリスがパチュリーを睨みつけた。
「ま、まあ…いいわ」
パチュリーが一つ咳払いをしてアリスから目を逸らした。

二人は洞窟の上を飛び回って魔理沙を探すことにした。
もはや洞窟ではなく瓦礫の山であるが…。
「残念ね…。惜しい人間を亡くしたわ」
その時、瓦礫の一帯から空に向かって大きな光線が放出された。
「危ないわ!」
パチュリーがアリスを庇うため(?)に抱きつこうとするが、アリスはそれをかわす。
「あれは…魔理沙のマスタースパークよ!」

光が収まり、二人の目の前にぼろぼろになった魔理沙が現れた。
「ふう…危なかったぜ」
「魔理沙! 無事だったのね! しかしよく生きてたわね…」
魔理沙が左手を広げ、二人の前に突き出した。
「これは…魔法石?」
魔理沙が頷いた。
「そうだ。これのおかげでいつもより力がでたんだ。パワーアップした私のマスタースパークで無事脱出したってわけさ」
魔理沙の石をパチュリーが手に取った。
「…でも、この魔法石の魔力はもう残ってないわ。つまりただの石ね」
「そんなあ…」
魔理沙は無念そうな顔をしてうなだれた。
「つまり骨折り損のくたびれ儲けってことね…」
パチュリーの皮肉を気にせずに魔理沙は大きく伸びをした。
「う~ん…。でも楽しかったからいいか!」
魔理沙の言葉にアリスが茶々を入れる。
「魔理沙のことだから私たちのを奪おうとするのかと思ったわ」
「な…何だと!」
三人の笑い声が原っぱに響き渡った。



三人はへとへとになって紅魔館に戻った。服はぼろぼろに破け、所々に痛々しい擦り傷があったので傷を治療して、服を着替え夕食を取った。
疲れのため三人はひと言も喋らずに夕食が終わり、イスに座って休んでいた。
「さてと…この魔法石だけど。ネックレスにでもしましょうか」
アリスは二人に提案をした。
「といっても魔理沙の石は本当にただのアクセサリーになるけどね」
パチュリーが皮肉を言うと魔理沙がそっぽを向いた。
「いいじゃない。三人で力を合わせて手に入れた思い出の品とでも思えば」
アリスが慌ててフォローを入れると魔理沙の顔に元気が戻る。
「そうだな。さしずめ、この石は私たちの友情の証ってところか?」
「ふふ…魔理沙らしくないわ!」
「私と友情を深めたかったら本を返却することね」
「う…うるさいな! お前たちがいいたそうにしていたことを代弁してやっただけだよ!」
魔理沙は真っ赤になって言い訳をした。
「はいはい。でも作るには道具がいるわね」
「あ…確か私の部屋にあったはずよ」
「そう、取りに行くわ。魔理沙はちょっと待ってて」
「こっちよ」
パチュリーとアリスが奥の部屋に消えて行った。

