Coolier - 新生・東方創想話

略してCCC《2》

2007/12/12 08:06:40
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※1話は同作品集内にあります。以下本編


  ☆


 最近、彼女を見ていると思うことがある。

 何十年と共に暮らし、そのやることを見てきたが、やはり彼女は素晴らしい。
 人間に畏怖を与え、強大な力を誇示し続け、無闇な争いはせずとも事態を収束させる。
 鋭い眼光は命を凍り付かせ、全てをひれ伏せさせる。
 語る言葉は戦慄を走らせ、二度と忘れることのない恐怖を刻みこむ。
 私が出会って間もない頃の彼女は、誰も近づくことの出来ない絶対のカリスマを誇っていた。
 それ故に孤独だった彼女は、偶然知り合った私を受け入れてくれたわけなのだけど。

 ただどんなに素晴らしいカリスマの権化たる彼女にも、時の流れは無情だった。
 長い長い――岩盤から滴り落ちる滴が鍾乳石となり、その落ちる滴が地を穿つほどの長い時間。
 それだけの時間が経つと、見ただけで一線を画すほどのカリスマを感じさせていた彼女も、今やすっかり落ち着いてしまったのだ。

 決してカリスマが消えた訳じゃない。
 しかし時折見せる可愛らしい仕草や、どうにもカリスマを感じられない行動が、ここ最近特に顕著に見られるようになった気がする。
 それが直接的に悪いというわけではない。
 むしろ彼女のあんな可愛らしい一面が見られて、私としては大満足だ。

 だがそれはあくまでも彼女の“一面”だからこそ輝くのだ。
 カリスマが完全に無くなってしまったとき、もはやそこに私の憧れた彼女は居ない。
 ただのドジで稚拙な幼女としての彼女しか残らない。
 それでも私は彼女の親友をやめたりはしないけど、そんな彼女を見たくもない。

 だから私はある計画を推し進めることにする。
 前々から考えていた“あの計画”を、今こそ始めるときなのだ。
 彼女の存在は広く幻想郷に知れ渡っており、私自身幻想郷の住人についての知識も深まった。
 今なら、いや今だからこそ、この『プロジェクトC』を始める最大のチャンスなのだ。
 この間偶然見つけた例の書物から得た知識を使って、必ずこの計画は成功させる。

 その為にはまず、彼女がその気になる切っ掛けが必要なのだけど……。
 さて、どうしたものかしら。


『~とある魔女の手記より抜粋~』


  ☆


 永遠亭と紅魔館が月下の激闘を繰り広げ、事態は更なる風雲急を告げようとする頃より、少し遡った時間。
 その空の上。遙か彼方より、そのかつてない規模の戦いが始まる所をのぞき見ている者が居た。

 冥界は白玉楼。その雄大な二百由旬の庭が一望できる縁側に立つ和装の少女。
 色素の薄い波打った髪を夜風になびかせながら、時折下界から聞こえてくる轟音に目を臥せる。
 最近不穏な動きを見せている連中がいたということは、冥界の管理者であるこの西行寺幽々子も勿論承知の話だ。

 今までは別段目立っているだけで、被害も出していないし黙認を続けてきた。
 だが今宵の状況には見過ごせないものがある。

「妖夢、居るかしら」
「ここに」

 いつの間に現れたのか、それとも最初からそこにいたのか、そんな一瞬の登場にも幽々子は動じない。
 幽々子の静かな呼び声にすぐさま答えを返すのは、白髪のおかっぱ頭が特徴的な幽々子よりも幼い小柄な少女。
 その腰には二振りの刀が携えられており、よりいっそう彼女の特異さが際立って見える。
 妖夢と呼ばれたその少女は、幼い顔立ちに似合わない謹厳な表情で主の次の言葉を待つ。
 彼女も彼女なりに最近の顕界の動向を探っており、今現在も繰り広げられている戦いの報はその耳に届いていた。
 しかしただ知っているだけでは意味がない。その情報を如何にして次に活かすかが、従者として求められる能力だ。

「幽々子様」
「妖夢、分かっているわね」
「はい。あいつらをどうにかして止めるのでしょう?」

 妖夢からすれば、幽々子を差し置いてカリスマがどうこうと争うなど愚の骨頂。
 そんな不届き千万な連中を、幽々子が圧倒してしまえば彼女たちももはや偉そうに立ち回ることはできないだろう。
 だからきっと幽々子がいつか打って出ると、妖夢は予想していたのだが。
 くるりと振り返った幽々子の表情には、意図したことが伝わっていないと不服な色が浮かんでいた。

「何を言っているの。止めるのでしょうって、他人事みたいに。止めるのは貴女よ」
「え? 私……ですか?」
「そう、あ・な・たっ」

 言って幽々子は白く細い人差し指を、まっすぐに妖夢へと向ける。妖夢はそれに倣うように人差し指を自身の胸へと向けた。
 それを見た幽々子はゆっくりと頷き、妖夢も次第に幽々子が自分とは違った考えを抱いているということに気がつきはじめる。

 幽々子はカリスマなどは気にはしない。
 しかし、あんなものに暴れられた日には幻想郷のバランスは狂いも狂い、大狂いだ。
 あれだけの巨躯が足下を気にせずに戦ったらどうなるか、場所を弁えずに暴れたらどうなるか。
 人間の田畑は荒れ、森は焼け、川や湖は汚れるだろう。
 そうなったら、米も作物も木の実も山菜も魚も採れなくなってしまうではないか。
 それは幽々子にとって最も危惧すべき最悪の事態。
 そしてその最悪の事態は、今まさに形になろうとしている。このまま奴等を放ってはおけない。

