酒
それはあらゆる者を酔わす物
それはあらゆる者を魅了する物
それは幻想郷に於いて人と全てを繋ぐ架け橋なのかも知れない
-博麗神社-
「のまのまいぇいー♪」
とっくに廃れた感のある煽り文句だが、誘われるようにあちこちで大盃が傾く。
酒の音頭をとるのは言わずと知れた霧雨魔理沙
魑魅魍魎相手によくこれだけ先頭を取れるものだと紅白巫女が眺める。
「そろそろ紅葉狩りで宴会だぜ」
そう言っていつもの様に宴会が開かれた
もう日がかげると風が肌を刺すようになって来たので外での宴会は今回が今年最後だろう。
各々服装を厚手にしていたり、火鉢を前にしていたり、ある者は魔法で暖を取っている
しかし宴会の盛り上がりは寒さになど負けはしない
あちこちで笑い声があがり皆それぞれに場を楽しむ
…もはや紅葉など誰も見ていなかったりするのだが
「でも一体誰が片付けるのかしらね…はぁ」
誰にともなくごちた
「酒の席でため息なんてつまみにもなりはしないわね」
隣にいた見た目子供の紅い吸血鬼に突っ込まれた。
「ああそうだ、あんたのとこのメイドに片付けさせりゃいいのか」
横に控える銀の従者に目をやる
「あら、片付けでしたら私なんかよりよっぽど適任が居ますわ」
目線でそちらを示唆する
「わ…私ですか!?」
急に名指しされた半人半霊の剣士及び庭師が霊夢と咲夜に目を向ける
「あらあらダメよ、妖夢を好きにしていいのは私だけなんだから」
にこにこふわふわと蝶のような亡霊の君
「はぁ…まぁどっちでもいいんだけどね…要は」
全員にすっと目を遣り
「片付けろって言ってるのよ?」
とびっきりの笑顔でにっこりと微笑む
その微笑みは…悪魔も亡霊の姫をも飲む微笑み
「さ…咲夜片付け大変でしょうから、て…手伝ってあげなさいな」
「おじょ…お嬢様がおっしゃるのでしたら喜んでおほほ…」
「よ…妖夢も、てて手伝ってあげなさいな。ね?ね?」
「え…ええ、もちろんですよははは」
「そう。それなら私も気負いなく宴会を楽しめるわ」
言うと大盃をぐいっと傾ける。
妖怪にも負けないくらいの呑みっぷりである
まぁそうでもないとこの幻想郷の宴会では生き残れない。
もっとも早々に酔い潰れた方が幸せかも知れないが
あっという間にあちこちで空になった酒瓶や樽が山積みになっていく
妖怪や亡霊、大凡酔うとは思えない種族の天狗や神様までいるので酒の量も人の想像に及ぶ所ではない
しかしその中でも飛びぬけて大酒をカッ食らう種族もいる
「おやぁ?鬼の名を冠する癖に呑みが甘いんじゃないの~?」
レミリアを挑発するように現れたのは東洋の鬼、伊吹萃香だ
「何だお前か」
「そんなにちびちびやってたんじゃ呑んでるのか寝てるのか分からないよ」
「ふん、まだ助走にも入っていないのさ」
「ほんとに?」
「当たり前だ」
「そう、なら丁度よかった私もまだ助走にも入ってないんだよね~」
無限に酒の湧き出る瓢箪をブラブラさせながら寄ってくる
なりだけ見ているとすでに泥酔のようにも見えるふらふらとした足取り
しかし萃香はこれが日常状態なのだ
「ではどうだい?私と呑み比べとしゃれこまないかい?」
大盃と瓢箪を突き出す
「いいだろう。だがお前ごときで相手になるのかしら?」
「お、言ったねぇ」
「お嬢様」
「咲夜は下がってなさい。ほら開始よ!」
あっと言う間に鬼二人は呑み比べを始めていた
/
下がってなさいといわれた以上特にする事もなくなった咲夜が辺りを見渡す
すると少し離れた酒席の輪の中で魔理沙と烏天狗が睨み合っていた。
聞き耳を立てる
「人間としては速い方かと思いますが私には遠く及びません」
「いや!私こそが幻想郷最速だぜ!」
ふむ。暇つぶしには面白そうだ。
周りの者も「いいぞ~!」「やれやれ~!」と煽り立てている
「では実際今決めてみてはいかが?」
仕切りに入ったのは隙間から突然現れた八雲紫
盃片手に楽しそうに提案する。
「んお!いっつもいきなり現れるな…」
「細かい事は気にしないの」
「で、話が逸れたが、決めるってどうやってだ?」
「そうねぇ…では向こうに見える一際高い山」
紫が指し示した方向には霞掛かる程遥かに彼方の山
「あの山の頂に白い大きな岩があるわ。
そこに最初に触れた方が勝ち。どう?シンプルでいいでしょ?」
「おー!いいぜ!」
「かまいません」
「決まりね。じゃスタートの合図は…そこのメイドさんにやってもらおうかしら」
「あら?私?」
「ええ。私はスタートの瞬間から駆け引きを見て楽しみたいのよ~」
走者二人を見ると魔理沙は八卦炉を取り出し、文も扇子を片手に構えていた
この分じゃスペルカードも忍ばせているだろう
にらみ合う二人の間には今にも火花が飛び散りそうだ
「うふふ、妨害が反則なんて一言も言ってないからね~」
見ている者達もヒートアップし、何時の間にかどちらが勝つかで賭けまで始まっている
「それなら私からも一ついいかしら?」
「何だ?」
「何をです?」
「負けたほうに罰ゲームとかあったほうが燃えませんこと?」
「おー!いいぜ!負けないからな」
「私もかまいませんよ」
「では罰ゲームもシンプルに〔敗者は勝者の言う事を一つ聞く〕という事でいいかしら?」
「OKたぜ」
「了解しました」
「では、このナイフが地面に落ちるのが合図ですわ」
懐からすっと銀のナイフ抜き出し高く掲げる
見守る者もぐっと息を呑む
「では、用意」
魔理沙は相棒の箒を強く握り締め
文は腰を落とし地面を踏みしめる
咲夜の手から銀のナイフが空に放たれた
美しい放物線を描きゆっくりと空に上る
やがて重力に抗らう力を失い刃先が向きを変え地面へと迫る
トスッ!