魔理沙はふとテーブルを見る。テーブルの上には先ほど手に入れた魔法石が三つ。
アリスとパチュリーの席の前に石が置いてある。
それぞれの石は見分けがつかないほど似通っている。
魔理沙は唾を飲み込む。
「いやいや…ダメだろ」
魔理沙は自分の石を持ってアリスの席の前に立つ。
「…不用心だな。私に取ってくれと言っているようなものじゃないか…」
アリスの石を手に取った。青く輝くその石に吸い込まれそうな感覚に陥る。
しばらく硬直していた魔理沙だったが、心を落ち着けてアリスの石を戻そうとする。
だがいきなり奥の部屋のドアが開いたので、魔理沙は驚いて自分の石をアリスの席に置いてしまった。
「おまたせ魔理沙」
「お…おう。早かったな」
魔理沙は平静を装うように努力するが顔には脂汗が浮かんでいた。
「魔理沙? 顔色が悪いわよ。疲れてるのかしら?」
「ま、まあな。それよりよくここに道具があったな」
魔理沙は話題をそらそうとする。
「ん? ああ、これね。前にここに遊びに来たときに忘れていったものだったのよ」
アリスは自分の席にある石を手に取ってそれを手で転がして眺めている。
魔理沙の心臓の鼓動が速くなる。
「ア、アリス! 眠くなる前に早く作ろうぜ!」
「何慌てているのよ魔理沙。まさか…すり替えたりしてないわよね?」
「わ…私がそんなことをするわけないだろ?」
既に呂律がちゃんと回っておらず、パチュリーが訝しがって魔理沙を見ていた。
魔理沙はパチュリーの方をなるべく見ないようにして平常心を保つことに専念した。
「そうよね! まさか魔理沙が私たちを裏切ったりしないわ」
「裏切る…?」
「さっき友情の証だとか言ってた本人が、まさか私たちの石をすり替えたりするはずないわ」
アリスが鎌をかけているのか魔理沙には分からなかったが、今正直に言うことは出来そうもなかった。
「それじゃ魔理沙。私の真似をして作ってね」
アリスは特に疑っている様子もなかったので、魔理沙は安堵すると共に罪悪感が胸に残った。


「案外簡単なものね」
パチュリーは出来上がったものを眺めている。
「まあ、凝ったものじゃないからね」
「ふぅん。こういうのもいいもんだな」
魔理沙が出来たネックレスを首にかけた。

「なあ、そういえば何で洞窟が崩れたんだ?」
パチュリーもネックレスを首にかけて魔理沙の質問に答えた。
「たぶんだけど、この魔法石が洞窟の維持装置だったのかもしれないわ。それを全て取ってしまったから洞窟が崩壊したのよ」
魔理沙は納得できないようで頭を捻る。
「そんなことってあるのか…?」
「初めに入ったときに気付かなかった? 洞窟の内部の構造が変だったでしょ?」
「変って…確かに普通の洞窟は天井が曲面になってるよな。あの洞窟は…」
パチュリーが頷いた。
「そうよ。ちょうどアーチを逆にした形ね。あれじゃ普通は圧力に耐えられないわ。まあ、あんな変な構造だったから宝の場所もある程度見当がついたのだけど」
「そうか…」
魔理沙はパチュリーの答えに納得し、欠伸をして自室に戻って行った。


「行ったわね…。小悪魔、どうだった?」
小悪魔が本棚の奥から出てきた。
「はい。魔理沙さんがアリスさんの魔法石とすり替えるのをみました」
「そう…」
パチュリーはため息をつく。
「魔理沙ったら本当に手癖が悪いわね…」
「やはり少しおしおきする必要があるわね…ふふふふ」
「そのようね…ふふ」
二人はまるで悪魔のように笑う。隅で小悪魔がぶるぶると震えていた。



豪雨。昨日の天気がまるで嘘だったように雨が降る。
「あ~…雨か。帰るのがめんどくさいぜ」
魔理沙は身支度を整え、図書館に向かう。

図書館に行くと既にアリスとパチュリーが本を読んでいた。
「よう。もう起きていたのか」
魔理沙が話しかけても二人の反応が無かった。
「お~い…まだ寝てるのか?」
魔理沙がアリスの肩に触れようとする。
「朝からうるさいわね」
アリスが手を弾き、魔理沙に背を向けて出て行ってしまった。
「な…何なんだよ…。雨だから機嫌悪いのかね…。どう思う、パチュリー?」
パチュリーは本に目を落としている。魔理沙の言葉に反応しようとしなかった。
「お~い…」
魔理沙が近付くとパチュリーは何も言わず自室に戻って行ってしまった。
「本当に雨のせいで機嫌が悪くなっているのかな? とりあえず腹が減ったぜ」
魔理沙は厨房に向かった。
厨房ではメイドが料理を運んでいた。魔理沙は適当にメイドを捕まえて運んでいた料理を奪って食べた。


