八百屋。
「白菜と春菊と……あともやしに椎茸をください」
「あいよー。いつもうちを利用してくれているからね、今日はサービスで半額!」
「おじさんありがとう」
肉屋。
「すいません、鶏肉を100gください」
「はい、はい。うん、可愛いからサービスで50g追加しとくよ!」
「あ、嬉しいっ」
う~ん、ここの人里にいる人達はみんな親切だ。
私が妖怪って分かっていないのかな? まあお金のやり取りをするなら、相手の種族なんて何でも良いのかも。
買物は終わった。家に帰ろう。
「ルーミアちゃん! また宜しくね~」
「はーい」
今日は特に冷えるわ。早く帰って体の芯まで暖まるお鍋を食べよう。
人里から多少離れた場所で、周りに人がいないのを確認してから飛び立った。
――――――――――――――――――――
さっきまでの夕暮れが、今ではすっかり闇夜に移り変わっていた。暮れるのが早い。
冬の季節が実感できる現象よね。
いや、それ以上に
「うう、寒い、寒い、寒い……この寒さは反則よ」
手は赤くかじかんでいる。ぴゅうぴゅうと吹く風を真っ向に受けている頬は、赤くなっているだろう。
冬ってなんでこんなにも寒いの? こんなんだったら夏のほうがマシね。
なーんて、夏にも同じようなことを言ってただろうけれど、気にしない。
さっさと帰って温かい鍋を堪能しよう……うん?
ふと下のほうに気配を感じたので見下ろしてみる。
そこにはちっぽけな神社あって、以前出会った巫女らしき人が賽銭箱の上に座っていた。
うわ寒そう! あんな薄着でよく耐えられるわね……。人ってそんなに温かいものなの?
あ、私に気付いたみたい。なんか立ち上がった。なんか投げてきた。御札っぽいわ。お、お
「あうっ」
巫女が投げてきた御札が額に直撃し、その衝撃で私はたまらず仰向けに落下する。
私は抱えていた食材を落とさないように、とっさに両腕でしっかりと守る。
……ってあれえ? これじゃあ私が受身とれないじゃない!
どうしよう、受身の体勢に移ったら食材が駄目になるし、かといってこのまま落下したら腰が大変なことに……。
あれこれと逡巡している間に、地面はもうすぐそこまで迫っているようだ。続く恐怖におもわず目をつぶる。
ごめん私の身体、やっぱり鍋の食材は手放せな……
ポスッ
あ、あれ……よく分からないけど、助かった?
というか足や背中に感じるこの暖かくて柔らかい感触は何よ?
とりあえず現状を把握するために閉じていた目を開く。
巫女が私を抱えていた。
「な、ナイスキャッチね」
「あんた……いつぞやの妖怪よね。神社の上で何をする気だったの?」
「いや、ただ私は晩御飯の買い物帰りにここを通っただけよ?」
「あらそうだったの。てっきり神社を破壊しに来たと思ったわ」
「そんな罰当たりなことしないってば」
なんだ、勘違いで撃墜したってわけね。突然びっくりしたわ。
それは置いといて、お姫様抱っこは恥ずかしい……。
「ふ~ん、それで晩御飯はなににする予定だったの?」
「晩御飯? ああ鍋よ鍋。今日は特に寒いから」
「奇遇じゃない、私も今日は鍋物なの。どうせだから一緒に食べましょうよ、ねっ」
「一緒に? 別にいいけど」
それじゃあ早速、と巫女が神社内へと足を進める。
私を抱っこしたまんま。
――――――――――――――――――――
「煮立ってきたわ」
「うん。そろそろ鶏肉にも火が通ったかな」
「もういいわよね。それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
しばらく煮込んでいた鍋の中身は、もう十分に火が通っていた。
鶏肉と白菜などの野菜の味噌仕立ての鍋だ。おおう、いい匂い!
どれどれ、まずは一口……おいしい、おいしい。うん、おいしいっ。
それにしても、まさか人間である巫女と食事することになるとは思わなかったわ。
そういえば私、巫女の名前を知らない。ちょっと聞いてみよ。
「ねえ、巫女の名前ってなに? いつまでも巫女・妖怪って呼び合うのも変でしょ」
「それもそうよねえ。私は博麗霊夢、霊夢って呼んでね。あんたは?」
「ルーミアって言うの。改めて宜しくねー、霊夢」
「ルーミアかあ、こちらこそ宜しくね」
巫女が私へにっこりと笑顔を見せた。正直可愛い。
それになんだか仲の良い友達ができたようで嬉しい。
巫女、いや霊夢はどことなく魅力的に見えて、なんだか惹かれてしまう。
外見もとても可愛いのだけれど、それ以上に中身がそれなんだろうな。
「ところでさ、さっきはごめんね。いきなり御札なんて投げつけちゃって……」
「へっ? ああ、そんなこと気にしないでよ。まあ少しびっくりしたけどね」
「本当はね、ちょっと嫌な事があってイライラしていたから、つい投げつけちゃったの」
霊夢が少し沈んだ声色で話す。
嫌なこと、ねえ。最初は不審がられて撃墜されたと思っていたけど、違ったのね。
お節介になるかもしれないけど、話を聞いてあげよう。
胸の内にある不満は誰かに吐き出した方が、霊夢も少しは、少しは楽になるはずだ。
「ねえ。こんな私でよかったら、話し相手になるわ」
「ふふふ、多分、愚痴にしかならないわよ」
「私ねえ……失恋したの」
失恋か……年頃の女の子ほど、このような事は辛いだろう。
まあ私と話すことで、少しでも気晴らしになればいい。
「うん、どうしたの?」
「えっと、魔理沙っていう白と黒の魔法使いのこと知っている?」
「白黒の魔法使い……ああ、霊夢と初めて会った時と、同じ時期くらいに見たわ」
「私ー、その魔理沙が好きだったんだけれどね、アリスって子に取られちゃったの」
「そっか……。どうして、分かったの?」
う~ん、と霊夢は腕を組んで、なにやら考えを巡らしている。
ほんの二、三秒で、また話しを続ける。
「うん、確か五日前くらい。魔理沙とアリスが神社に遊びにきてね、三人で雑談をしていたらいきなり『おおそうだ霊夢。私達付き合っているんだぜ』なーんて言われたの」