地面とナイフが接した
その瞬間目の前は暴の風と煌く星々が支配する空間へと変わった
魔理沙は星を纏い、文は風を身に纏う。
お互い距離を取りながらゆっくり上昇し弾幕で牽制し合う
そして同時にスペルを切った
「ブレイジングスター!」
「無双風神!」
双方見合わせたかのように上位スペルを発動し、ゴール方向へ一気に加速した
一瞬で目では補足出来ない距離にまで到達し
遅れて
ズドォンッ!!
雷のような轟音が辺りに響いた
「あらぁもう音速突破かしら」
科学などでは到底理解不能な力を行使できる彼女らのスピードは音速すら遅い
魔理沙は星をばら撒き、文は風の弾幕で魔理沙の足止めに掛かる
しかしさすがに双方幻想郷でもトップクラスの実力の持ち主
文は速度を落とすことなくすいすいと星の間を縫い、
魔理沙はパワーで風を切り裂いて行く
遥かに遠くに見えていたゴールの山の頂も一瞬で近づいてくる
彼女らにしたらいかなる距離でも短距離走なのだろう
「「もう少し!」」
二人はラストスパートする
ゴールまで後1km…
500m…
300…
200…
100…
ゴー…
「あら遅かったわね」
ずべしゃー!!
二人揃って空中で器用にずっこけた
「メ…メイドー!!」
「何であなたが先に居るんですか!」
ゴールである白い大岩の上にすでに咲夜が立っていた
「私も飛び入り参加。で、軽く一ッ飛び」
「時間とめてだろ!卑怯だぜ!」
「それに飛び入りなんて聞いてないですよ!」
「飛び入り参加がダメとも能力の行使が反則なんてルールなかった気がするけど?」
二人とも能力フル行使で妨害していたので言い返す言葉を持たない
「そしてその結果、勝者は私なの。
誇り高き天狗や魔法使いが事後の言い訳で勝負事を無碍にしないわよね?」
「うぐ…」
「それは…」
少々府に落ちないと言った表情だが、そう言われるともう何も言い返せない
「ではとりあえず戻りましょ」
「おかえりはこちらよ~」
暢気な声が響いたと同時に瞬間その場に居た全員が何かに呑まれるよな感覚に落ちた
気付けば博麗神社の境内だった
「おかえり~。いいもの見れたから帰り賃はまけとくわ~」
にこやかに紫が手を振る
そういや咲夜並みの反則技持ってるのがもう一人居たなと思い出す
「さて、罰だけど…」
「あー…聞きたくないが…何だ?」
「魔理沙は宴会の後片付けよろしく」
「げ!面倒くさいぜ…」
「そう、じゃあ変わりに丸一日妹様と弾ま「片付けはまかせろ!」
「次は文だけど…」
「…はい、何でしょう?」
「天狗秘蔵の酒があるって聞いたんだけど」
「な!あれはダメですよ!私のとって置きなんですから!」
「そう。ではお嬢様のために血を「はい!近日中に持って伺いますね!…くすん」
「決まりね。二人ともよろしく」
瀟洒な振る舞いで銀の華は綺麗に微笑む
/
「さて、お嬢様は…」
主の方を見やる
まだ呑み比べは続いていた
がばがばと大盃で凄まじいペースで酒を進める
考えたくもない量の酒が鬼二人の中に消えたろう
が萃香の瓢箪がある限り問題はない。
「あ゛~…あ…あんたそろそろ限界じゃないの…?」
「う゛~…うっぷ…おまえこそ…」
「ふ…ふん!まだ強がりだけは言えるようだね…」
「わ、私はまだほ、ほろ酔い程度さ!」
鬼二人の意地の張り合いはまだしばらく続きそうだ
「あっちは相変わらずか…私も少し頂こうかしらね」
酒宴の輪の中、少しだけ空いてた霊夢の隣に腰を下ろす
「あら?咲夜がこっちで呑むなんて珍しいわね?」
「お嬢様があれだからね」
がばがばと大盃を傾ける主を見ながら苦笑する
「あんたも苦労するわね」
「それが生き甲斐だから」
「あいつの為にそこまで言えるあんたが神様に見えるわ」
「悪魔の従者でも?」
くすくすと笑う
「ほら」
霊夢が徳利を向ける
「ありがとう、頂くわ」
咲夜が盃で受ける
