※小悪魔と霊夢の組み合わせです。
小悪魔は清純で律儀な性格ではありません。悪戯好きで嘘吐きです。
多少悪魔などに独自の解釈が含まれている場合がございます。
駄目な方は戻る事をお勧めします。大丈夫だと言う方はどうぞ。
博麗霊夢は実に困惑していた。
人生とは一寸先は闇だとかいろいろ言われるがそれはまあ当然だろうと思う。
というよりも先が見渡せるほうが異常だとは思う。洞窟だって何が待っているかわからないから探検する楽しさがあるのだろう。
とはいえ霊夢は目の前の出来事に酷く困惑していた。
人間とは得てして想像できそうにもないことには反応が鈍るものである。考えておくことができるからこそ対応することができるのだ。当然ではあるが。
そういう意味では目の前の存在がここに来ることは想像外の出来事なのである。
「こんにちは、よいお日柄ですね」
少なくとも、この図書館の司書が来るということは。
◆■◆
「で? 今日は何の風の吹き回し?」
取りあえず庭先で固まっているのも拙かろう寒かろうということで霊夢は縁側に上がり小悪魔をとある一室に案内することにした。広々とした客間。中央に大きな机とその周囲に四つ置かれた座布団のみという簡素な空間。部屋の壁に寄り添うように小さな腰までの箪笥は置いてあるがそれ以外に目立って物は置かれていない。
必要最低限、これを地で行くようなものだ。取りあえずの机と座る場所、それだけの実に快適に大きく開かれた室内を有効活用している室内。
「私が言うことではありませんが、もう少し置いておく物等無いんですか?」
「これ以上いったい何置いておけと言うのよ」
「はあ……」
勧められるままに机の傍に置かれた座布団の上に座り、霊夢と向き合う形になる。
そのまま霊夢の言葉に対する答えを探すようにぐるりと一週部屋の中を視線がめぐる。
それにしても寂しい。小悪魔はこれでいて物を蒐集する事も多い。その多くは面白い本であったりお菓子の材料、ティーカップであったりするが。整えてあるとはいえもう少し生活観にあふれている気がする。いや、悪魔のほうが生活観溢れているってどういうことだろうか。
そんな霊夢を救うべく、考えに考え抜いた結論を告げるべく口を開く。これでも図書館の司書を務めているのだ。知識量ではそこいらの人間に負けはしない。
「そうですね。掛軸、壺、花などはどうですか」
「ふうん、確かによさそうだけど……」
あまり乗り気ではない様子の霊夢。となればここは押し売りのあっちゃんと呼ばれていた(自称)小悪魔の話術次第である。その昔悪魔として様々な契約を人間と結んでいるときはそれこそ嘘八百並べ立てて幾つもの契約を結んだものである。最近は司書をメインとしたり迎撃するのがメインでこういった人間を騙す甘言を用いることは無かった気がする。
つまりは、本領発揮、昔から積み重ねてきた技術を全力で活用すべきときなのだ。
「いえいえ、こうしてほんの少しお茶を飲みながら掛軸の水墨画を眺めるなどと言うことは中々に雅だと思いませんか?」
その言葉を聞いて霊夢が唸る。確かにこういった部屋には掛軸が飾ってあったりするものだ。できればその後ろに隠し通路などがあったり何か鍵を隠していたりするとなんともロマン溢れる話ではないか。
一応客間と銘打っているだけあって来訪者を大抵ここに迎えるのだからそれなりに見栄えを良くすると言うのも悪くの無い話である。
温かく湯気の立ち上るお茶を喉に流し込みながらのんびりと水墨画を楽しむ、実に風流。文化人らしくあるではないか。
「ついでにですね、床の間も造っちゃいましょう。と言うかなんで無いんですか」
「そんな事言われてもね。まあ、無いものは無いのよ」
「とはいえ、無いことを悲観する必要は毛頭ございません。寧ろ新しく芸術に目覚めたとなれば開拓者として名も残りましょう」
実に壮大なスケールの会話をしながら小悪魔は蝙蝠の羽を、蝙蝠の尻尾を震わせ熱弁を振るう。
話半分に聞いていた霊夢ではあったが確かに言われてみれば全く必要性を感じていなかったそれがだんだんと必要に思えてくるから不思議である。随分と派手なことを言いつつ必要性を訴えられ、霊夢は半ばその気になっていた。
さらに小悪魔の勧誘は続く。
「大丈夫です、名前の知られている所を紹介しますから。お値段も……これくらいで」
「そんなに腕のいい所なの? って……安すぎない?」
そもそも小悪魔にそんなコネがあるのかどうかが不安なところではあったがそこまでいうのなら確かに知ってはいるのだろうと感じられた。そして何時の間にか取り出した算盤を手にはじき出した金額はあまりに相場よりも格安の値段だった。
流石にその金額で大丈夫なのかと背中を後方へと驚きでそらし目を少し開いて小悪魔を見つめる。
すぐに小悪魔はその視線の意味に気が付いて信じてくださいと言わんばかりに胸を手で叩いた。
「大丈夫です! ただ柱の本数が少なかったり耐震性に不安が残ったり強度不足だったりするだけですから!」
ボカッ!!
「あいたた……」
「全く、何て物奨めるのよ……」
勢い良く振りぬいた拳を労わりながら霊夢は不満そうに唇を尖らせた。
目の前の小悪魔は正座して痛みを堪えるように顔を俯かせている。
はあ、時の抜けたように息を吐き出し脱力した身体を支えるように床に手をついて。
「痛いです……」
「あんたが悪い」
涙ながらに訴える小悪魔を完全に無視をする形で半目で睨む。先ほどまで霊夢自身も随分乗り気だっただけに迫力が違った。途端に大きく震えて視線をそらす。普段は実に可愛らしくあどけなさをまだ残した顔がまるで般若のようで。
「今、何か変な想像したでしょ」
「いいえそんな!」
心の中が読めるかのごとく言い当てられて一瞬背筋に冷たいものが走った。
伊達に幻想郷に起こる様々な異変を解決してきてはいないと思わせる何かがそこにはあった。
具体的には殺気。
キラン、と鋭く霊夢の瞳が光ったような気がしたので小悪魔はそれ以上この事について考えるのを諦めた。ていうか、このまま考えてると確実に残機が無くなる事は確かだ。
「ま、まあ床の間は諦めるとしまして、掛軸とかいけばなとかいかがですか?」
「……怒らないから何を持って来るつもりだったか言いなさい」
それでも捨てない逞しい商魂。しかしそれも不備のあるものであると霊夢に見抜かれていた。当然ではあるが。
少しの間逡巡した後、小悪魔はその柔らかそうな唇を開く。
「実は、掛軸の場合贋作を精巧に造る職人とコネがありまして……」
ボカッッ!!