「いきなりねー、その時は平静に装っていたけれど、心の中じゃ訳が分からなくなっていたわ」
「二人が帰った後、後悔しまくったわ。『なんで自分から行動しなかったんだろう』って」
「私ね、自分から魔理沙にアプローチとかしてなかったの。臆病だったからかもしれないけど、今では分からないわ」
「魔理沙とアリス、お似合いだとは認めたくなかったけど、もう認めざる負えないのよね」
「で、そんな感じなんだけどね。何日もたった今では、もう大体は区切りがついているの」
「そう、自分の中では区切りがついているはずなのにねー……」
霊夢が言葉を出すたびに、私は、うん、と返事を打つ。
何もしないままに、いつの間にか好きな人が取られていたら、そりゃ誰だって落ち込むわよね。
一応区切りはつけられたらしいけど、今の霊夢を見るとまだほんの少し未練が残っているような気がする。
それを拭い去ってあげるのが、友達ってもんだよね。
「霊夢。やっぱりさ、悲しみって人それぞれ違っていると思うから、多分私はあんたの心は理解できていない」
「うん……」
「だからただ単に励ますことしかできないわ」
だから私は明るく言う。
「なーにどーしたっ。霊夢は沈んじゃ駄目。笑っていなくちゃ、可愛いんだから」
「あ……」
「そのうちにね、パッと気分が明るくなるわ。紅葉の明るさに感動するように、なにかが吹っ切れる時がくるの」
「一番重要なことは、辛かった恋を忘れる方法はひとつだけで、それは新しい恋を始めることなのよ。元気出して」
とは言ってみたものの、霊夢はぽかーんってしていた。
やっぱり余計なお世話だったかな……。
「ルーミア……ありがとう。私ね、新しい恋に生きてみるわ」
あ、にこーって霊夢が笑ってくれた。
嬉しくてつい私も笑みがこぼれてしまう。
それにしても、元気になってくれたようで良かったわ。
さて一件落着となったし、晩御飯の続きといこう。
――――――――――――――――――――
「うーん……ま・ん・ぞ・く、だあっ。ちょっと食べ過ぎたわ」
「ルーミア、腹八分目がちょうどいいのよ。食べ過ぎは駄目なのよ……うっぷ」
「だめじゃん、人のこと言えないじゃん」
野菜と鶏肉から始まってシメは卵入りの雑炊。食べて満足、一緒に満足。
体もよく温まったし、冬の寒さなんぞ軽ーく撃退よ。
私は良い香りのする畳に寝転び、お腹をさする。
ゆるゆると食後の余韻に浸っていると、突然霊夢が立ち上がった。
「じゃ、風呂に入るわよ」
「へ? お風呂って?」
「実は食事前に沸かしていたの。一緒に入りましょ」
「う、うん。あれ、ちょっと待って。それじゃお泊りになるってこと?」
「……嫌?」
「そんなことないって。むしろ嬉しいわ」
「良かったあ」
いや?と尋ねた時の戸惑いの表情から、超弩級な満面の笑顔に移り変わった霊夢。
そんな霊夢に、思わず胸の鼓動が速くなる。
なんかドキドキするなあ。
それじゃ風呂場へ案内するからね、と霊夢は歩きだしたので後をついていく。
廊下に出て少しの時間歩くと、脱衣所らしき部屋の前に着いた。
中に入ると、そこは畳四畳ほどの広さで、お風呂場は奥にある扉の先につながっているようだった。
「じゃあ入りましょ」
霊夢はリボンからスカートの袴まで身に纏っていた衣類を、ぽいぽいっと手早く脱ぎ捨てる。
残るはパンツのみで、上半身には少しだけ膨らんだ胸が豊かに浮いていた。
ひゃー、裸のお付き合いって恥ずかしい。
「なにジロジロと見てんのよ。えっちぃわねえ」
「そ、そんなことないって! 断じてそんなことはっ」
「どーだか。私先に入っているわよ。タオルはそこに置いてあるからね」
そう言うと霊夢はパンツを脱ぎ捨て、お風呂場に入って行った。お尻見えた。
一人になった開放感からか、ぱぱっと洋服を脱ぐことができた。
さて、タオルタオル……っと。
手にとって広げてみたタオルは、ちょうど腕をいっぱいに伸ばした位の長さで、幅は手の平ほどのサイズだった。
……あ、あれー? 小さくないかこれ。
てっきり体に巻くタオルだと思っていたけど、体を洗う用のタオルだったか。
「でもこれじゃ、これじゃあ体が全部隠せないっ」
とりあえず優先的に下は隠すけど、上半身はどうしても
「ルーミアまだー?」
「あ、今、今行くからぁ」
霊夢に急かされてしまったので、仕方なく下だけ隠してお風呂場へ行く。
扉を開けて中に入ると、けっこう大きめの湯船の中に霊夢が浴していた。
「こ、こんばんは~」
「ん? あんた風呂入る前から顔赤くなってるじゃない。大丈夫?」
「ああいや全然平気よ、うん。それにしても大きなお風呂ね。お隣失礼」
「どーぞ」
ちゃぽん……
やー、良い湯加減……。なんだか気持ち良くて、恥ずかしさなんて吹っ飛んじゃったわ。
適度に温まっている湯が、私の肌にまんべんなく沁みわたる。
コタツも、幾重に着重ねた服も、どう足掻こうがお風呂には勝てないわね。
それに肩と肩が触れ合うこの入浴は、いつも以上に気持ち良く感じさせてくれた。
――――――――――――――――――――
ふいー、気持ち良かったあ。
私達はたっぷりとお風呂を堪能し終えたので、脱衣所へ戻って着替え始める。
さて私も着替えよう、と思ったら寝巻きないじゃーん。着替えないじゃーん。
「れ、霊夢。私着替えがないんだけれど、どうしよう」
「着替え無いの? だったら良いものがあるから貸してあげる」
そう言うと霊夢はパタパタと小走りに出て行った。優しい。
ちょうど体から上る湯気が収まってきた時、やけにニヤニヤしながら霊夢が戻ってきた。
両手に巫女服を持って。
「ちょっ、まって。これ巫女服……」
「いいから着て着て。絶対に似合うから」
「いやでも、似合わないかもしれないし……」
「あんね、可愛い子はなに着たって似合うのよ? ほらほら、だったら私が着せてあげる」
「じ、自分で着替えるからいいわっ」
可愛いだなんて、照れてしまうな。
……で、いざ巫女服に着替えてみると、おお意外と着心地がいいわっ。
ていうか良い匂いがする~。これ霊夢の香りかしら?