ぐいっ!と一気に煽る
口の中がほてり喉が焼けるように熱せられ…
「ぶはっ!…ゴホッ!ゴホッ!…な!何よこれ!」
耐え切れなくなった咲夜が涙目で噎せながら霊夢に問う
「これ?紫が持ってきた向こうのお酒。うおっかすぴりたすとか言ってたかしら」
「お酒というよりほぼアルコールじゃないのよ…」
「ちょっと強いけどお酒だからいいじゃない」
火が点くであろうアルコール度数の烈火の酒を表情一つ変えずぐいぐいと進める霊夢を唖然と見る
ちなみにちょっと強いとか言うレベルではない。
「そうそう、こっちの方が少し呑みやすいからこれ呑む?」
琥珀色の美しい酒を取り上げる
「これは?」
「確かてきぃらとかいったかしら?」
ちびりと唇を浸してみる
「…うわぁ、これも大分強いわね。…でもこれは香りもいいしおいしいわ」
「紫の持ってきたお酒だから好きなだけ呑みなさい。」
「この強さだから余り呑めそうにないわ」
「ちなみに後20本程あるから」
「20…」
「紫曰くシューターが呑むらしわ。」
「シューターが?」
「アレ?違ったかな?シューターで呑む…たったかしら?」
「で、シューターって何?」
「さぁ?ま、何でもいいわ。呑めば同じお酒だし」
少しばかり捻じ曲がって伝わっている酒の薀蓄を聞きながら
ちびりちびりと熱い情火の酒を口に運ぶ
「あらぁ?咲夜も珍しく呑んれるのぉ?」
唐突に背後から声が飛んだ
「お嬢様!これは失礼致しました。」
「気にしなくていいわ」
「呑み比べの方はどうでした?」
「あーひきわきぇでかんべんしてやっらわよ」
呂律がかなり怪しい
向こうに見える萃香も何時もにも増してふらふらしてるように見える
「咲夜は何呑んでりゅの?」
「八雲紫が持ってきたという外のお酒ですわ」
「へぇ、いいもにょ呑んでるじゃない。咲夜、グラスを」
「お嬢様、今宵はもうかなりお酒を召し上がられているようですしこれ以上は」
「…しゃくや」
「はい」
従者は従うしかない
そっとレミリアの手にグラスを差し出し琥珀色の液体をグラスに満たす
「なかなかきりぇいなお酒ね。どれ」
ゴクゴクゴク…
グラスを一気に傾け琥珀の酒を我が物にする
人間ならまずこんな呑み方はしないだろうが彼女らにとってはたいした問題ではない
「これおいひいわね」
「私も気に入りましたわ」
「しゃくやももっと呑みなさい」
「私はそんなに強くないですし、程ほどに頂いてますわ」
「そういあしゃくやが酔った姿みたことないわにぇ」
「主に酔った姿見せるなんて優秀な従者とは言えませんわ」
「じゃあ今日はゆるしゅ。酔いなさい」
「あー、そうね私も咲夜が酔った所なんて見たことないからいい機会かも」
霊夢も身を乗り出す
「…あ、あの自分のペースで」
とくとくとく…
意見も空しくに咲夜の盃に酒が追加される
「ほらほらさくやぁ」
「は…はぁ、ではいただきます」
意を決し大目の一口を呑む
ぐっと熱いものが喉を、体を通る
「む!…ぷはっ!」
普通の人間にはこれでも相当きつい
しかしその程度の呑み方でレミリアも霊夢も納得するわけがない
「あら全然じゃない」
「このきつさですから私にはこの位の呑み方でしか…」
「むぅ…だめね。仕方ない私が直々にのませてあげりゅわ」
レミリアは酒瓶をヒョイと取ると口いっぱいの酒を含んだ
「んふふ~」
楽しそうに咲夜に向く
「お、お嬢様…?もしかして…」
にっこりと笑顔で肯定された
「おおおおおお嬢様!」
がしっと肩を捕まれ
「ああああああの!んっ!」
ちゅ!
口と口が合わせられた
「ん~!」
「んっふっふ~」
強引に唇を吸い上げられ
そして口内に熱い情火の酒を流し込まれた
ゴクリ…
咲夜はその情火の酒を飲み下すしかない
「…ぷは」
レミリアは口を離すと直ぐに新たな酒を口に運ぶ
ぐびり
ちゅ!
ゴクリ…
ぐびり
ちゅ!
