≪こちら第31イナバ小隊、状況終了。本部、指示を≫
≪こちら第11イナバ小隊、こちらはまだ終わりそうにない。応援を求む≫
≪こちら本部。31小隊、聞いた通りです。第11小隊の援護に向かってください。最短ルートは―――≫
≪こちら21小隊!!奴が!奴が出た!!くそ!早過ぎて仕留められない!!う、うあぁ!!きたぁぁ!!!≫
≪こちら特殊装備部隊、今から21小隊の救援へ向かう≫
≪こちら第35イナバ部隊。大変なモノを見つけた!奴らの本拠地だ・・・・・・敵の数が多すぎて壁が見えない!敵が七分に木目が三分!いいか、敵が七分に木目が三分だ!
特殊部隊の装備でも厳しいと思われる!・・・・・・YBの使用許可を請う!!≫
≪こちら本部、YBの使用を許可する。全力を持って奴らを滅殺せよ。それこそが我々の平穏に繋がるのだ≫
≪第35イナバ部隊、了解した。YBを使用する!≫
≪こちら特殊装備部隊、第21小隊の援護完了。再び第一戦闘配備で待機する≫
「こちら本部参謀、レイセン・優曇華院・イナバ。全小隊は一度本部へ帰還せよ・・・・・・休憩しましょう。美味しい人参ジュースを用意してあるわ」
≪さっすが参謀!話が分かるぅ!!≫
≪こちら第35小隊、YB使用により敵の全滅を確認・・・・・・・あ゛~、しんどかったぁ。早いとこ人参ジュース飲みたいなぁ≫
≪人参!人参!えーりん!えーりん!≫
≪人参!人参!参謀殿愛してます!!≫
≪あ~ずるい!私もウドンゲさん狙ってるのに!!≫
≪ふふん、てゐ様派な私には関係ないわね≫
≪はいはい、無線で喧嘩しないの。早くしないと、てゐが全部飲んじゃうって言ってたわよ≫
≪ちょっとレイセン!何言うの!≫
≪あ、てゐ。聞こえてた?≫
≪酷いよ!折角あんたのせいにして、ジュース全部飲もうと思ったのに!!≫
≪わー!てゐ様外道!≫ ≪鬼!≫ ≪悪魔!≫ ≪CCO!≫
無線から流れる下っぱイナバ達の騒ぎ声。
陽気というか、騒がしいというか、とにかく聞いてて飽きないくらい楽しい。
そんな無線からの声を聞きながら、私―――鈴仙・優曇華院・イナバは、ほっと息を吐いた。
現在、永遠亭は大掃除の真っただ中だ。
事の始まりは姫の気紛れな一言。
「皆で掃除がしたいわ」
唐突に、イナバ部屋に来てそんなこと言いだすもんだから、皆、目が点になっていた。
まあ、それのお陰で、私はスッパにならずに済んだんだけどね。
・・・・・・てゐの口車に乗せられて野球拳してたのよ。
相手は勿論てゐ。
で、いつの間にか私はパンツ一丁でした。
うん、ホントにパンツ一枚だけ。
ブラも無理矢理剥ぎ取られて、半泣きでした。
しかも、てゐは一枚も脱いでないという事実。
何で?
ついでに、その時の私の裸を誰かが撮りやがりやがったらしく、イナバ達の間に私の半泣き半裸写真が出回ってるっていう・・・・・・
しかも、てゐがその写真を売買しているっていう・・・・・・
あの詐欺兎、それが目的で私と勝負したな・・・・・・
まあ、そんなこんなで姫を大将に、私が参謀、てゐが現場指揮、師匠が色々と技術的な協力をして現在大掃除の真っ最中なわけだ。
ちなみに、姫を大将と言ってはいるけど、実のところ下っぱのイナバ達と一緒に掃除をやってたりする。
大して戦力にならないんじゃないか?と不安には思ってたけど、正直姫を侮っていた。
お婆ちゃんの知恵袋的な方法で、頑固な汚れもなんのその。ホント素晴らしいくらいにぴかぴかにしている。
まあ、一時期は御爺さんと御婆さんを世話しながら生活していたらしいから、自活能力はあるって師匠が言ってたけど、まさかここまでとは・・・・・・
しかも言い出しっぺだから、本当に熱心なのよねぇ。
そういえば、私やてゐ以外のイナバとも話がしたいって言ってたから、その切っ掛け作りのための掃除なのかも。
普段何気ないようにしてるけど、姫は結構寂しがり屋らしい。
まあ、これは師匠から聞いたことなんだけど・・・・・・
実はまだ、私には姫がどんな人なのかよく分らない。
そういえば、てゐに聞いてみたら師匠と同じこと言ってたんだよなぁ。
姫は、自分のしたいことを上手く表現出来ない寂しがり屋だそうだ。
だから、妹紅とも普通に話をしたいのに、いつも喧嘩ばかり。
もっと私達と仲良くしたいらしいけど、何故かしようとしてない。
どこまで仲良くなったらいいか分からないからだって、てゐは言ってた。
ちなみに師匠の技術的協力とは、主に害虫駆除。
使い魔やら、殺虫剤やらを用意していただいた。
黒い弾丸ことゴキブリをも何のその、あらゆる蟲を一瞬で葬り去る高機動小型使い魔「一撃殺虫 やごころさん」を全部隊に配置。ちなみに縮退炉を搭載してるから、半永久的に活動が可能。
狭いところに潜り込んだ害虫をこれで殲滅して、心置きなく掃除ができるようにする。
さらに、それでも対抗できない時のために特殊装備部隊が装備している、対G用兵器デストロイヤー。
あらゆる蟲を一瞬にして死に至らしめる強力な殺虫剤を空気中に散布し、害虫を死滅させる。
だけど、吸いこんだら私達も洒落にならないことになるくらい強力だったりするもだから、これがねぇ・・・・・・
で、本当に最後の切り札であり、あまりに強力すぎる性能のため投入するかどうか本気で悩んだ装備、戦略掃除使い魔ヤゴバスター。通称YB。
さっきの「一撃殺虫 やごころさん」二体を合体させ武装を追加したもので、縮退炉を二個搭載で亜光速戦闘が可能になり、様々な武装を搭載してる。
マイナス一億度の超々極低温のビームを発射する「ヤゴコロビーム」やら、機体にデストロイヤーを纏わせて亜光速の飛び蹴りをぶち込む「ヤゴコロ稲妻キック」、更には腕から100億ボルトの超高電圧の稲妻を発生させ、蟲を焼き殺す「ヤゴコロコレダー」・・・・・・
その他にも、太陽並の熱エネルギーを極小に圧縮し、それをバットで打って相手にぶつける「ヤゴコロホームラン」、高熱量のデストロイヤーに指向性を持たせ、斧状の武器として使う「ヤゴコロトマホーク」・・・・・・
なんか言ってて頭痛くなってきた・・・・・・
師匠の作るものは色々とズレテいると言うか、やりすぎていると言うか、私には理解できません。
まあ、それでも害虫駆除に大いに貢献してるからいいんだけどね。
「ウドンゲ、進んでる?」
あ、噂をすればなんとやら。
いつもの和やかな笑みを浮かべて師匠が現れた。
「はい、順調です。この分だと予定より早く終わりそうですね。あ、今から休憩取る所です」
「そう、それはよかったわ。はい、これ差し入れ。皆で食べてちょうだい」
そう言われて師匠から渡されたのはとても大きな風呂敷。
両手で抱えないといけないくらい大きいものだ。
中身を覘いてみると沢山の御握りが文字通り山の様に入っていた。
永遠亭のイナバ全員分はあるんじゃなかろうか?
「どうしたんですか!?こんなに沢山!!」
「ああ、皆頑張ってたみたいだからね。私もちょっとだけ頑張ってみたの」
ふふ、と優しく微笑む師匠。
本当に全てを包み込んでくれそうな優しい、優しい笑顔だ。
この笑顔を見ると、心の底から安心できてしまう。
そして、どうしようもなく甘えたくなってしまう。小さな子供が母親に甘えるように。
ああ、やっぱりこの人は永遠亭のお母さんなんだ・・・・・・そう納得できる笑顔だ。
改めて、師匠の凄さと大きさを実感する。
ここに来たばかりの時に、この笑顔のおかげでどれだけ気が楽になったか。
月に置いてきてしまった仲間を思い出して、一人咽び泣いてた時も師匠はこんな笑顔で優しく抱きしめてくれた。
色々と辛いことがあった時、いつもこの笑顔で慰めてくれた。
実験を失敗して色々と器具を駄目にした時も、この笑顔で許してくれた。
思えば、ホントに師匠に頼り切ってるなぁ・・・・・・しっかりしないと。
そんなことを考えて、一人苦笑いしてると、師匠が私の顔を覗き込んできた。
うあ・・・師匠、顔がとても近いです・・・・・・
「どうしたのウドンゲ?一人で笑ったりして」
「い、いえ、別に何でもないです!」
「そう、ならいいけど」
「そう言えば師匠。師匠のお部屋は掃除しなくていいんですか?部隊を回してませんけど・・・・・・」
「普段からマメに掃除してるから大丈夫。整理しないと色々と危ないしね」
そういえば、師匠はかなりのキレイ好きだ。
師匠の部屋には塵一つ、埃一つたりとも落ちていない。
色々と危険な薬物やら、何やらがあるため汚れは大敵なのだ。
徹夜続きの実験が終わったあとは流石に汚いが、それでも1~2日したら奇麗に掃除されている。
それに、普段から永遠亭の整頓を取り仕切ってるのも師匠である。
毎日毎日、口酸っぱくイナバ達に整理整頓を言い聞かせている姿は、本当に母親の様に見える。
曰く、綺麗な方が気持ちいいでしょう?とのこと。
まあ、綺麗な方が気持ちいいのは確かだし、師匠が言うことなので、皆キチンと言う事を聞いてはいる。
「それならいいんですが・・・・・・人手が欲しくなったら呼んでくださいね」
「大丈夫。今は簡単な薬の調合してるだけだしね。あなたはしっかりと掃除の指揮をなさい」
「了解です」
私が笑いながらそう言うと、師匠はしばらく私の顔を見つめて、そしてくすくすと小さく笑った。
まるで、本当に小さい小さい幸せを見つけた時の様な、そんな笑みだ。
「えっと・・・・・・私の顔、何かおかしいですか?」
私がそう言うと、師匠は笑みを浮かべたまま、今度は何か困ったような表情をした。
「ごめんなさい。ふと、あなたが来たばかりのことを思い出してね」
「私が来たばかりのこと?」
「ええ。あなた、来たばかりの時はほとんど喋らなかったじゃない。
で、何か頼み事した時も、ただ無表情に了解ですって言うだけだったから」
「そうでしたっけ?・・・・・・よく覚えてないなぁ」
「その時と今を比べて、あなたも随分と変わったなぁと思ってね。
ふと、懐かしくなっちゃったのよ」
「はぁ・・・・・・」
私はただ、曖昧に返事をするしかできなかった。
私は変わったのかな?