「却下。どうせそれで本物と同じ値段を取るつもりだったんでしょう」
「いたぁ……はあ、まあ、良くお解りで。以心伝心というやつですか? 心踊る何かがありますね」
「わからいでか」
ときめいた様に胸を押さえ、頬をうっすらと染め見上げてみせる。さらりと髪を押さえる仕草も忘れない。おそらく見るものの大半が参ってしまいそうな艶やかな仕草ににべも無く冷たく冷えた言葉が投げかけられた。
腕を組んで怒りを顕に鋭く睨みつける霊夢。
「といいますか霊夢さん? 怒らないと仰ってたんでは……」
「別に怒ってないじゃない。あれは天罰よ」
「……そうですか」
あの星の見える拳は天罰らしい。天罰という事は神の代行者の心算か。
というよりも巫女というものは神の言葉、神託を受けてそれを市井の人々に伝えるのが役目じゃないのか。
それが暴力とは嘆かわしい、そう小悪魔は思う。
その思いが出ていたのだろうか、恨めしげに見つめる視線に霊夢が気づき視線が絡み合う。
「何か文句の一つでも言いたそうね」
「聞いてくれますか?」
「聞くだけならただよ。それ以上は有料だけど」
「では、聞いてもらいましょう。そもそも巫女というのは神託を伝える預言者のような存在ではないですか。それがなんですか。乙女の頭をぽんぽんぽんぽん叩くなんて、なんと言うか慎みが足りません」
「いくつか知らないけれど外見に反して年上でしょうに」
「永遠の十五歳です」
「……夜は危険そうね」
呆れた様に溜息一つ、霊夢の口から漏れ出た。ほとんど話した事はないけれど、目の前の小悪魔はなかなか饒舌だ。
静かに手を伸ばし、安らぎを得るために冷めたお茶を口へと運ぶ。霊夢のその動作に合わせる様に小悪魔も湯飲みを持ちあげ。
『はぁぁぁぁぁ』
気持ちよさそうな吐息を勢い良く外気に混ぜ合わせた。
◆■◆
まだ微かに秋の温もり残る今日この頃。霊夢は目の前のお茶を淹れ直し暖かい湯気の立ち昇るそれで喉を潤す。
小悪魔にも注いであげればありがとうございます、と言葉を返し喉を鳴らし。
のんびりとした空間。先程までの喧騒を忘れたかのように穏やかに庭に舞い散る落ち葉を眺め一時を過ごす。
ああ、いいなあ。そう霊夢は感じていた。
大体ここに来る存在の大半が迷惑なカテゴリーに分類される。歓迎しないかといえば歓迎はするのだがどちらかと言うと行動的で周りを巻き込む性格の人間が多いように思える。だから今こうして向き合ってのんびりとお茶を楽しむ余裕は中々無い。そういう意味ではこの目の前の小悪魔に感謝をしなくもない。先程まで迷惑をかけられていたけれど……。
「ん? というかなんであんたここに来たの?」
「全然質問されないので気にしてないのかと思ってました」
返ってくる言葉、小悪魔は来訪の用件を聞かれないとは思っていたものの黙っていたのだ。
そもそも嫌、というわけではないが基本的に紅魔館では上下関係がしっかりしている。パチュリーは随分と出来た、部下に仕事の裁量を任せる事の出来る上司ではあったがそれでも上下関係である。こうしてのんびりお茶を出してもらう事は幻想郷に来てからは少なかったりするのだ。どちらかと言うと振舞う側である以上、時には振舞われてみたいと思っても仕方が無いかもしれない。
「別にどうでもいいんだけど……話の種くらいにはなるでしょう?」
霊夢は心底どうでも良さそうにまたお茶の味を堪能し始める。寒いと熱いお茶は一瞬舌が痺れてしまう様に感じられ、その後にくるほぐす様な感覚が堪らなく好きだった。霊夢にとって小悪魔の話よりはお茶、つまりは平穏である。のんびり出来るならそれに勝るものは存在しえないのだ。
そうだとは言えども、こういうゆったりとしたお茶の席で何かの話の種を求めるのも少女所以である。それが特に面白い話なら言う事は無い。
取りとめもないことを話すことは一番の至福である。意味が無いからこそとても大切なのだ。
「わかりました。んっ、実は……」
その霊夢の言葉を聴いて小悪魔はようやく口を開いた。こうしてもったいぶって見せるのも話術の一つである。尤も今回の場合は純粋に話し出す機会が無かったという事とのんびりとした時間を楽しむことを重視していたからなのだが。
ともあれ小悪魔はそうまでせがまれるのならば、と湯飲みを静かに机の上に置き一度喉の調子を確かめるように咳払いをして。
「実は、最近紅魔館では戦力補強に努めております」
「ふーん、でも私の所に来る意味が無いじゃない」
霊夢はにべも無く言い放つ。博麗霊夢は中立である。故にどこの組織にも肩入れをしない。もう少し正確に言うと博麗神社という組織に所属しているのだ。そんな霊夢に紅魔館の軍備の状況を伝えたところで不利益をこうむるのが関の山である。
まあ、そんな話が霊夢に耳に文辺りが届けてこないのが小さな出来事だと言う事であるけれど。
そんな霊夢の考えを見透かしているかのように僅かに首を傾げ、小悪魔は微笑んだ。
いやいやまだ焦る事は無いのです、そう言っているかのようにも見える。
「レミリアお嬢様は是非霊夢さんなどの強力な存在を取り込むべきだとおっしゃいました」
「無理ね」
「無理ですね。そんな反対意見がやんわりと持ち上がったのでお嬢様は僅かに悔しそうにされながらも他の手段を求めました」
やはり紅魔館内部であっても反対意見が続出したらしい。
これは聞いている側としても反応の困る話である。目下カリスマ急降下中なレミリアらしいと笑うべきなのか、それとも部下の意見を良く聞き取り入れる理想の上司だと感心するべきなのか。霊夢は主に前者だと感じてはいるが。
見ると小悪魔の湯飲みは空だったので急須を持ち上げ中に残っていた茶水を注いであげた。
感謝するように小悪魔が言葉をいったん止めて頭を下げる。
律儀な性格なのだろうか、そう霊夢は感じた。
「咲夜様は特に必要を感じておられないらしく無言、美鈴さんは門番隊の予算アップを求めるも現状強力な存在以外はきっちりと追い返しているのでアップなし。妹様は先に敵を壊しちゃえば、と仰られましたが流石にそれは幻想郷を敵に回すだろうと却下」
すっと立ち上がり霊夢が急須に茶葉とお湯を注ぎに台所へと向かう。
小悪魔はそれを受けて言葉を止め、湯飲みのお茶で喉を潤した。ほぅ、と脱力した空気が吐き出された。
あまり時間をかけずに霊夢が戻ってきた。ゆっくりとした動作で座ったのを確認し、続ける。
「そんな折パチュリー様が各自の欠点の補強を提案されました。そうすれば簡単に完全無欠になれるから、だそうです。それはまあ、理屈に合ってるのですがカリスマが足りないとか犬度が足りないとかおよそ戦力に関係のないことばかり」
「そんなのが足りてないのか紅魔館……大変ね」
「そのお言葉にこの疲弊した心がどれほどに癒されましょうか。まあ、閑話休題。そうして私に出されたお題が……」