「と、いうことで妖夢?」
「は、はい?」
「よろしくねっ」

 可愛らしく指を頬に当てて、小首を斜に傾げる幽々子。
 そんな風におねだりされて、この生真面目を絵に描いたような従者が断れるわけもなかった。


  ☆


 さて、冥界で別の勢力が動き出すかもしれないなど気づきもせず、地上では紅魔館が新たな動きを見せようとしていた。
 どうしてレミリア達は、紅魔館を永遠亭のように直接巨人に改造せず、わざわざ五つの機体に分けたのか。
 連係攻撃のため、それぞれの能力を活かすためなど理由は色々考えられる。
 しかし一番の目的は“合体”にこそあったのだ。

「あの、輝夜様……合体って」
「なんてことっ! まさかあのロリ吸血鬼がそこに目を付けていたなんてっ」

 鈴仙の言葉など届かず、思わずコンソールに拳を打ち付けるほど、輝夜は悔しがっていた。
 しかしその理由がわからない鈴仙は、困惑の表情と言葉を浮かべるだけだ。
 そんな鈴仙に、感情を露わにしている輝夜とは対照的に淡々とした様子で永琳が教えてくれる。

「良い? 巨大な物を動かすというのはそれだけカリスマを醸すことが出来るの。それはこの永遠178号が実証しているから、貴女の頭でも分かるわね? だけどそのカリスマは“合体”を経ることでさらに上昇が見込めるのよ。それは何故か。合体には仲間との絆、巨大な物が一つとなってさらに巨大な物になるという分かり易いまでのパワーアップなどの、カリスマ上昇要素が詰まっているからよ!」

 なんとなくわかるようで、中々理解しがたい説明に、鈴仙は曖昧に頷く。
 対して輝夜は深く頷き、永琳の言葉にとても納得している様子だ。
 ここで否定したところで自分には何も言い返せないし、下手な否定はお仕置き一直線。
 とりあえず輝夜と永琳のどちらもが、そう言っているのだからそうなのだろう、というかそういうことにしておけ、と彼女の脳内では結論が出されていた。

 そんな永遠亭組をよそに、紅魔館組はさらに盛り上がりを見せていた。

『さぁ。咲夜っ、パチェっ、美鈴っ、小悪魔っ。手筈通りに行くぞ』
『『『『了解っ!!』』』』

 ところで合体について重要な事は何か。
 勿論秀逸な合体ギミックは目を惹く上で大切だ。しかしそれを盛り上げるためにも、必要な要素がある。
 そう、“合い言葉”だ。彼らの声が一つに揃ってこれから文字通り身も心も一つとなることを宣言するための大事なかけ声。
 レミリア達がそれを忘れるわけはない。
 ここまで決まれば、輝夜に与えるカリスマ的ダメージは決定的な物になるだろう。


『バッドレディィィィッ、スクランブりゅっ!?』



 噛んだ――――っ!?



 きっとレミリアは最後「スクランブル」と言おうとしたのだろう。
 スクランブルが合体ではなく発進の意味だとか、そういうツッコミは野暮だとしても、ここで噛んでしまうのはいただけない。
 カリスマのカの字も感じられないどころか、それまでのカリスマ全てがをダイナマイトで木っ端微塵にしてしまうような、それだけの失態をレミリアは犯してしまった。
 唯一、強いて助かったことと言えば、専用機に搭乗しているため、誰も彼女の表情を見ずに済んでいるということだ。
 この状況下でレミリアの表情を見ることほど、こちらまで哀れな気持ちにさせられるこことはないに違いない。
 美鈴は仕えるものとして同情や励ましの言葉は掛けられず、小悪魔もレミリアより下級である立場上何も言えない。
 パチュリーはパチュリーで何を考えているのか黙ったままだし、紅魔館の面子は元より、輝夜達もどう声を掛けて良いか分からない。

 そんな中、誰がこの場で一番に動かなくてはならず、そしてそれが何をするべきかを知っている者が一人だけいた。
 彼女は自身のコックピット内で、それまでの攻防で皺の入ってしまった衣服を整えると、他の機体との無線を繋いだ。
 それはとても凛として、とても静かで、それでいて力強い響きを持って、宵闇の竹藪に響き渡った。

『YES!! My lord!(かしこまりました、お嬢様!)』

 主人の格には従者の格も含まれる。なら逆に言えば、主人のカリスマを補うために従者はいるのではないだろうか。
 それなら自分がやるべきことは最初から決まっていた。
 咲夜の声にはレミリアを庇おうとか助けようとか、そういった感情の含みは一切感じ取れない。
 ただそう返答をするのが当然という、従者としてのあるべき答え。
 咲夜の在り方に、紅魔館のメンバーは皆表情から迷いを消す。そして当のレミリアにも咲夜の思いは伝わっていた。
 最早先程の失態に対する恥など、最初から無かったかのようにカリスマに満ちた言葉がレミリアの口から発せられる。

『行くぞっ、合体!』

 美鈴の翠龍がその巨体を立ち上がらせる。最も巨大な機体は体と足、そして肩へと変形し、その肩の部分へエンサイクロペディアとリトルディストーションが、それぞれ腕と拳に変形して連結した。
 エンサイクロペディアの特徴的な砲門はアームバスターとなり、リトルディストーションには翠龍から脱着したパーツが小手として合体する。さらにそこへ咲夜のスマートエッジが二つ折りになりそこから現れた顔が連結してほぼ完成の姿が現れた。
 最後にレミリアの駆るレッドウイングが月をバックに旋回し、背中に張り付いた。
 巨大な蝙蝠の羽を背に構え、胸部にも紅魔の証である蝙蝠の紋章が刻まれた、真紅の巨人がここに誕生したのである!