なんというか、花の蜜のような甘い香り。
「あら、やっぱり似合うじゃないの」
「そお? えへへー。着心地も良いし、けっこう気に入ったわ」
着替えが終わったので脱衣所を出る。
さきほど食事をしていた部屋は通り過ぎ、別の部屋の前に着いた。
霊夢に続いて中に入ると、そこは畳八畳ほどのスペースがあった。
「ここはなんの部屋なの?」
「寝室……なんだけど、まあ、とりあえず座って。そこに座布団があるから」
「? うん」
なぜか目を合わせない霊夢。様子が変ね?
とりあえず部屋の隅に置いてある座布団を取って、そこに座った。
続いて霊夢も座る。
「あー、私は……紅白だけど、色は黒も好きなの」
「そうなんだー」
いきなり色の話って、不思議ねえ。
唐突に話を始めた霊夢に、少し違和感を感じる。
はーふー、と霊夢は大きく息を吐いた。
「で、好きになっちゃった人も、同じ黒色をしている……の。分かる?」
一瞬意味がよく分からなかったが、2,3秒考えて頭に答えが浮かんだ。
ああ、黒い人が好きっていうことね。
しばらく考えを巡らしていると、すぐに思い当たった。
「魔理沙ね」
「……違うわよ」
あ、あれっ、違った?
でもそうか、さっき吹っ切れたって言ってたもんね。
間違えたせいか、霊夢は頬を膨らませている。
「えっと、えっとお」
「……もうっ。あんたは何色? 能力は?」
霊夢はそっぽ向いて顔を赤らめていた。
私? 私は闇を操る能力だから……あ。
「それって、それって……もしかして」
「ルーミアのことよ」
「うあっ、ど、どうしてえ?」
「えっとねえ、ほら、ルーミアが私のことを励ましてくれたでしょ? すごく嬉しかったわ」
「そ、そっか」
「とにかく、好きになっちゃったの。私じゃ、だめ?」
「ん……」
分かった。さっき霊夢の笑顔を見てドキドキしたのは、私も霊夢が好きだったからだ。
自分の気持ちに気付いた今、本当なら今すぐに、はい、と二つ返事で答えたい。
なのに両手で顔を覆ってしまう。
だって、霊夢のことが見られないから。
なんて思いつつ、少しだけ指の隙間を開いて、霊夢の様子を覗き見てみる。
「……」
霊夢がじっと見つめていた。
その静やかに映る霊夢の顔を見て、不思議と今まで取り乱していた心が落ち着く。
おそらく霊夢は、私の言葉を待っているんだろう。
そうだわ、むしろ望んでいたこの展開、なんで答えないことがあるものか。
私は両手を顔から離し、決意の一歩手前、ゆっくりと息を吐いた。
「私も、霊夢のことが大好き。ずっと一緒にいたいわ……」
そう言った瞬間、目の前には花咲く太陽のように、満面の笑みを浮かべた霊夢がいた。
私の手を取ってぎゅっと握ってくる。
「んっ、ありがとう」
霊夢のお顔からはニコニコと笑顔が絶えず、それはいつまでも続くかと思うほど。
なーんでこんなに可愛いかなあ……ずるいわー。
いや私の恋人がこんなに可愛いんだ、これほど愉快なことはない。
今日はなんて良い日なのか。結んでくれたのは神様か。
「とりあえず布団敷くわね。いつまでも畳の上に座るのもアレだし」
「そうよねえ、寒いし」
「じゃあ持ってくる」
霊夢は立ち上がって押入れのほうに向かった。
押し入れの中から敷き布団やら毛布やらを出して戻ってくる。
テキパキとした動作で、霊夢は布団などを敷き終わる。
一足先に霊夢が布団に潜り込んだ。
ふかふかしてそうなお布団だなあ……んん?