昔と大して変って無いと、自分では思う。
確かに、てゐや他のイナバ、姫、そして師匠と出会ってからは毎日が気楽で面白くて・・・・・・
月に居た時よりもずっと自分が自分らしく生きていると思える。
毎日、好きなように過ごして、好きなように師匠の手伝いをして、好きなように姫と遊んでいる。
確かに明るくなったとは自分でも感じる。
でもそれは自分を出せるようになったからじゃないのかな?
それは変わったと言えるのかな?
いくら考えても、結局分からないままだ。
「それじゃ、そろそろ私は部屋に戻るわ。皆に頑張れって伝えておいてね」
私が思案に耽っていると、師匠から声が掛けられた。
顔を上げると、既にその背中は本部が置かれている部屋から出るところだった。
そして、それと入れ替わるように、てゐを先頭にして掃除小隊の面々が部屋に入ってくる。
ぞろぞろとまるで蟻の行進みたいだ。
あ、御握りとジュース、皆に配らなきゃ。
* * * * *
あっちでわいわい。こっちでがやがや。そっちでほりゃほりゃ。
本部が置いてある部屋は今は、イナバ達の喧騒に包まれていた。
永遠亭でも一番の大きさを誇るこの部屋は、普段はイナバ達の寝床になっている。
だから掃除部隊のイナバが全員入ってもまだまだ余裕があるのだ。
まあ、それでも部屋一面に白い耳が揺れているというのは中々壮観ではあるけど。
イナバ達はそれぞれ仲良しのグループを作り、楽しそうに雑談している。
私と言えば、皆にジュースと御握りを配り終えて、ゆっくりと座りながらその光景を眺めていた。
う~ん、遠足での引率の先生ってこんな感じなのかな?
そんなことを考えていると、ふいに上から声が降ってきた。
「イナバ、配膳ご苦労様」
首を上に向けて声の主を見てみると、姫がにっこりと微笑みながら私を見下ろしていた。
「あ、姫。お掃除お疲れ様です」
私がそう返すと、姫はゆっくりと私の隣に座った。
そうして、他のイナバ達が騒いでいる様子をじっと眺めている。
その小さな所作の一つ一つが、うっとりするほど優雅で佳麗だ。
私は、しばらくの間、姫の横顔を見つめていた。
普段、色々とはっちゃけてはいるけど、やっぱりこの人は美しすぎる・・・・・・
毎日、顔を合わせているのに、ついつい見入ってしまう。
何人の男がこの美貌に引き寄せられ、そして狂っていったんだろ。
ずっと見詰めていると私まで変な気分になってくる、同性のはずなのに・・・・・・
ぼうっと、夢を見ているみたいにその横顔を見つめ続けていると、ふいに姫が私の方を向いた。
その顔は、楽しくって仕方無いと言う感じだ。
瞳がきらきらと輝いている。
「何か良い事でもあったんですか?」
「ん?久しぶりに皆と一緒に動いたらとても楽しかったのよ。でね、あなた達以外のイナバとも話ができて、とても面白かったわ」
にこにこと笑いながら話す姿は、小さな子供のようだ。
その内に身振り手振りでイナバ達と話した内容を説明しはじめ、その話がどれだけ面白かったかを、本当に嬉しそうに語り始めた。
こういうところは、妙に子供っぽいんだよなぁ、この人。
姫の話を聞きながら、くすくすと小さく笑う。
姫と言えば、私が笑っているのに気付いているのかいないのか、楽しそうに話を続けていた。
まあ、この人はいつもこんな感じだからいいか。
何を考えているかわかんなくて、唐突な思いつきで私達と混じって何かをやって。
で、いつの間にか別の場所で別の事やってて、とにかく気紛れで、とにかく奔放で、とにかく可愛らしくて・・・・・・そんな私達のご主人さま。
そんな姫の話はまだまだ終わりそうにない。
そろそろ休憩も終わりなんだけどね・・・・・・
ま、いっか。他のイナバ達も姫の話に聞き入ってるし。
このまま始めても多分真面目にやらないでしょ。
だから姫の話が終わるまで休憩の延長だぁ!
* * * * *
結局、姫の話はあの後1時間近くも続いてしまった。
10分くらいで済むかなぁと思ってたんだけど、見通しが甘かったわね・・・・・・
ま、話している間の姫は本当に楽しそうだったし、こっちも楽しい話が聞けてたから別にいいんだけど。
掃除の方もどうにか予定時間内に終わらせられたし。
元々が順調だったから1時間ぐらい作業が遅れてもどうにかなるもんだね。
さて、掃除が終わって、小隊の面々は今、お風呂中だ。
姫も何だかイナバに混じって風呂入ってるみたいだし・・・・・・
先に入るよう勧めたんだけど、皆で一緒に入りたいって頑として聞かなかったんだよなぁ。
本人がそれで良いなら問題ないんだけど。
で、今、私は何をやっているかと言うと後片付けの真っ最中なわけだ。
無線の回収、掃除用具の片付けと整理、その他諸々。
本部担当のイナバ数人とえっちらおっちらやっとるわけで。
本部の担当は掃除に直接参加してないからね。
こういう事ぐらいはきちんとやらないと。
「ウドンゲさん、後は私達がやりますからもう上がっていいですよ。ずっと指示出してて疲れたでしょ?」
イナバの中でも最古参の部類に入る子がそう言ってくれた。
私よりも古くから永遠亭に居るイナバで、若いイナバ達からは姐さんと呼ばれて慕われている。
ちなみに私も心の中で姐さんと呼んでたりする・・・・・・
だって、そこそこ古い妖怪で、シッカリとしていて気もきくから頼りがいがあるんだもん。
あの、てゐだってちょくちょく相談を持ちかけてるし。
「ん、ありがとう。でも、今回の掃除の責任者は私だからね。私が最後まできちんとやらないと。それに私は指示出してただけで大して働いてないし」
私がそう言うと、姐さんはちょっと呆れたような、怒ったような表情をした。
あれ?私、変なこと言った?
「まったく・・・・・・働いてないだなんてとんでもない。
むしろ、あなたは働きすぎなくらいなんです。
掃除の計画、小隊の割振り、事前の用具の確認、そのほとんどをあなたは一人でやってた。
あなたが的確に指示を出したから掃除だって早く終わった。
十分にその責任を果たしてますよ。
私達はほとんど何もしてないんです。少し位は私達も働かせてくださいよ。そうやって色々抱え込もうとするのはあなたの悪い癖だ」
「そ、そんな言われるほどやってなかったわよ。それに、疲れならオペレーターをやってたあなた達の方が多いと思うし・・・・・・」
あ、溜息吐かれた。なんで?
「あなたは働きすぎなの!年上の言う事は素直に聞きなさい!!」
あう、怒られた・・・・・・
って、他のイナバ達も頷いてるし。
私だけ楽したら皆に悪いじゃない!
「で、でもぉ・・・・・・」
「でもは無し!だってもダメ!偶には私達に全てを任せなさい」
「あ、あのね?皆を信用してないわけじゃないよ?でもね、やるからには最後まで・・・・・・」
「いいからとっとと終わる!!もう少し自分の身体を労わりなさい!!」
「うぅ、分かりました・・・・・・」
うぐぅ、そこまで怒らなくてもいいのにぃ・・・・・・
て言うか姐さん、怒ると怖いです。
迫力だけなら師匠といい勝負です。
正直、怒られるのは師匠だけで十分です。
そういうわけなんで、仕方なく部屋を出ることにする。
何だか、除け者にされた気分だ。
そこまで、疲れてないのになぁ・・・・・・
さて、やることが無くなってしまった。
てゐや姫はまだお風呂だし、お仕事は何にも残ってないし・・・・・・
要らないって言われたけど、師匠のお手伝いでもしようかな。
休めって言われたけど、別にいいか。
時間を持て余すのは好きじゃないし。
* * * * *
「師匠、入ってもいいですか?」
師匠の部屋兼ラボの部屋の前。襖越しに声をかける。
親しき仲にも礼儀あり。それも師匠と弟子なら当たり前。
というか、普通のことなんだけどね。
私が声をかけてから、一~二秒位の空白。
そして部屋の中から師匠の声が聞こえてきた。
「ウドンゲ?ああ、いいわよ。いらっしゃい」
「失礼します」
部屋の中に入ると薬品と薬草、漢方の入り混じった複雑な匂いが入り混じって、なんとも言えない感覚に襲われる。
実は、私はこの感覚が何となく好きだ。
そのことをてゐに話したら変態扱いされた・・・・・・ひどくない?