雨が酷く降り、風も強い。飛んで帰るにはとても辛いことだろう。
魔理沙は午後の間ずっと図書館で本を読んでいた。
不思議とアリスやパチュリーと会うことはなかった。

「う~ん。さすがに疲れたぜ…。もうそろそろ夕食の時間じゃないか」
魔理沙は辺りを見渡す。本当に誰もいないようだった。
「不用心だな! 今ならここの本を取り放題だぜ!」
大声で魔理沙が言うと、蹴り飛ばしたような大きな音を立てて図書館の扉が開いた。
そこにはアリスとパチュリーの姿があった。
「また…あなたは人のものを取っていくの…?」
パチュリーの冷たい声が図書館に響く。いつもと違う声色に魔理沙は焦る。
「それに、あなた…まだいたの? もう用はないでしょ? 早く帰りなさい」
パチュリー冷たい目線を魔理沙に浴びせる。
「小悪魔。外まで送ってあげなさい」
「お帰りはこちらですよ」
小悪魔が魔理沙の腕を強く引っ張ったので魔理沙はそれを力ずくで振りほどいた。
「な…お前ら変だぞ!? いったいどうしたんだ?」
「別に。いつも通りじゃないかしら?」
「いつも通りって…明らかに人が違うじゃないか!」
「だって私たち人じゃないもの…」
パチュリーが嘲笑うように言った。アリスもくすくす笑っている。
「そんなことをいっているんじゃない! 何があったんだよ!?」
アリスはまるで汚いものでも見るかのように魔理沙を見た。
「それはあなたの胸に聞いてみればいいじゃない…」
その言葉に魔理沙の心臓が跳ね上がった。
「な…何のことやら……わ…私は何もやってないぜ…?」
「魔法石……」
アリスがぼそっと呟くと、魔理沙はびくっとする。
「それが…どうかしたのか…?」
「まだしらばっくれる気なの?」
パチュリーが語気を強めていうと魔理沙は困った顔をした。
「やっぱりばれたか…。だからってそんなに冷たく当たることないじゃないか」
「そうかしら…? これはあなたが望んだことでもあるのよ?」
アリスが魔法石を取り出して言う。
「昨日、あなたは何て言ったかしら? これは私たちの友情の証…じゃなかったかしら…?」
魔理沙はアリスの雰囲気に気圧され、身動きが取れなくなった。
「あなたはそれを自分で壊した…。私の石とあなたの石をすり替えることによってね…」
「つまり私たちを裏切った…ということになるわね…」
パチュリーがそう付け加えた。魔理沙は慌てて言い訳をする。
「い、いや…そんなつもりはないんだ! 別にお前らを裏切るとかそういうつもりはなかったんだ!」
パチュリーは一層冷たい目を魔理沙に向けて言い放った。
「小悪魔、早く外に放り出しなさい…目障りよ」
「もう来ないことね…」
「お…おい! 待てよ! 人の話を聞けって!」
魔理沙はパチュリーの胸倉に掴みかかった。
「い…痛いわ…ごほっごほっ…」
「あんた…私たちを裏切るだけじゃ飽き足らず、暴力まで振るう気なのね…!」
アリスが憎悪をまとって魔理沙を睨みつける。
「い…いや、違う!」
魔理沙はとっさにパチュリーを離す。パチュリーは苦しそうに咳をしていた。
「もう我慢できないわ…出ていかないなら私たちが叩き出してあげるわ…!」
「そうね…もうあんたとは絶交かしら…?」
アリスとパチュリーの魔力が膨れ上がっていく。
「ま…待て…」
「問答無用…日符『ロイヤルフレア』!!」
「失望したわ…魔操『リターンイナニメトネス』!!」