「なんで一人分の布団だけなの?」
「一緒に寝たいの」
「ああ、一緒に寝たいだなんて、可愛いところがあるのね~」
「うるさいうるさい、いいから入れー」
霊夢が手をのばして私の腕を引っ張る。
「うあっ」
「へへへー」
急に引っ張られたので、体が霊夢の上に倒れかかる。
もう急に引っ張らないでよね。
でも霊夢……温かいなあ。
「じゃあ明かり消すわね」
霊夢が立ち上がって、部屋を照らしている明かりを消した。
部屋はすっかり暗くなる。
「うー眠いわ。おやすみなさい」
「うんおやすみ霊夢」
瞼を閉じればそこは天国、私の意識はだんだんと遠のいて…………
いくわけないない。
「妖怪なのにこんな時間で眠れないわよ」
「あら奇遇ね。私も昼寝を5時間くらいしちゃって全然眠くないわ」
「じゃあ眠くなるまで適当に喋っていない?」
「いいわねー。なに話す?」
「しりとり。ということで、はい霊夢。『り』から」
「り、り、料理」
料理……同じ『り』ね。
えーと、リンパ腺……ああだめだわ。
それにしても本当は眠るまでの暇つぶしのはずだったのに、なんだか楽しくなってきちゃった。
――――――――――――――――――――
もう次の日に入ったかな。
体内時計だとすでに日が改まってから1、2時間経っているように感じる。
私も若干眠気に襲われているので、霊夢に寝るかどうか聞いてみる。
「そろそろ寝る?」
「……ねえ」
「ん? なあに?」
「せっかくだから、愛でも確かめ合わない?」
愛を確かめ合う……それってもしかして……あっ!
気づいた瞬間、体温が上昇したのが自分でも分かった。
だ、だめよ、まだ出会ったばかりし……いやあんまり関係無いかな? いやしかし……
あれこれ逡巡している間に、霊夢が覆いかぶさってきた。
「ま、まって! ほら心の準備とかできてないし! お風呂に入りなおすのも大変だし! だ、だからあ……」
「む……残念。せっかく可愛い反応してくれたから続行しようかと思ったけど、また今度かしらね」
霊夢が心底残念な顔をして言った。
だ、だっていきなりそれはないでしょ!
「あ、でもっ、キスくらいなら」
「やった」
……ん? あ、あ、ああああああ! うっかり口走ってしまった!
「うん? 自分から言っといてなーに恥ずかしがって顔そむけてんのよ。ほれ、ちゅ~」
「…………」
み、身から出た錆とはいえ、ちょっと待ってほしい。
でも待ってくれない。
霊夢の顔が瞳いっぱいに映り、唇に柔らかい感触を感じた。
「ん……」
「……」
そういや私達恋人だったのよね……よく考えたらキスなんて普通だったわ。
なんか幸せ……いつまでもこうしていたい……。
でもすでに1分は経っているわよ? 長いわ。
霊夢がさっきより重く感じるし、なにか変ね。
妙に思ったので一度顔を離してみると、霊夢が静かに寝息を立てて眠っていた。
「……なによう、霊夢。本当は眠かったのね」
「すぅすぅ」
「夜行性じゃないのに、ずっとお喋りに付き合ってくれていたのね。ごめんね、でもありがとう」
「すぅすぅ……ん~」
ところでこの体勢で寝るのも良いけど、ずっと体重を預けられたままだと流石に辛いわね。
自分の上に乗っかっている霊夢を、起こさないようにゆっくりと隣へ移す。
……ふう、無事終了。
「ふぁ……私も寝るか」
誰かと一緒に寝るのって、暖かくていいなあ。
本当に幸せ。
おやすみ霊夢。
――――――――――――――――――――
ちゅんちゅんちゅん
……む、鳥の鳴き声。うるさいわね。
私はうとうとしながらも、気力を振り絞って体を起こす。よいせっ!
そして立ち上がり、体をぐっと伸ばす。
「んー……はあっ。すっきりした」
隣に目をやると霊夢はいなかった。もう起きているらしい。
すると扉がふいに開き、霊夢が顔を覗かせた。
「おはようルーミア。朝ご飯できたからおいで」
「は~い」
くんくん、朝ご飯かな。良い匂いが漂ってきてる。
「ところでさー。ルーミア」
「うん」
「朝と言ったら、おはようの?」
おはようの……
「ちゅー、でしょ」
「正解」
お互いにはにかみながら、恋人になってからの二度目のキスをした。
「白菜と春菊と……あともやしに椎茸をください」
「あいよー。いつもうちを利用してくれているからね、今日はサービスで半額!」
「おじさんありがとう」
肉屋。
「すいません、鶏肉を100gください」
「はい、はい。うん、可愛いからサービスで50g追加しとくよ!」
「あ、嬉しいっ」
う~ん、ここの人里にいる人達はみんな親切だ。
私が妖怪って分かっていないのかな? まあお金のやり取りをするなら、相手の種族なんて何でも良いのかも。
買物は終わった。家に帰ろう。
「ルーミアちゃん! また宜しくね~」
「はーい」
今日は特に冷えるわ。早く帰って体の芯まで暖まるお鍋を食べよう。
人里から多少離れた場所で、周りに人がいないのを確認してから飛び立った。
――――――――――――――――――――
さっきまでの夕暮れが、今ではすっかり闇夜に移り変わっていた。暮れるのが早い。
冬の季節が実感できる現象よね。
いや、それ以上に
「うう、寒い、寒い、寒い……この寒さは反則よ」
手は赤くかじかんでいる。ぴゅうぴゅうと吹く風を真っ向に受けている頬は、赤くなっているだろう。
冬ってなんでこんなにも寒いの? こんなんだったら夏のほうがマシね。
なーんて、夏にも同じようなことを言ってただろうけれど、気にしない。
さっさと帰って温かい鍋を堪能しよう……うん?