師匠といえば、机に向って何かを書いていたようだ。
「すいません、何だか邪魔しちゃったみたいですね」
「ああ、いいのよ。調合した薬の帳簿書いてただけだし。それよりどうかしたの?」
「他の子達に追い出されました。あなたは働きすぎだー!って言われて」
少し拗ねたように言うと、師匠はくすくすと笑いながら優しく私を見つめた。
「それで、暇になって私の所に来たわけね」
「その通りです」
苦笑いを浮かべながら答える。
う~ん、あっさり言われると何だか気恥ずかしいや。
「てゐや姫はお風呂ですし、他のイナバ達も同じなんで相手がいなかったんですよ」
「あの二人は長風呂が好きだものねぇ」
「よくあれだけ長い時間入ってられますよね。この前なんか、二人して三刻ぐらいは入ってましたよ」
ふふっと、師匠が小さく笑う。
この人も姫に負けず劣らず優雅で気品に溢れている。そして美人だ。
姫を花の様な美しさと例えるなら、師匠はさながら朧月の様な美しさがあると言える気がする。
こう・・・・・・滲み出る美しさというか。何というか・・・・・・・
とにかく、こういう人に私はなりたい。
「で、何か手伝えることはありますか?」
「あら、働きすぎだって追い出されたんじゃなかったのかしら?」
「そこまで働いてないですよ。それに全然疲れてないですもん」
むん!と両腕を上げて、まだまだ働き足りないということを見せる。
すると、師匠はちょっとだけ呆れた顔になった。
何となく、その呆れ顔が姐さんの表情と被ったような気がする。
「まったく・・・・・・あなたはもう少し自分を労わりなさい」
あ、姐さんと同じセリフだ。
私ってそこまで疲れたように見えてるのかな?
「ウドンゲ。あなたは良い子よ、本当に良い子。努力家で、いつでも一生懸命で、ちょっとお人好しで、どうやったら皆が楽しく過ごせるかいつ
も気を配ってる。
本当に私の自慢の弟子だわ。
でもね、あなたは一生懸命すぎるのよ。それと、頑張りすぎ。
もう少し気楽に、自分勝手に生きてみるのも悪くはないものよ?」
「よく、分らないです」
私ってそこまで切羽詰まってるように見えるのか・・・・・・
別にそこまで必死なつもりはないんだけどなぁ。
「もう少し流れに身を任せてみなさい。ボールが坂を転がってくみたいに。
ころころ、ころころと、どこまで自然にどこまでも好き勝手に転がってみなさいな」
ふと、説教好きのちんまい閻魔の事を思い出した。
丸い物を集めることが善行になるって言ってたけど、こういうことなのか?
・・・・・・むう、やっぱりよく分かんない。
うんうんと私が唸っていると、ふと頭を撫でられる感触。
見上げると、師匠が優しく微笑んでいた。
「そうやって、無理に頑張ろうとするのがあなたの良い所、そして悪い所ね。ほら、気楽にしなさい。大丈夫、その内に分かるようになるわ」
慈しむような微笑みを浮かべながら、そっと私の頭を撫でる師匠。
その感触が、くすぐったい様な、懐かしい様な不思議な感じ・・・・・・でも心からほっとできる、そんな感触。
肩の力が、そっと抜けていくのが分かる。。
随分と肩が凝っていることに、今更ながら気付いた。
自分ではそこまで疲れてないと思っていたのに・・・・・・
「リラックスできたかしら?肩肘張ってても疲れるだけだしね、偶にはぼーっと過ごすのも悪く無いものよ」
そう言いながらそっと師匠は手を離した。
「あ・・・・・・」
師匠の手がとても暖かくて、気持ち良くて、そして懐かしくて・・・・・・それが無くなって思わず声を上げてしまった。
「どうしたの?」
「え、えと!その・・・あの!・・・・・・・も・・・もうちょっとだけ・・・・・・頭、撫でて、ください・・・・・・」
今の私の顔、絶対真っ赤だ。
撫でてくれだなんて、小さな子供みたいなこと言って・・・・・・うう、恥ずかしい。
まともに師匠の顔が見れなくて、恥ずかしさに俯いていると、さっきと同じ・・・・・・いや、さっきよりももっと暖かくて、もっと優しくて、もっと心地の良い、そんな師匠の手が私の頭を撫でてくれた。
そっと、そっと・・・・・・
「ウドンゲは甘えん坊ね」
師匠がくすりと笑いながら、そう言った。
「す、すいません・・・・・・」
「謝らなくてもいいの。言ったでしょう?少し位は自分勝手に生きてみなさいって。
あなたがこれで安心できると言うなら、いつまでも、いつまでもやってあげるから。
だから、謝らなくてもいいの」
「・・・・・・はい」
私が返事をすると、師匠は優しい微笑みを浮かべた。
あの、お母さんのような笑顔だ。
実のところ、撫でてもらっている嬉しさと恥ずかしさで師匠の話をあまり聞いていなかったりする。
だけど、そんなことはどうでもよくなるくらい、師匠の手の平は柔らかくて、優しげだった。
本当に、師匠の手は暖かい・・・・・・
* * * * *
だいぶ長い間、頭を撫でてもらっていたような気がする。
話をするでもなく、何かをするわけでもなく、ただ、師匠の手の感触と、撫でられている感覚を感じているだけだった。
たったそれだけのことでも、私にはとても幸せで、安らかな時間を過ごせたような気がする。
しばらくそうしていると、師匠が口を開いた。
「そろそろ姫達もお風呂から出るころかしらね?私達も部屋から出ましょうか」
「はい!姫達に飲み物用意しないといけませんしね」
そっと離れる師匠の手を、ちょっとだけ名残惜しく思いながらも、返事を返す。
師匠は机の上の冊子やら何やらをまとめて、片付けを始めた。
「部屋の片付け、お手伝いしましょうか?」
「そうね・・・・・・それじゃあ箒で軽く掃いてちょうだい」
「分かりました」
軽く返事を返してから、部屋の隅に置いてある箒を取りに行く。
綺麗好きで、普段から掃除欠かさない師匠は、部屋に掃除の用具一式を揃えている。
その中から室内用箒を持ち上げたところで、何かがかさかさかさと、家具の隙間に入っていったのが見えた。
「ん?」
「ウドンゲどうかした?」
「あ、何でもないです」
幸い、Gでないことは確認できたから、大方何かの虫だろうと思う。
大した事もなさそうだし、一々報告する様な事でもないから問題ないでしょ。
軽く部屋床を掃きながら、さっき、何かが入っていった隙間をちょっとだけ覗いてみる。
む、何も居ない?
どっか行ったのかな?
そう思っていながら、ふと横の壁を見ると、中くらいの茶色い蜘蛛が居た。
ああ、さっきのはこの子か。家蜘蛛かな?
Gみたいに威圧感を与えるほど大きくは無いし、蜘蛛は益虫っていわれてるから放って置こう。
あらかたの所を掃き終わり、さっきの蜘蛛はどうなったのかなぁ?と探してみる。
ほら、見てるだけなら蜘蛛って面白いもんよ?
流石に大きいのは嫌だけどさ。
壁を見回してみるけど、姿が見えない・・・・・・
どっか行っちゃったかな?
そう思って見上げてみると・・・・・・居た!天井の所にへばり付いてるや。
位置的には師匠の机の真上かな?
師匠の方はというと、机の上を整理をしている。
色々、帳簿がやら何やらが出てたから、時間がかかったみたいだ。
あ、蜘蛛の方が下りてきた。
あのまま行くと、ちょうど師匠の目の前に落ちるんじゃ・・・・・・
「あ、師匠」
「ん?何?ウドンゲ」
声を掛けると師匠がこっちを向いた。
で、その瞬間、蜘蛛がぽとりと机の上に落ちる。
タイミング良いわね・・・・・・
「あの、机の所に」
「机?」
師匠が机の上を見回し、そして蜘蛛の所でその動きが止まった。
それほど大きくないし、直ぐに蜘蛛を追っ払って終わりかな。
そう思って見ているんだけど・・・・・・あれ?師匠が動かない。
いつもの笑顔に、少しだけ不思議そうな表情をミックスさせた顔のまま、ずっと蜘蛛を見つめ続けてる
何秒かして、師匠が口がちょっと動いた。
「い・・・・・・」
い?
「い、いやああああああああああ!!!」
いきなり悲鳴が上がったかと思うと、師匠がこっちにダッシュできました。
速いです、赤くもないのに普段の三倍の速さです。
そしていきなり抱きつかれました・・・・・・・ってええええええええええええ!?
「し、師匠!?」
「いやぁ・・・蜘蛛はいやぁぁ!!」
「ちょっ、師匠落ち着いて!」
「蜘蛛はいやぁ!蜘蛛あっちいっちゃええ!」
え~と、あれです。師匠、ガン泣きしてます。
私に抱きつきながら、マジで泣いてます。
「し、師匠。大丈夫ですって、もう机の上に蜘蛛は居ませんから」
ぽとり
「あ」
丁度、私達の足もとにあの蜘蛛が落ちてきて・・・・・・
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
うお!速!!
いつの間にやら、師匠が壁際にっ!
で、蜘蛛の方は・・・・・・何で師匠の所ににじり寄ってるの!?
「やぁ・・・・いやぁ・・・・・・・来ないでぇ!」
かさ
「く、来るなぁ!あっち行ってぇ!!」
かさかさ
「ひう!・・・・・・こ、来ないでよぉ!!」
かさかさかさ
「ひぃ!いやぁぁ!!!」
必死に後ろに下がって蜘蛛から逃げようとする師匠。
でも、既に背中は壁についちゃっているから、それ以上は下がれない。
大人の女性が、涙をぼろぼろ零しながら必死に小さな蜘蛛から逃れようとする姿、どこか加虐心をそそる光景だ・・・・・・
て言うか、解説する前に助けろ私!