 その名も――――、


『『『『『完成っ!! ヴァンピリッシュV(ヴァーミリオン)!!!!』』』』』


 今度こそ完璧に決まった。
 レミリアのカリスマがそうさせているのか、バックで輝く満月は紅く光り、そのシルエットからは先程の失態など全く感じさせない。
 いきなりあんなものを見せられた時は、敵ながら哀れみを感じえない輝夜だったが、今度は敵ながらあっぱれの合体に思わず拳を振るわせる。

「……やるわね。永琳、貴女から見てどうかしら」
「そうね。月の軍隊でもあれだけの格好良さを演出できる者はそうそう居ないはずよ。ただ一つ、惜しむらくは合体時のかけ声ね。あそこで噛んだりしていなければ、どうなっていたことか」
「でもおかげでこちらにも余裕が出来たわ。それでもこっちにあれだけのカリスマを見せつけてくる辺りは、認めざるを得ないけど」

 冷静に今の合体シーンから感じられるカリスマについて議論をしている二人の横で、鈴仙はただただ唖然と目の前で増大した恐怖と戦っていた。
 あの五機だけでも充分こちらと対等に戦っていたというのに、それが全部一つになったあれと今から戦わなければならないのだ。
 今までのデータから、あれは完全にこちらに対抗するため、つまり戦闘目的の為だけに作られた機体であることは間違いない。
 対するこの永遠178号は、何度も言うようだが輝夜の生活スタイル改善会議の結論として生まれたものだ。
 だからさっき何の躊躇もなく「超閃人参」といった兵器が飛び出ていった時から、鈴仙の頭の中は嫌な予感で一杯だった。
 そもそもを思えば「戦闘モード」という単語が出てきた時点で、おかしいという意識をもっと強く疑問に思わなければならなかったのだろう。

「お師匠様、つかぬことをお聞きしますが、戦闘用装備って最初から供えてあったんですか?」
「どうしたのウドンゲ、それはこの状況下で聞かなければならないこと?」
「いえ、ですが。ふと気になって、あはは……」
「そんなの最初からに決まってるじゃない」

 返ってきて欲しくなかった言葉ベスト3に確実に入りそうな言葉が、とてもあっさりと戻ってくる。
 目的と手段が入れ替わってしまったのは気付いていたが、目的その物が最初から変わっていたなんて信じられない。
 鈴仙はそれを確認しようと、永琳が相手にも関わらず言葉を続けた。

「さ、最初からって。そんな事の為に作った訳じゃないんだし」
「ウドンゲ?」
「は、はい」
「好奇心は猫だけじゃなくて、兎も殺すって、月の諺を知ってるかしら?」

 そこまで言われて、鈴仙は初めて自分が永琳に詰め寄っていたことに気がつく。
 目の前まで近づけた師匠の顔は、至って穏やかな笑みを浮かべているが、その裏側にある黒いオーラは、微笑を越えてびしびしと伝わってきた。
 理性を取り戻し恐怖を感じ出すと、慌てて飛び退き土下座を始める鈴仙。

「すっ、すみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみませんすみません、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃっ」

 よくもまぁそれだけ一息に、しかも噛まずに言えるわねと、永琳は鈴仙を軽くあしらうと、目の前に聳えるヴァンピリッシュVへと視線を戻す。
 合体自体は特に秀逸なギミックはなかったものの、やはり合体というものは良い。
 それにただ合体の真意を知っていれば、ただ巨人へと姿を変えるわけではないだろう。
 1+1+1+1+1。その答えが単純に「5」になるようでは、真の合体とは言えない。
 その答えが50なり、500なり、無限なりになってこそ、合体したことになる。
 カリスマにおいて、質量保存とかエネルギーの絶対量などは考えても無駄。
 考えるのではなく、感じるものなのだと、自分自身輝夜に言い聞かせてきたのだ。

「永琳、アイツ等に勝てる可能性は?」
「そうね……。仮にさっきまでの連中よりパワーが最低50倍に上がったと考えても、こっちが勝てる可能性は随分低いわ。カリスマ的な意味で」
「やっぱりね……それで?」

 輝夜は負けているという事実を聞いても、落胆の色は見せない。
 それどころか何か期待するような視線で永琳の次の言葉を促す。

「それはあくまでも“今の”状況から判断しただけのことなんでしょう?」
「ふふっ、流石は私の元・教え子ね。私がまだ隠し球を持っていることを見通すなんて」
「この永遠178号がただの変形巨人という時点で、合体に匹敵する何かを仕込んでるなんて気付きそうなものだわ」

 永琳は輝夜のその言葉に目を見張る。
 言ってはなんだが、あれだけぐうたらのんびり自堕落にだらけきった日々を送り続け、どこにも元・姫という威厳もカリスマも感じられなくなっていたあの輝夜が、まるで全盛期のそれらを取り戻したかのような活き活きとした瞳を見せている。
 そう、輝夜に必要だったのは生活スタイルの改善という表面的なものではなく、根本から元に戻すためのカリスマ。
 そしてその目標は達成されつつある。好敵手との攻防を経て、埃の積もった宝石が元の輝きを取り戻していく。
 あともう一息。あと一押しで彼女のカリスマは全盛期のそれを越えるに違いない。

「良いわ。あっちにも本気を出してもらわなきゃいけないようだし。それに奥の手はちゃんと使ってこその奥の手だもの」

 自分たちの合体に対して衝撃を受けて動けないとでも判断したのか、ヴァンピリッシュVからレミリアの余裕に満ちた声が飛んでくる。

『さぁ、そろそろ2回戦を始めようか』
『そうね。でもその前にこっちも少し準備をさせてもらうわ』
『準備だと? 合体もできそうもないその機体で何をする気かしら』

 どうやらお手並み拝見ということなのだろう。口調からも別に蔑む様子は感じられない。
 ヴァンピリッシュVは腕を組んだ体勢のまま動きはせず、永遠178号の次の行動を待つことにしたらしい。
 合体の間に攻撃を仕掛けてこなかったことに対する借りでも返すつもりなのか。
 変な所で意地っ張りね、と自分のことは棚に上げて輝夜は苦笑を漏らす。
 しかしすぐにその苦笑は不敵な笑みに戻り、その笑みが向けられる先には彼女が最も信頼を寄せる従者の姿があった。

