「幻想郷で最もクールかつホットな行楽地として注目を集めているご気分は、いかがですか?」
鴉天狗の新聞記者がそう訪ねれば、
「不愉快、の一言」
きっぱりと、早苗は答えた。
鴉天狗は怪訝そうに眉をひそめる。
本殿に続く道の入り口に立つ大鳥居の下、言葉を交わす二者の間に漂う空気は穏当とは言い難い。
「おや? 先ほどと話が違っちゃいませんか」
「違う? 何がでしょうか」
「あなたは先ほど、幻想郷に引っ越してきたのは信仰心を集めるためだと言いましたね」
「はい、確かに」
「ならば」
ぐるり、鴉天狗は頭を巡らせて辺りを見渡す。
広い境内のそこかしこに妖怪や幽霊、天狗に河童などの姿があふれている。
ある者は地に積もった落ち葉を踏み砕きながら踊り狂い、ある者は大杯になみなみと注がれた酒を豪快にあおり、またある者は……笛や琵琶、さらには金管や洋琴などの楽器を持ち込んで、けたたましい演奏を響かせている。
「この盛況は、あなた方にとってまさに願ったり叶ったりなのではありませんか?」
「私はこのような状況を願ったことなど一度としてありませんし、私の本当の願いもまだ一度として叶ったことがありません」
「はて」
社の主である神々は、現在ふらっと外出中である。
陽はまだ高い。
定められた宴の開始時間まではまだまだ間があるにも関わらず、人外の者たちは好き勝手に集まってきて、思うがままに振舞っている。
早苗には、それが気に入らない。
ホスト不在のまま勝手にパーティを始めるゲストなど、非常識もいいところだ。
この胡散臭い鴉ときたら、その程度の常識も持ち合わせてはいないのか。
「ここは神社です。アミューズメントパークとかレジャースポットとか、そういう俗塵の積もった場所と勘違いされては迷惑です」
「場の呼び方なんざ、どうだっていいじゃありませんか。現にこうして、大勢が参拝に来るようになったことですし」
「はぁーあ……あなたも分からない人、いや天狗ですね」
巫女は力なく肩を落とすと、面倒くさそうに言葉を継いだ。
「いいですか。ここに来る輩は皆、参拝ではなく宴会が目的なのです。酒を飲む口実が欲しいだけです。いくら大量の訪問者が押しかけてこようと、その中に神への敬意を捧げていく者が存在しなければ……まったくもって無意味でしょうが」
「ふむ」
鴉天狗は小首をかしげながら手帳を広げると、その上に筆を走らせ始めた。
「むしろ、来る者が増えすぎて迷惑しているんです。朝から晩まで一日中うるさいし、ゴミも散らかすし! 毎日後片付けが大変なんですよ」
「なるほど、そういう話なら理解できます」
「悪質ないたずらを仕掛けられることもしょっちゅうです。この前なんか非道いんですよ、どっかの酔っ払った鬼が、面白半分に御柱を引き抜こうと……」
巫女の愚痴は続く。鴉天狗は時おり毛筆(河童特許6734号。墨を含ませずとも、何故か字を書くことができる)の先を舐めながら、その怨嗟を一字一句漏らさぬよう丁寧に書き付けていく。
報道の価値とは、取材相手の言葉をどれだけ忠実に伝えられるかで決まる。
それが、新聞記者を生業(ただし、限りなく趣味に近い)としている鴉天狗の、一応の職業倫理であった。
だが……延々と、半刻近くも恨み言ばかりを聞かされたとあっては……流石に手と耳に限界が来る。
そもそも鴉天狗とは、発展性のない話題にいつまでも付き合っていられるほど我慢強くも優しくもない種族である。
「それでね、勝手に八ツ目鰻の屋台なんか開く妖怪まで現れたりして。まったく、誰も彼も神聖な境内を何だと思……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
鴉天狗は、心の中で舌打ちする。
この人間は、どうも『神ます場』が本来果たすべき役割について誤解しているようだ。
『外の世界』の歪んだ常識を、この幻想卿の中で振り回されては困る。
「何よ?」
とめどなく溢れる不満の本流を急に遮られ、早苗はいささか気分を害した。
しかし、たかが人間に睨まれたぐらいでいちいちビクついていては、とうてい報道の仕事は務まらない。
やや皮肉な笑みを浮かべながら、鴉天狗は早苗と向き合う。
「あなたの個人的ご不満はさておき、ここの神様は今の状況に文句があるわけじゃあないんでしょ?」
「……それどころか、妖怪たちとの差しつ差されつを楽しんでいらっしゃるご様子でもあります。いくら妖怪が好き勝手に跋扈しようと、気にせず放っておくように……と、そのような命を私に下されるぐらいで」