師匠に飛び掛ろうとしている(ように見えた)蜘蛛をちりとりで掬い、そして外に放りだした。
放り出された蜘蛛はそのまま草むらに落ちて、どこかに逃げたみたい。
で、師匠の方は・・・・・・どこぞのお子様吸血鬼の様に頭を抱えて防御姿勢になってました。
それは色々と無理がありますって。
「師匠、もう蜘蛛は外に出しましたよ。だから大丈夫です」
かたかたと震えている肩に優しく手を置いて声を掛けると、師匠が顔を上げた。
少しだけ恐怖を浮かべた表情で、はっとしたながら私を見つめている。
そしてすぐに、涙をぼろぼろとこぼし始めて・・・・・・
「うわああああああああああん!ウドンゲぇ!!」
「大丈夫です、大丈夫ですから。もう蜘蛛はいませんから」
「うぐっ!・・・・・・えぐっ・・・・・・うううう・・・・・・・うわああああああああん!!」
師匠、そこまで怖かったんですか・・・・・・
そこまで、ガン泣きするほど怖かったんですか・・・・・・
取りあえず泣き止むまで、そっと慰めることにした。
部屋の中も結局、散らかっちゃったから、片付けないと。
師匠の頭をよしよしと撫でながら、その場に座る。
何だかさっきと丸っきり逆の展開だ・・・・・・・
ぼーっとそんな事を考えていると、後ろからいきなり声がした。
「あら、永琳どうしたの?泣いたりなんかして。イナバに苛められたのかしら?」
びっくりしながら後ろを振り替えると、赤いジャージを着た姫が立っていた。
どうやら、お風呂上がりみたいだ。
その後ろには、ピンクジャージのてゐ。
癖っ毛が湿っていて、頬にくっ付いている。
石鹸の良い香りがここまで漂ってきた。
「姫、レイセンにそんな根性ありませんよ。いつも、私や永琳様に遊ばれてるんだし」
「それもそうね・・・・・・で、イナバ。何かあったの?」
ええ、そうですよ、所詮私はてゐや師匠のおもちゃで、姫のペットですよ・・・・・・っと拗ねてる場合でもないわね。
「えっとですね。蜘蛛が出てきて、で師匠がそれに驚いて泣きだしちゃったんです」
「ああ、なるほど。蜘蛛が出たのね。掃除したからどっかから這い出てきたのかしら?」
「私知らなかったです。師匠がここまで蜘蛛嫌いだなんて・・・・・・ゴキブリは平気なのに」
「ふふ、面白いでしょう?月の頭脳とまで呼ばれた天才、八意永琳が蜘蛛相手に大泣きするんですもの」
「・・・っひぐ・・・ぐすん・・・・姫、面白いは余計です・・・・・誰にだって苦手なものはあるんです」
「あ、師匠」
まだ少しぐずりながらも、師匠が顔を上げた。
目が潤んでいて、鼻の辺りが真赤だ。
まあ、あれだけ泣けば仕様がないけど。
「落ち着いたかしら?永琳」
「ええ、どうにか。あれが出ないように綺麗にはしていたつもりだったんですけどね・・・・・・こうなったら部屋に結界張るしかないのかしら?」
「永琳様、それって力の無駄遣いですよ。出入り面倒くさくなりますし」
「何を言うのてゐ?!あの憎ったらしい節足動物を見なくて済むなら結界の一つや二つ!!!!永遠亭を異次元に放り込むことも吝かではないわ!!」
「本気でやりそうだから、そういうことは止めてくださいね」
冷やかに突っ込んでいくてゐ。
傍から見たら大人が子供に言い負かされているみたいだ。
流石は詐欺兎・・・・・・
「そういえば、師匠。薬の調合とかでどうしても蜘蛛が必要な時はどうしていたんですか?」
ふと思いついて、師匠に訪ねてみる。
「・・・・・・最近、あなたに任せた調合を思い出してみなさい」
任された調合?
・・・・・・え~と、セマダラアカゴケグモとマンドラゴラ・・・・・・訳の分かんない人面蜘蛛に朝鮮人参と桜島大根をミックスさせたちょっと怪しく根分れしたバイオ人間、股ンGO君・・・・・・黄金のスタルチュアとハートの器・・・・・・
蜘蛛ばっかだ。
「師匠!自分がやりたくないからって人に押し付けるのは酷いです!」
「仕方がないじゃない!!苦手なもんは苦手なんだから!!」
「私、蜘蛛を磨り潰すために弟子入りしたわけじゃありません!!」
「蜘蛛の調合の時は頼りにしてるわよ?ウドンゲ」
うお、いきなり声色が変わった。しかもニコニコと胡散臭い笑みが・・・・・・
「誤魔化そうとしてますね?」
「何言ってるのよ。それに蜘蛛以外にも色々な調合やら実験を任せているじゃない」
「ま、まあ確かにそうですけど・・・・・・」
「私には出来なくて、あなたには出来る、これって凄いことよ?だから誇りなさい。
あなたは月の天才にやれない、蜘蛛を磨り潰すって仕事を任されているのよ!」
うぅ・・・・・・駄目だ、これ以上話をしても誤魔化されるだけだ。
それに師匠、そんな仕事任されたとしても嬉しくないです・・・・・・
「・・・・・・じゃあ、私が来る前はどうやっていたんですか?」
「適当にイナバとかに任せてたわ、てゐにも何度か頼んだことあったわね」
てゐもやったことあるんだ。
ていうか、大切な調合をそんな適当に・・・・・・
「じゃあ、イナバとかが居なかった時にはどうしてたんです?」
「姫に無理やりやらせてた」
あなた、それでも従者ですか。
「そうそう、永琳たら泣いて頼んでくるのよねぇ。お願いです姫!お願いだからやってぇ!ってね」
けらけらとあまり上品とは言えない笑い方をする姫。
それでもどこか優雅に見えるから、流石と言うべきか、なんと言うべきか・・・・・・
「姫、私がいつそんなことを言いましたか?」
普段のニコニコとした笑みを浮かべながらも、師匠からどす黒いオーラが滲み始めた。
ぶっちゃけ物凄く怖い・・・・・・なるほどこれがオーラ力のなせる技か。
笑顔般若って今の師匠の状態を言うのかもしれない。
「あら?永琳は忘れちゃったのかしら?磨り潰した蜘蛛の足の一部を投げつけたら、泡を吹いて気絶してたじゃない。あの時の永琳の顔と言ったらなかったわぁ」
「姫・・・・・・いい加減にしてもらいましょうか?」
「あ、永琳。足元に小さな蜘蛛が」
「きゃあああああああああ!!」
うわ!師匠、いきなり抱き付かないでください!
「いやぁ!蜘蛛いやぁ!」
「師匠、蜘蛛なんて居ませんよ。落ち着いて」
「うぅ・・・・・・うっぐ・・・・・・うえぇぇぇぇん!ウドンゲぇ!あなただけが私の味方なのねぇ!」
「あ、そう言えば一昨日辺りに、小さな蜘蛛を叩きつぶした覚えが・・・・・・」
「いやあああああああああああああああ!!」
ああ、師匠!そんなに逃げないでぇ!冗談ですからぁ!!
* * * * *
その後は色々酷かったです。
一週間くらい話をしてもらえず、部屋に入ろうとすると全力で結界を張られるようになり・・・・・・
三週間くらいしてようやく冗談と分かってもらえてもあんまり私に触れようとせず、それから半月が経っても未だに恐ろしいものを見るような眼で見られて・・・・・・
ホントにちょっとした冗談だったのに、そこまで嫌ですか。
まあ、現在はすっかり元通り・・・・・・あれから二カ月くらい経ったけどね。
「ウドンゲ~、マンドラゴラと冬虫夏草の調合お願い~」
「は~い」
ああ、普通に師匠の部屋に入れてもらえて、普通に師匠に接してもらえるって幸せだなぁ。
取りあえず、あの誤解というか冗談も解けて以前のように師匠に接してもらっている。
ここまで関係修復するのにどれだけ苦労したか・・・・・・
あれねだね、壊すは易し直すは難しってやつね。
うん、私良いこと言った!
っと、なんだろ?
さっきから、どたどたとイナバの足音がやけに騒がしい。
部屋の外で何かあったのか?
「何かあったんですかね?」
「大方、また姫が何かやらかしたんでしょ。もしくは、月の使者がやって来たとか」
「まっさかぁ」
お互いに冗談を言いながら、笑い合う。
やっぱり普通に接してもらえるって幸せだ・・・・・・
と、適当に話をしていると、いきなり下っ端イナバが襖を開けた。
肩で息をしており、よほど焦ってやってきたのが分かる。
その様子から見ると、どうやら唯事では無い。
「あら、いらっしゃい。どうかしたのかしら?」
師匠が、イナバを落ち着かせるよう、ゆっくりと言った。
私も、そのイナバが落ち着くように、座布団に座らせる。
何回か深呼吸をさせ、呼吸を落ち着かせてイナバの口が開かれるのを待つ。
しばらくして、酷く困ったような表情になりながらそのイナバが言った。
「永遠亭各場所で蜘蛛の卵が大量に孵化しました。その勢いは正に蜘蛛の子を散らす様です・・・・・・永琳様、どうにかしてください!!」
色々と苦労が増えそうなことがまた一つ。
まあ、これものらりくらりと解決されるんだろうなぁ。
そんなこんなで永遠亭は平和に騒がしく、時に物騒に時に和やかに平常運転を続けてたりする。
「蜘蛛はいやぁあああああああああああああ!!!!」
約一名を除いてだけど・・・・・・
≪こちら第11イナバ小隊、こちらはまだ終わりそうにない。応援を求む≫
≪こちら本部。31小隊、聞いた通りです。第11小隊の援護に向かってください。最短ルートは―――≫
≪こちら21小隊!!奴が!奴が出た!!くそ!早過ぎて仕留められない!!う、うあぁ!!きたぁぁ!!!≫
≪こちら特殊装備部隊、今から21小隊の救援へ向かう≫
≪こちら第35イナバ部隊。大変なモノを見つけた!奴らの本拠地だ・・・・・・敵の数が多すぎて壁が見えない!敵が七分に木目が三分!いいか、敵が七分に木目が三分だ!