爆音とともに魔理沙は紅魔館の外へ弾きだされ、地面に打ちつけられる。
「まったく…手加減なしかよ…」
外はもう真っ暗で、激しく降る雨が魔理沙を打ちつける。
魔理沙は顔を拭い立ち上がる。
もう服はびしょびしょに濡れ、近くに落ちている帽子も被ることは出来なさそうだった。
「冷たいぜ」
魔理沙はつぶやく。
「…雨が冷たいぜ…。あの氷精より、アリスより、パチュリーよりもな…」
雨は容赦なく魔理沙を打つ。魔理沙は抵抗をせずに顔を真っ暗な空に向ける。
いつもだったら仕返しに戻るところだが、今はそんな気分には全くならなかった。

「まるで、私が泣いているみたいじゃないか…」
雨が頭から顔へと伝って落ちてくる。
魔理沙は何度か雨を拭うが、あきらめて手の力を抜いた。
「ちっ…温かい雨だぜ…」
呟いた言葉は雨の中に消えていった。

魔理沙は雨に濡れ、ぼろぼろになりながら家に到着した。
箒を立て掛け、帽子と服を絞り、乾かしておく。
体を拭き、着替える。風呂に入る気力も無く、魔理沙はそのままベッドに倒れこんだ。




雨。豪雨は収まったようだが未だに雨がしとしと降っている。
辺りは薄暗く、部屋には陰気な空気が漂っている。
「ん…何だ、もう朝なのか…」
魔理沙は何とか重い体を起こし、食事をつくろうとする。
だが食欲もなく、作るのを止め再びベッドにもぐりこんだ。
乾してあった帽子と服から滴り落ちた水滴が、昨日何があったかを思い出させる。

昨日アリス、パチュリーと喧嘩をした。
そのことが魔理沙の頭を循環する。
「…はぁああぁぁ…」
魔理沙は大きなため息と共に、憂いも吐き出せればいいのにと思った。
「あいつら…怒ってたよな…」
昨日言われた言葉を思い出す。
「もう来るな…目障り…か」
嫌な言葉が頭の中で反芻される。
アリスたちとはよく口喧嘩はするものの、本当に仲が悪いわけでなかった。
そしてあの二人がこれほどに怒るのを見たのは初めてのことでもあった。
「別にあいつらなんて…特に長い付き合いって訳でもないし、友達の一人や二人減ったぐらいで落ち込むなんて…」
魔理沙は続きを言うのを止めた。今ここでどんなに言っても、アリスとパチュリーは大事な友達であることには変わらなかった。それを口先だけで自分の気持ちまで変えることは出来ない。
「絶交…されたのか」
一番思い出したくない言葉に魔理沙は強く目をつむる。次第に意識が遠のいていった…。



「う…ん…。…私はどのくらい眠っていたんだ…?」
吊るしてあった帽子や服は既に乾いていた。
「一日…無駄にしたのかな…」
魔理沙は顔を洗い、食事を作る。
食欲はなかった。それでも無理やり腹の中に入れる。
小雨。窓を開けると雨の匂いが部屋に入ってくる。
「陰鬱な空気だぜ…」
魔理沙は疲れた顔をして薄暗い森を眺める。

目の前に突然黒い影が横切った。
「だ…誰だ?」
魔理沙の前に新聞記者の文が現れた。
「私です。霊夢さんから言伝を頼まれましたので」
「なんだ?」
「暇なら神社に遊びに来なさい。お茶くらいだすわよ、だそうです」
「そうか…分かった」
「それじゃ私はこれで。それと魔理沙さん、酷い顔してますよ」
文は雨の中を飛んで行った。
魔理沙は余計なお世話だ…とぼやいて窓を強く閉めた。

しばらく家の中にいたが気分が悪くなって来たのでベッドに倒れこんだ。
そしてベッドの上で何度もごろごろと転がる。勢い余ってベッドから転がり落ちた。

「やめだやめだ! 私らしくないな。霊夢の誘いに乗ってやるか」
魔理沙は頭をさすりながら立ち上がる。
少しでも気が晴れればいいと思い魔理沙は神社に向かうことにした。