「結構なことじゃありませんか! あなたの神は、すでに真摯な信仰を十分に集めているという証拠です。私たち山の住民は、あなた達を心から歓迎……」
「ふ」
一瞬、早苗の肩が震えた。
「ふざけたことを言わないでっ!」
「は、はい?」
鴉天狗は面食らった。
これまでの落ち着いた語り口からは一転、吹き荒れる暴風のような叫び声。
騒音に満ちた境内の中でも一際よく響くその声に、辺りにいた者たちはこぞって鳥居の方向へと視線を向ける。
「信仰? これが? はっ、こんな下品で下劣な爛痴奇騒ぎの連続が『真摯な信仰』だなんて……最ッ高のブラックジョークね、笑っちゃうわ!」
「どどど、どうしたんですか、いきなり」
「誰も神を畏れてはいない! 誰ひとりとして、八坂様の本当のお姿が見えてはいないっ!」
「ちょっとちょっと、みんな驚いてこっちを見てますよ? いいんですか巫女のあなたがそんなに騒々しくして」
「あの美しく気高い八坂様に、どうしてそんなに気安く接することができるの? 私にはあなたたちの思考が理解できない!」
「いやいやいや! こっちこそ、あなたの主張はチンプンカンプンですってば。だから、ほら、落ち着いて分かりやすく話をしましょうよ、ね?」
鴉天狗は優しく諭そうとするとするが、早苗の耳には届かない。
早苗の脳裏には、今、何よりも忘れたい……が、そのためにかえって忘れ難い記憶の数々が、津波のごとく押し寄せてきている。
「何が幻想卿よ! ここも『外の世界』と同じだわ! 己の欲得のためだけに神の名を利用する、薄情で汚らわしい俗物ばかり!」
「う……」
強力な神に仕える純粋な巫女による、烈しい怒りの顕現。
ふだん実直な人間ほど、押さえ込んでいた感情を爆発させた時の破壊力は大きい。
その鬼気迫る剣幕をぶつけられて、流石の妖怪ジャーナリストも言葉を失わざるを得なかった。
加えて周囲から聞こえてくる声々もまた、容赦なく彼女の居場所を狭めていく。
(見ろよ。あの鴉天狗、人間をいじめてるみたいだぜ)
(あいつって、確か新聞を書いている奴じゃなかったか?)
(そうそうそう! なんとかマル新聞の、なんとかマルって記者よ!)
(あたし、この前あることないこと書かれてすごく迷惑したんですけどー)
(そこかしこでパシャパシャ勝手に写真を撮りやがるしさあ。プライバシーって言葉を知らんのか)
(うわ、サイテー)
(で、今度はあんな年端も行かない小娘をゴシップの餌食にしようってわけかい?)
(根性悪ぃぜ。天狗社会のツラ汚しだな、ありゃ)
(ああ。『汚らわしい俗物』たぁ、よくぞ言ってくれたもんだな)
(同感同感。あの可愛い巫女ちゃんにこれ以上悪さするつもりなら……)
(やっちゃおうか、ガツンと)
おい。
巫女が腹を立てている相手は、主にあんたたちなんですけど。
とは言え。
今にも身を押し潰さんとじわじわ迫ってくるこの重圧には、もはやどんな弁明も通用しないだろう。
因果は応報。
日常の振る舞いにはせいぜい気をつけておくべきであったが、今さら悔やんでも後の祭り。
いささか理不尽な気もするが、こうなれば三十六計を上回る手段の他に頼るべきはなし。
「あ、あ……あややや!」
わざとらしく、鴉天狗は頓狂な声をあげた。
「しまったしまった、もうこんな時間かー!」
「どうしました、藪から棒に」
一歩一歩ゆっくりと後ずさる鴉天狗を、やはり一歩一歩ゆらゆらりと、巫女が追ってくる。
「いえね、ちょいとした野暮用を思い出したもんで。今日のところはこの辺でお暇させていただきます」
「……お話しておきたいことは、まだまだいっぱいあるのに」
「どうも申し訳ありませんね、かなり緊急性の高い野暮用でしてね、えへへへ、インタビューはまた今度っつーことで」
鴉天狗は翼をはためかせると、瞬く間のうちに鳥居の上へと舞い上がった。
ぐんぐん姿を小さくしていく鴉天狗に、早苗は拳を振り上げながらトドメ!とばかりに追撃を浴びせる。
「神への信仰がこれほどまでにないがしろにされているなんて、ゆゆしき事態です! この問題を大衆に一考させることは、社会の木鐸たる新聞の義務! 私の言ったこと、ちゃんと全部記事にしてくださいね! 頼みましたよ!」
「うへぇい……」
生返事とも溜め息ともつかぬ音を小さく漏らし、涙目の鴉天狗は全速力で取材地から遠ざかっていく。
(ったく、『信仰』の意味を勘違いしているのはそっちだろうに! ずいぶんと頭のカタい人間がやって来たもんだ!)