特殊部隊の装備でも厳しいと思われる!・・・・・・YBの使用許可を請う!!≫
≪こちら本部、YBの使用を許可する。全力を持って奴らを滅殺せよ。それこそが我々の平穏に繋がるのだ≫
≪第35イナバ部隊、了解した。YBを使用する!≫
≪こちら特殊装備部隊、第21小隊の援護完了。再び第一戦闘配備で待機する≫
「こちら本部参謀、レイセン・優曇華院・イナバ。全小隊は一度本部へ帰還せよ・・・・・・休憩しましょう。美味しい人参ジュースを用意してあるわ」
≪さっすが参謀!話が分かるぅ!!≫
≪こちら第35小隊、YB使用により敵の全滅を確認・・・・・・・あ゛~、しんどかったぁ。早いとこ人参ジュース飲みたいなぁ≫
≪人参!人参!えーりん!えーりん!≫
≪人参!人参!参謀殿愛してます!!≫
≪あ~ずるい!私もウドンゲさん狙ってるのに!!≫
≪ふふん、てゐ様派な私には関係ないわね≫
≪はいはい、無線で喧嘩しないの。早くしないと、てゐが全部飲んじゃうって言ってたわよ≫
≪ちょっとレイセン!何言うの!≫
≪あ、てゐ。聞こえてた?≫
≪酷いよ!折角あんたのせいにして、ジュース全部飲もうと思ったのに!!≫
≪わー!てゐ様外道!≫ ≪鬼!≫ ≪悪魔!≫ ≪CCO!≫
無線から流れる下っぱイナバ達の騒ぎ声。
陽気というか、騒がしいというか、とにかく聞いてて飽きないくらい楽しい。
そんな無線からの声を聞きながら、私―――鈴仙・優曇華院・イナバは、ほっと息を吐いた。
現在、永遠亭は大掃除の真っただ中だ。
事の始まりは姫の気紛れな一言。
「皆で掃除がしたいわ」
唐突に、イナバ部屋に来てそんなこと言いだすもんだから、皆、目が点になっていた。
まあ、それのお陰で、私はスッパにならずに済んだんだけどね。
・・・・・・てゐの口車に乗せられて野球拳してたのよ。
相手は勿論てゐ。
で、いつの間にか私はパンツ一丁でした。
うん、ホントにパンツ一枚だけ。
ブラも無理矢理剥ぎ取られて、半泣きでした。
しかも、てゐは一枚も脱いでないという事実。
何で?
ついでに、その時の私の裸を誰かが撮りやがりやがったらしく、イナバ達の間に私の半泣き半裸写真が出回ってるっていう・・・・・・
しかも、てゐがその写真を売買しているっていう・・・・・・
あの詐欺兎、それが目的で私と勝負したな・・・・・・
まあ、そんなこんなで姫を大将に、私が参謀、てゐが現場指揮、師匠が色々と技術的な協力をして現在大掃除の真っ最中なわけだ。
ちなみに、姫を大将と言ってはいるけど、実のところ下っぱのイナバ達と一緒に掃除をやってたりする。
大して戦力にならないんじゃないか?と不安には思ってたけど、正直姫を侮っていた。
お婆ちゃんの知恵袋的な方法で、頑固な汚れもなんのその。ホント素晴らしいくらいにぴかぴかにしている。
まあ、一時期は御爺さんと御婆さんを世話しながら生活していたらしいから、自活能力はあるって師匠が言ってたけど、まさかここまでとは・・・・・・
しかも言い出しっぺだから、本当に熱心なのよねぇ。
そういえば、私やてゐ以外のイナバとも話がしたいって言ってたから、その切っ掛け作りのための掃除なのかも。
普段何気ないようにしてるけど、姫は結構寂しがり屋らしい。
まあ、これは師匠から聞いたことなんだけど・・・・・・
実はまだ、私には姫がどんな人なのかよく分らない。
そういえば、てゐに聞いてみたら師匠と同じこと言ってたんだよなぁ。
姫は、自分のしたいことを上手く表現出来ない寂しがり屋だそうだ。
だから、妹紅とも普通に話をしたいのに、いつも喧嘩ばかり。
もっと私達と仲良くしたいらしいけど、何故かしようとしてない。
どこまで仲良くなったらいいか分からないからだって、てゐは言ってた。
ちなみに師匠の技術的協力とは、主に害虫駆除。
使い魔やら、殺虫剤やらを用意していただいた。
黒い弾丸ことゴキブリをも何のその、あらゆる蟲を一瞬で葬り去る高機動小型使い魔「一撃殺虫 やごころさん」を全部隊に配置。ちなみに縮退炉を搭載してるから、半永久的に活動が可能。
狭いところに潜り込んだ害虫をこれで殲滅して、心置きなく掃除ができるようにする。
さらに、それでも対抗できない時のために特殊装備部隊が装備している、対G用兵器デストロイヤー。
あらゆる蟲を一瞬にして死に至らしめる強力な殺虫剤を空気中に散布し、害虫を死滅させる。
だけど、吸いこんだら私達も洒落にならないことになるくらい強力だったりするもだから、これがねぇ・・・・・・
で、本当に最後の切り札であり、あまりに強力すぎる性能のため投入するかどうか本気で悩んだ装備、戦略掃除使い魔ヤゴバスター。通称YB。
さっきの「一撃殺虫 やごころさん」二体を合体させ武装を追加したもので、縮退炉を二個搭載で亜光速戦闘が可能になり、様々な武装を搭載してる。
マイナス一億度の超々極低温のビームを発射する「ヤゴコロビーム」やら、機体にデストロイヤーを纏わせて亜光速の飛び蹴りをぶち込む「ヤゴコロ稲妻キック」、更には腕から100億ボルトの超高電圧の稲妻を発生させ、蟲を焼き殺す「ヤゴコロコレダー」・・・・・・
その他にも、太陽並の熱エネルギーを極小に圧縮し、それをバットで打って相手にぶつける「ヤゴコロホームラン」、高熱量のデストロイヤーに指向性を持たせ、斧状の武器として使う「ヤゴコロトマホーク」・・・・・・
なんか言ってて頭痛くなってきた・・・・・・
師匠の作るものは色々とズレテいると言うか、やりすぎていると言うか、私には理解できません。
まあ、それでも害虫駆除に大いに貢献してるからいいんだけどね。
「ウドンゲ、進んでる?」
あ、噂をすればなんとやら。
いつもの和やかな笑みを浮かべて師匠が現れた。
「はい、順調です。この分だと予定より早く終わりそうですね。あ、今から休憩取る所です」
「そう、それはよかったわ。はい、これ差し入れ。皆で食べてちょうだい」
そう言われて師匠から渡されたのはとても大きな風呂敷。
両手で抱えないといけないくらい大きいものだ。
中身を覘いてみると沢山の御握りが文字通り山の様に入っていた。
永遠亭のイナバ全員分はあるんじゃなかろうか?
「どうしたんですか!?こんなに沢山!!」
「ああ、皆頑張ってたみたいだからね。私もちょっとだけ頑張ってみたの」
ふふ、と優しく微笑む師匠。
本当に全てを包み込んでくれそうな優しい、優しい笑顔だ。
この笑顔を見ると、心の底から安心できてしまう。
そして、どうしようもなく甘えたくなってしまう。小さな子供が母親に甘えるように。
ああ、やっぱりこの人は永遠亭のお母さんなんだ・・・・・・そう納得できる笑顔だ。
改めて、師匠の凄さと大きさを実感する。
ここに来たばかりの時に、この笑顔のおかげでどれだけ気が楽になったか。
月に置いてきてしまった仲間を思い出して、一人咽び泣いてた時も師匠はこんな笑顔で優しく抱きしめてくれた。
色々と辛いことがあった時、いつもこの笑顔で慰めてくれた。
実験を失敗して色々と器具を駄目にした時も、この笑顔で許してくれた。
思えば、ホントに師匠に頼り切ってるなぁ・・・・・・しっかりしないと。
そんなことを考えて、一人苦笑いしてると、師匠が私の顔を覗き込んできた。
うあ・・・師匠、顔がとても近いです・・・・・・
「どうしたのウドンゲ?一人で笑ったりして」
「い、いえ、別に何でもないです!」
「そう、ならいいけど」
「そう言えば師匠。師匠のお部屋は掃除しなくていいんですか?部隊を回してませんけど・・・・・・」
「普段からマメに掃除してるから大丈夫。整理しないと色々と危ないしね」
そういえば、師匠はかなりのキレイ好きだ。
師匠の部屋には塵一つ、埃一つたりとも落ちていない。
色々と危険な薬物やら、何やらがあるため汚れは大敵なのだ。
徹夜続きの実験が終わったあとは流石に汚いが、それでも1~2日したら奇麗に掃除されている。
それに、普段から永遠亭の整頓を取り仕切ってるのも師匠である。
毎日毎日、口酸っぱくイナバ達に整理整頓を言い聞かせている姿は、本当に母親の様に見える。
曰く、綺麗な方が気持ちいいでしょう?とのこと。
まあ、綺麗な方が気持ちいいのは確かだし、師匠が言うことなので、皆キチンと言う事を聞いてはいる。
「それならいいんですが・・・・・・人手が欲しくなったら呼んでくださいね」
「大丈夫。今は簡単な薬の調合してるだけだしね。あなたはしっかりと掃除の指揮をなさい」
「了解です」
私が笑いながらそう言うと、師匠はしばらく私の顔を見つめて、そしてくすくすと小さく笑った。
まるで、本当に小さい小さい幸せを見つけた時の様な、そんな笑みだ。
「えっと・・・・・・私の顔、何かおかしいですか?」
私がそう言うと、師匠は笑みを浮かべたまま、今度は何か困ったような表情をした。
「ごめんなさい。ふと、あなたが来たばかりのことを思い出してね」
「私が来たばかりのこと?」
「ええ。あなた、来たばかりの時はほとんど喋らなかったじゃない。
で、何か頼み事した時も、ただ無表情に了解ですって言うだけだったから」
「そうでしたっけ?・・・・・・よく覚えてないなぁ」
「その時と今を比べて、あなたも随分と変わったなぁと思ってね。
ふと、懐かしくなっちゃったのよ」
「はぁ・・・・・・」
私はただ、曖昧に返事をするしかできなかった。
私は変わったのかな?