「お題が……?」
「悪魔度が足りない、でして」
「は、悪魔度?」
予想だにしない言葉にしばし体が硬直する。そもそもそんな不敬なものは無いほうがいいだろう。
悪魔度なんか上げると紅魔館がよりめちゃくちゃになる気もするし。
それにあまりにも突拍子が無さ過ぎる。あの本の虫がそんなことを考えているとは霊夢には全く想像できなかった。
あまりにもうそ臭過ぎる、霊夢はそんなことを考えている様子をじっと小悪魔は見つめ。
「あんたのっけから曰く付きの商品お奨めしてくるあたり悪魔じゃない」
やがて霊夢の口から漏れ出た言葉に実に嬉しそうに頬を緩め。
然しすぐに悲しそうに瞳を伏せる。やや身体を崩し手を畳につきながら。
随分と堂に入った演技に役者が向いてるんじゃない、と言いかけるものの必死にその言葉を霊夢は飲み込む。
「いえいえ、そんなに褒められると面映いですよ。私ごときがそんな……魔王みたいだなんて」
「いや、言ってないし」
悲しそうにしながら肩を振るわせ笑っていたのだ。だったら普通に笑いなさいよ、と霊夢は思うがそれを指摘するのも諦めた。長年の経験から傍観は中々に有効だと理解しているからである。
というよりもなんで態々泣きまねを、その思いを込めて半眼で睨みつける。
小悪魔はそんな霊夢の冷たい視線を受け嬉しそうに全身を嘶かせ。
「霊夢さん……その冷たい視線、なんだかぞくぞくして……」
寒気を憶えて霊夢は視線を横にずらす。
「ふう、つれない人ですね。でも、その孤高さは実に美しいと感じるんですが」
「私は狼か」
「美しい紅白の狼ですか? 実に珍しいと思いますけれど」
「珍しすぎて狙われるわね」
「ええ。珍しい物を欲する好事家は多いのです。かく言う私もですが」
「罠に掛からないよう気をつけるわ」
「既に遅いかもしれませんよ」
お互いに相手の腹を探り合うような言葉の交差。二人ともこの様な会話は実に好みだった。
嘘を交えて絡みとろうとしてくる悪魔にのらりくらりと暢気にそれを回避する巫女。
そのままお互いに喉を潤し、急須から茶水を注ぐ。飲みすぎな気がしないでもない。
「詐欺は兎だけで十分じゃない」
「いえいえ私と彼女の決定的な違いがあるのです」
詐欺を働くのが悪魔度といえば今の小悪魔よりももっとふさわしい人物がいる。因幡てゐ。
それを霊夢はくらえっ、と突きつけるも小悪魔はそよ風ほどにも感じてはいない。
とはいえ、どちらも迷惑千番な詐欺商法である。そこのどこに違いがあるというのか。
霊夢は懐疑的な視線とともに続きを促す。
「彼女は騙されてもいいと思える詐欺、幸福にする詐欺で利益を上げています」
「詐欺の種にされるのは簡便ね」
「然し私は騙されてはいけない詐欺。相手の幸福全て吸い上げる詐欺を働くのです」
「ふーん」
この辺りの判別は実に難しい。てゐの嘘は自分に幸福をもたらしつつも相手にも副次的に幸福を与える。
対する小悪魔の嘘は利益を吸い上げる、つまりは悪徳商法である。相手を不幸にするための。
故に小悪魔はばれないように相手から搾り取るのだ。
「……ってあんたの方がよっぽど性質が悪いじゃない!」
「いやいや、私だって軽い物にとどめますよ? ただ、お砂糖とお塩を入れ替えたりそんな程度で」
とはいえ、怒られるのが怖いのでそうそう滅多にする事はないのだけれど。紅魔館では小悪魔より強い人が多いから。
「それは鬱になるわね」
小悪魔は実におかしそうに微笑みながら一例を挙げる。然しそれもまた幸福とは縁遠い物だった。
「閻魔様に一度お説教されなさい」
「御免こうむります。それに、詐欺なら悪魔らしいでしょう?」
「?」
「悪魔は人を誘惑し堕落させるものですから。概念の話です」
悪魔は誘惑によって人々を堕落させ、最終的にはその人の魂を滅ぼそうとする。
細かい種類による手段は別として悪魔とはそういうものである。
小悪魔は悪魔である。その実使い魔であっても小悪魔と呼ばれている以上悪魔である。
名前を与えられて初めて概念がそれを満たすのだ。
小悪魔はしたり顔でそう解説し、聞き入っている霊夢もまたそういうものかと納得をした。なるほど、生まれついての大嘘付きだ。
「で、その悪魔度を集めに来たのね? でもおあいにく様。詐欺は見破られたわ」
「そうですね。流石に巫女を騙しは出来ませんでしたね」
嘘だ。
「本気で騙そうとしてなかったくせに」
「いえいえ、本気ですとも」
「嘘吐き」
勿論、小悪魔は嘘吐きであると小さく頷く。
そして小悪魔と霊夢は顔を付き合わせ、噴出した。笑いが込み上げてくるのだ。
どこか滑稽な会話、どこか空虚な会話が堪らなくおかしくなってくる。霊夢は口を押さえ、小悪魔は微笑むように。
ただ二人、静かなお茶の間で笑いあった。
◆■◆
二人の笑い声が納まり、静かになったところで霊夢が口を開く。今回の最大の問題点を指摘するために。
「ところで、なんで私なのよ?」
そう、そこが問題だ。紅魔館にも色々いるだろうし態々神社にまで来て霊夢を騙す理由が見つからないのだ。
そこまでするほどに騙しやすいとは霊夢自信も思ってはいない。
その問いに小悪魔はああ、といった様子で頬に指をあて。
「まず、お嬢様やパチュリー様、妖精メイドは却下です」
「別にいいんじゃないの?」
「パチュリー様に言われて文献を見直したところ悪魔は“人”を誘惑するのだそうで」
「ああ、成る程」
つまりは人ではないのだ。妖怪を騙して悪魔度が上がるかはわからないが人を誘惑すると言うのなら人にしておくべきだろう、そう小悪魔は考えたのだ。
とはいえ、紅魔館には人間まで完備してある。十六夜咲夜その人だ。
他にも霊夢が思いつくだけでも霧雨魔理沙はよくよく遊びに行っているみたいだし獲物には困らないはずである。
人間が紅魔館のパーティに参加したと言うのだってよく霊夢の耳には届く。
「まず、咲夜様はお嬢様のお気に入りですから手を出すと波風が立ちます」
「ふんふん」
「とはいえそこいらの人間を騙しては矜持に傷がつくので」
「意外と誇り高いのね」
「自然と知り合いでは霊夢さんか魔理沙さんです」
「それで外れ籤を引いたのね」
運が無かったと背中を伸ばしながら霊夢は嘆いた。
魔理沙の方がノリがいい気もするけれど、それと騙せるかはまた別物だ。
魔法使いを相手にするよりも暢気な巫女を相手にしたほうが騙しやすいと思ったのだろう、そう霊夢は結論付けた。
小悪魔はおめでとうございますと言うように手を叩き当たり籤を引いた事を祝福している。
「じゃあ、もう用事は済んだのね」
「いいえ、実はまだ」
霊夢は用事が済んだのならついでに手伝わせて神社のことでもしようと机に手をつき、そこに掛かる小悪魔の声に訝しげに視線を小悪魔の顔へと滑らせる。
僅かに浮き上がったお尻をまた座布団へと沈め座りなおす。