「はい、お茶」
霊夢が魔理沙に熱いお茶を渡す。
「言っておくけどこの饅頭はあげないわよ」
「…ああ」
魔理沙は湯呑に口をつけずに黙っている。
「どうしたのよ。元気ないわね。あんたらしくないじゃない?」
「んー…別に…」
霊夢が魔理沙の顔を覗き込んだ。
「フラれたの?」
「違うわ!」
霊夢はそう…と呟いてお茶を啜った。

「…そんなに元気なさそうに見えるか?」
「見えるわ。だっていつもならとっくに私の饅頭を一つ二つほどくすねているわよ」
「む…何があったか聞かないんだな…?」
「聞いたところで答えないでしょ?」
「ああ」
霊夢が苦笑する。

「さて…と」
会話もないまましばらく経ったところで霊夢が立ちあがった。
「掃除をするわ。邪魔だから帰ってくれる?」
「酷い言いようだぜ」
「うじうじしてるあんたなんて見たくわないわよ。何があったかは知らないけど、結局本人と話さないことには何も解決なんてしないわ」
霊夢は背を向ける。
「そう…だな。って何があったか分かってるような言い方をするんだな」
「私は掃除をしたいの。魔理沙にも用事があるんじゃないの? それじゃあね」
霊夢は手を振って箒を取りに行ってしまった。
「まったく。いつもは掃除なんかしないくせに……恩にきるぜ」
魔理沙は箒に跨って全速力でアリスの家に向かった。



アリスの家に行ったが不在だったので、魔理沙は紅魔館に向かった。
もしかしたらまだアリスは紅魔館にいるのかもしれない。
紅魔館が見えてくるにつれてだんだんと緊張が高まる。

「ここは通しませんよ!」
美鈴がいつものように魔理沙を止めようとする。魔理沙は箒から降りて美鈴の前に立つ。
「アリスはいるか?」
「…いたらどうするんですか?」
美鈴は魔理沙の返答次第では攻撃すると言わんばかりに気を高めて構えをとった。
魔理沙は頭をかきながら答えた。
「ちょっと謝りに来ただけだ」
美鈴はぽかんと口を開ける。
「そういうことだ。入るぜ」
魔理沙は美鈴の横をすり抜ける。
「あ…ちょっと!」
「何だ?」

美鈴が言うには二人は中庭にいるらしい。雨も降っているというのに何をやっているのだろうか。中庭に着き、魔理沙はアリスとパチュリーを探す。
「どこにいるんだ…まさか入れ違いか?」
もしかしたら美鈴に嘘をつかれたのかと魔理沙は思った。
「何してるの…?」
突然後ろから声をかけられ魔理沙は飛び上がった。
恐る恐る後ろを振り向くとそこにはアリスとパチュリーがいた。
「もう…来ないで、といったはずだけど?」
パチュリーが冷たい目で魔理沙を見つめる。アリスは魔理沙に目も向けようとしなかった。
冷たい風が吹きつけて魔理沙は身を屈めるが、アリスとパチュリーは風に全く動じず一層冷たい目をした。
「あ…あのな。えっと…」
魔理沙は二人に会ったときに何を言うか全く考えていなかったことを後悔した。
頭の中が真っ白になっていくのが分かる。言いたいことがうまく口からでない。
「ええと…今日は話があって来たんだが…」
必死に言葉を紡ぎ出そうとするがうまく言葉がでない。
「私たちには何もないわ。絶交っていったでしょ?」
アリスが容赦なく言い放つと魔理沙は俯いてしまった。
「アリス、ここは寒いからもう戻りましょう」
「そうね」
アリスとパチュリーは魔理沙に背を向けて歩いていく。
「ま…待ってくれ! 今日は謝りに来たんだよ…先日のことでな」
その言葉に二人は足を止めた。
「わ…私が悪かったよ…。出来心でついすり替えてしまったんだ…。あ、これは返すぜ」
魔理沙は魔法石を取り出して、アリスに返すために二人のもとに歩んだ。
一歩踏み出すと、二人は一歩下がった。
魔理沙がもう一歩踏み出したら、二人はまた一歩下がった。
「…どうして下がるんだ?」
「あなたは…それを返せばすべて元通りになるとでも思ってるのかしら…?」
アリスの言葉に魔理沙は足を止める。
「そ…それは…」
「覆水盆に返らず…確か日本の諺だったわね」
パチュリーが追撃を加えた。魔理沙は引かずに言う。
「『It’s no use crying over spilt milk』私はこっちの諺のほうが好きだな」
「同じじゃないの」
「違うぜ。パチュリーが言った諺はな、起こったことを嘆くだけだ…。だが私の言った諺は違う」
魔理沙は一呼吸置いて言った。
「後悔するだけでは終わらない。事後の最善策を考えていくという意味も含まれているのさ」
アリスは魔理沙を小馬鹿にするように肩を竦める。
「…残念だけど、この場合同じことよ。壊れたものは元に戻らないし、死んだ人が生き返ることはない。最善策とやらでも元にはもどせないでしょう?」
「その最善策は次にやらないようにするための戒め…。せいぜい反省することしか出来ない。結局あなたがいくら足掻いても無駄ってことよ」
二人の容赦ない言葉の槍に魔理沙は胸を強く抑える。今にも泣きそうな表情をアリスたちに見られたくなかったために、魔理沙は下を向いてうつむく。
雨は未だに降っている。再び魔理沙の帽子を濡らし、鼻の先から水滴が落ちていく。
しばらく無言が続いた。