昔と大して変って無いと、自分では思う。
確かに、てゐや他のイナバ、姫、そして師匠と出会ってからは毎日が気楽で面白くて・・・・・・
月に居た時よりもずっと自分が自分らしく生きていると思える。
毎日、好きなように過ごして、好きなように師匠の手伝いをして、好きなように姫と遊んでいる。
確かに明るくなったとは自分でも感じる。
でもそれは自分を出せるようになったからじゃないのかな?
それは変わったと言えるのかな?
いくら考えても、結局分からないままだ。
「それじゃ、そろそろ私は部屋に戻るわ。皆に頑張れって伝えておいてね」
私が思案に耽っていると、師匠から声が掛けられた。
顔を上げると、既にその背中は本部が置かれている部屋から出るところだった。
そして、それと入れ替わるように、てゐを先頭にして掃除小隊の面々が部屋に入ってくる。
ぞろぞろとまるで蟻の行進みたいだ。
あ、御握りとジュース、皆に配らなきゃ。
* * * * *
あっちでわいわい。こっちでがやがや。そっちでほりゃほりゃ。
本部が置いてある部屋は今は、イナバ達の喧騒に包まれていた。
永遠亭でも一番の大きさを誇るこの部屋は、普段はイナバ達の寝床になっている。
だから掃除部隊のイナバが全員入ってもまだまだ余裕があるのだ。
まあ、それでも部屋一面に白い耳が揺れているというのは中々壮観ではあるけど。
イナバ達はそれぞれ仲良しのグループを作り、楽しそうに雑談している。
私と言えば、皆にジュースと御握りを配り終えて、ゆっくりと座りながらその光景を眺めていた。
う~ん、遠足での引率の先生ってこんな感じなのかな?
そんなことを考えていると、ふいに上から声が降ってきた。
「イナバ、配膳ご苦労様」
首を上に向けて声の主を見てみると、姫がにっこりと微笑みながら私を見下ろしていた。
「あ、姫。お掃除お疲れ様です」
私がそう返すと、姫はゆっくりと私の隣に座った。
そうして、他のイナバ達が騒いでいる様子をじっと眺めている。
その小さな所作の一つ一つが、うっとりするほど優雅で佳麗だ。
私は、しばらくの間、姫の横顔を見つめていた。
普段、色々とはっちゃけてはいるけど、やっぱりこの人は美しすぎる・・・・・・
毎日、顔を合わせているのに、ついつい見入ってしまう。
何人の男がこの美貌に引き寄せられ、そして狂っていったんだろ。
ずっと見詰めていると私まで変な気分になってくる、同性のはずなのに・・・・・・
ぼうっと、夢を見ているみたいにその横顔を見つめ続けていると、ふいに姫が私の方を向いた。
その顔は、楽しくって仕方無いと言う感じだ。
瞳がきらきらと輝いている。
「何か良い事でもあったんですか?」
「ん?久しぶりに皆と一緒に動いたらとても楽しかったのよ。でね、あなた達以外のイナバとも話ができて、とても面白かったわ」
にこにこと笑いながら話す姿は、小さな子供のようだ。
その内に身振り手振りでイナバ達と話した内容を説明しはじめ、その話がどれだけ面白かったかを、本当に嬉しそうに語り始めた。
こういうところは、妙に子供っぽいんだよなぁ、この人。
姫の話を聞きながら、くすくすと小さく笑う。
姫と言えば、私が笑っているのに気付いているのかいないのか、楽しそうに話を続けていた。
まあ、この人はいつもこんな感じだからいいか。
何を考えているかわかんなくて、唐突な思いつきで私達と混じって何かをやって。
で、いつの間にか別の場所で別の事やってて、とにかく気紛れで、とにかく奔放で、とにかく可愛らしくて・・・・・・そんな私達のご主人さま。
そんな姫の話はまだまだ終わりそうにない。
そろそろ休憩も終わりなんだけどね・・・・・・
ま、いっか。他のイナバ達も姫の話に聞き入ってるし。
このまま始めても多分真面目にやらないでしょ。
だから姫の話が終わるまで休憩の延長だぁ!
* * * * *
結局、姫の話はあの後1時間近くも続いてしまった。
10分くらいで済むかなぁと思ってたんだけど、見通しが甘かったわね・・・・・・
ま、話している間の姫は本当に楽しそうだったし、こっちも楽しい話が聞けてたから別にいいんだけど。
掃除の方もどうにか予定時間内に終わらせられたし。
元々が順調だったから1時間ぐらい作業が遅れてもどうにかなるもんだね。
さて、掃除が終わって、小隊の面々は今、お風呂中だ。
姫も何だかイナバに混じって風呂入ってるみたいだし・・・・・・
先に入るよう勧めたんだけど、皆で一緒に入りたいって頑として聞かなかったんだよなぁ。
本人がそれで良いなら問題ないんだけど。
で、今、私は何をやっているかと言うと後片付けの真っ最中なわけだ。
無線の回収、掃除用具の片付けと整理、その他諸々。
本部担当のイナバ数人とえっちらおっちらやっとるわけで。
本部の担当は掃除に直接参加してないからね。
こういう事ぐらいはきちんとやらないと。
「ウドンゲさん、後は私達がやりますからもう上がっていいですよ。ずっと指示出してて疲れたでしょ?」
イナバの中でも最古参の部類に入る子がそう言ってくれた。
私よりも古くから永遠亭に居るイナバで、若いイナバ達からは姐さんと呼ばれて慕われている。
ちなみに私も心の中で姐さんと呼んでたりする・・・・・・
だって、そこそこ古い妖怪で、シッカリとしていて気もきくから頼りがいがあるんだもん。
あの、てゐだってちょくちょく相談を持ちかけてるし。
「ん、ありがとう。でも、今回の掃除の責任者は私だからね。私が最後まできちんとやらないと。それに私は指示出してただけで大して働いてないし」
私がそう言うと、姐さんはちょっと呆れたような、怒ったような表情をした。
あれ?私、変なこと言った?
「まったく・・・・・・働いてないだなんてとんでもない。
むしろ、あなたは働きすぎなくらいなんです。
掃除の計画、小隊の割振り、事前の用具の確認、そのほとんどをあなたは一人でやってた。
あなたが的確に指示を出したから掃除だって早く終わった。
十分にその責任を果たしてますよ。
私達はほとんど何もしてないんです。少し位は私達も働かせてくださいよ。そうやって色々抱え込もうとするのはあなたの悪い癖だ」
「そ、そんな言われるほどやってなかったわよ。それに、疲れならオペレーターをやってたあなた達の方が多いと思うし・・・・・・」
あ、溜息吐かれた。なんで?
「あなたは働きすぎなの!年上の言う事は素直に聞きなさい!!」
あう、怒られた・・・・・・
って、他のイナバ達も頷いてるし。
私だけ楽したら皆に悪いじゃない!
「で、でもぉ・・・・・・」
「でもは無し!だってもダメ!偶には私達に全てを任せなさい」
「あ、あのね?皆を信用してないわけじゃないよ?でもね、やるからには最後まで・・・・・・」
「いいからとっとと終わる!!もう少し自分の身体を労わりなさい!!」
「うぅ、分かりました・・・・・・」
うぐぅ、そこまで怒らなくてもいいのにぃ・・・・・・
て言うか姐さん、怒ると怖いです。
迫力だけなら師匠といい勝負です。
正直、怒られるのは師匠だけで十分です。
そういうわけなんで、仕方なく部屋を出ることにする。
何だか、除け者にされた気分だ。
そこまで、疲れてないのになぁ・・・・・・
さて、やることが無くなってしまった。
てゐや姫はまだお風呂だし、お仕事は何にも残ってないし・・・・・・
要らないって言われたけど、師匠のお手伝いでもしようかな。
休めって言われたけど、別にいいか。
時間を持て余すのは好きじゃないし。
* * * * *
「師匠、入ってもいいですか?」
師匠の部屋兼ラボの部屋の前。襖越しに声をかける。
親しき仲にも礼儀あり。それも師匠と弟子なら当たり前。
というか、普通のことなんだけどね。
私が声をかけてから、一~二秒位の空白。
そして部屋の中から師匠の声が聞こえてきた。
「ウドンゲ?ああ、いいわよ。いらっしゃい」
「失礼します」
部屋の中に入ると薬品と薬草、漢方の入り混じった複雑な匂いが入り混じって、なんとも言えない感覚に襲われる。
実は、私はこの感覚が何となく好きだ。
そのことをてゐに話したら変態扱いされた・・・・・・ひどくない?
師匠といえば、机に向って何かを書いていたようだ。
「すいません、何だか邪魔しちゃったみたいですね」
「ああ、いいのよ。調合した薬の帳簿書いてただけだし。それよりどうかしたの?」
「他の子達に追い出されました。あなたは働きすぎだー!って言われて」
少し拗ねたように言うと、師匠はくすくすと笑いながら優しく私を見つめた。
「それで、暇になって私の所に来たわけね」
「その通りです」
苦笑いを浮かべながら答える。
う~ん、あっさり言われると何だか気恥ずかしいや。
「てゐや姫はお風呂ですし、他のイナバ達も同じなんで相手がいなかったんですよ」
「あの二人は長風呂が好きだものねぇ」
「よくあれだけ長い時間入ってられますよね。この前なんか、二人して三刻ぐらいは入ってましたよ」
ふふっと、師匠が小さく笑う。
この人も姫に負けず劣らず優雅で気品に溢れている。そして美人だ。
姫を花の様な美しさと例えるなら、師匠はさながら朧月の様な美しさがあると言える気がする。
こう・・・・・・滲み出る美しさというか。何というか・・・・・・・
とにかく、こういう人に私はなりたい。
「で、何か手伝えることはありますか?」
「あら、働きすぎだって追い出されたんじゃなかったのかしら?」
「そこまで働いてないですよ。それに全然疲れてないですもん」
むん!と両腕を上げて、まだまだ働き足りないということを見せる。
すると、師匠はちょっとだけ呆れた顔になった。
何となく、その呆れ顔が姐さんの表情と被ったような気がする。
「まったく・・・・・・あなたはもう少し自分を労わりなさい」
あ、姐さんと同じセリフだ。
私ってそこまで疲れたように見えてるのかな?