小悪魔はまだまだ終わっていないと整った姿勢のままそれを眺めていた。
「なに? まだ何かあるの?」
「ええ。これは重要なことなのですが……」
座りなおした霊夢の面倒そうな言葉に実に神妙な面持ちで小悪魔が言葉を続ける。
「魔理沙さんに一つ諫言してもらえませんか?」
「……魔理沙に?」
沈痛な雰囲気で紡がれる言葉に霊夢は心当たりが無く首を傾げるばかり。
対する小悪魔は顔を強張らせたまま霊夢を真剣な眼差しで観察する。
霊夢は少し居心地悪そうに姿勢を整える。
「実はある程度借りていかれるのは想定内なのです」
「ああ、本の話」
「ですがここ最近頻度が増えまして。少し抑えていただけないかと」
そういえば最近来た文々。新聞にそのような見出しが躍っていた気もする。
しかし、新聞は溜まるばっかりでまともには見ていないのですぐには思いつかなかったのだ。
「でも、なんで私?」
「それは私の独断なのですが……戦において相手の同盟関係を崩すのは常套手段かと」
「ああ、それで」
小悪魔とて口煩く抑えてくれと言っているのだ。しかし、それはまさに逆効果。魔理沙はそういわれるたびに面白そうに襲撃の頻度を上げてくる。拒否されるたびに燃え上がっているのだ。逆境を乗り越える事に快感を覚える性質なのだろう。やられる側には堪ったものではない。特にパチュリーが消極的にしか動かないもので小悪魔も八方塞なのだ。
その状況で新たな仲間を求めるのは実に自然な流れではある。それも強力な、発言力のある仲間をだ。
「普段魔理沙さんと親しいようですから、ここは一つ友人として苦言を呈していただけないかと」
「それは別に構わないけれど……でも、あんた達の味方はしないわよ?」
「構いません。戦国時代に幕府にお伺いを立てるような物です」
「私は麻呂か」
小悪魔側としては積極的でなくとも遺憾であると言ってもらえるだけで心理的に優位に立てるのだ。それが実質この幻想郷を牛耳る博麗霊夢ともなれば効果絶大ということだ。
「私を仲魔にしてもらってもいいのですが……コンゴトモヨロシク?」
「なんで硬い発音なのよ。ていうかお手伝いは今募集はしてないわ」
募集をしていればこれほど気のつく小悪魔である。喉から手が出るほど欲しいかもしれない。
しかし、別に困ってはいないので霊夢は見送る事にした。僅かに寂しそうに伏せられる瞳が何とも良心を揺さぶってくれる。
「……私、霊夢さんのこと大好きなのにっ」
「嘘吐け」
手を伸ばし、霊夢の手を小悪魔は握り締める。肩を震わせ、唇を歪め、微かに瞳を前髪で隠す。寂しそうに目薬で涙を演出するのも忘れない。
それに対し実にそっけない情の無い言葉で霊夢は強く握り返した。
地味に小悪魔の手の平が悲鳴をあげる。
「いたっ、いたっ、痛いです、霊夢さんっ」
「ドキッとするような嘘をつくからよ」
痛みを訴える言葉を聴きようやく霊夢は手を離す。それまでに力を入れただけで微かに手の後が小悪魔に残っていた。
感覚を取り戻すように小悪魔はその手を振る。僅かに握られていたところは暖かい。
「嘘じゃありません。一目惚れです」
「まだ続けるか」
「ほら、神聖な者ほど穢したくなる心理ですよ」
「迷惑よ」
「ですから愛してます、付き合ってください」
「いいえ」
「ショック!」
「どうせ嘘なんでしょ」
「まあ、そうなんですが。でも嘘の箇所によってはこの会話いろいろな意味を持つことに」
「どうでもいいわ」
流れるような会話。途切れることなく間髪いれずにここまで話が進む。
そこまで来て霊夢は夕飯の支度をするために立ち上がろうとして、小悪魔を見下ろすように見つめた。
「夕飯、食べてく?」
「勿論、お泊りセットを持ってきました」
「用意周到よね」
「だって……」
いったん言葉が途切れる。部屋の畳には持ってきたお泊りセットが置かれている。
その用意周到な行動、誘った事を後悔するもまあいいか、と持ち前の暢気さで気にしないことにし、続きを促す。
「だって? なによ」
「合法的にサボれるチャンスじゃないですか」
続いた言葉に肩をすくめて霊夢は部屋を出て行った。
◆■◆
朝。幻想郷の博麗神社の鳥居。
帰る用意をした小悪魔と見送りにでた霊夢がそこにいた。
「いや、楽しかったです。久々にお泊りできました」
「別にこれくらい構わないわよ」
「こういうことでもないと息抜きも出来ませんしね、仕事は辛いんですよ」
「嘘吐き」
小悪魔の愚痴に笑いながら指摘する。
「ばれてますか。もう以心伝心では伝わらないほど分かり合ってますね。相性度限界突破です。もう一つになるしかないですね」
「いいから帰りなさい」
霊夢はじゃまじゃまというように手を何かを掃うように動かし、それを受けて小悪魔が一歩離れる。
「はいはい、お邪魔しました。そうだ、また泊まりに来てもいいですか?」
「別にいいわよ。家事も手伝ってくれるしね」
「優しいですね。そんなフラン様を前にしても悪魔を泊めても一人でも変わらない態度、大好きです。神々しくて」
「ありがとう、と言っておくわ」
「はい、それでは」
そういって荷物を片手に紅魔館へと小悪魔が飛び去っていく。時折振り返り手を振りながら。
霊夢はそんな小悪魔に手を振りながら、偶にはこうしてよく知らなかった人と親交を深めるのも悪くは無いと思っていた。
人は誰しも出会った当初は他人である。話をして見なければ相性がいいかはわからない。
だからこうして話し合うのだ。
霊夢はまた小悪魔が来てくれる事を少し楽しみにしながらも日常生活に戻っていくのだった。
―――――終わり―――――
《おまけ・小悪魔の真実編》
今回の神社訪問は実にうまくいった。そう小悪魔は自画自賛していた。
元々この幻想郷で神に仕える巫女のような存在は少ない。だから興味を持った。それを天敵とする悪魔として。
その興味はいい形で満たされたと言っていい。話は実に面白かった。パチュリーとは違ったやり取りの騙し合い、その楽しさがある。
霊夢自身は騙されずにすんだ、と思っているかもしれないが騙す事には成功している。
「霊夢さん、実は今日の訪問は魔理沙さんの対策に対するものだけなんですよ? 悪魔度なんて勿論、紅魔館の防衛強化も実は嘘なんです。私の、勝ち――ですね?」
吸血鬼を、賢者の石を使用したパチュリーも、聞くところによると亡霊嬢に隙間妖怪、閻魔にさえ。彼女は態度を変えない。
霊夢がそれらの妖怪に実力で勝っているわけではない。基本的に力は妖怪が上ではあるがこと弾幕ごっこのパターン化、回避力では幻想郷でもトップクラスである。
それに幻想郷を考えれば巫女に手を出せない。そういう意味では最強、と言っていいだろう。
しかし、あそこまで態度を変えないでいられるものだろうか。英雄に私情は禁物と言うがそういう意味では神に使える英雄でもある。