妖怪の山の奥深くに、何の前触れもなくいきなり登場した神社。
その噂は、またたくまに幻想郷の全土を覆った。
広大な敷地内には、たいそう美しい湖と、それを囲むようにして立ち並ぶ立派な落葉樹の林が存在しているそうだ。
また、存在意義はいまひとつ不明ながらも何やら神秘的な趣きを持つ巨大な石柱なども、大いに目を楽しませてくれるらしい。
つまり、そこは……一風変わった紅葉狩りを楽しみたい者にとって、うってつけの新名所だということだ。
そして幻想郷とは、暇と好奇心を持て余した物見高い住人ばかりが住む世界であった。
早苗は誰にも理解されず、同時に誰のことも理解できないまま、しばらく苦悩し続けることになる。
(たぶん続く)
鴉天狗の新聞記者がそう訪ねれば、
「不愉快、の一言」
きっぱりと、早苗は答えた。
鴉天狗は怪訝そうに眉をひそめる。
本殿に続く道の入り口に立つ大鳥居の下、言葉を交わす二者の間に漂う空気は穏当とは言い難い。
「おや? 先ほどと話が違っちゃいませんか」
「違う? 何がでしょうか」
「あなたは先ほど、幻想郷に引っ越してきたのは信仰心を集めるためだと言いましたね」
「はい、確かに」
「ならば」
ぐるり、鴉天狗は頭を巡らせて辺りを見渡す。
広い境内のそこかしこに妖怪や幽霊、天狗に河童などの姿があふれている。
ある者は地に積もった落ち葉を踏み砕きながら踊り狂い、ある者は大杯になみなみと注がれた酒を豪快にあおり、またある者は……笛や琵琶、さらには金管や洋琴などの楽器を持ち込んで、けたたましい演奏を響かせている。
「この盛況は、あなた方にとってまさに願ったり叶ったりなのではありませんか?」
「私はこのような状況を願ったことなど一度としてありませんし、私の本当の願いもまだ一度として叶ったことがありません」
「はて」
社の主である神々は、現在ふらっと外出中である。
陽はまだ高い。
定められた宴の開始時間まではまだまだ間があるにも関わらず、人外の者たちは好き勝手に集まってきて、思うがままに振舞っている。
早苗には、それが気に入らない。
ホスト不在のまま勝手にパーティを始めるゲストなど、非常識もいいところだ。
この胡散臭い鴉ときたら、その程度の常識も持ち合わせてはいないのか。
「ここは神社です。アミューズメントパークとかレジャースポットとか、そういう俗塵の積もった場所と勘違いされては迷惑です」
「場の呼び方なんざ、どうだっていいじゃありませんか。現にこうして、大勢が参拝に来るようになったことですし」
「はぁーあ……あなたも分からない人、いや天狗ですね」
巫女は力なく肩を落とすと、面倒くさそうに言葉を継いだ。
「いいですか。ここに来る輩は皆、参拝ではなく宴会が目的なのです。酒を飲む口実が欲しいだけです。いくら大量の訪問者が押しかけてこようと、その中に神への敬意を捧げていく者が存在しなければ……まったくもって無意味でしょうが」
「ふむ」
鴉天狗は小首をかしげながら手帳を広げると、その上に筆を走らせ始めた。
「むしろ、来る者が増えすぎて迷惑しているんです。朝から晩まで一日中うるさいし、ゴミも散らかすし! 毎日後片付けが大変なんですよ」
「なるほど、そういう話なら理解できます」
「悪質ないたずらを仕掛けられることもしょっちゅうです。この前なんか非道いんですよ、どっかの酔っ払った鬼が、面白半分に御柱を引き抜こうと……」
巫女の愚痴は続く。鴉天狗は時おり毛筆(河童特許6734号。墨を含ませずとも、何故か字を書くことができる)の先を舐めながら、その怨嗟を一字一句漏らさぬよう丁寧に書き付けていく。
報道の価値とは、取材相手の言葉をどれだけ忠実に伝えられるかで決まる。
それが、新聞記者を生業(ただし、限りなく趣味に近い)としている鴉天狗の、一応の職業倫理であった。