ゴクリ…
幾度か繰り返される内に咲夜の表情が変わってきた
目がとろんと落ち、頬が赤く染まり、息も荒く
「ふふふ、大分効いてきたみたいね」
「…ふぁ?お嬢様ぁ」
「美味しかった?」
「…はい、とても、美味しかったです」
いつもは青い瞳がいつの間にか紅色に変わっていた
「あ…あらぁ?咲夜?」
「やはり主に酒を頂きっ放しと言う訳には行きませんから返杯ですわ」
紅い瞳の咲夜がにじりと主に寄り、瓶から口一杯の酒を含む
「あ…あはは、そんな気遣い無用よさくんむっ!」
「あーあ…見てらんないわ…」
酒のせいかそうではないのか頬を赤らめた霊夢が呆れたように目を細める
「んむ!さ、咲夜もういいから、ね?ね?」
「いえいえまだまだこれからですわ。
霊夢の話ですと後20本もあるらしいので遠慮なく頂きましょう」
「い、いやそうじゃなくて、ね?」
「遠慮なんてお嬢様らしく無いですわ。ささ、もっと…あ…あら…?」
くたりと糸の切れた人形のようにレミリアに寄りかかった
「おっと…咲夜?」
「ふふふ…お嬢様…ふにゃ…」
「あーあ、酔い潰れたわね」
「霊夢、どうしよ?」
「もう結構冷えてきたからそこらに寝かしとく訳にもいかないわねぇ…
はぁ、仕方ない。居間使っていいからお布団敷いて寝かせてあげなさい」
「霊夢やってぇ」
ぺたっと霊夢にすがる
「えーい甘えんな!あんたの従者でしょうが」
ぺいっと引き剥がされた
「あんたも結構きてるみたいだから一緒に寝てなさい」
「私のどこが…おっと…」
立ち上がったレミリアの足がもつれた
「そういうこと。おとなしく寝てなさい」
「えー…わたしはまだまだ」
「力づくで寝かしつけてあげましょうか?」
霊夢の袖元からちらりとお札と針が見えた
「あー…いや丁度眠たくなってきた所だったのあはあはは…」
「いいからさっさと寝てらっしゃい」
「ふぁい…」
/
「よいしょっと」
咲夜を抱きかかえ居間に入りそっと畳の上に咲夜を寝かせる
勝手知ったる人の家
押入れを開けると中から来客用の布団を引っ張り出す
「ええと、これが敷布団ね。んでこっちが掛け布団か、枕はこっちだったかな?」
バサバサと少し面倒くさそうに広げ枕をぼすんと放り投げる
そして再び咲夜を抱き上げると心地よさげにすやすやと寝息を立てる咲夜を布団で包んでやる
「…さて次は私の分っと」
押入れを見上げる
「……………面倒くさい」
咲夜が眠る布団を見る
「ココでいいや」
もそもそと咲夜と同じ寝床に潜り込んだ
外からはまだ宴会の喧騒が聞こえていた
/
「ん…あ、痛たた」
喉の渇きと鈍い頭痛に目が覚めた
「アレ?」
いつもと違う目覚めに違和感を覚える
目で左右を追う。見覚えのある天井そして
「すー…すー…」
横から規則正しい寝息が聞こえる
ギョッとしながら顔を向けるとそこにはよく見知った顔が
わが主、レミリア・スカーレット
「…」
「……!!」
「…おおおお嬢様!?」
がばっと起き上がる
「あ…あいたた…!!」
急に動いた事で頭痛が増す
「…むぅ、んもう何よ?寒いわねお布団戻しなさい」
半ば夢の中のレミリアが朝の冷気に当てられ小さく丸まった
「ええええええ!なぜお嬢様が同じふと「寒いってば!」
「え?あ、はい!」
咲夜はさっと布団から出るとレミリアに布団を掛けた
「…んもう咲夜、布団がすっかり冷えちゃったじゃない」
「もも申し訳ありません」
「温もるまで一緒に布団に入ってなさい」
「はい!…え?」
「寝ろって言ってるの」
「は、はい…では失礼します」
おずおずと布団に滑り込む
布団に入るとレミリアがもぞもぞと身をよじり咲夜に身を寄せた
「はー…あったか」
「…お嬢様お伺いしても良ろしいですか?」
「何よ?」
「ココは博麗神社でしょうか?そしてなぜ一緒の布団に…?」
「前半は正解。後半は覚えてない?」
「えーっと…お嬢様と霊夢にお酒勧められてそれから…」
「そう。ま、仕方ないわね」
「知らぬ間に何か粗相でもしてしまいましたか?」
咲夜は気が気ではない様子だ
「ええ、大変だったわ。酔い潰れて寝ちゃうし、強引に私の唇奪ってしまうし」
「そうですか酔い潰れてた上に唇…って!えええええええええええ!!」
またもがばっと飛び起きる
「ちょ!うるさい!それに寒いって!」
「ししし失礼しました!しかし私がお嬢様の唇を…?」
「ホントに強引だったわ。いきなりグッと引き寄せられて…そして熱い物流し込まれて…」
「あのあのっあのっ…」
「適当な事言ってるんじゃないの!」
げし!
「あう!」
背後から足蹴にされた
振り向くと霊夢が仁王立ちしていた
微塵も気配を感じさせずいつの間に後ろに居たのだろうか
「ほら、二人ともさっさと起きる」
ぽいっと手ぬぐいを投げ渡される
「もう直ぐ朝食できるから顔洗って来なさい」
「えー、寒いから「さっさと行く!それとレミリア、押入れ開けたらちゃんと閉めときなさいよ…」
「…はい」
しぶしぶ布団から這い出し水場へと向かった
/
そっと手で水を掬う
「う~…冷たい!」
「はー、もう朝晩の水場は辛い時期になりましたわ」
外を見遣ると桜やもみじが深紅に色付いていた
枯葉を舞い上げる風が吹き抜けると
足元にもすぅー…っと冷たい風が流れていく
「うう…冷えるわね!さっさと済ませて戻るわよ」
早々に洗面を済ませると台所の方から味噌汁のいい香りが漂ってきた
「適当に座って」
二人が食卓に着くと霊夢は手馴れた手つきで味噌汁とご飯ををよそい二人に差し出した
「じゃ、食べましょ」
「「「いただきます」」」
ズズズ…
勢い良く湯気の上がる味噌汁を一口
出汁がよく効いた大根の味噌汁だ
「…はぁ、美味しい」
「咲夜に言われると自信が持てるわ」
咲夜は紅魔館の台所も仕切っているので料理に関してはプロ級である
「和食なら霊夢には敵わないわよ」
「私は和食しか作れないもの」
ズズズ…
もう一度味噌汁に口を付ける
「咲夜はよく水分取っておきなさい、その分じゃ二日酔いでしょ?」
「ええ…不覚にもその通りですわ…」
「それに大根は二日酔いに良いらしいからしっかり食べておきなさい」
「そうなの?」
「里に伝わる話だけどね」
食卓を見ると味噌汁に大根、焼き魚に大根おろし、煮物も大根だ
「…ねぇ霊夢、もしかしてこの朝食のメニュー私の為?」
「まぁね、あんたとレミリアのためかな。吸血鬼の二日酔いに大根が効くかは知らないけど」
「え?お嬢様…?」
「…ばれてた?」
「なんとなくね」
「あいつの瓢箪から出る酒、あれ強いなんてもんじゃ無かったわ…」
鬼が二日酔い起こすとは一体どれほどの強さの酒なのか…むしろそれは酒と呼んで良いのか?