「ウドンゲ。あなたは良い子よ、本当に良い子。努力家で、いつでも一生懸命で、ちょっとお人好しで、どうやったら皆が楽しく過ごせるかいつ
も気を配ってる。
本当に私の自慢の弟子だわ。
でもね、あなたは一生懸命すぎるのよ。それと、頑張りすぎ。
もう少し気楽に、自分勝手に生きてみるのも悪くはないものよ?」
「よく、分らないです」
私ってそこまで切羽詰まってるように見えるのか・・・・・・
別にそこまで必死なつもりはないんだけどなぁ。
「もう少し流れに身を任せてみなさい。ボールが坂を転がってくみたいに。
ころころ、ころころと、どこまで自然にどこまでも好き勝手に転がってみなさいな」
ふと、説教好きのちんまい閻魔の事を思い出した。
丸い物を集めることが善行になるって言ってたけど、こういうことなのか?
・・・・・・むう、やっぱりよく分かんない。
うんうんと私が唸っていると、ふと頭を撫でられる感触。
見上げると、師匠が優しく微笑んでいた。
「そうやって、無理に頑張ろうとするのがあなたの良い所、そして悪い所ね。ほら、気楽にしなさい。大丈夫、その内に分かるようになるわ」
慈しむような微笑みを浮かべながら、そっと私の頭を撫でる師匠。
その感触が、くすぐったい様な、懐かしい様な不思議な感じ・・・・・・でも心からほっとできる、そんな感触。
肩の力が、そっと抜けていくのが分かる。。
随分と肩が凝っていることに、今更ながら気付いた。
自分ではそこまで疲れてないと思っていたのに・・・・・・
「リラックスできたかしら?肩肘張ってても疲れるだけだしね、偶にはぼーっと過ごすのも悪く無いものよ」
そう言いながらそっと師匠は手を離した。
「あ・・・・・・」
師匠の手がとても暖かくて、気持ち良くて、そして懐かしくて・・・・・・それが無くなって思わず声を上げてしまった。
「どうしたの?」
「え、えと!その・・・あの!・・・・・・・も・・・もうちょっとだけ・・・・・・頭、撫でて、ください・・・・・・」
今の私の顔、絶対真っ赤だ。
撫でてくれだなんて、小さな子供みたいなこと言って・・・・・・うう、恥ずかしい。
まともに師匠の顔が見れなくて、恥ずかしさに俯いていると、さっきと同じ・・・・・・いや、さっきよりももっと暖かくて、もっと優しくて、もっと心地の良い、そんな師匠の手が私の頭を撫でてくれた。
そっと、そっと・・・・・・
「ウドンゲは甘えん坊ね」
師匠がくすりと笑いながら、そう言った。
「す、すいません・・・・・・」
「謝らなくてもいいの。言ったでしょう?少し位は自分勝手に生きてみなさいって。
あなたがこれで安心できると言うなら、いつまでも、いつまでもやってあげるから。
だから、謝らなくてもいいの」
「・・・・・・はい」
私が返事をすると、師匠は優しい微笑みを浮かべた。
あの、お母さんのような笑顔だ。
実のところ、撫でてもらっている嬉しさと恥ずかしさで師匠の話をあまり聞いていなかったりする。
だけど、そんなことはどうでもよくなるくらい、師匠の手の平は柔らかくて、優しげだった。
本当に、師匠の手は暖かい・・・・・・
* * * * *
だいぶ長い間、頭を撫でてもらっていたような気がする。
話をするでもなく、何かをするわけでもなく、ただ、師匠の手の感触と、撫でられている感覚を感じているだけだった。
たったそれだけのことでも、私にはとても幸せで、安らかな時間を過ごせたような気がする。
しばらくそうしていると、師匠が口を開いた。
「そろそろ姫達もお風呂から出るころかしらね?私達も部屋から出ましょうか」
「はい!姫達に飲み物用意しないといけませんしね」
そっと離れる師匠の手を、ちょっとだけ名残惜しく思いながらも、返事を返す。
師匠は机の上の冊子やら何やらをまとめて、片付けを始めた。
「部屋の片付け、お手伝いしましょうか?」
「そうね・・・・・・それじゃあ箒で軽く掃いてちょうだい」
「分かりました」
軽く返事を返してから、部屋の隅に置いてある箒を取りに行く。
綺麗好きで、普段から掃除欠かさない師匠は、部屋に掃除の用具一式を揃えている。
その中から室内用箒を持ち上げたところで、何かがかさかさかさと、家具の隙間に入っていったのが見えた。
「ん?」
「ウドンゲどうかした?」
「あ、何でもないです」
幸い、Gでないことは確認できたから、大方何かの虫だろうと思う。
大した事もなさそうだし、一々報告する様な事でもないから問題ないでしょ。
軽く部屋床を掃きながら、さっき、何かが入っていった隙間をちょっとだけ覗いてみる。
む、何も居ない?
どっか行ったのかな?
そう思っていながら、ふと横の壁を見ると、中くらいの茶色い蜘蛛が居た。
ああ、さっきのはこの子か。家蜘蛛かな?
Gみたいに威圧感を与えるほど大きくは無いし、蜘蛛は益虫っていわれてるから放って置こう。
あらかたの所を掃き終わり、さっきの蜘蛛はどうなったのかなぁ?と探してみる。
ほら、見てるだけなら蜘蛛って面白いもんよ?
流石に大きいのは嫌だけどさ。
壁を見回してみるけど、姿が見えない・・・・・・
どっか行っちゃったかな?
そう思って見上げてみると・・・・・・居た!天井の所にへばり付いてるや。
位置的には師匠の机の真上かな?
師匠の方はというと、机の上を整理をしている。
色々、帳簿がやら何やらが出てたから、時間がかかったみたいだ。
あ、蜘蛛の方が下りてきた。
あのまま行くと、ちょうど師匠の目の前に落ちるんじゃ・・・・・・
「あ、師匠」
「ん?何?ウドンゲ」
声を掛けると師匠がこっちを向いた。
で、その瞬間、蜘蛛がぽとりと机の上に落ちる。
タイミング良いわね・・・・・・
「あの、机の所に」
「机?」
師匠が机の上を見回し、そして蜘蛛の所でその動きが止まった。
それほど大きくないし、直ぐに蜘蛛を追っ払って終わりかな。
そう思って見ているんだけど・・・・・・あれ?師匠が動かない。
いつもの笑顔に、少しだけ不思議そうな表情をミックスさせた顔のまま、ずっと蜘蛛を見つめ続けてる
何秒かして、師匠が口がちょっと動いた。
「い・・・・・・」
い?
「い、いやああああああああああ!!!」
いきなり悲鳴が上がったかと思うと、師匠がこっちにダッシュできました。
速いです、赤くもないのに普段の三倍の速さです。
そしていきなり抱きつかれました・・・・・・・ってええええええええええええ!?
「し、師匠!?」
「いやぁ・・・蜘蛛はいやぁぁ!!」
「ちょっ、師匠落ち着いて!」
「蜘蛛はいやぁ!蜘蛛あっちいっちゃええ!」
え~と、あれです。師匠、ガン泣きしてます。
私に抱きつきながら、マジで泣いてます。
「し、師匠。大丈夫ですって、もう机の上に蜘蛛は居ませんから」
ぽとり
「あ」
丁度、私達の足もとにあの蜘蛛が落ちてきて・・・・・・
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
うお!速!!
いつの間にやら、師匠が壁際にっ!
で、蜘蛛の方は・・・・・・何で師匠の所ににじり寄ってるの!?
「やぁ・・・・いやぁ・・・・・・・来ないでぇ!」
かさ
「く、来るなぁ!あっち行ってぇ!!」
かさかさ
「ひう!・・・・・・こ、来ないでよぉ!!」
かさかさかさ
「ひぃ!いやぁぁ!!!」
必死に後ろに下がって蜘蛛から逃げようとする師匠。
でも、既に背中は壁についちゃっているから、それ以上は下がれない。
大人の女性が、涙をぼろぼろ零しながら必死に小さな蜘蛛から逃れようとする姿、どこか加虐心をそそる光景だ・・・・・・
て言うか、解説する前に助けろ私!