だが……延々と、半刻近くも恨み言ばかりを聞かされたとあっては……流石に手と耳に限界が来る。
そもそも鴉天狗とは、発展性のない話題にいつまでも付き合っていられるほど我慢強くも優しくもない種族である。
「それでね、勝手に八ツ目鰻の屋台なんか開く妖怪まで現れたりして。まったく、誰も彼も神聖な境内を何だと思……」
「ちょ、ちょっと待ってください」
鴉天狗は、心の中で舌打ちする。
この人間は、どうも『神ます場』が本来果たすべき役割について誤解しているようだ。
『外の世界』の歪んだ常識を、この幻想卿の中で振り回されては困る。
「何よ?」
とめどなく溢れる不満の本流を急に遮られ、早苗はいささか気分を害した。
しかし、たかが人間に睨まれたぐらいでいちいちビクついていては、とうてい報道の仕事は務まらない。
やや皮肉な笑みを浮かべながら、鴉天狗は早苗と向き合う。
「あなたの個人的ご不満はさておき、ここの神様は今の状況に文句があるわけじゃあないんでしょ?」
「……それどころか、妖怪たちとの差しつ差されつを楽しんでいらっしゃるご様子でもあります。いくら妖怪が好き勝手に跋扈しようと、気にせず放っておくように……と、そのような命を私に下されるぐらいで」
「結構なことじゃありませんか! あなたの神は、すでに真摯な信仰を十分に集めているという証拠です。私たち山の住民は、あなた達を心から歓迎……」
「ふ」
一瞬、早苗の肩が震えた。
「ふざけたことを言わないでっ!」
「は、はい?」
鴉天狗は面食らった。
これまでの落ち着いた語り口からは一転、吹き荒れる暴風のような叫び声。
騒音に満ちた境内の中でも一際よく響くその声に、辺りにいた者たちはこぞって鳥居の方向へと視線を向ける。
「信仰? これが? はっ、こんな下品で下劣な爛痴奇騒ぎの連続が『真摯な信仰』だなんて……最ッ高のブラックジョークね、笑っちゃうわ!」
「どどど、どうしたんですか、いきなり」
「誰も神を畏れてはいない! 誰ひとりとして、八坂様の本当のお姿が見えてはいないっ!」
「ちょっとちょっと、みんな驚いてこっちを見てますよ? いいんですか巫女のあなたがそんなに騒々しくして」
「あの美しく気高い八坂様に、どうしてそんなに気安く接することができるの? 私にはあなたたちの思考が理解できない!」
「いやいやいや! こっちこそ、あなたの主張はチンプンカンプンですってば。だから、ほら、落ち着いて分かりやすく話をしましょうよ、ね?」
鴉天狗は優しく諭そうとするとするが、早苗の耳には届かない。
早苗の脳裏には、今、何よりも忘れたい……が、そのためにかえって忘れ難い記憶の数々が、津波のごとく押し寄せてきている。
「何が幻想卿よ! ここも『外の世界』と同じだわ! 己の欲得のためだけに神の名を利用する、薄情で汚らわしい俗物ばかり!」
「う……」
強力な神に仕える純粋な巫女による、烈しい怒りの顕現。
ふだん実直な人間ほど、押さえ込んでいた感情を爆発させた時の破壊力は大きい。
その鬼気迫る剣幕をぶつけられて、流石の妖怪ジャーナリストも言葉を失わざるを得なかった。
加えて周囲から聞こえてくる声々もまた、容赦なく彼女の居場所を狭めていく。
(見ろよ。あの鴉天狗、人間をいじめてるみたいだぜ)
(あいつって、確か新聞を書いている奴じゃなかったか?)
(そうそうそう! なんとかマル新聞の、なんとかマルって記者よ!)
(あたし、この前あることないこと書かれてすごく迷惑したんですけどー)
(そこかしこでパシャパシャ勝手に写真を撮りやがるしさあ。プライバシーって言葉を知らんのか)
(うわ、サイテー)
(で、今度はあんな年端も行かない小娘をゴシップの餌食にしようってわけかい?)