ふと下のほうに気配を感じたので見下ろしてみる。
そこにはちっぽけな神社あって、以前出会った巫女らしき人が賽銭箱の上に座っていた。
うわ寒そう! あんな薄着でよく耐えられるわね……。人ってそんなに温かいものなの?
あ、私に気付いたみたい。なんか立ち上がった。なんか投げてきた。御札っぽいわ。お、お
「あうっ」
巫女が投げてきた御札が額に直撃し、その衝撃で私はたまらず仰向けに落下する。
私は抱えていた食材を落とさないように、とっさに両腕でしっかりと守る。
……ってあれえ? これじゃあ私が受身とれないじゃない!
どうしよう、受身の体勢に移ったら食材が駄目になるし、かといってこのまま落下したら腰が大変なことに……。
あれこれと逡巡している間に、地面はもうすぐそこまで迫っているようだ。続く恐怖におもわず目をつぶる。
ごめん私の身体、やっぱり鍋の食材は手放せな……
ポスッ
あ、あれ……よく分からないけど、助かった?
というか足や背中に感じるこの暖かくて柔らかい感触は何よ?
とりあえず現状を把握するために閉じていた目を開く。
巫女が私を抱えていた。
「な、ナイスキャッチね」
「あんた……いつぞやの妖怪よね。神社の上で何をする気だったの?」
「いや、ただ私は晩御飯の買い物帰りにここを通っただけよ?」
「あらそうだったの。てっきり神社を破壊しに来たと思ったわ」
「そんな罰当たりなことしないってば」
なんだ、勘違いで撃墜したってわけね。突然びっくりしたわ。
それは置いといて、お姫様抱っこは恥ずかしい……。
「ふ~ん、それで晩御飯はなににする予定だったの?」
「晩御飯? ああ鍋よ鍋。今日は特に寒いから」
「奇遇じゃない、私も今日は鍋物なの。どうせだから一緒に食べましょうよ、ねっ」
「一緒に? 別にいいけど」
それじゃあ早速、と巫女が神社内へと足を進める。
私を抱っこしたまんま。
――――――――――――――――――――
「煮立ってきたわ」
「うん。そろそろ鶏肉にも火が通ったかな」
「もういいわよね。それじゃ、いただきます」
「いただきまーす」
しばらく煮込んでいた鍋の中身は、もう十分に火が通っていた。
鶏肉と白菜などの野菜の味噌仕立ての鍋だ。おおう、いい匂い!
どれどれ、まずは一口……おいしい、おいしい。うん、おいしいっ。
それにしても、まさか人間である巫女と食事することになるとは思わなかったわ。
そういえば私、巫女の名前を知らない。ちょっと聞いてみよ。
「ねえ、巫女の名前ってなに? いつまでも巫女・妖怪って呼び合うのも変でしょ」
「それもそうよねえ。私は博麗霊夢、霊夢って呼んでね。あんたは?」
「ルーミアって言うの。改めて宜しくねー、霊夢」
「ルーミアかあ、こちらこそ宜しくね」
巫女が私へにっこりと笑顔を見せた。正直可愛い。
それになんだか仲の良い友達ができたようで嬉しい。
巫女、いや霊夢はどことなく魅力的に見えて、なんだか惹かれてしまう。
外見もとても可愛いのだけれど、それ以上に中身がそれなんだろうな。
「ところでさ、さっきはごめんね。いきなり御札なんて投げつけちゃって……」
「へっ? ああ、そんなこと気にしないでよ。まあ少しびっくりしたけどね」
「本当はね、ちょっと嫌な事があってイライラしていたから、つい投げつけちゃったの」
霊夢が少し沈んだ声色で話す。
嫌なこと、ねえ。最初は不審がられて撃墜されたと思っていたけど、違ったのね。
お節介になるかもしれないけど、話を聞いてあげよう。
胸の内にある不満は誰かに吐き出した方が、霊夢も少しは、少しは楽になるはずだ。
「ねえ。こんな私でよかったら、話し相手になるわ」
「ふふふ、多分、愚痴にしかならないわよ」
「私ねえ……失恋したの」
失恋か……年頃の女の子ほど、このような事は辛いだろう。
まあ私と話すことで、少しでも気晴らしになればいい。
「うん、どうしたの?」
「えっと、魔理沙っていう白と黒の魔法使いのこと知っている?」
「白黒の魔法使い……ああ、霊夢と初めて会った時と、同じ時期くらいに見たわ」
「私ー、その魔理沙が好きだったんだけれどね、アリスって子に取られちゃったの」
「そっか……。どうして、分かったの?」
う~ん、と霊夢は腕を組んで、なにやら考えを巡らしている。
ほんの二、三秒で、また話しを続ける。
「うん、確か五日前くらい。魔理沙とアリスが神社に遊びにきてね、三人で雑談をしていたらいきなり『おおそうだ霊夢。私達付き合っているんだぜ』なーんて言われたの」
「いきなりねー、その時は平静に装っていたけれど、心の中じゃ訳が分からなくなっていたわ」
「二人が帰った後、後悔しまくったわ。『なんで自分から行動しなかったんだろう』って」
「私ね、自分から魔理沙にアプローチとかしてなかったの。臆病だったからかもしれないけど、今では分からないわ」
「魔理沙とアリス、お似合いだとは認めたくなかったけど、もう認めざる負えないのよね」
「で、そんな感じなんだけどね。何日もたった今では、もう大体は区切りがついているの」
「そう、自分の中では区切りがついているはずなのにねー……」
霊夢が言葉を出すたびに、私は、うん、と返事を打つ。
何もしないままに、いつの間にか好きな人が取られていたら、そりゃ誰だって落ち込むわよね。