「期待してるわよ、永琳」
「お任せを」

 永琳は自分の席に戻り、厳重にロックされたスイッチカバーを開くため、パスワード入力のコンソールに指を走らせる。
 ロックが開いた電子音と共に丸の中に八と書かれた八意印の赤いボタンが現れると、永琳はそこに思い切り拳を叩き付けた。
 輝夜のカリスマが全盛期を越え、かつて以上の輝きを取り戻すという願いを込めて。

「さぁ、今度はこっちが見せつけてやる番よ!」

 右手を高々と掲げる永遠178号。
 その右拳が内部に収納され、代わりに現れたのは、巨大な円錐形の鋼の塊だった。
 木造の身体を持つ永遠178号には不釣り合いな輝きを放つそれは、槍と呼ぶには太く、剣と呼ぶには歪な形状をしている。
 螺旋の溝が掘られ、また同じように螺旋状に刃が巻かれており、さらに甲高い金切りの音を立てながら回転するその武器は、レミリア達に衝撃を走らせた。

「あの武器はいったい……」
「わかりません。ですがあの姿と音を聞くだけで、あの武器にはとてつもない力が秘められている、そんな気がしますわ」
「あれは……」
「知っているのか、パチェ?」

 紅魔館の面子の中では唯一正体を認識できるパチュリーに皆の視線が集まった。
 ちなみに合体した時点で、彼女たちのコクピットは一箇所に集まりもう無線を使わずとも会話ができるようになっている。
 それぞれの席に座る形で一つのコックピットに集まった紅魔館の面々は、自分の席で未知の武器の知識を思い返そうとするパチュリーの言葉を待っていた。

「私も文献で読んだだけで実物を見たことは無いけれど、あれは確か“どりる”という武器のはず」
「どりる、だと? あれはそんなに凄い武器なの?」
「文献によれば、あれは斬る・突く・抉る・砕くといった、武器に求められる破壊の要素を全て取り込んだ最強の武器。回転という力に加え、周りに掘られた溝と、螺旋の刃が破壊力を数倍、いえ数十倍までに引き上げ、さらにその回転は無限のエネルギーを生み出すともされる。特に男性に対して、醸すカリスマは絶大」
「そんな武器がこの世にあったとは。しかも“最強”の称号まで持つなんて」

 合体という要素を盛り込めば、相手よりもカリスマが数倍上がるとパチュリーに提案され、その効果は確かに絶大だったにも関わらず、まさかそれに匹敵するほどの代物を出してくるとは。
 これで戦局はイーブンに持って行かれたことになる。勿論カリスマ的な意味で。



 そんな衝撃を返された紅魔館が呆然としている中、対する永遠178号の操縦席では、輝夜が永琳に賞賛の言葉を贈っていた。

「流石は永琳だわ。まさかドリルなんて素敵なものを装備させていたなんて」
「当然よ。カリスマの武器と言えばやっぱりドリル。エネルギー消費量と凄まじすぎる破壊力のため、月では使用を封印されるほどの代物。それをここで使わなくて、いつ使うというの」
「それにしてもよく見つけてきたわね。これだけの物を作れる技術が幻想郷にあったの?」

 輝夜の質問に、永琳は「良いところに気がついたわね」とウインクする。
 永琳は少し前に、いつも配達を頼んでいる文々。新聞の発行人、射命丸文からとある情報を聞いた事を話し出した。

「天狗族のことは、輝夜もインタビューを受けたから知っていると思うけど、その天狗族が棲む妖怪の山にはもう一つ、“河童族”が棲んでいるの。私も幻想郷に来てから一度も見たことがなかったから半信半疑で話を聞いていたんだけど、どうやら河童族は機械技術や科学技術に優れた種族だということをあの烏天狗が話してくれたのね」
「わかった。このドリルはその河童族の技術で作られた物なのね」

 正解、と永琳は人差し指を立てる。
 正確には河童族に月の技術を取り入れて作った物で、永琳は「蓬莱ドリル」と名付けていた。
 そんなことはさておき、しかしそうなってくるともう一つの疑問が浮かぶ。
 それは先程のやり取りから立ち直った鈴仙も同じらしく、今度はおそるおそると言った具合に尋ねた。

「でも、お師匠様も会ったことがなかったんですよね。どうやって協力してもらったんですか」
「そんなの簡単よ。知っている人に仲介してもらえば早い話」
「知ってる人って……まさかあの烏天狗ですか」
「貴女にしては頭が働くわね。そうよ、この間新聞を届けに来たときに聞いてみたの」
「あの偏屈天狗がよく承諾してくれましたね」

 天狗族は幻想郷のパワーバランスの一角を担う程の一族である。
 あの文も見た目こそ気さくで飄々した性格に見えるが、その実力も素顔も計り知れない。
 そもそも天狗族は他の妖怪よりも排他的な種族であるため、彼女たちから情報を聞き出すとなると、文字通り骨の折れる仕事になりかねない。

「そうね。あの時はさすがの私も苦労したわ。なにせなかなか口を割らないんだもの」
「……まさか力づくで、とか物騒な手段に訴えてませんよね!?」
「心外ね。まるで私がサディスティックな性格とでも言いたいのかしら」
「めめめ滅相もない。そ、それで本当はどうやって聞き出したんです?」