ならば霊夢は神に命の冠を与えられているのかもしれない。そんな不可侵の聖域。然しそれはあまりにも無防備。
故に小悪魔はその聖域に手を伸ばす。自分が浄化されるか相手が穢れるか、それはわからないけれど。
霊夢の微笑を独占してみるのも面白い、だからまた、お邪魔しよう――そう決意しながら小悪魔は紅魔館へと急ぐのだった。
―――完―――
小悪魔は清純で律儀な性格ではありません。悪戯好きで嘘吐きです。
多少悪魔などに独自の解釈が含まれている場合がございます。
駄目な方は戻る事をお勧めします。大丈夫だと言う方はどうぞ。
博麗霊夢は実に困惑していた。
人生とは一寸先は闇だとかいろいろ言われるがそれはまあ当然だろうと思う。
というよりも先が見渡せるほうが異常だとは思う。洞窟だって何が待っているかわからないから探検する楽しさがあるのだろう。
とはいえ霊夢は目の前の出来事に酷く困惑していた。
人間とは得てして想像できそうにもないことには反応が鈍るものである。考えておくことができるからこそ対応することができるのだ。当然ではあるが。
そういう意味では目の前の存在がここに来ることは想像外の出来事なのである。
「こんにちは、よいお日柄ですね」
少なくとも、この図書館の司書が来るということは。
◆■◆
「で? 今日は何の風の吹き回し?」
取りあえず庭先で固まっているのも拙かろう寒かろうということで霊夢は縁側に上がり小悪魔をとある一室に案内することにした。広々とした客間。中央に大きな机とその周囲に四つ置かれた座布団のみという簡素な空間。部屋の壁に寄り添うように小さな腰までの箪笥は置いてあるがそれ以外に目立って物は置かれていない。
必要最低限、これを地で行くようなものだ。取りあえずの机と座る場所、それだけの実に快適に大きく開かれた室内を有効活用している室内。
「私が言うことではありませんが、もう少し置いておく物等無いんですか?」
「これ以上いったい何置いておけと言うのよ」
「はあ……」
勧められるままに机の傍に置かれた座布団の上に座り、霊夢と向き合う形になる。
そのまま霊夢の言葉に対する答えを探すようにぐるりと一週部屋の中を視線がめぐる。
それにしても寂しい。小悪魔はこれでいて物を蒐集する事も多い。その多くは面白い本であったりお菓子の材料、ティーカップであったりするが。整えてあるとはいえもう少し生活観にあふれている気がする。いや、悪魔のほうが生活観溢れているってどういうことだろうか。
そんな霊夢を救うべく、考えに考え抜いた結論を告げるべく口を開く。これでも図書館の司書を務めているのだ。知識量ではそこいらの人間に負けはしない。
「そうですね。掛軸、壺、花などはどうですか」
「ふうん、確かによさそうだけど……」
あまり乗り気ではない様子の霊夢。となればここは押し売りのあっちゃんと呼ばれていた(自称)小悪魔の話術次第である。その昔悪魔として様々な契約を人間と結んでいるときはそれこそ嘘八百並べ立てて幾つもの契約を結んだものである。最近は司書をメインとしたり迎撃するのがメインでこういった人間を騙す甘言を用いることは無かった気がする。
つまりは、本領発揮、昔から積み重ねてきた技術を全力で活用すべきときなのだ。
「いえいえ、こうしてほんの少しお茶を飲みながら掛軸の水墨画を眺めるなどと言うことは中々に雅だと思いませんか?」
その言葉を聞いて霊夢が唸る。確かにこういった部屋には掛軸が飾ってあったりするものだ。できればその後ろに隠し通路などがあったり何か鍵を隠していたりするとなんともロマン溢れる話ではないか。
一応客間と銘打っているだけあって来訪者を大抵ここに迎えるのだからそれなりに見栄えを良くすると言うのも悪くの無い話である。
温かく湯気の立ち上るお茶を喉に流し込みながらのんびりと水墨画を楽しむ、実に風流。文化人らしくあるではないか。
「ついでにですね、床の間も造っちゃいましょう。と言うかなんで無いんですか」
「そんな事言われてもね。まあ、無いものは無いのよ」
「とはいえ、無いことを悲観する必要は毛頭ございません。寧ろ新しく芸術に目覚めたとなれば開拓者として名も残りましょう」
実に壮大なスケールの会話をしながら小悪魔は蝙蝠の羽を、蝙蝠の尻尾を震わせ熱弁を振るう。
話半分に聞いていた霊夢ではあったが確かに言われてみれば全く必要性を感じていなかったそれがだんだんと必要に思えてくるから不思議である。随分と派手なことを言いつつ必要性を訴えられ、霊夢は半ばその気になっていた。
さらに小悪魔の勧誘は続く。
「大丈夫です、名前の知られている所を紹介しますから。お値段も……これくらいで」
「そんなに腕のいい所なの? って……安すぎない?」
そもそも小悪魔にそんなコネがあるのかどうかが不安なところではあったがそこまでいうのなら確かに知ってはいるのだろうと感じられた。そして何時の間にか取り出した算盤を手にはじき出した金額はあまりに相場よりも格安の値段だった。
流石にその金額で大丈夫なのかと背中を後方へと驚きでそらし目を少し開いて小悪魔を見つめる。
すぐに小悪魔はその視線の意味に気が付いて信じてくださいと言わんばかりに胸を手で叩いた。
「大丈夫です! ただ柱の本数が少なかったり耐震性に不安が残ったり強度不足だったりするだけですから!」
ボカッ!!
「あいたた……」
「全く、何て物奨めるのよ……」
勢い良く振りぬいた拳を労わりながら霊夢は不満そうに唇を尖らせた。
目の前の小悪魔は正座して痛みを堪えるように顔を俯かせている。
はあ、時の抜けたように息を吐き出し脱力した身体を支えるように床に手をついて。
「痛いです……」
「あんたが悪い」
涙ながらに訴える小悪魔を完全に無視をする形で半目で睨む。先ほどまで霊夢自身も随分乗り気だっただけに迫力が違った。途端に大きく震えて視線をそらす。普段は実に可愛らしくあどけなさをまだ残した顔がまるで般若のようで。
「今、何か変な想像したでしょ」
「いいえそんな!」
心の中が読めるかのごとく言い当てられて一瞬背筋に冷たいものが走った。
伊達に幻想郷に起こる様々な異変を解決してきてはいないと思わせる何かがそこにはあった。
具体的には殺気。
キラン、と鋭く霊夢の瞳が光ったような気がしたので小悪魔はそれ以上この事について考えるのを諦めた。ていうか、このまま考えてると確実に残機が無くなる事は確かだ。
「ま、まあ床の間は諦めるとしまして、掛軸とかいけばなとかいかがですか?」
「……怒らないから何を持って来るつもりだったか言いなさい」
それでも捨てない逞しい商魂。しかしそれも不備のあるものであると霊夢に見抜かれていた。当然ではあるが。
少しの間逡巡した後、小悪魔はその柔らかそうな唇を開く。
「実は、掛軸の場合贋作を精巧に造る職人とコネがありまして……」
ボカッッ!!