一応区切りはつけられたらしいけど、今の霊夢を見るとまだほんの少し未練が残っているような気がする。
それを拭い去ってあげるのが、友達ってもんだよね。
「霊夢。やっぱりさ、悲しみって人それぞれ違っていると思うから、多分私はあんたの心は理解できていない」
「うん……」
「だからただ単に励ますことしかできないわ」
だから私は明るく言う。
「なーにどーしたっ。霊夢は沈んじゃ駄目。笑っていなくちゃ、可愛いんだから」
「あ……」
「そのうちにね、パッと気分が明るくなるわ。紅葉の明るさに感動するように、なにかが吹っ切れる時がくるの」
「一番重要なことは、辛かった恋を忘れる方法はひとつだけで、それは新しい恋を始めることなのよ。元気出して」
とは言ってみたものの、霊夢はぽかーんってしていた。
やっぱり余計なお世話だったかな……。
「ルーミア……ありがとう。私ね、新しい恋に生きてみるわ」
あ、にこーって霊夢が笑ってくれた。
嬉しくてつい私も笑みがこぼれてしまう。
それにしても、元気になってくれたようで良かったわ。
さて一件落着となったし、晩御飯の続きといこう。
――――――――――――――――――――
「うーん……ま・ん・ぞ・く、だあっ。ちょっと食べ過ぎたわ」
「ルーミア、腹八分目がちょうどいいのよ。食べ過ぎは駄目なのよ……うっぷ」
「だめじゃん、人のこと言えないじゃん」
野菜と鶏肉から始まってシメは卵入りの雑炊。食べて満足、一緒に満足。
体もよく温まったし、冬の寒さなんぞ軽ーく撃退よ。
私は良い香りのする畳に寝転び、お腹をさする。
ゆるゆると食後の余韻に浸っていると、突然霊夢が立ち上がった。
「じゃ、風呂に入るわよ」
「へ? お風呂って?」
「実は食事前に沸かしていたの。一緒に入りましょ」
「う、うん。あれ、ちょっと待って。それじゃお泊りになるってこと?」
「……嫌?」
「そんなことないって。むしろ嬉しいわ」
「良かったあ」
いや?と尋ねた時の戸惑いの表情から、超弩級な満面の笑顔に移り変わった霊夢。
そんな霊夢に、思わず胸の鼓動が速くなる。
なんかドキドキするなあ。
それじゃ風呂場へ案内するからね、と霊夢は歩きだしたので後をついていく。
廊下に出て少しの時間歩くと、脱衣所らしき部屋の前に着いた。
中に入ると、そこは畳四畳ほどの広さで、お風呂場は奥にある扉の先につながっているようだった。
「じゃあ入りましょ」
霊夢はリボンからスカートの袴まで身に纏っていた衣類を、ぽいぽいっと手早く脱ぎ捨てる。
残るはパンツのみで、上半身には少しだけ膨らんだ胸が豊かに浮いていた。
ひゃー、裸のお付き合いって恥ずかしい。
「なにジロジロと見てんのよ。えっちぃわねえ」
「そ、そんなことないって! 断じてそんなことはっ」
「どーだか。私先に入っているわよ。タオルはそこに置いてあるからね」
そう言うと霊夢はパンツを脱ぎ捨て、お風呂場に入って行った。お尻見えた。
一人になった開放感からか、ぱぱっと洋服を脱ぐことができた。
さて、タオルタオル……っと。
手にとって広げてみたタオルは、ちょうど腕をいっぱいに伸ばした位の長さで、幅は手の平ほどのサイズだった。
……あ、あれー? 小さくないかこれ。
てっきり体に巻くタオルだと思っていたけど、体を洗う用のタオルだったか。
「でもこれじゃ、これじゃあ体が全部隠せないっ」
とりあえず優先的に下は隠すけど、上半身はどうしても
「ルーミアまだー?」
「あ、今、今行くからぁ」
霊夢に急かされてしまったので、仕方なく下だけ隠してお風呂場へ行く。
扉を開けて中に入ると、けっこう大きめの湯船の中に霊夢が浴していた。
「こ、こんばんは~」
「ん? あんた風呂入る前から顔赤くなってるじゃない。大丈夫?」
「ああいや全然平気よ、うん。それにしても大きなお風呂ね。お隣失礼」
「どーぞ」
ちゃぽん……
やー、良い湯加減……。なんだか気持ち良くて、恥ずかしさなんて吹っ飛んじゃったわ。
適度に温まっている湯が、私の肌にまんべんなく沁みわたる。
コタツも、幾重に着重ねた服も、どう足掻こうがお風呂には勝てないわね。
それに肩と肩が触れ合うこの入浴は、いつも以上に気持ち良く感じさせてくれた。
――――――――――――――――――――
ふいー、気持ち良かったあ。
私達はたっぷりとお風呂を堪能し終えたので、脱衣所へ戻って着替え始める。
さて私も着替えよう、と思ったら寝巻きないじゃーん。着替えないじゃーん。
「れ、霊夢。私着替えがないんだけれど、どうしよう」
「着替え無いの? だったら良いものがあるから貸してあげる」
そう言うと霊夢はパタパタと小走りに出て行った。優しい。
ちょうど体から上る湯気が収まってきた時、やけにニヤニヤしながら霊夢が戻ってきた。
両手に巫女服を持って。
「ちょっ、まって。これ巫女服……」
「いいから着て着て。絶対に似合うから」
「いやでも、似合わないかもしれないし……」
「あんね、可愛い子はなに着たって似合うのよ? ほらほら、だったら私が着せてあげる」
「じ、自分で着替えるからいいわっ」
可愛いだなんて、照れてしまうな。
……で、いざ巫女服に着替えてみると、おお意外と着心地がいいわっ。
ていうか良い匂いがする~。これ霊夢の香りかしら?