 仲間意識の強い天狗族に対してまさかとは思うし、永琳がそこまで自分にとって不都合な展開となる手段を取るはずがない。
 それでも聞いてしまう辺り、鈴仙の永琳に対する深層意識が表れていると言えよう。
 だがそれならば永琳はどうやって天狗との交渉を成功させたのか。

「次回のあの子の新聞に、貴女のサービスショットを載せるのに全面的に協力するって言ったら、あっさり教えてくれたばかりか、ご丁寧にその場所まで案内までしてくれたわよ」
「へー、そうだったんですかー……あれ?」

 思ったよりも平和的な解決策であったことに安堵しすぎて、肝心の箇所まで思わずスルーしそうになる鈴仙。
 それは自分にとっては平和的ではない解決策じゃないだろうか。いやそんなこと改めて疑問に思うまでもない。
 実の師匠に売られた。
 まさかここまでの仕打ちが待っているなんて。

「ひ、酷いですお師匠様ぁっ、うわあああああああんっ!!」

 これ以上は耐えられないと感じたのか、鈴仙は大粒の涙を流しながらコックピットを走り出ていってしまった。
 あの様子じゃしばらく戻ってこないわね、と原因を作った永琳は冷静に――冷酷に?――状況判断を下す。
 しかしこれでは索敵能力が大幅に下がり、背後からの攻撃への対処が遅れてしまう。
 そのことは輝夜も懸念したらしく、メイン操縦席から身を乗り出して永琳に話しかけた。

「良いの? あの子がいなくなったら敵の動きが」
「大丈夫よ輝夜。全て計画通りに進んでる。貴女は心配せずに、目の前の相手に集中なさい」
「まぁ永琳がそう言うならわかったわ。それじゃあ、さっそくこの蓬莱ドリルの力を試させてもらうわよ」
「えぇ。存分に、ね」

 嬉々として操縦桿を握る輝夜を背後から見つめながら、永琳はその口元に妖艶で不敵な弧を描いた。
 そんな永琳の表情に気付くことなく、輝夜はようやく始まろうとしている後半戦に向けて無線のスイッチを入れた。
 すっかり待ちぼうけをくらっていたヴァンピリッシュVを駆るレミリア達だが、下手に攻撃してドリルの餌食にはなりたくない。
 それに焦って攻撃を仕掛ければ、それだけ自分たちに衝撃を与えたのだと相手に思わせてしまう。
 それはカリスマを掛けたこの戦いにおいて、やってはいけないことの一つであった。

『さあ、待たせたわねっ』
『待った覚えはない。さっきのハンデをチャラにしただけだ』
『何でも良いわよ。それじゃあ、さっさとケリを着けましょうか』

 それぞれの得物を構える永遠178号とヴァンピリッシュV。
 なんだかんだで中断していたこの戦いにも、ようやく緊張した空気が戻ってくる。
 しかし夜の静謐な空気が拍車を掛け、互いに隙を窺い合う二つの巨大な影は思うように動き出せずにいた。
 輝夜もレミリアも、すっかり表情が険しく眼差しは真剣そのもの。
 その獲物を狩る虎の如き眼光に、周囲の従者達も何も話しかけることはできない。

 だがいつまでもそうしているわけにはいかない。
 そんな中、突如竹藪から数羽の烏が飛び立った。
 微かな動きにも敏感になっている二人は、共に一瞬そちらに気を取られるが、その気はすぐに目の前の相手へと向けられる。
 こちらも隙を見せてしまった以上、ここで動かなければ初撃を喰らうのは自分となってしまう。

『マイハートクラアアァァッシュ!!』
『蓬莱ドリィィィルッ!!』

 真紅の槍を投げつけてくるヴァンピリッシュVに対し、その槍を真っ向からドリルで受け止める永遠178号。
 激しくはじけ飛ぶ魔力が火花のように舞い散り夜空を明るく照らす。
 魔槍グングニルの投擲というレミリア十八番の攻撃に、美鈴の気を操る力、パチュリーの魔力が上乗せされて作られたヴァンピリッシュVのグングニル。その威力は元々のそれなど容易に越えているのは確かだ。
 しかしそれを攻撃で受け止め、しかも防ぎきっている蓬莱ドリルの力もまたかなりのものだ。やはりカリスマを醸す武器は伊達ではないということか。

『あの攻撃力、やはり侮れないわね。だけど左側ががら空きだっ』

 ドリルの威力を見せつけられながらも、レミリア達に動揺は走らない。
 それはまだ勝率の天秤がこちら側に傾いていると確信しているからだ。
 その鍵であり、レミリアの背後でただ粛々と戦いの行方を見守る咲夜は自分の力を使うその時を待っていた。

「咲夜!」
「はい、お嬢様」

 咲夜は静かに頷き、それを合図と決めていた指を鳴らす。
 その瞬間、吹いていた風も揺れる木立も、野次馬根性で周囲に集まっていた怖い物知らずの妖精も、世界の全てが動きという動きを止める。
 正確にはヴァンピリッシュV以外の全てが、だ。
 咲夜の時を止める能力は、一体化しているスマートエッジの機能によってヴァンピリッシュVには及ばない。

「どれだけ攻撃力が高くても、その動きが止まっていたら意味無いわよね」

 全てが凍った灰色の空間で勝利の笑みを浮かべるレミリア。
 その隣では親友のパチュリーも口元に微笑を湛えているが、その笑みはレミリアが浮かべるものとは違う。
 それは永琳が輝夜に見せたものと同じ微笑みだった。しかしどこか、そこに微かな影が落ちているのは気の所為なのか。