「でも…もしあなたが本当に反省しているなら…」
パチュリーが口を開くと魔理沙は顔を上げた。
「あなたがしなければならないと思うことをしなさい」
魔理沙はパチュリーの回りくどい言い方に一瞬戸惑ったが理解したようだった。

「…分かった。二人に借りていたものは全てすぐに返すし、これからは二度とお前たちの物には手を出さない…。それに私はそんなものよりお前たちのほうが大切だって分かったからな…」
魔理沙はうつむいて答える。アリスとパチュリーは魔理沙らしからぬ発言に顔を見合わせる。
「はあ…まったく。特別に今回だけは許してあげるわ」
アリスが手を差し伸べる。
「殊勝な心掛けね…。反省しているようだし…今回だけよ」
魔理沙は顔を上げて二人を見る。その先には二人の笑顔があった。
「とりあえず絶交は取り消してあげるわ」
「もう、同じ過ちをしないことね…」

「あ…ああ。分かってるさ…!」
魔理沙は何度も何度もうなずいていた…。










魔理沙は約束通り、借りていたものを返すために家に戻った。
アリスとパチュリーはそれを見送り、神社に向かった。



「協力ありがとうね、霊夢」
アリスとパチュリーは礼を言った。
「別にいいわ。むしろあれだけでこんなにお礼を貰えるとは…こっちが礼を言いたいわ」
霊夢はうっとりと、貰った米を眺める。
「お米を一度にこんなにたくさん見るのはいつ以来かしら……」
霊夢は一人でぶつぶつ何か言っている。
お礼は米を五キロ。アリスたちは大げさすぎる霊夢の反応を見て、そんなに食糧難なのかと気の毒に思った。

「ま…まあ喜んでくれて嬉しいわ。しっかし…うまくいったわね」
「そうね…上々といったところかしら。これで魔理沙も懲りたでしょう」
パチュリーがニヤッと笑う。
「でも私がわざわざ魔理沙に助言しなくても仲直りできたんじゃない?」
霊夢が我に返り聞いてくる。
「落ち込んだ人間が一人で塞いでると悪い方向に進むことが多いわ。それに喧嘩した後、長引くと余計に謝りにくくなるでしょ?」
アリスは霊夢に対して説明をするが、既に聞いておらず米を抱きしめて顔をにやけさせていた。
「でもこれでやっと魔理沙が持って行った本がかえってくるわ…」
「とにかく作戦は成功ね!」
こうして『魔理沙の動揺を誘って本を返却+魔理沙更生大作戦(仮)』は終了した。