なんというか、花の蜜のような甘い香り。
「あら、やっぱり似合うじゃないの」
「そお? えへへー。着心地も良いし、けっこう気に入ったわ」
着替えが終わったので脱衣所を出る。
さきほど食事をしていた部屋は通り過ぎ、別の部屋の前に着いた。
霊夢に続いて中に入ると、そこは畳八畳ほどのスペースがあった。
「ここはなんの部屋なの?」
「寝室……なんだけど、まあ、とりあえず座って。そこに座布団があるから」
「? うん」
なぜか目を合わせない霊夢。様子が変ね?
とりあえず部屋の隅に置いてある座布団を取って、そこに座った。
続いて霊夢も座る。
「あー、私は……紅白だけど、色は黒も好きなの」
「そうなんだー」
いきなり色の話って、不思議ねえ。
唐突に話を始めた霊夢に、少し違和感を感じる。
はーふー、と霊夢は大きく息を吐いた。
「で、好きになっちゃった人も、同じ黒色をしている……の。分かる?」
一瞬意味がよく分からなかったが、2,3秒考えて頭に答えが浮かんだ。
ああ、黒い人が好きっていうことね。
しばらく考えを巡らしていると、すぐに思い当たった。
「魔理沙ね」
「……違うわよ」
あ、あれっ、違った?
でもそうか、さっき吹っ切れたって言ってたもんね。
間違えたせいか、霊夢は頬を膨らませている。
「えっと、えっとお」
「……もうっ。あんたは何色? 能力は?」
霊夢はそっぽ向いて顔を赤らめていた。
私? 私は闇を操る能力だから……あ。
「それって、それって……もしかして」
「ルーミアのことよ」
「うあっ、ど、どうしてえ?」
「えっとねえ、ほら、ルーミアが私のことを励ましてくれたでしょ? すごく嬉しかったわ」
「そ、そっか」
「とにかく、好きになっちゃったの。私じゃ、だめ?」
「ん……」
分かった。さっき霊夢の笑顔を見てドキドキしたのは、私も霊夢が好きだったからだ。
自分の気持ちに気付いた今、本当なら今すぐに、はい、と二つ返事で答えたい。
なのに両手で顔を覆ってしまう。
だって、霊夢のことが見られないから。
なんて思いつつ、少しだけ指の隙間を開いて、霊夢の様子を覗き見てみる。
「……」
霊夢がじっと見つめていた。
その静やかに映る霊夢の顔を見て、不思議と今まで取り乱していた心が落ち着く。
おそらく霊夢は、私の言葉を待っているんだろう。
そうだわ、むしろ望んでいたこの展開、なんで答えないことがあるものか。
私は両手を顔から離し、決意の一歩手前、ゆっくりと息を吐いた。
「私も、霊夢のことが大好き。ずっと一緒にいたいわ……」
そう言った瞬間、目の前には花咲く太陽のように、満面の笑みを浮かべた霊夢がいた。
私の手を取ってぎゅっと握ってくる。
「んっ、ありがとう」
霊夢のお顔からはニコニコと笑顔が絶えず、それはいつまでも続くかと思うほど。
なーんでこんなに可愛いかなあ……ずるいわー。
いや私の恋人がこんなに可愛いんだ、これほど愉快なことはない。
今日はなんて良い日なのか。結んでくれたのは神様か。
「とりあえず布団敷くわね。いつまでも畳の上に座るのもアレだし」
「そうよねえ、寒いし」
「じゃあ持ってくる」
霊夢は立ち上がって押入れのほうに向かった。
押し入れの中から敷き布団やら毛布やらを出して戻ってくる。
テキパキとした動作で、霊夢は布団などを敷き終わる。
一足先に霊夢が布団に潜り込んだ。
ふかふかしてそうなお布団だなあ……んん?
「なんで一人分の布団だけなの?」
「一緒に寝たいの」
「ああ、一緒に寝たいだなんて、可愛いところがあるのね~」
「うるさいうるさい、いいから入れー」
霊夢が手をのばして私の腕を引っ張る。
「うあっ」
「へへへー」
急に引っ張られたので、体が霊夢の上に倒れかかる。
もう急に引っ張らないでよね。
でも霊夢……温かいなあ。
「じゃあ明かり消すわね」
霊夢が立ち上がって、部屋を照らしている明かりを消した。
部屋はすっかり暗くなる。
「うー眠いわ。おやすみなさい」
「うんおやすみ霊夢」
瞼を閉じればそこは天国、私の意識はだんだんと遠のいて…………
いくわけないない。
「妖怪なのにこんな時間で眠れないわよ」
「あら奇遇ね。私も昼寝を5時間くらいしちゃって全然眠くないわ」
「じゃあ眠くなるまで適当に喋っていない?」
「いいわねー。なに話す?」
「しりとり。ということで、はい霊夢。『り』から」
「り、り、料理」
料理……同じ『り』ね。
えーと、リンパ腺……ああだめだわ。
それにしても本当は眠るまでの暇つぶしのはずだったのに、なんだか楽しくなってきちゃった。
――――――――――――――――――――
もう次の日に入ったかな。
体内時計だとすでに日が改まってから1、2時間経っているように感じる。
私も若干眠気に襲われているので、霊夢に寝るかどうか聞いてみる。
「そろそろ寝る?」
「……ねえ」
「ん? なあに?」
「せっかくだから、愛でも確かめ合わない?」
愛を確かめ合う……それってもしかして……あっ!