(根性悪ぃぜ。天狗社会のツラ汚しだな、ありゃ)
(ああ。『汚らわしい俗物』たぁ、よくぞ言ってくれたもんだな)
(同感同感。あの可愛い巫女ちゃんにこれ以上悪さするつもりなら……)
(やっちゃおうか、ガツンと)
おい。
巫女が腹を立てている相手は、主にあんたたちなんですけど。
とは言え。
今にも身を押し潰さんとじわじわ迫ってくるこの重圧には、もはやどんな弁明も通用しないだろう。
因果は応報。
日常の振る舞いにはせいぜい気をつけておくべきであったが、今さら悔やんでも後の祭り。
いささか理不尽な気もするが、こうなれば三十六計を上回る手段の他に頼るべきはなし。
「あ、あ……あややや!」
わざとらしく、鴉天狗は頓狂な声をあげた。
「しまったしまった、もうこんな時間かー!」
「どうしました、藪から棒に」
一歩一歩ゆっくりと後ずさる鴉天狗を、やはり一歩一歩ゆらゆらりと、巫女が追ってくる。
「いえね、ちょいとした野暮用を思い出したもんで。今日のところはこの辺でお暇させていただきます」
「……お話しておきたいことは、まだまだいっぱいあるのに」
「どうも申し訳ありませんね、かなり緊急性の高い野暮用でしてね、えへへへ、インタビューはまた今度っつーことで」
鴉天狗は翼をはためかせると、瞬く間のうちに鳥居の上へと舞い上がった。
ぐんぐん姿を小さくしていく鴉天狗に、早苗は拳を振り上げながらトドメ!とばかりに追撃を浴びせる。
「神への信仰がこれほどまでにないがしろにされているなんて、ゆゆしき事態です! この問題を大衆に一考させることは、社会の木鐸たる新聞の義務! 私の言ったこと、ちゃんと全部記事にしてくださいね! 頼みましたよ!」
「うへぇい……」
生返事とも溜め息ともつかぬ音を小さく漏らし、涙目の鴉天狗は全速力で取材地から遠ざかっていく。
(ったく、『信仰』の意味を勘違いしているのはそっちだろうに! ずいぶんと頭のカタい人間がやって来たもんだ!)
妖怪の山の奥深くに、何の前触れもなくいきなり登場した神社。
その噂は、またたくまに幻想郷の全土を覆った。
広大な敷地内には、たいそう美しい湖と、それを囲むようにして立ち並ぶ立派な落葉樹の林が存在しているそうだ。
また、存在意義はいまひとつ不明ながらも何やら神秘的な趣きを持つ巨大な石柱なども、大いに目を楽しませてくれるらしい。
つまり、そこは……一風変わった紅葉狩りを楽しみたい者にとって、うってつけの新名所だということだ。
そして幻想郷とは、暇と好奇心を持て余した物見高い住人ばかりが住む世界であった。
早苗は誰にも理解されず、同時に誰のことも理解できないまま、しばらく苦悩し続けることになる。
(たぶん続く)
これは続かないとすごい中途半端なので、続きを書いてしっかり終わらせたらいいと思います。私も続き読みたいですし。
作品はとても面白かったです!早苗さんの苦労は計り知れないものがありますね。
作者名を見た瞬間、ケロちゃん繋がりだと思いましたが、やっぱりそうでしたかw
YESケロちゃん。可愛いケロちゃん。続きで出そうよケロちゃんw
宗教家というのはどうしても実直というか、真直ぐ過ぎると感じられる事がありますから。
でも、それが正しいのではないかとも思いますが。
小難しい事言ってる人が間違ってるってことは結構あります、ってか何かを信じる・信仰するのと、崇め奉るのを即一緒にするのはどうかと思うんだよね
まあ、こだわりなんだろうけど
個人的には神道より(の中の?)古神道が好き。
かんながらでもいいですが、かむながらにしては如何でしょう
ありがとうございます。
「随神」あるいは「惟神」という言葉にゃ、そりゃもう分厚い研究所が一冊書けるぐらい深い思想がこめられているわけではありますが……
ここではサラッと、『神様といっしょ』程度の意味で使わせていただきたく。
早苗の未熟さもあるだろうけど、早苗のストレスもわかります。宴会の後片付けって大変なんですよね……巫女の宿命なのでしょうか。それに幻想郷の面子はみんなやたらと気安いところがあるので、現代っ子の早苗にはそれが馴染まないのかも?
色々と期待しつつ、続きも読ませていただきます。