「そうでしたか」
咲夜は主の体調の変化に気付けなかった事に少し気を落とした
しかし記憶がなくなる前に見た霊夢もとんでもない強さの酒をぐいぐい進めていたような…
それでも翌日にはけろりとしている辺り妖怪より妖怪っぽいんじゃなどと思う
そしてふとある約束を思い出す
「そうそう霊夢」
「ん?」
「魔理沙に片付け代行させる事になってたんだけど、ちゃんとやっていった?」
「あー、あの馬鹿『ゴミなんか消し飛ばしてやるぜ!』って
境内でマスタースパークぶっ放そうとしたから
零距離でパスウェイジョンニードル打ち込んでやったわ」
「…ご愁傷様」
「でもちゃんと約束だからってやって行ったわよ。妖夢と一緒にね」
「へぇ」
妖夢はともかく、普段天真爛漫な魔理沙だが交わした約束事などはしっかり守る
だからこそ人と妖のはざかいでも強く生きて行けるのだろう
「あの…それと霊夢とお嬢様にお酒薦められてからの事が記憶に無いんだけれど…」
「あー、あの様子じゃ仕方ないかもね」
「その…私…」
少し聞きにくそうに質問する
「まさかお嬢様の唇奪ったりとか…してないわよね…?」
「あら私が言ったことじゃ信用できないのかしら?」
「あ、いえそういうわけでは決して!」
「結論から言うとね咲夜」
「…」
「殆どさっきレミリアが言った通りの事してたわ」
「あああああ!!そんなおいしい状況が記憶に無いなんて!
…じゃなくて!なんという事を…」
「気にする事は無いんじゃない?アレはレミリアの悪乗りが原因なんだし」
「何よお、霊夢も乗ってきたじゃない」
「…何の事だか?」
バレバレのしらを切る
「ああ…私とした事が…」
「咲夜、気にしなくていいわよ。
レミリアが〔今日は許す酔いなさい〕って言って呑ませたんだから責任はレミリアにあるしね」
「まぁ確かにそう言って呑ませたのは私だしね。気にしなくていいわ咲夜」
「…はい」
「ふふふ」
霊夢はいつもより縮こまりながら箸を進める咲夜が妙に可笑しかった
メイド服のまま寝たせいで所々服にしわがよってしまっているし
二日酔いのせいかどこか弱々しい。
今の咲夜は完全で瀟洒な従者ではなく一人のか弱い少女のようだった。
「ふぅ」
朝餉も終わり熱いお茶を前に一息つく
「さて、私は今から里に買い物に行くんだけど、あんたらこれからどうするの?」
「この様だし…帰って本格的に寝るわ…」
「そう。じゃお開きね」
霊夢は戸締りを済ませると二人に軽く手を上げ里の方へふわりと舞い上がった
レミリアも軽く手を振ると翼を一振りしわが根城へと向かう
/
「ふぁ…今日も秋晴れのいい天気ですねぇ」
紅魔館の門番、紅美鈴が門前で空を見上げ大きく体を伸ばす
眼前の湖を見渡すと穏やかな秋風が湖面に小さく漣を作る
そろそろ氷の妖精も活発になる頃だろうなと再び高い空を見上げる
「ん?」
遠くの空に小さい影が二つ
それはゆっくりと近づいてくる
美鈴はそそくさと門前に戻ると身なりを整える。
わが主人とその従者を迎える為に
咲夜の構える日傘に守られたレミリアが門前に降り立つ
「おかえりなさいませ」
「ん、ただいま」
「お疲れ様、美鈴。何か変わった事は?」
「暖房用の燃料が届いたのと、図書館に魔理沙が来てます」
「もう魔理沙が来てるの?」
昨夜の宴会で最後の片付けまでしてたのにすでに活動してるのか…
事自分の好きな事には疲れや辛さはないらしい。
そして今日も気に入った本をこっそり懐に忍ばせていくのだろう
「わかったわありがとう」
館に入り直ぐに時を止めた。
今の自分のなりはとてもじゃないが部下のメイドや主の前に出ていい姿ではない。
自室に戻るとしわのよった服を着替え、髪を整え、冷たい水で顔を洗い直す。
姿見で見直し、気持ちを入れなおす。
そして何事も無かったかのように主の傍らへと戻る
「お嬢様まずはお召し物を」
「そうね、あら?咲夜はもう着替えたのね?」
「ええ、お嬢様の傍でいつまでもみっともない姿をしているわけにはいきませんので」
「相変わらず固いわねぇ」
「お嬢様のためですから」
「では私の為に着替えとおいしい紅茶を用意してちょうだいな」
「かしこまりました」