気づいた瞬間、体温が上昇したのが自分でも分かった。
だ、だめよ、まだ出会ったばかりし……いやあんまり関係無いかな? いやしかし……
あれこれ逡巡している間に、霊夢が覆いかぶさってきた。
「ま、まって! ほら心の準備とかできてないし! お風呂に入りなおすのも大変だし! だ、だからあ……」
「む……残念。せっかく可愛い反応してくれたから続行しようかと思ったけど、また今度かしらね」
霊夢が心底残念な顔をして言った。
だ、だっていきなりそれはないでしょ!
「あ、でもっ、キスくらいなら」
「やった」
……ん? あ、あ、ああああああ! うっかり口走ってしまった!
「うん? 自分から言っといてなーに恥ずかしがって顔そむけてんのよ。ほれ、ちゅ~」
「…………」
み、身から出た錆とはいえ、ちょっと待ってほしい。
でも待ってくれない。
霊夢の顔が瞳いっぱいに映り、唇に柔らかい感触を感じた。
「ん……」
「……」
そういや私達恋人だったのよね……よく考えたらキスなんて普通だったわ。
なんか幸せ……いつまでもこうしていたい……。
でもすでに1分は経っているわよ? 長いわ。
霊夢がさっきより重く感じるし、なにか変ね。
妙に思ったので一度顔を離してみると、霊夢が静かに寝息を立てて眠っていた。
「……なによう、霊夢。本当は眠かったのね」
「すぅすぅ」
「夜行性じゃないのに、ずっとお喋りに付き合ってくれていたのね。ごめんね、でもありがとう」
「すぅすぅ……ん~」
ところでこの体勢で寝るのも良いけど、ずっと体重を預けられたままだと流石に辛いわね。
自分の上に乗っかっている霊夢を、起こさないようにゆっくりと隣へ移す。
……ふう、無事終了。
「ふぁ……私も寝るか」
誰かと一緒に寝るのって、暖かくていいなあ。
本当に幸せ。
おやすみ霊夢。
――――――――――――――――――――
ちゅんちゅんちゅん
……む、鳥の鳴き声。うるさいわね。
私はうとうとしながらも、気力を振り絞って体を起こす。よいせっ!
そして立ち上がり、体をぐっと伸ばす。
「んー……はあっ。すっきりした」
隣に目をやると霊夢はいなかった。もう起きているらしい。
すると扉がふいに開き、霊夢が顔を覗かせた。
「おはようルーミア。朝ご飯できたからおいで」
「は~い」
くんくん、朝ご飯かな。良い匂いが漂ってきてる。
「ところでさー。ルーミア」
「うん」
「朝と言ったら、おはようの?」
おはようの……
「ちゅー、でしょ」
「正解」
お互いにはにかみながら、恋人になってからの二度目のキスをした。
あっまーい夢を見せてもらいました
例えていうならマシュマロのような。まあ幾分霊夢が積極的ではありますがw
この二人なら、幻想郷の住人も、生暖かくも優しく見守ってくれそうです。
少し気になったのは、霊夢の心変わりの早さ。でもまぁ、辛く悲しいときに
差し伸べられた手は、とても暖かいものですから、気にするほどのことでは
ないのかもしれませんけれども。
それでは、次のお話を楽しみにしています。
かわいいは正義なのでこれもまたありなのだろうか。
展開早いですが、傷心の時にこんな可愛い子が慰めてくれたら私だったら一発KOですね。
というわけで問題ないのでしょう。
とりあえずお持ち帰りしていきますね。
失恋したてはコロッと行くから霊夢の気持ちは分かる。いきなり積極的なのも彼女らしいのかも知れないですねw
ルーミアが両手で顔を覆うシーンとかもうめちゃくちゃ可愛い!
楽しく読ませていただきました。
うおおおおおおおお!!
ぐあああああああああああ!!
悶絶
ルーミアに食べられたい・・・性的な意味で
むろん、巫女付きで
この作品に出会えたことが、僥倖のように思えます。
本当に有難う御座います。
今度こそ後悔しないようにと積極的になった霊夢が可愛くて、下の方のように
私も悶絶せざるを得ない!
おぉう!?…くそっ!避けられん!……ぴちゅーん!!
…とりあえずただの馬鹿でないルーミアが新鮮でした。
大概、「わはー」で「そーなのかー」なキャラですからね。
展開は急でしたが面白かったです。
現在の二次創作のルーミアはなんでああいうキャラになったのか不思議に思えてきました。
なんか嬉しくてペラペラ喋りたくなったので、ちょっとだけ。
この作品のルーミアは、二次創作によく見られる「そーなのかーキャラ」ではなく、原作の会話を参考にした描写で書きました。
アホキャラでも可愛いと思いますけど、ラブラブ展開にはあまり合わないかと思ったので。
だから普通の女の子として書いたんですけれど……このルーミアは気に入りました!自分で言うのもなんですが。
あとは展開が早いと思われた方が多かったようですが、これもどうにか許容していただいたようで安心しました。
甘さに定評のあるSS職人を目指して頑張ります。
それではまた!
>2007-12-05 12:55:40さん
>今度こそ後悔しないようにと積極的になった霊夢
その設定はもらった!……というよりそこまで考えていませんでした/( ^o^ )\
なるほど、後悔しないために積極的になったという見方、とても参考になりました。
あんまり見かけない組み合わせなだけに新鮮に感じました。