「却下。どうせそれで本物と同じ値段を取るつもりだったんでしょう」
「いたぁ……はあ、まあ、良くお解りで。以心伝心というやつですか? 心踊る何かがありますね」
「わからいでか」
ときめいた様に胸を押さえ、頬をうっすらと染め見上げてみせる。さらりと髪を押さえる仕草も忘れない。おそらく見るものの大半が参ってしまいそうな艶やかな仕草ににべも無く冷たく冷えた言葉が投げかけられた。
腕を組んで怒りを顕に鋭く睨みつける霊夢。
「といいますか霊夢さん? 怒らないと仰ってたんでは……」
「別に怒ってないじゃない。あれは天罰よ」
「……そうですか」
あの星の見える拳は天罰らしい。天罰という事は神の代行者の心算か。
というよりも巫女というものは神の言葉、神託を受けてそれを市井の人々に伝えるのが役目じゃないのか。
それが暴力とは嘆かわしい、そう小悪魔は思う。
その思いが出ていたのだろうか、恨めしげに見つめる視線に霊夢が気づき視線が絡み合う。
「何か文句の一つでも言いたそうね」
「聞いてくれますか?」
「聞くだけならただよ。それ以上は有料だけど」
「では、聞いてもらいましょう。そもそも巫女というのは神託を伝える預言者のような存在ではないですか。それがなんですか。乙女の頭をぽんぽんぽんぽん叩くなんて、なんと言うか慎みが足りません」
「いくつか知らないけれど外見に反して年上でしょうに」
「永遠の十五歳です」
「……夜は危険そうね」
呆れた様に溜息一つ、霊夢の口から漏れ出た。ほとんど話した事はないけれど、目の前の小悪魔はなかなか饒舌だ。
静かに手を伸ばし、安らぎを得るために冷めたお茶を口へと運ぶ。霊夢のその動作に合わせる様に小悪魔も湯飲みを持ちあげ。
『はぁぁぁぁぁ』
気持ちよさそうな吐息を勢い良く外気に混ぜ合わせた。
◆■◆
まだ微かに秋の温もり残る今日この頃。霊夢は目の前のお茶を淹れ直し暖かい湯気の立ち昇るそれで喉を潤す。
小悪魔にも注いであげればありがとうございます、と言葉を返し喉を鳴らし。
のんびりとした空間。先程までの喧騒を忘れたかのように穏やかに庭に舞い散る落ち葉を眺め一時を過ごす。
ああ、いいなあ。そう霊夢は感じていた。
大体ここに来る存在の大半が迷惑なカテゴリーに分類される。歓迎しないかといえば歓迎はするのだがどちらかと言うと行動的で周りを巻き込む性格の人間が多いように思える。だから今こうして向き合ってのんびりとお茶を楽しむ余裕は中々無い。そういう意味ではこの目の前の小悪魔に感謝をしなくもない。先程まで迷惑をかけられていたけれど……。
「ん? というかなんであんたここに来たの?」
「全然質問されないので気にしてないのかと思ってました」
返ってくる言葉、小悪魔は来訪の用件を聞かれないとは思っていたものの黙っていたのだ。
そもそも嫌、というわけではないが基本的に紅魔館では上下関係がしっかりしている。パチュリーは随分と出来た、部下に仕事の裁量を任せる事の出来る上司ではあったがそれでも上下関係である。こうしてのんびりお茶を出してもらう事は幻想郷に来てからは少なかったりするのだ。どちらかと言うと振舞う側である以上、時には振舞われてみたいと思っても仕方が無いかもしれない。
「別にどうでもいいんだけど……話の種くらいにはなるでしょう?」
霊夢は心底どうでも良さそうにまたお茶の味を堪能し始める。寒いと熱いお茶は一瞬舌が痺れてしまう様に感じられ、その後にくるほぐす様な感覚が堪らなく好きだった。霊夢にとって小悪魔の話よりはお茶、つまりは平穏である。のんびり出来るならそれに勝るものは存在しえないのだ。
そうだとは言えども、こういうゆったりとしたお茶の席で何かの話の種を求めるのも少女所以である。それが特に面白い話なら言う事は無い。
取りとめもないことを話すことは一番の至福である。意味が無いからこそとても大切なのだ。
「わかりました。んっ、実は……」
その霊夢の言葉を聴いて小悪魔はようやく口を開いた。こうしてもったいぶって見せるのも話術の一つである。尤も今回の場合は純粋に話し出す機会が無かったという事とのんびりとした時間を楽しむことを重視していたからなのだが。
ともあれ小悪魔はそうまでせがまれるのならば、と湯飲みを静かに机の上に置き一度喉の調子を確かめるように咳払いをして。
「実は、最近紅魔館では戦力補強に努めております」
「ふーん、でも私の所に来る意味が無いじゃない」
霊夢はにべも無く言い放つ。博麗霊夢は中立である。故にどこの組織にも肩入れをしない。もう少し正確に言うと博麗神社という組織に所属しているのだ。そんな霊夢に紅魔館の軍備の状況を伝えたところで不利益をこうむるのが関の山である。
まあ、そんな話が霊夢に耳に文辺りが届けてこないのが小さな出来事だと言う事であるけれど。
そんな霊夢の考えを見透かしているかのように僅かに首を傾げ、小悪魔は微笑んだ。
いやいやまだ焦る事は無いのです、そう言っているかのようにも見える。
「レミリアお嬢様は是非霊夢さんなどの強力な存在を取り込むべきだとおっしゃいました」
「無理ね」
「無理ですね。そんな反対意見がやんわりと持ち上がったのでお嬢様は僅かに悔しそうにされながらも他の手段を求めました」
やはり紅魔館内部であっても反対意見が続出したらしい。
これは聞いている側としても反応の困る話である。目下カリスマ急降下中なレミリアらしいと笑うべきなのか、それとも部下の意見を良く聞き取り入れる理想の上司だと感心するべきなのか。霊夢は主に前者だと感じてはいるが。
見ると小悪魔の湯飲みは空だったので急須を持ち上げ中に残っていた茶水を注いであげた。
感謝するように小悪魔が言葉をいったん止めて頭を下げる。
律儀な性格なのだろうか、そう霊夢は感じた。
「咲夜様は特に必要を感じておられないらしく無言、美鈴さんは門番隊の予算アップを求めるも現状強力な存在以外はきっちりと追い返しているのでアップなし。妹様は先に敵を壊しちゃえば、と仰られましたが流石にそれは幻想郷を敵に回すだろうと却下」
すっと立ち上がり霊夢が急須に茶葉とお湯を注ぎに台所へと向かう。
小悪魔はそれを受けて言葉を止め、湯飲みのお茶で喉を潤した。ほぅ、と脱力した空気が吐き出された。
あまり時間をかけずに霊夢が戻ってきた。ゆっくりとした動作で座ったのを確認し、続ける。
「そんな折パチュリー様が各自の欠点の補強を提案されました。そうすれば簡単に完全無欠になれるから、だそうです。それはまあ、理屈に合ってるのですがカリスマが足りないとか犬度が足りないとかおよそ戦力に関係のないことばかり」
「そんなのが足りてないのか紅魔館……大変ね」
「そのお言葉にこの疲弊した心がどれほどに癒されましょうか。まあ、閑話休題。そうして私に出されたお題が……」
「お題が……?」
「悪魔度が足りない、でして」
「は、悪魔度?」
予想だにしない言葉にしばし体が硬直する。そもそもそんな不敬なものは無いほうがいいだろう。
悪魔度なんか上げると紅魔館がよりめちゃくちゃになる気もするし。
それにあまりにも突拍子が無さ過ぎる。あの本の虫がそんなことを考えているとは霊夢には全く想像できなかった。