師匠に飛び掛ろうとしている(ように見えた)蜘蛛をちりとりで掬い、そして外に放りだした。
放り出された蜘蛛はそのまま草むらに落ちて、どこかに逃げたみたい。
で、師匠の方は・・・・・・どこぞのお子様吸血鬼の様に頭を抱えて防御姿勢になってました。
それは色々と無理がありますって。
「師匠、もう蜘蛛は外に出しましたよ。だから大丈夫です」
かたかたと震えている肩に優しく手を置いて声を掛けると、師匠が顔を上げた。
少しだけ恐怖を浮かべた表情で、はっとしたながら私を見つめている。
そしてすぐに、涙をぼろぼろとこぼし始めて・・・・・・
「うわああああああああああん!ウドンゲぇ!!」
「大丈夫です、大丈夫ですから。もう蜘蛛はいませんから」
「うぐっ!・・・・・・えぐっ・・・・・・うううう・・・・・・・うわああああああああん!!」
師匠、そこまで怖かったんですか・・・・・・
そこまで、ガン泣きするほど怖かったんですか・・・・・・
取りあえず泣き止むまで、そっと慰めることにした。
部屋の中も結局、散らかっちゃったから、片付けないと。
師匠の頭をよしよしと撫でながら、その場に座る。
何だかさっきと丸っきり逆の展開だ・・・・・・・
ぼーっとそんな事を考えていると、後ろからいきなり声がした。
「あら、永琳どうしたの?泣いたりなんかして。イナバに苛められたのかしら?」
びっくりしながら後ろを振り替えると、赤いジャージを着た姫が立っていた。
どうやら、お風呂上がりみたいだ。
その後ろには、ピンクジャージのてゐ。
癖っ毛が湿っていて、頬にくっ付いている。
石鹸の良い香りがここまで漂ってきた。
「姫、レイセンにそんな根性ありませんよ。いつも、私や永琳様に遊ばれてるんだし」
「それもそうね・・・・・・で、イナバ。何かあったの?」
ええ、そうですよ、所詮私はてゐや師匠のおもちゃで、姫のペットですよ・・・・・・っと拗ねてる場合でもないわね。
「えっとですね。蜘蛛が出てきて、で師匠がそれに驚いて泣きだしちゃったんです」
「ああ、なるほど。蜘蛛が出たのね。掃除したからどっかから這い出てきたのかしら?」
「私知らなかったです。師匠がここまで蜘蛛嫌いだなんて・・・・・・ゴキブリは平気なのに」
「ふふ、面白いでしょう?月の頭脳とまで呼ばれた天才、八意永琳が蜘蛛相手に大泣きするんですもの」
「・・・っひぐ・・・ぐすん・・・・姫、面白いは余計です・・・・・誰にだって苦手なものはあるんです」
「あ、師匠」
まだ少しぐずりながらも、師匠が顔を上げた。
目が潤んでいて、鼻の辺りが真赤だ。
まあ、あれだけ泣けば仕様がないけど。
「落ち着いたかしら?永琳」
「ええ、どうにか。あれが出ないように綺麗にはしていたつもりだったんですけどね・・・・・・こうなったら部屋に結界張るしかないのかしら?」
「永琳様、それって力の無駄遣いですよ。出入り面倒くさくなりますし」
「何を言うのてゐ?!あの憎ったらしい節足動物を見なくて済むなら結界の一つや二つ!!!!永遠亭を異次元に放り込むことも吝かではないわ!!」
「本気でやりそうだから、そういうことは止めてくださいね」
冷やかに突っ込んでいくてゐ。
傍から見たら大人が子供に言い負かされているみたいだ。
流石は詐欺兎・・・・・・
「そういえば、師匠。薬の調合とかでどうしても蜘蛛が必要な時はどうしていたんですか?」
ふと思いついて、師匠に訪ねてみる。
「・・・・・・最近、あなたに任せた調合を思い出してみなさい」
任された調合?
・・・・・・え~と、セマダラアカゴケグモとマンドラゴラ・・・・・・訳の分かんない人面蜘蛛に朝鮮人参と桜島大根をミックスさせたちょっと怪しく根分れしたバイオ人間、股ンGO君・・・・・・黄金のスタルチュアとハートの器・・・・・・
蜘蛛ばっかだ。
「師匠!自分がやりたくないからって人に押し付けるのは酷いです!」
「仕方がないじゃない!!苦手なもんは苦手なんだから!!」
「私、蜘蛛を磨り潰すために弟子入りしたわけじゃありません!!」
「蜘蛛の調合の時は頼りにしてるわよ?ウドンゲ」
うお、いきなり声色が変わった。しかもニコニコと胡散臭い笑みが・・・・・・
「誤魔化そうとしてますね?」
「何言ってるのよ。それに蜘蛛以外にも色々な調合やら実験を任せているじゃない」
「ま、まあ確かにそうですけど・・・・・・」
「私には出来なくて、あなたには出来る、これって凄いことよ?だから誇りなさい。
あなたは月の天才にやれない、蜘蛛を磨り潰すって仕事を任されているのよ!」
うぅ・・・・・・駄目だ、これ以上話をしても誤魔化されるだけだ。
それに師匠、そんな仕事任されたとしても嬉しくないです・・・・・・
「・・・・・・じゃあ、私が来る前はどうやっていたんですか?」
「適当にイナバとかに任せてたわ、てゐにも何度か頼んだことあったわね」
てゐもやったことあるんだ。
ていうか、大切な調合をそんな適当に・・・・・・
「じゃあ、イナバとかが居なかった時にはどうしてたんです?」
「姫に無理やりやらせてた」
あなた、それでも従者ですか。
「そうそう、永琳たら泣いて頼んでくるのよねぇ。お願いです姫!お願いだからやってぇ!ってね」
けらけらとあまり上品とは言えない笑い方をする姫。
それでもどこか優雅に見えるから、流石と言うべきか、なんと言うべきか・・・・・・
「姫、私がいつそんなことを言いましたか?」
普段のニコニコとした笑みを浮かべながらも、師匠からどす黒いオーラが滲み始めた。
ぶっちゃけ物凄く怖い・・・・・・なるほどこれがオーラ力のなせる技か。
笑顔般若って今の師匠の状態を言うのかもしれない。
「あら?永琳は忘れちゃったのかしら?磨り潰した蜘蛛の足の一部を投げつけたら、泡を吹いて気絶してたじゃない。あの時の永琳の顔と言ったらなかったわぁ」
「姫・・・・・・いい加減にしてもらいましょうか?」
「あ、永琳。足元に小さな蜘蛛が」
「きゃあああああああああ!!」
うわ!師匠、いきなり抱き付かないでください!
「いやぁ!蜘蛛いやぁ!」
「師匠、蜘蛛なんて居ませんよ。落ち着いて」
「うぅ・・・・・・うっぐ・・・・・・うえぇぇぇぇん!ウドンゲぇ!あなただけが私の味方なのねぇ!」
「あ、そう言えば一昨日辺りに、小さな蜘蛛を叩きつぶした覚えが・・・・・・」
「いやあああああああああああああああ!!」
ああ、師匠!そんなに逃げないでぇ!冗談ですからぁ!!
* * * * *
その後は色々酷かったです。
一週間くらい話をしてもらえず、部屋に入ろうとすると全力で結界を張られるようになり・・・・・・
三週間くらいしてようやく冗談と分かってもらえてもあんまり私に触れようとせず、それから半月が経っても未だに恐ろしいものを見るような眼で見られて・・・・・・
ホントにちょっとした冗談だったのに、そこまで嫌ですか。
まあ、現在はすっかり元通り・・・・・・あれから二カ月くらい経ったけどね。
「ウドンゲ~、マンドラゴラと冬虫夏草の調合お願い~」
「は~い」
ああ、普通に師匠の部屋に入れてもらえて、普通に師匠に接してもらえるって幸せだなぁ。
取りあえず、あの誤解というか冗談も解けて以前のように師匠に接してもらっている。
ここまで関係修復するのにどれだけ苦労したか・・・・・・
あれねだね、壊すは易し直すは難しってやつね。
うん、私良いこと言った!
っと、なんだろ?
さっきから、どたどたとイナバの足音がやけに騒がしい。
部屋の外で何かあったのか?
「何かあったんですかね?」
「大方、また姫が何かやらかしたんでしょ。もしくは、月の使者がやって来たとか」
「まっさかぁ」
お互いに冗談を言いながら、笑い合う。
やっぱり普通に接してもらえるって幸せだ・・・・・・
と、適当に話をしていると、いきなり下っ端イナバが襖を開けた。
肩で息をしており、よほど焦ってやってきたのが分かる。
その様子から見ると、どうやら唯事では無い。
「あら、いらっしゃい。どうかしたのかしら?」
師匠が、イナバを落ち着かせるよう、ゆっくりと言った。
私も、そのイナバが落ち着くように、座布団に座らせる。
何回か深呼吸をさせ、呼吸を落ち着かせてイナバの口が開かれるのを待つ。
しばらくして、酷く困ったような表情になりながらそのイナバが言った。
「永遠亭各場所で蜘蛛の卵が大量に孵化しました。その勢いは正に蜘蛛の子を散らす様です・・・・・・永琳様、どうにかしてください!!」
色々と苦労が増えそうなことがまた一つ。
まあ、これものらりくらりと解決されるんだろうなぁ。
そんなこんなで永遠亭は平和に騒がしく、時に物騒に時に和やかに平常運転を続けてたりする。
「蜘蛛はいやぁあああああああああああああ!!!!」
約一名を除いてだけど・・・・・・
あとパーフェクトな人に弱点が一つでもあると、とたんに愛嬌が出てくるよね
師匠が可愛いよ
とにもかくにもほのぼのでまったり。良作ではあるのだが……笑えるところは思い切り笑えるように工夫すればもっと良かったかも。
あ、いろいろなネタがあったことには気付いてましたよ?ホイホイさんとかゼルダとかwww
けど、両方同時起動はできないっす・・・
この輝夜さんはカリスマに満ちている!何にせよ、ほのぼの永遠亭と震える永琳師匠が見れて良かったです。
もう少し話のメリハリがあれば高得点が出たかな?
悲鳴に近いような・・・
私も蜘蛛は苦手ですね。
それと、誤字の指摘ありがとうございます。
名前が無い程度の能力様>>
前作でもそうでしたが、普段完璧で泣かない人を泣かせてしまおうって作品がこれです。
うどんげ泣かせてもありがたみがないし・・・・・・
司馬貴海様>>作品のメリハリですか・・・・・・
自分ではこれくらいでいいかな?と思いましたけど、もう一工夫必要なんですね。要精進!
名前が無い程度の能力様>>コンバットさんも入れようかと思ったけど、設定が思いつかず・・・・・・
イスピン様>>元ネタの元ネタを知らないという悲劇。
それと輝夜のカリスマを感じとって頂き至極恐悦。
普段、普段だらけているけど、やる時はやるんです!
メリハリはがんばります。
名前が無い程度の能力>>絶対零度以下は存在しないらしいですけど、元ネタはそれを努力と根性でどうにかしております。俺、文系だから良く分んら(ピチューン
時空や空間を翔る程度の能力>>自分も蜘蛛は苦手です。小さいのなら平気なんですけどねぇ
師匠かわいいよ師匠!
ホイホイさん懐かしいなぁ・・・
ゲームでコンバットさん倒せん(ぉ
俺は蜘蛛ってか虫全般がやだなぁ…ガキの時に枝と間違えてナナフシ折ってから嫌いになった。
もっとやって。