早々にレミリアの着替えを用意し身なりを整えると紅茶を用意しにキッチンへと向かった。
ポットを火にかけ、すっかり冷えていた朝食の残りであろうトマトのスープをすする
まだ二日酔いの体が水分を欲しがる
約二人前あったスープを飲み干すとちょうどポットから激しい湯気が立ち上り始めた
茶器に茶葉、寝かせてあったパウンドケーキを取り出し象嵌細工の美しいティーカートに置いていく
ポットがさめないようにカバーを被せさらに時間の流れを遅くする
コンコン
「失礼します。お茶の用意が出来ました」
「ん」
横目でちらりと見るとテーブルへとやってきた
慣れた手つきでてきぱきとテーブルセッティングする
程なくして湯気と共に紅茶の甘く清々しい香りが漂いだす
「どうぞ」
レミリアの前にそっと至玉の紅茶を供する
「うむ」
静かにカップを取り宝石のように美しい紅色の紅茶を啜る
「ふぅ、今日は軽めの茶葉ね」
「流石で御座いますお嬢様。体調を考えるとこの程度が丁度良いかと思いまして」
「悪くないわ」
「恐れ入ります」
紅茶と共にテーブルに供されたパウンドケーキに手を伸ばす
均等に気泡が入り、さらさらと溶けていくような口当たりの極上のパウンドケーキ
紅茶もパウンドケーキも極上なので共に添えるものは一切必要ない。
紅茶はストレートで、パウンドケーキはプレーンで
至極単純だが手抜きや誤魔化しの一切利かない真剣勝負
それに答えるようにレミリアは満足気に微笑む
それだけで咲夜は全ての苦労を忘れ満足する
「…咲夜、お茶が終わったら寝るわ」
「はい」
「あなたも少し休みなさい」
「私は平気で「休みなさい」
「畏まりました」
カチャ…
カップをソーサーに置くとすっと立ち上がる
同時に目の前にあった茶器が一瞬で片付けられる
「そうそう咲夜、休む前にワインを一本出しておいて。
とびっきり極上のヤツね。今夜開けるわ」
「用意しておきますわ」
「ふぁ…そろそろ寝るわ…咲夜もゆっくり寝なさい」
「はい。それでは失礼します」
一礼し静かにレミリアの部屋を出る
ティーカートをキッチンに押し込むと地下にあるワインセラーに足を向けた
古びて赤茶けた木目の扉を押し開く
「どれが良いかしらねぇ…」
かび臭い地下室でランプの明かりを頼りにラベルを見る
レミリアが所望したのは極上のもの。
それは「価値有る時間を呑んだ」ワイン
煤けたラベルを見ながら一本を揺らさぬようそっと手に取った
「これが良いかしらね」
保存状態、寝かされた年代共に申し分なさそうだ
後は飲む前にデキャンタージュしておけばいいだろう
ワインを刺激しないよう優しく抱きかかえ地下から出る
キッチンの簡易ワインセラーにワインを置くと扉の空間を固定した
ワインの扱いを知らないメイドにでも触られると一大事だ
キッチンを出るとメイド達を集め仕事の指示を出す。
「今日の作業は分担は以上です。では後は任せたわよ」
「はい!メイド長!」
返事はいい。が、大体真面目にはやってくれないのだが…
自室に戻ってきた咲夜はヘッドドレスを外し首元を緩める
かなりましになって来たとは言え依然二日酔いのだるさと頭痛が残る体をベッドに投げ出す
気を抜いた途端からだが鉛のように感じる
「いくらお嬢様のお誘いといえ次からは控えないと…」
そんな事を思いながら目を閉じた
/
目覚めると窓は夕暮れのオレンジに輝いていた
「少し寝すぎたわね…」
思った以上にぐっすり寝てしまってたらしい。
しかしゆっくり寝れたせいかすっかり酒気は抜けていた
「体調は問題無いわね。さて…お嬢様はワインを所望されていたから今日のメニューは…」
目覚めると同時にメイドとしての仕事は始まっている
まずは食事の時間を考慮し、ワインをデキャンタージュしておく。
調理担当の者に今夜のメニューの指示を出しダイニングをチェックする
「あーあ、やっぱりか…」
掃除の行き届いていない部分を見つけると自ら掃除し
調理の進行や味付けにも目を光らせる
「そろそろお嬢様がお目覚めになられるわね」
懐中時計を見る
「では後は任せるわよ」
メイド達に任せるのは少々心許ないのだが仕事はこれだけではない
コンコン!