「隠し球には正直格好良いと思ってしまったけど、勝負には勝たせてもらうわよ」

 魔槍を抉るドリルを構える永遠178号。その空いている左腕には、ヴァンピリッシュVのような防御装備は付いていない。
 だからといって、何もないと考えるのは早計だ。
 このドリルのような内部機構装備が隠されている可能性は充分に考えられる。
 シンプルすぎる見た目も、もしかすると元よりそんな油断を誘うために設計されたのかもしれない。
 ただそれも動けなければ、無いも同じ事だが。
 再びその手に強大な魔力の結晶である魔槍を構え、永遠178号の隙だらけの巨躯へと攻撃を仕掛けるヴァンピリッシュV。

 しかしその時、起こるはずのないことが起こった。

『それはどうかしら』
「何っ!?」

 あと少しで攻撃が届くという刹那、永遠178号は上半身を捻りヴァンピリッシュVへとその視線を向けた。
 しかもすでに超閃人参の発射態勢が整っており、放たれた二発のミサイルに慌ててヴァンピリッシュVは飛び退いた。
 向かってくるミサイルに魔槍をぶつけ、なんとか直撃は回避する。
 両者の間で起きた巨大な爆発で互いに視界が阻まれ、相手の姿が見えなくなるとこの攻防はひとまず収束する。

 ひとまず危機を脱したレミリア達は、コックピットの中で冷や汗を拭っていた。
 それにしても一帯何がどうなったというのか。
 咲夜が途中で能力を解除したとは思えない。
 それは彼女自身驚いている様子を見ればすぐにわかることだし、何よりそんな相手にとって有利に事が運ぶような失態をするわけがない。

 次第に晴れていく視界の向こう、永遠178号がその姿を再び現した時、その巨体から輝夜の嫌味な声が響いてきた。

『顔は見えないけど、さぞや驚いているようね』
『お前、何をした!』
『何って、そっちと同じ事に決まってるじゃない』

 同じ事――それは操縦者の能力の発動。
 その瞬間、レミリアは全てを悟る。

『そうか……お前の能力をすっかり忘れていたよ』

 輝夜の力、それは永遠と須臾を操る程度の能力。それだけではなんのことかはわかりにくいが、今のことに対してだけ説明するとこういうことになる。
 咲夜は時を操り、止めた。ここまではレミリア達の思惑通りだ。しかしその止まった時、つまり瞬間と呼ばれたり、刹那と言われるほんの短い時間は、何も咲夜だけの時間ではない。
 瞬間、刹那、そしてもう一つ。須臾というその時間は輝夜にも操ることが可能な時間なのだ。

『永琳の予想通りだわ。さっきメイドの駆る機体が突然私達の目の前から消えて、攻撃を受けた時にもしかしてとは思っていたんだけど。やっぱりあなた達の機体は止まった時間の中でも動くことが出来るようね』
『それで私達の行動が読まれていたというのか』
『一度でもネタ晴らしをしてしまったのが仇となったわね』

 輝夜の勝ち誇った物言いに、レミリアは悔しさを感じずにはいられない。
 だがこのまま相手の良いようにされては、ヴァンピリッシュVのカリスマは全て向こうに取られてしまう。

『このままで済むと思ったら大間違いよ!』
『それはこっちの台詞。今度こそ蓬莱ドリルの餌食にしてやるわ』

 動けない様子見の戦いから、文字通り刹那の攻防を交わした両者。
 互いの手の内を見せ合った彼女たちにもはや遠慮はない。
 どちらからでもなく、ほぼ同時に大地を蹴り上げ目の前の相手に直進する。

 永遠178号が胸部から発射する超閃人参を、ヴァンピリッシュVは七色の魔弾で撃ち落としながら、右手に構えた魔槍を振りかざす。
 それが届く寸前に永遠178号はドリルでそれに対抗し、再び夜空を染める火花が散った。
 そのぶつかり合った衝撃は、周囲にいた妖精達を彼方まで吹き飛ばし、突風となって人里にも届くほどの勢い。
 そんな衝撃を直に受けつつも両者は退くことをせず、ドリルと魔槍の鍔迫り合いはしばらく続いた。

 しかし次第にドリルによって抉られた魔槍が限界を迎え始めると、ヴァンピリッシュVは一旦下がらざるを得ない。
 タイミングを計り、うまくドリルの攻撃を受け流すと、その巨躯には似合わない瞬発力で再び距離を取るため飛び退くヴァンピリッシュV。
 しかし次の攻撃へと移るまでには若干のタイムラグが生じる。その隙を輝夜達がみすみす逃すわけはない。
 後ろに下がったヴァンピリッシュVに追い打ちをかけんと、猛進してくる永遠178号。
 その左手の蓬莱ドリルが唸りを上げ、風穴を開けようと迫ってくる。
 だがその攻撃が届くよりも早く、永遠178号は背後からの衝撃によって前のめりに倒れてしまった。
 さっき超閃人参を撃ち落とした魔弾の中に、予め背後から相手を狙い撃つように術式を施されたものが混じっていたらしい。
 その上輝夜達は鈴仙というレーダーを失っているため、その攻撃に気付くことができなかったのだ。

 なんとか起き上がり、胸部のミサイル発射口の無事を確認する輝夜。てゐからの報告によると何羽かの兎が気絶しただけで、まだまだ戦えると聞きひとまずは安堵の息を漏らす。
 そして改めてヴァンピリッシュVへと意識を戻し、聊かの余裕を含ませた言葉を向けた。

『やってくれるじゃない』
『人参爆弾とどりるしか攻撃手段のないお前と違って、こっちには多様な装備がある。それを有効活用したまでだ』
『よっぽど私に負けるのが嫌なようね』
『何を勘違いしている。私はお前に負けるのが嫌なんじゃない。負けることそのものが最大の屈辱なのよ!』
『そうね、それは私も同感だわ!』