あまりにもうそ臭過ぎる、霊夢はそんなことを考えている様子をじっと小悪魔は見つめ。
「あんたのっけから曰く付きの商品お奨めしてくるあたり悪魔じゃない」
やがて霊夢の口から漏れ出た言葉に実に嬉しそうに頬を緩め。
然しすぐに悲しそうに瞳を伏せる。やや身体を崩し手を畳につきながら。
随分と堂に入った演技に役者が向いてるんじゃない、と言いかけるものの必死にその言葉を霊夢は飲み込む。
「いえいえ、そんなに褒められると面映いですよ。私ごときがそんな……魔王みたいだなんて」
「いや、言ってないし」
悲しそうにしながら肩を振るわせ笑っていたのだ。だったら普通に笑いなさいよ、と霊夢は思うがそれを指摘するのも諦めた。長年の経験から傍観は中々に有効だと理解しているからである。
というよりもなんで態々泣きまねを、その思いを込めて半眼で睨みつける。
小悪魔はそんな霊夢の冷たい視線を受け嬉しそうに全身を嘶かせ。
「霊夢さん……その冷たい視線、なんだかぞくぞくして……」
寒気を憶えて霊夢は視線を横にずらす。
「ふう、つれない人ですね。でも、その孤高さは実に美しいと感じるんですが」
「私は狼か」
「美しい紅白の狼ですか? 実に珍しいと思いますけれど」
「珍しすぎて狙われるわね」
「ええ。珍しい物を欲する好事家は多いのです。かく言う私もですが」
「罠に掛からないよう気をつけるわ」
「既に遅いかもしれませんよ」
お互いに相手の腹を探り合うような言葉の交差。二人ともこの様な会話は実に好みだった。
嘘を交えて絡みとろうとしてくる悪魔にのらりくらりと暢気にそれを回避する巫女。
そのままお互いに喉を潤し、急須から茶水を注ぐ。飲みすぎな気がしないでもない。
「詐欺は兎だけで十分じゃない」
「いえいえ私と彼女の決定的な違いがあるのです」
詐欺を働くのが悪魔度といえば今の小悪魔よりももっとふさわしい人物がいる。因幡てゐ。
それを霊夢はくらえっ、と突きつけるも小悪魔はそよ風ほどにも感じてはいない。
とはいえ、どちらも迷惑千番な詐欺商法である。そこのどこに違いがあるというのか。
霊夢は懐疑的な視線とともに続きを促す。
「彼女は騙されてもいいと思える詐欺、幸福にする詐欺で利益を上げています」
「詐欺の種にされるのは簡便ね」
「然し私は騙されてはいけない詐欺。相手の幸福全て吸い上げる詐欺を働くのです」
「ふーん」
この辺りの判別は実に難しい。てゐの嘘は自分に幸福をもたらしつつも相手にも副次的に幸福を与える。
対する小悪魔の嘘は利益を吸い上げる、つまりは悪徳商法である。相手を不幸にするための。
故に小悪魔はばれないように相手から搾り取るのだ。
「……ってあんたの方がよっぽど性質が悪いじゃない!」
「いやいや、私だって軽い物にとどめますよ? ただ、お砂糖とお塩を入れ替えたりそんな程度で」
とはいえ、怒られるのが怖いのでそうそう滅多にする事はないのだけれど。紅魔館では小悪魔より強い人が多いから。
「それは鬱になるわね」
小悪魔は実におかしそうに微笑みながら一例を挙げる。然しそれもまた幸福とは縁遠い物だった。
「閻魔様に一度お説教されなさい」
「御免こうむります。それに、詐欺なら悪魔らしいでしょう?」
「?」
「悪魔は人を誘惑し堕落させるものですから。概念の話です」
悪魔は誘惑によって人々を堕落させ、最終的にはその人の魂を滅ぼそうとする。
細かい種類による手段は別として悪魔とはそういうものである。
小悪魔は悪魔である。その実使い魔であっても小悪魔と呼ばれている以上悪魔である。
名前を与えられて初めて概念がそれを満たすのだ。
小悪魔はしたり顔でそう解説し、聞き入っている霊夢もまたそういうものかと納得をした。なるほど、生まれついての大嘘付きだ。
「で、その悪魔度を集めに来たのね? でもおあいにく様。詐欺は見破られたわ」
「そうですね。流石に巫女を騙しは出来ませんでしたね」
嘘だ。
「本気で騙そうとしてなかったくせに」
「いえいえ、本気ですとも」
「嘘吐き」
勿論、小悪魔は嘘吐きであると小さく頷く。
そして小悪魔と霊夢は顔を付き合わせ、噴出した。笑いが込み上げてくるのだ。
どこか滑稽な会話、どこか空虚な会話が堪らなくおかしくなってくる。霊夢は口を押さえ、小悪魔は微笑むように。
ただ二人、静かなお茶の間で笑いあった。
◆■◆
二人の笑い声が納まり、静かになったところで霊夢が口を開く。今回の最大の問題点を指摘するために。
「ところで、なんで私なのよ?」
そう、そこが問題だ。紅魔館にも色々いるだろうし態々神社にまで来て霊夢を騙す理由が見つからないのだ。
そこまでするほどに騙しやすいとは霊夢自信も思ってはいない。
その問いに小悪魔はああ、といった様子で頬に指をあて。
「まず、お嬢様やパチュリー様、妖精メイドは却下です」
「別にいいんじゃないの?」
「パチュリー様に言われて文献を見直したところ悪魔は“人”を誘惑するのだそうで」
「ああ、成る程」
つまりは人ではないのだ。妖怪を騙して悪魔度が上がるかはわからないが人を誘惑すると言うのなら人にしておくべきだろう、そう小悪魔は考えたのだ。
とはいえ、紅魔館には人間まで完備してある。十六夜咲夜その人だ。
他にも霊夢が思いつくだけでも霧雨魔理沙はよくよく遊びに行っているみたいだし獲物には困らないはずである。
人間が紅魔館のパーティに参加したと言うのだってよく霊夢の耳には届く。
「まず、咲夜様はお嬢様のお気に入りですから手を出すと波風が立ちます」
「ふんふん」
「とはいえそこいらの人間を騙しては矜持に傷がつくので」
「意外と誇り高いのね」
「自然と知り合いでは霊夢さんか魔理沙さんです」
「それで外れ籤を引いたのね」
運が無かったと背中を伸ばしながら霊夢は嘆いた。
魔理沙の方がノリがいい気もするけれど、それと騙せるかはまた別物だ。
魔法使いを相手にするよりも暢気な巫女を相手にしたほうが騙しやすいと思ったのだろう、そう霊夢は結論付けた。
小悪魔はおめでとうございますと言うように手を叩き当たり籤を引いた事を祝福している。
「じゃあ、もう用事は済んだのね」
「いいえ、実はまだ」
霊夢は用事が済んだのならついでに手伝わせて神社のことでもしようと机に手をつき、そこに掛かる小悪魔の声に訝しげに視線を小悪魔の顔へと滑らせる。
僅かに浮き上がったお尻をまた座布団へと沈め座りなおす。
小悪魔はまだまだ終わっていないと整った姿勢のままそれを眺めていた。
「なに? まだ何かあるの?」
「ええ。これは重要なことなのですが……」
座りなおした霊夢の面倒そうな言葉に実に神妙な面持ちで小悪魔が言葉を続ける。
「魔理沙さんに一つ諫言してもらえませんか?」
「……魔理沙に?」
沈痛な雰囲気で紡がれる言葉に霊夢は心当たりが無く首を傾げるばかり。
対する小悪魔は顔を強張らせたまま霊夢を真剣な眼差しで観察する。
霊夢は少し居心地悪そうに姿勢を整える。
「実はある程度借りていかれるのは想定内なのです」
「ああ、本の話」
「ですがここ最近頻度が増えまして。少し抑えていただけないかと」
そういえば最近来た文々。新聞にそのような見出しが躍っていた気もする。