「失礼します」
レミリアはまだ体に似合わぬ大きさのベッドで眠っていた
心の中で思わずにやける咲夜だが表情には出さない
「お嬢様、いい夜でございます」
「…ん…んんん…」
「お嬢様」
「…んぁ?…はいはい…起きてるわ…よ………すー…」
「お嬢様」
「…んもう、煩いわねぇ…」
「しかしそろそろ起きていただかないと」
「…ぅん~~~~~~~~~!」
ベッドの上で精一杯大きな伸びをする
「はぁ、おはよう咲夜。いい夜ね」
「おはようございます。とてもいい夜ですわ」
「何時も通り退屈な一日の始まりね」
ベッドから降りると
「失礼します」
咲夜が後ろからそっと近づき慣れた手つきで服を着付ける
「お嬢様、食事と所望されたワインの用意も出来ています」
「そう、楽しみね。では行こうかしら」
「はい」
咲夜を連れ立って部屋を後にする
/
広いダイニングの大きなテーブルの上座にぽすっと座る
咲夜が目で合図を送るとメイド達の動きが忙しくなる。
キッチンから様々な料理が運ばれてくる
「お嬢様、こちらが今日の為に選んだワインですわ」
「ふむ。咲夜、それはもう少し後でも大丈夫かしら?」
「は?はぁ、ちょうど飲み頃ですが時間を止めておけば大丈夫です」
「ならそれは後でゆっくり飲むとしよう。代わりにいつものワインを」
「畏まりました。」
直ぐにターフェルワインを用立てる
レミリアの食事中もずっと気を抜く事はない
食事スピードに、グラスの残りに、メイドの動きに…全てに神経を尖らせる
程なくして食事を終え
「ふう、ごちそうさま。さて、部屋でさっきのワインを頂くわ」
「はい」
咲夜は素早く用意に掛かる
レミリアは自室に戻りるとそのままテラスに出た
開け放たれたガラス戸からひやりとした風が室内にも舞い込む
「もうテラスで呑むのも季節が悪くなってきたわね…」
室内に戻り冷気の吹き込むガラス戸をしっかり閉めた。
しかし締め切った室内は何とも味気ない。
せめて星と欠けた月でも眺めるかと窓に掛かる日除けの分厚いカーテンを全て開け放つ
窓から欠けた月からの淡い光が差し込む
「そちらでお召し上がりになりますか?」
「そうね、月を見ながら頂くとするわ」
「では」
レミリアの目の前に一瞬でテーブルと椅子が用意された。
咲夜にしか出来ない種も仕掛けも無い手品
止めてあったワインの時間を解除しデキャンタからグラスへと注ぐ
「へぇ」
「年代、保存状態ともに申し分ないかと思いますが」
「どれどれ」
グラスを近づけ香りを堪能する
「ふむ…」
軽く口に含む
「…さすが咲夜の目にかなった物だわ。いい味ね」
「恐れ入ります」
「私だけじゃ勿体無いわ。咲夜席に着きなさい」
「え?」
「一人酒はつまらないわ」
「よろしいのですか?」
「良いって言ってるじゃない」
咲夜はもう一つ椅子を用意するとレミリアとテーブルを共にした
レミリアがすっと席を立ちデキャンタを取った
そして咲夜のグラスにそっと注ぎ始めた
「そんな!お嬢様自ら…」
「気にするなただの気まぐれだと思っていれば良い」
「そうですか…」
「では、乾杯」
「乾杯」
二人はグラスを掲げワインを口に含む
フルボディの深い渋みとコクが一気に広がる
これ程のワインはレミリアや咲夜とて中々お目にかかれるものではない
「やはりいいものですわ」
「咲夜、今日も酔い潰れていいからね」
「さすがにあんな失態は二度と晒したくないですわ」
「いやむしろまた酔わした方が面白そうなんだけど」
悪戯っぽく笑う
「あまり苛めないでくださいな」
苦笑で返す
「…でも昨日は少し嬉しかったのよ?」
「え?」
「宴会で咲夜が楽しそうにしてるのは珍しいじゃない?
横目で見てたけど、白黒と烏からかって見たり、霊夢と楽しそうに話してたり」
「ええ、まぁ…」
「私の前では咲夜はいつも完全で瀟洒な従者。
でも咲夜は従者である前に人間なんだから、霊夢や魔理沙のように楽しむのが本来の姿じゃなくて?」
「私はお嬢様にお仕えする事が喜びであり楽しみであり全てですわ」
「そう言うと思ったわ。従者としては100点満点の回答ね」
ちびりとグラスを傾ける
「咲夜はのこの幻想郷に、この時間に生きれて幸せ?」
「もちろん幸せですわ」
「でも私と永遠を歩んではくれないのよね?」
「お嬢様それは」
「冗談よ」
くすっと笑う
「でも…少しは本気かな」
欠けた月を見上げる
「え?」
「願わくば…私と同じ運命に来て欲しいわ」
レミリアの燃える様に紅い目が自分を見据た
ガタン!
椅子を押し倒し本能的に距離を取る
「はぁ…っ!はぁ…っ!」
何もしていないのに息が上がる。
何もしていないのに体中から汗が吹き出る。
目の前にいる圧倒的な存在に押しつぶされそうになる
「咲夜、今夜は本気で来なさい。でないと…ふふふ」
「…!」
レミリアが結界で仕切られた空間を作り出す
「ほら行くわよ。神罰『幼きデーモンロード』」
「くっ!時符『パーフェクトスクウェア』」
咲夜の目もいつの間にか深紅に燃え上がっていた
轟音と眩い閃光と共にスペル同士がぶつかり合う
/
どさっ…
冷たい床に四肢を投げ出す
どれ程時間が過ぎただろう
どれ程の魔力を解き放っただろう
幾つのスペルカードを切っただろう
体は限界を超え指一つ動かすのも無理そうだ
「なかなか頑張ったわね、敢闘賞ってところかしら?」
「…」
霞がかった視界に掠り傷一つない主が浮かぶ
満月ではない夜。完全には力を出し切れないレミリアだが
それでもなお圧倒的過ぎる…
何度かはレミリアに攻撃が届いた。が、ダメージを与えるまでには至らなかった。
清々しいまでの実力差
「もう良いの?」
目を細めて咲夜を見る
「…もう…無理ですわ…」
「そう」
結界を解き、ゆっくりレミリアが近づいてきた
「ねぇあの月、咲夜にはどんな色でどんな形に見えてる?」
「…月…ですか?」
視界にぼんやり浮かぶ月を見る
「…紅い下弦の…月…ですわ」
「ふふっ、私と咲夜の運命はまるで違うのに見えてるものは同じなのよね」
咲夜の直ぐ傍にふわりと降り立ち
そして優しく咲夜の手を取った
「お…嬢様?」
幼い顔立ち
炎より紅き瞳
圧倒的な力
その全てに魅了されそうになる
「ふふふ、覚悟は出来たかしら?」
指先でさらりと咲夜の髪を掬う
咲夜はゆっくり目を閉じた
このままレミリアに永遠に付き添えるならそれもいいかもしれない
寧ろここまで自分に執心してくれた事に少し嬉しさも感じる
人間でいる方が幸せだったのかな?