 合体という手段でカリスマと能力を引き上げた紅魔館。
 そしてドリルという隠された力でその差を埋めた永遠亭。
 互いに互いのカリスマを認めながらも、引き下がる様子を見せない両者の戦いは次なる佳境に入ろうとしていた。

 だがそれを是としない声が、突如として響き渡った。


「まったく、こんな傍迷惑なこと、とっとと止めにしてくれないかしら」


 そのどちらの陣営にも属さない者の言葉に、レミリア達も輝夜達もその声のした方を向く。
 しかしちょうど雲が月を隠し、あれだけ明るかった夜が一転して薄闇に包まれてしまう。
 声を発した者もその暗闇に姿が紛れ、はっきりと確認することが出来ない。
 レミリアも輝夜も、それぞれに強大な力を手にしているにも関わらず、その得体の知れない乱入者の存在に固唾を呑む。
 そして雲が切れ、再び満月が顔を覗かせたと同時に、彼女たちは現れた。


  ☆


 一方その頃、幽々子が妖夢に出動命令を下してから、しばらく時間が経った後の白玉楼。
 顕界では永遠178号とヴァンピリッシュVが謎の乱入者によって決闘を一時中断されていたのと同時刻。

 今回の騒ぎとは全く無縁な程に静かな冥界。
 その中に立つ屋敷の茶の間では、今回の戦いへの参戦を自ら蹴った幽々子が呑気に茶を啜っていた。
 落ち着いた素振りで静かに湯飲みを手にしている姿は、何かを待っている様に見える。
 そう、確かに彼女は待っているのだ。

「妖夢、まだかしら……」

 誰もいない部屋にぽつりと漏れる独り言には、自分が命を下した従者の名前。
 その瞳は憂えているのか、どこか遠くを見ているかのようにはっきりとしていない。
 幽々子がそんな表情を浮かべる理由も分からなくはないだろう。
 妖夢は優秀な従者で、二刀流を使いこなす腕前もそれなりに申し分はない力を備えている。
 だが幽々子からしてみればまだまだ未熟者で、こちらの思惑を読み違え意図していることとは違った道を走ってしまうこともある。

「はぁ……」

 ぐゅぅぅぅぅぅっ――――

 溜息と共に漏れでた音は、溜息よりも大きく室内に響き渡った。
 その音と共に吐かれた二度目の溜息は、如実に今の幽々子の心境を物語っている。
 直後、その音が聞こえたのか勢いよく襖が開かれ、そこから顔を覗かせたのは、出立命令を受けてすでに発っているはずの妖夢であった。
 両手のお盆には幾皿もの料理が乗っており、作りたての美味しそうな湯気を立ち上らせている。
 その美味しそうな香りに顔を綻ばせる幽々子とは全く対照的に、妖夢はどっと疲れた表情を浮かべながら、主人の前に出来たての料理を並べていく。

 どうしてここにいるはずのない彼女がここにいて、しかも料理を運んできたのか。
 その理由は単純にして明朗。
 いざ出陣しようと玄関までやって来たときに、突然幽々子が何か食べたいと言い出したのだ。
 勿論今から出て行かなければ元々の役目を果たせないと弁明もしたのだが、幽々子にとっては明日の食卓事情よりも、今の食欲事情の方が優先されるべきもの。
 主人の押しに負けた妖夢は、しぶしぶ土間に立ち夜食を作る羽目になったのである。
 幽々子が待っていたのは、妖夢の帰りではなく夜食の到着だったというわけだ。

「お待たせ、しました」
「どうしたの? なんだか疲れてるみたいね」
「みたいじゃなくて、実際疲れているんですよ。急いで作ったんですから」

 急がなければ顕界の戦いは、取り返しのつかないことになってしまうかもしれない。
 いくら幽々子がこちらを優先しろと言ったからとしても、元々の命令も幽々子から承ったものに変わりない。
 真面目な妖夢は、一度拝命したことには出来る限りの努力をしなければ自身の気が済まない難儀な性格をしているのだ。

「焦りは思わぬ失敗を生む元よ。少しは余裕を持って行動しなさい」
「あぅ、はい……」

 その余裕を潰した本人にそんなことを言われては元も子もない。
 かといってそれを進言しようとも思わないし、ただでさえ余裕を消費していて、今は一分一秒が惜しい。
 幽々子が食べ始めたのを見届けると、妖夢はすぐに出立するため、予め茶の間に置いてあった楼観剣と白楼剣を腰に携える。

「それでは行って参ります!」

 そしてきりりと表情を引き締め、幸せそうにおかずを頬張る幽々子に深く頭を下げて出立を告げると、早足で部屋を出て行こうとした。
 しかしそんな妖夢を、幽々子は慌てた様子で引き留める。

「妖夢っ、ちょっと待って!」
「なっ、なんですか」
「貴女が出掛ける前に、一つだけ言っておかなければならないことがあるの」

 とても真剣な眼差しを向けてくる主に、妖夢もこの場から離れることは出来ない。
 できるのはこちらも真摯な態度で、その大事な次の言葉を待つだけだ。
 幽々子はゆっくりと口を開き、その言葉を口にした。


「出掛ける前に、デザートもよろしくね☆」


 ☆


 一緒に作っておけば良かったと空の彼方で後悔する、本当ならこっちにいるはずの妖夢はさておき。

 そんなやり取りが繰り広げられていることなど露も知らないレミリアと輝夜を始めとする面々。
 彼女達の意識は、そんな知りもしないどうでもいいことにではなく、次第にその姿がはっきりと見え始めた乱入者に向けられていた。
 眩い光が照らすのは四つの影。
 背丈や衣装は異なっているが、共通してたなびくスカーフを首に巻いているのが影でわかる。
 しかしそれよりも目を惹くのが、彼女たちが着けているもう一つの共通したもの――蝶の形をモチーフにしたサングラスだ。
 どこぞの変人仮面みたいな顔全体を覆うほどの大きさではないにせよ、彼女たちの衣装がいつも通りなだけに浮いて見える。
 レミリア達がまずその奇抜なファッションに呆気にとられている中、突然現れた彼女たちは徐に名乗りを上げた。