「こんにちは。頼まれていた写真が出来ました」
文が突然二人の前に現れた。
「びっくりさせないで…。それでは写真を見せてちょうだい」
魔理沙が謝りに来た時、文に魔理沙の写真を撮るように頼んでおいたのだ。できれば泣き顔が望ましかったが、残念ながら今回は無理だったようだ。
アリスとパチュリーは写真を覗き込む。
「あははは、何これ! 情けない顔ね~」
アリスが今にも泣きそうな魔理沙の写真を見て笑う。
「ふふふ…これさえあれば当分魔理沙をゆすることができるわ…」
「そうね。今なら魔理沙は私たちの言うことを聞いてくれそうよね。明日から朝食でも作りに来てもらおうかしら」
アリスとパチュリーが大きな声で笑う。
「楽しそうだなみんな」
腹を抱えて笑っていた二人の時間が止まった。なぜなら…ここにいるはずのない人物の声が聞こえたからだ。
「ま…魔理沙…? まさか聞いてたの?」
魔理沙は親指を立てて答えた。
「最初からバッチリとな!」
「い、いえ…この写真さえあればこっちのものよ!」
「そうね! この写真を幻想郷中にばら撒かれたくなかったら、私たちの言うことを素直に聞くことね!」
アリスとパチュリーが文の写真を奪って逃げだす。
「お前ら…みんな一緒に吹き飛べ! マスタースパーク!!」
アリスたちは逃げる間もなく、巨大な光の中に見えなくなっていった。
「魔理沙のばかぁぁあああぁ…!!」
魔理沙が空を見上げるといつの間にか太陽が出ていた。

「魔理沙、復活したようね」
「おかげさまでな。あ、そうそう霊夢」
魔理沙が帽子の中から小包を取り出した。
「これはお礼だ。お前の好きな饅頭だが、貰ってくれるか?」
魔理沙は照れているのか顔をぽりぽりとかいている。
「うん…ありがとう、魔理沙…って賞味期限がとっくにすぎてるじゃない!」
「この間の新聞をよんだぜ。腐った饅頭を食べて、そのあまりのうまさに感動して卒倒したってな! ちゃんと全部食べろよ? じゃあな!」
魔理沙は全速力でその場を逃げようとする。
だが遅かったか魔理沙は首根っこを霊夢につかまれてしまった。
「魔理沙…?」
「な…何だ? 私は用事があるんだが…」
「現世にお別れをしなさい!!」
霊夢は饅頭を引っつかみ、魔理沙の口にねじ込んでいく。
「や…やめっ…あががががが!」
騒ぎに暇な妖怪たちが集まってくる。

午後にはすっかり雨もあがり、雲の隙間から太陽の光が幻想郷を照らしていた。
こんばんは。

仲の良い人に急に冷たくされたり嫌われたら、魔理沙でなくても堪えるはずです。
仲直り出来たのは、アリスとパチュリーの心の広さだと思っています。
魔理沙を動揺させて、図書館の本を取り戻そうと企むくらいの余裕を二人は持っています。
結局企みがばれて、魔理沙はいつも通りに戻ってしまいましたが(笑
ただ崩れた洞窟のように元には戻らないこともあるのです。

前より長いですが、読んでくださってありがとうございます。
nada
http://noesnada.web.fc2.com/
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コメント



0.570簡易評価
2.80名前が無い程度の能力削除
霊夢といいチルノといい小悪魔といい、魔女達以外のキャラが面白いったらありゃしない
もちろん、魔女達もよかったですが
 
4.90名前が無い程度の能力削除
小悪魔には笑ったww
小悪魔のセリフに対するパチュの反応もおもろい。
5.100幻想入りまで一万歩削除
終始ニヤニヤしっぱなし^^ 魔理沙は身から出た錆ですなwww
7.90名前が無い程度の能力削除
面白い。一気に読んでしまったぜ
21.10名前が無い程度の能力削除
え、ちょうへたやん。