しかし、新聞は溜まるばっかりでまともには見ていないのですぐには思いつかなかったのだ。
「でも、なんで私?」
「それは私の独断なのですが……戦において相手の同盟関係を崩すのは常套手段かと」
「ああ、それで」
小悪魔とて口煩く抑えてくれと言っているのだ。しかし、それはまさに逆効果。魔理沙はそういわれるたびに面白そうに襲撃の頻度を上げてくる。拒否されるたびに燃え上がっているのだ。逆境を乗り越える事に快感を覚える性質なのだろう。やられる側には堪ったものではない。特にパチュリーが消極的にしか動かないもので小悪魔も八方塞なのだ。
その状況で新たな仲間を求めるのは実に自然な流れではある。それも強力な、発言力のある仲間をだ。
「普段魔理沙さんと親しいようですから、ここは一つ友人として苦言を呈していただけないかと」
「それは別に構わないけれど……でも、あんた達の味方はしないわよ?」
「構いません。戦国時代に幕府にお伺いを立てるような物です」
「私は麻呂か」
小悪魔側としては積極的でなくとも遺憾であると言ってもらえるだけで心理的に優位に立てるのだ。それが実質この幻想郷を牛耳る博麗霊夢ともなれば効果絶大ということだ。
「私を仲魔にしてもらってもいいのですが……コンゴトモヨロシク?」
「なんで硬い発音なのよ。ていうかお手伝いは今募集はしてないわ」
募集をしていればこれほど気のつく小悪魔である。喉から手が出るほど欲しいかもしれない。
しかし、別に困ってはいないので霊夢は見送る事にした。僅かに寂しそうに伏せられる瞳が何とも良心を揺さぶってくれる。
「……私、霊夢さんのこと大好きなのにっ」
「嘘吐け」
手を伸ばし、霊夢の手を小悪魔は握り締める。肩を震わせ、唇を歪め、微かに瞳を前髪で隠す。寂しそうに目薬で涙を演出するのも忘れない。
それに対し実にそっけない情の無い言葉で霊夢は強く握り返した。
地味に小悪魔の手の平が悲鳴をあげる。
「いたっ、いたっ、痛いです、霊夢さんっ」
「ドキッとするような嘘をつくからよ」
痛みを訴える言葉を聴きようやく霊夢は手を離す。それまでに力を入れただけで微かに手の後が小悪魔に残っていた。
感覚を取り戻すように小悪魔はその手を振る。僅かに握られていたところは暖かい。
「嘘じゃありません。一目惚れです」
「まだ続けるか」
「ほら、神聖な者ほど穢したくなる心理ですよ」
「迷惑よ」
「ですから愛してます、付き合ってください」
「いいえ」
「ショック!」
「どうせ嘘なんでしょ」
「まあ、そうなんですが。でも嘘の箇所によってはこの会話いろいろな意味を持つことに」
「どうでもいいわ」
流れるような会話。途切れることなく間髪いれずにここまで話が進む。
そこまで来て霊夢は夕飯の支度をするために立ち上がろうとして、小悪魔を見下ろすように見つめた。
「夕飯、食べてく?」
「勿論、お泊りセットを持ってきました」
「用意周到よね」
「だって……」
いったん言葉が途切れる。部屋の畳には持ってきたお泊りセットが置かれている。
その用意周到な行動、誘った事を後悔するもまあいいか、と持ち前の暢気さで気にしないことにし、続きを促す。
「だって? なによ」
「合法的にサボれるチャンスじゃないですか」
続いた言葉に肩をすくめて霊夢は部屋を出て行った。
◆■◆
朝。幻想郷の博麗神社の鳥居。
帰る用意をした小悪魔と見送りにでた霊夢がそこにいた。
「いや、楽しかったです。久々にお泊りできました」
「別にこれくらい構わないわよ」
「こういうことでもないと息抜きも出来ませんしね、仕事は辛いんですよ」
「嘘吐き」
小悪魔の愚痴に笑いながら指摘する。
「ばれてますか。もう以心伝心では伝わらないほど分かり合ってますね。相性度限界突破です。もう一つになるしかないですね」
「いいから帰りなさい」
霊夢はじゃまじゃまというように手を何かを掃うように動かし、それを受けて小悪魔が一歩離れる。
「はいはい、お邪魔しました。そうだ、また泊まりに来てもいいですか?」
「別にいいわよ。家事も手伝ってくれるしね」
「優しいですね。そんなフラン様を前にしても悪魔を泊めても一人でも変わらない態度、大好きです。神々しくて」
「ありがとう、と言っておくわ」
「はい、それでは」
そういって荷物を片手に紅魔館へと小悪魔が飛び去っていく。時折振り返り手を振りながら。
霊夢はそんな小悪魔に手を振りながら、偶にはこうしてよく知らなかった人と親交を深めるのも悪くは無いと思っていた。
人は誰しも出会った当初は他人である。話をして見なければ相性がいいかはわからない。
だからこうして話し合うのだ。
霊夢はまた小悪魔が来てくれる事を少し楽しみにしながらも日常生活に戻っていくのだった。
―――――終わり―――――
《おまけ・小悪魔の真実編》
今回の神社訪問は実にうまくいった。そう小悪魔は自画自賛していた。
元々この幻想郷で神に仕える巫女のような存在は少ない。だから興味を持った。それを天敵とする悪魔として。
その興味はいい形で満たされたと言っていい。話は実に面白かった。パチュリーとは違ったやり取りの騙し合い、その楽しさがある。
霊夢自身は騙されずにすんだ、と思っているかもしれないが騙す事には成功している。
「霊夢さん、実は今日の訪問は魔理沙さんの対策に対するものだけなんですよ? 悪魔度なんて勿論、紅魔館の防衛強化も実は嘘なんです。私の、勝ち――ですね?」
吸血鬼を、賢者の石を使用したパチュリーも、聞くところによると亡霊嬢に隙間妖怪、閻魔にさえ。彼女は態度を変えない。
霊夢がそれらの妖怪に実力で勝っているわけではない。基本的に力は妖怪が上ではあるがこと弾幕ごっこのパターン化、回避力では幻想郷でもトップクラスである。
それに幻想郷を考えれば巫女に手を出せない。そういう意味では最強、と言っていいだろう。
しかし、あそこまで態度を変えないでいられるものだろうか。英雄に私情は禁物と言うがそういう意味では神に使える英雄でもある。
ならば霊夢は神に命の冠を与えられているのかもしれない。そんな不可侵の聖域。然しそれはあまりにも無防備。
故に小悪魔はその聖域に手を伸ばす。自分が浄化されるか相手が穢れるか、それはわからないけれど。
霊夢の微笑を独占してみるのも面白い、だからまた、お邪魔しよう――そう決意しながら小悪魔は紅魔館へと急ぐのだった。
―――完―――
『で』が抜けてますね。
こういう小悪魔もいいですねぇ、面白かったです。
でも続かないのかぁ…残念っす。
こういうつらつらとした会話は大好物です。
続きを楽しみに待たしていただきます。
二人の会話も軽妙で面白かったです
会話のテンポとか台詞回しが凄く好き。
霊夢のあしらい方もいいですね。
爆笑はしないけれど、くすりと笑える場面が多くあって読んでいて楽しかったです。
続きを是非。楽しみにしています。
>「仲魔」が誤字かノリか判断がつかないのですよ
これは誤字ではないです。某ゲームネタですね。なのでノリという事です
掛け合いも面白かったです。
まあ、もうちょっとこっちとの繋がりがあってもいいのにな~と、個人的には思いました…。