「参上っ、ミコレッド!」
「……な、なんで私がこんなことを。み、ミコブルーっ!」
「マジョブラック、見参だぜ!」
「参上、マジョホワイトっ!」



「「「「五人揃って、調伏戦隊ハクレイジンジャーッ!!!!」」」」



 なんかまとめて厄介なのが来た!?
 レミリアも輝夜も、もはや目の前の状況を理解するのに精一杯である。
 どう見てもよく知る者達に間違いないのだが、
 果たして、突如現れた謎の?四人組、ハクレイジンジャーの目的とは一体何なのか。















☆次回予告☆

 カリスマを掛けた決戦に突如現れた闖入者、調伏戦隊ハクレイジンジャー。
 あまりにも突っこみ所の多いその存在に紅魔館、永遠亭問わず飛び交う疑問・ツッコミの嵐。
 いったい彼女達は何なのか。その目的は、正体は、その格好の意味は――。
 さらに、そんな中ついに露わとなる「C計画」の全貌とは。


 次回『Chaotic Charisma Carnival』、第3話『Cの導く先に』


 あくまでも、コメディのCではない。


《つづく》     
そんなこんなの2話目をお届けします。好き放題やり放題にも拍車が掛かってきましたが如何でしょうか。
自重をしてしまうと面白くなくなるので(自分が)、このままラストまで突っ走りたいと思います。
区切りの良いところを考えると、多分後二話くらいで完結の予定。もうしばらくお付き合い下さい。

ここで一話の反応に対する謝辞と簡単なレスポンスを。
好き放題やったにも関わらず好評が頂けて嬉しく思います。
なんだかんだでやっぱり皆さん、こういうノリの作品が好きなんでしょうか。私は大好きです。
色々展開の予想や期待など書き込んでもらってますが、幾つかは当たってますねw
うん、やっぱりドリルはロマンですね。カリスマですね!
あと登場キャラの活躍の度合いですが、人数を多くしてしまうと、やはりどうしても平等に活躍させるのは難しいです。
それでもできるだけ数合わせ的な要素としてではなく、何かしらの役割を与えるつもりではいるので、
今のところ活躍の少ないキャラが好きな皆さんには、もう少しお待ち下さいとしか今は言いようがありません。
もし最後まで読んでも活躍しなかったら……ごめんなさい。

さて、それなのに登場人物を増やしてしまって、どう収拾つける気だとお思いの方が大多数かと存じます。
ですがオチまでのプロットはすでに用意してありますし、投げっぱなしジャーマンにする気は毛頭ありません。
とりあえず年末から年明けに掛けて仕上げていくペースで続けていきますので、続きが気になる方は大掃除とかしながら、ゆっくりとお待ち下さい。

まだ続きますが誤字脱字指摘感想等々ありましたら、よろしくお願いします。
12/12 誤字脱字訂正。ご指摘ありがとうございました。
雨虎
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コメント



0.820簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
お前というヤツはwwwwwwww
2.70幻想入りまで一万歩削除
調伏戦隊ハクレイジンジャーを迎えて三つ巴の戦いが始まるのか。
泣いて走り去ったウドンゲは帰ってくるのか。
妖夢はどのタイミングで来るのか。

続きが気になるので大掃除しながら待ってます。
3.90名前が無い程度の能力削除
ハテ、五人揃って…?

それはさておき、これからの展開に目が離せません。
6.60名前が無い程度の能力削除
2Pカラーが何でwww
8.80名前が無い程度の能力削除
たぶん天元突破したドリルが大結界に穴開ける
間違いない
9.70名前が無い程度の能力削除
>どうなっていことか
 どうなっていたことか
>輝夜のカリスマが全盛期を越え、かつての輝きを取り戻すという願いを込めて。
全盛期を超えちゃったら、『かつて』の輝き、では無いのでは?
>衝撃与えたのだと
衝撃を与えたのだと
10.90名前が無い程度の能力削除
どうでもいいことかもしれませんが,「ドリル」って三角錐じゃなく円錐ではないでしょうか?
11.90名前が無い程度の能力削除
早苗…、かわいそうに…
12.60あらさん。削除
ハクレイジャー・・・
マジョホワイトはアリスなのか?

>早苗…、かわいそうに…
同感。
13.80名前が無い程度の能力削除
まさかの早苗さん登場に歓喜したw
永遠亭側に妹紅、紅魔館組に妹様の参戦期待。
14.100時空や空間を翔る程度の能力削除
紫さ~ん
ほっといて良いんですか~??
幻想卿が大変な事になってますよ~。
出番ですよ~!!
15.80三文字削除
続いちゃったあああ!?
まさか戦隊ものまで出てくるとは・・・・・・
で、ホワイトは誰だ?
19.80名前が無い程度の能力削除
待てそこの戦隊!
司令とか長官とか博士とかは誰だっ!
20.100名前が無い程度の能力削除
ま、まさかの衝撃展開!!
巫女とハクタクあたりが止めに来たか程度にしか思わなかった・・・
これは目が離せない。
21.90名前が無い程度の能力削除
うん、僕も思った。五人って?サングラスが蝶だから実は妖夢?そんなことを考えつつ、次回まてます。
25.80名前が無い程度の能力削除
五人そろって……ねーよw
楽し過ぎますねww