このままレミリアと永遠を共にするのが幸せになれるのかな?
様々な想いが交錯し
咲夜の目から一筋の涙が零れ落ちた
ゆっくりレミリアの気配が迫る
「ちゅ!」
唇にやわらかく暖かいものが触れた
「…え!?」
「ふふふふ、ご馳走様。また咲夜の唇頂いちゃった」
咲夜は目を丸くする
「…何よ?何か不満?」
「あ、いえ…その」
「血を吸われるとでも思った?」
「はい…てっきりそうだと」
「言ったでしょ、冗談だって」
「どこまでが冗談か分かりかねますわ…」
「昨日は咲夜にやられっぱなしで終わったからね。少しばかり仕返し」
「私は記憶に無いのですが」
「咲夜は覚えて無くても私はしっかり覚えているから」
「………はぁ、なんだか一気に疲れましたわ」
「そろそろ起きれる?」
「そうですわね…、ん!とっ…」
体の半分が床に引っ付いてしまったのではと思える程体を起こすのが辛い
体中あちこちがぎしぎしと軋みをあげる
すっとレミリアの小さい手が差し出された
「あ、ありがとうございます…」
レミリアの手を取ると
ぐいっ!っと引っ張りあげられた
「きゃ!」
「あら可愛い声だこと」
そのまま背中と足に腕を回し抱き上げる
「立つのはまだ無理そうね、座れる?」
「座る程度なら何とか…」
幻想郷でもかなりの実力者同士が本気で戦ったが
結界で遮断した空間で戦っていたので元の部屋はさっきと変わらぬままだ
「よっ!と」
倒れていた椅子をレミリアが足で器用に起こす
「…お嬢様。はしたないですわ」
「さっき椅子を倒したままにしたのは咲夜でしょう。
それに両手が塞がってるのにどうしろっていうのよ」
起こした椅子の向きを変え咲夜をそっと座らせた
レミリアも席に着くと先刻のままテーブルに置かれているワイングラスを取った
「咲夜は死ぬまで傍に居てくれるのよね?」
「ええ、何時までかは分かりませんが最後までお傍に」
「私たちの限られた時間はこのワインのように良い時を過ごして行けるのかしら」
「もちろんですわ」
力強く答える
「自信満々ね」
すっと咲夜もグラスを取る
まだ緩慢だが優雅な動きでそっと口に運びワインを転がす
「お嬢様は自信が無いのですか?」
「咲夜以上に自信あるわ」
レミリアはグラスを置き翼を軽く羽ばたかせ静かに宙を舞った
「でも私は我侭だから何時か本当に咲夜の時間を欲しがるかもね」
「それだけは全力で阻止いたしますわ」
「我侭ね」
「お嬢様程では」
咲夜の肩にレミリアの重さが掛かった
「私の我侭はこの程度じゃないかも知れないわよ?」
「重々承知しております」
「あら、何気に失礼ね?」
咲夜の肩を抱いて宙へと誘う
「私の永遠の中の限られた時間、楽ませてもらうわよ」
銀の従者は踊る。紅い悪魔と共に。
「お嬢様の永遠の中の僅かな時間、私が貰い受けますわ」
紅い悪魔は祈る。銀の従者と共に。
今この時が一秒でも長く続きますようにと
テーブルに置き去りにされたワインに小さく波が立った
二人だけの小さな舞踏会は年老いたワインからの小粋な贈り物だったのかもしれない
それでは、次回作を心待ちにしています。
霊夢の番長スタイルは久しぶりに見た気がするなぁ。
二人の競い合いに少々ぐぐっときただけに余計に残念。
二人して岩に突っ込んだ方がまし
競争もので、紫や咲夜が一瞬移動すると詰まらん詰まらん
まぁ、咲夜とレミリアがメインなんだからわからないでも無いですが、それならばそもそもレースをする意味すらないわけで。
小説の出来自体にはまったく問題なかっただけに残念でした。
そういえば咲夜さんの能力さえ有れば年代物のワインの取り扱いもとても容易になりますね。考えて見れば。
REX版儚月抄でやっていたように咲夜さんは能力で年代物ワインを作り出せるので、どうせなら作ってほしかった。
誤字報告。
>息吹萃香 伊吹 萃香 >ギョッとながら ギョッとしながら
ピチューン!
個人的に台詞回しというか、間の取り方がすごく好みです。
これからも頑張ってください。